(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5781335
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】ポンプ逆転水車
(51)【国際特許分類】
F03B 3/10 20060101AFI20150907BHJP
【FI】
F03B3/10 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-47568(P2011-47568)
(22)【出願日】2011年3月4日
(65)【公開番号】特開2012-184699(P2012-184699A)
(43)【公開日】2012年9月27日
【審査請求日】2014年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(72)【発明者】
【氏名】飯野 真成
(72)【発明者】
【氏名】佐野 岳志
(72)【発明者】
【氏名】岡本 郷
(72)【発明者】
【氏名】南部 和幸
【審査官】
山本 崇昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−286934(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0009363(US,A1)
【文献】
特開2001−329937(JP,A)
【文献】
特開2002−195144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略放射状に延出する複数の羽根を有するランナと、
前記ランナを内部に回転可能に収容するケーシングと、
を備え、
前記ケーシングの内部に、前記ランナの外周側を取り囲む環状通路と、この環状通路から略接線方向に延出する直線通路と、該直線通路と該環状通路との分岐部から該環状通路の接線方向に略沿ってケーシング内側に突出する舌片部が設けられ、
ポンプ運転時には、前記ランナの回転によって軸方向から吸い込んだ液体としての水を、前記環状通路を通して前記直線通路に吐出し、水車運転時には、前記直線通路から前記環状通路に導入された液体によって前記ランナを回転させる、揚水用のポンプ逆転水車であって、
前記ランナの各羽根の径方向外側の端縁が、先端側に向かって曲率半径が漸減する曲面形状に形成され、
前記舌片部が、基部側から先端部側に向かって肉厚が漸減する形状に形成されている
揚水用のポンプ逆転水車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポンプとしての使用を主として設計されるポンプ逆転水車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
揚水等に用いるポンプとして、渦巻きポンプやディフューザポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この種のポンプは、略放射方向に延出する複数の羽根を備えた羽根車がケーシング内に配置され、羽根車を電動機等の駆動源によって回転させることにより、ケーシングの軸方向から吸い込んだ液体を周方向成分を持ちながら半径方向外側に吐出する。羽根車の各羽根は円盤状のベース部材に等間隔に設置され、駆動回転時に後縁となる径方向外側の領域が回転方向と逆向きに湾曲している。各羽根の後縁の延出端は羽根車の外周円の接線方向に略沿う平面で切断された形状とされている。また、ケーシングには、軸方向の端面に吸い込み口が設けられるとともに、羽根車の外周側に、羽根車の外周を取り囲む環状通路と、その環状通路から略接線方向に延出する直線通路と、から成る吐出通路が設けられている。
【0003】
ところで、この種のポンプは、ポンプとしての使用を主としつつ、必要に応じて液体の流れを動力に変換するポンプ逆転水車として用いられることがある。このポンプ逆転水車は、例えば、高層ビルの上階の貯水槽に水を汲み上げるときにポンプとして作動させ、その汲み上げた水を流下させる際の余剰エネルギーを電力として取り出すときに水車として作動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−187398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のポンプは、ポンプ逆転水車として用いる場合には、ポンプ部品の各部がポンプ運転に適した形状に設計されているため、水車として運転するときにポンプ部品の各部に水流が衝突し、このとき起こる乱流によって水車効率が大きく低下してしまう。
この対策としては、ポンプ部品をポンプ運転と水車運転の両方に適した専用設計にすることも考えられるが、この場合には、ポンプ部品の各部の形状が複雑になるうえ、専用部品の追加を余儀なくされ、大幅な製品コストを招いてしまう。
【0006】
