特許第5780961号(P5780961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780961
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】経皮吸収型製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20150827BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20150827BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20150827BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20150827BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20150827BHJP
   A61K 31/465 20060101ALI20150827BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 25/34 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 23/02 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   A61K9/70 401
   A61K47/32
   A61K47/12
   A61K47/18
   A61K31/167
   A61K31/465
   A61K47/10
   A61P25/34
   A61P23/02
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-529919(P2011-529919)
(86)(22)【出願日】2010年9月1日
(86)【国際出願番号】JP2010064937
(87)【国際公開番号】WO2011027786
(87)【国際公開日】20110310
【審査請求日】2013年8月22日
(31)【優先権主張番号】特願2009-206183(P2009-206183)
(32)【優先日】2009年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174622
【氏名又は名称】ニプロパッチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】川村 尚久
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 千恵
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−325101(JP,A)
【文献】 特開2006−348219(JP,A)
【文献】 特開2008−208084(JP,A)
【文献】 特開2007−284378(JP,A)
【文献】 特開2007−137876(JP,A)
【文献】 特開平06−040947(JP,A)
【文献】 特開昭61−251619(JP,A)
【文献】 特表平04−503357(JP,A)
【文献】 特開2010−241784(JP,A)
【文献】 18・11 アンモニア誘導体の付加反応,モリソン ボイド 有機化学(中),1995年,第6版第2刷,p.866-867
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/70
A61K 31/167
A61K 31/465
A61K 47/10
A61K 47/12
A61K 47/18
A61K 47/32
A61P 23/02
A61P 25/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、この支持体上に位置し、粘着剤及び薬剤成分を含有する粘着剤層と、を備える経皮吸収型製剤であって、
前記薬剤成分がニコチンもしくはリドカイン又はそれらの塩であり、
前記粘着剤が下記アクリル系共重合体(A)100質量部、及び下記アクリル系共重合体(B)0.1〜30質量部若しくはポリアミン化合物0.05〜2質量部からなる樹脂混合物を含み、前記粘着剤層にはさらに有機酸が含まれることを特徴とする経皮吸収型製剤。
アクリル系共重合体(A); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、ジアセトンアクリルアミド3〜45質量%を必須モノマー成分として含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
アクリル系共重合体(B); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
【請求項2】
前記有機酸として、乳酸、サリチル酸、コハク酸、チオグリコール酸、マレイン酸、マロン酸、アジピン酸、安息香酸、カプリン酸、ソルビン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、パルミチン酸、フマル酸、プロピオン酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、及びこれらの水和物のいずれかを少なくとも含む請求項1記載の経皮吸収型製剤。
【請求項3】
前記薬剤成分がニコチン又はその塩である請求項1又は2記載の経皮吸収型製剤。
【請求項4】
前記粘着剤層に、さらに酸化防止剤を含む請求項1〜のいずれか1項記載の経皮吸収型製剤。
【請求項5】
前記酸化防止剤がジブチルヒドロキシトルエンである請求項記載の経皮吸収型製剤。
【請求項6】
前記粘着剤層の表面に、さらに、皮膚への貼着性を付与する皮膚貼着層を備える、又は前記粘着剤層からの前記薬剤成分の放出を制御する放出制御膜及び皮膚への貼着性を付与する皮膚貼着層を順次備える、請求項1〜のいずれか1項記載の経皮吸収型製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮吸収型製剤に関し、さらに詳しくは、支持体の片面に少なくとも粘着剤を含有する粘着剤層を備え、皮膚に貼付して使用する経皮吸収型製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚面を通して薬剤を生体内へと投与する経皮吸収型製剤としては、薬剤成分を含有する粘着剤層を不織布やプラスチックフィルムの片面に形成したテープ状やシート状のものが各種提案されている。このように皮膚に貼付して適用するタイプの経皮吸収型製剤には、粘着剤層に十分な量の薬剤成分を含有することにより、所定の血中濃度を長時間にわたって持続させる特性が要求される。
【0003】
