特許第5782017号(P5782017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許5782017-リアクトル及びその製造方法 図000002
  • 特許5782017-リアクトル及びその製造方法 図000003
  • 特許5782017-リアクトル及びその製造方法 図000004
  • 特許5782017-リアクトル及びその製造方法 図000005
  • 特許5782017-リアクトル及びその製造方法 図000006
  • 特許5782017-リアクトル及びその製造方法 図000007
  • 特許5782017-リアクトル及びその製造方法 図000008
  • 特許5782017-リアクトル及びその製造方法 図000009
  • 特許5782017-リアクトル及びその製造方法 図000010
  • 特許5782017-リアクトル及びその製造方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782017
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】リアクトル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20150907BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   H01F37/00 J
   H01F37/00 E
   H01F37/00 M
   H01F41/12 C
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-280068(P2012-280068)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-123680(P2014-123680A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2014年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北見 明朗
(72)【発明者】
【氏名】渥美 貴司
(72)【発明者】
【氏名】篠原 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 壮史
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−114122(JP,A)
【文献】 特開2010−219251(JP,A)
【文献】 特開2011−071466(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0126928(US,A1)
【文献】 特開2010−050334(JP,A)
【文献】 特開2010−238798(JP,A)
【文献】 実開平07−027129(JP,U)
【文献】 特開2011−086657(JP,A)
【文献】 特開2010−165857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 41/12
H01F 41/04
H01F 30/00
H01F 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル側面の一部が露出しており他の部分が樹脂に覆われているリアクトルの製造方法であり、
筒部の一方の端部にフランジが設けられており他方の端部に前記筒部の軸線方向に伸びる細長の板部が設けられているボビン本体と、当該ボビン本体の前記他方の端部に取り付けるフランジパーツの少なくとも2部品で構成されているボビンを準備し、前記筒部にコイルが挿通されており、前記ボビン本体の前記他方の端部に前記フランジパーツが取り付けられており、前記板部が前記フランジパーツのコイル軸線方向の外側に突出しているアセンブリを組み立てる組立工程と、
コイル側面の前記一部が第1金型のキャビティ面に接するように前記アセンブリを第1金型に設置し、第2金型を第1金型に向かい合わせて閉じる閉型工程と、
