(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5780962
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)バクテリア用の反応培地
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20150827BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12Q1/02
【請求項の数】18
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-530528(P2011-530528)
(86)(22)【出願日】2009年10月7日
(65)【公表番号】特表2012-504950(P2012-504950A)
(43)【公表日】2012年3月1日
(86)【国際出願番号】FR2009051908
(87)【国際公開番号】WO2010040951
(87)【国際公開日】20100415
【審査請求日】2012年9月19日
(31)【優先権主張番号】0856814
(32)【優先日】2008年10月8日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】304043936
【氏名又は名称】ビオメリュー
【氏名又は名称原語表記】BIOMERIEUX
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】オレンガ, シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ロビション, ドゥニ
(72)【発明者】
【氏名】ザンバルディ, ジル
【審査官】
荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−000181(JP,A)
【文献】
特表2006−515184(JP,A)
【文献】
特表2006−500020(JP,A)
【文献】
特表2008−529514(JP,A)
【文献】
特開2009−473460(JP,A)
【文献】
田口文章ら,日本細菌学雑誌,1992年,47(6),pp.759-765
【文献】
赤羽貴行ら,臨床と微生物,1993年 7月,20(4),pp.479-484
【文献】
WERTHEIM, H., et al.,J. Clin. Microbiol.,2001年,39(7),pp.2660-2662
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 1/20
C12Q 1/00− 1/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セファロスポリン系に属する第1の抗生物質と、第2の抗生物質との2つの抗生物質の所定の組合せを含んでなる、メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)バクテリアを検出および/または同定するための反応培地であって、前記第1及び第2の抗生物質はそれぞれ亜阻止濃度である反応培地。
【請求項2】
前記第1の抗生物質がセファマイシン亜系統に属する請求項1に記載の反応培地。
【請求項3】
前記第2の抗生物質がカルバペネム系に属する請求項1又は2に記載の反応培地。
【請求項4】
前記第2の抗生物質がセファロスポリン系に属する請求項1又は2に記載の反応培地。
【請求項5】
酵素活性又は代謝活性を検出するための基質を更に含む請求項1から4の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項6】
前記酵素活性がオシダーゼ、エステラーゼ又はペプチダーゼ活性である請求項5に記載の反応培地。
【請求項7】
前記オシダーゼ酵素活性がα-グルコシダーゼ活性である請求項6に記載の反応培地。
【請求項8】
前記代謝活性が糖質の代謝である請求項5に記載の反応培地。
【請求項9】
酵素活性又は代謝活性のための第2の基質を含む 請求項1から8の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項10】
前記第2の基質はα-グルコシダーゼ酵素活性のための基質である請求項9に記載の反応培地。
【請求項11】
セファロスポリン系に属する前記第1および/または第2の抗生物質が、
セファレキシン、セファロリジン、セファロチン、セファゾリン、セファドロキシル、セファゼドン、セファトリジン、セファピリン、セフラジン、セファセトリル、セフロダキシン(Cefrodaxine)、セフテゾールから選択される第一世代のセファロスポリンである、請求項1から10の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項12】
