(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782275
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】着脱式摩擦撹拌接合ツール
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20150907BHJP
B23Q 3/12 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23Q3/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-58068(P2011-58068)
(22)【出願日】2011年3月16日
(65)【公開番号】特開2012-192433(P2012-192433A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2013年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】内海 慶春
(72)【発明者】
【氏名】森口 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】森 英夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 誠
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
【審査官】
山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2006/0169747(US,A1)
【文献】
再公表特許第2001/076815(JP,A1)
【文献】
特開平11−207554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
B23Q 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料に押圧した状態で相対運動させて被接合部に摩擦撹拌接合のための摩擦熱を発生させる接合ツール(1)と、その接合ツールを着脱可能に保持するツールホルダ(2)と、弾性を有する螺旋コイル状の締結補助具(3)とからなり、
前記接合ツール(1)が、テーパ軸部(4)と、そのテーパ軸部の外周に形成されたねじれ溝(5)と、前記テーパ軸部(4)の根元から径方向外側に張り出す平坦な着脱部ショルダー面(6)を後部に有し、
前記ツールホルダ(2)が前記着脱部ショルダー面(6)を突き当てる前端面(7)と、前記テーパ軸部(4)を適合して受け入れる前記前端面(7)に開口したテーパ孔(8)と、前記テーパ軸部の外周のねじれ溝(5)に対応させて前記テーパ孔(8)の内面に形成されたねじれ溝(9)を有し、
前記締結補助具(3)が、テーパの螺旋コイル状をなし、自由状態でのコイルの巻きピッチが前記ねじれ溝(5,9)の設置ピッチ(P,P1)よりも小さく、さらに、その締結補助具(3)は前記テーパ軸部の外周のねじれ溝(5)と前記テーパ孔の内面のねじれ溝(9)との間に形成される空間(S)と略相似形の断面形状を有し、
前記締結補助具(3)が軸方向に引き伸ばされて前記テーパ軸部の外周のねじれ溝(5)と前記テーパ孔の内面のねじれ溝(9)のいずれか一方に装着され、この状態で前記テーパ軸部(4)が前記テーパ孔(8)に挿入され、前記締結補助具(3)が前記テーパ軸部の外周のねじれ溝(5)と前記テーパ孔の内面のねじれ溝(9)の双方に入り込んで双方のねじれ溝の溝面に弾性的に押しつけられ、
前記着脱部ショルダー面(6)が前記ツールホルダの前端面(7)に密着し、さらに、前記テーパ軸部の外周面(4a)が前記テーパ孔の内面(8a)に密着して前記接合ツール(1)が前記ツールホルダ(2)に締結される着脱式摩擦撹拌接合ツール。
【請求項2】
