(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第一の実施形態>
第一の実施形態の建物の耐震補強構造は、
図1の(a)および(b)に示すように、既存建物1の階段室2内に横架された補強梁11を備えている。
【0017】
本実施形態の既存建物1は、
図2の(a)に示すように、平面視矩形状のコンクリート系建物であって、内部が階段室2と居住空間3とに分割されている。
なお、既存建物1の平面形状は矩形状に限定されるものではない。また、階段室2の配置や設置箇所も限定されるものではない。
【0018】
既存建物1は、前後左右が側壁4,4,…に囲まれて、階段室2と居住空間3との境界部には境界壁5が形成されている。
【0019】
既存建物1の左右(X方向両端)の側壁4,4および境界壁5は、耐震補強が施された耐震壁10である。なお、耐震壁10(側壁4,4および境界壁5)は、既存の壁を補強することで構築してもよいし、既存の壁を撤去して新たに構築してもよい。
居住空間3は、各階層が床版6により区切られている。
【0020】
階段室2の内部には折り返し階段20が形成されている。
折り返し階段20は、
図1の(a)および(b)に示すように、上側の階段部(以下、単に「上階段」という)21と、下側の階段部(以下、単に「上階段」という)22と、上階段21および下階段22が接続する踊り場23とを備えて構成されている。
踊り場23と側壁4との接合部には、梁24が形成されている。
【0021】
補強梁11は、階段部21,22と踊り場23との接合部において、踊り場23の下面に沿って横架されている。
補強梁11は、階段部21,22の昇降方向と直交しており、上階段21の下端と下階段22の上端とを連結している。
【0022】
補強梁11の一端は側壁4に接続されており、他端は境界壁5に接続されている。つまり、本実施形態の補強梁11は、両端が耐震壁10に接続された状態で横架されている。
【0023】
なお、
図1には表われていないが、上階段21の上端および下階段22の下端にも補強梁11が横架されている。つまり、各階の床につながる踊り場23の他、上階と下階の中間高さに形成される踊り場23にも補強梁11が横架されている。
【0024】
補強梁11の形成方法は限定されるものではないが、本実施形態では、踊り場23の下面にアンカーを植設し、補強梁11の配筋を行った後、型枠を設置するとともにコンクリートを打設することにより形成する。
なお、補強梁11として、プレキャスト部材を使用してもよい。また、ハーフプレキャスト部材や捨て型枠を利用して補強梁11を形成してもよい。
【0025】
本実施形態の建物の耐震補強構造によれば、補強梁11により上階段21と下階段22とを連結しているため、上階段21および下階段22をせん断伝達部材として利用することが可能となり、したがって、上階段21に隣接する側壁4(階段室2を挟んで境界壁5の反対側に位置する外壁)を耐震壁10とした場合に、その補強効果を期待することができる。
【0026】
つまり、Y方向の外力が既存建物1に作用した際に、側壁4(耐震壁10)からのせん断力は、下階段22を経て補強梁11へと伝わり、補強梁11から上階段21を経由して境界壁5(耐震壁10)へと伝達される(
図2の(a)参照)。
【0027】
このように、階段室2を耐震補強部位として利用することが可能となるため、従来の耐震補強構造(
図2の(b)参照)と比較して、他の部位への補強量を低減させることができる。
なお、従来の耐震補強構造は、
図2の(b)に示すように、階段室102は床面に開口が開いたものと評価されるため、階段室102に隣接する側壁104を補強しても、建物本体部に対する補強効果を期待することができず、したがって、居住空間103の左右に形成された耐震壁110,110(側壁104,境界壁105)の補強量を増加させる必要がある。その結果、居住空間103を狭めることとなる。
【0028】
階段室2は、共有部分であるため、区分所有された建物においても補強の理解が得やすい。また、階段室2以外の部分への補強量を低減させることで、利用者への負担も軽減することが可能となる。
【0029】
<第二の実施形態>
第二の実施形態の建物の耐震補強構造は、
図3の(a)および(b)に示すように、既存建物1の階段室2内に形成された補強壁12を備えている。
【0030】
本実施形態の既存建物1は、
図4の(a)に示すように、平面視矩形状のコンクリート系建物であって、内部が階段室2と居住空間3とに分割されている。
なお、既存建物1の詳細は、第一の実施の形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0031】
階段室2の内部には折り返し階段20が形成されている。
折り返し階段20は、
