特許第5781617号(P5781617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5781617
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】感染の程度を判定するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20150907BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20150907BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   G01N33/48 M
   G01N15/14 C
   G01N15/14 D
   G01N33/483 C
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-533098(P2013-533098)
(86)(22)【出願日】2010年10月18日
(65)【公表番号】特表2013-543118(P2013-543118A)
(43)【公表日】2013年11月28日
(86)【国際出願番号】EP2010065615
(87)【国際公開番号】WO2012052046
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2013年10月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513134993
【氏名又は名称】フォス アナリティカル アグシャセルスガーッブ
【氏名又は名称原語表記】FOSS ANALYTICAL A/S
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ホルム,クラウス
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−310299(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/013757(WO,A1)
【文献】 特公昭59−000853(JP,B2)
【文献】 特開平06−011506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 −33/98
G01N 15/14
MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染の程度を判定するための方法において、
i)細胞型間の識別をもたらすのに十分な量で、識別マーカーを含む試薬を、1:200未満の希釈比で、哺乳類の乳に添加することによって未単離のサンプルを調製する工程と、
ii)前記サンプル中の異なる細胞型と別々に結合するようになる前記マーカーから得られる前記識別マーカーにおける差異に感受性がある検出システムを有するフローサイトメーターによって、前記サンプル上の前記マーカーによって識別された、白血球のリンパ球、単球、マクロファージ及び多形核細胞型からなる群から選択される体細胞の1つ以上の白血球型のそれぞれに関して細胞数を測定する工程と、
iii)総体細胞数を測定する工程と、
iv)1つ以上の感染の程度に関連して予め決められた1つ以上の基準値との前記測定された細胞数とを比較することによって、前記測定された細胞数に応じて、感染の程度の指標を判定する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、希釈比が1:50未満であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、希釈比が1:5未満であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記指標を判定する工程が、前記測定された細胞数を、1つ以上の感染の程度に関連するようそれぞれ予め決められた1つ以上の基準値と比較する工程を更に含むこととを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法において、前記哺乳類の乳は、牛乳であることと、前記感染の程度の指標を判定する工程が、乳腺炎の存在及び程度のうちの一方又は双方を判定する工程を含むこととを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記乳腺炎の指標が、無症候性乳腺炎の指標を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の方法において、臨床型乳腺炎に進行する可能性を示す感染の程度が判定されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項5の記載の方法において、メタクロマティック染