(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電気光学表示装置用基板に設けられた銅または銅合金からなる配線層を研磨するために用いられる、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の化学機械研磨用水系分散体。
電気光学表示装置用基板に設けられた銅または銅合金からなる配線層を研磨するために、請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の化学機械研磨用水系分散体を用いる、化学機械研磨方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の半導体装置の製造に用いられる基板(以下、「半導体装置用基板」という。)の大きさは最大寸法が約50〜300mmであるのに対し、電気光学表示装置の製造に用いられる基板(以下、「電気光学表示装置用基板」という。)は最大寸法が約1500〜3000mm程度と大型になる場合があるため、化学機械研磨技術を用いる際に、その基板の大きさの違いに起因した新たな問題が生じてきている。具体的には、例えば、単位時間当たりの研磨量(以下、「研磨速度」ともいう。)の被研磨面における均一性を保てなくなる問題がある。この問題が生じると、被研磨面の面内で、除去される物質の量がばらつき、平坦性が得られなくなる。従来の半導体装置用基板の場合、被研磨面の面積は面内の平坦性を損なうほどの大きさではなく、品質管理上の許容範囲内とされ、顕著な問題とはならなかった。しかしながら、被研磨面の面積が半導体装置用基板よりもはるかに大きな電気光学表示装置用基板を研磨する場合には、研磨速度の均一性が保てなくなることは無視できない問題となっている。
【0007】
また、近年の半導体装置用基板は集積度を向上させるために、さらなる微細化が要求されており、これに伴いさらに高精度で平坦化を達成することのできる化学機械研磨技術が要求されている。
【0008】
化学機械研磨とは、研磨対象基板と研磨用パッドの間に化学機械研磨用水系分散体を満たして、研磨対象基板を研磨する方法である。この方法では、研磨対象基板の大きさが大きくなるにつれて、基板面内における化学機械研磨用水系分散体の存在量が不均一となる。そのため、研磨速度の均一性を確保できなくなり上記の問題が生じると考えられる。基板面内の単位面積あたりに同一量の化学機械研磨用水系分散体を供給しようとすると、理論的には回転中心から外周に向かう距離に従い、化学機械研磨用水系分散体をその距離の2乗(面積相当)に比例し、増加して供給する必要があるとされる。しかし、現実的には研磨用パッド上に一定の圧力で押し付けられ、かつ、回転している研磨対象基板と研磨用パッドの間に、上記のように化学機械研磨用水系分散体を供給することは技術的に困難である。
【0009】
また、電気光学表示装置用基板を化学機械研磨する場合、異なる材質をできるだけ等しい研磨速度で研磨することも要求される。例えば、ガラス基板の凹部に銅配線を形成する場合などは、ガラスの研磨速度と、銅の研磨速度が異なる場合があり、銅配線の研磨面が凹状になるディッシングという現象や、ガラスが溶解することによるエロージョンと呼ばれる現象が生じることがある。このような現象は、半導体装置用基板において生じることがあったが、同様に電気光学表示装置用基板においても生じることがあり、これを抑制することができる化学機械研磨用水系分散体が求められている。
【0010】
一方、電気光学表示装置用基板のような大面積の基板を研磨する場合においては、化学機械研磨によって除去すべき配線等の量が多い。そのため、このような基板に対して、高スループットな化学機械研磨加工を行うためには、研磨速度が十分に高い必要がある。
【0011】
このように、電気光学表示装置用基板等を研磨するために用いる化学機械研磨用水系分散体の性能としては、被研磨面の平坦性を高めること、ディッシングを抑制することのみならず、研磨速度を高めることが同時に要求されている。
【0012】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、銅または銅合金からなる配線層を化学機械研磨する工程において、研磨速度が大きく、研磨速度の面内均一性および被研磨面の面内平坦性が確保でき、ディッシング等の不具合が生じにくい化学機械研磨用水系分散体、および該化学機械研磨用水系分散体を調製するためのキット、ならびに該化学機械研磨用水系分散体を用いた化学機械研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体は、
(A)下記一般式(1)で示される化合物、
(B)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である界面活性剤、
(C)砥粒、
(D)アミノ酸、
を含む。
【0014】
【化1】
(上記一般式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、または置換もしくは非置換のアルキル基を表し、R
3は、置換もしくは非置換のアルケニル基またはスルホン酸基(−SO
3X)を表す。但し、Xは、水素イオン、アンモニウムイオンまたは金属イオンを表す。)
【0015】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体において、
前記(B)界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸カリウム、およびアルキルベンゼンスルホン酸アンモニウムから選択される少なくとも1種であって、前記界面活性剤のアルキル基は、置換または非置換の炭素数10ないし20のアルキル基であることができる。
【0016】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体において、
前記(B)界面活性剤は、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムから選択される少なくとも1種であることができる。
【0017】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体において、
前記(C)砥粒は、シリカおよび有機無機複合粒子から選択される少なくとも1種であることができる。
【0018】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体において、
さらに、(E)酸化剤を、含むことができる。
【0019】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体において、
前記(E)酸化剤は、過酸化水素であることができる。
【0020】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体において、
さらに、(F)酸アンモニウム塩、を含むことができる。
【0021】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体において、
前記(F)酸アンモニウム塩は、アミド硫酸アンモニウムであることができる。
【0022】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体において、
該化学機械研磨用水系分散体は、電気光学表示装置用基板に設けられた銅または銅合金からなる配線層を研磨するために用いられることができる。
【0023】
本発明に係る化学機械研磨方法は、
電気光学表示装置用基板に設けられた銅または銅合金からなる配線層を研磨するために、上述の化学機械研磨用水系分散体を用いる。
【0024】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体調製用キットは、
第1の組成物および第2の組成物から構成された化学機械研磨用水系分散体を調製するためのキットであって、
前記第1の組成物は、
(A)下記一般式(1)で示される化合物、
(B)界面活性剤、
(C)砥粒、
(D)アミノ酸、
を含み、
前記第2の組成物は、(E)酸化剤を含む。
【0025】
【化2】
(上記一般式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、または置換もしくは非置換のアルキル基を表し、R
3は、置換もしくは非置換のアルケニル基またはスルホン酸基(−SO
3X)を表す。但し、Xは、水素イオン、アンモニウムイオンまたは金属イオンを表す。)
【0026】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体調製用キットにおいて、
前記第1の組成物は、さらに、(F)酸アンモニウム塩を含むことができる。
【0027】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体調製用キットは、
第3の組成物および第4の組成物から構成された化学機械研磨用水系分散体を調製するためのキットであって、
前記第3の組成物は、(C)砥粒を含み、
