(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記請求項1乃至3のいずれか1項に記載の異材溶接用フラックス入りワイヤを使用する異材レーザ溶接方法であって、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とによって構成される継手部に、前記異材溶接用フラックス入りワイヤを供給しながらレーザ光を照射して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と前記鋼材とを接合することを特徴とする異材溶接方法。
前記アルミニウム又はアルミニウム合金材がレーザ光側となるように前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせて配置し、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせ溶接することを特徴とする請求項4に記載の異材溶接方法。
前記請求項1乃至3のいずれか1項に記載の異材溶接用フラックス入りワイヤを使用する異材MIG溶接方法であって、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とによって構成される継手部と前記異材溶接用フラックス入りワイヤとの間にアークを形成し、アーク周辺部に不活性ガスを供給しつつ、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と前記鋼材とを接合することを特徴とする異材溶接方法。
前記アルミニウム又はアルミニウム合金材が前記異材溶接用フラックス入りワイヤ側となるように、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせて配置し、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせ溶接することを特徴とする請求項6に記載の異材溶接方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の従来技術には以下のような問題点がある。自動車の車体等の構造物において、鋼材とアルミニウム合金材とが突き合わせ溶接された場合には、溶接継手部に外力が印加された際に、母材間には引張応力が作用する。一方、例えば鋼材とアルミニウム合金材とが重ね合わせて溶接された場合等において、溶接継手部に外力が印加された際に、母材間には引張応力が作用すると共に、溶接部界面には2つの母材を互いに引き剥がす方向に剥離応力が作用する。従って、異材間を溶接する場合、溶接継手部には引張剪断強度だけでなく、高い剥離強度(ピール強度)も備えていることが求められる。しかしながら、従来、鋼材とアルミニウム合金材とを溶接により接合した場合、接合部には脆性が高い金属間化合物が生成し、同一種類の部材同士を溶接した場合に比して接合部の引張剪断強度及び剥離強度が低下するという問題点がある。
【0009】
また、特許文献1に開示されたフラックス入りワイヤを使用して異材溶接した場合、この脆性が高い金属間化合物の生成を抑制し、金属間化合物層の厚みを薄くすることができる。
【0010】
しかし、溶加材のSi含有量が高い領域では接合後の引張せん断強度は高くなるが、剥離強度が低減するという問題点がある。また、Si量が低い領域では剥離強度は向上し、金属間化合物層での剥離は生じないものの、アルミニウム材と鋼材の熱膨張差が大きい(例えば、鋼材に比較してアルミ材の厚みが厚い場合等)と、溶接部の熱収縮により溶接部(溶接金属部)に割れが生じるという問題がある。
【0011】
一方、特許文献2のように、ソリッドの溶加材においてSiを1.5〜6%と比較的低めに抑えて、更にZrを任意成分として適宜添加することもできる。
【0012】
しかし、Siが高めの場合、又はフラックス入りワイヤのフラックスの主成分及び充填率の如何によっては、金属間化合物層の生成を有効に抑えることができず、高い剥離強度を得ることができない。
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを溶接する場合に、溶接継手部の引張剪断強度及び溶接部界面の剥離強度を向上させることができると共に、溶接金属部に割れがない状態にすることができる異材溶接用フラックス入りワイヤ及び異材溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る異材溶接用フラックス入りワイヤは、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材との異材接合に使用される異材溶接用フラックス入りワイヤであって、