キャビティ内にて、第2金型のキャビティ面からボビンに向けて一対の押圧棒を伸ばし、一方の押圧棒が前記板部に当接し、他方の押圧棒が前記コイルを挟んで前記板部とは反対側でボビン本体に当接し、コイル長手方向の両側でコイル側面の前記一部とは反対側から前記ボビン本体を押圧しながらキャビティ内に樹脂を射出する樹脂射出工程と、
を備えることを特徴とするリアクトルの製造方法。
【請求項2】
ボビンの両端からコアが突出しており、
樹脂射出工程が、第2金型のキャビティ面からコアに向けて別の押圧棒を伸ばし、ボビンの両側でコイル側面の前記一部とは反対側からコアを押圧してコイル側面の前記一部と同じ側のコアの面をキャビティ面に押し付ける工程を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
コアは複数のコアパーツに分割されており、ボビンの内側で第1コアパーツと第2コアパーツが間に接着剤を充填されて対向しており、
接着剤が固化する前に射出工程が実施されることを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
ボビンの筒部の内側に、第1コアパーツと第2コアパーツの間のギャップを確保するフランジがボビン内周を一巡するように設けられていることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
ボビンの外側に平角線がエッジワイズに巻回されているとともに、内側をコアが通っているリアクトルであって、
前記ボビンが、筒部の一方の端部にフランジが設けられており他方の端部に筒部の軸線方向に伸びる細長の板部が設けられているボビン本体と、ボビン本体の前記他方の端部に取り付けるフランジパーツの少なくとも2部品で構成されており、
前記板部が、前記フランジパーツのコイル軸線方向の外側に突出しており、
コイル側面の一部が露出しており他の部分が樹脂に覆われている、
ことを特徴とするリアクトル。
【請求項6】
コイル全体が略直方体であり、その直方体の一側面の全体が露出していることを特徴とする請求項5に記載のリアクトル。
【請求項7】
コアは複数のコアパーツに分割されており、ボビンの内側で第1コアパーツと第2コアパーツが間に接着剤を充填されて対向しており、
ボビンの筒部の内側に、第1コアパーツと第2コアパーツの間のギャップを確保する内側フランジがボビン内周を一巡するように設けられている、
ことを特徴とする請求項5又は6に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルに関する。なお、リアクトルとは、コイルを利用した受動素子であり、「インダクタ」と呼ばれることもある。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車を含む電気自動車のモータ駆動系では電圧コンバータなどの回路にリアクトルが用いられることがある。走行用のモータを駆動するには大電流が必要であるため、リアクトルにも大電流が流れ、その発熱量は大きい。そこで、発熱量を抑えるため、コイルの巻き線として内部抵抗が小さい平角線が用いられることがある。平角線を用いる場合、幅広の面をコイル長手方向に向けて巻く。別言すれば、幅の狭い面をコイル半径方向に向けて巻く。そのような巻き方はエッジワイズ、あるいは、縦巻きと呼ばれる。
【0003】
平角線をエッジワイズに巻くことに加え、発熱量をさらに抑制するために、コイルの側面に放熱板を接触させることが提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−114122号公報
【特許文献2】特開2012−124401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
平角線は剛性が高いので、ターン毎の半径が均一に揃わないことがある。その結果、ターン毎の平角線の外側位置が微妙にずれてしまい放熱板との接触面積が少なくなってしまう。放熱板との接触予定のコイル側面とは反対側からコイルを押しつけても、今度はコイルの剛性の低さによって必ずしも接触予定面(放熱板と接触予定のコイル側面)が十分に平坦にならない。そこで、特許文献1に開示された技術では、接触予定面に板をあてがい、コイルの内側から外側に向かって押圧し、接触予定面を平坦にする。特許文献1に開示された技術はより詳しくは以下の通りである。
【0006】
