(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782024
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】眼科レーザ手術用システム
(51)【国際特許分類】
A61F 9/01 20060101AFI20150907BHJP
A61B 18/20 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
A61F9/01 100
A61B17/36 350
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-512210(P2012-512210)
(86)(22)【出願日】2009年5月26日
(65)【公表番号】特表2012-527911(P2012-527911A)
(43)【公表日】2012年11月12日
(86)【国際出願番号】EP2009003730
(87)【国際公開番号】WO2010136050
(87)【国際公開日】20101202
【審査請求日】2012年4月9日
【審判番号】不服2014-4720(P2014-4720/J1)
【審判請求日】2014年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】513146099
【氏名又は名称】バーフェリヒト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100159684
【弁理士】
【氏名又は名称】田原 正宏
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】キッテルマン オラフ
(72)【発明者】
【氏名】フォグレル クラウス
【合議体】
【審判長】
山口 直
【審判官】
関谷 一夫
【審判官】
蓮井 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−527731(JP,A)
【文献】
特表2002−522191(JP,A)
【文献】
特開平9−122168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/01
A61B 18/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜の切開に光切断を生じさせるのに適合した放射パラメータを有するパルス・レーザ放射用の光源と、
前記レーザ放射を偏向するスキャナと、
角膜フラップを生成するように設計された所定の切開形状に従って前記スキャナを制御するように設定されている電子制御ユニットであって、前記切開形状が、前記フラップの床を定める床切開、及び前記フラップの端を定める縁切開を有し;並行して直線的に延在する複数の線状経路を有し、隣接する線状経路の対をそれぞれ末端で接続する複数の折返し湾曲部を有する蛇行ビーム偏向パターンが前記床切開に対して確定されており;前記折返し湾曲部が前記フラップの端の外側に位置する、電子制御ユニットと、
前記光源から発射された前記レーザ・パルスを変調する変調器ユニットとを備える、眼科レーザ手術用システムであって、
前記電子制御ユニットが、前記フラップの端の外側に位置する前記蛇行ビーム偏向パターンの部分では前記レーザ・パルスの一部分が削除されるように、前記変調器ユニットを制御するべくさらに設定されている眼科レーザ手術用システム。
【請求項2】
眼の組織、特に角膜に切開を行うのに適合した放射パラメータを有するパルス・レーザ放射用の光源と、
前記レーザ放射を偏向するスキャナと、
所定の切開形状に従って前記スキャナを制御するように設定されている電子制御ユニットと、
前記光源から発射された前記レーザ・パルスを変調する変調器ユニットとを備える、眼科レーザ手術用システムであって、
前記電子制御ユニットが、前記切開形状に対して確定されたビーム偏向パターンに従って、前記変調器ユニットを制御するべくさらに設定されており、
前記ビーム偏向パターンが、
螺旋状パターンであって、単位表面積当たり略一様なエネルギー入力を達成するために、及び/又は、前記螺旋状パターンの半径方向内側分枝近くの前記レーザ・パルスの少なくとも一部分を削除するように前記変調器ユニットを制御して略一様な焦点位置密度を達成するために、螺旋状パターンを備え、
前記電子制御ユニットが、前記螺旋状パターンの半径方向内側分枝近くの前記レーザ・パルスの少なくとも一部分のエネルギーを削除するように前記変調器ユニットを制御するべく設定されている、眼科レーザ手術用システム。
【請求項3】
前記変調器ユニットが音響光学変調器または電気光学変調器を備える、請求項1又は2に記載の眼科レーザ手術用システム。
