特許第5782394号(P5782394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5782394水性顔料分散液及びそれを用いたインクジェット用水性顔料インク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782394
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】水性顔料分散液及びそれを用いたインクジェット用水性顔料インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/326 20140101AFI20150907BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20150907BHJP
   C09B 67/08 20060101ALI20150907BHJP
   C09B 67/20 20060101ALI20150907BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20150907BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20150907BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   C09D11/326
   C09D17/00
   C09B67/08 C
   C09B67/20 L
   C09B67/20 F
   C09B67/46 B
   B41M5/00 E
   B41J2/01 501
【請求項の数】9
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-31222(P2012-31222)
(22)【出願日】2012年2月16日
(65)【公開番号】特開2013-166867(P2013-166867A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年3月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079614
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】青柳 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】狩野 克彦
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/013651(WO,A1)
【文献】 特開2008−231130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/326
B41J 2/01
B41M 5/00
C09B 67/08
C09B 67/20
C09B 67/46
C09D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料5〜35質量%、顔料分散剤0.5〜25質量%、水性有機溶剤5〜30質量%、及び水20〜80質量%を含有するインクジェット用の水性顔料分散液であって、
前記顔料分散剤が、ポリマー鎖Aがポリマー鎖Bにグラフトしたグラフトコポリマーであり、
前記ポリマー鎖Aが、第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位20〜60質量%、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位10〜35質量%、及びその他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位5〜70質量%を含むとともに、その数平均分子量が1,000〜10,000であり、
前記ポリマー鎖Bが、第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、芳香環を有するビニル系モノマー又は芳香環を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の少なくともいずれかを含み、
前記ポリマー鎖Aと前記ポリマー鎖Bの質量比が、A:B=30〜70:70〜30であり、
前記グラフトコポリマーの数平均分子量が2,000〜20,000である水性顔料分散液。
【請求項2】
前記ポリマー鎖Bが、芳香環を有するビニル系モノマーに由来する構成単位と、(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、からなり、
前記(メタ)アクリレートが、脂肪族アルキル(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、エーテル基又は鎖含有(メタ)アクリレート、及びアミノ基含有(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1に記載の水性顔料分散液。
【請求項3】
前記顔料が、カラーインデックスナンバー(C.I.)ピグメントブルー−15:3、15:4、C.I.ピグメントレッド−122、269、C.I.ピグメントバイオレット−19、C.I.ピグメントイエロ−74、155、180、C.I.ピグメントグリーン−36、58、C.I.ピグメントオレンジ−43、及びC.I.ピグメントブラック−7からなる群より選択される少なくとも一種であるとともに、その数平均一次粒子径が150nm未満である請求項1又は2に記載の水性顔料分散液。
【請求項4】
前記水性有機溶剤が、水に対する25℃における溶解度が20質量%以上の、ポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールモノアルキルエーテル、ポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールモノアリールエーテル、ポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールジアルキルエーテル、アルキレンジオール、アルキレンモノオールモノアルキルエーテル、アルキレンポリオール、及びアミド系溶剤からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性顔料分散液。
【請求項5】
前記顔料が、前記顔料分散剤で被覆処理されている請求項1〜いずれか一項に記載の水性顔料分散液。
【請求項6】
前記第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートが、シクロヘキシル(メタ)アクリレートと3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかである請求項1〜いずれか一項に記載の水性顔料分散液。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の水性顔料分散液を含有し、
前記顔料の含有割合が4〜10質量%であるインクジェット用水性顔料インク。
【請求項8】
顔料分散剤で被覆処理された分散剤被覆顔料の調製方法であって、
(i)顔料、顔料分散剤、水性有機溶剤、水、及びアルカリ剤を混合して得た顔料分散液に酸を添加して、前記顔料分散剤を析出させる工程、又は
(ii)前記顔料と前記顔料分散剤を混練して得た混練物を前記顔料分散剤の貧溶媒に添加して、前記顔料分散剤を析出させる工程を含み、
前記顔料分散剤が、ポリマー鎖Aがポリマー鎖Bにグラフトしたグラフトコポリマーであり、
前記ポリマー鎖Aが、第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位20〜60質量%、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位10〜35質量%、及びその他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位5〜70質量%を含むとともに、その数平均分子量が1,000〜10,000であり、
前記ポリマー鎖Bが、第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、芳香環を有するビニル系モノマー又は芳香環を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の少なくともいずれかを含み、
前記ポリマー鎖Aと前記ポリマー鎖Bの質量比が、A:B=30〜70:70〜30であり、
前記グラフトコポリマーの数平均分子量が2,000〜20,000である分散剤被覆顔料の調製方法。
【請求項9】
前記ポリマー鎖Bが、芳香環を有するビニル系モノマーに由来する構成単位と、(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、からなり、
前記(メタ)アクリレートが、脂肪族アルキル(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、エーテル基又は鎖含有(メタ)アクリレート、及びアミノ基含有(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である請求項8に記載の分散剤被覆顔料の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用水性顔料インクに用いられる着色剤として顔料を含む顔料分散液、及びこの顔料分散液を用いて得られるインクジェット用水性顔料インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、その高機能化により、個人用、事務用、業務用、記録用、カラー表示用、カラー写真用と用途が多岐にわたっている。また、高速化及び高画質化に対応するため、装置の改良によって吐出液滴(インク液滴)の微小化が進んでいる。吐出液滴を微小化するためには、インク中の顔料(粒子)を微細化するとともに、微細化した顔料を分散媒体中に微分散させることが必要である。
【0003】
微細化された顔料を含むインクを用いることで、印画物の鮮明性、色の冴え、色濃度などが向上しつつある。特に、微細化された顔料を含むインクを用いることで、色の冴えを示す指標となる色彩値である彩度が向上する。また、インクジェット用の加工紙(写真紙、ワイドフォーマット用紙など)に記録した場合には、グロス値が向上する。しかしながら、微細化した顔料を含むインクは紙に浸透しやすくなるので、色濃度である発色性が低下する傾向にある。
【0004】
そこで、近年、水性顔料インクの紙への浸透性を抑制し、紙表面に対するインクの濡れを抑えて紙表面の近くに微細化した顔料をとどめ、印字濃度を向上する検討がなされている。例えば、親水性の高い部位と疎水性の高い部位からなるグラフトポリマーやブロックポリマーを用いて顔料を被覆(カプセル化)する試みがなされている。疎水性の高い部位を顔料表面に吸着させて顔料を被覆しているので、インクの紙への浸透が抑制され、顔料が紙の表面に存在しやすくなる。また、親水性の高い部位は分散媒体に親和するので、グラフトポリマーやブロックポリマーは伸びた形態をとることになる。このため、静電及び立体障害斥力によりインクの保存性が向上するとされている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−231130号公報
