特許第5782461号(P5782461)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5782461サイプを備えたトレッドを有する二輪車用タイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782461
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】サイプを備えたトレッドを有する二輪車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20150907BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20150907BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20150907BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20150907BHJP
   B60C 9/08 20060101ALI20150907BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   B60C11/03 E
   B60C11/00 C
   B60C11/12 A
   B60C11/12 D
   B60C9/18 J
   B60C9/08 B
   B60C9/22 G
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-552347(P2012-552347)
(86)(22)【出願日】2011年2月4日
(65)【公表番号】特表2013-519561(P2013-519561A)
(43)【公表日】2013年5月30日
(86)【国際出願番号】EP2011051634
(87)【国際公開番号】WO2011098403
(87)【国際公開日】20110818
【審査請求日】2014年1月31日
(31)【優先権主張番号】1050990
(32)【優先日】2010年2月12日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512068547
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(73)【特許権者】
【識別番号】508032479
【氏名又は名称】ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】ベストゲン リュック
【審査官】 平野 貴也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−183216(JP,A)
【文献】 特開2008−302817(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/040202(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第04107547(DE,A1)
【文献】 国際公開第2007/097309(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00 − 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力付き二輪車用のタイヤであって、前記タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、前記ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、前記サイドウォールは、半径方向外側に向かってトレッドに合体しているタイヤにおいて、
前記トレッドの少なくとも表面は、軸方向中央部分の少なくとも一部にわたって延びる第1のポリマー配合物及び前記第1のポリマー配合物の物理化学的性質とは異なる物理化学的性質を有すると共に前記トレッドの2つの軸方向外側部分の少なくとも一部を覆っている少なくとも1種類の第2のポリマー配合物から成り、前記トレッドの少なくとも前記中央部分は、少なくとも1つの切り込みを有し、前記第1のポリマー配合物から成る前記トレッドの前記中央部分では、周方向平面で見て、前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、少なくとも2本の線で形成され、前記線の各々は、半径方向と5°〜65°の角度をなし、2つの連続した線の方向相互間のなす角度は、30°〜120°である、
