(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5781131
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】インボリュート歯形の加工方法およびその加工機の制御装置
(51)【国際特許分類】
B23F 19/05 20060101AFI20150827BHJP
B23F 19/06 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
B23F19/05
B23F19/06
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-183952(P2013-183952)
(22)【出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2015-51466(P2015-51466A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119644
【弁理士】
【氏名又は名称】綾田 正道
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩司
【審査官】
五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−131819(JP,A)
【文献】
特開平10−094920(JP,A)
【文献】
特開2000−117542(JP,A)
【文献】
特開2002−126947(JP,A)
【文献】
特開2004−209575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 19/05
B23F 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インボリュート歯形の複数の歯を有する研削工具または切削工具と、インボリュート歯形の複数の歯を有するワークと、を切込み送り方向に相対移動させ、前記工具と前記ワークとを圧接させた状態で相対回転させることにより前記ワークの歯を加工するインボリュート歯形の加工方法において、
前記ワークの1回転毎の歯の法線方向の加工代に基づいて前記切込み送りの速度を設定するようにした、
ことを特徴とするインボリュート歯形の加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載のインボリュート歯形の加工方法において、
加工前の前記ワークの基礎円上の円弧歯厚と加工後の前記ワークの基礎円上の円弧歯厚との差から、最終的な前記ワークの歯の法線方向の加工代を算出し、
前記加工前の前記ワークおよび前記工具間の軸間距離と前記加工後の前記ワークおよび前記工具間の軸間距離との差から、加工前後の軸間距離差を算出し、
前記ワークの1回転毎の歯の法線方向の加工代と前記ワークの回転速度と前記加工前後の軸間距離差との積を、前記最終的な前記ワークの歯の法線方向の加工代で除算することにより前記切込み送りの速度を設定するようにした、
ことを特徴とするインボリュート歯形の加工方法。
【請求項3】
インボリュート歯形の複数の歯を有する研削工具または切削工具と、インボリュート歯形の複数の歯を有するワークと、を切込み送り方向に相対移動させ、前記工具と前記ワークとを圧接させた状態で相対回転させて前記ワークの歯を加工するインボリュート歯形の加工機の制御装置において、
予めユーザにより設定された前記ワークの1回転毎の歯の法線方向の加工代に基づいて前記切込み送りの速度を算出する切込み速度算出手段を備えた、
ことを特徴とするインボリュート歯形の加工機の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のインボリュート歯形の加工機の制御装置において、
前記ワークの諸元に基づき、加工前の前記ワークの基礎円上の円弧歯厚と加工後の前記ワークの基礎円上の円弧歯厚との差を算出し、該差から最終的な前記ワークの歯の法線方向の加工代を算出し、
前記ワークおよび前記工具の諸元に基づき、前記加工前の前記ワークおよび前記工具間の軸間距離と前記加工後の前記ワークおよび前記工具間の軸間距離との差を算出し、該差から加工前後の軸間距離差を算出し、
前記ユーザにより設定された前記ワークの1回転毎の歯の法線方向の加工代と、ユーザにより設定される前記ワークの回転速度と、前記算出された加工前後の軸間距離差と、の積を、前記算出された最終的な前記ワークの歯の法線方向の加工代で除算して前記切込み送りの速度を算出するようにした、
