【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
拡散光トモグラフィによる生体計測では、被計測部位内部における位置によって空間分解能や雑音特性が異なるため、不均一な画像が生成される。
図17は、そのような現象を説明するための模式図であり、被計測部位100と、被計測部位100の表面に設けられた光照射部101及び光検出部102が示されている。被計測部位100の内部では、光照射位置101から出射されて光検出位置102に達する光子の飛行時間が短いほど、飛行距離が短く飛行経路が限定される。逆に、光子の飛行時間が長いほど、飛行距離が長くなり飛行経路は限定されない。そして、光子の飛行時間が短いデータには、
図17に示される領域A1、すなわち被計測部位の表面に近い領域を通過する飛行経路R1が多く含まれる。また、光子の飛行時間が長いデータには、
図17に示される領域A2、すなわち被計測部位の表面から遠い領域を通過する飛行経路R2が多く含まれる。したがって、被計測部位の表面から遠い領域の情報量は、被計測部位の表面に近い領域の情報量より少なくなってしまう。これにより、被計測部位の表面に遠い領域の空間分解能や雑音が、被計測部位の表面から近い領域の空間分解能や雑音よりも大きくなってしまう。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、被計測部位内部の位置による空間分解能や雑音特性の差を抑制し、より均一に近い画像を作成することができる生体計測装置および画像作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明に係る第1の生体計測装置は、被検者の被計測部位に光を照射する光照射部と、被計測部位からの拡散光を検出する光検出部と、光検出部からの出力信号に基づいて、被計測部位内の光吸収係数分布を演算し、被計測部位の内部に関する再構成画像を作成する演算部とを備え、演算部は、再構成画像の各画素毎に設定される、0より大きく且つ1以下であるJ個の係数w
j(但し、添字jは1からJまでの整数であり、Jは再構成画像の画素数である。)を算出し、次の反復式
【数1】
(但し、kは1からNまでの整数であり、Nは反復演算の回数である。x
j(k)は第j番目の画素のk回目の反復演算時における画素値であり、d
j(k)は第j番目の画素のk回目の反復演算時における更新量である。)を用いた逐次近似演算を行うことにより再構成画像を作成することを特徴とする。また、本発明に係る第2の生体計測装置は、被検者の被計測部位に放射線若しくは音波を照射する照射部と、被計測部位からの拡散した放射線若しくは音波を検出する検出部と、検出部からの出力信号に基づいて、被計測部位内における放射線若しくは音波の吸収係数分布を演算し、被計測部位の内部に関する再構成画像を作成する演算部とを備え、演算部は、再構成画像の各画素毎に設定される、0より大きく且つ1以下であるJ個の係数w
j(但し、添字jは1からJまでの整数であり、Jは再構成画像の画素数である。)を算出し、上記反復式(1)を用いた逐次近似演算を行うことにより再構成画像を作成することを特徴とする。なお、本発明において、放射線とは例えばX線、γ線、若しくはマイクロ波といった短波長の電磁波をいい、音波とは例えば超音波のような波動をいう。
【0008】
これらの生体計測装置では、再構成画像の各画素毎に設定されるJ個の係数w
1〜w
Jを用いて、画像再構成のための逐次近似演算を行っている。例えば、これらの係数w
1〜w
Jを、N回の反復演算において収束速度が最も遅い領域に当該画素の収束速度を一致させるように設定することで、収束速度が均一化され、被計測部位内部の位置による空間分解能や雑音特性の差を抑制してより均一に近い画像を作成することが可能となる。
【0009】
また、生体計測装置は、演算部が、再構成画像が分割されて成り複数の画素をそれぞれ含む複数の部分領域のうち、N回の反復演算において収束速度が最も遅い部分領域の収束速度(以下、最低収束速度という)C
Nを求め、0<v
m<1を満たすM個の数値v
