特許第5781446号(P5781446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ライオン株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5781446
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】メタボリックシンドロームの判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20150907BHJP
【FI】
   G01N33/50 T
   G01N33/50 G
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-6355(P2012-6355)
(22)【出願日】2012年1月16日
(65)【公開番号】特開2013-145204(P2013-145204A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2014年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】内山 千代子
(72)【発明者】
【氏名】牧 利一
(72)【発明者】
【氏名】栗田 啓
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−257148(JP,A)
【文献】 特開2008−069126(JP,A)
【文献】 特開2009−240226(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/015929(WO,A1)
【文献】 特開2011−107124(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/114190(WO,A1)
【文献】 Bull Kanagawa Dent Coll,2009年,Vol.37, No.2, Page.141-143
【文献】 Diabetology & metabolic syndrome,2012年,Vol.4, No.1, Page.14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクトインを含むメタボリックシンドロームリスク判定用マーカー。
【請求項2】
エクトインと下記の(i)および(ii)からなる群より選択される成分とを含むメタボリックシンドロームリスク判定用マーカーセット
(iホモバニリン酸、ウラシルおよびエピネフリン
(ii)リボフラビン、ルピニン、グアニジノスクシン酸およびウリジン
【請求項3】
被験者から採取された唾液中のエクトインの量を測定して、該量から被験者がメタボリックシンドロームに罹患しているか否かを判定する、メタボリックシンドロームリスクの判定方法。
【請求項4】
被験者から採取された唾液中のエクトインの量が、
健常者から採取された唾液中の当該量と比べて高い場合に、または
メタボリックシンドローム患者から採取された唾液中の当該量と比べて同一または高い場合に、
被験者がメタボリックシンドロームに罹患していると判定する、請求項3に記載の判定方法。
【請求項5】
被験者から採取された唾液中のエクトインの量と下記の(i)および(ii)からなる群より選択される1種以上の成分の量を測定して、エクトインの量と成分のから被験者がメタボリックシンドロームに罹患しているか否かを判定する、メタボリックシンドロームリスクの判定方法。
(iホモバニリン酸、ウラシルおよびエピネフリン
(ii)リボフラビン、ルピニン、グアニジノスクシン酸およびウリジン
【請求項6】
被験者から採取された唾液中のエクトインの量が、健常者から採取された唾液中の当該量と比べて高い場合、またはメタボリックシンドローム患者から採取された唾液中の当該量と比べて同一または高い場合であって、かつ
被験者から採取された唾液中の(i)からなる群から選択される1種以上の成分の量が、健常者から採取された唾液中の当該量と比べて高い場合に、または
被験者から採取された唾液中の(ii)からなる群から選択される1種以上の成分の量が、健常者から採取された唾液中の当該量と比べて低い場合に、
被験者がメタボリックシンドロームに罹患していると判定する、請求項に記載の判定方法。
【請求項7】
被験者から採取された唾液中のエクトインの量が、健常者から採取された唾液中の当該量と比べて高い場合、またはメタボリックシンドローム患者から採取された唾液中の当該量と比べて同一または高い場合であって、かつ
被験者から採取された唾液中の(i)からなる群から選択される1種以上の成分の量が、メタボリックシンドローム患者から採取された唾液中の当該量と比べて同一または高い場合に、または
被験者から採取された唾液中の(ii)からなる群から選択される1種以上の成分の量が、メタボリックシンドローム患者から採取された唾液中の当該量と比べて同一または低い場合に、
被験者がメタボリックシンドロームに罹患していると判定する、請求項に記載の判定方法。
【請求項8】
エクトインと(i)および(ii)からなる群から選択される種以上の成分の組み合わせを変数とする多変量解析を行う請求項のいずれか一項に記載の判定方法。
【請求項9】
前記多変量解析が、ロジスティック回帰分析である請求項に記載の判定方法。
【請求項10】
エクトインと(i)および(ii)からなる群から選択される種以上の成分の組み合わせが、下記の(d)である請求項またはに記載の判定方法。
(d)グアニジノスクシン酸、ウラシル、エピネフリン、エクトインおよびウリジン
