【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例1に係るエレベータ用ガイドレール立設方法の具体的な作業手順を段階別な項目で示した模式図である。ここでの作業手順では、まず第1段階において、昇降路の壁面に対して最下段レールの取り付け、芯出し固定を行い、第2段階において、エレベータの塔内又はピットで2段目以降のレールを2〜3本単位で接続する。但し、この時、レール同士の各接続部に厚さ1〜2mmの薄鋼板を挿入して接続を行うようにする。各レール同士を接続するには、連結板を用いて、同一の連結板に接続するレールの端同士をボルトによって締結することによりレール同士を堅固に連結して連続レール(連結レール)を作製する。引き続き、第3段階において、前項で作製した連続レールを揚重機で最下段レールの上部まで揚重し、第4段階において、次に牽引具で前項の連続レールを牽引し、最下段レールの接続位置まで垂下し、薄鋼板を接続部に挿入する。
【0019】
また、第5段階において、更に牽引具を微小降下し、上部側レールである連続レールが薄鋼板に接触した時点で垂下を止め、連結板ボルトにて両者を緊密に連結する。但し、第6段階において、この時、下部側レールである最下段レールに上部側レールである連続レールを乗せたままだと、その上部側のレールの自重によりレール全体が湾曲することが考えられる。そこで、次の第7段階において、湾曲除去の為、連結後牽引具にてレール全体を上方へ微動牽引し、レール全体に引き上げ張力を与え、下方のレールに掛かる自重を除去する。この状態で第8段階において、上部側レールである連続レールの最上段のレールブラケット部でレールを正規位置に芯出してブラケットのボルトで固定する。更に第9段階において、上部側レールである連続レールの中間部の位置ずれを確認し、上部側より順次ブラケットのボルトで固定する。
【0020】
引き続く第10段階において、固定後、レールより揚重機を外す。この後の第11段階において、次に更に全階床分に必要となる上段分のレール(連続レール)について、前記第2段階の第2項〜第8段階の第8項を繰り返し、全段分のレール立設を行う。最後の第12段階において、レール全段立設・芯出し固定後、各段の接続部に挿入した薄鋼板を引き抜き、レール立設作業を完了する。
【0021】
図2は、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール揚重の様子を一部拡大して正面方向から示した図である。
図2では、まず予めガイドレールを設置する位置決め用のピアノ線(図示省略)をエレベータの昇降路の塔内3に設置しておき、最下の階床1のピット2にて最下段レール(1段目レール)7をウィンチ等の揚重機12で所定の位置まで吊上げ、ピアノ線に合わせて位置決めを行って最下段レール7の芯出しを行った後、昇降路の壁面の各階床1間の所定位置に設けられたレールブラケット4に取り付けられたレールクリップ5にレールクリップボルト6で締め付けて(締結して)堅固に固定する様子を示している。また、
図2では、最下段レール(1段目レール)7を昇降路の壁面の正規位置に取り付けた後、エレベータの塔内3又はピット2で2段目レール8、3段目レール9、及び4段目レール10を連結板11にボルトによって締結することによって堅固に連結した連続レール(連結レール)に対し、その最上部の連結板11のボルト穴に取り付けたワイヤにチェーンブロック等の牽引具13のフック14を引っ掛けた状態で連続レールを鉛直方向の上方に吊上げたり、或いは垂下させる様子を示している。このとき、チェーンブロック等の牽引具13は揚重機12のワイヤに取り付けられている。即ち、ここでのワイヤを含む揚重機12、及びフック14を含む牽引具13は、合わせて連続レールを懸吊して引き上げる懸吊引き上げ手段として機能する。本実施形態では、牽引具13としてチェーンブロックを使用しており、揚重機12による高さ方向の牽引による調整だけでなく、牽引具13による微小な高さ方向の調整も可能としている。
【0022】
図3は、
図2に示した連続レールでのレール接続状態を示した要部の拡大図である。
図3では、連続レールにおける2段目レール8及び3段目レール9の接続部分に厚さ1mm〜2mm、縦横寸法が2cm〜3cmの薄鋼板15を介在させた様子を示している。勿論、その他の各レール同士の接続部分(例えば図示されない3段目レール9及び4段目レール10の接続部分やそれ以外の接続部分)についても同様な薄鋼板15を介在させる。因みに、薄鋼板15の厚さは、レール同士の隙間として好適な範囲を選定したもので、余り過大過ぎてもエレベータ(乗りかご)が走行した際に揺れを発生させる原因となり、揺れが発生するとエレベータ(乗りかご)の乗り心地が悪くなる上、レールがガイドするガイドシューやガイドローラに悪影響を与えるために2mm程度以下にするのが好ましく、また小さ過ぎても建築物や上方からの圧縮荷重を十分に吸収できない(逃がしきれない)ため、1mm程度以上を確保することが好ましい。また、薄鋼板15の縦横寸法の大きさは、取り扱い易さや機械的強度を考慮して決定すれば良いものである。
【0023】
図4は、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール接続状態の一形態として、湾曲が発生しない場合を正面方向から示した図である。
