特許第5781301号(P5781301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5781301示差温度測定法を用いたアブレーションカテーテルの接触の感知
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5781301
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月16日
(54)【発明の名称】示差温度測定法を用いたアブレーションカテーテルの接触の感知
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20150827BHJP
   A61M 25/092 20060101ALI20150827BHJP
【FI】
   A61B17/39 310
   A61M25/092
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-285651(P2010-285651)
(22)【出願日】2010年12月22日
(65)【公開番号】特開2011-131060(P2011-131060A)
(43)【公開日】2011年7月7日
【審査請求日】2013年11月21日
(31)【優先権主張番号】12/646,165
(32)【優先日】2009年12月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510322649
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・トーマス・ビークラー
(72)【発明者】
【氏名】アタナシオス・パパイオアンヌ
【審査官】 毛利 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06425894(US,B1)
【文献】 特開2007−152139(JP,A)
【文献】 特開2005−052641(JP,A)
【文献】 特開2004−148131(JP,A)
【文献】 特開2008−080152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
A61M 25/092
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠位部分を有する挿入管と、
アブレーション手技中に電磁エネルギーを標的組織に伝達するために、前記遠位部分に配置された少なくとも1個のアブレーション電極と、
前記アブレーション手技中に前記標的組織の中で生成された熱を検出するために、前記アブレーション電極に十分に近接して前記遠位部分に配置される第1の温度センサと、
前記第1の温度センサよりも前記熱に対して応答が比較的低くなるように前記アブレーション電極から十分に離間して前記遠位部分に配置される第2の温度センサと、
前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサにリンクされた電子論理回路であって、比較的高い流量の冷却液が前記アブレーション電極に適用された際における前記第1の温度センサによって感知された温度および前記第2の温度センサによって感知された温度を平均化した第1の平均値、及び、比較的低い流量の冷却液が前記アブレーション電極に適用された際における前記第1の温度センサによって感知された温度および前記第2の温度センサによって感知された温度を平均化した第2の平均値をそれぞれ計算するようにプログラムされ、前記第1の平均値と前記第2の平均値との間の差が所定の閾値を超えることができない場合に、前記アブレーション電極と前記標的組織との間の不十分な接触状態を示すようにプログラムされた、電子論理回路と、を備える、医療器具。
【請求項2】
前記電子論理回路が、前記温度差が前記所定の閾値を超えることができない場合に、前記アブレーション電極と前記標的組織との間の不十分な接触状態を示すようにプログラムされる、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
前記第1の温度センサが、前記アブレーション電極が前記標的組織と接触する場合に、前記標的組織と接触する、請求項1に記載の器具。
【請求項4】
前記挿入管が、ラッソーカテーテルである、請求項1に記載の器具。
【請求項5】
前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサが、熱電対である、請求項1に記載の器具。
【請求項6】
前記アブレーション電極に連結されて、そこに前記エネルギーを供給するアブレーション発電機を更に備える、請求項1に記載の器具。
【請求項7】
