(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782013
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】フレキシブルプリント基板の接合方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/36 20060101AFI20150907BHJP
【FI】
H05K3/36 A
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-251077(P2012-251077)
(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-99537(P2014-99537A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2014年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230249
【氏名又は名称】日本メクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100060575
【弁理士】
【氏名又は名称】林 孝吉
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】豊島 良一
【審査官】
吉澤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−359019(JP,A)
【文献】
特開2005−123366(JP,A)
【文献】
特開2002−139742(JP,A)
【文献】
特開2012−109406(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0139758(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/36
H05K 1/14
H05K 1/11
H05K 3/40−3/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子部を有する2枚のフレキシブルプリント基板の接合方法において、
2枚のフレキシブルプリント基板のうちの一方の上に、前記端子部の接合予定箇所と対応する開口部を有する接着材を仮付けする仮付け工程と、
前記接着材の上に他方のフレキシブルプリント基板を位置合わせして重ね合わせる重合工程と、
前記2枚のフレキシブルプリント基板における前記端子部の接合予定箇所を加熱加圧する熱圧着工程とを備え、
前記2枚のフレキシブルプリント基板は、交差を有する分岐配線を形成し、
前記接着材の開口部にて2枚のフレキシブルプリント基板の端子部同士を溶接で接合することを特徴とするフレキシブルプリント基板の接合方法。
【請求項2】
前記2枚のフレキシブルプリント基板の端子部同士を接合する溶接がレーザ溶接であることを特徴とする請求項1記載のフレキシブルプリント基板の接合方法。
【請求項3】
前記接着材が接着シートの両面にリリースペーパを設けて成ることを特徴とする請求項1又は2記載のフレキシブルプリント基板の接合方法。
【請求項4】
前記接着材がコアシートの両面に接着性樹脂を介してリリースペーパを設けて成ることを特徴とする請求項1又は2記載のフレキシブルプリント基板の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント基板(FPC)の接合方法に関し、特に、車載用ワイヤハーネスの代替品となるフレキシブルプリント基板の端子同士の接合強度を高め、電気的絶縁性を向上させることができるフレキシブルプリント基板の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軽量化、狭小化の配線のため、採択されてきた車載用ワイヤハーネスから、フレキシブルプリント基板(「FPC」とも称する。)への置き換えが検討されている。一般に、車載用ワイヤハーネスはFPCに比べて幅、長さの双方のサイズが大きい。
【0003】
これに対し、FPCは金型などで外形を加工することから、長尺化には制約を受け、このため、車載用ワイヤハーネスからFPCへの置き換えは、下記の理由も併せて、従来の接合方法を採用することが困難であった。
【0004】
