(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一の電極と第二の電極とが圧電セラミックス層を介して交互に複数層積み重ねられており、前記第一の電極と電気的に接続する第一の端子電極と、前記第二の電極と電気的に接続する第二の端子電極とを有する圧電セラミックス部品において、前記圧電セラミックス層が、請求項1記載の圧電セラミックスで形成されていることを特徴とする圧電セラミックス部品。
圧電セラミックス層を有する基板を有し、その圧電セラミックス層の上部に第一の電極と第二の電極が対向して配置される圧電セラミックス部品において、前記圧電セラミックス層が、請求項1記載の圧電セラミックスで形成されていることを特徴とする圧電セラミックス部品。
第一の電極と第二の電極とが圧電セラミックス層を有する基板上に交互に複数層対向しており、前記第一の電極と電気的に接続する第一の端子電極と、前記第二の電極と電気的に接続する第二の端子電極とを有する圧電セラミックス部品において、前記圧電セラミックス層が、請求項1記載の圧電セラミックスで形成されていることを特徴とする圧電セラミックス部品。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミックスは、電気エネルギーを機械エネルギーへ変換し機械エネルギーを電気エネルギーへ変換する圧電材料の一種であり、多くの電子デバイスへ応用されている。この圧電セラミックスとして、例えば、PbTiO
3−PbZrO
3の2成分よりなる二成分系の鉛含有圧電セラミックス(以下、「PZT」という。)や、Pb(Mg
1/3Nb
2/3)O
3やPb(Zn
1/3Nb
2/3)O
3を第3成分として有する三成分系の鉛含有圧電セラミックスが知られている。これらのPZTは高い圧電効果を備えるため、圧電セラミックス部品として広く使用されている。しかしながら、PZTを主成分とする圧電セラミックスについては、生産工程時におけるPbOの揮発、酸性雨に曝されることによるPb成分の流出など、環境負荷が高いことが問題となっている。
【0003】
このため、鉛を含有しない非鉛系圧電セラミックスが求められている。非鉛系圧電セラミックスの開示例として、例えば、Nature,432(4),2004,pp.84−87(非特許文献1),及び、Applied Physics Letters 85(18),2004,pp.4121−41232(非特許文献2)には、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有し、PZTに匹敵する圧電効果を有する圧電セラミックスが開示されている。
【0004】
これらのアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックスは、さらに特開2002−068835号公報(特許文献1)、特開2003−342069号公報(特許文献2)、及び特開2004−300012号公報(特許文献3)にも開示されている。特許文献2、3の圧電セラミックスは、は、Li、Na、K、Nb、Ta、Sb及びOを主成分とし、一般式{Li
x[Na
1−yK
y]
1−x}
a{Nb
1−z−wTa
zSb
w}
bO
3(式中、x、y、z、w、a及びbはモル比を示しており、0≦x≦0.2、0≦y≦1、0≦z≦0.4、0≦w≦0.2、a≦0.95、b≦1.05である。)で示され、高い圧電特性(圧電定数、電気機械結合係数など)を有する。また、特開2008−169113号公報(特許文献4)に開示されているように、上記一般式で表される主成分の化合物1molに対して、0.001mol〜0.15molのAgを添加元素として加えることにより、圧電定数、電気機械結合係数、比誘電率、誘電損失、キュリー温度のいずれか1つ以上の特性を向上させることができる。
【0005】
しかし、上記の一般式で示される圧電セラミックスのうち、アンチモン(Sb)は重金属に属し、人体に対する毒性が懸念される。したがって、アンチモンを含まない圧電セラミックスが望まれる。また、タンタル(Ta)によってキュリー温度を低下させて圧電セラミックスの誘電率を高め、圧電定数などの特性を高めることができるが、その反面、緻密なセラミックスを得るために必要な焼成温度が上昇してしまう。
【0006】
このように、Sb及びTaを含まずLi、Na、K、Nb及びOをその構成元素とするアルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス(以下、「LNKN」という。)は、優れた圧電特性を有する一方、鉛含有圧電セラミックスよりも焼結性に劣る。例えば、LNKNの一種であるLi
