特許第5781236号(P5781236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5781236
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20150827BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20150827BHJP
   B29C 41/30 20060101ALI20150827BHJP
   B29K 77/00 20060101ALN20150827BHJP
【FI】
   C08J5/18CFG
   B05D3/02 E
   B29C41/30
   B29K77:00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-540774(P2014-540774)
(86)(22)【出願日】2013年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2013072153
(87)【国際公開番号】WO2014057731
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2014年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-225818(P2012-225818)
(32)【優先日】2012年10月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雄樹
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−321300(JP,A)
【文献】 特開2009−192760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B05D
B29C 41/00−52
C08G 73/00−26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)脱水によりポリイミドとなるポリイミド前駆体を含むフィルム前駆体をシート上に塗布する工程と、
(b)前記フィルム前駆体に近赤外線を照射することにより前記ポリイミド前駆体を脱水して該フィルム前駆体をポリイミドフィルムとする工程と、
を含むポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)では、波長が2.5〜3.5μmの近赤外線を照射する、
請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記工程(b)では、前記フィルム前駆体に近赤外線を照射することにより、該フィルム前駆体の乾燥と前記ポリイミド前駆体の脱水とを行う、
請求項1又は2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)では、前記フィルム前駆体に対して近赤外線の照射と熱風の送風とを行う、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリイミド前駆体は、化学式(1)で表されるポリアミド酸である
(ただし、化学式(1)におけるRは4価の有機基であり、R’は2価の有機基である)、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【化1】
【請求項6】
前記ポリイミド前駆体は、化学式(2)で表されるポリアミド酸である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミド酸などのポリイミド前駆体をイミド化して得られるポリイミドが知られている。このポリイミドからなるフィルムは、強度,耐熱性,絶縁性に優れた材料として、例えばフレキシブルプリント配線基板や半導体の保護膜など、広く工業製品に利用されている。このポリイミドフィルムの製造方法としては、ポリアミド酸を300〜500℃で加熱することで脱水反応によりイミド化させることが知られている。例えば、特許文献1では、300℃雰囲気の遠赤外線炉においてポリアミド酸をイミド化してポリイミドフィルムを得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−321300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなポリイミドの製造方法に関して、プロセス時間を短縮するため、脱水反応(イミド化)の反応速度をより向上させることが望まれている。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、ポリイミドフィルムを製造するにあたり、脱水反応の反応速度をより向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、ポリイミド前駆体を脱水反応によりポリイミドとする工程において、近赤外線を照射することで効率的に脱水が可能となることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、
