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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782023
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】無線通信装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/24 20060101AFI20150907BHJP
   H01Q 15/14 20060101ALI20150907BHJP
   H04M 1/02 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   H01Q1/24 Z
   H01Q15/14 Z
   H04M1/02 C
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-508042(P2012-508042)
(86)(22)【出願日】2011年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2011001281
(87)【国際公開番号】WO2011121893
(87)【国際公開日】20111006
【審査請求日】2014年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2010-81456(P2010-81456)
(32)【優先日】2010年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314008976
【氏名又は名称】レノボ・イノベーションズ・リミテッド(香港)
(74)【代理人】
【識別番号】100084250
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 正則
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】安道 徳昭
(72)【発明者】
【氏名】鳥屋尾 博
(72)【発明者】
【氏名】今里 雅治
【審査官】 緒方 寿彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/154054(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/013810(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/062562(WO,A1)
【文献】 特開2009−194689(JP,A)
【文献】 特開2006−197292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/24
H01Q 15/14
H04M 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体または基板が有する導体面の少なくとも一部と対向しているアンテナ素子と、
前記アンテナ素子と前記導体面との間に位置し、前記導体面の面直方向に交差するように繰り返し配列され、誘電率と透磁率とがともに負である複数の導体要素と、
を備える無線通信装
であって、
複数の前記導体要素は、前記導体面の面方向に沿って配列されており、
前記アンテナ素子を収容している第一筐体と、
前記基板を収容している第二筐体と、を備え、
前記基板は可撓性を有し、かつ前記第一筐体と前記第二筐体とを接続し、
前記第一筐体と前記第二筐体とは、互いにスライドすることにより、
前記基板が折り返された第一状態と、
前記第一状態よりも前記基板が伸張した第二状態と、に切り替えられ、
前記アンテナ素子は、前記第一状態または前記第二状態の少なくとも一方で、前記第一筐体、前記第二筐体または前記基板が有する前記導体面と対向し、
複数の前記導体要素は、前記導体面に配列され、前記基板が前記導体要素に摺動することを特徴とする無線通信装置
【請求項2】
請求項に記載の無線通信装置であって、
前記第一状態における折り返された前記基板同士の重なり領域の面積が、前記第二状態における前記重なり領域の面積よりも大きい請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
請求項またはに記載の無線通信装置であって、
前記アンテナ素子は、前記第一状態における折り返された前記基板同士の重なり領域に対向し、
複数の前記導体要素は、少なくとも前記重なり領域に配列されていることを特徴とする無線通信装置。
【請求項4】
請求項に記載の無線通信装置であって、
前記アンテナ素子は、前記第一状態および前記第二状態において前記基板を介して他の基板と対向し、
複数の前記導体要素は、前記基板の両面に配列されていることを特徴とする無線通信装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の無線通信装置であって、
