(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、アラニンスキャニングによって抗原結合に必須であることが決定された特定のヒト化抗HER2抗体hu4D5−8のアミノ酸、およびアラニンスキャニングによって抗原結合に比較的重要でないことが見出された他のアミノ酸(置換されて、HER2に対する高い親和性を有する改変体を作製し得る)の発見に基づく。潜在的な変異の好ましい位置は、
図2において示される。従って、特定の改変体が本明細書中で詳細に考察されるが、
図2中で示される1つ以上の位置で置換を有する他の改変体もまた、本発明によって企図され、そして包含される。したがって、本発明は、以下をも提供する。
(1)抗体軽鎖可変ドメインを含むポリペプチドであって、該可変ドメインは、配列番号1の超可変領域を含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、Q27(V
L);D28(V
L)、N30(V
L)、T31(V
L)、A32(V
L)、Y49(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、R66(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される、ポリペプチド。
(2)配列番号1の前記超可変領域が、N30(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上の位置におけるアミノ酸置換を含む、項目1に記載のポリペプチド。
(3)配列番号1の前記超可変領域が、D28(V
L)Q;D28(V
L)G;N30(V
L)S;T31(V
L)S;A32(V
L)G;Y49(V
L)W、Y49(V
L)D、Y49(V
L)V;F53(V
L)W、F53(V
L)V、F53(V
L)Q、Y55(V
L)W、R66(V
L)N、H91(V
L)F、H91(V
L)Y、Y92(V
L)W、およびT94(V
L)Sからなる群から選択される1つ以上の位置におけるアミノ酸置換を含む、項目1に記載のポリペプチド。
(4)配列番号1の前記超可変領域が、D28(V
L)Q;D28(V
L)G;N30(V
L)S;T31(V
L)S;A32(V
L)G;Y49(V
L)W、Y49(V
L)D、Y49(V
L)V;F53(V
L)W、F53(V
L)V、F53(V
L)Q、Y55(V
L)W、R66(V
L)N、H91(V
L)F、H91(V
L)Y、およびY92(V
L)Wからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目3に記載のポリペプチド。
(5)配列番号1の前記超可変領域が、Y49(V
L)D、F53(V
L)W、およびY55(V
L)Wからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目4に記載のポリペプチド。
(6)2つまたは3つの前記アミノ酸置換を含む、項目5に記載のポリペプチド。
(7)前記アミノ酸置換の3つ全てを含む、項目6に記載のポリペプチド。
(8)配列番号1の前記超可変領域が、N30(V
L)S、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、H91(V
L)F、Y92(V
L)WおよびT94(V
L)Sからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目3に記載のポリペプチド。
(9)N30(V
L)はSと置換され、H91(V
L)はFと置換され、そしてY92(V
L)はWと置換される、項目8に記載のポリペプチド。
(10)抗体である、項目1、項目4および項目5のうちいずれか1項に記載のポリペプチド。
(11)ヒト化抗体である、項目10に記載のポリペプチド。
(12)ヒト抗体である、項目10に記載のポリペプチド。
(13)Fvフラグメント、Fabフラグメント、Fab’ フラグメントおよびF(ab’)
2フラグメントからなる群から選択される抗体フラグメントである、項目10に記載のポリペプチド。
(14)抗体重鎖可変ドメインを含むポリペプチドであって、該可変ドメインは、配列番号2の超可変領域を含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、W95(V
H)、D98(V
H)、F100(V
H)、Y100a(V
H)、およびY102(V
H)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される、ポリペプチド。
(15)配列番号2の前記超可変領域が、W95(V
H)Y、D98(V
H)W、D98(V
H)R、D98(V
H)K、D98(V
H)H、F100(V
H)P、Fl00(V
H)L、F100(V
H)M、Y100a(V
H)F、Y102(V
H)V、Y102(V
H)K、およびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目14に記載のポリペプチド。
(16)配列番号2の前記超可変領域が、D98(V
H)W、Y100a(V
H)F、およびY102(V
H)Vからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目15に記載のポリペプチド。
(17)配列番号2の前記超可変領域が、F100(V
H)PおよびY102(V
H)Kからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目15に記載のポリペプチド。
(18)アミノ酸置換F100(V
H)PおよびY102(V
H)Kを含む、項目17に記載のポリペプチド。
(19)配列番号2の前記超可変領域が、F100(V
H)PおよびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目15に記載のポリペプチド。
(20)F100(V
H)PおよびY102(V
H)Lのアミノ酸置換を含む、項目19に記載のポリペプチド。
(21)抗体である、項目14および項目17〜20のうちいずれか1項に記載のポリペプチド。
(22)ヒト化抗体である、項目21に記載のポリペプチド。
(23)ヒト抗体である、項目21に記載のポリペプチド。
(24)Fvフラグメント、Fabフラグメント、Fab’ フラグメントおよびF(ab’)
2フラグメントからなる群から選択される抗体フラグメントである、項目21に記載のポリペプチド。
(25)HER2の細胞外ドメインに結合可能な抗体であって、該抗体は、配列番号1の前記超可変領域を含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、Q27(V
L)、D28(V
L)、N30(V
L)、T31(V
L)、A32(V
L)、Y49(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、R66(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される、抗体。
(26)Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、N30(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される、項目25に記載の抗体。
(27)配列番号1の前記超可変領域が、D28(V
L)Q;D28(V
L)G;N30(V
L)S;T31(V
L)S;A32(V
L)G;Y49(V
L)W、Y49(V
L)D、Y49(V
L)V;F53(V
L)W、F53(V
L)V、F53(V
L)Q、Y55(V
L)W、R66(V
L)N、H91(V
L)F、H91(V
L)Y、Y92(V
L)W、およびT94(V
L)Sからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目25に記載の抗体。
(28)配列番号1の前記超可変領域が、D28(V
L)Q;D28(V
L)G;N30(V
L)S;T31(V
L)S;A32(V
L)G;Y49(V
L)W、Y49(V
L)D、Y49(V
L)V;F53(V
L)W、F53(V
L)V、F53(V
L)Q、Y55(V
L)W、R66(V
L)N、H91(V
L)F、H91(V
L)Y、およびY92(V
L)Wからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目27に記載の抗体。
(29)配列番号1の前記超可変領域が、Y49(V
L)D、F53(V
L)W、およびY55(V
L)Wからなる群から選択される1つ以上の位置におけるアミノ酸置換を含む、項目28に記載の抗体。
(30)2つまたは3つの前記アミノ酸置換を含む、項目29に記載の抗体。
(31)前記アミノ酸置換の3つ全てを含む、項目30に記載の抗体。
(32)配列番号1の前記超可変領域が、N30(V
L)S、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、H91(V
L)F、Y92(V
L)W、T94(V
L)Sからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目26に記載の抗体。
(33)N30(V
L)はSで置換され、H91(V
L)はFで置換され、そしてY92(V
L)はWで置換される、項目32に記載の抗体。
(34)ヒト化抗体である、項目25または項目29に記載の抗体。
(35)ヒト抗体である、項目25または項目29に記載の抗体。
(36)Fvフラグメント、Fabフラグメント、Fab’ フラグメントおよびF(ab’)
2フラグメントからなる群から選択される抗体フラグメントである、項目25または項目29に記載の抗体。
(37)HER2の細胞外ドメインに結合可能な抗体であって、該抗体は、配列番号2の超可変領域を含む抗体重鎖可変ドメインを含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、W95(V
H)、D98(V
H)、F100(V
H)、Yl00a(V
H)、およびY102(V
H)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される、抗体。
(38)配列番号2の前記超可変領域が、W95(V
H)Y、D98(V
H)W、D98(V
H)R、D98(V
H)K、D98(V
H)H、F100(V
H)P,F100(V
H)L、F100(V
H)M、100a(V
H)F、Y102(V
H)V、Y102(V
H)K、およびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目37に記載の抗体。
(39)配列番号2の前記超可変領域が、D98(V
H)W、Y100a(V
H)F、およびY102(V
H)Vからなる群から選択される1つ以上の位置におけるアミノ酸置換を含む、項目38に記載の抗体。
(40)配列番号2の前記超可変領域が、F100(V
H)PおよびY102(V
H)Kからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目38に記載の抗体。
(41)アミノ酸置換F100(V
H)PおよびY102(V
H)Kを含む、項目40に記載のポリペプチド。
(42)ヒト化抗体である、項目20に記載の抗体。
(43)ヒト抗体である、項目37または項目40に記載の抗体。
(44)Fvフラグメント、Fabフラグメント、Fab’ フラグメントおよびF(ab’)
2フラグメントからなる群から選択される抗体フラグメントである、項目37または項目40に記載の抗体。
(45)HER2の細胞外ドメインに結合可能な抗体であって、該抗体は、配列番号1および配列番号2の前記超可変領域を含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、D28(V
L)、N30(V
L)、T31(V
L)、A32(V
L)、Y49(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、R66(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、T94(V
L)、W95(V
H)、D98(V
H)、F100(V
H);Y100a(V
H)、およびY102(V
H)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される、抗体。
(46)配列番号1および配列番号2の前記超可変領域が、N30(V
L)S、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、H91(V
L)F、Y92(V
L)W、T94(V
L)S、D98(V
H)W、Y100a(V
H)F、およびY102(V
H)Vからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目45に記載の抗体。
(47)N30(V
L)はSで置換され、H91(V
L)はFで置換され、Y92(V
L)はWで置換され、T94(V
L)はSで置換され、D98(V
H)はWで置換され、Y100a(V
H)はFで置換され、そしてY102(V
H)はVで置換される、項目46に記載の抗体。
(48)D98(V
H)はWで置換される、項目46に記載の抗体。
(49)配列番号1および配列番号2の前記超可変領域が、D28(V
L)Q;D28(V
L)G;N30(V
L)S;T31(V
L)S;A32(V
L)G;Y49(V
L)W、Y49(V
L)D、Y49(V
L)V;F53(V
L)W、F53(V
L)V、F53(V
L)Q、Y55(V
L)W、R66(V
L)N、H91(V
L)F、H91(V
L)Y、Y92(V
L)W、T94(V
L)S、W95(V
H)Y、D98(V
H)W、D98(V
H)R、D98(V
H)K、D98(V
H)H、F100(V
H)P、F100(V
H)L、F100(V
H)M、Y100a(V
H)F、Y102(V
H)V、Y102(V
H)K、およびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目45に記載の抗体。
(50)配列番号1および配列番号2の前記超可変領域が、Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、D98(V
H)W、F100(V
H)P、およびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目45に記載の抗体。
(51)配列番号1および配列番号2の前記超可変領域が、以下の置換:Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、F100(V
H)P、およびY102(V
H)Lを含む、項目50に記載の抗体。
(52)配列番号2の前記超可変領域が、置換D98(V
H)Wをさらに含む、項目51に記載の抗体。
(53)配列番号1および配列番号2の前記超可変領域が、以下の置換:Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、F100(V
H)P、およびY102(V
H)Kを含む、項目50に記載の抗体。
(54)配列番号2の前記超可変領域が、置換D98(V
H)Wをさらに含む、項目53に記載の抗体。
(55)項目45に記載の抗体であって、ここで、HER2細胞外ドメインに対する前記抗体の結合親和性は、該HER2細胞外ドメインに対するヒト化モノクロ−ナル抗体4D5−8の結合親和性より少なくとも約3倍高い、抗体。
(56)ヒト化抗体である、項目45、項目51または項目53に記載の抗体。
(57)ヒト抗体である、項目45、項目51または項目53に記載の抗体。
(58)Fvフラグメント、Fabフラグメント、Fab’ フラグメントおよびF(ab’)
2フラグメントからなる群から選択される抗体フラグメントである、項目45、項目51または項目53に記載の抗体。
(59)HER2の細胞外ドメインに結合可能な抗体であって、該抗体は、配列番号1の軽鎖可変ドメインを含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、Q27(V
L)、N30(V
L)、Y49(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される、抗体。
(60)配列番号1の前記軽鎖可変ドメインが、N30(V
L)S、Y49(V
L)F、Y49(V
L)W、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、H91(V
L)F、Y92(V
L)W、およびT94(V
L)Sからなる群から選択される1つ以上の位置におけるアミノ酸置換を含む、項目59に記載の抗体。
(61)N30(V
L)はSで置換され、H91(V
L)はFで置換され、そしてY92(V
L)はWで置換される、項目60に記載の抗体。
(62)Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、N30(V
L)S、Y49(V
L)F、Y49(V
L)W、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、H91(V
L)F、Y92(V
L)W、T94(V
L)S、F100(V
L)W、D98(V
H)W、Y100a(V
H)F、およびY102(V
H)Vからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、ヒト化抗HER2抗体4D5−8。
(63)Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、F100(V
H)P、Y102(V
H)KおよびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、ヒト化抗HER2抗体4D5−8。
(64)アミノ酸置換D98(V
H)Wをさらに含む、項目63に記載の抗体。
(65)Y49(V
L)D、F53(V
L)WおよびY55(V
L)Wからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目62に記載の抗体。
(66)F100(V
H)P、Y102(V
H)KおよびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、項目62に記載の抗体。
(67)以下のアミノ酸置換:Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、F100(V
H)P、およびY102(V
H)Kを含む、項目64に記載の抗体。
(68)以下のアミノ酸置換:Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、F100(V
H)P、およびY102(V
H)Lを含む、項目64に記載の抗体。
(69)容器、そこに含まれる組成物、および該組成物がHER2の過剰発現によって特徴付けられる癌を処置するために使用され得ることを示すパッケ−ジ挿入物またはラベルを含む製品であって、該組成物は、項目60または項目61に記載の抗体を含有する、製品。
(70)前記癌が乳癌である、項目69に記載の製品。
(71)HER2に結合する親抗体の抗体改変体であって、その重鎖可変ドメインの98位にアミノ酸置換を含み、そしてここで、該抗体改変体のHER2に対する結合親和性は、該親抗体のHER2に対する結合親和性より高い、抗体改変体。
(72)前記98位のアミノ酸がWと置換される、項目71に記載の抗体改変体。
(73)前記親抗体がヒト化抗体である、項目70に記載の抗体改変体。
(74)ヒト化抗HER2抗体の高親和性改変体を単離する方法であって、該方法は、以下:
(a)配列番号1および配列番号2の超可変領域内において、Q27(V
L)、D28(V
L)、N30(V
L)、T31(V
L)、A32(V
L)、Y49(V
L)、F53(V
L),Y55(V
L)、R66(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、T94(V
L)、W95(V
H)、D98(V
H)、F100(V
H)、Y100a(V
H)、およびY102(V
H)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸における置換により抗HER2改変体を産生する工程であって、ここで、番号付けはKabat番号付けシステムに従う、工程;
(b)(a)において産生された該改変体のHER2細胞外ドメインに対する結合親和性を測定する工程;ならびに
(c)高親和性改変体を選択する工程
を包含する、方法。
【0009】
1つの局面において、本発明は、抗体軽鎖可変ドメインを含むポリペプチドに関する。この可変ドメインは、配列番号1の超可変領域を含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、Q27(V
L)、D28(V
L)、N30(V
L)、T31(V
L)、A32(V
L)、Y49(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、R66(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される。
【0010】
1つの実施形態において、本発明は、配列番号1の上記超可変領域が、N30(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)ならびにF100(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、ポリペプチドに関する。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、配列番号1の上記超可変領域が、N30(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、ポリペプチドに関する。
【0012】
なお別の実施形態において、本発明は、配列番号1の上記超可変領域が、D28(V
L)Q;D28(V
L)G;N30(V
L)S;T31(V
L)S;A32(V
L)G;Y49(V
L)W、Y49(V
L)D、Y49(V
L)V;F53(V
L)W、F53(V
L)V、F53(V
L)Q、Y55(V
L)W、R66(V
L)N、H91(V
L)F、H91(V
L)Y、Y92(V
L)W、およびT94(V
L)Sからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、ポリペプチドに関する。
【0013】
さらなる実施形態において、配列番号1の上記超可変領域は、D28(V
L)Q;D28(V
L)G;N30(V
L)S;T31(V
L)S;A32(V
L)G;Y49(V
L)W、Y49(V
L)D、Y49(V
L)V;F53(V
L)W、F53(V
L)V、F53(V
L)Q、Y55(V
L)W、R66(V
L)N、H91(V
L)F、H91(V
L)YおよびY92(V
L)Wからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0014】
なおさらなる実施形態において、配列番号1の上記超可変領域が、Y49(V
L)D、F53(V
L)W、およびY55(V
L)Wからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。特定の実施形態において、このポリペプチドは、上記アミノ酸置換を2つまたは3つ含み得る。
【0015】
さらなる実施形態において、本発明は、配列番号1の上記超可変領域が、N30(V
L)S、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、H91(V
L)F、Y92(V
L)WおよびT94(V
L)Sからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含むポリペプチドに関する。特定の実施形態において、N30(V
L)はSと置換され、H91(V
L)はFと置換され、そしてY92(V
L)はWと置換される。
【0016】
全ての実施形態において、上記ポリペプチドは、例えば、ヒト化抗体(キメラ抗体を含む)またはヒト抗体のような抗体であり得、この抗体は、例えば、Fvフラグメント、Fabフラグメント、Fab’フラグメントおよびF(ab’)
2フラグメントのような抗体フラグメントを含む。
【0017】
別の局面において、本発明は、抗体重鎖可変ドメインを含むポリペプチドであって、この可変ドメインは、配列番号2の超可変領域を含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、W95(V
H)、D98(V
H)、F100(V
H)、Y100a(V
H)、およびY102(V
H)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換されるポリペプチドに関する。
【0018】
1つの実施形態において、上記のポリペプチドにおける配列番号2の上記超可変領域は、W95(V
H)Y、D98(V
H)W、D98(V
H)R、D98(V
H)K、D98(V
H)H、F100(V
H)P、Y100a(V
H)F、Y102(V
H)V、Y102(V
H)K、およびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0019】
別の実施形態において、配列番号2の上記超可変領域は、D98(V
H)W、Y100a(V
H)F、およびY102(V
H)Vからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0020】
別の実施形態において、配列番号2の上記超可変領域は、F100(V
H)PおよびY102(V
H)Kからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0021】
特定の実施形態において、ポリペプチドは、F100(V
H)PおよびY102(V
H)Kのアミノ酸置換を含む。
【0022】
上述のように、上記ポリペプチドは、例えば、ヒト化抗体(キメラ抗体を含む)またはヒト抗体のような抗体であり得、この抗体は、例えば、Fvフラグメント、Fabフラグメント、Fab’フラグメントおよびF(ab’)
