【文献】
Green Chemistry,2011年,Vol. 13,2004-2007
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法は、グリセリン及び水素を触媒の存在下で反応させ、グリセリンの水素化分解物の中でも、特に、1,3−プロパンジオールを製造する方法である。なお、上記「グリセリンの水素化分解物」とは、グリセリンが有する3つの水酸基(ヒドロキシル基)のうち、少なくとも1つが水素原子に置換された化合物、例えば、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1−プロパノール、2−プロパノールなどを意味する。
【0013】
[グリセリン]
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法において原料として使用するグリセリンは、特に限定されず、精製グリセリンであってもよいし、粗製グリセリンであってもよい。また、上記グリセリンの原料についても特に限定されず、上記グリセリンは、例えば、エチレン、プロピレンなどから化学合成されたグリセリンであってもよいし、バイオディーゼルの製造における植物油などのエステル交換反応で生じるような天然資源由来のグリセリンであってもよい。さらに、上記グリセリンとしては、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法により得られる反応結果物(通常、1,3−プロパンジオールを含む組成物である)から回収した未反応のグリセリンを利用(再利用)することもできる。
【0014】
上記グリセリンの純度は、特に限定されないが、触媒の失活を抑制する観点で、90重量%以上(例えば、90〜100重量%)が好ましく、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上である。
【0015】
[水素]
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法において使用する水素(水素ガス)は、そのままで(実質的に水素のみの状態で)用いてもよいし、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス等により希釈した状態で用いてもよい。また、水素としては、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法により得られる反応結果物から回収した水素を利用(再利用)することもできる。
【0016】
[触媒]
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法において使用する触媒は、固体超強酸に担持された白金と、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属とを含む触媒(グリセリンの水素化反応用触媒)である。
【0017】
上記触媒における固体超強酸は、少なくとも白金(好ましくは、白金、並びに、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属)の担体としての役割を担う。上記固体超強酸とは、その酸性度が100%硫酸よりも強い酸強度を有する酸として定義され(田部浩三、野依良治共著:「超強酸・超強塩基」(1980)、講談社)、ハメットの酸度関数(H
0)が−11.93よりも小さな酸である。
【0018】
上記固体超強酸としては、具体的には、例えば、液体超強酸(例えば、SbF
5、BF
3、BF−SbF
5、FSO
3H−SbF
5、TaF
5等)を固体上(例えば、Al
2O
3、SiO
2、ゼオライト、SiO
2−Al
2O
3、ポリマー、グラファイト、金属など)に担持した固定化液体超強酸;AlCl
3若しくはAlBr
3とCuSO
4、CuCl
2、Ti
2(SO
4)
3、又はTiCl
3とを摩砕混合することで調製された二元金属塩;硫酸イオンを金属酸化物(例えば、Fe
2O
3、TiO
2、ZrO
2、HfO
2、SnO
2、Al
2O
3、SiO
2等)に吸着させ焼成して担持結合させた硫酸化金属酸化物;上記硫酸化金属酸化物にIr、Pt等の貴金属を添加した貴金属/硫酸化金属酸化物;WO
3、MoO
3、B
2O
3等を金属酸化物(例えば、ZrO
2、SnO
2、TiO
2、Fe
2O
3等)に吸着させて、高温で焼成した金属酸化物超強酸;超強酸性イオン交換樹脂(−CF
2、CF
2、SO
3H等の超強酸基を有する非多孔質又は多孔質イオン交換樹脂、例えば、フッ素化スルホン酸系樹脂「ナフィオンNR50」(アルドリッチ社製)、「ナフィオンH」(デュポン社製)等);ヘテロポリ酸(P、Mo、V、W、Si等の元素を含有するポリ酸等)などが挙げられる。