複数の前記導体要素は、前記導体面に対して電気的に接続することを特徴とする無線通信装置。
【請求項6】
請求項またはに記載の無線通信装置であって、
複数の前記導体要素が配列されている領域は、電磁バンドギャップの特性を有し、前記無線通信装置の動作周波数の電磁波を減衰させることを特徴とする無線通信装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の無線通信装置であって、
前記導体要素は、
前記導体面の面外で当該導体面と対向する導体エレメントと、
前記導体面に設けられた開口と、
前記開口の内部に島状に形成された導体片と、
前記導体片と前記導体面とを接続する配線と、を備え、
前記導体片と前記配線は、前記導体面と同層であることを特徴とする無線通信装置。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の無線通信装置であって、
前記導体要素は、
前記導体面の面外で当該導体面と対向する導体エレメントと、
前記導体面に設けられた開口と、
前記開口の内部に形成され、一端は前記導体面に接続され、他端はオープン端である線状の導体線路と、を備え、
前記導体線路は、前記導体面と同層であることを特徴とする無線通信装置。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の無線通信装置であって、
前記導体要素は、
前記導体面と対向する導体エレメントと、
前記導体面と異層に形成される線状の導体線路と、
前記線状の導体線路の一端と前記導体面とを接続する接続部材と、
を備えることを特徴とする無線通信装置。
【請求項10】
請求項に記載の無線通信装置であって、
前記導体線路は、前記導体エレメントと前記導体面との中間層に形成されていることを特徴とする無線通信装置。
【請求項11】
請求項に記載の無線通信装置であって、
前記導体線路は、前記導体エレメントを挟んで前記導体面の反対側に位置し、
前記接続部材は、前記導体エレメントを貫通していることを特徴とする無線通信装置。
【請求項12】
請求項11に記載の無線通信装置であって、
前記導体線路の他端は、オープン端であることを特徴とする無線通信装置。
【請求項13】
請求項11に記載の無線通信装置であって、
前記導体線路の他端は、前記導体エレメントとショートされていることを特徴とする無線通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機等の無線通信装置において、液晶表示画面の大型化や操作性の向上等の観点から、表示画面を備える表示側筐体と、操作キーを備える操作側筐体と、を互いにスライドさせて開閉する方式の製品が増えている。
【0003】
スライド方式の無線通信装置において、表示側筐体と操作側筐体との位置関係によっては、アンテナ特性が劣化する恐れがあることが知られており、所望のアンテナ特性を保つために種々の技術が開発されている。
【0004】
この種の技術として、特許文献1(特開2006−197292号公報)には、つぎのような携帯無線端末装置が開示されている。この携帯無線端末装置は、表示側筐体に内包される上側グランドと、操作側筐体に内包される下側グランドとの間の空間に、ショートスタブを設けている。このショートスタブが、スライド開き時にアンテナ素子に悪影響を与える上側グラウンドとカップリングするので、アンテナ特性の劣化を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−197292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1の技術では、50mm程度のショートスタブを筐体に内蔵しなくてはならない。小型化・圧縮化が進んでいる携帯無線端末装置において、この寸法の部材を追加することは、設計上の大きな問題となり得る。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アンテナ素子に対向している導体面によるアンテナ特性の劣化を容易に防ぐことができる無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、筐体または基板が有する導体面の少なくとも一部と対向しているアンテナ素子と、前記アンテナ素子と前記導体面との間に位置し、前記導体面の面直方向に交差するように繰り返し配列され、誘電率と透磁率とがともに負である複数の導体要素と、を備える無線通信装置であって、複数の前記導体要素は、前記導体面の面方向に沿って配列されており、前記アンテナ素子を収容している第一筐体と、前記基板を収容している第二筐体と、を備え、前記基板は可撓性を有し、かつ前記第一筐体と前記第二筐体とを接続し、前記第一筐体と前記第二筐体とは、互いにスライドすることにより、前記基板が折り返された第一状態と、前記第一状態よりも前記基板が伸張した第二状態と、に切り替えられ、前記アンテナ素子は、前記第一状態または前記第二状態の少なくとも一方で、前記第一筐体、前記第二筐体または前記基板が有する前記導体面と対向し、複数の前記導体要素は、前記導体面に配列され、前記基板が前記導体要素に摺動することを特徴とする無線通信装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アンテナ素子に対向している導体面によるアンテナ特性の劣化を容易に防ぐことができる無線通信装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0011】