前記締結補助具(3)の螺旋コイルの巻きピッチが前記ねじれ溝(5,9)の設置ピッチと等しくなるところまで前記締結補助具(3)が軸方向に引き伸ばされたときにこの締結補助具(3)が前記テーパ軸部(4)又は前記テーパ孔(8)のテーパ角(α、α1)とほぼ等しいテーパ角を持つようにした請求項1に記載の着脱式摩擦撹拌接合ツール。
【請求項3】
前記締結補助具(3)が前記接合ツール(1)の材質よりも軟質の材料で形成された請求項1又は請求項2に記載の着脱式摩擦撹拌接合ツール。
【請求項4】
前記テーパ軸部(4)の外周面(4a)と前記テーパ孔(8)の内面(8a)の相互接触面積を、前記ねじれ溝(5,9)が無い状態での相互接触面積との比で75%以上確保した請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の着脱式摩擦撹拌接合ツール。
【請求項5】
前記テーパ軸部の外周面のねじれ溝(5)と前記テーパ孔の内面のねじれ溝(9)のねじれ角(θ、θ1)を75°以上、90°未満の範囲に設定した請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の着脱式摩擦撹拌接合ツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、摩擦撹拌接合用の接合ツールを工夫された継手を用いてツールホルダに着脱自在に締結する着脱式摩擦撹拌接合ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金などの金属材料同士を接合する摩擦撹拌接合技術が下記特許文献1に開示されている。摩擦撹拌接合は、先端に小径突起(プローブ)が形成された円柱状の摩擦撹拌接合用ツールを金属材料に押圧しながら回転させることにより、金属材料の接合部に摩擦熱を発生させる。そして、その摩擦熱で接合部を軟化させて塑性流動させ、さらに撹拌して金属材料同士を接合するという技術である。
【0003】
上記の「接合部」とは、金属材料の、突き合わせ状態での接合、或いは重ね合わせた状態での接合が行われる接合界面の部分をいう。摩擦撹拌接合では、この接合界面付近における金属材料が摩擦熱で軟化して塑性流動し、流動した材料が撹拌されて混じり合うことで接合界面が消滅して接合がなされる。この接合法では流動後の金属材料に動的再結晶が起こり、その動的再結晶により接合界面付近の金属組織が微粒化することとなって金属材料同士の高強度接合が行われる。
【0004】
この摩擦撹拌接合では、被接合部材がアルニミウム合金である場合には、500℃程度の比較的低温で塑性流動が生じる。そのため、安価なハイス鋼やダイス鋼からなる接合ツールを用いても接合ツール先端部の摩擦による摩耗は少ない。
【0005】
これに対し、被接合部材が例えば、1000℃以上の高温で塑性流動が生じる鋼等の難接合部材である場合には、接合ツール先端部の摩耗が激しくなることから、耐熱性や耐摩耗性に優れた材料からなる接合ツールを用いる必要がある。しかし、接合ツールの全体を耐熱性や耐摩耗性に優れる材料で作製すると、接合ツールが非常に高価になって接合コストが高くなる。
【0006】
そこで、この問題に対応した従来技術として、摩擦撹拌接合ツールを、被接合部に没入する接合ツールと、接合ツールを保持するためのツールホルダからなる分割式とし、両者を着脱自在に組み合わせることで、摩耗および破損しやすい接合ツールのみを耐摩耗性に優れた材料で形成して交換可能とした着脱式摩擦撹拌接合ツールが、下記特許文献2に開示されている。
【0007】
特許文献2では、ツールホルダの先端部に、嵌合部と外ねじ(雄ねじ)部を形成している。嵌合部は、接合ツールが部分的に嵌合する嵌合凹所が形成され、外ねじ部は、円筒の外周部分に固定具(ロックナット)が螺着する外ねじが形成される。
【0008】
嵌合凹所はツールホルダと接合ツールとの間のトルク伝達のために断面非円形の凹所として形成され、これも断面非円形とした接合ツールの装着部を上記嵌合凹所に非円形嵌合させてツールホルダに螺合させた固定具で接合ツールをツールホルダに固定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2712838号公報
