特許第5782479号(P5782479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782479
(24)【登録日】2015年7月24日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】PEG化AβFAB
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20150907BHJP
   A61K 47/48 20060101ALI20150907BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20150907BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20150907BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20150907BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   C07K16/18ZNA
   A61K47/48
   A61K39/395 N
   A61P25/28
   A61P9/00
   A61P25/00
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-133551(P2013-133551)
(22)【出願日】2013年6月26日
(62)【分割の表示】特願2009-546461(P2009-546461)の分割
【原出願日】2008年1月9日
(65)【公開番号】特開2013-241420(P2013-241420A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2013年7月23日
(31)【優先権主張番号】60/885,439
(32)【優先日】2007年1月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】ケリー・レニー・ベイルス
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・フランク・ブモル
(72)【発明者】
【氏名】チ−キン・チョウ
(72)【発明者】
【氏名】ロナルド・ブラッドリー・ディマットス
(72)【発明者】
【氏名】ライアン・ジョン・ハンセン
(72)【発明者】
【氏名】ウマ・クチブボートラ
(72)【発明者】
【氏名】ジロン・ル
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・コロン・マクドネル
【審査官】 木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/066171(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/071408(WO,A1)
【文献】 Adv Drug Deliv Rev.,2002年 6月17日,Vol.54, No.4,p.531-545
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸位置13〜28の間でヒトAβペプチドに特異的に結合するFabフラグメントを含む分子であって、前記Fabフラグメントが、配列番号1の軽鎖可変領域および配列番号2の重鎖可変領域を含み、ポリエチレングリコール分子が、マレイミド結合を介して配列番号2の56位に共有結合される、分子。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコール分子が0.5kD〜100kDの分子量を有する、請求項1記載の分子。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコール分子が10kDの分子量を有する、請求項2記載の分子。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコール分子が20kDの分子量を有する、請求項2記載の分子。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコール分子が30kDの分子量を有する、請求項2記載の分子。
【請求項6】
前記ポリエチレングリコール分子が100kDの分子量を有する、請求項2記載の分子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の分子を含む、組成物。
【請求項8】
薬理学的に受容可能な担体をさらに含む、請求項7に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミロイドβ(Aβ)ペプチドに結合し、1つ以上のポリエチレングリコール(PEG)分子に共有結合される抗体フラグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
循環型のAβペプチドは、前駆体タンパク質、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の分解により生じた39〜43アミノ酸(ほとんどは40または42アミノ酸)から構成される。可溶性から高β−シート含有量を有する不溶性へのAβの変換、および脳における老人斑および脳血管斑としてのその沈着は、アルツハイマー病、ダウン症、および脳アミロイド血管症(CAA)を含む、多くの状態および疾患に関連するように見える。Aβ沈着の予防および/または逆転により、Aβペプチドと関連する状態を処置できる。
【0003】
Aβ沈着に作用する治療薬としては、Aβペプチドに対する抗体(例えば、国際公開第2001/62801号(特許文献1)、国際公開第2004/071408号(特許文献2)およびTamura,Y.ら,「Neurobiol.of Dis.」(2005)20:541−545(非特許文献1)に議論されているヒト化抗体およびフラグメント)が挙げられる。
【0004】
多くの抗体およびそれらの誘導体が、診断および治療に有用であり得るが、抗体の理想的な薬物動態は、しばしば、特定の適用については達成されない。Aβペプチドと関連する種々の状態および疾患を対処することを目的としている治療抗体は、一般に、インタクトなFc領域を有する免疫グロブリンである。Fc領域は、血漿中の抗体の半減期を長引かせるのに関与する。しかしながら、この延長は、標的ペプチドに結合する抗体が、効率的に除去されるのを妨げ、その結果、抗原抗体複合体が血漿循環中に存在する時間が延長されるため、不都合であり得る。抗体のその後の投与により、血漿中に望まれない複合体のさらなる蓄積が引き起こされる。抗体のFc部分は、特定の不要のエフェクター機能を有する場合があり、かかる機能を除去するため、改変する必要があり得る。さらに、Fc部分は、総合的な治療が大がかりになり、これが、送達経路、送達装置、およびスケールアップした製造プロセスに関連する問題をしばしば生じる。
【0005】
Fabを含む、Fc部分を有さない抗体フラグメントは、かかるフラグメントが、有力な治療法であり得るかどうかを決定するためにインビボで研究されている。しかしながら、研究により、Fabのようなフラグメントに関与する治療の有効性が、速いクリアランス速度および短い半減期のために、制限されていることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2001/62801号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/071408号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tamura,Y.ら,「Neurobiol.of Dis.」(2005)20:541−545
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、血漿における複合体形成および潜在的エフェクター機能によって引き起こされ得る潜在的副作用を回避すると同時に、改良された投与計画を可能にする薬物動態および薬力学を有する活性のある治療的抗Aβペプチド抗体分子の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、Aβペプチドを標的とし得る治療抗体または抗体フラグメントに関連する多くの問題を克服する。本発明の化合物は、Aβに結合し、1つ以上のポリエチレングリコール(PEG)分子に共有結合する抗体フラグメントを含む。これらの化合物は、哺乳動物細胞株における抗体産生に関連する種々の問題(例えば、コストの問題、精製の問題、および汚染している内因的に産生された抗原の問題)を取り除く細菌細胞系または酵母細胞系において産生できる。さらに、本発明の化合物は皮下投与されてもよく、Aβへの抗体フラグメントの親和性および選択性を保存すると同時に、理想的な薬物動態(PK)および薬力学(PD)プロファイルを有する。
【0010】
全く予測も予想もできなかった事であるが、出願人らは、抗体フラグメントの相補性決定領域(CDR)へのPEG分子の共有結合は、Aβへの抗体フラグメントの活性、親和性または選択性を変化させないことも見出した。
【0011】