【請求項4】
前記音響光学変調器が、2μsと10μsの間のスイッチング時間を有する、請求項3に記載の眼科レーザ手術用システム。
【請求項5】
前記変調器ユニットが、可変回折効率を有する光回折格子構成要素を備える、前記請求項のいずれか一項に記載の眼科レーザ手術用システム。
【請求項6】
ビーム・ダンプが前記変調器ユニットに設けられており、前記ビーム・ダンプが、前記変調器ユニットによって屈折されたレーザ・パルスを吸収するように構成されている、前記請求項のいずれか一項に記載の眼科レーザ手術用システム。
【請求項7】
前記螺旋状パターンの中央領域では4つのパルスから3つを削除し、前記螺旋状パターンの周縁領域では1つおきにパルスを削除するべく、前記電子制御ユニットが前記変調器ユニットを制御するように構成されている、請求項2に記載の眼科レーザ手術用システム。
【請求項8】
眼の組織に入射するレーザ放射のパルス周波数を以下の方程式、
【数1】
(ここで、f
i=前記内側螺旋領域のパルス周波数、
f
o=前記外側螺旋領域のパルス周波数、
s
f=前記経路曲線でのスポット間隔、
d
i=前記中央領域での経路曲線の直径、
d
o=外側領域での経路曲線の直径)
に従って連続的に変化させるように前記レーザ・パルスの一部分を削除するべく、前記電
子制御ユニットが前記変調器ユニットを制御するように構成されている、請求項2に記載
の眼科レーザ手術用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科レーザ手術用のシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
屈折率矯正眼科手術では、視力欠陥を修正するために、患者の眼に対して治療処置を施すことによって、眼の屈折率特性を変える。これに関して、いわゆるレーシック(LASIK)・プロセス(レーザ原位置角膜曲率形成術:LASer In−situ Keratomileusis)が極めて重要であり、その場合、先ず角膜の平らな切開が行われ、その結果、小さな覆い円盤、いわゆるフラップが生じる。前記フラップは、下層の角膜組織、すなわちストロマを露出するために脇へ折り返すことができる。続いて、ストロマ組織が、個々の患者に対して確定された切除プロフィールに従って、レーザ(通常エキシマ・レーザ)を用いて切除される。その後、フラップが折り戻され、傷は比較的迅速に治癒する。
【0003】
レーシックの過程でフラップ切開を行うために、以前使用されていた機械的マイクロケラトームが、最近は、fsレーザ、すなわちフェムト秒領域内のパルス持続時間のパルス・レーザ放射を生じるレーザによって置き換えられてきている。組織内切開のためには、レーザ放射は、角膜に透過可能な波長範囲内、すなわち約300nmより長い波長範囲内にある必要がある。同時に、ビーム焦点のエネルギー密度は、光学的透過破壊、いわゆる光切断を生じるために、十分な大きさである必要がある。その有効範囲は、焦点直径に局所的に限定されている。平らな切開を行うために、ビーム焦点は、所望の切開面または切開平面内で、特定の走査パターンに従って、緊密に隣接し、通常、互いに重なり合っている複数の点上を逐次移動しなければならない。
【0004】
マイクロスカルペルを用いて機械的に行われる角膜切開に比較して、レーザ切開の利点により、レーシック手術、および角膜内に切開が導入される他の治療において、フェムト秒レーザの使用が益々広がる結果が生じている。
【0005】
フェムト秒レーザを用いてフラップ切開を実施するとき、殆どの場合、切開は、緊密に隣接するフェムト秒微小切断の整列度を精密に設定することによって達成される。これに関し、ビーム焦点は、たとえば、生成されるフラップ切開の面内の曲折した蛇行する経路に沿って、誘導される(いわゆる線状走査)。これによって、いわゆるフラップの床が切り出される。続いて、最終的な縁の切開が、フラップの所望の縁部に沿って行われる。このようにして、フラップの縁部が形成される。
【0006】
個々のレーザ・パルスが、たとえばミラー・スキャナを用いて、ビーム方向に垂直な平面内の所望の点(通常x−y方向で表される)に正確に配置される。ミラー・スキャナの替わりに、たとえば、レーザ・ビームに所望のx−y偏向をもたらすために、クリスタル・スキャナを利用することもできる。
【0007】
fsレーザ放射を用いて行われる切開の質は、パルス・エネルギー、焦点直径、焦点面、および、さらに、隣接する焦点位置(スポット)の間隔などの関連するパラメータに正確に応じた影響を受ける。これらパラメータは、様々なタイプの切開誘導に対して個別に十分に最適化することができる。フラップ切開の場合、たとえば、切開誘導の2つの形態を区別することができ、すなわち、たとえば、フラップ床を切り出す、交互の移動方向を有して平行に大部分が配置された線状走査経路によってフラップ床を覆うフラップ床切開と、フラップをストロマから分離するためにしばしば必要になる外周縁切開とである。
