【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、本発明によれば、動力付き二輪車用のタイヤであって、タイヤの各側でビードに繋留された補強要素で形成されているカーカス型の補強構造体を有し、ビードのベースは、リムシートに取り付けられるようになっており、各ビードの半径方向外方の延長部としてサイドウォールが設けられ、サイドウォールは、半径方向外側に向かってトレッドに合体している、タイヤにおいて、トレッドの少なくとも表面は、中央部分の少なくとも一部にわたって延びる第1のポリマー配合物及び第1のポリマー配合物の物理化学的性質とは異なる物理化学的性質を有すると共にトレッドの軸方向外側部分の少なくとも一部を覆っている少なくとも1種類の第2のポリマー配合物から成り、トレッドの少なくとも中央部分は、少なくとも1つの切り込みを有し、第1のポリマー配合物から成るトレッドの中央部分では、周方向平面で見て、少なくとも1つの切り込みの一方の壁の少なくとも一部は、少なくとも2本の線で形成され、これら線の各々は、半径方向と5°〜65°の角度をなし、2つの連続した線の方向相互間のなす角度は、30°〜120°であることを特徴とするタイヤによって達成される。
【0017】
したがって、本発明によれば、タイヤは、その中央部分に、周方向平面における断面で見て、少なくとも横にした状態のV又は山形の形状を有する切り込みを有し、Vの端のうちの1つは、トレッドの表面と面一をなして位置し、Vの枝は、上述の少なくとも2本の線のうちの2本の連続した線から成っている。
【0018】
本発明の意味の範囲内において、切り込みは、2つの壁を形成する切れ目であり、形成し、壁のうちの一方に接する平面に垂直に沿って測定された壁相互間の距離が1.5mm未満、好ましくは1mm未満の切れ目である。トレッドの表面上のこのような距離は、切り込みの底部のところ(これは、トレッドの表面から最も遠くに位置する箇所のところであることを意味する)の距離に少なくとも等しい。特に、モーターバイク用タイヤの場合、トレッドの厚さが比較的小さいので、トレッドの表面から切り込みの底部に向かってこのような距離が大きくなることにより切り込みのエッジがトレッドの表面のところでつぶれ、かくしてトレッドが路面と接触する接触パッチの面積が減少する場合、このようにトレッド表面から切り込み底部に向かってこのような距離が大きくなることが生じてはならない。
【0019】
タイヤの長手方向又は周方向は、タイヤの周囲に対応すると共にタイヤの走行方向によって定められる方向である。
【0020】
タイヤの横方向又は軸方向は、タイヤの回転軸線に平行である。
【0021】
タイヤの回転軸線は、タイヤが通常の使用の際に回転する中心となる軸線である。
【0022】
周方向平面又は周方向断面平面は、タイヤの回転軸線に垂直な平面である。赤道面は、トレッドの中心又はクラウンを通る周方向平面である。
【0023】
半径方向平面又は子午面は、タイヤの回転軸線を含む。
【0024】
半径方向は、タイヤの回転軸線と交差し且つこれに垂直な方向である。半径方向は、周方向平面と半径方向平面の交線である。
【0025】
このようにして本発明に従って製造され、モーターバイクの後輪に取り付けられたタイヤは、特に濡れた路面又は湿り気のある路面上において、切り込みが設けられていないタイヤと比較して、向上したグリップ性能を効果的に提供する。さらに、走行中、同一条件下での走行時に観察された摩耗との比較により、周方向平面で見て、切り込みの壁が半径方向に差し向けられるようにトレッドに切り込まれた切り込みを有するタイヤに関する不均一な摩耗は極めて減少している。タイヤトレッド摩耗が減少しても、不均一さが少ないように思われる。
【0026】
本発明者は、周方向平面で見て、2本の線である少なくとも2つの部分で作られた切り込みのV字形が、各々周方向断面平面で見て半径方向に傾けられた2つの連続した部分を構成していることに気づいた。本発明者は、自分たちによって、周方向平面で見て半径方向への切り込みの部分の各々の向きにより周方向平面で見て切り込みの壁が半径方向に差し向けられるようにトレッドに切り込まれた切り込みの不均一な摩耗よりもそれほど顕著ではない不均一な摩耗が生じることが実証されたと考えている。本発明者は又、切り込みの2つの部分の互いに逆の連続した向きにより、タイヤの摩耗が切り込みの第2の部分に対応している場合にそれほど顕著ではない不均一さの摩耗パターンを結果的に生じさせるよう互いに補償する不均一さ又は凹凸が得られることに気づいた。
【0027】
