(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780941
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】多孔性電極シートおよびその製造方法、ならびに表示装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/155 20060101AFI20150827BHJP
【FI】
G02F1/155
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-274348(P2011-274348)
(22)【出願日】2011年12月15日
(65)【公開番号】特開2012-150451(P2012-150451A)
(43)【公開日】2012年8月9日
【審査請求日】2014年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-292285(P2010-292285)
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100148769
【弁理士】
【氏名又は名称】麻生 紀明
(72)【発明者】
【氏名】森山 順一
(72)【発明者】
【氏名】長井 陽三
(72)【発明者】
【氏名】古山 了
(72)【発明者】
【氏名】山本 元
【審査官】
弓指 洋平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−175327(JP,A)
【文献】
特開2009−008750(JP,A)
【文献】
特開昭54−085699(JP,A)
【文献】
特開2010−033016(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0005977(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15−1/19
G02F 1/1343
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方面から他方面にかけて直線的に延びる複数の貫通孔が設けられた、透明で絶縁性の樹脂フィルムと、
前記樹脂フィルムの前記一方面上に積層され、前記複数の貫通孔のそれぞれに対応する位置に開口を有する透明電極と、
を備える、多孔性電極シート。
【請求項2】
前記樹脂フィルムは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、またはポリカーボネートからなる、請求項1に記載の多孔性電極シート。
【請求項3】
前記複数の貫通孔の平均孔径は、0.05μm以上100μm以下である、請求項1または2に記載の多孔性電極シート。
【請求項4】
前記透明電極は、酸化インジウムスズからなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔性電極シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔性電極シートを備える表示装置。
【請求項6】
前記多孔性電極シートの前記透明電極に接して設けられたエレクトロクロミック層と、
電解質で満たされた空間を挟んで前記多孔性電極シートと対向するアドレス電極と、
をさらに備える、請求項5に記載の表示装置。
【請求項7】
透明で無孔の樹脂基材にイオンビームを照射して当該樹脂基材を厚さ方向に貫通するように延びる複数の変性トラックを形成する工程と、
前記樹脂基材に対して前記変性トラックを基点に化学エッチングを行うことにより複数の貫通孔を有する樹脂フィルムを得る工程と、
前記樹脂フィルムの一方面上に、前記複数の貫通孔のそれぞれに対応する位置に開口を有する透明電極を形成する工程と、
を含む、多孔性電極シート製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な絶縁層上に透明電極が積層された多孔性電極シートおよびその製造方法に関する。また、本発明は、その多孔性電極シートを用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な装置において透明電極が用いられている。透明電極は、一般に、透明な基板または絶縁層上に積層される。例えば、特許文献1には、
図4に示すようなエレクトロクロミック方式の多色の表示装置100が開示されている。
【0003】
この表示装置100では、表示基板11と対向基板12とがスペーサ18を介して貼り合わされており、これによりセルが形成されている。セル内には、表示基板11側に、第1表示電極13a、第1エレクトロクロミック層14a、絶縁層15、第2表示電極13bおよび第2エレクトロクロミック層14bが積層されており、対向基板12側に、対向電極17および白色反射層16が積層されている。また、セル内には電解質19が充填されている。