そこでこの発明は、製品コストの高騰を招くことなく、簡単な構成によって水車効率を高めることのできるポンプ逆転水車を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るポンプ逆転水車では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、略放射状に延出する複数の羽根を有するランナ(ポンプ羽根車に相当)と、前記ランナを内部に回転可能に収容するケーシングと、を備え、前記ケーシングの内部に、前記ランナの外周側を取り囲む環状通路と、この環状通路から略接線方向に延出する直線通路とが設けられ、ポンプ運転時には、前記ランナの回転によって軸方向から吸い込んだ液体を、前記環状通路を通して前記直線通路に吐出し、水車運転時には、前記直線通路から前記環状通路に導入された液体によって前記ランナを回転させるポンプ逆転水車であって、前記ランナの各羽根の径方向外側の端縁が、先端側に向かって曲率半径が漸減する曲面形状に形成されていることを特徴とするものである。
これにより、水車運転時に直線通路から環状通路に液体が導入されると、その液体はランナの各羽根の径方向外側から内側に沿って流れ込み、このときランナに回転力を生じさせる。液体が各羽根の径方向外側の端縁に沿って流れ込むときには、液体はその端縁の曲面形状に滑らかに沿って流動する。
さらに、請求項1に係る発明は、請求項1に係るポンプ逆転水車において、前記直線通路と環状通路との分岐部に、当該環状通路の接線方向に略沿ってケーシング内側に突出する舌片部を備え、前記舌片部が、基部側から先端部側に向かって肉厚が漸減する形状に形成されていることを特徴とするものである。
これにより、水車運転時に直線通路から液体が導入されると、その液体は、直線通路と環状通路との分岐部に突設された舌片部に沿って先端側に向かって滑らかに流動する。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、水車運転時には、ランナの各羽根の径方向外側の縁部に設けられた曲面形状によって、衝突損失を招くことなく、スムーズに隣接する羽根間に液体を流入させることができるため、製品コストの高騰を招くことなく、簡単な構成によって水車効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明の一実施形態のポンプ逆転水車の
図2のA−A断面に対応する断面図である。
【
図2】この発明の一実施形態のポンプ逆転水車の
図1のB−B断面に対応する断面図である。
【
図3】この発明の一実施形態のポンプ逆転水車の
図1のC部の拡大図である。
【
図4】この発明の一実施形態のポンプ逆転水車の
図1のD部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、特別に断らない限り、「上」「下」については鉛直方向における上下を意味するものとする。また、各図中符号を付していない黒塗りの矢印は、ポンプ運転時における液体の流れを示し、同じく符号を付していない白抜き矢印は、水車運転時における液体の流れを示している。
【0012】
図1,
図2は、この発明の一実施形態に係るポンプ逆転水車1の概略構成を示す図であり、
図1は、ポンプ逆転水車1を略水平方向で切った断面図であり、
図2は、ポンプ逆転水車1を略鉛直方向で切った断面図である。
ポンプ逆転水車1は、渦巻きポンプの形態を成し、略放射方向に延出する複数の羽根11…を有するランナ2と、このランナ2を内部に収容するケーシング3とを備えている。ランナ2には、回転シャフト4が同軸に連結され、この回転シャフト4とランナ2がケーシング3の軸心部に回転可能に支持されている。回転シャフト4には、発電機と電動機の機能を併せ持つ図示しない発電電動機が連結されている。なお、
図1,
図2中のOは、回転シャフト4とランナ2の回転中心である。
【0013】
ランナ2は、回転シャフト4に連結された円盤状のベース部材12を備え、そのベース部材12の下面側に軸心方向に向かって湾曲しながら隆起する湾曲ガイド面12aが設けられている。この湾曲ガイド面12aには上記の複数の羽根11…の上面側が固定されている。この複数の羽根11は下面側が連結リング13によって相互に連結されている。連結リング13の中央の開口は、導入された液体が軸方向に沿って流れるランナ2の軸方向の入出口とされ、隣接する羽根11,11間の隙間は、導入された液体が略半径方向に沿って流れるランナ2の径方向の入出口とされている。
【0014】
ベース部材12上に配置される各羽根11は上記のようにベース部材12の略放射方向に延出しているが、より正確には、各羽根11は、
図1に示すように、径方向外側の縁部が内側の縁部に対してポンプ運転時における回転方向Pと逆向きに湾曲している。したがって、ポンプ運転時にランナ2がP方向に回転すると、各羽根11は回転中心O回りに旋回しつつ、中心側に導入された液体を遠心力によって円滑に径方向外側に吐出することになる。
また、各羽根11の径方向外側の端縁は、
図3に拡大して示すように、ランナ2の外周円の接線方向に略沿う平面Qで切断された形状ではなく、先端側に向かって曲率半径が漸減する曲面形状とされている。なお、
図3中の14は、羽根11の径方向外側の端縁の曲率半径が漸減する曲面である。
【0015】
