【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、二酸化バナジウム又は置換二酸化バナジウムからなる二酸化バナジウム粒子と、熱可塑性樹脂と、可塑剤と、分散剤とを含有するサーモクロミック性フィルムであって、フィルムの厚み(μm)と二酸化バナジウム濃度(重量%)との積の値が10〜300であることを特徴とするサーモクロミック性フィルムである。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者は、二酸化バナジウム粒子を含有するサーモクロミック性フィルムにおいて、サーモクロミック性が低いことの原因を検討した。その結果、サーモクロミック性の低下は、二酸化バナジウム粒子の酸化が原因である可能性が高いことを見出した。本発明者は、更に検討の結果、フィルムの厚みと二酸化バナジウム粒子の濃度との関係が一定の範囲内である場合に、二酸化バナジウム粒子の酸化を抑制し、優れたサーモクロミック性を有するフィルムを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明のサーモクロミック性フィルムは、フィルムの厚み(μm)と二酸化バナジウム濃度(重量%)との積の値が、下限は10であり、上限は300である。
上記積の値が、この範囲内であると、優れたサーモクロミック性を発揮することができる。
上記積の値は、好ましくは下限が20であり、上限が140であり、より好ましくは下限が25であり、上限が80である。
【0009】
本発明のサーモクロミック性フィルムの厚み(μm)は、好ましくは下限が50μmであり、上限が2000μmである。
上記フィルムの厚みが上記下限以上であると、コストを低減しつつ、高いフィルム強度を得ることができ、ハンドリング性が良好となる。上記フィルムの厚みが上記上限以下であると、サーモクロミック性フィルムの透明性が高くなる。
上記厚みは、より好ましくは下限が70μmであり、上限が1600μmであり、更に好ましくは下限が500μmであり、上限が1000μmである。
上記厚みは、恒温恒湿室(室温22±2℃、湿度45±10%)にて、上記フィルムのすべての端部から0.5cm以内である領域を除いた中央領域の厚みを電子マイクロメータにより測定し、最大の厚みと最小の厚みとの平均値を求めることで得られる値である。
【0010】
本発明のサーモクロミック性フィルムの二酸化バナジウム濃度(重量%)は、好ましくは下限が0.001重量%であり、上限が20重量%である。
上記二酸化バナジウム濃度が、上記下限以上であると、優れたサーモクロミック性が得られる。上記二酸化バナジウム濃度が、上記上限以下であると、サーモクロミック性フィルムの透明性が高くなる。
上記二酸化バナジウム濃度(重量%)は、より好ましくは下限が0.01重量%であり、上限が5重量%であり、更に好ましくは下限が0.02重量%、上限が0.5重量%である。
【0011】
上記二酸化バナジウム濃度(重量%)は、二酸化バナジウム組成を有する固形分の濃度である。例えば、二酸化バナジウム粒子が、表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子である場合、上記二酸化バナジウム濃度は、上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の粒子全体から表面保護層部分を差し引いた二酸化バナジウム固形分量の、サーモクロミック性フィルム全体に対する重量割合(重量%)を表す。
上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の、二酸化バナジウム固形分量を求める方法としては、上記表面保護層を設ける前と後の粒径をそれぞれ測定し、この差を上記表面保護層の厚みとし、上記表面保護層の厚みと上記表面保護層組成の比重から、二酸化バナジウム固形分量を求める方法が挙げられる。
【0012】
本発明のサーモクロミック性フィルムは、二酸化バナジウム又は置換二酸化バナジウムからなる二酸化バナジウム粒子を含有する。
上記二酸化バナジウム粒子は、サーモクロミック特性を有する。
上記二酸化バナジウムは、様々な結晶相が存在するが、単斜晶結晶と正方晶結晶(ルチル型)が可逆的に相転移する。その相転移温度は約68℃である。
上記相転移温度は、例えば、二酸化バナジウム中のバナジウム原子の一部をタングステン、モリブデン、ニオブ及びタンタルから選択される少なくとも1種の原子で置換することにより調整することができる。従って、二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子を適宜選択したり、置換二酸化バナジウム粒子において置換する原子種や置換率を適宜選択したりすることにより、得られるサーモクロミック性フィルムの性能を制御することができる。
【0013】
上記置換二酸化バナジウムは、二酸化バナジウム中のバナジウム原子の一部をタングステン、モリブデン、ニオブ及びタンタルからなる群より選択される少なくとも1種の原子で置換されている。
上記置換二酸化バナジウムは、金属原子の置換率が、下限が0.1原子%、上限が10原子%であることが好ましい。上記置換率が、この範囲内であると、上記置換二酸化バナジウムの相転移温度を容易に調整することができ、優れたサーモクロミック性を発揮することができる。
