(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の鋳型造型用粘結剤組成物(以下、単に「粘結剤組成物」ともいう)は、鋳型を製造する際の粘結剤として使用されるものであって、酸硬化性樹脂と、酸価が70以上であるロジン変性マレイン酸樹脂とを含有する粘結剤組成物である。
本発明の酸価が70mgKOH/g以上のロジン変性マレイン酸樹脂を含むことにより鋳型の深部硬化性が向上する理由は、定かではないが、以下の点が推定される。
前記ロジン変性マレイン酸樹脂を含むことにより、フラン樹脂等の酸硬化性樹脂の表面張力が低下し、鋳物砂表面に濡れやすくなるため、硬化反応がスムーズに進行する。
そして、前記ロジン変性マレイン酸樹脂を含むことにより、油性になり、適正な疎水性が付与されるため、鋳型の硬化過程で硬化反応がスムーズに進行し、酸硬化性樹脂の硬化反応によって生じた生成水が鋳型系外へ排除されやすくなる。
本発明の酸価が70mgKOH/g以上のロジン変性マレイン酸樹脂を含むことにより、硬化速度が向上し、最終強度が向上する理由は、定かではないが、以下の点が推定される。
前記ロジン変性マレイン酸樹脂は、適度な酸価を有するため、フラン樹脂等の酸硬化性樹脂との相溶性が良い。更に、適度な酸価を有し、添加量が適切な範囲ではロジン変性マレイン酸樹脂の酸の効果により、酸硬化性樹脂の樹脂化が進行しやすくなる。また、前記ロジン変性マレイン酸樹脂を含むことにより、フラン樹脂等の酸硬化性樹脂の表面張力が低下し、鋳物砂表面に濡れやすくなる。加えては、ロジン変性マレイン酸樹脂自体が粘着性を有する樹脂であることも一要因と考えられる。
以下、本発明の粘結剤組成物に含有される成分について説明する。
【0014】
<酸硬化性樹脂>
酸硬化性樹脂としては、従来公知の樹脂が使用でき、例えば、フラン樹脂やフェノール樹脂等の自硬性の樹脂が使用できるが、鋳型強度発現による鋳型生産性及び植物由来原料による環境側面の観点から、フラン樹脂が好ましい。フラン樹脂としては、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールの縮合物、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールと尿素の縮合物、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類の縮合物、及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上、又は前記群から選ばれる2種以上からなる共縮合物が使用できる。このうち、鋳物砂との硬化反応を円滑に進行させ、深部硬化性と最終強度を向上させる観点から、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールと尿素の縮合物、及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物から選ばれる1種以上、並びにこれらの共縮合物を使用するのが好ましく、フルフリルアルコール及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物を使用することがより好ましい。
【0015】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキザール、フルフラール、テレフタルアルデヒド等が挙げられ、これらのうち1種以上を適宜使用できる。鋳型の最終強度を向上させる観点からは、ホルムアルデヒドを用いるのが好ましく、造型時のホルムアルデヒド発生量低減の観点からは、フルフラールやテレフタルアルデヒドを用いるのが好ましい。
【0016】
前記フェノール類としては、フェノール、クレゾール、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールFなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
【0017】
フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フルフリルアルコール1モルに対して、アルデヒド類を0.01〜1モル使用することが好ましい。フルフリルアルコールと尿素の縮合物を製造する場合には、フルフリルアルコール1モルに対して、尿素を0.05〜0.5モル使用することが好ましい。フルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物を製造する場合には、フルフリルアルコール1モルに対して、尿素を0.05〜0.5モル使用し、且つアルデヒド類を0.1〜1.5モル使用することが好ましい。
