(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
線材(1)を支持する線材支持手段(21)と、前記線材(1)を挟むように対向して設けられた一対の切削具(31,32)と、前記一対の切削具(31,32)を前記線材(1)の外表面に形成された皮膜(3)に前記線材(1)の両側から当接させて前記皮膜(3)に切込みを加える切込み付与手段(40,50)と、前記皮膜(3)に切込みを加えた前記一対の切削具(31,32)を前記線材(1)に対して長手方向に相対移動させて前記皮膜(3)を剥離する切削具相対移動手段(60)とを備えた皮膜剥離装置において、
前記線材(1)が貫通し前記線材(1)を挟むように前記一対の切削具(31,32)が設けられかつ前記線材(1)を回転中心として回転可能に設けられた回転部材(71)を有し、前記回転部材(71)を前記一対の切削具(31,32)とともに前記線材(1)を回転中心として回転させる切削具回転手段(70)が設けられ、
前記切込み付与手段(40,50)は、前記回転部材(71)の径方向外側に設けられた一対のサーボモータ(43,53)と、前記一対のサーボモータ(43,53)の回転軸(43a,53a)にそれぞれ設けられたカム部材(44,54)とを備え、前記カム部材(44,54)の回転角度に応じて前記一対の切削具(31,32)の互いの距離を縮め又は拡大させるように構成された
ことを特徴とする線材の皮膜剥離装置。
線材(1)を挟むように対向して設けられた一対の切削具(31,32)を前記線材(1)の外表面に形成された皮膜(3)に前記線材(1)の両側から当接させて前記皮膜(3)に切込みを加え、前記皮膜(3)に切込みを加えた前記一対の切削具(31,32)を前記線材(1)に対して線材の長手方向に相対移動させることによって前記皮膜(3)を剥離する皮膜剥離工程と、
前記外面から前記一対の切削具(31,32)を離間させて前記皮膜剥離工程において前記一対の切削具(31,32)が前記皮膜(3)に切込みを加えた位置まで前記一対の切削具(31,32)を戻す切削具戻し工程と
を順次繰り返す皮膜剥離方法であって、
前記切削具戻し工程において、前記線材(1)が貫通しかつ前記一対の切削具(31,32)が設けられた回転部材(71)を回転させることにより、前記線材(1)を回転中心として前記線材(1)を挟むように対向して設けられた前記一対の切削具(31,32)を回転させ、
繰り返される皮膜剥離工程において前記皮膜(3)に加える切込みの深さは、前記回転部材(71)に設けられた一対のサーボモータ(43,53)の回転軸(43a,53a)にそれぞれ設けられたカム部材(44,54)の回転角度を調整し、前記一対の切削具(31,32)の互いの距離を前記カム部材(44,54)の回転角度に応じて縮めることにより制御される
ことを特徴とする線材の皮膜剥離方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1〜
図3に、本発明における線材の皮膜剥離装置10を示す。この皮膜剥離装置10は、絶縁皮膜等の皮膜に被覆された線材1をボビンやステータコア等に巻線するにあたり、線材1を絡げる端子との電気的接触を確保するために、又は直接電気的接触部とするために線材1の皮膜を予め部分的に剥離する装置である。本実施の形態では、線材の種類として断面形状が長方形である平角線材1の皮膜を剥離する場合について説明する。そして、この平角線材1は、
図10に示すように、その断面が長方形を成す導体部2と、その導体部2の周囲を被覆する皮膜3により構成される。この平角線材1は、その二組の対向する面のうち幅方向の寸法の大きい面を主面1a,1bとし、その主面1a,1bに直交する面であって互いに対向して幅方向の寸法の小さい面を側面1c,1dとするものである。
【0018】
図1〜
図3に示すように、皮膜剥離装置10は、線材供給源(図示せず)から供給される平角線材1を導く線材送り機構11と、平角線材1を支持する線材支持手段としての線材支持機構21と、その線材1を挟むように対向して設けられてその平角線材1の皮膜を切削する一対の切削具31,32と、一対の切削具31,32を平角線材1の外側から中心に向かって移動させ皮膜に対して切込みを加える切込み付与手段40,50と、一対の切削具31,32を平角線材1に対して線材長手方向に相対移動させる切削具相対移動手段60とを備える。そして、本発明における皮膜剥離装置10の特徴ある構成は、線材1を挟むように対向して設けられた一対の切削具31,32を、その線材1を回転中心として回転させる切削具回転手段70が設けられたところにある。