【0004】
第1表示電極13aおよび第2表示電極13bは、透明電極である。第1エレクトロクロミック層14aは、第1表示電極13aと対向電極17との間に印加される電圧が制御されることにより、第1の色を発したり無色になったりする。第2エレクトロクロミック層14bは、第2表示電極13bと対向電極17との間に印加される電圧が制御されることにより、第1の色とは異なる第2の色を発したり無色になったりする。
【0005】
第1エレクトロクロミック層14aおよび第2エレクトロクロミック層14bは、一般的に、金属酸化物にエレクトロクロミック化合物を担持させた構成を有する。金属酸化物としては導電性を有するものが用いられることもある。絶縁層15は、第1表示電極13aと第2表示電極13bの電位を別々に制御することを可能にするためのものである。また、絶縁層15は、透明であるとともに、内部に電解質19を浸透させて酸化還元反応に伴うイオンの移動を可能にするために多孔質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−33016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1には、多孔質の絶縁層15を形成するための具体的な方法として、ZnSを含む無機材料をスパッタリングすることが記載されている。しかしながら、スパッタリングによって絶縁層15を形成した場合には、絶縁層15の厚さを広い面積に亘って均一にすることは困難である。そして、絶縁層15の厚さが不均一になると、薄い部分では絶縁性が損なわれ、厚い部分では透明性が損なわれる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、透明電極に沿って均一な厚さの絶縁層を確保することができる多孔性電極シートおよびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、その多孔性電極シートを用いた表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、一方面から他方面にかけて直線的に延びる複数の貫通孔が設けられた、透明で絶縁性の樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの前記一方面上に積層され、前記複数の貫通孔のそれぞれに対応する位置に開口を有する透明電極と、を備える、多孔性電極シートを提供する。
【0010】
また、本発明は、上記の多孔性電極シートを備える表示装置を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、透明で無孔の樹脂基材にイオンビームを照射して当該樹脂基材を厚さ方向に貫通するように延びる複数の変性トラックを形成する工程と、前記樹脂基材に対して前記変性トラックを基点に化学エッチングを行うことにより複数の貫通孔を有する樹脂フィルムを得る工程と、前記樹脂フィルムの一方面上に、前記複数の貫通孔のそれぞれに対応する位置に開口を有する透明電極を形成する工程と、を含む、多孔性電極シート製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
上記の構成では、透明電極が樹脂フィルムの一方面上に積層されている。樹脂フィルムは、広い面積に亘って厚さが均一なものを容易に作製することができる。従って、樹脂フィルムを用いれば、透明電極に沿って均一な厚さの絶縁層を確保することができる。しかも、本発明の多孔性電極シートには、樹脂フィルムの貫通孔と透明電極の開口によって多孔性電極シートを厚さ方向に貫通する通路が形成されているので、例えば絶縁層がエレクトロクロミック層に接するように配置された場合でも、イオンはその通路を通じて移動することができる。
【0013】
エレクトロクロミック層に接する従来の絶縁層は孔の方向性がない多孔質であったためにイオンが絶縁層内をスムーズに移動することができなかった。これに対し、本発明では、上記の通路により、イオンが多孔性電極シートを最短距離で通過するように移動するため、酸化還元反応の速度を向上させることができる。つまり、多孔性電極シートをエレクトロクロミック方式の表示装置に用いた場合には、表示装置の性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は本発明の一実施形態に係る多孔性電極シートの斜視図、(b)は同多孔性電極シートの断面図
【
図2】
図1の多孔性電極シートを用いた多色の表示装置の概略構成図
【
図3】
図1の多孔性電極シートを用いた単色の表示装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0016】
<多孔性電極シート>