ことを特徴とするインボリュート歯形の加工機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インボリュート歯形の加工方法およびその加工機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインボリュート歯形の加工方法としては、特許文献1に記載のものが知られている。
この従来のインボリュート歯形の加工方法は、それぞれインボリュート歯形の外歯とこれに噛合する内歯ギヤ状部材を回転可能に支持し、これら両部材を圧接する方向に相対移動させながら噛合させた状態で回転駆動し、一方の部材で他方の部材の歯を加工する。
この場合、同種複数のまたは同一他方のギヤ状部材に対する複数回の加工において、一方の部材または他方の部材の消耗に起因してこれら間の中心間距離が変動する場合に、この中心間距離の増大に応じて切込み送り量を小さく設定している。また、切込み送り量を、他方の部材の歯厚方向の加工代が、上記複数回にわたって一定となるように設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−94920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記特許文献1では「歯厚」の定義が明確に定義されていないが、「歯厚」とは、たとえば「機械用語辞典」(機械用語辞典編集委員会編株式会社コロナ社 昭和47年9月30日発行)によれば、「歯車の歯の厚さはその測り方によって円弧歯厚、弦歯厚、またぎ歯厚と区別される。狭義には円弧歯厚をさす。」とあり、また「円弧歯厚」とは「ピッチ円上の弧に沿ってはかった歯の厚さをいう。」とある。この円弧歯厚を、図に4示す(同図において歯は8、基礎円は9、ピッチ円は11で示してある)。
【0005】
しかしながら、上記従来のインボリュート歯形の
加工方法においては、歯厚方向の加工代に基づいて切込み
送り量を設定しているが、この場合、
工具やワーク(あるいは別の
工具)のギヤ諸元が変わった場合には実際の加工代は一定とはならず、ギヤ諸元が変わると同じ切込み状態を維持することができず、その都度調整変更する必要があるという問題がある。
【0006】
すなわち、歯厚を基準ピッチ円上の歯厚を指すとすれば、諸元の異なるギヤAとギヤBとを比べた場合、ギヤAで基準ピッチ円上の歯厚方向の加工代をたとえば1とすると、その歯先における歯厚方向の加工代はたとえば1.4となるのに対し、ギヤBで基準ピッチ円上の歯厚方向の加工代をたとえば1とすると、その歯先における歯厚方向の加工代はたとえば1.2となる。
また、基準ピッチ円上の歯厚方向の加工代を、ギヤAとギヤBとで同じ加工代、たとえば1としたときであっても、それらの歯の法線方向
の加工代は異なってしまう。
このような問題は、上記歯厚の定義を変えたとしても、生じる。
【0007】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、インボリュート歯形を有するワークのホーニング加工やシェービング加工において、ワーク
や工具の諸元を変えた場合でも、
切込み状態が一定となるようにすることができるインボリュート歯形の加工方法およびその加工機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため、本発明によるインボリュート歯形の加工方法は、
インボリュート歯形の複数の歯を有する研削工具
または切削工具と、インボリュート歯形の複数の歯を有するワークと、を切込み送り方向に相対移動させ、
工具とワークとを圧接させた状態で相対回転させることによりワークの歯を加工するインボリュート歯形の加工方法において、
ワークの1回転毎の
歯の法線方向の加工代に基づいて上記切込み送りの速度を設定するようにした、
ことを特徴とする。
【0009】
また、好ましくは、加工前のワークの基礎円上の円弧歯厚と加工後のワークの基礎円上の円弧歯厚との差から、最終的なワークの歯の法線方向の加工代を算出し、
加工前のワークおよび
工具間の軸間距離と加工後のワークおよび
工具間の軸間距離との差から、加工前後の軸間距離差を算出し、
ワークの1回転毎の
歯の法線方向の加工代とワークの回転速度と加工前後の軸間距離差との積を、最終的なワークの歯の法線方向の加工代で除算することにより切込み送りの速度を設定するようにする。
【0010】
また、本発明によるインボリュート歯形の加工機の制御装置は、
