特許第5782714号(P5782714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5782714ペダル装置及びそれを備えた電子鍵盤楽器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782714
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】ペダル装置及びそれを備えた電子鍵盤楽器
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/32 20060101AFI20150907BHJP
   G10C 3/26 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   G10H1/32 A
   G10C3/26 100
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-1563(P2011-1563)
(22)【出願日】2011年1月6日
(65)【公開番号】特開2012-145610(P2012-145610A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2013年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077539
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100114742
【弁理士】
【氏名又は名称】林 秀男
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【弁理士】
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】岩本 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】西田 賢一
【審査官】 松田 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−258642(JP,A)
【文献】 特開平09−172295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/32
G10C 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
踏込操作によりストロークする複数のペダルと、
前記複数のペダルそれぞれに対応して設けられ、各ペダルの踏込操作によるストロークに応じて変位し、当該変位によって発生する反力を前記各ペダルに付与する複数の反力付与手段と、を備えたペダル装置であって、
前記複数の反力付与手段は、弾性を有する線材をコイル状に巻き回してなり、前記ペダルの踏込操作に応じて軸方向に変形することで付勢力を生じる複数のバネ部材のみであり、
前記複数のバネ部材は、それらの形状、前記弾性材の材質、前記各ペダルに対する取付位置、前記各ペダルが踏込操作されていない初期位置での初期変形量の少なくともいずれかを互いに異ならせていることで、対応する前記各ペダルに付与される反力の特性が互いに異なっている
ことを特徴とするペダル装置。
【請求項2】
前記複数のペダルとして、前記ペダル装置を操作する操作者から見て右側に位置する第1ペダルと、中央に位置する第2ペダルと、左側に位置する第3ペダルとの3本のペダルが設けられており、
前記複数のバネ部材として、前記第1乃至第3ペダルそれぞれに対応する第1乃至第3バネ部材が設けられており、
前記各ペダルに対する踏込操作が開始された直後における初期反力は、前記第2バネ部材による前記第2ペダルに対する初期反力が最も大きく、次いで、前記第1バネ部材による前記第1ペダルに対する初期反力、前記第3バネ部材による前記第3ペダルに対する初期反力の順となるように設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載のペダル装置。
【請求項3】
前記第1乃至第3ペダルに対する前記初期反力は、前記第1乃至第3ペダルが踏込操作されていない初期位置での前記第1乃至第3バネ部材の初期変形量のうちの少なくともいずれか2つを互いに異ならせることで設定されており、
前記第1乃至第3バネ部材の初期変形量のうち、前記第3バネ部材の初期変形量が最少となるように設定されている
ことを特徴とする請求項2に記載のペダル装置。
【請求項4】
前記複数のバネ部材のうちの少なくともいずれか2つは、それらの形状と材質の少なくともいずれかを互いに異ならせたものであり、