2フラグメントのような抗体フラグメントを含む。
【0023】
さらなる局面において、本発明は、HER2の細胞外ドメインに結合可能な抗体であって、この抗体は、配列番号1の超可変領域を含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、Q27(V
L)、D28(V
L)、N30(V
L)、T31(V
L)、A32(V
L)、Y49(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、R66(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される抗体に関する。
【0024】
1つの実施形態において、この抗体において、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、N30(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される。
【0025】
別の実施形態において、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、N30(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される。
【0026】
なお別の実施形態において、配列番号1の上記超可変領域は、D28(V
L)Q;D28(V
L)G;N30(V
L)S;T31(V
L)S;A32(V
L)G;Y49(V
L)W、Y49(V
L)D、Y49(V
L)V;F53(V
L)W、F53(V
L)V、F53(V
L)Q、Y55(V
L)W、R66(V
L)N、H91(V
L)F、H91(V
L)Y、Y92(V
L)W、およびT94(V
L)Sからなる群から選択される1つ以上の位置におけるアミノ酸置換を含む。
【0027】
さらなる実施形態において、配列番号1の上記超可変領域は、D28(V
L)Q;D28(V
L)G;N30(V
L)S;T31(V
L)S;A32(V
L)G;Y49(V
L)W、Y49(V
L)D、Y49(V
L)V;F53(V
L)W、F53(V
L)V、F53(V
L)Q、Y55(V
L)W、R66(V
L)N、H91(V
L)F、H91(V
L)Y、およびY92(V
L)Wからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0028】
なおさらなる実施形態において、配列番号1の上記超可変領域は、Y49(V
L)D、F53(V
L)W、およびY55(V
L)Wからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。特定の実施形態において、抗体は、2つまたは3つの、例えば3つ全ての、上記置換を含み得る。
【0029】
本発明は、配列番号1の上記超可変領域が、N30(V
L)S、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、H91(V
L)F、Y92(V
L)W、T94(V
L)Sからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む抗体を、特に含む。従って、特定の実施形態において、本発明は、N30(V
L)はSで置換され、H91(V
L)はFで置換されそしてY92(V
L)はWで置換される抗体に関する。
【0030】
上記抗体は、例えば、ヒト化抗体(キメラ抗体を含む)またはヒト抗体であり得、この抗体は、例えば、Fvフラグメント、Fabフラグメント、Fab’フラグメントおよびF(ab’)
2フラグメントのような抗体フラグメントを含む。
【0031】
さらなる局面において、本発明は、配列番号2の超可変領域を含む抗体重鎖可変領域を含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、W95(V
H)、D98(V
H)、F100(V
H)、Yl00a(V
H)、およびY102(V
H)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される、HER2の細胞外ドメインに結合可能な抗体に関する。
【0032】
1つの実施形態において、本発明は、超可変領域が、W95(V
H)Y、D98(V
H)W、D98(V
H)R、D98(V
H)K、D98(V
H)H、F100(V
H)P、F100(V
H)L、F100(V
H)M、Yl00a(V
H)F、Y102(V
H)V、Y102(V
H)KおよびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む抗体に関する。
【0033】
別の実施形態において、本発明の抗体において、配列番号2の上記超可変領域は、D98(V
H)W、Y100a(V
H)F、およびY102(V
H)Vからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0034】
なお別の実施形態において、配列番号2の上記超可変領域は、F100(V
H)PおよびY102(V
H)KまたはY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。この抗体は、例えば、アミノ酸置換F100(V
H)PおよびY102(V
H)K、またはF100(V
H)PおよびY102(V
H)Lを含み得る。
【0035】
本発明の別の局面と同じく、上記抗体は、ヒト化抗体(キメラ抗体を含む)またはヒト抗体であり得、この抗体は、例えば、Fvフラグメント、Fabフラグメント、Fab’フラグメントおよびF(ab’)
2フラグメントのような抗体フラグメントを含む。
【0036】
さらなる局面において、本発明は、HER2の細胞外ドメインに結合可能な抗体であって、この抗体は、配列番号1および配列番号2の超可変領域を含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、Q27(V
L)、D28(V
L)、N30(V
L)、T31(V
L)、A32(V
L)、Y49(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、R66(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、T94(V
L)、W95(V
H)、D98(V
H)、F100(V
H);Y100a(V
H)、およびY102(V
H)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される、抗体に関する。
【0037】
1つの実施形態において、この抗体において、配列番号1および配列番号2の上記超可変領域は、N30(V
L)S、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、H91(V
L)F、Y92(V
L)W、T94(V
L)S、D98(V
H)W、Y100a(V
H)F、およびY102(V
H)Vからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0038】
別の実施形態において、N30(V
L)はSで置換され、H91(V
L)はFで置換され、Y92(V
L)はWで置換され、T94(V
L)はSで置換され、D98(V
H)はWで置換され、Y100a(V
H)はFで置換され、そしてY102(V
H)はVで置換される。
【0039】
特定の実施形態において、D98(V
H)はWで置換される。
【0040】
なお別の実施形態において、配列番号1および配列番号2の上記超可変領域は、D28(V
L)Q;D28(V
L)G;N30(V
L)S;T31(V
L)S;A32(V
L)G;Y49(V
L)W、Y49(V
L)D、Y49(V
L)V;F53(V
L)W、F53(V
L)V、F53(V
L)Q、Y55(V
L)W、R66(V
L)N、H91(V
L)F、H91(V
L)Y、Y92(V
L)W、T94(V
L)S、F100(V
L)W;W95(V
H)Y、D98(V
H)W、D98(V
H)R、D98(V
H)K、D98(V
H)H、F100(V
H)P、F100(V
H)L、F100(V
H)M、Y100a(V
H)F、Y102(V
H)V、Y102(V
H)K、およびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上の位置におけるアミノ酸置換を含む。
【0041】
さらなる実施形態において、配列番号1および配列番号2の上記超可変領域は、Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、D98(V
H)W、F100(V
H)P、およびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0042】
なおさらなる実施形態において、配列番号1および配列番号2の上記超可変領域は、以下の置換を含む:Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、F100(V
H)P、およびY102(V
H)L。特定の実施形態において、配列番号2の上記超可変領域は、さらに置換D98(V
H)Wを含む。
【0043】
さらなる実施形態において、HER2細胞外ドメインに対する上記抗体の結合親和性は、HER2細胞外ドメインに対するヒト化モノクロ−ナル抗体4D5−8の結合親和性より少なくとも約3倍高い。
【0044】
さらに、この抗体は、例えば、ヒト化抗体(キメラ抗体を含む)またはヒト抗体であり得、この抗体は、例えば、Fvフラグメント、Fabフラグメント、Fab’フラグメントおよびF(ab’)
2フラグメントのような抗体フラグメントを含む。
【0045】
異なった局面において、本発明は、HER2の細胞外ドメインに結合可能な抗体であって、この抗体は、配列番号1の軽鎖可変ドメインを含み、ここで、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、Q27(V
L)、N30(V
L)、Y49(V
L)、F53(V
L)、Y55(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、およびT94(V
L)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸が、アラニン以外の任意のアミノ酸で置換される、抗体に関する。
【0046】
特定の実施形態において、配列番号1の上記軽鎖可変ドメインは、N30(V
L)S、Y49(V
L)F、Y49(V
L)W、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、H91(V
L)F、Y92(V
L)W、およびT94(V
L)Sからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0047】
別の実施形態において、N30(V
L)はSで置換され、H91(V
L)はFで置換され、そしてY92(V
L)はWで置換される。
【0048】
なおさらなる局面において、本発明は、Kabat番号付けシステムに従って番号付けられた、N30(V
L)S、Y49(V
L)F、Y49(V
L)W、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、H91(V
L)F、Y92(V
L)W、T94(V
L)S、D98(V
H)W、F100(V
H)P、Y100a(V
H)F、およびY102(V
H)Vからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む、ヒト化抗HER2抗体4D5−8に関する。
【0049】
1つの実施形態において、ヒト化抗HER2抗体4D5−8は、Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、F100(V
H)P、Y102(V
H)KおよびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0050】
別の実施形態において、ヒト化抗HER2抗体4D5−8は、アミノ酸置換D98(V
H)Wをさらに含む。
【0051】
なお別の実施形態において、ヒト化抗HER2抗体4D5−8は、Y49(V
L)D、F53(V
L)WおよびY55(V
L)Wからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0052】
さらなる実施形態において、ヒト化抗HER2抗体4D5−8は、F100(V
H)P、Y102(V
H)K、およびY102(V
H)Lからなる群から選択される1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0053】
なおさらなる実施形態において、ヒト化抗HER2抗体4D5−8は、以下の置換を含む:Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、F100(V
H)P、およびY102(V
H)K。
【0054】
異なった実施形態において、ヒト化抗HER2抗体4D5−8は、以下の置換を含む:Y49(V
L)D、F53(V
L)W、Y55(V
L)W、F100(V
H)P、およびY102(V
H)L。
【0055】
別の局面において、本発明は、容器、そこに含まれる組成物、およびこの組成物がHER2の過剰発現によって特徴付けられる癌を治療するために使用され得ることを示すパッケ−ジ挿入物またはラベルを含む製品であって、この組成物は、請求項60または請求項61に記載の抗体を含有する、製品に関する。この癌は、例えば、乳癌であり得る。なお別の実施形態において、本発明は、HER2に結合する親抗体の抗体改変体であって、重鎖可変ドメインの98位にアミノ酸置換を含み、そしてここで、この抗体改変体のHER2に対する結合親和性は、この親抗体のHER2に対する結合親和性より高い、抗体改変体に関する。特定の実施形態において、上記98位のアミノ酸は、Wと置換される。親抗体は、ヒト化抗体であり得るが、これに限定されない。
【0056】
異なった局面において、本発明は、ヒト化抗HER2抗体の高親和性変異体を単離する方法に関し、この方法は、以下:
(a)配列番号1および配列番号2の超可変領域内において、Q27(V
L)、D28(V
L)、N30(V
L)、T31(V
L)、A32(V
L)、Y49(V
L)、F53(V
L),Y55(V
L)、R66(V
L)、H91(V
L)、Y92(V
L)、T94(V
L)、W95(V
H)、D98(V
H)、F100(V
H)、Y100a(V
H)、およびY102(V
H)からなる群から選択される1つ以上のアミノ酸における置換により抗HER2改変体を産生する工程であって、ここで、番号付けはKabat番号付けシステムに従う、工程;
(b)(a)において産生されたこの改変体のHER2細胞外ドメインに対する結合親和性を測定する工程;ならびに
(c)高親和性改変体を選択する工程
を、包含する。
【発明を実施するための形態】
【0058】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、親抗体と等しいか親抗体より高いHER2結合親和性を有するヒト化抗HER2抗体、hu4D5−8の改変体の同定に基づく。これらの改変体は、一組のFabライブラリーから同定された。このFabライブラリーにおいて、軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメインの中に19の位置が20個全てのアミノ酸で置換された。これらの位置は、hu4D5−8可変領域のアラニンスキャニング変異に一部基づく置換について選択された。hu4D5−8抗体の高親和性HER2結合部位の範囲内の配列可変性を、一価のディスプレイFab−ファージライブラリーの構築、HER2結合クローンの選択、および、高レベルの全体の可変性(最小の同種で、すなわち、同一クローンの出現)が観察される選択過程における一点における、各ライブラリープールからの大量サンプル(50〜70クローン)の配列決定によって試験した。可溶性Fabフラグメントの結合親和性もまた、試験した。1つの変異体、D98(V
H)Wが、野生型hu4D5−8
Fabに対し3倍の改善された結合親和性を有することが見出された。
【0059】
従って、本発明は、抗体改変体、特に抗HER2抗体改変体に関する。
【0060】
(1.定義)
他に規定されない限り、本明細書中で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって理解されるのと同じ意味を有する。Singletonら,Dictionary of Microbiology and Molecular
Biology 第2版,J.Wiley & Sons(New York,NY 1994)。当業者は、本明細書中で記載されるものと類似するかまたは等価の多くの方法および材料が、本発明の実施において使用され得ることを理解する。実際、本発明は、記載される方法および材料には決して限定されない。本発明の目的について、以下の用語を以下に定義する。
【0061】
本開示を通じて、用語「ErbB2」、「ErbB2レセプター」、「c−ErbB2」、および「HER2」は、相互交換可能に使用され、そして、示されない限り、ErbB2ヒトポリペプチドのネイティブの配列、またはその機能的誘導体をいう。「her2」、「erbB2」、「c−erb−B2」は、対応するヒト遺伝子をいう。この文脈において、用語「ネイティブの配列」または「ネイティブ」は、その調製様式に関わらず、天然に存在するポリペプチドの配列を有するポリペプチドを、いう。このようなネイティブ配列ポリペプチドは、天然から単離され得るか、あるいは組換え手段もしくは合成手段によって、またはこれらの方法もしくは類似の方法の任意の組み合わせによって、産生され得る。
【0062】
従って、「ネイティブ」または「ネイティブ配列」HERポリペプチドは、天然から単離され得るか、組換えDNA技術により産生され得るか、化学的に合成され得るか、またはこれらの方法もしくは類似の方法の任意の組み合わせによって産生され得る。ネイティブヒトHER2ポリペプチドのアミノ酸配列およびコードヌクレオチド配列は、例えば、Sembaら,PNAS(USA)82:6497−65)2(1985)およびYamamotoら,Nature 319:230−234(1986)(GenBank登録番号Xo3363)において、開示される。ErbB2は、4つのドメイン(ドメイン1〜4)を含む。他の非ヒト動物(例えば、哺乳動物の種)由来のHER2ポリペプチドもまた、当該分野で周知である。「機能的誘導体」としては、対応するネイティブペプチドの定性的生物学的活性を保有する限り、ネイティブポリペプチドのアミノ酸改変体、および共有結合誘導体が挙げられる。アミノ酸配列「改変体」は、一般に、ネイティブアミノ酸配列内のどこかでの1つ以上のアミノ酸の置換、欠失および/または挿入によってネイティブ配列と異なっている。欠失改変体としては、ネイティブポリペプチドのフラグメント、ならびにN末端切断および/またはC末端切断を有する改変体が、挙げられる。
【0063】
本明細書中で使用される場合、「ヘレグリン(Heregulin)」(HRG)は、タンパク質複合体ErbB2−ErbB3およびErbB2−ErbB4を活性化する(すなわち、複合体におけるチロシン残基への結合に際して、チロシン残基のリン酸化を誘導する)ポリペプチドをいう。この用語によって包含される種々のヘレグリンポリペプチドは、例えば、Holmesら, Science 256:1205−1210(1992);WO92/20798;Wenら,Mol.Cell.Biol.14(3):1909−1919(1994)およびMarchionniら,Nature 362:312−318(1993)において開示される。この用語は、天然に存在するHRGポリペプチドの生物学的に活性なフラグメントおよび/または改変体(例えば、そのEGF様ドメインフラグメント(例えば、HRGβ
177−244))を含む。
【0064】
用語「核酸」は、デオキシリボ核酸(DNA)および、適切な場合、リボ核酸(RNA)のようなポリヌクレオチドをいう。この用語はまた、核酸アナログから作製されたDNAまたはRNAどちらかの等価物、アナログを含み、一本鎖(センスまたはアンチセンス)ポリヌクレオチドおよび二本鎖ポリヌクレオチドに適用可能である。「単離された」核酸分子は、同定され、少なくとも1つの夾雑核酸分子(この核酸の天然の供給源において元来共存している)から分離された核酸分子である。単離された核酸分子は、天然に見出される形態または配列以外である。従って、単離された核酸分子は、天然の細胞において存在する核酸分子から見分けられる。しかし、単離された核酸分子は、通常抗体を発現する細胞に含まれる核酸分子(例えば、天然の細胞と異なる染色体位置における核酸分子)を含む。
【0065】
本明細書中で使用される場合、用語「ベクター」は、連結されている別の核酸を輸送可能な核酸分子をいう。用語「発現ベクター」は、ベクターによって運ばれるそれぞれの組換え遺伝子にコードされる、目的のHER2タンパク質を合成可能なプラスミド、コスミドまたはファージを含む。好ましいベクターは、自己複製および/または連結される核酸の発現が可能なベクターである。本明細書中において、「プラスミド」および「ベクター」は、プラスミドが最も一般に使用されるベクターの形態であるため、相互交換可能に使用される。
【0066】
用語「トランスフェクション」は、核酸(例えば、発現ベクター)の、核酸媒介性遺伝子転移による、レシピエント細胞への導入をいう。「形質転換」は、本明細書中で使用される場合、細胞の遺伝子型が、細胞の外因性DNAまたは外因性RNAの取り込みの結果として変化する(例えば、形質転換細胞が、HER2の組換え型を発現する)過程をいう。
【0067】
用語「非ヒト哺乳動物」は、ヒト以外の哺乳動物網の全てのメンバーをいう。「哺乳動物」は、哺乳動物として分類される任意の動物(ヒト、家畜(domestic animal)および家畜(farm animal)、動物園の動物、運動用動物、または愛玩動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシおよび高等霊長類)を含む)をいう。
【0068】
本明細書中で使用される場合、発現「細胞」、「細胞株」および「細胞培養物」は、相互交換可能に使用され、そしてこのような命名は全て、子孫を含む。従って、用語「形質転換体」および「形質転換細胞」は、転移の回数を考慮せず、初代目的細胞およびそれに由来する培養物を含む。全ての子孫は、故意または故意でない変異に起因して、DNA内容物において正確に同一でない場合があることがまた理解される。用語「子孫」は、最初に形質転換された細胞または細胞株の後の、全ての世代の任意のおよび全ての子孫をいう。子孫は、その最初に形質転換された細胞についてスクリーニングした同一の機能また同一の生物学的活性を有する変異体の子孫が、含まれる。ここで、明らかな命名が意図される場合、この名は、文脈から明らかとなる。
【0069】
本明細書中の用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、そして特に、インタクトな抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成 される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体フラグメント(これらのフラグメントが所望の生物学的活性を示す限り)を包含する。
【0070】
本明細書中で使用される場合、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団(すなわち、その集団を含む個々の抗体は、少量で存在し得る、天然に存在する可能性のある変異体を除いて同一である)から得られる抗体をいう。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原性部位に対する。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対する。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の抗体により混入されずに合成され得る点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体の特徴を示し、そして任意の特定の方法にこの抗体の産生を必要とするとはみなされない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら,Nature,256:495(1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法により作製され得るか、または組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと)により作製され得る。「モノクローナル抗体」はまた、例えば Clacksonら,Nature,352:624−628(1991)およびMarksら,J.Mol.Biol.,222:581−597(1991)に記載される技術を使用して、ファージ抗体ライブラリーから単離され得る。
【0071】
抗体は、特に「キメラ」抗体およびそのような抗体のフラグメント(これらが、所望の生物学的活性を示す限り)を含み、ここで は、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来するかまたは特定の抗体のクラスもしくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一であるかまたは相同であり、一方、その鎖の残りが、別の種に由来するかまたは別の抗体のクラスもしくはサブクラスに由来する抗体中の対応する配列と同一であるかまたは相同である(米国特許第4,816,567号およびMorrisonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851−6855(1984))。本明細書中の目的のキメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)由来の可変ドメイン抗原結合配列およびヒト定常領域配列を含む「霊長類化(primatized)」抗体を含む。
【0072】
「抗体フラグメント」は、好ましくは抗原結合領域またはその可変領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。抗体フラグメントの例としては、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)
2フラグメント、およびFvフラグメント;ジアボディ(diabody);直鎖状抗体;単鎖抗体分子;ならびに抗体フラグメントから形成される多重特異性抗体が挙げられる。
【0073】
「インタクトな」抗体は、抗原結合可変領域ならびに軽鎖定常ドメイン(C
L)および重鎖定常ドメイン(C
H1、C
H2およびC
H3)を含む抗体である。定常ドメインは、ネイティブ配列定常ドメイン(例えば、ヒトネイティブ配列定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列改変体であり得る。好ましくは、インタクトな抗体は、1つ以上のエフェクター機能を有する。
【0074】
非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの部分については、ヒト化抗体 は、レシピエントの超可変領域由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有する非ヒト種(例えば、マウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類)(ドナー抗体)の超可変領域由来の残基により置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)の残基は、対応する非ヒト残基により置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体中にもドナー抗体中にも見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに改良するためになされる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、そして代表的には2つの可変ドメイン(Fab、Fab’、F(ab’)
2、およびFv)の実質的に全てを含み、ここで全てまたは実質的に全ての超可変ループは、非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに対応し、そしてFRの全てまたは実質的に全ては、ヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体はまた、必要に応じて免疫グロブリン定常領域(Fc)、代表的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含む。さらなる詳細については、Jonesら,Nature 321:522−525(1986);Riechmannら,Nature 332:323−329(1988);およびPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596(1992)を参照のこと。
【0075】
ヒト化抗ErbB2抗体としては、米国特許第5,821,337号(本明細書中に参考として明確に援用される)の表3に記載されるような、huMAb4D5−1、huMAb4D5−2、huMAb4D5−3、huMAb4D5−4、huMAb4D5−5、huMAb4D5−6、huMAb4D5−7およびhuMAb4D5−8(HERCEPTIN7);同時係属出願番号09/811115(本明細書中で参考として援用される)で記載されるような、ヒト化520C9抗体(WO93/21319)およびヒト化2C4抗体が挙げられる。本開示を通して、用語「huMAb4D5−8」および「hu4D5−8」は、相互交換可能に使用される。
【0076】
用語「超可変領域」は、本明細書中で使用される場合、配列においておよび/または形態構造的に規定されるループの超可変な抗体可変ドメインの領域をいう。超可変領域は、「相補性決定領域」すなわち「CDR」由来のアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメインにおける残基24〜34、50〜56および89〜97ならびに重鎖可変ドメインの31〜35、50〜65および95〜102;Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版 Public Health Service,National Institutes
of Health,Bethesda,MD.(1991))および/または「超可変ループ」由来の残基(すなわち、軽鎖可変ドメインにおける残基26〜32、50〜52および91〜96ならびに重鎖可変ドメインにおける26〜32、53〜55、および96〜101;ChothiaおよびLesk J.Mol.Biol.196:901−917(1987))を含む。両方の場合において、可変ドメイン残基は、以下でさらに詳しく考察されるように、Kabatら(前出)に従って番号付けられる。「フレームワーク」残基すなわち「FR」残基は、本明細書中で定義されるこれらの超可変領域の残基以外の可変ドメイン残基である。
【0077】
「親抗体」または「野生型」抗体は、本明細書中に開示される抗体改変体と比較して、1つ以上のアミノ酸配列変化を欠いたアミノ酸配列を含む抗体である。従って、親抗体は、一般に、アミノ酸配列において、本明細書中で開示される抗体改変体の対応する超可変領域のアミノ酸配列と異なる、少なくとも1つの超可変領域を有する。親ポリペプチドは、ネイティブな配列の(すなわち、天然に存在する)抗体(天然に存在する遺伝子座改変体を含む)、または天然に存在する配列の、前もって存在するアミノ酸配列改変(例えば、挿入、欠失、および/または他の変化)が存在する抗体を含み得る。好ましくは、親抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である。例えば、以下に例示の目的で開示される、野生型抗体hu4D5−8(米国特許第5,821,337号に記載される)は、いかなるアミノ酸置換または他の改変を有さないhuMAb4D5−8である。本開示を通じて、「野生型」、「WT」、「wt」および「親(parent)」または「親(parental)」抗体は、相互交換可能に使用される。
【0078】
本明細書中で使用される場合、「抗体改変体」または「改変抗体」は、親抗体のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を有する抗体をいう。好ましくは、抗体改変体は、天然に見出されないアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインを含む。このような改変体は、親抗体に対し、100%未満の配列同一性または配列類似性を有する。好ましい実施形態において、抗体改変体は、親抗体の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインに対し、約75%〜100%未満、より好ましくは約80%〜100%未満、より好ましくは約85%〜100%未満、より好ましくは約90%〜100%未満、そして最も好ましくは約95%〜100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性を有する。この配列に関する同一性または類似性は、本明細書中で、候補配列中の親抗体と同一なアミノ酸残基(すなわち、同じ残基)のパーセンテージとして、配列を並べ、そして配列同一性の最大パーセントを達成するために、必要な場合ギャップを導入した後で、定義される。N末端、C末端または内部の伸長、欠失、または可変ドメインの外側の抗体配列への挿入のいずれも、配列同一性または類似性に影響するとは考えられない。抗体改変体は、一般に、その1つ以上の超可変領域の中に、またはこれに隣接して、1つ以上のアミノ酸改変を含む改変体である。
【0079】
「アミノ酸改変」は、所定のアミノ酸配列のアミノ酸配列中の変化をいう。例示的な改変としては、挿入、置換、および欠失が挙げられる。「アミノ酸置換」は、所定のアミノ酸配列中に存在するアミノ酸残基の、別のアミノ酸残基との置き換えをいう。
【0080】
アミノ酸残基の「置き換え」は、アミノ酸配列中で別のアミノ酸残基と置き換えられるすなわち置換されるアミノ酸残基をいう。置き換え残基は、天然に存在するアミノ酸残基または天然に存在しないアミノ酸残基であり得る。
【0081】
「アミノ酸挿入」は、1つ以上のアミノ酸残基の、所定のアミノ酸配列への導入をいう。アミノ酸挿入は、「ペプチド挿入」を含み得、ここでは、ペプチド結合によって結合された2つ以上のアミノ酸残基を含むペプチドが、所定のアミノ酸配列内に導入される。アミノ酸挿入がペプチドの挿入を含む場合、挿入されたペプチドは、ランダム突然変異誘発によって産生され得、これにより、このペプチドは、天然に存在しないアミノ酸配列を有する。「超可変領域に隣接する」アミノ酸改変は、超可変領域のN末端および/またはC末端における1つ以上のアミノ酸残基の導入または置換をいい、これにより、少なくとも1つの挿入されたアミノ酸残基または置換されたアミノ酸残基は、問題の超可変領域のN末端またはC末端アミノ酸残基とペプチド結合を形成する。
【0082】
「天然に存在するアミノ酸残基」は、遺伝子コードによってコードされる残基であり、一般に、以下からなる群から選択される:アラニン(Ala);アルギニン(Arg);アスパラギン(Asn);アスパラギン酸(Asp);システイン(Cys);グルタミン(Gln);グルタミン酸(Glu);グリシン(Gly);ヒスチジン(His);イソロイシン(Ile) :ロイシン(Leu);リジン(Lys);メチオニン(Met);フェニルアラニン(Phe);プロリン(Pro);セリン(Ser);トレオニン(Thr);トリプトファン(Trp);チロシン(Tyr);およびバリン(Val)。
【0083】
本明細書中の「天然に存在しないアミノ酸残基」は、上で列挙した天然に存在するアミノ酸残基以外のアミノ酸残基であり、ポリペプチド鎖内でアミノ酸残基に隣接して共有結合し得る残基である。天然に存在しないアミノ酸残基の例としては、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリンおよびEllmanら,Meth.Enzym.202:301−336(1991)において記載されるような他のアミノ酸残基アナログが挙げられる。このような天然に存在しないアミノ酸残基を産生するため、Norenら,Science 244:182(1989)およびEllmanら(前出)の手順が使用され得る。簡潔には、これらの手順は、天然に存在しないアミノ酸残基によるサプレッサーtRNAの化学的活性化、それに続くRNAのインビトロ転写および翻訳を含む。
【0084】
本開示を通じて、Kabat,E.A.ら,Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987)および(1991)からの番号付けシステムが、参照される。これらの大要において、Kabatは、各サブクラスの抗体についての多くのアミノ酸配列を列挙し、そしてそのサブクラスにおいて各残基位置における最も一般に存在するアミノ酸を列挙する。Kabatは、列挙された配列の各アミノ酸に対する残基数を評価する方法を使用し、この残基数を評価する方法は、この分野で標準となっている。本明細書において、Kabat番号付けスキームが、使用される。本発明の目的のために、候補抗体アミノ酸配列の候補の残基数(Kabat大要に含まれない)を評価するため、以下の工程に従う。一般に、候補配列は、Kabatにおける任意の免疫グロブリン配列または任意の定常配列と並べられる。整列は手によってなされても一般に認められたコンピュータープログラム(例えば、Align 2プログラム)を使用して、コンピューターによってなされてもよい。整列は、多くのFab配列に共通する幾つかのアミノ酸残基の使用によって、容易にされ得る。例えば、軽鎖および重鎖は、代表的に2つのシステイン(同じ残基番号を有する)を有する;V
Lドメインにおける2つのシステインは、代表的に、残基番号23および28であり、V
Hドメインにおける2つのシステイン残基は、代表的に、残基番号22および92である。フレームワーク残基は、一般に(常にではないが)およそ同じ数の残基を有するが、CDRは大きさが変化する。例えば、並べられたKabatにおける配列中のCDRより長い候補配列由来のCDRの場合、代表的には、さらなる残基の挿入を示す接尾辞が、残基数に加えられる(例えば、
図1Bにおける残基100abc)。例えば、残基34および36のKabat配列と並べたが、これらの間に残基35を有さない候補配列については、番号35は、単純に残基として評価されない。
【0085】
本明細書中で記載されるように、特定のアミノ酸残基が、他の残基と置換され得る。本明細書中の置換改変体の命名は、文字に続く数字に続く文字からなる。最初(最も左)の文字は、野生型抗体におけるアミノ酸を表す。数は、アミノ酸置換が行われたアミノ酸位置をいい、そして第2の(右側の)文字は、その位置で野生型アミノ酸と置換されるために使用されたアミノ酸を表す。さらに、抗体軽鎖可変ドメイン(V
L)または重鎖可変ドメイン(V
H)は、残基および/または置換の特定の位置を示す数に従って挿入され得る。例えば、
図4に列挙されたhu4D5−8改変体は、野生型hu4D5−8抗体軽鎖および重鎖可変領域アミノ酸配列(配列番号1および配列番号2)を参照して表される。
【0086】
本明細書中で使用される場合、「高い親和性」を有する抗体は、ナノモル濃度(nM)範囲またはそれ以上のK
Dすなわち解離定数を有する抗体である。「ナノモル濃度範囲以上の」K
Dは、XnMによって表され得、ここでXは、約10未満の数である。
【0087】
「細胞死を誘導する」分子は、生存細胞を生育不能にさせる分子である。この細胞は、一般に、ErbB2レセプターを発現する細胞であり、特に、この細胞は、ErbB2レセプターを過剰発現する。好ましくは、細胞は、癌細胞(例えば、乳房癌細胞、卵巣癌細胞、胃癌細胞、子宮内膜癌細胞、唾液腺癌細胞、肺癌細胞、腎臓細胞、結腸癌細胞、甲状腺癌細胞、前立腺癌細胞、膵臓癌細胞または膀胱癌細胞)である。インビトロでは、細胞は、SK−BR−3細胞、BT474細胞、Calu3細胞、MDA−MB−453細胞、MDA−MB−361細胞またはSKOV3細胞であり得る。インビトロでの細胞死は、抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC)または補体依存性細胞傷害性(CDC)によって誘導される細胞死を区別するために、補体および免疫エフェクター細胞の非存在下で決定され得る。従って、細胞死についてのアッセイは、熱不活化血清を使用して(すなわち、補体の非存在下で)かつ免疫エフェクター細胞の非存在下で行われ得る。分子が細胞死を誘導し得るか否かを決定するために、膜の完全性の損失(ヨウ化プロピジウム(PI)、トリパンブルー(Mooreら、Cytotechnology 17:1−11(1995)を参照のこと)または7AADの取り込みによって評価されるような)が、非処理細胞と比較して評価され得る。好ましい細胞死誘導抗体は、BT474細胞におけるPI取り込みアッセイにおいて、PI取り込みを誘導する抗体である(以下を参照のこと)。
【0088】
「アポトーシスを誘導する」分子は、以下によって決定されるような、プログラムされた細胞死を誘導する抗体である:アネキシンVの結合、DNAのフラグメント化、細胞収縮、小胞体の拡大、細胞のフラグメント化および/または膜小胞(アポトーシス小体と呼ばれる)の形成。この細胞は、通常、ErbB2レセプターを過剰発現する細胞である。好ましくは、この細胞は、腫瘍細胞(例えば、乳房腫瘍細胞、卵巣腫瘍細胞、胃腫瘍細胞、子宮内膜腫瘍細胞、唾液腺腫瘍細胞、肺腫瘍細胞、腎臓細胞、結腸腫瘍細胞、甲状腺腫瘍細胞、膵臓腫瘍細胞、前立腺腫瘍細胞または膀胱腫瘍細胞)である。インビトロでは、細胞は、SK−BR−3細胞、BT474細胞、Calu3細胞、MDA− MB−453細胞、MDA−MB−361細胞またはSKOV3細胞であり得る。種々の方法が、アポトーシスに関連する細胞事象を評価するために利用可能である。例えば、ホスファチジルセリン(PS)トランスロケーションが、アネキシン結合によって測定され得;DNAのフラグメント化が、DNAのラダー形成によって評価され得;そしてDNAのフラグメント化に伴う核/クロマチンの圧縮が、低二倍体細胞の任意の増加によって評価され得る。好ましくは、アポトーシスを誘導する分子は、BT474細胞を使用するアネキシン結合アッセイにおいて、非処理細胞と比較して、約2〜50倍、好ましくは、約5〜50倍、そして最も好ましくは、約10〜50倍のアネキシン結合の誘導を生じる抗体である。時には、このプロアポトーシス分子は、ErbBレセプターのErbBリガンド活性化をさらにブロックする抗体である。他の状況において、この分子は、ErbBレセプターのErbBリガンド活性化を有意にブロックしない抗体である。さらに、この分子は、S期にある細胞の割合の大きな減少を誘導せずに、アポトーシスを誘導し得る(例えば、コントロールと比較して、これらの細胞の割合は、約0〜10%の現象を誘導するのみの分子)。
【0089】
用語「処置する」または「処置」とは、治療的処置および予防的(prophylactic)または予防的(preventative)手段の両方をいい、ここで目的は、望ましくない生理学的変化または障害(例えば、癌の発達または核酸)を予防または減速(減少)させることである。本発明の目的のためは、有益または所望の臨床結果としては、検出し得るかまたは検出し得ない、症状の軽減、疾患の程度の軽減、疾患状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、疾患の進行の遅延または緩徐化、疾患状態の緩和または寛解、および寛解(部分的または全体のどちらか)が挙げられるが、これらに限定されない。「処置」はまた、処置を受けなかった場合に予測された生存と比較して生存を引き伸ばすことも意味する。処置が必要なものとは、既に状態または障害を有するもの、ならびに状態または障害を有する傾向があるものあるいは状態または障害が予防されるべきものを含む。
【0090】
用語「治療的有効量」とは、哺乳動物における疾患または障害を処置するために有効な分子の量をいう。癌の場合において、薬物の治療的有効量は、癌細胞の数を減少し得るか;腫瘍サイズを減少し得るか;末梢器官への癌細胞浸潤を阻害し得る(すなわち、ある程度減速させ得、そして好ましくは、停止させ得る)か;腫瘍転移を阻害し得る(すなわち、ある程度減速させ得、そして好ましくは、停止させ得る)か;腫瘍増殖をある程度阻害し得るか;そして/または癌に関連する1つ以上の症状をある程度軽減し得る。分子が増殖を妨げ得るか そして/または既存の癌細胞殺傷し得る程度まで、分子は、細胞増殖抑制性および/または細胞傷害性であり得る。癌治療のために、効力は、例えば、疾患進行に対する時間(TTP)の評価および/または応答速度(RR)の決定によって測定され得る。
【0091】
本明細書中で使用される場合、「腫瘍」は、悪性であろうと良性であろうと、全ての新生物細胞増殖(growth)ならびに細胞増殖(proliferation)、および全ての前癌性または癌性の細胞または組織をいう。
【0092】
用語「癌」および「癌性」とは、調節されない細胞増殖によって代表的に特徴付けられる、哺乳動物の生理学的状態を言及または記載する。癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、および白血病またはリンパ系悪性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。このような癌のより特定の例としては、扁平細胞癌(例えば、扁平上皮細胞癌)、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌および肺の扁平上皮癌を含む)、腹膜の癌、肝細胞癌、胃癌(胃腸癌を含む)、膵臓癌、神経膠芽細胞腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、ヘパトーム、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌腫または子宮癌腫、唾液腺癌腫、腎臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌腫、肛門癌腫、陰茎癌腫、ならびに頭頸部癌が挙げられる。
【0093】
「ErbBを発現する」癌または「ErbBを発現する細胞」を含む癌は、その細胞表面に存在するErbBタンパク質を有する細胞を含む癌である。「ErbBを発現する」癌または「ErbBを発現する細胞」を含む癌は、その細胞表面に十分なレベルのErbB2を産生する癌であり、その結果、抗ErbB2抗体が、それに結合し得、そしてこの癌に対する治療効果を有する。
【0094】
ErbBレセプターの「過剰な活性化によって特徴付けられる」癌は、癌細胞におけるErbBレセプター活性化の程度が、同じ組織型の非癌性細胞におけるレセプターの活性化のレベルを有意に超える癌である。このような過剰な活性化は、ErbBレセプターの過剰発現および/または癌細胞中のErbBレセプターの活性化に利用可能な正常レベルを超えるErbBリガンドから生じ得る。このような過剰な活性化は、癌細胞の悪性疾患状態を引き起こし得るか、そして/またはこのような状態から引き起こされ得る。
【0095】
ErbBレセプターを「過剰発現する」癌は、同じ組織型の非癌性細胞と比較して、その細胞表面に有意により高いレベルのErbBレセプター(例えば、 HER2)を有する癌である。このような過剰発現は、遺伝子増幅によって、あるいは転写または翻訳の増加によって引き起こされ得る。ErbBレセプターの過剰発現は、細胞の表面上に存在するErbBタンパク質のレベルの増加を評価することによる(例えば、免疫組織化学アッセイ;IHCによる)、診断アッセイまたは予後アッセイにおいて決定され得る。あるいは、またはさらに、例えば、以下によって、細胞中のErbBコード核酸のレベルを測定し得る:蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH;1998年10月に公開されたWO98/45479を参照のこと)、サザンブロッティング、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(例えば、リアルタイム定量PCR(RT−PCR))。また、生物学的流体(例えば、血清)中の流出(shed)抗原(例えば、ErbB細胞外ドメイン)を測定することによって、ErbBレセプター過剰発現を研究し得る(例えば、米国特許第4,933,294号(1990年6月12日発行);WO91/05264(1991年4月18日公開);米国特許第5,401,638号(1995年3月28日発行);およびSiasら、J.Immunol.Methods 132:73−80(1990)を参照のこと)。上記のアッセイとは別に、種々のインビボアッセイが、当業者に利用可能である。例えば、患者の体内の細胞に抗体(必要に応じて、検出可能な標識(例えば、放射性同位体)で標識する)を曝露させ得、そしてこの抗体の患者の細胞への結合を、例えば、放射活性の外部スキャニングによって、またはこの抗体に予め曝露された患者から採取した生検を分析することによって、評価し得る。
【0096】
HER2を過剰発現する腫瘍は、1細胞につき発現するHER2分子のコピー数に対応する免疫組織化学的値によって評価され得、そして生化学的に決定され得る:0=0〜10,000コピー/細胞、1+=少なくとも約200,000コピー/細胞、2+=少なくとも約500,000コピー/細胞、3+=少なくとも約2,000,000コピー/細胞。チロシンキナーゼのリガンド非依存性活性化をもたらす3+レベルのHER2の過剰発現(Hudziakら,A.,Mol Cell Biol 9(3):1165〜72(1989))は、約30%の乳癌を引き起こし、そしてこれらの患者において、再発のない生存および全体の生存は、減少した(Slamonら,Science 244(4905):707−12(1989);Slamonら,Science 235:177−182(1987))。
【0097】
逆に、「ErbB2レセプターの過剰発現によって特徴付けられない」癌は、診断アッセイにおいて、同じ組織型の非癌性細胞と比較して、正常レベルよりも高いレベルのErbB2レセプターを発現しない癌である。
【0098】
本明細書中で使用される場合、用語「細胞傷害性薬剤」とは、細胞の機能を阻害するかまたは妨げ、そして/または細胞の破壊を引き起こす物質をいう。この用語は、以下を含むことが意図される:放射性同位体(例えば、At
211、I
131、I
125、Y
90、Re
186、Re
188、Sm
153、Bi
212、P
32、およびLuの放射性同位体)、化学療法剤、および毒素(例えば、細菌、真菌、植物または動物起源の小分子毒素または酵素的に活性な毒素(そのフラグメントおよび/または改変体を含む)。
【0099】
「化学療法剤」は、癌の処置に有用な化学化合物である。化学療法剤の例としては、以下が挙げられる:アルキル化剤(例えば、チオテパおよびシクロホスファミド(cyclosphosphamide)(CYTOXAN
TM);アルキルスルホネート(例えば、ブスルファン、イムプロスルファンおよびピポスルファン);アジリジン(例えば、ベンゾデパ、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)およびウレドパ(uredopa));エチレンイミンおよびメチルメラミン(methylamelamine)(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド(triethylenethiophosphaoramide)およびトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)を含む);ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビシン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード);ニトロソウレア(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質(例えば、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリチェアマイシン(calicheamicin)、カラビシン(carabicin)、カラミノマイシン(carminomycin)、カルチノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン);代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサートおよび5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸アナログ(例えば、デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート);プリンアナログ(例えば、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン);ピリミジンアナログ(例えば、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5−FU);アンドロゲン(例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン);抗副腎剤(anti−adrenals)(例えば、アミノグルテチミド、ミトーテン、トリロスタン);葉酸補助剤(例えば、フロリニン酸(frolinic acid));アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラムブシル(bestrabucil);ビサントレン;エダトラキサート;デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジクオン;エルフォルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK7;ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’=トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン(例えば、パクリタキセル(TAXOL
7、Bristol−Myers Squibb Oncology,Princeton,NJ)およびドクセタキセル(doxetaxel)(TAXOTERE7、Rhoene− Poulenc Rorer,Antony,France);クロラムブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金アナログ(例えば、シスプラチンおよびカルボプラチン);ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イフォスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン(navelbine);ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセロダ(xeloda);イバンドロネート(ibandronate);CPT−11;トポイソメラーゼインヒビターRFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラミシン;カペシタビン(capecitabine);ならびにそれらのいずれかの薬学的に受容可能な塩、酸または誘導体。この定義にはまた、以下のような、腫瘍に対するホルモン作用を調節または阻害するよう作用する抗ホルモン剤が含まれる:抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害性4(5)−イミダゾール、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストンおよびトレミフェン(Fareston));ならびに抗アンドロゲン(例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド(bicalutamide)、ロイプロリドおよびゴセレリン);ならびに上記のいずれかの薬学的に受容可能な 塩、酸または誘導体。
【0100】
「リポソーム」は、薬物(例えば、本明細書中で開示される抗ErbB2抗体および、必要に応じて、化学療法剤)の、哺乳動物への送達に有用な、種々の型の脂質、リン脂質および/または界面活性剤から構成される小胞である。リポソームの成分は、一般に、生体膜の脂質配列に類似する二重層形成に配列される。
【0101】
本明細書中で、「低分子」は、約500ダルトン以下の分子量を有するように定義される。
【0102】
(2.詳細な説明)
本発明は、抗体改変体に関し、好ましくは抗HER2抗体改変体に関する。本発明の抗体は、多くの異なった形態をとり得る。例えば、抗体は、インタクトな抗体(例えば、IgG1抗体、抗体フラグメント(例えばFab)、二種特異性抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であり得る。
【0103】
抗体改変体は、好ましくは、重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインに1つ以上のアミノ酸置換を含む。より好ましくは、抗体改変体は、重鎖可変ドメインおよび/または軽鎖可変ドメインの超可変領域において、1つ以上のアミノ酸置換を含む。
【0104】
本発明は、本明細書中の基準に従い、1つのアミノ酸置換を企図するが、2つ以上の置換(例えば、1つの可変ドメインにつき、約2〜約10または約20の置換)(すなわち、両可変ドメインについて、それぞれ約20または約40までのアミノ酸置換)もまた、組み合わされ得る。本明細書中で記載される改変は、超過変領域において他のアミノ酸配列改変、または抗体の他の領域におけるアミノ酸改変と組み合わされ得る。
【0105】
改変重鎖ドメインおよび/または改変軽鎖ドメインを含むインタクトな抗体は、本明細書中に記載される、当該分野で周知の方法によって作製され得る。例えば、組換え改変体抗体は、宿主細胞(例えば、E.coli細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞)において産生され得る(これらの細胞は、他の抗体タンパク質を産生しない)。
【0106】
あるいは、インタクトな抗体または抗体フラグメントは、例えばMcCaffertyら,Nature,348:552−554(1990)において記載される技術を使用して産生された抗体ファージライブラリーから単離され得る。
【0107】
(ヒト化抗体)
ヒト化抗体(特にヒト化抗HER2抗体)を産生するための方法が、公知である。例えば、hu4D5−8として知られるヒト化抗HER2抗体の産生は、以下の実施例および米国特許第5,821,337号(本明細書中で特に参考として援用される)において記載される。
【0108】
この抗体は、マウスモノクローナル抗体4D5(Fendlyら,Cancer Res 50(5):1550−8(1990))に由来し、pl85
HER2またはHER2として知られるerbB2の遺伝子産物に対して惹起される(Slamonら,Science 244(4905):707−12(1989))。マウスモノクローナル抗体4D5およびその使用は、PCT出願WO89106692(1989年7月27日公開)において記載される。マウス抗体4D5は、ATCCに寄託され、ATCC CRL
10463の受託番号を与えられた。
【0109】
hu4D5および4D5の両方は、pl85
HER2過剰発現癌腫細胞に対し、抗増殖活性を示す(Carterら,Proc Natl Acad Sci USA 89(10):4285−9(1992b);Hudziakら,Mol Cell Biol
9(3):1165−72(1989))。IgG形態のhu4D5−8(ハーセプチンR;トラスツズマブ(trastuzumab))は、乳癌の処置において、治療として使用される(McKeage,K.およびPerry,C.M.(Drugs 62(1):209−43 (2002))によって総説される)。
【0110】
一般に、ヒト化抗体は、好ましくは非ヒトである供給源からその抗体に導入された一つ以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、「輸入(import)」残基として言及される。この残基は、代表的に「輸入」可変ドメインから得られる。ヒト化は、超可変領域配列をヒト抗体のその対応配列に置換することによって、本質的にはWinterおよび共同研究者ら(Jonesら、Nature,321:521−525(1986);Riechmanら、Nature,332:323−327(1988);Verhoeyenら、Science,239:1534−1536(1988))の方法に従って実施され得る。従って、そのような「ヒト化」抗体は、キメラ抗体であり(米国特許第4,816,567号)、ここでインタクトなヒト可変ドメインより、非ヒト種由来の対応配列によって、実質的にあまり置換されていない。実際には、ヒト化抗体は、代表的に、いくつかの超可変領域残基およびおそらくいくつかのFR残基が、げっ歯動物抗体の類似部位に由来する残基によって置換されている、ヒト抗体である。
【0111】
ヒト化抗体を作製する際に使用されるヒト可変ドメイン(軽鎖および重鎖の両方)の選択は、抗原性を減少させるために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」方法に従って、げっ歯動物抗体の可変ドメインの配列は、公知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングされる。次いで、 げっ歯動物の配列の最も類似しているヒト配列が、ヒト化抗体のためにヒトフレームワーク領域(FR)として受容される(Simsら、J.Immunol.,151:2296(1993);Chothiaら、J.Mol.Biol.,196:901(1987))。別の方法は、軽鎖および重鎖の特定小群の全てのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークが、いくつかの異なるヒト化抗体のために 使用され得る(Carterら、Pros.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285(1992);Prestaら、J.Immunol.,151:2623(1993))。
【0112】
抗体が、抗原に対する高い親和性の保持および他の有利な生物学的特性を有するようにヒト化されることがさらに重要である。この目的を達成するために、好ましい方法に従って、ヒト化抗体は、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列および種々の概念上のヒト化産物の分析のプロセスによって調製される。三次元免疫グロブリンモデルは、一般的に利用可能であり、そして当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の有望な三次元コンホメーション構造を例示し、そして表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらの表示の綿密な調査は、候補免疫グロブリン配列の機能決定(functioning)する際に、残基の適切な役割を分析すること(すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原に結合する能力に影響を及ぼす残基の分析)を可能にする。この方法において、FR残基は、レシピエントおよび輸入の配列から選択されて、そして組み合わせられ得、その結果、所望の抗体特徴(例えば、標的抗原に対する増大した親和性)が達成される。一般的に、超可変領域残基 は、抗原結合に影響を及ぼす際に、直接的かつ最も実質的に関与する。
【0113】
以下の実施例1は、例示的なヒト化抗ErbB2抗体の作製を記載している。本明細書中のヒト化抗体は、例えば、ヒト可変重鎖ドメイン内に組み込まれた非ヒト超可変領域残基を含み、そしてR66(V
L)位、A71(V
H)位、T73(V
H)位、A78(V
H)位およびS93(V
H)位(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public
Health Service、National Institute of Health,Bethesda,MD(1991)に記載される可変ドメイン番号付けシステムを利用する)からなる群から選択される位置におけるフレームワーク領域(FR)置換をさらに含み得る。一つの実施形態において、ヒト化抗体は、R66(V
L)位、A71(V
H)位、T73(V
H)位、A78(V
H)位およびS93(V
H)位のうちの2箇所または全ての箇所におけるFR置換を含む。
【0114】
(ヒト抗体)
ヒト化の代替として、ヒト抗体が生成され得る。例えば、トランスジェニック動物(例えば、マウス)であって、免疫の際に内因性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体の充分なレパートリーを生成し得るものを作製することが今や可能である。例えば、キメラマウスおよび生殖系列変異体マウスにおける抗体重鎖結合部(J
H)遺伝子のホモ接合性欠失は、内因性抗体産生の完全阻害を生じることが記載されている。そのような生殖系列変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子のアレイの移入は、抗原攻撃(challenge)に際しヒト抗体の産生を生じる。例えば、以下を参照のこと:Jakobovitsら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:2551(1993);Jakobovitsら,Nature,362:255−258(1993);Bruggermannら,Year in Immuno.,7:33(1993);ならびに米国特許第5,591,669号、同第5,589,369号および同第5,545,807号。
【0115】
あるいは、ファージディスプレイ技術(McCaffertyら,Nature 348:552−553(1990))を使用して、免疫していないドナーから免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリー由来のヒト抗体および抗体フラグメントをインビトロで生成し得る。この技術に従って、抗体Vドメイン遺伝子は、糸状バクテリオファージ(例えば、M13またはfd)の主被膜タンパク質遺伝子または副被膜タンパク質遺伝子のいずれか中にインフレームでクローニングされ、そしてファージ粒子の表面上に機能的な抗体フラグメントとしてディスプレイされる。糸状粒子がファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むことから、その抗体の機能的特性に基づく選択もまた、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択を生じる。従って、そのファージは、B細胞の特性のいくつかを模倣する。ファージディスプレイは、種々の形式で行われ得る;それらの概説については以下を参照のこと:Johnson,Kevin S.およびChiswell,David J.,Current Opinion in Structural Biology 3:564−571(1993)。V遺伝子セグメントのいくつかの供給源をファージディスプレイのために使用し得る。Clacksonら,Nature,352:624−628(1991)は、免疫したマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さなランダムコンビナトリアルライブラリーからの抗オキサゾロン抗体の多岐のアレイを単離した。免疫していないヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーが構築され得、そして多岐のアレイの抗原(自己抗原を含む)に対する抗体は、以下に記載される技術に本質的に従って単離され得る:Marksら,J.Mol.Biol.222:581−597(1991)、またはGriffithら,EMBO J.12:725−734(1993)。また、以下を参照のこと:米国特 許第5,565,332号および同第5,573,905号。
【0116】
上記のように、ヒト抗体はまた、インビトロで活性化したB細胞から生成され得る(以下を参照のこと:米国特許第5,567,610号および同第5,229,275号)。
【0117】
ヒト抗ErbB2抗体は、以下に記載される:米国特許第5,772,997号(1998年6月30日発行)およびWO 97/00271(1997年1月3日公開)。
【0118】
(抗体フラグメント)
種々の軽鎖および/または重鎖可変ドメインを含む抗体フラグメントが、本明細書中で記載される。種々の技術が、抗体フラグメントの産生のために開発されてきた。伝統的には、これらのフラグメントは、インタクトな抗体のタンパク質消化を介して誘導された(例えば、以下を参照のこと:Morimotoら,Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107−117(1992);およびBrennanら,Science,229:81(1985))。
【0119】
しかし、抗体フラグメントの産生のための他の技術は、当業者に明白である。例えば、抗体フラグメントは、組換え宿主細胞によって、いまや直接生成され得る。1つの実施形態において、抗体フラグメントは、抗体ファージライブラリーから、McCaffertyら,Nature 348:552−554(1990)に記載される技術を用いて生成され得る。別のアプローチに従って、F(ab’)
2フラグメントは、組換え宿主細胞培養物から直接単離され得る。あるいは、Fab’−SHフラグメントは、E.coliから直接回収され得、化学的に結合されて、F(ab’)
2フラグメントを形成し得る(Carterら,Bio/Technology 10:163−167(1992))。
【0120】
他の実施形態において、えり抜きの抗体は、単鎖Fvフラグメント(scFv)である。例えば、以下を参照のこと:WO 93/16185;米国特許第5,571,894号;および同第5,587,458号。この抗体フラグメントはまた、「直鎖抗体」(linear antibody)であり得る(例えば、米国特許第5,641,870号に記載されるとおり)。そのような直鎖抗体フラグメントは、単一特異性または二重特異性であり得る。
【0121】
(二重特異性抗体)
二重特異性抗体は、本明細書中で記載される抗HER2抗体改変体の結合部位を含むことが、企図される。二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープについての結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、ErbB2タンパク質の2つの異なるエピトープに結合し得る。他のそのような抗体は、ErbB2結合部位と、EGFR、ErbB3および/またはErbB4についての結合部位とを組合せ得る。あるいは、抗ErbB2アームは、T細胞レセプター分子(例えば、CD2もしくはCD3)またはIgGについてのFcレセプター(FcγR)(例えば、FcγRI(例えば、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)およびFcγRIII (CD16)))のような白血球上のトリガー分子に結合するアームと組み合わされて、細胞防御機構をErbB2発現細胞へと集中させ得る。二重特異性抗体はまた、ErbB2を発現する細胞に対して細胞傷害性因子を局在化させるために使用され得る。WO 96/16673は、二重特異性抗ErbB2/抗FcγRIII抗体を記載し、そして米国特許第5,837,234号は、二重特異性抗ErbB2/抗FcγRI抗体を開示する。二重特異性抗ErbB2/Fcα抗体は、WO 98/02463に示されている。米国特許第5,821,337号は、二重特異性抗ErbB2/抗CD3抗体を教示する。
【0122】
二重特異性抗体を作製するための方法は、当該分野において公知である。全長二重特異性抗体の伝統的な産生は、2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の同時発現に基づく。ここでは、その2つの鎖は、異なる特異性を有する(Millsteinら,Nature,305:537−539(1983))。免疫グロブリンの重鎖および軽鎖のランダムな配列のために、これらのハイブリドーマ(クアドローマ(quadroma))は、10の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生する。このうち、たった1つが正確な二重特異性構造を有する。正確な分子の精製(これは、通常アフィニティークロマトグラフィー工程によってなされる)は、かなり煩雑であり、そしてその産物の収率は低い。類似の手順がWO93/08829、およびTrauneckerら,EMBO J.,10:3655−3659(1991)に開示されている。
【0123】
異なるアプローチに従って、所望の結合特異性(抗体−抗原組合せ部位)を有する抗体可変ドメインを、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合する。この融合物は、好ましくは、免疫グロブリン重鎖定常ドメインを伴い、少なくともヒンジ、CH2およびCH3の領域の部分を含む。これらの融合物の少なくとも1つに存在する、軽鎖結合に必要な部位を含む、第一の重鎖定常領域(CH1)を有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合物、および所望であれば免疫グロブリン軽鎖をコードするDNAは、別個の発現ベクターに挿入され、そして適切な宿主生物中に同時トランスフェクトされる。これは、その構築において使用される不等の比率の3つのポリペプチド鎖が最適な収率を提供するときの実施形態において3つのポリペプチドフラグメントの相対比率を調整するにおいてかなりの柔軟性を提供する。しかし、2つまたは3つすべてのポリペプチド鎖についてコード配列を1つの発現ベクター中に挿入することは、等価な比での少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高収率を生じるときまたはその比率が特に重要ではない場合に可能である。
【0124】
このアプローチの好ましい実施形態において、その二重特異性抗体は、一方のアームにおいて第一の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、および他方のアームにおいてハイブリッド免疫グロブリン重鎖−軽鎖の対(第二の結合特異性を提供する)から構成される。この非対称性の構造は、所望ではない免疫グロブリン鎖組合せから所望の二重特異性化合物の分離を容易にすることが見出された。なぜなら、二重特異性分子の半分のみにおける免疫グロブリン軽鎖の存在が分離の容易な方法を提供するからである。このアプローチは、WO 94/04690に開示される。二重特異性抗体を生成するさらなる詳細については、例えば、Sureshら,Methods in Enzymology,121:210(1986)を参照のこと。
【0125】
米国特許第5,731,168号において記載される別のアプローチに従って、抗体分子の対の間の界面は、組換え細胞培養物から回収されるヘテロダイマーの百分率を最大化するように操作され得る。この好ましい界面は、抗体定常ドメインのC
H3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法において、第一の抗体分子の界面からの1つ以上の低アミノ酸側鎖は、より大きな側鎖(例えば、チロシンまたはトリプトファン)に置き換えられる。その大きな側鎖と同一または類似のサイズの補償性の「溝」は、大きなアミノ酸側鎖をより小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニンまたはトレオニン)に置き換えることによって第二の抗体分子の界面上に作製される。これは、ホモダイマーのような他の所望されない最終産物よりもヘテロダイマーの収率を増加するための機構を提供する。
【0126】
抗体フラグメントから二重特異性抗体を生成するための技術もまた、文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学的結合を用いて調製され得る。Brennanら,Science,229:81(1985)は、インタクト抗体がタンパク質分解的に開裂してF(ab’)
2フラグメントを生成する手順を記載する。これらのフラグメントは、ジチオール錯化剤砒素ナトリウムの存在下で還元されて、ビジナルなジチオールが安定化され、そして分子間のジスルフィド形成が妨害される。次いで、生成されたFab’フラグメントは、チオニトロベンゾエート(TNB)誘導体へと変換される。次いで、Fab’−TNB誘導体の一つは、メルカプトエチルアミンを用いた還元によりFab’−チオールへと再変換され、そして等モル量の他のFab’−TNB誘導体と混合されて、二重特異性抗体を形成する。生成された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定化のための薬剤として使用され得る。
【0127】
最近の進歩により、E.coliからのFab’−SHフラグメントの直接の回収を容易にした。これは、化学的に結合されて、二重特異性抗体を形成し得る。Shalabyら,J.Exp.Med.,175:217−225(1992)は、完全にヒト化された二重特異性抗体F(ab’)
2分子の産生を記載する。各々のFab’フラグメントは、E.coliから別個に分泌され、そしてインビトロでの指向された化学的結合に供されて、二重特異性抗体を形成する。このように形成された二重特異性抗体は、ErbB2レセプターを過剰発現する細胞および正常なヒトT細胞に結合し得、そしてヒト乳腫瘍標
的に対するヒト細胞傷害性リンパ球の分解性活性をトリガーし得る。
【0128】
組換え細胞培養物から二重特異性抗体フラグメントを直接作製および単離するための種々の技術もまた、記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて産生された。Kostelnyら,J.Immunol.,148(5):1547−1553(1992)。FosおよびJunのタンパク質からのロイシンジッパーペプチドは、遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab’部分に結合された。その抗体ホモダイマーは、ヒンジ領域で還元されてモノマーを形成させ、次いで再度酸化されて抗体へテロダイマーを形成させた。この方法はまた、抗体ホモダイマーの生成のためにも利用され得る。Hollingerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444−6448(1993)により記載された「ジアボディ」技術は、二重特異性抗体フラグメントを作製するための代替機構を提供した。このフラグメントは、リンカーによって軽鎖可変ドメイン(V
L)に結合された重鎖可変ドメイン(V
H)を含む。このリンカーは、同じ鎖の上の2つのドメインの間を対合させるには短すぎる。従って、1つのフラグメントのV
HおよびV
Lのドメインは、別のフラグメントの相補的V
LおよびV
Hのドメインと対合を強いられ、それにより、2つの抗原結合部位を形成する。二重特異性抗体フラグメントを単鎖Fv(sFv)ダイマーの使用によって作製するための別の戦略もまた、報告されている。以下を参照のこと:Gruberら,J.Immunol.,152:5368(1994)。
【0129】
2つを超える価数を伴う抗体が企図される。例えば、三重特異性抗体が調製され得る。TuttらJ.Immunol.147:60(1991)。
【0130】
(アミノ酸配列改変)
抗体のアミノ酸配列改変が企図される。例えば、抗体の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが好ましくあり得る。アミノ酸配列改変体は、適切なヌクレオチド変化を抗体改変体をコードする核酸に導入することによるか、またはペプチド合成により調製される。そのような改変としては、例えば、抗体改変体のアミノ酸配列内の残基の欠失、および/または挿入ならびに/あるいは置換を包含する。欠失、挿入および置換の任意の組合せは、その最終構築物が所望の特性を有する場合に、最終構築物に達するように作製される。そのアミノ酸変化はまた、抗体改変体の翻訳後プロセシングを変更し得る(例えば、グリコシル化部位の数または位置の変化)。
【0131】
変異誘発についての好ましい位置である、抗体の特定の残基または領域の同定のための有用な方法は、「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれ、Cunningham and Wells、Science,244:1081−1085(1989)に記載される。本明細書において、標的残基の残基または基(例えば、荷電された残基(例えば、arg、asp、his、lys、およびglu)が同定され、そして中性または陰性に荷電したアミノ酸(最 も好ましくはアラニンまたはポリアラニン)により置換され、特定の抗原とアミノ酸との相互作用に影響を与える。次いで、置換に対する機能的感受性を示 すアミノ酸位置は、さらにまたは他の改変体を置換の部位またはそれにわたって導入することによって再度調整される。従って、アミノ酸配列バリエーションを導入するための部位が予め決定されるものの、その変異自体の性質は、予め決定される必要はない。例えば、所定の部位での変異の性能を分析するために、alaスキャニングまたはランダム変異誘発が、標的コドンまたは標的領域に施され、そして発現された抗体改変体が、所望の活性についてスクリーニングされる。
【0132】
アミノ酸配列挿入としては、1つの残基から100以上の残基を有するポリペプチドまでの長さの範囲のアミノ末端および/またはカルボキシ末端の融合物、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入が挙げられる。末端の挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有する抗体改変体、または細胞傷害性ポリペプチドに対して融合された抗体が挙げられる。抗体分子の他の挿入改変体としては、酵素(例えば、ADEPT)に対して抗体のN末端もしくはC末端への融合物または抗体の血清半減期を増加させるポリペプチドが挙げられる。
【0133】
改変体の別の型は、アミノ酸置換改変体である。これらの改変体は、異なる残基によって置換された抗体分子における少なくとも1つのアミノ酸残基を有する。置換変異誘発のために最も関心ある部位としては、超可変領域が挙げられるが、FR改変もまた企図される。保存置換は、表1の「好ましい置換」の見出しの下に示される。そのような置換が生物学的活性における変化を生じる場合、より実質的な変異(「置換の例」と表1において称するか、またはアミノ酸クラスを参照して以下にさらに記載される)は、導入され得そしてその産物がスクリーニングされ得る。最も好ましいアミノ酸置換改変体は、以下の例において記載される。
【0135】
抗体の生物学的特性における実質的な改変は、(a)置換の領域におけるポリペプチド骨格の構造(例えば、シートまたはへリックスコンホメーション)、(b)標的部位における分子の電荷または疎水性)、または(c)側鎖の嵩高さ、を維持することに対するそれらの効果において有意に異なる特性を選択することによって達成され得る。
【0136】
天然に存在する残基は、共通の側鎖の特性に基づいて以下のような群に分類される:
(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;
(2)中性親水性:cys、ser、thr;
(3)酸性:asp、glu; (4)塩基性:asn、gln、his、lys、arg;
(5)鎖方向に影響を与える残基:gly、pro;および
(6)芳香族性:trp、tyr、phe。
【0137】
非保存的置換は、これらのクラスのうちの1つのメンバーを他のクラスのものに交換することを包含する。
【0138】
抗体改変体の適切なコンホメーションの維持に関与しない任意のシステイン残基はまた、一般にセリンに置換されて、その分子の酸化に対する安定性を 改善し得、そして異常な架橋を妨害し得る。逆に、システイン結合は、その抗体に付加されて、その安定性(特に、その抗体がFvフラグメントのような抗体フラグメントである場合)を改善し得る。
【0139】
特に好ましい型の置換改変体は、親の抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の1つ以上の超可変領域残基を置換することを包含する。一般に、生じた改変体は、その生物学的特性に基づいて選択され得る。このように、さらなる開発のために選択された改変体は、それらが生成される親抗体に比較して改善された生物学的特性(例えば、増強された結合活性)を有し得る。そのような置換改変体を生成するための簡便な方法は、以下に議論するファージディスプレイを使用した親和性成熟を包含する。
【0140】
エフェクター機能(例えば、抗体の抗原依存細胞媒介細胞障害性(ADCC)および/または補体依存細胞障害性(CDC)を増強するために)に関して、本発明の抗体を改変することが所望され得る。このことは、抗体のFc領域に1つ以上のアミノ酸置換を導入することによって達成され得る。あるいは、またはさらに、システイン残基は、Fc領域に導入され得、これにより、この領域の鎖間ジスルフィド結合形成を可能とする。従って、産生されたホモ二量体抗体は、内部移行能力を改善し得そして/または補体媒介細胞殺傷および抗体依存細胞性細胞障害性(ADCC)を増加させ得る。Caronら、J.Exp Med. 176:1191−1195(1992)およびShopes,B.J.Immunol.148:2918−2922(1992)を参照のこと。増強された抗腫瘍活性を有するホモ二量体抗体はまた、Wolffら、Cancer Research 53:2560−2565(1993)に記載されるように、ヘテロ二官能性の架橋剤を使用して調製され得る。あるいは、二重Fc領域を有する抗体が操作され得、そして、それによって、補体溶解およびADCC能力を増強し得る。Stevensonら、Anti−Cancer Drug Design 3:219−230(1989)を参照のこと。
【0141】
抗体の血清半減期を増加させるために、例えば、米国特許第5,739,277号に記載されているように、サルベージレセプター結合エピトープを抗体(特に抗体フラグメント)に組み込み得る。本明細書に記載されているように、用語「サルベージレセプター結合エピトープ」とは、IgG分子のインビボ血清半減期を増加させることを担うIgG分子(例えば、IgG
1、IgG
2、IgG
3またはIgG
4)のFc領域のエピトープをいう。
【0142】
(親和性成熟)
親和性成熟は、親抗体と比較して改善された親和性を有する抗体を生成し得る。天然に存在する抗体の配列多様性は、選択された多様な遺伝子セグメントの組換えを有するB細胞において生じ、この遺伝子セグメントは、不正確な切断事象、ヌクレオチド挿入、二次遺伝子再編成によって免疫グロブリン応答の成熟の間に続く二次遺伝子再編成、および点変異を有する。これらの変更は、親和性および特異性の高い抗体を産生するB細胞クローンの選択を介した免疫応答の特異性および有効性を増強するのに寄与する。
【0143】
親和性成熟過程は、ファージ、酵母、または他の宿主によって提示される抗体多様性ライブラリーを用いて、インビトロで効果的に模倣されている(Hoogenboom,H.R.およびChames,P.,Immunol Today 21(8):371−8(2000);Maynard,J.およびGeorgiou,G.,Annu Rev Biomed Eng 2:339−76(2000);Rader,C.およびBarbas,C.F.,3rd.,Curr Opin Biotechnol 8(4):503−8(1997)によって総説される)。特に、ファージディスプレイは、種々の様式で行われ得る;これらの総説については、例えば、Johnson,Kevin
S.およびChiswell,David J.,Current Opinion in Structural Biology 3:564−571(1993)を参照のこと。
【0144】
1つのアプローチにおいて、目的の抗体超可変領域部位をコードするヌクレオチド配列は、変異され、各部位における全ての潜在的アミノ酸置換を生じる。変異配列は、インフレームで、ファージ粒子の表面上で、糸状バクテリオファージの主被膜タンパク質遺伝子または副被膜タンパク質遺伝子にクローン化され、機能的な抗体フラグメント賭して示される。
【0145】
1つのファージセルにつき1つの抗体フラグメントが呈示される場合、ディスプレイは、一価である。一価ディスプレイは、例えば、Lowman,H.B.,Methods
Mol Biol 87:249−64(1998)によって記載されるように、ファージミドおよびヘルパーファージの使用によって達成され得る。好ましいファージは、M13であり、そしてディスプレイは、好ましくは、被膜タンパク質3との融合タンパク質である(Lowmanら(前出)によって記載される)。
【0146】
他の適切なファージとしては、fl糸状ファージおよびfd糸状ファージが挙げられる。他のウイルス被膜タンパク質を有する融合タンパク質ディスプレイもまた公知であり、本発明において使用され得る。米国特許第5,223,409号を参照のこと。糸状粒子は、ファージゲノムの一本鎖DNAコピーを有するため、抗体の機能特性に基づいた選択はまた、これらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択をもたらす。従って、ファージは、B細胞の特性のいくつかを模倣する。特に、ファージディスプレイされた改変体は、本明細書中で開示されるように、その生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされ得る。特定の生物学的特性(例えば、高結合親和性)を有する改変体のその後の選択および続く選択された改変体の集団の再スクリーニングおよびこの集団からの再選択は、例えば、特定の抗原に対する高い親和性についてスクリーニングされる生物学的活性における改善を有する改変体の同定を可能にする。
【0147】
アラニンスキャニング変異誘発は、改変の超可変領域部位を同定するために実施され得る。抗原結合に大いに寄与するものとして同定されるこれらの超可変領域残基は、改変についての候補である。あるいは、またはさらに、抗原抗体複合体の結晶構造を分析し、抗体と抗原との間の接点を同定するために有益であり得る。このような接触残基および隣接残基は、本明細書中で組み立てられた技術に従う置換の候補である。一旦、このような変異体が産生されると、一群の改変体が、本明細書中で記載されるように、スクリーニングに供され、そして1つ以上の関連するアッセイにおいて優れた特性を有する抗体が、上で考察されたようなさらなる開発のために、選択され得る。
【0148】
親和性成熟の過程は、親抗体と比較して、親和性において著しい改善をもたらし得る。マウスにおける研究は、インビボ親和性変異の間のK
Dにおいて、10〜10
3倍の改善を示した(Foote,J.およびMilstein,C.,Nature 352(6335):530−2(1991))。酵母提示scFvライブラリーを使用し、Wittrupおよび共同研究者らは、抗体の結合親和性を、48fM(K
D=4.8×10
−14M;(Boderら,Proc Natl Acad Sci USA 97(20):10701−5(2000))に対して、1000倍より高く改善し得た。同程度に著しいのが、少数の変異が、時々、これらの変化をもたらし得るという事実である。例えば、抗原結合親和性は、別の抗erbB2抗体のCDR−L3点変異体において16倍改善され(Schierら,J Mol Biol 263(4):551−67(1996))、抗VEGF抗体のCDR−H3点変異体において14倍(Chenら,J Mol Bio 293(4):865−81(1999))、そして抗gpl20抗体のCDR−H3点変異体において、8倍(Barbasら,Proc Natl Acad Sci USA 91(9):3809−13(1994))改善された。
【0149】
(所望の特性を持った抗体のスクリーニング)
改変体抗体を生成した後に、所望する場合、特定の生物学的特徴を有する抗体をさらに選択し得る。
【0150】
例えば、所望の結合親和性を有する抗体をスクリーニングし得る。以下の実施例において議論されるように、ファージディスプレイしたFabライブラリーは、結合親和性に基づいて分類され得る。手短に述べると、特定の抗体に由来する抗体フラグメントは、ファイージディスプレイ処理され、そして、ライブラリーへと組織化される。ついで、これらのライブラリーは、抗原の濃度を低下させることを利用して抗原結合選択性の増加するストリンジェントラウンドに供し得る。
【0151】
さらに、抗体集団の結合親和性および速度論を決定することよって、高い親和性の抗体を同定し得る。1つの実施形態において、以下の実施例に記載されるように、表面プラズモン共鳴(SPR)結合親和性測定法が利用され得る。手短に述べると、抗体フラグメントは、目的の抗体から誘導される。次いで、BIAcore−2000リアルタイム速度論的相互作用分析システムまたはBIAcore−3000速度論的相互作用分析システム(Biacore Inc.,Piscataway,NJ)が、製造者の指示書に従って、固定された抗原フラグメントと結合相互作用する抗体フラグメントの結合定数(会合定数)(k
on)および解離定数(k
off)を決定するために使用され得る(Karlsson,R.,Michaelsson,A.& Mattsson,L.,J Immunol Methods 145(1−2):229−40(1991))。平衡定数K
Dは、当該分野で公知のように、k
off/k
onから計算される。野生型抗体と比較した場合の、自由エネルギーの差は、記載されるように(Wells,J.A.,Biochemistry 29(37),8509−17(1990))、計算され得る:ΔΔG=−RTln(K
D(変異体)/K
D(野生型))。
【0152】
さらに、1実施形態において、増殖阻害抗ErbB2抗体を同定するために、ErbB2を過剰発現する癌細胞の増殖を阻害する抗体についてスクリーニングし得る。1つの実施形態では、増殖阻害抗体は、約0.5〜30μg/mlの抗体濃度で、約20〜100%、そして好ましくは約50〜100%で、細胞培養中のSK−BR−3細胞の増殖を阻害し得る。そのような抗体を同定するために、米国特許第5,677,171号に記載されているSK−BR−3アッセイが、行われ得る。このアッセイに従って、SK−BR−3細胞は、10%ウシ胎児血清、グルタミンおよびペニシリンストレプトマイシンを補充した、F12およびDMEM培養液の1:1の混合物中で増殖される。このSK−BR−3細胞は、35mm細胞培養皿(2ml/35mm皿)中に、20,000細胞がプレーティングされた。0.5〜30μg/mlの抗ErbB2抗体が、1皿当りに加えられる。6日後、未処理の細胞に対して比較された細胞の数が、電動のCOULTER
TM細胞カウンターを使用して、計算される。SK−BR−3細胞の増殖を、約20〜100%または約50〜100%阻害するこれらの抗体は、増殖阻害抗体として選択され得る。
【0153】
細胞死を誘導する改変体抗体を選択するために、例えば、PI、トリパンブルーまたは7AADの取り込みによって示される膜完全性の喪失が、コントロールに対して相対的に評価され得る。好ましいアッセイは、BT474細胞を使用するPI取り込みアッセイである。このアッセイに従って、BT474細胞(アメリカン タイプカルチャーコレクション(Rockville,MD)から取得可能である)は、10%熱不活性化FBS(Hyclone)および2mM L−グルタミンが補充されたダルベッコ改変イーグル培地(D−MEM):Ham’s F−12(50:50)中で、培養された(従って、このアッセイは、補体および免疫エフェクター細胞の非存在下で行なわれる)。BT474細胞は、100×20mm皿中で1皿当り3×10
6の密度で播種され、そして一晩付着させた。次いで、培地が、除去され、新鮮な培地単独または10μg/mlの適切なモノクローナル抗体を含む培地で置換される。細胞は、3日の期間インキュベートされる。それぞれの処理の後に、単層が、PBSで洗浄され、そしてトリプシン処理によって剥離される。次いで、細胞は、4℃で5分間1200rpmで遠心分離され、ペレットが、3mlの氷冷したCa
2+結合緩衝液(10mM Hepes,pH7.4,140mM NaCl、2.5mM CaCl
2)中に再懸濁し、そして細胞凝集塊の除去のために、35mmストレーナーキャップの12×75チューブ(1チューブ当り1ml、1処理群当り3チューブ)にアリコートする。次いで、チューブは、PI(10μg/ml)を受け入れた。サンプルは、FACSCANT
TMフローサイトメーターおよびFACSCONVER
TMCellQuestソフトウェア(Becton Dickinson)を使用して分析され得る。PIの取り込みによって決定される統計的に有意なレベルの細胞死を誘導するこれらの抗体は、細胞死誘導抗体として選択され得る。
【0154】
アポトーシスを誘導する抗体もまた、選択され得る。アポトーシスを誘導する抗体を選択するために、BT474細胞を使用するアネキシン結合アッセイが利用可能である。BT474細胞は培養され、そして前の段落で議論されるように、シャーレに播種される。次いで、培地は、除去され、そして、新鮮な培地単独とか、または10μg/mlの適切なモノクローナル抗体を含む培地で置換される。3日間のインキュベート期間の後、単層は、PBSで洗浄され、そしてトリプシン処理によって剥離される。次いで、細胞死アッセイのために上記議論されたように、細胞は、遠心分離され、Ca
2+結合緩衝液中に再懸濁され、そしてチューブにアリコートする。次いで、チューブは、標識化アネキシン(例えば、アネキシンV−FTIC)(1μg/ml)を受け入れる。サンプルは、FACSCAN
TMフローサイトメーターおよびFACSCONVERT
TM CellQuestソフトウェア(Becton Dickinson)を使用して分析され得る。コントロールに対して、統計的に有意なレベルのアネキシン結合を誘導する、これらの抗体は、アポトーシス誘導抗体として選択される。
【0155】
アネキシン結合アッセイに加えて、BT474細胞を使用するDNA染色アッセイがアポトーシスを誘導する抗体を同定するために利用され得る。このアッセイを行なうために、前の2つの段落に記載されるように、目的の抗体で処理したBT474細胞を、37℃で2時間、9μg/mlのHOECHST33342
TMと共にインキュベートし、次いで、MODFITLT
TMソフトウェア(Verity Software House)を使用して、EPICS ELITE
TMフローサイトメーター(Coulter Corporation)で分析された。未処理細胞(100%未満のアポトーシス細胞)より2倍以上大きい(好ましくは3倍以上)アポトーシス細胞の割合の変化を誘導する抗体は、このアッセイを使用して、アポトーシス推進性の(Pro−apoptotic)抗体として選択され得る。
【0156】
別の実施形態では、ErbBレセプターのリガンド活性化をブロックする抗体は、ErbBリガンドがErbBレセプターを発現する細胞に結合するのをブロックするその抗体の能力を決定することによって(例えば、目的のErbBレセプターがErbBヘテロオリゴマーを形成する別のErbBレセプターと併用して)選択され得る。例えば、ErbBヘテロオリゴマーのErbBレセプターを、天然で発現しているかまたはそれらを発現するようにトランスフェクトされた細胞が、その抗体とともにインキュベートされ、次いで、標識されたErbBリガンドに対して曝露される。次いで、ErbBへテロオリゴマー中のErbBレセプターに結合する抗ErbB2抗体の能力が、評価される。
【0157】
例えば、MCF7乳癌細胞株に対するHRG結合を、抗ErbB2抗体によって阻害することは、以下の実施例1において記載されるような、24ウェルプレートフォーマットで氷上にて単層MCF7培養物を使用して実施され得る。抗ErbB2モノクローナル抗体は、ウェルの各々に対して添加され得、そして、30分間インキュベートされ得る。次いで、
125I標識rHRGβ1
177−224(25pm)が添加され得、そしてこのインキュベーションは、4〜16時間に亘って継続され得る。用量応答曲が準備され得、そして、IC
50値は、目的の抗体に対して計算され得る。1実施形態において、ErbBレセプターのリガンド活性化をブロックする抗体は、約50nM以下、より好ましくは10nM以下の、このアッセイにおけるMCF7細胞に対するHRGの結合阻害についてのIC
50値を有する。この抗体が、Fabフラグメントのような抗体フラグメントである場合、このアッセイにおけるMCF7細胞に対するHRG結合を阻害することに関するIC
50値は、例えば、100nM以下、より好ましくは、50nM以下であり得る。
【0158】
あるいは、またはさらに、ErbBへテロオリゴマーに存在するErbBレセプターのErbBリガンド刺激チロシンリン酸化をブロックする抗ErbB2抗体改変体の能力が、評価され得る。例えば、ErbBレセプターを内因的に発現するかまたはそれらを発現するようにトランスフェクトされた細胞が、その抗体とともにインキュベートされ、次いで、抗ホスホチロシンモノクローナル抗体(これは、必要に応じて、検出可能な標識と結合体化され得る)を使用して、ErbBリガンド依存性チロシンリン酸化活性についてアッセイされ得る。米国特許第5,766,863号に記載されるキナーゼレセプター活性化アッセイは、ErbBレセプター活性化および抗体によるその活性のブロックを決定するために利用可能である。
【0159】
1実施形態において、MCF7細胞におけるp180チロシンリン酸化のHRG刺激を阻害する抗体についてスクリーニングし得る。例えば、MCF7細胞は、24ウェルプレートにプレーティングされ得、そしてErbB2に対するモノクローナル抗体が、それぞれのウェルに加えられ得、そして室温で30分間インキュベートされ得る;次いで、rHRGβ1
177−244が、最終濃度の0.2nMまでそれぞれのウェルに加えられ得、そしてそのインキュベーションは、8分間続けられ得る。培地が、ぞれぞれのウェルから吸引され、そして反応は、100μlのSDSサンプル緩衝液(5%SDS、25mM DDTおよび25mM Tris−HCl,pH6.8)を加えることによって停止され得る。サンプルの各々(25μl)は、4〜12%の勾配ゲル(Novex)上で電気泳動され得、次いで、ポリビニリデンジフルオリドメンブレンに、電気泳動的に移され得る。抗ホスホチロシン(1μg/ml)免疫ブロットが現像され得、そして約180,000のM
rの優勢な反応性バンドの強度は、反射率デンシトメトリーによって定量され得る。選択された抗体は、このアッセイにおいて、好ましくは有意にp180チロシンリン酸化の刺激をコントロールの約0〜35%に阻害し得る。反射率デンシトメトリーによって決定される場合のp180チロシンリン酸化のHRG刺激の阻害の用量応答曲線は、調製され得、そして目的の抗体についてのIC
50が計算され得る。1つの実施形態では、ErbBレセプターのリガンド活性化をブロックする抗体は、このアッセイにおいて、約50nM以下、より好ましくは10nM以下のHRG刺激によるp180チロシンリン酸化を阻害するIC
50を有し得る。抗体が、Fabフラグメントのような抗体フラグメントである場合、このアッセイにおけるHRG刺激によるp180チロシンリン酸化の阻害についてのIC
50は、例えば、約100nM以下、より好ましくは、50nM以下であり得る。
【0160】
また、例えば、基本的にScheferら、Oncogene 15:1385−1394(1997)に記載されるように、MDA−MB−175細胞に対する抗体の増殖阻害的効果を評価し得る。このアッセイに従って、MDA−MB−175細胞は、4日間、抗ErbB2モノクローナル抗体(10μl/mL)で処理され得、そしてクリスタルバイオレットで染色され得る。抗ErbB2抗体とのインキュベーションは、モノクローナル抗体2C4によって示される効果と類似した、この細胞株に対する増殖阻害効果を示し得る。さらなる実施形態では、外因性HRGは、有意にこの阻害を覆さない。好ましくは、抗体は、外因性HRGの存在下および非存在下の両方で、モノクローナル抗体4D5より大きい程度、MDA−MB−175細胞の細胞増殖を阻害し得る。
【0161】
1実施形態において、目的の抗ErbB2抗体改変体は、実質的にモノクローナル抗体4D5よりもより効果的な同時免疫沈降実験において決定されているように、MCF7細胞およびSK−BR−3細胞の両方においてErbB3とのErbB2のヘレグリン(heregulin)依存性結合をブロックし得る。
【0162】
目的の抗体によって結合されるErbB2上のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、慣用的クロスブロッキングアッセイ(例えば、Antibodies,
A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed Harlow and David Lane (1988)に記載されるようなアッセイ)が実施され得る。あるいは、またはさらに、エピトープマッピングが、当該分野で公知の方法によって実施され得る。
【0163】
次いで、上述のような細胞ベースアッセイにおいて取得される結果の後に、動物(例えば、げっ歯類)、モデル、およびヒト臨床実験が続く。特に、ErbB2過剰発現腫瘍を処置するための抗体改変体の能力が、同時係属出願第09/811115号において開示されるトランスジェニックマウスモデルにおいて実証され得る。
【0164】
(免疫結合体)
本発明はまた、細胞障害性薬剤(例えば、化学治療剤、毒素(例えば、細菌、真菌、植物または動物の起源由来の酵素学的に活性な毒素あるいはそのフラグメント、または放射活性同位体(すなわち、放射性結合体))と結合した抗体を含む免疫結合体に関する。
【0165】
そのような免疫結合体の生成に有用な化学治療剤が、上に記載されている。使用され得る酵素学的に活性な毒素およびそのフラグメントとしては、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性フラグメント、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、α−サルシン(sarcin)、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、メイタンシノイド(maytansinoid)、Phytolaca americanaタンパク質(PAPI,PAPII,およびPAP−S)、ニガウリ(momordica charanita)インヒビター、カーシン(curcin)、クロチン(crotin)、sapaonaria officinalisインヒビター、ゲロニン(gelonin)、マイトジェリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、およびトリコテセン(tricothecene)が挙げられる。種々の放射活性同位体は、放射性結合体化抗体の精製のために利用可能である。例としては、
212Bi、
131I、
131In、
90Yおよび
186Reが挙げられる。
【0166】
抗体および細胞障害性薬剤の結合体は、種々の二官能性タンパク質カップリング剤(例えば、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオール)プロピネート(SPDP))、イミノチオラン(iminothiolane)(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、ジメチルアジピン酸HCL)、活性エステル(例えば、ジスクシン
イミジルスベリン酸)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス−アジド化合物(例えば、ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トリエン2,6−ジイソシアネート)、およびビス−活性フッ素化合物(例えば、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)を使用して行なわれ得る。例えば、リシン免疫毒素は、Viettaら、Science 238:1098(1987)に記載されるように、調製され得る。炭素14標識した1−イソチオシアネートベンジル−3−メチルジエチレントリアミンペンタ酢酸(MX−DTPA)は、抗体への放射性ヌクレオチドの結合体化についての例示的なキレート剤である。WO94/11026を参照のこと。
【0167】
別の実施形態では、抗体は、標的化される前の腫瘍の利用のための「レセプター」(ストレプトアビジンなど)に結合体化され得(ここで、抗体−レセプター結合体が患者に投与される)、引き続き除去剤を使用して、未結合の結合体を循環より除去し、次いで、細胞障害性薬剤(例えば、放射性ヌクレオチド)に結合体化される「リガンド」(例えば、アビジン)を投与する。好ましい実施形態では、抗体は、同時係属出願09/811123において記載されるようなメイタンシノイドに結合される。
【0168】
(薬学的処方物)
本発明に従って使用される抗体改変体の治療的処方物は、凍結乾燥形態または水溶液として、所望の程度の純度を有すると抗体と必要に応じて薬学的に受容可能なキャリア、賦形剤、または安定剤とともに混合されることによって、調製される(Remington’s Pharmaceutical Sciences 第16版、Osol,A.編(1980))。受容可能なキャリア、賦形剤、または安定剤は、使用される投薬量および濃度で、レシピエントに対して毒性はなく、そして例えば、リン酸、クエン酸、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;例えば、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;単糖、二糖、および他の炭水化物(グルコース、マンノース、または デキストリンを含む);例えば、EDTAなどのキレート剤;例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、またはソルビトールなどの糖;例えば、ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属複合体(例えば、亜鉛−タンパク質複合体);ならびに/またはTWEEN
TM、PLURONICS
TMまたはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性物質が挙げられる。好ましい凍結乾燥された抗ErbB2抗体処方物は、WO97/04801に記載され、本明細書中に参考として明確に援用される。
【0169】
本明細書中の処方物はまた、特定の兆候が処置されるために必要な1つを超える活性化合物を含み得、好ましくは、お互いに悪影響を与えない補完的な活性を有する化合物である。例えば、1つの処方物において、EGFR、ErbB2(例えば、ErbB2上の異なったエピトープ)、ErbB3、ErbB4、または血管内皮因子(VEGF)に結合する抗体をさらに提供することが、所望であり得る。あるいは、またはさらに、組成物は、化学療法剤、細胞障害性薬剤、サイトカイン、増殖阻害薬剤、抗ホルモン剤、および/または心保護剤をさらに含み得る。そのような分子は、意図される目的のために効果的な量で、組み合わせて、適切に提供される。
【0170】
活性成分はまた、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミン微粒子、ミクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)において、またはマクロエマルジョンにおいて、例えば、コアセルベーション技術によってまたは界面のポリマー化(例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース、またはゼラチン−ミクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート(methylmethacylate))ミクロカプセル)によって調製されたミクロカプセルに 捕捉され得る。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16版、Oslo,A.編(1980)において開示される。
【0171】
徐放性調製物が調製され得る。徐放性調製物の適切な例は、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスを含み、そのマトリックスは、例えば、フィルム、またはミクロカプセルなどの成形品の形態で存在する。徐放性マトリックスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシメチル−メタクリレート)またはポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許第3,733,919号)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタミン酸とのコポリマー、非分解性エチレン−ビニルアセテート、LUPRON DEPOT
TM(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドから構成される注入可能な微粒子)のような分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、そしてポリ−D−(−)−3−ヒドロキシル酪酸が挙げられる。
【0172】
インビボ投与で使用される処方物は、滅菌されていなければならない。これは、滅菌濾過膜を介するかにより容易に達成される。
【0173】
1実施形態において、この処方物は、5mg/mlの改変体hu4D5−8、100mg/mlスクロール、0.1%ポリソルベート20ならびに10mMコハク酸ナトリウム(pH5.0)を含む。
【0174】
本発明に従って、抗ErbB2抗体改変体は、種々の疾患または障害を処置するために使用されることが企図される。例示的な状態または障害としては、良性または悪性の腫瘍;白血病およびリンパ系の悪性疾患;ニューロン、グリア細胞、星状細胞、視床下部、腺、マクロファージ、上皮、支質、分割腔、炎症性、新脈管形成性および免疫系の障害のようなその他の障害が挙げられる。
【0175】
一般的に、処置される疾患または障害は、癌である。本明細書中において、処置される癌の例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、および白血病またはリンパ性悪性疾患。このような癌のより具体的な例としては、扁平上皮細胞癌(例えば、上皮扁平細胞癌)、肺癌(小細胞肺癌を含む)、非小細胞癌、肺の腺癌、肺の扁平細胞癌腫、腹膜癌、肝細胞癌、胃部の癌または胃癌(胃腸癌を含む)、膵臓癌、(神経)膠芽(細胞)腫、子宮頸部癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞腫、乳癌、結腸癌、直腸癌、直結腸癌、子宮内膜癌腫または子宮癌腫、癌唾液腺腫、腎臓癌または腎性癌、前立腺癌、弁姓の癌、甲状腺癌、肝臓癌腫、肛門癌腫、陰茎癌腫、ならびに頭頸部癌が挙げられる。
【0176】
好ましくは、抗体改変体は、乳癌を処置するために使用される。この癌は、ErbB発現細胞を含み、その結果、ここで、抗ErbB抗体が癌に結合し得、そして、代表的には、ErbBレセプターの過剰発現によって、特徴付けられる。好ましい実施形態において、癌は、ErbB2発現細胞を含み、より好ましくは、ErbB2レセプターの過剰発現によって特徴付けられる細胞を含む。癌におけるErbB(例えば、ErbB2)発現を決定するために、種々の診断的/予防的アッセイが利用できる。1つの実施形態では、ErbB2の過剰発現は、免疫組織化学法(IHC)によって(例えば、HERCEPTEST(登録商標)(Dako)を使用して)、分析され得る。腫瘍生検に由来するパラフィン埋包した組織切片は、IHCアッセイに供され得、そして以下のようなErbB2タンパク質染色強度基準に従い得る:
スコア0 染色は全く見られないかまたは膜染色が、10%未満の腫瘍細胞で見出される。
スコア1+ かすかな/かろうじて認知できる膜染色が、10%を越える腫瘍細胞で検出される。その細胞は、それらの膜の一部のみが染色されている。
スコア2+ 弱から中程度の完全な膜染色が、10%を越える腫瘍細胞で検出される。
スコア3+ 中程度から強い完全な膜染色が、10%を越える腫瘍細胞で見出される。
【0177】
ErbB2過剰発現の評価のための、スコア0または1+を有するこれらの腫瘍は、ErbB2を過剰発現しないとして特徴付けられ得、これに対して、スコア2+または3+を有する腫瘍は、ErbB2を過剰発現するとして特徴付けられ得る。
【0178】
あるいは、またはさらに、INFORM
TM(Ventana,Arizonaによって販売される)またはPATHVISION
TM(Vysis,Illinois)のような蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)アッセイは、腫瘍におけるErbB2過剰発現の程度(もしあれば)を決定するために、ホルマリン固定された、パラフィン埋包の腫瘍組織で実行され得る。IHCアッセイと比較して、このFISHアッセイは(これは、her2遺伝子増幅を測定する)が、抗HER2抗体を用いた処置に対する患者の応答とより良好に相関するようであり、抗HER2抗体処置(例えば、市販のHERCEPTIN(登録商標)を用いた処置)または本発明の改変体を用いた処置から利益を得やすい患者を同定する好ましいアッセイであると現在考えられている。
【0179】
好ましくは、本発明の改変体および/またはErbB(例えば、ErbB2)、それらが結合するタンパク質は、細胞によって内在化され、それらの改変体が結合する癌細胞を殺傷することにおける改変体の治療的な効力を増大する結果となる。好ましい実施形態において、細胞障害因子(例えば、メイタンシノイド)は、癌細胞中の核酸を標的とするかまたはそれらを妨げる。
【0180】
抗ErbB抗体改変体は、静脈投与(例えば、ボーラスまたは連続注入)のような周知の方法に従って、または一定の期間にわたる継続的な注入(筋内経路、腹腔内経路、脳脊髄内(intracerobrospinal)経路、皮下経路、関節内経路、滑液包内経路、髄腔内経路、経口経路、局所経路、または吸入経路などによる)に従って、哺乳動物に、好ましくは、ヒト患者に投与される。抗体の静脈内投与または皮下投与が好まれる。
【0181】
他の治療レジメンは、抗ErbB抗体改変体の投与と組み合わせられ得る。その組み合わせられた投与は、別々の処方物または単一の薬学的処方物を使用した同時投与およびどちらかの順序での連続投与を含み、ここで、好ましくは、両方(または全て)の活性薬剤が、それらの生物学的活性を同時に発揮する期間が存在する。
【0182】
1つの好ましい実施形態では、患者は、2つ以上の異なった抗ErbB抗体で処置され、この抗体のうちすくなくとも1つは、改変体の形態にある。例えば、患者は、その抗体が増殖阻害性である第1の抗ErbB2抗体改変体、ならびに第2の抗ErbB2抗体改変体もしくは抗体結合体(例えば、抗体−メイタンシノイド結合体)を用いて処置さ得る。この第2の抗ErbB2抗体改変体もしくは抗体結合体は、ErbBレセプターのリガンド活性化をブロックする抗体または抗体結合体(例えば2C4、あるいはヒト化したかそして/または親和性を成熟させた2C4の改変体)、あるいは、ErbB2過剰発現細胞のアポトーシスを誘導する抗体または抗体結合体(例えば、7C2、7F3、あるいはヒト化したかそして/または親和性を成熟させた7C2または7F3の改変体)である。別の実施形態において、その処置は、2つ以上の異なるErbBレセプター(例えば、ErbB2レセプターおよびEGFRレセプター)に特異的に結合する抗体を投与することを包含する。ここで、これらの抗ErbB抗体のうちの少なくとも1つは、hu4D5−8改変体である。好ましくは、このような併用療法は、相乗的な治療効果を生じる。
【0183】
抗ErbB抗体改変体の投与と、レセプターのErbBファミリーのメンバーでない別の腫瘍特異的抗原に対して指向される抗体の投与とを併用することもまた、所望され得る。この場合の他の抗体は、例えば、血管上皮増殖因子(VEGF)に結合し得、そして、メイタンシノイド結合体の形態または別の免疫結合体の形態である。
【0184】
1つの実施形態では、本発明の処置は、抗ErbB2抗体改変体および1つ以上の化学療法剤または増殖阻害剤の組み合わせ投与を含み、異なった化学療法剤のカクテルの同時投与を含む。好ましい化学療法剤は、タキサン(例えば、パクリタキセルおよびドセタキセル)および/またはアントラサイクリン抗生物質を含む。そのような化学療法剤のための調製および投薬計画は、製造業者の指示に従って、または当業者によって経験的に決定されるように、使用され得る。そのような化学療法のための調製物および投薬計画はまた、Chemotheraphy Service編、M.C.Perry,WilliamsおよびWilkins,Baltimore,MD(1992)に記載される。
【0185】
好ましい実施形態において、この処置は、抗ErbB抗体改変体を用いて開始され、その後、親抗ErbB抗体を用いた維持的な処置が続く。
【0186】
その抗体改変体は、そのような分子に既知の用量で、抗ホルモン化合物;例えば、タモキシフェンなどの抗エストロゲン化合物;オナプリストン(例えば、EP 616 812を参照のこと)などの抗プロゲステロン;またはフルタミドのような抗アンドロゲンと組み合わせられ得る。処置される癌が、ホルモン非依存性の癌である場合、患者は、以前に抗ホルモン治療に供された可能性があり、そして癌が、ホルモン非依存性になった後、抗ErbB2抗体(および必要に応じて本明細書中に記載されるような他の薬剤)が患者に投与され得る。
【0187】
時々、心保護剤(その治療に関連した心筋機能障害を予防するまたは減少させるために)または1つ以上のサイトカインを患者に同時投与することはまた、有益であり得る。上記の治療レジメンに加えて、患者は、癌細胞の外科的除去および/または照射治療に供され得る。
【0188】
上記で同時投与される任意の薬剤の適切な投薬量は、現在使用される投薬量であり、そして薬剤および抗ErbB抗体の組み合わせ作用(相乗作用)に起因して、低減され得る。
【0189】
疾患の予防または処置のために、抗体改変体の適切な用量は、上記に定義されるように、処置される疾患の型、疾患の重篤度および経過、抗体が予防目的または治療目的のために投与されるのかどうか、以前の治療、患者の臨床履歴および抗体に対する応答、および担当医の自由裁量に依存する。この抗体改変体は、1回以上の一連の処置において患者に適切に投与される。その状況に依存した、数日間以上に亘る反復投与のために、その処置は、疾患症状の所望する抑制が生じるまで維持される。この治療法の進行は、従来型の技術およびアッセイによって容易にモニターされる。
【0190】
(製造品)
本発明の別の実施形態では、上記の障害の処置に有用な物質を含む製造品が、提供される。この製造品は、容器上にあるかまたはその容器に付随するラベルまたはパッケージ挿入物を含む。適切な容器は、例えば、ボトル、バイアル、シリンジなどが挙げられる。これらの容器は、ガラスまたはプラスチックなどの種々の物質から形成され得る。その容器は、状態の処置に効果的な組成物を保持し、そして滅菌アクセスポート(例えば、容器は、静脈内溶液バッグまたは皮下組織注射針によって貫通し得るストッパーを有するバイアルであり得る)を有し得る。その組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本発明に教示従った、抗体改変体である。1つの実施形態において、その容器は、本明細書において記載の抗体改変体を含有する10mLの溶液を含む10ccバイアルである。
【0191】
このラベルまたはパッケージ挿入物は、その組成物が、選択された状態(例えば、癌ErbB)を処置するための使用されることを示す。好ましい実施形態において、このラベルまたはパッケージ挿入物は、この組成物が乳癌を処置するために使用されることを示す。別の実施形態において、このラベルまたはパッケージ挿入物は、ErbB2に結合する改変体抗体を含むその組成物が、以下からなる群より選択されるErbBレセプター(好ましくは、EGFR)を発現する癌を処置するのに使用されることを示す:上皮増殖因子(EGFR)、ErbB2、ErbB3、およびErbB4。さらに、そのラベルまたはパッケージ挿入物は、処置を受ける患者が、EGFR、ErbB2、ErbB3、またはErbB4から選択されるErbBレセプターの過剰な活性化によって特徴付けられる癌を有する患者であることを示す。例えば、その癌は、これらのレセプターのうちの1つを過剰発現する癌および/またはErbBリガンド(例えば、TGF−α)を過剰発現する癌であり得る。このラベルまたはパッケージ挿入物はまた、その組成物が、ErbB2レセプターの過剰発現によって特徴づけられない癌を処置するために使用され得ることも示す。他の実施形態において、このパッケージ挿入物は、その組成物がまた、ホルモン非依存性癌、前立腺癌、結腸癌または結腸直腸癌を処置するために使用され得ることを示す。
【0192】
さらに、製造品は、(a)製造品に含まれる組成物を有する第一の容器(ここで、その組成物は、ErbB2に結合し、そしてErbB2を過剰発現する癌細胞の増殖を阻害する抗体改変体を含む);および(b)製造品に含まれる組成物を有する第二の容器(ここで、その組成物は、ErbB2に結合し、そしてErbBレセプターのリガンド活性化をブロックする第二の抗体、あるいは、この第二の抗体とメイタンシノイドとの結合体を含む)を含み得る。本発明の実施形態における製造品は、第一組成物および第二の抗体組成物が、癌を処置するために使用され得ることを示すパッケージ挿入物をさらに含み得る。あるいは、またはさらに、製造品は、薬学的に受容可能な緩衝液(注入のための静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化生理食塩水、リンガー溶液およびデキストロース溶液など)を含む第二(または第三)の容器をさらに含み得る。それは、商業的および利用者の観点から所望の他の物質をさらに含み得、これらの物質としては、他の緩衝液、希釈液、フィルター、針、およびシリンジが挙げられる。
【0193】
本発明のさらに詳細なものは、以下の非限定的な実施例において例示される。
【実施例】
【0194】
(実施例1)
(抗ErbB2モノクローナル抗体4D5の生成、特徴付けおよびヒト化)
ErbB2の細胞外ドメインに特異的に結合するマウスモノクローナル抗体4D5を、Fendlyら、Cancer Res 50:1550−1558(1990)に記載されるように、生成した。手短には、Hudziakら、Mol Cell Biol 9(3):1165〜72(1989)に記載されるように生成したNIH3T3/HER2−3
400細胞(約1×10
5ErbB2分子/細胞を発現する)は、25mM EDTAを含むリン酸緩衝化食塩水(PBS)を用いて収集し、BALB/cマウスを免疫化するために使用した。マウスに、0、2、5および7週間で、0.5ml PBS中の10
7細胞の腹腔内注入を付与した。
32P 標識したErbB2で免疫沈降する抗血清を有するマウスは、9および13週で、小麦胚芽凝集素(WGA)セファロースで精製したErbB2膜抽出物の腹腔 内注入を付与した。続いて、0.1mlのErbB2調製物の静脈内注入を行い、脾細胞を、マウス骨髄腫株X63−Ag8.653と融合した。ハイブリドー マ上清を、ELISAおよび放射性免疫沈降によるErbB2結合についてスクリーニングした。
【0195】
(エピトープマッピングおよび特徴づけ)
モノクローナル抗体4D5によって結合されるErbB2エピトープを、競合的結合分析(Fendlyら、Cancer Res 50:1550−1558(1990))によって決定した。交差ブロック研究を、蛍光を定量するためにPANDEX
TMスクリーンマシンを使用して、インタクトな細胞の直接の蛍光によって、行なった。これらのモノクローナル抗体を、確立された手順(Wofsy ら、Selected Methods in Cellular Immumology,p.287,MishelおよびSchiigi(編)SanFrancisco:W.J.Freeman Co.(1980))を使用して、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)と結合された。NIH 3T3/HER2−3
400細胞のコンフルエントな単層をトリプシン処理し、1回洗浄し、そして0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.1%NaN
3を含むコールドなPBS中で、1.75×10
6細胞/mlの濃度に再懸濁した。最終濃度1%のラテックス粒子(IDC,Portland,OR)を、PANDEX
TMプレート膜の塊状化を減少させるために加えた。細胞懸濁液20μl、および精製されたモノクローナル抗体(100μg/ml〜0.1μg/ml)20μlを、PANDEX
TMプレートウェルに加え、そして氷上30分間インキュベートした。20μl中の所定のFITC標識のモノクローナル抗体の希釈液を、それぞれのウェルに加え、30分間インキュベートし、洗浄し、そしてその蛍光を、PANDEX
TMに よって定量した。モノクローナル抗体を、無関係のモノクローナル抗体のコントロールと比較して、それぞれの抗体が50%以上他の抗体の結合をブロックすれば、エピトープを共有すると見なした。この実施例では、モノクローナル抗体4D5に、それぞれエピトープI(ErbB2細胞外ドメイン(残基約22〜約645(端の残基を含む))中の、アミノ酸残基約590〜約625に由来する)を割り当てた。
【0196】
マウスモノクローナル抗HER2抗体4D5は、癌細胞株の増殖を阻害する。
モノクローナル抗体4D5の増殖阻害特徴を、乳癌細胞株SK−BR−3(Hudziakら、Molec.Cell. Biol.9(3):1165−1172(1989)を参照のこと)を使用して評価した。手短には、SK−BR−3細胞を、0.25%(vol/vol)トリプシンを使用して剥離し、そして1ml当り4×10
5細胞の密度で、完全培地に懸濁した。100μl(4×10
4細胞)のアリコートを、96ウェル微量希釈溶液プレートにプレートし、それらの細胞を接着させ、そして培地のみ100μlまたはモノクローナル抗体(最終濃度5μg/ml)を含む培地100μlを、次いで、加えた。Sugarmanら、Science 230:943−945(1985)に記載されるように、72時間後、プレートを、2回PBS(pH7.5)で洗浄し、クリスタルバイオレット(メタノール中0.5%)で染色し、相対的な細胞増殖を分析した。モノクローナル抗体4D5は、SK−BR−3相対的細胞増殖を約56%阻害した。
【0197】
モノクローナル抗体4D5を、MCF7細胞の全細胞溶解物由来の、分子量(M
r)が180,000程度のタンパク質の、HRGにより刺激されるチロシンリン酸化をこれらが阻害する能力について、評価した(Lewisら、Cancer Research 56:1457−1465(1996))。MCF7細胞は、公知の全てのErbBレセプターを発現することが報告されているが、比較的低いレベルにおいてである。ErbB2、ErbB3、およびErbB4は、ほぼ同じ分子サイズを有するので、全細胞溶解物がウェスタンブロット分析により評価される場合に、どのタンパク質がチロシンリン酸化されるかを区別することは、可能ではない。しかし、これらの細胞は、HRGチロシンリン酸化アッセイに関しては、理想的である。なぜなら、使用されるアッセイ条件下で、外因的に添加されるHRGの非存在下では、これらは低レベルから検出不可能なレベルまでの、分子量(M
r)が180,000程度のチロシンリン酸化タンパク質を示すからである。
【0198】
MCF7細胞を、24ウェルプレートにプレートし、そしてErbB2に対するモノクローナル抗体を各ウェルに添加し、そして室温で30分間インキュベートした;次いで、rHRGβ1
177−244を、0.2nMの最終濃度まで各ウェルに添加し、そしてインキュベーションを8分間続けた。培地を注意深く各ウェルから吸引し、そして100μlのSDSサンプル緩衝液(5% SDS、25mM DTT、および25mM Tris−HCI(pH 6.8))の添加によって、反応を停止させた。各サンプル(25μl)を、4〜12%の勾配のゲル(Novex)上で電気泳動し、次いでポリビニリデンジフルオリド膜に電気泳動的に移した。抗ホスホチロシン(4G10、UBI由来、1μg/mlで使用)免疫ブロットを現像し、そして分子量(M
r)約180,000の優先的な反応性バンドの強度を、以前に記載されたように(Holmesら、Science
256:1205−1210(1992);Sliwkowskiら、J.Biol.Chem.269:14661 −14665(1994))反射デンシトメトリー(reflectance densitometry)によって定量した。
【0199】
モノクローナル抗体4D5は、分子量180,000におけるHRG誘導チロシンリン酸化シグナルの発生を、有意に阻害した。HRGの非存在下では、分子量が180,000程度のタンパク質のチロシンリン酸化を刺激し得なかった。また、この抗体は、EGFR(Fendlyら、Cancer Research 50:1550−1558(1990))とも、ErbB3とも、ErbB4とも交差反応しない。モノクローナル抗体4D5は、約50%までチロシンリン酸化のHRG刺激をブロックし得た。
【0200】
外因性rHRGβ1の存在下または非存在下での、モノクローナル抗体4D5の、MDA−MB−175細胞およびSK−BR−3細胞に対する 増殖阻害の効果を評価した(Schaeferら、Oncogene 15:1385−1394(1997))。MDA−MB−175細胞におけるErbB2レベルは、正常な胸部上皮細胞において見出されるレベルより4〜6倍高く、そしてErbB2−ErbB4レセプターは、MDA−MB−175細胞において、構成的にチロシンリン酸化される。モノクローナル抗体4D5は、MDA−MB−175細胞の細胞増殖を、外因性HRGの存在下と非存在下との両方において、阻害し得た。4D5による細胞増殖の阻害は、ErbB2発現レベルに依存する(Lewisら、Cancer Immunol.Immunother.37:255−263(1993))。66%の最大阻害が、SK−BR−3細胞において検出され得た。しかし、この効果は、外因性HRGによって克服され得た。
【0201】
(ヒト化)
マウスモノクローナル抗体4D5を、米国特許第5,821,337号(これは、その全体が参考として本明細書中で明示的に援用される)に記載の、新規の「遺伝子変換変異」ストラテジーを利用してヒト化した。以下の実験で使用されるヒト化モノクローナル抗体4D5は、その特許の中でhu4D5−8として示される抗体改変体である。Hu4D5−8は、軽鎖可変ドメイン(V
L)(配列番号1)および重鎖可変ドメイン(V
H)(配列番号2)を含む。この配列番号1の軽鎖可変ドメインは、以下の3つの超可変領域である:V
L−超可変領域1(アミノ酸RASQDVNTAVA(配列番号19)を含む);V
L−超可変領域2(アミノ酸SASFLYS(配列番号20)を含む);V
L−超可変領域3(アミノ酸QQHYTTPPT(配列番号21)を含む)。同様に、配列番号2の重鎖可変ドメインも、以下の3つの超可変領域である:V
H−超可変領域1(アミノ酸GFNIKDTYIH(配列番号22)を含む);V
H−超可変領域2(アミノ酸RIYPTNGYTRYADSVKG(配列番号23)を含む);V
H−超可変領域3(アミノ酸WGGDGFYAMDY(配列番号24)を含む)。
【0202】
(実施例2)
(HU4D5−8改変体)
多くの場合、抗体の認識は、抗原結合部位の中央に接触する超可変領域の残基の一部に関与する(Schierら、J Mol Biol 263(4):551−67(1996)を参照のこと)。これは、hu4D5として公知のヒト化抗体による腫瘍抗原HER2の認識における場合である。ファージディスプレイは、結合部位の全体的な改変体の調査を可能にし、親和性を改善するためにさらなる置換がなされ得る位置を明らかにした。hu4D5−8の軽鎖および重鎖のアミノ酸配列は、CDR残基と共に
図1Aおよび
図1Bにそれぞれ示した。
【0203】
hu4D5−8抗体の高親和性HER2結合部位中の配列変異性を、1価的に表現されたFab−ファージライブラリーを構築すること、HER2結合クローンを選択すること、および高レベルの全体的な多様性(最小限の同種、これは同一のクローンの発生である)が観察される選択工程の時点において、各々のライブラリープール由来の多くの試料(50〜70クローン)を配列決定すること、により試験した。
【0204】
(置換のためのCDR残基の選択)
ファージライブラリーの設計は、アラニンスキャニング研究に由来する4個の重要な残基に集中した(Kelley,R.F.およびO’Connell,M.P.、Biochemistry 32(27):6828−35(1993))。これらは、軽鎖(V
L)の可変的ドメインと重鎖(V
H)の可変的ドメインの両方(H91(V
L)、R50(V
H)、W95(V
H)、およびY100a(V
H))(Kelley,R.F.およびO’Connell,M.P.、Biochemistry 32(27):6828−35(1993))において、CDR残基を含む。V
L:V
H界面に対して近接した、抗原結合部位の中央に近く、hu4D5−8の結晶構造の検査に基づいて(Eigenbrotら、J Mol Biol 229(4)969−95(1993))、付加的に表面露出した残基もまた、置換のために選択される。主鎖構造または標準的な構造に対する重要性が公知の残基(Chothiaら、Nature 342(6252):877−83(1989))は、ライブラリーから除外した。すべての改変体の十分な表現を達成するために、標的位置を、5つのライブラリーに分割し、その各々が表面位置の小さいクラスタからなり、各々に標的とした残基がわずか7個であるように分割した。各ライブラリー(CDR−H3中の5個の残基を標的とするライブラリーを除く)は、V
LとV
Hの両方に由来する残基の変異を可能とした(
図2)。いくつかの残基は、状況の影響を試験し、他の近位位置での共変動を可能にするために、1つより多くのライブラリーにおいて発現させた。
【0205】
(部位特異的変異誘発における使用のためのオリゴヌクレオチド)
hu4D5−8の合計19残基を、20のすべてのアミノ酸をコードする変性NNSコドン(N=A,G,TまたはC;S=GまたはC)での部位特異的変異誘発を使用して、無作為化した。部位特異的変異誘発を、以下のデオキシオリゴヌクレオチドを使用して実施した:
【0206】
【化1】
【0207】
選択されたファージを配列決定するために使用したオリゴヌクレオチドは、
【0208】
【化2】
【0209】
である。
【0210】
(hu4D5−8ファージライブラリーの構築)
hu4D5−8ファージミド(564/11)は、Fab(Kelleyら、Biochemistry 31(24):5434−41(1992))の軽鎖および重鎖を融合することにより、M13ファージ被膜タンパク質の1つをコードするg3の短縮形態になるように作製した。
【0211】
hu4D5ライブラリーを、以前の方法(Sidhuら、Methods Enzymol 328:333−63(2000a);Lowman,H.B.、Methods
Mol Biol 87:249−64(1998))に記載されるように構築した。各々のライブラリーに関して、鋳型は、アミノ酸が突然変異されるべき位置に導入された終止コドン(TAA)を含む、ファージミド564/11の改変版であった。各々のライブラリーに対して、異なる終止用テンプレートを作製した。終止用テンプレートおよび前の節に記載した変異原性オリゴを、標準的Kunkel突然変異誘発(Kunkelら、Methods Enzymol 204:125−39(1991))において使用した。終止用テンプレートに対する変異原性オリゴのアニーリングは、終止コドンを修復し、そして所望の突然変異を誘導した。すべてのライブラリーが10
10の次数にあり、理論的な多様性の10倍〜1000倍以上で良好であった。このことは、各々のライブラリーにおいて、すべての改変体の複製物が少なくとも1つ存在することを保証した。
【0212】
(hu4D5−8ファージライブラリーの選別)
ファージを、E.coli中で増幅し、そしてHER2−ECDの濃度減少を利用して、10nMで開始し、各ラウンドで10倍減少する徐々にストリンジェントなラウンドの抗原結合選択に供した。
【0213】
ファージライブラリーを、以前に記載されたストラテジー(Hawkinsら、J Mol Biol 226(3):889−96(1992))と類似のストラテジーを使用して、HER2レセプターに対する結合能により選択した。ビオチン化HER2−ECD抗原に結合したライブラリーファージを、37℃にて1時間乳タンパク質でブロックしていた磁気ビーズで捕捉した。ビーズに付着したファージを37℃にて1時間プレインキュベーションすることで、各々のラウンドにおいて選択されたファージの非特異的結合を最小限にした。HER2−ファージ複合体と結合したビーズを分離し、ラウンド1では5回、そしてその後のすべての選別のラウンドでは10回洗浄した。ファージをビーズから溶出させ、HClで中和した。溶出させたファージの一部を、M13−VCS(Stratagene)の存在下、迅速に分離するXL−1(Stratagene、La Jolla、CA)またはSS320(Sidhuら、Methods Enzymol 328:333−63(2000b))細胞中で増殖させた。ライブラリーの大きさは、細胞の連続希釈液を寒天にプレーティングすることにより決定した。ライブラリーの富化度は、抗原の存在下および非存在下で単離されたファージの数を比較することにより決定した。その他の点では、ファージは、プレインキュベーション工程、磁気ビーズによる分離工程、および洗浄工程に関して、同様に処理した。
【0214】
選択の最初のラウンドにおいて、1×10
13個のライブラリーファージを、10nMの抗原と共にインキュベートした。次いで、その後の各々の選別のラウンドでは、抗原の濃度を10分の1に減少させた。個々のクローンのファージの上澄み液を、ファージELISA(Lowman,H.B.、Methods Mol Biol 87:249−64(1998))において、活性に関してアッセイし、そして50%より多くが、選択の第2ラウンド後に陽性であったことを示した。すべてのライブラリーは、ラウンド4(0.01nMの抗原を使用する選択)までに富化を示した。
【0215】
(ファージDNAの配列決定および分析)
ファージを、細胞培養上澄み液から直接に、配列決定した。ファージについての標準的なPCR反応で、Fabの軽鎖および重鎖を増幅した。M13の一般的な順方向および逆方向のプライマー配列は、PCRプライマーに含まれるため、生成物は標準的なプライマーで容易に配列決定し得た。得られた配列を、最初に、以前に記載されたようにSGcount(Weissら、Proc Natl Acad Sci U S A 97(16)、8950−4(2000))で分析した。配列が不確定なクローンは、分析から除外した。次いで、残った配列を、(1)同種の除去、(2)NNSコドンの使用の結果である任意のコドンの偏りに対する標準化、および(3)異なるライブラリー由来の結果を直接に比較し得るための、配列総数に対する標準化、によりフィルターをかけた。各々のライブラリーに関して分析したクローン数は、以下の通りであった:ライブラリー1から71個、ライブラリー2から82個、ライブラリー3から71個、ライブラリー4から74個、およびライブラリー5から57個。
【0216】
(hu4D5−8結合部位中の可変性の分析)
hu4D5−8結合部位中の配列の可変性を系統的にマッピングするために、配列データからWu−Kabat可変性係数を計算した。可変性(V
s)は、所定の位置での種々のアミノ酸の数を、所定の位置での最も一般的なアミノ酸の頻度で除算した数である(Wu,T.T.およびKabat,E.A.、J Exp Med 132(2)、211−50(1970))。
【0217】
各々のライブラリー由来のクローンを、HER2−ECD選択の4ラウンド後に配列決定した。配列データを、一度より多く示されたコドンに対して調節するために標準化した。ほとんどのライブラリーにおいて、同種(DNA配列と同一のクローン)はほとんどなかった。しかし、ライブラリー4は、全体でわずか7個の固有の配列を有する単一の配列により支配されており、そしてライブラリー4において2個の残基以外すべてが、他の場所で変異したため、ライブラリー4はさらなる分析から除外した。残りのライブラリーにおける任意の同種もまた、アミノ酸の可変性分析において除外した。
【0218】
この測定を使用すると、アミノ酸を選択したファージの可変性を、Kabatのデータベース(Johnson,G.およびWu,T.T.、Nucleic Acids Res 29(1):205−6(2001))中に見出される天然の可変性(およそ2000のヒトIgκ軽鎖および4500のヒトIg重鎖)と、比較し得た。結果(
図5)は、Kabatデータベース中の広範な抗体の可変性と比較した場合の、hu4D5−8残基における極端に減少した可変性を示した。しかし、hu4D5−8結合部位中では、本実施例で試験した残基の可変性において、明らかな相違がある。これらの位置を、その可変性点に従ってランク付けした:クラス1、相対的に不変な残基(V
s<10);クラス2、中程度に可変的な残基(V
s=10〜40);そしてクラス3、高度に可変的な残基(V
s>40)。4つのライブラリーから選択されたクローンに対する配列情報を、
図3に示した。この配列情報は、この分類系に従って示した。すべてのアミノ酸が、いくつかの頻度および位置で観察されたが、CysおよびGlnは単に例外的に観察された(2つの位置それぞれで2〜3%)。可変性の様式と結合親和性におけるその置換効果との間の関係もまた、研究した。
【0219】
全体的に、野生型の残基は、多くの位置で強力に保存された。軽鎖の残基であるF53およびT94と共に、重鎖の残基であるY33、R50、Y56、R58、W95、G99、F100およびY100aは、標準化頻度が45%以上ですべて保存された(
図3)。Alaに変異した場合に12,000倍を超える効果であるY100a(V
H)(Kelley,R.F.およびO’Connell,M.P.、Biochemistry 32(27):6828−35(1993))、Alaに変異した場合に2000倍を超える効果であるR50(V
H)、および以前に突然変異されていないG99(V
H)は、約90%〜100%保存された(後の2つは2つの独立したライブラリーにおいて)。一方で、多数のライブラリーで現れるいくつかの残基は、アミノ酸発生において、状況依存的な相違を示した。18,000倍より大きいAlaヒットであるW95(V
H)は、1つのライブラリー(ライブラリー2)において、82%の頻度で優先的な残基として野生型を示したが、別のライブラリー(ライブラリー1)では、わずか59%であった。適度な7倍のAlaヒットであるF100(V
H)は、1つのライブラリー(ライブラリー3)において、かなり強力に保存されたが、別のライブラリー(ライブラリー5)では、TrpまたはMetにより置換された場合とほぼ等しい頻度であった。F53(V
L)は、いくつかの選択された残基が状況に応じてどのように変化するかについての別の実施例である。ライブラリー3において、野生型Pheは、Trpに対して67%〜16%で優先的であったが、ライブラリー5では、その優先度はTrpがPheに対して55%〜16%と逆転した(
図3)。
【0220】
野生型の残基は、他の位置でそれほど支配的ではない。興味深いことに、Ala置換がほとんど効果を有さないT94(V
L)では、Thrについて45%の保存が存在しただけでなく、化学的に明確な置換であるTrpがかなり高度に(27%)発生した。Alaスキャニング効果が6倍〜200倍の範囲を示したいくつかの軽鎖の残基もまた、非野生型残基の強力な選択(45%以上の頻度)を示したが、野生型の化学的特徴(2つのライブラリーにおけるN30(V
L)、Y55(V
L)、H91(V
L)、ならびにY92(V
L))は保存された。V
L30では、野生型のAsnは、選択されたクローンのわずか34%でしか発生せず、そして選択されたクローンの53%でSerに置換された。興味深いことに、V
L92の近隣で、Trpは選択されたクローンの41%で発生したが、Met、Phe、およびTyr(野生型)は各々、そのクローンの16%〜19%で発生した。V
L55でのTyrは、Trpにより優先的に置換され(58%)、そしてPheまたはTyrよりも低い頻度(各々12%)であった。これらの置換型は一般的に結合親和性において予測不可能な効果を有するため、これらの型を、可溶性hu4D5−8Fab調製物の状況下での点突然変異について、さらに試験した(以下を参照のこと)。
【0221】
残りの3つの位置(Y49(V
L)、D98(V
H)、およびY102(V
H))では、置換の様式は、約30%より多くの頻度で発生した単一のアミノ酸が全くなく、より複雑であった。これらの残基は、頻度が10%未満でWT同一性を維持し、そして最も多様なアミノ酸を有した。Y49(V
L)は、軽鎖:重鎖の界面で、Y55(V
L)と共にV
H100およびV
H102に面した。V
H49は、2つのライブラリーにおいて不完全に保存され(わずか9%WT)、そして状況に依存して、TrpまたはPheに対する優先性を示した。V
H102でのTyrは、結合親和性を改善するためのヒト化(Carterら、Proc Natl Acad Sci U S A 89(10):4285−9(1992b))の間に添加されたマウスCDR由来の側鎖であった;しかし、単離における点変異は、親和性に影響しなかった(Kelly,R.F.およびO’Connell,M.P.、Biochemistry 32(27):6828−35(1993))。ファージライブラリーデータから、ヒトの枠組み残基であるValは、実際にこの位置で優先的であった。ValおよびTyrは両方とも、この位置のヒトIg重鎖において、頻繁に発生する(Johnson,G.およびWu,T.T.、Nucleic Acids Res 29(1):205−6(2001))。近隣の残基であるV
L55は、不完全に保存された(上記で述べた)。最も不完全に保存された残基は、V
H98であった。D98(V
H)は、重鎖の可変的なループ3の先端に位置する。それは、選択されたすべてのクローンの98%で変異され、そしてCysを除くすべてのアミノ酸の置換がそこで観察された。この位置で最も頻度が高いアミノ酸は、Trpであり、23%の頻度で発生した。これらの置換もまた特定の目的のものであり、そしてそれらを、可溶性hu4D5−8Fab調製の状況下での点突然変異について、さらに試験した(以下を参照のこと)。
【0222】
(配列の可変性およびAlaスキャニングデータの比較)
アラニンスキャニングは、WT残基をアラニンで置換し、そして一般的に機能の損失を測定する。これらの実験で使用されたファージライブラリーに関する目標は、無作為な置換および抗原結合性選択を通じて機能を維持することであった。抗体の結晶構造(
図7)の状況下における、hu4D5−8のAlaスキャニング性マップ(Kelley,R.F.およびO’Connell,M.P.、Biochemistry 32(27):6828−35(1993))でのV
Sパラメーター(
図5)を使用して、配列の変異度を比較した。2つのマップは、いくつかの共通の特徴および異なる特徴を示した。
【0223】
hu4D5−8の4個の残基が、アラニン突然変異に基づくHER2−ECDの結合部位における抗原結合性に対して、最も重大であることが見出されてきた(Kelley,R.F.およびO’Connell,M.P.、Biochemistry 32(27):6828−35(1993))。これら、R50(V
H)、W95(V
H)、およびY100a(V
H)の3つの残基(
図7を参照のこと)の重要性は、これらが無作為化された状況にもかかわらず、WT同一性としてこれらが一貫して選択されたことにおいて、確認された。しかし、ファージディスプレイもまた、アラニンスキャニング法(
図7)により検出されないWTとして、高度に保存された4個のさらなる残基(N30(V
L)、R56(V
H)、R58(V
H)、およびG99(V
H))を選択した。これらのうちの2個であるN30(V
L)およびR56(V
H)は、アラニンに変異した場合、4分の1倍〜6分の1倍のK
Dの減少が見出された。アラニンスキャニングの結果とファージディスプレイの結果との間の1つの矛盾が、V
L91であった。V
L91がアラニンに変異された場合、結合性は200分の1倍の減少であった。V
L91は、2つの異なるライブラリーにおいて、選択されたすべてのクローンのうち44%〜45%で、Pheに変異した。WT hu4D5−8は、この位置にHisを有している。このHisは結晶構造において、わずか22%しか露出した表面領域を有さないため、なおPheに適合する余地があった(Eigenbrotら、J Mol Biol 229(4):969−95(1993))。余分な芳香族環は、近隣の残基に対して密集し得、疎水性の中核へと拡大し得る。
【0224】
アラニンは、無作為化された19個の残基のうちわずか6個(V
L49、V
L53、V
L55、V
H98、V
H99、V
H102)において発生し、そしてこれらの残基の5個に対しては6%未満の頻度であり、他の残基(V
H99)に対しては14%であった。これら6個の残基のうち4個は、アラニンスキャニングに含まれ、そしてこれら4個すべてが、2分の1倍のK
Dの減少を示した(Kelleyら、Biochemistry 31(24):5434−41(1992))。これらの位置でのアラニン選択の欠如は、これらの結果に一致し、本実施例で使用した条件下でのHER2結合選択が、結合親和性における2分の1未満の減少で改変体を除去することにおいて、一般に効果的であることを提供した。優勢な置換についてのFab結合親和性の分析は、このことを支持した(
図2および
図3)。なぜなら、高い頻度(50%を超える)のすべての改変体が、野生型の2倍以内の結合親和性を示したからである。対照的に、低い頻度(10%)の置換であるY100aF(VH)は、hu4D5−8の結合親和性よりも、約5分の1倍弱い結合親和性を示した(
図4)。
【0225】
ファージライブラリー選択は、抗原に対して高い親和性で変異体を選択することを目的とした。特定の側鎖の保存は、直接的な抗原の接触、抗体の構造安定性もしくは発現に対する必要条件、またはこれらの効果の組み合わせの結果となり得た。適当な構造安定性保存の実施例は、G99(V
H)での実施例であった。V
H99は、重鎖の可変的なループ3において、高度に保存された残基であった。この残基は、最も一般的にはGlyであるII型βターンである位置i+2ループである(Wilmot,C.M.およびThornton,J.M.、J Mol Biol 203(1)、221−32(1988))。そのため、それは恐らく構造安定性残基であるように思われた。
【0226】
(観察された置換の化学的特性)
脂肪族側鎖は、本明細書で試験されたライブラリーでは特異的に標的化されなかった。おそらく驚くことではないが、疎水的置換は、任意の所定の部位で支配し得なかった。しかし、この変異されたクローンの中に、低レベルを示す大多数の疎水的残基が存在した。もちろん、最も高い発生率は、R58(VH)で置換されたLeuについてたったの23%しかなかった。
【0227】
2つの極性側鎖は、よく保存されていた:R50(VH)およびR59(VH)。しかし、H91(VL)およびD98(VH)は、より高頻度で非極性芳香族残基に置換され、そしてT94(VL)は、時々Trpに置換される。D98W(VH)は、以下に考察されるように抗体結合を改善するので、特に興味深くあった。
【0228】
化学的特徴の保存は、hu4D5−8ライブラリーにおいて芳香族残基および疎水的残基の中で特に生じた。選択されたクローンの80%以上において、芳香族を好む6残基(V
H100a、V
H56、V
L53、V
H33、V
H95、およびV
L55)が存在した。5つの部位(V
L49、V
L53、V
L91、V
L92、V
H100)は、選択された時点の50%以上で芳香族を選択した。残基に対してしばしばある偏りが生じたが、一つの場合(V
H100)においては、PheおよびTrpが、等しい頻度で生じた(30%または34%)。
【0229】
3つの高度保存残基は、カチオン−π相互作用に関係しやすい。この相互作用は、Arg(V
H50)と、Tyr(V
H33)と、Trp(V
H95)との間であった(Gallivan,J.P.およびDougherty,D.A.,Proc Natl Acad Sci U S A 96(17):9459−64(1999))。一つのライブラリーにおいて変異された場合、これらのクローンの93%において、V
H50でArgが生じた。Trp V
H95は、これらのクローンの59%において選択され、そして、選択されたクローンの61%においてTyr V