料が、前記識別マーカーとして使用されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記メタクロマティック染料が、0.2mg/mlを超える濃度でのアクリジンオレンジであることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項5に記載の方法において、前記1つ以上の基準値が、基準からの前記測定された細胞計数の偏差の範囲を示す基準値を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類の乳中の異なる体細胞数から感染の程度を判定するための方法に関し、特に乳腺炎、最も特にウシ乳腺炎の存在及び/又は程度を判定するためのこのような方法に関する。
【0002】
乳腺炎は、典型的には細菌感染によって発症する哺乳類の乳腺の炎症であり、これは、その感染の程度に応じて、乳収率における著しい損失並びに乳品質への好ましくない変化を引き起こす可能性がある。ウシ乳腺炎による酪農農家への年間経済損失は、米国だけで20億ドルを超えることが見積られている。この実質的部分は、無症候性乳腺炎によるものであると推測される。
【0003】
臨床型乳腺炎は、典型的には、比較的高価な抗生物質による治療で処置される。無症候性乳腺炎は、乳分泌期に必ずしも抗生物質で処置される必要はない。無症候性感染は免疫系によって推定されることが多いが、無症候性乳腺炎は、場合により臨床型乳腺炎に進むことも、無症候性感染(慢性乳腺炎)として留まることもある。
【0004】
乳腺炎、特にウシ乳腺炎の同定は、典型的には体細胞数計測を行う撮像又はフローサイトメトリーのいずれかを用いる、乳の所定の体積における体細胞の総数に基づく。この体細胞数計測を行う場合、一般的には白血球(白血球細胞)及び上皮(皮膚)細胞が、分け隔てなく計測され、特に乳中に存在する白血球の異なる型間で計測が行われる。
【0005】
リンパ球に続いて、白血球の単球及びマクロファージ型が「A群」白血球と称され、並びに白血球の多形核細胞型又はPMN(好中球、好酸球及び好塩基球)型が、「B群」白血球と称される。
【0006】
A群は、正常状態下で体細胞の総数の約85%を占め、一方B群は、正常状態下で体細胞の約10%を占め、乳腺炎の程度に応じて、総体細胞数の30%〜90%の間まで増加することが一般的に理解されている。
【0007】
A群及びB群白血球の相対的比率の測定値並びにこれらの群の一方又は双方内の白血球の型の比率の測定値でもある示差体細胞数計測が、乳腺炎の存在又は程度及び/又は乳腺炎への感受性のうちの1つ以上の指標として使用されるべきであることが長い間提案されてきた。
【0008】
示差細胞数計測法は、典型的には、それが関連付けられる細胞の型に応じて変化する1つ以上の測定可能な特性を有する、メタクロマティック染料若しくは蛍光又は放射性マイクロビーズなどの識別マーカーの手段によって達成される。次いで、蛍光特性における変化などのこれら特性における差異に感受性がある検出システムを用いて、サイトメーターが、事象(細胞)を計測するよう使用され、既知の方法で細胞型間を識別する。
【0009】
例えば、米国特許出願公開第2009/0233329号明細書から、その中に乳サンプルの混合物及びメタクロマティック染料が配置される新規な楔形の微量流体チャンバを使用する「スミア試験」を用いて示差体細胞数計測を実行することが知られている。ここでは、80μlの乳が、20μlのメタクロマティック染料で希釈され、この混合物の小液滴が、チャンバに加えられる。それらの着色又は形態による異なる細胞の同定は、画像分析を用いて手動的又は自動的のいずれかで実行される。これに関する問題は、それぞれの試験用に新しい微量流体チャンバを使用しなければならないことである。更に、画像撮影チャンバの高さによって画像のぶれが生じ、これにより細胞の同定が繁雑となる。
【0010】
フローサイトメトリーは、上記のスミア試験型アッセイに代わるものとして周知である。Am.J.Vet.Res.,2012〜2016頁、第47巻、No.9、1986年9月に出版された、M.Hageltorn及びM.Alaa Saadによる文献において、フローサイトメトリーが、異なる白血球集団を識別するために使用され得ることが開示されている。ここでは、新鮮な乳サンプル(6時間以下の段階)が、0.0004%のアクリジンオレンジメタクロマティック染料を含有する低張生理食塩水溶液で1:200の比で希釈され、標準蛍光フローサイトメトリーを用いてアッセイが実行される。この希釈工程は、測定ポイントにおいて測定されるべき細胞と干渉粒子(脂肪粒子など)とが同時に計数される可能性を効果的に排除するために実施されるが、これがアッセイ法に繁雑さを付加する。更に、高希釈は、統計的に有意な細胞計数が達成される前に、非常に大量の液体がアッセイされることが必要である。このことが、アッセイの時間を大幅に増大させる。