インボリュート歯形の複数の歯を有する研削工具
または切削工具と、インボリュート歯形の複数の歯を有するワークと、を切込み送り方向に相対移動させ、
工具とワークとを圧接させた状態で相対回転させて
ワークの歯を加工するインボリュート歯形の加工機の制御装置において、
予めユーザにより設定されたワークの1回転毎の歯の法線方向の加工代に基づいて
切込み送
りの速度を算出する切込み速度算出手段を備えた、
ことを特徴とする。
【0011】
また、好ましくは、ワークの諸元に基づき、加工前のワークの基礎円上の円弧歯厚と加工後のワークの基礎円上の円弧歯厚との差を算出し、
この差から最終的なワークの歯の法線方向の加工代を算出し、
ワークおよび
工具の諸元に基づき、加工前のワークおよび
工具間の軸間距離と加工後のワークおよび
工具間の軸間距離との差を算出し、この差から加工前後の軸間距離差を算出し、
ユーザにより設定されたワークの1回転毎の歯の法線方向の加工代と、ユーザにより設定されるワークの回転速度と、算出された加工前後の軸間距離差と、の積を、算出された最終的なワークの歯の法線方向の加工代で除算して
切込み送りの速度を算出するようにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のインボリュート歯形の加工方法にあっては、ワークの1回転毎の
歯の法線方向の加工代に基づいて切込み送りの速度を設定するようにしたので、インボリュート歯形の加工が歯の法線方向に進行し、歯の法線方向でみてその加工代が歯元から歯先まで一定となる。この結果、
工具およびワークの歯車の諸元が変わった場合であっても、同じ切込み状態で加工することができ、その都度変更する必要がなくなる。
【0013】
また、切込み送りの速度を、ワークの1回転毎の
歯の法線方向の加工代とワークの回転速度と加工前後の軸間距離差との積を、最終的なワークの歯の法線方向の加工代で除算することにより設定するよう
にして、ワークおよび
工具の諸元と研削条件
または切削条件(ワークの1回転毎の法線方向取代およびワークの回転数)とから切込み送りの速度を決定するので、簡単な演算で、
工具およびワークの歯車の諸元が変わったとしても、同じ切込み状態で加工することができ、またユーザの切込み送りの速度設定のための工数を削減することができる。
【0014】
また、本発明のインボリュート歯形の加工機の制御装置にあっては、切込み送り速度算出手段を備えるようにしたので、インボリュート歯形の加工が歯の法線方向に進行し、歯の法線方向でみてその加工代が歯元から歯先まで一定となる。この結果、
工具およびワークの歯車の諸元が変わった場合であっても、同じ切込み状態で加工することができ、その都度変更する必要がなくなる。
【0015】
また、切込み送り速度算出手段が、切込み送りの速度を、ワークの1回転毎の
歯の法線方向の加工代とワークの回転速度と加工前後の軸間距離差との積を、最終的なワークの歯の法線方向の加工代で除算することにより設定するよう
にして、ワークおよび
工具の諸元と研削条件
または切削条件(ワークの1回転毎の法線方向取代およびワークの回転数)とから切込み送りの速度を決定するので、簡単な演算で、
工具およびワークの歯車の諸元が変わったとしても、同じ切込み状態で加工することができ、またユーザの切込み送りの速度設定のための工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1の制御装置を含むインボリュート歯形の加工機の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】実施例1の加工機において研削工具であるホーニング砥石とワークとの関
係を模式的に示す図である。
【
図3】実施例1の加工機の制御装置で実行する加工制御のフローチャートを示す図である。
【
図6】実施例1のホーニング加工における噛合幾何を説明する図である。
【
図7】本発明の実施例2の制御装置を含むインボリュート歯形の加工機における、
切削工具であるシェービングカッタとワークとの関
係を模式的に示す図である。
【
図9】実施例2のシェービング加工における噛合幾何を説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、実施例1に係るインボリュート歯形の加工機の制御装置の全体構成を説明する。
この実施例1のインボリュート歯形の加工機は、ホーニング加工機であって、上記従来技術に記載のもの、あるいは他の公知の装置を用いる。ホーニング加工機の具体的構成は、よく知られているので、その詳細は省略し、ここではその全体構成を