【0008】
レーザ・ビームがそれに沿って移動する走査経路の行路が、走査経路に沿う各点で、望ましい非熱的(冷間)光切断を生成するには最適でないことが時々あり得る。経路の行路によって、レーザ・スポットの局部的な集中が生じ得る。たとえば、フラップの床を切り出す蛇行線状走査の場合、個々の線部分の反転屈曲領域では、直線経路部分の領域のスポットの数に比較して、単位長さまたは単位表面積当たりのスポットの集積が生じ得る。この集積または集中は、特にミラー・スキャナが使用されているとき、走査方向が反転する折返し点でのスキャナの慣性に起因する。この場合、隣接する焦点が、互いに明確に分離できないほどになり、互いに極めて近接して配置されるので、過剰なエネルギーの局部照射の結果、角膜組織の熱損傷を避けることができなくなる。しかしながら、フラップの残りの領域、すなわち事実上の床に関しては、選択されたビーム・パラメータによる切開の結果は最適であり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、短パルス・レーザ照射による眼の組織の切開を行うとき、眼の組織への望ましくない熱損傷の危険性を低減させることができる、装置に関する解決策を創出することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明は、角膜の切開に光切断を生じさせるのに適合した放射パラメータを有するパルス・レーザ放射用の光源と、前記レーザ放射を偏向するスキャナと、角膜フラップを生成するように設計された所定の切開形状に従って前記スキャナを制御するように設定されている電子制御ユニットであって、前記切開形状が、前記フラップの床を定める床切開、及び前記フラップの端を定める縁切開を有し;並行して直線的に延在する複数の線状経路を有し、隣接する線状経路の対をそれぞれ末端で接続する複数の折返し湾曲部を有する蛇行ビーム偏向パターンが前記床切開に対して確定されており;前記折返し湾曲部が前記フラップの端の外側に位置する、電子制御ユニットと、前記光源から発射された前記レーザ・パルスを変調する変調器ユニットとを備える、眼科レーザ手術用システムであって、前記電子制御ユニットが、前記フラップの端の外側に位置する前記蛇行ビーム偏向パターンの部分では前記レーザ・パルスの一部分が
削除されるように、前記変調器ユニットを制御するべくさらに設定されている。したがって、本発明は、その出発点として、レーザ・ビームの走査経路に沿って、経路の行路に起因して、単位面積当たりのエネルギー入力の増加が生じ得、他の点では一定の放射パラメータを有する領域があり得るとの見解を取る。本発明は、走査経路の所定の領域において、適切なエネルギー変調または選択されたレーザ・パルスの削除により単位面積当たりのエネルギー入力を合目的的に低減することによって、上記から生じる熱損傷の危険性に対処する。エネルギー
の変調または削除は、問題となる経路領域の各パルスまたは一部のパルスのみに適用され得る。たとえば、問題となる経路領域の2つ目ごと、3つ目ごと、または一般にn個目ごとのパルスのみを削除することが可能である。削除とは、問題のレーザ・パルスが完全に遮断され、または適切に偏向および吸収されることを意味し、その結果、実質的にレーザ・パルスが全く眼の組織に達しなくなる。しかし、削除(マスキング)の代わりに、選択されたパルスのエネルギーの減衰を行うこともでき、その結果、問題のパルスは眼の組織に達するが、それらパルスは、走査経路の残りの部分に位置するパルスのエネルギーに比較して合目的的に低いエネルギーを有した状態で眼の組織に達する。そのようなエネルギー低減は、経路領域の関係する全てのパルスに対して等しい大きさにすることができ、すなわち、関係する全てのレーザ・パルスを同じエネルギー・レベルまで実質的に低下させ、または、関係するレーザ・パルスを、少なくとも部分的に様々な程度にエネルギー変調することができる。
【0011】
選択されたパルスが削除されるか、エネルギー変調されるかに拘わりなく、走査経路全体に沿って、光源から発射されるレーザ・パルスの繰返し周波数および/またはスポット・サイズ(焦点直径)のような放射パラメータは、優先的に変化せずに残る。
【0012】
制御ユニットによる変調器ユニットの制御は、位置に依拠する方式で、すなわち、走査経路に沿ったまたはビーム偏向パターンに沿った、ビーム焦点がその時点で配置されている位置または領域に依拠して、適切に行われる。その代わりにまたはそれに加えて、制御は、眼の組織に対するレーザ放射の速度、定常速度の変化、すなわち加速度、またはレーザ放射のパルス・エネルギーに関連して行うことができる。