セファロスポリン系に属する前記第1および/または第2の抗生物質が、
セフォキシチン、セフロキシム、セファマンドール、セファクロル、セフォテタン、セフォニシド(Cefonicide)、セフォチアム、ロラカルベフ(Loracarbef)、セフメタゾール、セフプロジル、セホラニドから選択される第二世代のセファロスポリンである、
請求項1から10の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項13】
セファロスポリン系に属する前記第1および/または第2の抗生物質が、
セフォタキシム、セフタジジム、セフスロジン(Cefsulodine)、セフトリアキソン、セフメノキシム、ラタモキセフ、セフチゾキシム、セフィキシム、セフォジジム、セフェタメト(Cefetamet)、セフピラミド、セフォペラゾン、セフポドキシム、セフチブテン、セフジニル、セフジトレン、セフトリアキソン、セフォペラゾン、セフブペラゾンから選択される第三世代のセファロスポリンである、
請求項1から10の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項14】
セファロスポリン系に属する前記第1および/または第2の抗生物質が、
セフェピム、セフピロムから選択される第四世代のセファロスポリンである、
請求項1から10の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項15】
前記第2の抗生物質がカルバペネム系に属しており、メロペネム、エルタペネム及びイミペネムから選択される請求項1から14の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項16】
2つの抗生物質の組合せが、セフォキシチンとセフォタキシムとの組合せ、又はセフォキシチンとエルタペネムとの組合せから選択される、請求項1から15の何れか一項に記載の反応培地。
【請求項17】
メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)バクテリアを単離して同定するための請求項1から16の何れか一項に記載の反応培地のインビトロ使用。
【請求項18】
生物学的試料において、メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)バクテリアを検出および/または同定する方法であって、
a)請求項1から16の何れか一項に記載の反応培地に、メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)バクテリアを含む可能性がある生物学的試料を接種すること;
b)インキュベートすること;
c)コロニーをMRSAコロニーと同定することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)バクテリアを検出するための培地に関する。更に、本発明は、この培地の使用、及びMRSAバクテリアを同定する方法に関する。
【0002】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は、抗生物質のメチシリンと関連した抗生物質(例えばオキサシリン)に耐性があることによって特徴づけられる黄色ブドウ球菌の菌株である。この耐性は最も一般的には、修飾されたタンパク質PLP2a(別名PBP2aまたはPBP2’)の産生につながる遺伝子mecAの発現によって与えられる。
【0003】
MRSAバクテリアは、院内感染の高いパーセンテージを示し、しばしば深刻で潜在的に致命的な健康問題の原因となる。最も一般的には介護スタッフを介して患者間で交差感染されるMRSAは、接触感染性が高く制御が非常に困難な流行性感染の原因となる。適切な治療に加えて、MRSA保菌者のスクリーニング及び感染した患者の隔離は、現在、公的機関(例えば米国医療疫学学会)によって推奨される最も有効方法となっている。従って、初期及び組織的スクリーニングは不可欠である。
【0004】
MRSAは、さまざまな技術によって検出することができる。例えば、分子生物学的技術によってMRSAを検出することは可能である。この点については、特に出願EP887424を挙げることができる。しかしながら、上記の方法は、ルーチンテストとしては高価であるし、資格のあるスタッフを必要とする。更に、黄色ブドウ球菌を検出するための従来の培養培地(例えば出願EP1390524に記載されている培地)を使用することが可能である。MRSAの検出は、付加的な工程として、特異的な凝集検査(Slidex MRSA、ビオメリュー)によって、またはオキサシリン・ディスクの存在下で寒天内拡散法によって、実施される(Antibiogram Committee of the French Society for Microbiologyの推奨)。更に、抗生物質の存在下で、寒天培地上で、MRSAである可能性があるバクテリアを培養してもよい。更に、上記の培地は、MRSAの読取りと検出を容易にする発色性でもよい。特に、出願EP1543147に記載されている培地を挙げることができる。しかしながら、記載されている条件下でのホスファターゼ活性の検出はあまり特異的でないので、いくつかの他の酵素の活性の検出と組合わせる必要があり、そのため培地の繁殖力を減じさせ、そのコストを増大させる。