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドロームの判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本ではメタボリックシンドローム有病者が増加しており、メタボリックシンドローム予備軍をあわせると該当者数が2000万人にのぼるとされている。メタボリックシンドロームは重篤の場合には動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞を招くため、早期発見と予防が重要である。早期発見を目的として2008年4月から特定検診(メタボ検診)が義務化された。メタボリックシンドローム予防策としては食品の摂取が挙げられ、肥満やメタボリックシンドローム予防をうたう特定保健用食品を含む機能性食品が市場に出ている。
【0003】
特許文献1には、生体から低侵襲に得られる唾液試料中のニコチンアミド代謝物量を測定し、その測定値に基づいて、ニコチンアミド代謝物量との関連が示唆されているメタボリックシンドロームの発症に関する情報も得ることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−107124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1においては、ニコチンアミド代謝物量とメタボリックシンドロームの罹患の有無との関連は直接示されていない。
【0006】
本発明の目的は、唾液中の成分を利用して、家庭でも簡便に、メタボリックシンドロームに罹患しているか否かを判定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは下記の〔1〕〜〔7〕を提供する。
〔1〕下記の(i)および(ii)からなる群から選択されるメタボリックシンドローム判定用マーカー。
(i)エクトイン、ホモバニリン酸、ウラシルおよびエピネフリン
(ii)リボフラビン、ルピニン、グアニジノスクシン酸およびウリジン
〔2〕被験者から採取された唾液中の下記の(i)および(ii)からなる群より選択される1種以上の成分の量を測定して、該量から被験者がメタボリックシンドロームに罹患しているか否かを判定する、メタボリックシンドロームリスクの判定方法。
(i)エクトイン、ホモバニリン酸、ウラシルおよびエピネフリン
(ii)リボフラビン、ルピニン、グアニジノスクシン酸およびウリジン
〔3〕被験者から採取された唾液中の(i)からなる群から選択される1種以上の成分の量が、健常者から採取された唾液中の当該量と比べて高い場合に、または
被験者から採取された唾液中の(ii)からなる群から選択される1種以上の成分の量が、健常者から採取された唾液中の当該量と比べて低い場合に、
被験者がメタボリックシンドロームに罹患していると判定する、上記〔2〕に記載の判定方法。
〔4〕被験者から採取された唾液中の(i)からなる群から選択される1種以上の成分の量が、メタボリックシンドローム患者から採取された唾液中の当該量と比べて同一または高い場合に、または
被験者から採取された唾液中の(ii)からなる群から選択される1種以上の成分の量が、メタボリックシンドローム患者から採取された唾液中の当該量と比べて同一または低い場合に、
被験者がメタボリックシンドロームに罹患していると判定する、上記〔2〕に記載の判定方法。
〔5〕(i)および(ii)からなる群から選択される2種以上の成分の組み合わせを変数とする多変量解析を行う上記〔2〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の判定方法。
〔6〕前記多変量解析が、ロジスティック回帰分析である上記〔5〕に記載の判定方法。
〔7〕(i)および(ii)からなる群から選択される2種以上の成分の組み合わせが、下記の(a)、(b)、(c)または(d)である上記〔5〕または〔6〕に記載の判定方法。
(a)ウラシルおよびエピネフリン
(b)グアニジノスクシン酸およびウラシル
(c)グアニジノスクシン酸、ウラシルおよびエピネフリン
(d)グアニジノスクシン酸、ウラシル、エピネフリン、エクトインおよびウリジン
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メタボリックシンドロームに罹患しているか否かを高い精度で判定できる。また、唾液を試料とするので、被験者への負担が軽減されており、また、家庭での簡便な判定も可能となり、メタボリックシンドロームの有用な予防策となることも期待される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1-1】図1−1は健常者とメタボリックシンドローム患者の各唾液中のエクトインのピーク強度を示すグラフである。
図1-2】図1−2は健常者とメタボリックシンドローム患者の各唾液中のホモバニリン酸のピーク強度を示すグラフである。
図1-3】図1−3は健常者とメタボリックシンドローム患者の各唾液中のウラシルのピーク強度を示すグラフである。
図1-4】図1−4は健常者とメタボリックシンドローム患者の各唾液中のエピネフリンのピーク強度を示すグラフである。
図2-1】図2−1は健常者とメタボリックシンドローム患者の各唾液中のリボフラビンのピーク強度を示すグラフである。
図2-2】図2−2は健常者とメタボリックシンドローム患者の各唾液中のルピニンのピーク強度を示すグラフである。
図2-3】図2−3は健常者とメタボリックシンドローム患者の各唾液中のグアニジノスクシン酸のピーク強度を示すグラフである。
図2-4】図2−4は健常者とメタボリックシンドローム患者の各唾液中のウリジンのピーク強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、メタボリックシンドロームの判定に関する。本発明においてメタボリックシンドロームの判定とは、被験者がメタボリックシンドロームに罹患しているかどうかの判定(評価、判別、鑑別)を行うこと、または被験者がメタボリックシンドローム患者か健常者かの区別(分類)を行うことを意味する。判定の精度は、複数人の被験者のうち、通常は統計学的に有意な割合の被験者においてメタボリックシンドロームに罹患していることを正しく判定できる程度であり、例えば150%以上、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上の被験者においてメタボリックシンドロームに罹患していることを正しく判定できる程度である。本発明の判定方法は、医師による診断前の予備的な判定方法として有用である。
