特許第5781475号(P5781475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5781475
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】エレベータ用ガイドレール立設方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 7/02 20060101AFI20150907BHJP
【FI】
   B66B7/02 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-178790(P2012-178790)
(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公開番号】特開2014-37279(P2014-37279A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2014年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武富 宏義
(72)【発明者】
【氏名】松崎 茂
【審査官】 筑波 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−351554(JP,A)
【文献】 特開平07−033357(JP,A)
【文献】 特開2002−087744(JP,A)
【文献】 特開2010−208771(JP,A)
【文献】 特開平09−002757(JP,A)
【文献】 特開昭57−048582(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に設備されたエレベータの昇降路内にガイドレールを立設するエレベータ用ガイドレール立設方法において、
所定単位長の複数本のレールを連結板を用いて連結する際、当該レール同士の接続部分にそれぞれ薄板を挿入してから当該連結板にボルトにより締結して当該レール同士を堅固に連結し、懸吊引き上げ手段により鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて自重の下方への影響を除去して当該昇降路の壁面の各階床間の所定位置に設けられたレールブラケットに取り付けられたレールクリップにレールクリップボルトで締結して当該昇降路の壁面に固定した後、当該薄板をそれぞれ引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設けるようにしてレールを取り付けることを前提とし、更に、前記昇降路の塔内又はピットで所定単位長の複数本のレールを連結板を用いて連結する際、当該レール同士の接続部分にそれぞれ薄板を挿入してから当該連結板にボルトによって締結することで当該レール同士を堅固に連結するレール連結ステップと、前記レール連結ステップにより前記連結されたレールを前記昇降路の壁面に鉛直方向で立設し、懸吊引き上げ手段により鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて自重の下方への影響を除去して芯出しによる位置決めを行ってから当該昇降路の壁面の各階床間の所定位置に設けられたレールブラケットに取り付けられたレールクリップにレールクリップボルトで締結して当該昇降路の壁面に固定した後、前記薄板をそれぞれ引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設けるようにしてレールの取り付けを行うレール取り付けステップと、を有することを特徴とするエレベータ用ガイドレール立設方法。
【請求項2】
請求項1記載のエレベータ用ガイドレール立設方法において、前記レール取り付けステップは、前記昇降路の壁面に最下段レールを鉛直方向で立設して芯出しによる位置決めを行ってから前記レールクリップボルトを締結して当該昇降路の壁面に固定した後、当該最下段レールの上端部に前記薄板を介在させて前記連結されたレールを乗せて前記連結板にボルトによって締結してレール同士を堅固に連結する連結ステップと、前記連結されたレールを前記懸吊引き上げ手段により鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて上方位置レール自重の影響を除去して芯出しによる位置決めを行ってから前記レールクリップボルトを締結して前記昇降路の壁面に固定する固定ステップと、を有するレール取り付け初期ステップを含むことを特徴とするエレベータ用ガイドレール立設方法。
【請求項3】
請求項2記載のエレベータ用ガイドレール立設方法において、前記レール取り付けステップは、前記連結されたレールの上端部に前記薄板を介在させて連結されたレールの別体を乗せて前記連結板にボルトによって締結してレール同士を堅固に連結することで前記連結ステップを継続する連結継続ステップと、前記連結されたレールの別体を前記懸吊引き上げ手段により鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて上方位置レールの自重の影響を除去して芯出しによる位置決めを行ってから前記レールクリップボルトを締結して前記昇降路の壁面に固定することで前記固定ステップを継続する固定継続ステップと、を最上階に至るまでに必要となる回数分、順次繰り返して全高分のレールを立設するレール立設継続ステップと、前記全高分のレールの立設後に前記薄板をそれぞれ順次引き抜いて当該レール同士の接続部分に前記微小な隙間を設ける薄板引き抜きステップと、を含むことを特徴とするエレベータ用ガイドレール立設方法。