図1】本発明の実施の形態にかかる無線通信装置を模式的に示す縦断面図である。
図2】(a)は開放状態における第一回路基板、第二回路基板および配線基板を示す部分模式図であり、(b)は閉止状態における第一回路基板、第二回路基板および配線基板を示す部分模式図である。
図3】(a)の開放状態におけるアンテナ素子の周囲を示す部分模式図である。また、(b)は繰り返し配列された導体要素を示す部分模式図である。
図4】本実施形態の配線基板を模式的に示す斜視図である。
図5図4のV−V線断面図である。
図6】(a)は単位セルの第一例を模式的に示す斜視図であり、(b)はその単位セルの等価回路図である。
図7】(a)は単位セルの第二例を模式的に示す斜視図であり、(b)はその単位セルの等価回路図である。
図8】(a)は単位セルの第三例を模式的に示す斜視図であり、(b)は第四例を模式的に示す斜視図である。
図9】(a)は単位セルの第五例を模式的に示す斜視図であり、(b)はその単位セルの等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
図1(a)、(b)は、本発明の実施の形態にかかる無線通信装置100を模式的に示す縦断面図である。
【0014】
はじめに、無線通信装置100の概要について説明する。
無線通信装置100は、第一筐体10、第二筐体20および可撓性の配線基板30を備えている。第二筐体20は第一筐体10に対してスライド、例えば摺動する。配線基板30は、第一筐体10と第二筐体20とを接続する。
無線通信装置100は、第一筐体10と第二筐体20とが互いに摺動することより、以下の第一状態と第二状態とに切り替えられる。第一状態では、配線基板30が折り返されている。そして、第二状態では、第一状態よりも配線基板30が伸張する。
第一筐体10は、把持するユーザの手によって無線通信装置100の通信品質が劣化しないように、その端部にアンテナ素子を収容している。第二筐体20は、配線基板30の少なくとも一部を収容している。
【0015】
以下、本実施形態を詳細に説明する。
無線通信装置100は、例えばスライド開閉式の携帯電話機である。
第一筐体10は、ユーザが手で把持してキー操作する操作側筐体であり、操作キー12、第一回路基板14、電源16およびアンテナ素子40が設けられている。操作キー12、電源16およびアンテナ素子40は第一回路基板14と電気的に接続されている。
操作キー12はユーザが指等で入力操作を行う入力インタフェースである。
第一回路基板14は、いわゆるリジッド基板であり、無線通信装置100の制御を行う。アンテナ素子40は、所定の通信周波数の電波を送受信する。電源16は無線通信装置100に電力を供給する。
【0016】
第二筐体20は、表示パネル22と第二回路基板24を備える表示側筐体である。
第二回路基板24は、いわゆるリジッド基板であり、配線基板30を通じて第一回路基板14から信号を受信し、表示パネル22の制御を行う。表示パネル22は種々の表示出力を行うディスプレイである。
【0017】
配線基板30は、いわゆるフレキシブル基板(FPC)である。
第一回路基板14と第二回路基板24との間では、配線基板30を通じて、無線通信装置100の種々の動作周波数の信号が伝送される。無線通信装置100は複数の動作周波数を有していてもよい。動作周波数としては、第一回路基板14や第二回路基板24に搭載された素子のクロック周波数や、アンテナ素子40の通信周波数が例示される。
【0018】
アンテナ素子40の通信周波数としては、携帯電話機や無線通信システムの通話または通信周波数帯のほか、測位システムやデジタルテレビの周波数帯が挙げられる。具体的には、移動通信システム向けの800MHz帯、1.5GHz帯および2GHz帯のほか、無線LAN(Local Area Network)向けの2.4GHz帯や5GHz帯などを挙げることができる。
【0019】
図1各図に示すように、本実施形態では第一筐体10の操作キー12の面直方向にあたる紙面上下方向を前後方向と規定し、無線通信装置100の長手方向にあたる紙面左右方向を上下方向と規定する。ただし、これは構成要素の相対関係を説明するために便宜上規定した方向であり、無線通信装置100の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0020】
