特許第5781152号(P5781152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5781152
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】アセトアミノフェン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/167 20060101AFI20150827BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20150827BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20150827BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20150827BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20150827BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   A61K31/167
   A61K9/08
   A61K47/10
   A61K47/12
   A61K47/36
   A61P29/00
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-504256(P2013-504256)
(86)(22)【出願日】2011年4月13日
(65)【公表番号】特表2013-523864(P2013-523864A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】EP2011055786
(87)【国際公開番号】WO2011128364
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2014年3月27日
(31)【優先権主張番号】10159870.4
(32)【優先日】2010年4月14日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508240177
【氏名又は名称】ビー.ブラウン メルズンゲン アーゲー
【氏名又は名称原語表記】B.BRAUN MELSUNGEN AG
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】ジル,ベジャー ファン
(72)【発明者】
【氏名】イグレシアス,ガルシア イエス
【審査官】 井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第02/072080(WO,A1)
【文献】 国際公開第00/048637(WO,A1)
【文献】 特表2009−513682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K47/00−47/48
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アセトアミノフェン
b)ヒドロキシエチルデンプン及び
c)少なくとも1種の浸透圧剤(osmolality agent)
を含む液体注射用組成物。
【請求項2】
更に、緩衝剤を含む請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、4ないし8の範囲のpH値を有する請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は水性である請求項1ないし3の何れか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記浸透圧剤は、2ないし10個の炭素原子を有する脂肪族ポリヒドロキシアルカノールである請求項1ないし4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記浸透圧剤はマンニトールである請求項1ないし5の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
少なくとも請求項1ないし6の何れか1項で定義される液体注射用組成物を含む医薬組成物。
【請求項8】
痛み及び/又は熱の予防及び治療における使用のための請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1項で定義される組成物の製造方法であって、ヒドロキシエチルデンプンの存在下において、溶媒中にアセトアミノフェンを溶解させる工程を含む方法。
