特許第5782457号(P5782457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

特許5782457圧電セラミックス、圧電セラミックス部品、及び該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイス
<>
  • 特許5782457-圧電セラミックス、圧電セラミックス部品、及び該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイス 図000004
  • 特許5782457-圧電セラミックス、圧電セラミックス部品、及び該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイス 図000005
  • 特許5782457-圧電セラミックス、圧電セラミックス部品、及び該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイス 図000006
  • 特許5782457-圧電セラミックス、圧電セラミックス部品、及び該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイス 図000007
  • 特許5782457-圧電セラミックス、圧電セラミックス部品、及び該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイス 図000008
  • 特許5782457-圧電セラミックス、圧電セラミックス部品、及び該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイス 図000009
  • 特許5782457-圧電セラミックス、圧電セラミックス部品、及び該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイス 図000010
  • 特許5782457-圧電セラミックス、圧電セラミックス部品、及び該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイス 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782457
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】圧電セラミックス、圧電セラミックス部品、及び該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/00 20060101AFI20150907BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20150907BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20150907BHJP
   H01L 41/107 20060101ALI20150907BHJP
   H01L 41/08 20060101ALI20150907BHJP
   H01L 41/083 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   C04B35/00 J
   H01L41/18 101B
   H01L41/08 C
   H01L41/08 A
   H01L41/08 Z
   H01L41/08 L
   H01L41/08 S
   H01L41/08 Q
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-549728(P2012-549728)
(86)(22)【出願日】2011年12月13日
(86)【国際出願番号】JP2011078735
(87)【国際公開番号】WO2012086449
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2013年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-288242(P2010-288242)
(32)【優先日】2010年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(72)【発明者】
【氏名】波多野 桂一
(72)【発明者】
【氏名】清水 寛之
(72)【発明者】
【氏名】土信田 豊
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−047064(JP,A)
【文献】 特開2003−306379(JP,A)
【文献】 特開2009−242230(JP,A)
【文献】 特開2010−225705(JP,A)
【文献】 特開2000−313664(JP,A)
【文献】 特開2009−114049(JP,A)
【文献】 特開昭56−030713(JP,A)