本発明は、アミノ酸位置13〜28の間でヒトAβペプチドに特異的に結合する抗体フラグメントを含む分子を提供し、その抗体フラグメントはPEG分子に共有結合される。好ましくは、その抗体フラグメントはFabフラグメントである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一実施形態において、本発明は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有する抗体フラグメントを含む分子を提供し、ここで、その軽鎖可変領域は、アミノ酸配列:CDRL1:SSSQSLIYSDGNAYLH(配列番号6)、CDRL2:KVSNRFS(配列番号7)およびCDRL3:TQSTHSPWT(配列番号8)を有するCDR領域を含み、その重鎖可変領域は、アミノ酸配列:CDRH1:GYTFSRYSMS(配列番号9)、CDRH2:QINIRGNTYYPDTVKG(配列番号10)またはQINIRGNNTYYPDTVKG(配列番号11)、およびCDRH3:GDF(配列番号12)を有するCDR領域を含む。好ましくは、かかる分子は、抗体フラグメントの重鎖可変領域または軽鎖可変領域のいずれかに共有結合されるPEG分子を有する。より好ましくは、かかる分子は、CDRに共有結合されるPEG分子を有する。さらにより好ましくは、かかる分子は、CDR内のシステイン残基に共有結合されるPEG分子を有する。最も好ましくは、かかる分子は、抗体フラグメントの重鎖可変領域のCDRH2:QINIRGNTYYPDTVKG(配列番号10)に共有結合されるPEG分子を有する。
【0013】
別の実施形態において、本発明は、配列番号1の軽鎖可変領域、および配列番号2の重鎖可変領域を有する抗体フラグメントを含む分子を提供する。好ましくは、かかる分子は、抗体フラグメントの重鎖可変領域または軽鎖可変領域のいずれかに共有結合されるPEG分子を有する。より好ましくは、かかる分子は、抗体フラグメントの重鎖可変領域のCDRに共有結合されるPEG分子を有する。さらにより好ましくは、かかる分子は、抗体フラグメントの重鎖可変領域のCDR内のシステイン残基に共有結合されるPEG分子を有する。最も好ましくは、かかる分子は、配列番号2の重鎖可変領域のアミノ酸位置56においてシステインに共有結合されるPEG分子を有する。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、FabフラグメントまたはScFvフラグメントを含む分子を提供し、ここで、そのFabフラグメントまたはScFvフラグメントは、PEG分子に共有結合されて、配列番号1の軽鎖可変領域、および配列番号2の重鎖可変領域を有する。好ましくは、かかる分子は、配列番号2の重鎖可変領域のアミノ酸位置56においてシステインに共有結合されるPEG分子を有する。また、好ましくは、かかる分子において、PEGの分子量は約0.5kD〜約30kDであり、より好ましくは20kDである。
【0015】
別の実施形態において、本発明は、配列番号1の軽鎖可変領域および配列番号2の重鎖可変領域を有する抗体フラグメントを含む分子を提供し、ここで、前記抗体フラグメントは、配列番号2の重鎖可変領域の56位において20kDのPEG分子に共有結合される。好ましくは、かかる分子において、PEG分子は、マレイミド結合を介して共有結合される。
【0016】
別の実施形態において、本発明は、アミノ酸位置13〜28の間でヒトAβペプチドに特異的に結合する抗体フラグメントを含む分子を提供し、ここで、その抗体フラグメントは、PEG分子に共有結合され、配列番号1の軽鎖可変領域、および配列番号3の重鎖可変領域を有する。好ましくは、かかる分子は、抗体フラグメントのヒンジ領域に共有結合されるPEG分子を有する。より好ましくは、PEGは、マレイミド結合を介してヒンジ領域に共有結合される。
【0017】
本発明はまた、血漿中の複合体形成によって引き起こされ得る潜在的副作用を最小化し、Aβへの抗体フラグメントの活性、親和性および選択性を保存または向上させると同時に、週一度の投与計画を可能にする薬物動態および薬力学を有する活性のある治療分子を生じる抗体フラグメントにPEG分子が共有結合される、その抗体フラグメント、好ましくはヒト化抗体フラグメントを有する分子を含む。
【0018】
本発明はまた、前臨床アルツハイマー病および臨床的アルツハイマー病の両方、ダウン症、ならびに前臨床アミロイド血管症(CAA)および臨床的アミロイド血管症(CAA)、認知障害、脳卒中、脳内出血、および全般的精神衰弱を含む、Aβペプチドに関連する状態および疾患を処置、予防または逆転する方法を含む。これらの方法は、本明細書に記載され特許請求されている有効量の分子を患者に投与することを含む。
【0019】
本発明は、アミノ酸位置13〜28の間でAβペプチドに特異的に結合する抗体フラグメントを含む分子を提供し、ここで、その抗体フラグメントは、PEG分子に共有結合される。本発明者らは、Aβに結合する抗体フラグメントに対してPEG分子を共有結合させても、Aβへの抗体フラグメントの活性、親和性または選択性を負に変化させないことを見出した。より驚いたことには、本発明者らは、Aβに結合する抗体フラグメントのCDRに対して20kDまでの分子量を有するPEG分子を共有結合させても、Aβへの抗体フラグメントの活性、親和性または選択性を負に変化させないことを見出した。これらの抗体フラグメントは、皮下投与されてもよく、柔軟性のある投与計画を支持する治療上の使用のための改良されたPK/PDプロファイルを有している。さらに、これらの抗体フラグメントは、哺乳動物細胞における全長の抗体産生に関連する種々の問題を取り除く細菌細胞系または酵母細胞系において産生できる。本発明のPEG化抗体フラグメントは、Aβペプチドに関連して生じるヒトの症状を予防法および治療法の両面で、予防および処置する機会を与える。
【0020】
天然に存在する全長の抗体は、4つのペプチド鎖、ジスルフィド結合によって相互に連結される2つの重(H)鎖(全長の場合、約50〜70kDa)および2つの軽(L)鎖(全長の場合、約25kDa)からなる免疫グロブリン分子である。各鎖のアミノ末端部分は、抗原認識に主に関与する約100〜110以上のアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、エフェクター機能に主に関与する定常領域を規定する。
【0021】
軽鎖はκまたはλに分類され、特定の定常領域によって特徴付けられる。各軽鎖は、N末端軽鎖可変領域(本明細書中では「LCVR」)および1つのドメインからなる軽鎖定常領域CLからなる。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεに分類され、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEとして抗体のアイソタイプを規定し、これらのうちのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgAおよびIgAに分けてもよい。各重鎖タイプは、特定の定常領域によって特徴付けられる。各重鎖は、N末端重鎖可変領域(本明細書中では「HCVR」)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、IgG、IgDおよびIgAについては3つのドメイン(CH1、CH2およびCH3)からなり、IgMおよびIgEについては4つのドメイン(CH1、CH2、CH3およびCH4)からなる。
【0022】
HCVRおよびLCVR領域は、相補性決定領域(「CDR」)と呼ばれる、超可変性の領域、フレームワーク領域(「FR」)と呼ばれる、より多くの保存される領域が散在する領域にさらに細かく分けられ得る。各HCVRおよびLCVRは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ末端からカルボキシ末端に配列される3つのCDRおよび4つのFRからなる。本明細書において、重鎖の3つのCDRは、「CDRH1、CDRH2およびCDRH3」と称され、軽鎖の3つのCDRは、「CDRL1、CDRL2およびCDRL3」と称される。CDRは、抗原と特異的相互作用を形成する残基の大部分を含有する。HCVRおよびLCVR領域内のCDRアミノ酸残基の番号付けおよび位置決めは、周知のカバット番号付与法(Kabat numbering convention)に従う。
【0023】
各軽−重鎖対の可変領域は、抗体の抗原結合部位を形成する。本明細書で使用される場合、「抗原結合部分」または「抗原結合領域」または「抗原結合ドメイン」または「抗原結合部位」とは、抗原と相互作用し、抗体に抗原への特異性および親和性を与えるアミノ酸残基を含有する抗体分子の部分を、交換可能に指す。この抗体部分は、抗原結合残基の適切な配座を維持するのに必須である「フレームワーク」アミノ酸残基を含む。好ましくは、本発明の抗体のフレームワーク領域は、ヒト起源または実質的にヒト起源(少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%ヒト起源)であり、カバット番号付与に従う。あるいは、抗原結合領域は、ヒト配列に由来してもよい。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「抗体フラグメント」とは、抗原(例えば、Aβ)に特異的に結合する能力を保有する抗体の1つ以上のフラグメントを指す。抗体の「抗体フラグメント」という用語の範囲内に含まれる分子の例としては、(i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価のフラグメントである、Fabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価のフラグメントである、F(ab’)フラグメント;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、ならびに(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Wardら、(1989)Nature 341:544−546)が挙げられる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインである、VLおよびVHは別々の遺伝子によってコードされるが、それらを単一のタンパク鎖として合成できる合成リンカーによる組み換え法を用いて、それらは結合されてもよく、ここで、VLおよびVH領域は対をなして、一価の分子(一本鎖Fv(scFv)として公知である;例えば、Birdら、(1988)Science 242:423−426:およびHustonら、(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883を参照のこと)を形成する。かかる一本鎖抗体はまた、「抗体フラグメント」という用語の範囲内に含まれることが意図されている。二重特異性抗体などの一本鎖抗体の他の形態もまた、「抗体フラグメント」という用語に含まれる。二重特性抗体は二価の二重特異性結合タンパク質であり、VHおよびVLドメインは一本鎖ポリペプチドで発現されるが、同じ鎖で2つのドメイン間の対を形成させるには短すぎるリンカーを用いて、強制的にそのドメインに別の鎖の相補的ドメインと対を形成させ、2つの抗原結合部位を生成する(例えば、Holliger,P.ら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444−6448;Poljak,R.J.ら、(1994)Structure 2:1121−1123を参照のこと)。