前記第4の組成物は、(D)アミノ酸を含み、
前記第3の組成物および前記第4の組成物の少なくとも一方は、
(A)下記一般式(1)で示される化合物、
(B)界面活性剤、
を含み、
前記第3の組成物および前記第4の組成物の少なくとも一方は、(E)酸化剤を含む。
【0028】
【化3】
(上記一般式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、または置換もしくは非置換のアルキル基を表し、R
3は、置換もしくは非置換のアルケニル基またはスルホン酸基(−SO
3X)を表す。但し、Xは、水素イオン、アンモニウムイオンまたは金属イオンを表す。)
【0029】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体調製用キットにおいて、
前記第3の組成物および前記第4の組成物の少なくとも一方は、さらに、(F)酸アンモニウム塩を含むことができる。
【0030】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体調製用キットは、
第5の組成物、第6の組成物および第7の組成物から構成された化学機械研磨用水系分散体を調製するためのキットであって、
前記第5の組成物は、(E)酸化剤を含み、
前記第6の組成物は、(C)砥粒を含み、
前記第7の組成物は、(D)アミノ酸を含み、
前記第5の組成物、前記第6の組成物および前記第7の組成物から選ばれる少なくとも1種は、
(A)下記一般式(1)で示される化合物、
(B)界面活性剤、
を含む。
【0031】
【化4】
(上記一般式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、または置換もしくは非置換のアルキル基を表し、R
3は、置換もしくは非置換のアルケニル基またはスルホン酸基(−SO
3X)を表す。但し、Xは、水素イオン、アンモニウムイオンまたは金属イオンを表す。)
【0032】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体調製用キットにおいて、
さらに、前記第5の組成物、前記第6の組成物および前記第7の組成物から選ばれる少なくとも1種は、さらに、(F)酸アンモニウム塩を含むことができる。
【0033】
本発明に係る化学機械研磨用水系分散体の調製方法は、上述の化学機械研磨用水系分散体調製用キットの各組成物を混合する工程を含む。
【発明の効果】
【0034】
上記化学機械研磨用水系分散体によれば、被研磨面の最大寸法を約1500〜3000mmとする電気光学表示装置用基板に設けられた銅または銅合金からなる配線層を、基板全体にわたって均一かつ平坦に研磨可能である。また、上記化学機械研磨用水系分散体によれば、被研磨面のディッシングを抑制することができる。その上、上記化学機械研磨用水系分散体によれば、該配線層を高速に研磨可能である。その結果、例えば、電気光学表示装置用基板や半導体装置用基板に超微細化され、かつ、高集積化された配線構造を容易に設けることができる。また、上記化学機械研磨方法によれば、上記化学機械研磨用水系分散体を用いるため、例えばフラットパネルディスプレイの大面積化および高精細化を図ることができる。
【0035】
上記化学機械研磨用水系分散体調製用キットによれば、長期間の保存を行っても、良好な化学機械研磨用水系分散体を得ることができる。すなわち、上記化学機械研磨用水系分散体調製用キットによれば、化学機械研磨用水系分散体の保存安定性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る実施形態について詳細に説明する。
【0038】
なお、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含む。
【0039】
1.化学機械研磨用水系分散体
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(A)下記一般式(1)で示される化合物、(B)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である界面活性剤、(C)砥粒、(D)アミノ酸、を含む。
【0040】
【化5】
(上記一般式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、または置換もしくは非置換のアルキル基を表し、R
3は、置換もしくは非置換のアルケニル基またはスルホン酸基(−SO
3X)を表す。但し、Xは、水素イオン、アンモニウムイオンまたは金属イオンを表す。)
【0041】
以下、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に含まれる各成分について、詳細に説明する。なお、以下、(A)ないし(F)の各化合物を、それぞれ(A)成分ないし(F)成分と省略して記載することがある。
【0042】
1.1.(A)一般式(1)で示される化合物
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(A)一般式(1)で示される化合物を含有する。(A)一般式(1)で示される化合物の機能の1つとしては、該化合物が、銅表面に吸着し、銅表面を過度のエッチングや腐食から保護することが挙げられる。これにより、平滑な被研磨面を得ることができる。
【0043】
一般式(1)で示される化合物において、R
1およびR
2は、それぞれ独立に、水素原子、金属原子、または置換もしくは非置換のアルキル基であることが好ましい。R
1およびR
2がアルキル基である場合は、炭素数が1ないし8の置換もしくは非置換のアルキル基であることがさらに好ましい。また、R
1、R
2が金属原子である場合は、アルカリ金属原子であることが好ましく、ナトリウムあるいはカリウムであることが最も好ましい。
【0044】
一般式(1)で示される化合物において、R
3は、置換もしくは非置換のアルケニル基またはスルホン酸基(−SO
3X)を表す。但し、Xは、水素イオン、アンモニウムイオンまたは金属イオンを表す。R
3がアルケニル基である場合、炭素数が2ないし8の置換もしくは非置換のアルケニル基であることが好ましい。R
3がスルホン酸基(−SO
3X)である場合、Xが水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンであることが好ましい。このような構造を有する(A)一般式(1)で示される化合物は、銅膜の表面に吸着して銅膜表面を保護するため、銅が過剰に研磨されることを防ぐことができる。
【0045】
一般式(1)で示される化合物の具体的な例としては、一般式(1)の式中R
3にスルホン酸基(−SO
3X)を有する、商品名「ニューコール291−M」(日本乳化剤株式会社から入手可能)、式中R
3にスルホン酸基(−SO
3X)を有する、商品名「ニューコール292−PG」(日本乳化剤株式会社から入手可能)、アルケニルコハク酸ジカリウムである、商品名「ラテムルASK」(花王株式会社から入手可能)、および式中R
3にスルホン酸基(−SO
3X)を有する、商品名「ペレックスTA」(花王株式会社から入手可能)などが挙げられる。
【0046】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に対する(A)成分の添加量は、電気光学表示装置用基板に設けられた配線層を研磨する際には、使用時における化学機械研磨用水系分散体の質量に対し、好ましくは0.0005〜1質量%であり、より好ましくは0.001〜0.5質量%であり、特に好ましくは0.01〜0.2質量%である。また、半導体基板に設けられた配線層を研磨する際には、好ましくは0.00005〜0.2質量%であり、より好ましくは0.0001〜0.1質量%であり、特に好ましくは0.0003〜0.05質量%である。(A)成分の添加量が上記範囲未満であると、銅表面の保護が弱くなり、腐食や過度のエッチングが進行し平滑な表面が得られないことがある。一方、添加量が上記範囲を超えると、銅表面の保護が強すぎ、十分な研磨速度を得られない場合がある。電気光学表示装置用基板と半導体基板とで最適濃度が異なる理由は、求められる研磨速度が異なるため、濃度を変えることによって保護強度を調整する必要があるためである。
【0047】
1.2.(B)界面活性剤
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(B)界面活性剤を含有する。(B)成分の機能の1つとしては、化学機械研磨用水系分散体に粘性を付与することが挙げられる。すなわち、化学機械研磨用水系分散体の粘性は、(B)成分の添加量によって制御することができる。そして、該化学機械研磨用水系分散体の粘性を制御すれば、該化学機械研磨用水系分散体の研磨性能を制御することができる。
