特許第5781489号(P5781489)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5781489
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】クラッチディスク組立体
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/68 20060101AFI20150907BHJP
   F16D 13/64 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   F16D13/68 E
   F16D13/64 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-251978(P2012-251978)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-101892(P2014-101892A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2014年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】冨田 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】谷本 裕
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−148512(JP,A)
【文献】 実開昭60−156228(JP,U)
【文献】 特開昭48−007134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00−23/14、49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力側部材に対して軸方向に移動自在に設けられ、入力側部材から出力側部材に動力を伝達するためのクラッチディスク組立体であって、
前記出力側部材に軸方向移動自在に係合可能な環状のフランジと、
前記フランジの外周部に内周部が固定された環状のドリブンプレートと、
前記ドリブンプレートの外周部の両側面に設けられた1対の摩擦部材と、
円周方向に所定の間隔で設けられ、前記フランジの外周部に前記ドリブンプレートの内周部を固定する複数の固定部材と、
前記複数の固定部材の円周方向間に設けられ、他の部分に比較して軸方向の剛性が低い低剛性部と、
を備え
前記フランジは、
前記ドリブンプレートの内周部側面に接触し、前記固定部材が取り付けられる複数の固定部と、
前記複数の固定部の円周方向間に設けられ、前記ドリブンプレートの側面に接触しない複数の非接触部と、
を有し、
前記低剛性部は前記非接触部を有する、
クラッチディスク組立体。
【請求項2】
前記非接触部は前記固定部より軸方向の厚みが薄い凹部である、請求項に記載のクラッチディスク組立体。
【請求項3】
前記ドリブンプレートは、
内周部に設けられ、前記複数の固定部材が取り付けられる環状の取付部と、
前記取付部の外周側に設けられ、前記摩擦部材が設けられた摩擦部材固定部と、
前記複数の固定部材が取り付けられた部分の円周方向間において、前記取付部と前記摩擦部材固定部とを連絡する複数の連絡部と、
を有し、
前記複数の連絡部の円周方向間には切欠き部が形成され、
前記低剛性部は前記連絡部及び前記切欠き部を有している、
請求項1又は2に記載のクラッチディスク組立体。
【請求項4】
前記ドリブンプレートの摩擦部材固定部は、円周方向において複数に分割されている、請求項に記載のクラッチディスク組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチディスク組立体、特に、出力側部材に対して移動自在に設けられ、入力側部材から出力側部材に動力を伝達するためのクラッチディスク組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチディスク組立体は、エンジンからの動力をトランスミッションに伝達するためのクラッチ装置に設けられており、クラッチカバー組立体とともに用いられる。
【0003】
特許文献1に示されるように、クラッチディスク組立体は、一般的に、互いに固定された1対の入力側プレートと、一方の入力側プレートの外周部に固定されたクラッチディスクと、1対の入力側プレートの軸方向間に配置された出力側のハブフランジと、を備えている。また、入力側プレートとハブフランジとの間には複数のトーションスプリングが設けられている。
【0004】