なお、上記金属原子の置換率とは、バナジウム原子数と置換された原子数との合計に占める、置換された原子数の割合を百分率で示した値である。
【0014】
上記二酸化バナジウム粒子は、実質的に上記二酸化バナジウム又は上記置換二酸化バナジウムのみで構成された粒子であってもよく、コア粒子の表面に上記二酸化バナジウム又は上記置換二酸化バナジウムが付着した粒子であってもよい。
上記コア粒子としては、例えば、酸化ケイ素、シリカゲル、酸化チタン、ガラス、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化チタン、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、ハイドロタルサイト化合物、ハイドロタルサイト化合物の焼成物、及び、炭酸カルシウム等の無機粒子が挙げられる。
【0015】
上記二酸化バナジウム粒子は、表面保護層を有していてもよい。
上記表面保護層は、上記二酸化バナジウム粒子の酸化を抑制する役割を有する。
上記表面保護層は、上記二酸化バナジウム粒子の表面の少なくとも一部に形成されていてもよく、上記二酸化バナジウム粒子の表面全体を被覆するように形成されていてもよい。上記二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制できることから、上記表面保護層は、上記二酸化バナジウム粒子の表面全体を被覆するように形成されていることが好ましい。
【0016】
長期間保管しても優れたサーモクロミック性を有するサーモクロミック性フィルムが得られることから、上記表面保護層は、金属酸化物又はフッ化物を含有することが好ましく、金属酸化物を含有することがより好ましい。
上記金属酸化物は、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム及び酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
上記フッ化物は、例えば、フッ素イオンと化学反応することにより得られる化合物又はトリフルオロプロピルトリメトキシシラン等のフッ素を含有するシランカップリング剤を化学反応させることにより得られる化合物等を含有することが好ましい。
【0017】
上記表面保護層は単層であってもよく、多層であってもよい。上記表面保護層は、フッ化物を含有する層と金属酸化物を含有する層とを有することが好ましく、フッ化物層と金属酸化物層とを有することがより好ましい。上記表面保護層が上記フッ化物を含有する層と金属酸化物を含有する層を有することにより、又は、上記表面保護層が上記フッ化物層と上記金属酸化物層とを有することにより、上記二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制することができる。
上記フッ化物層は、主成分がフッ化物であることが好ましく、実質的にフッ化物にて構成されていることがより好ましい。
上記金属酸化物層は、主成分が金属酸化物であることが好ましく、実質的に金属酸化物にて構成されていることがより好ましい。
【0018】
上記表面保護層は、フッ化物を含有する層と金属酸化物を含有する層とが積層されていることが好ましい。上記表面保護層を容易に形成することができることから、上記二酸化バナジウム粒子側から上記表面保護層側に向かって、フッ化物を含有する層と金属酸化物を含有する層とがこの順に積層されていることが好ましい。同様に、上記表面保護層を容易に形成することができることから、上記二酸化バナジウム粒子側から上記表面保護層側に向かって、フッ化物層と金属酸化物層とがこの順に積層されていることが好ましい。
【0019】
上記表面保護層の厚みは、好ましくは下限が0.5nm、上限が2000nmである。
上記表面保護層の厚みが、上記下限以上であると、二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制し、優れたサーモクロミック性を発揮することができる。上記表面保護層の厚みが、上記上限以下であると、サーモクロミック性フィルムの透明性が高くなる。
上記表面保護層の厚みは、より好ましくは下限が1nm、上限が1000nmである。
【0020】
上記金属酸化物を含有する層及び上記金属酸化物層の厚みは、好ましくは下限が0.5nm、上限が2000nmである。上記金属酸化物を含有する層及び上記金属酸化物層の厚みが、上記下限以上であると、二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制し、優れたサーモクロミック性を発揮することができ、上記上限以下であると、サーモクロミック性フィルムの透明性が高くなる。
上記金属酸化物を含有する層及び上記金属酸化物層の厚みは、より好ましくは下限が1nm、上限が1000nmである。
【0021】
上記フッ化物を含有する層及び上記フッ化物層の厚みは、好ましくは下限が0.5nm、上限が2000nmである。上記フッ化物を含有する層及び上記フッ化物層の厚みが、上記下限以上であると、二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制し、優れたサーモクロミック性を発揮することができ、上記上限以下であると、サーモクロミック性フィルムの透明性が高くなる。
上記フッ化物を含有する層及び上記フッ化物層の厚みは、より好ましくは下限が1nm、上限が1000nmである。