【0025】
さらに、抗体またはその抗体フラグメントは、1つ以上の他のタンパク質またはペプチドと抗体または抗体フラグメントとの共有結合または非共有結合によって形成される、より大きな免疫接着分子の部分であってもよい。かかる免疫接着分子の例としては、四量体scFv分子を作製するためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov,S.M.ら、(1995)Human Antibodies and Hybridomas 6:93−101)ならびに二価およびビオチン化scFv分子を作製するためのシステイン残基、マーカーペプチドおよびC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov,S.M.ら、(1994)Mol.Immunol.31:1047−1058)が挙げられる。FabおよびF(ab’)などの抗体フラグメントは、それぞれ、全抗体のパパインまたはペプシン消化のような従来技術を用いて、全抗体から調製できる。さらに、抗体、抗体フラグメントおよび免疫接着分子は、当該分野において周知の標準的な組み換えDNA技術を用いて得ることができる。抗体、抗体フラグメントおよび免疫接着分子は、グリコシル化されてもよいし、されなくてもよく、これも本発明の範囲内に含まれる。好ましくは、抗体フラグメントは、Fabフラグメントである。
【0026】
用語「ヒト化抗体」とは、部分的または完全に、ヒト抗体生殖細胞系または再構成された配列由来のアミノ酸配列、および非ヒトCDRを有する抗体の配列を変更することにより作製されるアミノ酸配列からなる抗体を指す。可変領域のフレームワーク領域は、対応するヒトフレームワーク領域によって置換されてもよい。ヒトフレームワーク領域は、ゲノムフレームワーク領域、および1つ以上のアミノ酸置換を含むものを含む。特に、かかる置換は、ヒトフレームワークにおける特定の位置でのアミノ酸が、非ヒトCDRの天然フレームワークの対応する位置からのアミノ酸と置き換えられる変異を含む。例えば、マウスCDRを有するヒト化抗体は、特定のヒトフレームワークアミノ酸を対応するマウスフレームワークアミノ酸で置き換える1つ以上の置換を含んでいてもよい。使用できるマウス抗体をヒト化することに関する方法をさらに記載している参考文献は、例えば、Queenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:2869,1991;米国特許第5,693,761号;同第4,816,397号;同第5,225,539号;Levitt,M.,J.Mol.Biol.168:595−620,1983に記載されるようなコンピュータープログラムABMODおよびENCAD;ヒト化は、Winterおよび共同研究者の方法(Jonesら、Nature,321:522−525,1986;Riechmannら、Nature,332:323−327,1988;Verhoeyenら、Science,239:1534−1536,1988)に従って、実質的に実施できる)。好ましくは、本発明の抗体はヒト化抗体フラグメントである。より好ましくは、本発明の抗体はヒト化抗体fabフラグメントである。
【0027】
本発明はまた、1つ以上のPEG分子に共有結合される抗体フラグメントを含む。用語「ポリエチレングリコール」および「PEG」とは、交換可能に用いられ、ポリエチレングリコールまたは当該分野において周知のその誘導体(例えば、米国特許第5,445,090号;同第5,900,461号;同第5,932,462号;同第6,436,386号;同第6,448,369号;同第6,437,025号;同第6,448,369号;同第6,495,659号;同第6,515,100号および同第6,514,491号を参照のこと)を指すことが意図される。好ましくは、PEGは、抗体フラグメントの1つ以上のリジンまたはシステイン残基に共有結合される。より好ましくは、PEGは、抗体フラグメントの重鎖可変領域における1つ以上のリジンまたはシステイン残基に共有結合される。さらにより好ましくは、PEGは、抗体フラグメントのCDR内の1つ以上のリジンまたはシステイン残基に共有結合される。最も好ましくは、PEGは、前記配列番号2の重鎖可変領域のアミノ酸位置56においてシステイン残基に結合される。あるいは、PEG分子は、抗体フラグメントのヒンジ領域へのリンカーまたはスペーサー分子を介して抗体フラグメントに結合されてもよい。ヒンジ領域へのリンカーおよびスペーサー分子の付加は、当該分野において周知である。さらに、PEGは、当該分野において周知の技術によって、抗体フラグメントの改変された非天然アミノ酸に共有結合されてもよい。
【0028】
その典型的な形態において、「PEG」は、末端ヒドロキシル基を有するリンカーポリマーであり、式HO−CHCH−(CHCHO)−CHCH−OH(式中、nは、約8〜約4000である)を有する。末端水素は、アルキルまたはアルカノール基(M−PEG)などの保護基で置換されてもよい。好ましくは、PEGは、少なくとも1つのヒドロキシ基を有し、より好ましくは、それは末端ヒドロキシ基である。このヒドロキシ基は、活性化されてペプチドと反応することが好ましい。種々の化学修飾が、官能基(例えば、活性カーボネート、活性エステル、アルデヒド、トレシレート)を有する活性PEG誘導体を調製するために使用されるか、または所定の標的分子に結合するのに適切なPEG−プロピオンアルデヒドが使用される。次いで、活性化PEG誘導体は、ポリペプチド薬物の反応基に共有結合される。本発明に有用な多くのPEG形態が存在する。非常に多くのPEG誘導体が当該分野において存在し、本発明における使用に適切である。本発明の抗体フラグメントに共有結合されるPEG分子は、特定の型またはサイズに限定されることを意図されていない。PEGの分子量は、好ましくは約0.5キロダルトン(kD)〜約100kDであり、より好ましくは約5kD〜約30kDであり、最も好ましくは約1kD〜約20kDである。PEGは直鎖状であってもまたは分枝状であってもよく、本発明の抗Aβペプチド抗体フラグメントは、そのペプチドに共有結合された1、2、3、4、5または6つのPEG分子を有してもよい。1つのPEG分子抗体フラグメントが存在することが最も好ましい;しかしながら、1つのペプチド分子につき、1つより多くのPEG分子が存在する場合、6つ以下であることが好ましい。PEG分子の両端は、2つ以上の抗Aβペプチド抗体フラグメント分子を一緒に架橋するように適合できることがさらに企図されている。タンパク質、抗体およびそのフラグメントにPEG分子を結合する方法は、当該分野において周知である。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「K」とは、特定の抗体抗原相互作用の解離定数を指すと意図される。それは、式:K=kOff/kon(Mで測定される)によって計算される。本明細書で使用される場合、用語「kon」とは、単位:M−1−1で測定される順反応の複合体形成反応の会合速度定数または特異反応速度を指すと意図される。本明細書で使用される場合、用語「koff」とは、単位:秒−1で測定される抗体/抗原複合体からの抗体の解離について、解離速度定数または特異反応速度を指すと意図される。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「特異的に結合する」とは、特異的結合対の1つのメンバーが、その特異的結合パートナー(複数を含む)以外の分子に有意に結合しない状況を指す。その用語はまた、例えば、本発明の抗体の抗原結合ドメインが、多くの抗原によって保有される特定のエピトープに特異的である場合に適用可能であり、その場合、抗原結合ドメインを保有する特異的抗体は、そのエピトープを保有する種々の抗原に結合できる。従って、本発明の分子は、Aβペプチドに特異的に結合するが、APPには特異的に結合しない。さらに、本発明の分子は、アミノ酸HHQKLVFFAEDVGSNK(13〜8)(配列番号4)を含む直鎖、非直鎖または立体配座のAβエピトープの間で特異的に結合する。
【0031】
本発明の分子に関して、用語「活性」とは、エピトープ/抗原親和性および特異性、インビボまたはインビトロにおけるAβペプチドの活性を無効化または拮抗する能力、IC50、抗体のインビボでの安定性ならびに抗体の免疫特性を含むが、これらに限定されない。当該分野において認識される抗体の他の同定可能な生物学的特性または特徴としては、例えば、交差反応性(すなわち、標的化ペプチドの非ヒト相同体との交差反応性、あるいは一般的に他のタンパク質または組織との交差反応性)、および哺乳動物細胞におけるタンパク質の高発現レベルを保存する能力が挙げられる。上述の特性または特徴は、当該分野において認識されている技術(ELISA、競合ELISA、BiacoreまたはKinExA表面プラズモン共鳴分析、制限のないインビトロまたはインビボでの中和アッセイ、受容体結合、サイトカインもしくは成長因子産生および/または分泌、シグナル変換、ならびにヒト、霊長類を含む異なる起源、または任意の他の起源由来の組織部分を用いる免疫組織化学が挙げられるが、これらに限定されない)を用いて、観察、測定または評価され得る。
【0032】
用語「個体」、「被験者」および「患者」とは、本明細書で交換可能に使用され、哺乳動物、好ましくはヒトを指す。特定の実施形態において、その患者はさらに、Aβペプチドの減少した活性から利点を得る疾患または障害または状態で特徴付けられる。
【0033】
本明細書に使用される場合、「宿主細胞」、「宿主細胞株」および「宿主細胞培養物」との表現は、交換可能に使用され、本発明の任意の単離されたポリヌクレオチドまたは本発明のHCVR、LCVRもしくはモノクローナル抗体をコードする配列を含む任意の組み換えベクター(複数も含む)の受容物である個々の細胞または細胞培養物を含む。宿主細胞は、単一宿主細胞の子孫を含む。その子孫は、形態学において、または全DNA相補体において、自然、偶発的、または意図的変異および/または変化に起因して、元の親細胞と完全に同一でなくてもよい。宿主細胞は、本発明の抗体フラグメントまたはその軽鎖もしくは重鎖を発現する組み換えベクターまたはポリヌクレオチドで、形質転換、形質導入または感染された細胞を含む。宿主染色体中に安定的に導入されるか、またはそうではないかのいずれかである、本発明の組み換えベクターを含む宿主細胞は、「組み換え宿主細胞」とも称される。本発明の宿主細胞を生成するための好ましい細胞は、CHO細胞(例えば、ATCC CRL−9096)、NS0細胞、SP2/0細胞、COS細胞(例えば、ATCC CRL−1650、CRL−1651)およびHeLa(ATCC CCL−2)である。本発明に使用されるさらなる宿主細胞としては、植物細胞、酵母細胞、他の哺乳動物細胞および原核細胞が挙げられる。より好ましくは、本発明に使用するための細胞は、酵母細胞または原核細胞である。
【0034】
用語「Aβペプチドに関連する状態または疾患」または「Aβ活性を有する疾患に関連する状態」とは、1)脳におけるβアミロイド斑の進行、2)Aβの異常型の合成、3)Aβの特定の毒性型の形成、あるいは4)Aβの合成、分解またはクリアランスの異常速度、に関連する全ての状態、障害および疾患を含むことを意味する。アルツハイマー病、ダウン症、脳アミロイド血管症、特定の血管性認知症、および軽度認識障害などの状態および疾患は、このようなAβとの関係を有することが知られているか、またはそうであると考えられている。
【0035】
本発明は、アミノ酸位置13〜28の間でAβペプチドに特異的に結合する抗体フラグメントを含む分子を提供し、その抗体フラグメントは、PEG分子に共有結合される。好ましくは、抗体フラグメントは、Fabフラグメントおよび/またはscFvフラグメントなどのヒト化抗体フラグメントである。最も好ましくは、その抗体フラグメントは、Fabフラグメントである。Aβペプチドへの本発明の分子の特異的結合により、Aβペプチドに関連する疾患および障害、すなわち、Aβペプチドの生物活性の阻害から利益を得る状態、疾患または障害の治療薬として、前記分子を使用することが可能となる。
【0036】
本発明の一実施形態において、抗体フラグメントは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を有し、その軽鎖可変領域は、アミノ酸配列:CDRL1:SSSQSLIYSDGNAYLH(配列番号6)、CDRL2:KVSNRFS(配列番号7)およびCDRL3:TQSTHSPWT(配列番号8)を有するCDR領域を含み、ならびに/あるいはその重鎖可変領域は、アミノ酸配列:CDRH1:GYTFSRYSMS(配列番号9)、CDRH2:QINIRGNTYYPDTVKG(配列番号10)またはQINIRGNNTYYPDTVKG(配列番号11)、およびCDRH3:GDF(配列番号12)を有するCDR領域を含む。好ましくは、本発明の抗体フラグメントの6つのCDRは、一緒に存在する。本発明のCDRを含む組成物は、概して、抗体の重鎖配列または軽鎖配列あるいはその実質的な部分であり、ここで、CDRは、カバット番号付与と一致する位置に配置される。重鎖および軽鎖の各鎖についての3つのCDR領域は、式:FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4によって表される連続配列としてフレームワーク領域に提供される。上記した順でCDRを有する連続配列として構成される場合、重鎖または軽鎖のFR1、FR2、FR3およびFR4は、抗体フラグメントの完全なフレームワーク領域を形成するように組み合わされる。好ましくは、本発明の抗体のフレームワーク領域は、ヒト起源または実質的にヒト起源(すなわち、約80、82、85、87、90、92、95、97%より大きい)である。
【0037】
好ましくは、本発明の抗体フラグメントは、以下の配列のペプチドを含むLCVR
【化1】
および以下の配列
【化2】
からなる群より選択される配列を有するペプチドを含むHCVRを含む。
【0038】
あるいは、抗体フラグメントは、配列番号1からなる配列を有するペプチドを含むLCVRおよび配列番号2または配列番号3からなる群より選択される配列を有するペプチドを含むHCVRを含み、ここで、そのHCVRおよびLCVRは、抗体フラグメントに一緒に存在する。当業者は、本発明の抗体フラグメントが、HCVRおよびLCVRの特定の配列には限定されず、これらの配列が本発明の分子に存在する場合、親抗体の抗原結合能力および少なくとも1つの他の機能的特性、例えば、エピトープ特異性、Aβペプチドへの結合に関して親抗体と競合する能力、Aβペプチド結合へのIC50および/またはKもしくはkoff値を保有するか、または向上させるこれらの配列の変異体も含むことは、理解するだろう。
【0039】
本発明の別の実施形態において、可変領域の全てまたは一部は、配列番号1によって示されるような特定のLCVR配列、および配列番号2または配列番号3に示されるようなHCVRによって限定され、そして、インビボまたはインビトロで少なくとも1つのAβペプチド活性に拮抗またはそれを無効化することによってさらに特徴付けられる。可変領域の全てまたは一部が、本明細書中のLCVR配列番号1およびHCVR配列番号2または配列番号3によって示されるような特定の配列によって限定される本発明の抗体は、ヒトAβペプチドには特異的に結合するが、ヒトAPPには結合しないことによってさらに特徴付けられる。
【0040】
本発明の一態様において、PEG(またはその誘導体)は、抗体フラグメントの1つ以上のリジン、システインまたは非天然の修飾されたアミノ酸残基に共有結合される。好ましくは、PEG分子は、抗体フラグメントの重鎖可変領域または軽鎖可変領域のいずれかに共有結合される。より好ましくは、かかる分子は、抗体フラグメントの重鎖可変領域のCDRに共有結合されるPEG分子を有する。最も好ましくは、かかる分子は、配列番号2の重鎖可変領域のアミノ酸位置56においてシステインに共有結合されるPEG分子を有する。あるいは、PEG分子は、抗体フラグメントのヒンジ領域へのリンカーまたはスペーサー分子を介して抗AβペプチドFab抗体に結合されてもよい。
【0041】
本発明の別の態様において、PEG分子は、1つ以上の操作された本発明の抗体のリジン、システインまたは非天然の修飾されたアミノ酸残基に共有結合されて、Aβへの抗体フラグメントの親和性および選択性に有意に影響を与えずに、抗体分子に存在するグリコシル化(gyclosylation)を置換する。好ましくは、PEG分子は、抗体フラグメントの重鎖可変領域または軽鎖可変領域でグリコシル化シグナルを置換する。より好ましくは、PEG分子は、抗体フラグメントの重鎖可変領域のCDRでグリコシル化シグナルを置換する。最も好ましくは、PEG分子は、配列番号2の重鎖可変領域の56位でグリコシル化シグナルを置換する。
【0042】
本発明における抗体に共有結合されたPEG分子は、特定の型またはサイズに限定されることを意図されていない。PEGの分子量は、好ましくは約0.5kD〜約100kD、より好ましくは約0.5kD〜約30kD、最も好ましくは約1kD〜約20kDである。あるいは、PEGの分子量は、約0.5kD、約1kD、約5kD、約10kDおよび約20kDからなる群より選択されてもよい。PEGは、直鎖状または分枝状であってもよく、本発明のPEG化抗Aβペプチド抗体は、ペプチドに結合される1つ以上のPEG分子を有してもよい。好ましくは、1つのPEG化抗Aβペプチド抗体につき、1つのPEG分子が存在する。
【0043】
最も好ましくは、本発明の抗体分子は、配列番号1の軽鎖可変領域、および配列番号2の重鎖可変領域を有する抗体フラグメントを含み、ここで、前記抗体フラグメントは、配列番号2の重鎖可変領域の56位において20kDのPEG分子に共有結合される。
【0044】