【0019】
線材送り機構11は、基台10a上に立設する支柱12と、支柱12に回転可能に設けられた一対のローラ13,14と、一対のローラ13,14のそれぞれの回転軸に連結されてローラ13を回転させるモータ16(
図1及び
図3)とを備える。線材供給源から供給される平角線材1は、その両主面1a,1bが回転する一対のローラ13,14にて挟まれ、基台10aの上面10bと平行な方向へ送られ、一対の切削具31,32の間を通過して線材支持機構21へと導かれる。なお、図示しないが、一対のローラ13,14はそれぞれ上下に移動可能に構成され、平角線材1の厚さ、即ち、側面1c,1dの幅方向の寸法に応じて一対のローラ13,14間の間隔が調整可能に構成される。
【0020】
線材支持機構21は、平角線材1の皮膜3を剥離するにあたって、線材送り機構11から送られてきた断面が方形を成す平角線材1をその線材送り機構11とともに支持するものであり、一対の切削具31,32の間を通過して送られてきた平角線材1を載置する載置台22と、載置台22に対して平角線材1を押圧する押板23と、載置台22に連結部材24を介して連結されたシリンダ26とを備える。シリンダ26は、シリンダチューブ26aと、空気供給源(図示せず)からシリンダチューブ26aの内部に供給される圧縮空気によってそのシリンダチューブ26a内を往復運動する図示しないピストンと、そのピストンに基端が接続され先端がシリンダチューブ26aの端縁から突出してピストンとともに往復運動するロッド26bとを備える。押板23はロッド26bの先端に取付けられ、ロッド26bの往復運動によって、平角線材1の主面1aへの押圧とその解除が行われる。そして、平角線材1は、載置台22と押板23にてその主面1a,1bが挟まれて支持されるように構成される。
【0021】
一対の切削具31,32を移動させる切削具相対移動手段60は、基台10a上に線材1の長手方向に延びて設けられた複数のレール61と、その複数のレール61に線材1の長手方向に移動可能に搭載されて線材1が貫通する可動台62と、線材1に平行に設けられてその可動台62に螺合されたボールねじ63と、基台10a上に設けられボールねじ63を回転させてそのボールねじ63に螺合する可動台62を線材1の長手方向に移動させるサーボモータ64とを備える。この実施の形態では、ボールねじ63及びサーボモータ64は、基台10a上に線材1を挟むようにその線材1の両側にそれぞれ設けられ、線材1の幅方向における可動台62の両側に、そのボールねじ63が螺合しかつレール61に搭載される台座66が形成される。そして、可動台62を搭載するレール61は、それぞれのボールねじ63の両側にそれらのボールねじ63に沿ってそれぞれ設けられ、可動台62には線材1が貫通するノズル67が設けられる。
【0022】
一対の切削具31,32は、この切削具相対移動手段60における可動台62に、切削具回転手段70を介して設けられる。この切削具回転手段70は、線材1が貫通しかつ線材1を回転中心として回転可能に設けられた回転部材71と、その可動台62に設けられた電動モータ72を備える。回転部材71は、線材1が貫通するノズル67を包囲しかつそのノズル67と直交するように設けられた平板状を成して、その可動台62に電動モータ72を介して設けられる。電動モータ72は、可動台62に設けられて、線材1に直交するように設けられた回転部材71を、その線材1を回転中心として回転させて任意の位置に停止可能に構成される。そして、一対の切削具31,32は、この回転部材71に線材1を中心とする対称位置に、切込み付与手段40,50と共に設けられる。
【0023】
図3及び
図4に示すように、平板状の回転部材71には、線材1を通過する直線上に延びるレール41,51が、線材1の両側に放射状に延びてそれぞれ設けられ、この各レール41,51に沿ってそれぞれ移動可能な移動台42,52が設けられる。この移動台42,52に一対の切削具31,32が設けられ、この一対の切削具31,32は、その一端側に形成された切削歯31a,32a(