【請求項4】
請求項1〜の何れか1項記載のエレベータ用ガイドレール立設方法において、前記薄板として、板厚が1〜2mm、縦横寸法が数cm角のものを用いることを特徴とするエレベータ用ガイドレール立設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物(家屋)に設備されたエレベータの昇降路に対するガイドレールの取り付けに係るエレベータ用ガイドレール立設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベータの昇降路にガイドレールを立設するときには、最下段のレールを立設した後、昇降路の塔内又はピットで所定単位長のレールを2〜5本接続してから最下段のレールの上端部に乗せてレール継ぎ目板で双方を接続して固定し、こうした手順を最上階に至るまでに必要となる本数分、順次繰り返して全高分のレールを立設している。このとき、レール位置決めの芯出し固定として、上部側レールを下部側レールに乗せてから上部側レールの位置を調整した上でレール継ぎ目板により固定する手法を採用している。
【0003】
ところが、こうしたレールの位置調整の手法よれば、下部側レールに上部側レールの荷重が加えられ、接続固定された後の上部側レール及び下部側レールの下側部分が湾曲することがある。また、建築物も建築中の建物の建築増加に伴う自重増加、或いは建物の使用後の経年変化により、建物高100m当たりで10〜20mm程度収縮する。このような収縮による圧縮力がレールに作用してレール全体が同様に湾曲することもある。こうした場合には、レール間に隙間がなければレールの湾曲を修正することが不可能になってしまう。
【0004】
ここでの問題点をレールの接続固定を具体的に例示して詳述する。まず、最下段レールをウィンチ等の揚重機で所定の位置まで吊り上げ、予め設定しておいた基準となるピアノ線に合わせて位置決めを行い、芯出しを行った後、レールクリップボルトで堅固に固定する。次に、ピットに仮置きしている2段目レールの上端部に同様に仮置きしている3段目レールを揚重機で吊り上げて乗せ、レール継ぎ目板を使用してレール同士をボルトで連結した後、同様に4段目レールを3段目レールの上端部に乗せて連結し、レール3本を連結した1条レールを組み立てる。引き続き、組み立てた1条レールを揚重機で吊り上げて最初に位置決めした最下段レールの上端部に乗せて配置し、4段目レールの最上部分をレールクリップボルトで仮固定した後、揚重機のフックを外してからピアノ線に合わせて1条レールの芯出しを行った後、各段のレールクリップボルトを締め付けて固定する。それ以降は、5段目レール〜7段目レールを1条レールとして組み立てたものを4段目レールの上端部に乗せて配置し、同様な手順で必要となる全高さ分に至るまで繰り返して立設を行う。
【0005】
このようなレールの接続固定手法によれば、最下段レール上には3段分のレールの荷重が加えられ、2段目レール及び3段目レールにも上方位置のレールの荷重が加えられる。また、同様な構造の1条レールを繰り返し連結するため、レールの全高が高い程、下方位置のレールに加えられる荷重が大きくなってしまう。これにより、1条連結された後のレール全体が湾曲し、レール芯出し時にはレール側面を重量のあるハンマーで強打しないと芯出しすることができず、更にレールブラケットの無い中間位置部分には湾曲が矯正されずに残留してしまうことがある。また、このような湾曲を矯正して固定しても、建築物の建築が進んだり、或いは経年変化により建物に収縮が発生すると、そのときの圧縮力によりレールが湾曲してしまうことがある。レールに生じる湾曲は、レールの圧縮量が僅かであってもエレベータにとっては大きな問題となる。
【0006】
図8は、周知のレールに加えられる圧縮力と湾曲の程度との関係を説明するために垂直レールに対比して示した湾曲レールの圧縮量及び湾曲の相関図(文献公知に係る発明でないが、一般的に知られている技術)である。図8では、レールを立設する際、長さLのレールが上方位置のレールによる荷重又は建物(建屋)自重による収縮により圧縮力Fを受けてΔx圧縮されると、垂直レールの上端位置Pに対して湾曲レールでは上端位置P'が鉛直な下向きに位置ずれを起こすと共に、垂直レールの0中点に対する湾曲レールの0'湾曲中点を含む横方向Mに最大寸法H分の湾曲を生じる様子を示している。因みに、図8中で鉛直方向における垂直レールの上端位置Pから湾曲レールの上端位置P'までの寸法は圧縮量Δx、湾曲レールの上端位置P'から湾曲レールの0'湾曲中点までの寸法は(L−Δx)/2、垂直レールの0中点から湾曲レールの0'湾曲中点までの寸法はΔx/2、湾曲レールの上端位置P'から垂直レールの0中点までの寸法は(L/2)−Δx、垂直レールの上端位置Pから垂直レールの0中点までの寸法はL/2で示される。計算によれば、基本単位長5mの標準レールが圧縮力Fによって圧縮量Δx=1mm圧縮されると、横方向Mに最大寸法H=50mmの湾曲を生じ、圧縮量Δx=0.1mmの圧縮では最大寸法H=15.8mmの湾曲を生じる。エレベータのガイドレールは、湾曲の許容範囲が2mm以内の高精度で据え付ける必要があるため、大きな湾曲を発生すると致命的なダメージとなる。