図1にブロックで示す。
【0019】
図1に示すように、ホーニング加工機は、入力装置1と、制御装置2と、研削工具回転用モータ3と、ワーク回転用モータ4と、切込み送り用モータ5と、を備えている。
【0020】
入力装置1は、ワークや研削工具などの諸元等を入力し、それらの情報を制御装置2に入力するものである。
制御装置2は、切込速度算出部2a(本発明の切込み速度算出手段に相当)などを備え、後で説明するフローチャートに基づいて、研削工具回転用モータ3、ワーク回転用モータ4、切込み送り用モータ5をそれぞれ制御する制御信号を作り出し、これらへ出力する。
【0021】
研削工具回転用モータ3は、
図2に示す研削工具である、内
歯を有するリング状のホーニング砥石6を回転させるものである。
ワーク回転用モータ4は、
図2に示すワーク(加工してインボリュート歯形の複数個の歯を有する歯車にする)7をこの軸回りに回転させるものである。
切込み送り用モータ5は、
図2に矢印Cで示すようにワーク7をホーニング砥石6の内周面に向けて圧接する方向に、またこの逆の離間する方向に移動させるものである。
【0022】
制御装置2では、
図3に示すフローチャートに基づいてホーニング加工の制御を行う。なお、このフローチャートでは、切込み送り速度は単に切込速度と記載している。
同図において、ステップS1では、新規ワークの準備、すなわちホーニング砥石6やワーク7を加工機に設置する。続いて、ステップS2に進む。
【0023】
ステップS2では、ユーザが入力装置1にワーク7の歯車諸元を入力する。ここで、ワークの歯車諸元としては、歯直角モジュールmn、歯直角圧力角α
n、ねじれ角β、歯数Z、加工前転位係数
x'、加工後転位係数
xである。続いて、ステップS3に進む。
【0024】
ステップS3では、ユーザが入力装置1に研削条件を入力する。ここで、研削条件としては、ワーク7の1回転毎の法線方向取代B (um/rev)、ワーク回転数R(rpm)、全切込み量X(mm)である。ただし、上記Bは予め実験等で設定した値であり、R=(砥石6の歯数/ワーク7の歯数)×砥石6の回転数である。なお、単位umはマイクロメートルすなわちミクロンである、単位rpmは毎分の回転数、単位mmはミリメートルである。続いて、ステップS4に進む。
【0025】
ステップS4では、制御装置2の切込速度算出部2aがワーク7の加工前基礎円上歯直角円弧歯厚Sbn'(mm)を算出する。なお、基礎円とは、インボリュート曲線の基礎となる円をいう。続いて、ステップS5に進む。
【0026】
ステップS5では、ワーク7の加工後基礎円上歯直角円弧歯厚Sbn(mm)を算出する。続いて、ステップS6に進む。
【0027】
ステップS6では、歯直角法線方向取代Sを次式により算出する。
S=(Sbn'−Sbn)/2
続いて、ステップS7に進む。
【0028】
ステップS7では、ユーザが入力装置1に、ホーニング砥石6の新品時の歯車諸元を入力する。続いて、ステップS8に進む。
【0029】
ステップS8では、切込速度算出部2aがワーク加工後歯厚とホーニング砥石6との噛み合いの幾何について計算し、それらの軸間距離a(mm)を算出する。この幾何計算については後で説明する。続いて、ステップS9に進む。
【0030】
ステップS9では、ワーク加工前歯厚とホーニング砥石6との噛み合いの幾何について計算し、それらの軸間距離a'(mm)を算出する。続いて、ステップS10に進む。
【0031】
ステップS10では、ステップS8で算出した軸間距離aおよびステップS9で算出した軸間距離a'に基づいて次式から
軸間距離差A(mm)を求める。
A=abs(a-a')
ここで、absは、絶対値を意味する。
続いて、ステップS11に進む。
【0032】
ステップS11では、切込み送り速度V(mm/min)を次式から算出する。
V=(B・R・A)/(S・1000)
続いて、ステップS12に進む。
【0033】
ステップS12では、制御装置2がワーク7の切込み送り速度Vとなるように
切込み送り用モータ5を駆動制御してワーク7の加工を行う。この加工は、全切込み量がXとなる位置で終了させる。続いて、ステップS13に進む。
【0034】
ステップS13では、研削工具の諸元の変更があったか否かを判定する。判定結果が、YESとなるのは、ホーニング砥石6の場合、ドレスを実施した場合、また砥石6を新品に交換した場合であって、この場合はステップS14に進み、上記の場合以外はNOとしてステップS12に戻る。
【0035】