前記挿入管が、対象の心臓の心筋組織をアブレーションするのを目的として、血管を通って該心臓の中に挿入されるように構成される、請求項1に記載の器具。
【請求項8】
前記挿入管が、前記標的組織を含むアブレーション部位に冷却液を送達するのを目的とした、前記挿入管を貫通して穿孔された補助ポートを有する、請求項1に記載の器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織アブレーションシステムに関する。より詳細には、本発明は、侵襲的プローブと体内組織との間の接触のモニタリングに関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動などの心不整脈は、心臓組織の一部領域が近隣組織へ異常な電気信号を伝達したとき、正常な心周期を混乱させ、非同期的リズムを生じた場合に起こる。
【0003】
不整脈治療の手順としては、不整脈の原因となっている信号源を外科的に遮断する工程、並びにそのような信号の伝達経路を遮断する工程が挙げられる。カテーテルを介してエネルギーを印加して心臓組織を選択的にアブレーションすることによって、心臓の一部分から別の部分への望ましくない電気信号の伝播を停止する又は変更することが可能な場合がある。アブレーション方法は、非導電病変の形成により、望ましくない電気経路を破壊する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
アブレーションの間、組織と接触するカテーテルの部分は、典型的には、血液のみと接触する部分よりもかなり熱くなる。本発明の実施形態は、電極が組織と適切に接触しているかを確認するためにこの現象を利用する。
【0005】
本発明の実施形態は、挿入管と、アブレーション手技中に電磁エネルギーを標的組織に伝達するために遠位部分に配置された少なくとも1個のアブレーション電極と、アブレーション手技中に生成された熱を検出するために、アブレーション電極に十分に近接して遠位部分に配置される第1の温度センサと、熱を検出することができなくなる又は更には検出できないように、アブレーション電極から十分に離間して遠位部分に配置される第2の温度センサと、を備える、医療機器を提供する。第1の温度センサ及び第2の温度センサにリンクされた電子論理回路は、電磁エネルギーを伝達するときに、第1の温度センサ及び第2の温度センサによって感知されたそれぞれの温度の間の温度差を計算し、かつ温度差が所定の閾値を超えた場合にアブレーション電極と標的組織との間の十分な接触状態を示すようにプログラムされる。
【0006】
当該器具の態様によると、電子論理回路は、温度差が所定の閾値を超えない場合に、アブレーション電極と標的組織との間の不十分な接触状態を示すようにプログラムされる。
【0007】
当該器具の更に別の態様によると、挿入管はラッソーカテーテルである。
【0008】
当該器具の一態様によると、電子論理回路は、比較的高い及び低い流量の冷却液がアブレーション電極に適用された際の、第1の温度差及び第2の温度差をそれぞれ計算するようにプログラムされ、電子論理回路は、第1の温度差と第2の温度差との間の差が所定の閾値を超えることができない場合に、アブレーション電極と標的組織との間の不十分な接触状態を示すようにプログラムされる。
【0009】
当該器具の態様によると、第1の温度センサ及び第2の温度センサは熱電対である。
【0010】
当該器具の更なる態様は、アブレーション電極に連結されてエネルギーを供給するアブレーション発電機を備える。
【0011】
当該器具の更に別の態様によると、挿入管は、対象の心臓の心筋組織をアブレーションするのを目的として、血管を通って心臓の中に挿入されるように構成される。
【0012】
本発明のその他の実施形態は、当該器具によって実施される手技を行う方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明をより理解するために、一例として、発明を実施するための形態を参照されたく、これは、以下の図面と併せて読むものであり、同様の要素は、同様の番号を表す。
図1】本発明の開示された実施形態による、異常な電気活動領域を検出し、生体の心臓でアブレーション治療を行うためのシステムの絵画図。
図2】本発明の開示された実施形態に従って構築され作動されるラッソーカテーテルの立面図。
図3】本発明の開示された実施形態による、線A−Aで切断された図2に示されるカテーテルのループ部分を通る断面図。
図4】本発明の開示された実施形態による、線B−Bで切断された図2に示されるカテーテルのループ部分を通る部分断面図。