ことを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記少なくとも2本の線は、円弧によって互いに結ばれている、
請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁は、2本の線で形成され、前記2本の線は、これら2本の線の方向により形成される角度の2等分線に関して互いに対称である、
請求項1又は2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁は、2本の線で形成され、前記2本の線の方向の交点は、前記2本の線の端に関して前記タイヤの走行方向に差し向けられている、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁は、2本の線で形成され、周方向平面で見て、前記2本の線の方向の交点は、前記トレッドの表面から前記切り込みの深さの25%〜50%の半径方向距離のところに位置している、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記少なくとも1つの切り込みの一方の壁は、2本の線で形成され、周方向平面で見て、前記2本の線の方向の交点は、前記トレッドの表面から前記切り込みの高さの50%〜75%の半径方向距離のところに位置している、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記タイヤのクラウン補強構造体は、周方向補強要素の少なくとも1つの層を有する、
請求項1〜6のいずれか1項に記載のタイヤ。
【請求項8】
二輪車後輪に取り付けられる請求項1〜7のいずれか1項に記載のタイヤの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、特に二輪車、例えばモーターバイクに取り付けられるようになったタイヤ、より具体的には、270km/hに相当するWよりも高い速度定格を備えたモーターバイクに取り付けられるようになったタイヤに関する。
【0002】
本発明はこのような用途には限定されないが、本発明を特にこのようなモーターサイクル又はモーターバイク用タイヤ、より具体的には後輪に取り付けられるようになったタイヤに関して説明する。
【背景技術】
【0003】
他の全てのタイヤの場合と同様、モーターバイク用タイヤも又、ラジアルに移行しており、このようなタイヤのアーキテクチャは、周方向と65°〜90°の場合のある角度をなす補強要素の1つ又は2つの層で構成されたカーカス補強材を有し、このカーカス補強材には半径方向に補強要素で構成されたクラウン補強材が載っている。しかしながら、依然として非ラジアルタイヤのままであるものがあり、本発明は、このような非ラジアルタイヤにも関する。本発明は、更に、部分的にラジアルであるタイヤに関し、このような部分的ラジアルタイヤは、カーカス補強材の補強要素が例えばタイヤのクラウンに相当する部分においてカーカス補強材の少なくとも一部にわたってラジアルであるタイヤを意味している。
【0004】
タイヤがモーターバイクのフロントに取り付けられるかリヤに取り付けられるかに応じて多くのクラウン補強材アーキテクチャが提案された。クラウン補強材用の第1の構造体では、周方向コードだけが用いられ、このような構造体は、特にリヤタイヤのために用いられる。乗用車用タイヤに通常用いられている構造体により直接示唆された第2の構造体は、耐摩耗性を向上させるために用いられ、このような第2の構造体では、各層内において互いに実質的に平行であるが、1つの層と次の層との間ではクロス掛け関係にあり、周方向と鋭角をなす補強要素の少なくとも2つの実働クラウン層が用いられ、このようなタイヤは、特にモーターバイクのフロント用タイヤとして適している。2つの実働クラウン層を一般に、少なくとも1つのゴム被覆補強要素のストリップの螺旋巻きにより得られた周方向要素の少なくとも1つの層と組み合わせるのが良い。
【0005】
タイヤクラウンアーキテクチャの選択は、タイヤの或る特定の性質、例えば耐摩耗性、耐久性、グリップ若しくは駆動性又は特にモーターバイクの場合、安定性に直接的な影響を及ぼす。しかしながら、他の種類のパラメータ、例えばトレッドを構成するゴムコンパウンドの性状も又、タイヤの性質に影響を及ぼす。トレッドを構成するゴムコンパウンドの選択及び性状は、例えば、耐摩耗性に関する限り極めて重要なパラメータである。トレッドを構成するゴムコンパウンドの選択及び性状は又、タイヤのグリップに影響を及ぼす。
【0006】
また、他形式のタイヤに関し、雪、ブラックアイス又は湿り気で覆われた路面上を走行するようになったタイヤについて切り込みを有するトレッドを製作することが慣例である。
【0007】