【0005】
本発明は、メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)を分離して同定するために、感受性が高く、特異的であり、迅速な新規の検出培地を提供することによって、従来技術の隙間を埋めることを目的とする。驚くべきことに、本発明者は、抗生物質の組合せの使用は、所定の低濃度において、メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)を分離して同定するための優れた検出培地を得ること可能にすることを証明した。抗生物質は別々に使用すると、本発明による濃度でMRSAを区別することがいかなる形であれ可能ではないので、この効果は非常に驚きである。
【0006】
更に続ける前に、以下に示す定義は、より明確に本発明を理解することを可能にするものであり、限定するものではない。
本発明のために、反応培地なる用語は、微生物(例えば黄色ブドウ球菌)の生存及び/又は増殖のために必要な成分の全てを含む培地を意味することを目的とする。この反応培地は、検出(revealing)培地のみとしても、あるいは培養且つ検出培地としても用いられる。前者の場合は、微生物は接種前に培養され、後者の場合は反応培地は更に培養培地を構成する。反応培地は、固体、半固体または液体であってもよい。
【0007】
「固形培地」なる用語は、例えばゲル化培地を意味することを目的とする。本発明に係る培地はゲル化培地であることが望ましい。寒天は微生物を培養するための微生物学の従来のゲル化剤であるが、ゼラチンまたはアガロースを使用することも可能である。いくつかの数の製品が市販されており、コロンビア寒天、トリプチカーゼ大豆寒天、マッコンキー寒天、サブロー寒天またはさらに一般的にはthe Handbook of Microbiological Media (CRC Press)に記載されているものである。
【0008】
本発明による反応培地は、その他の可能な添加物、例えばペプトン、一つ以上の成育因子、糖質、一つ以上の選択剤、緩衝液、一つ以上のゲル化剤等を含んでもよい。この反応培地は、すぐに使用できる、すなわちチューブ中またはフラスコ中にまたはシャーレ上において、接種する準備ができている液体またはゲルの形態であってもよい。この培地はフラスコ中でゲルの形態で提供され、培地はシャーレに注入される前に(100℃に供して)再生させることが好ましい。好ましくは、本発明の培地は、選択培地、すなわち黄色ブドウ球菌バクテリアの増殖を助けるインヒビターを含んでなるる培地である。特に塩化リチウム(LiCl)、アジ化ナトリウム(NaN
3)、コリスチン、アンフォテリシン、アズトレオナム、コリマイシン、塩化ナトリウム(NaCl)、デフェロキサミン及びビブリオ菌増殖阻害化合物O/129を挙げることができる。
【0009】
本発明では、酵素又は代謝活性用の基質は、酵素活性のまたは代謝(例えば、特にオシダーゼ活性、好ましくはα-グルコシダーゼまたはエステラーゼ活性、好ましくはホスファターゼまたはペプチダーゼ活性、好ましくはコアグラーゼ活性または代謝糖質、好ましくはマンニトールの代謝)の直接的または間接的な検出を可能にする生成物を与えるために加水分解されることができる任意の基質から選択される。
【0010】
天然基質でも合成基質であってもよい。基質の代謝によって、反応培地の又は生物の細胞の生理化学的性質に変化が生じる。この変化は、物理化学的方法、特に光学的方法、オペーレーターの視覚により、または分光計、電気、磁気等の計測器を使用して検出することができる。それは、吸収、蛍光または発光の変化のような光学的性質の変異であることが望ましい。
【0011】
発色性基質として、インドキシル、フラボン、アリザリン、アクリジン、フェノキサジン、ニトロフェノール、ニトロアニリン、ナフトール、カテコール、ヒドロキシキノリンまたはクマリン系の基質を挙げることができる。本発明で使用する基質は、インドキシル系であることが好ましい。
【0012】
蛍光性の基質として、ウンベリフェロン系またはクマリン系基質、レゾルフィン系、フェノキサジン系、ナフトール系、ナフチルアミン系、2'-ヒドロキシフェニル-ヘテロ環系または2'-アミノフェニル-ヘテロ環系基質、あるいは他にフルオレセイン系を挙げることができる。
【0013】