【特許文献2】特開2006−212657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2の接合ツールは、嵌合凹所が断面非円形であるため、嵌合凹所の中心軸をツールホルダの中心軸に合わせて加工することが難しく、装着した接合ツールの振れ精度が悪くなる。その振れ精度が悪いと、接合時に接合ツールのプローブにかかる負担が大きくなってプローブが折損しやすくなる。
【0011】
また、嵌合部が断面非円形であるため、機上での接合ツールの装着性も良くない。その装着性は嵌合部の嵌めあい公差を大きくすることで良くすることができるが、この方法を採ると振れ精度がさらに悪化し、プローブがさらに欠損しやすくなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明においては、金属材料に押圧した状態で相対運動させて被接合部に摩擦撹拌接合のための摩擦熱を発生させる接合ツールと、その接合ツールを着脱可能に保持するツールホルダと、弾性を有する螺旋コイル状の締結補助具とからなり、
前記ツールホルダが、テーパ軸部と、そのテーパ軸部の外周に形成されたねじれ溝と、前記テーパ軸部の根元から径方向外側に張り出す平坦な着脱部ショルダー面を後部に有し、
前記ツールホルダが前記着脱部ショルダー面を突き当てる前端面と、前記テーパ軸部を適合して受け入れる前記前端面に開口したテーパ孔と、前記テーパ軸部の外周のねじれ溝に対応させて前記テーパ孔の内面に形成されたねじれ溝を有し、
前記締結補助具が、
テーパの螺旋コイル状をなし、自由状態でのコイルの巻きピッチが前記ねじれ溝の設置ピッチよりも小さく、さらに、その締結補助具は前記テーパ軸部の外周のねじれ溝と前記テーパ孔の内面のねじれ溝との間に形成される空間と略相似形の断面形状を有し、
前記締結補助具が
軸方向に引き伸ばされて前記テーパ軸部の外周のねじれ溝と前記テーパ孔の内面のねじれ溝のいずれか一方に装着され、この状態で前記テーパ軸部が前記テーパ孔に挿入され、前記締結補助具が前記テーパ軸部の外周のねじれ溝と前記テーパ孔の内面のねじれ溝の双方に入り込んで双方のねじれ溝の溝面に弾性的に押しつけられ、
前記着脱部ショルダー面が前記ツールホルダの前端面に密着し、さらに、前記テーパ軸部の外周面が前記テーパ孔の内面に密着して前記接合ツールが前記ツールホルダに締結される着脱式摩擦撹拌接合ツールを提供する。
【0013】
前記テーパ軸部の外周のねじれ溝と前記テーパ孔の内面のねじれ溝の設置ピッチは、テーパ軸部とテーパ孔をテーパ嵌合させるためにねじれ溝の溝幅よりも大きくしており、そのために、テーパ軸部の外周面とテーパ孔の内面が残存している。
【0014】
この着脱式摩擦撹拌接合ツールは、以下に列挙するものが好ましい。
(1)前記締結補助具が螺旋コイルの巻きピッチがねじれ溝の設置ピッチと等しくなるところまで前記締結補助具が軸方向に引き伸ばされたときにこの締結補助具が前記テーパ軸部又は前記テーパ孔のテーパ角とほぼ等しいテーパ角を持つようにしたもの。
(2)前記締結補助具が略平行四辺形の断面を有し、その断面の一方の組の対角コーナが螺旋コイルの内径側と外径側に配置されるもの。
(3)前記締結補助具が前記接合ツールの材質よりも軟質の材料、より好ましくは、鋼で形成されたもの。
(4)前記テーパ軸部の外周面と前記テーパ孔の内面の相互接触面積を、前記ねじれ溝が無い状態での相互接触面積との比で75%以上確保したもの。
(5)前記テーパ軸部の外周のねじれ溝と前記テーパ孔の内面のねじれ溝のねじれ角を75°以上、90°未満の範囲に設定したもの。
【発明の効果】
【0015】
この発明の摩擦撹拌接合ツールは、テーパ軸部の外周のねじれ溝とテーパ孔の内面のねじれ溝のどちらか一方に装着した螺旋コイル状の締結補助具をねじ山として機能させて接合ツールのテーパ軸部をツールホルダのテーパ孔にねじ込む。そして、接合ツールに設けた着脱部ショルダー面をツールホルダの前端面に密着させ、同時に、接合ツールに設けたテーパ軸部の外周面をツールホルダに設けたテーパ孔の内面に密着させる。
