(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオンが、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン及びケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のガスがイオン化されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスバリア積層体。
前記イオンの注入が、プラズマ生成ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ、前記有機珪素化合物からなる、屈折率が1.49〜1.60である薄膜を前記基材の表面に有する積層体に、負の高電圧パルスを印加することにより、該プラズマ中のイオンを前記薄膜の表面部に注入するものであることを特徴とする請求項7に記載のガスバリア積層体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、1)ガスバリア積層体、2)ガスバリア積層体の製造方法、並びに、3)電子デバイス用部材及び電子デバイス、に項分けして詳細に説明する。
【0017】
1)ガスバリア積層体
本発明のガスバリア積層体は、基材上にガスバリア層を有するガスバリア積層体であって、前記ガスバリア層が、有機ケイ素化合物原料として用いるCVD法により形成された有機ケイ素化合物薄膜に、イオンが注入されて得られたものであることを特徴とする。
【0018】
本発明のガスバリア積層体は、基材上にガスバリア層を有する。
基材を構成する素材としては、ガスバリア積層体の目的に合致するものであれば特に制限されない。例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等の合成樹脂が挙げられる。
【0019】
これらの中でも、可とう性に優れ、汎用性があることから、ポリエステル、ポリアミド又はシクロオレフィン系ポリマーが好ましく、ポリエステル又はシクロオレフィン系ポリマーがより好ましい。
【0020】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート等が挙げられる。
ポリアミドとしては、全芳香族ポリアミド、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン共重合体等が挙げられる。
【0021】
シクロオレフィン系ポリマーとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物が挙げられる。その具体例としては、アペル(三井化学社製のエチレン−シクロオレフィン共重合体)、アートン(JSR社製のノルボルネン系重合体)、ゼオノア(日本ゼオン社製のノルボルネン系重合体)等が挙げられる。
【0022】
基材の厚さは、目的とするガスバリア積層体の用途等にもよるが、通常1〜500μm、好ましくは10〜200μmである。
基材には、コロナ放電処理、プラズマ処理等の前処理を施し、汚れ物質の除去や表面の活性化を行っておいてもよい。
【0023】
本発明におけるガスバリア層は、基材上に、先ず、有機ケイ素化合物を原料として用いるCVD法により有機ケイ素化合物薄膜を形成し、次に、形成された有機ケイ素化合物薄膜に、イオンを注入することにより得ることができる。
【0024】
用いる有機ケイ素化合物としては、ケイ素を含む有機化合物であれば特に制限はないが、酸素原子及び/又は窒素原子をさらに含有するものが好ましい。
【0025】
具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラn−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン等の無置換若しくは置換基を有するアルキルアルコキシシラン;
ジフェニルジメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアリールアルコキシシラン;
ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)等のジシロキサン;
ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、テトラキスジメチルアミノシラン、トリス(ジメチルアミノ)シラン等のアミノシラン;
ヘキサメチルジシラザン(HMDSZ)、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラメチルジシラザン(TMDS)等のシラザン;
【0026】
テトライソシアナートシラン等のシアナートシラン;
トリエトキシフルオロシラン等のハロゲノシラン;
ジアリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン等のアルケニルシラン;
ジ−t−ブチルシラン、1,3−ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、テトラメチルシラン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ベンジルトリメチルシラン等の無置換若しくは置換基を有するアルキルシラン;