【文献】 特開2004−244299(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/128647(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0108423(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/22
CiNii
JSTPlus(JDreamIII)
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、Na、K、Nb及びOをその構成元素とするアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスにおいて、組成式LiNbOで示される結晶相を保持し、組成式{Li[Na1−y1−xNbO(但し、式中、0<x≦0.20、0≦y≦1、1.0≦a≦1.01である。)で示され、AgをAgO換算として前記組成式で示される圧電セラミックス100molに対して、0.5mol以下含有させたことを特徴とする圧電セラミックス。
【請求項2】
第一の電極と第二の電極とが圧電セラミックス層を介して対向する圧電セラミックス部品において、前記圧電セラミックス層が、請求項記載の圧電セラミックスで形成されていることを特徴とする圧電セラミックス部品。
【請求項3】
第一の電極と第二の電極とが圧電セラミックス層を介して交互に複数層積み重ねられており、前記第一の電極と電気的に接続する第一の端子電極と、前記第二の電極と電気的に接続する第二の端子電極とを有する圧電セラミックス部品において、前記圧電セラミックス層が、請求項記載の圧電セラミックスで形成されていることを特徴とする圧電セラミックス部品。
【請求項4】
圧電セラミックス層を有する基板を有し、その圧電セラミックス層の上部に第一の電極と第二の電極が対向して配置される圧電セラミックス部品において、前記圧電セラミックス層が、請求項記載の圧電セラミックスで形成されていることを特徴とする圧電セラミックス部品。
【請求項5】
第一の電極と第二の電極とが圧電セラミックス層を有する基板上に交互に複数層対向しており、前記第一の電極と電気的に接続する第一の端子電極と、前記第二の電極と電気的に接続する第二の端子電極とを有する圧電セラミックス部品において、前記圧電セラミックス層が、請求項記載の圧電セラミックスで形成されていることを特徴とする圧電セラミックス部品。
【請求項6】
請求項のいずれか1項に記載の圧電セラミックス部品を用いたことを特徴とする圧電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛等の重金属元素を含有しないアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造の圧電セラミックス、及び該圧電セラミックスを用いた圧電発音体、圧電センサ、圧電アクチュエータ、圧電トランス、圧電超音波モータなどの圧電セラミックス部品、並びに該圧電セラミックス部品を用いた圧電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミックスは、電気エネルギーを機械エネルギーへ変換し機械エネルギーを電気エネルギーへ変換する圧電材料の一種であり、多くの電子デバイスへ応用されている。この圧電セラミックスとして、例えば、PbTiO−PbZrOの2成分よりなる二成分系の鉛含有圧電セラミックス(以下、「PZT」という。)や、Pb(Mg1/3Nb2/3)OやPb(Zn1/3Nb2/3)Oを第3成分として有する三成分系の鉛含有圧電セラミックスが知られている。これらのPZTは高い圧電効果を備えるため、圧電セラミックス部品として広く使用されている。しかしながら、PZTを主成分とする圧電セラミックスについては、生産工程時におけるPbOの揮発、酸性雨に曝されることによるPb成分の流出など、環境負荷が高いことが問題となっている。
【0003】
このため、鉛を含有しない非鉛系圧電セラミックスが求められている。非鉛系圧電セラミックスの開示例として、例えば、Nature,432(4),2004,pp.84−87(非特許文献1),及び、Applied Physics Letters 85(18),2004,pp.4121−41232(非特許文献2)には、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有し、PZTに匹敵する圧電効果を有する圧電セラミックスが開示されている。
【0004】
これらのアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスは、さらに特開2002−068835号公報(特許文献1)、特開2003−342069号公報(特許文献2)、及び特開2004−300012号公報(特許文献3)にも開示されている。特許文献2、3の圧電セラミックスは、は、Li、Na、K、Nb、Ta、Sb及びOを主成分とし、一般式{Li[Na1−y1−x{Nb1−z−wTaSb(式中、x、y、z、w、a及びbはモル比を示しており、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、a≦0.95、b≦1.05である。)で示され、高い圧電特性(圧電定数、電気機械結合係数など)を有する。また、特開2008−169113号公報(特許文献4)に開示されているように、上記一般式で表される主成分の化合物1molに対して、0.001mol〜0.15molのAgを添加元素として加えることにより、圧電定数、電気機械結合係数、比誘電率、誘電損失、キュリー温度のいずれか1つ以上の特性を向上させることができる。