m(但し、mは1からMまでの整数)を用意し、1からMまでの各mについて、次の反復式
【数2】
を用いてN回の反復演算を行うことによりJ個の各画素の画素値x
1(N)〜x
J(N)を算出し、該画素値x
1(N)〜x
J(N)から得られる各部分領域の収束速度が最低収束速度C
Nと略一致したときの数値v
mを、該部分領域に含まれる複数の画素の係数w
jとすることを特徴としてもよい。これにより、上述した効果をより好適に得ることができる。
【0010】
また、生体計測装置は、演算部が、N回の反復演算において収束速度が最も遅い部分領域の係数w
jを1とすることを特徴としてもよい。これにより、上述した効果をより好適に得ることができる。
【0011】
また、本発明に係る第1の画像作成方法は、被検者の被計測部位に光を照射し、被計測部位からの拡散光を検出し、該検出信号に基づいて被計測部位内の光吸収係数分布を演算し、被計測部位の内部に関する再構成画像を作成する方法であって、再構成画像の各画素毎に設定される、0より大きく且つ1以下であるJ個の係数w
j(但し、添字jは1からJまでの整数であり、Jは再構成画像の画素数である。)を算出し、次の反復式
【数3】
(但し、kは1からNまでの整数であり、Nは反復演算の回数である。x
j(k)は第j番目の画素のk回目の反復演算時における画素値であり、d
j(k)は第j番目の画素のk回目の反復演算時における更新量である。)を用いた逐次近似演算を行うことにより再構成画像を作成することを特徴としてもよい。また、本発明に係る第2の画像作成方法は、被検者の被計測部位に放射線若しくは音波を照射し、被計測部位からの拡散した放射線若しくは音波を検出し、該検出信号に基づいて被計測部位内における放射線若しくは音波の吸収係数分布を演算し、被計測部位の内部に関する再構成画像を作成する方法であって、再構成画像の各画素毎に設定される、0より大きく且つ1以下であるJ個の係数w
j(但し、添字jは1からJまでの整数であり、Jは再構成画像の画素数である。)を算出し、上記反復式(3)を用いた逐次近似演算を行うことにより再構成画像を作成することを特徴とする。なお、本発明において、放射線とは例えばX線、γ線、若しくはマイクロ波といった短波長の電磁波をいい、音波とは例えば超音波のような波動をいう。
【0012】
これらの画像作成方法では、再構成画像の各画素毎に設定されるJ個の係数w
1〜w
Jを用いて、画像再構成のための逐次近似演算を行っている。例えば、これらの係数w
1〜w
Jを、N回の反復演算において収束速度が最も遅い領域に当該画素の収束速度を一致させるように設定することで、収束速度が均一化され、被計測部位内部の位置による空間分解能や雑音特性の差を抑制してより均一に近い画像を作成することが可能となる。
【0013】
また、画像作成方法は、再構成画像が分割されて成り複数の画素をそれぞれ含む複数の部分領域のうち、N回の反復演算において収束速度が最も遅い部分領域の収束速度(以下、最低収束速度という)C
Nを求め、0<v
m<1を満たすM個の数値v
m(但し、mは1からMまでの整数)を用意し、1からMまでの各mについて、次の反復式
【数4】
を用いてN回の反復演算を行うことによりJ個の各画素の画素値x
1(N)〜x
J(N)を算出し、該画素値x
1(N)〜x
J(N)から得られる各部分領域の収束速度が最低収束速度C
Nと略一致したときの数値v
mを、該部分領域に含まれる複数の画素の係数w
jとすることを特徴としてもよい。これにより、上述した効果をより好適に得ることができる。
【0014】
また、画像作成方法は、N回の反復演算において収束速度が最も遅い部分領域の係数w