このようなトレッドは、通常、横方向及び/又は周方向溝によって周方向及び/又は横方向に互いに隔てられたリブ又はブロック形の隆起要素を備えている。この場合、これらトレッドは、切り込み又はスリットを更に有し、これら切り込み又はスリットのゼロではない幅は、上述の溝の幅よりも極めて小さい。踏み面(トレッド表面)上に開口した複数個の切れ目を作ることにより、複数個のゴムエッジが作られ、これらは、路面上に存在する場合のある水の層に切り込むが、その目的は、タイヤを路面と接触状態に保つと共に潜在的にダクトを形成することができる空所を形成することにあり、ダクトは、タイヤを路面に接触させる接触パッチに存在する水を集め、これらダクトが接触パッチの外側に開口するよう構成されている場合には、このような水を除去するようになっている。
【0008】
問題の表面に対するタイヤのグリップを向上させる目的で多くの形式の切り込みが既に提案されている。
【0009】
仏国特許第2418719号明細書は、例えば、トレッドの表面に垂直であり又はこの表面に垂直な方向に対して傾けられている場合のある切り込みを記載している。
【0010】
仏国特許第791250号明細書は、トレッドの表面に沿って波形のパターンをなして延びる切り込みを記載している。
【0011】
特に濡れた路面に対するグリップの点におけるモーターバイクの性能を考慮して、駆動又は制動トルクの伝達の向上に寄与し、かくしてモーターバイクが加速し又は制動する能力を向上させるために切り込みが設けられたトレッドを有するタイヤが提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】仏国特許第2418719号明細書
【特許文献2】仏国特許第791250号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
周方向平面で見て、半径方向に差し向けられた切り込みの壁が特にタイヤの中央部分に現れるようにトレッドに切り込まれた切り込みを有するタイヤに対して試験を行ったが、その結果、これらタイヤは、不規則な摩耗パターンを示す。このような摩耗パターンは、摩耗が増大するにつれて顕著になり、その結果、タイヤの摩耗速度が増大する。
【0014】
したがって、本発明者は、特に濡れた路面に対するグリップが、切り込みを備えていないタイヤと比較して、特に濡れた路面に対するグリップが、切り込みを有するが、摩耗の面での性能の劣化の度合いが少なく、特に、摩耗速度を増大させない上述のタイヤのグリップとほぼ同じモーターバイク用タイヤを提供するという仕事に取り組んだ。
【0015】
したがって、本発明の目的は、グリップの面における特性が特に濡れた路面に対して向上すると共に満足の行く摩耗速度を保持したモーターバイク用タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、本発明によれば、動力付き二輪車用のタイヤであって、タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、サイドウォールは、半径方向外側に向かってトレッドに合体している、タイヤにおいて、トレッドの少なくとも表面は、中央部分の少なくとも一部にわたって延びる第1のポリマー配合物及び第1のポリマー配合物の物理化学的性質とは異なる物理化学的性質を有すると共にトレッドの軸方向外側部分の少なくとも一部を覆っている少なくとも1種類の第2のポリマー配合物から成り、トレッドの少なくとも中央部分は、少なくとも1つの切り込みを有し、第1のポリマー配合物から成るトレッドの中央部分では、周方向平面で見て、少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、少なくとも2本の線で形成され、これら線の各々は、半径方向と5°〜65°の角度をなし、2つの連続した線の方向相互間のなす角度は、30°〜120°であることを特徴とするタイヤによって達成される。
【0017】
したがって、本発明によれば、タイヤは、その中央部分に、周方向平面における断面で見て、少なくとも横にした状態のV又は山形の形状を有する切り込みを有し、Vの端のうちの1つは、トレッドの表面と面一をなして位置し、Vの枝は、上述の少なくとも2本の線のうちの2本の連続した線から成っている。
【0018】
本発明の意味の範囲内において、切り込みは、2つの壁を形成する切れ目であり、形成し、壁のうちの一方に接する平面に垂直に沿って測定された壁相互間の距離が1.5mm未満、好ましくは1mm未満の切れ目である。トレッドの表面上のこのような距離は、切り込みの底部のところ(これは、トレッドの表面から最も遠くに位置する箇所のところであることを意味する)の距離に少なくとも等しい。特に、モーターバイク用タイヤの場合、トレッドの厚さが比較的小さいので、トレッドの表面から切り込みの底部に向かってこのような距離が大きくなることにより切り込みのエッジがトレッドの表面のところでつぶれ、かくしてトレッドが路面と接触する接触パッチの面積が減少する場合、このようにトレッド表面から切り込み底部に向かってこのような距離が大きくなることが生じてはならない。