【請求項10】
前記溶媒は水性溶媒である請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記アセトアミノフェンは、ヒドロキシエチルデンプンの存在下において、5ないし50
℃の範囲の温度で溶解される請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
脱酸素工程を含まない請求項9ないし11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1ないし8の何れか1項に記載の組成物を含む容器。
【請求項14】
有機ポリマー又はガラスで作られた請求項13記載の容器。
【請求項15】
水溶液中へのアセトアミノフェンの溶解速度を増大させるためのヒドロキシエチルデンプンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセトアミノフェン、ヒドロキシエチルデンプン及び少なくとも1種の浸透圧剤(osmolality agent)を含む液体注射用組成物に関する。さらに、本発明は、前記注射用組成物を含む、痛み及び熱の予防及び治療のための医薬組成物に関する。加えて、本発明はの前記組成物の製造方法並びに前記液体注射用組成物を含む容器に関する。
【背景技術】
【0002】
水分の存在下、及び特に水溶液中のアセトアミノフェン(パラセタモール)は加水分解されて、その後にそれ自身がキニーネ−イミンに転換し得る、p−アミノフェノールになり得ることは、長年にわたって既知であった。パラセタモールの分解の質量は、温度が上昇したとき及び光への曝露において増加する。
【0003】
加えて、溶液のpHの作用として水溶液中のパラセタモールの不安定性が広範に記載されてきた。このように、刊行物“N−アセチル−p−アミノフェノールの水溶液の安定性” (Koshy K.T.及びLach J. I. J.Pharm.Sci.,50巻(1961),113−118頁)によると、水溶液中のパラセタモールは不安定であり、この事実は、主に酸性及び塩基性環境の両方における加水分解と相関する。この分解工程は6付近のpHで最小となる。
【0004】
加水分解の他に、パラセタモール分子は、独立して窒素原子含有ポリマーの生成をともなって容易に重合し得るキニーネ−イミンの形成を含む別の種類の分解を受ける。
【0005】
これらポリマー及び特にN−アセチル−p−ベンゾキノン−イミン(NAPBQI)から生じるものは、更に、細胞毒性及び溶血作用を顕著に与えるパラセタモールの毒性代謝物として記載されてきた。
【0006】
当技術分野において及び薬務規制に特異的な品質管理要件の観点において、水溶液中のパラセタモールの安定性は、従って、不十分であり及び注射用液体医薬組成物の製剤を許容しない。結果として、パラアセタモールに基づく非経口投与のための液体医薬製剤の成功した配合物は未だ達成されていない。
【0007】
数多くの試みが、水溶液中におけるパラアセタモールの分解を遅くするために行われてきた。幾つかの研究において、EDTAの添加はパラアセタモールの分解の速度を遅くするために使用された。
【0008】
米国特許第6,028,222号明細書は、基本的に、緩衝剤及びフリーラジカルスカベンジャー及びラジカル拮抗剤からなる群の少なくとも一種を含む水性媒体中に分散されたアセトアミノフェンから構成される液体製剤を開示する。分解を防止するために、アセトアミノフェン溶液は、水性製剤を通して窒素などの水不溶性不活性ガスのバブリングにより脱酸素化される。
【0009】
国際公開第2004/071502号パンフレットは、パラセタモール、水性溶媒、4.5乃至6.5のpKaを有する緩衝液、等張剤並びにパラセタモール二量体を含有するパラセタモールの注射用液体医薬製剤を開示する。このパラセタモール二量体はパラセタモールを含む水性製剤のための安定剤として使用される。
【0010】
国際公開第2009/047634号パンフレットは、アセトアミノフェン200乃至1400mg、及びマンニトール200乃至10000mgを含むアセトアミノフェンの水性製剤を開示する。分解に対して該製剤を安定化させるために、ポビドン並びにリン酸二水素ナトリウムが使用される。
【0011】
欧州特許出願公開第1992334号明細書は、パラセタモール及び水性溶媒を含む製剤の酸化に対して安定である液体であって、該製剤は5.0及び6.0間のpH及び2ppmより低い酸素濃度によって特徴付けられる液体を開示する。したがって、記載された製剤は、パラセタモール製剤を安定させるために脱酸素工程を必ず要求されている。
【0012】