jを1とすることを特徴としてもよい。これにより、上述した効果をより好適に得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明による生体計測装置および画像作成方法によれば、被計測部位内部の位置による空間分解能や雑音特性の差を抑制し、より均一に近い画像を作成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明による生体計測装置および画像作成方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る生体計測装置10の構成を示す図である。本実施形態の生体計測装置10は、計測対象である被検者の被計測部位Bに光を照射し、拡散光(戻り光)を検出し、その検出位置と計測された光量データ(例えば時間分解光子ヒストグラム)とに基づいて、光子の平均飛行経路と平均光路長を推定し、画像再構成問題として体内の情報を画像化する装置である。この装置によって得られる画像は、例えば腫瘍の位置や酸素化ヘモグロビン及び脱酸素化ヘモグロビンの分布を可視化したものであり、体組織の機能画像である。なお、被計測部位Bとしては、例えば頭部や女性の乳房等が想定される。
【0019】
生体計測装置10は、計測光を被計測部位Bの内部に照射する光照射部と、光照射部からの光の照射により被計測部位Bから生じた拡散光を検出する光検出部と、光検出部からの出力信号に基づいて被計測部位Bの吸収係数の空間的分布を計算し、被計測部位Bの再構成画像を作成する演算部14とを備えている。
【0020】
本実施形態の光照射部は、被計測部位Bに取り付けられるn個の光出射/検出端16それぞれが有する光出射端、光源22、および光スイッチ24によって構成されている。光源22としては、例えばレーザダイオードを使用することができる。計測光の波長としては、生体の透過率と定量すべき吸収体の分吸収係数との関係等から、700nm〜900nm程度の近赤外線領域の波長が好ましい。
【0021】
計測光は、例えば連続光として光源22から出射される。光源22から出射された計測光は、光出射/検出端16から被計測部位Bへ照射される。光スイッチ24は、1入力n出力の光スイッチであり、光源22から光源用光ファイバ26を介して光を入力し、この光を上記n個の光出射/検出端16それぞれに対して順に供給する。すなわち、光スイッチ24は、各光出射/検出端16に接続されたn本の出射用光ファイバ28を1本ずつ順に選択し、当該出射用光ファイバ28と光源22とを光学的に接続する。
【0022】
本実施形態の光検出部は、前述したn個の光出射/検出端16それぞれが有する光検出端と、n個の光出射/検出端16それぞれに対応するn個の光検出器30と、各光検出器の入力部前段に配置されたn個のシャッター32とによって構成されている。n個の光検出器30それぞれには、各光出射/検出端16の光検出端に入射した被計測部位Bからの拡散光が、検出用光ファイバ34を介して入力される。光検出器30は、対応する光出射/検出端16に到達した拡散光の光強度に応じてアナログ信号を生成する。光検出器30としては、光電子増倍管(PMT:PhotomultiplierTube)の他、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオード等、様々なものを使用することができる。被計測部位Bからの拡散光が微弱であるときは、高感度あるいは高利得の光検出器を使用することが好ましい。光検出器30の信号出力端には信号処理回路36が接続されており、信号処理回路36は、光検出器30から出力されたアナログ信号をA/D変換して拡散光の光強度に応じたディジタル信号を生成し、該ディジタル信号を演算部14へ提供する。
【0023】
演算部14は、信号処理回路36から提供されたディジタル信号に基づいて、被計測部位B内の光吸収係数分布を演算し、被計測部位Bの内部に関する再構成画像を作成する。演算部14は、例えば、CPU(Central Processing Unit)といった演算手段及びメモリなどの記憶手段を有するコンピュータによって実現される。なお、演算部14は、光源22の発光、光スイッチ24の動作及びシャッター32の開閉を制御する機能を更に有するとよい。また、演算部14には記録/表示部38が接続されており、演算部14における演算結果、すなわち被計測部位Bの再構成画像を可視化することが可能となっている。
【0024】