0.06Na
0.47K
0.47NbO
3は、非特許文献2に記載されているように、その分極軸方向への変位特性d
33が235pC/Nであり優れた特性を示すが、緻密な焼結体を得るためには1050℃〜1100℃で焼成する必要がある。高い焼成温度で焼成を行うとアルカリ金属元素が蒸発しやすくなり、圧電効果が劣化する原因となる。このため、十分に高い圧電効果を有するセラミックスを得るためには、焼成温度を精密に制御する必要がある。
【0007】
特開2008−207999号公報(特許文献5)には、Li
2CO
3、LiBO
2、Li
2B
4O
7を混合した焼結助剤を用いることにより、低い焼結温度で緻密な焼結体を得る技術が開示されている。しかし、Li
2CO
3は焼成後にLi
2Oとして焼結体中に残存するので、セラミックスの抵抗が低下してしまう。また、LiBO
2やLi
2B
4O
7は、圧電特性を低下させる原因となる。
【0008】
また、特開2004−115293号公報(特許文献6)には、(K,Na)(Nb,Ta)O
3のBサイトの元素(Nb,Ta)が化学量論比よりも過剰になるように出発原料の組成を調整するとともにCuOを添加することで焼結性の改善を図った圧電セラミックスが開示されている。しかし、この圧電セラミックスにおいても、緻密な焼結体を得るためには1050℃以上の焼結温度を必要とする。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本出願は、日本国特許出願2010-288242号に基づく優先権を主張する。同出願に記載の内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0018】
本発明の様々な実施形態における圧電セラミックス材料は、Li、Na、K、Nb及びOをその構成元素とし、アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造を有する圧電セラミックス(つまり、LNKN)を主成分とする。アルカリ含有ニオブ酸系ペロブスカイト構造は、ABO
3型のペロブスカイト構造の一種であり、AサイトにK、Na、Li等のアルカリ金属元素を含み、BサイトにNbを含む。
図1にペロブスカイト構造の模式図を示す。図示の通り、ペロブスカイト構造は、Bサイトの周りに6つのOが配位され、Aサイトの周りに12のOが配位されて成る単位構造を有し、この単位構造が周期的に連続することで結晶を形成する。ペロブスカイト構造においては、Aサイトを占める元素とBサイトを占める元素との組成比(モル比)がペロブスカイト構造の化学量論比に従った1:1となるときに、全てのサイト位置が対応する元素で占められ、安定した構造が得られる。しかしながら、LNKNの焼結体の組成は、K、Na、Liの溶出や仮焼工程又は焼成工程におけるK、Na、Liの揮発などによって、化学量論比に従った組成から最大2%程度変動し得る。これらの構成元素の変動量は、その原材料、合成時期、合成工程によって変化する。
【0019】
そこで、初期配合において、Aサイトを占める元素(K、Na、Li)の原材料のBサイトを占める元素の原材料に対する配合比率を、化学量論比から定められる理想的な配合比率よりも高くし、最終的に得られる焼結体のAサイトを占める元素とBサイトを占める元素との組成比が1:1の化学量論比となるようにする。ただし、最終的に得られるLNKNが高い圧電効果を有するためには、焼結後のAサイトに含まれる元素とBサイトに含まれる元素との組成比は0.98<A/B<1.01の範囲とすることが望ましい。しかしながら、Aサイトを占めるK,Na,Li元素の原材料の配合比率を高めると、K
2O,Na
2O,Li
2O等酸化物やしK
2CO
3,Na
2CO
3,Li
2CO
3等の炭酸化合物が析出し、得られる圧電セラミックスの比抵抗率を低下させたり、潮解性を生じさせたりすることがある。
【0020】
本発明の一実施形態においては、LNKNから成る主成分にLi
3NbO
4を析出させることによって、高い焼結性を有する圧電セラミックが得られる。一態様において、LNKNの化学量論比よりもLiが過剰となるようにLi
2CO
3等のLiの原材料を配合することで、LNKNから成る主成分にLi
3NbO
4を析出させることができる。一態様においては、出発原料のLi