H33であった。V
H95およびV
H33での他のアミノ酸置換は、PheまたはTyr(V
H95)ならびにTrp(V
H33)のような他の疎水的残基によるものであった。これらの変異は、おそらく、すべてArg V
H50により化学安定性を保存した。この結果は、アラニンへ変異された場合これらの残基の2つ(V
H50およびV
H95)が、ΔΔGを劇的に増加させる事実により支持された(Kelley,R.F.およびO’Connell,M.P.,Biochemistry 32(27):6828−35(1993))。
【0230】
他の芳香族もまた、保存された。hu4D5−8結合部位の表面上で、これらは高度保存残基の領域を取り囲んだ(
図7)。これらの変異のいくつかは、一セットの予想されるπ−π相互作用を含んだ。一つの実施例は、V
L53位、V
L49位およびV
H100位であった。hu4D5−8においては、これらは、それぞれフェニルアラニン、チロシン、およびフェニルアラニンであった。hu4D5−8の構造は、これらの残基が互いに5Å以内であり、そしてこの芳香族環が向き合うか、またはπ−π相互作用に特有の好ましいT型立体配置にあることを示した(Burley,S.K.およびPetsko,G.A.,Science 229(4708):23−8(1985))。ライブラリー3に関して、外部のフェニルアラニンは保存され、一方で中央部のTyrは、選択されたクローンの28%においてPheを選択した。異なるライブラリー(すなわちライブラリー5)において、すべての3つの残基が改変された。V
L49において、これらのクローンの31%がTrpを有したが、55%は、V
L53でTrpを有し、そして64%はV
L100でTrpまたはPheのどちらかを有した。これらのライブラリーの両方(この中でこれらは変異誘発されていた)においてこれらの位置が芳香族アミノ酸を選ぶという事実は、hu4D5−8の表面上で安定化されたπ−π相互作用の保存は、抗体構造に対して重要であることを示唆した。これらは、抗体結合接触にもまた寄与していてもよい。
【0231】
別のπ−π相互作用は、軽鎖および重鎖の表面に位置する2つのチロシン(V
L55およびV
H102)間で生じた。これらのチロシンは、T型ジオメトリーにあり、そして安定化の供給源であり得た。驚くべきことに、この相互作用は、選択されたクローンにおいては消失した。これらのクローンの35%が、V
L55をTrpで置換し、一方V
H102は19%のバリンの出現頻度を有した。大部分の任意の他のアミノ酸が、V
H102で生じ得たが、バリンがわずかに好まれた。
【0232】
(結合自由エネルギーに際しての非付加的な効果) hu4D5−8ファージライブラリーは、5つのライブラリーの中に19個の表面残基を分配した。いくつかの残基は、一つ以上のライブラリーに存在し、これらが近接して共変異(covary)することをが可能にした。複写ライブラリーに表された残基の中で、いくつかの違いが、上述のような文脈に基づいて観察された。しかし、共変異(covariation)の統計学的分析に基づいて、有意な任意のこれらの位置における置換の二つ一組の相関関係はなかったが、より多数の配列が、これらの相互作用をより明らかにし得た。
【0233】
大部分のFab変異体がK
Dにおいてわずかに負の効果を有するが、多重変異体M.7におけるすべての試験された点変異の組み合わせは、改善された結合アフィニティーをさらに与えた。いくつかの単一点変異は、hu4D5−8において、変異として明らかに加算性でなく、逆に結合、および/または折りたたみ安定性に影響するY100aF(V
H)およびY92W(V
L)が、他の変異との組み合わせにより、加算性原理により予想されたよりも大きい程度で、「レスキューされた」(Wells,J.A.,Biochemistry 29(37),8509−17(1990))。
【0234】
(実施例3)
(Hu4D5−8改変体Fab構築物)
実施例2において考察されたアッセイは、すべての試験されたクローンが抗原に対する高親和性(ナノモル〜ナノモル以下)結合親和性を保持したことを、定性的に上で実証した。これらのアッセイに加えて、可溶性Fabフラグメントの結合親和性もまた、試験した。
【0235】
(Fab結合試験のためのクローンの選択)
可溶性Fabフラグメントの文脈において点変異を使用する8個のクローン(非野生型残基の高頻度での発生および可変性供給源の範囲を表す)は、選択された置換がhu4D5−8 Fabと比較していかにHER2結合に影響するかを決定するために選択されおよび試験される。
【0236】
同種(sibling)のデータは、個々の部位での種々の変異を分析することに使用されないが、これらのデータは結合実験のための改変体の設計において考慮された。単一のクローンがいくつかの回数の選択の後に複数のコピーに存在した場合、これは潜在的に、結合、安定性または発現における改善によるものであり得たと、理由付けられた。最も豊富な同種(sibling)の3つが、選択された:3重変異体(M.3(N30(V
L)S+H91(V
L)F+Y92(V
L)W)と呼ばれる)および単一変異体T94(V
L)SおよびY100a(V
H)F。これらのクローンは、配列決定されたクローンの全個数のざっと20%を表した。すべての個々の変異はまた、1個の多重変異クローン、M.7、(N30(V
L)S+H91(V
L)F+Y92(V
L)W+T94(V
L)S+D98(V
H)W+Y100a(V
H)F+Y102(V
H)V)の中に組み合わされた。
【0237】
(Fab構築物および精製)
Fab−発現プラスミドpAK19に対する変異を、QuikChange(登録商標)変異導入(Stratagene,La Jolla,CA)を用いて以前に記載されたように導入した(Carterら,Proc Natl Acad Sci U S A 89(10):4285−9(1992b))。Hu4D5−8 Fab変異体をE.coliにおける分泌により過剰発現させ(Carterら,Biotechnology (N Y)10(2):163−7(1992a))、そしてタンパク質−Gアフィニティーカラムを使用して精製した(Kelleyら,Biochemistry 31(24):5434−41(1992))。各々の変異体の濃度を、分光光度的に決定し、そして定量的アミノ酸分析により決定した;これらの2つの方法は、5〜12%以内で一致した。
【0238】
(表面プラズモン共鳴(SPR)結合親和性測定)
表面プラズモン共鳴(SPR)を、固定化されたHER2−ECDレセプターへの過剰発現されたFabの結合反応動態学を測定するために使用した。BIAcore−2000またはBIAcore−3000実時間反応動態学相互作用分析システム(Biacore Inc.,Piscataway,NJ)を、hu4D5−8 Fab変異体の会合定数(k
on)および解離定数(k
off)(Karlssonら,J Immunol Methods 145(1−2):229−40(1991))を決定するために使用した。B1バイオセンサーチップ(Biacore,Inc.)を、製造者の指示に従って活性化させ、そして10mMの酢酸ナトリウム(pH 4.8)中で86〜500RU(応答ユニット)のHER2−ECDで固定化した。未反応の群を、1Mのエタノールアミンでブロックした。hu4D5−8 変異体の固定化されたHER2−ECDへの結合の反応動態学は、泳動緩衝液(PBS、0.05% Tween、0.01% アジ化ナトリウム)中の100nM Fabで始まる一連の2倍希釈により、20μl/分の流速で測定した。結合測定を、19℃、25℃、31℃および37℃で、4つの異なる濃度の固定化HER2−ECDで記録した。データは、会合定数(k
on)と解離定数(k
off)との比を計算するBIAcore評価ソフトウエアバージョン3を使用して、1:1ラングミュア結合モデルに適合させた。平衡定数(K
D)を、k
off/k
onから計算した。野生型hu4D5−8と比較した自由エネルギー差異を、記載されるように計算した(Wells,J.A.,Biochemistry 29(37),8509−17(1990)):ΔΔG=−RT ln(K
D(変異体)/K
D(野生型))。
【0239】
(Fab改変体の抗体結合親和性)
変異型FabがHER2−ECDに生理学的温度(37℃)で結合するための反応動態学データが、
図4に示される。このFab変異体は、一般に非常に近い会合比定数および解離比定数(k
onおよびk
off)を有した。結果として、変異体の大部分はhu4D5−8 Fabと類似のK
Dを有した。1つの変異体Y100a(V
H)Fは、K
D上で4倍の負の効果を有した。二つの変異体は、改善されたK
Dを有し、37℃で、多重変異体M.7、(N30(V
L)S+H91(V
L)F+Y92(V
L)W+T94(V
L)S+D98(V
H)W+Y100a(V
H)F+Y102(V
H)V)は、1.5倍、そして単一変異体D98(V
H)Wは、約3倍であった(
図4)。
【0240】
19〜37℃の範囲の温度では、試験された改変体のすべては、1.0kcal/mol(野生型hu4D5−8のHER2への結合についての結合エネルギー)以内に十分入る結合エネルギーを示した(
図6)。同じ範囲で、hu4D5−8の親和性は、本質的に定常であり、K
Dは0.13〜0.33nMの範囲であった。
【0241】
変異体Y92(V
L)Wについて結合構築物は、報告しなかった。なぜなら、これは任意の他のFabの1/10未満で発現し、そしてHER2への乏しい結合を示したからである。これはファージにより選択されたが、この結果は、野生型hu4D5−8の背景において機能することが不可能であったことを示す。興味深いことに、この変異は、多重変異体、M.3またはM.7のいずれかの状況において「レスキューされた」。可溶性タンパク質としてほとんど挙動しないIGF−1の変異体を呈示された特定のファージについて観察されたように、g3タンパク質への融合は、折りたたみにおいて支持し得る(Dubaquie,Y.およびLowman,H.B.,Biochemistry38(20):6386−96(1999))。
【0242】
(親和性改善改変体の同定) hu4D5−8Fabの結合アフィニティーは、ナノモル以下の範囲で報告されている(Kelley,R.F.およびO’Connell,M.P.,Biochemistry32(27):6828−35(1993))。単一変異体、D98(V
H)Wを、野生型の3倍の改善を有するとして選択した。D98(V
H)は、重鎖の可変ループ3の先端に位置し、そして抗体の表面上で最も突出した残基である(Eigenbrotら,J Mol Biol 229(4):969−95(1993))。さらに、これはW95(V
H)(アラニンスキャンにおける4つの強いヒットの中の1つである)に隣接する。D98(V
H)は、ランダム化した19残基全ての中で最も変化する位置である。Trpは選択されたプールを支配しないが、最も高頻度の置換が選択される。予想される結合部位の隣の表面上のTrp V
H98の位置は、これが抗原に直接接触する配列の柔軟性の部位であり得たことを示唆する。
【0243】
(実施例4:4D5 Fabファージライブラリーを用いたストリンジェントなオフ速度(OFF−RATE)結合選択)
ヒト化4D5のさらなる高親和性改変体を検索するために、先の実施例において記載される4D5改変体の5つのライブラリー(Gerstnerら,J.Mol.Biol.321,851−862(2002)もまた参照のこと)を、結合標的として、固定化HER2での結合選択のために使用した。
【0244】
さらなるライブラリーを最初のライブラリーを用いた選択の結果に基づいて設計し、構築した。特に、ライブラリー6および7を設計して、選択された縮重コドンを使用して制限された多様性により、最初のライブラリーにおいて同定された残基の組み合わせを標的化し、先に同定されたものに近い位置での多様性を含めた。表2は、これらのライブラリーに、操作された多様性をまとめる。
【0245】
【表2】
【0246】
(表2:4D5ライブラリー5および6の設計)
前述の表2において、位置は、Kabatの番号付けの系(Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991))に従って示す。縮重コドンを、IUPACコード(R=A/G、Y=C/T、D=A/G/T、K=G/T、S=G/C、W=G/T、N=A/G/C/T)を用いて示す。
【0247】
一連の結合選択実験において、4D5ファージライブラリーを増殖させて、本質的に以下に記載のソートに供した(Lowman,Methods Mol.Biol.87,249−264(1998);Chenら,J.Mol.Biol.293:865−881(1999))。簡潔には、イムノソルベントプレート(Nunc Maxisorp)を、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)中、2μg/mlのHER2−ECDでコーティングし、BSA(ウシ血清アルブミン)でブロックした。その後、ファージを、BSAおよびTween−20を含むPBS中、約1011ファージ/mlの濃度で添加した。
【0248】
ストリンジェントなオフ速度選択のために、ファージ結合を、16時間以上の時間にわたって平衡に達するようにし、その後、PBS/Tween−20で洗浄し、(rhuMAb 4D5抗体ありまたはなし)0.01%アジ化ナトリウムを含む洗浄緩衝液中で連続的により長い時間、解離させた(表3)。ファージを、100mM HCIとの短時間(10分間)のインキュベーションにより溶出し、中和し、記載のように(Lowman,1998,前出)、XL1−Blue細胞(Stratagene)中で一晩増殖させた。
【0249】
(表3:オフ速度結合選択の条件)
【0250】
【表3】
【0251】
結合富化を、HER2 対 BSAウェルから回収したファージの力価を比較することにより測定した。結合選択の徐々に増加しているストリンジェントなラウンドに対する結果は、ライブラリー4を除く各ライブラリーについてのバックグラウンド結合に対するHER2−ECD結合ファージの富化を示す(データは示さず)。
【0252】
ファージクローンを、配列決定およびさらなる特徴付けのために、4ラウンドの結合選択後に単離した。これらのクローンの配列を、各位置での野生型(rhuMAb 4D5)の残基と比較して、表4に示す。有意性の統計学的検定(Lowman&Wells,J.Mol.Biol.234,564−578(1993))を、非野生型残基が一般的に観察される各位置での都合の良い置換を規定するために適用した(表4)。簡潔には、各アミノ酸のその観察される頻度(Pobs)を、特定のコドン縮重性を用いて、アミノ酸(Pexp)をコードし得るコドンの数から決定される予測される(無作為)頻度と比較する。その有意性スコアSは、S=(Pobs−Pexp)/σとして計算され、ここでσは、理論的不規則分布の標準偏差である(Lowman & Wells,1993,前出)。
【0253】
(表4:固定化HER2−ECDを用いる4回のオフ速度結合選択後の4d5ファージ単離物の配列))
【0254】
【表4-1】
【0255】
【表4-2】
【0256】
【表4-3】
【0257】
ライブラリー4を用いた4回目の選択から、配列決定可能なクローンは、回収されなかった。前述の表において、アンバー終止コドン(TAG)の読みとりによってコードされるGln残基は、Q*によって示される。自発的変異(VH Y102M)を、もともとのライブラリーにおける変異誘発のために標的化しなかった部位で同定した(**)。コンセンサス残基を、非野生型残基が、有意な頻度で存在する位置について示す。ライブラリー6〜7において使用される制限されたコドン選択が、表2に記載される。ライブラリー3において、「塩基性」残基とは、H、K、およびRの組み合わせをいう。ブランクは、対応する位置における不確定または決定されていない配列を示す。非野生型残基の存在は、それらの置換を含む改変体についての改善された結合親和性、安定性、および/または発現レベルを反映しうる。しかし、先の親和性変異研究において、有意性スコア>2は、しばしば、結合親和性の改善と相関した(Lowman&Wells,1993,前出)。従って、表4からの配列有意性スコアに基づいて、HER2に対する4d5の結合親和性を改善しうる置換を、表5に列挙する。これらの置換は、Gerstnerら(2002),前出の知見と比較されうる。例えば、その研究において、4D5−ファージの溶液相捕捉を用いると、ここで同定された置換のいくつかがまた、見出された。いくつかの位置は、類似の置換を示し、例えば、VL変異F53W、Y55WおよびY92Wは、先の実験において共通して見出された。しかし先の実験において共通して見出されなかった置換は、VHの98位で置換された塩基性残基(R、K、H)およびVHの100位で置換されているPを含む。これらの変異は、個々に、または他の変異と組み合わさって作用して、HER2に対する4D5の結合親和性を改善しうる。
【0258】
(表5:オフ速度選択からの位置によるコンセンサス残基のまとめ)
【0259】
【表5】
【0260】
(実施例5:オフ速度選択から選択された4D5クローンのスクリーニング)
選択された代表的クローンを、競合的ファージ−ELISAアッセイ(Lowman,1998)においてさらに特徴付けするために選択した。いくつかの改変体は、野生型4D5 Fabと比較すると、HER2−ECDに対して改善された結合を有するように見えた(表6)。野生型4D5の比較的高い親和性に起因して、このアッセイは、4D5の親和性成熟バージョンの信頼できる尺度を提供しない(Gerstnerら,2002);しかし、本発明者らはこのアッセイを用いて、さらなる分析のためにクローンを順位付けした。
【0261】
(表6)選択された4D5−ファージの競合的ファージ−ELISAの結果)
【0262】
【表6】
【0263】
報告された相対的IC
50は、IC
50(野生型)/IC
50(改変体)として計算する;値>1野生型より高い見かけの親和性を反映する。誤差を、標準偏差(s.d.)として報告する。比較のために、先に報告した改変体の2つの独立したクローンD98W(VH)の値もまた、示す。
【0264】
ファージ−ELISAの結果に基づいて、いくつかの改変体は、HER2に対する改善された結合親和性を有すると推定した:4d5.21、4d5.50、4d5.51、4d5.55、4d5.57、4d5.80、4d5.81、および4d5.92。全てのこれらのクローンの中で同定される点変異を、表7にまとめる。従って、これらの変異は、HER2に対する4d5の結合親和性を改善するように別個にまたは相乗作用的に作用すると示された。
【0265】
(表7:ファージ−ELISAスクリーニングによって同定される最も高い親和性改変体の中で見出された位置による点変異のまとめ)
【0266】
【表7】
【0267】
2つの最も高い見かけの親和性改変体(4d5.21および4d5.92)において存在する変異を、(*)で示す。
【0268】
(実施例6:オフ速度選択から選択された4D5クローンの親和性測定)
Fab改変体の平衡結合親和性(Kd)を決定するために、可溶性FabフラグメントをE.coliにおいて生成し、固定化HER2−ECDを37℃で用いて、BIAcore結合アッセイ(Gerstnerら,2002)において試験した。Fab濃度を、定量的アミノ酸分析によって決定した。動力学的測定の結果を、表8にまとめる。
【0269】
(表8)
(表面プラズモン共鳴アッセイ(BIAcore)を使用する、選択した4d5 Fab改変体の結合速度論および結合親和性)
【0270】
【表8】
【0271】
上記の表8において、平衡解離親和性(Kd)を、n個の測定についてkoff/konとして計算する。誤差は、標準偏差(s.d.)として示される。相対的親和性を、Kd(WT)/Kd(改変体)として計算する。1より大きな値は、HER2−ECDについてのより高い見掛けの親和性を示す。
【0272】
これらの実験の結果は、ファージクローン4d5.51、4d5.80および4d5.50に対応するFab、ならびに以前に記載された点変異体D98W(VH)は、各々、WTと比較して2倍を超えて改善した結合を有することを、示す。比較のために、これらの改変体の各々において見出される置換を、表9にまとめる。一方、4D5.21および4D5.55は、ほとんど改善を有さないか、またはわずかに結合が弱い。
【0273】
相対的なオン速度(on−rate)およびオフ速度(off−rate)の比較は、溶液相結合選択(Gerstnerら、2002)によって同定されたD98Wは、konおよびkoffの両方が改善し、一方、固定4d5を使用する厳密なオフ速度選択によって同定された最良の改変体は、一貫して、より遅いkoffを有し、WTと比較してkonが遅かったことを示す。
【0274】
(表9)
(速度論分析によって同定された親和性が改善した4d5改変体の点変異。WTと異なる残基が、太字で示される。WTと同一の残基が、(−)で示される)
【0275】
【表9】
【0276】
(実施例7)
(選択された変異の組み合わせによって生成された4D5改変体)
変異は、個別に作用し得るか、または同じ4d5ファージ選択体において見出される他の変異と組み合わせて作用し得るので、本発明者らは、最高の親和性改変体(以前に記載されたD98W(VH)を含む)からの変異の組み合わせを試験することに興味を抱いた。一組の改変体を、「DWW」(すなわち、VL変異D49D/F53W/Y55W)単独、ならびに「DWW」および「PL」または「PK」(すなわち、VH変異F100P/Y102KまたはF100P/Y102L)とVH変異D98Wとの組み合わせの寄与を試験するために設計した(表10)。
【0277】
(表10)
(4d5の組み合わせ改変体)
【0278】
【表10】
【0279】
改変体Fabを、部位特異的変異誘発によって生成し、E.coliにおいて発現させ、そして37℃でBIAcore結合によってアッセイした。これらのアッセイにおいて、会合定数および解離定数を、以前に記載された(Gerstnerら、2002)通りに測定したが、但し、各実験の解離相を30分間まで延長させて、非常に遅いkoff速度のより正確な測定が観察されるのを可能にした。結果を表11に示す。
【0280】
(表11)
(選択された4d5−ファージ改変体からの変異を組み合わせる4d5改変体の速度論分析(BIAcore)からの結合親和性)
【0281】
【表11】
【0282】
上記の表において、konおよびkoffを、BIAcore BIAevaluationソフトウェアを使用して別個に適合させた。平衡解離親和性(Kd)を、n個の測定について、koff/konとして計算する。誤差は、標準偏差(s.d.)として示される。相対的親和性を、Kd(WT)/Kd(改変体)として計算する。1より大きな値は、HER2−ECDについてのより高い見かけの親和性を示す。N.D.=決定せず。
【0283】
これらの長期解離アッセイの結果により、改変体D98W、4d5.50および4d5.51が、野生型と比較して改善されたHER2に対する結合親和性を有することが、確認された。しかし、D98Wと100P/Y102KまたはF100P/Y102Lとの組み合わせは、これらの実験において付加的改善を生じなかった。
【0284】
本明細書中および本明細書全体を通して引用されるすべての参考文献は、本明細書中に参考として明示的に援用される。
【0285】
(生物学的材料の寄託)
以下のハイブリドーマ細胞株は、American Type Culture Collection,10801 University Boulevard,Manassas,VA 20110−2209、USA(ATCC)に寄託された。
【0286】
抗体名 ATCC番号 寄託日
4D5 ATCC CRL 10463 1990年5月24日。
【0287】
この寄託は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約(ブダペスト条約)の規定によってなされた。このことは、寄託日から30年間の生存培養物の維持を保証する。この生物は、ブダペスト条約の条件下ではATCCによって入手可能にされ、Genentech,Inc.とATCCとの間の同意の対象である。このことは、適切な米国特許の発行の際、または任意の米国特許出願もしくは外国特許出願の公共に対する公開の際(いずれか早い方)に、公共に対するその培養物の子孫の永続的かつ無制限の利用可能性を保証し、そして米国特許商標庁長官によって、35 USC §122およびそれによる規則(37 CFR §1.12、886 OG 538に対する特定の言及を含む)に従って権利を有することが決定された人物に対するその培養物子孫の利用可能性を保証する。
【0288】
欧州特許を求める指定に関して、寄託された微生物のサンプルは、その欧州特許査定の公開まで、またはその出願が拒絶もしくは取り下げられるかまたは取り下げたと見なされる日まで、そのサンプルを要求する人物によって任命された専門家に対するそのようなサンプルの供給によってのみ、入手可能になる(EPC規則28(4))。
【0289】
本出願の譲受人は、寄託中の培養物が、適切な条件下で培養された場合に死ぬか失われるかまたは破壊される場合に、通知された時に同じ培養物の生検体で迅速に置換することに同意している。寄託された株の入手可能性は、その特許法に従って任意の政府当局の下で付与される権利に違反して本発明を実施するための認可として解釈されるべきではない。
【0290】
上記の明細書は、当業者が本発明を実施することが可能であるために十分であると考えられる。本発明は、寄託された構築物によって範囲を制限されるべきではない。なぜなら、寄託された実施形態は、本発明の特定の局面のみを例示することが意図され、機能的に等価な任意の構築物が、本発明の範囲内にあるからである。本明細書中の材料の寄託は、含まれる本明細書の記載が、本発明の任意の局面(その最良の形態を含む)の実施を可能にするために不十分であるという承認を構成するわけでもなければ、特許請求の範囲を特定の例示に限定するものとして解釈されるべきでもない。実際、本明細書中に示されそして記載される本発明の種々の改変に加えて、本発明の種々の改変が、上記の記載から当業者にとって明らかになり、そしてそれは、添付の特許請求の範囲内にある。
【0291】
本発明の教示を特定の課題または状況に適用することは、本明細書中に含まれる教示を考慮すれば、当業者に能力の範囲内にあることが、理解される。本発明の生成物およびその単離、使用、および製造のための代表的プロセスの例は、本発明を限定するように解釈されるべきではない。