【特許文献2】特開2009−149912号公報
【特許文献3】特開2004−51971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画像(印字物)の発色性を向上させるように顔料の粒子径を大きくしたり、顔料をカプセル化したりして、紙の表面に顔料をとどめるようにした場合は、印字物の彩度やグロスが低下してしまう場合がある。このため、高発色性と、高彩度及び高グロスとが両立した印字物を得ることが可能なインクを調製することは極めて困難であった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、高発色、高彩度、及び高グロスな印字物を記録可能であるとともに、保存性に優れたインクジェット用の水性顔料インクを調製することができる水性顔料分散液、この水性顔料分散液を用いて得られるインクジェット用水性顔料インク、並びに、この水性顔料分散液を得るのに好適な分散剤被覆顔料の調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定のモノマー成分を構成成分として用いて得られる所定の構造を有するグラフトコポリマーを顔料分散剤として用いることで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す水性顔料分散液が提供される。
[1]顔料5〜35質量%、顔料分散剤0.5〜25質量%、水性有機溶剤5〜30質量%、及び水20〜80質量%を含有するインクジェット用の水性顔料分散液であって、前記顔料分散剤が、ポリマー鎖Aがポリマー鎖Bにグラフトしたグラフトコポリマーであり、前記ポリマー鎖Aが、第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位20〜60質量%、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位10〜35質量%、及びその他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位5〜70質量%を含むとともに、その数平均分子量が1,000〜10,000であり、前記ポリマー鎖Bが、第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、芳香環を有するビニル系モノマー又は芳香環を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の少なくともいずれかを含み、前記ポリマー鎖Aと前記ポリマー鎖Bの質量比が、A:B=30〜70:70〜30であり、前記グラフトコポリマーの数平均分子量が2,000〜20,000である水性顔料分散液。
[2]前記ポリマー鎖Bが、芳香環を有するビニル系モノマーに由来する構成単位と、(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、からなり、前記(メタ)アクリレートが、脂肪族アルキル(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、エーテル基又は鎖含有(メタ)アクリレート、及びアミノ基含有(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]に記載の水性顔料分散液。
]前記顔料が、カラーインデックスナンバー(C.I.)ピグメントブルー−15:3、15:4、C.I.ピグメントレッド−122、269、C.I.ピグメントバイオレット−19、C.I.ピグメントイエロ−74、155、180、C.I.ピグメントグリーン−36、58、C.I.ピグメントオレンジ−43、及びC.I.ピグメントブラック−7からなる群より選択される少なくとも一種であるとともに、その数平均一次粒子径が150nm未満である前記[1]又は[2]に記載の水性顔料分散液。
]前記水性有機溶剤が、水に対する25℃における溶解度が20質量%以上の、ポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールモノアルキルエーテル、ポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールモノアリールエーテル、ポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールジアルキルエーテル、アルキレンジオール、アルキレンモノオールモノアルキルエーテル、アルキレンポリオール、及びアミド系溶剤からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の水性顔料分散液。
]前記顔料が、前記顔料分散剤で被覆処理されている前記[1]〜[]のいずれかに記載の水性顔料分散液。
]前記第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートが、シクロヘキシル(メタ)アクリレートと3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートの少なくともいずれかである前記[1]〜[]のいずれかに記載の水性顔料分散液。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示すインクジェット用水性顔料インクが提供される。
]前記[1]〜[]のいずれかに記載の水性顔料分散液を含有し、前記顔料の含有割合が4〜10質量%であるインクジェット用水性顔料インク。
【0011】
さらに、本発明によれば、以下に示す分散剤被覆顔料の調製方法が提供される。
]顔料分散剤で被覆処理された分散剤被覆顔料の調製方法であって、(i)顔料、顔料分散剤、水性有機溶剤、水、及びアルカリ剤を混合して得た顔料分散液に酸を添加して、前記顔料分散剤を析出させる工程、又は(ii)前記顔料と前記顔料分散剤を混練して得た混練物を前記顔料分散剤の貧溶媒に添加して、前記顔料分散剤を析出させる工程を含み、前記顔料分散剤が、ポリマー鎖Aがポリマー鎖Bにグラフトしたグラフトコポリマーであり、前記ポリマー鎖Aが、第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位20〜60質量%、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位10〜35質量%、及びその他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位5〜70質量%を含むとともに、その数平均分子量が1,000〜10,000であり、前記ポリマー鎖Bが、第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、芳香環を有するビニル系モノマー又は芳香環を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位の少なくともいずれかを含み、前記ポリマー鎖Aと前記ポリマー鎖Bの質量比が、A:B=30〜70:70〜30であり、前記グラフトコポリマーの数平均分子量が2,000〜20,000である分散剤被覆顔料の調製方法。
[9]前記ポリマー鎖Bが、芳香環を有するビニル系モノマーに由来する構成単位と、(メタ)アクリレートに由来する構成単位と、からなり、前記(メタ)アクリレートが、脂肪族アルキル(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、エーテル基又は鎖含有(メタ)アクリレート、及びアミノ基含有(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも一種である前記[8]に記載の分散剤被覆顔料の調製方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性顔料分散液は、シクロアルキル基を導入した水溶解性のポリマー鎖Aを有するグラフトコポリマーを顔料分散剤として含有する。このグラフトコポリマーは、疎水性のシクロアルキル基を有するので、ガラス転移点(Tg)が高く、高耐光性であるとともに高屈折率であるといった性質を有する。したがって、このグラフトコポリマーを顔料分散剤として用いた本発明の水性顔料分散液を用いれば、高発色、高彩度、及び高グロスな印字物を記録可能であるとともに、保存性に優れたインクジェット用の水性顔料インクを調製することができる。
【0013】
また、ポリマー鎖Bは、芳香環及び/又はシクロアルキル基を有するので、疎水性の顔料表面に吸着しやすいとともに、水に溶解したポリマー鎖Aと立体反発する。これにより、顔料の分散安定化に寄与する。水不溶性のポリマー鎖Bは、インク中で溶解せずに粒子を形成することで、インクが低粘度化されるとともに、インクの粘性もニュートニアン性を示ことになって吐出安定性も向上する。加えて、水溶解性のポリマー鎖Aがアルカリ中和されたカルボキシル基を有するので、例えば、インクヘッドにおいてインクが乾燥した場合であっても再溶解及び再分散が容易であるとともに、吐出性も良好である。以上より、本発明の水性顔料分散液を用いたインクジェット用水性顔料インクは、インクジェット印刷における、印字の高速化及び印字物の高画質化に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の水性顔料分散液は、顔料、顔料分散剤、水性有機溶剤、及び水を含有するインクジェット用の水性顔料分散液である。以下、その詳細について説明する。
【0015】
(顔料分散剤)
顔料分散剤は、ポリマー鎖Aがポリマー鎖Bにグラフトしたグラフトコポリマーと、ポリマー鎖Aの片末端とポリマー鎖Bの片末端が結合したブロックコポリマーの少なくともいずれかである。グラフトコポリマーは、主鎖であるポリマー鎖Bに対して、1本以上のポリマー鎖Aが結合(分岐)している。なお、一のポリマー鎖Bに対するポリマー鎖Aの結合本数は限定されない。ポリマー鎖Aは、第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位20〜60質量%、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位10〜35質量%、及びその他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位5〜70質量%を含む。(メタ)アクリル酸に由来する構成単位に含まれるカルボキシル基は、アルカリで中和されることによってイオン化する。このため、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位を含むポリマー鎖Aは、水に溶解する性質を有するポリマー鎖である。
【0016】
ポリマー鎖Bは、第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートに由来する構成単位、及び芳香環を有するビニル系モノマーに由来する構成単位の少なくともいずれかと、必要に応じて用いられるその他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位とを含む。このポリマー鎖Bは、水に不溶なポリマー鎖であり、疎水性相互作用で顔料に吸着し、堆積して顔料を被覆(カプセル化)する。このような異なる性質を有するポリマー鎖Aとポリマー鎖Bを有する顔料分散剤を用いることによって、良好な状態で顔料を分散させることができる。なお、ポリマー鎖Aを構成する第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートと、ポリマー鎖Bを構成する第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートは、同一であっても異なっていてもよい。以下、単に「シクロアルキル基含有(メタ)アクリレート」というときは、「第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレート」と「第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレート」のいずれをも意味する。
