(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のガラスシートが使用される分野としては、表示装置が上げられる。例えば、液晶表示装置においては、ガラス基板の間に封入された液晶により印加される電界を変化させ、液晶の配向を変化させることにより、動画の表示が可能になる。液晶表示装置の画像の表示の際に電界を変化させる必要があるため、ガラス基板には、電圧を印加し、電圧のオンオフを制御するための、配線や薄膜トランジスタ(TFT)が形成される。
【0012】
フラットパネルディスプレイ用のガラス基板は、例えば、液晶表示装置に用いられるものであれば、薄い長方形の板状の形態を呈する。液晶表示用ガラス基板は、通常、厚みが0.3〜0.7mm程度と1mmよりも薄く、また、1枚のガラスから多数のパネルを取得するために大型のものが用いられる。この大型のガラス基板をマザーガラスともいう。
【0013】
マザーガラスの大きさは、慣用的に世代という呼び方で表現され、例えば、第6世代のマザーガラスの大きさは、1500mm×1850mmである。マザーガラスは、板状に成形されたガラス板を所定の大きさに切断することにより得られる。
【0014】
また、TFTに用いられる半導体素子では、ポリシリコン(LTPS)や酸化物半導体の採用が進んでいる。これらは、アモルファスのシリコンに比べて電子移動度が高く、集積化、高精細化に有利であるためである。一方、これら移動度の高いTFTの製造においては、ガラスの温度を450度まで、場合によってはそれ以上に加熱処理(アニール)する工程を必要とするため、加熱処理におけるガラス基板の熱収縮が問題となることがある。
【0015】
また、液晶表示装置では高精細化に伴い、TFT側パネルとCF(カラーフィルタ)側パネルとを貼り合わせる際に、わずかなズレであっても許容できなくなっている。そのため、ガラス基板に存在する歪みによりパネル切断時に発生するピッチズレが問題となることがある。
【0016】
一方で、熱収縮などによりパターンにズレが生じるような場合でも、最新のパネル製造技術により、一定の範囲内であれば露光機等での補正が可能になっている。さらに、ガラス基板面内の各箇所によってパターンのズレ方が異なっていても、各箇所での補正が可能になっている。しかし、同じロットのガラス基板において、一定以上のバラツキがあると、ガラスごとに製造工程の調整が必要になったり、露光機の補正が必要になったりするため、生産性に大きな問題になる。そのため、熱収縮の大きさよりも、ガラス基板ごとの特性のばらつきがより大きな問題になっている。
【0017】
現在、より歪みの小さい、より熱収縮の小さい、より熱収縮ばらつきの小さいガラスの製造が求められている。そのため、ガラス製造工程では、従来よりも厳しい条件管理を行い、これらを達成することが求められている。そこで、本発明は、ダウンドロー法による製造であっても、歪みや熱収縮のばらつきの小さいガラス基板の取得を可能に表示装置用ガラスの製造方法、及び表示装置用ガラスの製造装置、を提供する。また、内部歪や熱収縮量/熱収縮率のばらつきの小さいガラス積層体を提供する。
【0018】
以下では、ダウンドロー法によって熔融ガラスがガラスシートに成形され、前記ガラスシートが下方に移送されつつ粘性状態から粘弾性状態を経て弾性体状態まで冷却され、前記弾性体状態の前記ガラスシートが所定の隙間を有する空間を通過する際に、前記ガラスシートの主表面に向けて流体を吐出するエアー吐出装置を備えるガラスシートの製造、および内部歪、熱収縮率について管理されたガラス基板について説明する。
【0019】
図面を参照しながら、本実施形態のガラス基板製造装置1を用いてガラス基板を製造するガラス基板の製造方法について説明する。
(1)ガラス基板の製造方法の概要
図1は、本実施形態に係るガラス基板の製造方法のフローチャートである。
【0020】
ガラス基板は、
