(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タイヤを装着可能なスピンドル軸と、軸受部を介して該スピンドル軸を回転自在に支持するハウジングと、前記スピンドル軸の軸方向でタイヤ側を向く前記ハウジングの端部に固定されると共に前記スピンドル軸に作用する荷重を計測可能な1つの多分力計測センサと、を備え、
前記多分力計測センサは、内周側に設けられた着力体と、この着力体の外周側に配備された固定体と、前記着力体と固定体とを径方向に連結する複数の起歪体と、この起歪体に設けられた歪みゲージとを有しており、
前記着力体が前記ハウジングに連結されると共に前記固定体が支持部材に連結されていて、前記歪みゲージを用いてタイヤの転がり抵抗力を計測可能に構成されており、
前記軸受部で発生した熱に伴って前記多分力計測センサが固定されている側のハウジング端部が径方向に変形することを抑制すべく、当該ハウジングを周方向に亘って冷却する冷却手段が設けられていて、
前記冷却手段は、前記ハウジングの外周面に沿って、ハウジングの周方向および軸方向に亘って形成された冷媒流路を備えており、前記冷媒流路に沿って冷却用の冷媒を流通させることで、ハウジングを冷却するように構成されており、
前記冷媒流路は、前記ハウジングの軸方向で前後に2分割されているとともに当該ハウジングの前半部と当該ハウジングの後半部に、それぞれ独立して形成されていて、それぞれの冷媒流路により、ハウジング前半部とハウジング後半部とが個別に冷却可能とされていることを特徴とするタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニット。
【背景技術】
【0002】
一般的に、タイヤと路面との接触状態を模擬的に作りだしてタイヤが路面から受ける力やモーメントを動的に計測する装置としてタイヤ試験機が知られている。このタイヤ試験機は、スピンドルユニットのスピンドル軸に支持されたタイヤを所定の荷重をもって路面の代わりとなる回転ドラム等に接地させ、回転するタイヤに回転ドラム等から作用する各方向の力(荷重)やモーメントを、スピンドルユニットに組み込まれた多分力計によって計測する構成となっている。
【0003】
例えば、回転ドラムへのタイヤの押し付け方向をz方向、タイヤの進行方向(接線方向)をx方向、タイヤの回転軸に沿った方向をy方向とおいた場合に、z方向を向く力Fz(接地荷重)、x方向を向く力Fx(転がり抵抗力)、y方向を向く力Fy(コーナーリングフォース)、z方向を向く軸回りのモーメントMz(セルフアライニングトルク)、x方向を向く軸回りのモーメントMx(オーバーターニングモーメント)、y方向を向く軸回りのモーメントMy(転がり抵抗モーメント)などを一般的なタイヤ試験機では計測可能となっている。
【0004】
ところで、上述した多分力計にはひずみゲージ式のものがよく利用されている。このひずみゲージ式の多分力計は、例えば特許文献1などに示されるように内周側の着力体と外周側の固定体とを、径方向に沿って伸びる複数の棒状の起歪体を介して連結した構造となっていて、起歪体の変形をひずみゲージで測定することでタイヤに対して作用する力やモーメントを計測できるようになっている。
【0005】
このような多分力計を1個だけ設けたタイヤ試験機としては、例えば特許文献2に示すようなものが知られている。
すなわち、特許文献2のタイヤ試験機は、走行ドラムの外周に試験用のタイヤを押圧接触せしめ、前記タイヤの回転軸中心に取り付けられ軸受けを介してタイヤを支承するスピンドルを備えている。そして、このスピンドルの前記タイヤから所定距離だけ離れた位置に設けた多分力検出器により、タイヤの軸重Fzところがり抵抗Fxとの関係を測定して、タイヤのころがり抵抗測定方法を実施するものである。このタイヤ試験機では、多分力計を介して支持フレームに回転しないように固定されたスピンドル軸の一方の端部に軸受けを介してタイヤが回転自在に取り付けられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2のタイヤ試験機では、タイヤが取り付けられた一方の端部から、多分力計を介して支持フレームに固定されたもう一方の端部まで、スピンドル軸は軸心方向にある程度の長さを備えている。当然、このようなスピンドル軸の一方の端部に押し付け方向に荷重を作用させると、スピンドル軸の他方の端部に設けられた多分力計にも大きなモーメントが発生するため、大きなモーメントに耐えられるような多分力計が採用されることになる。このような多分力計に関しては、作用する大きなモーメントに耐えるために太い起歪体などが採用されることとなり、微小な力変化まで検出できず高精度検出を犠牲にするものとなっていた。