【0019】
上記固体超強酸としては、硫酸化金属酸化物、貴金属/硫酸化金属酸化物、金属酸化物超強酸が好ましく、より好ましくは硫酸化金属酸化物、貴金属/硫酸化金属酸化物、さらに好ましくは硫酸化ジルコニアである。
【0020】
なお、上記触媒において固体超強酸は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
上記固体超強酸は、公知乃至慣用の製造方法により製造することができる。具体的には、例えば、硫酸化金属酸化物は、ジルコニアなどの金属酸化物に、硫酸、硫酸アルミニウム、塩化スルフリル、塩化チオニル、二酸化硫黄などの硫酸イオンの前駆体としての化合物を担持し、その後、焼成することによって製造できる。なお、上記硫酸イオンの前駆体の担持方法としては、公知乃至慣用の方法を利用でき、特に限定されないが、例えば、上記硫酸イオンの前駆体を適当な溶媒に溶解又は分散させて溶液又は分散液を調製した後、上記溶液若しくは分散液を金属酸化物に滴下し(又は、上記溶液若しくは分散液に金属酸化物を懸濁させ)、次いで、溶媒を乾燥により除去する方法などを利用できる。また、上記焼成の条件は、特に限定されないが、例えば、500〜1000℃の条件から適宜選択することができる。上記固体超強酸としては、市販品を使用することもできる。
【0022】
上記固体超強酸の形状や粒径は、特に限定されないが、例えば、粉末、押出成型物、噴霧成型物、球形成型物、打錠成型物などの任意の形状や任意の粒径のものが使用できる。
【0023】
上記触媒は、上記固体超強酸に担持された白金(Pt)を含む。上記固体超強酸に担持される白金の量は、特に限定されないが、白金と固体超強酸の合計量(100重量%)に対して、0.1〜20重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜10重量%である。白金の量が0.1重量%未満であると、グリセリンの転化率が著しく低下する場合がある。一方、白金の量が20重量%を超えると、触媒費用が高くなり、経済的に不利となる場合がある。なお、上記触媒において、固体超強酸に担持される白金の量は、例えば、触媒の調製時に固体超強酸に対して含浸させる溶液(後述の白金化合物を含有する溶液)の濃度や含浸させる量を調整すること等により、制御することができる。
【0024】
上記触媒において、白金を固体超強酸に担持する方法は、特に限定されず、公知乃至慣用の担持方法(例えば、含浸法、気相蒸着法、担持錯体分解法、噴霧法等)を利用することができる。具体的には、例えば、白金源としての白金化合物を含有する溶液を固体超強酸に含浸させた後、乾燥させ、次いで焼成する方法により担持することができる。上記白金化合物としては、例えば、ヘキサクロロ白金酸、ヘキサクロロ白金酸カリウム、ヘキサクロロ白金酸アンモニウム、テトラクロロ白金酸、テトラクロロ白金酸カリウム、テトラクロロ白金酸ナトリウム、テトラアンミン白金塩化物(例えば、テトラアンミン白金二塩化物)、テトラアンミン白金硫酸塩、ジクロロジアンミン白金、ジニトロジアンミン白金等の水溶性の白金化合物;ビス(アセチルアセトナト)白金、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金、ビス(ジベンジリデンアセトン)白金等の有機溶媒に可溶な白金錯体などが挙げられる。なお、白金化合物を含有する溶液の固体超強酸への含浸及び乾燥を繰り返して実施することにより、固体超強酸に担持させる白金の量を多くすることができる。白金を含有する溶液を含浸させる際の温度、該溶液を含浸させた固体超強酸を乾燥させる際の温度は、特に限定されない。
【0025】
上記固体超強酸に白金化合物を含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後の固体超強酸を焼成する際の温度(焼成温度)は、特に限定されないが、例えば、大気中において400〜900℃が好ましく、より好ましくは450〜800℃である。また、焼成する際の雰囲気は、上述のように大気中に限定されず、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気、水素等の還元性ガス雰囲気などでも焼成することができる。中でも、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気が好ましい。
【0026】
上記触媒は、上述の固体超強酸に担持された白金のほか、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属(金属元素)を含む。上記金属(スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属)を含むことにより、触媒の安定性が著しく向上し、反応を長時間実施した場合であってもグリセリンの転化率を高く維持することができ、高い生産性で1,3−プロパンジオールを生成させることができる。