第一筐体10と第二筐体20とは、上下方向に延在するスライド機構(図示せず)により互いに相対的に摺動して開閉する。以下、第一筐体10を固定側、第二筐体20を摺動側として便宜的に説明する。ただし、ユーザまたは空間に対していずれか一方の筐体を固定する必要はなく、両者を反対方向に摺動させてもよい。
【0021】
図1(a)は第二筐体20が上方に摺動して操作キー12が露出した開放状態を表し、同図(b)は第二筐体20が下方に摺動して操作キー12が掩覆された閉止状態を表している。
開放状態の第二筐体20の表示パネル22の面直方向は、無線通信装置100の前後方向に対して僅かに傾斜している。すなわち、閉止状態と開放状態とに遷移する第二筐体20は、上下方向に摺動するとともに、幅方向(図1各図の紙面前後方向)を軸として僅かに回転する。本実施形態において第二筐体20が摺動するとは、第二筐体20が第一筐体10に対して直線状または曲線状に並進移動することに加えて、第二筐体20が第一筐体10に対して回転移動することを含む。なお、本実施形態に代えて、第二筐体20は第一筐体10に対して傾斜することなく、それぞれの面直方向を一致させた状態で互いに直線状に摺動して開閉してもよい。
【0022】
図2(a)は、図1(a)の開放状態における第一回路基板14、第二回路基板24および配線基板30を示す部分模式図である。同様に、図2(b)は、図1(b)の閉止状態における第一回路基板14、第二回路基板24および配線基板30を示す部分模式図である。図2各図において、第一筐体10と第二筐体20は破線で図示している。
【0023】
図2(a)に示す配線基板30は全体に折り返されている。この状態が第一状態にあたる。第一回路基板14、第二回路基板24、および配線基板30の両端には、それぞれコネクタ(図示せず)が設けられていて互いに嵌合する。配線基板30の各端部と、第一回路基板14および第二回路基板24との固定方向は任意である。
【0024】
折り曲げられた配線基板30同士の重なり領域OVLは第二筐体20に収容されている。ここで、第二筐体20の寸法制約により重なり領域OVLの収容空間は限られた容積であるのに対して、配線基板30は曲げ剛性に基づく所定の形態保持性を有するため、配線基板30と第二筐体20、および配線基板30同士は互いに密着する。このため、図2(a)に示すように、配線基板30には、配線基板30同士の対向間隔の小さい頸部37が形成される。また、折り曲げられた配線基板30の折返部38は円弧状をなし、配線基板30は全体に略Ω字状となる。そして、第一状態における配線基板30の形状は高い再現性を有する。このため、第二筐体20を摺動させて無線通信装置100を開放状態とするたびに、頸部37における配線基板30同士の所定の対向間隔(面直距離)が再現される。
【0025】
なお、配線基板30の重なり領域OVLとは、第一筐体10または第二筐体20の少なくとも一方における面直方向から配線基板30を見た場合に、配線基板30が複数枚に重なっている領域をいう。
また、頸部37とは、第一状態における重なり領域OVLの内部において、配線基板30同士の対向間隔が、折返部38近傍を除いて最小となる領域をいう。頸部37は所定の広がりをもつ領域である。なお、頸部37において、配線基板30同士は接触してもよく(対向間隔=0)、または互いに離間していてもよい(対向間隔≠0)。
【0026】
配線基板30のうち、重なり領域OVLの前面側にあたる長さ領域を前面部30a、後面側にあたる長さ領域を後面部30bとして区別する。
第一筐体10から第二筐体20に向かって(またはその逆に)配線基板30を流れる電流は、前面部30aと後面部30bとでは逆向きの逆相電流となる。
【0027】
一方、第二筐体20が開放状態(図1(a))から閉止状態(同図(b)に遷移すると、配線基板30は第二筐体20とともに下方に牽引されて全体に伸張する(図2(b)を参照)。この状態が第二状態にあたる。そして、第一状態における折り返された配線基板30同士の重なり領域OVLの面積は、第二状態における重なり領域OVLの面積よりも大きい。本実施形態の場合、第二状態の配線基板30に頸部37は存在していない。
【0028】
ここで、図1各図に示すように、アンテナ素子40は、第一筐体10、第二筐体20、配線基板30、第一回路基板14または第二回路基板24等と対向している。
なお、ここでアンテナ素子40が対向しているとは、アンテナ素子40から対象の部材(領域)を直線で結んだとき、対象の部材の面方向が当該直線に交差していることをいう。
【0029】
また、図1(a)に示すように、無線通信装置100が第一状態である場合、アンテナ素子40から見て、配線基板30の背後に第二回路基板24が位置する。そして、図1(b)に示すように、無線通信装置100が第二状態である場合も、アンテナ素子40から見て、配線基板30の背後に第二回路基板24が位置する。
なお、アンテナ素子40から見て、配線基板30の背後に第二回路基板24が位置するとは、第二回路基板24を介してアンテナ素子40と配線基板30とが対向していることをいう。