図5】本発明の開示された実施形態による、心臓アブレーションの方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明において、本発明の種々の原理の完全な理解を提供するために、多くの具体的な詳細を記載する。しかしながら、これらの詳細全てが、必ずしも常に、本発明を実践する上で必要であるわけではないことが当業者には明らかであろう。この場合、一般概念を不必要に不明確にすることのないよう、公知の回路、制御論理、及び従来のアルゴリズム及びプロセスに関するコンピュータプログラム命令の詳細は詳細には示されていない。
【0015】
以下において図面を参照するが、最初に、本発明の開示された実施形態による、生体の心臓12にアブレーション治療を実施するのを目的としたシステム10の絵画図である図1を参照する。システムはラッソーカテーテル等のカテーテル14を含み、ラッソーカテーテル14は、通常は医師であるオペレータ16によって経皮的に挿入され、患者の血管系を通って、心臓の心室若しくは血管構造に入る。オペレータ16は、カテーテルの遠位端18を、評価される標的部位で心臓壁と接触させる。次いで、上記の米国特許第6,226,542号及び同第6,301,496号、並びに同一出願人による米国特許第6,892,091号(本開示は参照することによって本明細書に組み込まれる)に開示される方法に従って、電気アクティベーションマップが作成される。図1に関して記載される実施形態は主に心臓アブレーションに関係しているが、本発明の原理は、変更すべきところは変更して、その他のカテーテル及びプローブに、並びに心臓以外の体内組織に適用されてもよい。
【0016】
電気的活性化マップの評価により異常であると判定された領域は、例えば、高周波エネルギーを心筋に印加する、遠位端18の1個以上の電極に、カテーテル内のワイヤを通して高周波電流を通過させる工程により、熱エネルギーを適用してアブレーションできる。エネルギーは組織に吸収され、それを電気的興奮性が恒久的に失われる点(一般的には約50℃)に加熱する。成功すると、この手技により、心臓組織に非導電病変が形成され、不整脈を生じる異常な電気経路を崩壊させる。あるいは、米国特許出願第2004/0102769号に開示されているように(本開示は参照によって本明細書に組み込まれる)、例えば、超音波エネルギーなど、アブレーションエネルギーを印加する別の方法を用いることができる。本発明の原理は、異なる心臓室、及び洞調律のマッピング、並びに多くの異なる心不整脈が存在する場合に適用することができる。
【0017】
カテーテル14は、典型的には、アブレーションのために必要に応じて、オペレータ16がカテーテルの遠位端を操縦、位置決め及び向きできるように好適に制御できるハンドル20を備える。オペレータ16を支援するために、カテーテル14の遠位部は、コンソール24に位置した位置決めプロセッサー22に信号を提供する、ポジションセンサ(図示せず)を収容する。通常、コンソール24は、アブレーション発電機25を収容する。カテーテル14は、任意の公知のアブレーション技術を使用して、心臓に例えば高周波エネルギー、超音波エネルギー及びレーザーエネルギーのようなアブレーションエネルギーを伝達するように構成されてもよい。このような方法は、同一出願人による米国特許第6,814,733号、同第6,997,924号、及び同第7,156,816号に開示されており、これらは参照によって本明細書に組み込まれる。
【0018】
位置決めプロセッサー22は、カテーテル14の位置及び向き座標を測定する位置決めシステム26の要素である。本特許出願を通して、用語「場所」はカテーテルの空間的座標を指し、用語「向き」はその角座標を指す。用語「位置」はカテーテルの完全な位置情報を指し、これは位置と向きの両方の座標を含む。
【0019】
一実施形態では、位置決めシステム26は、カテーテル14の位置を決定する磁気式位置トラッキングシステムを含む。位置決めシステム26は、その近傍の所定の作業体積内に磁界を生成し、カテーテルにおいてこれら磁界を検出する。位置決めシステム26は通常、磁界発生コイル28などのような一群の外部ラジエータを備え、これらは患者の体外の既知固定位置に配置されている。コイル28は心臓12の付近に、場、通常は電磁場を発生する。
【0020】
別の実施形態において、カテーテル14内のラジエータ(コイルなど)が電磁場を発生し、これが被験者体外のセンサ(図示なし)に検出される。
【0021】
この目的に使用可能な位置トラッキングシステムのいくつかが、前述の米国特許第6,690,963号、及び同一出願人による米国特許第6,618,612号及び同第6,332,089号、並びに米国特許出願公報第2004/0147920号及び同第2004/0068178号に開示されており、これらは参照により全文が本明細書に組み込まれる。図1に示す位置決めシステム26は磁場を利用しているが、下記に説明される方法は、例えば電磁場、音波、又は超音波測定に基づくシステムなど、他の好適な位置決めシステムを利用できる。位置決めシステム26は、Biosense Webster,Inc.91765カリフォルニア州ダイヤモンドバー(3333 Diamond Canyon Road, Diamond Bar, CA 91765)から販売されているCARTO XP EP Navigation and Ablation Systemとして実現し得る。
