特許第5782734号(P5782734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5782734液状化対策を施した壁体および液状化抑止機能を有する鋼矢板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5782734
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】液状化対策を施した壁体および液状化抑止機能を有する鋼矢板
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/04 20060101AFI20150907BHJP
   E02D 3/10 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   E02D5/04
   E02D3/10
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-29905(P2011-29905)
(22)【出願日】2011年2月15日
(65)【公開番号】特開2012-167496(P2012-167496A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年8月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(72)【発明者】
【氏名】才村 幸生
(72)【発明者】
【氏名】乙志 和孝
(72)【発明者】
【氏名】亀山 彰久
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋一
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏征
(72)【発明者】
【氏名】西山 輝樹
【審査官】 鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−242100(JP,A)
【文献】 特開2003−336252(JP,A)
【文献】 特開平01−125413(JP,A)
【文献】 特開平04−289315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00−5/80
E02D 1/00−3/115
E02D 27/00−27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁方向に連設した鋼矢板からなり、少なくとも片面に液状化抑止用の排水部材を取り付けた連続壁体において、前記排水部材は、鋼矢板本体に取り付けられた通水孔を有する溝形状鋼材からなり、前記鋼矢板本体に平常時における地下水の透水用の開口部を設けてあり、前記開口部の少なくとも一部は前記排水部材の鋼矢板本体への設置範囲外に、排水部材を挟んで千鳥状になるように設けるとともに、前記排水部材を鋼矢板本体に溶接で接合することで、前記開口部による鋼矢板本体の断面欠損による強度低下を補うようにしたことを特徴とする液状化対策を施した壁体。
【請求項2】
前記鋼矢板は左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板またはSM−Jパイルであり、前記開口部をフランジまたはウェブに設けてあることを特徴とする請求項1記載の液状化対策を施した壁体。
【請求項3】
前記開口部の一部を、前記排水部材の壁体本体への設置範囲内に設けることにより、前記排水部材からの前記開口部を通じての排水を可能としてあることを特徴とする請求項1または2記載の液状化対策を施した壁体。
【請求項4】
前記開口部の面積の総和が、壁体投影面積の0.1〜2%となるようにしたことを特徴とする請求項1、2または3記載の液状化対策を施した壁体。
【請求項5】
少なくとも片面に液状化抑止用の排水部材が取り付けられた鋼矢板において、前記排水部材は、鋼矢板本体に取り付けられた通水孔を有する溝形状鋼材からなり、前記鋼矢板本体に平常時における地下水の透水用の開口部を設けてあり、前記開口部の少なくとも一部は前記排水部材の鋼矢板本体への設置範囲外に、排水部材を挟んで千鳥状になるように設けるとともに、前記排水部材を鋼矢板本体に溶接で接合することで、前記開口部による鋼矢板本体の断面欠損による強度低下を補うようにしたことを特徴とする液状化抑止機能を有する鋼矢板。
【請求項6】
前記鋼矢板は左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板またはSM−Jパイルであることを特徴とする請求項記載の液状化対策を施した鋼矢板。
【請求項7】
前記開口部の一部を、前記排水部材の鋼矢板本体への設置範囲内に設けてあることを特徴とする請求項5または6記載の液状化抑止機能を有する鋼矢板。
【請求項8】
前記開口部の面積の総和が、前記開口部に位置する鋼矢板の投影面積の0.1〜2%となるようにしたことを特徴とする請求項5、6または7記載の液状化抑止機能を有する鋼矢板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に液状化が発生する恐れのある地盤に設ける、または設けられた盛土状構造物、各種地中構造物、護岸等の液状化対策を施すための壁体、および該壁体に用いることができる液状化抑止機能を有する鋼矢板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋立地その他、地震時に液状化が発生する恐れのある地盤においては、液状化対策として、地盤中に排水機能のあるドレーン材を打設したり、あるいは矢板や杭等に排水部材を取り付けて打設し、地震時にこれらの排水部材を通じて過剰間隙水圧を逸散させることで液状化を抑制する技術が各種開発されている(例えば、特許文献1〜7参照)。
【0003】
また、護岸としての矢板壁については、矢板壁で締め切られることにより地下水の流れが遮断され、水辺の自然環境が損なわれるのを防止するため、矢板壁本体に透水孔を設けたものが知られている(例えば、特許文献8参照)。
【0004】