【0027】
上記触媒において、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属が含まれる態様は、特に限定されないが、例えば、上記金属が金属単体、金属塩、若しくは金属錯体として含まれる態様、又は、上記金属が担体に担持された状態で含まれる態様などが挙げられる。上記の中でも、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属は、担体に担持された状態で含まれていることが好ましく、特に、白金を担持している固体超強酸に担持された状態で含まれていることがより好ましい。即ち、上記触媒は、固体超強酸に、白金、並びに、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属が担持された触媒であることが好ましい。
【0028】
上記のスズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属を固体超強酸(特に、硫酸化ジルコニア)に担持する場合、その方法は特に限定されず、公知乃至慣用の担持方法を利用することができる。具体的には、例えば、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された金属の原料としての金属化合物を含有する溶液を固体超強酸(例えば、白金化合物を含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後の固体超強酸)に含浸し、乾燥させた後、焼成する方法などが挙げられる。上記スズ源としての金属化合物としては、例えば、金属スズ;塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、臭化スズ(II)、酸化スズ、硫酸スズ、スズ酸ナトリウム、スズ酸カリウム、これらの水和物などの無機スズ化合物;テトラメチルスズ、テトラエチルスズ、テトラブチルスズ、テトラフェニルスズ、塩化トリブチルスズ、酢酸スズ、シュウ酸スズ、オクチル酸スズ、酒石酸スズ、テトラエトキシスズ、酸化ジブチルスズなどの有機スズ化合物;塩化スズ(IV)アセチルアセトナート錯体などのスズ錯体などが挙げられる。上記テルル源としての金属化合物としては、例えば、金属テルル;塩化テルル(II)、塩化テルル(IV)、酸化テルル(IV)、酸化テルル(VI)、テルル酸(H
6TeO
6)及びその塩類、亜テルル酸(H
2TeO
3)及びその塩類などの無機テルル化合物;ソジウムハイドロジェンテルライド(NaHTe)、ジフェニルジテルライド([PhTe]
2)などの有機テルル化合物などが挙げられる。なお、上記金属化合物を含有する溶液を含浸させる際の温度、該溶液を含浸させた固体超強酸を乾燥させる際の温度は特に限定されない。また、上記固体超強酸に金属化合物を含有する溶液を含浸させ、乾燥させた後の焼成温度も、特に限定されず、例えば、上記例示の焼成温度から適宜選択することができる。
【0029】
なお、上記触媒が、固体超強酸に白金、並びに、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属が担持された触媒である場合、固体超強酸への白金、並びに、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属を担持する際の順番は、特に限定されないが、まず白金を担持し、その後、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属を担持することが特に好ましい。
【0030】
上記触媒における、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属の量(2種以上を含む場合にはこれらの合計量)は、特に限定されないが、白金(100重量部)に対して、1〜90重量部が好ましく、より好ましくは1〜80重量部、さらに好ましくは10〜70重量部である。上記スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属の量が1重量部未満であると、触媒の安定性が低下し、グリセリンの転化率が経時で低下しやすくなる場合がある。一方、上記金属の量が90重量部を超えると、白金の触媒作用が抑制されてしまう場合がある。
【0031】