【0008】
一方、転がり抵抗試験装置では、スピンドル軸に作用する微小な力変化を高精度に検出する必要があるため、装置で使用される多分力計に関しては、可能な限り細い起歪体を採用することが望ましい。
そこで、本発明者は、多分力計の位置をタイヤに近づけ、多分力計に加わるモーメントを小さくしようとした。ところが、多分力計の位置をタイヤに近づけると、軸受部で発生する熱の影響が非常に大きくなり多分力計の精度を低下させてしまうことが分かった。そこで、本発明者は、多分力計よりも反タイヤ側のハウジング内に軸受部を設けてスピンドル軸を回転自在に支持するとともに、軸受部の潤滑油を循環させて軸受部を積極的に冷却する冷却機構を設けることを試みた。しかしながら、軸受部で発生する熱は非常に大きいため、冷却機構を設けても軸受で発生する熱の影響を十分に除去できない場合があった。さらには、熱の除去を意図し多量の潤滑油を供給すると、潤滑油が攪拌熱で加熱されてかえって軸受部で熱が発生する場合もあることが判明した。
【0009】
本発明者等は、更に検討を重ね、特に、スピンドル軸に押し付け力が軸と垂直な方向に作用すると、スピンドル軸を支持する軸受部の周方向の一部だけに熱が発生しやすく、軸受部が設けられているハウジングの周方向の一部が径方向に大きめに熱変形して、多分力計の精度を低下させることを知見するに到った。そして、発熱した軸受部を潤滑油で積極的に冷却しなくても、軸受部とハウジングとの双方を全周に亘って冷却することで多分力計の精度を向上させ得ることを知見して本発明を成したものである。
【0010】
本発明は、ハウジングに対する熱変形を抑制して、タイヤに加わる力やモーメントを精度良く測定できるようにしたタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットは以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明のタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットは、タイヤを装着可能なスピンドル軸と、軸受部を介して該スピンドル軸を回転自在に支持するハウジングと、前記スピンドル軸の軸方向でタイヤ側を向く前記ハウジングの端部に固定されると共に前記スピンドル軸に作用する荷重を計測可能な1つの多分力計測センサと、を備え、前記多分力計測センサは、内周側に設けられた着力体と、この着力体の外周側に配備された固定体と、前記着力体と固定体とを径方向に連結する複数の起歪体と、この起歪体に設けられた歪みゲージとを有しており、前記着力体が前記ハウジングに連結されると共に前記固定体が支持部材に連結されていて、前記歪みゲージを用いてタイヤの転がり抵抗力を計測可能に構成されており、前記軸受部で発生した熱に伴って前記多分力計測センサが固定されている側のハウジング端部が径方向に変形することを抑制すべく、当該ハウジングを周方向に亘って冷却する冷却手段が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
なお、好ましくは、前記冷却手段は、前記ハウジングの外周面に沿って、ハウジングの周方向および軸方向に亘って形成された冷媒流路を備えており、前記冷媒流路に沿って冷却用の冷媒を流通させることで、ハウジングを冷却するように構成されているとよい。
なお、好ましくは、前記冷媒流路は、前記ハウジングの外周面に沿って螺旋状に形成されているとよい。
【0013】