図1に示すように、熔解工程T1と、清澄工程T2と、成形工程T3と、徐冷工程T4と、切断工程T5とを含む種種の工程を経て製造される。以下、これらの工程について説明する。
【0021】
熔解工程T1では、熔解装置100内でガラス原料を加熱して熔解することにより熔融ガラスとする。ガラス原料は、SiO
2、Al
2O
3等の組成からなる。
清澄工程T2では、熔融装置100から移送管200を介して供給される熔融ガラスを清澄する。具体的には、清澄装置300内で熔融ガラス中に含まれるガス成分を熔融ガラスから放出する。或いは、熔融ガラス中に含まれるガス成分を熔融ガラス中に吸収する。清澄された熔融ガラスは、移送管400により成形装置500に供給される。
【0022】
成形装置500では、成形工程T3と徐冷工程T4が実施される。成形工程T3では、熔融ガラスをガラスシートGに成形する。本実施形態では、熔融ガラスは、オーバーフローダウンドロー法により板状のガラスシートGを成形(成形工程T3)し、成形したガラスシートGを冷却(徐例工程T4)する。
【0023】
成形装置により成形・徐冷されたガラスシートGは、切断工程T5に移送される。
例えば、切断工程T5では、冷却されたガラスシートGを必要に応じて所定の長さごとに切断してガラス基板G1を製造する。なお所定の長さごとに切断されたガラス基板G1は、さらに所定のサイズに切断され、端面の研削・研磨、端面及び主表面の洗浄、出荷検査が行われ、製品としてのガラス基板11が製造される。その後、
図5に示されるような梱包部材15に対して、複数枚のガラス基板11が合紙(挿入シート)12を介して積層され梱包(ガラス積層体10)される。その後、このガラス積層体10の梱包形態で搬送されパネル製造工程に供給される。
【0024】
(2)本実施形態の説明
本実施形態における成形装置500について
図3を用いて説明する。成形装置500とは、成形工程T3及び徐冷工程T4を行うための装置を指すが、切断室513に設けられる切断装置512も含むこともでき、ここで切断工程T5についても合わせて説明する。
【0025】
成形装置500は、上記した工程を実行するために隔壁(区画壁)506によって、各工程が区画される。隔壁は成形装置500の内部と外部とを区画するための隔壁506aと、成形装置500の内部の区画する隔壁506bを有する。また、各工程は1又は2以上に区画されてもよく、本実施形態では徐冷室508は隔壁によって2つに区画されている。
【0026】
本実施形態では、
図3に示すとおり、成形体501が収容される上部成形室504と、上部成形室504の下流側に設けられる下部成形室505と、下部成形室505の下流側に設けられる徐冷室508を備える。そして、徐令室508の下流側には切断室513が設けられる。各工程は、隔壁(区画壁)506により区画されると共に、ガラスシートGが下流へと移動する隙間(スリット又は空間連結部ともいう。)が設けられる。上部成形室504と下部成形室505は空間連結部531により連続し、下部成形室505と徐冷室508は空間連結部532により連続し、徐冷室508と切断室513は空間連結部533により連続して設けられる。
【0027】
上部成形室504には成形体501を備え、下部成形室505にはロール507を備え、徐冷室508にはロール509を備え、徐冷室508と切断室513を区画する隔壁506bにはエアー吐出装置520を備え、切断室513には切断装置を備える。また、上部成形室、下部成形室、徐冷室には、それぞれ図示しないヒータユニットが備えられ、隔壁により区画された各室において個別に温度調整が可能に設けられる。これにより熔融ガラス、又は熔融ガラスから成形されたガラスシートGの温度を制御することができる。
【0028】
ここでガラスの流れについて説明する。成形体501は、熔解装置100、清澄装置300を経て移送管400にて供給される熔融ガラスを、帯状のガラスに成形する機能を有する。成形体510は、垂直方向に切断した断面形状が楔形形状を有し、レンガにより構成されている。成形体501は、その長手方向に沿って、上方に開放された溝部502が形成されている。溝部502に供給された熔融ガラス503は、上方よりあふれ出て成形体501の両側壁に沿って流れる。そして、熔融ガラス503は、成形体501の下端部で合流してガラスシートGを形成する。