このような観点から、経皮吸収型製剤用として架橋タイプの粘着剤が各種検討されている。例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たる構成成分としジアセトンアクリルアミドを共重合させた共重合体Aと、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たる構成成分とし側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を有する共重合体Bと、を混合して架橋させたタイプの架橋型皮膚用粘着剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−325101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたような架橋タイプの粘着剤は、架橋によって粘着剤全体に亘って形成された網目構造の中に薬剤成分等を保持することができるので、経皮吸収型製剤用の粘着剤として好ましく使用される。
ところで、特許文献1に記載された粘着剤は、共重合体Aと共重合体Bとを混合することによって、これらが互いに架橋反応をして架橋の程度が高くなり、上記網目構造を獲得するとともに経皮吸収型製剤の粘着剤として必要な凝集力(硬さ)を獲得する。この架橋反応は時間の経過とともに進行して行くので、共重合体Aと共重合体Bとを混合してからしばらくの間は、粘着剤の架橋の程度が十分でなく品質が安定しない。このため、粘着剤の架橋の程度が十分となって経皮吸収型製剤としての品質が安定するまでの間、作製した経皮吸収型製剤を例えば室温で静置する工程、すなわち養生(エージング)が必要になる。しかし、この養生は数日を要するものであり、上記のような粘着剤を使用した経皮吸収型製剤を製造する際の生産速度(スループット)を低下させる要因の一つとなっている。そして、このような傾向は薬剤成分として塩基性薬剤を使用した場合に強く現れるため、特に塩基性薬剤を含むような経皮吸収型製剤を作製する際には、製造時の生産速度が低下するという問題を生じていた。
【0006】
本発明は以上の状況に鑑みてなされたものであり、1種類又は2種類以上の共重合体を架橋させた粘着剤を粘着剤層に含み、その粘着剤層を作製する際の養生期間を短縮することのできる経皮吸収型製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分としジアセトンアクリルアミドを共重合させたアクリル系共重合体(A)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含むアクリル系共重合体(B)とを混合してこれらを架橋させる際に、意外にも、有機酸を共存させることによって、薬剤成分として塩基性薬剤を使用した場合であっても養生期間を短縮できることを見出した。また、本発明者らは、上記アクリル系共重合体(A)をアジピン酸ジヒドラジド等のようなポリアミン化合物で架橋させる際にも、有機酸を共存させることによって、薬剤成分として塩基性薬剤を使用した場合の養生期間を短縮できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち本発明は、(1)支持体と、この支持体上に位置し、粘着剤及び薬剤成分を含有する粘着剤層と、を備える経皮吸収型製剤であって、前記粘着剤が下記アクリル系共重合体(A)100質量部、及び下記アクリル系共重合体(B)0.1〜30質量部若しくはポリアミン化合物0.05〜2質量部からなる樹脂混合物を含み、前記粘着剤層にはさらに有機酸が含まれることを特徴とする経皮吸収型製剤である。
アクリル系共重合体(A); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、ジアセトンアクリルアミド3〜45質量%を必須モノマー成分として含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
アクリル系共重合体(B); (メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含み、遊離カルボキシル基を含まないアクリル系共重合体。
【0009】
また本発明は、(2)前記有機酸として、乳酸、サリチル酸、コハク酸、チオグリコール酸、マレイン酸、マロン酸、アジピン酸、安息香酸、カプリン酸、ソルビン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、パルミチン酸、フマル酸、プロピオン酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、及びこれらの水和物のいずれかを少なくとも含むである(1)項記載の経皮吸収型製剤である。
【0010】
また本発明は、(3)前記薬剤成分がニコチンもしくはリドカイン又はそれらの塩である(1)項又は(2)項記載の経皮吸収型製剤である。
【0011】
また本発明は、(4)前記薬剤成分がニコチン又はその塩である(3)項記載の経皮吸収型製剤である。
【0012】
また本発明は、(5)前記粘着剤層に、さらに酸化防止剤を含む(1)〜(4)項のいずれか1項記載の経皮吸収型製剤である。
【0013】
また本発明は、(6)前記酸化防止剤がジブチルヒドロキシトルエンである(5)項記載の経皮吸収型製剤である。
【0014】
また本発明は、(7)前記粘着剤層の表面に、さらに、皮膚への貼着性を付与する皮膚貼着層を備える、又は前記粘着剤層からの前記薬剤成分の放出を制御する放出制御膜及び皮膚への貼着性を付与する皮膚貼着層を順次備える、(1)項〜(6)項のいずれか1項記載の経皮吸収型製剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、1種類又は2種類以上の共重合体を架橋させた粘着剤を粘着剤層に含み、その粘着剤層を作製する際の養生期間を短縮することのできる経皮吸収型製剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<<本発明の経皮吸収型製剤の第一実施形態>>
以下、本発明の経皮吸収型製剤の第一実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態の経皮吸収型製剤は、支持体上に薬剤面を有し、かつ皮膚に薬剤面を接触させて適用したときに、有効成分が皮膚を通して体内に吸収されるべく設計された製剤である。このような製剤としては、有効成分が皮膚を通して全身循環血流に送達されるべく設計された製剤や、有効成分が皮膚を通して局所に送達されるべく設計された製剤が挙げられる。前者は、日本薬局方で「経皮吸収型製剤」に分類され、後者は、日本薬局方で「貼付剤」に分類されるものであるが、本発明の経皮吸収型製剤は、いずれのタイプの製剤であってもよい。
【0018】
本実施形態の経皮吸収型製剤は、支持体の片面に少なくとも粘着剤層を備える。この粘着剤層には薬剤成分が配合され、粘着剤層のうち皮膚に接触する面が薬剤面となる。以下、粘着剤層、薬剤成分及び支持体について説明する。
【0019】
<粘着剤層>
粘着剤層は、経皮吸収型製剤を皮膚に接着させるための貼着性を付与するための層である。また、粘着剤層には薬剤成分が含まれ、この薬剤成分は、薬剤面を通して粘着剤層から皮膚へと吸収される。粘着剤層には、粘着剤、薬剤成分、有機酸、及び必要に応じてその他の成分が含有される。これらのうち、薬剤成分については後述し、ここでは、粘着剤、有機酸、及びその他の成分について説明する。