本発明の有利な一実施形態によれば、少なくとも2本の線は、円弧によって互いに結ばれている。換言すると、2本の連続した線で構成されたV字形は、尖った先端を備えておらず、2本の線又はVの枝相互間に結ばれた丸形先端を有している。このような形状により、トレッドに入り込んで切り込みを形成するモールドの部分を設計することが容易になる。
【0028】
本発明の好ましい一実施形態では、少なくとも1つの切り込みの一方の壁が2本の線で形成されている状態において、2本の線の方向の交点は、2本の線の端に関してタイヤの走行方向に差し向けられている。換言すると、上述の有利な実施形態に従って上述の2本の線を結ぶV又は具体的には円弧の先端は、これら2本の線に対してタイヤの走行方向に差し向けられている。
【0029】
本発明者は又、このように切り込みを作ることがタイヤの摩耗速度の減少の一因となることを実証することができた。具体的に説明すると、実施した試験結果の示すところによれば、逆方向に差し向けられ、即ち、上述の有利な実施形態に従って2本の線を結び、逆方向において2本の線に対してタイヤの走行方向に差し向けられたV又はより具体的に言えば円弧の先端を備えた同一の切り込みにより、摩耗速度が高くなる。
【0030】
本発明の中央部分にのみこれら切り込みを設けることにより、加速下と制動下の両方においてトルク伝達が最も大きなタイヤの領域の摩耗速度を減少させることができ、この場合、製造費には過度の影響が生じず、V字形切欠きは、当然のことながら、作るのに費用が高くつく。他方、タイヤは、コーナリングの際のグリップ性能を向上させるために軸方向外側部分に設けられた他形式の切り込みを有するのが良い。
【0031】
V字形切り込みを中央部分と軸方向外側部分との間に分布して配置された数種類のポリマー配合物で作られたトレッドと組み合わせることにより、例えば、トレッドの中央部分において耐摩耗性が向上し、軸方向外側部分についてグリップ特性が向上したタイヤを得ることができる。
【0032】
かくして、V字形切り込みと一致した向上した耐摩耗性を有するトレッドの中央部分を作ることが可能である。このような実施形態は、更に、タイヤの中央部分の摩耗速度の制限に寄与する。
【0033】
本発明の好ましい一実施形態によれば、第2のポリマー配合物は、第1のポリマー配合物のショアAスケール硬度とは異なるショアAスケール硬度を有する。
【0034】
有利には、本発明によれば、中央部分の少なくとも一部を構成する第1のポリマー配合物のショアAスケール硬度と軸方向外側部分の少なくとも一部を構成する少なくとも1種類の第2のポリマー配合物のショアAスケール硬度は、少なくとも1ユニット、好ましくは2ユニットだけ異なる。
【0035】
また、有利には、中央部分の少なくとも一部を構成する第1のポリマー配合物のショアAスケール硬度は、軸方向外側部分の少なくとも一部を構成する少なくとも1種類の第2のポリマー配合物のショアAスケール硬度よりも高い。
【0036】
硬化後におけるポリマー配合物のショアAスケール硬度は、ASTM・D2240‐86規格に従って評価される。
【0037】
少なくとも1つの切り込みの一方の壁が2本の線で形成された状態において、周方向平面で見て、2本の線の方向の交点は、トレッドの表面から切り込みの深さの25%〜50%の半径方向距離のところに位置している。
【0038】
切り込みの深さは、周方向断面平面で見て、トレッドの表面をトレッドの表面から見て最も遠くに位置する切り込みの箇所から隔てる半径方向距離である。換言すると、深さは、トレッドの表面とトレッドの表面と面一をなしておらず、しかもVの尖った先端と接触状態にない線の端との間で測定された半径方向距離に等しい。
【0039】
本発明の第2の実施形態によれば、少なくとも1つの切り込みの一方の壁は、2本の線で形成され、周方向平面で見て、2本の線の方向の交点は、トレッドの表面から切り込みの高さの50%〜75%の半径方向距離のところに位置している。この第2の実施形態は、トレッドの摩耗速度を一段と最適化するという利点を有する。具体的に説明すると、本発明者は、周方向平面で見て、タイヤの摩耗速度に対して最も大きな影響を及ぼすのが、周方向平面で見て、タイヤの回転方向に差し向けられた角度を半径方向となす切り込みの部分であり、トレッドパターンの深さが深ければ深いほど、この影響がそれだけ一層強くなることを実証することができた。
【0040】