【0030】
ここで列挙した各部材において、アンテナ素子40と対向している各部材が導体面を少なくとも一部に有している場合、アンテナ素子40から放射される電磁波が当該導体面で逆相反射する。このとき、アンテナ素子40と当該導体面との距離がλ/4(ただし、λ=アンテナ素子40が放射する電磁波の波長)に設定できればアンテナ特性を阻害せずに済むが、無線通信装置100のように小型の無線通信端末においては、アンテナ素子40と各部材の導体面との距離をλ/4も確保できない。従って、各部材の導体面がアンテナ特性(アンテナの放射効率)を阻害する。
特に、無線通信装置100が第一状態である場合には、配線基板30に含まれる導体層(導体面)との対向が避け難く、この導体層がアンテナ素子40のアンテナ特性を阻害する。
このような悪影響を低減することを目的として、アンテナ素子40と当該導体面との間に、当該導体面の面直方向に交差するように、複数の導体要素36(後述の図3、4、5を参照)を繰り返し配列している。
【0031】
本実施形態においては、第二筐体20が導体板21、配線基板30が導体層34a、導体層34bを有しており(後述の図3図5を参照)、夫々を導体面と見做す。複数の導体要素36は、導体面(導体板21、導体層34a)と電気的に接続しており、電気的に接続している導体面とともに左手系のメタマテリアルを構成している。ここで、左手系のメタマテリアルとは、誘電率と透磁率とがともに負であり、負の屈折率をもつ人工物質をいう。
【0032】
左手系のメタマテリアルは、電磁波を同相で反射する特性を有する。従って、複数の導体要素36が配列されている領域は、アンテナ素子40から放射された電磁波を同相反射する反射板として機能させることができる。同相反射する反射板の場合、アンテナ素子40と近い距離に設置されるほど、アンテナ素子40の放射効率が向上する。
また、左手系のメタマテリアルは、いわゆる電磁バンドギャップ(EBG:Electromagnetic Band-Gap)の特性を有するように作りこむこともできる。このとき、複数の導体要素36が配列されている領域は、無線通信装置100の動作周波数の電磁波を減衰することもできる。本実施形態では、複数の導体要素36を配列させている領域に、電磁バンドギャップの特性を有する左手系のメタマテリアルを実現する。
【0033】
なお、ここで導体面とは、導体性の素材が延在している領域のことであって、金属製の筐体や基板中の導体層等も含まれる。
また、ここで導体面の面直方向に交差するように繰り返し配列するとは、各々の導体要素36の面方向と、導体面の面方向とが垂直ではなく、導体要素36の面同士が互いに対向しないように間隙を隔てて配列されていることをいう。
また、互いに隣り合う導体要素36において、中心間距離は、アンテナ素子40の通信周波数(複数ある場合はいずれか)の電磁波の波長λの1/2以内とすることが好ましい。
さらに、導体面と導体要素36との間隔が一律になるように、導体要素36が導体面の面方向に沿って配列されることが望ましいが、必ずしもこれに限らない。すなわち、アンテナ素子40の通信周波数において左手系のメタマテリアルとして機能する範囲内で導体面と導体要素36との距離が、個別に変動しても構わない。
【0034】
(導体要素の配列)
以下、各図面を用いて導体要素36の配列について詳細に説明する。
図3(a)は、図1(a)の開放状態におけるアンテナ素子40の周囲を示す部分模式図である。また、図3(b)は繰り返し配列された導体要素36を示す部分模式図である。なお、図3各図では、導体要素36をマッシュルーム型に図示しているがこれは一例であり、好適に用いられる導体要素36の構造の具体例は後記に詳述する。
【0035】
図3(a)に示している第二筐体20の内部が、導体板21である。導体板21の表面には塗料が塗布されている。導体要素36は、導体板21とアンテナ素子40との間に位置し、導体板21の面方向に沿って配列されている。各々の導体要素36は、導体板21に電気的に接続しており、複数の導体要素36と導体板21とから成る左手系のメタマテリアルを構成している。
【0036】
図3(b)に示すとおり、導体要素36は、平面状に形成された導体エレメント361と、導体エレメント361の面に対して垂直方向に柱状に形成された接続部材362とで構成されている。また、導体エレメント361と対向する導体板21との間を充填するように誘電体層31が形成されている。
ここでは、誘電体層31の厚みが、接続部材362の長さに相当するように図示しているが、必ずしもこれに限らず、誘電体層31は導体要素36の全体を覆ってもよい。
【0037】
図3(a)で示している導体要素36の位置は一例であって、これに限らない。導体要素36は、アンテナ素子40と対向している領域を含む、いずれの領域に配列してもよい。
ただし、導体要素36が配列されている領域は、アンテナ素子40に対する反射板として機能するので、アンテナ素子40の指向性に影響を与える。また、第一筐体10、第二筐体20の備えられる各部材の配置によって、導体要素36が配列可能な領域は制限される。これらの点について留意して、導体要素36の配列は適切に定められればよい。