【0048】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に用いる(B)界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸等のスルホン酸、およびそれらの塩がより好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸としては、ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。また、これらスルホン酸の塩としては、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩が好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸塩の好ましい具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、およびドデシルベンゼンスルホン酸カリウムが挙げられる。
【0049】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に対する(B)界面活性剤の添加量は、使用時における化学機械研磨用水系分散体の質量に対し、好ましくは0.005〜1質量%であり、より好ましくは0.01〜0.5質量%であり、特に好ましくは0.02〜0.15質量%である。界面活性剤の添加量が上記範囲未満であると、化学機械研磨用水系分散体の粘性が低すぎるために、研磨パッドへの押し付け圧を効率的かつ均一に被研磨面へ伝達することができず、被研磨面内における該化学機械研磨用水系分散体の研磨性能のばらつきの原因となる。さらに、化学機械研磨用水系分散体が有効に作用する前に研磨対象となる基板と研磨パッドとの間から流出してしまい、特に被研磨面内の外周部における化学機械研磨用水系分散体の存在量ばらつきの原因となる場合がある。一方、界面活性剤の添加量が上記範囲を超えると、添加量に対する平坦性改良効果が鈍化し、平坦性改善効果は得られなくなるばかりでなく、研磨速度が低下したり、該化学機械研磨用水系分散体の粘性が高くなりすぎて研磨摩擦熱が上昇し面内均一性が悪化してしまうことがある。
【0050】
1.3.(C)砥粒
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(C)砥粒を含む。(C)砥粒としては、無機粒子、有機粒子および有機無機複合粒子から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セリア等が挙げられる。有機粒子としては、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンおよびスチレン系共重合体、ポリアセタール、飽和ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−1−ペンテン等のポリオレフィンおよびオレフィン系共重合体、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂およびアクリル系共重合体などが挙げられる。有機無機複合粒子としては、上記の有機粒子と上記の無機粒子とからなることができる。
【0051】
これらのうち、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に用いられる砥粒としては、シリカおよび有機無機複合粒子から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0052】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に用いうるシリカとしては、気相中で塩化ケイ素、塩化アルミニウム、塩化チタン等を酸素および水素と反応させるヒュームド法により合成されたシリカ、金属アルコキシドから加水分解縮合して合成するゾルゲル法により合成されたシリカ、精製により不純物を除去した無機コロイド法等により合成されたコロイダルシリカ等が挙げられる。これらのうち、精製により不純物を除去した無機コロイド法などにより合成されたコロイダルシリカが特に好ましい。コロイダルシリカは、被研磨面の平坦性を確保する観点から、平均粒子径100nm以下のものを好適に用いることができる。
【0053】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に用いうる有機無機複合粒子は、上記の有機粒子および無機粒子が、化学機械研磨工程の際に容易に分離しない程度に一体に形成されていればよく、その種類、構成等は特に限定されない。この有機無機複合粒子としては、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の重合体粒子の存在下、アルコキシシラン、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド等を重縮合させ、重合体粒子の少なくとも表面に、ポリシロキサン等が結合されてなるものを使用することができる。なお、生成する重縮合体は、重合体粒子が有する官能基に直接結合されていてもよいし、シランカップリング剤等を介して結合されていてもよい。また、アルコキシシラン等に代えてシリカ粒子、アルミナ粒子等を用いることもできる。これらはポリシロキサン等と絡み合って保持されていてもよいし、それらが有するヒドロキシル基等の官能基により重合体粒子に化学的に結合されていてもよい。
【0054】
また、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に用いうる有機無機複合粒子としては、符号の異なるゼータ電位を有する有機粒子と無機粒子とを含む水分散体において、これら粒子が静電力により結合されてなるものも挙げられる。有機粒子のゼータ電位は、全pH域、または低pH域を除く広範な領域に渡って負であることが多いが、カルボキシル基、スルホン酸基等を有する有機粒子とすることによって、より確実に負のゼータ電位を有する有機粒子とすることができる。また、アミノ基等を有する有機粒子とすることにより、特定のpH域において正のゼータ電位を有する有機粒子とすることもできる。一方、無機粒子のゼータ電位はpH依存性が高く、この電位が0となる等電点を有し、その前後でゼータ電位の符号が逆転する。したがって、特定の有機粒子と無機粒子とを組み合わせ、それらのゼータ電位が逆符号となるpH域で混合することによって、静電力により有機粒子と無機粒子とを一体に複合化することができる。また、混合時、ゼータ電位が同符号であっても、その後、pHを変化させ、ゼータ電位を逆符号とすることによって、有機粒子と無機粒子とを一体とすることもできる。
【0055】
さらに、上記の有機無機複合粒子としては、静電力により一体に複合化された粒子の存在下、前記のようにアルコキシシラン、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド等を重縮合させ、この粒子の少なくとも表面に、さらにポリシロキサン等が結合されて複合化されてなるものを使用することもできる。
【0056】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に用いる有機無機複合粒子の平均粒子径としては、50〜500nmが好ましい。平均粒子径が50nm未満であると、十分な研磨速度が発現しないことがある。また、500nmを超える場合は、粒子の凝集や沈降が生じやすくなる。なお、砥粒の平均粒子径は、レーザー散乱回折型測定機により測定することができ、透過型電子顕微鏡によって個々の粒子を観察し累積粒子径と個数とから算出することもできる。
【0057】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に使用される(C)砥粒の添加量は、使用時における化学機械研磨用水系分散体の質量に対し、好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.02〜5質量%である。砥粒の添加量が上記範囲未満であると、十分な研磨速度が得られないことがあり、研磨工程を終了するのに多大な時間を要する場合がある。一方、砥粒の添加量が上記範囲を超えると、コストが高くなるとともに安定した化学機械研磨用水系分散体を得られないことがある。
【0058】
1.4.(D)アミノ酸
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、(D)アミノ酸を含有する。(D)アミノ酸の機能の1つとしては、電気光学表示装置用基板や半導体基板の研磨に対して化学機械研磨用水系分散体を適用したときの研磨速度を向上させることが挙げられる。(D)アミノ酸は、特に銅または銅合金からなる配線材料に対して、研磨速度を促進させることができる。
【0059】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に用いうる(D)アミノ酸としては、配線材料元素からなるイオンまたは配線材料の表面に対し配位能力を有するアミノ酸が好ましい。より好ましくは、配線材料元素からなるイオンまたは配線材料の表面に対しキレート配位能力を有するアミノ酸であり、具体的には、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、芳香族アミノ酸、複素環アミノ酸などが挙げられる。本実施形態で用いる(D)アミノ酸としては、研磨速度を向上させる効果が高いことから、上記アミノ酸のうちでもグリシンが特に好ましい。