【0019】
タイヤの長手方向又は周方向は、タイヤの周囲に対応すると共にタイヤの走行方向によって定められる方向である。
【0020】
タイヤの横方向又は軸方向は、タイヤの回転軸線に平行である。
【0021】
タイヤの回転軸線は、タイヤが通常の使用の際に回転する中心となる軸線である。
【0022】
周方向平面又は周方向断面平面は、タイヤの回転軸線に垂直な平面である。赤道面は、トレッドの中心又はクラウンを通る周方向平面である。
【0023】
半径方向平面又は子午面は、タイヤの回転軸線を含む。
【0024】
半径方向は、タイヤの回転軸線と交差し且つこれに垂直な方向である。半径方向は、周方向平面と半径方向平面の交線である。
【0025】
このようにして本発明に従って製造され、モーターバイクの後輪に取り付けられたタイヤは、特に濡れた路面又は湿り気のある路面上において、切り込みが設けられていないタイヤと比較して、向上したグリップ性能を効果的に提供する。さらに、走行中、同一条件下での走行時に観察された摩耗との比較により、周方向平面で見て、切り込みの壁が半径方向に差し向けられるようにトレッドに切り込まれた切り込みを有するタイヤに関する不均一な摩耗は極めて減少している。タイヤトレッド摩耗が減少しても、不均一さが少ないように思われる。
【0026】
本発明者は、周方向平面で見て、2本の線である少なくとも2つの部分で作られた切り込みのV字形が、各々周方向断面平面で見て半径方向に傾けられた2つの連続した部分を構成していることに気づいた。本発明者は、自分たちによって、周方向平面で見て半径方向への切り込みの部分の各々の向きにより周方向平面で見て切り込みの壁が半径方向に差し向けられるようにトレッドに切り込まれた切り込みの不均一な摩耗よりもそれほど顕著ではない不均一な摩耗が生じることが実証されたと考えている。本発明者は又、切り込みの2つの部分の互いに逆の連続した向きにより、タイヤの摩耗が切り込みの第2の部分に対応している場合にそれほど顕著ではない不均一さの摩耗パターンを結果的に生じさせるよう互いに補償する不均一さ又は凹凸が得られることに気づいた。
【0027】
本発明の有利な一実施形態によれば、少なくとも2本の線は、円弧によって互いに結ばれている。換言すると、2本の連続した線で構成されたV字形は、尖った先端を備えておらず、2本の線又はVの枝相互間に結ばれた丸形先端を有している。このような形状により、トレッドに入り込んで切り込みを形成するモールドの部分を設計することが容易になる。
【0028】
本発明の好ましい一実施形態では、少なくとも1つの切り込みの一方の壁が2本の線で形成されている状態において、2本の線の方向の交点は、2本の線の端に関してタイヤの走行方向に差し向けられている。換言すると、上述の有利な実施形態に従って上述の2本の線を結ぶV又は具体的には円弧の先端は、これら2本の線に対してタイヤの走行方向に差し向けられている。
【0029】
本発明者は又、このように切り込みを作ることがタイヤの摩耗速度の減少の一因となることを実証することができた。具体的に説明すると、実施した試験結果の示すところによれば、逆方向に差し向けられ、即ち、上述の有利な実施形態に従って2本の線を結び、逆方向において2本の線に対してタイヤの走行方向に差し向けられたV又はより具体的に言えば円弧の先端を備えた同一の切り込みにより、摩耗速度が高くなる。
【0030】
本発明の中央部分にのみこれら切り込みを設けることにより、加速下と制動下の両方においてトルク伝達が最も大きなタイヤの領域の摩耗速度を減少させることができ、この場合、製造費には過度の影響が生じず、V字形切欠きは、当然のことながら、作るのに費用が高くつく。他方、タイヤは、コーナリングの際のグリップ性能を向上させるために軸方向外側部分に設けられた他形式の切り込みを有するのが良い。
【0031】
V字形切り込みを中央部分と軸方向外側部分との間に分布して配置された数種類のポリマー配合物で作られたトレッドと組み合わせることにより、例えば、トレッドの中央部分において耐摩耗性が向上し、軸方向外側部分についてグリップ特性が向上したタイヤを得ることができる。
【0032】
かくして、V字形切り込みと一致した向上した耐摩耗性を有するトレッドの中央部分を作ることが可能である。このような実施形態は、更に、タイヤの中央部分の摩耗速度の制限に寄与する。
【0033】