【0011】
本発明においてメタボリックシンドロームとは、内臓脂肪型肥満が原因で、高血糖、高血圧または高脂血が引き起こされる状態を言う。日本肥満学会が日本人を対象として規定した基準(2005年)によれば、実施例に示す項目a)〜d)のいずれか1つ以上に該当することを意味する。
【0012】
本発明における被験者は、通常は動物であり、好ましくは、ヒト、実験動物(マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギなど)であり、より好ましくはヒトである。
【0013】
本発明の判定方法においては、被験者から採取された生体試料として唾液を用いる。唾液は生体から常時採取可能であり、家庭での判断に用いる検体としても好適である。唾液は、非刺激唾液と刺激唾液とがあるが、刺激唾液が好ましい。刺激唾液は、パラフィンガムを咀嚼することにより容易に採取することができる。
【0014】
本発明のメタボリックシンドロームの判定方法では、被験者から採取された唾液中の下記の(i)および(ii)からなる群から選択される1種以上の成分を測定する。
【0015】
(i)エクトイン、ホモバニリン酸、ウラシルおよびエピネフリン
【0016】
(ii)リボフラビン、ルピニン、グアニジノスクシン酸およびウリジン
【0017】
(i)および(ii)からなる群を構成する各化合物の構造を以下に示す。
【0018】
(1)エクトイン(Ectoine、L−Ectoin、C61022
【化1】
(2)ホモバニリン酸(Homovanillate、Homovanillic acid、3−Methoxy−4−hydroxyphenylacetate、C9104
【化2】
(3)ウラシル(Uracil、C4422
【化3】
(4)エピネフリン(Epinephrine、L−Adrenaline;(R)−(−)−Adrenaline;(R)−(−)−Epinephrine;(R)−(−)−Epirenamine;(R)−(−)−Adnephrine;4−[(1R)−1−Hydroxy−2−(methylamino)ethyl]−1,2−benzenediol、C913NO3
【化4】
(5)リボフラビン(Riboflavin、Lactoflavin;7,8−Dimethyl−10−ribitylisoalloxazine、Vitamin、C172046
【化5】
(6)ルピニン(Lupinine、C1019NO)
【化6】
(7)グアニジノスクシン酸(Guanidinosuccinic acid、N−Amidino−L−aspartate、N−Amidino−L−aspartic acid、C5934
【化7】
(8)ウリジン(Uridine、C91226
【化8】
【0019】
本発明の判定方法においては、上記成分から選ばれる1種以上の量または有無を測定するが、2種以上であることが好ましく、2〜5種であることがより好ましい。
【0020】
本発明の判定方法において、各成分の測定は、例えば、質量分析法によって測定できる。質量分析法による測定の際には各種の質量分析装置を利用することができる。質量分析装置としては、例えば、GC−MS、LC−MS、FAB−MS、EI−MS、CI−MS、FD−MS、MALDI−MS、ESI−MS、HPLC−MS、FT−ICR−MS、CE−MS、ICP−MS、Py−MS、TOF−MSなどが挙げられ、これらのいずれも利用可能である。
【0021】
また、各成分の測定は、各成分に特異的に結合する物質(例えば、抗体、アプタマー、受容体、酵素、ペプチドなど)を利用して、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着法)、ECLIA(電気化学発光免疫測定法)などにより測定することもできる。各成分に特異的に結合する物質を必要に応じて担体に固相化してマイクロアレイとし、マイクロアレイを用いて各成分を測定することもできる。
【0022】
唾液中の成分の測定値からメタボリックシンドロームに罹患しているか否かを判定するに当たっては、通常は、参照値との比較を行う。参照値としては、例えば、健常者(本発明の判定方法以外の手段で健常者であることが予め確認されていることが好ましい)から採取された唾液中の成分の測定値、メタボリックシンドローム患者(本発明の判定方法以外の手段でメタボリックシンドローム患者であることが予め確認されていることが好ましい)から採取された唾液中の成分の測定値が挙げられるが、このうち、前者が好ましい。
【0023】
参照値が健常者の値である場合を例に取ると、以下の通りである。(i)からなる群から選択される1種以上の成分の量を測定する場合には、被験者から採取された唾液中の当該量が、健常者から採取された唾液中の当該量と比べて高い場合にメタボリックシンドロームに罹患していると判定される。(ii)からなる群から選択される1種以上の成分の量を測定する場合には、被験者から採取された唾液中の当該量が、健常者から採取された唾液中の当該量と比べて低い場合にメタボリックシンドロームに罹患していると判定される。
【0024】
参照値がメタボリックシンドローム患者の値である場合を例に取ると以下の通りである。(i)からなる群から選択される1種以上の成分の量を測定する場合には、被験者から採取された唾液中の当該量が、メタボリックシンドローム患者から採取された唾液中の当該量と比べて同一または高い場合にメタボリックシンドロームに罹患していると判定される。(ii)からなる群から選択される1種以上の成分の量を測定する場合には、被験者から採取された唾液中の当該量が、メタボリックシンドローム患者から採取された唾液中の当該量と比べて同一または低い場合にメタボリックシンドロームに罹患していると判定される。