【0060】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に対する(D)アミノ酸の添加量は、使用時における化学機械研磨用水系分散体の質量に対し、好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜4質量%であり、特に好ましくは0.2〜3質量%である。(D)アミノ酸の添加量が上記範囲未満であると、十分な研磨速度を得られない場合があり、研磨工程を終了するのに多大な時間を要することがある。一方、(D)アミノ酸の添加量が上記範囲を超えると、化学的エッチング効果が大きくなり、被研磨面の平坦性を損なうことがある。
【0061】
1.5.(E)酸化剤
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、必要に応じて(E)酸化剤を添加することができる。(E)酸化剤の機能の1つとしては、電気光学表示装置用基板や半導体基板の研磨に対して化学機械研磨用水系分散体を適用したときの研磨速度を向上させることが挙げられる。その理由としては、(E)酸化剤が、銅膜の表面を酸化し、化学機械研磨用水系分散体の成分との錯化反応を促すことにより、脆弱な改質層を銅膜の表面に形成し、銅膜を研磨しやすくするためと考えられる。
【0062】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に用いる(E)酸化剤としては、過酸化水素、過酢酸、過安息香酸、tert−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸化合物、重クロム酸カリウム等の重クロム酸化合物、ヨウ素酸カリウムなどのハロゲン酸化合物、硝酸、硝酸鉄等の硝酸化合物、過塩素酸などの過ハロゲン酸化合物、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、およびヘテロポリ酸などが挙げられる。これらの酸化剤のうち、分解生成物が無害である過酸化水素等の有機過酸化物または過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩がより好ましく、過酸化水素が特に好ましい。
【0063】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に対する(E)酸化剤の添加量は、使用時における化学機械研磨用水系分散体の質量に対し、好ましくは0.005〜5質量%であり、より好ましくは0.01〜3質量%であり、特に好ましくは0.05〜1質量%である。(E)酸化剤の添加量が上記範囲未満になると、化学的エッチングの効果が十分に得られないことがある、そのため、十分な研磨速度を得ることができず、研磨工程を終了するのに多大な時間を要する場合がある。一方、(E)酸化剤の添加量が上記範囲を超えると、被研磨面が腐食してしまうことがある。
【0064】
1.6.(F)酸アンモニウム塩
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、必要に応じて(F)酸アンモニウム塩を添加することができる。(F)酸アンモニウム塩の機能の1つとしては、電気光学表示装置用基板や半導体基板の研磨に対して化学機械研磨用水系分散体を適用したときの研磨速度を向上させることが挙げられる。
【0065】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に用いうる(F)酸アンモニウム塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、および有機酸アンモニウムが挙げられる。有機酸アンモニウムとしては、アミド硫酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、酪酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、コハク酸アンモニウム、マロン酸アンモニウム、マレイン酸アンモニウム、フマル酸アンモニウム、キナルジン酸アンモニウム、キノリン酸アンモニウムなどが挙げられる。これらのうち、アミド硫酸アンモニウムが特に好ましい。なお、(F)成分は、(A)成分および(B)成分の少なくとも一方の化合物が酸アンモニウム塩である場合は、該化合物とは異なる酸アンモニウム塩のことをいう。
【0066】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体に対して(F)酸アンモニウム塩を添加する場合の添加量は、使用時における化学機械研磨用水系分散体の質量に対して、好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜3質量%であり、特に好ましくは0.2〜2質量%である。(F)酸アンモニウム塩の添加量が上記範囲未満であると、研磨速度の向上効果が得られない場合がある。一方、(F)酸アンモニウム塩の添加量が上記範囲を超えると、被研磨面の平坦性を損なうことがある。
【0067】
1.7.その他の添加剤
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、上記の成分のほか、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。
【0068】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、有機酸または無機酸を添加することにより、砥粒の分散安定性を高めることができる。有機酸としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、安息香酸、およびキナルジン酸、キノリン酸等の複素環を有する化合物などが挙げられる。無機酸としては、硝酸、硫酸およびリン酸などが挙げられる。これらのうち、有機酸が特に好ましい。
【0069】
本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、上記の酸またはアルカリを添加することにより、所望のpHに調整することができる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、またはアンモニアなどが挙げられる。化学機械研磨用水系分散体のpHを調整することにより、研磨速度を制御することができる。被研磨面の電気化学的性質や砥粒の分散安定性等の要素を勘案しながら、適宜酸またはアルカリを添加しpHを設定することができる。これらのうち、研磨速度を向上させる観点からは、アンモニアが特に好ましい。
【0070】
2.化学機械研磨用水系分散体を調製するためのキット
上記化学機械研磨用水系分散体は、調製後にそのまま研磨用組成物として使用できる状態で供給することができる。あるいは、上記化学機械研磨用水系分散体の各成分を高濃度で含有する研磨用組成物(すなわち濃縮された研磨用組成物)を準備しておき、使用時にこの濃縮された研磨用組成物を希釈して所望の化学機械研磨用水系分散体を得てもよい。
【0071】
また、以下のように、上記成分のいずれかを含む複数の組成物(例えば、2つまたは3つの組成物)を調製し、これらを使用時に混合して使用することもできる。この場合、複数の液を混合して化学機械研磨用水系分散体を調製した後、これを化学機械研磨装置に供給してもよいし、複数の液を個別に化学機械研磨装置に供給して定盤上で化学機械研磨用水系分散体を調製してもよい。上記化学機械研磨用水系分散体は、例えば、以下に示す第1〜第3のキットを用いて、複数の液を混合することにより調製することができる。
【0072】
2.1.第1のキット
第1のキットは、第1の組成物および第2の組成物を混合して、上記化学機械研磨用水系分散体を得るためのキットである。第1のキットにおいて、第1の組成物は、(A)前記一般式(1)で示される化合物、(B)界面活性剤、(C)砥粒、(D)アミノ酸を含む水系分散体であり、前記第2の組成物は、(E)酸化剤を含む水溶液である。さらに、前記第1の組成物には、(F)酸アンモニウム塩を添加することもできる。なお、(A)成分ないし(F)成分は、「1.化学機械研磨用水系分散体」の項で述べたものと同様である。
【0073】
第1のキットを構成する第1の組成物および第2の組成物を調製する場合、第1の組成物および第2の組成物を混合して得られた水系分散体中に、上述した各成分が上述した濃度範囲内に含まれるように、第1の組成物および第2の組成物に含有される各成分の濃度を決定する必要がある。また、第1の組成物および第2の組成物は、各成分を高濃度で含有していてもよく(すなわち濃縮されたものでもよく)、この場合、使用時に希釈して第1の組成物および第2の組成物を得ることが可能である。第1のキットによれば、第1の組成物と第2の組成物とを分けておくことで、特に第2の組成物に含まれる(E)酸化剤の保存安定性を向上させることができる。