図3の(a)および(b)に示すように、上側の階段部(以下、単に「上階段」という)21と、下側の階段部(以下、単に「上階段」という)22と、上階段21および下階段22が接続する踊り場23とを備えて構成されている。
踊り場23と側壁4との接合部には、梁24が形成されている。
【0032】
補強壁12は、いわゆる耐震壁であって、左側の側壁4および境界壁5と平行となるように(Y方向に沿って)、上階段21と下階段22との間に形成されている。つまり、補強壁12は、上下に配置された上階段21と下階段22とを連結している。補強壁12の端面は、踊り場23に接続されているとともに、踊り場23の斜め上方に位置する他の踊り場(上階と下階との間に位置する踊り場)および踊り場23の斜め下方に位置する他の踊り場(上階と下階との間に位置する踊り場)にも接続されている。
【0033】
補強壁12は、階段室2に形成された既存の手すり部分を利用して形成する。つまり、手すり部分を耐震補強するとともに、必要に応じて壁部を増築することにより形成する。
なお、補強壁12の形成方法は限定されるものではなく、例えば、既存の手すり部分を撤去して、新たに構築してもよい。
【0034】
本実施形態の建物の耐震補強構造によれば、補強壁12により、上階段21と下階段22とを連結しているため、上階段21および下階段22をせん断伝達部材として利用することが可能となり、したがって、上階段21に隣接する側壁4(階段室2を挟んで境界壁5の反対側に位置する外壁)を耐震壁10とした場合に、その補強効果を期待することができる。
【0035】
つまり、Y方向の外力が既存建物1に作用した際に、側壁4(耐震壁10)からのせん断力は、下階段22を経て補強壁12へと伝わり、補強壁12から上階段21を経由して境界壁5(耐震壁10)へと伝達される(
図4の(a)参照)。
【0036】
このように、階段室2を耐震補強部位として利用することが可能となるため、従来の耐震補強構造(
図4の(b)参照)と比較して、他の部位への補強量を低減させることができる。
従来の耐震補強構造は、
図4の(b)に示すように、階段室102は床面に開口が開いたものと評価されるため、居住空間103の左右に形成された耐震壁110,110(側壁104,境界壁105)の補強量を増加させる必要がある。その結果、居住空間103を狭めることとなる。
【0037】
階段室2は、共有部分であるため、区分所有された建物においても補強の理解が得やすい。また、階段室2以外の部分への補強量を低減させることで、利用者への負担も軽減することが可能となる。
【0038】
<第三の実施形態>
第三の実施形態の建物の耐震補強構造は、
図5の(a)および(b)に示すように、既存建物1の階段室2内に形成された補強スラブ13を備えている。
【0039】
本実施形態の既存建物1は、コンクリート系建物であって、
図6の(a)に示すように、2箇所の階段室2,2と居住空間3とを備えている。階段室2,2は、建物本体(居住空間3)の後側面(図面において上側の面)に接続されている。
なお、既存建物1の平面形状は限定されるものではない。また、階段室2の配置や設置箇所も限定されるものではない。
【0040】
既存建物1は、外周囲が側壁4,4,…に囲まれている。
本実施形態の既存建物1の前側(図面において下側)の側壁4の一部(角部)には、耐震補強が施されており、耐震壁10が形成されている。
また、階段室2の後側(図面において上側)の側壁4は、耐震補強が施されていて、耐震壁10により構成されている。
【0041】
居住空間3は、各階層が床版6により区切られている。
【0042】
階段室2の内部には折り返し階段20が形成されている。
折り返し階段20は、
図5の(a)および(b)に示すように、上側の階段部(以下、単に「上階段」という)21と、下側の階段部(以下、単に「上階段」という)22と、上階段21および下階段22が接続する踊り場23とを備えて構成されている。
踊り場23と側壁4との接合部には、梁24が形成されている。
【0043】
補強スラブ13は、踊り場23の下面を覆うように形成されている。
補強スラブ13は、上階段21の下端および下階段22の上端に踊り場23を介して連結されている。
なお、
図5の踊り場23は、上階と下階との間に形成された踊り場23であるが、各階の床につながる踊り場23の下面にも、補強スラブ13を形成する。
【0044】
補強スラブ13の形成方法は限定されるものではないが、本実施形態では、踊り場23の下面にアンカーを植設し、補強スラブ13の配筋を行った後、型枠を設置するとともに型枠の内部にコンクリートを打設することにより形成する。
なお、補強スラブ13として、プレキャスト部材を踊り場23の下面に固定してもよい。
【0045】