図1(a)および(b)に、本発明の一実施形態に係る多孔性電極シート1を示す。この多孔性電極シート1は、透明で絶縁性の樹脂フィルム2と、樹脂フィルム2の一方面2a上に積層された透明電極3とを備える。
【0017】
樹脂フィルム2は、広い面積に亘って厚さが均一なものを容易に作製することができる。従って、樹脂フィルム2を用いた多孔性電極シート1では、透明電極3に沿って均一な厚さの絶縁層を確保することができる。
【0018】
多孔性電極シート1の形状は、特に限定されない。例えば、多孔性電極シート1は、平面視で(厚さ方向から見たときに)矩形であってもよいし、円形または角丸多角形であってもよい。
【0019】
樹脂フィルム2には、一方面2aから他方面2bにかけて直線的に延びる複数の貫通孔21が設けられている。換言すれば、貫通孔21は、枝分かれのないストレートな孔である。このような貫通孔21を有する樹脂フィルム2は、透明で無孔の樹脂基材にイオンビームを照射して当該樹脂基材を厚さ方向に貫通するように延びる複数の変性トラック(樹脂が変性した線状の部分)を形成した後に、樹脂基材に対して変性トラックを基点に化学エッチングを行うことにより作製することができる。
【0020】
上記のようなイオンビーム照射と化学エッチングを組み合わせた穿孔技術により作製された製品は広く市販されており、樹脂フィルム2としてはそれらの市販品(例えば、オキシフェン社やミリポア社が販売するメンブレンフィルタ)を用いることができる。
【0021】
イオンビームは、広い面積に短時間で照射可能であるとともに、高密度に照射可能である。また、樹脂基材に対して角度を付けて斜め方向からイオンビームを照射することも可能である。イオンビームの照射には、重イオンを用いることが好ましい。重イオンを用いたときには、孔径に対する長さの比(いわゆるアスペクト比)が1万以上の極めて細長い貫通孔21を形成できるからである。例えば、重イオンは、サイクロトロンで加速させた後に、樹脂基材に向けて発射され得る。
【0022】
ここで、「孔径」とは、貫通孔21の断面形状を円とみなしたときの円の直径、換言すれば、貫通孔21の断面積と同一の面積の円の直径をいう。
【0023】
変性トラックの樹脂を除去する化学エッチングでは、アルカリ溶液等のエッチング液を用いる。この化学エッチングによって、貫通孔21の孔径や断面形状を制御することができる。
【0024】
貫通孔21の断面形状は、特に限定されず、円形であってもよいし、不定形であってもよい。貫通孔21の平均孔径は、0.05μm以上100μm以下であることが好ましい。ただし、多孔性電極シート1が後述するようにエレクトロクロミック層に接して配置される場合には、貫通孔21の最大孔径は、エレクトロクロミック化合物を担持する金属酸化物の平均粒径よりも小さいことが好ましい。より好ましい貫通孔21の平均孔径は、0.1μm以上10μm以下である。
【0025】
貫通孔21の密度は、樹脂フィルム2の全面に亘って10〜1×10
8個/cm
2の範囲のうちの特定の帯域(例えば、最大密度が最小密度の1.5倍以下)に収まっていることが好ましい。貫通孔21の密度は、イオンビーム照射時のイオン照射数により調整できる。より好ましい貫通孔21の密度は、1×10
3〜1×10
7個/cm
2の範囲内ある。
【0026】
貫通孔21のアスペクト比は、5以上であることが好ましい。
【0027】
樹脂フィルム2の厚さは、例えば、10〜100μmである。樹脂フィルム2の具体例としては、透明な絶縁性フィルムであるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルムを挙げることができる。
【0028】
透明電極3は、貫通孔21のそれぞれに対応する位置に開口31を有する。すなわち、樹脂フィルム2の貫通孔21および透明電極3の開口31は、互いに連通して多孔性電極シート1を厚さ方向に貫通する通路10を形成する。
【0029】
開口31を有する透明電極3を形成するには、スパッタ法、電子ビーム法、イオンプレーティング法、真空蒸着法および化学的気相成長法(CVD法)等により、樹脂フィルムの一方面2a上に直接導電膜を形成すればよい。
【0030】
透明電極3は、酸化インジウムスズ膜(ITO膜)で構成されていることが好ましい。ただし、透明電極3は、例えば、フッ素がドープされた酸化スズ膜(FTO膜)や、アンチモン、インジウムまたはアルミニウムがドープされた酸化亜鉛膜等で構成されていてもよい。
【0031】
<表示装置>
次に、本実施形態の多孔性電極シート1の使用例について説明する。
図2に、多孔性電極シート1を用いたエレクトロクロミック方式の多色の表示装置10Aを示す。なお、背景技術の欄で
図4を参照して説明した構成と同一部分については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0032】
この表示装置10Aでは、
図4の第1表示電極13aの代わりに第1エレクトロクロミック層14a操作用の第1透明電極4が配設され、