【0016】
図9は一般的なねじのみによる締結、
図10はテーパ面とねじを併用した締結を表している。雄ねじMs、雌ねじShが全面で密着するようなねじ嵌合部は加工が極めて難しいことから、このような、ねじ嵌合部での拘束では、不可避の加工誤差による密着不良箇所(
図9、
図10の隙間g)が生じ、精度や締結信頼性の確保が不十分になり易い。
【0017】
本発明の構造によれば、高精度加工を要求される箇所がテーパ軸部とテーパ孔の嵌合面(テーパ軸部の外周面とテーパ孔の内面)のみとなり、振れ精度の良い摩擦撹拌接合ツールが低コストで実現できる。
【0018】
また、接合ツールの径方向の位置決め(芯出し)が、広い嵌合面積を確保できるテーパ軸部とテーパ孔の嵌合部によってなされる。これに加えて、軸方向の位置決めと位置保持が、接合ツールに設けた着脱部ショルダー面とツールホルダの前端面の突き合わせ部によってなされ、そのために、ツールホルダの位置保持の信頼性が高く、振れ精度が良いためプローブの欠損も生じにくくなる。
【0019】
さらに、締結補助具をねじ山として機能させて接合ツールのテーパ軸部をツールホルダのテーパ孔にねじ込むので、着脱の操作が煩雑にならず、機上での接合ツール交換も容易になる。
【0020】
このほか、締結補助具は所謂ばねであって弾性を有しているので、自由状態でのコイルの巻きピッチをねじれ溝の設置ピッチよりも小さくしておいてこれを引き伸ばして一方のねじれ溝に装着することでこの締結補助具を装着側のねじれ溝の溝面に弾性的に押し付ける(抱きつかせる)ことができる。
【0021】
この状態で締結補助具を他方のねじれ溝にねじ込むと、締結補助具が他方のねじれ溝の溝面にも押し付けられ、締結の緩み止め(接合ツールの緩み方向への回転の抑制)が確実になされるようになってツールホルダに対する接合ツールの締結が強固になる。
【0022】
なお、上記において好ましいとした構成の作用、効果は後に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明の摩擦撹拌接合ツールの一例を示す側面図
【
図2】
図1の摩擦撹拌接合ツールの構成要素を分解して示す側面図
【
図3】
図1の摩擦撹拌接合ツールの接合ツールに設けたテーパ軸部の拡大側面図
【
図4】
図1の摩擦撹拌接合ツールのツールホルダに設けたテーパ孔の拡大断面図
【
図5】
図1の摩擦撹拌接合ツールで用いる締結補助具の自由状態の断面図
【
図6】
図1の摩擦撹拌接合ツールの接合ツールとツールホルダの締結部を拡大して示す断面図
【
図10】テーパ嵌合部とねじを併用した締結部を誇張して示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面の
図1〜
図8に基づいて、この発明の着脱式摩擦撹拌接合ツールの実施の形態を説明する。
【0025】
例示の摩擦撹拌接合ツールは、周知のプローブ10とショルダー11を有する接合ツール1と、これを着脱自在に保持するツールホルダ2と、接合ツール1とツールホルダ2の締結を助勢し、かつ、締結状態を保持する締結補助具3を組み合わせてなる。
【0026】
接合ツール1は、突端側が細くなるテーパ軸部4と、そのテーパ軸部4の外周に形成されたねじれ溝5と、テーパ軸部4の根元から径方向外側に張り出す平坦な着脱部ショルダー面6を後部に有している。
【0027】
ねじれ溝5は、
図3に示したねじれ角θを有する溝であり、その溝の設置ピッチPが当該ねじれ溝の溝幅Wよりも大に設定されてテーパ軸部4の外周にテーパの外周面4aが残されている。
【0028】
ツールホルダ2は、接合ツールの着脱部ショルダー面6を突き当てる前端面7と、テーパ孔8と、テーパ軸部4の外周のねじれ溝5に対応させてテーパ孔8の内面に形成されたねじれ溝9を有している。テーパ孔8は前端面7に開口しており、そこに接合ツール1のテーパ軸部4が挿入される。