【0029】
成形装置500の上部成形室にて板状に成形されたガラスシートGは、鉛直下向きに降下して、空間連結部531を通り、下部成形室505に移動する。この上部成形室504では、ガラスは粘性状態を維持して下方降下して、徐々にガラス粘度が高くなりガラスシートGを形成する。
【0030】
下部成形室505では、上部成形室504にて帯状のガラスに形作られたガラスシートGが、所定の幅広さに保持されると共に、ロール507の回転速度により、ガラスシートGが引き伸ばされて所定の厚みにされる。そして、所定の厚みにされたガラスシートGが、空間連結部532を通って、徐冷室508へ移動する。下部成形室505では、ガラスは、熱が奪われることで粘弾性状態となり、さらには弾性状態に変化していく。
【0031】
徐冷室508では、上部成形室504及び下部成形室505を経て、所定の幅広さと所定の厚みに形成されたガラスシートGを、所定の温度プロファイルにて降温することで、ガラスシートGの熱収縮特性を調整したり、ガラスシートGの内部歪を抑制したりする。具体的には、熱収縮特性の調整は、ガラスシートGをロール509で保持して下降する際に、徐冷室内に形成された温度域(800℃〜400℃)を、所定の時間で通過させることで行われる。また、内部歪の調整は、ガラスシートGの幅方向にわたってガラス冷却速度を管理することで行われる。
【0032】
上部成形室504、下部成形室505、徐冷室508には、図示されないヒータユニットが設けられ、熔融ガラス503、ガラスシートGの温度を制御すると共に、各室内の温度を制御する。また、下部成形室505には、成形体501の下端部から離れ、下部成形室508に進入したガラスシートGの冷却を促進するための図示しない冷却ユニットが設けられても良い。また、各室内の環境測定するための複数の温度センサが各室の内外に設けられる。
【0033】
下部成形室505、徐冷室508に設けられるヒータユニットは、ガラスシートGの流れ(移動)方向に対して複数段に設置され、かつ各ヒータユニットは、ガラスシートGの幅方向に分割されて設けられるとよい。これにより、ガラスシートGの流れ方向、幅方において、一定間隔で温度制御することができる。
【0034】
徐冷室を通過して所定の温度まで降温したガラスシートG1は、空間連結部533を通り、ほぼ室温の切断室に進入する。そして、ガラスシートGは、切断装置512により切断されガラス基板G1が形成される。
【0035】
次に、
図3、
図4を用いてエアー吐出装置の説明をする。
ガラスシートGの移動における、徐冷室508の出口側又は切断室513の入り口側には、徐冷室508から切断室513にガラスシートGが移動するための空間連結部533が設けられる。空間連結部533は、ガラスシートGが通るのに十分は幅を有するよう徐冷室508の徐冷室床壁510に設けられた隙間である。なお徐冷室床壁は、隔壁506bを兼ねるものである。
【0036】
本発明では、この空間連結部533を通って切断室513から徐冷室508へ空気が流入することを抑制するよう、気流遮断手段としてのエアー吐出装置を形成した。具体的には、切断室513に移動したガラスシートGの主表面における温度が、切断室513の温度に比して温度差を有することで、ガラスシートGの主表面に上昇気流が生じる。この上昇気流を抑制するために、上昇気流に対して向かい風となるような気体を、エアー吐出装置から吐出させる。
図3に示す通り、エアー吐出装置は、空間連結部533の両側に対向して設けられることが好ましい。
【0037】