ビス(トリメチルシリル)アセチレン、トリメチルシリルアセチレン、1−(トリメチルシリル)−1−プロピン等のシリルアルキン;
1,4−ビストリメチルシリル−1,3−ブタジイン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン等のシリルアルケン;
フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン等のアリールアルキルシラン;
プロパルギルトリメチルシラン等のアルキニルアルキルシラン;
ビニルトリメチルシラン等のアルケニルアルキルシラン;
ヘキサメチルジシラン等のジシラン;
オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン等のシロキサン;
N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド;
ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド;
等が挙げられる。
【0027】
これらの中でも、取り扱い性、及び低い真空度で成膜でき、設備コストが抑えられ、成膜容易性の観点から、1.01×10
5Paにおける沸点(以下にて同じ)が40〜200℃である有機ケイ素化合物が好ましく、沸点が50〜180℃である有機ケイ素化合物がより好ましく、沸点が60〜170℃である有機ケイ素化合物がさらに好ましい。
これらの中でも、取り扱い性、汎用性及び得られるガスバリア層が優れたガスバリア性を有するという点からく、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、テトラエトキシシランが特に好ましい。
【0028】
CVD(Chemical Vapor Deposition)法は、薄膜形成用原料を気体状態で供給し、これを熱あるいはプラズマのエネルギーなどで分解して薄膜成長を行なう薄膜形成技術である。
本発明において、CVD法は特に限定されず、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法、レーザーCVD法等が挙げられる。
これらの中でも、基材にかかる温度を低温くすることができるという点から、プラズマCVD法が好ましい。
【0029】
プラズマCVD法は、気体プラズマを利用して薄膜成長を行うものであり、基本的には、減圧下において原料ガスを含むガスを高電界による電気的エネルギーで放電させ、分解させ、生成する物質を気相中或いは基材上での化学反応を経て、基材上に堆積させるプロセスから成る。プラズマ状態は、グロー放電によって実現されるものであり、このグロー放電の方式によって、直流グロー放電を利用する方法、高周波グロー放電を利用する方法、マイクロ波放電を利用する方法等が知られている。
【0030】
プラズマCVD法に用いる装置としては、真空成膜装置であれば特に限定されずに用いることができ、平行平板CVD装置が一般的であるが、例えばマイクロ波CVD装置、ECR−CVD装置、及び高密度プラズマCVD装置(ヘリコン波方式、高周波誘導方式)等を用いることができる。
【0031】
有機ケイ素化合物薄膜をプラズマCVD法で形成する際には、得られるガスバリア層のガスバリア性を向上させるという目的から、原料の有機ケイ素化合物に加えて、酸化性ガス又は還元性ガスを併用することが好ましい。
【0032】
酸化性ガス又は還元性ガスとしては、O
2、O
3、NO
2、N
2O、CO
2、CO、水素、炭化水素、アンモニア、H
2O
2等のいずれか1種又は2種以上の組み合わせ等が挙げられる。これらの中でもO
2が好ましい。
【0033】
また、プラズマ中で発生する活性種の濃度制御や原料ガスの解離促進のために、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、クリプトン等の不活性ガスを添加してもよい。これらの不活性ガスは1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
プラズマCVD法においては、例えば、内圧を、0.05Pa〜500Pa、好ましくは30Pa〜150Paとした反応室内に、気体状態の有機ケイ素化合物を、酸化性ガス又は還元性ガス、所望により不活性ガスとともに導入し、電極に100〜1000W、好ましくは300〜500Wの電力をかけることによってプラズマを生成させ、これを電極上に配置した基材上に堆積させることによって、有機ケイ素化合物薄膜を形成することができる。
【0035】
得られる有機ケイ素化合物薄膜の膜厚は、通常10〜1000nm、好ましくは30〜500nm、特に好ましくは100〜300μmである。プラズマCVDにおいて、処理時間等を変化させることにより、膜厚を調整することができる。処理時間は通常5秒から数分、好ましくは10秒から4分である。
【0036】
本発明においては、有機ケイ素化合物薄膜の厚みがナノオーダーであっても、後述するように有機ケイ素化合物薄膜にイオンを注入することにより、充分なガスバリア性能を有するガスバリア積層体を得ることができる。
【0037】
本発明においては、原料の有機ケイ素化合物を適宜選択したり、上記プラズマCVD法の条件等を適宜選択することにより、任意の範囲の屈折率の有機ケイ素化合物薄膜を得ることが出来る。
【0038】