なお、好ましくは、前記冷媒流路は、螺旋状に複数回に亘って周回するように配備されているとよい。
なお、好ましくは、前記冷媒流路は、前記ハウジングの軸方向で前後に2分割されているとともに当該ハウジングの前半部と当該ハウジングの後半部に、それぞれ独立して形成されていて、それぞれの冷媒流路により、ハウジング前半部とハウジング後半部とが個別に冷却可能とされているとよい。
また、本発明に係る多分力計測スピンドルユニットの最も好ましい形態は、タイヤを装着可能なスピンドル軸と、軸受部を介して該スピンドル軸を回転自在に支持するハウジングと、前記スピンドル軸の軸方向でタイヤ側を向く前記ハウジングの端部に固定されると共に前記スピンドル軸に作用する荷重を計測可能な1つの多分力計測センサと、を備え、前記多分力計測センサは、内周側に設けられた着力体と、この着力体の外周側に配備された固定体と、前記着力体と固定体とを径方向に連結する複数の起歪体と、この起歪体に設けられた歪みゲージとを有しており、前記着力体が前記ハウジングに連結されると共に前記固定体が支持部材に連結されていて、前記歪みゲージを用いてタイヤの転がり抵抗力を計測可能に構成されており、前記軸受部で発生した熱に伴って前記多分力計測センサが固定されている側のハウジング端部が径方向に変形することを抑制すべく、当該ハウジングを周方向に亘って冷却する冷却手段が設けられていて、前記冷却手段は、前記ハウジングの外周面に沿って、ハウジングの周方向および軸方向に亘って形成された冷媒流路を備えており、前記冷媒流路に沿って冷却用の冷媒を流通させることで、ハウジングを冷却するように構成されており、前記冷媒流路は、前記ハウジングの軸方向で前後に2分割されているとともに当該ハウジングの前半部と当該ハウジングの後半部に、それぞれ独立して形成されていて、それぞれの冷媒流路により、ハウジング前半部とハウジング後半部とが個別に冷却可能とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタイヤ試験機の多分力計測スピンドルユニットによれば、ハウジングに対する熱変形を抑制して、タイヤに加わる力やモーメントを精度良く測定できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を、図を基に説明する。なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
図1(a)及び
図1(b)は、本実施形態に係る多分力計測スピンドルユニット1が設けられたタイヤ試験機2を模式的に示している。
【0017】
タイヤ試験機2はモータなどにより回転する円筒状の回転ドラム3を備えている。また、タイヤ試験機2は、タイヤTを取り付けるスピンドル軸4と、スピンドル軸4を回転自在に支持すると共に荷重やモーメントを計測する多分力計測スピンドルユニット1とを備えている。上述したタイヤ試験機2では、スピンドル軸4に取り付けられたタイヤTを、回転する回転ドラム3に接触させることで、走行状態にあるタイヤTの動的特性、例えば、タイヤTの転がり抵抗などが測定される。
【0018】
図2に模式的に示すように、多分力計測スピンドルユニット1は、軸受部5を介して上述したスピンドル軸4を回転自在に支持する円筒状のハウジング6を備えている。また、ハウジング6の外側には、ハウジング6と同軸な円筒状の孔が形成されると共に多分力計測スピンドルユニット1を支持する支持フレーム7(支持部材)が設けられている。さらに、多分力計測スピンドルユニット1には、スピンドル軸4の軸心方向でタイヤ側を向くハウジング6の端部に多分力計測センサ9が固定されている。多分力計測センサ9は、ハウジング6を介して支持フレーム7に作用する荷重、すなわちタイヤTを介してスピンドル軸に作用する様々な荷重を計測可能に設けられている。
【0019】
なお、
図1(b)に示すように配備されたタイヤ試験機2において、紙面の左右方向(タイヤの進行方向x)を、多分力計測スピンドルユニット1を説明する際の左右方向という。また、同じく
図1(b)のタイヤ試験機2において、紙面貫通方向(タイヤ軸に沿った方向y)を、多分力計測スピンドルユニット1を説明する際の前後方向という。さらに、