上記触媒が、特に、固体超強酸に白金及びスズを担持した触媒である場合、白金とスズのモル比[白金/スズ]は、特に限定されないが、100/400〜100/20(0.25〜5)が好ましく、より好ましくは100/300〜100/30(0.33〜3.3)、さらに好ましくは100/250〜100/33(0.4〜3.0)である。白金とスズのモル比[白金/スズ]が5を超えると、触媒の安定性が低下し、グリセリンの転化率が経時的に低下しやすくなり、スズの添加効果がみられない場合がある。
【0032】
また、上記触媒が、特に、固体超強酸に白金及びテルルを担持した触媒である場合、白金とテルルのモル比[白金/テルル]は、特に限定されないが、100/400〜100/20(0.25〜5)が好ましく、より好ましくは100/300〜100/30(0.33〜3.3)、さらに好ましくは100/250〜100/33(0.4〜3.0)である。白金とテルルのモル比[白金/テルル]が5を超えると、触媒の安定性が低下し、グリセリンの転化率が経時的に低下しやすくなり、テルルの添加効果がみられない場合がある。
【0033】
上記触媒は、固体超強酸に担持された白金、並びに、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属以外にも、その他の金属種(例えば、イリジウム、ニッケル、レニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウムなど)を含むものであってもよい。
【0034】
[本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法]
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法は、固体超強酸に担持された白金と、スズ、テルル、クロム、コバルト、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、及び水銀からなる群より選択された少なくとも1種の金属とを含む触媒の存在下で、グリセリン及び水素を反応させて、グリセリンの水素化分解物としての1,3−プロパンジオールを生成させる方法である。
【0035】
上記触媒の存在下におけるグリセリンと水素との反応は、特に限定されず、液状グリセリンと水素ガスと上記触媒との三相系(気液固三相系)で進行させてもよいし、グリセリンガスと水素ガスと上記触媒との二相系(気固二相系)で進行させてもよい。中でも、グリセリンの炭素−炭素結合が切断されてエチレングリコール、エタノール、メタノール、メタン等が生成する副反応の進行を抑制する観点からは、上記反応を三相系(気液固三相系)で進行させることが好ましい。
【0036】
なお、上記反応を三相系(気液固三相系)で進行させる場合には、グリセリンを水や有機溶媒などに溶解させたグリセリン溶液を原料として好ましく使用することができる。上記有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどのアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどのエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;その他、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドなどの高極性溶媒などが挙げられる。上記の中でも、上記グリセリン溶液の溶媒としては、グリセリンの転化率及び1,3−プロパンジオールの選択率の観点から、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが好ましい。
【0037】
上記グリセリン溶液におけるグリセリンの濃度(グリセリン溶液100重量%に対する濃度)は、特に限定されないが、10〜98重量%が好ましく、より好ましくは15〜90重量%、さらに好ましくは20〜90重量%、特に好ましくは30〜85重量%である。グリセリンの濃度が10重量%未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、グリセリンの濃度が98重量%を超えると、粘度が高くなり、操作が煩雑になる場合がある。
【0038】
上記グリセリン溶液には、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の成分(例えば、アルコール類など)を含有させてもよい。また、上記グリセリン溶液には、例えば、グリセリンの原料に由来する不純物(例えば、長鎖脂肪酸、金属塩、チオールやチオエーテルなどの含硫黄化合物、アミンなどの含窒素化合物等)が含まれる場合があるが、このような不純物は触媒を劣化させるおそれがあるため、公知乃至慣用の方法(例えば、蒸留、吸着、イオン交換、晶析、抽出等)により、できるだけグリセリン溶液から除去することが好ましい。
【0039】