本発明においては、有機ケイ素化合物薄膜の屈折率は、1.46〜1.60であることが好ましい。有機ケイ素化合物薄膜の屈折率が1.60より大きいと、膜が固くなりクラック等の欠陥が発生しやすくなる。一方、屈折率が1.46より小さいと、イオンを注入しても均一で高密度なガスバイア層が形成されにくく、好ましいガスバリア性が得られず、可とう性も劣る可能性がある。すなわち、屈折率が上記範囲であれば、後述するように、有機ケイ素化合物薄膜にイオンを注入することで、ガスバリア性が高く、可とう性にも優れるガスバリア層を得ることが出来る。
屈折率は、公知の屈折率測定装置(エリプソメーター)により測定することができる。
【0039】
また、上記プラズマCVD法により形成される有機ケイ素化合物薄膜は、従来の方法に比べて、ピンホールが発生しにくい。従って、このような有機ケイ素化合物薄膜を用いることによって、安定したガスバリア性を有するガスバリア層を形成することができる。
【0040】
次に、得られた有機ケイ素化合物薄膜にイオンを注入することにより、ガスバリア層を形成する。
注入するイオンとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンなどの希ガスのイオン;フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄等のイオン;
【0041】
メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン系ガス類のイオン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のアルケン系ガス類のイオン;ペンタジエン、ブタジエン等のアルカジエン系ガス類のイオン;アセチレン、メチルアセチレン等のアルキン系ガス類のイオン;ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレン等の芳香族炭化水素系ガス類のイオン;シクロプロパン、シクロヘキサン等のシクロアルカン系ガス類のイオン;シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアルケン系ガス類のイオン;
金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、クロム、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、アルミニウム等の導電性の金属のイオン;
パーフルオロカーボン(PFC)等のフロリナート;テトラフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエチレン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロペン等のフッ化炭素化合物のイオン;
1,1−ジフルオロエチレン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン等のフッ化炭化水素化合物のイオン;
ジフルオロジクロロメタン、トリフルオロクロロメタン等のフッ化塩化炭化水素化合物のイオン;
1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、パーフルオロブタノール等のフッ化アルコールのイオン;
ビニルトリフルオロアセテート、1,1,1−トリフルオロエチルトリフルオロアセテート等のフッ化カルボン酸エステル;アセチルフルオライド、ヘキサフルオロアセトン、1,1,1−トリフルオロアセトン等のフッ化ケトンのイオン;
等が挙げられる。
【0042】
なかでも、より簡便に注入することができ、より優れたガスバリア性と可とう性を有するガスバリア層が得られることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン及びケイ素化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のイオンが好ましく、窒素、酸素、アルゴン又はヘリウムのイオンが特に好ましい。
【0043】
イオンの注入量は、形成するガスバリア積層体の使用目的(必要なガスバリア性、可とう性等)等に合わせて適宜決定すればよい。
【0044】
イオン注入法としては、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法(プラズマイオン注入法)等が挙げられる。なかでも、本発明においては、優れたガスバリア性を有するガスバリア層が簡便に得られることから、後者のプラズマイオン注入法が好ましい。
【0045】
プラズマイオン注入法は、具体的には、プラズマ生成ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ、有機ケイ素化合物薄膜を表面に有する積層体に、負の高電圧パルスを印加することにより、該プラズマ中のイオン(陽イオン)を有機ケイ素化合物薄膜の表面部に注入する方法である。
【0046】
イオンが注入される層(以下、「イオン注入層」ということがある)の厚みは、イオンの種類や印加電圧、処理時間等の注入条件により制御することができ、用いる有機ケイ素化合物薄膜の厚み、ガスバリア積層体の使用目的等に応じて決定すればよいが、通常表層から5〜1000nm、好ましくは20〜500nmである。
【0047】
イオンが注入されたことは、例えば、X線光電子分光(XPS)分析を用いて、有機ケイ素化合物薄膜の表面部の元素分析測定を行うことによって確認することができる。