【0074】
第1のキットを用いて上記化学機械研磨用水系分散体を調製する場合、第1の組成物および第2の組成物が別個に用意・供給され、かつ研磨時に一体となっていればよく、その混合方法およびタイミングは特に限定されない。例えば、各成分を高濃度で含有する第1の組成物および第2の組成物を調製し、使用時に第1の組成物および第2の組成物を希釈して、これらを混合し、各成分の濃度が上記範囲内にある化学機械研磨用水系分散体を調製する。具体的には、第1の組成物と第2の組成物とを1:1の重量比で混合する場合には、実際に使用する化学機械研磨用水系分散体の各成分の濃度よりも2倍に濃縮された第1の組成物および第2の組成物を調製すればよい。また、2倍以上の濃度の第1の組成物および第2の組成物を調製し、これらを1:1の重量比で混合した後、各成分が上記範囲となるように水で希釈してもよい。
【0075】
第1のキットを使用する場合、研磨時に上記化学機械研磨用水系分散体が調製されていればよい。例えば、第1の組成物と第2の組成物とを混合して上記化学機械研磨用水系分散体を調製した後、これを化学機械研磨装置に供給してもよいし、第1の組成物と第2の組成物とを別個に化学機械研磨装置に供給し、定盤上で混合してもよい。あるいは、第1の組成物と第2の組成物とを別個に化学機械研磨装置に供給し、装置内でライン混合してもよいし、化学機械研磨装置に混合タンクを設けて、混合タンク内で混合してもよい。また、ライン混合の際には、より均一な水系分散体を得るために、ラインミキサーなどを用いてもよい。
【0076】
2.2.第2のキット
第2のキットは、第3の組成物および第4の組成物を混合して、上記化学機械研磨用水系分散体を調製するためのキットである。第2のキットにおいて、前記第3の組成物は、(C)砥粒を含む水分散体であり、前記第4の組成物は、(D)アミノ酸を含む水溶液である。そして、前記第3の組成物および前記第4の組成物の少なくとも一方は、(A)前記一般式(1)で示される化合物、および(B)界面活性剤、を含む。また前記第3の組成物および前記第4の組成物の少なくとも一方は、(E)酸化剤を含む。さらに、(F)アンモニウム塩を第3の組成物および第4の組成物の少なくとも一方に含めることができる。なお、(A)成分ないし(F)成分は、「1.化学機械研磨用水系分散体」の項で述べたものと同様である。
【0077】
第2のキットを構成する第3の組成物および第4の組成物を調製する場合、第3の組成物および第4の組成物を混合して得られた水系分散体中に、上述した各成分が上述した濃度範囲内に含まれるように、第3の組成物および第4の組成物に含有される各成分の濃度を決定する必要がある。また、第3の組成物および第4の組成物は、各成分を高濃度で含有していてもよく(すなわち濃縮されたものでもよく)、この場合、使用時に希釈して第3の組成物および第4の組成物を得ることが可能である。第2のキットによれば、第3の組成物と第4の組成物とを分けておくことで、特に第3の組成物に含まれる(C)砥粒の保存安定性を向上させることができる。
【0078】
第2のキットを用いて上記化学機械研磨用水系分散体を調製する場合、第3の組成物および第4の組成物が別個に用意・供給され、かつ研磨時に一体となっていればよく、その混合方法およびタイミングは特に限定されない。例えば、各成分を高濃度で含有する第3の組成物および第4の組成物を調製し、使用時に第3の組成物および第4の組成物を希釈して、これらを混合し、各成分の濃度が上記範囲内にある化学機械研磨用水系分散体を調製する。具体的には、第3の組成物と第4の組成物とを1:1の重量比で混合する場合には、実際に使用する化学機械研磨用水系分散体の各成分の濃度よりも2倍に濃縮された第3の組成物および第4の組成物を調製すればよい。また、2倍以上の濃度の第3の組成物および第4の組成物を調製し、これらを1:1の重量比で混合した後、各成分が上記範囲となるように水で希釈してもよい。
【0079】
第2のキットを使用する場合、研磨時に上記化学機械研磨用水系分散体が調製されていればよい。例えば、第3の組成物と第4の組成物とを混合して上記化学機械研磨用水系分散体を調製した後、これを化学機械研磨装置に供給してもよいし、第3の組成物と第4の組成物とを別個に化学機械研磨装置に供給し、定盤上で混合してもよい。あるいは、第3の組成物と第4の組成物とを別個に化学機械研磨装置に供給し、装置内でライン混合してもよいし、化学機械研磨装置に混合タンクを設けて、混合タンク内で混合してもよい。また、ライン混合の際には、より均一な水系分散体を得るために、ラインミキサーなどを用いてもよい。
【0080】
2.3.第3のキット
第3のキットは、第5の組成物、第6の組成物および第7の組成物を混合して、上記化学機械研磨用水系分散体を調製するためのキットである。第3のキットにおいて、前記第5の組成物は、(E)酸化剤を含む水溶液であり、前記第6の組成物は、(C)砥粒を含む水分散体であり、前記第7の組成物は、(D)アミノ酸を含む水溶液である。そして、前記第5の組成物、前記第6の組成物および前記第7の組成物から選ばれる少なくとも1種は、(A)前記一般式(1)で示される化合物、および(B)界面活性剤、を含む。さらに、(F)酸アンモニウム塩を第5ないし第7の組成物から選ばれる少なくとも1種に添加することができる。なお、(A)成分ないし(F)成分は、「1.化学機械研磨用水系分散体」の項で述べたものと同様である。
【0081】
第3のキットを構成する第5ないし第7の組成物を調製する場合、第5ないし第7の組成物を混合して得られた水系分散体中に、上述した各成分が上述した濃度範囲内に含まれるように、第5ないし第7の組成物に含有される各成分の濃度を決定する必要がある。また、第5ないし第7の組成物は、各成分を高濃度で含有していてもよく(すなわち濃縮されたものでもよく)、この場合、使用時に希釈して第5ないし第7の組成物を得ることが可能である。第3のキットによれば、第5ないし第7の組成物を分けておくことで、第5の組成物に含まれる(E)酸化剤および第6の組成物に含まれる(C)砥粒の保存安定性を向上させることができる。
【0082】
本実施形態の第3のキットを用いて上記化学機械研磨用水系分散体を調製する場合、第5ないし第7の組成物が別個に用意・供給され、かつ研磨時に一体となっていればよく、その混合方法およびタイミングは特に限定されない。例えば、各成分を高濃度で含有する第5ないし第7の組成物を調製し、使用時に第5ないし第7の組成物を希釈して、これらを混合し、各成分の濃度が上記範囲内にある化学機械研磨用水系分散体を調製する。具体的には、第5ないし第7の組成物を1:1:1の重量比で混合する場合には、実際に使用する化学機械研磨用水系分散体の各成分の濃度よりも3倍に濃縮された第5ないし第7の組成物を調製すればよい。また、3倍以上の濃度の第5ないし第7の組成物を調製し、これらを1:1:1の重量比で混合した後、各成分が上記範囲となるように水で希釈してもよい。
【0083】
第3のキットを使用する場合、研磨時に上記化学機械研磨用水系分散体が調製されていればよい。例えば、第5ないし第7の組成物を混合して上記化学機械研磨用水系分散体を調製した後、これを化学機械研磨装置に供給してもよいし、第5ないし第7の組成物を別個に化学機械研磨装置に供給し、定盤上で混合してもよい。あるいは、第5ないし第7の組成物を別個に化学機械研磨装置に供給し、装置内でライン混合してもよいし、化学機械研磨装置に混合タンクを設けて、混合タンク内で混合してもよい。また、ライン混合の際には、より均一な水系分散体を得るために、ラインミキサーなどを用いてもよい。
【0084】
3.化学機械研磨方法および電気光学表示装置用基板の製造方法
化学機械研磨工程では、研磨対象の違いによって、その目的に応じた適切な化学機械研磨用水系分散体を選択することができる。本実施形態に係る電気光学表示装置用基板の製造方法における化学機械研磨工程は、主として配線層を研磨する一段階目の工程と、主としてバリアメタル膜を研磨する二段階目の工程とに分けることができる。本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体は、特に銅または銅合金からなる配線層を研磨するための一段階目の工程に適用することができる。
【0085】
本実施形態に係る化学機械研磨方法および電気光学表示装置用基板の製造方法を、図面を用いて具体的に説明する。
図1ないし
図5は、本実施形態に係る化学機械研磨の工程を示す電気光学表示装置用基板の断面図である。
【0086】
本実施形態に係る電気光学表示装置用基板の製造方法に用いる基板として、例えば、ガラス基板、フィルム基板、またはプラスチック基板を用いることができる。基板の大きさは、例えば、対角線寸法が1500mmないし3000mmのものを用いることができる。該基板は、単層体であってもよいし、基板の上に酸化シリコンなどの絶縁膜が形成された積層体であってもよい。
【0087】
まず、