【0011】
標準フローサイトメトリーアッセイ法を用いる示差体細胞数計測の性能もまた、例えば、米国特許第6,979,550号明細書に記載されている。ここでは、示差細胞計数を実行するために、体細胞が先ず初めに乳サンプル中の干渉粒子から単離されねばならないことが開示されている。このことは、脂肪粒子などの干渉粒子を除去するために乳サンプルを遠心分離することによって行われ、次いで対象の粒子を濃縮させる。蛍光染料が添加され、干渉粒子から全ての細胞を識別する。次いで、使用される蛍光染料に適合する事象検出システムを用いて、標準フローサイトメトリーにおいて粒子数計測が実行される。この遠心分離は、アッセイの繁雑さを増大し、場合によっては、もはやそれが全体を代表するものではないようにサンプルを変質させる可能性がある。
【0012】
示差体細胞数計測用の既知のサイトメトリーアッセイ法に関連する問題の少なくとも1つを解決することが、本発明の目的である。
【0013】
したがって、本発明は、感染の程度を判定するための方法を提供し、この方法は、i)メタクロマティック染料、蛍光又は放射性ミクロスフェアなどの識別マーカーを含有する試薬を、それを1:200未満、好ましくは1:50未満、最も好ましくは1:5未満の範囲で希釈するように、細胞型間の識別をもたらすのに十分な量で、哺乳類の乳に添加することによって、未単離のサンプルを調製する工程と、ii)サンプル中で異なる細胞型に別々に関連付けられるマーカーから得られる識別マーカーにおける差異に感受性がある検出システムを有する、フローサイトメトリーを用いて、サンプルで示差体細胞数を測定する工程と、iii)測定された示差細胞数に応じて、感染の程度の指標を判定する工程とを含む。
【0014】
このように、本発明者は、驚くべきことに、マーカーそれ自体の識別特徴を監視することにより示差体細胞数計測を行うために、サンプルに添加される識別マーカーをうまく選択することによって、サイトメトリーアッセイが未単離の本質的に希釈されていないサンプルで実行可能であり、この結果は、乳腺炎感染の程度の指標を判定するために用いられ得ることを発見した。標準偏差及び/又は偏差の範囲からのこれら識別特徴の偏差が、乳腺炎の存在、乳腺炎の段階及び/又は乳腺炎にかかる可能性を同定するために用いられ得る。
【0015】
好都合なことに、この感染の程度の指標は、乳腺炎の存在、可能性又はレベルのうちの1つ以上の同定を含むことができる。このような同定は、ウシ間の感染リスクを低減するために、乳腺炎の状態に従う搾乳順序、感染したウシの搾乳後の搾乳クローのより十分な洗浄、又は感染したウシに別個の搾乳クローを使用すること;ウシ間の感染リスクを低減するために、無症候性乳腺炎でウシをグループ分けすること;ウシ間の感染リスクを低減するために、無症候性乳腺炎感染が臨床症例に進行するかどうかを予測し、その結果、これらウシを、抗生物質治療が有益であるかどうかを識別すること;並びに殺処分及び育種の選択などのかなりの数の牛群管理の決定において採用され得る。
【0016】
本発明は、ここで、非限定的な実施例として並びに添付図の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、その中で細胞が本発明によりマークされる乳サンプルにおける、フローサイトメトリーによる、側方散乱強度対緑色蛍光の点プロットを示す。
図2図2は、図1に示されたゲーティングされた領域の赤色対緑色蛍光の点プロットを示す。
図3図3は、その中で異なる細胞集団が同定される、図2に示されたゲーティングされた領域の赤色対緑色蛍光の点プロットを示す。
図4図4は、本発明のよる方法を用いて、0日(新鮮な乳)に測定された%PMNの後日測定された%PMNに対するグラフを示す。
図5図5は、表2の数値により調製された乳サンプルおける、フローサイトメトリーによる赤色対緑色蛍光の典型的非ゲーティングの点プロットを示す。
図6図6は、比較的低濃度のアクリジンオレンジで染色された乳サンプルの赤色対緑色蛍光の点プロットを示す。
図7図7は、図5で使用されたような濃度で染色されたサンプルにEDTAを添加する効果を図示する、赤色対緑色蛍光の点プロットを示す。
図8図8は、PBSが添加される前の赤色対緑色の点プロットを示す。
図9図9は、PBSを添加する効果を示す。
【0018】
実施例1
