(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、走行しながら苗株を圃場に植え付けていく田植機が知られている。このような田植機には、苗株を圃場に植え付ける作業機と、圃場を整地するとともに作業機を昇降させて苗株の植付深さを調節するフロートと、が設けられている。
【0003】
一般的には、作業機の中央部分に配置されたセンターフロートと、該センターフロートの両側に配置されたサイドフロートと、を備える田植機が知られている(例えば特許文献1参照)。しかし、センターフロートと、該センターフロートの両側に配置されたサイドフロートと、を備える田植機においては、該センターフロートとサイドフロートの間に未整地部分ができるため、センターフロートが押し退けた土塊や車輪跡等の土塊を均せない場合があった。このため、水面上に現れた土塊に雑草が生えるという問題があった。また、センターフロートとサイドフロートの隙間を狭くすると、これらのフロートを回り込む水流(センターフロート及びサイドフロートの前方からこれらのフロートの側方を迂回して後方へ流れ込む水流)が強くなる。このため、フロートを回り込む水流が植え付けた苗株を倒してしまうという問題もあった。
【0004】
一方、センターフロートと、該センターフロートの両側に配置されたサイドフロートと、を一体に形成した田植機が知られている(例えば特許文献2参照)。センターフロートとサイドフロートを一体に形成することで、未整地部分をなくし、センターフロートが押し退けた土塊等を均せるようにしたものである。しかし、センターフロートと、該センターフロートの両側に配置されたサイドフロートと、を一体に形成した田植機においては、フロートが圃場に張られた水の抵抗を受けて浮き上がり、苗株の植付深さを適宜に調節できない場合があった。これは、圃場の凹凸等によってフロートの下方を通過する水量が変化することに起因し、フロートの左右方向の寸法が長くなるほど左右の高さに差異が生じるためである。更に、フロートを回り込む水流(フロートの前方から側方を迂回して後方へ流れ込む水流)が強いため、植え付けた苗株を倒してしまうという問題もあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、センターフロートと、該センターフロートの両側に配置されたサイドフロートと、を備える田植機において、センターフロートが押し退けた土塊や車輪跡等の土塊を均すことができるとともに、これらのフロートを回り込む水流を弱めることができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
請求項1に係る発明は、センターフロートと、前記センターフロートの両側に配置されたサイドフロートと、を備える田植機において、前記センターフロートは、該センターフロートの本体部から前記サイドフロート側に延設された膨出部を有し、該膨出部の進行方向側端部を上方に反った形状として、前記本体部が押し退けた土塊を均
すように構成し、前記センターフロートの膨出部の位置にあわせて、前記サイドフロートの側端部に凹部を形成し、前記センターフロートの膨出部と前記サイドフロートの凹部とが対向するように配置されるものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記センターフロートは、前記膨出部の前記サイドフロートとの近接部分を薄板形状として水の流路を確保したものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記センターフロートは、
前記膨出部の部分を構成することにより、該センターフロートの浮力を増加させ、前記膨出部の薄板形状部分の上面を水が流れることにより、該センターフロートの荷重を増加させ、該浮力の増加量と、該荷重の増加量を均衡させたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、センターフロートの本体部からサイドフロート側に延設された膨出部を有することで、該センターフロートの整地範囲を拡大できる。これにより、センターフロートとサイドフロートの間にできる未整地部分を減少させて、センターフロートが押し退けた土塊や車輪跡等の土塊を均すことが可能となる。
また、膨出部の進行方向側端部を上方に反った形状としたことで、センターフロートの本体部が押し退けた土塊を膨出部によって均すことが可能となる。これらによって、水面上に現れた土塊に雑草が生えるという問題を改善することができる。
また、
前記センターフロートの膨出部の位置にあわせて、前記サイドフロートの側端部に凹部を形成し、前記センターフロートの膨出部と、サイドフロートの凹部が対向するように配置されるので、該膨出部と凹部が向き合っている部分には間隙流路が形成されることとなり、前記センターフロートとサイドフロートの間において、水を通過させることができる。
