【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも一対の保護層と、上記一対の保護層に狭持された遮音層とからなり、断面形状が楔形であり、断面の楔角θが0.1〜0.7mrad、最大厚さが2000μm以下、最小厚さが400μm以上である合わせガラス用中間膜であって、上記遮音層の最小厚さが20μm以上である合わせガラス用中間膜である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者らは、楔形の合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスの遮音性が劣る原因について鋭意検討した結果、合わせガラス用中間膜が楔角を有するため、楔角を形成する端の厚さが他方の端に比べて極端に薄くなり、薄い部分から音の振動が車内に伝わるためということを見出した。また、合わせガラス用中間膜のうち、楔角を形成する端の厚さを音の振動が伝わらないほどに厚くしただけでは、運転者の視野に映る計器表示が二重に見えるという問題を解決することができないということも見出した。そこで、更に鋭意検討の結果、一定の厚さの遮音層と保護層とを有し、一定の範囲の楔角と特定の形状とを有する合わせガラス用中間膜は、軽量化やコスト等の問題を克服しつつ、充分な遮音性、耐貫通性を有し、かつ、運転者が視線を下げることなく前方視野と速度表示等とを同時に視認することができ、ヘッドアップディスプレイに好適に用いることができるということを見出した。このようにして、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の合わせガラス用中間膜は、少なくとも一対の保護層と、上記一対の保護層に狭持された遮音層とからなる。
【0009】
上記遮音層の最小厚さの下限は20μmである。20μm未満であると、充分な遮音性能が得られない。好ましい下限は30μm、より好ましい下限は40μmである。また、好ましい上限は300μm、より好ましい上限は200μmである。
【0010】
遮音層は厚くなればなるほど高い遮音性能が得られる。上記遮音層の断面形状は、成形面での容易さ等を考慮して楔形であってもよい。合わせガラス用中間膜の遮音層が楔形である場合は、合わせガラス中に気泡が発生しない優れた脱気性能を有する。
なお、本明細書において、楔形とは、「一端が広く他端に向かうに従って狭くなる形状」を意味する。具体的な形状として、台形や三角形が挙げられる。
また、遮音層は、一部に着色帯を有していてもよい。
上記着色帯は、例えば、上記遮音層を押出成形する際に、着色剤を配合したポリビニルアセタール樹脂等を層内に挿入して押出成形することにより得ることができる。
【0011】
上記遮音層としては特に限定されないが、例えば、可塑剤とポリビニルアセタール樹脂とを用いてなることが好ましい。
【0012】
上記可塑剤としては特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機可塑剤;有機リン酸エステル、有機亜リン酸エステル等の有機リン酸エステル可塑剤等が挙げられる。
【0013】
上記一塩基性有機酸エステル可塑剤としては特に限定されず、例えば、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコールと、酪酸、イソ酪酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、ヘプチル酸、n−オクチル酸、2−エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸(n−ノニル酸)、デシル酸等の一塩基性有機酸との反応によって得られたグリコールエステルが挙げられる。なかでも、トリエチレングリコール−ジカプロエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブタノエート、トリエチレングリコール−ジ−n−オクタノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)等のトリエチレングリコールエステルが好適である。
【0014】
上記多塩基性有機酸エステル可塑剤としては特に限定されず、例えば、炭素数4〜8の直鎖状又は分枝状アルコールと、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の多塩基性有機酸との反応によって得られるエステル等が挙げられる。なかでも、ジブチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジブチルカルビトールアジペートが好適である。
【0015】
上記有機リン酸エステル可塑剤としては特に限定されず、例えば、トリブトキシエチルホスフェート、イソデシルフェニルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート等が挙げられる。
