【実施例1】
【0044】
図2は
、実施例1における鋼矢板11の斜視図であり、実施例1では左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板、あるいはSM−Jパイル(商品名)からなる鋼矢板11本体のウェブ11aとフランジ11bに囲まれた内側に、排水部材を構成する面状樹脂材13aを取り付けるとともに、鋼矢板11本体のウェブ11aに多数の透水孔12を穿設してある。
【0045】
このような鋼矢板11を左右両側の継手11c、11dを嵌合させながら地盤中に打設することにより、地盤中に液状化対策を施した鋼矢板壁が構築されることになる。
【0046】
面状樹脂材13aは、内部に通水用の空隙を有するものであり、必要に応じ外面にシート状のフィルターを取り付け、さらに必要に応じその外面に孔穿きプレート、溶接金網あるいはエキスパンドメタル、あるいは網状の樹脂材等からなる保護部材を取り付ける。
【0047】
図1は、本発明の液状化対策を施した壁体の概要と機能を説明するための鉛直断面図であり、鋼矢板11本体のウェブ11aに透水孔12を設けてあることで、平常時には、地下水の円滑な流れが阻害されることなく、従来、課題であった壁体背後における井戸枯れや水位低下の問題がない。
【0048】
一方、地震時には、排水部材
3を通じて、過剰間隙水圧が逸散され、地盤の液状化が抑止される。
【0049】
図1に示される本発明の機能や原理は、後述する実施例2以下でも同様であるので、実施例2以下において繰返しの説明は省略する。
【0050】
なお、実施例1では、透水孔12を面状樹脂材13aの取付け位置にも設けてあるため、地震時の過剰間隙水圧をこの透水孔12を通じても逸散させることができる。
【実施例3】
【0054】
図4は
、実施例3における鋼矢板を示したもので、(a)、(b)は互いに反対側から見た斜視図である。
【0055】
実施例3における排水部材は、フィルター付き通水孔14を有する溝形状鋼材13bからなり、地震時には通水孔14から過剰間隙水が鋼矢板11本体と溝形状鋼材13bで囲まれた内部の中空空間に入り込み、過剰間隙水圧が逸散され、液状化が抑止される。
【0056】
また、常時は、鋼矢板11本体のウェブ11a部分の幅方向両側に形成された透水孔12により地下水の流れが確保される。
【0057】
図5(a)は、実施例3の鋼矢板の変形例であるが、排水部材を挟んで千鳥状になるように開口を設けたものである。このように、排水部材を挟んで千鳥状に開口すると鋼矢板本体の断面欠損が同じ高さに集中しないので好適である。また、開口した断面欠損部は、溝形状鋼材を鋼矢板本体に溶接等で接合してあると鋼矢板が補強されたことになり、この断面欠損による強度低下を補うことができる。
【0058】
したがって、排水部材を鋼矢板本体に溶接などで一体化するとともに、開口部を排水部材取り付け区間内に設ければ、強度低下も最小限で液状化抑止もでき必要な透水性を確保できる合理的な、本発明の鋼矢板および壁体を提供できる。
【0059】
図5(b)は、他の変形例として、排水部材取付け区間の開口部を複数連ねた、例えば3連孔とした場合である。鋼矢板の種類、型式によっては、ウェブが狭く1孔で必要な面積を確保しようとすれば、長孔や矩形孔では孔長さが長くなり開口手間もコストもかかるので課題があるが、例えば開口が機械的に容易な円形孔を複数(この例では3つ)連ねて開口している。この方法により、1箇所の孔を実質大きくでき開口手間も軽減することができる。
【0060】
図4、
図5において、鋼矢板本体はU形鋼矢板、ハット形鋼矢板などいずれの種類のものでもよい。
【0061】
図6は
、鋼矢板と排水部材の例を示したもので、(a)は水平断面図、(b)は立面図である。
【0062】
この例では、排水部材として、立体網状構造体の周囲にフィルターを被せるなどして、外周面にフィルター機能を有する樹脂製の立体網状構造体23aを、U形鋼矢板21本体のウェブ21aとフランジ21bに囲まれた内側に取り付けるとともに、U形鋼矢板21本体のウェブ21aに立体網状構造体23aの内部と連通する多数の透水孔22を穿設してある。
【0063】
また、立体網状構造体23aは表面に、保護用金網23bを被せてある。また、この保護用金網は、多数の孔を有する保護プレートや筒状体等であってもよい。
【0064】
図7は
、鋼矢板と排水部材の他の例を示したもので、(a)は水平断面図、(b)は立面図、(c)は排水部材取り付け側からみた鋼矢板の斜視図、(d)は立体網状構造体25の断面図(網状構造体の網密度が外側で密;すなわち土砂浸入抑止機能を持てるよう密度を調整、内側で疎;すなわち内側は侵入水を抵抗少なく上方に逃がすため疎)、(e)は立体網状構造体の断面図(網状構造体の外側で土砂に排水部材内への侵入を抑止するフィルター機能を有し、内側に中空部を有する。)である。
【0065】
この例では、排水部材として、表面側の網状構造を、周面にわたって、内側の網状構造より密にして周面にフィルター機能を持たせた樹脂製の立体網状構造体25を、ハット形鋼矢板24本体のウェブ24aとフランジ24bに囲まれた内側に取り付けるとともに、ハット形鋼矢板24本体のウェブ24aに立体網状構造体25の内部と連通する多数の透水孔(開口部)22を穿設してある。