これにより、センターフロートとサイドフロートにより水の流れをせき止めて、センターフロートとサイドフロートの前側の水がサイドフロートの両側へ流れて、フロートを回り込む水流となり、植付けの終わった後の隣接条の苗株を押し倒すという不具合をなくすことができる。
また、前記センターフロートの膨出部の位置にあわせて、前記サイドフロートの側端部に凹部を形成し、前記センターフロートの膨出部と前記サイドフロートの凹部が対向するように配置されるので、センターフロートの膨出部とサイドフロートとが干渉することがないのである。
なお、センターフロートと、該センターフロートの両側に配置されたサイドフロートと、を備える田植機は、センターフロートとサイドフロートを一体に形成した田植機と比較して苗株の植付深さを適宜に調節することが可能である。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、膨出部のサイドフロートとの近接部分を薄板形状としたことで、水の流路を広く確保できる。これにより、これらのフロートを回り込む水流(センターフロート及びサイドフロートの前方からこれらのフロートの側方を迂回して後方へ流れ込む水流)を弱めて、植え付けた苗株が倒れることを防止できる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、膨出部の進行方向側端部を上方に反った形状としたことによる浮力の増加と膨出部の薄板形状部分の上面を水が流れることによる荷重の増加を均衡させたことで、センターフロートの挙動を安定させることができる。これにより、センターフロート等が作業機を正確に昇降させて、苗株の植付深さを適宜に調節することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明の一実施形態に係る田植機100について説明する。以下では、4条植えの田植機100について説明するが、条数について限定するものではない。
【0017】
図1は、田植機100の全体構成を示す側面図である。
図2は、作業機2の構成を示す側面図である。なお、図中の矢印Fは、田植機100の走行方向を示している。
【0018】
田植機100は、走行しながら苗株Sを圃場に植え付けていく農業機械である。田植機100は、走行機体1と、作業機2と、昇降リンク機構3と、で構成される。
【0019】
走行機体1は、主に車体フレーム11と、エンジン12と、トランスミッション13と、フロントアクスル14と、リアアクスル15と、コクピット16と、前輪17と、後輪18と、で構成される。
【0020】
車体フレーム11は、田植機100の主たる構造体である。車体フレーム11は、田植機100の骨格をなすものであり、エンジン12等が搭載される。
【0021】
エンジン12は、燃料の燃焼によって動力を発生させる動力源である。エンジン12は、オペレータが変速ペダル161等を操作することによって運転状態を変更することができる。
【0022】
トランスミッション13は、田植機100の前後進の切り換えや変速を行なう動力伝達装置である。トランスミッション13は、作動油を動力伝達媒体に用いた無段変速装置(HMT又はHST)を備えている。無段変速装置(HMT又はHST)は、入力された回転動力の一部又は全部を作動油の油圧に変換し、作動油の油圧を再び回転動力として出力できる。
【0023】
フロントアクスル14は、エンジン12の動力を前輪17に伝達する動力伝達装置である。フロントアクスル14には、トランスミッション13を介してエンジン12の動力が入力される。なお、フロントアクスル14には、操舵装置が並設されており、オペレータがハンドル162を操作することによって前輪17を操舵することができる。
【0024】
リアアクスル15は、エンジン12の動力を後輪18に伝達する動力伝達装置である。リアアクスル15には、トランスミッション13を介してエンジン12の動力が入力される。
【0025】
コクピット16は、各種の操作具が配置された操縦室である。コクピット16には、上述した変速ペダル161やハンドル162に加えて、田植機100の運転に用いるその他の操作具が配置されている。
【0026】
作業機2は、主に苗載台21と、植付機構22と、フロート23と、で構成される。
【0027】
苗載台21は、苗株Sを植付機構22に供給する苗株供給装置である。苗載台21に載置されたマット苗(育苗箱を用いて互いに根が絡むように発芽させた苗株Sの集合)は、縦送り機構によって適宜に植付機構22に送られる。また、苗載台21は、植付フレームに設けたレール上に摺動可能に載置されており、植付機構22の動作に合わせて左右方向に往復運動する。このようにして、苗載台21は、苗株Sを植付機構22に供給することができる。
【0028】