特許文献1が開示するリアクトルでは、平角線を略矩形にエッジワイズに巻回し、コイル全体を直方体に成形し、その一側面を放熱板に接触させる。以下、コイル側面のうち、放熱板と接触させる予定の面を接触予定面と称する。なお、コイルの内側には樹脂製のインシュレータ(ボビン)が配置される。接触予定面を平坦に揃えるために、コイルにボビンを挿通し、コイルの接触予定面に別の板を当て、コイルの両側で接触予定面とは反対側からボビンを押圧する。そうすると、ボビンの筒部がコイルの内側から外側(接触予定面側)へ押圧することになり、接触予定面が平坦に揃えられる。
【0007】
ただし、特許文献1に開示された技術では、ボビンが両端のフランジ部分(コイルの長手方向の夫々と対向する部分)と、筒部分とに分割されており、フランジには、筒部分の内側に突出しており筒部分を押圧する突起が設けてある。このように、特許文献1に開示された技術では、複雑なボビンを必要とする。
【0008】
本明細書は、平角線をエッジワイズに巻回したコイルを有するリアクトルに関し、コイルの側面(接触予定面)を平坦に揃え、放熱板(あるいは冷却器)と良好に接触して冷却効率を高める技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書が開示する技術の一態様は、リアクトルの新規な製造方法に具現化することができる。その方法は、平角線を略矩形にエッジワイズに巻回したコイル側面の一部が露出しており他の部分が樹脂に覆われているリアクトルの製造方法である。コイル側面の一部が、前述したように、放熱板(あるいは冷却器)と接する予定の面であり、前述した接触予定面に相当する。
【0010】
本明細書が開示する新規な製造方法は、組立工程、閉型工程、樹脂射出工程を備える。組立工程では、筒部に一方のフランジが設けられたボビンを、筒部の先端がコイルから突出するまでコイルに挿通してコイルとボビンのアセンブリ(コイルアセンブリ)を組み立てる。ボビンは、筒部の一方の端部にフランジが設けられており他方の端部に筒部の軸線方向に伸びる細長の板部が設けられているボビン本体と、ボビン本体の他方の端部に取り付けるフランジパーツの少なくとも2部品で構成されている。なお、この組立工程は、筒部の先端からフランジパーツを取り付けることを含む。フランジパーツを取り付けると、板部がフランジパーツのコイル軸線方向の外側に突出する。閉型工程は、樹脂成形のためにコイルアセンブリを金型内に設置する工程であり、接触予定面が第1金型のキャビティ面に接するようにコイルアセンブリを第1金型に設置し、第2金型を第1金型に向かい合わせて閉じる。樹脂射出工程では、キャビティ内にて、第2金型のキャビティ面からボビンに向けて一対の押圧棒を伸ばし、一方の押圧棒が前記板部に当接し、他方の押圧棒が前記コイルを挟んで前記板部とは反対側でボビン本体に当接し、コイル長手方向の両側で接触予定面とは反対側からボビン(ボビン本体)を押圧する。ボビンを押圧して接触予定面を第1金型のキャビティ面に押し付ける。そして、ボビンを押圧しながら、キャビティ内に樹脂を射出する。射出した樹脂が固化すれば、接触予定面が露出し他が樹脂で覆われているリアクトルが完成する。なお、樹脂は、接触予定面以外の全てを覆っている必要はなく、接触予定面以外にも露出部位があってもよい。また、放熱版(冷却器)との接触面積が大きくなるように、コイルは略矩形に巻回されて全体が略直方体を成しており、4つの側面(直方体の6面のうち、コイル軸線方向の2面を除く4面)のうち一側面の全体を樹脂から露出させて上記の接触予定面とすることが好適である。
【0011】
上記の製造方法では、筒部に一方のフランジが設けられたボビンを採用する。他方のフランジは筒部とは別パーツに分割されている。ボビンの筒部をコイルに通した後、そのボビンの両端を押圧すると、筒部がコイルの内側から接触予定面をキャビティ面に押し付ける。一つのボビンの両端を押圧するので、接触予定面を安定してキャビティ面に押し付けることができ、接触予定面を平坦に揃えることができる。
【0012】