図1(b)のタイヤ試験機2において、紙面の上下方向(回転ドラム3に対するタイヤTの押し付け方向z)を、多分力計測スピンドルユニット1を説明する際の上下方向という。
【0020】
次に、本発明の多分力計測スピンドルユニット1を構成するスピンドル軸4、ハウジング6、支持フレーム7、軸受部5、及び多分力計測センサ9について、それぞれ説明する。
図2は、本発明の多分力計測スピンドルユニット1を模式的に示したものである。
図2に示すように、本実施形態の多分力計測スピンドルユニット1は、軸心が水平方向を向く長尺棒状のスピンドル軸4を備えている。スピンドル軸4の一端側(
図2の左側)には図示しないリムを介してタイヤTが取り付けられている。スピンドル軸4は、ハウジング6に対して回転自在となっている。
【0021】
ハウジング6は、軸心が水平方向を向く円筒状に形成されており、その内部には上述したスピンドル軸4が水平方向に軸心を向けて挿入されている。ハウジング6とこのハウジング6に挿入されるスピンドル軸4との間には、ハウジング6に対してスピンドル軸4を回転自在に支持する複数の軸受(軸受部5)が設けられている。すなわち、多分力計測スピンドルユニット1には、スピンドル軸4の長手方向の中途部に複数の軸受部5が軸心方向に並んで設けられている。そして、これら複数の軸受(軸受部5)を介してスピンドル軸4はハウジング6により回転自在に支持されている。
【0022】
ハウジング6の外周側には、後述する多分力計測センサ9を介してハウジング6を支持する支持部材として支持フレーム7が設けられている。本実施形態の支持フレーム7は、ハウジング6を収容可能な収容部8を有するとともに多分力計測センサ9が固定される円筒状の部材と、この円筒状の部材から上下左右に向かって伸びる略板状の部材とで構成されている。支持部材は、前述のように複数の部材を組み合わせたものであっても良いし、一体物であっても良い。本実施形態では、収容部8は、ハウジング6と同軸となるようにその軸心を水平方向に向けた円筒状の孔として形成されており、孔の軸心を水平方向に向けた状態でハウジング6を収容可能となっている。
【0023】
図2に示すように、複数の軸受部5はラジアル方向及び/又はスラスト方向の荷重を受けられるようになっており、本実施形態の多分力計測スピンドルユニット1には4つの軸受部5が設けられている。4つの軸受部5は、スピンドル軸4の軸方向(y方向)に沿って所定の間隔をあけつつ並んで配備されており、ハウジング6の前後両側に分かれて配備されている。それぞれの軸受部5の間には、それぞれの軸受部5を軸心方向に沿った所定の位置に位置決めするスペーサ10が配備されている。
【0024】
図4に拡大して示すように、上述したハウジング6及び支持フレーム7の前端側には、支持フレーム7の外側から支持フレーム7及びハウジング6を径方向に貫通するようにエア配管11が設けられている。また、このエア配管11よりも軸方向の後端側には、スピンドル軸4の表面に接触することなく潤滑油をシールする非接触シール12(ラビリンスシール)が設けられている。非接触シール12を設けることにより、接触シールを用いる場合のようなシール部の温度変化に伴うシール抵抗変化に起因する測定誤差を無くすことができる。また、同様の作用効果を奏する非接触シール12(ラビリンスシール)がハウジング6の後端側にも設けられている。また、エア配管11は、支持フレーム7の外側から高圧エアをスピンドル軸4とハウジング6との間に導き、高圧エアを非接触シール12に向けて作用させる。この高圧エア及び非接触シール12の作用により、軸受部5に供給された潤滑油が外部に漏れ出ることを防止するものとしている。
【0025】
なお、図示は省略するが、多分力計測スピンドルユニット1には、軸受部5に供給された潤滑油を回収するオイル回収路や、必要に応じて作動させる図外の吸引手段に接続されて、非接触シール12から意図せずに漏れ出た潤滑油を回収する
図2、