【0007】
そこで、このようなガイドレールの湾曲発生を対策するための周知技術として、建物の伸縮に合わせて継ぎ目部分の伸縮を行うようにした「エレベータレール」(特許文献1参照)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−218384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1の技術は、継ぎ目部分における一方のレールの端部に突起とほぞを設けると共に、他方のレールの端部に切欠きとほぞ穴を設けて両者を嵌合させ、且つ一方のレールの背面に固定した溝付目板の溝部分に他方のレールの背面を挿し込むことにより、継ぎ目部分において一方のレールに対する他方のレールを長手方向に移動可能としたものであるが、このような構造であればレール両端部及びレール継ぎ目板(溝付目板)の製造時に特殊精密加工が必要となって複雑で高価な部品加工を要することになるため、コスト的に非常に高価となってしまうという問題があるばかりでなく、現場での取り扱い時に特殊精密加工部分が変形(曲損)し易いために取り扱いに細心の注意を要する等、余り実用的でないという難点がある。
【0010】
本発明は、このような問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、複雑で高価な部品加工を要することなく、ガイドレールの立設時に下方位置のレールに加えられる荷重負荷を防止できると共に、湾曲の発生を極力抑制できるエレベータ用ガイドレール立設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術的課題を解決するため、本発明は、建物に設備されたエレベータの昇降路内にガイドレールを立設するエレベータ用ガイドレール立設方法において、所定単位長の複数本のレールを連結板を用いて連結する際、当該レール同士の接続部分にそれぞれ薄板を挿入してから当該連結板にボルトにより締結して当該レール同士を堅固に連結し、懸吊引き上げ手段により鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて自重の下方への影響を除去して当該昇降路の壁面の各階床間の所定位置に設けられたレールブラケットに取り付けられたレールクリップにレールクリップボルトで締結して当該昇降路の壁面に固定した後、当該薄板をそれぞれ引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設けるようにしてレールを取り付けることを前提とし、更に、昇降路の塔内又はピットで所定単位長の複数本のレールを連結板を用いて連結する際、当該レール同士の接続部分にそれぞれ薄板を挿入してから当該連結板にボルトによって締結することで当該レール同士を堅固に連結するレール連結ステップと、レール連結ステップにより連結されたレールを昇降路の壁面に鉛直方向で立設し、懸吊引き上げ手段により鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて自重の下方への影響を除去して芯出しによる位置決めを行ってから当該昇降路の壁面の各階床間の所定位置に設けられたレールブラケットに取り付けられたレールクリップにレールクリップボルトで締結して当該昇降路の壁面に固定した後、薄板をそれぞれ引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設けるようにしてレールの取り付けを行うレール取り付けステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエレベータ用ガイドレール立設方法によれば、複雑で高価な部品加工を要することなく、ガイドレールの立設時に下方位置のレールに加えられる荷重負荷を防止できると共に、湾曲の発生を極力抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1に係るエレベータ用ガイドレール立設方法の具体的な作業手順を段階別な項目で示した模式図である。
図2図1に示すエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール揚重の様子を一部拡大して正面方向から示した図である。
図3図1に示すエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール接続状態を示した要部の拡大図である。
図4図1に示すエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール接続状態の一形態として、湾曲が発生しない場合を正面方向から示した図である。
図5図1に示すエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール接続状態の一形態として、湾曲が発生した場合を正面方向から示した図である。
図6図1に示すエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール接続状態の一形態として、牽引によりレールに引き上げ張力を加えて湾曲の発生を防止する様子を正面方向から示した図である。
図7図1に示すエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順を実施した後のレール接続完了状態を正面方向から示した図である。