2CO
3として、市販のLi
2CO
3をボールミルにて24時間予備粉砕して平均粒子径を1μm以下としたものを用いることができる。市販されるLi
2CO
3の多くは平均粒子径が5μm以上であり、このような平均粒子径が5μm以上のLi
2CO
3を用いると、Li
3NbO
4を析出させることは難しい。本発明の実施形態に係る圧電セラミックスにおいては、LNKNから成る主成分にLi
3NbO
4を析出させることで、1000℃前後で容易に焼結し、Li
3NbO
4結晶相を含有しない圧電セラミックスと比較して圧電特性が損なわれていない圧電セラミックスを得ることができる。本発明の実施形態に係る圧電セラミックスにおいては、アルカリ成分とニオブが1対1で含まれるペロブスカイト構造の主成分に、この主成分よりもアルカリ成分が過剰なLi
3NbO
4結晶相が析出することによって、焼結時にペロブスカイト構造から揮発するアルカリ成分を過剰なLiで補うことができ、これにより焼結性を補っていると考えられる。
【0021】
一実施形態において、Li
3NbO
4結晶相は、ICSD(Inorganic Crystal Structure Database)においてPDF−01−082−1198又はPDF−01−075−0902に記載されている立方晶系の結晶相であってもよい。一実施形態におけるLi
3NbO
4結晶相の格子定数は8.412Åもしくは8.429Åである。このうち、格子定数およびその各々の回折線強度比に関しては、Li
3NbO
4結晶相の結晶性、結晶構造内の欠損因子などにより、例えばコンマ2桁目以下の格子定数が変化する場合があるが、本発明の障害とはならない。
【0022】
本発明の一実施形態に係る圧電セラミックスは、組成式{Li
x[Na
yK
1−y]
1−x}
aNbO
3(但し、式中、0.0<x≦0.20、0≦y≦1、1.0≦a≦1.01である。)で示される圧電セラミックスであってもよい。一実施形態における圧電セラミックスは、組成式{Li
x[Na
yK
1−y]
1−x}
aNbO
3(但し、式中、0.03≦x≦0.10、0.40≦y≦0.60、1.0≦a≦1.01である。)で示される。本発明の実施形態に係る圧電セラミックスの構成元素の組成比をこれらの組成式に示された範囲内とすることで、鉛含有圧電セラミックスの圧電特性と同程度の特性を得ることができるとともに、1000℃前後で緻密に焼成することができる。したがって、圧電デバイスに用いられる鉛含有圧電セラミックスを代替可能な鉛を含有しない圧電セラミックスを提供することができる。
【0023】
本発明の一実施形態に係る圧電セラミックスは、{Li
x[Na
yK
1−y]
1−x}
aNbO
3で示したLNKNから成る主成分100molに対して、Ag
2O換算で0.1mol以上から0.5molの範囲のAgをを含有してもよい。これにより、Li
3NbO
4結晶相の析出をさらに促進でき、圧電特性を損なうことなくより容易に焼結させることが可能となる。一態様において、Agは、主成分100molに対して、Ag
2O換算で0.1mol以上から0.25mol以下の範囲で含まれる。これにより、Agの含有量の増加に伴う比抵抗率の低下を抑制することができる。Ag
2Oを添加することにより、Li
3NbO
4結晶相のLiの一部がAgで置換で置換された(Li,Ag)
3NbO
4結晶相が析出するが、Li
3NbO
4結晶相のみが析出した場合と同様の効果を奏する。これは、Li
3NbO
4結晶相と(Li,Ag)
3NbO
4結晶相とは、結晶系、格子定数等の結晶としての物性を決定する対称性が等しいためである。
【0024】
特許文献4には、Ta及びSbを含む主成分に対してAgを添加することが開示されているが、本発明の実施形態に係る圧電セラミックスは、Ta、Sbを含まない点で特許文献4で開示された圧電セラミックスと区別される。
【0025】
本発明の一態様における圧電セラミックスは、第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znを少なくとも1種類含む。これにより焼結温度を制御したり、粒子の成長を制御したり、高電界化における絶縁破壊を制御することが可能となる。
【0026】
本発明の一態様における圧電セラミックスは、第二遷移元素であるY、Zr、Mo、Ru、Rh、Pdを少なくとも1種類含む。これにより、焼結温度を制御したり、粒子の成長を制御したり、高電界化における絶縁破壊を制御することが可能となる。
【0027】