図4)を線材1に向けるようにしてそれらの移動台42,52に固定される。このように回転可能な回転部材71に設けられた一対の切削具31,32は、径方向に移動可能にその回転部材71に設けられる。そして、回転部材71が線材1を中心として回転すると、
図7に示すように、平角線材11の互いに対向する主面1a,1b(
図8及び
図9)のそれぞれに一対の切削具31,32を対峙させることもでき、そこから約90度回転部材71を回転させれば、
図4に示すように、その主面1a,1bに直交して互いに対向する側面1c,1d(
図5及び
図6)のそれぞれに、この一対の切削具31,32を対峙させることもできるように構成される。
【0024】
一対の切削具31,32とともに回転部材71に設けられる切込み付与手段40,50は、レール41,51の径方向外側の回転部材71に設けられたサーボモータ43,53と、そのサーボモータ43,53の回転軸43a,53aに偏倚して設けられたカム部材44,54とを備える。カム部材44,54には一対の切削具31,32が取付けられた移動台42,52の径方向における外側が接触し、サーボモータ43,53がそのカム部材44,54を回転させると、その回転角度に応じて移動台42,52がレール41,51に沿って移動し、その移動台42,52に取付けた一対の切削具31,32の互いの距離を縮め又は拡大させるように構成される。なお、図における符号46,56は、各移動台42,52と回転部材71の間に設けられ、各レール41,51に沿って各移動台42,52の互いの間隔を拡大させる方向に付勢する付勢手段としてのスプリング46,56である。
【0025】
したがって、例えば、
図7に示すように、平角線材1の互いに対向する主面1a,1bのそれぞれに一対の切削具31,32を対峙させた状態で、一対の切削具31,32の互いの距離を縮めると、この一対の切削具31,32は、平角線材1の主面1a,1bに形成さえた主面皮膜3a,3b(
図8及び
図9)に対して平角線材1の外側から中心に向かう切込みを加えることが可能に構成される。一方、
図4に示すように、互いに対向する側面1c,1dのそれぞれにこの一対の切削具31,32を対峙させた状態で、一対の切削具31,32の互いの距離を縮めると、この一対の切削具31,32は、平角線材1の側面1c,1dに形成された側面皮膜3c,3d(
図5及び
図6)に対して平角線材1の外側から中心に向かう切込みを加えることが可能に構成される。そして、一対の切削具31,32が皮膜3に切込みを加えた状態で、切削具相対移動手段60により一対の切削具31,32を線材1の長手方向に移動させることにより、その皮膜3を剥離可能に構成される。
【0026】
図1〜
図3に示すように、線材支持機構21は、支持機構移動手段80を介して基台10aに配置される。この支持機構移動手段80は、基台10a上に配置された土台81と、土台81上に固定され空気供給源から供給される圧縮空気によってロッド83を出没させるシリンダ82と、そのロッド83の先端と線材支持機構21の載置台22を連結する連結具84と、平角線材1の長手方向に沿ってシリンダ82上に配置されたガイドレール85とを備える。線材支持機構21の載置台22の下面22aにはガイドレール85に係合する溝が形成され、載置台22はガイドレール85に沿って移動可能に構成される。このため、ロッド83の出没によって、平角線材1は線材支持機構21にて支持された状態でその長手方向に移動するように構成される。
【0027】
次に、上記皮膜剥離装置を用いた本発明の皮膜剥離方法ついて説明する。
【0028】
本発明の皮膜剥離方法は、線材1を挟むように対向して設けられた一対の切削具31,32を線材1の外表面に形成された皮膜3に線材1の両側から当接させてその皮膜3に切込みを加え、その皮膜3に切込みを加えた一対の切削具31,32を線材1に対してその長手方向に相対移動させることによって皮膜3を剥離する皮膜剥離工程と、線材1の外面から一対の切削具31,32を離間させて皮膜剥離工程において一対の切削具31,32が皮膜3に切込みを加えた位置まで一対の切削具31,32を戻す切削具戻し工程とを順次繰り返す皮膜剥離方法である。この実施の形態では、線材1が平角線材1である場合であって、その主面皮膜3a,3bの剥離の後に、側面皮膜3c,3dが剥離される場合を代表して説明する。
【0029】