なお、上記表面保護層、上記金属酸化物を含有する層、上記金属酸化物層、上記フッ化物を含有する層及び上記フッ化物層の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる。上記厚みとは最も厚い部分の厚みを意味する。
【0022】
上記表面保護層を形成する方法は特に限定されない。例えば、上記表面保護層が酸化チタン層である場合、上記酸化チタン層を形成する方法として、チタンフッ化アンモニウムとほう酸を含有する水溶液と、二酸化バナジウム粒子との混合液を攪拌しながら一定時間反応させた後、回収した粒子を高温環境下にて真空乾燥させる方法等が挙げられる。
【0023】
上記二酸化バナジウム粒子は、X線回折法(XRD)において2θ=27.8°の半価幅が0.270以下であることが好ましい。上記半価幅が0.270以下であると、結晶性が好適となり、良好なサーモクロミック性を確保することができる。
上記半価幅は、より好ましくは下限が0.05であり、上限が0.5である。
【0024】
上記半価幅を有する二酸化バナジウム粒子を調製する方法としては、様々あるが、例えば、ビーズミルを用いて調製する方法が挙げられる。
一般に、ビーズミルを用いた微粒子の分散方法においては、高いせん断力をかける目的で、比較的粒径の大きなビーズを使用する。しかしながら、このような粒径の大きなビーズを使用する方法では、微粒子化とともに結晶性が悪くなってしまう。
本発明では、通常に用いられるビーズよりも粒径の小さなビーズを用いる。これにより、かかるせん断力を小さくして、穏やかな条件で二酸化バナジウム粒子を分散させることにより、結晶性を壊さず微粒子化でき、上記半価幅を有する二酸化バナジウム粒子を調製することができる。
【0025】
上記ビーズミルに用いるビーズは、体積平均粒径の上限が0.3mmであることが好ましい。上記ビーズの体積平均粒径が上記上限以下であると、二酸化バナジウム粒子にかかるせん断力が小さくなり、結晶構造を歪ませず、充分なサーモクロミック性を得ることができる。上記ビーズの体積平均粒径の上限は、0.1mmであることがより好ましく、0.05mmであることが更に好ましい。
上記ビーズの体積平均粒径の下限は特に限定されないが、0.01mmであることが好ましい。上記ビーズの体積平均粒径が上記下限以上であると、二酸化バナジウム粒子を充分に分散させることができる。上記ビーズの体積平均粒径の下限は、0.015mmであることがより好ましく、0.03mmであることが更に好ましい。
【0026】
上記ビーズミルで用いるビーズは特に限定されず、例えば、ジルコニアビーズ、アルミナビーズ、ガラスビーズ等が挙げられる。なかでも、容易に粒子を分散できることから、ジルコニアビーズが好適である。
上記ビーズミルを行う装置は特に限定されず、例えば、バッチ式ビーズミル、循環式ビーズミル、ピン型ロータービーズミル、アニュラー型ロータービーズミル等が挙げられる。上記ビーズミルを行う装置は、浅田鉄工社、AIMEX社、シンマルエンタープライゼス社、ビューラー社、アシザワファインテック社、寿工業社等から市販されている。
上記ビーズミルを用いた二酸化バナジウム粒子を含有する分散液の調製は、上記二酸化バナジウム粒子と、可塑剤と、分散剤と、上記ビーズとを分散容器に入れ、分散容器内に設置された羽を回転させることにより行う。
【0027】
上記ビーズミルを用いた二酸化バナジウム粒子分散液の調製は、上記二酸化バナジウム粒子と、可塑剤と、分散剤と、上記ビーズとを分散容器に入れ、分散容器内に設置された羽を回転させることにより行う。
上記ビーズの使用量は特に限定されないが、分散容器の体積に占める上記ビーズの体積の好ましい下限が1体積%、好ましい上限が95体積%である。上記ビーズの使用量がこの範囲内であると、二酸化バナジウム粒子を充分に分散させることができ、かつ、二酸化バナジウムにかかるせん断力が小さくなり、結晶構造が歪まず、充分なサーモクロミック性を発揮することができる。
上記ビーズの使用量は、より好ましくは下限が10体積%、上限が90体積%である。
【0028】
上記分散容器内の羽の周速は特に限定されないが、好ましい上限は25m/sである。上記羽の周速が上記上限以下であると、二酸化バナジウム粒子にかかるせん断力が小さく、結晶構造を歪めず、充分なサーモクロミック性能を得ることができる。
上記羽の周速の下限は特に限定されないが、好ましい下限は1m/sである。上記羽の周速が上記下限以上であると、二酸化バナジウム粒子を充分に分散することができる。
上記羽の周速は、より好ましくは下限が5m/s、上限が22m/sであり、更に好ましくは下限が7m/s、上限が20m/sである。
なお、上記ビーズの粒径が比較的大きい場合には、せん断力が高くなりすぎないように羽の周速を遅く設定することが好ましい。一方、上記ビーズの粒径が比較的小さい場合には、せん断力が小さくなりすぎないように羽の周速を早く設定することが好ましい。
【0029】
上記ビーズミルを行う時間は特に限定されないが、好ましくは下限が10分間、上限が20時間である。上記ビーズミルを行う時間が、この範囲内であると、上記二酸化バナジウム粒子を充分に分散させることができ、かつ、上記二酸化バナジウム粒子の結晶構造が歪まず、充分なサーモクロミック性能を発揮することができる。