被計測部位Bの内部情報の算出すなわち内部情報計測は、例えば次のようにして行われる。n個の光出射/検出端16のそれぞれから被計測部位Bの内部へ計測光を順に照射し、被計測部位Bを通過して拡散した光を、n個の光出射/検出端16を介してn個の光検出器30により検出する。この検出結果に基づいて、被計測部位Bの内部における吸収係数の空間的分布を演算し、腫瘍などの吸収体の位置や形状に関する情報(内部情報)を含む再構成画像を作成する。
【0025】
なお、演算部14における吸収係数分布の算出には、例えば特許文献1に詳しく説明されているような周知の方法を用いるとよい。
【0026】
続いて、光吸収係数の空間的分布に基づいて、再構成画像を作成する方法について説明する。なお、以下に説明する演算は、演算部14において行われる。ここで、拡散光トモグラフィにおける画像再構成問題を定式化するために、未知の光吸収係数分布に基づく再構成画像を構成する各画素の値を、次のJ次元列ベクトルxによって表す。
x=(x
1,x
2,…,x
J)
T
また、光検出部において検出された測定データである光子ヒストグラムを、次のI次元列ベクトルTによって表す。
T=(T
1,T
2,…,T
I)
T
また、これらxとTとを相互に関連づけるI×J型のシステム行列Lを
L={l
ij}
と定義する。l
iをLのi行目の要素ベクトルとする。更に、光吸収係数分布が一様で既知の画像を、J次元列ベクトルx
refとし、そのx
refに対応する測定データである光子ヒストグラムを、次のI次元列ベクトルBによって表す。
B=(B
1,B
2,…,B
I)
T
【0027】
測定データである光子ヒストグラムに統計雑音が含まれていない場合、次式(5)が成り立つ。
【数5】
しかし、統計雑音が混入した場合、上式(5)が成り立たない。したがって、統計雑音が混入している状態での最適なxを求める必要がある。そこで、本実施形態ではいわゆる最尤推定法を用いてこのようなxを求める。最尤推定法では、光検出部における光子の検出確率から尤度関数を立式し、その尤度関数を目的関数として最適化問題を解くことによって最適なxを求めることができる。
【0028】
拡散光トモグラフィにおける光子の検出確率はポアソン分布に従い、その統計雑音もポアソン分布に従う。したがって、拡散光トモグラフィの最適化問題は、次式(6)によって表される。
【数6】
また、式(6)における目的関数F(x)は、次式(7)に示される対数尤度関数によって表される。
【数7】
【0029】
本実施形態では、OS−Convex法を用いて上式(6)の最大化問題を勾配法で解くことにより、画像再構成を行う。OS−Convex法では、測定データをサブセットと呼ばれる部分データ集合に分割し、各サブセットに対応する評価関数が増加するようにサブセット毎に解を更新する。これにより、1回の反復演算においてサブセットの数だけ解を更新できるので、収束速度が向上する。
【0030】
kを1からNまでの整数(Nは反復演算の回数)とし、サブセット数をQとし、qを1からQまでの整数とし、第q番目のサブセットのデータ集合をSqと定義する。具体的なOS−Convex法の反復式は、次式(8)及び(9)によって表される。
【数8】
【数9】
ここで、一般的な逐次近似解法の反復式は、次式(10)に示される。この反復式によれば、第(k+1)番目の値x
j(k+1)は、第k番目の値x
j(k)と更新量d
j(k)との和によって表される。
【数10】
なお、上述したOS−Convex法では、更新量d
j(k)は次式(11)のように表される。
【数11】
【0031】
解の収束(収束速度)が早い画素では、N回の反復演算それぞれにおける更新量d
j(1)〜d
j(N)の値が大きい。一方、収束速度が遅い画素では、N回の反復演算それぞれにおける更新量d
j(1)〜d
j(N)の値が小さい。したがって、本来は同値となるべき2つの画素の収束速度が互いに異なると、一定回数の反復演算後におけるそれぞれの値が互いに異なる結果となる。つまり、画素毎の収束速度が大きく異なると、再構成画像における空間分解能の均一性が損なわれてしまうこととなる。
【0032】
すなわち、J個の画素における値x
1(N)〜x
J(N)の収束速度を互いに近づけることにより、N回の反復演算後における再構成画像の空間分解能(画質)を均一化することができる。その為には、値x