【0018】
また、酸硬化性樹脂が、尿素及びホルムアルデヒドを含む原料から合成されている場合は、酸硬化性樹脂を合成する際のホルムアルデヒドと尿素の配合比が、モル比で、ホルムアルデヒド/尿素=1.5〜4.0であることが好ましく、1.7〜4.0であることがより好ましい。鋳型の深部硬化性及び最終強度を向上させることができるからである。また、ホルムアルデヒド/尿素のモル比が2.0以下の場合は、造型時のホルムアルデヒドの発生量を低減できる。
【0019】
粘結剤組成物中の酸硬化性樹脂の含有量は、最終強度を十分発現する観点から、好ましくは55〜99.9重量%であり、より好ましくは60〜97重量%であり、更に好ましくは64〜95重量%である。
【0020】
酸硬化性樹脂のpHは、鋳型の深部硬化性及び最終強度を向上させる観点及び貯蔵安定性向上の観点から、好ましくは2.0〜8.5であり、より好ましくは3.0〜6.0であり、更に好ましくは3.5〜5.0である。酸硬化性樹脂のpHを上記範囲内に制御するには、酸硬化性樹脂に、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液、又はシュウ酸水溶液等の酸性水溶液を添加することによって調整すればよい。
【0021】
本発明の粘結剤組成物では、尿素などのアミノ基が樹脂成分と架橋結合を形成すると考えられ、得られる鋳型の可撓性に好ましい影響を与えることが推測される。アミノ基の含有量は窒素含有量(重量%)で見積もることが出来る。なお、鋳型の可撓性は、原型から鋳型を抜型する際に必要である。特に、複雑な形状の鋳型を造型した際に、鋳型の可撓性が高いと、抜型時に鋳型の肉厚が薄い部分に応力が集中することに起因する鋳型割れを防ぐことができる。本発明の粘結剤組成物は、最終強度を向上させる観点と、得られる鋳型の割れを防ぐ観点から、粘結剤組成物中の窒素含有量は、0.8〜6.0重量%であることが好ましく、1.8〜6.0重量%がより好ましく、2.2〜5.0重量%が更に好ましく、2.3〜4.5重量%が更により好ましく、2.5〜4.0重量%が更により好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量を上記範囲内に調整するには、粘結剤組成物中の窒素含有化合物の含有量を調整すればよい。窒素含有化合物としては、尿素、メラミン、尿素とアルデヒド類の縮合物、メラミンとアルデヒド類の縮合物、尿素樹脂及び尿素変性樹脂等が好ましい。粘結剤組成物中の窒素含有量は、ケルダール法により定量することが出来る。更には、尿素、尿素樹脂、フルフリルアルコール・尿素樹脂(尿素変性樹脂)、及びフルフリルアルコール・尿素ホルムアルデヒド樹脂由来の窒素含有量は、尿素由来のカルボニル基(C=O基)を13C−NMRで定量することで求めることも出来る。
【0022】
<ロジン変性マレイン酸樹脂>
本発明の粘結剤組成物は、鋳型の硬化速度、最終強度及び深部硬化性を向上させる観点から、酸価が70mgKOH/g以上であるロジン変性マレイン酸樹脂(以下、単に「ロジン変性マレイン酸樹脂」ともいう)を含有する。なお、ロジン変性マレイン酸樹脂は、後述するように、グリーンソースであるロジンから合成、誘導されるものであるため地球環境にも優しい。また、ロジン変性マレイン酸樹脂は、50重量%程度が社会循環型原料からなるものであり、カーボンオフセット(カーボンニュートラル)の観点から優れる化合物である。加えて、ロジン変性マレイン酸樹脂は、鋳型造型時や鋳造時に塩化水素ガスを副生しないため、作業環境上、優れるものである。
【0023】
ロジン変性マレイン酸樹脂は、例えば、ロジン単独、又はロジンと多価アルコールをエステル化させた後、マレイン酸やフマル酸を添加し、ディールス・アルダー反応でマレイン化(フマル化)して得られるものである。このようなロジン変性マレイン酸樹脂の一般的な合成法は、以下のとおりである。まず、ロジン単独、又はロジンとペンタエリスリトール、エチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールを混合し、Zn触媒の存在下、280℃程度で1〜3時間程度加熱脱水すると、酸価が4〜7mgKOH/gであるロジンのエステル化物が得られる。