ステップS14では、砥石6の歯車諸元の設備メモリを書き換える。なお、ドレス後の砥石の歯車諸元は計算で求める。砥石の歯車諸元は、歯直角モジュールmn、歯直角圧力角α
n、ねじれ角β、歯数Z、転位係数
x(転位係数はBBD(シェービングカッタの場合はOBD)、または、またぎ歯厚から算出してもよい)である。続いて、ステップS8に戻る。
【0036】
ここで、上記ステップS8およびS9での噛合幾何計算は、以下の式から求める。
なお、以下の記号で添字1はワーク7の、また添字2は内歯砥石6のものであることを示す。
歯数をZ、基準ピッチ円上のねじれ角(右が+、左が−)をβ、基礎円上ねじれ角(右が+、左が−)をβb、基礎円上すすみ角(右が−、左が+)をγb、歯直角モジュールをmn、軸直角モジュールをmt、歯直角圧力角をαn、軸直角圧力角をαt、歯直角噛合い圧力角をαωn、軸直角噛合い圧力角をαωt、歯直角転位係数をxn、軸直角転位係数をxt、基礎円上
歯直角円弧歯厚をsbn、基礎円上軸直角円弧歯
厚をsbt、基準ピッチ円直径d(=mt・z、ただしmt=mn/cosβ)、基礎円直径をdb、基礎円半径をrb、噛合作用平面交線までの直径をdω、軸交差角をΣ、基礎円上軸直角歯厚半角をΨbt、軸間距離をa、ワーク7と砥石6の噛合作用平面交線間の距離をM、基礎円上軸直角円弧歯隙をWbtとする。
なお、これら諸元を、参考に図
5および
図6に示す。
【0037】
すると、ステップS4で算出するワーク7の加工前の基礎円上円弧歯厚Sbn1'は、
mt1=mn/cosβ1
d1=mt1・Z1
xt1'=xn1'・cosβ1
αt1=tan
-1(Tanαn/Cosβ1)
db1=d1・cosαt1
βb1=tan
-1(db1/d1・Tanβ1)
Ψb1'=π/(2・Z1)+(2・xt1'・Tanαt1/Z1)+invαt1
Stb1'=Ψbt1'・db1
Sbn1'=Sbt1'・Cosβb1
から得られる。
【0038】
一方、ステップS5で算出するワーク加工後の基礎円上円弧歯厚Sbn1は、
mt1=mn/cosβ1
d1=mt1・Z1
xt1=xn1・cosβ1
αt1=tan
-1(Tanαn/Cosβ1)
db1=d1・cosαt1
βb1=tan
-1(db1/d1・Tanβ1)
Ψb1=π/(2・Z1)+(2・xt1・Tanαt1/Z1)+invαt1 (invはインボリュート関数を表す)
Stb1=Ψbt1・db1
Sbn1=Sbt1・Cosβb1
から得られる。
【0039】
ホーニング加工の場合、ワー
ク7の外歯と砥石6の内歯のねじれ歯車噛合幾何計算は以下のようになる。
ホーニング加工は、加工終了時における噛合位置で共通垂線と作用線とが交わるような状態(ワーク7と砥石
6の噛合作用平面交線間距離M=0)になるように計算した軸
交差角Σにて段取りを行い、加工を行う。
αt1、αt2、βb1、βb2を前述の式で算出する。
ε=Σ−90
【0040】
噛合幾何から軸直角噛合圧力角を算出すると、
【数1】
【数2】
したがって、
【数3】
【数4】
となることから、
【数5】
から、ワーク7と砥石6とのワーク加工
後の軸間距離aを算出することができる(ステップS8に相当)。
【0041】
一方、ステップS9で行う、ワーク7と砥石6とのワーク加工前の軸間距離a'を算出するには、以下の演算を行う。
ホーニング加工では、加工終了時での噛合位置で共通垂線と作用線とが交わるような状態になるため、その加工前ではこれらの線は交わらない(M≠0)。そのため、Mを加味して軸間距離a'を算出する必要がある。
【0042】
ねじ歯車の噛み合い性質から、αωt1、αωt2、dω1、dω2の値は上記で計算して得た値と同じとなる。
またワーク7と砥石6との噛合作用平面交線間の距離Mは以下の式から算出する。
内歯を有する砥石6の基礎円上軸直角歯隙は、
【数6】
【数7】
となる。
噛合幾何からバックラッシfnを算出すると、
【数8】
ホーニング加工では、バックラッシが0となる噛合であるので、fn=0と置いてMを導くと、
【数9】
となり、
ワーク加工前の軸間距離a'は、
【数10】
が得られる。
【0043】
以上の説明で分かるように、実施例1の加工機の制御装置および制御方法では、以下の効果が得られる。
砥石6やワーク7の諸元が異なるような場合、同じ回転数と同じ切込み送り速度でホーニング加工を行うと切込み状態、すなわちワーク7の1回転速度毎の加工代が異なってしまうので、従来技術ではそれらの諸元が変わるたびにワーク7の加工精度を確認しながらユーザが試行錯誤により適切な加工条件となるワーク7の切込み送り速度設定しなければならず、工数が大変であったが、実施例1の制御装置および制御方法では、ワーク7の1回転毎の法線方向加工代に基づいて切込み送り速度を設定するようにしたので、歯車諸元等が変わっても適切な加工条件が