【0022】
上述のように、カテーテル14はコンソール24に接続され、これによりオペレータ16がカテーテル14の機能を観察及び調節できるようになっている。コンソール24は、好ましくは適切な信号処理回路を有するコンピューターであるプロセッサーを含む。プロセッサーは、モニター30を駆動するように接続されている。信号処理回路は、通常、センサ32、34及び複数の検出電極36によって発生した信号を含むカテーテル14からの信号を受信し、増幅し、フィルタリングし、デジタル化する。コンソール24がデジタル化された信号を受信し、これを使用してカテーテル14の位置及び向きを計算し、電極からの電気信号を解析する。この分析から導かれた情報は、心臓の不整脈領域の場所特定、又は治療的アブレーションの促進などの診断目的のため、心臓12又は肺静脈心門などの構造の少なくとも一部分の電気生理学的マップを作成するのに使用される。
【0023】
単純化のため図には示されていないが、通常、システム10には他の要素も含まれる。例えば、システム10は、1つ以上の体表面電極からの信号を受信するように接続されてECG同期信号をコンソール24に供給する、心電図(ECG)モニターを含んでもよい。上述のように、システム10は、通常、対象の身体の外面に取り付けられた外部から貼付された基準パッチ、又は心臓12に対して固定位置に維持された、心臓12の中に挿入され内部に配置されたカテーテルのどちらかの上に基準位置センサもまた含む。カテーテル14の位置を基準カテーテルの位置と比較することによって、心臓の動きとは関係なく、心臓12に対するカテーテル14の座標が正確に決定される。代替として、他のいかなる好適な方法も、心臓の動きを補うために使用され得る。それでもなお、位置決めシステム26は、カテーテル14のエネルギー伝達要素がアブレーションされるべき組織と実際に接触していることを保証することはできない。
【0024】
カテーテル
ここで図2を参照すると、これは、本発明の開示された実施形態に従って構築され作動されるラッソーカテーテル38の立面図である。以下の議論において、ラッソーカテーテルは一例として示されていることが強調されるべきである。本発明の原理は、多くの構成を有するアブレーションカテーテルに等しく適用され得る。例えば、温度センサは、他の種類のカテーテル及びその他のアブレーション装置の反対側に設置されてもよい。更なる例では、温度センサは、線状アブレーションで使用される多電極カテーテルの長さに沿って反対側に固定されてもよい。
【0025】
カテーテル38は操縦可能なデバイスである。このハンドル、制御及び操縦メカニズム(図示なし)は従来と同様であり、図2では単純化のために省略されている。カテーテル38は、操縦メカニズムによってかかった力に応じて曲がることができるベース部分40を特徴としている。遠位ループ部分42はラッソー構成を完成させる。ループ部分42は、ジョイント44において範囲制限角度αでベース部分40に接合される。ループ部分42とベース部分40との間の角度αは、最適には約90度である。ジョイント44は、元々分離している2つの部材(ベース部分40、ループ部分42)が接合される点を画定することができ、あるいは、ジョイント44は、ベース部分44とループ部分42を形成するように単一部材が曲がるカテーテル38上の点を画定することができる。ループ部分42は、特定の医学的用途に必要な大きさに設定された曲率を有する、固定された既知の長さである。この曲率は、カテーテルの操縦及び制御メカニズム(図示なし)を用いて調整可能である。7〜15mmの範囲で調整可能な半径46が心臓用途に適している。しかしながら、この半径46は、一部の用途においては最大25mmまで変化する場合がある。いずれの場合にも、ループ部分42は、肺静脈又は冠静脈洞の心門などの構造にぴったり一致するように寸法設定されることができる。
【0026】
ループ部分42は、医学的処置中に生じる典型的な力がかかったときに、好ましくは、ねじれることはできるけれども伸縮することはできないないような材質で構成される。好ましくはループ42は、力がかかっていないときには開放円形又は半円形などの既定の曲線形状をなし、力がかかったときにはその既定の曲線形状がたわむよう、十分に弾力的である。好ましくは、ループ部分42は、当該技術分野において既知であるように、例えば、弾力性の長手方向部品による曲線部分の内部補強のため、少なくとも長手方向の一部分にわたって概して一定の弾性を有する。ループ部分42はポリウレタンから製造されてもよく、直径は少なくとも1mmであってよい。
【0027】