ボビンにはコアが挿通される。ボビンの両端からコアが突出しており、コアの下面(接触予定面と同じ側の面)でリアクトルを冷却器(あるいは放熱板を兼ねたケース)に固定する場合がある。そのような場合、冷却器と接触するコアの下面からも熱が拡散する。接触予定面とともにコア下面が冷却器と接触することになるので、コア下面が隙間なく冷却器と接するためには接触予定面に対するコア下面の相対的な位置精度が高いことが望まれる。コア下面の位置精度を高めるために、押圧工程が、第2金型のキャビティ面からコアに向けて別の押圧棒を伸ばし、ボビン長手方向の両側で接触予定面とは反対側からコアを押圧して接触予定面と同じ側のコアの面(コア下面)をキャビティ面に押し付ける工程を含むことが好ましい。コイルの接触予定面とコア下面を別々の押圧棒で金型に押し付けることによって、接触予定面に対するコア下面の位置精度を高くすることができる。
【0013】
本明細書が開示する製造方法では、コアが複数のコアパーツに分割されており、ボビンの筒部の内側で第1コアパーツと第2コアパーツが間に接着剤を充填されて対向しており、接着剤が固化する前に樹脂射出工程が実施されることが好ましい。さらに、ボビンの筒部の内側に、第1コアパーツと第2コアパーツの間のギャップ(接着剤を充填するためのギャップ)を確保するフランジがボビン内周を一巡するように設けられていると一層よい。複数のコアパーツを接着剤で接合する場合、前述の押圧棒でコアを押し付ける前に接着剤が固化してしまうと、隣接するコアパーツの相対位置がばらつき、ボビンの両側で押圧棒がコアを押圧したときにいずれか一方のコアパーツがキャビティ面としっかり接触しなくなる虞がある。そこで、接着剤が固化する前、即ち、ボビンの両端から突出している夫々のコアパーツが別々に動ける間に押圧棒で押し付けると、夫々のコアパーツの下面がキャビティ面にしっかり接触するようになる。
【0014】
本明細書は、上記の製造方法に適した形状のリアクトルも提供する。そのリアクトルは、ボビンの外側に平角線がエッジワイズに巻回されているとともに、内側をコアが通っているリアクトルであり、ボビンが次の構造を有している。そのボビンは、筒部の一方の端部にフランジが設けられており他方の端部に筒部の軸線方向に伸びる細長の板部が設けられているボビン本体と、ボビン本体の他方の端部に取り付けるフランジパーツの少なくとも2部品で構成されている。そして、リアクトル全体としては、コイルの接触予定面が露出しており他の部分が樹脂に覆われている。また、筒部の板部がフランジパーツのコイルとは反対側に突出している。上記のボビン本体をコイルに通したとき、コイル長手方向の一方の側にはフランジが露出し、他方の側には板部が露出する。前述の押圧棒は、コイル長手方向の一方側ではフランジを押圧し、他方側では板部を押圧することができる。前述したように、平角線が略矩形に巻回されてコイル全体が直方体をなし、その4つの側面(直方体の6面のうち、コイル軸線方向の2面を除く4面)のうちの一側面全体が接触予定面として露出していることが好ましい。
【0015】
上記のリアクトルはさらに、コアが複数のコアパーツに分割されており、ボビンの筒部の内側で第1コアパーツと第2コアパーツが間に接着剤を充填されて対向しており、ボビンの筒部の内側に、第1コアパーツと第2コアパーツの間のギャップを確保する内側フランジがボビン内周を一巡するように設けられているとよい。ボビン内周を一巡するように設けられている内側フランジと第1、第2のコアパーツが当接し、接着剤が充填される空間をキャビティ空間から隔離することになる。それゆえ、金型に樹脂を流し込んだ際、枠状のフランジの内側に充填された接着剤には樹脂が浸入せず、接着剤と樹脂が混ざることがない。接着剤が固化する前にキャビティ内に樹脂を射出しても接着剤は樹脂で希釈されず、確実にコアパーツ同士を接着することができる。
【0016】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例のリアクトルの斜視図である。
図2】コイルアセンブリの分解斜視図である。
図3】コイルアセンブリの分解斜視図である(コイルにボビン本体を通した状態)。
図4】コイルアセンブリの完成斜視図である。
図5図4のV−V線矢視における断面図である。
図6図1のVI−VI線矢視における断面図である(リアクトルが冷却器に取り付けられた状態)。
図7】製造工程を説明する図である(コイルアセンブリ設置工程)。
図8】製造工程を説明する図である(閉型工程)。
図9】製造工程を説明する図である(樹脂射出工程)。