α-グルコシダーゼ酵素活性のための基質として、特に基質5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシル-α-グルコシド;ジヒドロキシフラボン-α-グルコシド; 3,4-シクロヘキセノエスクレチン-α-グルコシド; 8-ヒドロキシキノリン-α-グルコシド; 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-α-グルコシド; 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-N-メチル-α-グルコシド; 6-クロロ-3-インドキシル-α-グルコシド; 5-ブロモ-3-インドキシル-α-グルコシド; 5-ヨード-3-インドキシル-α-グルコシド; 6-フルオロ-3-インドキシル-α-グルコシド;アリザリン-α-グルコシド;ニトロフェニル-α-グルコシド; 4-メチルウンベリフェリル-α-グルコシド;ナフトールベンゼイン-α-グルコシド;インドキシル-Nメチル-α-グルコシド;ナフチル-α-グルコシド;アミノフェニル-α-グルコシド;ジクロロ・アミノフェニル-α-グルコシドを挙げることができる。本発明において使用する基質は、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-N-メチル-α-グルコシドと組合わせた5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-α-グルコシドが好ましい。
【0014】
ホスファターゼ酵素活性のための基質としては、特に基質5-ブロモ-6-クロロ-3-インドキシルリン酸;3,4-シクロヘキセノエスクレチンリン酸; 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルリン酸; 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-N-メチルリン酸; 6-クロロ-3-インドキシルリン酸; 5-ブロモ-3-インドキシルリン酸; 5-ヨード-3-インドキシルリン酸; 6-フルオロ-3-インドキシルリン酸;ニトロフェニルリン酸; 4-メチルウンベリフェリルリン酸;インドキシル-Nメチルリン酸;ナフチルリン酸を挙げることができる。
【0015】
コアグラーゼ基質としては、特に基質Boc-Val-Pro-Arg-7-アミド-4-メチルクマリン、Bz-Phe-Val-Arg-p-ニトロアニリド、Z-Gly-Pro-Arg-4メトキシ-βナフチルアミドとプラスミノーゲンを挙げることができる。通常は、これらの基質はプロトロンビンのソース、例えば、精製プロトロンビンまたは血漿と組合わせて使用される。本発明において使用する基質は、他の基質と組合わせてもよく、例えばオシダーゼ、特にβ-グルコシダーゼまたはβ-リボシダーゼ、エステラーゼ、特にホスファターゼまたはフォスフォリパーゼ、ペプチダーゼ及び特にコアグラーゼのための基質である。
【0016】
本発明の基質は、広いpH範囲において、特にpH5.5〜10、好ましくは特に6.5〜10で使用することができる。本発明に係る培地がα-グルコシダーゼ酵素活性のための1つの基質又は複数の基質を含む場合に、基質の濃度は、好ましくは0.01〜2g/lであり、より好ましくは0.02〜0.2g/lであり、有利には0.1g/lである。この基質濃度では、より良好な呈色反応コントラストが得られるためである。
【0017】
基質は、更には代謝基質、例えば炭素源であってもよく、それは代謝生成物のうちの1つがある場合には、呈色反応を産生するインジケータに結合されている。糖質の代謝の場合、好ましくはpH指示薬に結合されたマンニトールである。本発明のためには、セファロスポリン系統に属する抗生物質は、以下から選択される抗生物質が好ましい:
・第一世代のセファロスポリン、例えばセファレキシン、セファロリジン、セファロチン、セファゾリン、セファドロキシル、セファゼドン、セファトリジン、セファピリン、セフラジン、セファセトリル、セフロダキシネ(Cefrodaxine)、セフテゾール
・第二世代のセファロスポリン、例えばセフォキシチン、セフロキシム、セファマンドール、セファクロル、セフォテタン、セフォニシド(Cefonicide)、セフォチアム、ロラカルベフ(Loracarbef)、セフメタゾール、セフプロジル、セホラニド;
・第三世代のセファロスポリン、例えばセフォタキシム、セフタジジム、セフスロジン(Cefsulodine)、セフトリアキソン、セフメノキシム、ラタモキセフ、セフチゾキシム、セフィキシム、セフォジジム、セフェタメト(Cefetamet)、セフピラミド、セフォペラゾン、セフポドキシム、セフチブテン、セフジニル、セフジトレン、セフトリアキソン、セフォペラゾン、セフブペラゾン;
・第四世代のセファロスポリン、例えばセフェピム、セフピロム。
セフォキシチン、セフォテタン、セフメタゾール、セフブペラゾンまたはラタモキセフのようなセファマイシンは、セファロスポリン亜系統である。
【0018】