エアー吐出装置520は、図示しないエアー供給装置からエアーが供給され、エアーは本体部521内部を通り、吐出部522に設けられたスリット状の送風口523(以下、スリット又は送風口ともいう。)から吐出される。また、送風口の隙間(スリット幅)を可変に設けることで吐出力の調整を可能にする。本実施形態では、エアー吐出装置の本体部521の上面を、徐冷室床壁510の切断室側上部に設置する形を採用した。また、風量・風圧の変更は、エアー供給装置の調整や、送風口523の幅の調整により行われる。本実施形態では、ガラスシートGの両面で、均等の風量・風圧でエアーが吐出されるよう、エアー供給装置やスリット幅を調整した。また、本実施形態では、エアー吐出装置本体部の吐出部が設けられる先端524を、傾斜して設けた。エアー吐出装置520のスリット523から吐出されるエアーの風向が、ガラスシートGの垂直方向からガラスシートGの進行方向側に、所定の角度だけ傾斜して吹き付けられるように、エアー吐出装置を形成した。
【0038】
なお、エアー吐出装置520及びスリット523は、ガラスシートGが通過する領域の幅よりも広い幅にわたって設けられることが好ましい。また、スリット523は、所定の間隔でスリット幅を変更できるように設けられる。これにより、ガラスシートGの幅方向において上昇気流に差があるときに、それぞれの箇所の上昇気流に応じたエアーを吐出できる。
【0039】
ここでエアー吐出装置の稼動による上昇気流の抑制ついて説明する。
ガラスシートGが切断室513に進入する際、ガラスシートG1の主表面は100℃〜250℃程度の温度を有している。このためガラスシートGの主表面では、ガラスシートGにより温められた空気が、周囲の空気と共にガラスシートGの主表面において上昇気流511を形成する。エアー吐出装置520は、
図3に示すように、切断室513から徐冷室508へ向かって流れる気流511に対して、向かい風となるようにエアー521を吐出する。本実施形態では、成形装置500の幅全長にわたって、ガラスシートGの移動方向とエアーの風向のなす角が約45°となるように、エアー吐出装置520を設置することで、上昇気流が徐冷室508内に流入するのを抑制する。
【0040】
(3)熱収縮特性の調整
本実施形態では、ガラスシートGが徐冷室508内を通過する際に、ガラスシートGの温度が歪点から−50℃近傍の状態を長く保ちつつ、ガラスシートGを徐冷することで、パネル製造プロセスにおいて高い歩留まりを可能にするガラス基板を製造した。
【0041】
歪点から−50℃近傍の温度におけるガラスの徐冷時間を長く取ることで、表示装置のプロセスアニール温度450℃〜600℃における、ガラスの熱収縮を小さくすることができるからである。一方で、歪点から−50℃近傍の温度での保持時間は、ガラス基板ごとに一定である必要がある。切断装置512で切断されるガラス基板Gごとに、歪点から−50℃近傍で保持されていた時間がばらつくようなことがあると、ガラス基板ごとに熱収縮量が異なることになるからである。
【0042】
本実施形態では、上述したエアー吐出装置を用いることで、切断室513から徐冷室508への空気の流入を抑制し、成形装置内500内の温度、特に徐冷室508内の温度変動を小さくする。これにより、表示装置のプロセスアニール温度における熱収縮量に影響を与える「歪点から−50℃近傍の温度での保持時間」を各ガラス基板でほぼ一定にすることができる。
【0043】
(4)内部歪の調整
本実施形態では、下部成形装置の上流側で幅方向の両端部を急冷してガラスシートGを形成した後、下部成形装置の下流側から徐冷室508の上流側において、ガラスシートGの中央部をゆっくりと幅方向の外側から冷やして固めるようヒータユニットの操作を行った。中央部における幅方向の急激な温度変化は、ガラスシートGの内部歪を大きくするため、幅方向に緩やかな温度勾配を設けることとした。具体的には、ガラスシートGの中央部を幅方向外側から徐々に冷却するように、幅方向、流れ方向のヒータユニットの設定を調整した。なお、ガラスシートGの中央部とは、両端部に挟まれた領域であり、パネル製造に用いられる領域でもある。
【0044】
