特許第5782210号(P5782210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5782210クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5782210
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/08 20060101AFI20150907BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20150907BHJP
   C21D 1/00 20060101ALI20150907BHJP
   G21C 19/02 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   C21D9/08 F
   C21D9/50 101A
   C21D1/00 F
   G21C19/02 Y
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-512424(P2015-512424)
(86)(22)【出願日】2013年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2013075925
【審査請求日】2015年3月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西田 秀高
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−136797(JP,A)
【文献】 特開2003−253337(JP,A)
【文献】 特開平06−088120(JP,A)
【文献】 特開昭63−028825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00−9/44、9/50
C21D 1/00−1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法であって、
前記耐熱金属材料部材の外周に接するように、耐熱被覆部材で前記耐熱金属材料部材を覆って固定し、
前記耐熱被覆部材で覆った前記耐熱金属材料部材を、前記耐熱被覆部材の外周から、1000℃以上の温度に加熱することを含む方法。
【請求項2】
前記耐熱被覆部材で覆った前記耐熱金属材料部材を1000℃以上の温度に加熱した後、冷却し、再度、A1変態点以上の温度に加熱することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力・原子力発電プラントや化学プラント等で使用された高温部材(例えば、ボイラやタービンの高温耐圧溶接部及び高温配管、管寄せ、管台等の母材など)において、クリープ損傷により劣化した部位を再生する方法として、例えば、上記高温部材をクランプにより固定して、クランプ間のクリープ劣化部における、クランプ固定部分への方向に対する熱膨張を拘束した状態で、クリープ劣化部を加熱して再生熱処理を行う方法(特開2003−253337号公報)などが開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述のような方法では、クリープ劣化部を加熱した際に生じる、クリープ劣化部における上記部材の外周への方向の熱膨張を拘束することはできないという問題がある。
本発明は、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材を加熱した際に生じる、該部材の外周への方向の熱膨張を拘束して、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理を効率よく行うことが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明に係る、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法は、後述する構成を備える。より具体的には、本発明は、
(1) クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法であって、前記耐熱金属材料部材の外周に接するように、耐熱被覆部材で前記耐熱金属材料部材を覆って固定し、前記耐熱被覆部材で覆った前記耐熱金属材料部材を、前記耐熱被覆部材の外周から、1000℃以上の温度に加熱することを含む方法;
(2) 前記耐熱被覆部材で覆った前記耐熱金属材料部材を1000℃以上の温度に加熱した後、冷却し、再度、A1変態点以上の温度に加熱することを特徴とする上記(1)に記載の方法;
などである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材を加熱した際に生じる、該部材の外周への方向の熱膨張を拘束して、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理を効率よく行うことが可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の一実施形態として説明する、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法の概略を示す図である。
図2】本発明の一実施形態として説明する図1の概略図の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び図面等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0008】
図1は、本発明の一実施形態として説明する、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法の概略を示す図である。図2は、本発明の一実施形態として説明する図1の概略図の断面を示す図である。なお、本実施の形態においては、耐熱金属材料部材10として、耐熱金属材料を用いて製造され、使用によりクリープ損傷が生じた高温配管を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではなく、耐熱金属材料部材10は、耐熱金属材料を用いて製造され、使用によりクリープ損傷が生じたタービン等の他の高温用部材などであってもかまわない。
【0009】
図1及び図2に示すように、本発明に係る、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材10の再生熱処理方法は、まず、耐熱金属材料を用いて製造され、使用によりクリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材(その溶接部20を含む。以下同じ。)10の外周に接するように、耐熱被覆部材30で耐熱金属材料部材10を覆って耐熱被覆部材30を固定する。続いて、耐熱被覆部材30で覆った耐熱金属材料部材10をヒーター40によって1000℃以上の温度で所定時間加熱する。
【0010】
以上のように、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材10を、耐熱被覆部材30で覆って固定し、1000℃以上の温度に加熱することにより、外周への方向に熱膨張する耐熱金属材料部材10に対して圧縮力が働いて、耐熱金属材料部材10の外周への方向の熱膨張を抑制するとともに、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理を効率よく行うことが可能となる。より具体的には、耐熱金属材料部材10の外周への方向の熱膨張力を利用してクリープボイドや亀裂を効率よく補修し、さらには、耐熱金属材料部材10の組織が新材の状態(例えば、オーステナイト組織)に戻り、耐熱金属材料部材10の寿命を延伸させることが可能となる。