本発明において、セファロスポリン系に属する抗生物質は、好ましくはセフォキシチンであり、セフォタキシムと組合わせられてもよい。本発明のために、カルバペネム系に属する抗生物質は、メロペネム、エルタペネム、イミペネム、ドリペネム、ファロペネムである。本発明において、カルバペネム系に属する抗生物質は、エルタペネムが好ましい。
本発明のために、アミノグリコシド系に属する抗生物質は、好ましくはアミカシン、ゲンタミシン、イセパマイシン、カナマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシンから選択される抗生物質が好ましい。
【0019】
亜阻止濃度は、生物学的試料を使用する、黄色ブドウ球菌の調査に適している培養培地(例えばchromID
TM S. aureus培地(ビオメリュー))において、MSSAの阻害のために必要な抗生物質の濃度より低い濃度を意味することを目的とする。この濃度は、セフォキシチンの場合はほぼ3mg/lより低く、セフォタキシムの場合はほぼ2mg/lより低く、エルタペネムの場合はほぼ1mg/lより低く、セフォペラゾンの場合はほぼ2mg/lより低く、セフポドキシムの場合はほぼ2mg/lより低く、セフジニルの場合はほぼ1mg/lより低い。
【0020】
2つの抗生物質の所定の組合せなる用語は、2つの特定の抗生物質の組合せであって、各々2つが特定の
亜阻止濃度である組合せを意味することを目的とする。上記の組合せは、特に実施例Aのテストによって、決定することができる。
【0021】
生物学的試料なる用語は、気管支、気管又は肺吸引試料または胸膜液試料からの、気管支肺胞洗浄からの、喀痰からの、血液からのまたは肺生検からの、関節滑液または囲心腔液からの臨床試料;体液又は任意の種類の食物に由来する食物試料を意味することを目的とする。従って、この試料は液体であっても固体であってもよく、非限定的に、血液、血漿、尿または糞便由来の臨床試料、または鼻から、会陰部から、のどから、皮膚から、損傷からまたは脳脊髄液から得られた試料、または食物試料を挙げることができる。この点で、本発明は、メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)バクテリアを検出しておよび/または同定するための反応培地に関する。これは、2つの抗生物質の所定の組合せは、セファロスポリン系に属する第1の抗生物質及び第2の抗生物質を含み、前記第1及び第2の抗生物質の各々は、
亜阻止濃度である。
【0022】
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記第1の抗生物質は、セファマイシン亜系統に属する。もう一つの本発明の好ましい実施形態によれば、前記第1の抗生物質は、セフォキシチンである。
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記第2の抗生物質は、カルバペネム系に属する。
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記第2の抗生物質は、セファロスポリン系に属する。
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記第2の抗生物質は、アミノグリコシド系に属する。
【0023】
本発明のある好ましい実施態様によれば、培地は酵素活性(好ましくはオシダーゼ、エステラーゼまたはペプチダーゼ活性)、または代謝活性(好ましくは糖質の代謝)を検出するための基質を更に含む。オシダーゼ活性の場合は、α-グルコシダーゼ活性が好ましい。エステラーゼ活性の場合は、ホスファターゼ活性が好ましい。ペプチダーゼ活性の場合は、コアグラーゼ活性が好ましい。糖質の代謝の場合、pH指示薬に結合させたマンニトールが好ましい。本発明の好ましい一実施形態によれば、基質は、オシダーゼ、好ましくはα-グルコシダーゼ、酵素活性を検出するための基質である。適切なα-グルコシダーゼ酵素活性のための前記基質はインドキシル-α-グルコシドであることが好ましい。使用する基質は5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-N-メチル-α-グルコシド(X-N-メチル-α-グルコシド)であることが望ましい。好ましくは、この基質は0.01〜2g/l、好ましくは0.02〜0.3g/lの濃度で培地に存在する。
【0024】
本発明のある特定の実施態様によれば、前記培地は、第2の酵素又は代謝基質を含む。この基質は、α-グルコシダーゼ基質または別の基質であってもよい。この第2の基質はα-グルコシダーゼ基質であることが好ましい。前記培地が第2のα-グルコシダーゼ基質を含む場合、この基質は5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシル-α-グルコシド(X-α-グルコシド)が好ましい。好ましくは、この第2の基質は0.01から2g/l、好ましくは0.02〜0.3g/lの濃度で培地に存在する。