【0013】
このようにして、レーザ・ビーム焦点に関する情報に依拠して、発射されるパルス・エネルギーを眼の組織に適切に適合させることが可能になる。既述のように、これは、位置に依拠しまたは配置に依拠する方式で行うことができる。その代わりにまたはそれに加えて、適切な変調は、たとえばレーザ・ビーム焦点の速度プロフィールなど、ビーム偏向パターンに定められた移動パターンに依拠して、または、たとえば、スキャナ・ユニットもしくは他のシステム構成要素によって有効になる情報に依拠して、行うことができる。
【0014】
好ましい実施形態によれば、ビーム偏向パターンが、並行して直線的に延在する複数の線状経路を有し、隣接する線状経路の対をそれぞれ末端で接続する複数の折返し湾曲部を有する蛇行パターンを備える。これに関し、制御ユニットが、折返し湾曲部の少なくとも一部分の領域で、レーザ・パルスの少なくとも一部分のエネルギーを低減し、かつ/またはレーザ・パルスの少なくとも一部分を削除するように変調器ユニットを制御するべく設定されている。
【0015】
実質的に平行に並んで延在する複数の直線経路から構成される、そのようなタイプのビーム偏向パターンの場合、約180°の移動方向の折返しが、切開形状の周縁領域で生じる。本明細書では折返し湾曲部と呼ぶ、ビーム偏向パターンのそれら箇所では、スキャナが本来有する慣性を理由とする走査速度の低下が生じる。レーザ光源の実質的に一定の繰返し周波数、すなわちレーザ放射の実質的に一定のパルス周波数を考慮すれば、走査速度が低下した場合、単位表面積当たりの眼の組織へのエネルギー入力の増加が生じる。折返し湾曲部領域での、制御ユニットによってもたらされる、個々のパルスまたはパルス列全体の削除、および/または個々のパルスのエネルギーの低減により、エネルギー入力の増加により生じ得る有害な熱負荷に対処することができる。
【0016】
平らな切開は、蛇行線状走査だけではなく、いわゆる螺旋状走査によっても行うことができる。この場合、焦点は螺旋状経路に沿って移動させる。一定のパルス繰返し周波数および回転式ビーム偏向の一定の角速度を前提とすれば、連続する焦点位置の経路上の間隔は、螺旋状経路の半径方向内側分枝近くで減少する。これは、単位表面積当たりのエネルギー入力が増加することに相当する。そのようなエネルギー入力の増加によって生じ得るあらゆる熱損傷の可能性を回避するために、別の好ましい実施形態では、ビーム偏向パターンが螺旋状パターンを備え、制御ユニットが、螺旋状パターンの半径方向内側分枝近くのレーザ・パルスの少なくとも一部分のエネルギーを低減し、かつ/またはレーザ・パルスの少なくとも一部分を削除するように変調器ユニットを制御するべく設定されている。パルスの適切なエネルギー低減または削除によって、螺旋状走査の内側部分では、単位表面積当たりの過剰なエネルギーの入力の増加を回避することが可能になり、その結果、眼の組織の純粋な非熱的光切断が、付随的熱損傷なしに可能であり続ける。パルス繰返し周波数を変化させることの排除が意図されるものではなく、パルスのエネルギー変調に加えて、それを実施することもできることが理解されるであろう。
【0017】
全体として、蛇行線状切開誘導は、螺旋状走査に比較して、切開形状が大幅により自由に選択可能であるという利点を提供する。たとえば乱視の場合に指定されるような、楕円フラップ切開の実施を、より多く制御に努めるだけで、ほぼ一様な表面密度の微小切断を有する螺旋形切開誘導によって実現することができる。
【0018】
一実施形態では、変調器ユニットが、可変回折効率を有する光回折格子構成要素を備える。回折格子構成要素によってもたらされる回折は、たとえば、任意選択的に存在するビーム・ダンプ内へレーザ・ビームを完全に偏向することによって、レーザ・ビームを完全に削除すること、またはビーム経路からビームの一部分のみを回折し、それにより、ビームによって眼の組織上、またはその中に運ばれるエネルギーを減らすことのどちらも行うことができる。
【0019】
変調器ユニットは、好ましくは、音響光学変調器または電気光学変調器を備える。そのようなタイプの変調器によって、局所的な複数のレーザ放射の同じ位置での望ましくない重なり合いを回避するために、たとえば、極めて迅速に、所定の短時間の間隔に亘って、レーザ放射を中断することができる。あるいは、レーザ放射の中断、または個々もしくは複数のレーザ・パルスの削除の代わりに、レーザ放射パワーまたはパルス・パワーの合目的的な適合を行うことができる。言い換えれば、2つの位置を有するスイッチに相当する(完全な)閉止/削除の代わりに、変調器を用いて回折効率を変化させることによって、回折効率、したがって最終的にはさらに眼の組織へ発射されるエネルギーに関する複数の制御位置を取ることができる。これに関し、たとえば、回折効率とビーム焦点位置、ビーム焦点の瞬間速度、またはビーム焦点速度の変化、すなわち加速度との間などの様々な機能的連係を形成することができる。