本発明の好ましい一実施形態によれば、第2のポリマー配合物は、第1のポリマー配合物のショアAスケール硬度とは異なるショアAスケール硬度を有する。
【0034】
有利には、本発明によれば、中央部分の少なくとも一部を構成する第1のポリマー配合物のショアAスケール硬度と軸方向外側部分の少なくとも一部を構成する少なくとも1種類の第2のポリマー配合物のショアAスケール硬度は、少なくとも1ユニット、好ましくは2ユニットだけ異なる。
【0035】
また、有利には、中央部分の少なくとも一部を構成する第1のポリマー配合物のショアAスケール硬度は、軸方向外側部分の少なくとも一部を構成する少なくとも1種類の第2のポリマー配合物のショアAスケール硬度よりも高い。
【0036】
硬化後におけるポリマー配合物のショアAスケール硬度は、ASTM・D2240‐86規格に従って評価される。
【0037】
少なくとも1つの切り込みの一方の壁が2本の線で形成された状態において、周方向平面で見て、2本の線の方向の交点は、トレッドの表面から切り込みの深さの25%〜50%の半径方向距離のところに位置している。
【0038】
切り込みの深さは、周方向断面平面で見て、トレッドの表面をトレッドの表面から見て最も遠くに位置する切り込みの箇所から隔てる半径方向距離である。換言すると、深さは、トレッドの表面とトレッドの表面と面一をなしておらず、しかもVの尖った先端と接触状態にない線の端との間で測定された半径方向距離に等しい。
【0039】
本発明の第2の実施形態によれば、少なくとも1つの切り込みの一方の壁は、2本の線で形成され、周方向平面で見て、2本の線の方向の交点は、トレッドの表面から切り込みの高さの50%〜75%の半径方向距離のところに位置している。この第2の実施形態は、トレッドの摩耗速度を一段と最適化するという利点を有する。具体的に説明すると、本発明者は、周方向平面で見て、タイヤの摩耗速度に対して最も大きな影響を及ぼすのが、周方向平面で見て、タイヤの回転方向に差し向けられた角度を半径方向となす切り込みの部分であり、トレッドパターンの深さが深ければ深いほど、この影響がそれだけ一層強くなることを実証することができた。
【0040】
本発明の一変形形態では、少なくとも1つの切り込みの一方の壁は、2本の線で形成され、2本の線は、これら2本の線の方向により形成される角度の2等分線に関して互いに対称である。この変形形態により、特に摩耗速度に関して摩耗の面での特性を最適化することができ、第1に、凹凸の存在は、Vの枝の各々の傾斜のために、そして、摩耗がVの尖った先端を越えていったん摩耗すると、この凹凸が減少するので最適化され、第2に、トレッドの厚さがその最も大きい状態で走行方向におけるVの第1の枝の存在は、摩耗速度の減少に効果的に寄与する。
【0041】
本発明の有利な一変形形態では、切り込みの深さは、特にタイヤの軸方向における種々の摩耗速度を考慮に入れると共に軸方向に変化するのが良いトレッド剛性を得るために軸方向に変化している。
【0042】
本発明の有利な実施形態によれば、タイヤに対称という性質を与えるため、中央周方向バンドの中心は、有利には、赤道面上に配置される。例えばカーブが全てに本質的に同一方向であるサーキット上で走行するようになったタイヤ向きの他の実施形態では、中央周方向バンドの中心を赤道面上に配置しないようにすることが可能である。
【0043】
本発明の有利な変形実施形態では、トレッドの少なくとも表面を形成し、かくしてトレッドの特性を赤道面からショルダに向かって次第に変化させる5本又は6本以上の周方向バンドを設けることが想定できる。従前通り、このような実施形態は、赤道面に関して対称であっても良く、又は非対称であっても良く、バンドの分布状態は、これらの組成の点において又は赤道面周りのこれらの分布状態の点かのいずれかにおいて異なっている。
【0044】
本発明の好ましい実施形態によれば、第2のポリマー配合物は、第1のポリマー配合物の組成とは異なる組成のものであり、より好ましくは、第2のポリマー配合物は、第1のポリマー配合物のグリップ特性よりも優れたグリップ特性を有する。
【0045】
他の実施形態によれば、異なる加硫条件を用いることによって同種の配合物で互いに異なる特性を得ることができる。
【0046】
また、有利には、第1のポリマー配合物の半径方向厚さと第2のポリマー配合物の半径方向厚さは、軸方向におけるトレッドの耐摩耗性を最適化するよう互いに異なっているのが良い。また、有利には、厚さは、次第に異なる。
【0047】
本発明の好ましい一実施形態によれば、カーカス型補強構造体の補強要素は、周方向と65°〜90°の角度をなす。
【0048】
本発明の好ましい一実施形態では、タイヤは、特に、周方向補強要素の少なくとも1つの層を有するクラウン補強構造体から成り、本発明によれば、周方向補強要素の層は、下側長手方向と5°未満の角度をなすよう差し向けられた少なくとも1つの補強要素から成る。