本発明の一態様における圧電セラミックスは、第三遷移元素であるLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Hf、W、Re、Os、Ir、Pt、Auを少なくとも1種類含む。これにより、焼結温度を制御したり、粒子の成長を制御したり、高電界化における絶縁破壊を制御することが可能となる。
【0028】
本発明の一態様における圧電セラミックスは、第一遷移元素及び第二遷移元素からそれぞれ選択された元素、第一遷移元素及び第三遷移元素からそれぞれ選択された元素、第二遷移元素及び第三遷移元素からそれぞれ選択された元素、又は第一遷移元素、第二遷移元素、及び第三遷移元素からそれぞれ選択された元素を含む。
【0029】
次に、
図2〜
図5を参照し、本発明の一実施形態に係る圧電セラミックスを用いた圧電セラミックス部品、及び圧電セラミックス部品用いた圧電デバイスについて説明する。
図2の圧電セラミックス部品は、板状の圧電セラミックス層101と、第一の電極102と、第二の電極103とを備える。この第一の電極102と第二の電極103とは、圧電セラミックス層101を介して対向配置されている。圧電セラミックス層101は、本発明の一実施形態に係る圧電セラミックから成り、具体的には、組成式Li
3NbO
4で示される結晶相が析出したLNKNから成る。一態様において、圧電セラミックス層101は、圧電セラミックスの原料混合粉をバインダと混合し、この混合物を板状に成形した成形体を作り、この成形体を焼成することで作製される。次に、この圧電セラミックス層101の両面に、Cu、Ag、Au、Pt等の導電体を用いた導電ペーストを塗布し、この導電ペーストを焼き付けて第一の電極102及び第二の電極103を形成することで製造される。圧電セラミックス層101は、1000℃前後で緻密に焼成されるため、Li
3NbO
4結晶相を含有しない従来のLNKNを用いた場合に比較して量産性に優れる。
【0030】
図3は、本発明の一実施形態に係る積層型圧電セラミックス部品を示す模式断面図である。図示のとおり、本発明の一実施形態に係る積層型圧電セラミックス部品は、圧電セラミックス層101と、複数の第一の電極102と複数の第二の電極103と、第一の電極102の各々と電気的に接続される第一の端子電極104と、第二の電極103の各々と電気的に接続される第二の端子電極105とを含む。第一の電極102の各々は、隣接する第二の電極103と圧電セラミックス層101を介して対向配置されている。この積層型圧電セラミックス部品は、例えば積層圧電アクチュエータとして用いられる。この圧電セラミックス層101は1000℃前後で緻密に焼成することが可能であるため、本発明の一実施形態に係る積層型圧電セラミックス部品はLi
3NbO
4結晶相を含有しない従来のLNKNを用いた同種の部品と比較して量産性に優れる。
【0031】
図4は、本発明の一実施形態に係る圧電表面弾性波フィルタ(SAWフィルタ)を示す模式である。図示のとおり、本発明の一実施形態に係る圧電表面弾性波フィルタは、基板106と、基板106上に形成された圧電セラミックス層101と、基板106上の圧電セラミックス層101と略同一面上に対向配置された第一の電極102及び第二の電極103とを備える。圧電セラミックス層101は1000℃前後で緻密に焼成することが可能であるため、本発明の一実施形態に係る圧電表面弾性波フィルタは、Li
3NbO
4結晶相を含有しない従来のLNKNを用いた同種のフィルタと比較して量産性に優れる。
【0032】
図5は、本発明の一実施形態に係る屈曲型の圧電アクチュエータを用いたスイッチ素子の模式断面図を示す。図示のとおり、本発明の一実施形態に係るスイッチ素子は、基板106と、基板106上に形成された第一の電極102と、第一の電極102上に形成された圧電セラミックス層101と、圧電セラミックス層101上に形成された第二の電極103と、弾性体107と、接点108とを備える。圧電セラミックス層101は1000℃前後で緻密に焼成することが可能であるため、本発明の一実施形態に係る屈曲型の圧電アクチュエータを用いたスイッチ素子は、Li
3NbO
4結晶相を含有しない既存のLNKNを用いた同種のスイッチ素子と比較して量産性に優れる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。まず、主成分であるLNKNの出発原料として純度が99%以上のLi
2CO
3、Na
2CO
3(もしくはNaHCO
3)、K