その後、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水フマル酸等のマレイン酸類を添加し、ディールス・アルダー反応にてマレイン化(フマル化)させれば、ロジン変性マレイン酸樹脂を得ることができる。工業的には、原料であるロジン、多価アルコール、無水マレイン酸を同時加熱・脱水し、反応を促進させれば、効率良くロジン変性マレイン酸樹脂を得ることができる。なお、本発明において、マレイン酸類とは、マレイン酸の異性体であるフマル酸をも含むものである。ロジン変性マレイン酸樹脂の変性度は、酸価と重量平均分子量で規定できるが、構成成分のモル比を調整し、触媒量、反応温度及び反応時間を制御することにより、種々の酸価又は重量平均分子量を有するものが得られる。
【0024】
本発明で使用されるロジン変性マレイン酸樹脂は、鋳型の硬化速度、最終強度及び深部硬化性を向上させる観点、並びに酸硬化性樹脂に対する溶解性向上の観点から、JIS K 5903に基づいて測定された酸価が70mgKOH/g以上であり、80mgKOH/g以上であることが好ましく、90mgKOH/g以上であることがより好ましく、150mgKOH/g以上であることが更に好ましく、170mgKOH/g以上であることがより更に好ましい。また、鋳型の硬化速度、最終強度及び深部硬化性を向上させる観点から、300mgKOH/g以下であることが好ましく、250mgKOH/g以下であることがより好ましく、200mgKOH/g以下であることが更に好ましい。上記観点を総合すると、70〜300mgKOH/gであることが好ましく、80〜300mgKOH/gであることがより好ましく、90〜300mgKOH/gであることが更に好ましく、150〜300mgKOH/gであることがより更に好ましく、150〜250mgKOH/gであることがより更に好ましく、170〜200mgKOH/gであることがより更に好ましい。ロジン変性マレイン酸の酸価が300mgKOH/g以下になると合成反応過程において、マレイン酸モノマーの残存率が少なくなり、ロジン変性マレイン酸樹脂の重量平均分子量も200以上の適度なものとなり、特に深部硬化及び最終強度の向上が認められる。同様の観点から、前記ロジン変性マレイン酸樹脂は、JIS K 2207に基づいて測定された軟化点が70〜200℃であることが好ましい。
【0025】
また、本発明で使用されるロジン変性マレイン酸樹脂は、鋳型の深部硬化性向上、鋳型の硬化速度向上及び鋳型の最終強度向上の観点から、GPCにより測定された重量平均分子量(Mw)が200以上であることが好ましく、250以上であることがより好ましく、300以上であることが更に好ましく、500以上であることが更により好ましく、700以上であることがより更に好ましい。同様の観点から、GPCにより測定された重量平均分子量(Mw)が2000以下であることが好ましく、1900以下であることがより好ましく、1200以下であることが更に好ましく、1000以下であることがより更に好ましい。上記観点を総合すると、GPCにより測定された重量平均分子量(Mw)が200〜2000であることが好ましく、250〜1900であることがより好ましく、300〜1200であることが更に好ましく、500〜1200であることが更により好ましく、700〜1000がより更に好ましい。
【0026】
鋳型の深部硬化性向上の観点及び最終強度向上の観点から、粘結剤組成物中のロジン変性マレイン酸樹脂の含有量は0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、2重量%以上が更に好ましい。また、鋳型の深部硬化性向上の観点及び最終強度向上の観点から、粘結剤組成物中のロジン変性マレイン酸樹脂の含有量は20重量%以下であり、15重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、8重量%以下であることが更に好ましく、6重量%以下であることがより更に好ましい。上記観点を総合すると、粘結剤組成物中のロジン変性マレイン酸樹脂の含有量は、0.1〜20重量%であり、0.1〜15重量%であることが好ましく、0.5〜10重量%であることがより好ましく、1〜8重量%であることが更に好ましく、2〜6重量%であることがより更に好ましい。
【0027】
本発明の粘結剤組成物は、鋳型の深部硬化性、硬化速度及び最終強度を向上させ、保存安定性を向上させ、更にポンプ輸送において問題を生じさせない観点から、ロジン変性マレイン酸樹脂の酸硬化性樹脂への溶解性が重要であり、後記実施例で評価される方法により沈殿物が生じない溶解性があることが好ましい。