【0020】
ビーム偏向パターンの少なくとも1つの所定の部分において、前記変調器ユニットが、この部分に位置する複数のレーザ・パルスのそれぞれを削除し、または、それらパルスのそれぞれのパルス・エネルギーを、ビーム偏向パターンの他の部分のパルス・エネルギーに比較して、減少させるように、制御ユニットが、変調器ユニットを制御するべく設定され得る。その代わりに、またはそれに加えて、ビーム偏向パターンの少なくとも1つの所定の部分において、前記変調器ユニットが、連続的交互に、少なくとも1つの第1のレーザ・パルスを削除またはそのパルス・エネルギーを減少させ、少なくとも1つの第2のレーザ・パルスのパルス・エネルギーを、ビーム偏向パターンの他の部分のパルス・エネルギーに比較して変化させずにおくように、制御ユニットが、変調器ユニットを制御するべく設定され得る。
【0021】
本発明が、添付図面に基づいて、より詳細に以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】眼科レーザ手術に関する、本発明によるシステムの例示的実施形態の概略図である。
【
図2】フラップ切開の第1の例示的走査パターンの図である。
【
図3】フラップ切開の第2の例示的走査パターンの図である。
【
図4】フラップ切開の第3の例示的走査パターンの図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
概略ブロック表示で
図1に示され、全体を100によって表されるシステムは、患者の眼に組織内切開を行うのに適するレーザ・システムである。レーシックのフラップを生成する角膜内フラップ切開は、レーザ・システム100が適する切開の可能で好ましい一例である。ただし、レーザ・システム100を用いて眼内の他の形態の組織切開を行うことを排除するものではない。
【0024】
レーザ・システム100は、所定の繰返し周波数のフェムト秒領域内の持続時間のレーザ・パルスを自走的に発射するレーザ発振器110を備える。レーザ発振器110は、たとえば、固体レーザ発振器、特にファイバ・レーザ発振器でもよい。レーザ発振器110から発射されたパルスは、パルスのパワーを増加させる前置増幅器装置120を通る。同時に、増幅器装置120は、パルスに時間的な伸張をもたらす。そのように事前処理されたレーザ・パルスは、次いで、いわゆるパルス・ピッカ130によってその繰返し周波数が減らされる。レーザ発振器110は、たとえば、10MHz以上の周波数のパルスを発生する。この周波数が、パルス・ピッカ130を用いて、たとえば、200kHzに減らされる。そのようにしてその繰返し周波数を減らされたパルスは、さらに時間的に伸張された用途に必要なパルス・エネルギーを発生させるパワー増幅器140に入力される。このようにして増幅されたパルスが最終パルス圧縮器150に供給される前は、パルスは、通常、1ピコ秒を超えるパルス長を有し、そのパルス長が、発振器110および増幅器媒体の帯域幅によって可能になっている、たとえば、500fs未満の短いfsパルス幅まで、最終パルス圧縮器150によって再び圧縮される。最終パルス圧縮器150の場合、たとえば、回折格子圧縮器が対象となり得る。
【0025】
構成要素110、120、130、140、および150は併せて、本発明ではレーザ源として見なされる。
【0026】
このようにして生成された一連のfsレーザ・パルスは、続いて、たとえば、音響光学変調器または電気光学変調器の形態を取るパルス変調器170を通る。一般に、パルス変調器170は、レーザ・パルスのエネルギーを迅速に削除または変調することができる任意の光学作動要素を含み得る。音響光学変調器は、たとえば、約10μs〜100μsのオフ時間で、10μs未満以下たとえば2μsまでのスイッチング時間を提供し得る。
【0027】
図1のパルス変調器170に設けられているのは、治療する目標に届かずに削除されることになるあらゆるパルスを吸収するように働くビーム・ダンプ180である。そのような削除すべきパルスは、パルス変調器170によってビーム・ダンプ180へ偏向することができ、その結果、それらパルスは、目標に導かれるレーザ・ビームのその後のビーム経路には入らなくなる。
【0028】
変調器170の下流で、レーザ・ビームは、この場合は概略的に共通のブロックとして示されている走査および集束装置160に達し、走査および集束装置160は、所定の走査パターンまたはビーム偏向パターンに従って、ビーム方向に垂直な平面(x−y面)内にレーザ・ビームを偏向し、ビーム方向(z方向)内の目標点上にレーザ・ビームを集束させる。眼の治療の場合、目標点は、眼の組織、特に角膜組織内に位置する。一連のレーザ・パルスに対して、ビーム偏向パターンは、x−y面内での各パルスの位置を定める。言い換えれば、ビーム偏向パターンは、最終的に所望の切開を達成するために、レーザ・ビームがそれに沿って移動すべき経路(または複数の経路)を確定する。