特に、
図9に示すように、車載用ワイヤハーネスの回路基板12では、配線121を分岐させて形成することがあるが、図示例では、分岐する配線121が、複数配置された配線のうち最外列の配線にあるために、配線121間の交差がない。
【0005】
また、
図10は分岐する配線131を有する別の例を示す。この場合は、分岐する配線131が、複数配置された配線のうち最外列の配線に無いために、配線間の交差が発生し、その結果、同一面内の配置ではなく、配線間が互いに交差するように引き回して回路が形成される。さらに、
図11は、上記分岐する配線141においてFPC14を両面化することで、分岐する配線141の交差を可能にした例を示し、
図12は
図11の斜視図である。尚、本発明に関連した先行技術文献の代表例としては例えば特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-171058号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、分岐した配線をFPCに置き換えた場合は、FPCの片面構成から両面構成へ、あるいは多層化が採択され、これにより一層複雑な構成とする必要があり、その結果、FPCの製造方法が煩雑化すると云う課題があった。
【0008】
又、分岐した配線も長尺であることから、FPCの製造において金型などによる外形加工というサイズ上の制約を受けて、従来の接合方法は適用困難であった。
【0009】
ここで、上記サイズ上の制約を解決する手段として、FPCの原材料となる、通常250mmから500mm程度の幅寸法を有する銅張板に替え、例えば幅1000mmの銅張板を用いることが考えられる。
【0010】
また、通常のフォトファブリケーション式の配線形成工程に多く適用されているバッチ式の露光工程を、レーザ直描に替え、ロール長手方向に連続的に露光することも考えられる。これらの方法を適用することで、上記サイズ上の制約問題は解決する。
【0011】
しかし、車載用ワイヤハーネスのように、部分的に分岐して残りの部分が略直線からなる配線、外形を有するFPCを大判の材料から製作した場合、材料の廃棄率が高くなり、非常に非効率となる。
【0012】
そこで、
図13に示すように、長い配線112を銅張板のシート11の面内に蛇行させて配置し、配線の112の外形111の加工後に、FPCを伸ばして使用する手法も考えられる。
【0013】
しかし、この手法は、平面上に蛇行した配線が配置された状態でFPCを伸ばすためには、FPC自身をハゼ折りにする必要が生じ、長期間製品の信頼性を確保する観点から不安がある。
【0014】
更に云えば、銅張板の幅広化には自ずと限界があり、このような設計ですべての製品に十分対応できるとはいい難い。さらに、上述の如き分岐配線を実現するためには多層化が必要となり、工程の煩雑化およびコストアップを招来する欠点が生ずる。
【0015】
さらにまた、多層化が必要な部分は分岐配線部のみであり、それ以外の箇所における配線以外の層の銅はすべて除外ないし廃棄されることになり、材料の使用量の無駄が生ずる。
【0016】
本発明者は上記の技術背景に鑑み、日夜研究を重ねた結果、小片からなるFPCを通常の工程で製造し、これら小片のFPC同士を接続することで、車載用ワイヤハーネスの代替品となる大型のFPCを製造することができることを見出した。
【0017】
即ち、小片のFPCを通常のFPC製造工程に用いるサイズで製造することにより、ここまで述べたサイズの問題がクリアとなる。また、1つのシート内に多数の小片を配置することで、材料の廃棄率を低減することができる。
【0018】
また、FPC同士の接続方法としては、コネクタなどを用いた機械的接続と、ACF(異方導電性フィルム)や溶接による接続方法(以下、「実装的接続方法」と称する)などが考えられる。機械的接続であるコネクタの場合、配線間の接続は1対1の接続が基本であることから、分岐配線のためには、上記の通りFPCの多層化が必要になる。また、FPCの設計が、コネクタの本数やサイズなどの制約を受ける。
【0019】
さらに、製品毎に専用のコネクタを製造することはコストアップとなるうえに、車載用コネクタはサイズが大きく、FPCの薄くて軽いというメリットを引き出せない。
【0020】