上記グリセリン溶液は、特に限定されないが、グリセリンと、必要に応じて水や有機溶媒、その他の成分とを均一に混合することにより得られる。この場合の混合には、特に限定されないが、例えば、公知乃至慣用の攪拌機などを用いることができる。
【0040】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法は、特に限定されず、回分方式(バッチ式)、半回分方式、連続流通方式のいずれの方式によっても実施することができる。特に、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法によると、特に長時間の反応に供した場合であっても触媒の劣化が抑制されるため、例えば、連続流通方式を採用した場合でも、グリセリンの転化率が低下することなく、高い生産性を維持できる。
【0041】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法を回分方式で実施する場合には、例えば、回分式の反応器に、グリセリン(又はグリセリン溶液)、上記触媒、及び水素(水素ガス)を仕込み、必要に応じて加熱し、攪拌下で反応させることによって実施することができる。
【0042】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法を回分方式で実施する場合、反応器へのグリセリンと水素の仕込み量は、特に限定されないが、水素とグリセリンのモル比[水素(mol)/グリセリン(mol)]が、1以上であることが好ましく、より好ましくは4以上、さらに好ましくは10以上である。上記モル比が1未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。
【0043】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法を回分方式で実施する場合、上記触媒の使用量(仕込み量)は、特に限定されないが、グリセリン100重量部に対し、0.01〜50重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜20重量部である。上記触媒の使用量が0.01重量部未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、上記触媒の使用量が50重量部を超えると、コスト面で不利となる場合がある。
【0044】
一方、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法を連続方式(連続流通方式)で実施する場合には、例えば、内部に上記触媒を滞留させた流通式反応器の一端に、グリセリン(又はグリセリン溶液)及び水素(水素ガス)を連続的に供給し、他端から上記触媒を含まない反応液を連続的に排出させる方法により、グリセリンと水素の反応を行うことができる。なお、上記流通式反応器における反応は、移動床、懸濁床、固定床など、いずれによっても行うことができる。
【0045】
上記の中でも、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法は、連続流通方式で実施することが好ましく、特に、1,3−プロパンジオールを高い選択率及び収率で得ることができ、触媒の分離プロセスが不要である点で、流通式反応器としてトリクルベッド反応器を用いることがより好ましい。なお、上記トリクルベッド反応器とは、固体触媒が充填された触媒充填層を内部に有し、該触媒充填層に対して液体(本発明では、例えば、グリセリン溶液)と気体(本発明では、水素)とを共に、反応器の上方から下向流(気液下向並流)で流通する形式の反応器(固定床連続反応装置)である。
【0046】
上記グリセリンと水素の反応における温度(反応温度)は、特に限定されないが、80〜350℃が好ましく、より好ましくは90〜300℃、さらに好ましくは100〜200℃である。反応温度が80℃未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、反応温度が350℃を超えると、グリセリンの分解(例えば、炭素−炭素結合の開裂など)が生じやすく、1,3−プロパンジオールの選択率が低下する場合がある。
【0047】
上記グリセリンと水素の反応における水素の圧力(反応圧力、グリセリンと水素の反応における水素圧)は、特に限定されないが、1〜50MPaが好ましく、より好ましくは3〜40MPa、さらに好ましくは5〜30MPaである。反応圧力が1MPa未満であると、グリセリンの反応率(転化率)が低下する場合がある。一方、反応圧力が50MPaを超えると、高度な耐圧性を有する反応器が必要となるため、製造コストが高くなってしまう場合がある。
【0048】