【0025】
本発明の好ましい一実施形態によれば、セファロスポリン系に属する前記第1のおよび/または第2の抗生物質は、以下から選択される:
・第一世代のセファロスポリン、例えばセファレキシン、セファロリジン、セファロチン、セファゾリン、セファドロキシル、セファゼドン、セファトリジン、セファピリン、セフラジン、セファセトリル、セフロダキシネ(Cefrodaxine)、セフテゾール
・第二世代のセファロスポリン、例えばセフォキシチン、セフロキシム、セファマンドール、セファクロル、セフォテタン、セフォニシド(Cefonicide)、セフォチアム、ロラカルベフ(Loracarbef)、セフメタゾール、セフプロジル、セホラニド;
・第三世代のセファロスポリン、例えばセフォタキシム、セフタジジム、セフスロジン(Cefsulodine)、セフトリアキソン、セフメノキシム、ラタモキセフ、セフチゾキシム、セフィキシム、セフォジジム、セフェタメト(Cefetamet)、セフピラミド、セフォペラゾン、セフポドキシム、セフチブテン、セフジニル、セフジトレン、セフトリアキソン、セフォペラゾン、セフブペラゾン;
・第四世代のセファロスポリン、例えばセフェピム、セフピロム。
本発明の好ましい一実施形態によれば、カルバペネム系に属する前記第2の抗生物質は、メロペネム、エルタペネム及びイミペネムから選択される。
本発明の好ましい一実施形態によれば、2つの抗生物質の組合せは、セフォキシチン−セフォタキシムまたはセフォキシチン−エルタペネムの組合せから選択される。
【0026】
本発明の好ましい一実施形態によれば、培地は、黄色ブドウ球菌バクテリアの増殖を助ける少なくとも一つのインヒビターを更に含むことができる。例えば塩化リチウム(LiCl)、アジ化ナトリウム(NaN
3)、コリスチン、アンフォテリシン、アズトレオナム、コリマイシン、塩化ナトリウム(NaCl)及びデフェロキサミンである。
【0027】
本発明の好ましい一実施形態によれば、培地は、ブドウ球菌属のバクテリアの増殖を助ける4つのインヒビターのインヒビター混合物を更に含んでなり、前記インヒビターはLiCl、ビブリオ菌増殖阻害化合物O/129、アズトレオナム及びアンフォテリシンである。
本発明の好ましい一実施形態によれば、2つの抗生物質の組合せは、セフォキシチンとセフォタキシムを含む。好ましくは、前記セフォキシチンの
亜阻止濃度は、0.25〜1.5mg/l、好ましくは0.5から1mg/lである。好ましくは、前記セフォタキシムの
亜阻止濃度は、0.25〜1.5mg/l、好ましくは0.5から1mg/lである。
本発明の好ましい一実施形態によれば、2つの抗生物質の組合せはセフォキシチンとセフトリアキソンを含む。好ましくは、前記セフォキシチンの
亜阻止濃度は、0.25〜1.5mg/l、好ましくは0.5〜1mg/lである。好ましくは、前記セフトリアキソンの
亜阻止濃度は、0.25〜1.5mg/l、好ましくは0.5〜1mg/lである。
本発明の好ましい一実施形態によれば、2つの抗生物質の組合せは、セフォキシチンとエルタペネムを含む。好ましくは、前記セフォキシチンの
亜阻止濃度は、0.25〜1.5mg/l、好ましくは0.5〜1mg/lである。好ましくは、前記エルタペネムの
亜阻止濃度は、0.5〜0.75mg/lである。
本発明の好ましい一実施形態によれば、2つの抗生物質の組合せは、セフォキシチンとセフポドキシムを含む。好ましくは、前記セフォキシチンの
亜阻止濃度は、0.25〜1.5mg/l、好ましくは0.5〜1mg/lである。好ましくは、前記セフポドキシムの
亜阻止濃度は、0.75〜1mg/l、好ましくは0.5〜1mg/lである。
本発明の好ましい一実施形態によれば、2つの抗生物質の組合せは、セフォキシチンとセフォペラゾンを含む。好ましくは、前記セフォキシチンの
亜阻止濃度は、0.25〜1.5mg/l、好ましくは0.5〜1mg/lである。好ましくは、前記セフォペラゾンの
亜阻止濃度は、0.5〜0.75mg/l、好ましくは0.75〜1mg/lである。
本発明の好ましい一実施形態によれば、2つの抗生物質の組合せは、セフォキシチンとセフジニルを含む。好ましくは、前記セフォキシチンの
亜阻止濃度は、0.25〜1.5mg/l、好ましくは0.25〜0.75mg/lである。好ましくは、前記セフジニルの
亜阻止濃度は、0.05〜0.5mg/l、好ましくは0.1〜0.25mg/lである。
【0028】
更に、本発明は、メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)バクテリアを分離して同定するための、上記の通り反応培地のインビトロ使用にも関する。この培地を使用する場合、MRSAは、有色の又は蛍光のコロニーを得ることを可能にする特異的なグルコシダーゼ活性によって検出されることが好ましい。他の黄色ブドウ球菌の種は、無色に見えるかまたは黄色ブドウ球菌コロニーのものとは異なる色または蛍光を有する。最後に、本発明は、生物学的試料において、メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)バクテリアを検出および/または同定する方法に関する。