これらのことから、設計の自由度が高く、分岐配線にも対応可能な実装的接続方法が有効となる。この実装的接続方法には、たとえばACF等が考えられるが、車載用ワイヤハーネスは数アンペア以上の大電流を流す必要があり、ACFによる導通は、バインダ樹脂の硬化収縮力に依存したものであるため、熱、振動などの過酷な状況下に晒される自動車用途には不利である。
【0021】
また、実装的接続方法は、通常の電子機器に比し、振動、温度ともに厳しい使用環境下に晒される自動車用部品では、部品を増加させず狭隘スペースにも配設できること、並びに、部材の脆弱化及び接続強度低下を防止し、かつ電気的絶縁性を確保することが要請される等の課題がある。
【0022】
そこで、上記の実情に鑑み、フレキシブルプリント基板の接合において、設計の自由度が高く分岐配線にも対応可能で、部品を増加させず狭隘スペースにも配設でき、部材の脆弱化及び接続強度低下を防止し、電気的絶縁性を確保するために、解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明は、この課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、端子部を有する2枚のフレキシブルプリント基板の接合方法において、2枚のフレキシブルプリント基板のうちの一方の上に、前記端子部の接合予定箇所と対応する開口部を有する接着材を仮付けする仮付け工程と、前記接着材の上に他方のフレキシブルプリント基板を位置合わせして重ね合わせる重合工程と、前記2枚のフレキシブルプリント基板における前記端子部の接合予定箇所を加熱加圧する熱圧着工程とを備え、
前記2枚のフレキシブルプリント基板は、交差を有する分岐配線を形成し、前記接着材の開口部にて2枚のフレキシブルプリント基板の端子部同士を溶接で接合することを特徴とするフレキシブルプリント基板の接合方法を提供する。
【0024】
この接合方法によれば、まず、2枚のフレキシブルプリント基板の一方の上に接着材を位置合わせして仮付けした後、接着材の上に他方のフレキシブルプリント基板を位置合わせして重ね合わせる。次に、2枚のフレキシブルプリント基板における端子部の接合予定箇所、即ち、接着材の開口部と対応部分を局所的に加熱加圧する。
【0025】
そして、前記熱圧着工程の後若しくは同時に、接着材の開口部に対応する箇所において、双方のフレキシブルプリント基板の端子部同士が溶接によって接合される。即ち、2つのフレキシブルプリント基板の端子部は互いに直接融着して接続される。斯くして、車載用のワイヤハーネスの代替品として高品質の回路配線基板が得られる。
【0026】
請求項2記載の発明は、前記2枚のフレキシブルプリント基板の端子部同士を接合する溶接がレーザ溶接であることを特徴とする請求項1記載のフレキシブルプリント基板の接合方法を提供する。
【0027】
この接合方法によれば、2枚のフレキシブルプリント基板の端子部は、双方のフレキシブルプリント基板の端子部を接触させた状態で、レーザ溶接によって接合される。即ち、2つのフレキシブルプリント基板の端子部同士は、レーザ溶射により直接融着して接続される。
【0028】
請求項3記載の発明は、前記接着材が接着シートの両面にリリースペーパを設けて成ることを特徴とする請求項1又は2記載のフレキシブルプリント基板の接合方法を提供する。
【0029】
この接合方法によれば、2枚のフレキシブルプリント基板の間に配置する接着材として、接着シートの両面にリリースペーパを設けて形成したものを用い、上記端子部の接合予定箇所には、打ち抜き加工により開口部が形成される。
【0030】
請求項4記載の発明は、前記接着材がコアシートの両面に接着性樹脂を介してリリースペーパを設けて成ることを特徴とする請求項1又は2記載のフレキシブルプリント基板の接合方法を提供する。
【0031】
この接合方法によれば、2枚のフレキシブルプリント基板の間に配置する接着材として、コアシートの両面に接着性樹脂を介してリリースペーパを設けて形成したものを用い、上記端子部の接合予定箇所には、打ち抜き加工により開口部が形成される。
【発明の効果】
【0034】
請求項1記載の発明は、2枚のフレキシブルプリント基板同士を接合して一体化することで、車載用のワイヤハーネスの代替品として設計の自由度が高い配線ユニットを容易に量産化でき、しかも、長尺サイズのものであっても、分岐した配線にも有効に適用することができる。さらに、2つのフレキシブルプリント基板の端子部を互いに直接融着して接続するので、前記端子部の接合部の機械強度を増大させることができ、且つ、良好な電気的絶縁性を確保することができる。