Siを1.7乃至2.7質量%、Tiを0.05乃至0.25質量%含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物であるアルミニウム合金からなる筒状の皮材と、
この皮材内に充填されフッ化セシウムを20乃至60質量%含有
し、残部がKAlF系フラックス及び不純物であるフラックスと、
を有し、
前記フラックスの充填率がワイヤの全質量あたり2.5乃至20質量%であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る他の異材溶接用フラックス入りワイヤは、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材との異材接合に使用される異材溶接用フラックス入りワイヤであって、
Siを1.7乃至2.7質量%、Tiを0.05乃至0.25質量%含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物であるアルミニウム合金からなる筒状の皮材と、
この皮材内に充填されAlF
3を7乃至15質量%含有
し、残部がKAlF系フラックス及び不純物であるフラックスと、
を有し、
前記フラックスの充填率がワイヤの全質量あたり2.5乃至20質量%であることを特徴とする。
【0016】
上述の本発明に係る異材溶接用フラックス入りワイヤにおいて、
前記皮材は、更に、Feを0.6質量%以下含有することができる。
【0017】
本発明に係る異材溶接方法は、上述の異材溶接用フラックス入りワイヤを使用する異材レーザ溶接方法であって、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とによって構成される継手部に、前記異材溶接用フラックス入りワイヤを供給しながらレーザ光を照射して、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と前記鋼材とを接合することを特徴とする。
【0018】
この異材溶接方法において、例えば、
前記アルミニウム又はアルミニウム合金材がレーザ光側となるように前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせて配置し、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせ溶接することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る他の異材溶接方法は、上述の異材溶接用フラックス入りワイヤを使用する異材MIG溶接方法であって、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とによって構成される継手部と前記異材溶接用フラックス入りワイヤとの間にアークを形成し、アーク周辺部に不活性ガスを供給しつつ、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と前記鋼材とを接合することを特徴とする。
【0020】
この異材溶接方法において、例えば、
前記アルミニウム又はアルミニウム合金材が前記異材溶接用フラックス入りワイヤ側となるように、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせて配置し、前記アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせ溶接することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の異材溶接用フラックス入りワイヤは、フラックス中のフッ化セシウム及び皮材中のSiの含有量を適正に規定しているため、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材との異材レーザ溶接異材MIG溶接に使用すれば、溶接継手部の引張剪断強度及び溶接部界面の剥離強度を向上させることができる。
【0022】
また、Siに加えて必須成分としてTiを所定量添加しているため、Tiの微細化効果により、溶接部の溶融金属部の組織が微細化される。従って、鋼材とアルミ材との熱膨張差が大きくても溶接金属部に割れが生じない。更に、Tiの添加により、Siのみを添加した溶加材に比較して、継ぎ手強度が向上する。
【0023】
また、上記組成に加えてFeを所定量添加すると、固溶強化により接合後の継ぎ手強度が更に向上する。
【0024】