【0017】
ポリマー鎖Bが粒子を形成するとともに、ポリマー鎖Aでインク中の水性媒体に溶解して安定化する。このため、この顔料分散剤は高い安定性を有する粒子を形成して低粘度化するので、顔料の分散安定性やインクの吐出性を阻害しない。さらに、ポリマー鎖A中のカルボキシル基の量が適切に制御されているので、この顔料分散剤は水への溶解性が高い。このため、インクヘッドで乾燥した場合であっても、例えばクリーニング液等の他の水性媒体で容易に再溶解及び再分散しうる。
【0018】
(ポリマー鎖A)
ポリマー鎖Aにはシクロアルキル基が含まれる。シクロアルキル基を有するポリマー鎖Aを含む顔料分散剤を用いることにより、高発色、高彩度、及び高グロスな印字物を記録可能な水性顔料インクを調製可能となる。第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシロキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。なかでも、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。また、シクロアルキル基の炭素数は6〜9個であることが好ましい。炭素数6〜9個のシクロアルキル基であれば、多く導入した場合であっても水溶解性があまり阻害されないとともに、入手も容易だからである。
【0019】
ポリマー鎖Aに含まれる第一のシクロアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合が20質量%未満であると、効果が発揮しない。一方、60質量%超であると、水溶解性が顕著に低下してしまう場合がある。なお、ポリマー鎖Aに含まれる第一のシクロアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合は、30〜50質量%であることが好ましい。
【0020】
ポリマー鎖Aには、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位が含まれる。この構成単位中のカルボキシル基が中和されてイオン化し、ポリマー鎖Aが水に溶解されることになる。ポリマー鎖Aに含まれる(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の割合が10質量%未満であると、ポリマー鎖Aが水に溶解しなくなる場合がある。一方、35質量%超であると、ポリマー鎖Aの親水性が高くなりすぎてしまい、得られる印字物の耐水性が顕著に低下する場合がある。ポリマー鎖Aに含まれる(メタ)アクリル酸に由来する構成単位の割合は、15〜25質量%であることが好ましい。
【0021】
ポリマー鎖Aには、「その他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位」が含まれる。その他の(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレートなどの脂肪族アルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香族(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有(メタ)アクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレートなどのエーテル基又は鎖含有(メタ)アクリレート;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。なお、その他の(メタ)アクリレート一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
ポリマー鎖Aの数平均分子量は1,000〜10,000であり、好ましくは2,000〜7,000である。ポリマー鎖Aの数平均分子量が1,000未満であると、ポリマーとしての性能が発揮されない。一方、ポリマー鎖Aの数平均分子量が10,000超であると、顔料分散剤に占める親水性鎖の割合が大きすぎてしまい、顔料からのポリマー鎖Bの脱着を促され、顔料の分散安定性が低下する場合がある。なお、本明細書におけるポリマー鎖やポリマーの数平均分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」とも記す)によるポリスチレン換算の分子量である。
【0023】
(ポリマー鎖B)
ポリマー鎖Bは水に不溶のポリマー鎖であり、顔料に対する吸着性を有する。このため、ポリマー鎖Bは顔料に吸着し、表面上に堆積して顔料を被覆(カプセル化)する。第二のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、前述の第一のシクロアルキル基含有(メタ)アクリレートの具体例として列挙したものと同様のものを挙げることができる。ポリマー鎖Bに含まれる第二のシクロアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合は、30〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
芳香環を有するビニル系モノマーの具体例としては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレンなどを挙げることができる。また、芳香環を有する(メタ)アクリレートの具体例としては、フェニル(メタ)アクリレート、ナフトキシ(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。ポリマー鎖Bに含まれる、芳香環を有するビニル系モノマー又は(メタ)アクリレートに由来する構成単位の割合は、30〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
なお、ポリマー鎖Bには、ポリマー鎖Bを軟質化させたり、水酸基などの官能基を導入したりするため、前述の「その他の(メタ)アクリレートに由来する構成単位」が含まれていることが好ましい。
【0026】
顔料分散剤として用いられるグラフトコポリマー及びブロックコポリマーの数平均分子量は、いずれも2,000〜20,000であり、5,000〜15,000であることが好ましく、7,000〜12,000であることがさらに好ましい。数平均分子量が2,000未満であると、顔料分散剤として機能が低下して分散安定性が保持されない。一方、数平均分子量が20,000超であると、水性顔料分散液の粘度が高くなったり、一分子鎖が複数の顔料粒子に吸着して分散が進まなかったりする場合がある。
【0027】
グラフトコポリマーやブロックコポリマーに含まれる親水性鎖であるポリマー鎖Aの割合が少なすぎると、顔料分散剤が水に不溶となったり、析出したりする。一方、ポリマー鎖Aの割合が多すぎると、記録される印字物の耐水性が低下したり、顔料に対する吸着性が低下したりする。また、グラフトコポリマーやブロックコポリマーに含まれる疎水性鎖であるポリマー鎖Bの割合が少なすぎると、顔料分散剤が安定して顔料に吸着しない。一方、ポリマー鎖Bの割合が多すぎると、顔料分散剤が水に不溶となったり、分離したりする。したがって、ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bの質量比は、A:B=30〜70:70〜30であり、好ましくは40〜60:60〜40、さらに好ましくは40〜50:50〜40である。
【0028】
(グラフトコポリマーの合成方法)
グラフトコポリマーは、従来公知の方法に準じて合成することができる。合成方法の具体例としては、(i)その片末端にラジカル重合する不飽和結合が導入されたマクロモノマー(ポリマー鎖A)と、ポリマー鎖Bの構成成分であるモノマーとを重合する方法(マクロモノマー法);(ii)重合開始基を結合させたポリマー鎖Bの存在下、ポリマー鎖Aの構成成分であるモノマーを重合する方法(側鎖重合法);(iii)その片末端に反応性基「X」が導入されたポリマー鎖Aと、反応性基「X」と反応しうる官能基「Y」を有するモノマーを重合して得られる、その側鎖に官能基「Y」を有するポリマー鎖Bとを調製し、これらポリマー鎖Aとポリマー鎖Bとを反応させる方法(高分子反応法)などがある。いずれの合成方法であってもグラフトコポリマーを合成することができるが、なかでもマクロモノマー法が好ましい。
【0029】
側鎖重合法は、ラジカル重合の副反応であるカップリング反応が起こった場合にゲル化などが生ずる可能性がある。また、高分子反応法は、高分子同士の反応であり、反応基の濃度が低いので反応率が低く、ポリマー鎖Aやポリマー鎖Bがそれぞれ単独で残ってしまう場合がある。ただし、高分子反応方法は、後述するリビングラジカル重合法により分子量を揃えることで末端反応性が均一となり、グラフトコポリマーを得やすくなるので好ましい場合もある。
【0030】
マクロモノマーは、従来公知の方法に準じて合成することができる。具体的には、(i)(メタ)アクリレートなどを高温高圧にて解重合を伴って重合することで、末端に不飽和結合を導入する方法;(ii)チオール基及び水酸基などの官能基を有する連鎖移動剤を用いて末端に水酸基を導入し、導入した水酸基と反応しうる官能基を有するモノマーを反応させる方法;(iii)α位にラジカルとして脱離しやすい基を有するビニル系モノマー(例:α−ブロモメチルアクリレート系化合物、α−メチルスチレン2量体、メタクリル酸メチル2量体)を連鎖移動剤として使用し、不可逆的付加解裂連鎖移動重合する方法;(iv)後述するリビングラジカル重合法において、水酸基やハロゲンなどの官能基を有する重合開始化合物を用いてポリマーを得、その官能基と反応しうる不飽和結合を有する化合物を添加し、末端に不飽和結合を導入してマクロモノマーを得る方法などがある。
【0031】
以上のようにして得られるマクロモノマーと、ポリマー鎖Bの構成成分であるモノマーとを、通常のラジカル重合法や、後述するリビングラジカル重合法などの従来公知の方法に準じて重合すれば、目的とするグラフトコポリマーを得ることができる。
【0032】
(ブロックコポリマーの合成方法)
ブロックコポリマーは、従来公知のラジカル重合法では得ることが困難である。その片末端に官能基「X」を導入したポリマー鎖Aと、その片末端に官能基「X」と反応しうる官能基「Y」を導入したポリマー鎖Bとを用意し、これらのポリマー鎖の官能基「X」と「Y」とを反応させることでブロックコポリマーを得ることができる。しかしながら、反応率が低く、ポリマー鎖Aやポリマー鎖Bが多く残存してしまう場合がある。ブロックコポリマーの好ましい合成方法としては、リビングカチオン重合法、リビングアニオン重合法、リビングラジカル重合法などがある。ただし、リビングカチオン重合法やリビングアニオン重合法では、(メタ)アクリレートが重合しないなどの不都合が生ずる場合がある。このため、ブロックコポリマーの合成方法としてはリビングラジカル重合法が特に好ましい。