図10】製造工程を説明する図である(完成したリアクトルの断面図)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して実施例のリアクトル2を説明する。図1に、リアクトル2の斜視図を示す。リアクトル2は、例えば電気自動車の駆動系においてバッテリの電圧を昇圧する電圧コンバータに用いられる。電気自動車の走行用モータは数十キロワットを出力することができ、バッテリから流れる電流は数十アンペアになる。リアクトル2にはそのような大電流が流れるので、内部抵抗の小さい平角線が巻き線として用いられるとともに、冷却器とセットで用いられる。なお、以下では、説明の便宜上、図に表示した座標系のZ軸の正方向を「上」と称し、Z軸の負方向を「下」と称する。
【0019】
リアクトル2の本体は、磁性体のコアに樹脂製のボビンを取り付け、そのボビンに平角線をエッジワイズに巻回したものである。実施例のリアクトル2は、コイル3、コア30(後述)、及び、ボビン20(後述)の大部分が樹脂製のカバー4で覆われている。コアとコイルとボビンのアセンブリを以下、コイルアセンブリ29と称する。
【0020】
図2にコイルアセンブリ29の分解斜視図を示す。コアは、一対のU字型のコアパーツ30a、30bに分割されており、それらを対向させて環状のコアが形成される。一対のU字型のコアパーツ30a、30bを合わせてコア30と総称する。ボビン20は、ボビン本体22とフランジパーツ21で構成される。ボビン本体22とフランジパーツ21はいずれも樹脂製である。ボビン本体22は、2個の筒部23が平行となるようにフランジ部25で連結した構造を有している。フランジ部25には、コイル3のリード部3bを通すスリット25aが設けられている。一方のコアパーツ30aのU字の脚部がボビン本体22のフランジ部25の側から筒部23に挿通される。2個の筒部23の外側には、平角線をエッジワイズに巻回したコイル3が配置される。図2に良く示されているように、コイル3は、1本の平角線を2個のコイルに形成し、その2個のコイルを巻回方向が同じ向きとなるように平行に並べたものである。平角線は剛性が高いため、コイル単体でもその形状を保持できる。コイル3にボビン本体22を挿通した後、コイルの反対側からフランジパーツ21を取り付け、最後にコアパーツ30a、30bをボビン20の夫々の端部から筒部23に挿通し、コイルアセンブリ29が完成する。
【0021】
本実施例のリアクトル2では、ボビン20の形状に特徴がある。コイル3は、略矩形に巻回されており、筒部23もその軸線方向から見ると略矩形である。矩形の筒部の4つの側面の夫々には細長の板部24a、24b、24cが設けられている。板部は筒部23の先端から筒部の軸線方向に延設されている。筒部23の上下の面に設けられた板部24a、24bは、筒部23の側面に設けられた板部24cよりも長い。
【0022】
図3に、ボビン本体22をコイル3に挿通した状態を示し、図4にコイルアセンブリ29の完成斜視図を示す。図3に示すように、コイル3に筒部23を挿通すると、板部24a、24b、24cがコイル3の反対側から突出する。ボビン20の一方の部品であるフランジパーツ21には、板部を含む筒部23の外形と同じ形状の嵌合孔21aが設けられており、筒部23の先端に嵌合孔21aを嵌め合わせると、コイルの両側にフランジを有するボビンが完成する。ボビン本体22のフランジ部25にコアパーツ30aを挿通し、フランジパーツ21のコイル3とは反対側からもう一方のコアパーツ30bを挿通すれば、コイルアセンブリ29が完成する。図4によく示されているように、U字型のコアパーツ30bを挿通すると、ボビン本体22の板部24a、24b、24cがコアパーツ30bを囲み、コアパーツ30bがボビン20にしっかりと嵌合する。
【0023】
図5図4のV−V線矢視におけるコイルアセンブリ29の断面図を示す。図5によく示されているように、筒部23の4側面の夫々に設けられた板部24a、24b、24cの外面がコイル3の内側面と接し、コイル3がボビン本体22と嵌合する。また、筒部23の角部では、コイル3の内面と筒部23の外面の間に空隙27が形成される。樹脂を射出すると、この空隙27を通って筒部23の側面に溶融樹脂が流れ込み、筒部23とコイル3との間の隙間が樹脂で満たされ、コイル3とボビン20が強固に固定される。なお、後に改めて説明するが、筒部23の内側には、2個のコアパーツ30a、30bを対向させたときにその端面同士の間にギャップを確保する内側フランジ26が、筒部23の内周を一巡するように設けられている。内側フランジ26の内側に接着剤が充填され、一対のコアパーツ30a、30bが、筒部23の内部で相互に固定される。