【0005】
しかし、上記の一般式で示される圧電セラミックスのうち、アンチモン(Sb)は重金属に属し、人体に対する毒性が懸念される。したがって、アンチモンを含まない圧電セラミックスが望まれる。また、タンタル(Ta)によってキュリー温度を低下させて圧電セラミックスの誘電率を高め、圧電定数などの特性を高めることができるが、その反面、緻密なセラミックスを得るために必要な焼成温度が上昇してしまう。
【0006】
このように、Sb及びTaを含まずLi、Na、K、Nb及びOをその構成元素とするアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス(以下、「LNKN」という。)は、優れた圧電特性を有する一方、鉛含有圧電セラミックスよりも焼結性に劣る。例えば、LNKNの一種であるLi0.06Na0.470.47NbOは、非特許文献2に記載されているように、その分極軸方向への変位特性d33が235pC/Nであり優れた特性を示すが、緻密な焼結体を得るためには1050℃〜1100℃で焼成する必要がある。高い焼成温度で焼成を行うとアルカリ金属元素が蒸発しやすくなり、圧電効果が劣化する原因となる。このため、十分に高い圧電効果を有するセラミックスを得るためには、焼成温度を精密に制御する必要がある。
【0007】
特開2008−207999号公報(特許文献5)には、LiCO、LiBO、Liを混合した焼結助剤を用いることにより、低い焼結温度で緻密な焼結体を得る技術が開示されている。しかし、LiCOは焼成後にLiOとして焼結体中に残存するので、セラミックスの抵抗が低下してしまう。また、LiBOやLiは、圧電特性を低下させる原因となる。
【0008】
また、特開2004−115293号公報(特許文献6)には、(K,Na)(Nb,Ta)OのBサイトの元素(Nb,Ta)が化学量論比よりも過剰になるように出発原料の組成を調整するとともにCuOを添加することで焼結性の改善を図った圧電セラミックスが開示されている。しかし、この圧電セラミックスにおいても、緻密な焼結体を得るためには1050℃以上の焼結温度を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−068835号公報
【特許文献2】特開2003−342069号公報
【特許文献3】特開2004−300012号公報
【特許文献4】特開2008−169113号公報
【特許文献5】特開2008−207999号公報
【特許文献6】特開2004−115293号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nature,432(4),2004,pp.84−87
【非特許文献2】Applied Physics Letters 85(18),2004,pp.4121−4123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のとおり、LNKNの緻密な焼結体を得るには1050℃〜1100℃の焼成温度が必要とされるので、LNKNは、1000℃前後で緻密な焼結体が得られ且つ高い圧電特性を有する鉛含有圧電セラミックスの代替としては不十分である。例えば、貴金属又は卑金属を電極として有する積層圧電セラミックス部品用の圧電セラミックスとしてLNKNを利用する場合には、内部電極の収縮を抑制するために焼成温度を1000℃程度とすることが望ましいが、1000℃程度でLNKNの緻密な焼結体を得る技術はこれまでに知られていない。
【0012】
本発明の様々な実施形態は、圧電特性を損なわずに1000℃前後で焼結させることが可能なLNKNを主成分とするセラミック化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、Li、Na、K、Nb及びOを構成元素とするアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスにLiNbO結晶相を析出させることで、当該圧電セラミックスが1000℃前後で緻密に焼成できることを見いだした。
【0014】
本発明の一態様における圧電セラミックスは、Li、Na、K、Nb及びOを構成元素とするアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスを主成分とするセラミックスにおいて、組成式がLiNbOで示される結晶相を保持する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によって、圧電特性を損なわずに1000℃前後で焼結させることが可能なLNKNを主成分とするセラミック化合物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ABO型ペロブスカイト構造の結晶構造を示す模式図である。
図2】本発明の圧電デバイスの一例を示す側面図である。
図3】本発明の圧電デバイスの一例を示す模式断面図である。
図4】本発明の圧電デバイスの一例を示す平面図である。
図5】本発明の圧電デバイスの一例を示す模式断面図である。
図6】試料No.1及び試料No.2の各々の焼結密度の焼成温度依存性を示す図である。
図7】試料No.1(上段)及び試料No.2(下段)のX線回折プロファイルを示す図である。
図8】試料No.2〜No.6におけるX線回折プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本出願は、日本国特許出願2010-288242号に基づく優先権を主張する。同出願に記載の内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0018】
本発明の様々な実施形態における圧電セラミックス材料は、Li、Na、K、Nb及びOをその構成元素とし、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス(つまり、LNKN)を主成分とする。アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造は、ABO型のペロブスカイト構造の一種であり、AサイトにK、Na、Li等のアルカリ金属元素を含み、BサイトにNbを含む。図1にペロブスカイト構造の模式図を示す。図示の通り、ペロブスカイト構造は、Bサイトの周りに6つのOが配位され、Aサイトの周りに12のOが配位されて成る単位構造を有し、この単位構造が周期的に連続することで結晶を形成する。ペロブスカイト構造においては、Aサイトを占める元素とBサイトを占める元素との組成比(モル比)がペロブスカイト構造の化学量論比に従った1:1となるときに、全てのサイト位置が対応する元素で占められ、安定した構造が得られる。しかしながら、LNKNの焼結体の組成は、K、Na、Liの溶出や仮焼工程又は焼成工程におけるK、Na、Liの揮発などによって、化学量論比に従った組成から最大2%程度変動し得る。これらの構成元素の変動量は、その原材料、合成時期、合成工程によって変化する。
【0019】
そこで、初期配合において、Aサイトを占める元素(K、Na、Li)の原材料のBサイトを占める元素の原材料に対する配合比率を、化学量論比から定められる理想的な配合比率よりも高くし、最終的に得られる焼結体のAサイトを占める元素とBサイトを占める元素との組成比が1:1の化学量論比となるようにする。ただし、最終的に得られるLNKNが高い圧電効果を有するためには、焼結後のAサイトに含まれる元素とBサイトに含まれる元素との組成比は0.98<A/B<1.01の範囲とすることが望ましい。しかしながら、Aサイトを占めるK,Na,Li元素の原材料の配合比率を高めると、KO,NaO,LiO等酸化物やしKCO,NaCO,LiCO等の炭酸化合物が析出し、得られる圧電セラミックスの比抵抗率を低下させたり、潮解性を生じさせたりすることがある。
【0020】
本発明の一実施形態においては、LNKNから成る主成分にLiNbOを析出させることによって、高い焼結性を有する圧電セラミックが得られる。一態様において、LNKNの化学量論比よりもLiが過剰となるようにLiCO等のLiの原材料を配合することで、LNKNから成る主成分にLiNbOを析出させることができる。一態様においては、出発原料のLiCOとして、市販のLiCOをボールミルにて24時間予備粉砕して平均粒子径を1μm以下としたものを用いることができる。市販されるLiCOの多くは平均粒子径が5μm以上であり、このような平均粒子径が5μm以上のLiCOを用いると、LiNbOを析出させることは難しい。本発明の実施形態に係る圧電セラミックスにおいては、LNKNから成る主成分にLiNbOを析出させることで、1000℃前後で容易に焼結し、LiNbO結晶相を含有しない圧電セラミックスと比較して圧電特性が損なわれていない圧電セラミックスを得ることができる。本発明の実施形態に係る圧電セラミックスにおいては、アルカリ成分とニオブが1対1で含まれるペロブスカイト構造の主成分に、この主成分よりもアルカリ成分が過剰なLiNbO結晶相が析出することによって、焼結時にペロブスカイト構造から揮発するアルカリ成分を過剰なLiで補うことができ、これにより焼結性を補っていると考えられる。
【0021】
一実施形態において、LiNbO結晶相は、ICSD(Inorganic Crystal Structure Database)においてPDF−01−082−1198又はPDF−01−075−0902に記載されている立方晶系の結晶相であってもよい。一実施形態におけるLiNbO結晶相の格子定数は8.412Åもしくは8.429Åである。このうち、格子定数およびその各々の回折線強度比に関しては、LiNbO結晶相の結晶性、結晶構造内の欠損因子などにより、例えばコンマ2桁目以下の格子定数が変化する場合があるが、本発明の障害とはならない。
【0022】