図8】周知のレールに加えられる圧縮力と湾曲の程度との関係を説明するために垂直レールに対比して示した湾曲レールの圧縮量及び湾曲の相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のエレベータ用ガイドレール立設方法について、図面を参照して詳細に説明する。最初に、本発明のエレベータ用ガイドレール立設方法の技術的概要を簡単に説明すれば、建物に設備されたエレベータの昇降路内にガイドレールを立設する場合に適用されるもので、所定単位長の複数本のレールを連結板を用いて連結する際、レール同士の接続部分にそれぞれ薄板を挿入してから連結板にボルトにより締結してレール同士を堅固に連結し、懸吊引き上げ手段により鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて自重の下方への影響を除去して昇降路の壁面の各階床間の所定位置に設けられたレールブラケットに取り付けられたレールクリップにレールクリップボルトで締結して昇降路の壁面に固定した後、薄板をそれぞれ引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設けることを前提とする。具体的に云えば、昇降路の塔内又はピットで所定単位長の複数本のレールを連結板を用いて連結する際、レール同士の接続部分にそれぞれ薄板を挿入してから連結板にボルトによって締結することでレール同士を堅固に連結するレール連結ステップと、レール連結ステップにより連結されたレールを昇降路の壁面に鉛直方向で立設し、懸吊引き上げ手段により鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて自重の下方への影響を除去して芯出しによる位置決めを行ってから昇降路の壁面の各階床間の所定位置に設けられたレールブラケットに取り付けられたレールクリップにレールクリップボルトで締結して昇降路の壁面に固定した後、薄板をそれぞれ引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設けるようにしてレールの取り付けを行うレール取り付けステップと、を有することを基本とする。
【0015】
但し、ここでのレール取り付けステップは、作業手順の観点において、昇降路の壁面に最下段レールを鉛直方向で立設して芯出しによる位置決めを行ってからレールクリップボルトで締結して昇降路の壁面に固定した後、最下段レールの上端部に薄板を介在させて連結されたレールを乗せて連結板にボルトによって締結してレール同士を堅固に連結する連結ステップと、連結されたレールを懸吊引き上げ手段により鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて上方位置レール自重の影響を除去して芯出しによる位置決めを行ってからレールクリップボルトを締結して昇降路の壁面に固定する固定ステップと、を有するレール取り付け初期ステップを含むものである。
【0016】
更に、ここでのレール取り付けステップは、引き続く作業手順の観点において、連結されたレールの上端部に薄板を介在させて連結されたレールの別体を乗せて連結板にボルトによって締結してレール同士を堅固に連結することで上記連結ステップを継続する連結継続ステップと、連結されたレールの別体を懸吊引き上げ手段により鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて上方位置レールの自重の影響を除去して芯出しによる位置決めを行ってからレールクリップボルトを締結して昇降路の壁面に固定することで上記固定ステップを継続する固定継続ステップと、を最上階に至るまでに必要となる回数分、順次繰り返して全高分のレールを立設するレール立設継続ステップと、全高分のレールの立設後に薄板をそれぞれ順次引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設ける薄板引き抜きステップと、を含むものである。尚、薄板としては、板厚が1〜2mm、縦横寸法が数cm角のものを用いることが好ましい。
【0017】
このようなエレベータ用ガイドレール立設方法に従えば、特許文献1の技術のような複雑で高価な部品加工を要することなく、ガイドレールの立設時に下方位置のレールに加えられる荷重負荷を防止できると共に、湾曲の発生を極力抑制でき、しかも微小な隙間がレール同士の接続部分に存在することになるため、レールの立設以降に湾曲が発生しても、湾曲を矯正して容易に除去することができる。以下には、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順に従った実施例を挙げ、具体的に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例1に係るエレベータ用ガイドレール立設方法の具体的な作業手順を段階別な項目で示した模式図である。ここでの作業手順では、まず第1段階において、昇降路の壁面に対して最下段レールの取り付け、芯出し固定を行い、第2段階において、エレベータの塔内又はピットで2段目以降のレールを2〜3本単位で接続する。但し、この時、レール同士の各接続部に厚さ1〜2mmの薄鋼板を挿入して接続を行うようにする。各レール同士を接続するには、連結板を用いて、同一の連結板に接続するレールの端同士をボルトによって締結することによりレール同士を堅固に連結して連続レール(連結レール)を作製する。引き続き、第3段階において、前項で作製した連続レールを揚重機で最下段レールの上部まで揚重し、第4段階において、次に牽引具で前項の連続レールを牽引し、最下段レールの接続位置まで垂下し、薄鋼板を接続部に挿入する。