【0024】
図1に戻ってリアクトル2の説明を続ける。前述したコイルアセンブリ29の大部分が樹脂製のカバー4で覆われる。カバー4は、コイルアセンブリ29の周囲に樹脂を射出成形して作られる。カバー4は、コイル3を他のデバイスから絶縁する目的と、コイル3とコア30とボビン20を相互に固定する目的と、リアクトル2を装置(冷却器)に固定するための支持部材(ボルト孔フランジ4a)を設ける目的を有している。また、カバー4の上面には窓4bが設けられており、その窓4bからもコイル3が露出している。2個の窓4bの間でカバー4に温度センサモジュール10が固定されている。温度センサモジュール10は、支持部12、板バネ13、及び、センサ本体14で構成され、板バネ13がセンサ本体14をコイル側面に押し付ける。なお、図1において符号3bは、コイルから延びる平角線のリード部を示している。
【0025】
リアクトル2は、コイル下面3aとコア下面31(後述)に冷却器を当接させて用いられる。図6に、冷却器90に取り付けた状態のリアクトル2の断面図を示す。図6に示すリアクトルの断面は、図1のVI−VI線矢視における断面に相当する。リアクトル2は、カバー4に設けられたボルト孔フランジ4aにボルト93を通し、冷却器90の上面に固定される。ボルト孔フランジ4aの下面とコア30の下面31は面一であり、コア30の下面31も冷却器90の上面に接する。冷却器90の内部には流路90bが設けられており、この流路90bを液体冷媒が流れ、冷却器90に接するデバイス(リアクトル2を含む)を冷却する。従って、リアクトル2の熱は、冷却器90の上面に接しているコア30の下面31を通じて冷却器90に吸収される。
【0026】
また、冷却器90には窪み90aが設けられており、リアクトル2は、コイル3の下面3aが窪み90aの底面に接するように取り付けられる。窪み90aの底面と流路90bの間の壁は、冷却器上面と流路90bとの間の壁よりも薄く、コイルの下面3aを通じてコイルの熱が冷却器90に積極的に吸収される。
【0027】
リアクトル2の構造的特徴を述べる。図1から図6に示されているように、リアクトル2のボビン20は、ボビン本体22とフランジパーツ21の2部品で構成される。ボビン本体22は、筒部23と、筒部23の一方の端部に設けられたフランジ部25で構成される。また、筒部23の他方の端部には、筒部23の先端から筒部23の軸線方向に伸びる細長の板部24a、24b、24cが筒部23の外面に沿って設けられている。板部24a、24b、24cは、筒部23をコイル3に通したときにコイル端部から露出する。フランジパーツ21は、コイルを挿通した筒部23の先端に取り付けられ、ボビン本体22のフランジ部25とともに、コイル3の両端に対向する。筒部23の先端から延びる板部24a、24b、24cは、フランジパーツ21を取り付けたときにフランジパーツ21よりもコイル軸線方向の外側へ突出する。また、コイル3は断面が略矩形であり、その一側面(下面3a)が露出し、下面3aと窓4bを除く他の部分が樹脂製のカバー4で一体に覆われている。下面3aが冷却器90と接する面であり、上述した接触予定面に相当する。
【0028】
磁性体で作られたコア30は、一対のU字型のコアパーツ30a、30bで構成される。一対のコアパーツ30a、30bは、筒部23の両側から夫々挿通される。筒部23の内側には内周を一巡する内側フランジ26が設けられており、この内側フランジ26により一対のU字型コアパーツ30a、30bは、筒部23の内部でその両端部の間に空隙が確保される。その空隙に接着剤94が充填され、一対のコアパーツ30a、30bは相互に接着される。なお、図5図6に示されているように、筒部23の内側フランジ26は、筒部23の内周を一巡しており、一対のU字型コアパーツ30a、30bの端面の間の空隙を密閉する。それゆえ、コイルアセンブリ29を金型内に設置してカバー4を形成するために樹脂を射出する際、射出された溶融樹脂は空隙内に入り込むことがなく、接着剤94が固化する前に樹脂を射出成形することができる。詳しくは後述するが、このことは、一対のU字型のコアパーツ30a、30bの夫々の下面31の位置精度を高めるのに都合がよい。
【0029】