【0035】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加えて、2つのフレキシブルプリント基板の端子部同士をレーザ溶射して直接溶接するので、前記端子部の接続部分の機械強度が一層増大するばかりでなく、電極等の部品が不要であり、狭隘スペースにも容易に配設できる。加えて、部材の脆弱化を招くことなく、分岐配線あるいは複数の配線間に容易に接合することができる。特に、接着材の硬化後にレーザ溶接した場合、接着材の開口部への樹脂の流れ込みをより確実に防止することができる。
【0036】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明の効果に加えて、接着材の開口部は、打ち抜き加工により精度良く簡単に形成できるとともに、溶接部間の電気的絶縁性を確実に確保することができる。
【0037】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の発明の効果に加えて、請求項3記載の発明と同様の効果、即ち、接着材の開口部は、打ち抜き加工により精度良く簡単に形成できるとともに、溶接部間の電気的絶縁性を確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の第一の実施例に係る第一のFPC1と第二のFPCとの接合の構成を示す分解斜視図。
【
図2】第一の実施例に係る第一のFPCを示す斜視図。
【
図3】第一の実施例に係る接着材と第一のFPCを位置合わせして仮付けする状態を示す斜視図。
【
図4】
図3の仮付け後に第二のFPCを位置合わせして重ね合わせる状態を示す分解斜視図。
【
図5】第一の実施例に係る加熱加圧ツールを用いて第一のFPCと第二のFPCを圧着する状態を示す分解斜視図。
【
図6】第一の実施例に係る第一のFPCと第二のFPCをレーザ溶接する状態を示す斜視図。
【
図7】本発明の第二の実施例に係る分岐配線を有する第一のFPCと第二のFPCとの接合の構成を示す分解斜視図。
【
図8】第二の実施例に係る加熱加圧ツールによって第一のFPCと第二のFPCを接着する状態を示す斜視図。
【
図11】
図10の分岐配線に対して、FPCを両面化して配線を交差させた例を示す平面図。
【
図13】長い配線をシート面内に蛇行して配置した例を示す平面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明は、設計の自由度が高く分岐配線にも対応でき、部品を増加させず狭隘スペースにも配設でき、部材の脆弱化及び接続強度低下を防止して電気的絶縁性を確保すると云う目的を達成するため、端子部を有する2枚のフレキシブルプリント基板の接合方法において、2枚のフレキシブルプリント基板のうちの一方の上に、前記端子部の接合予定箇所と対応する開口部を有する接着材を仮付けする仮付け工程と、前記接着材の上に他方のフレキシブルプリント基板を位置合わせして重ね合わせる重合工程と、前記2枚のフレキシブルプリント基板における前記端子部の接合予定箇所を加熱加圧する熱圧着工程とを備え、前記
2枚のフレキシブルプリント基板は、交差を有する分岐配線を形成し、前記接着材の開口部にて2枚のフレキシブルプリント基板の端子部同士を溶接で接合することを特徴とする。
【0041】
上述のように、自動車用部品は通常の電子機器に比べて、振動、温度ともに極めて厳しい環境下に晒される。はんだはこのような環境下において、結晶粒界が成長しやすくなり、全体として脆くなる。このため、はんだによるフレキシブルプリント基板(以下「FPC」と称する)同士の接続は信頼性の点で、はんだ接合条件を厳密に管理する等、実用化レベルで改良の余地がある。
【0042】
近年、実装的接続方法に加えて、FPC同士、あるいはFPCと実装部品などを溶接で接合する方法が研究開発されている。これらの接続は、端子部金属そのものを直接融着するため、接触抵抗、信頼性の面で上記実装的接続方法に比べて有利である。
【0043】
本発明で適用可能な溶接には、主に抵抗溶接、超音波溶接、レーザ溶接などがある。このうち抵抗溶接は、たとえば特許文献1に開示されているように、2つのFPCの接続したい端子部同士を接触させ、夫々に電極を押し当てて、通電することにより、端子部間の接続抵抗で発熱、融着するものであり、専用の電極が必要になる。
【0044】