本発明の一実施形態に係る圧電セラミックスは、組成式{Li[Na1−y1−xNbO(但し、式中、0.0<x≦0.20、0≦y≦1、1.0≦a≦1.01である。)で示される圧電セラミックスであってもよい。一実施形態における圧電セラミックスは、組成式{Li[Na1−y1−xNbO(但し、式中、0.03≦x≦0.10、0.40≦y≦0.60、1.0≦a≦1.01である。)で示される。本発明の実施形態に係る圧電セラミックスの構成元素の組成比をこれらの組成式に示された範囲内とすることで、鉛含有圧電セラミックスの圧電特性と同程度の特性を得ることができるとともに、1000℃前後で緻密に焼成することができる。したがって、圧電デバイスに用いられる鉛含有圧電セラミックスを代替可能な鉛を含有しない圧電セラミックスを提供することができる。
【0023】
本発明の一実施形態に係る圧電セラミックスは、{Li[Na1−y1−xNbOで示したLNKNから成る主成分100molに対して、AgO換算で0.1mol以上から0.5molの範囲のAgをを含有してもよい。これにより、LiNbO結晶相の析出をさらに促進でき、圧電特性を損なうことなくより容易に焼結させることが可能となる。一態様において、Agは、主成分100molに対して、AgO換算で0.1mol以上から0.25mol以下の範囲で含まれる。これにより、Agの含有量の増加に伴う比抵抗率の低下を抑制することができる。AgOを添加することにより、LiNbO結晶相のLiの一部がAgで置換で置換された(Li,Ag)NbO結晶相が析出するが、LiNbO結晶相のみが析出した場合と同様の効果を奏する。これは、LiNbO結晶相と(Li,Ag)NbO結晶相とは、結晶系、格子定数等の結晶としての物性を決定する対称性が等しいためである。
【0024】
特許文献4には、Ta及びSbを含む主成分に対してAgを添加することが開示されているが、本発明の実施形態に係る圧電セラミックスは、Ta、Sbを含まない点で特許文献4で開示された圧電セラミックスと区別される。
【0025】
本発明の一態様における圧電セラミックスは、第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znを少なくとも1種類含む。これにより焼結温度を制御したり、粒子の成長を制御したり、高電界化における絶縁破壊を制御することが可能となる。
【0026】
本発明の一態様における圧電セラミックスは、第二遷移元素であるY、Zr、Mo、Ru、Rh、Pdを少なくとも1種類含む。これにより、焼結温度を制御したり、粒子の成長を制御したり、高電界化における絶縁破壊を制御することが可能となる。
【0027】
本発明の一態様における圧電セラミックスは、第三遷移元素であるLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、W、Re、Os、Ir、Pt、Auを少なくとも1種類含む。これにより、焼結温度を制御したり、粒子の成長を制御したり、高電界化における絶縁破壊を制御することが可能となる。
【0028】
本発明の一態様における圧電セラミックスは、第一遷移元素及び第二遷移元素からそれぞれ選択された元素、第一遷移元素及び第三遷移元素からそれぞれ選択された元素、第二遷移元素及び第三遷移元素からそれぞれ選択された元素、又は第一遷移元素、第二遷移元素、及び第三遷移元素からそれぞれ選択された元素を含む。
【0029】
次に、図2図5を参照し、本発明の一実施形態に係る圧電セラミックスを用いた圧電セラミックス部品、及び圧電セラミックス部品用いた圧電デバイスについて説明する。図2の圧電セラミックス部品は、板状の圧電セラミックス層101と、第一の電極102と、第二の電極103とを備える。この第一の電極102と第二の電極103とは、圧電セラミックス層101を介して対向配置されている。圧電セラミックス層101は、本発明の一実施形態に係る圧電セラミックから成り、具体的には、組成式LiNbOで示される結晶相が析出したLNKNから成る。一態様において、圧電セラミックス層101は、圧電セラミックスの原料混合粉をバインダと混合し、この混合物を板状に成形した成形体を作り、この成形体を焼成することで作製される。次に、この圧電セラミックス層101の両面に、Cu、Ag、Au、Pt等の導電体を用いた導電ペーストを塗布し、この導電ペーストを焼き付けて第一の電極102及び第二の電極103を形成することで製造される。圧電セラミックス層101は、1000℃前後で緻密に焼成されるため、LiNbO結晶相を含有しない従来のLNKNを用いた場合に比較して量産性に優れる。
【0030】
図3は、本発明の一実施形態に係る積層型圧電セラミックス部品を示す模式断面図である。図示のとおり、本発明の一実施形態に係る積層型圧電セラミックス部品は、圧電セラミックス層101と、複数の第一の電極102と複数の第二の電極103と、第一の電極102の各々と電気的に接続される第一の端子電極104と、第二の電極103の各々と電気的に接続される第二の端子電極105とを含む。第一の電極102の各々は、隣接する第二の電極103と圧電セラミックス層101を介して対向配置されている。この積層型圧電セラミックス部品は、例えば積層圧電アクチュエータとして用いられる。この圧電セラミックス層101は1000℃前後で緻密に焼成することが可能であるため、本発明の一実施形態に係る積層型圧電セラミックス部品はLiNbO結晶相を含有しない従来のLNKNを用いた同種の部品と比較して量産性に優れる。
【0031】