(a)脱水によりポリイミドとなるポリイミド前駆体を含むフィルム前駆体をシート上に塗布する工程と、
(b)前記フィルム前駆体に近赤外線を照射することにより前記ポリイミド前駆体を脱水して該フィルム前駆体をポリイミドフィルムとする工程と、
を含むものである。
【0008】
この本発明のポリイミドフィルムの製造方法では、まず、脱水によりポリイミドとなるポリイミド前駆体を含むフィルム前駆体をシート上に塗布する。続いて、フィルム前駆体に近赤外線を照射することによりポリイミド前駆体を脱水してフィルム前駆体をポリイミドフィルムとする。これにより、近赤外線を用いない場合と比べて脱水反応の反応速度を向上させることができる。なお、反応速度が向上するのは、近赤外線を照射することで脱水反応の反応基(イミノ基,ヒドロキシ基など)に選択的にエネルギーを投入できることが理由と考えられる。近赤外線は、例えば波長が0.7〜3.5μmの電磁波である。この場合において、前記工程(b)では、波長が2.5〜3.5μmの近赤外線を照射することが好ましく、波長が2.9〜3.3μmの近赤外線を照射することがより好ましい。こうすれば、脱水反応の反応基に、より選択的にエネルギーを投入することができる。なお、前記工程(a)の後、前記工程(b)の前に、フィルム前駆体を乾燥する工程を含むものとしてもよい。
【0009】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法において、前記工程(b)では、前記フィルム前駆体に近赤外線を照射することにより、該フィルム前駆体の乾燥と前記ポリイミド前駆体の脱水とを行うものとしてもよい。こうすることで、近赤外線は水素結合を効率よく切断することができるため、脱水だけでなく乾燥も効率的に行うことができる。
【0010】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法において、前記工程(b)では、前記フィルム前駆体に対して近赤外線の照射と熱風の送風とを行うものとしてもよい。こうすれば、ポリイミド前駆体の脱水反応により生じた水分の除去をより効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】反応炉10の縦断面図である。
図2】赤外線ヒーター30の縦断面図である。
図3図2のA−A断面図である。
図4】変形例の反応炉10の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は本発明のポリイミドフィルムの製造方法に用いる反応炉10の縦断面図である。反応炉10は、シート50上に塗布されたポリイミド前駆体を含む塗膜52に近赤外線の照射と熱風の送風とを行うものであり、炉体14と、搬送通路19と、送風装置20と、赤外線ヒーター30と、コントローラー60と、を備えている。
【0013】
炉体14は、略直方体に形成された断熱構造体であり、前端面15及び後端面16にそれぞれ開口17,18を有している。この炉体14は、前端面15から後端面16までの長さが例えば2〜10mである。
【0014】
搬送通路19は、開口17から開口18に至る通路であり、炉体14を水平方向に貫通している。片面に塗膜52が塗布されたシート50は、この搬送通路19を通過していく。シート50は、塗膜52が塗布された面を上にして、開口17から搬入され、炉体14の内部を水平方向に進行し、開口18から搬出される。
【0015】
送風装置20は、熱風を送風して反応炉10(炉体14)内を通過する塗膜52を加熱及び乾燥させる装置である。送風装置20は、炉体14の上側に配置された送風装置20aと、炉体14の下側に配置された送風装置20bと、を有している。送風装置20a,20bはそれぞれ、熱風発生器22a,22bと、パイプ構造体24a,24bと、通気口26a,26bとを備えている。以下、送風装置20aを用いて説明する。送風装置20aは、熱風発生器22aと、パイプ構造体24aと、通気口26aとを備えている。熱風発生器22aは、パイプ構造体24aに取り付けられており、熱風をパイプ構造体24aの内部へ供給するものである。熱風は、例えば空気を加熱したものである。この熱風発生機22aは、発生させる熱風の風量や温度の調節が可能となっている。熱風の風量は、特に限定するものではないが、例えば100Nm3/h〜2000Nm3/hの範囲で調節可能である。熱風の温度は、特に限定するものではないが、例えば40〜400℃の範囲で調節可能である。パイプ構造体24aは、熱風発生器22aからの熱風の通路となるものであり、熱風発生器22aから炉体14内に向かって分岐した複数の通路を有している。