【0029】
走査および集束装置160は、たとえば、互いに垂直な軸の周りに回転することができるガルバノメータ式に作動する2つの偏向ミラーを有するビーム走査用のx−yミラー・スキャナと、ビームを集束させるためのfθ対物レンズとを備え得る。
【0030】
パルス変調器170、ならびに走査および集束装置160は、プログラム制御式制御ユニット190に接続されている。プログラム制御式制御ユニット190は、詳細には示されていないプログラム・メモリ内に、制御ユニット190によって実行されるとパルス変調器170、ならびに走査および集束装置160を、レーザ・ビームを所望の目標平面内に集束させ、所望のビーム偏向パターンに対応させて目標平面全体に亘って移動させ、ビーム偏向パターンの、制御プログラムで定められた所定の部分では、レーザ・パルスの少なくとも一部がパルス変調器170によってエネルギーを減らされ、または完全に削除されるように制御する制御プログラムを有する。
【0031】
図示されている例示的事例では、走査および集束装置160によって出力されたレーザ・ビームが、人間の眼302の角膜300に導かれ、そこで角膜内の(平坦または非平坦な)切開面304内にその焦点を当てて誘導される。この切開面304は、フォルム化された眼302の現断面表示では1本の線として表されている。切開の誘導の詳細な説明、およびさらに切開の誘導に関連する変調器170の作動モードの詳細な説明は、以下の
図2の説明から得られる。
【0032】
図2は、第1のフラップ切開スキーマ305によるフラップ切開が実行される人間の角膜300の詳細を示す。フラップ切開スキーマ305は、ほんの概略的に示され、特に、一部の状況下では大きさの比率は実際の比率に対応していない。さらに、フラップ切開スキーマ305は、表示を全体として明瞭に理解可能に保つために、部分的にのみ示されている。
【0033】
フラップ切開を実施するために、レーザ・パルスが、円で示されている、角膜300の点310、315に集束され、その結果、微小切断が生じる。システム100によって生成されたレーザ放射は、高速スキャナによって角膜300の表面上を誘導される。通常、角膜は、1次近似では球形として示すことができる表面湾曲を有する。フラップ切開を実行するために、たとえば、アタッチメントに押し付けまたは吸い付けることによって、治療する角膜の表面を平らにすることが一般に行われている。フェムト秒レーザ放射の集束が、眼の視線軸に実質的に垂直に延在する面304(
図1参照)内に行われ、その結果、実質的に一様なフラップの厚さが生じる。レーザ・ビームは、所定の経路曲線に沿ってこの面内を誘導される。
【0034】
切開スキーマ305の最初の部分では、平坦なフラップ床切開が行われる。このために、レーザ・ビームは、第1の移動方向335の実質的に直線の走査経路320に沿って誘導され、所望のフラップ切開の範囲を超えると、その移動方向を第2の移動方向345に変更し、第1の走査線320に平行で、それから所定の間隔325を有する直線に沿って引き続き再び誘導され、その結果、フラップ切開の面全体が、交互の移動方向335、345を有する挌子形態または蛇行形態で走査される。
【0035】
個々の走査線320内では、線320に沿うパルス周波数および走査速度が一定に保たれるので、焦点位置315は、間隔327で実質的に等距離に互いに整列する。個々の走査線320は、走査線内の個々の焦点位置315の間隔327と共に、全体として2次元の切開を生じるように、互いに間隔325を有して形成される。フラップ切開パターンの折返し湾曲部330内の縁部でレーザ・ビームの移動方向が、たとえば約180°変化する。これら折返し湾曲部330で、スキャナの慣性が理由でレーザ・ビームと角膜表面との相対速度の減速が生じ、その結果、多くの焦点位置315が、局部的に互いに接近しまたは一致して位置する。これは、走査経路部分320に沿う焦点位置間隔327に比較して、明瞭により小さい折返し湾曲部330内の焦点位置間隔322において明白である。したがって、これら領域330は潜在的熱損傷を受ける。
【0036】
フラップ切開を完成するために、線320によって表される面の切開の後、たとえば実質的に円形の経路340に沿う縁の切開が行われる。縁の切開のために、たとえばフラップ床の切開の焦点強度に比較して、異なる焦点強度が必要とされるまたは有利であり得る。それに対応して、