欧州特許出願公開第1752139号明細書は、パラセタモール及びアスコルビン酸、N−アセチル−L−システイン及びSH基含有安定剤からなる群より選択される抗酸化剤を含む液体の、水性製剤を開示する。
更に、1mg/lより低い酸素含有量を維持することが必要とされる。
【0013】
欧州特許出願公開第1465663号明細書は、パラセタモールを、水、唯一の共溶媒としてのプロピレングリコール及びクエン酸緩衝液と混合し、該溶液を70℃乃至130℃でに加熱することにより得られ得る、すぐに使える医薬のパラセタモール注射溶液を開示する。該パラセタモール製剤は、強制的にプロピレングリコールのような有機溶媒が必要となる。同様に、欧州特許出願公開第1094802号明細書は、パラセタモール並びにエタノール及びポリエチレングリコールを含む医薬組成物を開示する。
【0014】
欧州特許出願公開第1889607号明細書は、注射用液体パラセタモールの製剤を開示する。水性製剤中のパラセタモールの分解を防止するために、ホルムアルデヒドスルホキシドナトリウムのような抗酸化剤が提案されている。しかしながら、ホルムアルデヒドスルホキシドナトリウムは、実際のところメタスルフィドに関する有機物である、特定量の硫化ナトリウムの放出を誘導する。スルフィドは、問題を引き起こすことが知られており、また、多くの人々はスルフィド誘導体の存在に起因して、アナフィラキシー反応及び/又は過敏反応を起こすことが周知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6,028,222号明細書
【特許文献2】国際公開第2004/071502号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2009/047634号パンフレット
【特許文献4】欧州特許出願公開第1992334号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1752139号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第1465663号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1094802号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第1889607号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】“N−アセチル−p−アミノフェノールの水溶液の安定性” (Koshy K.T.及びLach J. I. J.Pharm.Sci.,50巻(1961),113−118頁)
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、酸化抵抗性及び加水分解安定性に関して、改善された長期安定性を有する、アセトアミノフェンを含む医薬組成物を提供することである。加えて、脱酸素工程を必要とせず及びアセトアミノフェンが室温で水中に容易に溶解し得るため容易に製造し
得るパラセタモール製剤の製造方法が提供される。
【0018】
上述の課題が、
a)アセトアミノフェン
b)ヒドロキシエチルデンプン及び
c)少なくとも1種の浸透圧剤(osmolality agent)
を含む液体注射用組成物により解決され得ることが、驚くべきことに見出された。
【発明を実施するための形態】
【0019】
パラセタモール(アセトアミノフェン)は、市販の鎮痛薬(pain reliever)及び解熱薬(fever reducer)として広範に使用されている。それは一般に、発熱、頭痛及び他の深刻でないうずき及び痛みの軽減のために使用され、また、多くの風邪及びインフルエンザ治療薬における主成分である。非ステロイド系抗炎症薬(NSAIG)及びオピオイド鎮痛薬との組み合わせにおいて、パラセタモールはまた、より重篤な痛みの管理においても使用される(癌又は術後疼痛等)。アセトアミノフェンの系統的なIUPAC名は、N−(4−ヒドロキシフェニル)エタンアミドである。
【0020】
本発明に従う液体注射用組成物は、好ましくは、0.05ないし5.0質量%、より好ましくは、0.5ないし3.0質量%及び特に、0.8ないし1.8質量%の濃度範囲のアセトアミノフェンを含み、ここで言及される量は、組成物の総質量に基づく。
【0021】