また、超音波溶接は、溶接したい母材同士を接触させて加圧しながら超音波による振動を与えることで、母材間にて双方の金属が相互に拡散し、融着する手法である。
【0045】
さらに、レーザ溶接は母材間を接触させた状態で、溶接したい面の反対側からレーザを照射することで、母材間の金属を溶融して、母材間を融着する手法である。レーザ溶接は、専用の電極を形成するスペースが確保し難い場合、或いは複数の配線間を接合する場合に最も有効である。
【0046】
ところで、これら溶接によって形成された溶接部は、ピンポイントの接続であるため、機械的強度が不足する虞があり、また、溶接部間若しくは端子部間は金属が露出した状態であり、電気的絶縁性を確保する必要がある。これらはFPCに対してBGA(ボールグリッドアレイ)等を実装する際に適用するアンダーフィルと同じ手法で対応可能である。
【0047】
抵抗溶接においては、接着材を母材間に介在させて溶接するウェルドボンディングという手法がある。レーザ溶接においても、母材が数ミリと厚い場合は高出力で溶接することが可能となるため、母材間に接着材が介在しても、熱伝導を妨げることは少ないことから、本手法が適用可能になる。
【0048】
しかしながら、FPC間の溶接においては、母材となる銅の厚さは100μm以下と薄い。このため、接着材の介在による熱伝導の妨げに対し、高出力で加工を行うと、銅箔を貫通し、溶接できないことがある。
【0049】
そこで、FPC同士をレーザ溶接する場合において、母材間に接着材を適用し、機械強度を確保する際、この場合、溶接時の熱伝導を妨げないように、レーザ照射部となる箇所が開口するように接着材を形成する。 接着材としては、熱硬化性を有し、硬化後に耐熱性と電気的絶縁性を有する、フィルムタイプ、或はインクタイプ(以下、ペーストタイプを含む)の材料が適用可能である。
【0050】
フィルムタイプの場合は、あらかじめレーザ照射部となる箇所に打ち抜き加工を施しておき、また、インクタイプの場合は、レーザ照射部となる箇所をマスキングして塗布(例えばスクリーン印刷)し、これによって、接着材のうち、レーザ照射部となる箇所に開口部が形成される。
【0051】
この開口部の形状は、溶接部間の電気的絶縁性を確保するため、各端子部ごと、即ち、個別のレーザ照射部となる箇所ごとに個別に設定する。
【0052】
なお、レーザ照射部となる箇所の開口部は、各端子部間を跨ぐように、レーザ照射部を含めてスリット状に一括して接着材に形成することができるが、この場合、隣り合うレーザ溶接部及び端子部間での電気的絶縁性を確保することが困難になる。
【0053】
これは、スリット状に開口した場合、吸湿したFPCから放出した接着材が、開口部における端子部間にイオンマイグレ−ションを引き起こすためである。
【0054】
レーザ溶接は、接着材の硬化前または硬化後のいずれでも実施可能であり、特に硬化後にレーザ溶接する場合、接着材の硬化時にレーザ照射部となる箇所を加圧しながら加熱して硬化する。これにより、レーザ照射部となる箇所、即ち、接着材の開口部と対応する箇所のFPCが変形し、軟化した接着材の樹脂が開口部へ流れ込むことを防止することができる。
【0055】
接着材に替えて熱可塑性樹脂の適用も考えられるが、車載用途の高温環境に耐えうる機能の樹脂とするためには、ガラス転移温度の高いものを使用し、高温たとえば250℃での加工が必要である。
【0056】
また、熱可塑性樹脂は、一般に十分な接着力を発現するためには、高圧での加圧が必要である。これらのことから、熱可塑性樹脂に比べて低温・低圧で加工可能な接着材を採択することが有利である。
【0057】
また、FPC同士の接着箇所は、1製品につき複数個所に跨る。このため、接着材としては速硬化性樹脂を使用し、接着工程時間を短縮させることが望ましい。また、上述のように車載用途の高温環境に耐えるため、本発明の接着材樹脂およびコアシートに係る材料としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、エポキシまたはポリエーテルイミド(PEI)などを採択できる。
【0058】
本発明においては、例えば以下の手順で2つのFPC同士を接続することができる。
(1)接着材(接着フィルム)の外形加工を行うと共に、該接着材におけるレーザ照射部となる箇所(溶接予定個所)に開口部を設ける。
(2)一方のFPCの接続する端子部に接着材を位置合せして重ねた状態で仮付けする。
(3)もう一方のFPCを位置合せして重ね合せる。