本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法には、上述の水素とグリセリンとを反応させる工程のほか、必要に応じてその他の工程が含まれていてもよい。具体的には、例えば、グリセリンを精製したり、グリセリン溶液を調製・精製したりする工程等を含んでいてもよいし、反応により得られた反応結果物(例えば、グリセリン、水素、及びグリセリンの水素化分解物等を含む溶液)を分離したり、グリセリンの水素化分解物を精製する工程等を含んでいてもよい。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。
【0050】
製造例1
(硫酸化ジルコニアの調製)
テトラプロポキシジルコニウム(IV)溶液(濃度:70重量%、イソプロパノール溶液、Aldrich製)5mL、及び1−プロパノール(99.5%、Aldrich製)6.6mLを混合した。次に、上記溶液を攪拌しながら、0.5M硫酸水溶液9.7mLを少しずつ滴下したところ、ゲルが生成した。得られたゲルを攪拌した後、100℃で乾燥し、さらに625℃で4時間焼成して、硫酸化ジルコニアを調製した。
【0051】
実施例1
(触媒の調製)
触媒の担体として、製造例1で得られた硫酸化ジルコニアを使用した。上記担体に塩化白金酸の水溶液を滴下して、上記担体全体を湿潤させた後、110℃で2時間乾燥させた。そして、このような塩化白金酸の水溶液の滴下と乾燥を繰り返し(最後の乾燥の時間は12時間とした)、担体に白金を担持させた。次に、上記白金を担持後の担体に対し、塩化スズ(IV)の水溶液の滴下と乾燥を、先の塩化白金酸の水溶液の滴下及び乾燥と同様にして行い、担体(白金及びスズが担持された担体:100重量%)に対する白金の量が2重量%、スズの量が1.2重量%[白金とスズのモル比は1/1である]となるように、担体にスズを担持させた。その後、上記担体(白金及びスズを担持させた担体)を、大気中(空気雰囲気下)で、500℃、3時間の条件で焼成して、触媒[Pt−Sn(1)/Sulfated ZrO
2]を得た。
【0052】
(グリセリンの水素化(還元)反応)
グリセリン100重量部、及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)76重量部を混合して、グリセリン溶液(原料液)を作製した。
内径9mmの反応管を有するチタン(Ti)製のトリクルベッド反応器(固定床連続反応装置)に、上記触媒(Pt−Sn(1)/Sulfated ZrO
2)1.2kgを充填し、触媒充填部を170℃に加熱した(反応温度:170℃)。この触媒充填部に上記グリセリン溶液を900g/時間、及び水素を2L/分で供給して、反応を開始させた。反応中、反応管内の圧力を8MPa(ゲージ圧)に保持した。そして、上記反応管から連続的に反応混合物(反応液)を排出(流出)させ、原料液及び水素の供給開始(反応開始)から5時間後、10時間後、20時間後に、反応管から流出する反応混合物を1時間かけて捕集し、その捕集液(反応生成物を含む)の分析を行った。
【0053】
(生成物の分析)
上記グリセリンの水素化反応における、反応開始から5時間後、10時間後、20時間後に捕集した反応溶液について、ガスクロマトグラフィー(ガスクロマトグラフ装置:「GC−2014」((株)島津製作所製)、GCカラム:TC−WAX、DB−FFAP、検出器:FID)を用いて分析した。そして、反応開始から5時間後、10時間後、20時間後のグリセリンの転化率、1,3−プロパンジオールの選択率を算出した。分析結果を表1に示す。
【0054】
実施例2
(触媒の調製)
触媒の担体として、製造例1で得られた硫酸化ジルコニアを使用した。上記担体に塩化白金酸の水溶液を滴下して、上記担体全体を湿潤させた後、110℃で2時間乾燥させた。そして、このような塩化白金酸の水溶液の滴下と乾燥を繰り返し(最後の乾燥の時間は12時間とした)、担体に白金を担持させた。次に、上記白金担持後の担体に対し、塩化スズ(IV)の水溶液の滴下と乾燥を、先の塩化白金酸の水溶液の滴下及び乾燥と同様にして行い、担体(白金及びスズが担持された担体:100重量%)に対する白金の量が2重量%、スズの量が0.6重量%[白金とスズのモル比は1/0.5である]となるように、担体にスズを担持させた。その後、上記担体(白金及びスズを担持させた担体)を、大気中(空気雰囲気下)で、500℃、3時間の条件で焼成して、触媒[Pt−Sn(0.5)/Sulfated ZrO
2]を得た。
【0055】
(グリセリンの水素化反応及び生成物の分析)
上記で得られた触媒[Pt−Sn(0.5)/Sulfated ZrO
2]を使用したこと以外は実施例1と同様にして、グリセリンと水素の反応を行った。
また、実施例1と同様にして、生成物の分析を行い、反応開始から5時間後、10時間後、20時間後のグリセリンの転化率、1,3−プロパンジオールの選択率を算出した。結果を表1に示す。