図1に示すように、例えば、ガラス基板10を用意する。ガラス基板10は、配線を形成するための配線用凹部12を有している。ガラス基板10上に配線用凹部12を形成する方法として、ドライエッチングが用いられる。ドライエッチングとは、加速させたイオンをガラス基板に照射し物理的に加工する方法であり、照射ビームを精密にコントロールすることで微細なパターン加工ができる。ガラス基板10は、ソーダ石灰ガラス、ほう珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、石英ガラスなどの材質からなることができる。
【0088】
次に
図2に示すように、ガラス基板10の表面ならびに配線用凹部12の底部および内壁面を覆うように、バリアメタル膜20を形成する。バリアメタル膜20は、例えば、タンタルや窒化タンタルなどの材質からなることができる。バリアメタル膜20の成膜方法としては、化学的気相成長法(CVD)を適用する。
【0089】
次に
図3に示すように、バリアメタル膜20の表面を覆うように配線用金属を堆積させて、金属膜30を形成する。金属膜30は、銅または銅合金からなることができる。金属膜30の成膜方法として、スパッタリング、真空蒸着法等の物理的気相成長法(PVD)を適用することができる。
【0090】
次に
図4に示すように、配線用凹部12に埋没された部分以外の余分な金属膜30を、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体を用いて化学機械研磨して除去する。さらに、上記の方法をバリアメタル膜20が露出するまで繰り返す。化学機械研磨後、被研磨面に残留する砥粒は除去することが好ましい。この砥粒の除去は通常の洗浄方法によって行うことができる。
【0091】
最後に、
図5に示すように、配線用凹部12以外に形成されたバリアメタル膜20およびガラス基板10の表面を、バリアメタル膜用の化学機械研磨用水系分散体を用いて化学機械研磨して除去する。
【0092】
上記の化学機械研磨方法は、本実施形態に係る化学機械研磨用水系分散体を用いて金属膜30を除去するため、その研磨速度が大きく、研磨の面内平坦性が良好で、ディッシング等の研磨欠陥を生じにくい。そのため、本方法によれば、配線金属を有し、高度に微細化され、かつ、面内平坦性に優れた電気光学表示装置用基板や半導体基板を、高スループットで製造することができる。
【0093】
4.実施例
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。
【0094】
4.1.評価用基板
4.1.1.平坦性(ディッシング)の評価に用いる基板
深さ3μmの凹部により形成された幅300μmの配線パターンを備えた対角線寸法2000mmのガラス基板表面に、30nmの厚さの窒化タンタルからなるバリアメタル膜を成膜した。その後、銅を該バリアメタル膜の上および凹部内にスパッタリングにより6μmの厚さに堆積した。以下、このようにして得られた基板を「基板a」と呼ぶ。
【0095】
4.1.2.面内均一性の評価に用いる基板
対角線寸法2000mmのガラス基板表面に、30nmの厚さの窒化タンタルからなるバリアメタル膜を成膜する。その後、銅を該バリアメタル膜の上にスパッタリングにより6μmの厚さに堆積した。以下、このようにして得られた基板を「基板b」と呼ぶ。
【0096】
4.1.3.研磨速度の評価に用いる基板
・膜厚15,000オングストロームの銅膜が積層された8インチ熱酸化膜付きシリコン基板(以下、「基板c」と呼ぶ。)。
・膜厚2,000オングストロームのタンタル膜が積層された8インチ熱酸化膜付きシリコン基板(以下、「基板d」と呼ぶ。)。
【0097】
4.1.4.平坦性(ディッシング、エロージョン)の評価に用いる基板
上記基板c、dで算出される銅膜とPETEOS膜の研磨速度の比率を算出することにより、化学機械研磨用水系分散体の半導体基板研磨における基本的な研磨特性を確認することができる。
【0098】
しかし、配線パターンとなる溝が形成されたパターンウエハの化学機械研磨では、局所的に過剰に研磨される箇所が発生することが知られている。これは、化学機械研磨前のパターンウエハ表面には配線パターンとなる溝を反映した凹凸が金属膜の表面に生じており、化学機械研磨を行う場合にパターン密度に応じて局所的に高い圧力がかかり、その部分の研磨速度が速くなるためである。
【0099】
したがって、半導体基板を模したパターンウエハを研磨して、その研磨速度やエロージョンを評価する必要があるため、パターン付き基板(シリコン基板上にシリコン窒化膜1,000オングストロームを堆積させ、その上に低誘電率絶縁膜(Black Diamond膜)を4,500オングストローム、更にPETEOS膜を500オングストローム順次積層させた後、「SEMATECH 854」マスクパターン加工し、その上に250オングストロームのタンタル膜、1000オングストロームの銅シード膜および10,000オングストロームの銅メッキ膜を順次積層させたテスト用の基板、以下、「基板e」と呼ぶ。)を用いて試験を行った。
【0100】
4.2.無機砥粒または複合粒子からなる砥粒を含む水分散体の調製
4.2.1.無機砥粒を含む水分散体の調製
(a)ヒュームド法シリカ粒子を含む水分散体の調製
ヒュームド法シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、商品名「アエロジル#90」)2kgを、イオン交換水6.7kgに超音波分散機を用いて分散させ、孔径5μmのフィルターによって濾過し、ヒュームド法シリカを含む水分散体を調製した。
【0101】
(b)コロイダルシリカaを含む水分散体の調製
容量2000cm
3のフラスコに、25質量%濃度のアンモニア水70g、イオン交換水40g、エタノール175gおよびテトラエトキシシラン21gを投入し、180rpmで撹拌しながら60℃に昇温した。60℃のまま2時間撹拌した後冷却し、平均粒子径70nmのコロイダルシリカ/アルコール分散体を得た。次いで、エバポレータにより、80℃でこの分散体にイオン交換水を添加しながらアルコール分を除去する操作を数回繰り返すことにより分散体中のアルコールを除き、固形分濃度が8質量%の水分散体を調製した。
【0102】
(c)コロイダルシリカbを含む水分散体の調製
3号水硝子(シリカ濃度24質量%)を水で希釈し、シリカ濃度3.0質量%の希釈ケイ酸ナトリウム水溶液とした。この希釈ケイ酸ナトリウム水溶液を、水素型陽イオン交換樹脂層を通過させ、ナトリウムイオンの大部分を除去したpH3.1の活性ケイ酸水溶液とした。その後、すぐに撹拌下10質量%水酸化カリウム水溶液を加えてpHを7.2に調整し、さらに続けて加熱し沸騰させて3時間熱熟成した。得られた水溶液に、先にpHを7.2に調整した活性ケイ酸水溶液の10倍量を6時間かけ少量ずつ添加し、シリカ粒子の平均粒径を26nmに成長させた。
【0103】
次に、前記シリカ粒子を含有する分散体水溶液を減圧濃縮(沸点78℃)し、シリカ濃度:32.0質量%、シリカの平均粒径:26nm、pH:9.8であるシリカ粒子分散体を得た。このシリカ粒子分散体を、再度水素型陽イオン交換樹脂層を通過させ、ナトリウムの大部分を除去した後、10質量%の水酸化カリウム水溶液を加え、シリカ粒子濃度:28.0質量%、pH:10.0であるシリカ粒子分散体を得た。
【0104】
4.2.2.複合粒子からなる砥粒を含む水分散体の調製
(d)重合体粒子を含む水分散体の調製
メチルメタクリレ−ト90質量部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業株式会社製、商品名「NKエステルM−90G」、#400)5質量部、4−ビニルピリジン5質量部、アゾ系重合開始剤(和光純薬株式会社製、商品名「V50」)2質量部、およびイオン交換水400質量部を、容量2000cm
3のフラスコに投入し、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃に昇温し、6時間重合させた。これによりアミノ基の陽イオンおよびポリエチレングリコール鎖を有する官能基を備えた平均粒子径150nmのポリメチルメタクリレート系粒子を含む水分散体を得た。なお、重合収率は95%であった。
【0105】
(e)複合粒子を含む水分散体の調製
上記「(d)重合体粒子を含む水分散体の調製」において得られたポリメチルメタクリレート系粒子を10質量%含む水分散体100質量部を、容量2000cm
3のフラスコに投入し、メチルトリメトキシシラン1質量部を添加し、40℃で2時間撹拌した。その後、硝酸によりpHを2に調整して水分散体(f)を得た。また、コロイダルシリカ(日産化学株式会社製、商品名「スノーテックスO」)を10質量%含む水分散体のpHを水酸化カリウムにより8に調整し、水分散体(g)を得た。水分散体(f)に含まれるポリメチルメタクリレート系粒子のゼータ電位は+17mV、水分散体(g)に含まれるシリカ粒子のゼータ電位は−40mVであった。その後、水分散体(f)100質量部に水分散体(g)50質量部を2時間かけて徐々に添加、混合し、2時間撹拌して、ポリメチルメタクリレート系粒子にシリカ粒子が付着した粒子を含む水系分散体を得た。次いで、この水系分散体に、ビニルトリエトキシシラン2部を添加し、1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン1質量部を添加し、60℃に昇温し、3時間撹拌を継続した後、冷却することにより、複合粒子を含む水分散体(e)を得た。この複合粒子の平均粒子径は180nmでありポリメチルメタクリレート系粒子の表面の80%にシリカ粒子が付着していた。