個々のウシからの50μlの量の冷却しかつ保存された(BSM IIタブで)乳を、エッペンドルフチューブに移す。PBS中のアクリジンオレンジ(1mg/ml)50μl及びNaEDTA(0.1g/ml,pH=7)10μlを1つの試薬として一度に添加し、混合する。更に、次いで100μlのPBSを上述の混合物に添加し、混合する。室温で1〜2分間反応させた後に、この混合物を標準フローサイトメーターで測定した。このフローサイトメーターでは、単に例示としてではあるが、サンプルを、14μl/分の速度で検出領域を通過して流す。識別マーカーがメタクロマティック染料であるために、細胞蛍光を用いて、細胞型が識別され得る。本実施例で使用される染料は、アクリジンオレンジであるので、本実施例では、監視される緑色(ここではFL1−Hと名づけられる)及び赤色(ここではFL2−Hと名づけられる)の強度で、蛍光が青色レーザー(488nm)によって励起される。400,000のFL1−H値が、トリガ信号として用いられる。本発明の構造において、光散乱信号もまた獲得され、側方散乱光(ここではSSC−Hと名づけられる)の強度が、獲得された信号からのノイズ(すなわち、計測される細胞に無関係の信号)を減らすために好都合に使用される。
【0019】
データ分析については、側方散乱対緑色蛍光がプロットされ、これが図1に示される。このプロットにおいて、プロットでの評価対象の事象、本実施例では細胞が存在する場所を画定するためにゲートが導入される。有意な側方散乱(SSC−H)信号であるが比較的低い緑色蛍光(FL1−H)信号を示す粒子が、非対象物として容易に同定され、更なる分析から排除され得る。ゲートのための具体的なパラメータは、フローサイトメトリーの分野で既知の標準的方法を用いて、当業者によって容易に決定され得る。
【0020】
このように、ノイズ粒子は排除され又は少なくとも有意に低減される。このゲーティングされた領域は、P4と特定され、本実施例では、計測された事象の総数の52.6%を表す。
【0021】
次いで、ゲーティングされた事象P4が、図2に示されるように、赤色(FL2−H)対緑色(FL1−H)蛍光プロットでプロットされる。有用なものとして、必ずしも一般的ではないが、このプロットにおいて、第2のゲートが導入されて、プロットで評価対象の事象(細胞)が存在する場所を画定し、これによって、追加のノイズ粒子が排除される。このゲーティングされた領域は、P11として特定され、本実施例では、P4のゲーティングされた領域において計測された事象の総数の96.4%を表し、これは1ミリリットルあたり450,000細胞(細胞/ml)の総体細胞数に相当する。このプロットは、A群及びB群に属する細胞のパーセンテージの決定において使用され得るが、図2のP11領域における全ての細胞を画定するゲートが、使用されるメタクロマティック染料の波長特性で検出された蛍光の相対比に基づいて(ここでは、関連する赤色/緑色(FL2−H/FL1−H)蛍光強度により、アクリジンオレンジで)、異なる細胞集団を画定する領域に細分化されることが好ましい。図2からのP11領域は、現図3ではP2として特定される。異なる細胞型の領域は、図3ではP5、P6、P7及びP8として示され、視覚的観察から、それぞれ単球(A群);PMN(B群);リンパ球(A群)及びマクロファージ(A群)からなる可能性が高いと考えられる。一旦これら視覚的相関が行われると、次いでこれら領域に関する特徴的蛍光の比が、視覚的同定の工程に頼ることなく更なる分析で使用され得る。
【0022】
図3のいわゆるB群(又はPMN)細胞領域を画定する領域P6における事象の数が、細胞の総数で割られ、100を乗じて%B群(PMN)を得て、これは、本実施例では78.2%である。
【0023】
この結果から感染の程度の指標を確立するために、既知の感染の程度を有するウシからの乳を用いて確立された基準値との比較が行われ得る。この比較は、細胞計数と感染の程度との間の数学的関係を確立するために、基準値に適用される従来の回帰又はケモメトリック法を用いて数学的に行われ得る。次いで、未知のウシの感染の程度の指標に辿り着くために、先に確立された数学的関係を用いて、未知のサンプルからの結果がデータ処理装置で処理され得る。あるいは、感染の程度の指標をもたらすために、細胞計数の範囲が乳腺炎診断に対して割り出され、測定された細胞計数がこの範囲と比較されてもよい。このことは、以下の表1に単に例示として示され、これは、データ処理装置を通して手動的又は自動的のいずれかで実行されてもよい。
【0024】
このように、本実施例では、78%のPMN値は、450,000の総体細胞数と共に、無症候性乳腺炎を示す。次いで、感染の程度の指標は、乳腺炎及び無症候性乳腺炎の一方又は双方の存在に対するYES/NOとして又は感染のレベルとして若しくは乳腺炎にかかっていることの予測としてなど、請求されている本発明から逸脱することなく、いくつかの異なる方法で、ユーザーに提示され得ることが、当業者に理解されるであろう。
【0025】
実施例2
個々のウシからの乳を保存し(BSM IIタブで)、分析前に40℃に加熱した。50μlの容量の乳をエッペンドルフチューブに移した。160μlのアクリジンオレンジ試薬(PBS中、0.3mg/mlのアクリジンオレンジ及び0.03mg/mlのNaEDTA)を添加し混合した。室温で1分間反応させた後に、この混合物を、実施例1で使用された標準フローサイトメーターで測定した。このフローサイトメーターでは、サンプルが100μl/分の速度で測定され、青色レーザー(488nm)によって再励起させた。200,000のFL1−H値をトリガ信号として使用する。蛍光信号(FL1−H、FL2−H及び光散乱信号(側方散乱、SSC−H))が再度獲得される。
【0026】
データ分析は、実施例1で用いられたものと同様であり、結果は、78.2%周辺のPMNレベルを示し、同一である。このことは、本発明による方法が、流速が比較的高くなることが可能で、並びに添加剤が、予測精度での著しい損失なく、事前混合されかつ単一の試薬として添加されるために、産業的(研究とは対照的な)用途に十分に適応することを示唆している。
【0027】
同一の実験パラメータを用いて、9個の更なるサンプルで測定を行い、1日後(図4の1日目)及び再び3日後(図4の3日目)に測定を繰り返した。この結果は、図4に図示され、1日目の測定結果が、サンプルが新鮮な場合(図4の0日目)に得られたこれら結果に匹敵し、3日後には、測定された値は、1日目(及び新鮮な状態)のものよりもわずかに低いだけであることを示す。このことは、本発明による方法が、3日間まで保存されたサンプルでも感染の程度の指標を判定するために使用可能であり得ることを示唆する。このことは、かなり遠い酪農業者から中央研究所で受理された乳サンプルを測定するためにこの方法を用いる場合に好都合である。この場合、受理されるサンプルは、典型的には、1日又は2日間保存されたサンプルである。更には、このことは、細胞死亡率が経時的に増加するために、この方法がまた、生細胞を識別するために使用可能であることも示している。
【0028】
識別マーカー、例えばアクリジンオレンジメタクロマティック染料の適切量が、フローサイトメトリーを用いる体細胞識別化を可能にするのに十分であるが、上述のような分離効果をもたらすことによってサンプルを不適切に希釈しないように、サンプルに添加されることが本発明の本質的特徴である。適切なレベルは、単に例示的なものとして以下に説明されるように、適切な点プロットの視覚的検査による合理的な試行錯誤を用いて、経験的に決定され得る。
【0029】
以下の試薬を調製した。PBS中1mg/mlのアクリジンオレンジ、0.1g/mlのNaEDTA(pH=7)及び標準強度のPBS。細胞の異なる型を含有する乳サンプルを使用し、以下の組み合わせを用いて試薬と混合した。
【0030】
室温で1〜2分間反応させた後に、それぞれの組み合わせを、基本的に実施例1及び2で上述された方法で、実施例1及び2で用いられた標準フローサイトメーターで測定した。このフローサイトメーターでは、サンプルは14μl/分の速度で測定され、青色レーザー(488nm)で励起された。400,000のFL1−H値をトリガ信号として用いた。蛍光信号(FL1−H、FL2−)、及び光散乱信号(側方散乱、SSC−H)を用いた。
【0031】
データ分析については、赤色対緑色(FL2−H対FL1−H)蛍光がプロットされ、その結果が図5に示される。2μl又は10μlのアクリジンオレンジを用いる場合、1つだけの細胞集団がこのプロット(図6)で見られ、すなわち、低濃度のアクリジンオレンジは十分な識別をもたらさない。これとは対照的に、50μlのアクリジンオレンジを用いる場合は、幾つかの集団がプロットに見られる(図5参照)。
【0032】
高濃度のアクリジンオレンジがEDTAと組み合わされる場合、非常に高密度の集団が右側に移動し、すなわち、図5に示されるものと比較して、これらの細胞の緑色蛍光強度が増加する(図7)。
【0033】
サンプルへのPBSの添加は、ノイズレベルを減少させ、すなわち図8及び図9に示されるように、ノイズから細胞を分離することが容易である。このノイズは、プロットの左部分の楔形集団である。図8のプロット(PBSを含まないサンプル)では、ノイズ集団が細胞集団の1つに重複している。図9のプロット(PBSを含むサンプル)では、ノイズ集団は、細胞集団の1つから良好に分離される。
【0034】
このことから、約0.2mg/mlを超えるアクリジンオレンジの濃度により適切な識別化が得られることを結論付けることができる。不要な希釈効果を生じることなくサンプルに添加され得る試薬(単一試薬又は別個に添加される個々の試薬のいずれか)の量は、ルーチン分析で本方法を使用するシステムに関して最適処理能力を考慮することで決定され得る。この量は、1:200未満、好ましくは1:50未満及び最も好ましくは1:5未満の希釈をもたらさねばならない。
【0035】
この実験判定は、アクリジンオレンジを参照して示されるが、一連の測定後に、当業者が、本発明による方法で使用するための識別マーカーの好適な範囲を期待どおりに合理的に決定できることを理解されたい。この方法は、細胞の識別測定として、相対的蛍光強度のフローサイトメトリー測定に関して説明されてきたが、他の識別測定が、使用される識別マーカーの性質に応じて使用され得ることも更に理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9