パイプ構造体24aは、分岐した通路の部分で炉体14の天井を貫通しており、分岐した通路は鉛直下方向を向いている。この分岐した通路の下端が通気口26aとなっており、通気口26aも鉛直下方向を向いている。本実施形態では、パイプ構造体24aは分岐した通路を14個有しており、通気口26aも14個形成されているものとした。これにより、送風装置20aの熱風発生器22aからの熱風は、14個の通気口26aから鉛直下方向に送風され、塗膜52の表面に垂直に当たるようになっている。また、通気口26aは、前端面15側から後端面16側にわたって略均等に設けられている。送風装置20bの熱風発生器22b,パイプ構造体24b,通気口26bについても、それぞれ熱風発生器22a,パイプ構造体24a,通気口26aと同様の構成である。ただし、送風装置20bは、送風装置20aを図1における上下に逆転させた構成をしており、鉛直上方向の熱風を発生させる。すなわち、熱風発生器22bからの熱風は、それぞれ通気口26bから鉛直上方向に送風され、シート50の裏面(塗膜52が形成された面とは反対側の面)に垂直に当たるようになっている。なお、熱風発生器22a,22bによりシート50の上下から熱風を送風することにより、熱風がシート50や塗膜52にぶつかることによるこれらの変形を抑制することができる。
【0016】
赤外線ヒーター30は、反応炉10(炉体14)内を通過する塗膜52に近赤外線を照射する装置であり、炉体14の天井近くに複数取り付けられている。本実施形態では、赤外線ヒーター30は前端面15側から後端面16側にわたって略均等に13本配置されている。これらの各赤外線ヒーター30は、同様の構成を有しており、いずれも長手方向が搬送方向と直交するように取り付けられている。
【0017】
図2は、赤外線ヒーター30の縦断面図であり、図3図2のA−A断面図である。赤外線ヒーター30は、図2及び図3に示すように、フィラメント32を内管36が囲むように形成されたヒーター本体38と、このヒーター本体38を囲むように形成された外管40と、外管40の両端に気密に嵌め込まれた有底筒状のキャップ42と、ヒーター本体38と外管40との間に形成され冷却流体が流通可能な流路48と、外管40の表面温度を検出する温度センサ37と、を備えている。フィラメント32は、電力供給源80から電力が供給されて、例えば700〜1500℃に通電加熱され、波長が3μm付近にピークを持ち、2.5μm〜3.5μmの波長成分を含む赤外線を放射する。このフィラメント32に接続された電気配線34は、キャップ42に設けられた配線引出部44を介して気密に外部へ引き出され、電力供給源80に接続されている。内管36は、石英ガラスやホウ珪酸クラウンガラスなどで作製されており、3.5μm以下の波長の赤外線を通過し、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する。ヒーター本体38は、両端がキャップ42の内部に配置されたホルダー49に支持されている。外管40は、内管36と同様、石英ガラスやホウ珪酸クラウンガラスなどで作製されており、3.5μm以下の波長の赤外線を通過し、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する。各キャップ42は、流体出入口46を有している。流路48は、冷却流体供給源70から供給された冷却流体が、一方の流体出入口46から他方の流体出入口46へ流れるようになっている。流路48を流れる冷却流体は、例えば空気や不活性ガスなどであり、内管36と外管40に接触して熱を奪うことにより各管36,40を冷却する。こうした赤外線ヒーター30は、フィラメント32から波長が3μm付近にピークを持つ赤外線が放射されると、そのうち3.5μm以下の波長の赤外線は内管36や外管40を通過して搬送通路を通過するシート50の塗膜52に照射される。この波長の赤外線は、シート50の塗膜52に含まれる溶剤の水素結合を切断する能力に優れるといわれており、効率的に溶剤を蒸発させることができる。一方、内管36や外管40は、3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するが、流路48を流れる冷却流体によって冷却されるため、塗膜52から蒸発する溶剤の着火点未満の温度(例えば200℃以下など)に維持することが可能である。
【0018】
コントローラー60は、CPUを中心とするマイクロプロセッサーとして構成されている。このコントローラー60は、送風装置20の熱風発生器22a,22bに制御信号を出力して、熱風発生器22a,22bで発生させる熱風の温度及び風量を個別に制御する。また、コントローラー60は、熱電対である温度センサ37が検出した外管40の温度を入力したり、冷却流体供給源70と流体出入口46とを接続する配管の途中に設けられた開閉弁72及び流量調整弁74に制御信号を出力したりして、赤外線ヒーター30の流路48を流れる冷却流体の流量を個別に制御する。更に、コントローラー60は、電力供給源80からフィラメント32へ供給される電力の大きさを調整するための制御信号を電力供給源80へ出力して、赤外線ヒーター30のフィラメント温度を個別に制御する。また、コントローラー60は、ロール54,56の回転速度を制御することで炉体14内の塗膜52の通過時間を調整することができる。