周方向補強要素の層が設けられることは、モーターバイクのリヤに使用されるようになったタイヤを製造する際に特に好ましい。
【0049】
また、好ましくは、周方向補強要素の層の補強要素は、金属及び/又は繊維及び/又はガラスで作られる。本発明は、特に、周方向補強要素の同一の層内に互いに異なる種類の補強要素の使用を想定している。
【0050】
また、好ましくは、周方向補強要素の層の補強要素は、6000N/mm2を超える弾性率を有する。
【0051】
本発明の一変形実施形態では、有利には、周方向補強要素は、可変ピッチで横方向に分布して配置される。
【0052】
周方向補強要素相互間のピッチの変化は、横方向における単位長さ当たりの周方向補強要素の数の変化及びかくして横方向における周方向補強要素の密度の変化、それ故、横方向における周方向剛性の変化の形態を取る。
【0053】
本発明の変形例によれば、クラウン補強構造体は、周方向と10°〜80°の角度をなす補強要素の少なくとも1つの層を有する。
【0054】
この変形形態によれば、クラウン補強構造体は、有利には、補強要素の少なくとも2つの層を有し、1つの層から次の層にこれら補強要素相互は20°〜160°、好ましくは40°より大きい角度をなす。
【0055】
本発明の好ましい一実施形態によれば、実働層の補強要素は、繊維材料で作られる。
【0056】
本発明の別の実施形態によれば、実働層の補強要素は、金属で作られる。
【0057】
本発明の有利な一実施形態では、特に、タイヤの子午線に沿う、特に実働層の縁部のところの補強構造体の剛性を最適化する目的で、実働層の補強要素と長手方向とのなす角度は、このような角度がタイヤの赤道面のところで測定した角度と比較して、補強要素の層の軸方向外側の縁のところの方が大きいように横方向に変化しているのが良い。
【0058】
本発明の他の細部及び他の有利な特徴は、図1図5を参照して行われる本発明の例示の実施形態の説明から以下において明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】本発明のタイヤの部分斜視図である。
図2】切り込みを有するタイヤの摩耗パターンの赤道面における部分断面図である。
図3図1のタイヤの赤道面における部分断面図である。
図4図3のタイヤの摩耗パターンの赤道面における部分断面図である。
図5図3のタイヤの摩耗パターンの赤道面における部分断面図であり、摩耗レベルが進んだ状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図1図5を理解しやすくするため、図1図5は、縮尺通りには描かれていない。
【0061】
図1は、モーターバイクの前輪に取り付けられるようになったタイヤ1、特にそのトレッドの外面2の部分斜視図である。図1は、0.15を超え、好ましくは0.3を超える曲率を有する。この曲率は、比Ht/Wtによって定められ、この比は、タイヤのトレッドの高さとトレッドの最大幅の比である。
【0062】
図には示されていない仕方で、図1は、繊維(テキスタイル)型の補強要素を有する層から成るカーカス補強材を有する。この層は、半径方向に布設された補強要素から成る。補強要素の半径方向位置決めは、補強要素の布設角度で定められ、半径方向配置は、これら補強要素がタイヤの長手方向に対して65°〜90°の角度をなして布設されている状態に一致している。
【0063】
カーカス補強材は、タイヤ1の各側でビード内に繋留され、ビードのベースは、リムシート(受座)に取り付けられるようになっている。各ビードの半径方向外方の延長部として、サイドウォールが設けられ、このサイドウォールは、半径方向外側寄りがトレッドに合体している。
【0064】
タイヤ1は、周方向補強要素の層から成るクラウン補強材を更に有する。
【0065】
クラウン補強材は、例えば周方向と角度をなす補強要素の2つの層から成っていても良く、補強要素は、1つの層と次の層との間でクロス掛け関係にあり、赤道面の付近においてこれら補強要素のなす角度は、例えば50°であり、これら層の各々に属する補強要素は、周方向と例えば25°の角度をなしている。周方向と角度をなす補強要素のこれらの層は、特にフロントタイヤの場合、周方向補強要素の層に代えて用いられるのが良く、或いは、変形例として、これらの組み合わせとして用いられても良い。
【0066】
図1のトレッド2は、周方向に差し向けられた連続溝3と横方向溝4とから成るトレッドパターンを有し、横方向溝の主要方向は、トレッドパターンに方向を与えるために半径方向に対して僅かな角度をなしている。トレッドパターンのこの向きは、リヤタイヤの場合、通常、タイヤの回転方向と一致する。