上記の通り、ガラスシートGの冷却過程では、内部歪を発生させないようにガラスシートGの幅方向の冷却順序、冷却速度の管理が求められる。そのために、下部成形室及び徐冷室ではガラスシートGからの放熱を、ヒータユニットによってコントロールする必要がある。言い換えると、成形装置500内の雰囲気や気流が乱れると、成形装置500内に設けられた図示しないヒータを用いたとしても、外乱の影響を排除できず、ガラスシートGの冷却条件が乱れ、求める低内部歪を達成することができなくなる。
【0045】
そこで、本実施形態では、上述したエアー吐出装置を用いることで、切断室513から徐冷室508への空気の流入を抑制して、成形装置500内の雰囲気や気流の変動が小さくすることで、図示しないヒータユニットの出力制御によるガラスシートGの冷却管理を精度良く行っている。
【0046】
以上、本実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、上記の実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。また、本実施形態では、歪点とはガラス粘度がlogη14.5付近のガラス板の温度を示しており、徐冷点とは、logη13付近のガラス板の温度を示しているものとする。
【0047】
(5)本発明のガラス基板の製造方法の好ましい形態
次に、上記で説明した表示装置用ガラス基板の製造装置を用いたガラス基板の製造方法の好ましい形態を、実施例と共に説明する。
【0048】
本実施形態の一例では、第6世代のマザーガラスを製造するために、約2000mmの幅を有するガラスシートGの成形が可能な成形体501を使用して、1mm未満、具体的には0.3〜0.7mmの厚さのガラス基板が製造される。本実施例では、0.4mmのガラスシートGを成形した。
【0049】
本発明により製造されるガラス基板としては、ガラス基板の質量%表示で、以下の成分を含むものが例示される。また、フラットパネルディスプレイ(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)用のガラス基板としては、ガラス板が質量%表示で、以下の主成分を含むものが例示される。
SiO
2:50〜70%(55〜65%、57〜64%、58〜62%)、
Al
2O
3:5〜25%(10〜20%,12〜18%,15〜18%)。
なお、括弧内の表示は各成分の好ましい含有率であり、後半ほど好ましい数値である。
【0050】
特に、
SiO
2:50〜70%、
B
2O
3 :5〜18%、
Al
2O
3 :10〜25%、
MgO:0〜10%、
CaO:0〜20%、
SrO:0〜20%、
BaO:0〜10%、
RO:5〜20%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種である)を含有することが好ましい。さらに、R’
2O 0.20%を超え3.0%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種である)を含むことが好ましい。また、清澄剤を合計で0.05〜1.5%含み、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含まないことが好ましい。また、ガラス中の酸化鉄の含有量が0.01〜0.2%であることがさらに好ましい。また、ガラスの特性として、歪点が690℃以上のガラスであることが好ましい。
【0051】
エアー吐出装置520は、空間連結部533の幅全長にわたり空気が吐出されるように、空間連結部533に対して幅広に設けた。また、エアー吐出装置520とガラスシートGとの距離は、25mm〜150mmの範囲内で調整を行った。エアー吐出装置520とガラスシートGとの距離とは、エアー吐出装置520のスリット523から、ガラスシートGまでの最短距離を指すものとする。スリット523から吐出される空気温度は20℃〜80℃、空気流量2〜10m3/minとし、最大静圧19.6kPaとした。
