【実施例】
【0028】
実施例1 唾液中の各成分の発現量比較
<評価方法>
(1)唾液検体採取
被験者より、刺激唾液(パラフィンガムを噛むことにより唾液分泌促進を行った結果分泌された唾液)を採取した。被験者は、その特徴により以下の各群に分類した。
健常者群:男性、腹囲85cm未満、BMI25未満、下記の項目a)〜d)のいずれにも該当しない(n=10)
メタボリックシンドローム群:男性、腹囲85cm以上、またはBMI25以上であり、血液検査において、下記の項目a)〜d)のいずれか一つ以上に該当する(n=10)
【0029】
項目
a)中性脂肪:150mg/dL以上、またはHDL−コレステロール:40mg/dL以下
b)LDL−コレステロール:140mg/dL以上
c)空腹時血糖:110mg/dL以上、またはヘモグロビンA1c:5.8%以上
d)尿酸:7.0mg/dL以上
【0030】
(2)メタボローム解析による唾液中成分の網羅的解析
採取した唾液を遠心分離にかけて夾雑物を除き、上清をLC−MS(Positive/Negative)、CE−MS(Positive/Negative)に供した。得られたRt値、Ms値から唾液中成分を同定した。
【0031】
<評価結果>
質量分析法による唾液メタボローム解析から、各唾液成分の分子量とピーク強度が得られた。このピーク強度を、唾液中に含まれる各唾液成分の量とした。
【0032】
その結果、エクトイン、ホモバニリン酸、ウラシル、およびエピネフリンのピークが、メタボリックシンドローム群において顕著に増加することが認められた(
図1−1〜1−4、表1)。一方、リボフラビン、ルピニン、グアニジノスクシン酸、およびウリジンのピークが、メタボリックシンドローム群において、顕著に減少することが認められた(
図2−1〜2−4、表2)。
【0033】
これらの結果は、被験者の
図1−1〜
図1−4および表1に示される唾液成分の量が、健常者群の唾液成分の量を上回る場合に、メタボリックシンドロームに罹患していると判定され得ることを示している。すなわち、エクトインを指標とする場合は健常者群のピーク強度である44.50を上回った場合に、ウラシルを指標とする場合は健常者群のピーク強度である11.60を上回った場合に、ホモバニリン酸を指標とする場合は健常者のピーク強度である6.40を上回った場合に、エピネフリンを指標とする場合は健常者のピーク強度である987.40を上回った場合に、その被験者はメタボリックシンドロームに罹患していると判定されうることを示している。
【0034】
一方、被験者の
図2−1〜
図2−4および表2に示される唾液成分の量が、健常者群の唾液成分の量を下回る場合に、メタボリックシンドロームに罹患していると判定され得ることを示している。すなわち、リボフラビンを指標とする場合は健常者群のピーク強度である72.20を下回った場合に、グアニジノスクシン酸を指標とする場合は健常者のピーク強度である6278.50を下回った場合に、ウリジンを指標とする場合は健常者群のピーク強度である1242.20を下回った場合に、ルピニンを指標とする場合は健常者のピーク強度である13.00を下回った場合に、その被験者はメタボリックシンドロームに罹患していると判定され得ることを示している。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
実施例2 唾液中のエクトイン量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、エクトインのピーク強度を測定した。その結果、10名中7名の唾液で、エクトインのピーク強度が44.50を上回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は70%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてエクトインの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0038】
実施例3 唾液中のホモバニリン酸量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、ホモバニリン酸のピーク強度を測定した。その結果、10名中7名の唾液で、ホモバニリン酸のピーク強度が6.40を上回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は70%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてホモバニリン酸の量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0039】
実施例4 唾液中のウラシル量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、ウラシルのピーク強度を測定した。その結果、10名中8名の唾液で、ウラシルのピーク強度が11.60を上回り、メタボリックシンドローム判定の感度は80%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてウラシルの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0040】
実施例5 唾液中のエピネフリン量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、エピネフリンのピーク強度を測定した。その結果、10名中6名の唾液で、エピネフリンのピーク強度が987.40を上回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は60%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてエピネフリンの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0041】
実施例6 唾液中のリボフラビン量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、リボフラビンのピーク強度を測定した。その結果、10名中9名の唾液で、リボフラビンのピーク強度が72.20を下回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は90%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてリボフラビンの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0042】
実施例7 唾液中のルピニン量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、ルピニンのピーク強度を測定した。その結果、10名中8名の唾液で、ルピニンのピーク強度が13.00を下回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は80%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてルピニンの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0043】
実施例8 唾液中のグアニジノスクシン酸量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、グアニジノスクシン酸のピーク強度を測定した。その結果、10名中10名の唾液で、グアニジノスクシン酸のピーク強度が6278.50を下回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は100%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてグアニジノスクシン酸の量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0044】
実施例9 唾液中のウリジン量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、ウリジンのピーク強度を測定した。その結果、10名中9名の唾液で、ウリジンのピーク強度が1242.20を下回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は90%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてウリジンの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0045】
実施例10 唾液成分の多変量解析(ロジスティック回帰分析)による診断精度の向上
実施例1〜9で挙げた唾液成分について、メタボリックシンドロームをより精度良く判定することを目的に、多変量解析手法のひとつであるロジスティック回帰分析を行った。ロジスティック回帰分析は、複数の目的変数(本願では、唾液成分)を用いて、質的変数(本願では、メタボリックシンドロームか否か)を予測する場合に、一般的に用いられる解析手法である。
【0046】
その結果、表3に示される唾液成分の組み合わせを用いることで、診断精度が向上することが示唆された(正診率73.3%以上)。
これら唾液成分の組み合わせを用いる場合と、実施例1で挙げた単一唾液成分による場合の診断能を比較するべく、ROC曲線の曲線下面積を算出した(表4)。ROC曲線とは、診断方法の感度と特異度から算出される曲線であり、この曲線下面積が大きいほど、診断能が高いと判断される(森實敏夫著、「わかりやすい医学統計学」、株式会社メディカルトリビューン、p254)。その結果、単一唾液成分による場合と比較して、唾液成分の組み合わせによる場合で診断能が著しく高まることが示唆された。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】