なお、上記ビーズの粒径が比較的大きい場合には、二酸化バナジウム粒子の結晶構造が歪まないようにビーズミルを行う時間を短く設定することが好ましい。一方、上記ビーズの粒径が比較的小さい場合には、二酸化バナジウム粒子が充分に微分散されるようにビーズミルを行う時間を長く設定することが好ましい。
【0030】
上記二酸化バナジウム粒子は、体積平均粒径が800nm以下であることが好ましい。上記体積平均粒径が800nm以下であると、サーモクロミック性が充分に得られ、透明性が良好となる。上記体積平均粒径は、100nm以下であることがより好ましい。なお、上記体積平均粒径の下限は10nmであることが好ましい。
上記体積平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布計により測定して得た値である。
【0031】
本発明のサーモクロミック性フィルムは熱可塑性樹脂を含有する。
上記熱可塑性樹脂として、従来公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。上記熱可塑性樹脂は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−アクリル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂及びポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。
上記熱可塑性樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤との併用により、ガラス板に対するサーモクロミック性フィルムの接着力をより一層高くすることができる。
【0032】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、例えば、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより製造できる。上記ポリビニルアルコールは、例えば、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより製造できる。上記ポリビニルアルコールのけん化度は、一般に70〜99.9モル%である。
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは下限が200、上限が5000である。上記平均重合度がこの範囲内であると、本発明のサーモクロミック性フィルムを、合わせガラス用中間膜として用いた場合、合わせガラスの耐貫通性がより一層高くなる。
上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、下限が、より好ましくは500、更に好ましくは1600、最も好ましくは2700であり、上限が、より好ましくは4000、更に好ましくは3500である。
【0033】
上記ポリビニルアセタール樹脂に含まれているアセタール基の炭素数は特に限定されない。
上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアセタール基の炭素数は3又は4であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアセタール基の炭素数が3以上であると、サーモクロミック性フィルムのガラス転移温度が充分に低くなる。
【0034】
上記ポリビニルアセタール樹脂を製造する際に用いるアルデヒドは特に限定されない。
上記アルデヒドとして、一般には、炭素数が1〜10のアルデヒドが好適に用いられる。上記炭素数が1〜10のアルデヒドとしては、例えば、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びベンズアルデヒド等が挙げられる。なかでも、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド又はn−バレルアルデヒドが好ましく、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド又はイソブチルアルデヒドがより好ましく、n−ブチルアルデヒドが更に好ましい。上記アルデヒドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率(水酸基量)は、好ましくは下限が10モル%であり、上限が40モル%である。上記水酸基の含有率がこの範囲内であると、サーモクロミック性フィルムの耐湿性がより一層高くなり、柔軟性が適度になり取扱いが容易になる。
上記水酸基の含有率は、より好ましくは下限が15モル%、上限が35モル%であり、更に好ましくは下限が18モル%、上限が32モル%である。
上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基の含有率は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。上記水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠して、水酸基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0036】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル化度(アセチル基量)は、好ましくは下限が0.1モル%、上限が30モル%である。