【0033】
リビングラジカル重合法の具体例としては、(i)ニトロキサイドラジカルを生じうる化合物を使用する方法(NMP法);(ii)銅やルテニウムなどの金属錯体を使用して、ハロゲン化化合物を重合開始化合物として、その重合開始化合物からリビング的に重合させる方法(ATRP法);(iii)ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物を使用する方法(RAFT法);(iv)有機テルル化合物を重合開始化合物とする方法(TERP法);(v)ヨウ素化合物を重合開始化合物とし、リン化合物、窒素化合物、炭素化合物、又は酸素化合物などを触媒として用いて得る方法(RTCP法)などがある。
【0034】
これらのリビングラジカル重合法は、従来公知の重合条件で実施することができる。例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合などの条件でリビングラジカル重合を実施すればよい。なお、溶液重合の場合は、重合後の反応液を顔料分散剤の溶液としてそのまま使用してもよいし、重合に用いた溶剤を他の溶剤で置換してもよいし、いったん貧溶媒中に析出させてブロックコポリマーだけを取り出してもよい。なかでも、インクジェットインクに含まれる有機溶剤を重合用の溶剤として用いて溶液重合することが好ましい。これにより、重合後の反応液にアルカリを添加してブロックコポリマーを中和するだけで、容易に顔料分散剤として用いることができる。
【0035】
上述のようにして得られるグラフトコポリマーやブロックコポリマーをアルカリによって中和(水溶液化)すれば、顔料分散剤とすることができる。アルカリの具体例としては、アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミン;ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのグリコール系アミン;モルホリン、ピリジンなどの環状アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物などを挙げることができる。アルカリの使用量は、グラフトコポリマー又はブロックコポリマーに含まれるカルボキシル基の当モル以上であることが好ましい。
【0036】
(顔料)
顔料としては、有機顔料や無機顔料などを一種又は二種以上用いることができる。顔料の具体例としては、カーボンブラック、キナクリドン系顔料、フタロシアニン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾ系顔料などを挙げることができる。より具体的には、発色性、分散性、及び耐候性などの観点から、カラーインデックスナンバー(C.I.)で示すと、C.I.ピグメントブルー−15:3、15:4、C.I.ピグメントレッド−122、269、C.I.ピグメントバイオレット−19、C.I.ピグメントイエロ−74、155、180、C.I.ピグメントグリーン−36、58、C.I.ピグメントオレンジ−43、及びC.I.ピグメントブラック−7からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0037】
また、顔料の数平均一次粒子径は150nm未満であることが好ましい。その数平均一次粒子径が150nm未満の顔料を用いることで、記録される印字物の光学濃度、彩度、発色性、及び印字品質を向上させることができるとともに、インク中における顔料の沈降を適度に抑制することができる。
【0038】
(水性有機溶剤)
水性有機溶剤は、水に対する混和性を有する有機溶剤である。水性有機溶剤としては、水に対する溶解度が25℃において20質量%以上の、ポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールモノアルキルエーテル、ポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールモノアリールエーテル、ポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールジアルキルエーテル、アルキレンジオール、アルキレンモノオールモノアルキルエーテル、アルキレンポリオール、及びアミド系溶剤からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0039】
より具体的な水性有機溶剤の例としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールモノアルキルエーテル;フェノキシトリエチレングリコールやスチレン化フェニルポリエチレングリコールなどのポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールモノアリールエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのポリ(n=1以上)アルキレン(C2〜3)グリコールジアルキルエーテル;1,2−プロピレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクチレングリコール、イソプレングリコールなどのアルキレンジオール;3−メトキシ−3−メチルブタノールなどのアルキレンモノオールモノアルキルエーテル;グリセリンなどのアルキレンポリオール;2−ピロリドンやN−メチルピロリドンなどのアミド系溶剤などを挙げることができる。
【0040】
水性有機溶剤は必須の成分であり、水性有機溶剤を含有させることで、ヘッドの乾燥や印字した紙のカールを防止することができる。なお、水に溶解する溶剤であればその他の有機溶媒も必要に応じて使用することができる。その他の有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。
【0041】
(各成分の配合割合)
本発明の水性顔料分散液に含有される顔料の割合は5〜35質量%であり、5〜30質量%であることが好ましく、7〜20質量%であることがさらに好ましい。また、顔料分散剤の含有割合は0.5〜25質量%である。さらに、水性有機溶剤の含有割合は5〜30質量%であり、5〜20質量%であることが好ましい。また、水の含有割合は20〜80質量%である。各成分の配合割合は、要求される品質やコストなどを考慮して適宜調整される。例えば、顔料の含有割合が7〜20質量%であると、彩度、発色性、安定性が顕著に向上するために好ましい。なお、顔料の含有割合が少なすぎると、印字濃度が確保できなくなる。一方、顔料の含有割合が多すぎるとインクが増粘してしまい、インクジェットヘッドからのインクの吐出安定性が低下する傾向にある。また、顔料の含有割合が5〜30質量%である場合には、顔料分散剤の含有割合が0.5〜20質量%、水性有機溶剤の含有割合が10〜30質量%、及び水の含有割合が50〜70質量%であることが好ましい。
【0042】
また、顔料100質量部に対する顔料分散剤の含有量は、10〜200質量部であることが好ましく、15〜60質量部であることがさらに好ましい。顔料100質量部に対する顔料分散剤の含有量が10質量部未満であると、分散安定性が低下する傾向にある。一方、顔料100質量部に対する顔料分散剤の含有量が200質量部超であると、水性顔料分散液の粘度が過度に上昇してしまう場合がある。
【0043】
(水性顔料分散液の調製方法)
本発明の水性顔料分散液は、例えば、顔料、顔料分散剤、水性有機溶剤、及び水を従来公知の方法で混合して分散させることで調製することができる。各成分の混合及び分散に際しては、分散機を用いればよい。分散機の具体例としては、ニーダー、二本ロール、三本ロール、商品名「ミラクルKCK」(浅田鉄鋼社製)などの混練機;超音波分散機;高圧ホモジナイザー(商品名「マイクロフルイダイザー」(みずほ工業社製)、商品名「ナノマイザー」(吉田機械興業社製)、商品名「スターバースト」(スギノマシン社製)、商品名「G−スマッシャー」(リックス社))などを挙げることができる。また、ガラスやジルコンなどのビーズメディアを用いるボールミル、サンドミル、横型メディアミル分散機、コロイドミルなどを使用することもできる。具体的な分散方法は特に限定されない。
【0044】
顔料の数平均粒子径(粒度分布)を所望の数値範囲とするためには、例えば、分散機の粉砕メディアのサイズを小さくする、粉砕メディアの充填率を大きくする、処理時間を長くする、吐出速度を遅くする、粉砕後フィルターや遠心分離機などで分級するなどの手法が用いられる。さらには、例えばソルトミリング法などの従来公知の方法によって事前に細かくした顔料を使用することも好ましい。
【0045】
(分散剤被覆顔料の調製方法)
本発明においては、顔料分散剤で被覆処理された分散剤被覆顔料、すなわち、その表面に顔料分散剤を堆積させて顔料を被覆(カプセル化)した分散剤被覆顔料を用いることが好ましい。このような分散剤被覆顔料を用いることで、顔料の分散安定性をより高めることができる。すなわち、顔料分散剤によって顔料を被覆することで、有機溶剤が大量に混入しても顔料分散剤が顔料の表面上から脱離しにくくなり、さらには、ポリマー鎖Aが水に溶解しているので顔料の分散安定性をより高めることができる。
【0046】
分散剤被覆顔料は、例えば、(i)顔料、顔料分散剤、水性有機溶剤、水、及びアルカリ剤を混合して得た顔料分散液に酸を添加して、顔料分散剤を析出させる工程、又は(ii)顔料と顔料分散剤を混練して得た混練物を顔料分散剤の貧溶媒に添加して、顔料分散剤を析出させる工程を含む調製方法によって調製することができる。
【0047】
上記(i)の工程では、従来公知の方法で各成分を混合し、顔料が分散された顔料分散液を得る。アルカリ剤としては、アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミン;ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのグリコール系アミン;モルホリン、ピリジンなどの環状アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化物を用いることができる。次いで、得られた顔料分散液を例えばディゾルバーなどの高速で撹拌することが可能な撹拌機を使用して撹拌し、徐々に酸を添加する。酸を添加することで、顔料の表面に顔料分散剤を析出させ、疎水性鎖であるポリマー鎖Bで顔料を被覆(カプセル化)することができる。
【0048】
酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸;酢酸、プロピオン酸、トルエンスルホン酸などの有機酸を用いることができる。酸はそのまま添加してもよいが、10質量%以下の水溶液にして添加することが好ましい。また、酸の添加量は、顔料分散剤のポリマー鎖Aのカルボキシル基を中和しているアルカリと等モル以上とすることが好ましく、1.1倍モル以上とすることがさらに好ましい。
【0049】
上記(ii)の工程では、顔料と顔料分散剤を混練して得た混練物を顔料分散剤の貧溶媒に添加する。顔料分散剤の貧溶媒に添加することで、顔料の表面に顔料分散剤を析出させ、疎水性鎖であるポリマー鎖Bで顔料を被覆(カプセル化)することができる。貧溶媒としては、顔料分散剤の組成に由来する性質にもよるが、ポリマーを溶解しない溶媒が用いられる。そのような貧溶媒の具体例としては、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒、エチレングリコールなどの多価アルコール類、メタノールなどを挙げることができる。