1(N)〜x
J(N)の収束速度が互いに近づく(好ましくは、略等しくなる)ように、上式(10)における更新量d
j(k)に対し画素毎に異なる任意の係数を乗ずるとよい。但し、更新量d
j(k)は、当該第j番目の画素における評価関数を増加させる最大の更新量であるので、収束速度が遅い画素の更新量d
j(k)に対して1より大きい係数を乗ずると、評価関数は増加せず減少してしまうので好ましくない。そこで、収束速度が早い画素の更新量d
j(k)に対し、1より小さい係数を乗算することによって、評価関数を増加させつつ、収束速度が遅い画素に合わせて収束速度を揃えることが可能となる。換言すれば、次式(12)を満たす係数w
j(以下、ステップサイズという)を各画素に設定し、このステップサイズw
jを更新量d
j(k)に乗ずることによって、各画素値x
1(N)〜x
J(N)の収束速度を任意に制御することが可能となる。
【数12】
したがって、上述した反復演算式(10)は、次式(13)のように書き換えられる。
【数13】
例えば、上式(13)に示される反復演算式を前述したOS−Convex法に適用すると、式(9)に示された反復演算式は次式(14)のようになる。
【数14】
【0033】
続いて、ステップサイズw
jを決定するための方法について説明する。
【0034】
<収束速度の評価>
ステップサイズw
jを決定するためには、測定データに基づいて画素毎の収束速度を求めたのち、収束速度が最も遅い画素を判定する必要がある。画素毎の収束速度は、コントラスト回復率(CRC)によって評価することができる。
【0035】
拡散光トモグラフィの性格として、相互に隣接する画素の収束速度は互いに近いと考えられる。したがって本実施形態では、複数の画素をそれぞれ含む複数の部分領域に画像を分割し、スポットとなる領域を各部分領域内に配置し、該スポットにおけるCRCをその領域の収束速度に相当する値として用いる。なお、CRCは、次式(15)によって定義される。
【数15】
但し、SPはスポット領域における画素値を表し、BGはスポット領域外(背景領域)の画素値を表す。また、添字mは領域内の平均値であることを示し、添字Rは画像再構成後の画素値であることを示し、添字Trは測定データに基づく画素値であることを示す。
【0036】
<ステップサイズw
jの決定>
図2は、上述した収束速度の評価方法に基づく、ステップサイズw
jの具体的な決定方法を示すフローチャートである。この方法では、まず、画像をE個の部分領域に分割する(ステップS1)。なお、以下の説明において、或る任意の部分領域eの画素値の集合をR
eとする。
【0037】
次に、任意の反復回数Nを設定し、N回の反復演算においてCRCが最も小さくなる(すなわち、収束速度が最も遅い)部分領域を判定し、そのCRCを最低収束速度C
Nと定義する(ステップS2)。そして、0<v
m<1を満たすM個の任意の数値v
m(但し、mは1からMまでの整数であり、v
1〜v
Mは互いに異なる値である)を用意する(ステップS3)。なお、このステップS3は、ステップS2やステップS1より前に行ってもよい。
【0038】
続いて、1からMまでの各mについて、次の反復式(16)を用いてN回の反復演算を行うことにより、J個の各画素の画素値x
1(N)〜x
J(N)を算出し、再構成画像を作成する(ステップS4)。
【数16】
そして、該画素値x
1(N)〜x
J(N)から得られる或る部分領域の収束速度が最低収束速度C
Nと略一致した場合に、そのときの数値v
mを該部分領域に含まれる複数の画素のステップサイズw
jとする(ステップS5)。以降、前述したステップS4及びS5をM回繰り返すか、或いは、収束速度が最も遅い部分領域を除く全ての部分領域についてステップサイズw
jが決定するまで、ステップS4及びS5を繰り返す。
【0039】
最後に、N回の反復演算において収束速度が最も遅い部分領域のステップサイズw
jを1とする(ステップS6)。こうして、全ての部分領域の全ての画素について、ステップサイズw
jが決定される。
【0040】