【0020】
[粘着剤]
本実施形態における粘着剤としては、以下に説明するアクリル系共重合体(A)100質量部、及びアクリル系共重合体(B)0.1〜30質量部からなる樹脂混合物が含まれる。この樹脂混合物において、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)は、互いに架橋して網目構造を形成することができる。このため、粘着剤層全体に網目構造が形成され、この網目構造の中に薬剤成分等が含まれることにより、本実施形態の経皮吸収型製剤は、十分な量の薬剤成分等を含有することが可能となる。したがって、本実施形態の経皮吸収型製剤は、長時間に亘って有効成分の血中濃度を所定のレベルに保つことができる。
【0021】
上記アクリル系共重合体(A)及びアクリル系共重合体(B)は、実質的に遊離カルボキシル基を含まないアクリル系の樹脂である。このため、本実施形態の経皮吸収型製剤は、粘着剤層に含まれる薬剤成分がカルボキシル基と反応したり、結合したりする性質を持つものであっても、薬剤成分が粘着剤成分(アクリル系共重合体)と反応したり、結合したりすることに伴う経皮吸収性の低下を抑制することができる。なお、「実質的に遊離カルボキシル基を含まない」とは、設計上、全てのカルボキシル基がエステル結合等の置換基に変換されていることを意味し、その中には、例えば、ごく一部のエステル結合等が加水分解により遊離カルボキシル基に変換されている場合や、原材料由来の不純物として遊離カルボキシル基を含む場合も含まれる。
【0022】
上記樹脂混合物に含まれるアクリル系共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、ジアセトンアクリルアミド3〜45質量%を必須モノマー成分として含むアクリル系共重合体である。また、同じく上記樹脂混合物に含まれるアクリル系共重合体(B)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、側鎖に第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基を含むアクリル系共重合体である。このような樹脂混合物は、アクリル系共重合体(A)に含まれるジアセトンアクリルアミド由来のカルボニル基と、アクリル系共重合体(B)に含まれる第1級アミノ基やカルボキシヒドラジド基との架橋反応に基づく微細な網目構造を粘着剤層全体に形成させることができ、当該網目構造中に薬剤成分等を保持することができる点で、経皮吸収型製剤の粘着剤層に好ましく使用することができる。
【0023】
アクリル系共重合体(A)を製造するには、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、同じくモノマー成分であるジアセトンアクリルアミドをモノマー全体に対して3〜45質量%となるように添加して、ラジカル重合させる方法が例示される。これらのモノマー成分は、過酸化化合物又はアゾ系化合物のような重合開始剤を用いて、常法により重合させることができる。これらのモノマーを重合させるにあたり、反応溶液の粘度を調整するために適宜溶媒を添加することが好ましい。
【0024】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
アクリル系共重合体(A)の数平均分子量は10万〜150万が好ましく、重量平均分子量は30万〜250万であることが好ましい。アクリル系共重合体(A)の分子量が上記の範囲であることにより、経皮吸収型製剤の粘着剤層が皮膚への適度な粘着性を示すようになるので好ましい。アクリル系共重合体(A)の数平均分子量は、上記の範囲の中でも、30万〜100万がより好ましく、50万〜80万が最も好ましい。また、アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量は、上記の範囲の中でも、50万〜200万であることがより好ましく、100万〜150万であることが最も好ましい。
【0026】
アクリル系共重合体(B)を製造するには、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たるモノマー成分とし、第1級アミノ基を導入するためのモノマー成分及び/又はカルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分をモノマー全体に対して1〜30質量%となるように添加してラジカル重合させ、その後、カルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分由来の側鎖をカルボキシヒドラジド基に転換する方法が例示される。モノマー成分をラジカル重合させる際は、過酸化化合物又はアゾ系化合物のような重合開始剤を用いて、常法により重合させればよい。モノマー成分をラジカル重合させるにあたり、反応溶液の粘度を調整するために適宜溶媒を添加することが好ましい。なお、アクリル系共重合体(B)を製造する際に使用される(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、上記アクリル系共重合体(A)で例示したものと同様のものを使用することができる。
また、アクリル系共重合体(B)中の第1級アミノ基及び/又はカルボキシヒドラジド基は、アクリル系共重合体(A)との適度の架橋性を発揮するために、アクリル系共重合体(B)の1分子鎖中、2個以上存在することが好ましく、3個以上存在することがより好ましい。
さらに、第1級アミノ基を導入するためのモノマー成分及び/又はカルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとを、これらのモル比が1:5〜1:100となるように混合して共重合させることが好ましい。
【0027】
アクリル系共重合体(B)に対して第1級アミノ基を導入するためのモノマー成分としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと重合可能なビニル基を有し、第1級アミノ基を有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、ビニルアミン等が例示される。
【0028】
アクリル系共重合体(B)に対してカルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと重合可能なビニル基を有し、ヒドラジド化合物と反応可能なケト基を有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、ジアセトンアクリルアミド、アクロレイン、アセトアセトキシエチルメタクリレート等が例示される。
【0029】
カルボキシヒドラジド基を導入するためのモノマー成分由来の側鎖をカルボキシヒドラジド基に転換させるには、上記ラジカル重合で得られた重合体を、極性溶媒に溶解させ、酸触媒の存在下、ジカルボン酸のジヒドラジドを反応させればよい。ジカルボン酸のジヒドラジドとしては、アジピン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド等が例示される。