【0050】
顔料分散剤を析出させた後は、形成された分散剤被覆顔料(析出物)をろ過する。ろ過することで、分散剤被覆顔料(析出物)を水ペーストの状態で得ることができる。この水ペーストは、乾燥及び粉砕してもよいが、水ペーストのまま使用することも好ましい。水ペーストのまま使用することで、乾燥による顔料分散剤の融着がなくなるとともに、粉砕の必要がなくなるので、顔料の数平均粒子径も分散時のままに維持することができる。なお、顔料分散剤の析出後、必要に応じて加温し、分散剤被覆顔料を凝集させてろ過しやすくしてもよい。また、ろ過することで、析出物である分散剤被覆顔料に付着しているイオン性物質や有機溶剤を十分に除去することが好ましい。
【0051】
(インクジェット用水性顔料インク)
本発明のインクジェット用水性顔料インクは、前述の水性顔料分散液を含有するものであり、顔料の含有割合が4〜10質量%である。本発明のインクジェット用水性顔料インクには、水性顔料分散液以外の成分として、例えばビヒクル成分が含有される。ビヒクル成分の具体例としては、界面活性剤、有機溶剤、及び保湿剤などを挙げることができる。なお、インクジェットで印字するドット径を最適な幅に広げるという観点から、インクジェット用水性顔料インクの表面張力は20〜40mN/mであることが好ましい。インクジェット用水性顔料インクの表面張力は、界面活性剤を添加することで調製することができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤を用いることができる。
【0052】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリール硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールリン酸エステル塩などを挙げることができる。非イオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、脂肪酸ジエタノールジアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコール類、アセチレングリコール類などを挙げることができる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩などを挙げることができる。両性界面活性剤の具体例としては、アルキルベタイン、アミンオキサイドなどを挙げることができる。インクジェット用水性顔料インク中の界面活性剤の含有割合は、0.01〜5質量%であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有割合が多すぎると、顔料の分散安定性が損なわれる場合がある。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0054】
[マクロモノマーの合成]
(合成例1)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、ブチルトリグリコール(以下、「BTG」と記す)500部、メチルメタクリレート(以下、「MMA」と記す)72部、シクロヘキシルメタクリレート(以下、「CHMA」と記す)80部、メタクリル酸(以下、「MAA」と記す)48部、エチル−2−(α−ブロモメチル)アクリレート(以下、「EBMA」と記す)5部、及び2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(以下、「V−601」と記す)2部を仕込んだ。窒素バブリングしながら75℃で3時間重合後、V−601を1部添加した。さらに4.5時間重合させて、ポリマー(マクロモノマーMM−1)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、GPCの示差屈折計(以下、「RI」と記す)を用いて測定したマクロモノマーMM−1の数平均分子量(以下、「Mn」と記す)は6,800であり、重量平均分子量(以下、「Mw」と記す)は10,900であり、分散度(Mw/Mn)(以下、「PDI」と記す)は1.60であった。また、紫外線吸収検出器(波長254nm)(以下、「UV検出器」と記す)では、ピークがほとんど観測されなかった。
【0055】
得られたポリマー溶液を大量の水に投入してポリマーを析出させた後、ろ過及び洗浄した。THFに溶解させた後に再度大量の水に投入してポリマーを析出させた後、ろ過及び洗浄した。50℃の乾燥機で24時間乾燥してポリマーを得た。核磁気共鳴装置を使用して得られたポリマーの1H−NMRを測定したところ、モノマーのピークと、EBMA由来の不飽和結合のプロトンのピークが、6ppm及び6.4ppmにそれぞれ観測された。このため、得られたポリマーは、末端に不飽和結合を有するマクロモノマーであると考えられる。以下の合成例においても、同様の測定を行って得られたポリマーがマクロモノマーとなっていることを確認した。
【0056】
(合成例2)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、「MFTG」と記す)250部、MMA30部、CHMA40部、MAA30部、EBMA2.5部、及びV−601を1部仕込んだ。窒素バブリングしながら75℃で3時間重合後、V−601を0.5部添加した。さらに4.5時間重合させて、ポリマー(マクロモノマーMM−2)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、マクロモノマーMM−2のMnは6,400であり、Mwは10,200であり、PDIは1.59であった。
【0057】
(合成例3)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(以下、「TEDM」と記す)250部、MMA36部、3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート(以下、「TMCHMA」と記す)40部、MAA24部、EBMA2.5部、及びV−601を1部仕込んだ。窒素バブリングしながら75℃で3時間重合後、V−601を0.5部添加した。さらに4.5時間重合させて、ポリマー(マクロモノマーMM−3)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、マクロモノマーMM−3のMnは6,500であり、Mwは10,400であり、PDIは1.60であった。
【0058】
(合成例4)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、MFTG250部、MMA36部、CHMA40部、MAA24部、EBMA3.5部、及びV−601を1部仕込んだ。窒素バブリングしながら75℃で3時間重合後、V−601を0.5部添加した。さらに4.5時間重合させて、ポリマー(マクロモノマーMM−4)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、マクロモノマーMM−4のMnは5,400であり、Mwは8,500であり、PDIは1.57であった。
【0059】
(合成例5)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、MFTG250部、MMA20部、エチルメタクリレート(以下、「EMA」と記す)15部、ヒドロキシエチルメタクリレート(以下HEMA)5部、CHMA40部、MAA20部、EBMA3.5部、及びV−601を1部仕込んだ。窒素バブリングしながら75℃で3時間重合後、V−601を0.5部添加した。さらに4.5時間重合させて、ポリマー(マクロモノマーMM−5)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、マクロモノマーMM−5のMnは5,700であり、Mwは9,700であり、PDIは1.70であった。
【0060】
(比較合成例1)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、MFTG250部、MMA36部、ブチルメタクリレート(以下、「BMA」と記す)40部、MAA24部、EBMA2.5部、及びV−601を1部仕込んだ。窒素バブリングしながら75℃で3時間重合後、V−601を0.5部添加した。さらに4.5時間重合させて、ポリマー(マクロモノマーMM−R1)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、マクロモノマーMM−R1のMnは6,300であり、Mwは10,000であり、PDIは1.59であった。なお、このマクロモノマーMM−R1は、シクロアルキル基を有しないマクロモノマーである。
【0061】
(比較合成例2)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、MFTG250部、MMA36部、エチルメタクリレート(以下、「EMA」と記す)10部、2−エチルヘキシルメタクリレート(以下、「2EHMA」と記す)30部、MAA24部、EBMA2.5部、及びV−601を1部仕込んだ。窒素バブリングしながら75℃で3時間重合後、V−601を0.5部添加した。さらに4.5時間重合させて、ポリマー(マクロモノマーMM−R2)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、このマクロモノマーMM−R2のMnは7,400であり、Mwは11,000であり、PDIは1.49であった。このマクロモノマーMM−R2は、シクロアルキル基を有しないマクロモノマーである。
【0062】
合成例1〜5、比較合成例1及び2で得たマクロモノマーの詳細を表1に示す。
【0063】
【0064】
[グラフトコポリマーの合成]
(合成例6)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、BTG100部、及びマクロモノマーMM−1の溶液600部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にスチレン(以下、「St」と記す)200部、ブチルアクリレート(以下、「BA」と記す)100部、及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノアート(以下、「PBO」と記す)5部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを2.5部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。水酸化カリウム(KOH)32.3部、及び水467.7部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−1)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、コポリマーCP−1のMnは15,900であり、Mwは38,500であり、PDIは2.42であった。なお、マクロモノマー由来の分子量のピークは見られなかった。また、UV検出器を使用して分子量を測定したところ、Mnは15,600、Mw39,100、PDIは2.51であった。これは、ポリマー鎖Bを構成するモノマー成分が芳香環を有するものであり、大きな吸収が観測されたためであると考えられる。なお、マクロモノマーMM−1がポリマー鎖Bを構成するモノマー成分と重合して分子量が増大し、グラフトコポリマーが得られたと考えられる。以下の合成例においても、同様の測定を行って得られたコポリマーCP−1がグラフトコポリマーとなっていることを確認した。また、固形分濃度を測定した結果に基づき、得られたポリマー溶液にイオン交換水を加え、固形分濃度を30%に調整した。以下の合成例においても、同様にして固形分濃度を30%に調整した。