以上に説明した本実施形態に係る生体計測装置10及び画像作成方法によって得られる効果について、従来方法の課題とともに説明する。
【0041】
拡散光トモグラフィは、生体内での近赤外光の拡散的な飛行経路を用いた画像再構成法である。拡散光トモグラフィの画像再構成では、解析的手法ではなく逐次近似画像再構成法が用いられるが、共役勾配法といった通常の逐次近似画像再構成法では、再構成画像内での空間分解能や雑音特性のばらつきが大きい不均一な画像が生成される問題がある。
【0042】
画質の不均一性の原因は、拡散光トモグラフィにおいては測定データに含まれる情報量が被測定部位の内部の位置によって大きく異なるためである。すなわち、時間分解計測法を用いた拡散光トモグラフィーでは、被計測部位表面の光入射端から入射された光子は被計測部位内で散乱を繰り返しながら飛行し、被計測部位表面の光検出端に到達して検出される。この入射から検出までの光子の飛行時間が短いほど、飛行距離が短くなり飛行経路も限られる。逆に、飛行時間が長いほど、飛行距離が長くなり飛行経路は限定されない。このため、測定データに含まれる情報量は、光子の飛行時間に応じて変化する。典型的には、光子の飛行時間が短い場合には、被計測部位表面に近い飛行経路の割合が多くなり、また、飛行時間が長い場合には、被計測部位表面から遠い(被計測部位の中央付近の)飛行経路の割合が多くなる。そのため、被計測部位の中央付近の情報量は表面付近と比べて少なくなってしまう。これにより、再構成画像の周辺部における空間分解能及び雑音が再構成画像の中央付近における空間分解能及び雑音と比べて大きくなるといった、再構成画像内での空間分解能及び雑音のばらつきが生じてしまう。
【0043】
本実施形態の生体計測装置10及び画像作成方法では、再構成画像の各画素毎に設定されるJ個の係数w
1〜w
Jを用いて、画像再構成のための逐次近似演算を行う。そして、本実施形態のように、これらの係数w
1〜w
Jを、N回の反復演算において収束速度が最も遅い部分領域に当該画素の収束速度を一致させるように設定することで、収束速度が均一化され、被計測部位内部の位置による空間分解能や雑音特性の差を抑制して、より均一に近い画像を作成することが可能となる。
【0044】
ここで、本実施形態に係る画像作成方法による上記効果を確認するために行われたシミュレーションの結果について説明する。
図3(a)及び
図3(b)は、このシミュレーションにおいて再構成の対象となる2種類の被測定部位を示す図であり、各図には、例えば腫瘍といった複数の光吸収体Dが示されている。なお、
図3(a)に示される3つの光吸収体Dの中心座標(x,y)は、それぞれ(21,20)、(64,106)、及び(75,51)である。また、
図3(b)に示される4つの光吸収体Dの中心座標(x,y)は、それぞれ(56,79)、(66,24)、(109,49)、及び(109,110)である。
【0045】
このシミュレーションでは、次のステップ(1)〜(3)を行った。
(1)各画素の収束速度を評価する為に、画像内において均等に配置されたスポットにおける画像再構成を行い、ステップサイズw
1〜w
Jを決定した。
(2)得られたステップサイズw
1〜w
Jを用いて画像の再構成を行い、再構成画像の全体で空間分解能が略均一となっていることを確認した。
(3)背景画像の再構成による領域間での雑音伝播を評価した。
【0046】
なお、上記ステップ(1)〜(3)に共通する条件は、次のとおりである。まず、被計測部位の内部における光子の飛行をシミュレーションする順問題解析(Forward problem)と、検出された光子ヒストグラムから画像を再構成する逆問題解析(Inverse problem)という2種類の解析における条件を、それぞれ
図4及び
図5に示す。
図4及び
図5に示されるように、順問題解析と逆問題解析との間でグリッドサイズや画像サイズが異なるのは、連続系を離散系に変換したことによる。光検出部において検出される光子は、必ず離散的なデータとして取得される。一方、数値シミュレーションの値は連続関数に近い形で計算される。したがって、本シミュレーションでは、ダウンサンプリングすることにより連続系を離散系に変換している。