【0106】
4.3.化学機械研磨用水系分散体の調製
上記「4.2.無機砥粒または複合粒子からなる砥粒を含む水分散体の調製」において調製された水分散体の所定量を各実施例ごとに容量1000cm
3のポリエチレン製の瓶に投入し、これに、それぞれ(A)一般式(1)の化合物、(D)アミノ酸、および(F)酸アンモニウム塩を、最終的に表1〜表2に記載の含有量となるようにそれぞれ添加し、十分に撹拌した。表1〜表2に記載の(A)一般式(1)の化合物は、化合物(ア)として、一般式(1)の式中R
3に−SO
3Xで表される基を有する界面活性剤(商品名「ニューコール291−M」日本乳化剤株式会社製)を、化合物(イ)として、一般式(1)の式中R
3に−SO
3Xで表される基を有する界面活性剤(商品名「ニューコール292−PG」日本乳化剤株式会社製)を、化合物(ウ)として、アルケニルコハク酸ジカリウムである界面活性剤(商品名「ラテムルASK」花王株式会社製)を、および化合物(エ)として、一般式(1)の式中R
3に−SO
3Xで表される基を有する界面活性剤(商品名「ペレックスTA」花王株式会社製)をそれぞれ用いた。また、(D)アミノ酸としては、グリシン、アラニンおよびアスパラギン酸のいずれか一種を用いた。(F)酸アンモニウム塩としては、アミド硫酸アンモニウムを用いた。
【0107】
その後、撹拌をしながら表1〜表2に記載の(B)界面活性剤および(E)酸化剤の水溶液を、(B)界面活性剤および(E)酸化剤が、最終的に表1〜表2に記載の含有量となるようにそれぞれ添加した。ここで用いた(B)界面活性剤は、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムのいずれか一種であり、(E)酸化剤は、過酸化水素および過硫酸アンモニウムのいずれか一種である。さらに、十分に撹拌した後、水酸化カリウム水溶液またはアンモニアによりpHを調整した後、イオン交換水を加え、孔径5μmのフィルターで濾過し、実施例1ないし8、12ないし18、比較例1ないし7、参考例1および2の化学機械研磨用水系分散体を得た。
【0108】
4.4.第1のキットを用いた化学機械研磨用水系分散体の調製
4.4.1.第1の組成物の調製
上記「4.2.1(b)コロイダルシリカaを含む水分散体の調製」で調製したコロイダルシリカを含む水分散体を、シリカに換算して6.0質量%に相当する量をポリエチレン製の瓶に入れ、アルケニルコハク酸ジカリウム(商品名「ラテムルASK」、花王株式会社製)0.24質量%、ドデシルベンゼンスルホン酸(商品名「ネオペレックスGS」、花王社製)0.24質量%、これにグリシン2.4質量%、アミド硫酸アンモニウム3.0質量%を順次添加し、15分間撹拌した。次いで、アンモニアおよび水酸化カリウムを適量加えてpHを調整し、全構成成分の合計量が100質量%となるようにイオン交換水を加えた後、孔径5μmのフィルターで濾過することにより、水系分散体である第1の組成物A1を得た。
【0109】
4.4.2.第2の組成物の調製
過酸化水素濃度が5質量%となるようにイオン交換水で濃度調節を行い、第2の組成物B1を得た。以上の工程により、第1の組成物A1および第2の組成物B1からなる化学機械研磨用水系分散体を調製するためのキットを作製した。
【0110】
4.4.3.化学機械研磨用水系分散体X1の調製
第1の組成物A1、第2の組成物B1をそれぞれ別のポリエチレン製の容器に入れ栓をし、室温で6ヶ月保管した。この6ヶ月保管後のA1;50質量%およびB1;8質量%とを混合し、全構成成分の合計量が100質量%となるようにイオン交換水を加え、化学機械研磨用水系分散体X1を調製した。この化学機械研磨用水系分散体X1は、上記実施例5で調製した化学機械研磨用水系分散体と同一の組成およびpHを有する。この化学機械研磨用水系分散体X1を用いて、下記「4.7.研磨評価試験」にしたがい試験を行った。これを実施例9とし、その結果を表1に示す。
【0111】
4.5.第2のキットを用いた化学機械研磨用水系分散体の調製
4.5.1.第3の組成物の調製
上記「4.2.1.(b)コロイダルシリカaを含む水分散体の調製」で調製したコロイダルシリカを含む水分散体を、シリカに換算して6.0質量%に相当する量をポリエチレン製の瓶に入れ、アルケニルコハク酸ジカリウム0.24質量%、ドデシルベンゼンスルホン酸0.24質量%および35質量%過酸化水素水の過酸化水素に換算して0.8質量%に相当する量を順次添加し、アンモニアでpHを調整した後、15分間撹拌した。次いで、全構成成分の合計量が100質量%となるようにイオン交換水を加えた後、孔径5μmのフィルターで濾過することにより、水系分散体である第3の組成物A2を得た。
【0112】
4.5.2.第4の組成物の調製
ポリエチレン製の瓶に、グリシン2.4質量%、アミド硫酸アンモニウム3.0質量%に相当する量を順次に入れ、全構成成分の合計量が100質量%となるようにイオン交換水を加えた後、15分間撹拌し、孔径5μmのフィルターで濾過することにより、水系分散体である第4の組成物B2を得た。以上の工程により、第3の組成物A2および第4の組成物B2からなる化学機械研磨用水系分散体を調製するためのキットを作製した。
【0113】
4.5.3.化学機械研磨用水系分散体X2の調製
第3の組成物A2、第4の組成物B2をそれぞれ別のポリエチレン製の容器に入れ栓をし、室温で6ヶ月保管した。この6ヶ月保管後のA2;50質量%およびB2;50質量%とを混合し、化学機械研磨用水系分散体X2を調製した。この化学機械研磨用水系分散体X2は、上記実施例5で調製した化学機械研磨用水系分散体と同一の組成であって、かつ同一のpHであった。この化学機械研磨用水系分散体X2を用いて、下記「4.7.研磨評価試験」にしたがい試験を行った。これを実施例10とし、その結果を表1に示す。
【0114】
4.6.第3のキットを用いた化学機械研磨用水系分散体の調製
4.6.1.第5の組成物の調製
上記「4.2.1.(b)コロイダルシリカaを含む水分散体の調製」で調製したコロイダルシリカを含む水分散体を、シリカに換算して6.0質量%に相当する量をポリエチレン製の瓶に入れ、アルケニルコハク酸ジカリウム0.24質量%、ドデシルベンゼンスルホン酸0.24質量%、次いでアンモニアを添加した後、15分間撹拌した。次いで、全構成成分の合計量が100質量%となるようにイオン交換水を加えた後、孔径5μmのフィルターで濾過することにより、水系分散体である第5の組成物A3を得た。
【0115】
4.6.2.第6の組成物の調製
ポリエチレン製の瓶に、グリシン4.8質量%、アミド硫酸アンモニウム6.0質量%に相当する量を順次に入れ、全構成成分の合計量が100質量%となるようにイオン交換水を加えた後、15分間撹拌し、孔径5μmのフィルターで濾過することにより、水系分散体である第6の組成物B3を得た。
【0116】
4.6.3.第7の組成物の調製
過酸化水素濃度が5質量%となるようにイオン交換水で濃度調節を行ない、第7の組成物C3を得た。以上の工程により、第5の組成物A3、第6の組成物B3、および第7の組成物C3からなる化学機械研磨用水系分散体を調製するためのキットを作製した。
【0117】
4.6.4.化学機械研磨用水系分散体X3の調製
第5の組成物A3、第6の組成物B3、第7の組成物C3をそれぞれ別のポリエチレン製の容器に入れ栓をし、室温で6ヶ月保管した。
この6ヶ月保管後のA3;50質量%、B3;25質量%およびC3;8質量%とを混合し、全構成成分の合計量が100質量%となるようにイオン交換水を加え、化学機械研磨用水系分散体X3を調製した。この化学機械研磨用水系分散体X3は、上記実施例5で調製した化学機械研磨用水系分散体と同一の組成であって、かつ同一のpHであった。この化学機械研磨用水系分散体X3を用いて、下記「4.7.研磨評価試験」にしたがい試験を行った。これを実施例11とし、その結果を表1に示す。
【0118】
4.7.研磨評価試験
4.7.1.銅膜付き基板の研磨
4.7.1a.研磨速度の評価
実施例1ないし実施例11、比較例1ないし比較例3および参考例1の化学機械研磨用水系分散体を用いて銅膜付き基板を以下の条件で研磨した。この評価は上述の基板bを用いて行った。
・研磨装置 : 表示基板用化学機械研磨機
・研磨パッド : 溝付きウレタン発泡素材化学機械研磨用パッド
・キャリアーヘッド荷重 : 200g/cm
2
・ヘッド回転数 : 60rpm
・テーブル回転数 : 65pm
・研磨剤供給量 : 150cm
3/分
・研磨時間 : 30秒
【0119】
表示基板用化学機械研磨機とは、対角寸法が2000mmの大きさの表示基板を化学機械研磨できるように、既存の化学機械研磨装置(株式会社荏原製作所製、型式「EPO−112」)を改造したものである。
【0120】
研磨速度は下記式(2)により算出した。
研磨速度(nm/分)
=(研磨前の銅膜の厚さ−研磨後の銅膜の厚さ)/研磨時間 …(2)