簡単に演算で設定されるので、ユーザによる切込み送り速度を設定する工数を削減することができる。
【0044】
その場合、切込み送り速度は、ワーク7および砥石6の諸元と研削条件(ワーク7の1回転毎の法線方向取代Bおよびワーク7の回転数R)とから、簡単かつ短時間で、また適切に設定することができる。
【0045】
次に、他の実施例について説明する。この他の実施例の説明にあたっては、前記実施例1と同様の構成部分については図示を省略し、もしくは同一の符号を付けてその説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
【実施例2】
【0046】
実施例2は、実施例1でホーニング加工機を用いていたのに代えて、歯車シェービング加工機を用いて実施例1と同様の制御を行う。
すなわち、
図7に示すように、ワーク回転用モータで軸回りに回転させるように取り付けたワーク7の外周面に、上記軸に傾きを有する軸回りに
切削工具回転用モータで回転される
切削工具であるシェービングカッタ10の外周面を圧接可能に設け、切込み送り用モータによりワーク7を
図7に矢印Dで示すようにシェービングカッタ10に圧接させる方向・またこの逆に離間させる方向に移動可能とする。
なお、
図1の構成は同じとし、制御方法も砥石6に代えてシェービングカッタ10を用いればよい。
また、シェービングカッタ10の場合、ステップ13で判定結果がYESとなるのは、カッタを再研磨したものに交換した場合、またはカッタを新品に交換した場合である。
【0047】
実施例1の
図5および
図6に対応する実施例2の図を、
図8、
図9にそれぞれ示す。
なお、ここでシェービングカッタの場合の噛合幾何の計算について、以下に説明する。なお、記号については、実施例1と同じものを使用している。
まず、ワーク加工後の軸間距離aは、以下のようにして求められる。
【0048】
ギヤシェービングにあっては、加工終了時の噛合位置で、共通垂線と作用線が交わるような状態(M=0)になるように計算した
軸交差角Σにて段取りをして、加工を行う。
αt1、αt2、βb1、βb2を前述の式で算出する。
ε=Σ−90
噛合幾何により、軸直角噛合い圧力角を算出すると、
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
加工終了時の状態では、M=0なので、
軸間距離aは、
【数15】
となる。
【0049】
一方、ワーク加工前の軸間距離a'は、以下のようにして求められる。
ギヤシェービングは、加工終了時の噛合位置で共通垂線と作用線が交わる状態になるため、加工前ではそれらは交わらない(M≠0)。そのため、ワーク加工前の軸間距離a'は、Mを加味して算出する必要がある。
ねじ歯車の噛み合い性質から、αωt1、αωt2、dω1、dω2の値は上記で計算して得た値と同じとなる。
ワークとカッタの噛合作用平面交線間の距離Mを以下の式で算出する。
【数16】
なお、ηbt2は基礎円上軸直角歯隙半角である。
【数17】
噛合幾何により、バックラッシfnを導出すると、
【数18】
ギヤシェービングはバックラッシが0となる噛合であるので、fn=0と置いてMを導くと、
【数19】
以上の式から、加工前の軸間距離a'が以下の式により算出できる。
【数20】
したがって、実施例2の場合も、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0050】
以上、本発明を上記各実施例に基づき説明してきたが、本発明はこれらの実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0051】
たとえば、上記加工機においては、ワーク7を
ホーニング砥石6、
シェービングカッタ10に対し移動させたが、この逆でもよい。
また、
図3のフローチャートでは、ステップの順番は絶対のものではなく、例えばステップS7をより前に持ってくるなど実質的な変更にならない限り変更してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 入力装置
2 制御装置
2a 切込速度算出部(切込み速度算出手段)
3 研削工具回転用モータ
4 ワーク回転用モータ
5 切込み送り用モータ
6 ホーニング砥石(研削工具)
7 ワーク
8 歯
9 基礎円
10 シェービングカッタ(
切削工具)