植付機構22は、苗株Sを圃場に植え付ける苗株植付装置である。植付機構22は、エンジン12の動力を植付動作に変換するミッションケース221や伝動ケース222と、苗株Sを保持して圃場に植え付ける植付爪223と、を備えている。ミッションケース221及び伝動ケース222は、植付爪223が取り付けられた植付アーム224を回転させる。植付爪223は、植付アーム224とともに回転するため、フォーク223aがマット苗から苗株Sを掻き取って該苗株Sを保持することができる。また、植付爪223は、下方に回転した際にロッド223bが保持している苗株Sを押し出すため、該苗株Sを圃場に植え付けることができる。なお、本実施形態においては、植付アーム224とともに植付爪223が回転駆動する、いわゆるロータリ駆動方式を採用しているが、複数のクランクからなる機構部が植付爪を駆動する、いわゆるクランク駆動方式であっても良い。
【0029】
フロート23は、作業機2を昇降させて苗株Sの植付深さを調節する植付深さ調節装置である。また、フロート23は、上述した苗載台21や植付機構22の支持装置でもある。フロート23は、作業機2の中央部分に配置されたセンターフロート231と、該センターフロート231の両側に配置されたサイドフロート232と、で構成されている(
図3参照)。センターフロート231に設けられた位置センサは、走行機体1の制御装置と連係して作業機2を適宜な高さまで昇降させる。更に、センターフロート231及びサイドフロート232は、圃場に接する下面が平滑に形成されているため、圃場を整地する(圃場面を均平にする)ことが可能である。このように、フロート23を構成するセンターフロート231とサイドフロート232は、圃場を整地するとともに作業機2を昇降させて苗株Sの植付深さを調節することができる。
【0030】
昇降リンク機構3は、主にアッパーリンク31と、ロアリンク32と、油圧アクチュエータ(図示せず)と、で構成される。
【0031】
アッパーリンク31及びロアリンク32は、走行機体1と作業機2を連結する連結装置である。また、アッパーリンク31及びロアリンク32は、作業機2を昇降させる昇降装置でもある。図示しない油圧アクチュエータは、上述した制御装置の指示を受けて伸縮し、アッパーリンク31及びロアリンク32を駆動する。こうして、アッパーリンク31及びロアリンク32は、オペレータによる操作や位置センサからの信号に基づいて作業機2を昇降できる。
【0032】
次に、本発明の特徴点であるセンターフロート231について説明する。
【0033】
図3は、センターフロート231及びサイドフロート232を示す斜視図である。
図4、
図5、
図6、
図7は、センターフロート231を示す上面図、正面図、側面図、背面図である。
図8は、センターフロート231の膨出部231bが土塊Mを均している状況を示す斜視図である。なお、図中の矢印Fは、田植機100の走行方向、即ち、センターフロート231及びサイドフロート232の進行方向を示している。また、図中の矢印Wc及び矢印Wsは、圃場に張られた水の流れ方向を示している。更に、図中の領域Rは、植付機構22が苗株Sを植え付ける位置を示している。
【0034】
まず、センターフロート231とサイドフロート232の形状について詳細に説明する。
【0035】
センターフロート231は、左右対称に形成されている。センターフロート231は、
図3及び
図4に示すように、略三角形状の前部と略矩形状の後部をつなぎ合わせた形状となっている。また、センターフロート231は、中央部分を構成する本体部231aと、該本体部231aの両側を構成する膨出部231bと、に分けられる。
図6に示すように、本体部231aは、進行方向側端部が上方に反った形状となっている(
図6中G1部参照)。膨出部231bも、進行方向側端部が上方に反った形状となっている(
図6中G2部参照)。なお、本体部231aには、その前部及び後部の上面に取付部231c・231cが設けられている。膨出部231bには、その先端部分に底部まで窪んだ薄板形状部分231dが形成されている。
【0036】
サイドフロート232は、それぞれ左右対称に形成されている。サイドフロート232は、
図3及び
図4に示すように、略U字状に形成されている。また、
図6に示すように、サイドフロート232は、進行方向側端部が上方に反った形状となっている。なお、サイドフロート232には、その中央部の上面に取付部232f・232fが設けられている。更に、
図4に示すように、サイドフロート232には、センターフロート231の膨出部231bの位置にあわせて凹部232e・232eが形成されている。このため、サイドフロート232は、センターフロート231の薄板形状部分231dと干渉しない。また、センターフロート231の整地範囲Dcとサイドフロート232の整地範囲Dsを重ねることで未整地部分を消滅させることも可能である(
図5、
図7参照)。
【0037】
以下に、上述した形状を特徴とするセンターフロート231の技術的思想と効果について詳細に説明する。
【0038】