【0030】
アクリル系共重合体(B)の数平均分子量は1500〜50000が好ましく、重量平均分子量は2000〜100000であることが好ましい。アクリル系共重合体(B)の分子量が上記の下限値以上であることにより、混合液がゲル化してしまうことが抑制され、粘着剤層を作製する際の塗工性が良好になるので好ましい。また、アクリル系共重合体(B)の分子量が上記の上限値以下であることにより、アクリル系共重合体(A)との間で適度な架橋状態を得ることができるので好ましい。アクリル系共重合体(B)の数平均分子量は、上記の範囲の中でも、2000〜10000であることがより好ましく、3000〜8000であることが最も好ましい。また、アクリル系共重合体(B)の重量平均分子量は、上記の範囲の中でも、5000〜20000であることがより好ましく、8000〜15000であることが最も好ましい。
【0031】
なお、本実施形態の経皮吸収型製剤の粘着剤層には、例えば皮膚への貼着性を向上させること等を目的として、上記樹脂混合物以外の粘着剤が含まれてもよい。
【0032】
[有機酸]
次に有機酸について説明する。本実施形態で使用される有機酸は、粘着剤層に含有されるものであり、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)との架橋を促進させる作用を有する。既に述べた通り、本実施形態の経皮吸収型製剤のように2種類以上の樹脂を混合し架橋させて粘着剤層を形成する場合、当該粘着剤層は、架橋が進んで粘着剤層が必要な凝集力(硬さ)を獲得するまでに養生期間を必要とする。本発明者らは、特に薬剤成分として塩基性薬剤を使用した場合において、この養生期間が長くなることを問題視し、養生期間を短縮できる方法を検討していたところ、意外にも、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)との混合物に対してさらに有機酸を添加すると、薬剤成分として塩基性薬剤を使用した場合であっても、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)との間の架橋反応が促進され、養生期間を大幅に短縮できることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0033】
有機酸は、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)との混合物に対して添加される。有機酸の添加方法の一例として、溶剤にアクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)とを溶解させて混合溶液を作製し、この混合溶液に有機酸、後述する薬剤成分等をさらに溶解させてから支持体上に塗布し、その後、塗布された混合溶液に含まれる溶剤を蒸発させて粘着剤層を形成させる方法が挙げられる。この場合、支持体上に塗布される混合溶液の量は、溶剤を蒸発させた後の粘着剤層が所望の厚さとなるように適宜決定すればよい。溶剤を蒸発させて粘着剤層を形成させた後、粘着剤層に含まれるアクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)との間で架橋反応が開始されるので、架橋反応の進行によって粘着剤層が十分な凝集力を獲得するまで養生すればよい。ここで、凝集力とは、粘着剤層の硬さを表すものであり、これが小さいと、経皮吸収型製剤を皮膚に適用しているときに経皮吸収型製剤が自然に剥離してしまったり、経皮吸収型製剤を剥離したときに皮膚に粘着剤層が残存したりする問題を生じる場合がある。
【0034】
本実施形態の経皮吸収型製剤で使用される有機酸としては、乳酸、サリチル酸、コハク酸、チオグリコール酸、マレイン酸、マロン酸、アジピン酸、安息香酸、カプリン酸、ソルビン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、パルミチン酸、フマル酸、プロピオン酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、及びこれらの水和物等が例示される。これらの中でも、乳酸が最も好ましく使用される。なお、酸としては有機酸の他にも塩酸やリン酸等の無機酸も存在するが、無機酸はアクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)との間の架橋反応を促進させる効果が極めて乏しいため、本発明では有機酸が使用される。
【0035】
有機酸の使用量は、粘着剤層全体の質量に対して0.05〜5質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがより好ましく、0.3〜1質量%であることが最も好ましい。有機酸の使用量が粘着剤層全体の質量に対して0.05質量%以上であることにより、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)との間の架橋反応を良好に促進させることができる。また、有機酸の使用量が粘着剤層全体の質量に対して5質量%以下であることにより、経皮吸収型製剤を皮膚に貼付した際の皮膚刺激性を小さくすることができる。
【0036】
[その他の成分]
次に、必要に応じて粘着剤層に含有されるその他の成分について説明する。これらの成分は、経皮吸収型製剤に各種機能を付与するために、必要に応じて粘着剤層に添加される各種の添加剤である。このような添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤、薬剤成分を溶解させるための溶剤、各種粘着剤、防腐剤、pH調整剤、キレート剤、経皮吸収促進剤、賦形剤、香料、色剤等が例示される。
【0037】
可塑剤としては、一般的に高沸点を有する油状物を用いることができる。このような可塑剤としては、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、オレイン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸エチル、パルミチン酸オクチル、ミリスチン酸イソトリデシル、中鎖脂肪酸トリグリセリド等のような脂肪酸エステル誘導体;ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール等のような高級アルコール誘導体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のようなポリアルキレングリコール類;オリーブ油、ひまし油等のような油脂類等が例示される。これらの中でも、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル等は、粘着剤の可塑剤として働くとともに、経皮吸収型製剤中での薬剤成分の拡散を促進させる効果と、薬剤成分の皮膚透過を促進させる効果とがあり、好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。可塑剤の配合量は、粘着剤層の全体質量に対して、1〜40質量%であることが好ましく、5〜35質量%であることがより好ましく、6〜30質量%であることが最も好ましい。なお、本実施形態のようにアクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)とを混合して架橋させたタイプの粘着剤を使用する場合、特に薬剤成分としてニコチンのような油状物質を使用したときに、可塑剤を使用しなくとも優れた経皮吸収型製剤となる。このような場合、必ずしも可塑剤を使用しなくてもよい。