【0048】
このように、有機ケイ素化合物薄膜の表面部にイオンが注入されることにより、ガスバリア層内部に柔軟性を残しつつ、表面部の酸化が促進し、表面部に高密度なガスバリア層が形成される。
以上のように、有機ケイ素化合物を原料として用いるCVD法により形成された、有機ケイ素化合物薄膜に、イオンが注入されて得られるガスバリア層は、従来の無機化合物層からなるガスバリア層と異なり、層内部に柔軟性を有するため、可とう性に優れ、膜厚が500nm以下と比較的薄い場合であっても、十分なガスバリア性を有する。
【0049】
本発明のガスバリア積層体の形状は、特に制限されず、例えば、フィルム状、シート状、直方体状、多角柱状、筒状などが挙げられる。後述するごとき電子デバイス用部材として用いる場合には、フィルム状、シート状であることが好ましい。該フィルムの厚みは、目的とする電子デバイスの用途によって適宜決定することができる。
【0050】
本発明のガスバリア積層体は、前記基材、及び、ガスバリア層のみからなるものであってもよいし、さらに他の層を含むものであってもよい
他の層としては、例えば、無機薄膜層、導電体層、衝撃吸収層、プライマー層等が挙げられる。
【0051】
無機薄膜層は、無機化合物の一種又は二種以上からなる層である。無機化合物層を設けることで、ガスバリア性をさらに向上させることができる。
無機化合物としては、一般的に真空成膜可能で、ガスバリア性を有するもの、例えば無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物、無機硫化物、これらの複合体である無機酸化窒化物、無機酸化炭化物、無機窒化炭化物、無機酸化窒化炭化物等が挙げられる。
無機薄膜層の厚みは、通常10nm〜1000nm、好ましくは20〜500nm、より好ましくは20〜100nmの範囲である。
【0052】
導電体層を構成する材料としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等が挙げられる。具体的には、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO);フッ素をドープした酸化スズ(FTO);酸化スズ、ゲルマニウムをドープした酸化亜鉛(GZO)、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の半導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル等の金属;これら金属と導電性金属酸化物との混合物;ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料;等が挙げられる。
【0053】
導電体層の形成方法としては特に制限はない。例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。
導電体層の厚さはその用途等に応じて適宜選択すればよい。通常10nm〜50μm、好ましくは20nm〜20μmである。
【0054】
衝撃吸収層は、ガスバリア層に衝撃が加わった時に、ガスバリア層を保護するためのものである。衝撃吸収層を形成する素材としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、ゴム系材料等が挙げられる。
【0055】
また、粘着剤、コート剤、封止剤等として市販されているものを使用することもでき、特に、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤等の粘着剤が好ましい。
【0056】
衝撃吸収層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、前記衝撃吸収層を形成する素材(粘着剤等)、及び、所望により、溶剤等の他の成分を含む衝撃吸収層形成溶液を、積層すべき層上に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等して形成する方法が挙げられる。
また、別途、剥離基材上に衝撃吸収層を成膜し、得られた膜を、積層すべき層上に転写して積層してもよい。
衝撃吸収層の厚みは、通常1〜100μm、好ましくは5〜50μmである。
【0057】
プライマー層は、基材とガスバリア層との層間密着性を高める役割を果たす。プライマー層を設けることにより、層間密着性及び表面平滑性に優れるガスバリア積層体を得ることができる。
【0058】
プライマー層を構成する材料としては、特に限定されず、公知のものが使用できる。例えば、ケイ素含有化合物;光重合性モノマー及び/又は光重合性プレポリマーからなる光重合性化合物、及び前記光重合性化合物に少なくとも紫外光域の光でラジカルを発生する重合開始剤を含む光重合性組成物;ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂(特にポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等とイソシアネート化合物との2液硬化型樹脂)、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール系樹脂、ニトロセルロース系樹脂等の樹脂類;アルキルチタネート;エチレンイミン;等が挙げられる。これらの材料は一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