第一の特徴点として、センターフロート231は、該センターフロート231の本体部231aからサイドフロート232側に延設された膨出部231bを有する。より詳細に説明すると、センターフロート231には、該センターフロート231の両側に配置されたサイドフロート232に対して互いの隙間を狭めるように膨出部231bが形成されている。
【0039】
このように、センターフロート231は、該センターフロート231の本体部231aからサイドフロート232側に延設された膨出部231bを有するため、整地範囲Dcを拡大できる(
図5、
図7参照)。即ち、本実施形態に係る田植機100は、従来の田植機よりもセンターフロート231による整地範囲Dcを拡大できる。これにより、田植機100は、センターフロート231とサイドフロート232の間にできる未整地部分を減少させることができ、センターフロート231が押し退けた土塊Mや車輪跡等の土塊Mを均すことが可能となる。
【0040】
また、本センターフロート231は、膨出部231bの進行方向側端部が上方に反った形状となっている。より詳細に説明すると、センターフロート231は、膨出部231bの進行方向側端部がソリのように上方に反った意匠となっている。これは、植付作業時に本体部231aが押し退けた土塊Mを潰し、該土塊Mを均すためである。
【0041】
このように、センターフロート231は、膨出部231bの進行方向側端部を上方に反った形状としているため、本体部231aが押し退けた土塊Mを膨出部231bによって均すことができる(
図8中L部参照)。即ち、本実施形態に係る田植機100は、センターフロート231とサイドフロート232を一体に形成した構成でないにも関わらず同様の効果を得ることが可能となる。これらによって、水面上に現れた土塊Mに雑草が生えるという問題を改善することができる。
【0042】
第二の特徴点として、センターフロート231は、膨出部231bのサイドフロート232との近接部分が薄板形状(薄板形状部分231d)となっている。より詳細に説明すると、センターフロート231は、膨出部231bのサイドフロート232に近接する一部分が薄く形成された意匠となっている。これは、薄板形状部分231dの上面を水が流れる流路の一部とするためである(矢印Wc参照)。なお、薄板形状部分231dの厚さ寸法Tは、強度や生産性等の設計要素を満たす範囲内において、可能な限り小さく設定されている(
図7参照)。
【0043】
このように、センターフロート231は、膨出部231bのサイドフロート232との近接部分を薄板形状(薄板形状部分231d)としているため、水の流路を広く確保できる(
図3、
図4参照)。即ち、本実施形態に係る田植機100は、センターフロート231に膨出部231bを有するにも関わらず水の流路を広く確保できる。これにより、これらのフロート23を回り込む水流(センターフロート231及びサイドフロート232の前方からこれらのフロート23の側方を迂回して後方へ流れ込む水流:矢印Ws参照)を弱めて、植え付けた苗株が倒れることを防止できる。
【0044】
第三の特徴点として、センターフロート231は、膨出部231bの進行方向側端部を上方に反った形状としたことによる浮力の増加と膨出部231bの薄板形状部分231dの上面を水が流れることによる荷重の増加を均衡させている。より詳細に説明すると、センターフロート231は、膨出部231bの進行方向側端部を上方に反った形状としたことによる浮力の増加と膨出部231bの薄板形状部分231dの上面を水が流れることによる荷重の増加が等しく釣り合うように設計されている。これは、膨出部231bの進行方向側端部を上方に反った形状としたことに起因する苗株Sの植付け深さに及ぼす不安定性を解消したものである。具体的には、膨出部231bの形状や薄板形状部分231dの面積をパラメータとして設計される。
【0045】
このように、センターフロート231は、膨出部231bの進行方向側端部を上方に反った形状としたことによる浮力の増加と膨出部231bの薄板形状部分231dの上面を水が流れることによる荷重の増加を均衡させたため、センターフロート231の挙動を安定させることができる。即ち、本実施形態に係る田植機100は、膨出部231bの進行方向側端部を上方に反った形状としたにも関わらず該センターフロート231の挙動を安定させることができる。これにより、田植機100は、センターフロート231等が作業機2を正確に昇降させて、苗株Sの植付深さを適宜に調節することが可能となる。
【0046】
なお、センターフロート231と、該センターフロート231の両側に配置されたサイドフロート232と、を備える田植機100は、センターフロート231とサイドフロート232を一体に形成した田植機と比較して苗株Sの植付深さを適宜に調節することが可能である。これは、圃場面から植付機構22までの高さが左右方向で略一定となるため、苗株Sの植付深さを安定させることができるからである。