クラッチディスクは、1対の入力側プレートの一方の外周部に固定された複数のクッショニングプレートと、これらのクッショニングプレートの両面にリベットによって固定された摩擦材と、を有している。
【0005】
ここで、フライホイールとトランスミッションの入力軸との間にミスアライメントが生じると、ハブフランジのスプライン孔の偏磨耗や、クラッチディスクの組立体を構成する各部品の摩耗促進等を招く。
【0006】
そこで、特許文献2に示されるように、クッショニングプレートとリベットとの間に緩衝材を設け、クラッチディスク組立体の軸方向の剛性を低下させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−101268号公報
【特許文献2】実開昭62−12022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、多板型のクラッチ装置では、1つのハブフランジに複数のクラッチディスクが設けられている。そして、一部又は全部のクラッチディスクがハブフランジに対して軸方向に移動自在にスプライン係合している。
【0009】
このような装置においては、レリーズ機構の作動によってクラッチディスクがフライホイール側に移動され、クラッチオン(動力伝達状態)になる。このとき、スプライン係合部においてこじれ等が発生すると、クラッチディスクがスムーズに移動せず、一部のクラッチディスクのみによって動力伝達がされる場合がある。このような状況では、一部のクラッチディスクが異常摩耗することになる。また、動力の伝達効率が低下する。
【0010】
特許文献2に示されているように、軸方向の剛性を低下させたクラッチディスクでは、移動中にこじれが発生しても、摩擦部材が固定された部分がたわみ、フライホイール等に押し付けられる。したがって、上記のような問題は発生しにくい。
【0011】
しかし、クッショニングプレートが設けられていないようなクラッチディスクでは、軸方向の剛性が高くなり、たわみにくいので、前述のように、クラッチディスクの異常摩耗が発生しやすくなる。
【0012】
本発明の課題は、クラッチディスクが軸方向に移動する際にこじれ等が発生して移動が規制された場合でも、クラッチディスクの異常摩耗を抑え、効率良く動力の伝達が行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1側面に係るクラッチディスク組立体は、出力側部材に対して軸方向に移動自在に設けられ、入力側部材から出力側部材に動力を伝達するものである。このクラッチディスク組立体は、環状のフランジと、環状のドリブンプレートと、1対の摩擦部材と、複数の固定部材と、低剛性部と、を備えている。フランジは出力側部材に軸方向移動自在に係合可能である。ドリブンプレートはフランジの外周部に内周部が固定されている。1対の摩擦部材はドリブンプレートの外周部の両側面に設けられている。複数の固定部材は、円周方向に所定の間隔で設けられ、フランジの外周部にドリブンプレートの内周部を固定する。低剛性部は、複数の固定部材の円周方向間に設けられ、他の部分に比較して軸方向の剛性が低い。
【0014】
ここでは、フランジとドリブンプレートとが複数の固定部材によって固定されている。そして、複数の固定部材の円周方向間には、軸方向の剛性が低い低剛性部が形成されている。したがって、クッショニングプレートが設けられていないようなクラッチディスク組立体であっても、低剛性部によって摩擦部材が設けられた部分がたわみやすくなる。このため、クラッチディスク組立体が軸方向移動中にこじれ等によって移動が規制された場合であっても、摩擦部材はフライホイール等に押し付けられることが可能になり、他のクラッチディスクの異常摩耗や動力の伝達効率の低下を避けることができる。
【0015】
本発明の第2側面に係るクラッチディスク組立体は、第1側面のクラッチディスク組立体において、フランジは、複数の固定部と、複数の非接触部と、を有する。固定部は、ドリブンプレートの内周部側面に接触し、固定部材が取り付けられる。非接触部は、複数の固定部の円周方向間に設けられ、ドリブンプレートの側面に接触しない。そして、低剛性部は非接触部を有している。
【0016】
ここでは、フランジに非接触部が設けられており、この非接触部はドリブンプレートの側面に接触しない。このため、ドリブンプレートは、フランジの非接触部のエッジを起点としてたわみやすくなる。
【0017】
本発明の第3側面に係るクラッチディスク組立体は、第2側面のクラッチディスク組立体において、非接触部は固定部より軸方向の厚みが薄い凹部である。
【0018】
ここでは、低剛性部を簡単な構成で実現することができる。また、非接触部は切欠きによっても実現できるが、凹部は切欠きに比較して強度が高くなる。
【0019】