このため、先ず、線材送り機構11の一対のローラ13,14を回転させ、その一対のローラ13,14間に平角線材1を案内することによって平角線材1を送り出す。これにより平角線材1は可動台62に設けられたノズル67を貫通し、一対の切削具31,32の間を更に通過して線材支持機構21の載置台22上に案内される。この状態で一対のローラ13,14の回転を止めることにより、平角線材1の送りを止める。なお、平角線材1は、主面1a,1bが一対のローラ13,14に当接する向きにて一対のローラ13,14間に案内されるものとする。
【0030】
線材11が線材支持機構21の載置台22上に案内された後には、次に、その線材支持機構21のシリンダ26に圧縮エアを供給してロッド26bを移動させ、ロッド26bの先端に連結された押板23を平角線材1に向かって移動させる。これにより、押板23は、平角線材1の主面1aに当接し平角線材1を載置台22に向かって押圧する。このようにして、平角線材1を、載置台22と押板23の間にて支持し、この線材支持機構21は、平角線材1の皮膜3を剥離するにあたって、線材送り機構11から送られてきた断面が方形を成す平角線材1を、その線材送り機構11とともに水平に支持する。
【0031】
その後、切削具相対移動手段60により一対の切削具31,32を、皮膜3を剥離するための端部にまで案内させて維持する。この実施の形態では、
図2に示すように、一対の切削具31,32を線材支持機構21側に移動させて維持する場合を示す。次に、
図7に示すように、切削具回転手段70により平角線材1の互いに対向する主面1a,1bのそれぞれに一対の切削具31,32を対峙させる。そして、切込み付与手段40,50におけるサーボモータ43,53を駆動し、そのサーボモータ43,53の回転軸43a,53aに偏倚して設けられたカム部材44,54を図の実線矢印で示すように回転させる。そして、カム部材44,54に接触する移動台42,52をレール41,51に沿って移動させ、その移動台42,52に取付けられた一対の切削具31,32の互いの距離を縮める。
【0032】
これにより、一対の切削具31,32における切削歯31a,32aは、
図8に示すように線材11から離間した状態から移動してそれぞれ平角線材1の主面1a,1bに当接し、
図9に示すように、平角線材1の外側から中心に向かって主面皮膜3a,3bに食い込む。そして、主面皮膜3a,3bの厚さに相当する深さまで切削歯31a,32aを食い込ませる。ここで、主面皮膜3a,3bに加える切込みの深さは、サーボモータ43,53の回転軸43a,53aに偏倚して設けられたカム部材44,54の回転量を調整することによって制御される。
【0033】
次に、一対の切削具31,32の切削歯31a,32aが平角線材1の主面皮膜3a,3bに食い込んだ
図9に示す状態から、切削具相対移動手段60におけるサーボモータ64を駆動することによってボールねじ63を回転させ、そのボールねじ63に螺合する可動台62を線材1の長手方向に移動させる。即ち、可動台62を移動させることによって、その可動台62に、切削具回転手段70を介して設けられた一対の切削具31,32を線材1の長手方向に移動させる。この実施の形態では、
図2の実線矢印で示すように、一対の切削具31,32を線材支持機構21から遠ざける方向に移動させる場合を示す。これにより、一対の切削具31,32の平角線材1に対する線材1の長手方向の相対位置は変化し、一対の切削具31,32の切削歯31a,32aを線材1の長手方向に相対移動する。線材支持機構21の移動距離は、平角線材1に形成する剥離部の所望長さに相当する値に設定され、その移動量に到達することによって、
図10に示すように、平角線材1の主面1a,1bにおける主面皮膜3a,3bはその一対の切削具31,32により所定長さ剥離される。
【0034】
このような皮膜剥離工程の後には、線材1の外面から一対の切削具31,32を離間させ、更に先の皮膜剥離工程において一対の切削具31,32が皮膜3に切込みを加えた位置まで一対の切削具31,32を戻す切削具戻し工程が行われる。この実施の形態では、この切削具戻し工程において、
図2に示すように、一対の切削具31,32を線材支持機構21側にまで移動させて維持する場合を示す。
【0035】