本発明の一変形形態では、少なくとも1つの切り込みの一方の壁は、2本の線で形成され、2本の線は、これら2本の線の方向により形成される角度の2等分線に関して互いに対称である。この変形形態により、特に摩耗速度に関して摩耗の面での特性を最適化することができ、第1に、凹凸の存在は、Vの枝の各々の傾斜のために、そして、摩耗がVの尖った先端を越えていったん摩耗すると、この凹凸が減少するので最適化され、第2に、トレッドの厚さがその最も大きい状態で走行方向におけるVの第1の枝の存在は、摩耗速度の減少に効果的に寄与する。
【0041】
本発明の有利な一変形形態では、切り込みの深さは、特にタイヤの軸方向における種々の摩耗速度を考慮に入れると共に軸方向に変化するのが良いトレッド剛性を得るために軸方向に変化している。
【0042】
本発明の有利な実施形態によれば、タイヤに対称という性質を与えるため、中央周方向バンドの中心は、有利には、赤道面上に配置される。例えばカーブが全てに本質的に同一方向であるサーキット上で走行するようになったタイヤ向きの他の実施形態では、中央周方向バンドの中心を赤道面上に配置しないようにすることが可能である。
【0043】
本発明の有利な変形実施形態では、トレッドの少なくとも表面を形成し、かくしてトレッドの特性を赤道面からショルダに向かって次第に変化させる5本又は6本以上の周方向バンドを設けることが想定できる。従前通り、このような実施形態は、赤道面に関して対称であっても良く、又は非対称であっても良く、バンドの分布状態は、これらの組成の点において又は赤道面周りのこれらの分布状態の点かのいずれかにおいて異なっている。
【0044】
本発明の好ましい実施形態によれば、第2のポリマー配合物は、第1のポリマー配合物の組成とは異なる組成のものであり、より好ましくは、第2のポリマー配合物は、第1のポリマー配合物のグリップ特性よりも優れたグリップ特性を有する。
【0045】
他の実施形態によれば、異なる加硫条件を用いることによって同種の配合物で互いに異なる特性を得ることができる。
【0046】
また、有利には、第1のポリマー配合物の半径方向厚さと第2のポリマー配合物の半径方向厚さは、軸方向におけるトレッドの耐摩耗性を最適化するよう互いに異なっているのが良い。また、有利には、厚さは、次第に異なる。
【0047】
本発明の好ましい一実施形態によれば、カーカス型補強構造体の補強要素は、周方向と65°〜90°の角度をなす。
【0048】
本発明の好ましい一実施形態では、タイヤは、特に、周方向補強要素の少なくとも1つの層を有するクラウン補強構造体から成り、本発明によれば、周方向補強要素の層は、下側長手方向と5°未満の角度をなすよう差し向けられた少なくとも1つの補強要素から成る。
周方向補強要素の層が設けられることは、モーターバイクのリヤに使用されるようになったタイヤを製造する際に特に好ましい。
【0049】
また、好ましくは、周方向補強要素の層の補強要素は、金属及び/又は繊維及び/又はガラスで作られる。本発明は、特に、周方向補強要素の同一の層内に互いに異なる種類の補強要素の使用を想定している。
【0050】
また、好ましくは、周方向補強要素の層の補強要素は、6000N/mm
2を超える弾性率を有する。
【0051】
本発明の一変形実施形態では、有利には、周方向補強要素は、可変ピッチで横方向に分布して配置される。
【0052】
周方向補強要素相互間のピッチの変化は、横方向における単位長さ当たりの周方向補強要素の数の変化及びかくして横方向における周方向補強要素の密度の変化、それ故、横方向における周方向剛性の変化の形態を取る。
【0053】
本発明の変形例によれば、クラウン補強構造体は、周方向と10°〜80°の角度をなす補強要素の少なくとも1つの層を有する。
【0054】
この変形形態によれば、クラウン補強構造体は、有利には、補強要素の少なくとも2つの層を有し、1つの層から次の層にこれら補強要素相互は20°〜160°、好ましくは40°より大きい角度をなす。
【0055】
本発明の好ましい一実施形態によれば、実働層の補強要素は、繊維材料で作られる。
【0056】
本発明の別の実施形態によれば、実働層の補強要素は、金属で作られる。
【0057】
本発明の有利な一実施形態では、特に、タイヤの子午線に沿う、特に実働層の縁部のところの補強構造体の剛性を最適化する目的で、実働層の補強要素と長手方向とのなす角度は、このような角度がタイヤの赤道面のところで測定した角度と比較して、補強要素の層の軸方向外側の縁のところの方が大きいように横方向に変化しているのが良い。
【0058】
本発明の他の細部及び他の有利な特徴は、
図1〜
図5を参照して行われる本発明の例示の実施形態の説明から以下において明らかになろう。