形状又は材質が互いに異なる前記複数のバネ部材の色を互いに異ならせている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のペダル装置。
【請求項5】
踏込操作によりストロークする複数のペダルと、
前記複数のペダルそれぞれに対応して設けられ、各ペダルの踏込操作によるストロークに応じて変位し、当該変位によって発生する反力を前記各ペダルに付与する複数の反力付与手段と、を備えたペダル装置を有する電子鍵盤楽器であって、
前記ペダル装置として、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のペダル装置を備えた
ことを特徴とする電子鍵盤楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子鍵盤楽器に用いて好適なペダル装置、及びそれを備えた電子鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
自然鍵盤楽器であるアコースティックピアノは、打鍵に応じてハンマーを弦に打ちつけ、音を発生する機構を有している。アコースティックピアノが発生する音は、打鍵の強弱やスピードによってその響き方や大きさが異なる。また、アコースティックピアノには、音の余韻をコントロールするためのペダルが搭載されている。このペダルは、足で踏込操作するもので、通常、一台のピアノに2本または3本のペダルが設けられている。ペダルが2本の場合、演奏者から見て右側のペダルがダンパーペダルであり、左側のペダルがソフトペダルである。また、グランドピアノなどでペダルが3本の場合は、右側から順にダンパーペダル、ソステヌートペダル、ソフトペダルになっている。
【0003】
ここで、ダンパーペダルは、弦の振動を停止させるための消音装置(ダンパー)を全ての弦に対して解除させるものである。ダンパーペダルを踏み込むと、鍵盤を押鍵した後、鍵盤から手を離しても、残響音を継続させることができる。ソフトペダルは、踏み込むことにより、押鍵で発音された音の音量を減少させることができるものである。ソステヌートペダルは、押鍵した鍵盤の音だけを持続させるためのものである。そして、アコースティックピアノが備えるこのような複数のペダルは、それぞれが異なる機構を動作させる構造になっている。そのため、それぞれのペダルに特有の反力(踏込力に対する反力)が発生し、それに基づく特有の操作感(ペダルタッチ)が生じる。
【0004】
一方、上記のようなアコースティックピアノの音色、操作性、外観を擬似的に再現した電子鍵盤楽器として、電子ピアノがある。電子ピアノには、例えば、特許文献1に示すように、アコースティックピアノにおけるダンパーペダル、ソステヌートペダル、ソフトペダルと同様の働きをするペダルを装備したものがある。ところが、電子ピアノの場合は、アコースティックピアノのように実際に打弦して発音しないので、ダンパーを弦から離す動作などを行う必要がない。その代わりに、ペダル操作に対応する処理を電気的に行い、ペダルが操作されたと同等の発音を行うようになっている。従って、ペダル装置そのものの機構は簡単であり、例えば、フレームに対して上下方向へストローク可能に取り付けたペダルと底板との間にコイルバネなどからなる反力付与部材を設置し、当該反力付与部材の付勢によってペダルに上向きの反力を与えている。
【0005】
このように、電子ピアノのペダルは、コイルバネなどで反力が付与されているが、通常は、複数のペダルが互いに同一の部品を備えた同一の構成である。そのため、アコースティックピアノが備える複数のペダルと異なり、ペダルごとのタッチに差が無い。なお、特許文献2に示すように、ペダルのストローク途中からタッチを段階状に変化させるためのユニットを設けたペダルもあるが、この場合でも、コイルバネの反力によって生じる基本的なタッチは、複数のペダルで互いに同一である。そのため、アコースティックピアノをはじめとする自然鍵盤楽器が備える複数のペダルとは、タッチが大きく異なるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−22355号公報