この切削具戻し工程を具体的に説明する。即ち、平角線材1の主面皮膜3a,3bを剥離する上述した先の皮膜剥離工程の後、切込み付与手段40,50におけるサーボモータ43,53を駆動し、そのサーボモータ43,53の回転軸43a,53aに偏倚して設けられたカム部材44,54を逆転させる。そして、カム部材44,54に接触する移動台42,52をレール41,51に沿って逆方向に移動させ、その移動台42,52に取付けられた一対の切削具31,32の互いの距離を拡大させる。これにより、一対の切削具31,32における切削歯31a,32aを、
図8に示すように線材11から離間させた状態とする。そして、切削具相対移動手段60におけるサーボモータ64を駆動することによってボールねじ63を逆方向に回転させ、そのボールねじ63に螺合する可動台62を移動させることによって、その可動台62に、切削具回転手段70を介して設けられた一対の切削具31,32を、その一対の切削具31,32が先の皮膜剥離工程において最初に皮膜3に切込みを加えた
図2に示す位置まで戻す。
【0036】
そして、本発明の特徴ある点は、この切削具戻し工程において線材1を回転中心として線材1を挟むように対向して設けられた一対の切削具31,32を回転させるところにある。具体的には、電動モータ72により、その線材1を回転中心として線材1が貫通しかつ一対の切削具31,32が設けられた回転部材71を回転させることにより、その線材1を回転中心として一対の切削具31,32を回転させる。その後、皮膜剥離工程が再び行われるけれども、先の皮膜剥離工程において平角線材1の主面皮膜3a,3bを剥離したので、今回の皮膜剥離工程において平角線材1の側面皮膜3c,3dを剥離する場合を示す。
【0037】
即ち、切削具戻し工程において線材1を回転中心として一対の切削具31,32を回転させ、先の皮膜剥離工程においては、
図7に示すように平角線材1の互いに対向する主面1a,1bのそれぞれに一対の切削具31,32が対峙していたけれども、そこから約90度回転部材71を回転させ、
図4に示すように、その主面1a,1bに直交して互いに対向する側面1c,1dのそれぞれにこの一対の切削具31,32を対峙させる。そして、再び皮膜剥離工程を行う。
【0038】
再び行われる皮膜剥離工程にあっては、先ず、切込み付与手段40,50におけるサーボモータ43,53を駆動し、カム部材44,54を回転させ、移動台42,52に取付けられた一対の切削具31,32の互いの距離を縮める。これにより、
図5に示すように主面1a,1bに直交して互いに対向する側面1c,1dのそれぞれに対向する一対の切削具31,32を側面1c,1dに形成された側面皮膜3c,3dに当接させる。そして、
図6に示すように一対の切削具31,32の互いの距離を更に縮めてその側面皮膜3c,3dに切込みを加える。ここで、側面皮膜3c,3dに加える切込みの深さは、サーボモータ43,53の回転軸43a,53aに偏倚して設けられたカム部材44,54の回転量を調整することによって制御される。
【0039】
そして、切削具相対移動手段60におけるサーボモータ64を駆動することによってボールねじ63を回転させ、そのボールねじ63に螺合する可動台62を線材1の長手方向に移動させる。即ち、可動台62を移動させることによって、その可動台62に、切削具回転手段70を介して設けられた一対の切削具31,32を線材1の長手方向に移動させる。このようにして、後側面皮膜3c,3dに切込みを加えた一対の切削具31,32を線材1に対して線材1の長手方向に相対移動させることにより、その側面皮膜3c,3dの剥離を行う。
【0040】
従って、本発明の皮膜剥離装置10によれば、一対の切削具31,32を平角線材1の外側から中心に向かって移動させることによって皮膜3に切込みを加えるため、皮膜3の厚さに合わせて一対の切削具31,32による切込み量を調節することができる。そして、皮膜3に切込みを加えた一対の切削具31,32を線材1に対して長手方向に相対移動させて皮膜3を剥離するため、その相対移動の長さを調節することによって剥離部の長さを自由に設定することができる。したがって、皮膜3の厚さ及び剥離部の長さに応じて一対の切削具31,32を変更する必要がなく作業効率が良く、皮膜3を所望の長さで容易に剥離することができる。
【0041】
平角線材1の皮膜3を剥離するこの実施の形態では、上述したように皮膜剥離工程を2回繰り返すことにより、