【0038】
酸化防止剤は、粘着剤層に含まれる成分の酸化を抑制し、経皮吸収型製剤を長期間保存した場合に観察される粘着剤層(薬剤面)の着色現象を軽減させる。このため、経皮吸収型製剤の保存安定性を向上させる。このような酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT、IUPAC名:2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール)、ジブチルヒドロキシアニソール(BHA)等のフェノール系酸化防止剤;アスコルビン酸、トコフェロール、トコフェロールエステル誘導体、2−メルカプトベンズイミダゾール等が例示される。これらの酸化防止剤の中でも、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が好適である。酸化防止剤の使用量は、粘着剤層の全体質量に対して、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。
【0039】
薬剤成分を溶解させるための溶剤は、薬剤を溶解する溶剤であれば特に限定されないが、皮膚刺激性のないものであることが好ましい。このような溶剤としては、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール類;ヘキサノール、オクタノール等の中級アルコール類;グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコール類;脂肪酸エステル類、ポリビニルアルコール、N−メチルピロリドン、乳酸等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
上記でも簡単に述べたが、本実施形態の経皮吸収型製剤において粘着剤層を形成させるためには、一例として、上記樹脂混合物、有機酸、薬剤成分等といった粘着剤層に含有させるべき成分を溶剤に溶解させて溶液を作製し、その溶液に含まれる溶剤を公知の方法により加熱蒸散させる方法が挙げられる。このような方法で使用される溶剤としては、経皮吸収型製剤の製造工程中の加熱乾燥工程で蒸散する有機溶媒であれば特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等の有機溶剤を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0041】
<薬剤成分>
本実施形態の経皮吸収型製剤に使用される薬剤成分は、粘着剤層に含有され、粘着剤層の表面であり皮膚との接触面である薬剤面を通して皮膚へと吸収される。本実施形態の経皮吸収型製剤に使用される薬剤成分の種類は、特に限定されない。ここで、既に述べたように、薬剤成分として塩基性薬剤を使用した場合、粘着剤であるアクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)との間の架橋反応の進行が遅延され、そのため、経皮吸収型製剤を作製する際の養生期間が延長される傾向がある。このような観点からは、薬剤成分として塩基性薬剤を使用した場合において、上記有機酸を添加することによる架橋反応の促進効果がより発揮されることになる。
【0042】
薬剤成分としては、例えば、ニコチン等の禁煙補助薬;塩酸リドカイン、塩酸プロカイン、リドカイン等の局所麻酔剤;硫酸モルヒネ、クエン酸フェンタニル、フェンタニル等の麻薬系鎮痛剤;塩酸ドネペジル等の抗痴呆薬;塩酸タムスロシン等の排尿障害改善薬;塩酸フルラゼパム、塩酸リルマザホン等の催眠・鎮静剤;酒石酸ブトルファノール、クエン酸ペリソキサール等の解熱消炎鎮痛剤;塩酸メタンフェタミン、塩酸メチルフェニデート等の興奮・覚醒剤;塩酸クロルプロマジン、塩酸イミプラミン、リスペリドン、アリピプラゾール、オランザピン等の精神神経用剤;塩酸チザニジン、塩酸エペリゾン、メシル酸プリジノール等の骨格筋弛緩剤;塩化カルプロニウム、臭化ネオスチグミン等の自律神経用剤;塩酸トリヘキシフェニジル、塩酸アマンタジン、メシル酸ペルゴリド等の抗パーキンソン剤;フマル酸クレマスチン、タンニン酸ジフェンヒドラミン等の抗ヒスタミン剤;塩酸ツロブテロール、塩酸プロカテロール等の気管支拡張剤;塩酸イソプレナリン、塩酸ドパミン等の強心剤;塩酸ジルチアゼム、塩酸ベラパミル等の冠血管拡張剤;クエン酸二カメタート、塩酸トラゾリン等の末梢血管拡張剤;塩酸フルナリジン、塩酸ニカルジピン等の循環器官用剤;塩酸プロプラノロール、塩酸アルプレノロール等の不整脈用剤;フマル酸ケトフェチン、塩酸アゼラスチン等の抗アレルギー剤;メシル酸ベタヒスチン、塩酸ジフェニドール等の鎮暈剤;セロトニン受容体拮抗制吐剤等が挙げられる。これらの中でも、特に、ニコチン、リドカイン、フェンタニルが好ましく使用される。
【0043】
上記薬剤成分は、遊離塩基の形態のものを用いてもよく、その薬学的に許容される酸付加塩の形態のものを用いてもよく、またこれら両者を組み合わせて用いてもよい。なお、塩基性薬剤の酸付加塩については、付加されている酸の影響で、その水溶液が中性〜酸性を示す場合もあるが、本発明ではそのような酸付加塩についても塩基性薬剤と呼ぶ。上記薬剤成分の使用量は、製剤物性及び薬剤経皮吸収性という観点から、粘着剤層全体の質量に対して1〜60質量%であることが好ましい。また、上記薬剤成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0044】
<支持体>
支持体としては、薬剤成分に対して不透過性又は難透過性であり、かつ柔軟なものが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル・一酸化炭素共重合体、エチレン・ブチルアクリレート・一酸化炭素共重合体、ナイロン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂フィルムやアルミニウムシート等が挙げられる。これらが積層されシート状に形成されてもよく、織布や不織布とともに積層されてもよい。また、粘着剤層との接着性を高めるため、支持体の表面にコロナ処理、プラズマ放電処理等の表面処理を施したり、アンカー剤によりアンカーコート処理を施したりしてもよい。
【0045】
<<本発明の経皮吸収型製剤の第二実施形態>>
次に、本発明の経皮吸収型製剤の第二実施形態について説明する。なお、以下の第二実施形態の説明において、上記第一実施形態の説明と重複する部分についてはその説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0046】