【0011】
本発明に係る、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法は、耐熱被覆部材30で耐熱金属材料部材10を覆って固定する前に、耐熱被覆部材30を覆う部分に対してエッチング処理、又はショットピーニングを施してエッチング処理を行うこととしてもよい。これらの処理により、耐熱金属材料部材10の表層に対して塑性変形による加工硬化を行ったり、耐熱金属材料部材10の表面に圧縮残留応力を与えたり、耐熱金属材料部材10の表面の酸化膜を除去したりすることが可能となる。
【0012】
また、本発明に係る、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法は、耐熱被覆部材30で覆った耐熱金属材料部材10をヒーター40によって1000℃以上の温度に加熱した後、残留応力を除去(低減)するためにストレスリリーフやテンションアニールなどの処理を行ってもよい。より具体的には、耐熱被覆部材30で覆った耐熱金属材料部材10をヒーター40によって1000℃以上の温度に加熱した後に、一旦常温まで冷却し、再度A変態点以上の温度(好ましくは、1000℃+10〜100℃)で所定時間(例えば、数時間〜24時間程度)加熱することとしてもよい。
【0013】
さらに、本発明に係る、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理方法は、耐熱金属材料部材10のクリープ劣化部を耐熱被覆部材30で覆ってヒーター40により加熱した際に生じる、耐熱金属材料部材10の長手方向に対して外向き(耐熱金属材料部材10の端部方向)への熱膨張を拘束するために、ヒーター40によって加熱している部分を挟むようにして、ヒーター40で加熱していない部分の耐熱金属材料部材10を、例えば、2つのクランプなどによって固定してもよい。これにより、クリープボイド・亀裂等をより効率よく補修することが可能となる。
なお、耐熱金属材料部材10の全体に対して、ヒーター40によって加熱する部分が小さい場合には、ヒーター40によって加熱されていない部分によって、ヒーター40で加熱している部分における、耐熱金属材料部材10の長手方向に対して外向きへの熱膨張が拘束されるため、ヒーター40で加熱していない部分の耐熱金属材料部材10をクランプ等によって固定する必要はない。
【0014】
部材10の耐熱金属材料としては、例えば、0.3Mo鋼、0.5Mo鋼、0.5Cr-0.5Mo鋼、1Cr-0.2Mo鋼、1Cr-0.5Mo鋼、1.25Cr-0.5Mo鋼、2.25Cr-1Mo鋼、5Cr-0.5Mo鋼、7Cr-0.5Mo鋼、9Cr-1Mo鋼、0.3Cr-Mo-V鋼、0.5Cr-Mo-V鋼、9Cr-Mo-V鋼、12Cr-Mo-V鋼、1Cr-1.25Mo-0.25V鋼、9Cr-1Mo-W鋼、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L、SUS316TI、SUS317、SUS321、SUS347H、SUS310S、Super304、SUS904L、NCF600、NCF601、NCF800、NCF800H等を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、火力・原子力発電ユニットその他の高温プラントで採用されている部材の公知材料を適用することができる。
【0015】
耐熱被覆部材30は、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材10の外周に接するように、耐熱金属材料部材10を覆うことができ、上記加熱温度に加熱した際に生じる、耐熱金属材料部材10の外周への方向の熱膨張を抑制して、耐熱金属材料部材10の形状をほぼ保持できる耐熱材料からなるものであれば特に制限されるものではないが、上記加熱温度以上の温度において、耐熱金属材料部材10よりも熱膨張率が低い材料からなることが好ましい。なお、耐熱被覆部材30が、耐熱金属部材10に比べて熱膨張率が同程度であって耐熱金属材料部材10とは異なる耐熱材料、又は耐熱金属材料部材10よりも熱膨張率が高い耐熱材料から構成されている場合には、上記加熱温度に加熱した際に生じる耐熱被覆部材30の熱膨張を抑制するために、上記加熱温度以上の温度における熱膨張率が耐熱金属材料部材10に比べて低い耐熱材料部材によって耐熱被覆部材30の外周を固定し、耐熱被覆部材30の形状を保持してもよい。
【0016】
耐熱被覆部材30の耐熱材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、コーディエライト、サイアロン、ジルコン、ムライト等のセラミックス、Alloy903、Alloy909、HRA929等の合金などを挙げることができる。
【0017】
耐熱被覆部材30は、例えば、紐、プレート、クランプなどの形状をしており、これらの固定は、例えば、紐状やプレート状の耐熱被覆部材30を、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材10の外周に巻きつけることによって行ってもよいし、クランプ状の耐熱被覆部材30を、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材10の外周に取り付けることによって行ってもよいし、プレート等の形状をした耐熱被覆部材30をクランプや螺子等の固定具によって、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の外周に取り付けることによって行ってもよい。なお、本実施の形態においては、耐熱被覆部材30は、2つの略半円弧断面形状を有する金具からなり、それらの金具のフランジに取り付けられる螺子部材35によって、前記金具の内面が、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材10の外周に接するようにして、耐熱被覆部材30が耐熱金属材料部材10の表面に固定されている。前記螺子部材35は、例えば、耐熱被覆部材30と同じ材料にて製造されている。
【0018】
耐熱被覆部材30で覆った耐熱金属材料部材10の加熱温度は、1000℃以上の温度であれば特に制限されるものではないが、部材10の耐熱金属材料のうちA変態点が最も高い成分のA変態点以上の温度(好ましくは、1000℃+10〜100℃)で所定時間(例えば、数時間〜24時間程度)加熱することが好ましい。なお、本実施の形態においては、加熱装置として、耐熱被覆部材30で覆った耐熱金属材料部材10の外周から加熱可能な高周波加熱ヒーター40を用いることとしているが、耐熱被覆部材30で覆った部分における耐熱金属材料部材10を加熱できるものであれば特に制限されるものではない。
【符号の説明】
【0019】
10 耐熱金属材料部材
20 溶接部
30 耐熱被覆部材
35 螺子部材
40 高周波加熱ヒーター
【要約】
クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の外周に接するように、耐熱被覆部材で前記耐熱金属材料部材を覆って固定し、前記耐熱被覆部材で覆った前記耐熱金属材料部材を1000℃以上の温度に加熱することにより、外周への方向に熱膨張する耐熱金属材料部材に対して圧縮力が働いて、耐熱金属材料部材の外周への方向の熱膨張を抑制するとともに、クリープ損傷が生じた耐熱金属材料部材の再生熱処理を効率よく行うことが可能となる。
図1
図2