【0028】
<硬化促進剤>
本発明の粘結剤組成物中には、鋳型の割れを防ぐ観点、及び最終強度を向上させる観点から、硬化促進剤が含有されてもよい。硬化促進剤としては、最終強度を向上させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物(以下、硬化促進剤(1)という)、フェノール誘導体、芳香族ジアルデヒド、及びタンニン類からなる群より選ばれる1種以上が好ましく、同様の観点、及び硬化速度向上の観点から、フェノール誘導体がより好ましい。なお、硬化促進剤は、酸硬化性樹脂の一成分として含有されてもよい。
【0029】
【化1】
〔式中、X
1及びX
2は、それぞれ水素原子、CH
3又はC
2H
5の何れかを表す。〕
【0030】
硬化促進剤(1)としては、2,5−ビス(ヒドロキシメチル)フラン、2,5−ビス(メトキシメチル)フラン、2,5−ビス(エトキシメチル)フラン、2−ヒドロキシメチル−5−メトキシメチルフラン、2−ヒドロキシメチル−5−エトキシメチルフラン、2−メトキシメチル−5−エトキシメチルフランが挙げられる。中でも、最終強度を向上させる観点から、2,5−ビス(ヒドロキシメチル)フランを使用するのが好ましい。粘結剤組成物中の硬化促進剤(1)の含有量は、硬化促進剤(1)の酸硬化性樹脂への溶解性向上の観点、及び最終強度向上の観点から、0.5〜63重量%であることが好ましく、1.8〜50重量%であることがより好ましく、2.5〜50重量%であることが更に好ましく、3.0〜40重量%であることが更により好ましい。
【0031】
フェノール誘導体としては、例えばレゾルシン、クレゾール、ヒドロキノン、フロログルシノール、メチレンビスフェノール等が挙げられる。なかでも、硬化速度向上の観点、及び最終強度向上の観点から、レゾルシン、フロログルシノールが好ましい。粘結剤組成物中の上記フェノール誘導体の含有量は、フェノール誘導体の酸硬化性樹脂への溶解性向上の観点、及び最終強度向上の観点から、0.1〜10重量%であることが好ましく、0.5〜8重量%であることがより好ましく、1〜7重量%であることが更に好ましい。
【0032】
芳香族ジアルデヒドとしては、テレフタルアルデヒド、フタルアルデヒド及びイソフタルアルデヒド等、並びにそれらの誘導体等が挙げられる。それらの誘導体とは、基本骨格としての2つのホルミル基を有する芳香族化合物の芳香環にアルキル基等の置換基を有する化合物等を意味する。最終強度を向上させる観点から、テレフタルアルデヒド及びテレフタルアルデヒドの誘導体が好ましく、テレフタルアルデヒドがより好ましい。粘結剤組成物中の芳香族ジアルデヒドの含有量は、芳香族ジアルデヒドを酸硬化性樹脂に十分に溶解させる観点、最終強度を向上させる観点、及び芳香族ジアルデヒド自体の臭気を抑制する観点から、好ましくは0.1〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%であり、更に好ましくは1〜5重量%である。
【0033】
タンニン類としては、縮合タンニンや加水分解型タンニンが挙げられる。これら縮合タンニンや加水分解型タンニンの例としては、ピロガロール骨格やレゾルシン骨格を持つタンニンが挙げられる。また、これらタンニン類を含有する樹皮抽出物や植物由来の葉、実、種、植物に寄生した虫こぶ等の天然物からの抽出物を添加しても構わない。
【0034】
<水分>
本発明の粘結剤組成物中には、さらに水分が含まれてもよい。例えば、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物などの各種縮合物を合成する場合、水溶液状の原料を使用したり縮合水が生成したりするため、縮合物は、通常、水分との混合物の形態で得られるが、このような縮合物を粘結剤組成物に使用するにあたり、合成過程に由来するこれらの水分をあえて除去する必要はない。また、粘結剤組成物を取扱いやすい粘度に調整する目的などで、水分をさらに添加してもよい。ただし、水分が過剰になると、酸硬化性樹脂の硬化反応が阻害されるおそれがあるため、粘結剤組成物中の水分含有量は0.5〜30重量%の範囲とすることが好ましく、粘結剤組成物を扱いやすくする観点と硬化反応速度を維持する観点から1〜10重量%の範囲がより好ましく、3〜7重量%の範囲が更に好ましい。また、水分含有量が15重量%以下の低水分系において、鋳型の深部硬化性及び最終強度を向上させる観点から、10重量%以下とすることが好ましく、7重量%以下とすることがより好ましく、5重量%以下とすることが更に好ましい。また、粘結剤組成物の引火性を低下させる観点からは、粘結剤組成物中の水分含有量は10〜25重量%が好ましく、15〜20重量%がより好ましい。