【0056】
実施例3
(触媒の調製)
触媒の担体として、製造例1で得られた硫酸化ジルコニアを使用した。上記担体に塩化白金酸の水溶液を滴下して、上記担体全体を湿潤させた後、110℃で2時間乾燥させた。そして、このような塩化白金酸の水溶液の滴下と乾燥を繰り返し(最後の乾燥の時間は12時間とした)、担体に白金を担持させた。次に、上記白金担持後の担体に対し、四塩化テルルの水溶液の滴下と乾燥を、先の塩化白金酸の水溶液の滴下及び乾燥と同様にして行い、担体(白金及びテルルが担持された担体:100重量%)に対する白金の量が2重量%、テルルの量が1.3重量%[白金とテルルのモル比は1/1である]となるように、担体にテルルを担持させた。その後、上記担体(白金及びテルルを担持させた担体)を、大気中(空気雰囲気下)で、500℃、3時間の条件で焼成して、触媒[Pt−Te(1)/Sulfated ZrO
2]を得た。
【0057】
(グリセリンの水素化反応及び生成物の分析)
上記で得られた触媒[Pt−Te(1)/Sulfated ZrO
2]を使用したこと以外は実施例1と同様にして、グリセリンと水素の反応を行った。
また、実施例1と同様にして、生成物の分析を行い、反応開始から5時間後、10時間後、20時間後のグリセリンの転化率、1,3−プロパンジオールの選択率を算出した。結果を表1に示す。
【0058】
実施例4
(触媒の調製)
触媒の担体として、製造例1で得られた硫酸化ジルコニアを使用した。上記担体に塩化白金酸の水溶液を滴下して、上記担体全体を湿潤させた後、110℃で2時間乾燥させた。そして、このような塩化白金酸の水溶液の滴下と乾燥を繰り返し(最後の乾燥の時間は12時間とした)、担体に白金を担持させた。次に、上記白金担持後の担体に対し、四塩化テルルの水溶液の滴下と乾燥を、先の塩化白金酸の水溶液の滴下及び乾燥と同様にして行い、担体(白金及びテルルが担持された担体:100重量%)に対する白金の量が2重量%、テルルの量が0.65重量%[白金とテルルのモル比は1/0.5である]となるように、担体にテルルを担持させた。その後、上記担体(白金及びテルルを担持させた担体)を、大気中(空気雰囲気下)で、500℃、3時間の条件で焼成して、触媒[Pt−Te(0.5)/Sulfated ZrO
2]を得た。
【0059】
(グリセリンの水素化反応及び生成物の分析)
上記で得られた触媒[Pt−Te(0.5)/Sulfated ZrO
2]を使用したこと以外は実施例1と同様にして、グリセリンと水素の反応を行った。
また、実施例1と同様にして、生成物の分析を行い、反応開始から5時間後、10時間後、20時間後のグリセリンの転化率、1,3−プロパンジオールの選択率を算出した。結果を表1に示す。
【0060】
比較例1
(触媒の調製)
触媒の担体として、製造例1で得られた硫酸化ジルコニアを使用した。上記担体に塩化白金酸の水溶液を滴下して、上記担体全体を湿潤させた後、110℃で12時間乾燥させた。そして、このような塩化白金酸の水溶液の滴下と乾燥を繰り返し(最後の乾燥の時間は12時間とした)、担体(白金が担持された担体:100重量%)に対する白金の量が2重量%となるように、担体に白金を担持させた。その後、上記担体(白金を担持させた担体)を、大気中(空気雰囲気下)で、500℃、3時間の条件で焼成して、触媒[Pt/Sulfated ZrO
2]を得た。
【0061】
(グリセリンの水素化反応及び生成物の分析)
上記で得られた触媒[Pt/Sulfated ZrO
2]を使用したこと以外は実施例1と同様にして、グリセリンと水素の反応を行った。
また、実施例1と同様にして、生成物の分析を行い、反応開始から5時間後、10時間後、20時間後のグリセリンの転化率、1,3−プロパンジオールの選択率を算出した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、本発明の1,3−プロパンジオールの製造方法(実施例1〜4)によると、反応開始から20時間後のグリセリンの転化率が反応初期(反応開始から5時間後)の転化率と同等であり、長期に亘って高い転化率を示した。このように、実施例1〜4で使用した触媒は、優れた安定性を有していた。
一方、本発明の規定を満たさない触媒を用いた場合(比較例1)は、反応開始から10時間後あたりからグリセリンの転化率が低下する傾向が見られ、反応開始から20時間後のグリセリンの転化率は反応初期(反応開始から5時間後)の転化率と比べて著しく低下していた。このように、比較例で使用した触媒は、安定性に劣っていた。
【0064】
表1で用いた略号は以下の通りである。
1,3−PD : 1,3−プロパンジオール
DMI : 1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン