特許第5781710号(P5781710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5781710鋳造又は噴霧されて粉末になる処理材料を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5781710
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】鋳造又は噴霧されて粉末になる処理材料を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/08 20060101AFI20150907BHJP
   C22B 9/22 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   B22F9/08 A
   C22B9/22
【請求項の数】2
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-13146(P2015-13146)
(22)【出願日】2015年1月27日
(62)【分割の表示】特願2010-501173(P2010-501173)の分割
【原出願日】2008年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-120981(P2015-120981A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2015年1月28日
(31)【優先権主張番号】60/909,118
(32)【優先日】2007年3月30日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501187033
【氏名又は名称】エイティーアイ・プロパティーズ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100093089
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 滋
(72)【発明者】
【氏名】フォーブス ジョーンズ,ロビン・エム
(72)【発明者】
【氏名】ケネディ,リチャード・エル
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−279340(JP,A)
【文献】 特開平10−204508(JP,A)
【文献】 特開2003−201560(JP,A)
【文献】 特開昭63−175324(JP,A)
【文献】 特開昭60−046305(JP,A)
【文献】 特開昭60−255906(JP,A)
【文献】 特開平02−070010(JP,A)
【文献】 特表2009−509049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00 − 9/30
C22B 9/00 − 9/22
F27D 11/08
F27B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉(210、610)内の溶融材料(226,642)を加熱中、処理される前記溶融材料からの揮発性元素の望ましくない蒸発を減少させる、または排除する方法であって、鋳造又は噴霧されて粉末になる処理材料を製造する前記方法において、
前記処理される溶融材料(210、610)を前記溶解炉の真空室(214)内に導入するステップであって、前記処理される材料(210、610)が金属及び合金の少なくとも一方である前記導入ステップと、
前記処理される材料(210、610)を、ワイヤ放電プラズマイオン電子エミッタ(216、614、616)により発生した電子場(218、316、511、638)に供して、該処理される材料をその溶融温度以上の温度まで加熱するステップと、
前記処理される材料を前記溶融温度以上に加熱している間、前記真空室(214)内の圧力を300μmHg以上に維持するステップとを含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記処理される材料は、チタン、チタン合金、タングステン、ニオブ、タンタル、プラチナ、パラジウム、ジルコニウム、イリジウム、ニッケル、ニッケルベースの合金、鉄、鉄ベースの合金、コバルト、およびコバルトベースの合金から選択される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合衆国法典第35巻119(e)条に基づき、2007年3月30日付の同時継続中の米国特許出願番号第60/909、118号に対する優先権を主張する。
【0002】
本開示は、金属および金属合金(以下「合金」)を融解するための装置および技術に関する。本開示は、より具体的には、金属および合金を融解するためおよび/または融解状態にある材料に電子を利用する装置および技術に関する。
【背景技術】
【0003】
合金の融解過程には、適切な材料のチャージを準備してからチャージを融解することを伴う。溶融されたチャージまたは「溶解物」は、次に、溶解物の化学的性質を変更し、溶解物から望ましくない成分を除去し、および/または溶解物から成型される製品の微細構造に影響を与えるように、精製および/または処理することができる。溶解炉は、電気または化石燃料の燃焼のいずれかによって動力が供給され、適切な装置の選択は、相対コストおよび適用される環境規制、ならびに準備される材料の種類によって、大きく影響を受ける。現在、多様な溶解技術および装置が利用可能である。一般的な溶解技術は、例えば、誘導融解(真空誘導融解を含む)、アーク溶解(真空アークスカル溶解を含む)、るつぼ溶解、および電子ビーム溶解を含む。
【0004】
電子ビーム溶解は、典型的に、熱イオン電子ビームガンを利用して、ターゲット材料を加熱するために使用される、高エネルギーの実質的に直線の電子流を生成することが関与する。熱イオン電子ビームガンは、電流をフィラメントに流し、それによって、フィラメントを高温に加熱し、電子を「沸騰させ」て、フィラメントから外へ飛ばせることによって機能する。フィラメントから生成された電子は、非常に狭く、実質的に直線の電子ビームの形状で、ターゲットに向かって集束されて加速される。一種のイオンプラズマ電子ビームガンも、合金溶解物準備のために使用されてきた。具体的には、V.A.Chernovの「Powerful High−Voltage Glow Discharge Electron Gun and Power Unit on Its Base」(1994 Intern.Conf.on Electron Beam Melting(Reno、Nevada)、pp.259−267)に記載されている「グロー放電」電子ビームガンは、Antares、Kiev、Ukraineから市販されている、ある種の溶解炉に組み込まれている。このような機器は、陰極に衝突し、集束された電子を生成して、実質的に直線の電子ビームを形成する、陽イオンを含むコールドプラズマを生成することによって機能する。
【0005】
前述のタイプの電子ビームガンによって生成される実質的に直線の電子ビームは、電子ビーム溶解炉の真空になった融解室に向けられ、材料を融解および/または融解状態を維持するように照射される。電気伝導性材料を通過する電子の伝導によって、材料を特定の融解温度を超える温度まで迅速に加熱する。例えば、約100kW/cmであり得る、実質的に直線の電子ビームの高エネルギーが与えられることによって、直線電子ビームガンは、非常に高温熱源であり、実質的に直線のビームが照射される材料の融解温度、場合によっては、蒸発温度を容易に超えることができる。磁気偏向または同様の方向手段を使用すると、実質的に直線の電子ビームは、溶解炉内のターゲット材料全体に高周波で走査され、ビームを広域全体および複数および複雑な形状を有するターゲット全体に向けることが可能になる。
【0006】
電子ビーム融解は表面加熱方法であるため、典型的には、浅い溶融池だけを生成し、これは、鋳造インゴットのポロシティの制限と分離という点では利点である可能性がある。電子ビームによって生成される過熱金属池が炉の融解室の高真空環境内に配置されるため、この技術は融解材料からガスを抜きやすいことも利点である。また、比較的高い蒸発圧を有する合金内の望ましくない金属および非金属の成分は、融解室内で選択的に蒸発できるので、合金の純度が改善される。一方で、高度に集束した実質的に直線の電子ビームによって生成される、望ましい成分の蒸発を考慮しなければならない。電子ビーム溶解炉を使用する場合、望ましくない蒸発は、製造時に考慮しなければならず、合金製造を顕著に複雑化させる可能性がある。
【0007】
多様な融解および精製方法には、熱イオン電子ガンを使用する供給原料の電子ビーム融解が関与する。ドリップ融解は、例えば、タンタルやニオブなど、難溶性金属を処理するための熱イオン電子ビームガン溶解炉において使用される標準的な方法である。バー形状の原材料は、典型的に、炉室に供給され、バー上に集束する直線電子ビームが、材料を直接に静的または引出型にドリップ融解する。引出型で鋳造する場合、液だめレベルは、インゴットの底を引き出すことによって、増大するインゴットの上端で維持される。供給材料は、上記のガス抜きおよび選択的蒸発現象の結果、精製される。
【0008】
電子ビーム低温炉床融解技術は、一般的に、反応性金属および合金の処理および再利用において使用される。供給原料は、実質的に直線の電子ビームを供給原料バーの終端に照射させることによってドリップ融解される。融解した供給原料は、水冷却銅製炉床の終端領域にドリップして、保護スカルを形成する。融解した材料が炉床に集まると、あふれて、重力によって引出型またはそのほかの鋳造器具に落下する。炉床内の融解材料の滞留時間中、実質的に直線の電子ビームは、材料の表面全体を迅速に走査して、材料を融解形状に保つ。これは、また、高蒸発圧成分の蒸発によって、融解材料をガス抜きおよび精製する効果もある。炉床は、高密度と低密度の固体含有物の間の重力分離を促進するような大きさにすることができ、この場合、酸化物および他の比較的低密度の含有物は、融解を可能にするために十分な時間、融解金属に残存するが、高密度の粒子は底に沈殿してスカルに捕捉されるようになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の電子ビーム融解技術の多様な利点から、本技術を更に改善することは利点となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の1つの非限定的な態様に従って、電気伝導性金属材料を融解するための装置の実施形態が説明される。装置は、真空室、真空室に配置される炉床、および真空室内または近傍に少なくとも1つのワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタを含む。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタは、広域電子場を室に向けるように配設され、電子場は、電気伝導性材料を融解温度まで加熱するのに十分なエネルギーを有する。型または他の鋳造または噴霧装置は、室と連通し、炉床から溶融材料を受け取るように配設される。融解装置の特定の非限定的な実施形態は、溶融材料からの揮発成分の室内蒸発を削減または排除するように、従来の電子ビーム溶解炉の室圧を超える室圧で操作することができる。
【0011】
本開示の別の非限定的な態様に従って、真空室と、真空室内に配置された炉床と、を含み、該炉床は融解材料保持領域を含む、電子ビーム低温炉床溶解炉が説明される。炉は、真空室内または近傍に配置される少なくとも1つのワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタをさらに含む。炉床および少なくとも1つのワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタは、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタによって放出される広域電子場が、溶融材料保持領域および領域内に配置された任意の材料に少なくとも部分的に照射されるように、配置される。引出型は、室と連通し、炉床から融解材料を受け取るように配置される。少なくとも1つの材料送給器は、室と連通し、電気伝導性供給材料を炉床の領域上の位置で真空室に導入するように適合される。電子ビーム低温炉床溶解炉の一部の非限定的な実施形態は、溶融材料からの揮発成分の真空室での蒸発を削減または排除するように、従来の電子ビーム溶解炉の室圧を超える室圧で操作することができる。
【0012】
本開示のまた別の非限定的な態様に従って、材料の処理方法が提供される。方法は、少なくとも1つの電気伝導性金属および金属合金を含む材料を、大気圧に対して低圧で維持された融解室に導入するステップを含む。材料は、融解温度を超える温度まで加熱するように、室内の広域電子場に供される。広域電子場は、少なくとも1つのワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタによって少なくとも部分的に生成される。任意で、材料を電子場に供するステップの後または同時に、材料から鋳造物または粉末が形成される。本方法の一部の非限定的な実施形態では、融解室内の圧力は、融解室内の溶融材料からの揮発性元素の融解室での蒸発を削減または排除するように、従来の電子ビーム溶解炉の融解室圧を超える。
【0013】
本開示のさらなる態様に従って、チタン、チタン合金、タングステン、ニオブ、タンタル、プラチナ、パラジウム、ジルコニウム、イリジウム、ニッケル、ニッケルベースの合金、鉄、鉄ベースの合金、コバルトおよびコバルトベースの合金から選択される少なくとも1つの電気伝導性材料を、大気圧に対して低圧で維持された室内に導入するステップを含む材料処理方法が提供される。材料は、融解温度を超える温度まで加熱するように、室内の広域電子場に供され、広域電子場は、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタによって生成される。任意で、少なくとも1つの合金化添加剤が室内の材料に添加される。材料を電子場に供するステップの後または同時に、材料から鋳造物または粉末が形成される。本処理方法の一部の非限定的な実施形態では、融解室内の圧力は、融解室内の溶融材料からの揮発性元素の融解室での蒸発を削減または排除するように、従来の電子ビーム溶解炉の融解室圧より高い。
【0014】
本開示のまたさらなる態様に従って、電子ビーム溶解炉の真空室内の材料の加熱中、融解材料から揮発成分の望ましくない揮発を減少させる、または排除するための方法が提供される。方法は、材料が真空室内で加熱される時間の少なくとも1部分中、少なくとも40μmHg(5.3Pa)で真空室内の圧力を維持するステップを含む。
【0015】
本明細書に説明される装置および方法の特徴および利点は、以下の添付の図面を参照することによって理解を深めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来の熱イオン電子ビームガン溶解炉の実施形態の断面の模式図である。
図2】ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの実施形態の特定の構成要素の略図である。
図3】本開示に従う複数のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタを含む、電子ビーム低温炉床溶解炉の非限定的な一実施形態の断面の模式図である。
図4】ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの非限定的な一実施形態の模式図である。
図5】電子源としてワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタを含む、電子ビーム溶解炉の本開示に従う非限定的な一実施形態の模式図である。
図6】本開示に従う電子ビーム溶解炉において使用するために適合することができる、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの非限定的な一実施形態の一部断面の斜視図である。
図7図6に示されたワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの操作を示す図である。
図8】本開示に従う電子ビーム低温炉床溶解炉の一実施形態の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
読者は、本開示に従う装置および方法の、特定の非限定的な実施形態の以下の詳細説明を考慮すると、前述ならびに他の詳細を理解する。また、読者は、本明細書に説明される装置および方法を実行または使用すると、特定のこのような追加の詳細を把握する。
【0018】
非限定的な実施形態および特許請求の範囲の本説明において、操作例において、または別途示されている場合を除き、原材料および製品、処理条件などの数量または特徴を表す全ての数字は、「約」という用語によって、全ての事例において修飾されると理解されるものとする。従って、別途示されない限り、以下の説明および添付の特許請求の範囲に後述される任意の数値パラメータはおよそであり、本開示に従う装置および方法において取得を求める望ましい特性に応じて変化し得る。最低限少なくとも、および特許請求の範囲に相当する原則の適用を限定する試みとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも、記載の有効桁数を考慮し、通常の四捨五入規則を適用することによって、解釈されるべきである。
【0019】
本明細書において参照により組み入れられる任意の特許、刊行物、または他の開示資料の、全体または一部は、組み入れられる資料が既存の定義、記載、または本開示において後述する他の開示資料と相反しない限りにおいて、組み入れられる。したがって、および必要な範囲で、本明細書の後述の開示は、参照によりここに組み入れられる任意の相反する資料に優先する。参照により組み入れられるが、既存の定義、記載または本明細書に後述される他の開示資料に相反する任意の資料、またはその一部は、組み入れられる資料と既存の開示資料との間に相反が発生しない範囲のみで組み入れられる。
【0020】
本開示は、部分的に、金属および金属合金を融解するための電子ビーム炉、および/または金属鋳造物または粉末の作製において使用するための金属を融解状態に維持するために改善された設計に関する。従来の熱イオン電子ビームガン溶解炉は、図1に模式的に示される。炉110は、室壁115によって囲まれた真空室114を含む。複数の熱イオン電子ビームガン116は、室114の外側に隣接して配置され、別々の直線ビーム118を室114に向ける。金属バー120および合金粉末122の形状の供給材料は、それぞれ、従来のバー送給器119および従来の粒子または顆粒送給器117によって室114に導入される。電子ビームガン116のうちの1つの直線電子ビーム118が、バー120の終端に照射され、それを融解し、得られた融解合金124は、室114内の水冷却銅精製炉床126(「低温炉床」)に落下する。熱イオン電子ビームガン116は、従来の設計で、適切なフィラメント材料を熱することによって電子を生成する。ガン116は、生成した電子を1点に収束し、電子は密接に集束され、実質的に直線のビームの形状でガン116から射出される。このように、ガン116から投影される電子は、本質的に点源としてターゲットに照射される。電子の点源によるターゲットの加熱は、陰極線テレビ管の蛍光面全体に電子を照射する方式に類似して、直線電子ビーム118を少なくともターゲットの一部にわたって走査することによって促進される。例えば、熱イオン電子ビームガン116の実質的に直線の電子ビーム118をバー120の終端領域にわたって走査することによって、バー120を融解する。
【0021】
図1をさらに参照すると、炉床126に溜まった融解合金124は、特定の実質的に直線の電子ビーム118を既定のプログラムされたパターンで融解合金124の表面全体を走査することによって、融解状態に維持される。送給器117によって融解合金124に導入された粉末または顆粒状の合金材料122は、溶融材料に組み入れられる。融解合金124は、炉床126を進み、重力によって、炉床から銅製の引出型130に落下する。引出型130は、増大するインゴット132の長さに対応するように、平行移動基134を含む。融解合金124は、まず、溶融池131として引出型130に集まり、インゴット132に徐々に固体化する。1つ以上の実質的に直線の電子ビーム118をプールの表面全体に走査する手段によって電子を溶融池131に照射することによって、有利に溶融池131、特に池の端を融解状態に維持する。
【0022】
従来の熱イオン電子ビームガン溶解炉のように、1つ以上の実質的に直線のビームを利用して炉室内の材料を加熱する炉では、揮発性元素、つまり、炉の融解温度で比較的高い揮発圧を有する元素を含む合金は、溶融池から煮沸して取り除かれ、炉室の比較的温度が低い壁に凝縮する傾向がある。(電子ビーム融解によって一般的に到達する温度で比較的高い蒸発圧を有する一般的な合金元素は、例えば、アルミニウムおよびクロムを含む。)実質的に直線の電子ビーム融解技術は、特に、揮発をもたらし、少なくとも2つの理由により、精製または純化ではなく、合金化の場合には従来の電子ビーム炉の顕著な不利点である。第1に、合金の全体的および局所的化学組成は、溶融池からの高揮発性元素の損失が避けがたいことから、融解中の制御が困難になる。第2に、蒸発元素の凝縮物が時間とともに炉壁に増加する傾向があり、溶解物に落下する可能性があるので、溶解物を含有物で汚染し、溶解物の化学的性質に局所的変動を発生させる。
【0023】
いずれの特定の理論にも制約されるものではないが、本発明人は、従来の電子ビーム溶解炉の前述の不利点は、電子ビーム炉内で処理される材料上の従来の実質的に直線の電子ビームの作用によるものであると考える。図1の説明に関して上記で提案したように、従来の電子ビーム低温炉床融解技術は、実質的に直線の電子ビームを利用して、炉内に導入された原材料を融解するとともに、溶融材料が低温炉床に沿って中を通り鋳造型に流れる間溶融材料の温度を維持する。このような炉は、典型的に複数の電子ビーム源を含み、各源は本質的に点源である実質的に直線の電子ビームを生成する。これらの集中電子濃度の「点」は、材料を融解するため、および溶融材料が適切に流れることを可能にするために必要な平均温度にターゲット領域全体で到達するように、加熱対象領域全体を迅速に走査することが必要である。しかし、直線電子ビームの点源性質によって、電子ビームが合金上で照射されるスポットは、非常に高温に加熱される。この局所的に集中した加熱現象は、電子ビームが炉内の固体または融解合金上に照射される特定のスポットから発される白い可視放射線として観察することができる。これらのスポットにおいて発生する集中加熱効果は、炉室で維持される高真空と相まって、合金内の比較的に揮発性の元素を容易に蒸発させ、その結果、揮発性元素の過剰な蒸発および同時に室壁上の凝縮が発生すると考えられる。上記のように、このような凝縮は、凝縮材料が融解合金に落下するので、鋼浴の汚染というリスクがあり、例えば、鋳造インゴットの著しい組成不均一を引き起こす可能性がある。
【0024】
本明細書に説明される電子ビーム溶解炉の改善された設計は、1つ以上のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタを、このような炉の少なくとも電子源の一部として利用する。ここで使用される「ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ」という用語は、プラスに帯電したイオンを陰極上に衝突させて、陰極から電子を放出することによって、比較的広域の非直線電子場を生成する装置を指す。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタによって生成される電子ビームは、直線ビームではなく、3次元場または電子の「洪水」であり、ターゲットに照射されると、実質的に直線の電子ビームをターゲット照射させることによって及ぶ小さい点に比較して非常に大きい2次元領域に及ぶ。したがって、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタによって生成される電子場は、電子ビーム溶解炉で使用される従来の電子ガンによって生成される相対的に非常に小さい接触点に対して、ここでは、「広域」電子場と呼ばれる。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタは、当技術分野では公知で(無関係の用途において使用される)、例えば、「ワイヤイオンプラズマ(WIP)電子」ガンまたはエミッタ、および、やや紛らわしいが「直線電子ビームエミッタ」(機器の特定の実施形態においてプラズマ生成ワイヤ電極の直線的な性質を指す)、として様々に称される。
【0025】
ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタは、多様な設計が可能であるが、このようなエミッタ全ては、特定の基礎的設計属性を共有する。このような各エミッタは、陽イオンを含むプラズマを生成する細長いワイヤ陽極の形状の陽イオン源を含むプラズマまたはイオン化領域、およびワイヤによって生成される陽イオンを捕獲するような距離で配設される陰極を含む。大きい負の電圧が陰極に加えられ、ワイヤ陽イオン源によって生成されたプラズマ内の陽イオンの一部が、陰極表面に向かって加速され、衝突し、陰極から二次電子が放出される(「一次」電子は陽イオンと共にプラズマ内に存在する)。陰極表面から生成された二次電子は、典型的に、陰極に影響を与える陽イオンプラズマの二次元形状を有する非直線電子場を形成する。二次電子は、次に、陰極の近辺から陽極に戻る方向に加速され、エミッタ内の低圧気体を通過する過程においてほとんど衝突しない。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの多様な構成要素を適切に設計および配設することによって、広域のエネルギー二次電子場を陰極で形成し、エミッタからターゲットに向かって加速することが可能である。図2は、ワイヤ放電プラズマイオン電子エミッタの構成要素の概略図であるが、薄型ワイヤ陽極12に電流が加えられて、プラズマ14を生成する。プラズマ14内の陽イオン16は、負に帯電した陰極18に向かって加速し衝突して、広域の二次電子雲20を解放し、これが、電極の間の電子場の作用によって、陽極12の方向に、ターゲットに向かって加速される。
【0026】
本開示に従う非限定的な一実施形態に従い、電子ビーム溶解炉の形状の電気伝導性金属材料を融解するための装置は、真空室(融解室)と、真空室に配置され、融解した材料を保持するように適合された炉床と、を含む。少なくとも1つのワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタが、真空室内または近傍に配置され、エミッタによって生成された非直線の広域電子場を室内に向かわせるように配設される。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタは、電気伝導性金属材料をその融解温度まで加熱するのに十分なエネルギーを有する非直線電子場を生成する。型または他の鋳造または噴霧装置は、室と連通して配置され、炉床から溶融材料を受け取るように配設され適合される。炉は、例えば、チタン、チタン合金、タングステン、ニオブ、タンタル、プラチナ、パラジウム、ジルコニウム、イリジウム、ニッケル、ニッケルベースの合金、鉄、鉄ベースの合金、コバルトおよびコバルトベースの合金等、従来の電子ビーム溶解炉を使用して融解できる任意の材料を融解するために使用できる。
【0027】
本開示に従う電子ビーム溶解炉の実施形態は、電気伝導性材料または他の合金化添加剤を真空室に導入するように適合された1つ以上の材料送給器を含むことができる。送給器は、重力によって固体または融解形状の材料を下方および炉床内に落下できるように、材料を炉床の少なくとも一領域の上または上方位置の真空室に導入することが好ましい。送給器のタイプは、例えば、バー送給器およびワイヤ送給器を含むことができ、選択される送給器のタイプは、炉の特定の設計要件に依存する。本開示に従う炉の一部実施形態では、材料送給器および炉の1つ以上のワイヤ放電イオンプラズマエミッタのうちの少なくとも1つは、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタによって放出される電子場が、送給器によって室内に導入される材料上に少なくとも部分的に照射されるように、配置される。送給器によって真空室内に導入される材料が電気伝導性である場合、電子場は、十分な強度の場合、材料を加熱および融解する。
【0028】
本開示に従う溶解炉の実施形態に組み入れられる炉床は、当技術分野で公知の多様な炉床タイプから選択することができる。例えば、炉は、真空室内に低温炉床、またはより具体的には、例えば、水冷却銅炉床を組み入れることによって、電子ビーム低温炉床溶解炉の性質にすることができる。当業者には公知であるように、低温炉床は、炉床内部の溶融材料を炉床表面で凍結してその上に保護層を形成させる冷却手段を含む。別の例としては、炉床は「自溶」炉床にすることができ、これは、炉内で融解されている合金でめっきまたは加工される炉床で、この場合、炉床の底面も溶け落ちを防ぐように水冷却することができる。
【0029】
真空室の特定の炉床は、溶融材料保持領域を含むことができ、その領域では、溶融材料が、真空室に流体接続する鋳造または噴霧装置に送られる前に、一定の滞留時間留まる。本開示に従う炉の一部の実施形態においては、炉床および炉の1つ以上のワイヤ放電イオンプラズマエミッタのうちの少なくとも1つは、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタによって放出される電子場が、溶融材料保持領域上に少なくとも部分的に照射されるように、配置される。この方式では、電子場を、溶融材料保持領域内の材料を融解状態に維持するように適用することができ、電子場の加熱作用は、溶融材料のガス抜きおよび精製にも働くことができる。
【0030】
本開示に従う炉の特定の非限定的な実施形態は、溶融材料を鋳造するための型を含む。型は、例えば、静的型、引出型または連続鋳造型等、当技術分野で公知の任意の適当な型にすることができる。代わりに、炉は、溶融材料から粉末状材料を精製するための噴霧装置を含むまたは関連付けることができる。
【0031】
本開示に従う電子ビーム溶解炉の特定非限定一実施態様は、真空室と、真空室内に配置された炉床と、を含むことができ、炉床は溶融材料保持領域を含む。炉は、真空室内に配置または隣接した1つ以上のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタをさらに含む。炉床および少なくとも1つのワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタは、エミッタによって生成される電子場が溶融材料保持領域に少なくとも部分的に照射されるように、配置される。引出型は、真空室と連通して、炉床から溶融材料を受け取るように配置される。少なくとも1つの送給器が炉に含まれ、材料を炉床の少なくとも一領域上の位置の真空室に導入するように適合される。
【0032】
任意の適切なワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタが、本開示に従う装置と関連して使用することができる。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの適切な実施形態は、例えば、米国特許番号第4,025,818号、第4,642,522号、第4,694,222号、第4,755,722号および第4,786,844号に開示されており、これらの開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。適切なエミッタは、炉の真空室内に向けることができ、炉室内に配設された電気伝導性フィード材料を望ましい温度まで加熱する、非直線広域電子場を生成することができるエミッタを含む。
【0033】
ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの一実施形態において、エミッタは、プラズマ領域と陰極領域を含む。プラズマ領域は、陽イオンを含むプラズマを生成するように適合された少なくとも1つの細長いワイヤ陽極を含む。陰極領域は、陰極を負に帯電するように適合された高電圧電源に電気的に接続される陰極を含む。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタにおいて、プラズマを生成するために使用される電極は、プラズマ領域の長さに沿って配設された1つのワイヤまたは複数のワイヤにすることができる。陽イオンが衝突する陰極の少なくとも一部分は、電子を生成するために適切な材料から構成される。エミッタの陰極領域に配置された陰極の一部の非限定的な実施形態は、例えば、モリブデン挿入部分のような、電子の生成を促進するように高融解温度と低仕事関数を有する挿入部分も含むことができる。陰極と陽極は、ワイヤ陽極によって生成されたプラズマの陽イオンが電極間の電子場の影響下で陰極に向かって加速および衝突し、陰極から広域二次電子場を解放するように、互いに配置することができる。
【0034】
ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの特定の非限定的な実施形態は、薄型の電子伝達可能なチタンまたはアルミニウムホイルのような、炉の真空室の壁を介して開口する、少なくとも1つの適切な電子伝達可能なウィンドウを含む。電子伝達可能なウィンドウを作成することができる代用材料は、例えば、BN、ダイアモンド、低原子番号元素から構成された他のある種の材料を含む。本明細書で説明されるように、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの他の実施形態は、電子伝達可能ウィンドウを含まず、この場合、エミッタのプラズマ領域は、溶融材料を保持する真空室と流体連通する。どちらの場合でも、派生した広域電子場は、炉室に入り、室内の材料に照射されることができる。電子伝達可能なウィンドウが真空室から電子エミッタの内部を分離する場合(ここでさらに説明されるように)、電子場が電子エミッタから真空室内に射出されるとウィンドウを通過する。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの一部の非限定的な実施形態において、陰極に電気的に結合された高電圧電源は、陰極に20,000ボルトを超える負の電圧を供給する。負の電圧は、陰極に向かって、プラズマ内の陽イオンを加速してから、陰極からの二次電子場を陽極に向かって反発する役割を果たす。
【0035】
電子伝達可能なウィンドウは、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ内圧力が炉室内の圧力と顕著に異なる場合に必要で、この場合、ホイルウィンドウは、異なる圧力の2つの隣接領域を分離するように働く。熱イオン電子ビームガンのような気体非含有電子エミッタに比較すると、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの利点は、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタがプラズマ源として機能するプラズマ領域内に気体を含む必要があることである。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタは非常に低ガス圧で操作することが可能であるが、このような機器は比較的高いガス圧で効果的に作用することも可能である。対照的に、従来の電子ビーム溶解炉は、一般的に超低圧真空条件で操作し、この場合、電子伝達可能なウィンドウが、ワイヤ放電プラズマ電子エミッタ内のガス雰囲気と炉室内の真空に近い環境を分離するために必要となる。しかしながら、炉室内の揮発性元素の蒸発は、炉室内の気圧を従来の直線(熱イオンエミッタ)電子ビーム溶解炉の超低レベルより高く増加することによって削減することができる。これらの従来の圧力レベルは、典型的に、10−3から7.5μmHg(10−3から1Pa)で、15μmHg(2Pa)を超えない。炉室内の圧力を従来レベルを超えて、つまり、40μmHg(5.3Pa)を超える、または、好ましくは300μmHg(40Pa)を超える圧力まで増加することによって、炉内の溶融材料の表面圧力が増加し、従って、望ましくない蒸発の原動力を削減する。例えば、H.Duval et al.の「Theoretical and Experimental Approach of the Volatilization in Vacuum Metallurgy」に示されたデータは、4.27Pa(35mTorr)に比較して、66.7Pa(500mTorr)アルゴンではクロムの蒸気輸送に顕著な削減があることを示唆する。ワイヤ放電プラズマイオン電子エミッタは、操作には部分圧環境(典型的にはヘリウム)を既に要求するので、本発明人は、ワイヤ放電プラズマイオン電子エミッタと炉室の両方が実質的に同じ圧力で操作することが可能であることを考慮するが、圧力は、電子エミッタが操作できるように十分に高く、また従来の電子ビーム炉よりも高く、これによって、炉室内の望ましくない蒸発を削減する。このような場合、電子伝達可能なウィンドウは、エミッタ内と炉室の気体環境が実質的に同じになるように省略することができる。代わりに、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの別の実施形態においては、エミッタによって生成された電子は、電子に透過的な気体不浸透性ウィンドウを通過し、エミッタ内のイオン化気体の圧力は電子エミッタ操作に適切であり、炉室は電子ビーム炉の従来の圧力を超える圧力で操作され、望ましくない蒸発を最小限に抑制または削減するために適切である。望ましくない元素蒸発の削減は、集中加熱点を作成しない、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタを1つ以上、さらに、電子ビーム炉の従来よりも大きい炉室圧の両方を利用することによって最適化されることを理解する。
【0036】
本開示に従う炉に関して有用な、電子ビーム溶解炉の可能な実施形態、およびワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの可能な実施形態をさらに説明する。
【0037】
図3は、本開示に従い改善された電子ビーム溶解炉の非限定の可能な一実施形態を模式的に示す。炉210は、室壁215によって少なくとも部分的に画定される真空室214を含む。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ216は、室214の外側に隣接して配設される。ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ216は、広域電子場218を室214の内部に射出する。図1に示された従来の炉110に類似して、合金バー220はバー送給器219によって室214に導入される。溶融合金226は、少なくとも1つのワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ216の広域電子場218をバー220に照射することによって生成される。バー220から融解した溶融合金226は、水冷却銅製炉床224に落下し、一定の滞留時間炉床224に留まり、エミッタ216によって生成される1つ以上の広域電子場218によって加熱、ガス抜き、精製される。溶融合金226は、最終的に炉床224から銅製型230に落下し、溶融池231を形成する。溶融池231は、最終的に次第に型230で固体化して、インゴット232を形成する。少なくとも1つの広域電子場218が、形成するインゴット232の固体化速度を制御するために有利な方式において、池231内の溶融合金を加熱することが好ましい。
【0038】
上記のように、炉210のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ216は、従来の電子ビーム炉で使用される電子ビームガンによって生成される実質的に直線のビームのスポット範囲に比較すると広域に及ぶエネルギー電子の場または「洪水」を生成するように設計される。電子場エミッタ216は、広域にわたって電子を広げ、炉210内で融解および/または融解状態で維持する材料に照射される。作る電子場が炉室内の広域に及ぶために、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタは、従来の電子ビーム炉に比較すると、電子ビーム溶解炉内でより均一な温度を維持し、電子が高度に収束したスポットを走査する必要性が無くなる。しかしながら、本開示に従う電子ビーム炉の一部の実施形態は、所望に応じて1つ以上のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタによって生成される電子場を誘導するように、電子場を生成する構成要素または他の適切な構成要素を含むことができる。例えば、炉210内では、追加の熱を炉床224の端に提供するように、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ216によって生成される広範囲の場を左右に走査することが望ましい場合がある。領域全体で電子の点源を走査するのではなく、エネルギー電子場によって比較的広域を満たすことによって、従来の電子ビーム溶解炉を使用する場合に発生する実質的に直線の電子ビームに伴う局所に集中した加熱効果(例えば、単位面積あたりの電力)は顕著に削減される。これによって、比較的非常に高温の点が作られないために、比較的揮発性の合金元素の望ましくない蒸発を排除、または少なくともその程度を大幅に削減する。これによって、従来の電子ビーム炉設計につきものの成分制御および汚染問題を部分的または全体的に防ぐ。
【0039】
上記のように、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの多様な実施形態は、一般的に、陽イオンプラズマを生成する1つ以上の細長いワイヤ陽極を含み、プラズマが陰極に衝突して、二次電子場を生成し、それは、加速されて、加熱すべきターゲットに照射されることができる。他の無関係の用途で以前に使用されたワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの1つの公知の設計の模式図が図4に示される。このエミッタ310は、陽イオンプラズマが生成されるイオン化またはプラズマ領域314と、陰極318を含む陰極領域316を含む。プラズマ領域314は、低圧でイオン化可能気体が充填され、ガスはプラズマ領域でイオン化されて陽イオン含有プラズマを生成する。例えば、イオン化領域314は、例えば、約20mTorrでヘリウム気体を充填し得る。小径の細長いワイヤ陽極319は、プラズマ領域314の全長にわたって通過する。正の電圧が電源322によってワイヤ陽極319に加えられ、これによって、ヘリウムガスの、ヘリウム陽イオンと自由電子(「一次」電子)から成るプラズマへのイオン化を開始する。ヘリウムガスのイオン化が開始されると、プラズマは電圧を薄型ワイヤ陽極319に加えることによって維持される。プラズマ内の正に帯電したヘリウムイオンが、高い負の電位で維持される抽出グリッド326を介してイオン化室314から抽出され、高い電圧ギャップによって陰極領域316内に加速されるが、そこでは、プラズマの陽イオンは高い負の電圧陰極318に衝突する。陰極318は、例えば、コーティングされたまたはコーティングされていない金属または合金にすることができる。陰極318のヘリウムイオンの衝突によって、陰極318から二次電子を解放する。高電圧ギャップ328は、ヘリウム陽イオンの移動方向とは反対の方向に、抽出グリッド326を通してプラズマ領域314へ、そして、比較的電子を透過する材料から作られた薄型金属ホイルウィンドウ329を通して、二次電子を加速する。上記のように、電子エミッタおよび炉室内の相対的気圧に依存して、ホイルウィンドウ329を省略することが可能な場合があり、その場合、エミッタによって生成された電子は直接炉室に入ることになる。
【0040】
ワイヤ電極319および陰極318は、正に帯電されたヘリウムイオンの陰極318への移動をより促進するように設計および配置され得る。また、陰極318および抽出グリッド326は、グリッド326を通しての二次電子透過を最大限にするように、また、存在する場合は、ホイルウィンドウ329を通過するために適したビームプロファイルを有するように設計および配置され得る。エミッタ310を出る広域エネルギー電子場は、ホイルウィンドウ329の反対側、および溶解炉の真空室内に配設されたターゲットに照射されるように向けることができる。また、ホイルウィンドウ329の大きさは、エミッタ310からの電子伝達を最大限にするために、可能な限り薄くすることができる。十分な電子伝達を可能にし、その一方エミッタ310内の低真空環境を維持する薄さを有するアルミニウムタイプまたはチタンタイプのホイルを、必要であればホイルウィンドウ329として使用することができる。本装置でウィンドウとして使用することができる他の適当の強度を有し、容認できる電子透過性を有する材料が存在する場合、当業者には公知となる。本明細書で一般的に説明されているように、ホイルウィンドウ329は、エミッタ310の内部とターゲットを含む真空室との圧の差が顕著でない場合は省略することができる。
【0041】
本開示に従い、例えば、エミッタ310のような1つ以上のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタは、実質的に直線の電子ビームを生成する電子ビームガンの代用として、エネルギー電子を電子ビーム溶解炉の真空室に供給するように提供され得る。図5に示されているように、本開示に従う電子ビーム溶解炉の非限定的な一実施形態は、真空室330に隣接して配設された1つ以上のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ310を含む。広域電子場332は、ホイルウィンドウ329を通ってエミッタ310を出て、炉床336内の溶融合金334の表面の少なくとも一つの領域を満たし、これにより、合金が溶融状態を維持するように加熱する。炉床336の合金に衝突する電子は、比較的広域に広がり、いかなる特定の局所領域の溶融材料に集中するエネルギーも、合金からの元素の蒸発が問題となるレベルに至るまでには大きくないので、従来の電子ビーム溶解炉の使用においてつきものの合金汚染および不均一問題を削減または排除することとなる。上記のように、ホイルウィンドウ329は、エミッタ310と真空室330との間の操作圧の差が顕著でない場合は省略してもよい。また、上記のように、真空室330は、望ましくない元素の蒸発を更に削減または排除するために、従来よりも高い圧力で操作することが好ましく、このような場合、炉室から電子エミッタを区切るフィルムウィンドウの必要性は、ここでも、設計の性質によって決定される特定の圧力差に依存することになる。任意で、真空室内の溶解過程の制御をさらに改善できるように、広域電子場を磁力で移動させるための構成要素340が提供される。
【0042】
図5は単一電子エミッタを含む、本開示に従うワイヤ放電イオンプラズマ電子溶解炉の一実施形態の概略図を提供するが、このような装置の実際または代替実施形態は複数のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタを有することができることが当業者には明らかである。また、1つ以上のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタをこのような装置に組み入れて、(1)例えば、炉に導入された合金バーまたはワイヤの形状の原材料を融解、(2)合金融解温度以上の温度で炉の炉床に溶融合金を維持(および可能であれば溶融合金のガス抜きおよび/精製)および(3)溶解状態で徐々に進む鋳造インゴットの表面上に溶融プールの望ましい領域を維持することによって、望ましい方式でインゴットの固体化速度に影響を与えるようにし得ることも明らかになる。また、一部の実施形態において、1つ以上のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタは、従来の実質的に直線の電子ビームを生成する1つ以上の電子ビームガンと共に使用することができる。
【0043】
図6および7は、本開示に従い電子ビーム溶解炉の実施形態においてエネルギー電子の源として使用するために適合することができるワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタの可能な非限定的な一実施形態に関する追加詳細を提供する。図6は、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ実施形態の、部分的に断面の斜視図である。図7は、エミッタ510の操作を簡略に示す模式図である。エミッタ510は、電気的に接地された筐体513を含み、筐体513内の真空室513aは、陰極領域511、イオン化またはプラズマ領域514、および電子伝達ホイルウィンドウ515を含む。細長いワイヤ電極516は、イオン化領域514の全長を通って伸張する。ホイルウィンドウ515は、筐体513に電気的に結合され、従って、真空室513a内の電子を加速するように作動する陽極を形成し、電子は、ここを通って、一般的に矢印「A」の方向に真空室513aから出る。真空室513aは、1〜10mTorrのような低圧でヘリウムガスが充填され、気体供給部517によってその気体が供給される。気体供給部517は、弁521を通過する、導管519によって筐体513に接続される。真空室513aの低真空環境は、導管525によって真空室513aに接続される、ポンプ523によって維持される。
【0044】
陰極領域511は、陰極518を含み、陰極518は、その下側表面上に取り付けられた挿入部520を含む。挿入部520は、例えば、モリブデンから成り得るが、適切に高い二次電子放出係数を有する、いかなる材料から構成することもできる。陰極518は、パッシェン則が成立するように、筐体513の壁から適当な均一性で間隔が置かれる。陰極518は、絶縁体526を通過してレジスタ528に入るケーブル524によって、高電圧電源522に結合される。電源522は、例えば、200〜300KVの高い負の電位を陰極518に供給する。陰極518と挿入部520は、例えば、油または別の適切な冷却液を導管を通して循環することによって、適切に冷却され得る。
【0045】
イオン化領域514は、電気的および機械的両方で結合される、複数の薄型金属リブを含む。各リブ530は、ワイヤ電極516がイオン化室514を通過できるように、中央切り込み領域を含む。陰極518に面するリブ530の側面は、抽出グリッド534を形成する。リブ530のすべてまたは一部の反対側面は、電子伝達可能ホイルウィンドウ515のためのサポートグリッド536を提供する。冷却チャネル540を、イオン化領域514からの熱除去ができるように、リブ530を通過および近辺に冷却液を循環するために提供することができる。電子伝達可能ホイルウィンドウ515は、例えば、アルミニウムまたはチタンホイルから構成され得るが、グリッド534上で支えられ、Oリングまたは筐体513内の高真空ヘリウムガス環境を維持するのに十分な構造によって、筐体513に密閉される。エミッタ510の一部の実施形態において、加圧窒素などによって、ホイルウィンドウ515を冷却するように、気体連結管542が提供される。本明細書で一般的に説明されているように、ウィンドウ515は、エミッタ510の筐体513の内部と電子場のターゲットを含む室との間の圧力差が顕著でない場合は省略することができる。
【0046】
電気制御機器548は、コネクタ549を介してワイヤ電極516に接続される。制御機器548を作動させると、ワイヤ電極516は、高い正の電位まで加圧され、イオン化領域514内のヘリウムがイオン化されて、ヘリウム陽イオンを含むプラズマを生成する。プラズマがイオン化領域514で発生すると、陰極518は電源522によって加圧される。イオン化領域514のヘリウム陽イオンは、陰極518からプラズマ領域514に伸張する電子場によって、陰極518に電気的に引き付けられる。ヘリウム陽イオンは、抽出グリッド534を通って、力線に沿って陰極領域511内に到達する。陰極領域511において、ヘリウム陽イオンは、加圧された陰極518によって生成された電子場の全電位にわたって加速し、陽イオンの平行ビームとして、陰極518上に強く衝突する。衝突する陽イオンは、挿入部520から二次電子を解放する。挿入部520によって生成された二次電子場は、ヘリウム陽イオンの移動方向とは反対方向に、ワイヤ電極516に向かって加速され、存在する場合はホイルウィンドウ515を通過する。
【0047】
圧力の変化はヘリウムイオンプラズマの密度、ひいては、陰極518で生成される二次電子場の密度に影響を与えるので、筐体513内の実際の圧力を監視するために手段を提供することができる。筐体513内の最初の圧力は、弁521を適当に調節することによって、設定することができる。陽イオンを含むプラズマがプラズマ領域514で発生し始めると、瞬間静止圧を間接的に監視するように、筐体513内の電圧モニタ550が提供され得る。電圧の上昇は、室の圧力低下を示唆する。電圧モニタ550の出力信号は、弁制御装置552によって弁521を制御するために使用される。制御機器548によってワイヤ電極516に供給される電流も電圧モニタ550の信号によって制御される。電圧モニタ550によって生成された信号をガス供給弁521および制御機器548を制御するために利用することによって、エミッタ510から安定した電子場出力が可能になる。
【0048】
エミッタ510によって生成される電流は、陰極518に衝突する陽イオンの密度によって決定され得る。陰極518に衝突する陽イオンの密度は、制御機器548によってワイヤ電極516の電圧を調整することによって制御され得る。陰極518から放出される電子のエネルギーは、電源522によって陰極518の電圧を調整することによって制御され得る。電流と放出される電子のエネルギーの両方は、独立的に制御することができ、これらのパラメータと加えられる電圧との関係は直線関係で、エミッタの制御を効果的および効率的に提供する。対照的に、従来の熱イオン電子ビームガンは、ビームパラメータを調整する際、対応する直線的方法で制御することができない。
【0049】
図8は、本開示に従う電子ビーム溶解炉の一実施形態の模式図であり、炉610は、図6および7に一般的に示されているような設計を有し、これらの図面に関して上で説明したような、2つのワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ614、616を組み入れる。炉610は、真空室620、材料送給器622、および鋳造または噴霧装置624を含む。エミッタ614および616の操作に必要な電流は、上記のように、送電線626によってエミッタに供給され、エミッタ614、616と真空室620との間のインターフェースは、電子伝達可能ホイルウィンドウ634、636を含み、エミッタ614、616によって生成される広域電子場638が真空室620に入ることを可能にする。ホイルウィンドウ634、636は、エミッタ614、616および真空室内の操作圧が同じまたは顕著に違わない場合は省略してもよい。広域電子場638を磁力で移動するための手段639は、追加の工程制御を提供するように真空室620内に含むことができる。炉床640は、例えば、低温炉床にすることができるが、真空室620に配置される。操作時、ワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ614,616は、加圧されて、電子場618を生成する。電気伝導性原材料644が、送給器622によって真空室620に導入され、エミッタ614によって放出される広域電子場638によって溶解され、炉床640に落下する。エミッタ616によって放出される広域電子場638は、溶融材料642が炉床640に滞留している間に加熱、ガス抜きおよび精製する。溶融材料642は、炉床640に沿って進み、鋳造または噴霧装置624に落下して、望ましい形状に処理される。
【0050】
前述の説明は、必然的に限られた数の実施形態に限定して提示したが、本明細書において説明および図説された装置および方法ならびに実施例の他の詳細に、当業者によって多様な変更が行われ得ること、およびこのような修正全ては、本明細書および添付の特許請求の範囲において示される本開示の原則および範囲内に存することを、関連当業者は認識するであろう。例えば、本開示は、必然的に本開示に従う電子ビーム溶解炉の限られた数の実施形態に限定して提示し、また、必然的に限られた数のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ設計に限定して説明したが、本開示および添付の特許請求の範囲はこのように限定されないことが理解されるであろう。当業者は、追加のワイヤ放電イオンプラズマ電子エミッタ設計を容易に特定し、本明細書において検討された必然的に限られた数の実施形態の方針および精神内の追加の炉設計を設計および構築することができる。従って、本発明は、本明細書において開示または組み込まれた特定の実施形態に限定されず、特許請求の範囲によって定義される本発明の原則および範囲内である修正に及ぶことが意図されていると理解される。また、上記の実施形態にはその広義の発明概念を逸脱することなく、変更を行うことが可能であることも当業者によって認識されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8