更に、フラックスの充填率を適正に規定しているため、フラックスによる還元効果を効果的に得ることができ、溶接継手部の引張剪断強度及び溶接部界面の剥離強度を更に効果的に向上させることができる。なお、フラックスによる還元効果とは、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材との異材レーザ溶接又は異材MIG溶接において、アルミニウムの表面酸化膜並びに鋼材の亜鉛メッキ層及び表面酸化膜が、溶接熱によるフラックスの活性化によって還元除去されやすくなることであると考えられる。このように、異材レーザ溶接又は異材MIG溶接において、フラックスが適正な膜厚で付着し、そのフラックス膜を通じてレーザ又はMIGの熱が鋼材に間接的に伝えられる。 これにより、接合対象の母材のメッキ層及び表面酸化膜を除去することにより、夫々の母材には、最表面層に金属の新生界面が現れるとともに、溶接入熱量の低い領域から入熱量の高い領域にかけて安定して、脆性の高いFe-Alの金属間化合物の発生が抑制される。
【0025】
従って、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とが強固に接合されるようになり、溶接継手部の引張剪断強度及び剥離強度が向上する。また、鋼板が裸鋼板の場合は、所定の組成及び量のフラックスにより鋼板表面の酸化膜を抑制することができ、この結果、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材とが強固に接合され、溶接継ぎ手部の引張剪断強度及び剥離強度が向上する。
【0026】
本発明の異材レーザ溶接方法又は異材MIG溶接によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金材と鋼材との異材接合において、溶接継手部の引張剪断強度及び溶接部界面の剥離強度を向上させると共に鋼材とアルミ材との熱膨張差が大きい場合に生じる溶融金属部の割れを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は本発明の異材レーザ溶接方法による重ね合わせ溶接を示す模式図、
図2は本発明の異材レーザ溶接方法による突き合わせ溶接を示す模式図、
図5は異材溶接用フラックス入りワイヤの一例を示す図である。本発明の異材レーザ溶接方法によって重ね合わせ溶接を行う場合においては、
図1に示すように、例えばアルミニウム合金材2をレーザ光側に配置して、板状のアルミニウム合金材2と鋼材3とを重ね合わせる。そして、アルミニウム合金材2と鋼材3との重ね合わせ部4に異材溶接用フラックス入りワイヤ1を供給しながらレーザ光を照射してレーザ溶接し、アルミニウム合金材2と鋼材3とを接合する。本発明の異材レーザ溶接方法によって突き合わせ溶接を行う場合においては、
図2に示すように、板状のアルミニウム合金材2と鋼材3とを突き合わせて配置し、これらの突き合わせ部6に異材レーザ溶接用フラックス入りワイヤ1を供給しながらレーザ光を照射して、レーザ溶接する。レーザ光の出力装置としては、YAGレーザ、CO
2レーザ及びファイバレーザ、半導体レーザ、ディスクレーザ等、種々のものを使用することができる。
【0029】
アルミニウム合金材2の材料としては、例えばJIS A1000系、A2000系(Al−Cu系合金)、A3000系(Al−Mn系合金)、A4000系(Al−Si系合金)、A5000系(Al−Mg系合金)、A6000系(Al−Mg−Si系合金)、A7000系(Al−Zn−Mg系合金、Al−Zn−Mg−Cu系合金)を使用することができる。また、アルミニウム合金材2としては、例えば0.5乃至4.0mmの厚さの板材を使用することができる。 更に、AC4CH等のアルミニウム合金鋳物、ADC3等のアルミニウムダイカスト合金、7N01等の押出材を使用することもできる。
【0030】
鋼材としては、例えばSPCC(冷間圧延低炭素鋼板)、高張力鋼、ステンレス鋼等、種々の鋼材を使用することができる。特に、鋼材には溶融亜鉛メッキが施された亜鉛メッキ鋼板(GA鋼板、GI鋼板)を使用した場合は高い継手強度の異材溶接構造が得られる。 鋼材3としては、例えば0.5乃至6.0mmの厚さの板材を使用することができ、アルミニウム合金材2と厚さが異なるものを使用してもよい。
【0031】
異材溶接用フラックス入りワイヤ1は、例えば
図5(a)乃至(d)に示すように、アルミニウム合金製の筒状の皮材1a内にフラックス1bを充填したものであり、ワイヤ1の外径は例えば0.8乃至2.0mmである。本発明の第1の異材溶接用フラックス入りワイヤは、ワイヤ1中のフラックス1bの充填率が、ワイヤの全質量あたり2.5乃至20質量%である。また、この第1の異材溶接用フラックス入りワイヤは、フラックス1bがフッ化セシウムを20乃至60質量%含有する。また、本発明の第2の異材溶接用フラックス入りワイヤは、AlF
3を7乃至15質量%含有するフラックスを有し、前記フラックスの充填率がワイヤの全質量あたり2.5乃至20質量%である。
【0032】