(4)レーザ照射部のポイントに対し、局所的な加熱加圧を行う。この場合、樹脂フィルムが硬化するように加熱温度及び加圧力を設定する。また、レーザ照射部となる箇所を局所的に加熱加圧することで、FPCが変形し、接着材の軟化による該接着材の開口部への樹脂の流れ込みを防止できる。
(5)レーザ照射により両FPCの端子部同士を溶接する。
【0059】
又、例えば以下の手順により2つのFPC同士を接続しても良い。
(1)接着材の外形加工を行うと共に、該接着材におけるレーザ照射部となる箇所に開口部を設ける。
(2)一方のFPCの接続する端子部に上記接着材を位置合せして仮付けする。
(3)前記FPCにもう一方のFPCを位置合せして重ね合わせし、仮固定する。この際、加熱加圧は必要時に行う。
(4)レーザ照射にて両FPCを溶接する。
(5)溶接後に加熱を行うが、必要に応じて加圧を行い、接着材を硬化させる。
また、インクタイプの接着材(接着インク)を用いて、例えば以下の手順で接合することも可能である。
(1)一方のFPCの端子部露出部に接着インクを印刷する。この場合、レーザ照射部となる箇所をマスキングすることで、接着インクのうち、レーザ照射部となる箇所に開口部を設ける。必要に応じて加熱などを行い、接着インクを乾燥させる。
(2)前記FPCにもう一方のFPCを位置合せして重ね合わせる。
(3)レーザ照射の予定ポイントに対し、局所的な加熱加圧を行う。この場合、接着材の樹脂フィルムが硬化するように、加熱温度及び加圧・加熱時間を適切に設定する。また、レーザ照射の予定ポイントを局所的に加熱加圧することで、FPCが変形し、接着材の軟化による接着材の開口部への樹脂の流れ込みを防止する。
(4)レーザ照射にて両FPC間を溶接する。
【0060】
インクタイプの接着材については、例えば以下のような方法も採択できる。
(1)一方のFPCの端子露出部に接着インクを印刷する。この場合、レーザ照射部となる箇所をマスキングすることで、接着インクのうち、レーザ照射部となる箇所に開口部を設ける。必要に応じて加熱などを行い、接着インクを乾燥させる。
(2)前記FPCにもう一方のFPCを位置合せして重ね合わせ、仮固定する。この場合、加熱加圧は必要時に行う。
(3)レーザ照射にて両FPC間を溶接する。
(4)加熱、必要に応じて加圧を行い、接着材を硬化する。
【0061】
以上の接合方法により、車載用ワイヤハーネス代替品としてのFPC同士をレーザ照射等で溶接する場合において、溶接部の機械強度並びに溶接部間の電気的絶縁性を同時に確保することが可能となる。
【実施例1】
【0062】
以下、本発明の好適な第一の実施例1について詳しく説明する。本実施例1は、フレキシブルプリント基板(以下「FPC」と称する)同士の接合方法の代表例を示すが、説明中の各種材料や工程条件等は一例であって、これに限定されるものではない。
【0063】
図1は、本実施例1に係る第一のFPC1と第二のFPC2との接合の構成を示す。第一のFPC1及び第二のFPC2は夫々、通常のFPC製造工程で各別に作製されたものである。各FPC1,2に設けた接合端子部12,22の配線は表面に露出しており、その他の配線(図せず)はカーバレイやソルダーレジストなどの絶縁性樹脂で保護されている。また、接合端子部12,22にはニッケル/金メッキが施されている。
【0064】
そして、各々の第一のFPC1と第二のFPC2は、厚さ25μmのポリイミドをベースとして形成され、厚さ35μmの銅箔がラミネートされた銅張板を開始材料として、フォトファブリケーションプロセスにて配線を形成している。
【0065】
第一のFPC1と第二のFPC2は、速硬化性樹脂製のシート状の接着材(以下「接着材シート」と云う。)3を介して貼り合わせられる。この接着材シート3としては、例えば接着シートの両面にリリースペーパを設けて形成したもの、或いは、コアシートの両面に接着性樹脂を介してリリースペーパを設けて成るものなどを適宜採択し得るが、本例では東レ株式会社製のNCF(商品名:LNA-2132)を使用した。
【0066】
図2は、第一のFPC1の斜視図を示す。第一のFPC1における複数の接合端子部12を挟む両側には、一対のガイド孔11,11が相対峙して形成されている。該ガイド孔11,11は、
図5に示す位置合わせツール5に立設した一対のガイドピン51,51に嵌合可能に設けられている。なお、前記位置合わせは、ガイドピン位置合わせ方式のほかにも、画像処理の手法を用いた位置合わせ方式などの他の方式も適宜採用できる。