【0065】
(合成例7)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、MFTG50部、及びマクロモノマーMM−2の溶液300部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にSt100部、BA50部、及びPBO2.5部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを1.25部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH16.2部、及び水233.8部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−2)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を算出したところ100%であった。また、コポリマーCP−のMnは14,800であり、Mwは34,200であり、PDIは2.31であった。
【0066】
(合成例8)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、マクロモノマーMM−2の溶液300部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にSt67部、BA33部、及びPBO2部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを1部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH16.1部、及び水183.9部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−3)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、コポリマーCP−3のMnは11,400であり、Mwは27,500であり、PDIは2.41であった。
【0067】
(合成例9)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、マクロモノマーMM−2の溶液300部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にSt67部、HEMA33部、及びPBO2部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを1部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH16.1部、及び水183.9部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−4)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、コポリマーCP−4のMnは10,600であり、Mwは22,800であり、PDIは2.15であった。
【0068】
(合成例10)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、TEDM50部、及びマクロモノマーMM−3の溶液300部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にSt100部、BA50部、及びPBO2.5部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを1.25部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH16.2部、及び水233.8部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−5)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、コポリマーCP−5のMnは14,700であり、Mwは28,000であり、PDIは1.90であった。
【0069】
(合成例11)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、MFTG50部、マクロモノマーMM−4の溶液300部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にSt100部、BA50部、及びPBO2.5部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを1.25部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH16.2部、及び水233.8部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−6)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、コポリマーCP−6のMnは13,100であり、Mwは29,000であり、PDIは2.21であった。
【0070】
(合成例12)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、MFTG50部、マクロモノマーMM−5の溶液300部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にSt67部、HEMA33部、及びPBO2部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを1部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH16.1部、及び水183.9部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−7)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、コポリマーCP−7のMnは9,800であり、Mwは22,200であり、PDIは2.27であった。
【0071】
(比較合成例3)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、MFTG50部、マクロモノマーMM−R1の溶液300部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にSt100部、BA50部、及びPBO2.5部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを1.25部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH16.2部、及び水233.8部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−R1)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、コポリマーCP−R1のMnは14,000であり、Mwは31,700であり、PDIは2.26であった。このコポリマーCP−R1は、グラフトしているポリマーにシクロアルキル基を有しないグラフトコポリマーである。
【0072】
(比較合成例4)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、MFTG50部、マクロモノマーMM−R2の溶液300部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にSt100部、HEMA50部、及びPBO2.5部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを1.25部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH16.2部、及び水233.8部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−R2)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、コポリマーCP−R2のMnは15,600であり、Mwは37,000であり、PDIは2.37であった。このコポリマーCP−R2は、グラフトしているポリマー(ポリマー鎖A)にシクロアルキル基を有しないグラフトコポリマーである。
【0073】
(比較合成例5)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、MFTG50部、マクロモノマーMM−2の溶液300部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にMMA100部、BA50部、及びPBO2.5部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。PBOを1.25部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH16.2部、及び水233.8部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−R3)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ85%であった。また、コポリマーCP−R3のMnは10,200、Mwは23,000であり、PDIは2.25であった。このコポリマーCP−R3は、主鎖(ポリマー鎖B)に芳香環やシクロアルキル基を有しないグラフトコポリマーである。
【0074】
(比較合成例6)
合成例1で用いたものと同様の反応容器Aに、MFTG250部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の反応容器にMMA36部、CHMA40部、MAA24部、St100部、BA50部、及びアゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」と記す)7.5部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。AIBNを1.25部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH16.2部、及び水233.8部を添加して中和し、ポリマー(コポリマーCP−R4)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、コポリマーCP−R4のMnは14,700であり、Mwは30,600であり、PDIは2.08であった。このコポリマーCP−R4はランダムコポリマーである。