図2に示される例示的実施形態の縁の切開経路曲線340に沿う焦点位置310の間隔324は、実質的に直線の経路曲線320に沿う焦点位置の間隔327より小さい。縁の切開340は、切り離された角膜領域を分離し上方に折り返す過程で(フラップの)ヒンジとして働く箇所350で中断される。上方に折り返す過程で、線340に沿う潜在的な熱損傷領域330が引き裂かれ、その場合フラップの外側に位置する。
【0037】
折返し点330での前述の熱損傷を減少させるための、本発明による第1の可能策は、焦点位置が(当初は想定の)縁の切開線340の外側に来た場合に、音響光学変調器170を適切に駆動することによって、角膜へのレーザ放射の発射を中断することにある。
【0038】
この状況が、折返し湾曲部334に示されている。領域334内でそれぞれ角膜300上に配置され、発生するはずであった焦点位置315およびそれに伴う微小切断が、空白の円で示されている。この例示的実施形態では、変調器170を通るレーザ・ビーム経路が、フラップの縁部の外側の領域では遮断され、その結果、パルスが角膜300に入射しない。ただし、単に1つずつのレーザ・パルスを遮断するか、一連のパルス全体を遮断するかを考慮することもできる。レーザ・パルスのこの削除は、たとえば、スキャナ・ユニット160によって入手可能になる位置信号、速度信号、または加速度信号に依存する方式で行うことができる。ただし、適切なら、信号の生成および/または取得は、スキャナ・ユニットとは独立の別のモジュールまたは構成要素によって行うこともできる。さらに、削除は、適切なら、完全に時間的なレーザ・ビーム誘導の制御またはプログラミング、あるいは他の適切な信号を考慮に入れることによって行うこともできる。この対策によって、
図2に見ることができるように、縁の領域334は、レーザ・ビームによって引き起こされる微小切断が全くなしに保たれ、この領域の熱損傷が排除される。
【0039】
代替として、または適切なら、上記の可能策と併せて採用することができる熱損傷を回避する1つの方策は、角膜の切開の誘導の過程での個々のフェムト秒パルスのエネルギーの変調にある。これが、
図2の折返し領域332に示されている。領域334におけるように、個々の焦点位置の局所的密度を実質的にほぼ所望の範囲内の統計的平均値に保つ代わりに、領域332では、微小切断のために焦点位置317の形態で個々のレーザ・パルスによって角膜へ発射されるエネルギーが、低減される。表示のために、レーザ放射の焦点位置を示す円が、小さめの半径を有する円317として示されている。低めのエネルギー放射を得るために、音響光学変調器170を、オン状態から完全なオフ状態には切り替えない。むしろ、原則として、一連のフェムト秒パルスの各パルスに対して、大きさおよび継続性において具体的な用途に適合し得る個々のパルス・エネルギーを設定することができる。これに関し、最大約1MHzの繰返し周波数で個々のインパルスを変調することができるスイッチング時間を実現することができる。本事例では、フラップ切開領域の外側に来るパルス対して、定常的に低めのパルス・エネルギーが設定または調節される。ただし、推定または実際の速度増加または加速度増加に適合するパルス・エネルギーの増加を考慮することもできる。さらに、折返し湾曲部332をフラップ床の外側ではなくむしろ縁の切開の内側に配置することを考えることができ、また、このようにして、実際の縁の切開領域を超えて走査することをなくすことによって、フラップ切開処置全体の時間的短縮を達成することを考えることができる。
図2に示されているフラップ切開スキーマ305によって、特に、たとえば乱視など、角膜形状の高位の異常の場合に有利であり得る任意のフラップ形状を実現することができる。
【0040】
フラップ切開を行う別の代替形態が
図3に示されている。フラップ切開領域の直線蛇行走査の代わりに、
図3に示されるフラップ切開スキーマ400の場合は、螺旋状の走査誘導が行われる。切開スキーマの表示はやはり概略に過ぎず、すなわち、大きさの比率および間隔の比率は、
図2のように、縮尺に合わず、実際には表示されているスキーマからは異なり得る。さらに、やはり
図2のように、切開誘導は未完成である。特に、実際の切開誘導の過程では、螺旋状切開の周縁領域に、さらにそれ以上のパルスを配置する必要がある。
【0041】
本例示的実施形態では、切開誘導は、角膜300の中央領域405から周縁領域430へ外方へ展開する螺旋状経路420に沿って、本事例では、