【0029】
図3に示したテーパ軸部4のテーパ角αと
図4に示したテーパ孔8のテーパ角α1は等しく、テーパ軸部4はテーパ孔8に適合して受け入れられる。
【0030】
また、
図4に示したねじれ溝9の溝幅W1,ねじれ角θ1、設置ピッチP1は、それぞれ、ねじれ溝5の溝幅W、ねじれ角θ、設置ピッチPに等しく、そのために、テーパ孔8のテーパの内面8aも残存している。
【0031】
締結補助具3は、テーパ軸部4の外周のねじれ溝5とテーパ孔8内面のねじれ溝9との間に形成される空間S(
図7参照)と略相似形の断面形状を有する。この締結補助具3は、ばね鋼線などで形成されており、弾性を有する。また、外観がテーパの螺旋コイル状をなし、自由状態でのコイルの巻きピッチがねじれ溝5,9の設置ピッチよりも小さい。
【0032】
例示の摩擦撹拌接合ツールでは、締結補助具3が軸方向に引き伸ばされてテーパ軸部4の外周のねじれ溝5又はテーパ孔8内面のねじれ溝9のどちらか一方に装着される。ここでは、ねじれ溝9に装着されると仮定して説明を進める。
【0033】
テーパ孔8の内面のねじれ溝9に締結補助具3の小径側端部を入れ、その後、締結補助具3を回転させながら挿入(ねじれ溝5に装着する場合には回転させながら外嵌)すると、ねじれ溝9の溝面との間に働く推力で締結補助具3が軸方向に引き伸ばされてねじれ溝9のほぼ全域にはめ込まれる。
【0034】
その装着状態(はめ込み状態)では、締結補助具3が装着したねじれ溝の溝面に弾性復元力で押し付けられる。
【0035】
この状態で締結補助具3をねじ山として機能させて接合ツール1のテーパ軸部4をツールホルダ2のテーパ孔8にねじ込む。このとき、ねじれ溝5が締結補助具3に接触した状態でテーパ軸部4とテーパ孔8が相対回転することによって推力が発生し、その推力でテーパ軸部4がテーパ孔8に引き込まれるので、ねじ込み終点では締結補助具3がねじれ溝5の溝面にも弾性的に押し付けられた状態となる。
【0036】
そして、ねじ込み終点でテーパ軸部4の外周面4aがテーパ孔8の内面8aに密着し、同時に接合ツールの着脱部ショルダー面6がツールホルダの前端面7に密着してこの状態でツールホルダ2に対する接合ツール1の締結が完了する。
【0037】
なお、ねじれ溝5,9は、対向面間に断面円形の空間を生じさせる
図8(a)に示す半円溝や、対向面間に断面六角形の空間を生じさせる
図8(b)に示す台形溝にしても発明の目的が達成されるが、
図7に詳細に示した三角形の溝が加工しやすい。その三角形の溝は、両ねじれ溝5,9間に平行四辺形の空間Sを作り出す。そのために、空間Sと相似形にする締結補助具3の断面形状は略平行四辺形になり、ねじれ溝5,9の溝面に対する締結補助具3の接触面積が広く確保される。従って、締結の緩み防止の面でも有利と言える。
【0038】
接合ツール1は、摩擦撹拌接合ツール用の材料として公知の材料を用いることができ、耐酸化性、耐摩耗性に優れた材料として、例えば、超硬合金、サーメット、c−BN、アルミナ、窒化珪素等のセラミックス、イリジウム合金、レニウム合金、Mo合金等の耐熱合金などを用いることができる。
【0039】
ツールホルダ2は、鋼や超硬合金を材料としたものが経済性や製造時の加工性に優れて好ましい。
【0040】
締結補助具3は、接合ツール材質よりも軟質材、好ましくはばね鋼で形成するとよい。装着時にねじれ溝9に装着するものは縮径され、ねじれ溝5に装着するものは拡径されるようにしてねじれ溝に対する抱きつき力を増強することもできる。また、鋼などの高融点材料を摩擦撹拌接合するときのツール温度は1000〜1200℃と言われており、切削工具の使用環境よりも厳しい。このため、鋼の摩擦撹拌接合時にツール材料は大きな熱膨張を起こすことになる。従って、ツール材質とツールホルダが直接締結されていると、この熱膨張の繰り返しにより締結部が損傷する可能性があるが、締結補助具3を軟質とし、ツール材質とツールホルダの締結部の間に締結補助具3を存在させることにより、熱膨張で発生した応力を締結補助具3が吸収できることになり、締結部の損傷を防ぐことができる。