本発明の抗体が結合する抗原性Aβペプチドエピトープは、アミノ酸HHQKLVFFAEDVGSNK(配列番号4)を含む直鎖状、非直鎖状または立体配座のエピトープである。前記エピトープに結合する抗体は、それらのAPP結合と比較してAβペプチドに特異的および選択的に結合する。本発明のモノクローナル抗体は、それがヒトAPPに結合するより少なくとも2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90または100倍高く(例えば、より高い親和性またはより高い特異性)、より好ましくは、それがAPPに結合するより少なくとも150、200、250、300、350、400、450、500、550または600倍高く、Aβペプチドに結合し、さらに好ましくは、それは、例えば、ELISAアッセイ、競合ELISAアッセイによって測定されるバックグランドレベル、あるいはBiacoreまたはKinExAアッセイにおけるK値より高いレベルではAPPに結合しない。
【0045】
本発明の抗体フラグメントは、アミノ酸HQKLVFFAEDVGSNK(配列番号5)を含まないエピトープより、少なくとも2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90または100倍高く(例えば、より高い親和性またはより高い特異性)、アミノ酸HQKLVFFAEDVGSNK(配列番号5)の間でエピトープに結合する。より好ましくは、アミノ酸HQKLVFFAEDVGSNK(配列番号5)を含まないエピトープより少なくとも150、200、250、300、350、400、450、500、550または600倍高く結合し、さらにより好ましくは、例えば、ELISAアッセイ、競合ELISAアッセイによって測定されるバックグランドレベル、あるいはBiacoreまたはKinExAアッセイにおけるK値より高いレベルではアミノ酸HQKLVFFAEDVGSNK(配列番号5)を含まないエピトープに結合しない。
【0046】
好ましい実施形態において、本発明は、KinExA法によって測定した場合、約200pM、100pM、50pM、40pMまたは30pM未満、好ましくは約20pM未満のヒトAβペプチドへの結合親和性(K)で、配列HQKLVFFAEDVGSNK(配列番号5)を含むAβペプチドへの強力な結合親和性を有する抗体フラグメント、すなわち、Aβペプチド、またはその一部に結合する[すなわち、抗体がHQKLVFFAEDVGSNKと接触する]抗体フラグメントを提供する。あるいは、ヒトAβペプチドへの結合親和性(K)は、0.1pM〜200pMである。抗体親和性は、本明細書の以下の実施例に記載する方法で測定してもよいし、または当該分野で利用可能な他の方法で測定してもよい。
【0047】
本発明の抗体の投与経路は、経口、非経口、吸入または局所的であってもよい。好ましくは、本発明の抗体は、非経口的投与にとって適切な医薬組成物に組み込むことができる。本明細書で使用される場合、用語、非経口とは、静脈内、筋肉内、皮下、直腸、膣内、または腹腔内投与を含む。静脈内または腹腔内または皮下注射による末梢全身送達が好ましい。より好ましくは、本発明の抗体の投与経路は、皮下注射を介する。かかる注射の適切なビヒクルは、当該分野においては明白である。
【0048】
本発明の抗体フラグメントは、血漿において対応する抗Aβペプチド全長抗体より短い半減期を有し、対応する抗Aβ全長抗体より血漿から速く除去される。あるいは、本発明の抗体は、PEG分子に共有結合されない対応する抗AβペプチドFabフラグメントより長い血漿半減期を有し、PEG分子に共有結合されない対応する抗AβペプチドFabフラグメントほどには血漿から速く除去されない(実施例1、2および3)。本明細書で使用される場合、抗体に関する用語「対応する」とは、同じLCVRおよびHCVRを有する抗体を指す。例えば、配列番号1のLCVRおよび配列番号2からなるHCVRを有する抗体Fabフラグメントに関する対応する全長抗体は、インタクトなFcドメインと同じ配列番号1のLCVRおよび配列番号2からなるHCVRを一緒に有する。
【0049】
別の態様において、本発明は、抗体をコードする組み換えポリヌクレオチドに関し、それは、発現した場合、配列番号1のLCVRおよび配列番号2からなるHCVRを含む。コドンの縮重に起因して、他のポリヌクレオチド配列は、これらの配列に容易に置換され得る。本発明の特に好ましいポリヌクレオチドは、発現した場合、配列番号6〜8の軽鎖CDR、および配列番号9、10または11および12の重鎖CDR、あるいは配列番号1〜配列番号3の可変領域のうちのいずれかを含む抗体をコードする。配列番号1のLCVRおよび配列番号2のHCVRをコードするポリヌクレオチド配列の例は、配列番号13(LCVR)および配列番号14(HCVR)にそれぞれ表される。
【0050】
ポリヌクレオチドは、典型的に、自然に会合するプロモーター領域または異種プロモーター領域を含む、ヒト化免疫グロブリンをコードする配列に作動可能に連結される発現制御ポリヌクレオチド配列をさらに含む。好ましくは、発現制御配列は、真核宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトすることが可能なベクター中の真核プロモーター系であるが、原核細胞の制御配列が使用されてもよい。ひとたび、ベクターが宿主細胞株に組み込まれると、宿主細胞は、ヌクレオチド配列を発現するのに適切な条件下で増殖させ、所望の場合、軽鎖、重鎖、軽/重鎖二量体またはインタクトな抗体、結合フラグメントあるいは他の免疫グロブリン型の回収および精製がそれに続いてもよい。
【0051】
所望の抗体または抗体フラグメントを最終的に発現できる本発明の核酸配列は、種々の周知技術のうちのいずれかを用いて、種々の異なるポリヌクレオチド(ゲノムまたはcDNA、RNA、合成オリゴヌクレオチドなど)および構成要素(例えば、V、J、DおよびC領域)から形成できる。適切なゲノムおよび合成配列の結合は、一般的な生成方法であるが、cDNA配列を利用してもよい。
【0052】
ヒト定常領域DNA配列は、種々のヒト細胞から、しかし好ましくは、不死化B細胞から、周知の手順に従って単離され得る。免疫グロブリン発現および分泌のためのポリヌクレオチド配列および宿主細胞にとって適切な細胞は、当該分野において周知の多くの供給源から得ることができる。
【0053】
具体的に本明細書に記載されるヒト化抗体または抗体フラグメントに加えて、他の「実質的に相同の」修飾された抗体が、容易に設計でき、当業者に周知の種々の組み換えDNA技術を用いて製造できる。例えば、フレームワーク領域は、アミノ酸置換、終端付加、中間体付加、終端欠失および中間欠失などによって、一次構造レベルで天然配列から変化させることができる。さらに、種々の異なるヒトフレームワーク領域は、本発明のヒト化抗体の基礎として、単独で、または組み合わせて使用してもよい。一般に、遺伝子の修飾は、部位特異的突然変異誘発法などの種々の周知技術によって容易に成され得る。
【0054】
上述のように、ポリヌクレオチドは、配列が、発現制御配列に作動可能に連結された(すなわち、発現制御配列の機能を確実にするために配置された)後に、宿主中で発現される。これらの発現ベクターは、典型的に、宿主染色体DNAのエピソームまたは必須部分として、宿主細胞中で複製可能である。一般に、発現ベクターは、選択マーカー、例えば、テトラサイクリンまたはネオマイシンを含むので、所望のDNA配列で形質転換されたこれらの宿主細胞の検知を可能である。これらの細胞の発現ベクターとしては、発現制御配列、例えば、複製起点、プロモーター、エンハンサー、ならびに必要なプロセシング情報部位、例えば、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終了配列を含むことができる。好ましい発現制御配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、サイトメガロウイルスなどに由来するプロモーターである。
【0055】
目的のポリヌクレオチド配列(例えば、重鎖および軽鎖をコードする配列ならびに発現制御配列)を含むベクターは、細胞の種類に応じて変わる周知の方法によって、宿主細胞に移すことができる。種々の宿主が、当該分野において周知の技術を用いて本発明の抗体を発現するために使用されてもよい。好ましい細胞株としては、COS、CHO、SP2/0、NS0(ATCC、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)、マナッサス、バージニア州などの公的な保存場所から利用可能である)が挙げられる。好ましくは、本発明の宿主細胞は、本発明の核酸分子を含む1つ以上のベクターまたは構築物を含む。本発明の宿主細胞は、本発明のベクターが導入される細胞であり、前記ベクターは、本発明のLCVRをコードするポリヌクレオチドおよび/または本発明のHCVRをコードするポリヌクレオチドを含む。本発明はまた、本発明の2つのベクターが導入されている宿主細胞を提供し、1つは、本発明の抗体のLCVRをコードするポリヌクレオチドを含み、もう1つは、本発明の抗体に存在するHCVRをコードするポリヌクレオチドを含み、各々は、プロモーター配列に作動可能に連結される。細胞種類としては、哺乳動物細胞、細菌細胞、植物細胞および酵母細胞が挙げられる。好ましくは、細胞は、CHO細胞、COS細胞、SP2/0細胞、NS0細胞、酵母細胞あるいは任意の好ましい細胞種類の誘導体または子孫である。
【0056】
ひとたび発現すると、本発明のインタクトな抗体、それらの二量体、個々の軽鎖および重鎖、または他の免疫グロブリン型は、硫安塩析、イオン交換、親和性、逆相、疎水性相互作用カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などを含む、当該分野の標準的手段に従って精製され得る。薬学的用途のために、少なくとも約90%、92%、94%または96%均一性の実質的に純粋な免疫グロブリンが好ましく、98%〜99%またはそれより高い均一性が最も好ましい。ひとたび、部分的または所望の場合均一に精製されると、次いで、ペプチドは、本明細書に指示されるように、治療または予防用に使用されてもよい。