【特許文献2】特開2004−334008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構成で、アコースティックピアノなど自然鍵盤楽器のペダルのタッチを忠実に再現することが可能なペダル装置、及びそれを備えた電子鍵盤楽器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、踏込操作によりストロークする複数のペダル(10−1,10−2,10−3)と、複数のペダル(10−1,10−2,10−3)それぞれに対応して設けられ、各ペダル(10−1,10−2,10−3)の踏込操作によるストロークに応じて変位し、当該変位によって発生する反力を各ペダル(10−1,10−2,10−3)に付与する複数の反力付与手段(40−1,40−2,40−3)と、を備えたペダル装置(1)であって、複数の反力付与手段(40−1,40−2,40−3)は、弾性を有する線材をコイル状に巻き回してなり、ペダル(10−1,10−2,10−3)の踏込操作に応じて軸方向に変形することで付勢力を生じる複数のバネ部材(40−1,40−2,40−3)のみであり、当該複数のバネ部材(40−1,40−2,40−3)は、それらの形状、弾性材の材質、各ペダル(10−1,10−2,10−3)に対する取付位置、各ペダル(10−1,10−2,10−3)が踏込操作されていない初期位置での初期変形量の少なくともいずれかを互いに異ならせていることで、対応する各ペダル(10−1,10−2,10−3)に付与される反力の特性が互いに異なっていることを特徴とする。


【0009】
本発明にかかるペダル装置によれば、複数のペダルそれぞれに対応する複数のバネ部材の形状、弾性材の材質、ペダルに対する取付位置、ペダルが踏込操作されていない初期位置での初期変形量の少なくともいずれかを互いに異ならせていることで、アコースティックピアノなどの自然鍵盤楽器が備える複数のペダルのように、複数のペダルそれぞれの踏込操作に対する反力特性を異ならせて設定することが可能となる。これにより、部品点数を従来構成と同等に少なく抑えた簡単な構成でありながら、電子鍵盤楽器が備える複数のペダルのタッチをアコースティックピアノなど自然鍵盤楽器が備える複数のペダルのタッチに近付けることができる。
【0010】
また、本発明にかかる上記のペダル装置では、複数のペダル(10−1,10−2,10−3)として、該ペダル装置を操作する操作者から見て右側に位置する第1ペダル(10−1)と、中央に位置する第2ペダル(10−2)と、左側に位置する第3ペダル(10−3)との3本のペダルが設けられており、複数のバネ部材(40−1,40−2,40−3)として、第1乃至第3ペダル(10−1,10−2,10−3)それぞれに対応する第1乃至第3バネ部材(40−1,40−2,40−3)が設けられており、各ペダル(10−1,10−2,10−3)に対する踏込操作が開始された直後における初期反力は、第2バネ部材(40−2)による第2ペダル(10−2)に対する初期反力が最も大きく、次いで、第1バネ部材(40−1)による第1ペダル(10−1)に対する初期反力、第3バネ部材(40−3)による第3ペダル(10−3)に対する初期反力の順となるように設定されているとよい。この構成によれば、アコースティックピアノが備える3本のペダル(ダンパーペダル、ソステヌートペダル、ソフトペダル)の反力特性に近似した特性を再現したタッチを得ることが可能となる。
【0011】
また、上記のペダル装置では、第1乃至第3ペダル(10−1,10−2,10−3)に対する初期反力は、第1乃至第3ペダル(10−1,10−2,10−3)が踏込操作されていない初期位置での第1乃至第3バネ部材(40−1,40−2,40−3)の初期変形量のうちの少なくともいずれか2つを互いに異ならせることで設定されており、第1乃至第3バネ部材(40−1,40−2,40−3)の初期変形量のうち、第3バネ部材(40−3)の初期変形量が最少となるように設定されているとよい。
【0012】
アコースティックピアノが備える3本のペダルのうち左側に設置されたペダル(ソフトペダル)は、3本のペダルの中で踏込操作が開始された直後における初期反力が最も小さいペダルである。本発明にかかる上記の構成によれば、このようなアコースティックピアノが備える3本のペダルの反力特性に近似した特性を再現することが可能となる。したがって、アコースティックピアノのペダルのタッチをより忠実に模擬することが可能となる。
【0013】
また、上記のペダル装置では、複数のバネ部材(40−1,40−2,40−3)のうちの少なくともいずれか2つは、それらの形状と材質の少なくともいずれかを互いに異ならせたものである場合、形状又は材質が互いに異なる複数のバネ部材(40−1,40−2,40−3)の色を互いに異ならせておくとよい。
【0014】