本実施形態の経皮吸収型製剤は、上述のアクリル系共重合体(A)100質量部と、ポリアミン化合物0.05〜2質量部とからなる樹脂混合物を粘着剤として使用する点で上記第一実施形態と異なり、その他の点は上記第一実施形態と同様である。このため、以下の説明では、ポリアミン化合物について述べる。
【0047】
[ポリアミン化合物]
本実施形態で使用されるポリアミン化合物は、低分子化合物である。ここで、低分子化合物とは、重合してポリマー又はオリゴマーを形成していない単分子化合物を意味する。ポリアミン化合物は、1分子中に2個以上のアミノ基を有する化合物である。既に説明したように、アクリル系共重合体(A)は、ジアセトンアクリルアミドを必須のモノマーとして重合して作製された共重合体であり、このジアセトンアクリルアミド由来のケト基をその分子中に含むものである。このケト基と、ポリアミン化合物に含まれるアミノ基とが反応することにより、ポリアミン化合物は、アクリル系共重合体(A)を架橋する。
【0048】
ポリアミン化合物としては、最も単純には、ヒドラジン又はヒドラジン水和物化合物が例示される。しかし、アクリル系共重合体(A)に含まれるジアセトンアクリルアミド由来のケト基に対して良好な反応性を示すことができるとの観点からは、ポリアミン化合物に含まれるアミノ基が別の窒素原子と結合していることが好ましい。このような化合物としては、多塩基有機酸にヒドラジン化合物を作用させて得られたポリヒドラジド化合物が例示される。
【0049】
ポリヒドラジド化合物は、好ましくは、ジカルボン酸のジヒドラジドが例示される。このような化合物としては、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド等が例示される。また、特に好ましいポリヒドラジド化合物としては、脂肪族飽和ジカルボン酸、中でも炭素数が2〜10個である脂肪族飽和ジカルボン酸のジヒドラジドが挙げられ、このような化合物としては、シュウ酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジドが例示される。これらの中でも、アジピン酸ジヒドラジドが好ましい。なお、アジピン酸ジヒドラジドは、アジピン酸ジアミン又はアジポヒドラジドとも呼ばれる化合物である。
【0050】
上記ポリアミン化合物は、アクリル系共重合体(A)と混合されて粘着剤である樹脂混合物となる。ポリアミン化合物の添加量は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、0.05〜2質量部であり、0.1〜1質量部であることがより好ましい。ポリアミン化合物の添加量がアクリル系共重合体(A)100質量部に対して0.05質量部以上であることにより、アクリル系共重合体(A)を良好に架橋することができ、適度な凝集力を有する粘着剤とすることができる。また、ポリアミン化合物の添加量がアクリル系共重合体(A)100質量部に対して2質量部以下であることにより、アクリル系共重合体(A)がゲル化することを抑制できる。
【0051】
上記樹脂混合物を薬剤成分、有機酸、及び必要に応じてその他の成分とともに溶剤に溶解させて溶液とし、この溶液を基材の表面に塗布して基材の表面に粘着剤層を形成させる。この手順については、既に第一実施形態の説明で述べた通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0052】
本実施形態においても、既に説明した第一実施形態と同様に、粘着剤層に有機酸が含まれる。既に説明したアクリル系共重合体(A)及びアクリル系共重合体(B)の架橋反応と同様に、本実施形態におけるポリアミン化合物によるアクリル系共重合体(A)の架橋反応も、薬剤成分として塩基性薬剤を使用した場合に遅延する可能性があるが、粘着剤層に有機酸が含まれることにより、この遅延が抑制される。このため、薬剤成分として塩基性薬剤を使用した場合であっても、経皮吸収型製剤を作製した後の養生期間を短縮させることができ、経皮吸収型製剤を作製する際の生産速度を向上させることができる。
【0053】
<<本発明の経皮吸収型製剤の第三実施形態>>
次に、本発明の経皮吸収型製剤の第三実施形態について説明する。なお、以下の第三実施形態の説明において、上記第一実施形態及び第二実施形態の説明と重複する部分についてはその説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
【0054】
本実施形態の経皮吸収型製剤は、第一実施形態及び第二実施形態で説明した「粘着剤層」を薬剤貯留層として備える。そして、本実施形態の経皮吸収型製剤は、経皮吸収型製剤を皮膚に固定させ、かつ経皮吸収型製剤に含まれる薬剤成分を皮膚に吸収させるための「皮膚貼着層」を皮膚への接触面として備える。上記薬剤貯留層と皮膚貼着層との間には、必要に応じて放出制御膜が設けられる。つまり、本実施形態の経皮吸収型製剤は、皮膚に適用される側とは反対の側から、支持体、薬剤貯留層、放出制御膜及び皮膚貼着層が順次形成されて、又は支持体、薬剤貯留層及び皮膚貼着層が順次形成されてなる。ここで、薬剤貯留層は、既に説明した「粘着剤層」と同じものであり、架橋によって形成された網目構造の内部に薬剤成分を良好に保持することができる。このような実施形態の経皮吸収型製剤も、支持体の片面に所定の粘着剤層(薬剤貯留層)を備えるものであるから、本発明の範囲に含まれる。
【0055】
上記第一実施形態及び第二実施形態の経皮吸収型製剤は、皮膚への良好な貼着性と薬剤の保持性とを備える「粘着剤層」を皮膚への接触面とする。このため、第一実施形態及び第二実施形態の経皮吸収型製剤は皮膚への良好な薬剤移行作用を示すが、薬剤成分の種類によっては、この良好な薬剤移行作用が過剰であることもある。そのため、本実施形態の経皮吸収型製剤では、薬剤成分を含む「粘着剤層」を皮膚と接触しない薬剤貯留層として使用し、必要に応じて、この薬剤貯留層と、皮膚との接触面である皮膚貼着層と、の間に薬剤貯留層からの薬剤成分の移行速度を制御するための放出制御膜を備える。なお、経皮吸収型製剤が放出制御膜を備えない場合には、上記皮膚貼着層が薬剤貯留層からの薬剤成分の移行速度を制御する。本実施形態の経皮吸収型製剤は、血中濃度を長期間安定に維持することが特に必要となる薬剤成分について好ましく使用される。
【0056】
本実施形態における薬剤貯留層は、既に説明した「粘着剤層」と同じものであるから、ここでの説明は省略する。なお、この実施形態での「粘着剤層」(すなわち、薬剤貯留層)は、皮膚に直接貼付するための層でないので、皮膚貼着性を必須とはしない。
【0057】
放出制御膜は、薬剤貯留層と皮膚貼着層との間に設けられ、薬剤貯留層から皮膚貼着層への薬剤成分の移行速度を調節する。これにより、経皮吸収型製剤から皮膚への薬剤成分の移行速度が調節される。
【0058】