【0035】
<その他の添加剤>
また、粘結剤組成物中には、さらにシランカップリング剤等の添加剤が含まれていてもよい。例えばシランカップリング剤が含まれていると、最終強度を向上させることができるため好ましい。シランカップリング剤としては、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−α−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシランなどが用いられる。好ましくは、アミノシラン、エポキシシラン、ウレイドシランであり、より好ましくはアミノシラン、更に好ましくはN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランである。シランカップリング剤の粘結剤組成物中の含有量は、最終強度向上の観点から、0.01〜0.5重量%であることが好ましく、0.05〜0.3重量%であることがより好ましい。なお、シランカップリング剤は、酸硬化性樹脂の一成分として含有されてもよい。
【0036】
本発明の粘結剤組成物は、耐火性粒子、鋳型造型用粘結剤組成物及び硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法に好適である。即ち、本発明の鋳型の製造方法は、鋳型造型用粘結剤組成物として上記本発明の粘結剤組成物を使用する鋳型の製造方法である。
【0037】
本発明の鋳型の製造方法では、従来の鋳型の製造方法のプロセスをそのまま利用して鋳型を製造することができる。例えば、上記本発明の粘結剤組成物と、この粘結剤組成物を硬化させる硬化剤とを耐火性粒子に加え、これらをバッチミキサーや連続ミキサーなどで混練することによって、上記混合物(混練砂)を得ることができる。本発明の鋳型の製造方法では、最終強度向上の観点から、前記硬化剤を耐火性粒子に添加した後、本発明の粘結剤組成物を添加することが好ましい。
【0038】
耐火性粒子としては、ケイ砂、クロマイト砂、ジルコン砂、オリビン砂、アルミナ砂、ムライト砂、合成ムライト砂等の従来公知のものを使用でき、また、使用済みの耐火性粒子を回収したものや再生処理したものなども使用できる。
【0039】
硬化剤としては、キシレンスルホン酸(特に、m−キシレンスルホン酸)やトルエンスルホン酸(特に、p−トルエンスルホン酸)等のスルホン酸系化合物、リン酸系化合物、硫酸等を含む酸性水溶液など、従来公知のものを1種以上使用できる。更に、硬化剤中にアルコール類、エーテルアルコール類及びエステル類よりなる群から選ばれる1種以上の溶剤や、カルボン酸類を含有させることができる。これらの中でも、鋳型の深部硬化性の向上や、最終強度の向上を図る観点から、アルコール類、エーテルアルコール類が好ましく、エーテルアルコール類がより好ましい。また、上記溶剤やカルボン酸類を含有させると、硬化剤中の水分量を低減できるため、鋳型の深部硬化性が更に良好になると共に、最終強度が更に向上する。前記溶剤や前記カルボン酸類の硬化剤中の含有量は、最終強度向上の観点から、5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましい。また、硬化剤の粘度を低減させる観点からは、メタノールやエタノールを含有させることが好ましい。
【0040】
鋳型の深部硬化性の向上や、最終強度の向上を図る観点から、前記アルコール類としては、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ベンジルアルコールが好ましく、前記エーテルアルコール類としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルが好ましく、前記エステル類としては、酢酸ブチル、安息香酸ブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましい。前記カルボン酸類としては、最終強度向上及び臭気低減の観点から、水酸基を持つカルボン酸が好ましく、乳酸、クエン酸、リンゴ酸がより好ましい。
【0041】