図6に良く示されているように、リアクトル2は、コア30の下面31と、コイル3の下面3a(全体が直方体のコイルの一側面)が冷却器90に接する。それゆえ、コアの下面31の面の位置精度と、コイル3の下面3aの平坦度が高いほど冷却効率が高まる。特に、コイル3の下面3aは、流路90bに近いので、下面3aの平坦度は冷却性能にとって重要な要素である。他方、図2に示したように、コイル3は平角線をエッジワイズに巻回したものであり、剛性が高く、コイルの一巻き一巻きの外側面(特に下面3a)の位置を精度よく揃えることは難しい。以下、コイル下面3aの平坦度とコア下面31の面の位置精度を高めつつ、リアクトル2を製造する方法を説明する。
【0030】
(コイルアセンブリ組立工程)前述したコイルアセンブリ29を組み立てる。図2に示すように、平角線をエッジワイズに巻回し、断面が略矩形のコイル3を準備する。また、ボビン20と、一対のU字型コアパーツ30a、30bを準備する。ボビン20は、ボビン本体22とフランジパーツ21の2部品で構成され、ボビン本体22には、2個の断面略矩形の筒部23を平行に配置して連結するフランジ部25が筒部23の一端側に設けられており、筒部23の他端には、筒部23の略矩形の4面の夫々から筒部の先端から先へ筒部の軸線方向に伸びる板部24a、24b、24cが設けられている。フランジパーツ21には、筒部23の先端と嵌合する嵌合孔21aが設けられている。筒部23の先端がコイル3から突出するまでボビン本体22をコイル3に挿通し、筒部の先端側からフランジパーツ21を取り付ける。最後にボビン20の軸線方向の両端からU字型のコアパーツ30a、30bを挿通する。こうしてコイルアセンブリ29が組み上がる。なお、コイルアセンブリ29を組み上げる際、筒部23の内部の内側フランジ26で囲まれた空間に接着剤94を充填しておく。
【0031】
(閉型工程)次に、コイルアセンブリ29を金型内に設置して金型を閉じる。金型は、カバー4を射出成形するためのものである。図7図8を参照して閉型工程を説明する。まず、先に説明した冷却器90の窪み90aと同等の窪み41aを有する下型41にコイルアセンブリ29を載置する(図7)。コイルの下面3aは下型41の窪み41aの底面に接する。また、コア30の下面31は下型41の上面に接する。なお、このときはまだ、コア下面31の位置精度は高くはなく、また、コイル下面3aの平坦度も高くない可能性がある。次に下型41に対応する上型42を向かい合わせに配置し、金型を閉じる(図8)。金型41、42を閉じたときに内部にできる空間がキャビティ45である。
【0032】
本実施例の上型42には、4本の押圧棒43a、43b、44が備えられており、それら押圧棒は、アクチュエータ(不図示)にて、上型のキャビティ面から上下方向に進退することができる。金型を閉じた段階では、押圧棒43a、43b、44は、上方に位置しており、まだコイルアセンブリ29に接していない。
【0033】
(樹脂射出工程)金型を閉じた後、押圧棒43a、43b、44を下げて、コイルアセンブリ29を上から押圧し、コイルの下面3aとコア下面31を下型41に押し付ける(図9)。2本の押圧棒43a、43bはボビン本体22を下方に押圧する。一方の押圧棒43aは、コイル3の一方の端側に位置するフランジ部25を上から押圧し、他方の押圧棒43bは、コイル3の他方の端側に位置する板部24aを上から押圧する。即ち、2本の押圧棒43a、43bは、コイル3の軸線方向の両側でボビン本体22を下方へ押圧する。コイル両側においてボビン本体22を上から押圧することで、筒部23がコイル3の内側から下面3aを下方に荷重する。コイル3の上から押圧すると、コイルの弾性によりコイル全体が撓んでしまい、下面3aが必ずしも平坦に揃わない可能性がある。しかし、コイル3の軸線方向の両側にてボビン本体22を押圧することで、コイル3の上からではなく、コイル3の内側から下面3aを下方に押し付けることができるので、コイル全体の弾性に関わらずに、下面3aが平坦に揃う。
【0034】
また、他の2本の押圧棒44の夫々は、一対のU字型のコアパーツ30a、30bの夫々を下方に押圧する。この工程は、一対のコアパーツ30a、30bの間に充填した接着剤94が固化する前に行われる。コアパーツ30a、30bが相互に固定されておらず、夫々が独立に動くことができる期間にコアパーツ30a、30bの夫々を下方に押圧することで、コアパーツ30a、30bの下面31がそれぞれ別々に下型41の上面に押し当てられ、下面31の位置精度(高さ方向の位置精度)が高まる。