【0066】
こうした構造では、フィルター機能をもつ排水部材外周囲の網状構造が鋼矢板製作加工時、運搬時、地盤への打設時に実用面から損傷をほとんどなくし得るので、取扱いに優れ、環境にも優しい液状化抑止機能を有する鋼矢板を提供できる。
【0067】
このように、外周面側にフィルター機能を組み込んだ立体網状構造体25は、周囲が摩擦に強く地盤に打設しても液状化抑止機能を保持し実質損傷しないものであれば、表面に保護材料を被せる必要はない。
【0068】
ただし、この例の鋼矢板24を、固く尖った砕石混じり地盤などに打設する場合においては、この特別な網状構造の周囲、あるいは地盤面側などの一部を金網、孔開き板や孔開き筒状体で保護してもよいし、当該網状構造体25の周囲に網状構造体とは違う樹脂あるいは不織布などのフィルターを設け、その外側に上記のような保護材を設置してもよい。
【0069】
この例の排水部材25は、表面側の網状構造を、周面にわたって、内側の網状構造より密にして、排水部外周囲側フィルター機能を持たせたものであるが、地盤の土砂が排水部材内側に侵入することを抑止し、地盤の過剰間隙水圧を逸散させられるフィルター機能をもつ、内側に比べ密な網状層が外側にあればよく、このフィルター機能を持つ層の内側は外側の層より疎とし地中の間隙水の上部への移動抵抗を少なくしてあればよい。
【0070】
この密疎の順は、内側に行くにつれ、順次、疎になってもよく、中間部に密な層がありその内側が疎(例えば、最も外側は疎など)であってもよく、いずれの構造でもよい。要は、排水部材としての立体網状構造体において、その外側からの土砂浸入を抑止するため排水部材外側はより密にしてフィルター機能を持たせ、部材内部により疎な空間、すなわち水の移動抵抗の小さい空間を確保できればよい。
【0071】
極端な場合は、
図7(e)に示すように、当該排水部材25bの内部側が中空であってもよい。内部側が中空であれば、排水抵抗が小さくなるので、液状化抑止機能に優れる。この場合、耐圧性はやや落ちるが実用的にはほとんど差し支えない。
【0072】
なお、液状化抑止機能を持つ排水部材がいずれの構造であっても、その排水部材の内部に中空部を有することは、液状化時、地盤上方への排水抵抗が少なく液状化抑止機能を上げることができるとともに、常時においても、被圧水層のある背面地盤あるいは前面地盤の場合など、水圧を速やかに逸散させ、常時においても鋼矢板壁への悪影響を常時緩和することができる。
【0073】
この例においては、排水部材25の鋼矢板本体への設置範囲に鋼矢板本体の開口部が設けられているので、排水部材25設置側地盤と反対方向の液状化も抑止できるのは
図6の例と同じである。
【0074】
また、常時においては、鋼矢板本体の開口部から排水部材を通して反対側地盤への地盤透水性を保持することができる。
【0075】
図7(d)あるいは(e)に示す排水部材(立体網状構造体)の断面形状については、加工・運搬の点から、また地盤への打設性から外側が矩形状で高さがあまり高くないものがよい。
図7(c)に示すように、排水部材の損傷防止、地盤への貫入性から、先端の加工を工夫するとともに、排水部材防護材を取り付けるなどの対策を施してもよい。
【0076】
なお、当該排水部材25を有する矢板は、その他にU形鋼矢板、Z形鋼矢板、直線形鋼矢板、軽量鋼矢板、コンクリート矢板など、特に限定されない。また、矢板本体に設ける開口部は、
図7のように全数あるいは一部を排水部材取り付け範囲内に所定の面積比率で設けてもよく、逆に排水部材取り付け範囲外に所定の面積比率で設けてもよい。
【0077】
地盤の液状化のない条件においても、背後地盤からの常時の水抜きが必要な鋼矢板擁壁において、この例のように、土砂の内側への侵入を防止するフィルター機能をもつ、矩形状の立体網状構造体を鋼矢板本体に接して背後地盤側に取り付け、その取り付け範囲内に鋼矢板本体の開口部を設けた場合には、当該開口部はフィルターを取り付けなくても開口部からの水抜きは図れ、開口部からの土砂の抜け出しを止めることができるとともに、投影面積の広い排水部材が背後地盤の集水を効率的に行うので、好適な鋼矢板擁壁を提供できる。
【0078】
次に、開口部の面積について説明する。
図8は、ある一般的な地盤において、壁体設置前後に流量比に対する壁体の開口率の影響を示したものである。
【0079】
流量比には開口率だけでなく壁体(鋼矢板)の板厚も影響する。しかし、鋼矢板の板厚は通常50mm以内であり、常時の透水性に、通常、大きな支障が出ない範囲である、壁体を設けない場合の流量の7割以上の流量を確保するには、開口率が壁体の面積(投影面積)の0.1%以上あるのが好ましい。
【0080】
より好ましくは、流量比が0.85以上確保できるよう開口率は0.3%以上とするのがよい。開口率が2%で流量比は0.95以上となり、それ以上の開口率としても流量比の増加割合が少なく一定値に収束していく傾向があるので、2%以下とするのが好ましい。