【0067】
溝3は、トレッドの中央部分を溝4が設けられているが切り込みは設けられていない軸方向外側部分から分離している。
【0068】
本発明によれば、中央部分と軸方向外側部分は、互いに異なるポリマー配合物から成る。
【0069】
中央部分を構成しているポリマー配合物のショアAスケール硬度は、66に等しい。
【0070】
軸方向外側部分を構成しているポリマー配合物のショアAスケール硬度は、60に等しい。
【0071】
トレッド2は、その中央部分に、切り込み又はスリット5を有し、これらのゼロではない幅は、上述の溝3,4の幅よりも極めて小さい。本発明のこれら切り込みは、赤道断面平面6で見て、横に置いたV又は山形7を形成しており、このVの端は、トレッド2の表面と面一をなして位置している。V形状について図3を参照して詳細に説明する。
【0072】
さらに本発明によれば、赤道断面平面で見て切り込みの形状は、これが半径方向と5°〜65°の角度をなす2本の線から成ると共にこれら線の方向のなす角度が30°〜120°である場合、複雑な場合があり、例えば、このような切り込みの形状は、Wの形状の場合があり又は変形例として2つのVを互いにつなぎ合わせた形状の場合がある。
【0073】
壁の向きが周方向断面平面で見て半径方向である切り込みを有するタイヤの摩耗パターンの赤道面における部分断面図である。
【0074】
点線22は、タイヤが新品のままの状態でのトレッドの表面を示している。線20は、切り込みの底部をつないだ線であり、これは、トレッドのベースと一致していると言って良い。
【0075】
線25は、向きが周方向断面平面で見て半径方向である切り込みを示している。これら線25の点線部分は、トレッドがタイヤの走行につれて摩耗した後に消える部分を示している。
【0076】
線26は、周方向断面で見て、タイヤの走行により生じた摩耗後のトレッドの表面上の2つの切り込み25相互間の輪郭形状を示している。トレッドは、2つの切り込み相互間に、表面26が新品のままの輪郭形状22と同心の円形の輪郭形状をもはや呈していないゴムコンパウンドのブロックから成る。矢印Rで示された走行方向を考察すると、2つの切り込みにより画定されるゴムコンパウンドのブロックの線26は、このブロックの前縁28上における表面の下降及びこのブロックの後縁29上のこの表面の上昇を示している。前縁28は、走行の際、先ず最初に路面に接触するブロックのエッジであり、後縁29は、走行の際に最後に路面との接触関係から離脱する同じブロックのエッジである。これらブロックの表面のこれら連続した形状により、全体に凹凸のある踏み面が作られ、これは、耐摩耗性にとって不利であり且つタイヤのトレッドの摩耗速度を増大させる傾向がある。このような不均一な摩耗は又、特にこれによって生じる場合のある騒音に鑑みて快適さにとって好ましくない。
【0077】
図3は、図1のタイヤの赤道面における部分断面図である。線32は、タイヤのトレッドの表面を表している。線30は、切り込み35の底部をつなぐ線であり、これは、トレッドのベースに対応していると言って良い。本発明のこれら切り込み35は、V形状37を有している。これら切り込みは、円弧372によって互いにつながれた2本の線370,371から成っている。
【0078】
矢印Rは、タイヤの走行方向を示している。
【0079】
トレッド32の表面と面一をなして位置する線370は、軸線XX′により具体化された半径方向と角度αをなしている。角度αは、タイヤの走行方向Rに向けられている。
【0080】
線371は、半径方向と、タイヤの走行方向Rとは逆方向に差し向けられた角度βをなしている。
【0081】
上述したように、タイヤの走行方向Rである半径方向に対する切り込みの傾斜角度は、トレッドパターンの厚さが大きい限り、摩耗速度にとって良好である。したがって、線370は、有利には、摩耗速度を減少させる役割を果たすために走行方向Rに傾けられている。
【0082】
図3では、線370,371が線370,371の交点Oにより形成される角度の2等分線を表す直線Bに関して対称であることも又理解できる。したがって、角度α,βは、絶対値では同一である。切り込み35をこのように構成することにより、摩耗速度と摩耗パターンの均一性の妥協点を見出すことができる。具体的に説明すると、図4及び図5に示されているように、トレッドの摩耗パターンは、周方向平面内において半径方向の切り込みの場合よりも不利ではなく、第1の線370をタイヤの走行方向Rに差し向けることにより、トレッド摩耗速度を減少させることができる。
【0083】
図4は、図3のタイヤが僅かに摩耗したときのこのようなタイヤの摩耗パターンの赤道面における部分断面図である。
【0084】
点線で示された切り込み45の部分は、摩耗の結果として消えたタイヤの部分を表している。