典型的に電極36、48、50として示される1個以上の電極がループ部分42の上に設置され、多くの組み合わせでアブレーション及びマッピング機能が割り当てられてもよい。アブレーション電極36、48は温度センサ52、54と関連付けられる。センサは従来の小型熱電対である。電線規格(AWG:American Wire Gauge)46が好適である。冷却液は、例えば、補助ポート(図示せず)を介して、操作中の流量約30〜40mL/分で、アブレーション電極に従来方式で供給される。
【0028】
マッピング電極36は温度センサに関連付けられない。電極36、48、50は環状構造を有して示されているが、これは重要ではない。アブレーション電極が一方の温度センサの十分近くにあってこの一方のセンサがアブレーション中の標的組織内の温度の上昇を検出するのを可能にし、他方の温度センサと十分に離間して、その結果この他方の温度センサが標的組織内の温度の上昇を検出しない、又はこの一方の電極よりもより少ない程度にこの上昇を検出するのであれば、例えば、チップアブレーション電極、リング電極、又はコイル電極などの多くの異なるタイプの電極を様々な組み合わせで使用することができる。この他方の温度センサは「参照温度センサ」と呼ばれる場合がある。
【0029】
ここで図3を参照すると、これは、カテーテル38(図2)のループ部分42を線A−Aで切断した、カテーテル14の断面図である。電極50はセンサ56(図2では見えない)の正反対にある。センサ52、56は、ワイヤ58によって、コンソール24(図1)の近位方向に延在しかつコンソール24に信号を伝えるケーブル60に接続される。センサ52が心内膜62と接触すると、センサ56は組織と接触しないが、血液によって灌注されることは明らかであろう。温度センサa52、a56は異なる構成で配置されることができ、図f3に示されるように正反対である必要はない。しかしながら、アブレーション電極36、48の1個以上が標的細胞と操作上係合する場合、センサa52はアブレーションによって生成された熱に応答するように意図されており、センサa56はそのように応答するように意図されていない。したがって、通常の手順のアブレーション手技の間に温度指数を得るときに、センサa56のアブレーション部位で生成される熱に対する応答がセンサa52よりも低くなるように、センサa52、a56は十分に離間される必要がある。センサa56はセンサa54よりも少なくとも2〜3℃低く表示しなければならない。
【0030】
ここで図4を参照すると、これは、カテーテル38(図2)のループ部分42を線B−Bで切断したカテーテル14の部分断面図である。電極50はセンサ52と関連して示されている。ワイヤ64はアブレーション電流を、コンソール24(図1)から電極50までケーブル60を介して伝導する。
【0031】
カテーテル38は、肺静脈の1つの中の円形路をアブレーションするように適合されていてもよい。ループ部分42(図2)は静脈口に嵌着して、ラッソーの外側に配置されたアブレーション電極は静脈の内周と接触する。ラッソーの内側は組織と接触せず、むしろ静脈を通る血流によって灌注される。図4の例において最も良く見られるように、アブレーションエネルギーは、電極50を通って標的組織62、例えば、心内膜又は肺静脈の内膜の中へと伝導される。カテーテル38が標的組織62と接触する場合、センサ52もまた標的組織62と接触する又はほぼ接触するのが好ましい。いずれの場合にも、標的組織62内で生成される熱をセンサ52が検出するように、センサ52は電極50の十分近くに配置されなければならない。電極の内側にセンサ52を実装することが推奨される。センサ56は電極50から離れて位置付けられ、熱を検出しないが参照温度センサとしての機能を果たす。センサ52は、センサ56よりも高い温度指数をコンソール24(図1)に報告する。10〜15℃を超える閾値温度差は、カテーテル38が標的組織62と接触して適切に位置決めされていることのオペレータへの指標である。典型的には、図3に示されるように、センサ56は、カテーテル38のシャフト上でセンサ52の正反対にある。センサ56が標的組織62内で生成される熱を感知しないことを確実にするために、少なくとも90度の弧によってセンサ52はセンサ56から離間されるべきである。
【0032】
逆に、閾値未満の温度差は、カテーテル38が標的組織62と接触して適切に位置決めされていないことのオペレータへの指標である。このような場合には、アブレーション電流の電源を切ってもよく、手技を継続する前にラッソーを位置決めし直してもよい。
【0033】
コンソール24(図1)内の電子論理回路、例えば、コンピュータは、電磁エネルギーを電極50に伝達する際にセンサ52、56によって感知されるそれぞれの温度の間の温度差を計算し、温度差に応答して電極50と標的組織62との間の接触状態を記録するようにプログラムされる。