【0016】
上記可塑剤のなかでも、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブタノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)が特に好適に用いられる。
【0017】
上記遮音層における上記可塑剤の含有量としては特に限定されないが、多量の可塑剤を含有させることにより樹脂層を軟化させて音による振動を吸収させ、より高い遮音性をもたせることができることから、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して好ましい下限は40重量部、好ましい上限は80重量部である。40重量部未満であると、5000Hz程度の音域の音の遮音性が不充分となることがあり、80重量部を超えると、可塑剤のブリードアウトが生じて、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性が低下し、得られる合わせガラスの光学歪みが大きくなったりすることがある。より好ましい下限は50重量部、より好ましい上限は70重量部である。
【0018】
上記ポリビニルアセタール樹脂としては特に限定されないが、上記遮音層は、上述したように多量の可塑剤を含有させるため、多量の可塑剤に対しても親和性が高いことが好ましい。特に、アセタール基の炭素数が4〜5であり、かつ、アセチル化度が4〜30モル%であるポリビニルアセタール樹脂や、アセタール基の炭素数が6〜10のポリビニルアセタール樹脂や、アセタール化度が70〜85モル%のポリビニルアセタール樹脂が好適に用いられる。
【0019】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することにより得られ、通常、主鎖であるエチレン鎖に対してアセタール基とアセチル基と水酸基とを側鎖として有する。
【0020】
上記ポリビニルアセタール樹脂の製造原料であるポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。200未満であると、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が劣ることがあり、5000を超えると、乗用車のフロントガラスとして使用するには強度が高くなりすぎることがある。より好ましい下限は500、より好ましい上限は4000であり、更に好ましい下限は1000、更に好ましい上限は3500である。
【0021】
上記アセタール基の炭素数が4〜5であるポリビニルアセタール樹脂を調製するのに用いられる炭素数4〜5のアルデヒドとしては特に限定されず、例えば、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒドが好適である。特に、n−ブチルアルデヒドを用いることが好ましい。n−ブチルアルデヒドを用いることにより、各層間の接着強度がより強くなる。また、汎用されているポリビニルブチラール樹脂と同様の方法で樹脂を合成することができる。
【0022】
上記アセタール基の炭素数が4〜5であるポリビニルアセタール樹脂においては、アセチル化度の好ましい下限は4モル%、好ましい上限は30モル%である。4モル%未満であると、遮音性能が充分に発揮されないことがあり、30モル%を超えると、アルデヒドの反応率が著しく低下することがある。より好ましい下限は8モル%、より好ましい上限は24モル%であり、更に好ましい下限は10モル%である。
なお、アセチル化度とは、アセチル基が結合しているエチレン基量の平均値を、主鎖の全エチレン基量で除して求めたモル分率である。
【0023】
上記アセタール基の炭素数が4〜5であるポリビニルアセタール樹脂においては、アセタール化度の好ましい下限は40モル%、好ましい上限は69モル%である。40モル%未満であると、可塑剤との相溶性が悪くなり、遮音性能を発揮するのに必要な量の可塑剤の添加ができないことがある。また、アセタール化度が69モル%を超えるポリビニルアセタール樹脂は製造効率が低く高価である。より好ましい下限は50モル%、より好ましい上限は68モル%である。
【0024】
上記アセタール基の炭素数が4〜5であるポリビニルアセタール樹脂においては、ポリビニルアルコールを炭素数4のアルデヒド又は炭素数5のアルデヒドでアセタール化して得られた2種以上のポリビニルアセタール樹脂の混合物を用いてもよい。また、炭素数4〜5のアルデヒド以外のアルデヒドを30重量%を超えない範囲で含有するアルデヒド混合物でアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂を用いてもよい。
【0025】