これらのフラックス入りワイヤのアルミニウム皮材1aはいずれもSiを1.7乃至2.7質量%、Tiを0.05〜0.25質量%含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金、又は更にFeを0.6質量%以下含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で成形されている。このアルミニウム皮材1a中の不可避的不純物としては、例えばMg、Mnがあるが、その含有量は夫々皮材の全質量あたり0.2質量%以下である。
【0033】
以下、本発明の異材溶接用フラックス入りワイヤの組成における数値限定の理由について説明する。
【0034】
「フラックス中のフッ化セシウムの含有量:フラックスの全質量あたり20乃至60質量%」
フッ化セシウムは、レーザ溶接時に、アルミニウム合金材と亜鉛メッキ鋼材との間に高脆性の金属間化合物が生成することを抑制する作用がある。フラックス中のフッ化セシウムの含有量が20質量%未満であると、高脆性の金属間化合物の生成を抑制する効果が小さく、引張剪断強度及び剥離強度が低下する。一方、フラックス中のフッ化セシウムの含有量が60質量%を超えると、高脆性の金属間化合物の生成抑制作用の向上効果が飽和する一方、高価なセシウムの含有量が増加することにより、異材溶接用フラックス入りワイヤの製造コストが上昇する。従って、本発明においては、フラックス中のフッ化セシウムの含有量を、フラックスの全質量あたり20乃至60質量%と規定する。フラックス中の成分としては、フッ化セシウム以外に、例えばフッ化アルミニウム、フッ化カリウム、フッ化カリウムアルミニウム及びフッ化ランタン等を適宜組み合わせて含有させることができる。フッ化アルミニウム、フッ化カリウム及びフッ化カリウムアルミニウムは、フッ化カリウムアルミニウム系化合物といわれるものであり、アルミニウム酸化膜の除去、ワイヤの低融点での溶融促進と濡れ性確保、鋼材とアルミニウム材との間の界面における拡散抑制用バリア等の作用が考えられる。
【0035】
「フラックス中のAlF
3の含有量:フラックスの全質量あたり7乃至15質量%」
AlF
3は、レーザ溶接及びMIG溶接時に、アルミニウム合金材と亜鉛メッキ鋼材との間に高脆性の金属間化合物が生成することを抑制する作用がある。フラックス中の成分としては、AlF
3以外に、例えばKAl及びKF等を適宜組み合わせて含有させることができる。フラックス中のAlF
3の含有量が7質量%未満であると、高脆性の金属間化合物の生成を抑制する効果が小さく、引張剪断強度及び剥離強度が低下する。一方、フラックス中のAlF
3の含有量が15質量%を超えると、高脆性の金属間化合物の生成抑制作用の向上効果が飽和し、また、剥離強度が低下する。従って、本発明においては、フラックス中のAlF
3の含有量を、フラックスの全質量あたり7乃至15質量%と規定する。
【0036】
「皮材を構成するアルミニウム合金のSiの含有量:1.7乃至2.7質量%、Tiの含有量:0.05乃至0.25質量%」
皮材を構成するアルミニウム合金が含有するSiは、溶接継手部の引張剪断強度の向上には必須の成分である。アルミニウム合金のSiの含有量が1.7質量%未満であると、剥離強度はある程度向上するが、溶接継手部の引張剪断強度の向上効果は不十分である。
【0037】
また、Si量が1.7%より低下すると接合部界面(脆い金属間化合物)での破断は生じにくくなるものの、鋼材とアルミ材との熱膨張差が大きいと溶接金属部のアルミの割れ感受性が高くなり、接合部界面ではなく、溶接金属部に割れが生じる。
【0038】
一方、アルミニウム合金のSiの含有量が2.7質量%を超えると、接合部近傍の靱性低下により剥離強度が低下する。従って、本発明においては、皮材を構成するアルミニウム合金のSiの含有量を、1.7乃至2.7質量%とし、更に所定量のTiを添加する。
【0039】
Tiは、アルミニウム合金鋳造時にTi-B(Ti/B比が5:0.2〜1.0)、又はAl-Tiの中間合金を鋳造時に添加して皮材の成分調整をする。
【0040】
Si量が1.7乃至2.7%において、溶接金属部の割れを防止しつつ剥離強度を向上させることができるTiの含有量は0.05乃至0.25質量%である。また、更に好ましくは、Tiの含有量は0.05乃至0.20質量%である。
【0041】
なお、皮材には更に不可避不純物として、Mn又はMgは夫々皮材の全質量あたり0.1質量%以下含有させることができ、その他の不純物は0.10%以下許容することができる。
【0042】
「フラックス充填率:ワイヤの全質量あたり2.5乃至20質量%」
フラックスは、アルミニウム合金材及び鋼材に対する還元効果を有する。フラックスの充填率がワイヤの全質量あたり2.5質量%未満であると、フラックスによる還元効果が低下し、引張剪断強度及び剥離強度が低下する。一方、フラックスの充填率がワイヤの全質量あたり20質量%を超えると、還元作用が大きくなりすぎ、かえって引張剪断強度及び剥離強度が低下する。従って、本発明においては、フラックスの充填率をワイヤの全質量あたり2.5乃至20質量%と規定する。