【0034】
代替実施形態
図2の実施形態では、各アブレーション電極は、一方が密接して位置付けられ、もう一方が離れて位置付けられる、対応する一対の温度センサに関連付けられている。他の実施形態では、各アブレーション電極は、対応の密接して位置付けられた温度センサと引き続き関連付けられる。しかしながら、これらセンサの指数は、全てのアブレーション電極から離間した共通の参照温度センサと比較される。
【0035】
更に別の方法としては、どれもが標的組織の加熱に起因して誤った指数を生成するほどアブレーション電極と近接していないのであれば、2個以上の参照温度センサを採用してもよい。この実施形態では、参照温度センサの数はアブレーション電極の数より少ない。
【0036】
1個の参照温度センサ又は少数の参照温度センサを使用することの利点は、費用及び構造の簡潔さである。より複雑な構造、例えば、より多くの内部配線が必要な状態でより多くの数の参照電極の使用することは、参照温度センサにおける誤った指数の検出を可能にしてしまう。これは、コンソール24(図1)内に調整論理回路を採用することによって対処され得る。
【0037】
操作
ここで図5を参照すると、これは、本発明の開示された実施形態による心臓アブレーションの方法のフローチャートである。最初のステップ66で、上記実施形態の1つに従って構成されたカテーテルを、心臓に導入して位置決めし、アブレーション電極を、関連する温度センサと共に、位置決めシステム26(図1)を用いて標的部位に位置決めする。
【0038】
次に、ステップ68において、アブレーション発電機25を可能にして標的のアブレーションを開始する。アブレーション中、30〜40mL/分の範囲内の冷却液の流量を従来方式で用いて、アブレーション電極を冷却する。
【0039】
温度指数を温度センサから2回得る。最初の読み取りの前に、遅延ステップ70において、典型的には約2〜3秒である所定の時間間隔の遅延を開始する。この遅延間隔の間、冷却液の流量は最小値である約4mL/分に低減される。これにより、アブレーション電極が標的組織と適切に接触している場合には、標的組織内で熱蓄積が発生する。
【0040】
次に、ステップ72において、アブレーション電極に関連付られた温度センサ、及び1個以上の参照温度センサから最初の温度指数を得る。指数は平均化又は調整されてもよい。いずれの場合にも、結果は温度指数T1である。最初の読み取りが完了したら、冷却液の流量を30〜40mL/mLに戻す。
【0041】
次に、約2〜3秒間持続する遅延ステップ73において、温度は再均衡化する。次に、ステップ74において、温度センサの2回目の読み取りを行って温度指数T2を得る。
【0042】
次に、ステップ75において、温度差(T2−T1)を計算する。アブレーションが正常に進行した場合、即ち、アブレーション電極とアブレーション部位との間に十分な接触が存在した場合は、温度差T2−T1は少なくとも10〜15℃となることが予想される。しかしながら、アブレーションが存在しない場合、T2−T1はわずかである。
【0043】
アブレーション電極を最低限に冷却した状態で一方の指数を得て、通常に冷却した状態でもう一方を得るのであれば、必要に応じて、温度指数T2及びT1を逆の順序で得てもよい。
【0044】
ステップ72における最初の指数からでさえも、有用な情報を得ることができる。温度センサ52、56の間の温度差が閾値を超える場合、電極50とアブレーション部位との間には適切な接触が存在すると結論を下すことができる。この結論に依存する場合、遅延ステップ73及びステップ74を省略してもよい。
【0045】
次に制御は決定ステップ76に進み、ここで温度差T2−T1が先述の所定閾値を超えているかが判定される。決定ステップ76における決定が肯定の場合、制御は最終ステップ78に進む。アブレーション電極が標的組織と良好に接触していることが判定される。オペレータに成功が報告され、アブレーションを継続することができる。
【0046】
決定ステップ76における判定が否定の場合、制御は最終ステップ80に進む。オペレータは、アブレーション電極が標的組織と適切に接触していない可能性があるとの警告を受け、これによりオペレータは、アブレーション発電機25を無効にすることによってアブレーションを中断し、カテーテルを再位置決めする。
【0047】
本発明は、上に具体的に図示及び説明されたものに限定されないことを、当業者は理解するであろう。むしろ、本発明の範囲には、上に説明された種々の特長の組み合わせ及び副次的組み合わせの両方、並びに先行技術にないそれらの変更及び修正を含み、これらは、前述の説明を読むことによって当業者は思いつくであろう。
【0048】
〔実施の態様〕
(1) 遠位部分を有する挿入管と、
アブレーション手技中に電磁エネルギーを標的組織に伝達するために、前記遠位部分に配置された少なくとも1個のアブレーション電極と、