【0025】
判定においては、各成分の量を変数とする多変量解析を行ってもよい。多変量解析としては例えば、ロジスティック回帰分析、重回帰分析、主成分分析、独立成分分析、因子分析、判別分析、数量化理論、クラスター分析、コンジョイント分析および多次元尺度構成法(MDS)が挙げられるが、中でもロジスティック回帰分析が好ましい。
【0026】
多変量解析においては、(i)および(ii)からなる群から選択される1種以上の成分を変数とすることが好ましく、2種以上の成分を変数とすることがより好ましく、2〜5種の成分の組み合わせを変数とすることが好ましい。具体的には、ウラシルおよび/またはグアニジノスクシン酸を含む組み合わせを変数とすることが好ましく、更に、更に、下記の(a)、(b)、(c)または(d)の組み合わせを変数とすることがより好ましい。
(a)ウラシルおよびエピネフリン
(b)グアニジノスクシン酸およびウラシル
(c)グアニジノスクシン酸、ウラシルおよびエピネフリン
(d)グアニジノスクシン酸、ウラシル、エピネフリン、エクトインおよびウリジン
【0027】
本発明の判定方法は、被験者がメタボリックシンドロームに罹患しているか否かを、唾液から簡便に判定できるので、医師の診断前の予備的な検査として、家庭でも実施可能である。さらに、メタボリックシンドローム患者である被験者に治療を行い、治療が効果を奏した場合、唾液中の各成分の量も低下ないしは増加する。よって、治療と共に唾液中の成分を測定することにより、治療効果の評価判定を行うこともできる。従って、本発明の判定方法は、メタボリックシンドロームの薬剤の投与効果などの治療効果を判定する方法としても有用である。
【実施例】
【0028】
実施例1 唾液中の各成分の発現量比較
<評価方法>
(1)唾液検体採取
被験者より、刺激唾液(パラフィンガムを噛むことにより唾液分泌促進を行った結果分泌された唾液)を採取した。被験者は、その特徴により以下の各群に分類した。
健常者群:男性、腹囲85cm未満、BMI25未満、下記の項目a)〜d)のいずれにも該当しない(n=10)
メタボリックシンドローム群:男性、腹囲85cm以上、またはBMI25以上であり、血液検査において、下記の項目a)〜d)のいずれか一つ以上に該当する(n=10)
【0029】
項目
a)中性脂肪:150mg/dL以上、またはHDL−コレステロール:40mg/dL以下
b)LDL−コレステロール:140mg/dL以上
c)空腹時血糖:110mg/dL以上、またはヘモグロビンA1c:5.8%以上
d)尿酸:7.0mg/dL以上
【0030】
(2)メタボローム解析による唾液中成分の網羅的解析
採取した唾液を遠心分離にかけて夾雑物を除き、上清をLC−MS(Positive/Negative)、CE−MS(Positive/Negative)に供した。得られたRt値、Ms値から唾液中成分を同定した。
【0031】
<評価結果>
質量分析法による唾液メタボローム解析から、各唾液成分の分子量とピーク強度が得られた。このピーク強度を、唾液中に含まれる各唾液成分の量とした。
【0032】
その結果、エクトイン、ホモバニリン酸、ウラシル、およびエピネフリンのピークが、メタボリックシンドローム群において顕著に増加することが認められた(図1−1〜1−4、表1)。一方、リボフラビン、ルピニン、グアニジノスクシン酸、およびウリジンのピークが、メタボリックシンドローム群において、顕著に減少することが認められた(図2−1〜2−4、表2)。
【0033】
これらの結果は、被験者の図1−1〜図1−4および表1に示される唾液成分の量が、健常者群の唾液成分の量を上回る場合に、メタボリックシンドロームに罹患していると判定され得ることを示している。すなわち、エクトインを指標とする場合は健常者群のピーク強度である44.50を上回った場合に、ウラシルを指標とする場合は健常者群のピーク強度である11.60を上回った場合に、ホモバニリン酸を指標とする場合は健常者のピーク強度である6.40を上回った場合に、エピネフリンを指標とする場合は健常者のピーク強度である987.40を上回った場合に、その被験者はメタボリックシンドロームに罹患していると判定されうることを示している。
【0034】
一方、被験者の図2−1〜図2−4および表2に示される唾液成分の量が、健常者群の唾液成分の量を下回る場合に、メタボリックシンドロームに罹患していると判定され得ることを示している。すなわち、リボフラビンを指標とする場合は健常者群のピーク強度である72.20を下回った場合に、グアニジノスクシン酸を指標とする場合は健常者のピーク強度である6278.50を下回った場合に、ウリジンを指標とする場合は健常者群のピーク強度である1242.20を下回った場合に、ルピニンを指標とする場合は健常者のピーク強度である13.00を下回った場合に、その被験者はメタボリックシンドロームに罹患していると判定され得ることを示している。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
実施例2 唾液中のエクトイン量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、エクトインのピーク強度を測定した。その結果、10名中7名の唾液で、エクトインのピーク強度が44.50を上回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は70%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてエクトインの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0038】