図4に示すようなオイル回収路26が設けられていてもよい。また、上記同様の作用効果を奏するエア配管、吸引手段およびオイル回収路26が、ハウジング6の後端側に設けられている非接触シール(ラビリンスシール)よりも更にハウジング後端側に設けられてもよいことは言うまでもない。
【0026】
図4は、多分力計測スピンドルユニット1の前部(タイヤ側)の断面構造を拡大して示したものである。
上述したハウジング6の前端面と支持フレーム7の前端面との間には、両面に跨るようにして1つの多分力計測センサ9(ロードセル)が配備されている。具体的には、ハウジング6の前端面と支持フレーム7の前端面との間には、両部材を連結するように、多分力計測センサ9が配備される。
【0027】
図3(a)に示すように、本実施形態の多分力計測センサ9は、略円盤状の外観を備えており、1つの多分力計測スピンドルユニット1に対して1つずつ配備されており、着力体13、固定体14、これら両者を繋ぐ起歪体15とから構成されている。
多分力計測センサ9は、その中央部にリング形状の着力体13を有している。このリング形状に形成された着力体13の開口中央をスピンドル軸4が遊嵌状態で貫通している。
【0028】
この着力体13の径外側には、着力体13の外径より大きな内径を有するリング形状の固定体14が配備されている。着力体13と固定体14とは互いに同軸心となるように配備されていて、内周側の着力体13と外周側の固定体14とは、複数の起歪体15で径方向に連結されている。本実施形態の多分力計測センサ9では、これらの起歪体15は、着力体13から上方、左方、下方、右方の4方向に向かって径方向に放射状に伸びる角棒状に形成されており、スピンドル軸4の軸心回りに4つ設けられている。
【0029】
多分力計測センサ9の着力体13と上述したハウジング6の前端面とはボルト等の締結具(図示略)により強固に固定されていて、スピンドル軸4→軸受部5→ハウジング6の順に伝達された力を着力体13に伝達できるようになっている。また、多分力計測センサ9の固定体14と支持フレーム7の前端面との間にもボルト等の締結具(図示略)が設けられていて、両者は強固に結合されており、スピンドル軸4から支持フレーム7に伝達する力(タイヤに作用する様々な荷重)をその伝達経路の途中に設けられた起歪体15に発生する歪みにより計測できるようになっている。
【0030】
図3(a)に示すように、それぞれの起歪体15には、厚みが薄くなっている薄肉部分が設けられていて、着力体13と固定体14との間に力が作用するとこの薄肉部分が起点となって起歪体15が変形するようになっている。また、それぞれの起歪体15には力やモーメントを検知可能な歪ゲージ16が貼り付けられている。この歪ゲージ16には、着力体13に近い側に貼り付けられて並進荷重を計測する歪ゲージ16と、固定体14に近い側に貼り付けられてモーメントを計測する歪ゲージ16とがある。
【0031】
つまり、本発明の多分力計測スピンドルユニット1においては、ハウジング6(支持フレーム7)のタイヤ側の端部に配備された多分力計測センサ9を用いて、x、y、x方向の並進荷重(fx、fy、fz)と、x軸、y軸、z軸回りのモーメント(mx、my、mz)との6分力を計測可能となっている。
図3(a)及び
図3(b)に示すように、本実施形態のロードセル9では起歪体15の太さは等しく形成しているが、特に、上述した6分力のなかでも転がり抵抗fxはタイヤTの特性を評価する上で重要であるため、本発明の多分力計測スピンドルユニット1においては、上下方向に伸びる起歪体15の薄肉部分を左右方向に伸びる起歪体15の薄肉部分より細く(薄く)形成してもよい。このようにすれば、従来のように全ての起歪体15を同一で太く形成する場合と比べて、x方向に小さな荷重が加わった場合においても上下方向に伸びる起歪体15が変形し易く、転がり抵抗fxを高感度に計測することができるようになる。つまり、本発明の多分力計測スピンドルユニット1では、高感度な細い起歪体を採用して、タイヤの転がり抵抗を高感度に測定するに好適な試験装置とすることができる。
【0032】
このようにして起歪体15の歪ゲージ16で計測されたアナログ信号は、ノイズが乗らないようにロードセル16の近くに配備されたアンプ(図示略)に入力されて増幅、A/D変換され、アンプに内蔵された処理部(パソコン)により校正行列などの校正式を用いて校正されて、転がり抵抗fxなどが算出される。