【0052】
また、本発明者の検討により、上昇気流511が徐冷室508内へ流入するのを抑制するための風量、風圧は、上述した低いレベルでも十分に効果を奏することがわかった。このような風量、風圧で稼動することで、切断室513内において塵埃を巻き上げるという問題がないことが確認された。つまり、カッターホイールを用いたガラスシートの切断を採用していても、エアー吐出装置を上記風量、風圧で使用することで、切断後のガラス基板Gの表面等にガラスカレットが付着することを抑制できる。
【0053】
(6)実施例の効果
本実施例により製造され製品サイズに加工されたガラス基板の熱収縮特性を測定した。具体的には、
図5に示すガラス積層体10の任意の箇所に積み込まれたガラス基板を、測定用のサンプル片に切断して熱収縮の測定を行った。サンプル片はガラス基板の中央部から複数枚切り出した。熱収縮の測定方法としては、600℃以上に所定の温度勾配で昇温可能なアニール装置を用いて、アニール装置内に室温から550℃まで昇温(昇温時間10℃/分)して550℃にて1時間保持するアニールを2回繰り返したときの収縮量を公知のケガキ法により測定した。
【0054】
エアー吐出装置を稼動せずに製造したガラス積層体中のガラス基板の熱収縮量の測定結果は、50ppm〜60ppmの範囲内と、ばらつき20%程度あり、差が大きかったのに対し、エアー吐出装置を稼動した本実施例により製造されたガラス積層体中のガラス基板は、熱収縮量が48ppm〜50ppmの範囲内と、ばらつき4%程度と、差を小さく抑えることができた。
【0055】
本実施例では、熱収縮量のばらつきを小さくすると共に、熱収縮量の絶対値も小さくすることができた。これは、上述した通り、本発明のエアー吐出装置により、徐冷室に流入する上昇気流を抑制し、徐冷室508の雰囲気(温度)の変動を小さくして、所望の温度域におけるガラスシートGの滞在時間のバラツキを小さくできたからである。
例えば、本実施例を用いることで、高精細ディスプレイパネルに用いられるLTPS−TFT素子製造に適した、熱収縮の小さい、50ppm以下のガラス基板を、安定的に製造することが出来ることが示された。
【0056】
次に、本実施例により得られたガラス基板の内部歪について評価を行った。具体的には
図5に示すガラス積層体10の任意の位置に積み重ねられたガラス基板について、ユニオプト社製の複屈折測定装置を用いて、ガラス基板面内の位相差を測定した。なお、位相差は主応力差に比例する。シートガラスの製造においては、経験的に、位相差と主応力には正の関係が見られるため、本発明では、複屈折測定による位相差をガラス基板の内部歪みの評価に用いた。
【0057】
エアー吐出装置を稼動せずに製造したガラス積層体中のガラス基板は、測定された位相差の最大値が1.2nm以上であり、ガラス基板の面内の任意の箇所において、1.2〜2.3nmの範囲で測定された。これに対し、エアー吐出装置を稼動した本実施例により製造されたガラス基積層体中から抜き出された複数のガラス基板を測定したところ、各ガラス基板の測定値の最大値は、いずれも0.7nm以下であり、各ガラス基板の面内の任意の箇所においても、0.5〜0.7nmの範囲内であった。つまり、本発明のガラス基板の製造方法によれば、ガラス基板の内部歪みの絶対値、ばらつきの両方を小さくすることができた。
【0058】
本実施例では、内部歪みのバラツキを小さくすると共に、内部歪みの最大値も小さくすることができた。これは、上昇気流を抑制することで、成形装置500内における気流の乱れを小さくして、ガラスシートGの冷却過程における温度分布を安定させることが出来たからである。これにより、
図5に示すガラス積層体を構成するガラス基板の品質バラツキを小さくすることができ、例えば、400枚から1000枚のガラス基板が積層されたガラス積層体においても、安定した品質を維持することができる。
【0059】