2CO
3(もしくはKHCO
3)、及びNb
2O
5を用意し、これらを組成式{Li
x[Na
1−yK
y]
1−x}
aNbO
3(但し、式中、0.0≦x≦0.20、0≦y≦1、1.0≦a≦1.01である。)において、x=0.066、y=0.557、a=1.0の化学量論比となるように秤量した。出発原料のLi
2CO
3として、市販のLi
2CO
3をボールミルにて24時間予備粉砕して平均粒子径が1μm以下となるように調整したものを用いた。また、Li
3NbO
4結晶相を析出させるための出発原料として、主成分のLNKN100molに対して0.2molのLi
2CO
3を秤量した。次に、秤量した主成分の原料とLi
3NbO
4結晶相を析出させるための原料とをボールミルで約24時間湿式混合して混合物を得た。次に、この混合物を約100℃の雰囲気で乾燥させた後、700℃〜1000℃で仮焼し仮焼成粉を得た。次に、この仮焼成粉をボールミルにて約24時間湿式粉砕し、約100℃の雰囲気で乾燥して、粉砕粉を得た。そして、Agを含有させた効果を確認するために、得られた粉砕粉に、主成分のLNKN100molに対して0.1mol、0.25mol、0.50mol、1.00molのAg
2Oを加えたものをボールミルにてそれぞれ約24時間湿式混合した。次に、この混合物の各々を約100℃の雰囲気で乾燥させてAg
2Oの含有量が異なる4種類のAg
2O混合粉砕粉を得た。次に、このAg
2O混合粉砕粉の各々に有機バインダを加えて混合し、この混合物を60メッシュの篩に通して粒度の調整を行った。次に、この粒度が調整された混合物の各々に対して1000kg/cm
2の圧力で一軸成型を行い、直径10mm、厚さ0.5mmの円板状の成型体を得た。次に、この成形体の各々を大気中で960℃〜1100℃で焼成することによって、Agの含有量が異なる4種類の圧電セラミックスの焼結体(表1の試料No.3〜No.6に相当)を得た。
【0034】
また、これらの試料No.3〜No.6に相当する圧電セラミックスを作製する工程においてAg
2Oの混合工程のみを省略して、Ag
2Oを含まない圧電セラミックス(表1の試料No.2に相当)を作製した。また、この試料No.2に相当する圧電セラミックスを作製する工程においてLi
3NbO
4結晶相を析出させるためのLi
2CO
3を混合する工程を省略して、Li
3NbO
4結晶相を析出させるための過剰なLi
2CO
3を含まない(ただし、主成分LNKNの原料となるLi
2CO
3は含む)圧電セラミックス(表1の試料No.1に相当)を作製した。
【0035】
続いて、上述のようにして得られた6種類の圧電セラミックスの各々の両表面に銀ペーストを塗布し、この銀ペーストを850℃で焼付けて銀電極を形成した。次に、この銀電極が形成された圧電セラミックスの各々に対して絶縁性のオイル中で抗電界以上の約3〜4kV/mmの電界を直流電圧で15分間印加することにより分極処理を施した。その後、各資料を一晩静置することによって、圧電セラミックスの試料No.1〜No.6を得た。このようにして作製した圧電セラミックスの試料No.1〜No.6の組成は表1に記載のとおりである。
【0036】
【表1】
表1に記載した試料のうち、※が示してあるものは、本発明の範囲外にある試料である。
【0037】
次に、比較例の試料No.1及び本発明の実施例である試料No.2と同じ組成を有する圧電セラミックスを複数の焼成温度で作製し、各焼成温度で作製された焼結体の焼結密度を測定した。
図6は、このようにして測定された焼結密度の焼成温度依存性を示すグラフである。
図6から明らかなように、試料No.1と同じ組成を有する圧電セラミックスについては、1080℃まで焼結温度を高めなければ緻密に焼結させることが出来ないが、Li
2CO
3を過剰に添加した試料No.2と同じ組成を有する圧電セラミックスにおいては、1000℃前後から焼結が進んでおり焼結密度が高くなっていることが分かる。また、両者とも、1080℃以上の温度での焼成では、試料の部分的な融解が発生した。したがって、1080℃以上では均一な焼結体が得られないと判断した。
【0038】
次に、表1に記載の試料No.1〜No.6にLi
3NbO
4結晶相が含まれるかどうかを以下のようにして確認した。まず、各試料から電極をはぎ取ったものをメノウ乳鉢内を用いてエタノール中で30分間粉砕した。この粉砕された試料の各々について、X線回折法によってXRDを測定した。この測定には、X線回折計としてリガク社製RINT−2500PCを用い、集中法による測定を行った。線源はCu−Kα線、印加電圧は50kV、印加電流は100mAとした。測定方法には2θ/θ法を用い、10°≦2θ≦60°の範囲においてFixed Time法で0.02°間隔で1秒ずつ計測を行った。