本発明の第4側面に係るクラッチディスク組立体は、第1から第3側面のいずれかのクラッチディスク組立体において、ドリブンプレートは、環状の取付部と、摩擦部材固定部と、複数の連絡部と、を有している。取付部は、内周部に設けられ、複数の固定部材が取り付けられる。摩擦部材固定部は、取付部の外周側に設けられ、摩擦部材が設けられている。連絡部は、複数の固定部材が取り付けられた部分の円周方向間において、取付部と摩擦部材固定部とを連絡する。また、複数の連絡部の円周方向間には切欠き部が形成されている。そして、低剛性部は連絡部及び切欠き部を有している。
【0020】
ここでは、ドリブンプレートの内周部と外周部とが複数の連絡部によって連絡されており、隣り合う連絡部の間には切欠き部が形成されている。すなわち、ドリブンプレートの連絡部及び切欠き部によって低剛性部が構成されている。このため、簡単な構成で低剛性部を実現することができる。
【0021】
本発明の第5側面に係るクラッチディスク組立体は、第4側面のクラッチディスク組立体において、ドリブンプレートの摩擦部材固定部は、円周方向において複数に分割されている。
【発明の効果】
【0022】
以上のように本発明では、クラッチディスクが軸方向に移動する際にこじれ等が発生して移動が規制された場合でも、クラッチディスクの異常摩耗を抑え、動力を効率良く伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態によるクラッチ装置の断面図
図2図1に示したクラッチ装置の外観斜視図。
図3図1に示したクラッチ装置の分解斜視図。
図4】クラッチディスク組立体の外観斜視図。
図5図4の一部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[全体構成]
図1は本発明の一実施形態によるクラッチディスク組立体を有するクラッチ装置の断面構成図である。また、図2はクラッチ装置の外観斜視図、図3はその分解斜視図である。各図において、図示していないが、右側にエンジンが配置され、左側にトランスミッションが配置されている。
【0025】
このクラッチ装置1は、エンジンからトランスミッションの第1入力軸及び第2入力軸(ともに図示せず)に動力を伝達するための装置である。クラッチ装置1は、第1入力軸に動力を伝達するための第1クラッチ部C1と、第2入力軸に動力を伝達するための第2クラッチ部C2と、を有している。
【0026】
第1クラッチ部C1は、エンジン側に配置されており、第1フライホイール11と、第1クラッチディスク組立体12と、第1中間プレート13と、第1プレッシャプレート14と、第1コーンスプリング15と、第1プッシュリング16と、連結部材17と、を有している。また、第2クラッチ部C2は、トランスミッション側に配置されており、第2フライホイール21と、第2クラッチディスク組立体22と、第2中間プレート23と、第2プレッシャプレート24と、第2コーンスプリング25と、第2プッシュリング26と、を有している。
【0027】
[第1クラッチ部C1]
<第1フライホイール11>
第1フライホイール11はエンジン側の部材に連結されており、第1フライホイール11のエンジン側の側面にはリングギア18が固定されている。このリングギア18には、エンジンとクラッチ装置1との間に設けられたダンパー装置(図示せず)の出力が噛み合っている。また、第1フライホイール11の外周部には、軸方向トランスミッション側に延びて形成された複数の連結部11aが形成されている。
【0028】
<第1クラッチディスク組立体12>
第1クラッチディスク組立体12は、ハブフランジ30と、2つのクラッチディスク31,32と、を有している。
【0029】
ハブフランジ30は、中心部のハブ30aと、ハブ30aから径方向外方に延びるフランジ部30bと、を有している。ハブ30aの中心部には第1入力軸が係合するスプライン孔30cが形成されている。また、フランジ部30bの外周部には、エンジン側に大ギア部30dが形成され、トランスミッション側に大ギア部30dより小径の小ギア部30eが形成されている。
【0030】
2つのクラッチディスク31,32は、基本的には同様の構成である。すなわち、各クラッチディスク31,32は、円板状のドリブンプレート33と、ドリブンプレート33の両面に接着された摩擦部材34と、を有している。また、クラッチディスク31,32は、それぞれドリブンプレート33の内周部にリベット37によって固定された環状のリングプレート(フランジ)35,36を有している。なお、図1ではトランスミッション側のクラッチディスク32に設けられたリベット37のみが示されているが、エンジン側のクラッチディスク32にも同様のリベットが設けられている。なお、エンジン側のクラッチディスク31のリベット37とトランスミッション側のクラッチディスク32のリベットとは、円周方向にずれた位置に設けられている。