【0085】
線46は、周方向断面で見て、タイヤの走行により生じた摩耗後のトレッドの表面上の2つの切り込み45相互間の輪郭形状を示している。トレッドは、2つの切り込み相互間に、表面46が新品のままの輪郭形状42と同心の円形の輪郭形状をもはや呈していないゴムコンパウンドのブロックから成る。矢印Rで示された走行方向を考察すると、2つの切り込みにより画定されたゴムコンパウンドのブロックの線46は、表面がこのブロックの前縁48のところでは平らなままであり、これに対して、表面が後縁49のところで上昇していることを示している。これらブロックの表面のこれら連続した形状により、凹凸のある踏み面が作られるが、その凹凸は、図2の場合よりも顕著であるというわけではなく、このような凹凸のある踏み面は、摩耗速度に対する影響が小さい。
【0086】
図5は、図3のタイヤが図4の程度よりも大きな程度まで摩耗した後におけるこのようなタイヤの摩耗パターンの赤道面における部分断面図である。トレッドの摩耗は、特に、切り込み55の一部を構成する線571を摩滅し始めており、線570は、完全に消えている。
【0087】
点線で示された切り込み55の部分は、摩耗の結果として消えたタイヤの部分を表している。
【0088】
線56は、周方向断面で見て、タイヤの走行により生じた摩耗後のトレッドの表面上の2つの切り込み55相互間の輪郭形状を示している。トレッドは、先の図の場合のように、2つの切り込み相互間に、表面56が新品のままの輪郭形状52と同心の円形の輪郭形状をもはや呈していないゴムコンパウンドのブロックから成る。
【0089】
これとは対照的に、この図5は、線571が消えることに対応した漸次摩耗が線570が消えることに対応した摩耗を介して見える不均一さを減少させるということを示している。確かに、線570が消えた後に得られる摩耗パターン後に見える線571を走行方向Rとは逆の方向に差し向けることにより、均一なタイヤ摩耗パターンが得られるということが判明した。
【0090】
本発明は、上述の実施形態の説明に限定されるものと解されてはならない。具体的に説明すると、本発明は、図示した本発明の実施形態を軸方向に変化するのが良いアーキテクチャ、ピッチが軸方向に変化する周方向に差し向けられた補強要素の層及び軸方向に変化するのが良い実働層の補強要素の角度と組み合わせることを想定している。
【0091】
さらに、本発明は、切り込み、例えば上述の切り込みを他形式の切り込み、例えば傾けられておらず、したがって周方向断面平面で見て半径方向に差し向けられた切り込み又は周方向断面平面で見て、切り込みが半径方向と角度をなすような傾斜を有する切り込みと組み合わせることを想定している。
【0092】
図1及び図3に従って製造された180/55Zr17サイズのタイヤについて試験を実施した。
【0093】
このタイヤをタイヤR1のトレッドに切り込みが全く設けられていないこと及びタイヤRでは傾けられておらず、したがって半径方向に差し向けられた切り込みが設けられていることを除き、本発明のタイヤと同一の2つの基準(コントロール)タイヤに対して比較した。本発明のタイヤに設けられた切り込みの数と基準タイヤR2に設けられた切り込みの数は、同一であった。
【0094】
このような試験では、3台のモーターバイクをサーキット周りに隊を組んで走行させ、モーターバイク相互間でタイヤを取り替え、ライダは、同一人物のままであり、各タイヤは、各モーターバイクについて同一距離走行した。結果は、5000kmの走行後、赤道面のところでのトレッドの摩耗の百分率に対応している。
【0095】
タイヤR2の結果を基準として採用し、値100を割り当てた。
【0096】
切り込みが設けられていない基準タイヤR1は、値85を達成した。
【0097】
最初の結果の示すところによれば、周方向断面平面で見て半径方向に差し向けられた切り込みが設けられていると、摩耗速度が事実上増大する。
【0098】
本発明のタイヤは、値87を達成した。
【0099】
これらの結果の示すところによれば、本発明に従って提案された切り込みにより、摩耗の面における性質が切り込みの設けられていないタイヤの摩耗面での性質とほぼ同じであるタイヤを製造することができる。
【0100】
濡れた路面に対するグリップを比較するために同一タイヤについて他の試験を実施した。結果は、3人のライダによってなされた観察結果を平均した主観的評価である。
【0101】
基準タイヤR1に値100が割り当てられた。
【0102】
本発明のタイヤ及び基準タイヤR2には120の同一の評点が割り当てられた。
【0103】
これら結果は、切り込みをタイヤに設けると、濡れた路面に対するグリップの面で性能がかなり向上していることを明確に示している。
図1
図2
図3
図4
図5