図3の矢印407によって示される移動方向に沿って時計方向に行われる。個々の焦点位置415は、連続的パルス周波数によって螺旋状経路420に沿って配置される。スキャナによって螺旋状経路420に沿って生成される速度プロフィールは、半径方向直線成分ならびに回転速度成分から構成される。一定の回転成分(すなわち一定の角速度)および一定の半径方向成分の場合、一定のパルス周波数を前提とすると、一定の回転速度のために周縁領域430では経路速度がより速くなるので、中央領域405では、周縁領域430より明らかに高い焦点位置密度が経路曲線420に沿って生じる。これは、周縁領域430での焦点位置間隔434に比較して、中央領域405でのより狭い焦点位置間隔432をもって明らかである。
【0042】
フラップ切開スキーマ400は、中央405から周縁領域430への既述の移動方向407の場合、平らなフラップ床の切開を連続的にフラップ縁の切開へ移行させることができるという利点を有するが、他方、角膜300の中央領域での熱損傷の危険性が存在し、それは、そこで特に不利になり得る。反対の移動方向で、すなわちフラップの周縁の縁領域430から内方へ中央領域405内へ、螺旋状経路を進展させる場合にも、時間的に一定のパルス周波数を前提とすると、周縁領域430に対しては低過ぎる傾向を有し、角膜300の中央領域405では高すぎる可能性のある入り混じったパルス・パワーをこの場合にも使用しなければならないので、同じ危険性が存在する。
【0043】
単位表面積当たりにより一様なエネルギー入力を達成するために、本発明の一実施形態によれば、焦点位置415で角膜300の眼の組織へ照射されるエネルギーは、角膜の中央領域405では周縁領域430よりエネルギー入力が低くなるように変調される。これが、焦点位置415を表す円の、中央領域405から周縁領域430へ向かって増加する半径によって、
図3に示されている。その結果、焦点位置密度は内側405から外側430へ向かって減少するが、増加するパルス・パワーによって、微小切断の発生をもたらす焦点位置当たりのエネルギー入力がより高くなり、その結果、減少する焦点位置密度を補償して、所望の範囲内で実質的に一定のままの、単位表面積当たりのエネルギー入力をもたらす。
【0044】
変調器170によるこの補償は、事前に確立された数学的関数に従って制御ユニットによって時間的に制御することができるが、たとえば走査装置160の半径方向位置に応じるようにパルス・パワーを調節する制御ループを設定することもできる。
【0045】
螺旋状経路曲線420に沿うパルス・パワーの制御または調節に対する代替形態として、螺旋状経路走査スキーマの場合、経路曲線に沿う一定のパルス密度は、レーザ・パルスを削除することによって調節することができる。これが、
図4に概略的に示されている。繰返しを避けるために、
図4の記載では、
図2および3に示した既に説明済みの実施形態からの本質的な相違点のみが考慮される。
図4には、
図3に示した実施形態のスキーマに似たフラップ切開スキーマ500が表示されている。経路曲線520に沿う螺旋状ビーム偏向パターンを用いて、このスキーマは、レーザ・パルス515を適用することによってフラップ床切開を行う。螺旋状走査の経路曲線520でのレーザ・パルス515の焦点間隔を実質的に一定に保つために、個々のレーザ・パルス525を削除することによって(レーザ源のパルス繰返し周波数を変化させ、またはレーザ・パルスのエネルギーを変化させる代わりに)、眼の組織に入射するレーザ放射のパルス周波数を、以下の方程式に従って連続的に変化させる。
【0046】
として、ここで
f
i=内側螺旋領域のパルス周波数
f
o=外側螺旋領域のパルス周波数
s
f=経路曲線でのスポット間隔
d
i=中央領域での経路曲線の直径
d
o=外側領域での経路曲線の直径
その結果、中央領域505では4つのパルスから3つを削除し、周縁領域530では1つおきにパルスを除去することによって、角膜300のフラップ床切開領域全体に亘ってほぼ一様な焦点位置密度が得られる。ここで表示された数値および大きさの比率は、ある状況下では、実際とは合わず、または縮尺に合わず、単に概略的な表示を果たす。具体的な実施形態では、実際のパルスと空白の比率は、単純化して示された値とはかなり異なり得る。
【0047】
全体として、良くない結果に結びつく、直線挌子状フラップ切開プロセスの場合の折返し点領域での複数のfsレーザ・パルスの局所的集積もしくはさらには重なり合い、または螺旋状走査プロセスの場合の過剰に密集した一連のfsレーザ・パルスは、結果的に、プログラムが関連する削除、またはレーザ放射のパルス・パワーの合目的的な変調によって回避することができる。全ての場合、レーザ源は、一定で最適な、パルス・エネルギー、パルス持続時間および発散性などのビーム・パラメータならびにビーム・パラメータ成果を伴って、擾乱されずに作動し続け、その結果、切開の質が一様に最適化され続ける。
【0048】
本発明は、眼科の他のfsレーザ用途にも使用することができる。たとえば、同様な切開スキーマを、たとえば、レンチクル摘出などの場合のような、層状および全層角膜移植に用いることができる。