【0043】
なお、上記各フラックス組成において、特定した成分以外の残部は実質的にKAlFからなるものであるが、これは、主成分として、KAlF系のフラックスを使用するという意味である。例えば、このようなKAlF(フッ化カリウムアルミニウム)系のフラックスとしては、例えば、KAlF
4を75質量%、K
3AlF
6を25質量%含有するものがある。又は、これらのフッ化カリウムアルミニウム系化合物の一部を、K
2AlF
6で置き換えたものもある。更に、KFのように、Alを含まない化合物も含まれる場合がある。よって、実質的にKAlFからなるフラックスとは、通常、95%以上の化合物が、KとAlとFとを含む化合物である場合において、その他の弗化物として、KF等を含む可能性があるものである。
【0044】
次に、本実施形態の異材溶接用フラックス入りワイヤを使用した異材レーザ溶接方法について説明する。先ず、アルミニウム合金材2と鋼材3とによって継手部を構成する。例えば、継手部を重ね合わせ溶接する場合においては、
図1に示すように、板状のアルミニウム材2と鋼材3とを重ね合わせて、例えばアルミニウム合金材2をレーザ光側に配置する。このように、アルミニウム合金材2をレーザ光側に配置することにより、融点が低いアルミニウム合金材2を鋼材3よりも先に溶融させ、続いて、アルミニウム合金材2の下方に配置された鋼材3を一部溶融させることができるため、鋼材3をレーザ光側に配置して重ね合わせ溶接する場合に比して、溶融池からの溶融金属の垂れを防止して、重ね合わせ溶接を円滑に実施することができる。継手部を突き合わせ溶接する場合には、
図2に示すように、アルミニウム材2と鋼材3とを突き合わせて配置する。
【0045】
次に、溶接継手部を、例えばヘリウム又はアルゴン等のシールドガス雰囲気とした状態で、レーザ光の焦点位置を調整し、母材同士の重ね合わせ部4又は突き合わせ部6周辺にレーザ光を集光させる。そして、母材同士の重ね合わせ部4又は突き合わせ部6周辺に異材レーザ溶接用フラックス入りワイヤ1を供給する。アルミニウム合金材2と鋼材3とを重ね合わせ溶接する場合においては、アルミニウム合金材2をレーザ光側に配置しているため、アルミニウム合金材2を積極的に溶かすことができる。そして、フラックスにより鋼材3表面の表面酸化膜を還元して、鋼界面をアルミニウム合金の溶湯中に接触させ、アルミニウム合金材2と鋼材3とをブレーズ溶接にて接合する。なお、アルミニウム合金材2と鋼材3とのブレーズ溶接とは、融点の低いアルミニウム合金材2を溶融させつつ、溶融したアルミニウム合金をろう材として、鋼材3と接合することを意味する。アルミニウム合金材と鋼材とを突き合わせ溶接する場合においては、異材レーザ溶接用フラックス入りワイヤ1を突き合わせ部6に供給すると共に、レーザ光の焦点位置を突き合わせ部6に合わせてレーザ光を照射することにより、アルミニウム合金材2と鋼材3とをブレーズ溶接にて接合する。これにより、溶融金属の溶け落ちを防止することができる。
【0046】
レーザ光の照射により、まず融点が低いアルミニウム合金材2が溶融する。続いて鋼材3がごく僅かに溶融するが、まず鋼板上の表面層が溶融する。そして、これらの溶融金属成分中に、同じくレーザ光の照射により溶融した異材レーザ溶接用フラックス入りワイヤ1が供給される。
【0047】
そして、レーザ光の照射位置を溶接線に沿って移動させると、溶融したアルミニウム合金成分、鋼材にめっきがされていればめっき成分、及び鋼成分と、フラックス入りワイヤ成分とが混合された状態で、順次、溶接方向に沿って後方側で凝固していき、ビードを形成する。このとき、接合対象のアルミニウム合金材2と鋼材3との間には、金属間化合物が生成する。本実施形態の異材レーザ溶接用フラックス入りワイヤ1は、フラックス中のフッ化セシウムの含有量が適正な値に規定されている。或いは、同様にAlF
3の含有量が適正な値に規定されている。
【0048】
従って、溶接部に生成する金属間化合物は、例えば脆性が大きいFeAl
3又はFe
2Al
5等よりも、脆性を低下させることがないFeAl、Fe
3Al等の方が、生成量が多くなり、溶接継手部の引張剪断強度及び剥離強度を向上させることができる。
【0049】
また、異材レーザ溶接用フラックス入りワイヤ1は、アルミニウム皮材1a中のSiの含有量が適正な範囲に規定されており、溶接継手部の剥離強度を低下させることなく引張剪断強度を向上させることができる。
【0050】
更に、本実施形態の異材レーザ溶接用フラックス入りワイヤ1は、フラックス1bの充填率が適正な範囲に規定されており、引張剪断強度及び剥離強度を低下させることなく、フラックスの還元作用を効果的に得ることができる。