【0019】
次に、こうして構成された反応炉10を用いたポリイミドフィルムの製造方法について説明する。このポリイミドフィルムの製造方法は、(a)脱水によりポリイミドとなるポリイミド前駆体を含むフィルム前駆体(塗膜52)をシート上に塗布する工程と、(b)塗膜52に近赤外線の照射と熱風の送風とを行うことにより、塗膜52を乾燥すると共にポリイミド前駆体を脱水して塗膜52をポリイミドフィルムとする工程と、を含む。
【0020】
工程(a)では、まず、反応炉10の左端に配置されたロール54からシート50が巻き外され、反応炉10(炉体14)に搬入される直前に図示しないコーターによって上面に塗膜52が塗布され、反応炉10の開口17を通って反応炉10内へ搬入される。
【0021】
ここで、シート50は、特に限定するものではないが、例えば、アルミニウムや銅等の金属シートである。また、塗膜52は、脱水によりポリイミドとなるポリイミド前駆体と溶剤とを混練したフィルム前駆体を、シート50上に塗布したものである。ポリイミド前駆体は、脱水によりポリイミドとなるものであれば特に限定されず、1種の材料としてもよいし、2種類以上の材料の混合物としてもよい。ポリイミド前駆体の具体例としては、例えば下記化学式(1)で表されるポリアミド酸(ポリアミック酸)が挙げられる。下記化学式(1)におけるRは4価の有機基であり、R’は2価の有機基である。また、R及びR’の少なくとも一方を芳香族としてもよい。
【0022】
【化1】
【0023】
上記化学式(1)で表されるポリアミド酸は、例えば、少なくとも一種の酸二無水物と少なくとも一種のジアミンとを、周知の方法により重合させることで製造することができる。酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−オキシジフタル酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、4,4’−ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物(誘導体)等が挙げられる。これらのうち、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、4,4’−ビフェニルビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)が特に好ましい。これらの酸二無水物は、一種のみ用いてもよいし、二種以上を任意の割合で用いてもよい。
【0024】
ジアミンとしては、例えば、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼン、4,4’−ジアミノベンズアニライド、3,4’−ジアミノベンズアニライド及びそれらの類似物(誘導体)等が挙げられる。これらのうち、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノベンズアニライド、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンがより好ましく、4,4’−ジアミノベンズアニライドが特に好ましい。これらのジアミンは、一種のみ用いてもよいし、二種以上を任意の割合で用いてもよい。
【0025】
本実施形態では、ポリイミド前駆体は、下記化学式(2)に示すポリアミド酸とした。このポリアミド酸は、例えば上述したテトラカルボン酸ニ無水物とジアミンとから周知の方法により製造することができる。
【0026】
【化2】
【0027】
塗膜52に含まれる溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)などが挙げられる。塗膜52の厚みは、特に限定するものではないが、例えば10〜400μmである。塗膜52は、ポリイミド前駆体と溶剤との他に、脱水剤(化学的転化剤)やイミド化剤(触媒)などがさらに添加されていてもよい。脱水剤としては、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物等が挙げられる。これらは、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。上記の脱水剤のうち、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ラク酸等の脂肪族酸無水物、およびこれら化合物の混合物がより好ましい。イミド化剤としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等が挙げられる。これらは、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。上記のイミド化剤のうち、イソキノリン、β−ピコリン、ピリジン等の複素環式第三級アミンが特に好ましい。