プライマー層は、プライマー層を構成する材料を適当な溶剤に溶解又は分散してなるプライマー層形成用溶液を、基材の片面又は両面に塗付し、得られた塗膜を乾燥させ、所望により加熱することより形成することができる。
【0060】
プライマー層形成用溶液を支持体に塗付する方法としては、通常の湿式コーティング方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、エアナイフコート、ロールナイフコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等が挙げられる。
プライマー層形成用溶液の塗膜を乾燥する方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等、従来公知の乾燥方法が採用できる。
プライマー層の厚みは、通常、10〜1000nmである。
【0061】
また、得られたプライマー層に、前記イオンを注入する方法と同様の方法によりイオン注入を行ってもよい。プライマー層にもイオン注入を行うことにより、よりガスバリア性に優れるガスバリア積層体を得ることができる。
【0062】
本発明のガスバリア積層体においては、ガスバリア層は、基材の表側と裏側の両側に形成されていてもよい。ガスバリア積層体が、他の層を含む積層体である場合、前記ガスバリア層の配置位置は特に限定されない。また、他の層は、単層でも、同種又は異種の2層以上であってもよい。
【0063】
本発明のガスバリア積層体は、優れたガスバリア性と可とう性を有する。
本発明のガスバリア積層体が優れたガスバリア性を有していることは、本発明のガスバリア積層体の水蒸気等のガスの透過率が小さいことから確認することができる。例えば、水蒸気透過率は、通常5g/m
2/day以下であり、好ましくは1g/m
2/day以下であり、より好ましくは0.5g/m
2/day以下である。なお、ガスバリア積層体の水蒸気等の透過率は、公知のガス透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0064】
また、本発明のガスバリア積層体が優れた可とう性を有していることは、例えば、本発明のガスバリア積層体を、3mmφステンレスの棒に、イオン注入面を外側にして巻きつけ、周方向に10往復させた後、光学顕微鏡でクラック発生の有無を観察し、クラックの発生が認められないことから確認することができる。
【0065】
2)ガスバリア積層体の製造方法
本発明のガスバリア積層体の製造方法は、基材上に、有機ケイ素化合物を原料として用いるCVD法により、有機ケイ素化合物薄膜を形成する工程1と、形成した有機ケイ素化合物薄膜にイオンを注入する工程2とを有することを特徴とする。
本発明のガスバリア積層体の製造方法においては、基材上に、有機ケイ素化合物を原料として用いるCVD法により、屈折率が1.46〜1.60である有機ケイ素化合物薄膜を形成する工程と、形成した有機ケイ素化合物薄膜にイオンを注入する工程とを有することが好ましい。
【0066】
〈工程1〉
基材上に、CVD法により、有機ケイ素化合物薄膜を形成するには、具体的には、原料として所定の有機ケイ素化合物を用い、公知のCVD成膜装置を使用して行うことができる。CVD法に関しては、上述した通りであり、プラズマCVD法が好ましい。基材上に、プラズマCVD法による有機ケイ素化合物薄膜の形成は、公知のプラズマCVD成膜装置を使用して行うことができる。
【0067】
以下、プラズマCVD成膜装置を用いて、基材上に有機ケイ素化合物薄膜を形成する方法の一例を、図を参照しながら説明する。
【0068】
図1にプラズマCVD成膜装置の一例を模式的に示す。
図1に示すプラズマCVD成膜装置は、アノード電極2、カソード電極3、及び、高周波電力を供給する高周波電源4を有する反応室1と、反応室1に配管を通じて接続される、有機ケイ素化合物を収容する容器5、酸化性ガス室6、キャリアガス室8、反応室内を真空引きする真空ポンプ7、排気ダクト10からなる。容器5、酸化性ガス室6、キャリアガス室8にはそれぞれ、流量調節弁9a、9b、9cが備わっている。
反応室1はその内部空間を所定の真空度に保持できる気密性を有している。
【0069】
先ず、反応室1内のアノード電極2上に、図示しない基材ホルダにより基材11を載置し、反応室1内を真空ポンプ7により所定の真空度にする。容器5内に充填された反応ガス(有機ケイ素化合物)を気化し、配管を通して反応室1内に導入する。また同時に、酸化性ガス室6から例えば、酸化性ガスとして酸素(O
2)ガスを、キャリアガス室8から例えば、キャリアガスとしてArを、反応室1内に所定の流量で導入する。
反応ガスの流量は、通常1〜100ml/分であり
酸化性ガスの流量は、通常1〜100ml/分であり、
キャリアガスの流量は、通常1〜200ml/分である。
【0070】
酸化性ガスとしては、酸素ガス以外には上述した酸化性ガスと同様のものが挙げられる。また、キャリアガスとしては、Ar以外には上述した不活性ガスと同様のものが挙げられる。
【0071】
さらに、反応室1内の圧力を所定の値に調整した後、カソード電極3に、高周波電源4を接続し、反応室1内の反応ガスに高周波電力を与えると、反応ガスが部分的に分解し、イオンやラジカルが生成する。反応ガスから生成したイオン、ラジカルはさらに反応して、基材上に堆積し、有機ケイ素化合物薄膜が形成される。