図4では、1条レールとされた連続レール(2段目レール8、3段目レール9、及び4段目レール10)を揚重機12で牽引具13を介して吊上げた後、最下段レール7の真上の数cm〜数十cmの位置に垂下させ、その後に牽引具13によってゆっくりと接続位置になるまで垂下させる。そして、接続位置になると隙間確保のために接続部分に薄鋼板15を挿入してから同一の連結板11に接続するレールの端部をボルトによって堅固に締結してレール同士を連結する様子を示している。
【0024】
図5は、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール接続状態の一形態として、湾曲が発生した場合を正面方向から示した図である。
図5では、
図4で説明した1条レールとされた連続レールの最下段レール4への薄鋼板15を介在させた上での連結板11を用いたレール同士の連結に際し、連続レールを垂下したままの状態にすると上部側レールの荷重によって湾曲が発生する場合があり、こうした場合の様子を示している。特に、
図5では、3段目レール9に対する4段目レール10による荷重よりも2段目レール8に対する4段目レール10及び3段目レール9による荷重が大きく(中程度)、更に最下段レール7に対する2段目レール8〜4段目レール10による荷重が最も大きくなっている様子を示している。
【0025】
図6は、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順で実施されるレール接続状態の一形態として、牽引によりレールに引き上げ張力を加えて湾曲の発生を防止する様子を正面方向から示した図である。
図6では、
図4で説明した1条レールとされた連続レールの最下段レール8への薄鋼板15を介在させた上での連結板11を用いたレール同士の連結に際し、連続レールを垂下したままの状態にせずに牽引具13により引き上げ、1条レールとされた連続レールに対して引き上げ張力を加えて上方位置の連続レールの自重の影響を除去する様子を示している。因みに、懸吊引き上げ手段として、牽引具13を具備しない揚重機12によっても、連続レールを微動上昇させれば同等の効果を得ることができる。
【0026】
図7は、上述したエレベータ用ガイドレール立設方法の作業手順を実施した後のレール接続完了状態を正面方向から示した図である。
図7では、
図6で説明した上方位置の連続レールの自重の影響を除去した上で芯出しによる位置決めを行ってから連続レールの各レール(2段目レール8〜4段目レール10)について、レールブラケット4に取り付けられたレールクリップ5のレールクリップボルト6を締結して昇降路の壁面に固定した様子を示している。即ち、ここでは
図6に示した状態で下部側レールの最下段レール7と上部側レールの連続レールとが緊張状態となるため、ピアノ線に沿うように芯出しを行って最上位置となる4段目レール10についてレールクリップ5にレールクリップボルト6によって締結して昇降路の壁面に固定した後、中間位置になる2段目レール8や3段目レール9についても、下のレールクリップ5から順次同様にピアノ線に沿うように位置を微調整して芯出しを行ってからレールクリップ5にレールクリップボルト6によって締結して昇降路の壁面に固定する。こうした手順に従えば、最下段レール7及び連続レールに湾曲が生じ難く、容易にレール立設を行うことができる。
【0027】
この後は牽引具13のフック14を外した上、連結されたレールの上端部に薄鋼板15を介在させて連続レールの別体を乗せて連結板11にボルトによって締結してレール同士を堅固に連結すると共に、連続レールの別体を同様に鉛直方向の上方に引き上げ張力を加えて上方位置レール自重の影響を除去して芯出しによる位置決めを行ってからレールクリップ5にレールクリップボルト6で締結して昇降路の壁面に固定する作業を建物の最上階に至るまでに必要となる回数分、順次繰り返して全高分のレールを立設した後、薄鋼板15をそれぞれ順次引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設ける。
【0028】
実施例1に係るエレベータ用ガイドレール立設方法によれば、レール同士を接続する際に接続部分に薄鋼板15を介在させた上で連結板11のボルトによる締結で連結し、連結レールを昇降路の壁面に立設するときや上部側レールを下部側レールに連結する際には引き上げ張力を加えることで自重変形させないか、或いは上部側レールに引き上げ張力を加えて荷重を下部側レールに負荷させないようにした上で固定し、最終的にレール間の薄鋼板15を引き抜いてレール同士の接続部分に微小な隙間を設けるようにしているので、複雑で高価な部品加工を要することなく、ガイドレールの立設時に下方位置のレールに加えられる荷重負荷を防止できると共に、湾曲の発生を極力抑制できるようになる。この結果、ガイドレールの自重や建物の自重に起因する建屋圧縮力の影響によるガイドレールの湾曲発生を防止することができ、従来問題とされていた下部側レールに対する上部側レールの荷重、建屋の収縮に起因する圧縮力によるガイドレールの湾曲発生の問題を解決することができる。
【0029】
尚、実施例1に係るエレベータ用ガイドレール立設方法では、レール同士の接続部分に介在させる薄板として、薄鋼板15を用いた場合を説明したが、レール立設時の荷重負荷に対して容易に変形破壊されずに耐性を持つものであれば、これに代えて薄鉄板等の他の材料で形成した板材を用いることも可能である。