【0031】
各リングプレート35,36の内周部にはギア部35a,36aが形成されている。そして、各ギア部35a,36aはフランジ部30bの外周部に形成された大ギア部30d及び小ギア部30eに対して、軸方向移動自在に噛み合っている。
【0032】
なお、第1クラッチディスク組立体12のクラッチディスク32には低剛性部が設けられているが、低剛性部については後述する。
【0033】
<第1中間プレート13>
第1中間プレート13は、環状の部材であり、2つのクラッチディスク31,32の軸方向間に配置されている。第1中間プレート13の両側面はクラッチディスク31,32の摩擦部材34が圧接される摩擦面となっている。また、第1中間プレート13の外周部には、径方向外方に突出する複数の第1突起部13a及び第2突起部13bが形成されている。第1突起部13aにはストラッププレート38の一端が固定されている。ストラッププレート38の他端は第2フライホイール21に固定されている。このストラッププレート38によって、第1中間プレート13は、第1及び第2フライホイール11,21と同期して回転するとともに、第1フライホイール11から離れる方向に付勢されている。
【0034】
<第1プレッシャプレート14>
第1プレッシャプレート14は、環状の部材であり、第1フライホイール11に対向して配置されている。第1プレッシャプレート14は、2つのクラッチディスク31,32を、第1中間プレート13を挟んで第1フライホイール11に押圧する。第1プレッシャプレート14の外周部には、径方向外方に突出する複数の突起部14aが形成されている。そして、複数の突起部14aにはストラッププレート39の一端が固定されている。ストラッププレート39の他端は第2フライホイール21に固定されている。このストラッププレート39によって、第1プレッシャプレート14は、第1及び第2フライホイール11,21と同期して回転するとともに、第1フライホイール11から離れる方向に付勢されている。
【0035】
<第1コーンスプリング15,第1プッシュスプリング16>
第1コーンスプリング15及び第1プッシュリング16は、クラッチ装置1のもっともトランスミッション側に配置されている。第1コーンスプリング15及び第1プッシュリング16はともに環状の部材である。これらの部材15,16が図示しない第1レリーズ機構によって作動され、連結部材17を介して、第1クラッチ部C1のオン(動力伝達状態)、オフ(動力が伝達されない状態)が切り替えられる。
【0036】
第1プッシュリング16は、円板部16aと、円板部16aの内周部に形成されたレリーズ部16bと、を有している。円板部16aの外周部においてエンジン側の側面には、軸方向に突出する支持用突起16cが形成されている。この支持用突起16cの外周面によって、第1コーンスプリング15の内周端部が支持されている。レリーズ部16bは、円板部16aより軸方向においてエンジン側に偏倚して形成されている。このレリーズ部16bに、図示しない第1レリーズ機構の一部が係合する。
【0037】
連結部材17は、支持部17aと、複数の延長部17bと、を有している。支持部17aは、環状に形成されており、径方向の中間部に第1コーンスプリング15の外周部を支持する突起部17cを有している。複数の延長部17bは、それぞれ支持部17aの外周部において軸方向エンジン側に延びて形成されている。各延長部17bは、第2クラッチ部C2の外周を軸方向に通過しており、先端が第1プレッシャプレート14の側面に当接している。
【0038】
[第2クラッチ部C2]
第2クラッチ部C2を構成する部材は、基本的には第1クラッチ部C1の対応する部材と同様である。
【0039】
<第2フライホイール21>
第2フライホイール21は第1プレッシャプレート14のトランスミッション側に配置されている。この第2フライホイール21は図示しない第2入力軸に軸受40によって支持されている。また、第2フライホイール21の外周部には、径方向外方に突出する複数の第1突起部21a及び第2突起部21bが形成されている。第1突起部21aには第1フライホイール11の連結部11aがボルト41によって固定されている。したがって、第1フライホイール11と第2フライホイール21とは同期して回転する。また、第2突起部21bには、前述のように、ストラッププレート38,39の他端が固定されている。さらに、この第2突起部21bには、それぞれ一端が第2中間プレート23及び第2プレッシャプレート24に固定されたストラッププレート42,43の他端が固定されている。
【0040】
<第2クラッチディスク組立体22>
第2クラッチディスク組立体22は、ハブフランジ50と、2つのクラッチディスク51,52と、を有している。