【0047】
(1)ステップサイズw
1〜w
Jの決定
測定データに基づく132行132列の画素を含む画像を12行12列の部分領域に分割し、各部分領域の中央にホットスポットを配置した。本シミュレーションでは、
図6(a)〜
図6(d)に示される4つの画像を再構成することにより、各部分領域のCRCを求め、前述した方法によって全画素のステップサイズw
1〜w
Jを決定した。
【0048】
(2)画像の再構成
次に、ステップ(1)により決定されたステップサイズw
1〜w
Jを用い、式(14)に示された反復演算式を演算することにより、画像の再構成を行った。なお、このステップでは、各部分領域のCRCに差があると画像中にエッジとなって現れてしまうので、ステップサイズw
1〜w
Jを各画素値とする画像(ステップサイズ画像)を平均値フィルターを用いてぼかし、滑らかに変化するステップサイズ画像を得た。本シミュレーションでは、カーネルサイズ9×9の平均値フィルターを用いた。
【0049】
図7(a)は、
図3(a)に示された画像に対応する、本シミュレーションによる再構成後の画像である。
図7(b)は、
図3(a)に示された画像に対応する、ステップサイズw
1〜w
Jを用いない従来の方法による再構成後の画像である。
図8(a)〜
図8(c)は、
図9に示されるように光吸収体Dを通る3本のラインL1〜L3上の画素値の変化を示すグラフであって、グラフG11は本シミュレーションによる画素値の変化を示し、グラフG12は従来の方法による画素値の変化を示している。また、
図10(a)は、
図3(b)に示された画像に対応する、本シミュレーションによる再構成後の画像である。
図10(b)は、
図3(b)に示された画像に対応する、ステップサイズw
1〜w
Jを用いない従来の方法による再構成後の画像である。
図11(a)及び
図11(b)は、
図12に示されるように光吸収体Dを通る2本のラインL4及びL5上の画素値の変化を示すグラフであって、グラフG21は本シミュレーションによる画素値の変化を示し、グラフG22は従来の方法による画素値の変化を示している。
【0050】
図7(b)を参照すると、従来の再構成画像では、左上といった画像周辺部の光吸収体Dの画素値が比較的高くなっており、画像中央付近の光吸収体Dの画素値と大きく異なっていることがわかる。これに対し、ステップサイズw
1〜w
Jを用いた本実施形態による再構成画像では、
図7(a)に示されるように、各光吸収体Dの画素値が、画像の周辺部及び中央付近においてほぼ均一な値となっている。また、
図8(d)及び
図8(e)を参照すると、従来の再構成画像では、画像周辺部における画素値の変化が大きい。これに対し、
図8(a)〜
図8(c)に示されるように、本実施形態による再構成画像では画像周辺部における画素値の変化が小さくなっている。これは、本実施形態において画像中央付近ではステップサイズw
jが大きくなって反復演算における更新量が大きくなり、画像周辺部ではステップサイズw
jが小さくなって更新量が小さくなったことによる。以上の結果から、本実施形態の生体計測装置10及び画像作成方法によれば、収束速度が均一化されたことにより、被計測部位内部の位置による空間分解能の差を抑制して、より均一に近い画像を作成できることがわかる。
【0051】
次に、統計雑音を付加した場合のシミュレーション結果を示す。このシミュレーションでは、各検出光子ヒストグラムの最大値が一定値(例えば50)となるように光子ヒストグラムをフィッティングした後、この光子ヒストグラムにポアソン雑音を付加した。
図13(a)は、
図3(a)に示された画像に対応する、統計雑音を付加した場合の本実施形態による再構成後の画像である。
図13(b)は、
図3(a)に示された画像に対応する、統計雑音を付加した場合の従来の方法による再構成後の画像である。また、
図14(a)は、
図3(b)に示された画像に対応する、統計雑音を付加した場合の本実施形態による再構成後の画像である。
図14(b)は、
図3(b)に示された画像に対応する、統計雑音を付加した場合の従来の方法による再構成後の画像である。