本発明に従う液体注射用組成物の更なる基本的な成分は、ヒドロキシエチルデンプンである。ヒドロキシエチルデンプンが、溶液中の、特に水溶液中のアセトアミノフェンの溶解速度を顕著に増加させることが、驚くべきことに見出された。よって、アセトアミノフェン製剤におけるヒドロキシエチルデンプンの存在は、アセトアミノフェンの溶解性を増加し、その結果として、より低い温度で、即ち、5ないし50℃、好ましくは、15ないし40℃及びより好ましくは18ないし30℃の温度範囲で、アセトアミノフェンを迅速に溶解することが可能である。低温で水性製剤中のアセトアミノフェンを溶解することが可能であるため、製造方法の間の加水分解の程度及び酸化生成物の程度は、顕著に減少され得る。更に、ヒドロキシエチルデンプンの存在は、空気中で又は酸素に対して半透過性の容器中に貯蔵された、アセトアミノフェンを含む水性製剤の分解を顕著に減少する。よって、本発明に従う液体注射用組成物は、脱酸素する必要がなく、とりわけ、窒素雰囲気下で貯蔵する必要がない。
【0022】
ヒドロキシエチルデンプン(HES)は、周知の合成コロイドである。世界中で、異なるHES配合物が、現在コロイド容積の代替物として使用されているが、それらは主にそれらの分子量により及び更にそれらのヒドロキシエチル基でのエーテル化の程度により、及び他のパラメーターにより区別される。この物質の類の最も知られている代表は、所謂、ヘタスターチ(HES 450/0.7)及びペンタスターチ(HES 200/0.5)である。後者は、現在最も広範に使用されている“標準HES”である。一方、HES 200/0.62及びHES 70/0.5は、大した役割を果していない。分子量に関する公表された情報並びに他のパラメーターに関する公表された情報は平均的な量であるが、ここで、分子量の公表は、ダルトン(例えば、HES 200,000)で表記されるか又は殆どキロダルトン(例えば、HES 200)に省略される重量平均(Mw)に基づく。ヒドロキシエチル基でのエーテル化の程度は、モル置換 MS(例えば、HES 200/0.5中における0.5;MS=無水グルコース単位に対するヒドロキシエチル基の平均モル比)により又は置換の程度(DS=無水グルコース単位総量に対するモノ−又はポリヒドロキシエチル化グルコースの比率)により特徴付けられる。それらの分子量に従って、臨床用途におけるHES溶液は、高−分子量(450kD)、中−分子量(200−250kD)及び低−分子量(70−130kD)配合物に分類される。
【0023】
本発明に従うヒドロキシエチルデンプンは、モル置換 MSにより影響される。モル置換 MSは、無水グルコース単位当りのヒドロキシエチル基の平均数として定義される(Sommermeyer等、Krankenhauspharmazie(1987年)、271ないし278頁)。モル置換は、Ying−Che Lee等、Anal.Chem.(1983年)、55巻、334頁及びK.L.Hodges等、Anal.Chem.(1979)、51巻、2171頁に従って決定し得る。この方法において、HESの既知量が、キシレン中、アジピン酸及びヨウ化水素酸(HI)を添加することによりエーテル開烈に付される。続いて、放出されたヨウ化エチルが内部標準(トルエン)及び外部標準(ヨウ化エチル検量溶液)を用いるガスクロマトグラフィーにより定量される。モル置換 MSは、本発明に従うヒドロキシエチルデンプンの効果に影響する。もし、MSがあまりに高く選択された場合、ヒドロキシエチルデンプンが使用されたとき、循環中に蓄積効果が生じ得る。一方、MSがあまりに低く選択された場合、結果として循環中にヒドロキシエチルデンプンの速過ぎる分解が生じ得、よって、血漿半減期の望ましい持続時間が減少する。0.3ないし0.7、好ましくは0.35ないし0.5(0.35≦MS≦0.50)、より好ましくは0.39ないし0.45以下(0.39≦MS≦0.45)のモル置換 MS及び特には0.4超ないし0.44のMS(0.4<MS≦0.44)が、有利であると証明されている。
【0024】
本発明に従って使用されるヒドロキシエチルデンプンは、好ましくは、高−分子量ヒドロキシエチルデンプンに属するものであり、より好ましくは、10,000ないし500,000の、更に好ましくは、20,000ないし150,000の平均分子量(Mw)の範囲を有する。製造条件に起因して、ヒドロキシエチルデンプンは、確定した均一の分子量を有する物質の形態にあるわけではなく、ヒドロキシエチル基で異なって置換されてもいる異なるサイズの分子の混合物の形態にある。従って、そのような混合物の特徴付けは、統計的に平均された量への遡及を必要とする。そのため、重量平均分子量(Mw)が、平均分子量を特徴付けるために提供されるが、この平均値の通常の定義は、Sommermeyer等、Krankenhauspharmazie(1097年)第271ないし278頁に示されている。
【0025】