【0041】
ハブフランジ50は、中心部のハブ50aと、ハブ50aから径方向外方に延びるフランジ部50bと、を有している。ハブ50aの中心部には第2入力軸が係合するスプライン孔50cが形成されている。また、フランジ部50bの外周部には、エンジン側に取付部50dが形成され、トランスミッション側にギア部50eが形成されている。
【0042】
2つのクラッチディスク51,52は、基本的には第1クラッチ部C1のクラッチディスク31,32と同様の構成である。すなわち、各クラッチディスク51,52はドリブンプレート53と摩擦部材54とを有している。なお、トランスミッション側のクラッチディスク52の内周部には、リベットによってリングプレート(フランジ)56が固定されているが、エンジン側のクラッチディスク51については、ドリブンプレート53がリベット57によって直接フランジ50bの取付部50dに固定されている。
【0043】
なお、第2クラッチディスク組立体22のクラッチディスク52には低剛性部が設けられているが、低剛性部については後述する。
【0044】
<第2中間プレート23>
第2中間プレート23は、2つのクラッチディスク51,52の軸方向間に配置されており、両側面に摩擦面を有している。また、第2中間プレート23の外周部には、径方向外方に突出する複数の突起部23aが形成されている。この突起部23aには、ストラッププレート42の一端が固定され、ストラッププレート42の他端は、前述のように、第2フライホイール21の第2突起部21bに固定されている。
【0045】
<第2プレッシャプレート24>
第2プレッシャプレート24は、第2フライホイール21に対向して配置され、2つのクラッチディスク51,52を、第2中間プレート23を挟んで第2フライホイール21に押圧する。第2プレッシャプレート24の外周部には、径方向外方に突出するそれぞれ複数の突起部24aが形成されている。この突起部24aには、ストラッププレート43の一端が固定され、ストラッププレート43の他端は、前述のように、第2フライホイール21の第2突起部21bに固定されている。
【0046】
<第2コーンスプリング25及び第2プッシュリング26>
第2コーンスプリング25及び第2プッシュリング26は、第1コーンスプリング15及び第1プッシュリング16のエンジン側に配置されている。これらの部材25,26が図示しない第2レリーズ機構によって作動され、第2クラッチ部C2のオン(動力伝達状態)、オフ(動力が伝達されない状態)が切り替えられる。
【0047】
第2プッシュリング26は、具体的な形状は第1プッシュリング16と異なるが、第1プッシュリング16と同様に、円板部26aとレリーズ部26bとを有している。また、円板部26aの外周部には、第2コーンスプリング25の内周部を支持する支持部26cが形成されている。さらに、レリーズ部26bは、円板部26aより軸方向においてエンジン側に偏倚して形成されている。このレリーズ部26bに、図示しない第2レリーズ機構の一部が係合する。
【0048】
<中間プレートの移動規制機構>
第1中間プレート13と第1プレッシャプレート14との間、及び第2中間プレート23と第2プレッシャプレート24との間には、それぞれクラッチオフの際に各中間プレート13,23の移動を規制するための機構が設けられている。いずれの機構も同様の構成であるので、以下では、第1クラッチ部C1に設けられた機構について説明する。
【0049】
この機構は、第1プレッシャプレート14に設けられた支持ボルト65と、スプリング66と、を有している。支持ボルト65は、第1プレッシャプレート14の突起部14aに軸方向に貫通して設けられている。そして、支持ボルト65の先端は第1中間プレート13側に突出している。スプリング66は、支持ボルト65の先端部分の外周に配置されている。スプリング66の一端は、第1中間プレート13の第1プレッシャプレート14側の側面に設けられた凹部の底面に当接している。また、スプリング66の他端は第1プレッシャプレート14の第1中間プレート13側の側面に当接している。なお、スプリング66の付勢力は、第1中間プレート13を第2フライホイール21側に引き離すストラッププレート38の付勢力よりも大きい。
【0050】
このような機構によって、第1プレッシャプレート14が第1フライホイール11から引き離される際に、第1中間プレート13が第1プレッシャプレート14側に移動しすぎるのを規制している。
【0051】
[クラッチディスク組立体の低剛性部]
前述のように、クラッチディスク32,52には、他の部分に比較して軸方向の剛性が低い低剛性部が設けられている。各クラッチディスク32,52における低剛性部の構成は同じであるので、ここでは、クラッチディスク32の低剛性部について説明する。