【0051】
なお、本実施形態においては、前述の如く、アルミニウム合金材2と鋼材3とを重ね合わせ溶接する場合には、アルミニウム合金材2をレーザ光側に配置することが望ましい。
【0052】
しかしながら、本発明においては、母材同士が溶融され、溶融金属の溶融池にフラックス入りワイヤ1を溶融させて適量供給することができる範囲において、レーザ光の照射位置及びフラックス入りワイヤ1の供給位置は限定されない。
【0053】
また、レーザ光は適宜デフォーカスして照射してもよい。この場合、デフォーカスされたレーザビームの熱伝導型ビードの形成と、フラックスの相乗効果によりアルミニウムと鋼の界面における金属間化合物の生成がより抑止される。
【0054】
次に、本発明に係る異材MIG溶接方法の実施形態について説明する。MIG溶接においても、使用する溶接ワイヤは、異材レーザ溶接方法にて使用する溶接ワイヤ1と同一である。また、MIG溶接の条件等は、通常のMIG溶接と同様である。
図3は、重ね合わせ溶接の場合の溶接方法を示す模式図である。先ず、アルミニウム合金材2と鋼材3とによって継手部を構成する。継手部を重ね合わせ溶接する場合においては、
図3に示すように、板状のアルミニウム材2と鋼材3とを重ね合わせて、例えばアルミニウム合金材2をトーチ7側に配置する。このように、アルミニウム合金材2をトーチ7側に配置することにより、融点が低いアルミニウム合金材2を鋼材3よりも先に溶融させ、続いて、アルミニウム合金材2の下方に配置された鋼材3を一部溶融させることができるため、鋼材3をトーチ7側に配置して重ね合わせ溶接する場合に比して、溶融池からの溶融金属の垂れを防止して、重ね合わせ溶接を円滑に実施することができる。
【0055】
継手部を突き合わせ溶接する場合には、
図4に示すように、アルミニウム材2と鋼材3とを突き合わせて配置する。
図3及び
図4のいずれの場合も、トーチ7から継手部に向けて送給される溶接ワイヤ1と溶融池の近傍に向けてアルゴンガス又はヘリウムガス等の不活性ガスを供給して、溶融池に空気中の酸素が侵入することを遮断し、溶融金属の酸化を抑制する。
【0056】
この本発明の異材溶接用フラックス入りワイヤを使用した異材MIG溶接方法も、本発明の異材溶接用フラックス入りワイヤを使用した異材レーザ溶接方法と同様の効果を奏する。
【実施例】
【0057】
(第1実施例)
以下、本発明の異材レーザ溶接用フラックス入りワイヤの効果を示す実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。アルミニウム合金材2としては、AA6022合金(JIS A 6000系合金)からなる板厚1.0mmの板材(例えば、幅100mm、長さ300mm)を使用した。また、板厚1.4mm(例えば、幅100mm、長さ300mm)の980MPa級冷間圧延鋼板(裸鋼板)及び同じ鋼板に合金化溶融亜鉛メッキを施した鋼板(GA鋼板)という2種類の鋼板を用いて、鋼材3とした。なお、溶接対象の供試材としては、板材のままのアルミニウム合金材2及び鋼材3と、夫々板材端部から適長(アルミニウム合金材2については板材端部から10mm、鋼材3については板材端部から60mm)離隔した位置にて90度曲げ加工した曲げ板材とを使用した。
【0058】
そして、これらのアルミニウム合金材2及び鋼材3を重ね合わせ、
図1に示すように、アルミニウム合金材2をレーザ光側に配置し、重ね合わせ部4周辺をシールドガス雰囲気とした。なお、シールドガスとしては、アルゴンガスを使用した。そして、重ね合わせ部4に実施例及び比較例の異材溶接用フラックス入りワイヤ(直径1.2mm)を供給しながらレーザ光を照射して、重ね合わせレーザ溶接を行った。重ね合わせ部4に照射するレーザとしては、連続発振方式のYAG(Yttrium−Aluminum Garnet)レーザ(レーザ出力4.0kW)を使用し、溶接速度を1.2m/分、ワイヤ送給速度を4.8m/分とした。
【0059】
なお、溶接対象部材として板材を使用する場合には、
図6に示すように相互の部材の重ね合わせ部4の長さが50mmとなるように配置した。また、溶接対象部材として曲げ板材を使用する場合には、
図7に示すように、夫々の部材2,3の曲げ位置が一致するように配置し、相互の部材の重ね合わせ部4の長さが10mmとなるように配置した。
【0060】
また、板材以外の押出材及び鋳造材については、上記曲げ加工を行った板材と同じ断面形状・寸法となるように、常法により押出し、鋳造後に切断してアルミニウム合金材2とした。
【0061】
本実施例において使用した実施例及び比較例の異材溶接用フラックス入りワイヤについて、皮材の組成(質量%)、フラックスの組成(質量%)及びフラックス充填率(%)を下記表1及び表3に示す。また、このワイヤを使用して溶接したときの溶接金属部の割れの有無、引張強度及び剥離強度について、下記表2、表4に示す。