前記アブレーション手技中に前記標的組織の中で生成された熱を検出するために、前記アブレーション電極に十分に近接して前記遠位部分に配置される第1の温度センサと、
前記第1の温度センサよりも前記熱に対して応答が比較的低くなるように前記アブレーション電極から十分に離間して前記遠位部分に配置される第2の温度センサと、
前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサにリンクされた電子論理回路であって、前記電磁エネルギーを伝達するときに、前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサによって感知されたそれぞれの温度の間の温度差を計算し、かつ該温度差が所定の閾値を超えた場合に前記アブレーション電極と前記標的組織との間の十分な接触状態を示すようにプログラムされた、電子論理回路と、を備える、医療器具。
(2) 前記電子論理回路が、前記温度差が前記所定の閾値を超えることができない場合に、前記アブレーション電極と前記標的組織との間の不十分な接触状態を示すようにプログラムされる、実施態様1に記載の器具。
(3) 前記第1の温度センサが、前記アブレーション電極が前記標的組織と接触する場合に、前記標的組織と接触する、実施態様1に記載の器具。
(4) 前記挿入管が、ラッソーカテーテルである、実施態様1に記載の器具。
(5) 前記電子論理回路が、比較的高い及び低い流量の冷却液が前記アブレーション電極に適用された際に、第1の温度差及び第2の温度差をそれぞれ計算するようにプログラムされ、前記電子論理回路が、該第1の温度差と該第2の温度差との間の差が前記所定の閾値を超えることができない場合に、前記アブレーション電極と前記標的組織との間の不十分な接触状態を示すようにプログラムされる、実施態様1に記載の器具。
(6) 前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサが、熱電対である、実施態様1に記載の器具。
(7) 前記アブレーション電極に連結されて、そこに前記エネルギーを供給するアブレーション発電機を更に備える、実施態様1に記載の器具。
(8) 前記挿入管が、対象の心臓の心筋組織をアブレーションするのを目的として、血管を通って該心臓の中に挿入されるように構成される、実施態様1に記載の器具。
(9) 前記第1の温度センサが前記第2の温度センサから十分に離間されて、前記アブレーション手技の間の前記温度差を少なくとも2℃にする、実施態様1に記載の器具。
(10) 前記挿入管が、前記標的組織を含むアブレーション部位に冷却液を送達するのを目的とした、前記挿入管を貫通して穿孔された補助ポートを有する、実施態様1に記載の器具。
【0049】
(11) プローブを対象の体内の標的組織と接触させることであって、該プローブは該プローブの遠位部分の第1及び第2の温度センサと、該遠位部分の上のアブレーション電極とを有し、該第1及び第2の温度センサは該遠位部分に配置され、該アブレーション電極が該標的組織と操作上係合されるときに該第1の温度センサよりも該第2の温度センサの方が該標的組織を含むアブレーション部位で生成される熱に対して応答が低くなるように、該第2の温度センサは第1の温度センサから離間される、ことと、
前記体内の前記標的組織をアブレーションするために、前記アブレーション電極を介してエネルギーを印加することと、
前記第1の温度センサと前記第2の温度センサとの間の温度差を計算するために前記第1及び第2の温度センサを読み取ることと、
前記温度差が所定の閾値を超える場合に、前記接触が治療にとって十分であることを判定することと、を含む、治療方法。
(12) 前記プローブが、ラッソーカテーテルである、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記温度差を計算することが、比較的高い及び低い流量の冷却液が前記アブレーション電極に適用された際の、第1の温度差及び第2の温度差をそれぞれ計算することを含み、該第1の温度差と該第2の温度差との間の差が前記所定の閾値を超えることができない場合に、前記アブレーション電極と前記標的組織との間の不十分な接触状態を示すことを更に含む、実施態様11に記載の方法。
(14) 前記第1の温度センサ及び前記第2の温度センサが、熱電対である、実施態様11に記載の方法。
(15) 前記温度差が前記所定の閾値を超えることができない場合に、エネルギーの印加を中断することを更に含む、実施態様11に記載の方法。
(16) 前記プローブが、前記対象の心臓の心筋組織をアブレーションするのを目的として、血管を通って該心臓の中に挿入されるように構成される、実施態様11に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5