【0038】
続いて、図4は本実施形態の配線基板30を模式的に示す斜視図であり、図5はそのV−V線断面図である。配線基板30は、配線層32と導体層34に加えて、少なくとも一方の主面に導体要素36を備えている。導体要素36が設けられている側の主面を表面301、反対面を裏面302とする。図4では幅方向に四個の導体要素36を図示しているが、その個数、寸法および位置は一例である。なお、図4では表面301の一部が隠れているが、表面301の略全体に導体要素36が配列されているものとして以下説明する。ただし、配線基板30は、表面301に局所的に導体要素36が配列されることも、表面301と裏面302の双方に導体要素36が配列されることも、許容する。
【0039】
図5に示す配線層32は、第一回路基板14と第二回路基板24(図1を参照)との間で動作周波数の信号を授受する多数の信号線SIGと、グランド電位などの定電位が与えられたグランドGNDと、電源配線(図示せず)とがパターン配置された層である。信号線SIG同士、および信号線SIGとグランドGNDとは互いに絶縁されている。配線層32は、銅メッキの化学エッチング処理などで作成することができる。配線基板30は、配線層32を一層または二層以上備えている。図4では、二層の配線層32a、32bを備える配線基板30を例示している。
【0040】
導体層34(34a、34b)は、配線層32の上下両側に積層された、銅などの金属材料からなるシールド層である。導体層34a、34bの一方は接地されており、また両者はビア(図示せず)により互いに導通している。導体層34は当該層内で実質的に配線基板30の全面に形成されているが、局所的な非形成領域が存在することを許容する。
【0041】
導体層34と配線層32との間、および配線層32同士の間には、それぞれ絶縁層33(33a、33b、33c)が積層されている。絶縁層33は、絶縁性の樹脂材料の塗工形成により作成することができる。また、導体層34の外側には絶縁性の被覆層35a、35bがさらに積層されている。
【0042】
なお、導体エレメント361が被覆層35aから露出している場合には、配線基板30の表面301に、導体エレメント361を被覆する絶縁性のコート層(図示せず)をさらに設けるとよい。以下、簡単のため、かかるコート層の厚みを被覆層35aの厚みに含めて説明する。
【0043】
導体要素36は、導体層34の表面301側に積層して設けられている。このうち本実施形態では、導体層34に沿う平面状に形成された導体エレメント361と、配線基板30の面直方向に延在して導体エレメント361と導体層34aとを接続する接続部材362とで構成された、いわゆるマッシュルーム型の導体要素36を例示する。ただし、後述するように導体要素36の形態は種々を採用することができる。接続部材362は被覆層35aを貫通している柱状のビアである。
【0044】
各々の導体要素36は、接続部材362を介して導体層34aに電気的に接続しており、複数の導体要素36と導体層34aとから成る左手系のメタマテリアルを構成している。
【0045】
導体要素36は、導体層34aの面方向に沿って配列されている。また、本実施形態においては、無線通信装置100が第一状態にある場合に、重なり領域OVLの後面部30bにおいて表面301がアンテナ素子40側に向くように配線基板30が設置される(図2(a)参照)。このとき、重なり領域OVLの前面部30aに配列される導体要素36は、導体層34(34a、34b)から見て第一筐体10側に位置する。また、他の導体要素36は、導体層34(34a、34b)から見てアンテナ素子40側に位置する。
【0046】
図4図5で示している導体要素36の位置は一例であって、これに限らない。導体要素36は、アンテナ素子40と対向している重なり領域OVLの後面部30bを少なくとも含む、いずれの領域に配列してもよい。ただし、配線基板30上の領域であって、アンテナ素子40と第二回路基板24との間に位置する領域(図3aを参照)にも、さらに複数の導体要素36を配列させることがより好ましい。
そして、上述のようにアンテナ素子40の指向性や各部材の配置等に留意して、導体要素36の配列は適切に定められればよい。
【0047】
ここでは、無線通信装置100が第一状態である場合について説明したが、配線基板30上の導体要素36が配列されている領域は、第一状態と第二状態の双方でアンテナ素子40に対向していることが好ましい。従って、複数の導体要素36は、配線基板30の両面(表面301と裏面302)に配列されてもよい。
【0048】
(導体要素の構造)
以下、各図面を用いて、本実施形態に好適に用いられる導体要素36の構造について詳細に説明する。
本実施形態に用いられる左手系のメタマテリアルを構成する導体要素36に共通する特徴として、互いに対向する導体面(導体板21、導体層34a)および導体エレメント361で構成される第一の容量と、これに直列に設けられたインダクタンス要素とを含む点が挙げられる。