【0067】
次いで、
図3に示すように、接着材シート3と第一のFPC1とは、接着材シート3のガイド孔21,21と第一のFPC1のガイド孔11,11を前記ガイドピン51,51に嵌合させて互いに位置合わせを行い、仮付けする。この場合、仮付け温度は、当該接着材シート3の硬化温度(約200℃)よりも充分低い温度たとえば80℃に設定する。
【0068】
なお、第一のFPC1及び第二のFPC2の製造工程とは別に、接着材シート3には、該接着材シート3の外形を設定条件に従い形成するとともに、位置合わせ用のガイド孔31,31並びにレーザ照射部42(
図5参照)となる複数の穴(開口部)32を予め所定位置に形成しておく。
【0069】
この後、
図4に示すように、第二のFPC2の位置合わせを行うが、第二のFPC2における複数の接合端子部22を挟む両側には、予め一対のガイド孔21,21が相対峙して開穿されている。また該ガイド孔21,21は、前記ガイドピン51,51に嵌合可能に設けられている。
【0070】
而して、第二のFPC2の位置合わせを行う際は、第一のFPC1の上面側に接着材シート3を介して第二のFPC2を配設し、そして、第二のFPC2のガイド孔21,21を前記ガイドピン51,51に嵌合させて位置合わせして、前記接着材シート3の上に第二のFPC2を重ね合わせる。
【0071】
図5に示すように、複数のレーザ照射部42に対応する箇所に複数の突起62を有する加熱加圧ツール6を用いて、第二のFPC2の上面側から、接着材シート3が仮付けされた第一のFPC1と第二のFPC2を熱圧着する。
【0072】
この場合、前述したように、位置合わせツール5のピンガイド51,51を用いて、2つのFPC1,2を圧着したもの、即ち一体化構造のFPC4(以下、「一体化FPC4」という。)と加熱加圧ツール6とを位置合わせ用のガイド孔41,41及び61,61にピンガイド51,51を嵌合させて位置合わせする。
【0073】
一体化FPC4と加熱加圧ツール6とを重ね合わせた状態で、加熱加圧ツール6を押し下げて一体化FPC4を押圧することで、一体化FPC4におけるレーザ照射部42となる箇所(接合予定箇所)が、加熱加圧ツール6下面側に突設した前記突起62によって局所的に加圧される。この突起62は、熱圧着手段として機能するものであり、例えば通電により発熱するセラミックヒーターが内蔵されている。
【0074】
これにより、接着材シート3における穴32の周囲領域を硬化させることで、レーザ照射部42となる箇所への溶融樹脂の流入を防止し、且つ、前記FPC1,2双方の接合端子部12,22を形成する金属箔同士がレーザ照射部42において密着する。なお、圧着時の温度は23℃、圧力は10N、時間は10秒とした。
【0075】
この後、一体化FPC4を押圧した加熱加圧ツール6を取り外し、
図6に示すように、加熱加圧ツール6の突起62によって局所的に加圧されたレーザ照射部42に対して、第二のFPC2の上面側からレーザLを照射し、第一のFPC1の接合端子部12と第二のFPC2の接合端子部22の双方の金属をレーザ溶接する。
【0076】
本実施例によるレーザ溶接では、ミヤチテクノス株式会社製のYAG−SHGグリーンレーザ溶接装置ML−8150Aを用い、レーザ溶接のピークパワーは0.6KWとした。
【0077】
以上の接合方法による各工程によって、接着材シート3により溶接部の接合強度が補強され、接合端子部12,22及び溶接部が電気的に絶縁された、レーザ溶接によるFPC1,2同士の接合が可能になる。
【実施例2】
【0078】
次に、本発明の好適な第二の実施例2について説明する。本実施例2は、本発明方法を適用することで、分岐した配線の形成も可能にするものである。なお、基本的な接合方法は前記実施例1と同様であるので、主に相違する点について説明する。
【0079】
図7は、本発明の第二の実施例2に係る分岐配線を有する第一のFPC7と第二のFPC8との接合の構成を示す。第一のFPC7、第二のFPC8及び接着材シート9には、それぞれ対応する一対の位置合わせ用のガイド孔71,71、ガイド孔81,81及びガイド孔91,91が開穿されている。
【0080】
第一のFPC7の配線保護層であるカバーレイ72の開口部は、該FPC7の接合端子部73の伸長方向に対し傾斜する斜辺部を有する形状を呈し、第一のFPC7の配線と第二のFPC8の配線とが交差箇所でショートしないように形成されている。なお、カバーレイ72の開口形状は、設計条件などに応じて階段状等の他の形状も考えられる。