上記アセタール基の炭素数が6〜10のポリビニルアセタール樹脂を調製するのに用いられる炭素数6〜10のアルデヒドとしては特に限定されず、例えば、n−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒド、n−ヘプチルアルデヒド、n−オクチルアルデヒド、n−ノニルアルデヒド、n−デシルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等の脂肪族、芳香族又は脂肪環族のアルデヒドが挙げられる。これらのアルデヒドは、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、炭素数6〜8のアルデヒドを用いることが好ましい。
なお、アルデヒドの炭素数が10を超えると、得られたポリビニルアセタールの剛性が低く、かつ、遮音性が劣ることがある。
【0026】
上記アセタール化度が70〜85モル%のポリビニルアセタール樹脂においては、アセタール化度の好ましい下限は70モル%、好ましい上限は85モル%である。70モル%未満であると、遮音性能が充分に発揮されないことがあり、85モル%を超えると、ポリビニルアセタール樹脂を調製する際に用いるアルデヒドの反応率が著しく低下することがある。より好ましい下限は72モル%、より好ましい上限は82モル%である。
なお、アセタール化度とは、アセタール基が結合しているエチレン基量の平均値を、主鎖の全エチレン基量で除して求めたモル分率である。
【0027】
上記ポリビニルアセタール樹脂の製造方法としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコールを熱水に溶解し、得られたポリビニルアルコール水溶液を所定温度に保持したのち、これに上記アルデヒドと触媒を加え、アセタール化反応を進行させ、その後、反応液を所定温度で高温保持した後に中和、水洗、乾燥の諸工程を経て樹脂粉末を得る方法等が挙げられる。
【0028】
上記遮音層は、一対の保護層により狭持されている。
上記保護層は、遮音層に含まれる多量の可塑剤がブリードアウトして、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下するのを防止する。また、得られる合わせガラス用中間膜に耐貫通性を付与する役割を有する。また、合わせガラス用中間膜全体としての形状を楔形に調整する役割も有する。
【0029】
上記保護層の厚さとしては、合わせガラス用中間膜全体として後述するような範囲の厚さになるように調整すればよく、特に限定されない。
なお、上記一対の保護層の断面形状は、楔形や、楔形と矩形との組み合わせであることが好ましい。
【0030】
上記保護層としては特に限定されないが、可塑剤を含有するポリビニルアセタール樹脂であることが好ましい。
【0031】
上記保護層に用いられるポリビニルアセタール樹脂としては特に限定されず、例えば、アセチル化度が3モル%以下、アセタール基の炭素数が3〜4、アセタール化度が60〜70モル%のポリビニルアセタール樹脂等が挙げられる。
【0032】
上記保護層に用いられる上記可塑剤としては特に限定されず、上記遮音層に用いられる可塑剤と同様の可塑剤を用いることができる。
【0033】
上記保護層における上記可塑剤の含有量としては特に限定されないが、ポリビニルアセタール樹脂100重量部に対して好ましい下限は25重量部、好ましい上限は55重量部である。25重量部未満であると、ガラスとの接着性が不足することがある。また、55重量部を超えると、ブリードアウトが生じて、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性が低下することがある。また、得られる合わせガラスの光学歪みが大きくなったりすることがある。より好ましい下限は30重量部、より好ましい上限は50重量部である。
【0034】
また、上記保護層は、一部に着色帯を有していてもよい。
上記着色帯は、例えば、上記保護層を押出成形する際に、着色剤を配合したポリビニルアセタール樹脂等を層内に挿入して押出成形することにより得ることができる。
【0035】
また、製法上の利便性や、形状を調整する目的で、上記一対の保護層のうち少なくとも1層に、形状補助層が積層されていてもよい。
【0036】
上記形状補助層は特に限定されず、上記保護層と同様の樹脂を用いることができる。
なお、上記形状補助層の厚さは、得られる合わせガラス用中間膜の膜厚、楔角等が後述する範囲になるように調整すればよい。
【0037】
上記遮音層、保護層及び/又は形状補助層は、更に必要に応じて、紫外線吸収剤、接着力調整剤、光安定剤、界面活性剤、難燃剤、帯電防止剤、耐湿剤、着色剤等の従来公知の添加剤を含有していてもよい。
【0038】
また、上記遮音層、保護層及び/又は形状補助層は、遮熱剤を含有することが好ましい。
遮熱剤が少なくともいずれか一層に含有される合わせガラス用中間膜は優れた遮熱性を有する。