【0028】
続いて、工程(b)では、シート50が炉体14内を通過する。このとき、送風装置20から送風される熱風及び赤外線ヒーター30から照射される赤外線により、塗膜52が例えば350℃まで加熱されると共に、塗膜52中のポリアミド酸が脱水環化反応によりイミド化する。これにより、上記化学式(1)で示したポリアミド酸は下記化学式(3)(本実施形態では、下記化学式(4))に示すポリイミドとなり、塗膜52はポリイミドフィルムとなる。なお、塗膜52から蒸発した溶剤や脱水により生じた水蒸気は図示しない排気口から例えばブロワによって外部へ排出される。塗膜52は、最終的に反応炉10の開口18から搬出され、反応炉10の右端に設置されたロール56にシート50とともに巻き取られる。なお、製造されたポリイミドフィルムの厚みは、特に限定するものではないが、例えば3〜200μmである。
【0029】
【化3】
【0030】
【化4】
【0031】
上記工程(a),(b)によるポリイミドフィルムの製造方法では、ポリアミド酸の脱水環化反応の反応速度をより向上させることができる。この理由は以下のように考えられる。反応炉10の赤外線ヒーター30は、上述したように3.5μm以下の波長の赤外線をシート50の塗膜52に照射する。そのため、塗膜52には0.7〜3.5μmの波長領域の近赤外線、特に2.5μm〜3.5μmの波長領域の近赤外線が照射される。ここで、ポリアミド酸の脱水環化反応の反応基はイミノ基とヒドロキシ基であるが、イミノ基の吸収スペクトルは3450〜3300cm-1(=2.9〜3.0μm)であり、ヒドロキシ基の吸収スペクトルは約3000cm-1(=約3.3μm)である。この吸収スペクトルに近い波長である2.5μm〜3.5μmの近赤外線を照射することで、これら脱水環化反応の反応基に選択的にエネルギーを投入できるため、ポリアミド酸の脱水環化反応の反応速度が向上したと考えられる。なお、赤外線ヒーター30からの近赤外線は、上記のイミノ基及びヒドロキシ基の吸収スペクトルの値から、2.9〜3.3μmの波長の電磁波を含むことがより好ましい。また、上記工程(a),(b)によるポリイミドフィルムの製造方法では、近赤外線により脱水環化反応の反応基に選択的にエネルギーを投入できる分、従来のポリイミドフィルムの製造方法のように近赤外線を用いないで(例えば熱風の送風のみにより)脱水環化反応を生じさせる場合と比べて、比較的低温(例えば300℃未満)でもポリアミド酸の脱水環化反応を生じさせることができる。そのため、例えばシート50や塗膜52の熱収縮によるポリイミドフィルムの変形をより抑制することができる。ポリイミドフィルムの変形を抑制することで、例えばポリイミドフィルム上に実装する回路などのパターンずれや、基板へのダメージを抑制することができる。
【0032】
以上説明した本実施形態のポリイミドフィルムの製造方法では、工程(a)として、脱水によりポリイミドとなるポリイミド前駆体を含むフィルム前駆体(塗膜52)をシート上に塗布する。続いて、工程(b)として、塗膜52に近赤外線を照射することによりポリイミド前駆体を脱水して塗膜52をポリイミドフィルムとする。これにより、近赤外線を用いない場合と比べて脱水反応の反応速度を向上させることができる。また、工程(b)では、波長が2.5〜3.5μmの近赤外線を照射するため、より確実に脱水反応の反応速度を向上させることができる。さらに、工程(b)では、塗膜52に近赤外線を照射することにより、塗膜52の乾燥とポリイミド前駆体の脱水とを行うため、脱水だけでなく塗膜52の乾燥も効率的に行うことができる。さらにまた、工程(b)では、塗膜52に対して近赤外線の照射と熱風の送風とを行うため、溶剤の蒸発とポリイミド前駆体の脱水反応により生じた水分の除去とをより効率よく行うことができる。
【0033】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0034】
例えば、上述した実施形態では、ポリイミド前駆体の脱水反応の反応基がイミノ基とヒドロキシ基である場合について説明したが、吸収スペクトルが近赤外線の波長領域(0.7〜3.5μm)に含まれる反応基であれば、これらに限られない。
【0035】