上記アセチル化度がこの範囲内であると、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤の相溶性が高くなる。
上記アセチル化度の下限は、より好ましくは0.3モル%、更に好ましくは0.5モル%、特に好ましくは15モル%であり、上限は、より好ましくは25モル%、更に好ましくは20モル%である。
上記アセチル化度は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。上記アセタール基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠して測定できる。
【0037】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度(ポリビニルブチラール樹脂の場合はブチラール化度)は、好ましくは下限が60モル%、上限が85モル%である。
上記アセタール化度が上記下限以上であると、ポリビニルアセタール樹脂と可塑剤の相溶性が高くなり、上記上限以下であると、短い反応時間でポリビニルアセタール樹脂を製造することができる。
上記アセタール化度の下限は、より好ましくは63モル%であり、上限は、より好ましくは75モル%、更に好ましくは70モル%である。
上記アセタール化度は、アセタール基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。
上記アセタール化度は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、アセチル基量と水酸基の含有率とを測定し、得られた測定結果からモル分率を算出し、次いで、100モル%からアセチル基量と水酸基の含有率とを差し引くことにより算出され得る。
なお、ポリビニルアセタール樹脂がポリビニルブチラール樹脂である場合には、上記アセタール化度(ブチラール化度)およびアセチル基量は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により測定された結果から算出され得る。
【0038】
本発明のサーモクロミック性フィルムにおける上記熱可塑性樹脂の含有量は、上記サーモクロミック性フィルム中、好ましくは下限が10重量%、上限が95重量%であり、より好ましくは、下限が20重量%、上限が90重量%であり、更に好ましくは下限が30重量%、上限が85重量%である。
【0039】
本発明のサーモクロミック性フィルムは、可塑剤を含有する。
上記可塑剤としては、特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機エステル可塑剤、有機リン酸可塑剤、有機亜リン酸可塑剤等のリン酸可塑剤等が挙げられる。
【0040】
上記一塩基性有機酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステル等が挙げられる。なかでも、トリエチレングリコールジカプロン酸エステル、トリエチレングリコールジ−2−エチル酪酸エステル、トリエチレングリコールジ−n−オクチル酸エステル、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキシル酸エステル等が好適である。
【0041】
上記多塩基性有機酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸と、炭素数4〜8の直鎖又は分岐構造を有するアルコールとのエステル化合物が挙げられる。なかでも、ジブチルセバシン酸エステル、ジオクチルアゼライン酸エステル、ジブチルカルビトールアジピン酸エステル等が好適である。
【0042】
上記有機エステル可塑剤としては、特に限定されず、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジカプリレート、トリエチレングリコールジ−n−オクタノエート、トリエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペート、エチレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,3−プロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、1,4−ブチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ジプロピレングリコールジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコールジ−2−エチルペンタノエート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコールジカプリエート、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ヘキシルシクロヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ヘプチルノニル、セバシン酸ジブチル、油変性セバシン酸アルキド、リン酸エステルとアジピン酸エステルとの混合物、アジピン酸エステル、炭素数4〜9のアルキルアルコール及び炭素数4〜9の環状アルコールから作製された混合型アジピン酸エステル、アジピン酸ヘキシル等の炭素数6〜8のアジピン酸エステル等が挙げられる。