【0049】
ここで、単一の導体エレメント361と、当該導体エレメント361と対向する領域の導体面とで構成される第一の容量と、これに直列に設けられたインダクタンス要素を含む構成を単位セル50と定義する。
本実施形態において、単位セル50(導体要素36)は、導体面(導体板21、導体層34a)に沿って繰り返し配置されている。単位セル50の配置パターンは限定されないが、たとえば周期的に配置されていることが好ましい。
「繰り返し」には、いずれかの単位セル50において構成の一部が欠落している場合も含まれる。本実施形態のように単位セル50が二次元配列を有している場合には、「繰り返し」には単位セル50が部分的に欠落している場合も含まれる。また「周期的」には、一部の単位セル50において構成要素の一部がずれている場合や、一部の単位セル50そのものの配置がずれている場合も含まれる。すなわち厳密な意味での周期性が崩れた場合においても、単位セル50が繰り返し配置されている場合には、メタマテリアルとしての特性を得ることができるため、「周期性」にはある程度の欠陥が許容される。
なお、これらの欠陥が生じる要因としては、単位セル50間に配線やビア、接続部材362を通す場合の製造上の理由が挙げられる。このほか、既存の配線レイアウトや基板間接続構造にメタマテリアル構造を追加する場合において、既存のビアやパターン、接続部材によって単位セルが配置できない場合、または製造誤差、既存のビアやパターン、接続部材を単位セルの一部として用いる場合などが挙げられる。
【0050】
図3図5に図示した導体要素36と導体面(導体板21、導体層34a)とで構成される単位セル50は、いわゆるマッシュルーム型のメタマテリアルであり、詳細には、導体要素36における導体エレメント361が、マッシュルームのヘッド部分に相当し、接続部材362がマッシュルームのインダクタンス部分に相当する。
【0051】
図6(a)は単位セル50の第一例を模式的に示す斜視図であり、同図(b)はその単位セル50の等価回路図である。第一例の単位セル50は、導体面(導体板21、導体層34a)の面外でこれに対向するパッチ状の導体エレメント361と、導体面に設けられた開口363と、開口363の内部に島状に形成された導体片364と、導体片364と導体面とを接続する配線365とを備える。導体片364および配線365は導体面と同層で形成されている。本実施形態の導体要素36は、導体エレメント361、導体片364および配線365で構成されている。
【0052】
導体エレメント361と導体面との間には容量C1が形成される。また、隣り合う導体エレメント361の相互間に容量C2とインダクタンスL1が形成される。さらに、導体エレメント361と導体片364との間に容量C3が形成される。そして、配線365はインダクタンスL2を有する。
【0053】
図7(a)は単位セル50の第二例を模式的に示す斜視図であり、同図(b)はその単位セル50の等価回路図である。第二例の単位セル50は、図6(a)の導体片364および配線365に代えて線状のマイクロストリップ線路366を備えたオープンスタブ型である点で第一例と相違する。マイクロストリップ線路366の一端は導体面(導体板21、導体層34a)に接続され、他端はオープン端である。本実施形態の導体要素36は導体エレメント361とマイクロストリップ線路366とで構成されている。
【0054】
図8(a)は単位セル50の第三例を模式的に示す斜視図である。第三例の単位セル50の等価回路図は第二例(図7(b))と共通する。第三例の単位セル50は、マイクロストリップ線路366が導体面(導体板21、導体層34a)と異層に形成され、マイクロストリップ線路366の一端と導体面とが接続部材362で接続されている点で第二例と相違する。マイクロストリップ線路366の他端はオープン端である。これにより、マイクロストリップ線路366と接続部材362のインダクタンスが直列的に連結され、高いインダクタンスを得ることができる。第三例のマイクロストリップ線路366は、導体エレメント361と導体面との中間層に形成されている。本実施形態の導体要素36は導体エレメント361、マイクロストリップ線路366および接続部材362で構成されている。
【0055】
図8(b)は単位セル50の第四例を模式的に示す斜視図である。第四例の単位セル50の等価回路図は第二例(図7(b))と共通する。第四例の単位セル50は、マイクロストリップ線路366が導体エレメント361を挟んで導体面(導体板21、導体層34a)の反対側に位置している点で第三例と相違する。すなわち、第四例の接続部材362は導体エレメント361を貫通してマイクロストリップ線路366の一端と導体面とを接続している。これにより、接続部材362のインダクタンスを増大することが可能である。本実施形態の導体要素36もまた、導体エレメント361、マイクロストリップ線路366および接続部材362で構成されている。
【0056】