反応室内の圧力、成膜の際の電力、成膜時間等の好ましい値は、前記1)で記載した値と同様である。
【0072】
本発明によれば、CVD法において基材等を特に加熱する必要がなく、有機ケイ素化合物薄膜を簡便に形成することができる。
また、CVD法による有機ケイ素化合物薄膜の形成は、バッチ式であっても連続式であってもよい。
また、得られる有機ケイ素化合物薄膜の屈折率は、1.46〜1.60であることが好ましい。
【0073】
〈工程2〉
次に、得られた有機ケイ素化合物薄膜にイオンを注入する。
注入するイオン種としては、上述したのと同様のものが挙げられる。
有機ケイ素化合物薄膜にイオンを注入する方法としては、バッチ式であっても連続式であってもよい。なかでも、生産効率の観点から、長尺状の、有機ケイ素化合物薄膜が形成された基材(以下、「積層体」ということがある。)を、一定方向に搬送しながら、前記有機ケイ素化合物薄膜の表面部に、イオンを注入する方法が好ましい。
【0074】
この製造方法によれば、例えば、長尺状の積層体を巻き出しロールから巻き出し、それを一定方向に搬送しながらイオンを注入し、巻き取りロールで巻き取ることができるので、イオンが注入されて得られるガスバリア積層体を連続的に製造することができる。
長尺状の積層体は、有機ケイ素化合物薄膜が表面部に形成されていれば、前記他の層を含むものであってもよい。
積層体の厚さは、巻き出し、巻き取り及び搬送の操作性の観点から、通常10〜500μm、好ましくは20〜300μmである。
【0075】
有機ケイ素化合物薄膜にイオンを注入する方法は、特に限定されない。なかでも、プラズマイオン注入法により、前記薄膜の表面部にイオン注入層を形成する方法が特に好ましい。
【0076】
プラズマイオン注入法としては、(A)外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記薄膜の表面部に注入する方法、又は(B)外部電界を用いることなく、前記薄膜に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、前記薄膜の表面部に注入する方法が好ましい。
【0077】
前記(A)の方法においては、イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)を0.01〜1Paとすることが好ましい。プラズマイオン注入時の圧力がこのような範囲にあるときに、簡便にかつ効率よく均一なイオン注入層を形成することができ、透明性、ガスバリア性を兼ね備えたイオン注入層を効率よく形成することができる。
【0078】
前記(B)の方法は、減圧度を高くする必要がなく、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮することができる。また、前記薄膜全体にわたって均一に処理することができ、負の高電圧パルス印加時にプラズマ中のイオンを高エネルギーで薄膜の表面部に連続的に注入することができる。さらに、radio frequency(高周波、以下、「RF」と略す。)や、マイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、薄膜に負の高電圧パルスを印加するだけで、薄膜の表面部に良質のイオン注入層を均一に形成することができる。
【0079】
前記(A)及び(B)のいずれの方法においても、負の高電圧パルスを印加するとき、すなわちイオン注入するときのパルス幅は、1〜15μsecであるのが好ましい。パルス幅がこのような範囲にあるときに、透明で均一なイオン注入層をより簡便にかつ効率よく形成することができる。
【0080】
また、プラズマを発生させるときの印加電圧は、好ましくは−1kV〜−50kV、より好ましくは−1kV〜−30kV、特に好ましくは−5kV〜−20kVである。印加電圧が−1kVより大きい値でイオン注入を行うと、イオン注入量(ドーズ量)が不十分となり、所望の性能が得られない。一方、−50kVより小さい値でイオン注入を行うと、イオン注入時に積層体が帯電し、また積層体への着色等の不具合が生じ、好ましくない。
【0081】
有機ケイ素化合物薄膜の表面部にプラズマ中のイオンを注入する際には、プラズマイオン注入装置を用いる。
プラズマイオン注入装置としては、具体的には、(α)有機ケイ素化合物薄膜(イオン注入する層)に負の高電圧パルスを印加するフィードスルーに高周波電力を重畳してイオン注入する層の周囲を均等にプラズマで囲み、プラズマ中のイオンを誘引、注入、衝突、堆積させる装置(特開2001−26887号公報)、(β)チャンバー内にアンテナを設け、高周波電力を与えてプラズマを発生させてイオン注入する層周囲にプラズマが到達後、イオン注入する層に正と負のパルスを交互に印加することで、正のパルスでプラズマ中の電子を誘引衝突させてイオン注入する層を加熱し、パルス定数を制御して温度制御を行いつつ、負のパルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させる装置(特開2001−156013号公報)、(γ)マイクロ波等の高周波電力源等の外部電界を用いてプラズマを発生させ、高電圧パルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させるプラズマイオン注入装置、(δ)外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生する電界のみで発生するプラズマ中のイオンを注入するプラズマイオン注入装置等が挙げられる。