【0075】
合成例6〜12、比較合成例3〜6で得たコポリマーの詳細を表2に示す。
【0076】
【0077】
[ブロックコポリマーの合成]
(合成例13)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、MFTG173部、ヨウ素1.0部、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下、「V−70」と記す)3.7部、CHMA42部、ベンジルメタクリレート(以下、「BzMA」と記す)17.6部、及びジフェニルメタン(以下、「DPM」と記す)0.17部を仕込んだ。窒素バブリングしながら45℃で5.5時間重合させてポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ86%であった。このポリマー溶液に含有されるポリマーのMnは5,000であり、PDIは1.19であった。次に、ポリマー溶液を40℃に冷却し、CHMA16.8部、MMA20部、MAA12.9部、及びV−70を1.5部加えて3.5時間重合させた。KOH8.4部、及び水49.2部を添加して中和し、ポリマー(ブロックコポリマーBP−1)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、ブロックポリマーBP−1のMnは10,300であり、PDIは1.30であった。なお、固形分濃度を測定した結果に基づき、得られたポリマー溶液にイオン交換水を加え、固形分濃度を30%に調整した。以下の合成例においても、同様にして固形分濃度を30%に調整した。
【0078】
(合成例14)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、MFTG174部、ヨウ素1.0部、V−70を3.7部、CHMA29.4部、BzMA30.8部、及びDPM0.17部を仕込んだ。窒素バブリングしながら45℃で5.5時間重合させてポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ82%であった。また、このポリマー溶液に含有されるポリマーのMnは5,700であり、PDIは1.20であった。次に、ポリマー溶液を40℃に冷却し、TMCHMA16.8部、MMA20部、MAA12.9部、及びV−70を1.5部加えて3.5時間重合させた。KOH8.4部、及び水49.2部を添加して中和し、ポリマー(ブロックコポリマーBP−2)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、ブロックコポリマーBP−2のMnは10,300であり、PDIは1.31であった。
【0079】
(合成例15)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、MFTG168部、ヨウ素1.0部、V−70を3.7部、CHMA42部、BzMA17.6部、及びDPM0.17部を仕込んだ。窒素バブリングしながら45℃で5.5時間重合させてポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ80%であった。また、このポリマー溶液に含有されるポリマーのMnは5,000であり、PDIは1.17であった。次に、ポリマー溶液を40℃に冷却し、CHMA8.4部、MMA25部、MAA12.9部、及びV−70を1.4部加え、3.5時間重合させた。KOH8.4部、及び水47.6部を添加して中和し、ポリマー(ブロックコポリマーBP−3)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、ブロックコポリマーBP−3のMnは9,100であり、PDIは1.31であった。
【0080】
(合成例16)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、MFTG168部、ヨウ素1.0部、V−70を3.7部、CHMA42部、ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、「HEMA」と記す)13部、及びDPM0.17部を仕込んだ。窒素バブリングしながら45℃で5.5時間重合させてポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ81%であった。また、このポリマー溶液に含有されるポリマーのMnは5,100であり、PDIは1.22であった。次に、ポリマー溶液を40℃に冷却し、CHMA16.8部、MMA20部、MAA12.9部、及びV−70を1.5部加え、3.5時間重合させた。KOH8.4部、及び水47.6部を添加して中和し、ポリマー(ブロックコポリマーBP−4)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、ブロックコポリマーBP−4のMnは9,600であり、PDIは1.33であった。
【0081】
(合成例17)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、BTG173部、ヨウ素1.0部、V−70を3.7部、CHMA42部、BzMA17.6部、及びDPM0.17部を仕込んだ。窒素バブリングしながら45℃で5.5時間重合させてポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ89%であった。また、このポリマー溶液に含有されるポリマーのMnは6,000であり、PDIは1.18であった。次に、ポリマー溶液を40℃に冷却し、CHMA16.8部、MMA20部、MAA12.9部、及びV−70を1.5部加え、3.5時間重合させた。NaOH6.0部、及び水51.6部を添加して中和し、ポリマー(ブロックコポリマーBP−5)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、ブロックコポリマーBP−5のMnは11,100であり、PDIは1.29であった。
【0082】
(合成例18)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、TEDM172部、ヨウ素1.0部、V−70を3.7部、CHMA58.8部、及びDPM0.17部を仕込んだ。窒素バブリングしながら45℃で5.5時間重合させてポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ84%であった。また、このポリマー溶液に含有されるポリマーのMnは5,200であり、PDIは1.19であった。次に、ポリマー溶液を40℃に冷却し、CHMA16.8部、MMA20部、MAA12.9部、及びV−70を1.5部加え、3.5時間重合させた。28%アンモニア水9.1部、及び水48.2部を添加して中和し、ポリマー(ブロックコポリマーBP−6)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、ブロックコポリマーBP−6のMnは10,000であり、PDIは1.31であった。
【0083】
(合成例19)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(以下、「MMB」と記す)169部、ヨウ素1.0部、V−70を3.7部、CHMA42部、BMA14.2部、及びDPM0.17部を仕込んだ。窒素バブリングしながら45℃で5.5時間重合させてポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ88%であった。また、このポリマー溶液に含有されるポリマーのMnは4,800であり、PDIは1.16であった。次に、ポリマー溶液を40℃に冷却し、CHMA16.8部、MMA20部、MAA12.9部、及びV−70を1.5部加え、3.5時間重合させた。KOH8.4部、及び水47.6部を添加して中和し、ポリマー(ブロックコポリマーBP−7)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、ブロックコポリマーBP−7のMnは9,500であり、PDIは1.29であった。
【0084】
(比較合成例7)
合成例1で用いたものと同様の反応容器に、MFTG128部、ヨウ素1.0部、V−703.7部、BzMA52.2部、HEMA9.8部、及びDPM0.17部を仕込んだ。窒素バブリングしながら45℃で5.5時間重合させてポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ80%であった。また、このポリマー溶液に含有されるポリマーのMnは4,900であり、PDIは1.26であった。次に、ポリマー溶液を40℃に冷却し、MMA20.8部、BMA40.8部、MAA15.0部、及びV−70を2.3部加え、3.5時間重合させた。KOH9.8部、及び水32.8部を添加して中和し、ポリマー(ブロックコポリマーBP−R1)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を算出したところ100%であった。また、ブロックコポリマーBP−R1のMnは9,200であり、PDIは1.57であった。
【0085】
(比較合成例8)
合成例1で用いたものと同様の反応容器AにMFTG375部を仕込んで80℃に加熱した。また、別の容器にCHMA110部、BzMA70部、MMA40部、MAA30部、及びアゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」と記す)12部を仕込んでよく撹拌し、モノマー液を調製した。このモノマー液を反応容器Aに1/2添加した後、残り1/2を1時間かけてゆっくりと滴下した。滴下終了後、3時間重合させた。AIBNを1.5部添加して85℃に加熱し、さらに4時間重合させた。KOH19.6部、及び水105.4部を添加して中和し、ポリマー(ランダムコポリマーRP−R1)を含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をサンプリングして固形分濃度を測定し、不揮発分から重合転化率を換算したところ100%であった。また、ランダムコポリマーRP−R1のMnは12,100であり、PDIは2.28であった。
【0086】
合成例13〜19、比較合成例7及び8で得たコポリマーの詳細を表3に示す。
【0087】
【0088】
[水性顔料分散液]
(実施例1)
合成例6で得たコポリマーCP−1を含有するポリマー溶液233.3部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル70部、及び水311.7部を混合して若干濁りのある半透明の溶液を得た。この溶液にアゾ系黄色顔料PY−74(商品名「セイカファストイエロー2016G」、大日精化工業社製)350部を添加し、ディスパーを使用して30分撹拌してミルベースを調製した。横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルECM型」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズ 径0.5mm)を使用し、周速10m/sで分散処理し、ミルベース中に顔料を十分に分散させた。その後、水316部を添加して顔料濃度を18%とした。分散機から取り出したミルベースを遠心分離処理(7500回転、20分間)した後、10μmのメンブレンフィルターでろ過した。水で希釈して、顔料濃度14%のインクジェット用の水性顔料分散液1を得た。