【0043】
上記有機リン酸可塑剤は特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0044】
上記可塑剤は、なかでも、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)及びトリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)の内の少なくとも1種であることが好ましく、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエートであることがより好ましい。
【0045】
本発明のサーモクロミック性フィルムにおける上記可塑剤の含有量は、特に限定されないが、上記サーモクロミック性フィルム中、好ましくは下限が20重量%であり、上限は70重量%である。上記可塑剤の含有量がこの範囲内であると、可塑剤が分離せず、また、本発明のサーモクロミック性フィルムを合わせガラス用中間膜に適用した場合、上記ガラス用中間膜の溶融粘度が好適になり、合わせガラス製造時の脱気性が良好となる。
上記可塑剤の含有量は、より好ましくは下限が25重量%であり、上限が60重量%である。
【0046】
本発明のサーモクロミック性フィルムは、分散剤を含有する。
上記分散剤は、サーモクロミック性フィルム中に、上記二酸化バナジウム粒子を分散させる役割を有する。
上記分散剤は、グリセリンエステル又はポリカルボン酸であることが好ましい。
上記グリセリンエステルとしては、特に限定されず、例えば、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリントリステアリン酸エステル、デカグリセリンデカステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンジステアリン酸エステル、ヘキサグリセリントリステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンペンタステアリン酸エステル、テトラグリセリンモノステアリン酸エステル、テトラグリセリントリステアリン酸エステル、テトラグリセリンペンタステアリン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、グリセロールモノステアレート、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンデカオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンペンタオレイン酸エステル、テトラグリセリンモノオレイン酸エステル、テトラグリセリンペンタオレイン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル、グリセロールモノオレエート、2−エチルヘキサン酸トリグリセライド、カプリン酸モノグリセライド、カプリン酸トリグリセライド、ミリスチン酸モノグリセライド、ミリスチン酸トリグリセライド、デカグリセリンモノカプリル酸エステル、ポリグリセリンカプリル酸エステル、カプリル酸トリグリセライド、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、テトラグリセリンモノラウリン酸エステル、ポリグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンヘプタベヘニン酸エステル、デカグリセリンドデカベヘニン酸エステル、ポリグリセリンベヘニン酸エステル、デカグリセリンエルカ酸エステル、ポリグリセリンエルカ酸エステル、テトラグリセリン縮合リシノール酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノール酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等が挙げられる。
【0047】
上記グリセリンエステルのうち市販品としては、例えば、SYグリスターCR−ED(阪本薬品工業社製、縮合リシノール酸ポリグリセリン酸エステル)、SYグリスターPO−5S(阪本薬品工業社製、オレイン酸ヘキサグリセリンペンタエステル)等が挙げられる。
【0048】
上記ポリカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、主鎖骨格にカルボキシル基を有するポリマーにポリオキシアルキレンをグラフトしたポリカルボン酸重合体等が挙げられる。
上記ポリカルボン酸のうち市販品としては、例えば、日油社製マリアリムシリーズ(AFB−0561、AKM−0531、AFB−1521、AEM−3511、AAB−0851、AWS−0851、AKM−1511−60等)等が挙げられる。
【0049】
本発明のサーモクロミック性フィルムにおける上記分散剤の含有量は、上記二酸化バナジウム粒子100重量部に対して、好ましくは下限が1重量部、上限が10000重量部である。上記分散剤の含有量がこの範囲内であると、二酸化バナジウム粒子の分散性が向上し、透明性が高いサーモクロミック性フィルムを得ることができる。
上記分散剤の含有量は、より好ましくは下限が10重量部、上限が1000重量部であり、更に好ましくは下限が30重量部、上限が300重量部である。