【0035】
4本の押圧棒43a、43b、44が上記のごとくボビン本体22とコア30を下方に押圧している間にキャビティ45に樹脂を射出する。樹脂が固化すると、コイル下面3aとコア下面31が下型41の表面に強く押し当てられて面精度が高められている状態でコイル3、コア30、ボビン20の相対的位置関係が固定する。こうして、コア下面31の位置精度(高さ方向の位置精度)と、コイル下面3aの平坦度を高めたリアクトル2が完成する(図10)。なお、最後に温度センサモジュール10(図1参照)をリアクトル2に取り付ける。
【0036】
上記した技術の特徴を述べる。リアクトル2はボビン20が少なくとも2つの部品で構成されており、そのうちの一つは、コイル3を貫通し、コイル3の軸方向の両側に突き出る部分(フランジ部25と板部24a)を備える。コイルアセンブリ29を金型内に設置し、コイル3の軸方向の両側に突き出たボビンの部位を上から押圧する(押圧棒43a、43b)。その状態で樹脂を射出する。そのような工程を経ることで、コイル下面3aを下型41に押し当て、下面3aの平坦度を高めた状態でコイル3とボビン20の周囲を樹脂で固め、平坦度を保持する。また、一対のU字型コアパーツ30a、30bが接着剤94で相互に接着される前に、押圧棒44にて一対のU字型コアパーツ30a、30bの夫々を上から押圧することで、コアパーツ30a、30bがそれぞれ別々に下型41の表面に押し当てられ、下面31の位置精度が高められる。こうして、コイルの下面3aの平坦度とコアの下面31の位置精度を高めたリアクトル2が得られる。そのようなリアクトルは、コイル下面3aとコア下面31が冷却器90と接触する態様で用いた場合に高い冷却効果が得られる。
【0037】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。実施例では、コイルの下面3aの平坦度を高める技術を説明した。平坦度を高める面は下面に限られない。冷却器と密着させて用いられる際に冷却器と接する面(そのような面を接触予定面と称する)であればよい。そのような面が、コイル側面の一部であって使用される際に冷却器と接触する予定の面(接触予定面)に相当する。
【0038】
実施例にて説明した製造方法では、キャビティ内でボビン20を押圧するとともに、コア30を押圧した。本明細書が開示する技術は、キャビティ内でボビン20を押圧すること単独でも技術的有用性を発揮する。すなわち、ボビン20を押圧しながら樹脂を射出することによって、コイル下面3aの平坦度を高めることができる。
【0039】
実施例にて説明した製造方法において、金型からリアクトルを取り出すと、押圧棒43a、43b、44を抜いた孔が残る。上記の説明ではその孔を無視したが、その孔は、そのままでもよいし、別の樹脂で埋めてもよい。
【0040】
リアクトル2のコアは、一対のU字型のコアパーツ30a、30bの2パーツで構成された。コアは3個以上のパーツで構成されてもよい。同様に、ボビンが3個以上のパーツで構成されてもよい。ボビンを構成するパーツのうちの一つが、コイルを軸方向に貫通し、コイルの軸方向の両側から突出する部位を有していればよい。実施例の場合は、ボビン本体22のフランジ部25がコイルの一方の側から突出しており、板部24aがコイルの他方の側から突出する。そのようなボビンを採用することで、金型のキャビティ内でコイルを貫通しているボビンをコイル軸方向の両側から容易に押圧することができ、コイル下面3aの平坦度を容易に高めることができる。
【0041】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0042】
2:リアクトル
3:コイル
3a:コイル下面
4:カバー
20:ボビン
21:フランジパーツ
21a嵌合孔
22:ボビン本体
23:筒部
24a、24b、24c:板部
25:フランジ部
26:内側フランジ
27:空隙
29:コイルアセンブリ
30:コア
30a、30b:コアパーツ
31:コア下面
41:下型(金型)
42:上型(金型)
43a、43b、44:押圧棒
45:キャビティ
90:冷却器
90b:流路
93:ボルト
94:接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10