図4の第2表示電極13bおよび絶縁層15の代わりに多孔性絶縁シート1が配設されている。すなわち、多孔性電極シート1は、樹脂フィルム2が第1エレクトロクロミック層14aを挟んで第1透明電極41と対向し、透明電極3が第2エレクトロクロミック層14bに接するように配置されている。多孔性絶縁シート1の透明電極3は、第2エレクトロクロミック層14b操作用の第2透明電極である。
【0033】
また、
図4の対向電極17の代わりにアドレス電極5が配設されている。セル内には電解質19が充填されているので、アドレス電極5は、電解質19で満たされた空間を挟んで多孔性電極シート1と対向している。
【0034】
このように、多孔性電極シート1を表示装置10Aに用いたときには、多孔性電極シート1には当該多孔性電極シート1を厚さ方向に貫通する通路10(
図1(b)参照)が形成されているので、イオンはその通路10を通じて移動することができる。
【0035】
図4に示す従来の表示装置100では、第1エレクトロクロミック層14aに接する絶縁層15は孔の方向性がない多孔質であったためにイオンが絶縁層15内をスムーズに移動することができなかった。これに対し、
図2に示す表示装置10Aでは、通路10により、イオンが多孔性電極シート1を最短距離で通過するように移動するため、酸化還元反応の速度を向上させることができる。つまり、多孔性電極シート1によって表示装置10Aの性能を向上させることができる。
【0036】
また、樹脂フィルム2は、通常は液体に浸したときに透明度が増すので、電解質19として液体を用いたときには表示装置10Aの視認性が向上する。しかも、そのような電解液は貫通孔21に保持されるため、樹脂フィルム2はフレキシブルな動きに対しても透明性を維持できる。そのため、多孔性電極シート1は、特に電子ペーパ等のフレキシブル性が要求される用途に好適である。
【0037】
さらには、多孔性電極シート1では、樹脂フィルム2側の表面が平滑なため、その上に積層されるエレクトロクロミック層(特に、金属酸化物)との密着性が高くなる。また、樹脂フィルム2の貫通孔21は、無機材料からなる多孔質の絶縁層内に形成される空隙に比べて、しっかりとした形状維持が可能なため、表示装置の製造歩留まりの向上にも貢献できる。
【0038】
ところで、本実施形態の多孔性電極シート1は、エレクトロクロミック方式の単色の表示装置に用いることも可能である。この場合の構成の一例を
図3に示す。
【0039】
図3に示す表示装置10Bでは、多孔性電極シート1が、エレクトロクロミック層14を表示基板11と挟持するように配置されている。より詳しくは、多孔性電極シート1の透明電極3が表示基板11側でエレクトロクロミック層14と接し、樹脂フィルム2が電解質19で満たされる空間に面している。
【0040】
この構成では、外側バリアー層である表示基板11上に透明電極を形成する必要がないため、表示基板11としてプラスチックのようなフレキシブルなバリアフィルムを用いることが可能になる。従来の表示装置では、透明電極の在る位置で表示基板と対向基板の間をスペーサで封止しようとすると、透明電極とスペーサとの接着性から耐久性が問題となる。しかし、多孔性電極シート1を用いれば表示基板11上に透明電極が不要になるので、同一または類似した材質同士を接着させることができ、これにより良好な耐久性を得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に何ら制限されるものではない。
【0042】
透明で絶縁性の樹脂フィルムとして、平均孔径10μmの貫通孔が設けられた厚さ13μmの市販品(オキシフェン社製Oxydisk)を準備した。この樹脂フィルムの一方面に、バッチ式スパッタ装置(ULVAC社製SMH−2306RE)を用いてITOをスパッタリングし、透明電極を形成した。スパッタリングは、到達真空度を1×10
-5Torrに設定し、処理圧力4.3×10
-3Torrの雰囲気中にて、Arを40sccm、O
2を3sccm供給しながら、電圧430V、電流0.88Aで5分間行った。これにより、多孔性電極シートを得た。
【0043】
得られた多孔性電極シートの透明電極側の表面を、電子顕微鏡で1000倍に拡大して観察したところ、透明電極には、樹脂フィルムの貫通孔のそれぞれに対応する位置に開口が形成されていた。
【0044】
また、得られた多孔性電極シートの透明電極側の表面抵抗値を、ASPプローブを有する抵抗率計(三菱化学社製ロレスタGP MCP−T610型)を用いて測定したところ、電圧10Vで60Ω/□であった。
【0045】
樹脂フィルムとして平均孔径1.0μmの貫通孔が設けられた厚さ22μmの市販品(オキシフェン社製Oxydisk)を用いた場合も、同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0046】
1 多孔性電極シート
2 樹脂フィルム
2a 一方面
2b 他方面
21 貫通孔
3 透明電極
31 開口