形状又は材質が異なることでペダルに付与する反力の特性が異なる複数のバネ部材は、外観が互いに同一であるか近似している場合が多い。そのため、ペダル装置を製造する際、各ペダルに対応するバネ部材を組み付ける工程において、形状又は材質が異なる複数のバネ部材を取り違えて組み付けてしまうおそれがある。そこで、本発明にかかる上記構成のように、形状又は材質が互いに異なるバネ部材の色を互いに異ならせておけば、バネ部材の組み付け作業において、複数のバネ部材を取り違えて組み付けることを効果的に防止できる。これにより、ペダル装置の組立効率を向上させることができる。
【0015】
また、本発明にかかる電子鍵盤楽器は、踏込操作によりストロークする複数のペダル(10−1,10−2,10−3)と、複数のペダル(10−1,10−2,10−3)それぞれに対応して設けられ、各ペダル(10−1,10−2,10−3)の踏込操作によるストロークに応じて変位し、当該変位によって発生する反力を各ペダル(10−1,10−2,10−3)に付与する複数の反力付与手段(40−1,40−2,40−3)と、を備えたペダル装置(1)を有する電子鍵盤楽器であって、ペダル装置として、本発明にかかる上記いずれかのペダル装置(1)を備えたことを特徴とする。この電子鍵盤楽器によれば、簡単な構成で、電子鍵盤楽器が備える複数のペダルにおいて、アコースティックピアノなど自然鍵盤楽器が備える複数のペダルに近似したタッチを再現できるので、自然鍵盤楽器により近い演奏性を得ることが可能な電子鍵盤楽器となる。
なお、ここでの括弧内の符号は、後述する実施形態の対応する構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかるペダル装置及びそれを備えた電子鍵盤楽器によれば、簡単な構成で、アコースティックピアノなど自然鍵盤楽器が有する複数のペダルのタッチを忠実に再現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態にかかるペダル装置を示す平面図である。
図2】ペダル装置の側断面図であり、図1のX−X矢視図である。
図3】ペダル装置の動作を説明するための図である。
図4】ペダル装置の他の構成例を示す側断面図である。
図5】グランドピアノが有する3本のペダルの踏込操作に対する反力の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1及び図2は、本発明の一実施形態にかかるペダル装置1を示す図で、図1は、ペダル装置1の平面図、図2は、ペダル装置1の側断面図であり、図1のX−X矢視図である。これらの図に示すペダル装置1は、電子ピアノなどの電子鍵盤楽器における鍵盤(図示せず)の下方の足元に近い位置に設置されて、演奏者によって足で踏込操作されるものである。このペダル装置1は、踏込操作によりストロークする複数本(本実施形態では3本)のペダル10−1,10−2,10−3と、複数本のペダル10−1,10−2,10−3それぞれに対応して設けられた複数個(本実施形態では3個)のコイルバネ(バネ部材)40−1,40−2,40−3とを備えている。コイルバネ40−1,40−2,40−3は、各ペダル10−1,10−2,10−3の踏込操作によるストロークに応じて変位し、当該変位によって発生する反力を各ペダル10−1,10−2,10−3に付与する反力付与手段である。
【0019】
すなわち、図1に示すように、ペダル装置1には、電子鍵盤楽器の演奏者から見て右側に位置する第1ペダル10−1と、中央に位置する第2ペダル10−2と、左側に位置する第3ペダル10−3との3本のペダルが設けられている。ここで、第1、第2、第3ペダル10−1,10−2,10−3にはそれぞれ、グランドピアノ(アコースティックピアノ)におけるダンパーペダル、ソステヌートペダル、ソフトペダルに対応する機能(電子鍵盤楽器の発音特性)が割り当てられている。
【0020】
ペダル装置1が備える3本のペダル10−1,10−2,10−3及びその周辺部分は、基本的には同様の構造である。そのため、以下では、ペダル装置1が有する各ペダル10−1,10−2,10−3の代表として、ダンパーペダルに相当する第1ペダル10−1及びその周辺の構成及び動作を説明する。この場合、第1ペダル10−1をペダル10と表記し、第1ペダル10−1に反力を付与する第1コイルバネ40−1をコイルバネ40と表記する。なお、以下の説明では、ペダル10の長手方向の両側のうち、ペダル10を足で踏込操作する電子鍵盤楽器の演奏者の側を手前あるいは前といい、その反対側を奥あるいは後という。また、以下の説明で幅方向又は左右方向というときは、ペダル装置1における第1乃至第3ペダル10−1,10−2,10−3の配列方向、又はペダル10の幅方向(長手方向に対する両側方向)を指すものとする。
【0021】