【0041】
ねじれ溝5,9のねじれ角θ、θ1は、75°以上、90°未満の範囲が適当である。そのねじれ角θ、θ1が90°に近づくほど強い軸方向締め付け力を発生させ、締結の緩みも生じ難くすることができる。また、上記の角度範囲とすることで、接合ツール1の着脱時間が長くなりすぎることも回避することができる。
【0042】
また、テーパ軸部4とテーパ孔8のテーパ嵌合部の相互接触面積(テーパ軸部の外周面とテーパ孔の内面の接触面積)は、テーパ軸部4の径方向拘束を強固にするために、ねじれ溝5,9と締結補助具3のサイズが犠牲にならない範囲でその相互接触面積はできるだけ広くするのがよい。
【0043】
その相互接触面積は、ねじれ溝5,9が無い状態でテーパ軸部4の外周面とテーパ孔8の内面を接触させたときの相互接触面積を100として、それとの比で75%以上確保することが推奨される。
【0044】
テーパ軸部4とテーパ孔8のテーパ角α、α1は、5°〜10°程度が適当と考えられるが、これに限定されるものではない。テーパ軸部4のねじ込み操作に要する力やねじ込み量とテーパ嵌合部に生じる径方向拘束力の兼ね合いなどを考慮して任意の値に設定することができる。
【0045】
このほか、接合ツールの着脱部ショルダー面6とツールホルダの前端面7は軸直角な面が加工性に優れるが、両者がテーパ嵌合する面であっても差し支えない。
【実施例】
【0046】
全長:140mm、接合ツール1の先端から着脱部ショルダー面6までの長さ:30mm、テーパ軸部4の根元直径:φ6.5mm、テーパ軸部4の長さ:11mm、テーパ軸部4のテーパ角α:7°、ねじれ溝5のねじれ角θ:85.8°〜84.8°、ねじれ溝5の設置ピッチP:1.85mm、締結補助具3の自由時大径端寸法:外径φ7.73mm、内径φ7.02mm、接合ツール材質:超硬合金の
図1に示す構造の摩擦撹拌接合ツールを試作した。接合ツール1のプローブ10は、プローブ長1.8mm、プローブ形状はM4、ピッチ0.7の逆ねじ、ショルダー11の直径はφ10mmとした。
【0047】
ツールホルダ2の前端面7の直径はφ10mm、接合装置による保持部の直径はφ16mmとした。摩擦撹拌接合ツールは、SKD61製ツールホルダを用いたもの(発明品1)と、超硬合金製ツールホルダを用いたもの(発明品2)の2種類を試作した。
【0048】
次に、上記発明品1、2の振れ精度を調べるために、接合装置による保持部を旋盤に固定し、ツールホルダのセンターを出した状態で、接合ツールのショルダー前端面から2mmの箇所の振れ精度を、ダイヤルゲージを用いて測定した。
【0049】
その結果、発明品1の振れ精度は、5μm、発明品2の振れ精度は4μmであり、本発明の摩擦撹拌接合ツールが、良好な振れ精度を有することが確認された。
【0050】
次に、上記発明品1、2を用い、摩擦撹拌点接合装置にて、下記の接合条件の下で鋼板を2枚重ねて接合する接合試験を行った。
【0051】
<接合条件>
被接合材:590MPa級DP鋼板、1.2mm厚
ツール回転数:3000rpm
接合荷重:600kgf
接合時間:2.5s
打点数:1000打点
【0052】
上記接合試験において、発明品1、2ともに、プローブの折損、テーパーネジ部の折損、接合ツールの脱落、緩み等の不具合は発生せず、安定して1000打点の接合が可能なことが確認された。
【0053】
なお、この発明は、実施例に記載した鋼の摩擦撹拌点接合に限定されるものではなく、鋼以外の被接合材の接合や、摩擦撹拌線接合用のツールにも適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 接合ツール
2 ツールホルダ
3 締結補助具
4 テーパ軸部
4a 外周面
5 ねじれ溝
6 着脱部ショルダー面
7 前端面
8 テーパ孔
8a 内面
9 ねじれ溝
10 プローブ
11 ショルダー
θ、θ1 ねじれ角
α、α1 テーパ角
P,P1 ねじれ溝の設置ピッチ
W,W1 溝幅
S ねじれ溝間に形成される空間
g 隙間