図4は、本発明の一実施形態に係る圧電表面弾性波フィルタ(SAWフィルタ)を示す模式である。図示のとおり、本発明の一実施形態に係る圧電表面弾性波フィルタは、基板106と、基板106上に形成された圧電セラミックス層101と、基板106上の圧電セラミックス層101と略同一面上に対向配置された第一の電極102及び第二の電極103とを備える。圧電セラミックス層101は1000℃前後で緻密に焼成することが可能であるため、本発明の一実施形態に係る圧電表面弾性波フィルタは、LiNbO結晶相を含有しない従来のLNKNを用いた同種のフィルタと比較して量産性に優れる。
【0032】
図5は、本発明の一実施形態に係る屈曲型の圧電アクチュエータを用いたスイッチ素子の模式断面図を示す。図示のとおり、本発明の一実施形態に係るスイッチ素子は、基板106と、基板106上に形成された第一の電極102と、第一の電極102上に形成された圧電セラミックス層101と、圧電セラミックス層101上に形成された第二の電極103と、弾性体107と、接点108とを備える。圧電セラミックス層101は1000℃前後で緻密に焼成することが可能であるため、本発明の一実施形態に係る屈曲型の圧電アクチュエータを用いたスイッチ素子は、LiNbO結晶相を含有しない既存のLNKNを用いた同種のスイッチ素子と比較して量産性に優れる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。まず、主成分であるLNKNの出発原料として純度が99%以上のLiCO、NaCO(もしくはNaHCO)、KCO(もしくはKHCO)、及びNbを用意し、これらを組成式{Li[Na1−y1−xNbO(但し、式中、0.0≦x≦0.20、0≦y≦1、1.0≦a≦1.01である。)において、x=0.066、y=0.557、a=1.0の化学量論比となるように秤量した。出発原料のLiCOとして、市販のLiCOをボールミルにて24時間予備粉砕して平均粒子径が1μm以下となるように調整したものを用いた。また、LiNbO結晶相を析出させるための出発原料として、主成分のLNKN100molに対して0.2molのLiCOを秤量した。次に、秤量した主成分の原料とLiNbO結晶相を析出させるための原料とをボールミルで約24時間湿式混合して混合物を得た。次に、この混合物を約100℃の雰囲気で乾燥させた後、700℃〜1000℃で仮焼し仮焼成粉を得た。次に、この仮焼成粉をボールミルにて約24時間湿式粉砕し、約100℃の雰囲気で乾燥して、粉砕粉を得た。そして、Agを含有させた効果を確認するために、得られた粉砕粉に、主成分のLNKN100molに対して0.1mol、0.25mol、0.50mol、1.00molのAgOを加えたものをボールミルにてそれぞれ約24時間湿式混合した。次に、この混合物の各々を約100℃の雰囲気で乾燥させてAgOの含有量が異なる4種類のAgO混合粉砕粉を得た。次に、このAgO混合粉砕粉の各々に有機バインダを加えて混合し、この混合物を60メッシュの篩に通して粒度の調整を行った。次に、この粒度が調整された混合物の各々に対して1000kg/cmの圧力で一軸成型を行い、直径10mm、厚さ0.5mmの円板状の成型体を得た。次に、この成形体の各々を大気中で960℃〜1100℃で焼成することによって、Agの含有量が異なる4種類の圧電セラミックスの焼結体(表1の試料No.3〜No.6に相当)を得た。
【0034】
また、これらの試料No.3〜No.6に相当する圧電セラミックスを作製する工程においてAgOの混合工程のみを省略して、AgOを含まない圧電セラミックス(表1の試料No.2に相当)を作製した。また、この試料No.2に相当する圧電セラミックスを作製する工程においてLiNbO結晶相を析出させるためのLiCOを混合する工程を省略して、LiNbO結晶相を析出させるための過剰なLiCOを含まない(ただし、主成分LNKNの原料となるLiCOは含む)圧電セラミックス(表1の試料No.1に相当)を作製した。
【0035】
続いて、上述のようにして得られた6種類の圧電セラミックスの各々の両表面に銀ペーストを塗布し、この銀ペーストを850℃で焼付けて銀電極を形成した。次に、この銀電極が形成された圧電セラミックスの各々に対して絶縁性のオイル中で抗電界以上の約3〜4kV/mmの電界を直流電圧で15分間印加することにより分極処理を施した。その後、各資料を一晩静置することによって、圧電セラミックスの試料No.1〜No.6を得た。このようにして作製した圧電セラミックスの試料No.1〜No.6の組成は表1に記載のとおりである。
【0036】
【表1】
表1に記載した試料のうち、※が示してあるものは、本発明の範囲外にある試料である。
【0037】
次に、比較例の試料No.1及び本発明の実施例である試料No.2と同じ組成を有する圧電セラミックスを複数の焼成温度で作製し、各焼成温度で作製された焼結体の焼結密度を測定した。図6は、このようにして測定された焼結密度の焼成温度依存性を示すグラフである。図6から明らかなように、試料No.1と同じ組成を有する圧電セラミックスについては、1080℃まで焼結温度を高めなければ緻密に焼結させることが出来ないが、LiCOを過剰に添加した試料No.2と同じ組成を有する圧電セラミックスにおいては、1000℃前後から焼結が進んでおり焼結密度が高くなっていることが分かる。また、両者とも、1080℃以上の温度での焼成では、試料の部分的な融解が発生した。したがって、1080℃以上では均一な焼結体が得られないと判断した。