図2に示すように、ペダル10の周辺には、ペダル10を回動可能に支持するフレーム20と、ペダル10の踏み込みに対する反力を付与するコイルバネ40とが設けられている。フレーム20は、金属などで構成された板状部材を適宜に折り曲げて略矩形の箱型に形成されている。フレーム20は、3本のペダル10−1,10−2,10−3に対応する位置に跨る横長形状に形成されている。このフレーム20の前壁21と後壁22におけるペダル10の取付箇所にはそれぞれ開口部23,24が形成されている。
【0022】
ペダル10は、長尺状に形成された略平板状の部材からなり、前側が足で踏み込み操作する操作部11になっており、後側がフレーム20に取り付けられる取付部12になっている。ペダル10は、フレーム20の前方から見て、長手方向に沿う細板状の上壁10aと両側壁10b,10bとを備え、下向きに開口する略コ字型の断面形状を有している。また、取付部12の後端近傍には、開口13aの縁部を上方に折り曲げてなる折曲片13bが設けられている。
【0023】
フレーム20の前壁21に設けた開口部23は、ペダル10の断面よりも大きな矩形状に形成されている。一方、後壁22に設けた開口部24は、ペダル10の断面に沿う略コ字状に形成されている。ペダル10は、開口部23からフレーム20内に差し込まれて取付部12がフレーム20内に設置され、後端が開口部24から後方に突出した状態になっている。このとき、ペダル10の折曲片13bが後壁22の開口部24の上縁に当接してこれらが回動自在に係合している。ペダル10は、この折曲片13bと開口部24とが係合している支点14を中心として、操作部11が上下方向に揺動自在となるように設置されている。
【0024】
フレーム20内におけるペダル10の下側には、コイルバネ40が設置されている。コイルバネ40は、金属などの弾性を有する線材をコイル状に巻き回してなるバネ部材であって、軸方向に圧縮されて変形することで弾発力(付勢力)を生じるものである。コイルバネ40は、フレーム20内の前側の底壁25に載置されている。コイルバネ40の上端は、ペダル10の下面10cに当接している。ペダル10は、踏込操作が開始される位置(以下、この位置を「初期位置」という。)で、コイルバネ40の上に載置された状態で静止している。ペダル10は、この初期位置で支点14によって取付部12の後方が支持され、コイルバネ40によって取付部12の前方が支持されており、前後方向が略水平になっている。
【0025】
また、フレーム20内のコイルバネ40の後方には、回路基板30が設置されている。回路基板30には、詳細な図示は省略するが、ペダル10の動作を電気的な出力に変換するためのスイッチ接点などを設けることができる。また、フレーム20の底壁25の下面側には、アジャスタ34が取り付けられている。アジャスタ34は、軸部34aと該軸部34aの下端に固定した台座部34bとを備えており、詳細な図示は省略するが、軸部34aの上端が底壁25に設けたネジ孔(図示せず)にネジ係合で取り付けられている。軸部34aは、底壁25の幅方向の中央付近に取り付けられており、台座部34bの下端が床面(図示せず)に当接するようになっている。このアジャスタ34は、軸部34a及び台座部34bを回転操作することで、フレーム20の底壁25に対する台座部34bの高さ位置を調節することが可能である。これにより、床面に対するペダル装置1の高さ位置を調節することができる。
【0026】
フレーム20内のペダル10の上面10d側には、ペダル10の上限位置を規定するための上限ストッパ15が設置されている。ペダル10が初期位置(最上位置)にある状態で、上限ストッパ15がフレーム20の上壁29に当接している。
【0027】
一方、フレーム20の前壁21に設けた開口部23の下端辺には、フレーム20内に向かって折り曲げられた折曲部26が形成されており、該折曲部26の上面には、ペダル10の下限位置を規定するための下限ストッパ17が取り付けられている。下限ストッパ17は、ペダル10の当接による衝撃を緩和するための緩衝材で構成されており、初期位置にあるペダル10の両側壁10b,10bの下端に対して所定距離を有して対向するように設置されている。また、折曲部26及び下限ストッパ17は、その面が奥側から手前側に向かうにつれて若干下方に傾斜している。
【0028】