【0082】
これらの中でも、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮でき、連続使用に適していることから、(γ)又は(δ)のプラズマイオン注入装置を用いるのが好ましい。
前記(γ)及び(δ)のプラズマイオン注入装置を用いる方法については、WO2010/021326号パンフレットに記載のものが挙げられる。
【0083】
前記(γ)及び(δ)のプラズマイオン注入装置では、プラズマを発生させるプラズマ発生手段を高電圧パルス電源によって兼用しているため、RFやマイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、負の高電圧パルスを印加するだけで、プラズマを発生させ、有機ケイ素化合物薄膜の表面部にプラズマ中のイオンを注入し、イオン注入層を連続的に形成し、表面部にイオン注入層が形成されたガスバリア積層体を量産することができる。
【0084】
3)電子デバイス用部材及び電子デバイス
本発明の電子デバイス用部材は、本発明のガスバリア積層体からなることを特徴とする。従って、本発明の電子デバイス用部材は、優れたガスバリア性と可とう性を有しているので、水蒸気等のガスによる素子の劣化を防ぐことができる。本発明の電子デバイス用部材は、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ等のディスプレイ部材;太陽電池等に用いる太陽電池バックシート;等として好適である。
【0085】
本発明の電子デバイスは、本発明の電子デバイス用部材を備える。具体例としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、電子ペーパー、太陽電池等が挙げられる。
【0086】
本発明の電子デバイスは、本発明のガスバリア積層体からなる電子デバイス用部材を備えているので、優れたガスバリア性と可とう性を有する。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0088】
用いた真空成膜装置(プラズマCVD成膜装置)、プラズマイオン注入装置、屈折率測定装置、X線光電子分光測定装置(XPS)と測定条件、水蒸気透過率測定装置と測定条件、及び可とう性試験方法は以下の通りである。なお、用いたプラズマイオン注入装置は外部電界を用いてイオン注入する装置である。
【0089】
〈真空成膜装置(プラズマCVD成膜装置)〉
・反応ガス(流量):有機ケイ素化合物(10ml/分)
・導入ガス(流量): 酸化性ガス:酸素(O
2)(20ml/分)
・キャリアガス:アルゴン(Ar)(100ml/分)
・電力:400W
【0090】
〈プラズマイオン注入装置〉
・RF電源:型番号「RF56000」、日本電子社製
・高電圧パルス電源:「PV−3−HSHV−0835」、栗田製作所社製
・ガス流量:100sccm
・Duty比:0.5%
・繰り返し周波数:1000Hz
・印加電圧:−25kV
・RF電源:周波数 13.56MHz、印加電力 1000W
・チャンバー内圧:0.2Pa
・パルス幅:5μsec
・処理時間(イオン注入時間):300sec
・搬送速度:0.2m/min
【0091】
<屈折率測定装置>
・エリプソメーター:「分光エリプソメトリー2000U」、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン社製
【0092】
<X線光電子分光測定装置(XPS)>
・測定装置:「PHI Quantera SXM」、アルバックファイ社製
・X線ビーム径:100μm
・電力値:25W
・電圧:15kV
・取り出し角度:45°
【0093】
<水蒸気透過率の測定>
・水蒸気透過率測定装置:「PERMATRAN−W3/33」、mocon社製
・測定条件:相対湿度90%、40℃
【0094】
<可とう性試験方法>
3mmφステンレスの棒に、得られた積層体を、ポリエチレンテレフタレートフィルム側を内側にして巻きつけ、周方向に10往復させた後、光学顕微鏡(倍率2000倍、キーエンス社製)でクラック発生の有無を観察した。クラックの発生が認められなかった場合を「なし」、クラックの発生が認められた場合を「あり」と評価した。
【0095】
<有機ケイ素化合物薄膜の膜厚の測定>
エリプソメーター(「分光エリプソメトリー2000U」、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン社製)を用いて膜厚を測定した。
【0096】
(実施例1)
図1に示す真空成膜装置(プラズマCVD成膜装置)内のアノード電極2上の基材ホルダに、基材としてのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:PETA−4100、厚さ50μm、東洋紡績社製、以下「PETフィルム」という。)をセットし、装置の反応室の内圧を75Paとした。有機ケイ素化合物としてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を50℃で気化し、酸化性ガス(O