【0057】
認知障害、脳卒中、脳出血、および全般的精神衰弱を生じる多くの症状は、Aβペプチドを含有する脳の老人斑および脳血管斑に関連しているように見える。これらの状態の中には、前臨床アルツハイマー病および臨床的アルツハイマー病、ダウン症、ならびに前臨床アミロイド血管症(CAA)および臨床的アミロイド血管症(CAA)がある。アミロイド斑は、Aβペプチドから形成される。これらのペプチドは、血液および脳脊髄液(CSF)において、典型的には、リポタンパク質との複合体型として循環する。循環型におけるAβペプチドは、共通前駆体タンパク質、アミロイド前駆体タンパク質(多くの場合、APPと指定されている)の分解から得られる39〜43アミノ酸(ほとんどは40または42アミノ酸)から構成される。可溶性APの一部の形態は、それら自体が神経毒であり、神経変性および/または認識低下の重症度を決定する場合がある(McLean,C.A.ら、Ann.Neturol.(1999)46:860−866;Lambert,M.P.ら、(1998)95:6448−6453;Naslund,J.,J.Am.Med.Assoc.(2000)283:1571)。
【0058】
従って、本発明の分子を含む医薬組成物は、Aβペプチドの存在が、望ましくない病理学的作用を引き起こすか、または原因となる症状、あるいは、Aβ活性の減少が、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて治療的利点を有する症状(Aβペプチドを含有する脳における老人斑および脳血管斑に関連しているように見える臨床的アルツハイマー病または前臨床アルツハイマー病、ダウン症、臨床的アミロイド血管症(CAA)または前臨床アミロイド血管症(CAA)、前駆アルツハイマー病、軽度認識障害(MCI)および認知障害、脳卒中、脳出血、および全般的精神衰弱が挙げられるが、これらに限定されない)の処置または予防に有用であり得る。Aβペプチド活性が有害であるか、減少したレベルの生物活性Aβペプチドから利益を得る、上述の障害の少なくとも1つを処置または予防するため、本発明の分子の使用が本明細書に企図されている。さらに、上述の障害の少なくとも1つの処置用の医薬の製造における本発明の分子の使用も企図されている。
【0059】
本明細書に使用される場合、用語「処置」、「処置する」などは、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを指す。その効果は、疾患および/または疾患の進行に起因する悪影響の、部分的または完全な治癒であってもよい。本明細書に使用される場合、「処置」とは、特にヒトへの化合物の投与を含み、そして(a)疾患を阻害すること、すなわち、その進行を停止させること;または(b)疾患を軽減すること、すなわち、疾患または障害の退行、あるいはそれらの症状または合併症の軽減を含む。投与計画は、最適な所望の反応(例えば、治療的または予防的反応)を提供するために調整されてもよい。例えば、単回ボーラスが投与されてもよいし、いくつかの分割量が、時間をかけて投与されてもよいし、あるいは、その用量は、治療状況の要求によって比例的に減少または増加されてもよい。
【0060】
本発明の分子は、患者への投与に適切な医薬組成物に組み込まれ得る。本発明の分子は、単回投与または複数回投与において、単独で、または製薬的に許容し得る担体、希釈剤および/または賦形剤と組み合わせて投与され得る。投与のための医薬組成物は、選択された投与様式に適合するように設計され、必要に応じて、製薬的に許容し得る希釈剤、担体および/または賦形剤、例えば、分散剤、緩衝剤、界面活性剤、防腐剤、可溶化剤、等張剤、安定剤などが使用される(例えば、本明細書の実施例14を参照のこと)。上記組成物は、例えば、Remington,The Science and Practice of Pharmacy,第19版,Gennaro,編,Mack Publishing Co.,Easton,PA 1995(これは、一般に医師に公知である製剤技術の概要を提供する)のような従来技術に従って、設計される。
【0061】
本発明の分子を含む医薬組成物は、経口、静脈内、腹腔内、皮下、肺、経皮、筋肉内、鼻腔内、口腔、舌下または坐剤投与を含む、標準的な投与技術を用いて、本明細書に記載の病態の危険性があるか、またはかかる病態を示す患者に投与され得る。好ましくは、本発明の分子は、皮下投与によって、本明細書に記載の病態の危険性があるか、またはかかる病態を示す患者に投与され得る。
【0062】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、本発明の分子の「治療的有効量」または「予防的有効量」である。「治療的有効量」とは、所望の治療結果を達成するのに必要な用量および期間での有効量を指す。分子の治療的有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別および体重、ならびに個体において所望の反応を引き起こす分子の能力などの要因によって、変わってもよい。治療的有効量はまた、分子のあらゆる毒性または有害な影響を治療的に有益な効果が上回るものである。「予防的有効量」とは、所望の予防結果を達成するのに必要な用量および期間での有効量を指す。典型的には、予防用量が、疾患の初期段階前または初期段階時に患者に使用されるため、予防的有効量は、治療的有効量より少ない。
【0063】
治療的有効量または予防的有効量は、患者に治療的有用性を与えるのに必要である活性剤の少なくとも最小量であるが、毒性量未満である。つまり、本発明の分子の治療的有効量は、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて、Aβペプチド活性、例えば、Aβペプチドへの結合を減少させる量である。ここで、Aβペプチドの存在は、望ましくない病理学的作用を引き起こすかそれに寄与する、あるいは、Aβペプチドの減少が、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて有益な治療的効果を生じる。
【0064】
本発明の分子の投与経路は、経口、非経口、吸入または局所的であってもよい。好ましくは、本発明の抗体は、非経口投与に適切な医薬組成物に組み込まれ得る。本明細書に使用される場合、用語、非経口とは、静脈内、筋肉内、皮下、直腸、膣内、または腹腔内投与を含む。静脈内または腹腔内または皮下注射による末梢全身送達が好ましい。皮下注射が最も好ましい。かかる注射の適切なビヒクルは、当該分野においては明白である。
【0065】
医薬組成物は、典型的には、例えば、密閉されたバイアルまたはシリンジを含む提供された容器内での製造および保存の条件下で、無菌および安定でなければならない。従って、医薬組成物は、製剤の製造後に濾過滅菌してもよいし、または他の方法で微生物学的に受容可能なものにしてもよい。静脈内注射のための典型的な組成物は、以下に列挙した典型的な投薬量を送達するため、250〜1000mlほどの容量の流体(例えば、滅菌リンガー溶液、生理的食塩水、デキストロース溶液およびハンクス液)ならびに治療的有効量(例えば、1〜100mg/ml以上)の治療剤を有する。容量は、疾患の種類および重症度に応じて変わってもよい。医薬分野において周知のように、任意の1人の患者への投薬量は、患者の体格、体表面積、年齢、投与されるべき特定の化合物、性別、投与時間および投与経路、全体的な健康、および同時に投与される他の薬物を含む、多くの要因に依存する。例えば、典型的な用量は、0.001〜1000μgの範囲であるが、この例示的な範囲以下または以上の用量が、特に上述の要因を考慮して想定されている。毎日の非経口投与計画は、1日あたり、全体重の約0.1μg/kg〜約100mg/kg、好ましくは体重の約0.3μg/kg〜約10mg/kg、より好ましくは約1μg/kg〜1mg/kg、さらにより好ましくは約0.5〜10mg/kgであってもよい。進行は定期評価によってモニターされてもよい。症状に応じて数日間または長期間にわたる反復投与のため、処置が、疾患症状の所望の抑制が生じるまで繰り返される。所望の投薬量は、医師が達成することを望む薬物動態減衰のパターン次第であるが、分子の単回ボーラス投与によって、複数回ボーラス投与によって、または持続注入投与によって送達され得る。
【0066】
本発明の分子のかかる提案量は、多くの治療的裁量により変化する。適切な用量および計画を選択する際の主な要因は、得られた結果である。この文脈で考慮すべき要因としては、処置されている特定の疾患、処置されている特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、抗体の送達部位、抗体の特定の型、投与方法、投与計画、および医師に公知の他の要因が挙げられる。
【0067】
本発明の治療剤は、保存用に凍結または凍結乾燥され、使用前に適切な無菌担体において再構成されてもよい。凍結乾燥および再構成は、様々な程度の抗体活性喪失を変化させる原因となり得る。投薬量は、補正のため調整の必要があるかもしれない。
【0068】