【0089】
得られた水性顔料分散液1に含まれる顔料の数平均粒子径を、粒度測定器(商品名「NICOMP 380ZLS−S」、インターナショナル・ビジネス社製)で測定したところ122nmであり、顔料が微分散されていることを確認した。また、水性顔料分散液1の粘度は3.1mPa・s、pHは8.9であった。この水性顔料分散液1を70℃で1週間保存したところ、顔料の数平均粒子径が122nm、粘度3.0mPa・sとなり、保存安定性が非常に良好であることを確認した。
【0090】
(実施例2〜7、参考例8〜14、比較例1〜6)
表4に示す顔料分散剤を用いたこと以外は、上述の実施例1と同様にして水性顔料分散液2〜20を得た。得られた水性顔料分散液2〜20の評価結果を表4に示す。
【0091】
【0092】
実施例2〜7、参考例8〜14、比較例1、2及び5で得た水性顔料分散液2〜16及び19は、実施例1で得た水性顔料分散液と同様に、顔料が微分散されているとともに、保存安定性が良好であった。なお、比較例1、2及び5で得た水性顔料分散液15、16及び19は、いずれも、その構造中にシクロアルキル基が入っていないこと以外は実施例で用いたものと同様の顔料分散剤を用いたものであるので、分散性及び保存安定性が向上したものと考えられる。
【0093】
これに対して、ポリマー鎖B(主鎖)に芳香環やシクロアルキル基を有しないコポリマーCP−R3を用いた比較例3の水性顔料分散液は、分散中に粘度が高くなって取り出しが困難になり、水で希釈して顔料濃度を下げる必要があった。また、分散性が低く、顔料の数平均粒子径も大きく、保存安定性も良好ではなかった。これは、ポリマー鎖B(主鎖)の顔料吸着性が乏しいためではないかと推測される。
【0094】
また、コポリマーCP−R4、及びランダムコポリマーRP−R1を用いた比較例4及び6の水性顔料分散液は、分散性は良好であったが、保存中に顔料粒子が凝集し、流動性が顕著に低下した。これは、吸着部分が分子鎖中にランダムに存在して明確でないランダム構造を有するコポリマーを顔料分散剤として用いたことで、顔料分散剤一分子が複数の顔料粒子に吸着してしまい、顔料の分散がうまく進行しなかったこと、及び加温したことで、溶剤の影響が顕著になって顔料に顔料分散剤が吸着しなくなり、顔料が凝集したものと考えられる。実施例及び参考例で用いた顔料分散剤の分子構造は、顔料への吸着部分と溶剤溶解性部分とがブロック単位で明確に分かれていることで、顔料の分散が良好な状態で進行したとともに、溶媒溶解性部分の立体効果によって顔料の凝集が抑制され、保存安定性が向上したと考えられる。
【0095】
なお、アゾ系黄色顔料PY−74に代えて、銅フタロシアニン顔料PB−15:3(商品名「シアニンブルーA220JC、大日精化工業社製)、キナクリドン顔料PR−122(商品名「CFR130P」、大日精化工業社製)、及びカーボンブラック顔料PB―7(商品名「S170」、デグザ社製)をそれぞれ用いたこと以外は、前述の実施例1〜7、参考例8〜14及び比較例1〜6と同様にして、青色水性顔料分散液、赤色水性顔料分散液、及び黒色水性顔料分散液を調製した。その結果、コポリマーCP−1〜CP−7、ブロックコポリマーBP−1〜BP−7、CP−R1、CP−R2、及びBP−R1を用いて得た水性顔料分散液は、いずれも黄色水性顔料分散液と同様、分散性及び保存安定性が良好であった。
【0096】
[水性顔料インク(1)]
(実施例15)
実施例1で調製した水性顔料分散液1を用いて、以下に示す処方でインクジェット用の水性顔料インクを調製した。
水性顔料分散液1 40部
水 42.2部
1,2−ヘキサンジオール 5部
グリセリン 10部
商品名「サーフィノール465」(エアープロダクト社製) 1部
【0097】
上記の処方の配合物を十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過して水性顔料インク1を調製した。この水性顔料インク1に含まれる顔料の数平均粒子径を測定したところ119nmであった。また、水性顔料インク1の粘度は2.9mPa・sであった。この水性顔料インク1を70℃で1週間保存したところ、顔料の数平均粒子径が118nm、粘度2.8mPa・sとなり、保存安定性が非常に良好であることを確認した。これは、顔料分散剤の疎水性の吸着部分が脱離することなく顔料に吸着したことによって、保存安定性が向上したものと推測される。
【0098】
(実施例16〜21、参考例22〜28、比較例7〜9)
表5に示す顔料分散液を用いたこと以外は、上述の実施例15と同様にして水性顔料インク2〜16及び19を得た。また、前述の青色水性顔料分散液、赤色水性顔料分散液、及び黒色水性顔料分散液をそれぞれ用いて各色の水性顔料インクを調製した。いずれの水性顔料インクについても、保存安定性が良好であることを確認した。
【0099】
水性顔料インク1〜16及び19をそれぞれカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ(商品名「EM930C」、セイコーエプソン社製)を使用し、(i)専用写真用光沢紙(PGPP)、(ii)普通紙(商品名「4024」、ゼロックス社製)(iii)専用フォトマット紙に、フォト720dpiの印刷モードで印刷して印刷物を得た。その結果、いずれの水性顔料インクもインクジェットのノズルから問題なく吐出可能であることを確認した。
【0100】
光学濃度計(商品名「マクベスRD−914」、マクベス社製)を使用し、得られた印刷物を評価した。なお、専用写真用光沢紙(PGPP)については、光学濃度OD値、彩度C*、20度グロス、及び60度グロスを測定した。また、普通紙と専用フォトマット紙については、光学濃度OD値及び彩度C*を各5回測定し、それぞれ平均値とした。測定結果を表5に示す。
【0101】
【0102】
表5に示す結果から、ポリマー鎖Aにシクロアルキル基が導入されているグラフトコポリマー又はブロックコポリマーを顔料分散剤とする水性顔料分散液を用いて調製した水性顔料インクは、いずれの用紙に印刷した場合であっても、発色性及び彩度に優れていることが分かる。また、専用写真用光沢紙(PGPP)に印刷した場合には、20度グロス及び60度グロスが高いことが分かる。
【0103】
なお、前述の青色水性顔料分散液、赤色水性顔料分散液、及び黒色水性顔料分散液をそれぞれ用いて調製した各色の水性顔料インクについても同様に試験を行った。その結果、いずれのインクを用いた場合でも、発色性、彩度、及びグロスが高くなることを確認した。
【0104】
[水性顔料インク(2)]
参考例29)
合成例13で得たブロックコポリマーBP−1を含有するポリマー溶液164部、BDG80部、及び水356部を混合して均一な溶液を得た。得られた溶液に赤色顔料(C.I.ピグメントレッド122(ジメチルキナクリドン顔料、大日精化工業社製))200部を添加し、ディスパーを使用して解膠し、ミルベースを調製した。得られたミルベース800部に対して、顔料分5%となるよう水3200部を加えた後、撹拌しながら5%酢酸を滴下して顔料分散剤を析出させた。酢酸滴下前(初期)のpHは9.5であり、酢酸滴下後のpHは4.5であった。ろ過及び水で洗浄して、分散剤被覆顔料のペースト(固形分濃度:32.0%)を得た。
【0105】
得られたペースト667部、BDG9.4部、及び水酸化ナトリウム1.15部を水62.2部に溶解したものを混合及び撹拌した。次いで、横型メディア分散機を使用して再度分散させた。さらに、超高圧ホモジナイザー(商品名「マイクロフルイダイザー」、マイクロフルイディクス社製)を使用し、圧力150MPaで3パスして分散させた。遠心分離処理(7500回転、20分間)後に10μmのメンブレンフィルターでろ過し、次いで、イオン交換水を添加して顔料濃度が14%である赤色水性顔料分散液1を得た。得られた赤色水性顔料分散液1に含有される顔料の数平均粒子径を測定したところ108nmであった。また、赤色水性顔料分散液1の粘度は2.22mPa・sであった。この赤色水性顔料分散液1を70℃で1週間保存したところ、顔料の粒子径及び粘度に変化は見られず、保存安定性が良好であることを確認した。
【0106】
赤色水性顔料分散液1の40部に対し、BDG1.8部、1,2−ヘキサンジオール5部、グリセリン10部、「サーフィノール465」(商品名 エア・プロダクツ社製)1部、及び水42.2部の混合液60部を加えた。十分撹拌した後、ポアサイズ10μmのメンブランフィルターでろ過してインクジェット用の赤色水性顔料インクを得た。得られた赤色水性顔料インクに含有される顔料粒子の数平均粒子径は114nmであった。また、赤色水性顔料インクの粘度は3.06mPa・sであった。
【0107】
参考例30〜32)
赤色顔料に代えて、(i)アゾ系黄色顔料PY−74(商品名「セイカファストイエロー2016G」、大日精化工業社製)、(ii)銅フタロシアニン顔料PB−15:3(商品名「シアニンブルーA220JC」、大日精化工業社製)、(iii)カーボンブラック顔料PB−7(商品名「S170」、デグザ社製)をそれぞれ用いたこと、並びにインクの処方を表6に示すようにしたこと以外は、前述の参考例29と同様にして各色水性顔料分散液、及びインクジェット用の各色水性顔料インクを得た。得られた各色水性顔料インクの顔料の数平均粒子径と粘度(初期及び70℃で1週間保存後)の測定結果を表7に示す。
【0108】
【0109】
参考例29〜32で得た各色水性顔料インクの顔料の数平均粒子径と粘度(初期及び70℃で1週間保存後)の測定結果を表7に示す。各色水性顔料インクをそれぞれカートリッジに充填し、インクジェットプリンタ(商品名「EM930C」、セイコーエプソン社製)を使用し、普通紙(商品名「4024」、ゼロックス社製)に、フォト720dpiの印刷モードで印刷して印刷物を得た。光学濃度計(商品名「マクベスRD−914」、マクベス社製)を使用し、得られた印刷物の印字濃度を5回測定して平均値を算出した。結果を表7に示す。
【0110】
【0111】
表7に示すように、顔料分散剤で被覆(カプセル化)された顔料についても、良好な分散性及び保存安定性を示すことが判明した。これは、疎水性のポリマー鎖Bが顔料を被覆することによって、顔料分散剤がインクの溶剤によっても剥がれることなく、さらには水可溶性のポリマー鎖Aが水に溶解し、立体効果によって凝集を防止したためであると推測される。また、高い印字濃度で印字可能であることが確認された。これは、顔料分散剤で被覆(カプセル化)された顔料が紙に浸透しにくく、紙の表面に残ったためであると考えられる。
【0112】
なお、印刷後、インクジェットインクヘッドを45℃で24時間乾燥して吐出不可能にした後、ヘッドクリーニング操作を1回行なった。その結果、いずれのインクを用いた場合でも、問題なく吐出することができた。すなわち、いったん乾燥しても、乾燥物は再度溶解及び分散可能であること、すなわち、インクの再溶解性及び再分散性が良好であるとことが明らかである。これは、カルボキシル基を含むポリマー鎖Aがイオンを形成し、乾燥しても水などの液媒体に容易に溶解するためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の水性顔料分散液を用いれば、吐出性及び長期安定性に優れているとともに、ヘッドで乾燥しても容易に再分散及び再溶解させることができ、かつ、彩度とグロスを高いレベルに保ちながらも、発色性と耐光性が向上した印字物を記録可能なインクジェット用水性顔料インクを提供することができる。