上記遮熱剤としては特に限定されず、例えば、錫ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化錫、六ホウ化ランタン等の無機遮熱剤、銅錯体化合物、フタロシアニン金属錯体等の有機遮熱剤等が挙げられる。
【0039】
少なくとも上記保護層と遮音層とからなる本発明の合わせガラス用中間膜の断面図としては、具体的には、
図1〜4の模式図で表されるようなものが挙げられる。
図1に示される合わせガラス用中間膜は、断面形状が楔形の保護層1により、断面形状が矩形の遮音層2が狭持されてなるものである。
図2に示される合わせガラス用中間膜は、断面形状が楔形の保護層1により、断面形状が楔形の遮音層2が狭持されてなるものである。
図3に示される合わせガラス用中間膜は、断面形状が楔形の保護層1と、断面形状が矩形の保護層1とにより、断面形状が矩形の遮音層2が狭持されてなるものである。
図4に示される合わせガラス用中間膜は、断面形状が矩形の保護層1により、断面形状が矩形の遮音層2が狭持され、更に、一方の保護層の表面に断面形状が楔形の形状補助層3が積層されてなるものである。
なかでも、合わせガラスを作製した際に、気泡が発生しない優れた脱気性能を有することから、
図2に示される合わせガラス用中間膜が好適である。
【0040】
少なくとも上記保護層と遮音層とからなる本発明の合わせガラス用中間膜は、該合わせガラス用中間膜の断面の楔角θは、下限が0.1mrad、上限が0.7mradである。
なお、合わせガラス用中間膜の断面の楔角θとは、
図1〜
図4の波線で示すように、断面図のうち2辺を延長して交差することにより形成される鋭角とする。
楔角θが0.1mrad未満であると、コントロールユニットから送信される速度情報等の計器表示が二重に見えるためうまく表示できず、0.7mradを超えると、運転者の視野に映る計器表示が二重に見える。好ましい下限は0.2mrad、好ましい上限は0.6mradである。
【0041】
本発明の合わせガラス用中間膜は、最大厚さの上限が2000μmである。なお、最大厚さとは、
図1中の4で示される部位である。
最大厚さが2000μmを超えると、厚みが厚いためフロントガラスを車体への取り付けることが難しくなることがある。好ましい上限は1500μmである。
【0042】
また、本発明の合わせガラス用中間膜は、最小厚さの下限は400μmである。なお、最小厚さとは、
図1中の5で示される部位である。
最小厚さが400μm未満であると、充分な遮音性能が得られず、また、衝撃に対する耐貫通性が弱くなる。好ましい下限は500μmである。
【0043】
上記遮音層、保護層及び形状補助層を製造する方法としては特に限定されず、例えば、可塑剤と、必要に応じて配合する添加剤とを、ポリビニルアセタール樹脂に添加して混練し、成形する方法等が挙げられる。上記混練の方法としては特に限定されず、例えば、押出機、プラストゲラフ、ニーダー、バンバリーミキサー、カレンダーロール等を用いる方法が挙げられる。なかでも、連続的な生産に適することから、押出機を用いる方法が好適である。
【0044】
少なくとも上記保護層と遮音層とからなる本発明の合わせガラス用中間膜の製造方法としては特に限定されず、保護層と遮音層とを製造して熱ラミネートする方法や、保護層と遮音層とを共押出により成形する方法や、保護層と遮音層とを共押出により成形し、更に少なくとも1層の保護層の表面に形状補助層を積層し、熱ラミネートする方法等が挙げられる。
【0045】
少なくとも上記遮音層と保護層との形状を組み合わせて、合わせガラス用中間膜の断面形状を楔形とすることにより、遮音性能を有するとともに、コントロールユニットから送信される速度情報等をインストゥルメンタル・パネルの表示ユニットからフロントガラスに映し出すことができるため、運転者が視線を下げることなく前方視野と速度表示等とを同時に視認することができ、ヘッドアップディスプレイとして好適に用いることができる。
【0046】
また、本発明の合わせガラス用中間膜を用いてなる合わせガラスもまた、本発明の1つである。
【0047】
本発明の合わせガラスは、少なくとも一対のガラス間に本発明の合わせガラス用中間膜が挟持されたものである。
上記ガラスとしては特に限定されず、従来公知の透明板ガラス等を用いることができる。また、無機ガラスの代わりにポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等の有機ガラスを用いてもよい。
本発明の合わせガラスを製造する方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
なお、合わせガラス作製の容易さから、一対のガラス間に挟まれる合わせガラス用中間膜は1枚であることが好ましいが、性能面等の安定性から、複数枚の合わせガラス用中間膜を一対のガラス間に挟んで合わせガラスを作製してもよい。