【0052】
前述のように、クラッチディスク32は、ドリブンプレート33と、ドリブンプレート33の両面に接着された摩擦部材34と、リングプレート(フランジ)36と、を有している。
【0053】
リングプレート36は、図4に示すように、複数の固定部36bと、複数の凹部36cと、を有している。複数の固定部36bは、円周方向に所定の間隔で形成され、ドリブンプレート33の内周部側面に接触している。凹部36cは、隣り合う固定部36bの間に形成されており、リングプレート36の両側面を軸方向内側に凹むようにして形成されている。すなわち、この凹部36cは固定部36bより軸方向の厚みが薄く、ドリブンプレート33の内周部側面に接触していない。
【0054】
ドリブンプレート33は、図4に示すように、環状の取付部33aと、摩擦部材固定部33bと、これらを連絡する連絡部33cと、有している。取付部33aは、ドリブンプレート33の内周部に設けられ、リベット37によってリングプレート36の固定部36bに固定されている。摩擦部材固定部33bは、取付部33aの外周側に設けられ、摩擦部材34が固定されている。なお、摩擦部材固定部33bは、円周方向に複数に分割されている。連絡部33cは、リベット37が取り付けられた部分の円周方向間において、取付部33aと摩擦部材固定部33bとを連絡している。
【0055】
具体的には、連絡部33cは、リングプレート36の凹部36cに対応する位置に設けられている。そして、連絡部33cの円周方向の中央部には、開口33dが形成されている。また、各連絡部33cの間には、切欠き部33eが形成され、この切欠き部33eの径方向外方に、摩擦部材固定部33bを複数に分割する溝が径方向に延びて形成されている。
【0056】
以上のようなリングプレート36の凹部36c及びドリブンプレート33の構成(特に、連絡部33c、開口33d、切欠き部33e)によって、軸方向の剛性が他の部分より低い低剛性部が構成されている。
【0057】
[動作]
<変速動作>
第1及び第2レリーズ機構が作動していない状態では、第1クラッチ部C1及び第2クラッチ部C2に押付力が付与されていない状態であり、第1クラッチ部C1及び第2クラッチ部C2はオフ、すなわち各クラッチ部C1,C2では動力伝達が行われない。この状態では、第1中間プレート13及び第1プレッシャプレート14は、それぞれストラッププレート38,39によって第1フライホイール11から引き離されている。また、第2中間プレート23及び第2プレッシャプレート24も、それぞれストラッププレート42,43によって第2フライホイール21から引き離されている。
【0058】
ここで、エンジンから動力が第1フライホイール11に入力されると、第2フライホイール21、第1及び第2中間プレート13,23、第1及び第2プレッシャプレート14,24は一体回転する。
【0059】
次に、車両が第1速で発進する際には、トランスミッションの第1入力軸側が第1速に切り替えられ、第1レリーズ機構によって第1プッシュリング16が軸方向エンジン側に押圧される。すると、第1コーンスプリング15及び連結部材17を介して、第1プレッシャプレート14及び第1中間プレート13が軸方向エンジン側に押圧される。この結果、2つのクラッチディスク31,32が、それぞれ第1フライホイール11と第1中間プレート13の間、第1中間プレート13と第1プレッシャプレート14の間に挟み込まれる。すなわち、第1クラッチ部C1がオンになる。これにより、エンジンからの動力が第1クラッチディスク組立体12を介して第1入力軸に伝達される。以上の動作により、車両は第1速で発進する。
【0060】
また、第1速から第2速への変速時には、まず、トランスミッションの第2入力軸側が第2速に切り替えられる。そして、トランスミッションが第2速の状態で、第1クラッチ部C1がオフされるとともに、第2クラッチ部C2がオンされる。
【0061】
具体的には、第1レリーズ機構に付与されている駆動力が解除され、これにより第1中間プレート13及び第1プレッシャプレート14が第1フライホイール11から離れる。これにより、第1クラッチ部C1による動力伝達が解除される。
【0062】
次に、第2レリーズ機構によって第2プッシュリング26が軸方向エンジン側に押圧される。すると、第2コーンスプリング25を介して第2プレッシャプレート14及び第2中間プレート23が軸方向エンジン側に押圧される。この結果、第2クラッチ部C2の2つのクラッチディスク51,52が、それぞれ第2フライホイール21と第2中間プレート23の間、第2中間プレート23と第2プレッシャプレート24の間に挟み込まれる。これにより、第2クラッチ部C2がオンになり、エンジンからの動力は第2入力軸に伝達される。以上の動作により、車両は第2速に変速される。