【0052】
図13(b)及び
図14(b)を参照すると、統計雑音が存在する場合、ステップサイズw
1〜w
Jを用いない従来の方法では、画像周辺部の空間分解能が高くなって雑音の影響が大きく出ているが、画像中央付近では空間分解能が高くなく雑音の影響が小さいことがわかる。これに対し、
図13(a)及び
図14(a)を参照すると、ステップサイズw
1〜w
Jを用いた本実施形態による方法では、反復演算における画像周辺部の更新量が抑えられているので、雑音の影響が顕著に抑制され、左上に存在する光吸収体Dの形を明確に視認できる。一方、画像中央付近では、雑音の影響が従来方法と同程度に抑えられている。なお、画像中央付近の統計雑音が画像周辺部の統計雑音よりも大きいのは、統計雑音の有無によって分解能の向上速度に変化が生じるためであり、統計雑音がない場合を仮定して決定したステップサイズを用いたことに起因する現象である。
【0053】
このように、計測データに統計雑音が含まれる場合、本実施形態の生体測定方法では従来方法と比較して画素値に変化はあるものの、画像全体の統計雑音の形態的特徴に大きな変化がないことがわかる。すなわち、本実施形態の生体測定方法によれば、画像周辺部において選択的に、分解能の向上を遅くすることができていることがわかる。
【0054】
続いて、光吸収体Dを配置しない背景画像に関する雑音評価について説明する。ここでは、光吸収体Dが存在しない計測データにポアソン雑音を付加した。このときの再構成画像は、雑音によって歪んだ画像となる。この再構成画像を6行6列の36個の部分領域に分割し、左上から右下へ順に番号を付与した。その後、それぞれの部分領域を雑音指標(NSD)によって評価した。なお、NSDの計算式は次式(17)である。また、
図15は、部分領域毎のNSDを示すグラフであって、横軸は部分領域の番号を示し、縦軸はNSDの値を示している。なお、添字SDは標準偏差であることを示す。
【数17】
また、部分領域毎のNSDを母集団とする標準偏差を算出し、この標準偏差を部分領域間の雑音の不均一性を評価する値として用いる。
図16は、標準偏差の算出結果を示す図表である。
【0055】
図15を参照すると、従来方法では部分領域間のNSDのばらつきが大きい。これに対し、本実施形態の方法では、NSDのばらつきが全体的に抑えられていることがわかる。このことから、本実施形態の方法では、空間分解能を均一に近づけるために用いられるステップサイズw
jが、雑音伝播の不均一をも緩和していることがわかる。更に、
図16に示されるように、雑音の不均一性についても、本実施形態の方法では従来方法よりも小さくなる。
【0056】
本発明による生体計測装置および画像作成方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では被検者の被計測部位に光を照射し、被計測部位からの拡散光を検出し、該検出信号に基づいて被計測部位内における光吸収係数分布を演算し、被計測部位の内部に関する再構成画像を作成している。しかしながら、本発明は、光を用いた生体計測装置や画像作成方法に限らず、放射線や音波を用いた生体計測装置や画像作成方法にも適用可能である。すなわち、本発明に係る生体計測装置は、被検者の被計測部位に放射線若しくは音波を照射する照射部と、被計測部位からの拡散した放射線若しくは音波を検出する検出部と、検出部からの出力信号に基づいて、被計測部位内における放射線若しくは音波の吸収係数分布を演算し、被計測部位の内部に関する再構成画像を作成する演算部とを備えてもよい。この場合、演算部は、上述した実施形態と同様の手法により、再構成画像を作成するとよい。また、本発明に係る画像作成方法は、被検者の被計測部位に放射線若しくは音波を照射し、被計測部位からの拡散した放射線若しくは音波を検出し、該検出信号に基づいて被計測部位内における放射線若しくは音波の吸収係数分布を演算し、被計測部位の内部に関する再構成画像を上述した実施形態と同様の手法により作成する方法であってもよい。ここで、放射線とは例えばX線、γ線、若しくはマイクロ波といった短波長の電磁波をいい、音波とは例えば超音波のような波動をいう。