【0121】
なお、銅膜の厚さは、抵抗率測定器(NPS社製、型式「Z−5」)を使用して、直流4針法によりシート抵抗を測定し、この抵抗率と銅の抵抗率から下記式(3)にしたがって算出した。
銅膜の厚さ(nm)
=銅の理論抵抗率(Ω・cm)÷シート抵抗値(Ω)×10
7 …(3)
研磨速度の値が1500(nm/分)以上のとき、研磨速度が良好といえる。
【0122】
4.7.1b.ディッシングの評価
凹部等に配線材料を堆積させた厚さT(nm)の初期の余剰膜を研磨速度V(nm/分)で研磨すると、本来T/V(分)の時間だけ研磨すれば目的が達成できるはずである。しかし、実際の製造工程では、凹部以外の部分に残る配線材料を除去するため、T/V(分)を超える過剰研磨(オーバーポリッシュ)を実施している。このとき、配線部分が過剰に研磨されることにより、凹状の形状となることがある。このような凹状の配線形状は、「ディッシング」と呼ばれ、製造品の歩留まりを低下させてしまう観点から好ましくない。そのため、各実施例でディッシングを評価項目として採り上げた。
【0123】
ディッシングの評価は、表面粗さ計(KLAテンコール社製、型式「P−10」)を使用し、基板aの300μm配線を測定して行った。また、ディッシングの評価における研磨時間は、厚さT(nm)の初期の余剰銅膜を「4.7.1.銅膜付き基板の研磨」で得られた研磨速度V(nm/分)で除した値(T/V)(分)に1.5を乗じた時間(分)とした。
【0124】
表1中の評価項目におけるディッシングの項は、上記表面粗さ計によって測定された銅配線の窪みの量をディッシング値(μm)として記載した。ディッシングの値が、1(μm)以下のとき、ディッシングが抑制されているといえる。
【0125】
4.7.1c.面内均一性の評価
上記の銅膜が成膜された基板bの長手方向に対し両端から5mmの範囲を除き、均等にとった33点について化学機械研磨前後の基板の膜厚を測定した。この測定結果から、下記式(4)ないし(6)により、研磨速度および面内均一性を計算した。
研磨量 = 研磨前の膜厚−研磨後の膜厚 …(4)
研磨速度 = Σ(研磨量)/研磨時間 …(5)
面内均一性 =(研磨量の標準偏差÷研磨量の平均値)×100(%) …(6)
【0126】
面内均一性が10%以下のとき、面内均一性は良好であるといえる。
【0128】
4.7.1d.評価結果
実施例1ないし8、比較例1ないし3、参考例1は、化学機械研磨用水系分散体の成分または濃度を一部変更したものであって、その配合は、表1に記載した通りである。
【0129】
実施例1ないし8の化学機械研磨用水系分散体では、研磨速度は1710nm/分以上と十分に高く、300μm配線のディッシングは0.82μm以下と小さく、面内均一性は8.6%以下である。以上のことから、実施例1ないし8の化学機械研磨用水系分散体は、被研磨面の面積が大きな基板(表示基板)に対する化学機械研磨において、研磨速度が大きく、面内均一性を確保でき、かつディッシングを抑制できることが判明した。
【0130】
特に実施例1では、研磨速度が2980nm/分と極めて高いにもかかわらず、300μm配線のディッシングは0.77μmと小さく、しかも面内均一性は8.0%と低く、非常に良好な結果が得られている。
【0131】
また、表1に示すように実施例9ないし11は、実施例5とほぼ同等の結果が得られている。すなわち、室温で6ヶ月保管したキットを用いて化学機械研磨用水系分散体を調製しても、調製直後とほぼ同等の性能を有することがわかった。この結果より、少なくともキットとして保管すれば化学機械研磨用水系分散体に含まれる各成分の保存安定性を確保できることが判明した。一方、室温で6ヶ月保管した実施例5の化学機械研磨用水系分散体は、砥粒の肥大化が見られ、使用に際しては超音波処理などの再分散が必要な状態となっていた。
【0132】
比較例1は、(D)アミノ酸が含まれていない例であり、研磨速度が十分でなく、電気光学表示装置用基板等の大面積の基板の製造に用いた場合、高スループットを実現することが困難である。
【0133】
比較例2は、(A)化学式(1)で示される化合物が含まれていない例であり、研磨速度は不良とはいえないものの、ディッシングおよび面内均一性が大きすぎるため、電気光学表示装置用基板等の製造に好適とはいえない。
【0134】
比較例3は、(B)界面活性剤が含まれていない例であり、研磨速度は不良とはいえないものの、ディッシングおよび面内均一性が大きすぎるため、電気光学表示装置用基板等の基板の製造に好適とはいえない。
【0135】
参考例1は、(E)酸化剤が含まれていない例であり、研磨速度が非常に小さく、電気光学表示装置用基板等の大面積の基板の製造に用いた場合、高スループットを実現することが困難である。なお、本例では、研磨速度が小さすぎたため、ディッシングおよび面内均一性の評価が不能であった。
【0136】
4.7.2.半導体基板研磨
化学機械研磨装置(アプライドマテリアル社製、型式「MIRRA−Mesa」)に多孔質ポリウレタン製研磨パッド(ローム&ハース社製、品番「IC1010」)を装着し、化学機械研磨用水系分散体を供給しながら、基板c、基板d、基板eにつき、下記の研磨条件にて1分間研磨処理を行い、下記の手法によって研磨速度、平坦性および欠陥の有無を評価した。その結果を表2に併せて示す。
【0137】
4.7.2a.研磨速度の評価
(1)研磨条件
・ヘッド回転数:70rpm
・ヘッド荷重:200gf/cm
2
・テーブル回転数:70rpm
・化学機械研磨水系分散体の供給速度:200mL/分
この場合における化学機械研磨用水系分散体の供給速度とは、全供給液の供給量の合計を単位時間当たりで割り付けた値をいう。
【0138】
(2)研磨速度の算出方法
銅膜およびタンタル膜について、電気伝導式膜厚測定器(KLAテンコール社製、形式「オムニマップRS75」)を用いて、基板c、基板dにおけるそれぞれの膜の研磨処理後の膜厚を測定し、化学機械研磨により減少した膜厚および研磨時間から研磨速度を算出した。
【0139】
4.7.2b.平坦性評価
(1)研磨処理工程の研磨条件
・研磨処理工程用の水系分散体としては、実施例12ないし実施例18および比較例4ないし比較例7、参考例2の化学機械研磨用水系分散体を用いた。
・ヘッド回転数:70rpm
・ヘッド荷重:200gf/cm
2
・テーブル回転数:70rpm
・化学機械研磨水系分散体の供給速度:200mL/分
この場合における化学機械研磨用水系分散体の供給速度とは、全供給液の供給量の合計を単位時間当たりで割り付けた値をいう。
・研磨時間:被研磨面から銅膜が除去され、バリアメタル膜が露出した後、さらに30秒研磨を行った時点を研磨終点とした。
【0140】
(2)平坦性の評価方法
前記条件で研磨処理後の基板eの被研磨面につき、高解像度プロファイラー(KLAテンコール社製、形式「HRP240ETCH」)を用いて、銅配線幅(ライン、L)/絶縁膜幅(スペース、S)がそれぞれ100μm/100μmの銅配線部分におけるディッシング量(nm)を測定した。その結果を表2に示す。ディッシング量は、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。
【0141】
銅配線幅(ライン、L)/絶縁膜幅(スペース、S)がそれぞれ9μm/1μmのパターンにおける微細配線長が1000μm連続した部分におけるエロージョン量(nm)を測定した。その結果を表2に示す。エロージョン量は、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。
【0142】
4.7.2c.コロージョン評価
走査型電子顕微鏡(アプライドマテリアル社製、型式「SEM Vision G3」)を用いて、周囲が絶縁部であり、幅0.18umの銅配線がバリアメタル膜を介して孤立して存在している箇所を観察した。表2において、銅とバリアメタル膜の界面に幅が0.01μm以上の隙間が確認された場合にはコロージョンがあるとして「×」と、隙間が確認されない場合もしくは銅とバリアメタル膜の界面に幅が0.01μm未満の隙間が確認された場合にはコロージョンがないものとして「○」と表記した。
【0144】
4.7.2d.評価結果
実施例12〜18では、銅膜に対する研磨速度が7,000オングストローム/分以上と十分高く、バリアメタル膜に対する研磨速度が10オングストローム/分以下と十分に低い。したがって、銅膜に対する研磨選択性に優れていることがわかった。
【0145】
これに対して、比較例4では、(A)成分を使用していないため、ディッシング、エロージョン、コロージョンが悪化していた。
【0146】
比較例5では、(B)成分を使用していないため、ディッシング、エロージョン、コロージョンが悪化していた。
【0147】
比較例6では、(C)成分を使用していないため、研磨速度が非常に小さく、平坦性を評価することができなかった。
【0148】
比較例7では、(D)成分を使用していないため、研磨速度が非常に小さく、平坦性を評価することができなかった。
【0149】
参考例2では、(E)成分を使用していないため、研磨速度が非常に小さく、平坦性を評価することができなかった。