以下の実施例は、本発明を限定せず、例示することを意図する。本明細書の以下の実施例は、とりわけ、「266」と指定したマウスモノクローナル抗体(m266)を使用する。これは、ヒトAβペプチドの13〜28残基および266と指定したマウスモノクローナル抗体のFabフラグメント(m266−Fab)から構成されるペプチドを用いて、免疫化によって最初に調製したものである。この抗体は、このペプチドと免疫反応することが確認されている。m266の調製は、以前に記載されている。m266−FabにPEG分子を共有結合するため、Fabを変異させ、重鎖可変領域のCDR2(N56C)にシステイン残基を導入し、以下に示した方法(実施例4)でPEG化してもよい。実施例は、マウス系において実施した実験を記載しているので、マウスモノクローナル抗体の使用は、条件を満たす。しかしながら、ヒトの使用を意図する本発明の処置方法においては、本発明の抗体、またはそのフラグメントのヒト化形態が好ましい。以下の実施例で称される1A1−Fabは、配列番号1のLCVRおよび配列番号2のHCVRを含む、ヒト化抗体Fabフラグメントである。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
PDAPPマウスにおけるm266−Fab PEG皮下PK/PD研究
若い(3ヶ月齢)トランスジェニックPDAPPマウスを、抗体および抗体−Aβ複合体の薬物動態/薬力学血漿反応を調べるために使用する。マウス266Fab(m266−Fab)、m266−Fab+5KD PEG、m266−Fab+10KD PEG、m266−Fab+20KD PEG、およびインタクトな全長m266 IgG抗体を含む、いくつかの抗体を調べる。PDAPP+/−マウスを1mg/kgの抗体で皮下注射し、続いて、血漿を投与してから1、4、8、24、48、96、168および240時間後に単離する。m266−Fab抗体を与えた動物を、この部分の迅速な代謝回転(turn−over)のゆえに、さらに早い時点で分析する。m266−Fabについての時点は、投与してから1、4、8、12、16、24および48時間後である。全部で5匹の動物を、時点ごとに1つの抗体につき分析する。全血を、前もって0.5M EDTAでリンスした1CCシリンジに接続された23ゲージニードルを用いて心穿刺を介して得る。血液サンプルを、単離手順の間、氷上でインキュベートし、続いて、4℃で15分間、冷やした微小遠心管中で14,000RPMで遠心分離する。得られた血漿サンプルをアリコートし、−80℃で保存する。
【0070】
A.Fab PK分析の方法論
血漿Fab濃度を、抗原検出ELISAを用いて測定する。手短に言えば、プレートを、4℃で一晩、または37℃で1時間、Aβ−BSA接合体でコーティングし、次いで、ピアス(Pierce)カゼイン緩衝剤でブロックする。標品、コントロールサンプル、および研究サンプルをプレートに添加し、その後、室温で1時間インキュイベートする。ヤギ抗マウスHRPを検出のために使用し、比色反応をOPD基質で発現させる。プレートを、A700の基準を用いてA493の吸光度で読み取る。血漿サンプルからの免疫反応活性濃度を、4/5パラメーターアルゴリズムを用いて、マウス血漿におけるm266 Fabの既知量から作成した標準曲線から測定する。m266 Fabについてのアッセイ範囲は、0.05〜0.5μg/mLである。PEG化Fabの範囲は、0.075〜0.8μg/mLである。
【0071】
血漿サンプルからの免疫反応活性濃度を、4/5パラメーターアルゴリズムを用いて、マウス血漿におけるm266 Fabの既知量から作成した標準曲線から測定する。266 Fabのアッセイ範囲は、0.05〜0.5μg/mLである。PEG化Fabの範囲は、0.075〜0.8μg/mLである。結果は、PEG分子の付加およびPEG分子のサイズの増加が、非PEG化m266−Fab(8時間後に350ng/ml)と比べて、血漿におけるPEG化Fabの保持率を増加させること(20K PEG化m266−Fabについて8時間後に2545ng/ml)を明らかに示している。
【0072】
B.m266 Aβ ELISAアッセイ
治療抗体(全長またはFabフラグメント)の非存在下または存在下のいずれかにおいて、血漿Aβの量を測定するため、ELISAアッセイを策定し、利用する。これらのアッセイにおいて測定されるAβペプチドは、全長Aβ1〜40またはAβ1〜42である。96ウェルImmulon 4HBX96ウェルELISAプレート(ThermoLabsystems)を、4℃で一晩、PBS(1つのウェルあたり100μl)中10μg/mlでC末端捕捉抗体(Aβ40プレートについてm2G3またはAβ42プレートについてm21F12)でコーティングする。試験プレートを密閉して、一晩のインキュベートの間、蒸発を防ぐ。次の日、ウェルの溶液を除去し、Labsystems 96ウェルプレート洗浄機を用いて、ウェルをPBS(1つのウェルあたり400μl)で3回洗浄する。ブロック緩衝剤(360μlの1%ミルク−PBS)を添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートする。サンプルを、そのサンプル希釈剤の中で血漿を希釈することによって調製して、20%血漿、0.5Mグアニジン、5mM Tris pH8.0、0.5×プロテアーゼ阻害剤カクテル、25μg/ml m266およびPBSを得る。アッセイにおいて使用される血漿の容量は、高レベルのAβペプチドが存在するために、一定時間減少させる必要があるかもしれず、その場合、残りの血漿容量は、ラットの血漿で調整される(最終容量パーセントは20%で維持する)。250pg/ml〜3.9pg/mlで変化する濃度のAβ標品を、標準希釈剤(20%ラット血漿、0.5Mグアニジン、5mM Tris pH8.0、および0.5×プロテアーゼ阻害剤カクテルコンプリートEDTAフリー(Roche Diagnostics)、25μg/ml m266、およびPBS)中で生成する。サンプルおよび標準希釈剤の両方における25μg/mlのインタクトなm266の組み込みが、中央部ドメイン抗体の可変レベルがアッセイに影響を与え得るあらゆる負の干渉を中和するために要求される。ブロックの後、プレートをPBSで4回洗浄する。サンプルおよび標品を3連(1つのウェルあたり100μl)負荷し、プレートを密閉して、4℃で一晩インキュベートする。次の朝、プレートを、PBS−T(PBS+0.05% Tween−20)で4回洗浄し、ウェルを、室温で2時間、ビオチン化二次抗体m3D6(0.5% BSA/PBS−Tで希釈したウェルあたり100μl)とインキュベートする。プレートをPBS−Tで4回洗浄した後、それらを、室温で1.5時間、ストレプトアビジン−ポリHRP(0.5% BSA/PBS−T中1:5000)とインキュベートする。プレートをPBS−Tで4回洗浄し、ウェルあたり100μlのTMB(Sigma)基質を添加する。比色進行を15、30および60分で、650nmでモニターする。
【0073】
表1.薬力学結果:Aβ40についての平均血漿濃度(pg/ml)
【表1】
【0074】
PEGのサイズに基づいて操作できるより柔軟性のある投与計画に加えて、この結果により、PEG化Fab−抗原複合体が、インタクトな抗体(m266インタクト)のようには、延長した時間、血漿循環中に蓄積しないことが示されている。インタクトな抗体は、血漿中の抗体半減期を延長し、延長した時間(240時間より長い)、血漿循環中に存在する抗原−抗体複合体を生じる。一方で、天然Fab(m266 Fab)は、速いクリアランス率および短い半減期(24時間より短い)を有し、治療薬としては制限される。対照的に、表1に示すように、PEG化Fabは、改良された投与計画を可能にする薬物動態および薬力学を有する抗体分子を提供する。
【0075】
(実施例2)
PDAPPマウスにおける1A1−Fab PEG皮下PK/PD研究
抗体および抗体−Aβ複合体の薬物動態/薬力学血漿反応を調べるために、研究を、若い(3ヶ月齢)トランスジェニックPDAPPマウスで実施する。ヒト化1A1−Fab、1A1−Fab+5KD PEG、1A1−Fab+10KD PEG、および1A1−Fab+20KD PEGを含む、いくつかの抗体を調べる。PDAPP+/−マウスを1mg/kgの抗体で皮下注射し、続いて、血漿を、抗体注入群に応じて異なる時点で単離する。以下の時点を種々の抗体について使用する:
1A1−Fabは、投与してから1、4、8、12、18、24および48時間後に採血し、
1A1−Fab+5KD PEGは、投与してから1、4、8、24、48、96および168時間後に採血し、
1A1−Fab+10KD PEGは、投与してから1、4、8、24、48、96および168時間後に採血し、
1A1−Fab+20KD PEGは、投与してから1、8、24、48、96、168および240時間後に採血する。
全部で5匹の動物を、時点ごとに1つの抗体につき分析する。得られた血漿サンプルをアリコートし、−80℃で保存する。
【0076】
A.Fab PK分析についての方法論
1A1 Fabの血漿1A1 Fab濃度を、サンドイッチELISAを用いて測定する。プレートを、ヤギ抗ヒトIgGκ標品、コントロールサンプルでコーティングし、研究サンプルをそのプレートに添加し、次いで、室温で1時間インキュベートする。ヤギ抗ヒトIgGを検出のために使用し、続いて、比色反応のためにOPDを使用する。プレートを、A700の基準を用いてA493の吸光度で読み取る。
【0077】
血漿サンプルからの濃度を、4/5パラメーターアルゴリズムを用いて、マウス血漿における既知量の1A1 Fabで作成した標準曲線から測定する。FabおよびFab−5K PEGアッセイの範囲は0.003〜0.3μg/mLであり、Fab−10K PEGアッセイの範囲は0.006〜0.2および0.04〜0.4μg/mLであり、Fab 20K PEGアッセイの範囲は0.02〜0.4および0.04〜0.4μg/mLである。結果は、PEG分子の付加およびPEG分子のサイズの増加が、非PEG化1A1 Fab(24時間後に不検出)と比べて、血漿におけるPEG化Fabの保持率を増加させること(20K PEG化1A1 Fabについて96時間後に77ng/ml)が明らかに示されている。
【0078】
B.1A1 Aβ ELISAアッセイ