混練砂における耐火性粒子と粘結剤組成物と硬化剤との比率は適宜設定できるが、耐火性粒子100重量部に対して、粘結剤組成物が0.5〜1.5重量部で、硬化剤が0.07〜1重量部の範囲が好ましい。このような比率であると、十分な最終強度の鋳型が得られやすい。更に、硬化剤の含有量は、鋳型に含まれる水分量を極力少なくし、鋳型の深部硬化性を向上させる観点と、ミキサーでの混合効率の観点から、粘結剤組成物中の酸硬化性樹脂100重量部に対して10〜70重量部であることが好ましく、15〜60重量部であることがより好ましく、20〜55重量部であることが更に好ましい。
【0042】
本発明の組成物は
<1>酸硬化性樹脂と、酸価が70mgKOH/g以上であるロジン変性マレイン酸樹脂とを含有する鋳型造型用粘結剤組成物であって、
前記酸硬化性樹脂が、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールの縮合物、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールと尿素の縮合物、フルフリルアルコールとフェノール類とアルデヒド類の縮合物、フルフリルアルコールとメラミンとアルデヒド類の縮合物、及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上、又は前記群から選ばれる2種以上からなる共縮合物を含み、
前記ロジン変性マレイン酸樹脂を0.1〜20重量%含有する鋳型造型用粘結剤組成物である。
【0043】
本発明は、さらに以下の組成物又は製造方法、或いは用途が好ましい。
<2>前記ロジン変性マレイン酸樹脂の酸価が70〜300mgKOH/gである前記<1>の鋳型造型用粘結剤組成物。
<3>前記ロジン変性マレイン酸樹脂の含有量が0.1〜15重量%である前記<2>の鋳型造型用粘結剤組成物。
<4>前記ロジン変性マレイン酸樹脂の酸価が80〜300mgKOH/gであり、好ましくは90〜300mgKOH/gであり、より好ましくは150〜300mgKOH/gであり、更に好ましくは150〜250mgKOH/gであり、より更に好ましくは170〜200mgKOH/gである前記<1>〜<3>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物。
<5>前記ロジン変性マレイン酸樹脂の含有量が0.5〜10重量%であり、好ましくは1〜8重量%であり、より好ましくは2〜6重量%である前記<1>〜<4>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物。
<6>前記ロジン変性マレイン酸樹脂の重量平均分子量が200〜2000であり、好ましくは250〜1900であり、より好ましくは300〜1200であり、更に好ましくは500〜1200であり、より更に好ましくは700〜1000である前記<1>〜<5>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物。
<7>前記酸硬化性樹脂がフルフリルアルコール及びフルフリルアルコールと尿素とアルデヒドの縮合物からなる群より選ばれる1種以上である前記<1>〜<6>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物。
<8>耐火性粒子、前記<1>〜<7>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物及び硬化剤を含む混合物を硬化させる工程を有する鋳型の製造方法。
<9>前記硬化剤を前記耐火性粒子に添加した後、前記鋳型造型用粘結剤組成物を添加する前記<8>の鋳型の製造方法。
<10>前記<1>〜<7>のいずれかの鋳型造型用粘結剤組成物の鋳型製造用途。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0045】
<ロジン変性マレイン酸樹脂の酸価>
ロジン変性マレイン酸樹脂の酸価は、JIS K 5903に記載の方法に従って測定した。
【0046】
<ロジン変性マレイン酸樹脂の重量平均分子量測定>
(a)サンプル:1重量%ロジン変性マレイン酸樹脂のテトラヒドロフラン溶液を使用
(b)カラム:ガードカラムTSX HXL(6.5mmφ×4cm)(東洋曹達工業社製)1本と、TSK3000HXL(7.8mmφ×30cm)(東洋曹達工業社製)1本と、TSK2500HXL(7.8mmφ×30cm)(東洋曹達工業社製)1本を使用(注入口側よりガードカラムTSX HXL−TSK3000HXL−TSK2500HXLの順に接続)
(c)標準物質:ポリスチレン(東洋曹達工業社製)
(d)溶出液:テトラヒドロフラン(流速:1cm
3/min)