【0081】
接着材シート9はその外形寸法、位置合わせ用のガイド孔91及びレーザ照射用の穴92が接合条件を満たすように予め形成されている。第一のFPC7、接着材シート9及び第二のFPC8は、第一の実施例1とほぼ同様の手順で加熱圧着することができる。
【0082】
即ち、FPC7の上に、各FPC7,8の端子部73,82と対応する複数の開口部92を有する接着材9を位置合わせして仮付けした後、更に接着材9の上にFPC8を位置合わせして重ね合わせる。これにより、前記FPC7,8の接合端子部73,82同士が、レーザ照射用の穴92にて互いに対面するようにセットされる。
【0083】
このあと、2枚の前記FPC7,8の同士を押圧しつつ加熱することで、前記FPC7,8同士を接合して一体化する。具体的には、前記FPC7,8のレーザ照射部101となる接合予定箇所(穴92に対応する箇所。
図8参照)に対して、局所的に加圧可能な突起を有する加熱加圧ツール(図示せず)を用いて、第一のFPC7と第二のFPC8を圧着する。
【0084】
そして、前記レーザ照射部101となる箇所を局所的に加熱加圧し、かつ、加圧箇所の周囲の接着材シート9を硬化させることにより、レーザ照射用の穴92へ溶融樹脂が流入することを防止するとともに、第一のFPC7と第二のFPC8の金属箔同士が、レーザ照射部101となる箇所において互いに密着する。
【0085】
この後、前記加熱加圧ツールを取り外した後、局所的な加圧部であるレーザ照射部101に対して、第二のFPC8側の面からレーザを照射し、第一のFPC7と第二のFPC8の金属を接合する。これにより、分岐した配線を有する一体化構造のFPC10が得られる。
【0086】
叙上の如く、本発明によると、一方のFPC上に接着材を位置合わせして仮付けした後、接着材の上に他方のFPCを重ね合わせ、そして、2枚のFPCにおける接合予定箇所(開口部相当箇所)を局所的に加熱加圧することにより、両FPCが一体化される。そして、2枚のFPCの端子部は、前記熱圧着工程と同時あるいは前記熱圧着工程の後に、接着材の穴に対応する箇所にて、双方のFPCの端子部同士が溶接によって接合される。
【0087】
斯くして、溶接で接合された一体化FPCは、車載用のワイヤハーネスの代替品として、設計の自由度が高い配線を容易に形成でき、長尺サイズのものであっても、接合部の機械強度と電気的絶縁性の双方を良好に確保し、分岐した配線にも有効に適用することができる。
【0088】
本発明は、双方のFPCの端子部同士を接触させた状態で、該端子部にレーザ溶射して直接融着して接続させた場合は、コネクタなどの追加の部品が不要であり、狭隘スペースにも容易に配設でき、加えて、部材の脆弱化を招くことなく、分岐配線あるいは複数の配線間を容易に接続することができる。
【0089】
2枚のFPCの間に配置する接着材としては、シートタイプのもの又はインクタイプのもののいずれでも用いることができ、この場合、接着材に形成する穴は、打ち抜き加工、或いは、マスキングを施した印刷等により、簡単に精度良く形成でき、溶接部間の電気的絶縁性を確実に確保することができる。
【0090】
尚、本発明は本発明の精神を逸脱しない限り、様々の改変をすることができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明に係るFPCの接合方法は、車両用電子部品等を配線する場合に限らず、各種情報機器用若しくは精密機器用の電子部品等を配線する場合にも幅広く応用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1 第一のFPC
11 位置合わせ用のガイド孔
12 接合端子部
2 第二のFPC
21 位置合わせ用のガイド孔
22 接合端子部
3 接着材シート
31 位置合わせ用のガイド孔
32 レーザ照射用の穴(開口部)
4 一体化FPC
41 位置合わせ用のガイド孔
42 レーザ照射部
5 位置合わせツール
51 ピンガイド
6 加熱加圧ツール
61 位置合わせ用のガイド孔
62 突起(熱圧着部)
7 第一のFPC
71 位置合わせ用のガイド孔
72 カバーレイ
8 第二のFPC
81 位置合わせ用のガイド孔
9 接着材シート(接着材)
91 位置合わせ用のガイド孔
92 レーザ照射用の穴(開口部)
10 一体化FPC
101 レーザ照射部(溶接部)