図10に示すように、平角線材1の主面皮膜3a,3bと側面皮膜3c,3dの双方を剥離することができる。そして、皮膜3が除去された部分は、導体部2が露出した状態となる。このため、この導体部2を後工程においてボビンやステータコアに設けられた端子に絡げることによって平角線材1と端子との電気的接触を確保することができる。よって、皮膜3を除去した後、一対の切削具31,32を平角線材1から遠ざけ、それと同時に又はその後、線材送り機構11における一対のローラ13,14を回転させ、平角線材1を送り出すとともに、それと同期して支持機構移動手段80により平角線材1を拘束する線材支持機構21を同方向に移動させ、次に皮膜3を剥離する箇所までその線材1を移動させる。
【0042】
この次に皮膜3を剥離する箇所までの線材1の移動にあって、支持機構移動手段80による移動では足りない場合には、線材支持機構21におけるシリンダ26によりそのロッド26bを没入して押板23を上昇させ、平角線材1の拘束を解除しても良い。この場合には、線材送り機構11における一対のローラ13,14を回転させ、平角線材1を送り出すことにより、その線材11の次に皮膜3を剥離する箇所までの移動が行われることになる。
【0043】
ここで、上述した皮膜剥離装置10の動作は、皮膜剥離装置10に搭載された図示しないコントローラによって、自動制御されるものである。
【0044】
上述したように、本発明の線材の皮膜剥離装置10及びその皮膜剥離方法では、線材1を回転中心として一対の切削具31,32を回転させるので、対向する両主面1a,1bにおける皮膜3a,3bをそれぞれ剥離した後、最初に皮膜に切込みを加えた位置まで一対の切削具31,32を戻すとともに、線材1を回転中心としてその一対の切削具31,32を回転させて、その線材1の両側面1c,1dに対向させるようにすれば、その平角線材1の対向する両側面1c,1dに一対の切削具31,32を当接させて切込みを加え、その後その一対の切削具31,32を再び線材に対して長手方向に移動させることによって、線材1の対向する両側面1c,1dにおける皮膜3c,3dをそれぞれ剥離することができる。
【0045】
即ち、本発明の線材の皮膜剥離装置10及びその皮膜剥離方法では、線材1を回転中心として一対の切削具31,32を回転させて、線材1の表面における皮膜3の剥離しようとする部位にその一対の切削具31,32を対向させることにより、その部位の皮膜3を剥離することができる。このため、その剥離しようとする部位を周方向に変更しつつ皮膜3の剥離を繰り返すことにより、その線材1の全周における皮膜3を確実に剥離することができるものとなる。
【0046】
従って、上述した実施の形態では、皮膜剥離工程を2回繰り返すことにより、
図10に示すように、平角線材1の主面皮膜3a,3bと側面皮膜3c,3dの双方を剥離することができる場合を例示したけれども、主面1a,1bと側面1c,1dが交差する角部が断面において湾曲していたり、断面形状が円形を成す線材1のように、皮膜剥離工程を2回繰り返しても、表面に形成された皮膜3の全てを剥離し難いような場合には、皮膜剥離工程を3回又は4回以上繰り返すことによりその線材1の全周における皮膜3を確実に剥離することができる。
【0047】
皮膜剥離工程を3回行って、平角線材1の角部における皮膜3の全てを剥離する場合を
図11に例示する。この剥離方法では、1回目の剥離工程において、
図11(a)に示すように対向する角部1e,1fに形成された皮膜3e,3fとともに側面皮膜3c,3dの一部を剥離し、2回目の剥離工程において、
図11(b)に示すように別の対向する角部1g,1hに形成された皮膜3g,3hとともに側面皮膜3c,3dの残部を剥離する。そして、3回目の剥離工程において、
図11(c)に示すように主面皮膜3a,3bを剥離することにより、
図12に示すように、その線材1の全周における皮膜3を確実に剥離することができる。
【0048】
また、皮膜剥離工程を4回行って、断面形状が円形を成す線材1における皮膜3の全てを剥離する場合を
図13及び
図14に例示する。この剥離方法では、1回目の剥離工程において、
図13(a)に示すように直径方向に対向する部位に形成された皮膜3を導体部2の極一部とともに剥離して第1及び第2剥離面4a,4bを形成し、2回目の剥離工程において、
図13(b)に示すように第1及び第2剥離面4a,4bと直交する位置に形成された皮膜3を導体部2の極一部とともに剥離して第3及び第4剥離面4c,4dを形成する。