【0019】
また、第5段階において、更に牽引具を微小降下し、上部側レールである連続レールが薄鋼板に接触した時点で垂下を止め、連結板ボルトにて両者を緊密に連結する。但し、第6段階において、この時、下部側レールである最下段レールに上部側レールである連続レールを乗せたままだと、その上部側のレールの自重によりレール全体が湾曲することが考えられる。そこで、次の第7段階において、湾曲除去の為、連結後牽引具にてレール全体を上方へ微動牽引し、レール全体に引き上げ張力を与え、下方のレールに掛かる自重を除去する。この状態で第8段階において、上部側レールである連続レールの最上段のレールブラケット部でレールを正規位置に芯出してブラケットのボルトで固定する。更に第9段階において、上部側レールである連続レールの中間部の位置ずれを確認し、上部側より順次ブラケットのボルトで固定する。
【0020】
引き続く第10段階において、固定後、レールより揚重機を外す。この後の第11段階において、次に更に全階床分に必要となる上段分のレール(連続レール)について、前記第2段階の第2項〜第8段階の第8項を繰り返し、全段分のレール立設を行う。最後の第12段階において、レール全段立設・芯出し固定後、各段の接続部に挿入した薄鋼板を引き抜き、レール立設作業を完了する。
【0021】
図2は、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール揚重の様子を一部拡大して正面方向から示した図である。図2では、まず予めガイドレールを設置する位置決め用のピアノ線(図示省略)をエレベータの昇降路の塔内3に設置しておき、最下の階床1のピット2にて最下段レール(1段目レール)7をウィンチ等の揚重機12で所定の位置まで吊上げ、ピアノ線に合わせて位置決めを行って最下段レール7の芯出しを行った後、昇降路の壁面の各階床1間の所定位置に設けられたレールブラケット4に取り付けられたレールクリップ5にレールクリップボルト6で締め付けて(締結して)堅固に固定する様子を示している。また、図2では、最下段レール(1段目レール)7を昇降路の壁面の正規位置に取り付けた後、エレベータの塔内3又はピット2で2段目レール8、3段目レール9、及び4段目レール10を連結板11にボルトによって締結することによって堅固に連結した連続レール(連結レール)に対し、その最上部の連結板11のボルト穴に取り付けたワイヤにチェーンブロック等の牽引具13のフック14を引っ掛けた状態で連続レールを鉛直方向の上方に吊上げたり、或いは垂下させる様子を示している。このとき、チェーンブロック等の牽引具13は揚重機12のワイヤに取り付けられている。即ち、ここでのワイヤを含む揚重機12、及びフック14を含む牽引具13は、合わせて連続レールを懸吊して引き上げる懸吊引き上げ手段として機能する。本実施形態では、牽引具13としてチェーンブロックを使用しており、揚重機12による高さ方向の牽引による調整だけでなく、牽引具13による微小な高さ方向の調整も可能としている。
【0022】
図3は、図2に示した連続レールでのレール接続状態を示した要部の拡大図である。図3では、連続レールにおける2段目レール8及び3段目レール9の接続部分に厚さ1mm〜2mm、縦横寸法が2cm〜3cmの薄鋼板15を介在させた様子を示している。勿論、その他の各レール同士の接続部分(例えば図示されない3段目レール9及び4段目レール10の接続部分やそれ以外の接続部分)についても同様な薄鋼板15を介在させる。因みに、薄鋼板15の厚さは、レール同士の隙間として好適な範囲を選定したもので、余り過大過ぎてもエレベータ(乗りかご)が走行した際に揺れを発生させる原因となり、揺れが発生するとエレベータ(乗りかご)の乗り心地が悪くなる上、レールがガイドするガイドシューやガイドローラに悪影響を与えるために2mm程度以下にするのが好ましく、また小さ過ぎても建築物や上方からの圧縮荷重を十分に吸収できない(逃がしきれない)ため、1mm程度以上を確保することが好ましい。また、薄鋼板15の縦横寸法の大きさは、取り扱い易さや機械的強度を考慮して決定すれば良いものである。
【0023】
図4は、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール接続状態の一形態として、湾曲が発生しない場合を正面方向から示した図である。図4では、1条レールとされた連続レール(2段目レール8、3段目レール9、及び4段目レール10)を揚重機12で牽引具13を介して吊上げた後、最下段レール7の真上の数cm〜数十cmの位置に垂下させ、その後に牽引具13によってゆっくりと接続位置になるまで垂下させる。そして、接続位置になると隙間確保のために接続部分に薄鋼板15を挿入してから同一の連結板11に接続するレールの端部をボルトによって堅固に締結してレール同士を連結する様子を示している。
【0024】