放出制御膜としては、公知のものを特に制限なく使用することができる。このような放出制御膜の一例として、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)又はポリエチレン製の多孔性膜が例示される。膜の厚さ、材質、形成される孔の大きさ等は、所望とする薬剤成分の移行速度を考慮して適宜決定すればよい。経皮吸収型製剤に放出制御膜の層を設ける方法としては、特に限定されないが、支持体の表面に形成された薬剤貯留層の粘着面に、シート状に加工された放出制御膜を圧設する方法が例示される。
【0059】
皮膚貼着層は、経皮吸収型製剤を皮膚に固定させるために設けられる。また、皮膚貼着層は、経皮吸収型製剤における皮膚への接触面となるので、薬剤成分を皮膚に移行させる役割も備える。さらに、上記放出制御膜を用いない形態では、該皮膚貼着層が薬剤貯留層からの薬剤移行速度を制御する機能も持つ。
【0060】
皮膚貼着層を形成するための素材としては、粘着性を備えるものであれば特に限定されず、一例として、ポリイソブチレン、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、天然ゴム等のゴム材料;アクリル酸・アクリル酸オクチルエステル共重合体、アクリル酸2−エチルへキシル・メタクリル酸2−エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体、アクリル酸2−エチルヘキシル・ジアセトンアクリルアミド・メタクリル酸アセトアセトキシエチル・メタクリル酸メチル共重合体等のアクリル材料等が挙げられる。これらの素材は、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。皮膚貼着層を形成させる方法としては、特に限定されないが、上記の素材を適切な溶剤に溶解させた後、当該溶液を放出制御膜の表面に塗布した後に乾燥させる方法、上記の素材をシート状に加工した後、当該シートを放出制御膜の表面に圧設する方法等が例示される。皮膚貼着層の厚さは、特に限定されず、経皮吸収型製剤に必要とされる特性を考慮して適宜決定すればよい。
【0061】
皮膚貼着層には、必要に応じて、上記の素材の他に、粘着付与剤、可塑剤、抗酸化剤、安定化剤等を添加することができる。
【0062】
以上、本発明の経皮吸収型製剤について、実施形態を示して具体的に説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の構成の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を示して本発明の経皮吸収型製剤をさらに具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
[作製例;粘着剤(樹脂混合物)の作製]
以下に示す合成方法によって得られたアクリル系共重合体(A)の溶液と、アクリル系共重合体(B)の溶液とを、溶液に含まれる樹脂の質量比が100:5(アクリル系共重合体(A):アクリル系共重合体(B))となるように混合し、粘着剤(樹脂混合物)を作製した。
・アクリル系共重合体(A)
アクリル酸−2−エチルヘキシル200質量部に、アクリル酸ブチル100質量部、ジアセトンアクリルアミド50質量部、及び酢酸エチル300質量部を加えて混合した。この混合物を、撹拌装置、及び還流冷却装置を備えるセパラブルフラスコに移し、撹拌及び窒素置換しながら、75℃に昇温した。過酸化ベンゾイル2質量部を酢酸エチル20質量部に溶解した溶液を5分割し、その1部をセパラブルフラスコに添加して、重合反応を開始した。残りの4部を、重合反応開始の2時間後から1時間間隔で1部ずつ添加し、添加を終了した後、さらに2時間反応させた。なお、粘度調整のため、反応開始後、2時間ごとに酢酸エチルを50質量部ずつ4回添加した。反応終了後、冷却し、次いで酢酸エチルを添加することで、固形分濃度30質量%のアクリル系共重合体(A)の溶液を得た。なお、得られたアクリル系共重合体(A)の数平均分子量は約68万であり、重量平均分子量は約120万だった。
・アクリル系共重合体(B)
アクリル酸エチル660質量部に、ジアセトンアクリルアミド70質量部、分子量調節剤としてドデシルメルカプタン40質量部及び酢酸エチル400質量部を加えて混合した。この混合物を、撹拌装置及び還流冷却装置を備えるセパラブルフラスコに移し、撹拌及び窒素置換しながら、70℃に昇温した。アゾビスイソブチロニトリル5質量部を酢酸エチル100質量部に溶解した溶液を5分割し、その1部をセパラブルフラスコに添加して、重合反応を開始した。残りの4部を、重合反応開始の2時間後から1時間間隔で1部ずつ添加し、添加を終了した後、さらに2時間反応させた。なお、粘度調整のため、反応開始後、2時間ごとに酢酸エチルを50質量部ずつ4回添加した。その後、アジピン酸ジヒドラジド40質量部を、精製水40質量部、メタノール1600質量部、酢酸エチル260質量部の混合液に溶解したものを添加し、さらに濃塩酸5質量部を加えた後、70℃に昇温した。反応終了後、冷却し、精製水で3回洗浄した後、生成物を酢酸エチル700質量部、アセトン1400質量部、メタノール400質量部の混合溶媒に溶解させることで、固形分濃度30質量%のアクリル系共重合体(B)の溶液を得た。なお、得られたアクリル系共重合体(B)の数平均分子量は約6500であり、重量平均分子量は約11000だった。
【0065】
[実施例1〜11]
上記作製例で得られた粘着剤(樹脂混合物)の溶液に、薬剤成分としてニコチン(フリー体)及び各種の有機酸を添加して、液全体を均一に撹拌することで混合液を得た。この混合液を、塗工面がコロナ処理された厚さ25μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)製フィルムの支持体上に、乾燥後の粘着剤層の厚さが67μmになるように塗工及び乾燥させることで粘着剤層を形成し、実施例1〜11の経皮吸収型製剤を作製した。各実施例で使用した有機酸は、表1に示す通りである。また、各成分の配合は、乾燥後の質量%が表1に示される値となるように行った。なお、表1に示した各配合量は、質量%を意味する。
【0066】
[比較例1〜3]
有機酸の代わりに無機酸を配合したこと又は酸を配合しなかったこと以外は、上記実施例1〜11と同様の手順にて比較例1〜3の経皮吸収型製剤を作製した。各成分の配合は、乾燥後の質量%が表2に示される値となるように行った。なお、表2に示した各配合量は、質量%を意味する。
【0067】
[架橋速度の評価]
実施例1〜11及び比較例1〜3の経皮吸収型製剤のそれぞれについて、作製後に25℃で放置して、皮膚に粘着剤が残存しなくなる程度の凝集力を粘着剤層が獲得するのに要した時間(日数)を調査した。この時間は養生期間に相当し、この時間が短いほど、粘着剤の架橋速度が速いことになる。その結果を表1及び表2に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
[実施例12〜33]
薬剤成分としてリドカインを使用し、可塑剤としてミリスチン酸イソプロピル(IPM)を配合したこと以外は、上記実施例1〜11と同様の手順にて実施例12〜33の経皮吸収型製剤を作製した。各実施例で使用した有機酸は、表3及び表4に示す通りである。また、各成分の配合は、乾燥後の質量%が表3及び表4に示される値となるように行った。なお、表3及び表4に示した各配合量は、質量%を意味する。