【0049】
また、3回目の剥離工程において、
図14(a)に示すように、第1剥離面4aと第3剥離面4cの間の角部における皮膜3と第2剥離面4bと第4剥離面4dの間の角部における皮膜3を導体部2の極一部とともに剥離して第5及び第6剥離面4e,4fを形成する。そして、4回目の剥離工程において、
図14(b)に示すように、第2剥離面4bと第3剥離面4cの間の角部における皮膜3と第1剥離面4aと第4剥離面4dの間の角部における皮膜3を導体部2の極一部とともに剥離して第7及び第8剥離面4g,4hを形成する。これにより、
図15に示すように、断面が円形を成す線材1の全周における皮膜3を確実に剥離することができる。このように、皮膜剥離工程を繰り返す回数を増加させることにより、剥離後の線材1の断面形状は、その剥離工程の数の2倍の数の多角形となり、断面形状が円形を成す線材1の皮膜3であっても、その線材1の全周における皮膜3を確実に剥離することができる。
【0050】
なお、上述した実施の形態では、線材1の種類として断面形状が長方形である平角線材1の主面皮膜3a,3bの剥離の後に、側面皮膜3c,3dが剥離される場合について説明したけれども、側面皮膜3c,3dの剥離の後に、主面皮膜3a,3bを剥離しても良く、断面形状が正方形である線材1の皮膜3を剥離するようにしても良い。
【0051】
また、上述した実施の形態では、切込み付与手段40,50を移動させる機構を設け、一対の切削具31,32を平角線材1に対して移動させたけれども、一対の切削具31,32を平角線材1に対して線材1の長手方向に相対移動させる構成であれば、平角線材1を一対の切削具31,32に対して移動させる支持機構移動手段80により、一対の切削具31,32を平角線材1に対して線材1の長手方向に相対移動させても良い。
【0052】
また、上述した実施の形態では、載置台22と押板23にて線材1を挟む線材支持手段21を用いて説明したが、この皮膜剥離装置10に例えば線材支持手段を有する巻線機を連結し、その巻線機における線材支持手段を本発明の皮膜剥離装置10における線材支持手段としても良い。このように本発明の皮膜剥離装置10に他の装置を連結して重複した装置を兼用すれば、設備全体における費用の低減化が成される。
【0053】
また、上述した実施の形態では、一対の切削具31,32を移動させる機構としてサーボモータ43,53,64を用い、回転部材71を回転させる機構として電動モータ72を用いたけれども、これらの移動又は回転機構としてエア圧や油圧等により駆動する流体圧シリンダを用いても良い。
【0054】
更に、上述した実施の形態では、切込み付与手段40,50におけるカム部材44,54として、その外周に切削具31,32が取付けられた移動台42,52が接触するいわゆる板カム(周縁カム)である場合を説明した。けれども、
図16及び
図17に示すように、このカム部材44,54はその正面に回転中心から偏倚する円形又は楕円形の凹溝44a,54aが形成されたいわゆる正面カム(溝カム)ものであっても良い。この場合、その凹溝44a,54aに進入してその凹溝44a,54aの軌跡に沿って移動台42,52を移動させる係合片42a,52aがその移動台42,52に設けられる。
【0055】
このような正面カム(溝カム)から成るカム部材44,54を用いても、サーボモータ43,53を駆動してそのカム部材44,54を回転させると、その凹溝44a,54aに進入してその凹溝44a,54aの軌跡に沿って移動する係合片42a,52aとともに、その移動台42,52もレール41,51に沿って移動し、その移動台42,52に取付けられた一対の切削具31,32の互いの距離を縮めることができる。一方、サーボモータ43,53によりこのカム部材44,54を逆転させれば、その凹溝44a,54aに進入してその凹溝44a,54aの軌跡に沿って移動する係合片42a,52aとともに、その移動台42,52もレール41,51に沿って逆方向に移動し、その移動台42,52に取付けられた一対の切削具31,32の互いの距離を拡大させることができる。このため、このような正面カム(溝カム)から成るカム部材44,54を用いた場合には、各レール41,51に沿って各移動台42,52の互いの間隔を拡大させる方向に付勢する付勢手段としての
図4に示すスプリング46,56のようなものは不要になる。