【0039】
図7の上段はこのようにして測定された試料No.1のX線回折プロファイルを示し、
図7の下段は試料No.2のX線回折プロファイルを示す。
図7には、10°≦2θ≦35°となる回折プロファイルにおけるバックグラウンド近傍のピークを拡大して示す。
図7から明らかなように、試料No.2のプロファイルには、☆(星印)で示されているLi
3NbO
4結晶相のピークが現れることが確認できた。
【0040】
図8は、試料No.2〜No.6のX線回折プロファイルを示す。
図8の参照符号aのグラフは試料No.2のプロファイル、参照符号bのグラフは試料3のプロファイル、参照符号cのグラフは試料4のプロファイル、参照符号dのグラフは試料5のプロファイルであり、参照符号eのグラフは試料6のプロファイルである。図示のとおり、Ag
2Oを含有させた圧電セラミックスにおいては、Ag
2Oの含有量が増加するほどLi
3NbO
4結晶相の析出量が増加していることが分かる。したがって、Ag
2Oを含有させることによって、Li
3NbO
4結晶相を主相のLNKNに析出させることができる。
【0041】
次に、試料1〜6のそれぞれについて、電子情報技術産業協会規格であるJEITA EM−4501に則って共振−反共振法によって表2に示す各電気的特性の測定を行った。この測定は、インピーダンスアナライザ(横河・ヒューレットパッカード製:YHP4194A)を用いて行った。また、圧電d
33定数については、d
33メータ(中国科学院声学研究所製:ZJ−6B)を用いて圧電特性の評価を行った。試料No.1と試料No.2については、1000℃および1080℃で焼成した試料の各々について各係数を測定し、試料No.3〜6については、1000℃で焼成した試料の各係数を測定した。ε
33T/ε
0は分極処理中に電界を印加した方向における分極処理後の比誘電率を示し、kpは分極処理後の円板状圧電セラミックスの径方向の電気機械結合定数を示し、Y
11Eは分極処理中に電界を印加した方向と垂直な方向におけるヤング率を示し、d
31は分極処理中に電界を印加した方向に垂直な方向の圧電定数を示し、d
33は分極処理中に電界を印加した方向に対して平行な方向の圧電定数を示す。
【0042】
【表2】
試料No.1の1000℃で焼成した試料は抵抗率が低く分極処理中に絶縁破壊してしまっため圧電特性の評価を行うことが出来なかった。試料No.2については、1000℃で焼成した試料と1080℃で焼成した試料のいずれも分極処理を行うことができた。そして、1000℃での焼結であっても、試料No.1の1080℃で焼成した試料と遜色のない高い圧電特性を有することが確認できた。したがって、本発明の実施例である試料2について、LNKNの化学量論比よりもLi
2CO
3を過剰に配合してLi
3NbO
4結晶相を析出させることにより、1000℃前後で緻密な焼結体を得ることができ、LNKNの化学量論比に従って配合した場合(試料1)と比較して圧電特性が損なわれていないことが確認できた。
【0043】
試料No.3〜6についても、同様に1000℃で焼結した場合に十分に緻密な焼結体が得られることが確認された。このうち、試料No.3、4においては、その電気機械結合定数を損ねることなくヤング率が低下し、圧電セラミックスがより変形しやすくなっていることが確認された。その結果、d
33の向上が確認された。そして、試料No.5においても、電気機械結合係数が損なわれていないことが確認された。試料No.6については、比誘電率及び電気機械結合係数も大きく低下し、ヤング率も上昇したため、圧電定数がd
31、d
33ともに大きく低下した。
【0044】
以上の結果より、Ag
2Oを含有させた圧電セラミックスのAg
2Oを含有させる量としては、主成分となるLNKNが100molに対して、Ag
2O換算で0.1mol以上、0.5mol以下が好ましいことが明らかになった。そしてまた、前記実施例で示した以外の組成式{Li
x[Na
1−yK
y]
1−x}
aNbO
3(但し、式中、0.0<x≦0.20、0≦y≦1、1.0≦a≦1.01である。)で表現される範囲にある圧電セラミックスについて、同様の手順でもって、本発明の効果を試験したところ、同様の効果を得られることが分かった。