上記は、以下を含む。
a)上記の反応培地に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)バクテリアを含む可能性がある生物学的試料を接種すること;
b)インキュベートすること;
c)コロニーをMRSAコロニーと同定することを含む方法。
インキュベーションは、30℃から42℃で実施されることが好ましい。
【0029】
MRSAは、有色の又は蛍光のコロニーを得ることを可能にする特異的なグルコシダーゼ活性によって検出されることが好ましい。他の黄色ブドウ球菌の種は、無色に見えるかまたは黄色ブドウ球菌コロニーのものとは異なる色または蛍光を有する。
【0030】
以下の実施例は、説明のために示すものであり、事実上限定するものでない。それらは、本発明をより明らかに理解することを可能にする。
【実施例】
【0031】
実施例A−本発明による2つの抗生物質の所定の組合せを決定するためのテスト
下記のテストは、使用する抗生物質に応じて、さらに一般的にいえば前記反応培地の調製において、本発明による2つの抗生物質の所定の組合せを定めるために実施することができる。
このテストの理解を補助するために、セフォキシチンとセフォタキシムの組合せの場合について、微生物菌株のキットを使用して実施する。上記はMSSAとMRSAとを含むが、このテストは当然に他の抗生物質について実施することができる。
生物学的試料の黄色ブドウ球菌を調査することに適している10の反応培地(例えばchromID
TM S. aureus培地、ビオメリュー)及び様々な濃度のセフォキシチン(0〜3mg/l)とセフォタキシム(0〜2mg/l)は、0〜5mg/lの抗生物質の濃度を得るために用いる。さまざまな濃度は、例えば算数または幾何学的な分布によって均一に間隔をあけられる。
【0032】
各々の培地は、各々の微生物菌株が、各々の培地に純培養で接種することができるというような方法で、等分される。適切なインキュベーション時間後、好ましくは18〜24時間後、適切な温度で、好ましくは30〜37℃で、培地が、MRSAの最大数を明らかにすると同時に、MSSA菌株の最大数からそれらを区別することを可能にする、セフォキシチンとセフォタキシムの組合せを含む培地を選択するために調べられる。調整された各々の抗生物質の濃度について実験を繰り返すことが必要な場合がある。
【0033】
実施例B − α−グルコシダーゼ基質を含む本発明の培地。
1.本発明の培地の調製
以下に実験において試験される培地は、基本培地としてchromID MRSA培地を含む培地(ビオメリューref. 43 451)及び以下の成分を含んでなる:
培地T:chromID MRSAコントロール培地(ref. 43 451)、特にX-N-メチル-α-グルコシド基質を濃度0.1g/lで、セフォキシチンを4mg/lで含む。
培地S:培地T、更に25、37、45又は50mg/lの濃度の、X−α−グルコシド基質を含む。
培地A:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンはセフトリアキソンと、濃度1、2、4、8、16、32mg/lで置換されている。
培地B:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは濃度1、2、4、8、16、32mg/lでセフォタキシムと置換されている。
培地C:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは濃度0.1、0.25、0.5、0.75、1mg/lでエルタペネムと置換されている。
培地D:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは、濃度0.5、1、1.5、2mg/lでセフォペラゾンと置換されている。
培地E:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは、濃度0.5、1、1.5、2mg/lでセフポドキシムと置換されている。
培地F:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは、下記の濃度で、セフォキシチン/セフォタキシム濃度と置換されている:
培地G:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは、下記の濃度で、セフォキシチン/セフトリアキソンの組合せと置換されている:
培地H:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは、下記の濃度で、セフォキシチン/エルタペネムの組合せと置換されている:
培地I:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは、下記の濃度で、セフォキシチン/セフポドキシムの組合せと置換されている:
培地J:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは、下記の濃度で、セフォキシチン/セフォペラゾンの組合せと置換されている:
培地K:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは、下記の濃度で、セフォキシチン/セフォタキシムの組合せと置換され、更に黄色ブドウ球菌の増殖を助けるインヒビターの混合物を含む。
培地L:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは、濃度0.25、0.5、1、2、4、8mg/lで、セフジニルと置換されている。
培地M:培地S(X−α−グルコシド濃度:45mg/l)、セフォキシチンは、下記の濃度で、セフォキシチン/セフジニルの組合せと置換されている:
【0034】
2. 培地の接種と読取り
菌株(全て出願人のコレクションに由来するもの)のさまざまなセットは、生理食塩液に懸濁されて、分離したコロニーを得るために、培地上に接種された。皿は、48時間、37℃でインキュベートされた。形成されたコロニーは、インキュベーションの18時間または24時間後に、視覚的に調べられた。更に、呈色強度は、0〜4のスケールに従って観察された(0:呈色反応なし、4:非常に強度の呈色)。検出された菌株は、培地の上に有色のコロニーを形成している菌株に対応する。
【0035】
3. 結果:
3.1 − 2つのα−グルコシダーゼ基質を含むMRSAを検出するための培地
1又は2つのα−グルコシダーゼ基質の使用で得られた結果を表1に示す。
表1 2つのα−グルコシダーゼ基質の使用によるコロニーの呈色反応の強度
第2のα-グルコシダーゼ基質の添加は、コロニーの呈色反応を強力に増大することを可能にし、従ってMRSAコロニーをよりよく正確に指摘することを可能にする。
【0036】
3.2 − セフトリアキソン、セフォタキシム、エルタペネム、セフォペラゾン、セフポドキシムまたはセフジニルから選択される抗生物質を含むMRSAを検出するための培地
セフォキシチンが他の抗生物質に置換された場合に得られた結果を表2a 〜2fに示す。
表2a−セフトリアキソンによるセフォキシチンの置換
表2b−セフォタキシムによるセフォキシチンの置換
表2c−エルタペネムによるセフォキシチンの置換
表2d−セフォペラゾンによるセフォキシチンの置換
表2e−セフポドキシムによるセフォキシチンの置換
表2f−セフジニルによるセフォキシチンの置換
抗生物質セフォタキシム、セフトリアキソン、エルタペネム、セフポドキシム、セフォペラゾン及びセフジニルは、単独では、MSSAからMRSAを区別可能な感受性と特異性を得ることができなかった。
【0037】
3.3 −セフォキシチン/セフトリアキソン、セフォキシチン/セフォタキシム、セフォキシチン/エルタペネム、セフォキシチン/セフォペラゾンまたはセフォキシチン/セフポドキシムのペアーから選択される抗生物質の組合せを含む、MRSAを検出するための培地。
抗生物質の組合せが使われた場合に得られた結果を表3に示す。
表3−抗生物質の組合せを使用した場合のMRSAコロニーの検出(全菌
株の数につき検出された菌
株の数として表示された検出)
上記の抗生物質の組合せは、単一の抗生物質が用いられた場合に得られた結果より、より優れた特異性とより優れた感受性を得ることができた。
【0038】
3.4 −セフォキシチン/セフォタキシム抗生物質の組合せと黄色ブドウ球菌の増殖を助けるインヒビターの混合物を含む、MRSAを検出するための培地。
抗生物質の組合せが使われた場合に得られた結果を表4に示す。
表4−セフォキシチン/セフォタキシム抗生物質の組合せ及びインヒビターの混合物が使用された場合のMRSAの検出(全菌種の数につき検出された菌種の数として表示された検出)
黄色ブドウ球菌の増殖を促進するインヒビター混合物と組合わせたセフォキシチン/セフォタキシム抗生物質の組合せは、優れた特異性と感受性を得ることが可能であった。
【0039】
実施例C−ホスファターゼ基質を含有する、本発明の培地
実施例Bで示した実験に類似するが、α−グルコシダーゼ基質が、ホスファターゼ基質である6-クロロ-3-インドキシル・リン酸(ホスファターゼピンク)によって置換され、抗生物質の組合せがセフォキシチンとセフォタキシムである実験を実施した。
得られた結果を、表5に示す。
表5 ホスファターゼ基質とセフォキシチン/セフォタキシム抗生物質の組合せを使用した場合のMRSAコロニーの検出
基質6-クロロ-3-インドキシルリン酸(ホスフェートピンク)と組合わせたセフォキシチン/セフォタキシム抗生物質の組合せにより、優れた特異性と感受性を得ることができた。