実施例3 唾液中のホモバニリン酸量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、ホモバニリン酸のピーク強度を測定した。その結果、10名中7名の唾液で、ホモバニリン酸のピーク強度が6.40を上回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は70%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてホモバニリン酸の量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0039】
実施例4 唾液中のウラシル量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、ウラシルのピーク強度を測定した。その結果、10名中8名の唾液で、ウラシルのピーク強度が11.60を上回り、メタボリックシンドローム判定の感度は80%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてウラシルの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0040】
実施例5 唾液中のエピネフリン量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、エピネフリンのピーク強度を測定した。その結果、10名中6名の唾液で、エピネフリンのピーク強度が987.40を上回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は60%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてエピネフリンの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0041】
実施例6 唾液中のリボフラビン量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、リボフラビンのピーク強度を測定した。その結果、10名中9名の唾液で、リボフラビンのピーク強度が72.20を下回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は90%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてリボフラビンの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0042】
実施例7 唾液中のルピニン量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、ルピニンのピーク強度を測定した。その結果、10名中8名の唾液で、ルピニンのピーク強度が13.00を下回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は80%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてルピニンの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0043】
実施例8 唾液中のグアニジノスクシン酸量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、グアニジノスクシン酸のピーク強度を測定した。その結果、10名中10名の唾液で、グアニジノスクシン酸のピーク強度が6278.50を下回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は100%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてグアニジノスクシン酸の量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0044】
実施例9 唾液中のウリジン量測定によるメタボリックシンドローム判定
実施例1と同様の基準にてメタボリックシンドロームに該当する被験者10名より、実施例1と同様の手法にて唾液を採取し、ウリジンのピーク強度を測定した。その結果、10名中9名の唾液で、ウリジンのピーク強度が1242.20を下回り、メタボリックシンドロームリスク診断の感度は90%と算出された。この結果は、本発明の判定方法においてウリジンの量を測定することにより、メタボリックシンドロームを予備的に判定できることを示している。
【0045】
実施例10 唾液成分の多変量解析(ロジスティック回帰分析)による診断精度の向上
実施例1〜9で挙げた唾液成分について、メタボリックシンドロームをより精度良く判定することを目的に、多変量解析手法のひとつであるロジスティック回帰分析を行った。ロジスティック回帰分析は、複数の目的変数(本願では、唾液成分)を用いて、質的変数(本願では、メタボリックシンドロームか否か)を予測する場合に、一般的に用いられる解析手法である。
【0046】
その結果、表3に示される唾液成分の組み合わせを用いることで、診断精度が向上することが示唆された(正診率73.3%以上)。
これら唾液成分の組み合わせを用いる場合と、実施例1で挙げた単一唾液成分による場合の診断能を比較するべく、ROC曲線の曲線下面積を算出した(表4)。ROC曲線とは、診断方法の感度と特異度から算出される曲線であり、この曲線下面積が大きいほど、診断能が高いと判断される(森實敏夫著、「わかりやすい医学統計学」、株式会社メディカルトリビューン、p254)。その結果、単一唾液成分による場合と比較して、唾液成分の組み合わせによる場合で診断能が著しく高まることが示唆された。
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】