本実施形態の建物の耐震補強構造によれば、踊り場23の下面に設けられた補強スラブ13が、上階段21および下階段22に連結されているため、上階段21および下階段22をせん断伝達部材として利用することが可能となり、したがって、階段室2に隣接する側壁4(階段室2を挟んで居住空間3の反対側に位置する外壁)を耐震壁10とした場合に、その補強効果を期待することができる。
【0046】
つまり、X方向の外力が既存建物1に作用した際に、側壁4(耐震壁10)からのせん断力は、補強スラブ13から上階段21および下階段22へと伝わり、上階段21または下階段22を経由して反対側の補強スラブ13へと伝達される(
図6の(a)参照)。
【0047】
このように、階段室2を耐震補強部位として利用することが可能となるため、従来の耐震補強構造(
図6の(b)参照)と比較して、他の部位への補強量を低減させることができる。
従来の耐震補強構造は、
図6の(b)に示すように、階段室102は床面に開口が開いたものと評価されるため、X方向の外力に対して、居住空間103の各角部に耐震壁110,110,…を形成して、建物全体の補強量を増加させる必要がある。その結果、居住空間103を狭めることとなる。
【0048】
階段室2は、共有部分であるため、区分所有された建物においても補強の理解が得やすい。また、階段室2以外の部分への補強量を低減させることで、利用者への負担も軽減することが可能となる。
【0049】
<第四の実施形態>
第四の実施形態に係る建物の耐震補強構造は、
図7に示すように、踊り場23を貫通する柱25を備えている点で、第一の実施形態の建物の耐震補強構造と異なっている。
【0050】
柱25は、踊り場23の上階段21および下階段22との接合部において、踊り場23と補強梁11を貫通する。柱25は、支持部材として機能するとともに、手すりとしても機能する。
【0051】
本実施形態の柱25は、鋼管により構成するが、柱25を構成する材料は限定されるものではない。
【0052】
柱25は、
図7の(a)および(b)に示すように、取付部材26を介して踊り場23に固定されている。
【0053】
取付部材26は、踊り場23を上下から挟むように配設されたベースプレート26a,26aと上下のベースプレート26a,26aを固定するアンカーボルト26b,26b,26bとを備えて構成されている。
【0054】
ベースプレート26aは、略三角形の鋼板であって、柱25が貫通する貫通孔が中央に形成されており、アンカーボルト26bが貫通する貫通孔が各角部に形成されている。
なお、ベースプレート26aの形状は限定されるものではない。
【0055】
アンカーボルト26bは、踊り場23を貫通して、上下のベースプレート26a,26aを固定している。
なお、アンカーボルト26bに代えてケミカルアンカーを採用してもよく、ベースプレート26aの固定方法は限定されるものではない。また、アンカーボルト26bの配置や本数は限定されるものではない。
【0056】
この他の第四の実施形態の建物の耐震補強構造の構成は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0057】
補強梁11の形成方法は限定されるものではないが、本実施形態では、柱25に固定した型枠治具27を介して型枠30を設置するとともに補強梁11の配筋を行った後、型枠30内にコンクリートを打設することにより形成する。
【0058】
型枠治具27は、
図7の(c)に示すように、固定部材27aと、セパレータ27bとを備えている。
【0059】
本実施形態の固定部材27aは、アングル(形鋼材)からなり、柱25に溶接されている。なお、固定部材27aを構成する材料は、柱25に固定することが可能であれば、形鋼材に限定されるものではない。また、固定部材27aの固定方法は限定されない。
【0060】
セパレータ27bは、上端が形鋼27aに固定されるとともに、下端において型枠30を保持する。
セパレータ27bの下端部には、型枠30の上面を保持するためのコーン27cが固定されている。
型枠30は、上面に配設されたコーン27cと下面に配設された締め具27dとにより把持される。
【0061】
なお、柱25を構成する鋼管の補強梁11に対応する位置に充填穴25aを形成しておけば、補強梁11のコンクリートを打設する際に、柱25を利用することができる。また、充填穴25aを介して柱25と補強梁11とが一体に接合される。
【0062】
柱25を利用することで、補強梁11の型枠30の設置が容易となるため、施工性が向上する。
また、柱25による補強効果も期待できる。
【0063】
この他の本実施形態の建物の耐震補強構造による作用効果は、第一の実施形態で示した内容と同様なため、詳細な説明は省略する。
なお、本実施形態の建物の耐震補強構造において、補強梁11に代えて補強スラブ(
図5参照)を採用してもよい。
【0064】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。