分子量の決定は、pH7.0、50mMのリン酸緩衝液中、1.0mL/分の流速において、GPCカラム、TSKゲル G 6000 PW、G 5000 PW、G 3000 PW及びG 2000 PW(7.5mm×30cm)、MALLS検出器(DAWN−EOS;Wyatt Deutschland GmbH製、Woldert)並びにRI検出器(Optilab DSP;Wyatt Deutschland GmbH製、Woldert)を使用するGPC−MALLSの手段により達成され得る。
評価は、ASTRAソウトウェア(Wyatt Deutschland GmbH製、Woldert)の手段により達成され得る。
【0026】
好ましいものは、天然の又は部分的に加水分解された穀物又は芋のデンプンから得ることができるヒドロキシエチルデンプンである。それらの高いアミロペクチンの含有量に起因して、対応する作物のろう質の品種からのデンプンの使用は、もしそれら(例えば、ろう質のトウモロコシ、ろう質の米)が存在するのであれば、特に有利である。
【0027】
本発明に従うヒドロキシエチルデンプンは、無水グルコース単位のC6における置換に対するC2における置換の比率により更に記述され得る。本発明の範囲内においてC2/C6比としても省略されるこの比率は、ヒドロキシエチルデンプンの6位で置換された無水グルコース単位の数に対する2位で置換された無水グルコース単位の数の比率を意味する。HESのC2/C6比は、ヒドロキシエチル化において使用された水性の水酸化ナトリウムの量によって広範に変化し得る。NaOHの量を多く使用するほど、デンプンの無水グ
ルコース中の6位におけるより多くのヒドロキシ基がヒドロキシエチル化のために活性化される。従って、C2/C6比は、増加するNaOH濃度を伴うヒドロキシエチル化の間に減少する。測定は、Sommermeyer等、Krankenhauspharmazie(1987年)、第271ないし278頁により示されたようにして実施される。得られる順序における増加する好ましさを伴って、C2/C6比は、好ましくは、3ないし8未満、2ないし7、3ないし7、2.5ないし7以下、2.5ないし6又は4ないし6である。
【0028】
基本的に、全ての既知のデンプンは、ヒドロキシエチルデンプン、主に天然の又は部分的に加水分解されたデンプン、好ましくは、穀物又は芋のデンプン、特には、アミロペクチンの高含有量を有するものの製造のために好適である。特定の態様において、ろう質の品種、特にろう質のトウモロコシ及び/又はろう質の米からのデンプンが使用される。特定の態様において、HESの製造は、水で懸濁された穀物及び/又は芋デンプン、好ましくは軽く煮沸されたろう質のトウモロコシデンプンをエチレンオキシドと反応させることにより実施される。有利には、反応はアルカリ化剤、好ましくはアルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを添加することにより、触媒される。好ましくは、アルカリ化剤、好ましく水酸化ナトリウムが水で懸濁されたデンプンへ付加的に添加される。アルカリ化剤は、好ましくは懸濁されたデンプンに、デンプンに対するアルカリ化剤のモル比が0.2を越え、好ましくは0.25ないし1、特に0.3ないし0.8となるような量で添加される。ヒドロキシエチル化工程の間のデンプンに対するエチレンオキシドの比率を通して、モル置換、即ち、無水グルコース単位に対するヒドロキシエチル基のモル比は、望ましいMS範囲を越えて任意に制御し得る。好ましくは、エチレンオキシドと懸濁されたデンプンの間の反応は、30ないし70℃、好ましくは35ないし45℃の温度範囲において実施される。通常、エチレンオキシドのあらゆる残渣は、反応後に除去される。該反応に続く第二工程において、誘導体化されたデンプンの酸性の部分的加水分解が実施される。“部分的加水分解”は、デンプンのα−グリコシドで相互に結合されたグルコース単位の加水分解を意味する。当業者によく知られた全ての酸が酸性の加水分解のために使用し得るが、好ましいものは鉱酸、特に塩酸である。加水分解はまた、市販で入手可能なアミラーゼを使用して酵素的に実施することもできる。
【0029】
本発明の液体注射用組成物は、好ましくは0.05ないし4質量パーセント、より好ましくは0.08ないし2質量パーセント及び特には0.1ないし1.5質量%の範囲の量でヒドロキシエチルデンプンを含むが、ここで該量は、組成物の総質量に基づく。
【0030】
本発明に従う液体注射用組成物の更なる基本成分は、浸透圧剤(osmolality
agent)である。本発明に従う組成物は、少なくとも1種の浸透圧剤を含む。好ましくは、浸透圧剤は、等浸透圧剤又は等張剤、好ましくは非イオン性等張剤である。