また、成形装置500内において、ガラス板の温度が徐冷点以上となる領域で、炉内雰囲気の変動を抑制することで、ガラス板の変形を抑制することができる。ガラス板の温度が徐冷点〜歪点近傍となる領域で、炉内雰囲気の温度の変動を抑制することで、ガラス板の内部歪の発生を抑制することができる。ガラス板の温度が歪点以下となる領域における炉内雰囲気の温度変動を抑制することで、ガラス板の反りなどを防止することができる。切断室から徐冷室へ流入する上昇気流を抑制することで、これらについても、より効果的な調整を行うことが出来る。
【0060】
(6)変形例1
ガラス組成を替えて、上記実施例と同様に複数枚のガラス基板を製造してガラス積層体を得た。熱収縮量、内部歪を評価した。ガラス組成は、SiO
2 70〜75%、B
2O
3 1〜6%、Al
2O
3 10〜15%、MgO 0〜5%、CaO 0〜5%、SrO 0〜5%、BaO 2〜10%、RO 5〜18%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種である)を含有する。ガラスの特性として、歪点が700℃〜730℃のガラスである。
【0061】
ガラス積層体から抜き出されたガラス基板を評価したところ、熱収縮量は、30〜31ppmの範囲内と、バラツキを3%程度の範囲内であった。また、内部歪みの大きさ、ばらつきについても、複屈折の測定により評価を行ったところ、測定値は実施例と同様、0.7nm未満に抑えられており、より歪点の高いガラスにおいても、本発明の効果を奏することが確認できた。
【0062】
(7)変形例2
実施例1、変形例1のガラスシートに対して、ガラスシートGの厚さを変えて、厚さ0.3mmのガラス基板を製造し、同様の評価を行ったところ、熱収縮量のばらつきを3〜5%の範囲内に抑えることができ、内部歪みの大きさ、ばらつきとも、実施例、変形例1と同様に小さく抑えることができた。本変形例では、ガラスシートGの厚さを変更するために、成形体に供給する熔融ガラスの流量を小さくした。熔融ガラスの供給量が小さくなると、成形装置に持ち込まれる全体の熱量も小さくなるため、下部成形室から徐冷室にかけて内部の雰囲気が変動しやすくなるが、エアー吐出装置を用いる本発明によれば、成形装置内の雰囲気の調整が可能となり、所望の熱収縮量、内部歪みを実現したガラス基板積層体を得ることが出来る。
【0063】
以上のように、本発明のエアー吐出装置を用いて製造したガラス積層体では、積層されるガラス基板の熱収縮量のバラツキを5%未満に抑えることができ、さらに内部歪み、及び内部歪みのばらつきを小さく抑えることができる。これにより、パネル製造工程における生産性・歩留まりの向上を実現することができる。
【0064】
上記実施形態又は実施例では、切断室の入り口にエアー吐出装置を用いる構成で説明をしたが、本発明はこの構成に限定されない。本発明は、ダウンドロー法によって熔融ガラスがガラスシートに成形される成形工程と、成形されたガラスシートが温度調整可能な区画の中で冷却されつつ移送される徐冷工程とを有する。区画にはガラスシートを区画の外へ移送可能なスリットを有し、スリットを通過する前記ガラスシートの主表面に向かって、エアー吐出装置から流体を吐出することで、ガラスシートの主表面に生じる気流を調整するものであればよく、流体としては、気体であることが好ましく、窒素や空気が選択される。
【0065】
上記実施例では、熱収縮量を考慮して、徐冷工程から移送される温度を決定したが、内部歪みのみを考慮する場合、ガラスシートGの温度が、歪点−100℃で徐冷工程を終えてスリットから区画の外に移送してもよい。この場合でも、エアー供給装置を用いて、区画の中へ向かう気流を抑制することで、区画内の温度バラツキを無くすことができ、ガラスシートの内部歪みの低減が十分に可能である。熱収縮量及び内部歪みのばらつきを小さくするために、ガラスシートGの温度が歪点−300℃で徐冷工程を終えてスリットから区画の外に移送する形態でもよい。例えば、350℃でスリットを通過するガラスシートには、エアー供給装置から300℃から350℃の空気が吐出される。