図5は、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール接続状態の一形態として、湾曲が発生した場合を正面方向から示した図である。図5では、図4で説明した1条レールとされた連続レールの最下段レール4への薄鋼板15を介在させた上での連結板11を用いたレール同士の連結に際し、連続レールを垂下したままの状態にすると上部側レールの荷重によって湾曲が発生する場合があり、こうした場合の様子を示している。特に、図5では、3段目レール9に対する4段目レール10による荷重よりも2段目レール8に対する4段目レール10及び3段目レール9による荷重が大きく(中程度)、更に最下段レール7に対する2段目レール8〜4段目レール10による荷重が最も大きくなっている様子を示している。
【0025】
図6は、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール接続状態の一形態として、牽引によりレールに引き上げ張力を加えて湾曲の発生を防止する様子を正面方向から示した図である。図6では、図4で説明した1条レールとされた連続レールの最下段レール8への薄鋼板15を介在させた上での連結板11を用いたレール同士の連結に際し、連続レールを垂下したままの状態にせずに牽引具13により引き上げ、1条レールとされた連続レールに対して引き上げ張力を加えて上方位置の連続レールの自重の影響を除去する様子を示している。因みに、懸吊引き上げ手段として、牽引具13を具備しない揚重機12によっても、連続レールを微動上昇させれば同等の効果を得ることができる。
【0026】
図7は、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順を実施した後のレール接続完了状態を正面方向から示した図である。図7では、図6で説明した上方位置の連続レールの自重の影響を除去した上で芯出しによる位置決めを行ってから連続レールの各レール(2段目レール8〜4段目レール10)について、レールブラケット4に取り付けられたレールクリップ5のレールクリップボルト6を締結して昇降路の壁面に固定した様子を示している。即ち、ここでは図6に示した状態で下部側レールの最下段レール7と上部側レールの連続レールとが緊張状態となるため、ピアノ線に沿うように芯出しを行って最上位置となる4段目レール10についてレールクリップ5にレールクリップボルト6によって締結して昇降路の壁面に固定した後、中間位置になる2段目レール8や3段目レール9についても、下のレールクリップ5から順次同様にピアノ線に沿うように位置を微調整して芯出しを行ってからレールクリップ5にレールクリップボルト6によって締結して昇降路の壁面に固定する。こうした手順に従えば、最下段レール7及び連続レールに湾曲が生じ難く、容易にレール立設を行うことができる。
【0027】
この後は牽引具13のフック14を外した上、連結されたレールの上端部に薄鋼板15を介在させて連続レールの別体を乗せて連結板11にボルトによって締結してレール同士を堅固に連結すると共に、連続レールの別体を同様に鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて上方位置レール自重の影響を除去して芯出しによる位置決めを行ってからレールクリップ5にレールクリップボルト6で締結して昇降路の壁面に固定する作業を建物の最上階に至るまでに必要となる回数分、順次繰り返して全高分のレールを立設した後、薄鋼板15をそれぞれ順次引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設ける。
【0028】
実施例1に係るエレベータ用ガイドレール立設方法によれば、レール同士を接続する際に接続部分に薄鋼板15を介在させた上で連結板11のボルトによる締結で連結し、連結レールを昇降路の壁面に立設するときや上部側レールを下部側レールに連結する際には引き上げ張力を加えることで自重変形させないか、或いは上部側レールに引き上げ張力を加えて荷重を下部側レールに負荷させないようにした上で固定し、最終的にレール間の薄鋼板15を引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設けるようにしているので、複雑で高価な部品加工を要することなく、ガイドレールの立設時に下方位置のレールに加えられる荷重負荷を防止できると共に、湾曲の発生を極力抑制できるようになる。この結果、ガイドレールの自重や建物の自重に起因する建屋圧縮力の影響によるガイドレールの湾曲発生を防止することができ、従来問題とされていた下部側レールに対する上部側レールの荷重、建屋の収縮に起因する圧縮力によるガイドレールの湾曲発生の問題を解決することができる。
【0029】
尚、実施例1に係るエレベータ用ガイドレール立設方法では、レール同士の接続部分に介在させる薄板として、薄鋼板15を用いた場合を説明したが、レール立設時の荷重負荷に対して容易に変形破壊されずに耐性を持つものであれば、これに代えて薄鉄板等の他の材料で形成した板材を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 階床
2 ピット
3 塔内
4 レールブラケット
5 レールクリップ
6 レールクリップボルト
7 最下段レール(1段目レール)
8 2段目レール
9 3段目レール
10 4段目レール
11 連結板
12 揚重機
13 牽引具
14 フック
15 薄鋼板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8