【0031】
更なる好ましい態様において、浸透圧剤は、2ないし10個の炭素原子を有する脂肪族ポリヒドロキシアルカノールであり、好ましくは、マンニトール、フルクトース、グルコース、グルコノラクトン、グルコン酸塩及びそれらの混合物からなる群より選択される。
特に好ましいものは、マンニトールである。
【0032】
更なる好ましい浸透圧剤は、グルコース、果糖、グルコノグルコヘプトン酸カルシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム及びそれらの混合物からなる群より選択される。
【0033】
好ましくは、浸透圧剤は、0.5ないし10質量パーセント、より好ましくは、1ないし7質量パーセント及び最も好ましくは、1.5ないし5質量パーセント及び特には2ないし4質量パーセントの範囲の量で存在する。言及される量は、組成物の総質量に基づく
【0034】
本発明に従う組成物の好ましい浸透圧は、250mOsm/kgないし400mOsm/kgの範囲、より好ましくは、290mOsm/kgないし340mOsm/kgの範囲である。
【0035】
有利には、本発明に従う液体注射用組成物は、更に緩衝剤を含む。使用し得る緩衝剤は、ヒトにおける非経口投与に適合する緩衝剤であり、そのpHは、4と8の間に調節され得る。好ましい緩衝剤は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属酢酸塩又はリン酸塩に基づく。より好ましい緩衝剤は、塩酸又は水酸化ナトリウムで要求されるpHに調節された酢酸ナトリウム/リン酸水素塩である。より好ましくは、緩衝剤は、酢酸塩、クエン酸塩及びリン酸塩並びにそれらの混合物に基づく緩衝剤からなる群より選択される。特に好ましいものは、酢酸塩/クエン酸塩の緩衝剤である。特に、緩衝剤が酢酸ナトリウム/クエン酸ナトリウムの場合に、良好な結果が達成されるが、ここで、要求されるpHは、酢酸で調節される。
更に好ましい緩衝剤系は、リン酸塩、好ましくはリン酸水素ナトリウム及びリン酸を含む。
【0036】
本発明の液体注射用組成物中に存在するアセトアミノフェンの加水分解安定性を更に改善するために、組成物のpHは、望ましくは、4ないし8、好ましくは4.5ないし6.5及びより好ましくは5.0ないし6.0の範囲のpH値に調節される。
【0037】
本発明に従う液体注射用組成物は、好ましくは水性である。本発明の液体注射用組成物中のアセトアミノフェンの改善された安定性に起因して、アルコール及び/又はグリコールのような有機溶媒は必要ではない。従って、本発明の好ましい態様に従って、本液体組成物は、基本的に有機溶媒が存在せず、特に、基本的にグリコール及び/又はアルコールが存在しない。本発明の趣旨の範囲内において基本的に存在しないとは、本液体組成物が、それぞれの組成物の10質量%未満、好ましくは5質量%、より好ましくは2質量%未満及び特には0質量%を含むことを意味するが、ここで、言及される量は、組成物の総質量に基づく。
【0038】
特に好ましい態様に従って、液体注射用組成物は水性であり、
a)クエン酸塩 9ないし11mmol/L、
b)酢酸塩 20ないし36mmol/L及び
c)マンニトール 29ないし33g/L
を含む。
【0039】
本発明に従う組成物は更に、ヒトにおける非経口投与に適合する添加剤又は活性成分を含み得る。
【0040】
本発明に従う液体注射用組成物は、医薬組成物として使用するのに好適である。従って、本発明の更なる態様は、本発明の液体注射用組成物を含む医薬組成物である。
【0041】
特に、本発明の医薬組成物は、痛み及び/又は熱の予防及び治療のために使用される。好ましくは、医薬組成物は、注射又は点滴によりヒトに投与される。
【0042】
本発明に従う組成物は、容易に製造され得る。アセトアミノフェンを含む水性製剤中のヒドロキシエチルデンプンの存在は、アセトアミノフェンの溶解の速度を改善し、同時に分解(加水分解並びに酸化分解)を防止するため、ヒドロキシエチルデンプンの存在において、溶媒中にアセトアミノフェンを溶解することは、本発明の組成物の製造方法のため
に有利である。基本的に有機溶媒が存在しない水性製剤でさえ、アセトアミノフェンの溶解の改善された速度に起因して、本発明の組成物の製造方法は、先行技術で開示されたパラセタモール製剤の製造方法よりも低い温度で実施し得る。
【0043】
本発明の更なる態様は、ヒドロキシエチルデンプンの存在下で溶媒中にアセトアミノフェンを溶解する工程を含む、本発明の組成物の製造方法である。
【0044】