上記構成のペダル装置1の動作について簡単に説明する。図3は、ペダル装置1の動作を説明するための図で、ペダル10が踏込操作された状態を示す図である。演奏者が図2に示す初期位置にあるペダル10を踏み込むと、図3に示すように、コイルバネ40が圧縮されながら、ペダル10が支点14を中心に回動して操作部11が下降してゆく。このとき、ペダル10には、コイルバネ40の付勢力による反力が付与されている。この状態でさらにペダル10が踏み込まれると、やがてペダル10の両側壁10b,10bの下端が下限ストッパ17に当接し、ペダル10が下限位置で停止する。一方、下限位置にあるペダル10を踏み込んでいる力を緩めると、コイルバネ40による反力でペダル10が上昇して初期位置に復帰する。なお、ペダル装置1の第1、第2、第3ペダル10−1,10−2,10−3は、後述するように、対応する各コイルバネ40−1,40−2,40−3による反力特性が互いに異なってはいるが、基本的な動作は互いに共通している。
【0029】
本実施形態のペダル装置1は、既述のように、電子鍵盤楽器の演奏者から見て右側に位置する第1ペダル10−1と、中央に位置する第2ペダル10−2と、左側に位置する第3ペダル10−3との3本のペダルを備えている。そして、第1、第2、第3ペダル10−1,10−2,10−3それぞれに対応する第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3が設置されている。第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3は、フレーム20内の第1、第2、第3ペダル10−1,10−2,10−3の下側に設置されており、第1、第2、第3ペダル10−1,10−2,10−3それぞれの踏込操作によるストロークに応じて変位し、当該変位によって発生する反力を第1、第2、第3ペダル10−1,10−2,10−3に付与するようになっている。
【0030】
そして、本実施形態のペダル装置1では、第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3は、それらの形状、材質、各ペダル10−1,10−2,10−3に対する取付位置、各ペダル10−1,10−2,10−3が踏込操作されていない初期位置における初期圧縮量の少なくともいずれかを互いに異ならせていることで、対応する各ペダル10−1,10−2,10−3に付与する反力の特性が互いに異なるように設定されている。以下、この点を詳細に説明する。
【0031】
第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3の形状を互いに異ならせるには、具体的には、各コイルバネ40−1,40−2,40−3を構成する線材の太さを互いに異ならせるか、各コイルバネ40−1,40−2,40−3の巻数を互いに異ならせるか、各コイルバネ40−1,40−2,40−3の径寸法を互いに異ならせるか、のいずれかが可能である。これらによって、対応する各ペダル10−1,10−2,10−3に付与する反力の特性を互いに異ならせることができる。
【0032】
また、第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3の材質を互いに異ならせる場合は、具体的には、各コイルバネ40−1,40−2,40−3を構成している弾性材からなる線材として互いに異なる材質の線材を用いる。これにより、対応する各ペダル10−1,10−2,10−3に付与する反力の特性を互いに異ならせることができる。
【0033】
また、第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3の形状又は材質を互いに異ならせる場合は、形状又は材質が互いに異なる各コイルバネ40−1,40−2,40−3は、その色を互いに異ならせることが望ましい。これは、下記のような理由による。すなわち、形状又は材質が異なることで付与する反力の特性が異なる各コイルバネ40−1,40−2,40−3は、外観が同一か又は近似している場合が多い。そのため、ペダル装置1を製造する際、各ペダル10−1,10−2,10−3に対応する各コイルバネ40−1,40−2,40−3を組み付ける工程で、形状又は材質が異なる各コイルバネ40−1,40−2,40−3を取り違えて組み付けてしまうおそれがある。そこで、上記のように、形状又は材質が互いに異なる各コイルバネ40−1,40−2,40−3の色を互いに異ならせておけば、各コイルバネ40−1,40−2,40−3を取り違えて組み付けてしまうことを効果的に防止できる。これにより、ペダル装置1の組立効率を向上させることができる。
【0034】
なお、この場合、各コイルバネ40−1,40−2,40−3の色を互いに異ならせるには、各コイルバネ40−1,40−2,40−3に異なる色の塗料を塗布するなどして着色することができる。さらにこの場合は、各コイルバネ40−1,40−2,40−3はその全体を着色してもよいし、その一部のみを着色してもよい。
【0035】
また、第1、第2、第3ペダル10−1,10−2,10−3に対する第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3の取付位置を互いに異ならせるには、各ペダル10−1,10−2,10−3の長手方向(図1の矢印L1,L2で示すペダル装置1の前後方向)における各コイルバネ40−1,40−2,40−3の設置位置を互いに異ならせることが可能である。これにより、対応する各ペダル10−1,10−2,10−3に付与する反力の特性を互いに異ならせることができる。
【0036】
また、第1、第2、第3ペダル10−1,10−2,10−3が踏込操作されていない初期位置における第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3の初期圧縮量を互いに異ならせるには、図4に示すように、各コイルバネ40−1,40−2,40−3とフレーム20の底壁25との間に所定の厚さ寸法のスペーサ部材28を介在させて、スペーサ部材28とペダル10−1,10−2,10−3との間に予め所定量だけ圧縮した状態のコイルバネ40−1,40−2,40−3を設置するとよい。その際、第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3に対応するスペーサ部材28の厚さ寸法を互いに異ならせたり、第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3のうちいずれかに対してのみスペーサ部材28を設置したりすることで、第1、第2、第3ペダル10−1,10−2,10−3の初期位置における第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3の初期圧縮量を互いに異ならせることができる。なお、スペーサ部材28は、上記以外にも、ペダル10−1,10−2,10−3の下面とコイルバネ40−1,40−2,40−3の上端との間に介在させても良い。
【0037】
そして、本実施形態のペダル装置1では、上記のように第1、第2、第3コイルバネ40−1,40−2,40−3の形状、材質、取付位置、初期圧縮量の少なくともいずれかを互いに異ならせていることで、第1、第2、第3ペダル10−1,10−2,10−3の踏込操作に対する反力特性をグランドピアノが備える3本のペダルの反力特性に近似した特性となるように設定している。以下、この点について説明する。図5は、グランドピアノが有する3本のペダルの踏込操作による変位に対する荷重(反力)の分布を示すグラフである。同図のグラフでは、横軸は、初期位置(踏込開始位置)からのペダルの変位量(踏込量)であり、縦軸は、ペダルの踏み込みに対する荷重(反力)である。そして、このグラフでは、グランドピアノの演奏者から見て右側に位置するダンパーペダルの反力特性を一点鎖線で示し、中央に位置するソステヌートペダルの反力特性を点線で示し、左側に位置するソフトペダルの反力特性を実線で示している。なお、同図のグラフでは、ペダルが踏み込まれる過程の反力特性のみを示している。
【0038】
図5のグラフに示すように、グランドピアノが有する3本のペダルが有する踏み込みに対する反力特性は、互いに異なる特性となっている。特に、ペダルの踏み込みが開始された直後の初期段階における反力は、中央のソステヌートペダルが一番大きな反力であり、次いで右側のダンパーペダル、左側のソフトペダルの順になっている。すなわち、グランドピアノが備える3本のペダルのうち左側に設置されたペダル(ソフトペダル)は、3本のペダルの中で初期反力が最も小さいペダルである。
【0039】
そこで、本実施形態のペダル装置1においても、第1乃至第3ペダル10−1,10−2,10−3に対する踏込操作が開始された時点での初期反力の大きさを、ソステヌートペダルの機能を割り当てた中央の第2ペダル10−2が最も大きく、次いで、ダンパーペダルの機能を割り当てた右側の第1ペダル10−1、ソフトペダルの機能を割り当てた左側の第3ペダル10−3の順となるように設定するとよい。そして、各ペダル10−1,10−2,10−3の反力特性を上記のように設定するための手法としては、第1乃至第3ペダル10−1,10−2,10−3が踏込操作されていない初期位置での第1乃至第3コイルバネ40−1,40−2,40−3の初期圧縮量を互いに異ならせることで設定するとよい。さらにその場合、第1乃至第3ペダル10−1,10−2,10−3それぞれに反力を付与する第1乃至第3コイルバネ40−1,40−2,40−3のうち、第3ペダル10−3に反力を付与する第3コイルバネ40−3の初期圧縮量が最少となるように設定する。
【0040】