一方、ケーシング3は、ランナ2の外周側を取り囲む環状通路15と、その環状通路15から略接線方向に延出する直線通路16とを備え、環状通路15の内周側がランナ2の外周側の径方向の入出口(隣接する羽根11,11間の隙間)に臨むとともに、直線通路16の端部がポンプ運転時に吐出側となる外部の図示しない配管に接続されている。また、ケーシング3の下面の略中央には、ランナ2の中央の軸方向の入出口に連通する軸心通路17が設けられ、その軸心通路17がポンプ運転時に吸入側となる外部の図示しない配管に接続されている。
【0016】
ところで、ランナ収容部18aを含むケーシング本体18には、環状通路15を構成する壁部18bが一体に形成されている。この壁部18bは環状通路15の略円形の中空断面を形成している。以下、この壁部18bを「中空断面壁18b」と呼ぶものとする。中空断面壁18bの一部には、直線通路16を形成する略直線状の直管部材19が接合されている。
ケーシング本体18の中空断面壁18bの内径は一定ではなく、直管部材19が接続される領域の内径が最も大きく、その領域からランナ収容部18aの周囲に沿って延出するに従って漸次内径が小さくなっている。したがって、中空断面壁18bによって造形される環状通路15はほぼ渦巻き形状を成し、中空断面壁18bのうちの直管部材19の側面に突き当たる領域の近傍の内径が最も小さくなっている。
この環状通路15の内径の最も小さい領域と内径の最も大きい領域の間の部分は直線通路16と環状通路15との分岐部となり、その分岐部には、舌片部20が設けられている。この舌片部20は、環状通路15の接線方向に略沿ってケーシング3内側に突出している。
【0017】
舌片部20は、
図4に拡大して示すように、基部側から先端部側にかけての肉厚が一定ではなく、基部側から先端部側に向かって肉厚が漸減するように形成されている。そして、舌片部20の先端部は、曲率半径が先端に向かって漸減する曲面によって形成されている。
なお、
図2中の21は、ケーシング本体18内に取り付けられ、ランナ2と環状通路15の間で液体の流れを整流する整流板である。整流板21は、
図1においては図示を省略している。
【0018】
以上の構成において、このポンプ逆転水車1をポンプとして作動させる場合には、発電電動機の動力によってランナ2を
図1のP方向に駆動回転させる。こうして、ランナ2が回転すると、ランナ2上の羽根11…の旋回によって下方の軸心通路17から吸い上げられた液体が環状通路15を介して直線通路16に吐出されるようになる。
【0019】
一方、このポンプ逆転水車1を水車として作動させる場合には、直線通路16に導入された液体を環状通路15を通してランナ2の外周側に流入させる。こうして、ランナ2に外周側から液体が旋回して流入すると、その液体はランナ2上の各羽根11をG方向に押圧しつつ、各羽根11の外面形状に略沿って径方向外側から内側へと流入する。このときランナ2の中心側に流入した液体は軸心通路17に排出され、ランナ2は各羽根11に作用する押圧力によってG方向に回転する。これにより、発電電動機は回転シャフト4を介して駆動され、その駆動力によって発電を行うことになる。
【0020】
このポンプ逆転水車1は、ランナ2の各羽根11の径方向外側の縁部が、先端側に向かって曲率半径が漸減する曲面形状に形成されているため、水車運転時に、液体がランナ2の各羽根11の径方向外側の端縁に沿ってランナ2の中心側に流れ込むときには、
図3に示すように、液体が各羽根11の端縁の曲面形状に沿って滑らかに流動する。したがって、液体が各羽根11の径方向外側の端部に衝突することによる損失の発生を未然に防止し、水車効率を確実に向上させることができる。
【0021】
そして、このポンプ逆転水車1の場合、成形や部品設置の容易なランナ2の各羽根11に簡単な改良を加えるだけで水車効率を向上させることができるため、製造コストの大幅な高騰を抑制することができる。即ち、ランナ2はケーシング3の内部に設置する前の段階で別の場所で製造する部品であり、しかも、各羽根11は加工後にベース部材に組み付けるものであるため、羽根部11に対する加工を比較的容易に行なうことができるとともに、ケーシング3内への設置にも支障を来たすことがない。
【0022】
また、このポンプ逆転水車1においては、ケーシング3側の直線通路16と環状通路15との分岐部に、環状通路15の接線方向に略沿ってケーング3内側に突出する舌片部20が設けられ、その舌片部20が、基部側から先端部側に向かって肉厚が漸減する形状とされているため、水車運転時における舌片部20でのウェークによる乱流の発生を抑制することができる。特に、この実施形態の場合、舌片部20の先端部が、曲率半径が先端に向かって漸減する曲面によって形成されていることから、より確実にウェークの発生を抑制することができる。したがって、このポンプ逆転水車1においては、水車効率のさらなる向上を図ることができる。
【0023】
そして、このケーシング3側の舌片部20についても、成形や部品設置が容易な位置に簡単な改良を加えるだけで水車効率を向上させることができるため、製品コストを抑制するうえで有利となっている。
【0024】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0025】
1…ポンプ逆転水車
2…ランナ
3…ケーシング
11…羽根
15…環状通路
16…直線通路
20…舌片部