本発明の方法中で使用されるヒドロキシエチルデンプンは、既に上記で規定されている。好ましくは、溶媒は、水性溶媒であり、好ましくは水である。本発明の組成物は、必ずしも有機溶媒を必要とせず、特に、有機アルコール及び/又はグリコールを必要としないため、本発明の方法は、好ましくは基本的に有機溶媒が存在していない、特には基本的にアルコール及び/又は有機グリコールが存在していない水性溶媒中で実施され得る。
【0045】
好ましくは、アセトアミノフェンは、5ないし50℃、好ましくは15ないし40℃、より好ましくは18ないし30℃の温度範囲で、ヒドロキシエチルデンプンの存在下で溶解される。
【0046】
本発明の本方法の更なる利点は、得られた製剤が酸化に対して安定で、空気で貯蔵し得るため、本方法は脱酸素工程を必要としないことである。従って、本発明に従う方法の好ましい態様は、脱酸素工程を含まない。
【0047】
本発明の更なる態様は、本発明の組成物を含む容器である。該容器は、有機ポリマーで作成され得る。
【0048】
本発明の組成物は、大気からの酸素により引き起こされる酸化に関して感受性ではないため、酸素に透過性であり得る有機ポリマーで作られた容器を使用し得る。有機ポリマーで作られたバイアル瓶のような容器が、それらが壊れず且つ取り扱いが非常に容易であるため有利である。
【0049】
好ましくは、上記有機ポリマーは、酸素に半透過性であり、好ましくは、ポリエチレン又はポリプロピレンから選択される。
【0050】
更なる態様に従って、本発明に従う組成物を含む容器は、酸素に非透過性の材料で作られた容器、好ましくはガラス材料である。
【0051】
本発明の更なる態様は、水性溶液中のアセトアミノフェンの溶解の速度の増加のための、ヒドロキシエチルデンプン、好ましくは上記で規定されたヒドロキシエチルデンプンの使用である。好ましくは、ヒドロキシエチルデンプンは、好ましくは、5ないし50℃、より好ましくは、15ないし40℃及び特には18ないし30℃の温度範囲で、アセトアミノフェンの溶解のために使用される。
【実施例】
【0052】
I.組成物F1ないしF4
本発明の4種の異なる組成物(F1ないしF4)を製造し、アセトアミノフェン粉末(F1ないしF4の各々と同一)の溶解の速度に対するヒドロキシエチルデンプン(HES)の効果を決定した。溶解の速度は22℃において決定された。
表1において言及される成分の量は質量パーセント(wt.−%)である。
【表1】
組成物の溶解の速度は、アセトアミノフェンが完全に溶解するのに必要な時間を考慮に入れて目視で決定された。観察は、以下の順番で分類される:“+++”がアセトアミノフェンを完全に溶解するのに最も短い時間を意味する溶解の最高速度を示し、“+”がアセトアミノフェンを完全に溶解するのに最も長い時間を必要とすることを意味する溶解の最低速度を示す。
【0053】
II.組成物C1ないしC10及びE1
選択された成分の効果及び水溶液中のアセトアミノフェンの安定性を決定するために、11種の異なる組成物を製造した(C1ないしC10が比較例に相当し、E1が本発明に従う実施例である。)。
表2において言及される量は質量パーセントである。
【表2】
組成物の安定性は、50mLのガラスバイアル容器(ゴム栓及び金属カプセルを有する)中、40、55及び70℃で15日間貯蔵した後、各製剤の着色の程度(製品安定性を反映する)を監視することにより決定された。これらの試料は試験手順に先立って、12
1℃/15分でオートクレーブ中で殺菌された。
組成物の安定性は、目視で決定され、“無色”は最も高い安定性を示し、“黒色、可視粒子”は最も低い安定性を示す、以下の順番で分類された:
無色>実質無色>淡い無色>淡茶色>淡黄色>茶色がかった色>黄色がかった色>ピンク>ピンクがかった茶色>黄色>黄色がかった茶色>茶色>強い茶色>強く黄色がかった茶色>強い黄色>強い茶色、可視粒子>黒色、可視粒子。
表2で提供された結果から、ヒドロキシエチルデンプン(HES)が、水溶液中のパラセタモールの安定化において重要な役割を果していることが明確であるが、室温で水溶液中におけるパラセタモールの溶解を可能とし、水溶液中のパラセタモールとの良い相互作用を確立する。
【0054】
III.組成物E2ないしE6及びC11ないしC15
本発明に従う組成物E2ないしE6を本発明に従わない組成物C11ないしC15と比較した(表3参照)。
表3において言及される量は質量パーセントである。
【表3】
組成物の安定性は、50mLのガラスバイアル容器(ゴム栓及び金属カプセルを有する)中、55及び70℃で15日間貯蔵した後、各製剤の着色の程度(製品安定性を反映する)を監視することにより決定された。これらの試料は試験手順に先立って、121℃/15分でオートクレーブ中で殺菌された。