上述した実施形態では、反応炉10が送風装置20及び赤外線ヒーター30を備えるものとしたが、近赤外線により塗膜52のポリイミド前駆体を脱水するものであればよく、送風装置20bを備えないものとしてもよいし、送風装置20a,20bを共に備えないものとしてもよい。あるいは、送風装置を他の構成としてもよい。例えば、送風装置20a,20bの通気口26a,26bは等間隔でなくともよい。あるいは、送風装置は、熱風を炉体14の一方から他方(例えば後端部16から前端部15)に向かって送風する構成としてもよい。例えば、図4に示すように、送風装置20が、炉体14内の後端部16付近において前端部15に向かって水平方向に開口した通気口26を有しており、炉体14の外部に設けられた熱風発生器22からの熱風がパイプ構造体24を介して通気口26から水平方向に送風されるものとしてもよい。この場合、図4に示すように、通気口26から送風されて塗膜52を加熱した後の熱風を排気する排気装置90を備えるものとしてもよい。排気装置90は、炉体14内の前端部15付近において後端部16に向かって水平方向に開口した排気口96と、炉体14の外部に設けられたブロワ92と、ブロワ92と排気口96とを接続するパイプ構造体とを備えた排気装置90を備えている。
【0036】
上述した実施形態における赤外線ヒーター30は、近赤外線を含む波長の電磁波を照射するものであればよく、例えば波長が2.5μm未満の電磁波を吸収するフィルタをさらに備えるものとしてもよい。こうすれば、波長が2.5μm〜3.5μmの近赤外線をより効率よく塗膜52に照射することができる。なお、内管36や外管40が3.5μmを超える赤外線を吸収しないものとし、波長が3.5μmを超える赤外線も塗膜52に照射するものとしてもよい。
【0037】
上述した実施形態では、シート50の片面(上面)に塗膜52を塗布するものとしたが、これに限られない。例えば、シート50の両面(上面及び下面)にそれぞれ塗膜52を塗布するものとしてもよい。
【0038】
上述した実施形態では、反応炉10の炉体14を塗膜52が通過する間に塗膜52の乾燥と脱水(イミド化)とを共に行うものとしたが、これに限られない。例えば、塗膜52に対して事前に乾燥工程を経た後で、炉体14内で塗膜52の脱水を行うものとしてもよい。この場合の乾燥工程は、熱風の送風と赤外線の照射の少なくとも一方により行うものとしてもよく、例えば反応炉10と同様の構成の乾燥炉内に塗膜52を通過させることで乾燥を行ってもよい。なお、事前に乾燥工程を経る場合でも、炉体14内での塗膜52の脱水と乾燥とを共に行ってもよい。
【0039】
上述した実施形態において、反応炉10は、1つの炉体14を備えるものとしたが、複数の炉体14を備えるものとしてもよい。例えば、送風装置20及び赤外線ヒーター30を備えた炉体14を1つのユニットとして、反応炉10が複数のユニットを備えるものとし、塗膜52が複数のユニット(炉体14)の内部を順に通過するものとしてもよい。この場合、塗膜52の脱水は複数のユニットの少なくとも1つのユニット内で行うものとすればよい。複数のユニットが、脱水前の乾燥工程を行うユニットと、脱水を行うユニットとを含むものとしてもよい。
【0040】
上述した実施形態において、搬送通路19には、シート50を下方から支える支持ローラを数個設けてもよい。こうすれば、重力によってシート50が撓むのを防止することができる。
【0041】
上述した実施形態では、赤外線ヒーター30として、フィラメント32の外周が3.5μmを超える波長の赤外線を吸収するフィルタとして機能する複数の管36,40によって同心円状に覆われ、これらの複数の管36,40の間に赤外線ヒーター30の表面温度の上昇を抑制する冷却流体の流路48を形成したものを用いたが、その他の赤外線ヒーターを用いても構わない。
【0042】
上述した実施形態では、各反応炉10の雰囲気ガスとして空気を用いたが、空気の代わりに窒素などの不活性ガスを用いてもよい。
【0043】
本出願は、2012年10月11日に出願された日本国特許出願第2012−225818号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ポリアミド酸などのポリイミド前駆体をイミド化して得られるポリイミドの製造産業、具体的には、このポリイミドを用いたフィルムからなる保護膜を備えたフレキシブルプリント配線基板や半導体などの製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 反応炉、14 炉体、15 前端面、16 後端面、17,18 開口、19 搬送通路、20,20a,20b 送風装置、22,22a,22b 熱風発生器、24,24a,24b パイプ構造体、26,26a,26b 通気口、30 赤外線ヒーター、32 フィラメント、34 電気配線、36 内管、37 温度センサ、38 ヒーター本体、40 外管、42 キャップ、44 配線引出部、46 流体出入口、48 流路、49 ホルダー、50 シート、52 塗膜、54,56 ロール、60 コントローラー、70 冷却流体供給源、72 開閉弁、74 流量調整弁、80 電力供給源、90 排気装置、92 ブロワ、94 パイプ構造体、96 排気口。
図1
図2
図3
図4