上記の方法によれば、簡単な構成で、グランドピアノが備える3本のペダルの反力特性に近い特性を再現することができる。したがって、グランドピアノが備える複数のペダルのタッチをより忠実に再現することが可能となる。
【0041】
なお、一般に、電子鍵盤楽器のペダル装置が備えるペダルは、足で踏込操作することが前提である。そのため、本実施形態のペダル装置1においても、ペダル10−1,10−2,10−3やフレーム20にかかる荷重は鍵盤などにかかる荷重よりもはるかに大きく、当該荷重を支えるフレーム20などには比較的変形が生じ易い。そのうえ、本実施形態のペダル装置1のように、一個のフレーム20に3本のペダル10−1,10−2,10−3を並べて取り付けた構造では、中央に設置した第2ペダル10−2に比べて、右側と左側に設置した第1、第3ペダル10−1,10−3は、フレーム20の自由端(左右端)に近い位置に設置されている。そのため、第1、第3ペダル10−1,10−3に反力を付与する第1、第3コイルバネ40−1,40−3の反力を強くし過ぎると、フレーム20に変形が生じるおそれがある。そのため、第1、第3ペダル10−1,10−3の反力はあまり強く設定することができないのが現状である。これに対して、中央の第2ペダル10−2に反力を付与する第2コイルバネ40−2は、フレーム20に変形が生じるおそれが比較的少ないため、両側の第1、第3コイルバネ40−1,40−3よりも反力を強く設定することが可能である。このような理由からも、第1乃至第3ペダル10−1,10−2,10−3に対する踏込操作が開始された時点での初期反力の大きさを、上記のように、第2ペダル10−2、第1ペダル10−1、第3ペダル10−3の順となるように設定することは行い易い。また、3個のコイルバネ40−1,40−2,40−3のうち左側に配置された第3コイルバネ40−3の初期圧縮量を最も小さな圧縮量に設定することも行い易い。
【0042】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、3本のペダル10−1,10−2,10−3を備えたペダル装置1を例に説明したが、本発明にかかるペダル装置が備えるペダルは、3本には限らず2本であってもよい。その場合は、2本のペダルそれぞれに対応する2個のコイルバネの形状、材質、ペダルに対する取付位置、ペダルが踏込操作されていない初期位置における初期圧縮量の少なくともいずれかを互いに異ならせることで、対応するペダルに付与する反力の特性を互いに異ならせるようにする。またその場合、アップライトピアノなど2本のペダルを備えた自然鍵盤楽器が有するペダルの反力特性に近似した特性となるように設定することができる。なお、一般的な鍵盤楽器のペダル装置は3本のペダルを備えていることが多いため、本実施形態のペダル装置のように3本のペダルを備えることが最も有効ではあるが、本発明にかかるペダル装置が備えるペダルとしては、複数本であれば、上記の2本又は4本以上とすることも可能である。
【0043】
また、上記実施形態では、ペダル装置1が有する3本のペダル10−1,10−2,10−3は、いずれもコイルバネ40−1,40−2,40−3のみによって踏込操作に対する反力が付与されるように構成した場合を示したが、本発明にかかるペダル装置としては、ペダルに反力を付与する部材として、コイルバネに加えて他の部材(例えば、弾性ゴム部材)などを併設していてもよい。その場合は、当該他の部材を複数のペダルのうちいずれかに対してのみ設置してもよい。また、当該他の部材は、ペダルの踏込過程の途中でペダルに対して段階的に反力を付与するように設置してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、ペダル10−1,10−2,10−3に対して反力を付与するバネ部材として、弾性を有する線材をコイル状に巻き回してなるコイルバネ40−1,40−2,40−3を示したが、本発明にかかるバネ部材は、上記のコイルバネ40−1,40−2,40−3以外にも、板状のバネ部材など他の構成のバネ部材であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
1・・・ペダル装置、10−1(10)・・・第1ペダル、10−2・・・第2ペダル、10−3・・・第3ペダル、10a・・・上壁、10b・・・両側壁、10c・・・下面、11・・・操作部、12・・・取付部、14・・・支点、15・・・上限ストッパ、17・・・下限ストッパ、20・・・フレーム、25・・・底壁、28・・・スペーサ部材、40−1(40)・・・第1コイルバネ(第1バネ部材)、40−2・・・第2コイルバネ(第2バネ部材)、40−3・・・第3コイルバネ(第3バネ部材)
図1
図2
図3
図4
図5