2)、キャリアガス(Ar)とともに反応室に導入した。
RF電源を用いてプラズマを発生させ、成膜時間を30秒として、基材上にHMDSO薄膜(膜厚211nm)を形成し、積層体1を作製した。形成されたHMDSO薄膜の屈折率は、1.48だった。
【0097】
次いで、プラズマイオン注入装置を用いて、得られた積層体1のHMDSO薄膜の表面に、アルゴン(Ar)をプラズマイオン注入してガスバリア層を形成し、ガスバリア積層体1を作製した。
【0098】
(実施例2)
実施例1において、有機ケイ素化合物としてヘキサメチルジシラザン(HMDSZ)を用い、装置反応室の内圧を70Paとし、成膜時間を45秒とした以外は、実施例1と同様にしてPETフィルム上にHMDSZ薄膜(膜厚209nm)を形成し、積層体2を作製した。形成されたHMDSZ薄膜の屈折率は、1.50だった。
得られた積層体2を用いて、実施例1と同様にしてガスバリア積層体2を作製した。
【0099】
(実施例3)
実施例1において、有機ケイ素化合物としてテトラメチルジシラザン(TMDS)を用い、装置反応室の内圧を60Paとし、成膜時間を60秒とした以外は、実施例1と同様にしてPETフィルム上にTMDS薄膜(膜厚195nm)を形成し、積層体3を作製した。形成されたTMDS薄膜の屈折率は、1.54だった。
得られた積層体3を用いて、実施例1と同様にしてガスバリア積層体3を作製した。
【0100】
(実施例4)
実施例1において、有機ケイ素化合物としてテトラエトキシシラン(TEOS)を用い、装置反応室の内圧を45Paとし、成膜時間を180秒とした以外は、実施例1と同様にしてPETフィルム上にTEOS薄膜(膜厚214nm)を形成し、積層体4を作製した。形成されたTEOS薄膜の屈折率は、1.49だった。
得られた積層体4を用いて、実施例1と同様にしてガスバリア積層体4を作製した。
【0101】
実施例1〜4で得られたガスバリア積層体1〜4につき、XPS測定により、ガスバリア積層体1〜4の表面から10nm付近の元素分析を行なうことにより、イオンが注入されたことを確認した。測定結果を
図2〜5に示す。
図2〜5において、縦軸は、酸素原子、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子の存在量の合計を100とした場合の原子の存在比(%)を表し、横軸はスパッタリングの積算時間(スパッタ時間、分)を表す。スパッタリングの速度は一定であるので、スパッタ時間は、深さに対応している。
【0102】
図2は実施例1の、
図3は実施例2の、
図4は実施例3の、
図5は実施例4の分析図であり、
図2〜5の(a)図はイオン注入前の、(b)図はイオン注入後の分析図である。
【0103】
図2〜5に示すように、イオン注入前とイオン注入後では、明らかに酸素原子、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子の存在比が変化していた。すなわち、実施例1〜4で得られたガスバリア積層体1〜4は、有機ケイ素化合物薄膜の表面部にイオンが注入されていることにより、表面部の酸化が促進し、表面部に高密度な酸化ケイ素膜が形成されていることが確認された。
【0104】
(比較例1)
実施例1において、プラズマイオン注入を行わない以外は、実施例1と同様にして積層体1rを作製した。
【0105】
(比較例2)
実施例2において、プラズマイオン注入を行わない以外は、実施例1と同様にして積層体2rを作製した。
【0106】
(比較例3)
実施例3において、プラズマイオン注入を行わない以外は、実施例1と同様にして積層体3rを作製した。
【0107】
(比較例4)
実施例4において、プラズマイオン注入を行わない以外は、実施例1と同様にして積層体4rを作製した。
【0108】
(比較例5)
PETフィルム上に、スパッタリング法により、SiO
2層(200nm)を形成してガスバリア積層体5rとした。SiO
2層の屈折率は1.45だった。
【0109】
スパッタリング条件は以下の通りである。
・ターゲット:Si
・成膜ガス:Ar,O
2
・ガス流量:Ar;100ml/分,O
2;60ml/分
・成膜圧力:0.2Pa
・ターゲット電力:2500W
・スパッタ時間:210秒
【0110】
(比較例6)
PETフィルム上に、従来から用いられる方法として、スパッタリング法により、窒化ケイ素(SiN)の層(200nm)を形成してガスバリア積層体6rとした。窒化ケイ素(SiN)の層の屈折率は2.10だった。
スパッタリングは、比較例5において酸素を窒素とした以外は、比較例5と同条件で行った。
【0111】
実施例1〜4、比較例1〜6で得られたガスバリア積層体1〜4、5r、6r、積層体1r〜4rにつき、水蒸気透過率を測定し、可とう性試験を行った。測定結果及び評価結果を下記第1表に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
実施例1〜4で得られたガスバリア積層体1〜4は、水蒸気透過率が低く、さらに可とう性に優れていた。一方、比較例1〜4の、イオン注入されなかった積層体1r〜4rは、水蒸気透過率が高く、ガスバリア性に劣っていた。また、比較例5、6のスパッタリングで形成したガスバリア層を有するガスバリア積層体5r、6rは、ガスバリア性は優れているものの、ガスバリア層にクラックが発生し、可とう性に劣っていた。