(e)カラム温度:25℃
(f)検出器:屈折率計(島津社製RID−6A)
(g)分子量計算の為の分割法:時間分割(2sec)
【0047】
<添加剤のフラン樹脂への溶解性>
100mLの蓋付ガラス瓶に、表1及び3に示す量のフラン樹脂A(表1及び3参照)と、表1及び3に示す量の各種添加剤を入れた後、該ガラス瓶を70℃に設定したウォーターバスに入れて、5分おきに均一になる程度に振とうしながら30分間湯煎した。その結果、沈殿物が目視で残存しなかった場合を「溶解性」と判断し、沈殿物が残存した場合を「不溶性」と判断した。
100mLの蓋付ガラス瓶に、表2に示す量のフラン樹脂B(表2参照)と、表2に示す量の各種添加剤を入れた後、該ガラス瓶を70℃に設定したウォーターバスに入れて、5分おきに均一になる程度に振とうしながら30分間湯煎した。その結果、沈殿物が目視で残存しなかった場合を「溶解性」と判断し、沈殿物が残存した場合を「不溶性」と判断した。
【0048】
<1時間後の鋳型強度>
混練直後の混練砂を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。充填後、25℃、55%RHの条件下で1時間経過した時に抜型し、JIS Z 2604−1976に記載された方法で圧縮強度を測定した。得られた測定値を1時間後の鋳型強度とした。なお、1時間後の鋳型強度が高いほど、硬化速度が高いと評価できる。
【0049】
<24時間後の鋳型強度>
混練直後の混練砂を直径50mm、高さ50mmの円柱形状のテストピース枠に充填した。充填後、25℃、55%RHの条件下で3時間経過した時に抜型し、25℃、55%RHの条件下で充填から24時間放置した後、JIS Z 2604−1976に記載された方法で圧縮強度を測定した。得られた測定値を24時間後の鋳型強度とした。なお、24時間後の鋳型強度が高いほど、鋳型の最終強度が高いと評価できる。
【0050】
<深部硬度>
混練直後の混練砂を直径150mm、高さ170mmのポリプロピレン製カップに入れて、JIS Z 2604−1976に記載の方法で測定された圧縮強度が0.3MPaに到達した時にポリプロピレン製カップから鋳型を取り出し、鋳型の深部(ポリプロピレン製カップの底面に接触していた面)の表面硬度をフラン鋳型用表面硬度計(ナカヤマ製)で測定した。なお、表1〜表3に示す深部硬度の値は、上記表面硬度計が示した目盛(無単位)の値であり、数値が大きいほど深部硬化性が良好と評価できる。
【0051】
(実施例及び比較例)
25℃、55%RHの条件下で、3リットルの金属釜を有する愛光舎製作所社製の混練機を用いて、フリーマントル新砂(山川産業社製)100重量部、キシレンスルホン酸/硫酸系硬化剤〔花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 US−3と、花王クエーカー社製 カオーライトナー硬化剤 C−21との混合物(重量比はUS−3/C−21=10/30)〕0.40重量部を添加した後、45秒間混練した。次いで表1〜表3に示す粘結剤組成物1.0重量部を添加し、これらを45秒間混練して混練砂を得た。得られた混練砂を用いて上記の評価を行った。
なお、表1〜表3に示すロジン変性マレイン酸樹脂(マルキード2、8、31、32、33、3002)は、いずれも荒川化学工業社製の市販品を使用した。
また、表1に示すロジンのK塩は、以下に示すサンプル調製法により得られたものを用いた。まず、攪拌機付きの加熱可能な1リットルのガラス製3つ口フラスコに、和光純薬工業社製の水酸化カリウム一級試薬の20重量%水溶液281gを投入し、続いて和光純薬工業社製のロジン一級試薬302.4gを投入した後、攪拌しながら80℃に加温し、1時間保持した。その後30℃まで冷却しロジンのK塩水溶液を得た。続いて該ロジンのK塩水溶液をシャーレーに50g採取し、120℃にセットした乾燥機で24時間乾燥した。その後、該サンプルを常温まで冷却したものを10g採取し、携帯式コーヒーミルで5分間かけて粉末化させて、粉末ロジンのK塩を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
表1〜表3に示すように、実施例は、何れの評価項目についても良好な結果が得られた。一方、比較例は、少なくとも1つの評価項目について、実施例に比べて顕著に劣る結果であった。この結果から、本発明によれば、鋳型の硬化速度を向上させることができる上、最終強度及び深部硬化性が高い鋳型を製造できる鋳型造型用粘結剤組成物を提供できることが確認された。