図9(a)は単位セル50の第五例を模式的に示す斜視図であり、同図(b)はその単位セル50の等価回路図である。第五例の単位セル50は、マイクロストリップ線路366の先端がオープン端ではなく、第二接続部材367によって導体エレメント361とショートされている点で第四例と相違する。この単位セル50は、インダクタンスL1および容量C2からなるインピーダンス部と、マイクロストリップ線路366、第二接続部材367、容量C1およびインダクタンスL2からなるアドミタンス部とで構成されている。本実施形態の導体要素36は、導体エレメント361、マイクロストリップ線路366、接続部材362および第二接続部材367で構成されている。
【0057】
上述したいずれの単位セル50においても、導体エレメント361の幅は数cmまたは数mm程度、導体エレメント361と導体面(導体板21、導体層34a)との間隔は数mm、または1mm以下の寸法で、左手系のメタマテリアルを構成することができる。なお、図8または図9に図示した単位セル50は三層で実現可能であるのに対して、図6または図7に図示した単位セル50は二層で実現可能であるため、より薄く左手系のメタマテリアルを実現することができて好適である。
【0058】
(本実施形態の効果)
本実施形態において、複数の導体要素36が配列されている導体面(導体板21、導体層34a)が、アンテナ素子40から放射された電磁波を同相で反射し、当該導体面がアンテナ素子40の近傍に設けられている。従って、アンテナ素子40の特性劣化を防ぐことができる。
また、配線基板30の表面301の略全体に複数の導体要素36が配列されるので、第二回路基板24をアンテナ素子40から掩蔽することができる。さらに、配線基板30の裏面302の略全体に複数の導体要素36が配列されれば、第二状態においても第二回路基板24をアンテナ素子40から掩蔽することができる。
このため、導体板21、配線基板30の導体層34(34a、34b)、第二回路基板24の導体層(図示せず)が、無線通信装置100のアンテナ特性に与える悪影響を低減することができる。
ここで、基板がアンテナ素子40から掩蔽されているとは、当該基板とアンテナ素子40との間の電磁波の授受の少なくとも一部が、他の物理的な要素によって低減されている状態をいう。
【0059】
そして、本実施形態において、複数の導体要素36が配列されている導体層34aは伝播ノイズを減衰させる機能を有する。このため、第一回路基板14または第二回路基板24が発した高周波のノイズが導体層34bからアンテナ素子40に伝搬して通信周波数に対するノイズになることを抑え、無線通信装置100の通信品質を安定化することができる。
【0060】
さらに、本実施形態の導体要素36(単位セル50)の寸法は極めて小さく、かつ対象の領域(導体面)に繰り返し配列するだけで左手系のメタマテリアルを構成することができるので、設計の自由度が高く、比較的容易に実現することができる。
【0061】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。当然ながら、上述した実施の形態および複数の例示は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。
【0062】
上記の実施の形態において、スライド開閉式の無線通信装置100について説明したが、折り畳み開閉式の無線通信装置であってもよいし、形状固定の無線通信装置であってもよい。すなわち、本発明は、筐体や基板が有する導体面がアンテナ素子に対向している無線通信装置のいずれにも適用が可能である。
【0063】
上記の実施の形態において、導体板21、導体層34aの夫々に導体要素36が配列されることを説明した。しかし、本発明は、複数の導体要素36がこれらの一部に配列された実施の形態や、あるいは複数の導体要素36が図示されない他の導体面に配列された実施の形態も許容する。例えば、アンテナ素子40と対向している第一筐体10の一部領域が導体面である場合、複数の導体要素36が当該導体面に繰り返し配列されてもよい。
【0064】
上記の実施の形態において、複数の導体要素36が配列されている領域の全部が、電磁バンドギャップの特性を有する左手系のメタマテリアルであるかのように説明したが、必ずしもこれに限らない。複数の導体要素36が配列されている領域の一部または全部が、電磁バンドギャップの特性を持たない左手系のメタマテリアルであってもよい。
【0065】
上記の実施の形態において、アンテナ素子40と対向する基板は、第一回路基板14、第二回路基板24、配線基板30の三種類を記載したが、これより少なくても多くても構わない。また、アンテナ素子40と対向する基板は、リジッド基板、フレキシブル基板のいずれであってもよく、これらが複合した基板であってもよい。
【0066】
この出願は、2010年3月31日に出願された日本出願特願2010−081456を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9