【0063】
また、第2速から第3速への変速時には、トランスミッションの第1入力軸側が第3速に切り替えられる。トランスミッションが第3速の状態で、第2クラッチ部C2のオフとほぼ同時に第1クラッチ部C1がオンに切り替えられる。具体的には、第2レリーズ機構の駆動力が解除され、第1レリーズ機構によって第1プッシュリング16が軸方向エンジン側に押圧される。以降の動作は、第1速で発進する場合と同様である。
【0064】
以上のように、このクラッチ装置1では、発進時には、エンジンから第1入力軸に動力が伝達される。また、奇数変速段から偶数変速段に変速される場合は、エンジンから第1入力軸に動力が伝達されている状態において、トランスミッションが偶数変速段にセットされる。そして、第1クラッチ部C1のオフとほぼ同時に第2クラッチC2部がオンに切り替えられる、エンジンからの動力は第2入力軸を介してトランスミッションに伝達される。さらに、偶数変速段から奇数変速段に変速される場合は、エンジンからの動力が第2入力軸に伝達されている状態において、トランスミッションが奇数変速段にセットされる。そして、第2クラッチ部C2のオフとほぼ同時に第1クラッチ部C1がオンに切り替えられる。これにより、エンジンからの動力が第1入力軸を介してトランスミッションに伝達される。
【0065】
<低剛性部の作用>
例えば第1クラッチ部C1において、クラッチオン時には、第1プレッシャプレート14によりクラッチディスク32が第1フライホイール11側に移動させられる。このとき、クラッチディスク32のリングプレート36は、ハブフランジ30のスプライン30eに沿って第1フライホイール11側に移動する。
【0066】
しかし、クラッチディスク32が第1中間プレート13に接触し始めると、クラッチディスク32に動力が伝達されるので、リングプレート36はスプライン30eに沿って移動しにくくなる。場合によっては、リングプレート36の移動が停止してしまう場合がある。このような場合であっても、クラッチディスク32には低剛性部が形成されているので、ドリブンプレート33がたわみ、摩擦部材34は第1中間プレート13に押圧されることになる。
【0067】
より詳細には、リングプレート36の移動が規制された状態でさらにクラッチディスク32が第1フライホイール11側に押されると、ドリブンプレート33の取付部33a及び連絡部33cが、リングプレート36の凹部36cのエッジ部(固定部36bと凹部36cとの境界部)を支点として、軸方向にたわむことになる。
【0068】
このたわみによって、摩擦部材34は第1中間プレート13に均一に押圧されることになる。
【0069】
[特徴]
(1)リングプレート36に厚みの薄い凹部36cが形成され、この凹部36cにドリブンプレート33の連絡部33cが非接触で配置されている。すなわち、クラッチディスクの内周部に低剛性部が形成されている。したがって、クラッチディスク32,52が軸方向移動中にこじれ等によって移動が規制された場合であっても、摩擦部材34は各中間プレート13,23に均一に押圧される。このため、他のクラッチディスク31,51の異常摩耗や動力の伝達効率の低下を避けることができる。
【0070】
(2)クラッチディスクの低剛性部を、凹部36c、連絡部33c、切欠き部33eによって構成しているので、簡単な構成で実現できる。
【0071】
(3)リングプレート36の凹部36cに代えて切欠き部を形成することもできるが、凹部36cによって強度を維持した状態で低剛性部を実現できる。
【0072】
(4)ドリブンプレート33の摩擦部材固定部33bが円周方向に分割されているので、ドリブンプレート33をより容易にたわますことができる。
【0073】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0074】
(a)前記実施形態では、本発明をデュアルクラッチに適用したが、1つのクラッチ部のみを有するクラッチ装置にも同様に適用することができる。
【0075】
(b)クラッチディスク組立体の構成については前記実施形態に限定されない。例えば、ダンパー機構を有するクラッチディスク組立体でもあってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 クラッチ装置
11,21 フライホイール
12,22 クラッチディスク組立体
31,32,51,52 クラッチディスク
33,53 ドリブンプレート
33a 取付部
33b 摩擦部材固定部
33c 連絡部
33d 切欠き部
34,54 摩擦部材
36,56 リングプレート(フランジ)
36b 固定部
36c 凹部
C1,C2 クラッチ部
図1
図2
図3
図4
図5