【0062】
また、溶接対象の材料は、アルミニウム合金材がAA6022であり、鋼材は表1がGA鋼板(GA980)、及び表3が裸鋼板である。アルミニウム合金材の厚さは1.0mm、鋼材の厚さは1.4mmである。YAGレーザの出力は4kW、溶接速度は1.2m/分、ワイヤ送給速度は4.8m/分であった。
【0063】
なお、表1において、フラックスの成分として、CsFの含有量を変化させたが、このフラックスの残部は実質的にKAlF(フッ化カリウムアルミニウム)系フラックスからなるものである。例えば、このようなKAlF系のフラックスとしては、KAlF
4を75質量%、K
3AlF
6を25質量%含有するものがある。又は、これらのフッ化カリウムアルミニウム系化合物の一部を、K
2AlF
6で置き換えたものもある。更に、KFのように、Alを含まない化合物も含まれる場合がある。よって、実質的にKAlFからなるフラックスとは、K、Al、Fの3種の元素からなる化合物若しくはそれに加えてKとFの2種類の元素からなる化合物又はそれらの混合物である。なお、表1において、trと記載されているのは、微量であることを示す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
そして、これらの実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを使用して、
図6に示す板材及び
図7に示す曲げ板材、同断面形状の押出材、鋳造材について、夫々重ね合わせ溶接を行った。そして、重ね合わせ溶接した溶接部5の引張剪断強度(TSS)及び剥離強度(PS)を測定した。
【0069】
(引張剪断強度評価)
引張剪断強度評価については、
図6に示す重ね合わせ溶接した板材を使用して行った。溶接後の板材をJIS Z 2201−1998に規定されているJIS5号試験片に加工した。このとき、溶接部5が平行部の中央部となるように調整した。そして、引張試験機(島津製作所製、一軸試験機 RS−2)を使用して、夫々の板材を
図6の矢印方向に引っ張り、溶接部5の引張剪断強度を測定した。各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを使用して溶接した場合について、溶接部5の引張剪断強度を表2、表5に示す。
【0070】
(剥離強度評価)
剥離強度評価については、
図7に示す重ね合わせ溶接後の曲げ板材、同断面形状の押出材、鋳造材を使用して行った。溶接後の板材を幅25mmの短冊片に加工した。そして、引張試験機(島津製作所製、一軸試験機 RS−2)を使用して、夫々の板材を
図7の矢印方向に引っ張り、溶接部5の剥離強度を測定した。各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを使用して溶接した場合について、溶接部5の剥離強度を表2乃至表4にあわせて示す。
【0071】
割れの評価においては、割れが全く見られなかった場合を◎、割れが生じないものの粒界に共晶物が存在した場合を○、1粒界程度の割れが存在した場合を△、数粒界程度の割れが存在した場合を×、大割れが発生した場合を××とした。総合評価においては、各実施例施例及び比較例較例の試験片について、引張剪断強度が210[N/mm]以上で剥離強度が30[N/mm]以上で割れが全く見られなかった(◎)場合を優、引張剪断強度が200[N/mm]以上で剥離強度が15[N/mm]以上で割れが生じないものの粒界に共晶物が生じていた(○)場合を良、引張剪断強度が200[N/mm]未満又は剥離強度が15[N/mm]未満又は1粒界程度の割れ(△)若しくは数粒界程度の割れ(×)若しくは大割れ(××)が生じていたものを劣とした。
【0072】
表2及び表4に示すように、実施例1乃至16は、フラックス中のフッ化セシウム、フラックスの充填率、並びに皮材中のSi、Ti、Feが本発明の範囲を満足するので、本発明の範囲を満足しない比較例1乃至14に比較例して引張剪断強度及び剥離強度が向上し、溶接金属部に割れも生じなかった。
【0073】
(第2実施例)
次に、本発明の異材溶接用フラックス入りワイヤを使用した異材MIG溶接方法の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。アルミニウム合金材2としては、AA6022合金(JIS A 6000系合金)からなる板厚2.0mmの板材(例えば、幅100mm、長さ300mm)を使用した。また、板厚1.4mm(例えば、幅100mm、長さ300mm)の980MPa級冷間圧延鋼板(実施例表中にCR鋼板と記載)又は同鋼板に合金化溶融亜鉛メッキを施してGA鋼材とした。なお、溶接対象の共試材としては、板材のままのアルミニウム合金材2及び鋼材3と、夫々板材端部から適長(アルミニウム合金材2については板材端部から10mm、鋼材3については板材端部から60mm)離隔した位置にて90度曲げ加工した曲げ板材及び、その曲げ板材と同じ断面形状を有する押出材と鋳造材とを使用した。