【0050】
本発明のサーモクロミック性フィルムは、更に、遮熱粒子を含有することが好ましい。
上記遮熱粒子は、サーモクロミック性フィルムの遮熱性を向上させる役割を有する。
上記遮熱粒子は、錫ドープ酸化インジウム(ITO)粒子、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)粒子、及び、セシウムドープ酸化タングステン粒子(CWO)からなる群より選択される少なくとも一種の遮熱粒子であることが好ましい。更に、優れた遮熱性が得られることから、上記遮熱粒子は金属酸化物粒子であることが好ましい。
【0051】
上記遮熱粒子の含有量は、上記サーモクロミック性フィルム中、好ましくは下限が0.001重量%であり、上限が5重量%である。上記遮熱粒子の含有量が上記下限以上であると、優れた遮熱性が得られ、上記上限以下であると、サーモクロミック性フィルムの透明性が高くなる。
上記遮熱粒子の含有量は、より好ましくは下限が0.01重量%であり、上限が1.0重量%である。
【0052】
本発明のサーモクロミック性フィルムは、更に、低揮発性有機溶剤、ショ糖脂肪酸エステル等の保留剤、接着力調整剤、非カチオン性界面活性剤、安定剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0053】
本発明のサーモクロミック性フィルムは、耐貫通性の向上を目的として、必要に応じて他のフィルムが積層されてもよい。また、本発明のサーモクロミック性フィルムは、遮音性能を有する遮音膜等が積層されてもよい。上記他のフィルム及び上記遮音膜としては、特に限定されず、公知のフィルム又は遮音膜を挙げることができる。
【0054】
本発明のサーモクロミック性フィルムを製造する方法は特に限定されないが、上記二酸化バナジウム粒子と、上記熱可塑性樹脂と、上記可塑剤と、上記分散剤と、必要に応じて配合する添加剤との混合物を用いてサーモクロミック性フィルムを製造する方法や、上記二酸化バナジウム粒子と上記可塑剤と上記分散剤とを含有する分散液と、上記熱可塑性樹脂とを用いてサーモクロミック性フィルムを製造する方法が挙げられる。
【0055】
なかでも、二酸化バナジウム粒子の分散安定性を高めることができる点で、上記二酸化バナジウム粒子と上記可塑剤と上記分散剤とを含有する分散液と、上記熱可塑性樹脂と必要に応じて配合する添加剤との混合物を用いてサーモクロミック性フィルムを製造する方法が好ましい。
上記分散液を調製する方法としては、特に限定されないが、例えば、上記二酸化バナジウム粒子、上記可塑剤及び上記分散剤等を、ビーズミル、遊星式攪拌装置、湿式メカノケミカル装置、ヘンシェルミキサー、ホモジナイザー、超音波照射機等を用いて混合する方法等が挙げられる。なかでも、上述した半価幅を有する二酸化バナジウム粒子が得られる点で、上述したように、所定の粒径のビーズを用いたビーズミルにより製造するのが好ましい。
【0056】
上記分散液と、上記熱可塑性樹脂との混合物を混合する方法として、例えば、押出機、プラストグラフ、ニーダー、バンバリーミキサー、カレンダーロール等を用いる方法が挙げられる。
本発明のサーモクロミック性フィルムを成形する方法として、押し出し法、カレンダー法、プレス法等が挙げられる。
このような方法により、サーモクロミック性を有し、透明性に優れた本発明のサーモクロミック性フィルムを製造することができる。
【0057】
このような優れたサーモクロミック性を有する本発明のサーモクロミック性フィルムは、合わせガラス用中間膜として使用することができる。このような本発明のサーモクロミック性フィルムを用いた合わせガラス用中間膜もまた、本発明の一つである。
【0058】
本発明の合わせガラス用中間膜が、2枚の透明板の間に挟み込まれている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
本発明の合わせガラスの製造方法は特に限定されず、従来公知の製造方法を用いることができる。
【0059】
上記透明板は特に限定されず、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収板ガラス、熱線反射板ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリカーボネートやポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
【0060】
上記2枚の透明板は、同種の透明板であってもよいし、異種の透明板であってもよい。異種の透明板の組み合わせは、例えば、透明フロート板ガラスとグリーンガラスのような着色された板ガラスとの組み合わせや、無機ガラスと有機プラスチックス板との組み合わせ等が挙げられる。
【0061】
本発明のサーモクロミック性フィルムはまた、貼り付け用フィルムとして使用することができる。上記貼り付け用フィルムは、例えば、ビルや一般家庭の住居における窓ガラス、又は、自動車や電車等の輸送機材に用いられる窓ガラスに貼り付けて使用することができる。
このような本発明のサーモクロミック性フィルムを用いた貼り付け用フィルムもまた、本発明の1つである。
上記貼り付け用フィルムは、更に接着層を有していてもよい。上記接着層としては、特に限定されず、上記貼り付け用フィルムを窓ガラス等に接着し得る公知の接着剤を含む層を挙げることができる。