実施例12〜33の経皮吸収型製剤についても、上記実施例1〜11及び比較例1〜3の経皮吸収型製剤と同様の方法にて架橋速度の評価を行った。その結果を表3及び表4に示す。
【0071】
[比較例4〜6]
有機酸の代わりに無機酸を配合したこと以外は、上記実施例12〜33と同様の手順にて比較例4〜6の経皮吸収型製剤を作製した。各成分の配合は、乾燥後の質量%が表5に示される値となるように行った。なお、表5に示した各配合量は、質量%を意味する。
比較例4〜6の経皮吸収型製剤についても、上記実施例1〜11及び比較例1〜3の経皮吸収型製剤と同様の方法にて架橋速度の評価を行った。その結果を表5に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
【表5】
【0075】
[薬剤透過量の評価]
ユカタンマイクロピッグ(5ヶ月齢、雌)の皮膚から余分な皮下脂肪等を除き、適当な一定の大きさに打ち抜き、皮膚の片面に試験用の経皮吸収型製剤を貼付し、この皮膚を通してレシーバーに溶出してきた累積のニコチンの量を、試験開始から4、8、24時間後のそれぞれについて測定し、累積薬剤透過量を調べた。その結果を表6に示す。なお、この試験は、実施例1の経皮吸収型製剤及び市販のニコチンパッチ(ニコダーム,NICODERM(登録商標))について行い、試験に使用した経皮吸収型製剤の薬剤面の面積は、実施例1の経皮吸収型製剤を0.95cm、市販のニコチンパッチを1.77cmとした。
【0076】
【表6】
【0077】
[酸化防止剤による着色抑制効果の評価(実施例34〜38)]
上記作製例で得られた粘着剤(樹脂混合物)の溶液に、薬剤成分としてニコチン(フリー体)、有機酸として乳酸、及び酸化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT、IUPAC名:2,6−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール)を添加して、液全体を均一に撹拌することで混合液を得た。この混合液を、塗工面がコロナ処理された厚さ25μmのPET製フィルムの支持体上に、乾燥後の粘着剤層の厚さが67μmになるように塗工及び乾燥させることで粘着剤層を形成し、実施例34〜38の経皮吸収型製剤を作製した。なお、各成分の配合は、乾燥後の質量%が表7に示される値となるように行った。また、表7に示した各配合量は、質量%を意味する。
実施例34〜38の経皮吸収型製剤を40℃で1ヶ月間放置し、粘着剤層(薬剤面)が経皮吸収型製剤の作製直後からどの程度着色したのかを色差(ΔE)で評価した。その結果を表7に示す。色差(ΔE)は、粘着剤層表面の色度を色彩色差計(X−Rite Inc.製、Model SP64)により測定し、製剤作製直後と40℃にて1ヶ月間放置後の製剤の色度変化を下記の式で算出することにより得た。なお、白−黒の程度をL−スケール、赤−緑の程度をa−スケール、青−黄の程度b−スケールでそれぞれ表した場合、色差は、各スケールの差の二乗和の平方根ΔE(=((Δa)+(Δb)+(ΔL)1/2)で表される。
【0078】
【表7】
【0079】
表1、表3及び表4に示すように、粘着剤層に有機酸が含まれる実施例1〜33の経皮吸収型製剤では、作製してから1〜5日程度で粘着剤層の凝集力が十分なものとなっている(すなわち、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)との間の架橋反応の程度が十分なものとなっている)ことがわかる。これに対して、表2及び表5に示すように、粘着剤層に無機酸が含まれていたり、酸が含まれていなかったりする比較例1〜6の経皮吸収型製剤では、粘着剤層の凝集力が十分なものとなるまでに11日以上を要することがわかる。このことから、粘着剤層に有機酸を配合することにより、粘着剤に含まれるアクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(B)との間の架橋反応が促進され、経皮吸収型製剤を作製した後の養生期間を短縮できることが理解される。そして、このような傾向は、薬剤成分がニコチンである場合にもリドカインである場合にも観察されることが理解される。
また、表3に示すように、実施例1の経皮吸収型製剤は、市販のニコチンパッチと同等程度の、皮膚に対する薬剤透過量を有することから、本発明の経皮吸収型製剤をニコチンパッチ用途として好ましく適用できることが理解される。
さらに、表7に記載した実施例34〜38を比較すると、粘着剤層にBHTを添加することにより、時間の経過に伴う粘着剤層の着色が抑制されることが理解される。このことから、粘着剤層にBHTを添加することにより、経皮吸収型製剤の経時安定性を向上できることがわかる。
【0080】
[実施例39]
塗膏乾燥後に上記作製例で得られた粘着剤53質量部(樹脂混合物)、薬剤成分としてニコチン(フリー体)42質量部、乳酸0.2質量部及びBHT4.8質量部になる混合液を作製した。この混合液を、厚さ12μmのPET製フィルムに目付け12g/cmの不織布が積層された支持体の不織布上に、乾燥後の厚さが87μmになるように塗工及び乾燥させることで、薬剤貯留層を形成した。この薬剤貯留層の表面に、放出制御膜である多孔性のポリエチレン膜(商品名;CoTran9719、3M社製)を圧設した。次いで、ポリイソブチレン40質量部のヘプタン溶液に、粘着付与剤である脂肪族炭化水素樹脂(商品名:アルコンP−100、荒川化学工業株式会社製)50質量部、及び流動パラフィンを添加した溶液を、乾燥後の厚さが67μmとなるように、シリコン処理されたポリエステルフィルム上に塗工乾燥し、皮膚貼着層を形成させた。この皮膚貼着層上に先に得られた薬剤貯留層の放出制御膜側を被せ、実施例39の経皮吸収型製剤を得た。なお、上記と同様に、実施例39の経皮吸収型製剤における薬剤貯留層の架橋速度の評価を行ったところ、要した養生期間は、1日間であり、十分に短いものだった。
【0081】
実施例39の経皮吸収型製剤(薬剤面の面積:0.95cm,ニコチン3.7mg/cm含有)について、実施例1の経皮吸収型製剤と同様の方法にて、薬剤透過量を評価した。尚、ここでは市販ニコチンパッチ(ニコダーム,NICODERM(登録商標),ニコチン5.2mg/cm含有)を実施例39の経皮吸収型製剤と同じ大きさ(0.95cm)に打ち抜いたものを対照サンプルとした。その結果、表8に示すように、試験開始から4、8、24時間後において、レシーバーに溶出した累積のニコチンの量が、それぞれ、経皮吸収型製剤1cm当たり、198μg、451.9μg、942.8μgだった。このことから、放出制御膜を有するタイプである本発明の経皮吸収型製剤についても、薬剤成分の皮膚への優れた移行を確認できた。
特に、この経皮吸収型製剤は、市販のニコチンパッチより少ない薬剤含有量でありながら、市販品と同等程度の、皮膚に対する薬剤透過量を有することから、本発明の経皮吸収型製剤をニコチンパッチ用途として好ましく適用できることが理解される。
【0082】
【表8】