【0074】
そして、これらのアルミニウム合金材2及び鋼材3を重ね合わせ、
図3に示すように、アルミニウム合金材2をミグトーチ7側に配置し、重ね合わせ部4周辺をシールドガス雰囲気とした。なお、シールドガスとしては、アルゴンガスを使用した。そして、重ね合わせ部4に実施例施例及び比較例較例の異材溶接用フラックス入りワイヤ(直径1.2mm)を用いて通電し、重ね合わせMIG溶接を行った。重ね合わせ部4を溶接するMIG溶接機としては、直流パルス方式のMIG溶接電源を使用し、電流90A、電圧16V、溶接速度を0.5m/分とした。
【0075】
なお、溶接対象部材として板材を使用する場合には、
図6に示すように相互の部材の重ね合わせ部4の長さが50mmとなるように配置した。また、溶接対象部材として曲げ板材を使用する場合には、
図7に示すように、夫々の部材2,3の曲げ位置が一致するように配置し、相互の部材の重ね合わせ部4の長さが10mmとなるように配置した。
【0076】
本実施例において使用した実施例及び比較例の異材溶接用フラックス入りワイヤについて、フラックスの組成(質量%)、フラックス充填率(%)及び皮材の組成(質量%)を下記表5に示す。なお、表5において、trと記載されているのは、微量であることを示す。そして、これらの実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを使用して、
図6に示す板材及び
図7に示す曲げ板材、押出材、鋳造材について、夫々重ね合わせ溶接を行った。そして、重ね合わせ溶接した溶接部5の引張剪断強度及び剥離強度を測定した。この溶接部の割れの有無、引張強度及び剥離強度を下記表6に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
(引張剪断強度評価)
引張剪断強度評価については、
図6に示す重ね合わせ溶接した板材を使用して行った。溶接後の板材をJIS Z 2201−1998に規定されているJIS5号試験片に加工した。このとき、溶接部5が平行部の中央部となるように調整した。そして、引張試験機(島津製作所製、一軸試験機 RS−2)を使用して、夫々の板材を
図4の矢印方向に引っ張り、溶接部5の引張剪断強度を測定した。各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを使用して溶接した場合について、溶接部5の引張剪断強度を表6に示す。
【0080】
(剥離強度評価)
剥離強度評価については、
図7に示す重ね合わせ溶接後の曲げ板材を使用して行った。溶接後の板材を幅25mmの短冊片に加工した。そして、引張試験機(島津製作所製、一軸試験機 RS−2)を使用して、夫々の板材を
図7の矢印方向に引っ張り、溶接部5の剥離強度を測定した。各実施例及び比較例のフラックス入りワイヤを使用して溶接した場合について、溶接部5の剥離強度を表6にあわせて示す。
【0081】
そして、第1実施例と同様に、割れの評価においては、割れが全く見られなかった場合を◎、割れが生じないものの粒界に共晶物が存在した場合を○、1粒界程度の割れが存在した場合を△、数粒界程度の割れが存在した場合を×、大割れが発生した場合を××とした。総合評価においては、各実施例施例及び比較例較例の試験片について、引張剪断強度が350[N/mm]以上で剥離強度が20[N/mm]以上で割れが全く見られなかった(◎)場合を優、引張剪断強度が300[N/mm]以上で剥離強度が10[N/mm]以上で割れが生じないものの粒界に共晶物が生じていた(○)場合を良、引張剪断強度が300[N/mm]未満又は剥離強度が10[N/mm]未満又は1粒界程度の割れ(△)若しくは数粒界程度の割れ(×)若しくは大割れ(××)が生じていたものを劣とした。
【0082】
なお、
図8(a)は本発明の実施例9、
図8(b)は本発明の実施例11、
図8(c)は比較例4のMIG溶接後の溶接金属部の組織写真(倍率100倍)である。 本発明の実施例9、実施例11は皮材のTi量が適正な範囲に設定されているため溶接金属部の組織が非常に微細である。一方皮材のTiが含まれていない比較例4は凝固時の粗い組織が残っている。このため、表6に示すように、実施例1乃至20は、フラックス中のAlF
3、フラックスの充填率、及び皮材中のSi、Ti、Feの組成が本発明の範囲を満足するので、引張剪断強度及び剥離強度が向上し溶接金属部の割れも生じなかった。これに対し、本発明の範囲を満足しない比較例1乃至18は、割れが生じていたか、引張強度が低いものであったか、又は剥離強度が低いものであった。