【0038】
次に、表1に記載の試料No.1〜No.6にLiNbO結晶相が含まれるかどうかを以下のようにして確認した。まず、各試料から電極をはぎ取ったものをメノウ乳鉢内を用いてエタノール中で30分間粉砕した。この粉砕された試料の各々について、X線回折法によってXRDを測定した。この測定には、X線回折計としてリガク社製RINT−2500PCを用い、集中法による測定を行った。線源はCu−Kα線、印加電圧は50kV、印加電流は100mAとした。測定方法には2θ/θ法を用い、10°≦2θ≦60°の範囲においてFixed Time法で0.02°間隔で1秒ずつ計測を行った。
【0039】
図7の上段はこのようにして測定された試料No.1のX線回折プロファイルを示し、図7の下段は試料No.2のX線回折プロファイルを示す。図7には、10°≦2θ≦35°となる回折プロファイルにおけるバックグラウンド近傍のピークを拡大して示す。図7から明らかなように、試料No.2のプロファイルには、☆(星印)で示されているLiNbO結晶相のピークが現れることが確認できた。
【0040】
図8は、試料No.2〜No.6のX線回折プロファイルを示す。図8の参照符号aのグラフは試料No.2のプロファイル、参照符号bのグラフは試料3のプロファイル、参照符号cのグラフは試料4のプロファイル、参照符号dのグラフは試料5のプロファイルであり、参照符号eのグラフは試料6のプロファイルである。図示のとおり、AgOを含有させた圧電セラミックスにおいては、AgOの含有量が増加するほどLiNbO結晶相の析出量が増加していることが分かる。したがって、AgOを含有させることによって、LiNbO結晶相を主相のLNKNに析出させることができる。
【0041】
次に、試料1〜6のそれぞれについて、電子情報技術産業協会規格であるJEITA EM−4501に則って共振−反共振法によって表2に示す各電気的特性の測定を行った。この測定は、インピーダンスアナライザ(横河・ヒューレットパッカード製:YHP4194A)を用いて行った。また、圧電d33定数については、d33メータ(中国科学院声学研究所製:ZJ−6B)を用いて圧電特性の評価を行った。試料No.1と試料No.2については、1000℃および1080℃で焼成した試料の各々について各係数を測定し、試料No.3〜6については、1000℃で焼成した試料の各係数を測定した。ε33/εは分極処理中に電界を印加した方向における分極処理後の比誘電率を示し、kpは分極処理後の円板状圧電セラミックスの径方向の電気機械結合定数を示し、Y11は分極処理中に電界を印加した方向と垂直な方向におけるヤング率を示し、d31は分極処理中に電界を印加した方向に垂直な方向の圧電定数を示し、d33は分極処理中に電界を印加した方向に対して平行な方向の圧電定数を示す。
【0042】
【表2】
試料No.1の1000℃で焼成した試料は抵抗率が低く分極処理中に絶縁破壊してしまっため圧電特性の評価を行うことが出来なかった。試料No.2については、1000℃で焼成した試料と1080℃で焼成した試料のいずれも分極処理を行うことができた。そして、1000℃での焼結であっても、試料No.1の1080℃で焼成した試料と遜色のない高い圧電特性を有することが確認できた。したがって、本発明の実施例である試料2について、LNKNの化学量論比よりもLiCOを過剰に配合してLiNbO結晶相を析出させることにより、1000℃前後で緻密な焼結体を得ることができ、LNKNの化学量論比に従って配合した場合(試料1)と比較して圧電特性が損なわれていないことが確認できた。
【0043】
試料No.3〜6についても、同様に1000℃で焼結した場合に十分に緻密な焼結体が得られることが確認された。このうち、試料No.3、4においては、その電気機械結合定数を損ねることなくヤング率が低下し、圧電セラミックスがより変形しやすくなっていることが確認された。その結果、d33の向上が確認された。そして、試料No.5においても、電気機械結合係数が損なわれていないことが確認された。試料No.6については、比誘電率及び電気機械結合係数も大きく低下し、ヤング率も上昇したため、圧電定数がd31、d33ともに大きく低下した。
【0044】
以上の結果より、AgOを含有させた圧電セラミックスのAgOを含有させる量としては、主成分となるLNKNが100molに対して、AgO換算で0.1mol以上、0.5mol以下が好ましいことが明らかになった。そしてまた、前記実施例で示した以外の組成式{Li[Na1−y1−xNbO(但し、式中、0.0<x≦0.20、0≦y≦1、1.0≦a≦1.01である。)で表現される範囲にある圧電セラミックスについて、同様の手順でもって、本発明の効果を試験したところ、同様の効果を得られることが分かった。
【符号の説明】
【0045】
101:圧電セラミックス層
102:第一の電極
103:第二の電極
104:第一の端子電極
105:第二の端子電極
106:基板
107:弾性体
108:接点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8