組成物の安定性は、目視で決定され、“無色”は最も高い安定性を示し、“黒色、可視粒子”は最も低い安定性を示す、以下の順番で分類された:
無色>実質無色>淡い無色>淡茶色>淡黄色>茶色がかった色>黄色がかった色>ピンク>ピンクがかった茶色>黄色>黄色がかった茶色>茶色>強い茶色>強く黄色がかった茶色>強い黄色>強い茶色、可視粒子>黒色、可視粒子。
本発明に従う組成物(E2ないしE6)は、パラセタモールの加水分解並びにパラセタモールの酸化的分解の観点から明らかにより安定であった。
更に、マンニトールが、製剤に好適な等浸透性を付与するための、最も好適な非イオン性の浸透圧剤であるように考えられた。
【0055】
IV.組成物E7ないしE10及びC16ないしC22
プラスチック 半−透過性容器(ポリエチレン)中での、本発明の組成物(E7ないしE10)と本発明に従わない組成物(C16ないしC22)との比較。
組成物E7ないしE10及びC16ないしC22は、空気雰囲気下(酸素21%)で密封された半透過性容器(ポリエチレン)中に貯蔵された。
表4において言及される成分の量は質量パーセントである。
【表4】
組成物の安定性は、試験手順の開始において、112℃/70分オートクレーブにより殺菌された、100mLの密封された半透過性ポリエチレン容器中、55及び70℃で15日間貯蔵した後、各製剤の着色の程度(製品安定性を反映する)を監視することにより
決定された。
組成物の安定性は、目視で決定され、“無色”は最も高い安定性を示し、“黒色、可視粒子”は最も低い安定性を示す、以下の順番で分類された:
無色>実質無色>淡い無色>淡茶色>淡黄色>茶色がかった色>黄色がかった色>ピンク>ピンクがかった茶色>黄色>黄色がかった茶色>茶色>強い茶色>強く黄色がかった茶色>強い黄色>強い茶色、可視粒子>黒色、可視粒子。
比較例は、脱酸素工程(N2バブリング)無しに製造された場合、半−透過性のプラスチック容器中で、さらに不安定になる(オートクレーブ中の殺菌後、強い茶色の着色が発現する。)。最も安定な製剤は、マンニトール、HES及び緩衝剤としての酢酸塩/クエン酸塩を伴う組成物である(E8及びE9)。
更に、本発明の組成物が、脱酸素化(N2バブリング)すること無しに安定であることが提示された。
【0056】
V.酸素含量における非依存性の提示
本発明の組成物が酸素含量に依存しないことを提示するために、表5中で参照される組成物E11が以下の条件下で製造された:
G1:組成物E11のアセトアミノフェンと他の成分を溶解する間、脱酸素工程を適用しなかった。更に、該組成物をガラスバイアル中に充填する間、脱酸素工程を適用しなかった。
該液体組成物中の酸素(O2)含量は、8.7ppmであり、バイアルの先端空間中の空気におけるO2含量は21%であった。
G2:組成物E11のアセトアミノフェンと他の成分を溶解する間、脱酸素工程を適用しなかった。更に、該組成物をガラスバイアル中に充填する間、ガラスバイアルの先端空間中の酸素含量を減少するために窒素気流が使用された。
該液体組成物中の酸素(O2)含量は、8.7ppmであり、バイアルの先端空間中の空気におけるO2含量は3%であった。
G3:組成物E11のアセトアミノフェンと他の成分を溶解する間、該水性混合物中に窒素(N2)の気泡が通された。しかし、ガラスバイアル中に充填する間、脱酸素工程は適用されなかった。
該液体組成物中の酸素(O2)含量は、0.1ppmであり、バイアルの先端空間中のO2含量は21%であった。
G4:溶解する間並びに充填する間、組成物はN2で脱酸素された。
該液体組成物のO2含量は、0.1ppmであり、ガラスバイアルの先端空間中のO2含量は3%であった。
表6は条件G1ないしG4下で製造された組成物E11の安定性の観点における結果を示す。
【表5】
【表6】
組成物の安定性は、試験手順に先立って、112℃/70分でのオートクレーブにより殺菌された、100mLの密封された半透過性のポリエチレン容器中、25、30、40、55及び70℃で22日間貯蔵した後、各製剤の着色の程度(製品安定性を反映する)を監視することにより決定された。
組成物の安定性は、目視で決定され、“無色”は最も高い安定性を示し、“黒色、可視粒子”は最も低い安定性を示す、以下の順番で分類された:
無色>実質無色>淡い無色>淡茶色>淡黄色>茶色がかった色>黄色がかった色>ピンク>ピンクがかった茶色>黄色>黄色がかった茶色>茶色>強い茶色>強く黄色がかった茶色>強い黄色>強い茶色、可視粒子>黒色、可視粒子。
表6中で示される結果は、本発明に従う組成物が、環境中に存在する酸素、即ち、組成物中又は組成物を取り囲む大気中の酸素含量とは無関係に安定であることを示す。