ところで、上述した特許文献2のタイヤ試験機においては、スピンドル軸(5:括弧内の符号は特許文献2における符号を参考として示したもの。)は軸心方向にある程度の長さを備えているので、このようなスピンドル軸(5)の一方の端部に押し付け方向(軸垂直方向)に荷重を作用させ、スピンドル軸(5)の他方の端部で力やモーメントなどを計測しようとすると、多分力計測センサ(4)に大きなモーメントが作用する。それゆえ、このようなタイヤ試験機に用いる多分力計測センサ(4)に関しては、作用する大きなモーメントに耐えるために太い起歪体などが採用されており、微小な力変化まで検出できず検出精度を犠牲にするものとなっていた。
【0033】
斯かる難点を回避すべく、多分力計測センサ(4)の位置をタイヤTに近づけ、多分力計に加わるモーメントを小さくすることもできるが、このように多分力計測センサ(4)の位置を軸受部(10)が設けられているタイヤに近づけると、軸受部(10)で発生する熱やそれに伴う熱変形が多分力計測センサの精度を低下させる。本実施形態の図に示すように、多分力計9に加わるモーメントを小さくするべく、多分力計9よりも反タイヤ側のハウジング6内に複数の軸受部を設けてスピンドル軸4を回転自在に支持するとともに、軸受部5の潤滑油を循環させるなどして軸受部5を積極的に冷却する冷却機構を別途設けることもできるが、軸受部で発生する熱は非常に大きいため、冷却機構を設けても軸受で発生する熱(特にはタイヤに近い側の軸受けで発生する熱)を十分に除去できない場合があることが実験を通して分かっている。また、熱の除去を意図し多量の潤滑油を供給すると、潤滑油が攪拌熱で加熱されてかえって軸受部5で熱が発生する場合もあることが実験を通して分かっている。
【0034】
さらに、スピンドル軸4に押し付け力が軸と垂直な方向に作用すると、スピンドル軸4を支持する軸受部5の周方向の一部だけに熱が発生しやすく、このように軸受部5の周方向の一部だけに発生した熱は、軸受部5とこの軸受部5を外套するハウジング6との双方について周方向の一部だけを大きめに熱変形(特に径方向の変形)させ、多分力計の精度を低下させることになる。
【0035】
そこで、本発明の多分力計測スピンドルユニット1には、軸受部5で発生した熱に伴ってハウジング6の周方向の一部が径方向に変形することを抑制すべく、ハウジング6を周方向に亘って冷却する冷却手段17が設けられている。
具体的には、
図2に示すように、この冷却手段17は、外側からハウジング6に対して冷媒を送り込んで、ハウジング6を内部から直接冷却する構成となっている。冷媒は、ハウジング6の外周面に沿ってハウジング6の周方向および軸方向に亘って形成された冷媒流路18、より具体的にはハウジング6の軸心の回りを螺旋状に複数回に亘って周回するように形成された冷媒流路18を経由して流通し、ハウジング6自体を周方向及び軸方向に亘って可及的に均等な温度となるように冷却するものとなっている。
【0036】
以下、本実施形態の冷却手段17及びこの冷却手段17を構成する冷媒流路18について説明する。
図2に示すように、本実施形態の多分力計測スピンドルユニット1では、ハウジング6は、軸方向にほぼ同じ設置長さとなる前後で別系統の冷媒流路18を備えた構造となっている。
【0037】
すなわち、上述した冷媒流路18は、ハウジングの前側(ハウジング前半部)6Fとハウジングの後側(ハウジング後半部)6Rとの双方にそれぞれ独立して形成されている。
例えば、ハウジング前半部(以下、単に前半部という。)6Fにおいては、その外周面に軸方向に沿って(前半部6Fの前端側から後端側にかけて)螺旋状の溝18Fが周回形成されている。この螺旋状の溝18Fは前半部6Fの前端側から後端側へ交差することなく1条のまま連続して形成されており、この1条の螺旋状の溝18Fが冷媒流路18とされている。なお、冷媒流路18を形成する螺旋状の溝18Fは、1条に限定されず、2条以上であってもよい。また、冷媒流路18は、多分力計測センサが固定されている側のハウジング端部が熱で径方向に変形することを抑制すべく、ハウジング6を周方向に亘って冷却するものであれば外周面に沿ってどのような位置に設けられていても良いが、少なくとも前半部6Fに配備される軸受部5を外套する位置に形成されることが好ましく、前半部6Fとハウジング後半部6R(以下、単に後半部という。)に配備される軸受部5を外套する位置にそれぞれ別系統で形成されることがより好ましい。さらに前半部6Fと後半部6Rにそれぞれ別系統で形成される冷媒流路18は、それぞれ対応する前半部6Fと後半部6Rの軸方向の略全域に亘って形成されることがより好ましく、それにより冷媒流路18がハウジング6の軸方向の略全域に亘って形成されることになる。
【0038】
前半部6Fの外周面に形成された冷媒流路18の一方端(前方端)は、前半部6Fの内部を連通する連通流路(第1連通流路19)に繋がっている。この連通流路19は、前半部6Fの周壁内部に軸心方向に沿って形成されており、ハウジング6の外部に繋がるものとなっている。同じように、前半部6Fの冷媒流路18の他方端(後方端)は、前半部6Fの内部を連通する連通流路(第2連通流路20)に繋がっている。第2連通流路20は、第1連通流路19とは別の流路であって、前半部6Fの周壁内部に軸心方向に沿って形成されており、ハウジング6の外部に繋がるものとなっている。
【0039】
第1連通流路19を介して導入された冷媒は、冷媒流路18(18F)の前方端へ達した後、冷媒流路18(18F)を流れながら、前半部6Fの表面近傍を周回し外周面側からこの前半部6Fを周方向に亘って冷却する。冷媒流路18(18F)の後端へ達した冷媒は、第2連通流路20を介してハウジング6の外側へ排出される。冷媒の導入方向は、上記の逆の流れ、すなわち第2連通流路20→冷媒流路18→第1連通流路19であってもよい。
【0040】
一方、後半部6Rの外周面に形成された冷媒流路18の構成、冷媒の流通態様も、前半部6Fの場合と略同様である。
つまり、後半部6Rにおいては、その外周面に沿って、後半部6Rの後端側から前端側にかけて螺旋状の溝18Rが形成されている。そして、この1条の螺旋状の溝18Rが上述した冷媒流路18とされている。後半部6Rの外周面側に形成された冷媒流路18(18R)の前端および後端は、後半部6Rの周壁内部を連通する連通流路(第3連通流路21、第4連通流路22)により、ハウジング6の外部と繋がっている。
【0041】
第3連通流路21を介して導入された冷媒は、冷媒流路18(18R)の後端へ達した後、冷媒流路18を流れながら、後半部6Rの表面近傍を周回し外周面側からその後半部6Rを周方向に亘って冷却する。冷媒流路18(18R)の前端へ達した冷媒は、第4連通流路22を介してハウジング6の外側へ排出される。冷媒の導入方向は、上記の逆であってもよい。
【0042】
なお、上述するような螺旋状の冷媒流路18(18F、18R)を、ハウジング6の外周面に形成するには、例えば、次のような加工を行えばよい。
すなわち、
図4に示すように、上述したハウジング6を、円筒状のハウジング本体24と、このハウジング本体24に外套する円筒状で薄肉の外殻体25と、から構成するとよい。その上で、ハウジング本体24の外周面に軸心方向に沿って螺旋周回状の溝を加工する。このとき加工される溝の幅や深さ、ピッチなどは、ハウジング6の大きさや冷却能に応じて適宜変更可能である。その後、ハウジング本体24に外殻体25を嵌め込み、溝の開口を外殻体25で被覆する。その際、必要に応じてハウジング本体24と外殻体25との間に両者の端部をシールするシール部材を設けてもよく、ハウジング本体24に外殻体25を溶接して両者の端部をシールしてもよい。このようにすることで、ハウジング6の外周面(正確には、表面直下の内部)に沿って冷媒流路18を形成することができる。
【0043】
また、冷媒流路18に流される冷媒としては、代替フロンのような有機化合物のクーラントを用いることができる。有機化合物のクーラントに代えて、水や油を用いても良い。この冷媒は、タイヤ試験機2の外部に設けられた図示しない冷却装置などで冷却されて、冷媒流路18に供給されている。
上述したようにハウジング6には、多分力計測センサ9が固定されている側の端部が径方向に変形することを抑制すべくハウジング6を周方向に亘って冷却する手段を設けられている。より具体的には、ハウジング6には、冷媒流路18が、少なくとも多分力センサ9が固定されている側のハウジングの前半部を周方向および軸方向に亘って形成されるように、ハウジングの外周面に沿って螺旋状に複数回に亘って周回するように配備されている。このような冷媒流路に冷媒を流通させることで、少なくとも多分力センサ9が固定されている側のハウジング6の端部の周方向の温度ムラを抑制することができる。その結果、多分力計測センサ9が固定されている側のハウジング6の端部において周方向の一部だけが他の部分に比べて高温になること(周方向の大きな温度差)がなくなり、多分力計測センサ9が固定されている側のハウジング6の周方向の一部だけが径方向に向かって伸びることがなくなる。つまり、このハウジング6に連結された多分力計測センサ9にもその伸びの差に起因する誤差成分が作用することもなくなる。それゆえ、軸受部5で発生した熱によるハウジング端部の歪が原因で多分力計測センサ9の精度が低下することもない。
【0044】
さらに、螺旋状に複数回に亘って周回する冷媒流路18をハウジング6の軸方向の略全域に亘って配備して、その冷媒流路18に冷媒を流通させれば、ハウジング6を周方向及び軸方向に亘って全域でムラなく冷却することが可能となる。その結果、軸受部5で発生した熱によるハウジング6の歪をより確実に抑制することができる。
また、冷媒流路18をハウジング前半部6Fとハウジング後半部6Rとに軸心方向に2分割しておいて、それぞれ独立した冷媒流路18に対して個別に冷媒を供給すれば、ハウジング6の発熱状況に合わせてハウジング前半部6Fとハウジング後半部6Rをそれぞれ独立に冷却することが可能となる。例えば、スピンドル軸4に加わる力の分布や軸受部5の配置によっては、ハウジングの前側部分がハウジングの後側部分より大きく発熱する場合が考えられる。このような場合、ハウジングの前側部分(前半部6F)を流通する冷媒の流量をハウジングの後側部分(後半部6R)のものより大きくすることで、発熱の大きいハウジング6の前側部分を効果的に冷却することができ、多分力計の精度低下をより確実に防止することが可能となる。
【0045】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。例えば、今回開示された実施形態においては、回転ドラムを用いたタイヤ試験機を例示しているがこれに限らない。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0046】
なお、上述した軸受部5を設ける場合には、ベアリングナットなどを用いて前後2つの軸受部5に対して軸方向に適切な予圧を加えるのが望ましい。このように適切な予圧を加えれば、軸受部5の転動体と転動面との間に隙間ができることを防止でき、転動体の変形も生じにくくなって、軸受部5の発熱を小さいものに留めることができるからである。
また、上述した多分力計測センサ9は、6分力計以外のもの、すなわち3分力計でも5分力計でも良い。今回開示された実施形態においては、ハウジングの後側の軸部のシールについては特に説明していないが、ハウジングの後側の軸シールと同様の非接触シール(ラビリンスシール)を設けることができる。このようにすれば、ハウジングの後側のシール部の温度変化に伴うシール抵抗変化に起因する測定誤差を無くすことができる。
【0047】
また、冷媒流路18への冷媒の供給は、ハウジング6の外周側に接続した管路によって行ってもよい。その場合、支持フレーム7を径方向に非接触状態で貫通するように冷媒供給用の管路を設けることが望ましい。同様に、冷媒流路18からの冷媒の排出は、ハウジング6の外周側に接続した管路によって行ってもよい。その場合、アウタースリーブ7に非接触状態となるように冷媒排出用の管路を設けることが望ましい。このように管路を設けることにより、ハウジング内部に流路を形成するよりもハウジング6の周方向の温度をより均一に冷却し易いものとなる。