ELISAは、m266について上で記載したものと本質的に同じである。サンプルを、サンプル希釈剤の中で血漿を希釈することによって調製して、20%血漿、0.5Mグアニジン、5mM Tris pH8.0、0.5×プロテアーゼ阻害剤カクテル、20μg/ml 1A1、およびPBSを得る。これらのアッセイで測定されるAβペプチドは、全長Aβ1〜40またはAβ1〜42である。比色進行を15、30および60分で、650nmでモニターする。結果を以下の表2に示す。
【0079】
表2.薬力学結果:Aβ40の平均血漿濃度(pg/ml)
【表2】
【0080】
実施例1のm266 Fabと同様の方法で、表2からのデータにより、PEG分子に共有結合されるヒト化Fabもまた、抗体−抗原複合体が、延長した時間、血漿循環中に蓄積することを防止すると同時に、柔軟性のある投与計画を可能にする理想的なPK/PDプロファイルを提供することが示されている。
【0081】
(実施例3)
マウス266およびヒト化1A1 Fab類似物の精製
マウス266Fabまたはヒト化1A1 Fabおよび類似物でトランスフェクトした細胞からの培養上清物を、Superdex 75樹脂(GE Healthcare)を用いて、カチオン交換クロマトグラフィー、続いて、サイズ排除クロマトグラフィーからなる2段階クロマトグラフィーストラテジーを用いて精製する。収集後、培養上清物を、THFを用いて濃縮し、4℃で一晩、20倍過剰容量の10mM酢酸ナトリウム(pH5)に対して透析する。沈殿物を遠心分離によって除去し、上清を、10mM酢酸ナトリウム(pH5)で満たしたSPセファロース(GE Healthcare)の充填層上に負荷する。Fabフラグメントが溶出するまで、約90〜110mM NaClで、連続的に量を増やしたNaClを含む10mM酢酸ナトリウム(pH5)でカラムを洗浄する。活性Fabを含むカラム分画を同定し、プールする。容量を減らし、遠心濃縮装置(Millipore)を用いて緩衝剤を交換(PBS)する。最終容量を13mlに調整し、Superdex 75サイジングカラムに負荷する。約50kDで溶出するFab含有画分を同定し、さらなる特徴付けおよびPEG化のためにプールする。
【0082】
(実施例4)
インビトロでのPEG化および特徴付け
細胞培養物から精製した1A1−Fab上のN56Cシステインを、PEG化のためにブロックする。ピアス(Pierce)のReduce−Imm(商標)固定化還元剤ビーズを使用して、N56Cシステインを選択的に還元する。還元剤ビーズは、製造者によって提供され、バッチモードにおいて使用されるカラムから抽出される。約4mlのビーズを、30分間、Reduce−IMM平衡緩衝剤#1(リン酸ナトリウム+EDTA、pH8.0)中で、8mlの10mM DTTで最初に活性化させる。次いで、ビーズをPBSで3回洗浄する。PBS(pH7.4)中1.7mg/mlで18mlの1A1 N56C Fabをビーズに添加し、10mM EDTAを混合物に添加する。その混合物を、4〜5時間室温で回転させ、インキュベートする。Fabを、Handee(商標)樹脂分離器を用いてビーズから引き離し、ビーズをPBSで洗浄する。Fabおよび洗浄物を合わせ、1時間、5倍モル過剰のPEGマレイミド(NOF由来20k PEG;Sunbio由来10k PEG;Nektar由来5k PEG)と反応させる。反応混合物を、4Lの10mM酢酸ナトリウム緩衝剤(pH5.0)に対して透析し、それによって、FabおよびFab−PEGを、10mM酢酸ナトリウム緩衝剤(pH5.0)で平衡になるSPセファロースカラム上で捕捉することができる。未反応のFabおよびFab−PEGを、塩勾配で溶出する。それらを、50mM〜70mMのNaClで溶出する。タンパク質をさらに、移動相としてPBSを用いてサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 75カラム、GE Healthcare)によって精製する。還元反応は増加および減少させることができる。同様の方法を使用して、PEG化マウス266Fab N56Cを調製することができる。
【0083】
サンプルをサイズ排除カラムクロマトグラフィーで分析して、FabへのPEGの付加を確認する。サイズ排除カラムクロマトグラフィーは、TSK G3000PWXL(Tosoh Bioscience)カラムを用いて実施する。カラムを、214nmで作動するAgilent HP1100シリーズ分析HPLCを用いて、pH7.4で、PBSに加えて0.35M NaClを用いて0.5ml/分で流す。さらに、サンプルをSDS−PAGEを用いて分析する。10μgの精製した物質を、4〜12%のNuPage(登録商標)Bis−Trisゲルに負荷し、SimplyBlue(商標)SafeStainで染色する。
【0084】
(実施例5)
Biacoreを用いる速度定数の測定
Biacore(登録商標)2000機器も使用して、結合反応速度を測定する。Biacore(登録商標)は、表面プラズモン共鳴の光学特性を利用して、デキストランバイオセンサーマトリクス内で相互作用する分子のタンパク質濃度における変化を検出する。記載したものを除いて、全ての試薬および材料は、Biacore(登録商標)AB(Upsala,Sweden)から購入する。全ての測定を25℃で実施する。サンプルを、HBS−EP緩衝剤(150mM塩化ナトリウム、3mM EDTA、0.005%(w/v)界面活性剤P−20、および10mM HEPES、pH7.4)中に溶解する。ヤギ抗ヒトκ抗体を、アミン結合キットを用いて、8000反応単位(Ru)のレベルで、CM5センサーチップのフローセル1〜4に固定する。
【0085】
結合を、複数の分析サイクルを用いて評価する。各サイクルを50μL/分の流量で実施し、これは400〜500Rusの捕捉を目的とする10μg/mLでの約20μLの抗体結合組成物の注入工程、250μLのヒトAβ(1〜40)の注入工程(各サイクルについて200nMで開始し、2倍の連続希釈を使用する)、続いて、20分の解離工程、および約30μLの10mM塩酸グリシン(pH1.5)を用いる再生工程からなる。各サイクルの会合速度および解離速度を、BIA評価ソフトウェアにおける「1:1(ラングミュア)結合」モデルを用いて評価する。結果は、N56C部位でのPEG化は、ヒトAβに結合する際にFabの親和性にほとんど影響を与えないことを示している。
【0086】
(実施例6)
KinExAを用いる平衡定数の測定
KinExA分析を直交アプローチとして使用して、抗原Fab複合体の遅い速度による平衡結合分析によって結合親和性を測定する。KinExA 3000機器(Sapidyne Inst.Inc.)を使用して、結合反応速度を測定する。手短に言えば、抗原をセファロースビーズに共有結合し、ビーズに対するフリーFab/Fab−PEGの結合を、その機器で検出する。Kを測定するために、減少方向に連続希釈した抗原ヒト可溶性Aβ(1〜40)(0〜10nM)を有するFab/Fab−PEGを含む個々のチューブ(1A1−Fab−20kPEGについて20pMまたは500pM、1A1 Fabについて5pMまたは50pM)を、1mg/ml BSAを含有するPBS中で、37℃で30〜50時間インキュベートして、平衡達成を確実にする。インキュベート後、各平衡サンプルにおけるフリーFab/Fab−PEGを、製造者の指示書に従って、KinExA 3000で測定する。K値を、KinExA 3000ソフトウェアを用いてn−曲線分析によって測定する。その結果により、1A1 Fab結合が、マウス266 Fab(240pM)と比べて約10倍高い親和性で、ヒトAβ(19pM)に強く結合することが示されている。さらに、N56C部位における20K PEGの共有結合は、1A1−Fab(12pM)の親和性に影響を与えていない。
【0087】
(実施例7)
細胞ベースのELISAを用いるアミロイド前駆体タンパク質(APP)結合分析
Aβ前駆体APPと266 Fab/mAbとの交差反応性を評価するために、APP(aa1〜751)を安定的に発現するHEK293細胞を使用している。これらの細胞を、ネオマイシン耐性マーカーを含有するプラスミド中にAPP(1〜751)遺伝子をクローニングすることによって作製する。この組み換えプラスミドを、HEK293中にトランスフェクトし、細胞を200μg/mlのG418中で選択して、過剰発現する安定的な細胞株を生成する。結合アッセイのために、75,000個のAPP751細胞を、PDLでコーティングした96ウェルプレートの各ウェルにプレートする。増殖培地(DMEM F12、5% FBS、10mM Hepes pH7.5、200μg/ml G418)における2日間のインキュベート後、液体を除去して、20μg/mlのFabまたはmAbを、10mg/mlのBSAを含有するPBS(Ca/MGを有する)中に添加する。4℃で2時間、結合を進行し、細胞を10mg/mlのBSAで3回洗浄する。ヒトまたはマウス軽鎖に特異的な二次抗体(抗κ軽鎖に接合した西洋ワサビペルオキシダーゼ(hrp))を、PBS/BSA(Southern Biotech)中に添加する。PBS/BSA中1:5000の希釈を、抗ヒト軽鎖について使用し、1:2000を抗マウス軽鎖について使用する。4℃で1時間のインキュベート後、細胞をBSA/PBSで5回洗浄する。APPに結合するFab/mAbの関数として、HRP活性を、10分間、TMB基質を付加することによって測定する。反応物を、きれいな96ウェルプレートに移し、650nmでの吸光度を測定する。データにより、PEG化(5kD、10kD、および20kD)1A1−Fabおよびm266−Fabが、APPよりAβペプチドに選択性を与えることが示されている。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]