その他、特許文献9には、液状化対策用の鋼矢板において、地震時の過剰間隙水圧を中空の排水部材内へ誘導し、逸散させるための通水孔を矢板本体に設けたものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−142815号公報
【特許文献2】実開昭56−116434号公報
【特許文献3】特公平06−011990号公報
【特許文献4】特開平11−158862号公報
【特許文献5】特開平02−225712号公報
【特許文献6】特開平10−168868号公報
【特許文献7】特開平11−117284号公報
【特許文献8】特開2003−336252号公報
【特許文献9】特開平09−242100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
背景技術の項で述べたように、盛土、護岸等に液状化対策用の壁体を設置する場合、例えば図8に示すように、液状化抑止用の排水部材33を取り付けた多数の鋼矢板32を、継手を介して連結して壁体31を構築するが、その壁体31が透水性の高い地盤34に設けられた場合、常時において地下水の円滑な流れを阻害するため、壁体背後の地点では、井戸枯れや図の右側に示すような形で水位低下を引き起こす恐れがある。
【0007】
また、同じく背景技術の項で述べたように、液状化抑止の目的ではなく、矢板壁によって地下水の流れが遮断され、水辺の自然環境が損なわれるのを防止するために、矢板壁本体に透水孔を設けたものが知られており、常時はその目的を果たすが、地震時に液状化が発生すると、砂が流体のように挙動するため、透水孔から土砂が壁体の向こう側に流れ出て液状化対策の効果が著しく低下することになる。
【0008】
一例として、盛土の法尻に、排水機能がなく透水孔のある壁体を設けた場合、地盤の液状化時には、盛土の上載圧により盛土側地盤の過剰間隙水圧が盛土反対側地盤のそれより高いので、壁体の透水孔を通じて土砂が盛土側からその反対側に移動する。同時に土砂も当該開口部を通じて盛土反対側に流れるので、盛土が大きく沈下しうる。
【0009】
また別の例として、地中構造物の保護対策として排水機能がなく開口のある壁体を設置する場合を想定する。地中構造物(例えば地中に埋設された地下共同溝等)は、地盤の液状化時浮上り被害を受けやすいため、この対策として、当該構造物両側に壁体を設置して地盤を締め切り、構造物の下方への土砂の回り込みを阻止するのが効果的である。
【0010】
しかし、単に透水孔を壁体に設けただけであれば、壁体の外側地盤の方が構造物側地盤よりも過剰間隙水圧が高いので、土砂は壁体外側から地中構造物側に開口部を通じて移動し、構造物の浮き上がりを招きうる。
【0011】
本発明は、このような課題の解決を図ったものであり、地震時に液状化の恐れが高く、常時には透水性の良い砂層を有する地盤において、液状化抑止用に排水機能を付与するとともに、地下水流への阻害を小さくする透水孔を設けた壁体および鋼矢板を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の請求項1に係る液状化対策を施した壁体は、壁方向に連設した鋼矢板からなり、少なくとも片面に液状化抑止用の排水部材を取り付けた連続壁体において、前記排水部材は、鋼矢板本体に取り付けられた通水孔を有する溝形状鋼材からなり、前記鋼矢板本体に平常時における地下水の透水用の開口部を設けてあり、前記開口部前記排水部材の鋼矢板本体への設置範囲外に、排水部材を挟んで千鳥状になるように設けるとともに、前記排水部材を鋼矢板本体に溶接で接合することで、前記開口部による鋼矢板本体の断面欠損による強度低下を補うようにしたことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の対象となる壁体本体は、最も一般的には鋼矢板壁であり、鋼矢板の両端に形成された継手により多数の鋼矢板を連設し、盛土、地中構造物の液状化対策用壁体、あるいは護岸、岸壁等としての壁体が構成される。
【0014】
鋼矢板の場合、U型鋼矢板、左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板、Z形鋼矢板、直線形鋼矢板、それらの組合せ鋼矢板、軽量鋼矢板、あるいはH形鋼とハット形鋼矢板の組合せ鋼矢板、ないしはH形鋼とSM−Jパイル(商品名)を組合せた組合せ鋼矢板、鋼管矢板等があるが、特に限定されない。
【0015】
状化は地表から20m以内程度の深さにおいて間隙水が飽和状態の比較的ゆるい砂地盤や砂質土地盤、あるいは、シルト質砂地盤、礫混り砂質地盤等において生じる可能性が高く、液状化対策のための排水部材も現地地盤に応じて液状化の恐れの高い範囲に取り付ければよい。また、開口部も地下水流のある透水性の高い層に設けるのが効率よい。液状化の恐れの高い地盤は一般に透水性の高い地盤でもあるので、排水部材の取付範囲と透水用開口部を設ける範囲とはほぼ同じである場合が多い。
【0016】
常時には、壁体本体に透水用の開口部が形成されていることで、地下水の円滑な流れが阻害されることなく、従来、課題であった壁体背後における井戸枯れや水位低下の問題が解決される。
【0017】
一方、地震時には、従来の液状化対策工と同様、壁体表面あるいは近傍の排水部材を通じて、過剰間隙水圧が逸散され、壁体周囲の地盤の液状化が抑止され地盤を構成する土が泥水状になることがない。そのため、単に地下水の流れが遮断され、水辺の自然環境が損なわれるのを防止するために矢板壁に開口部のみを設けた場合のように、開口部から土砂が流れ出て液状化対策の効果を失なわせるといった恐れもない。
【0018】
水部材が壁体本体に取り付けられている場合、壁体位置での液状化抑止効果が確実となり、また運搬や地盤への打設作業において効率がよい。
【0019】
排水部材は全部が壁体本体に取り付けられている必要はなく、一部が地盤中で壁体本体から離れて配置されていてもよく、排水部材の分散配置により、効率のよい液状化対策が可能となる。
【0020】
請求項2は、請求項1に係る液状化対策を施した壁体において、前記鋼矢板は左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板またはSM−Jパイルであり、前記開口部をフランジまたはウェブに設けてあることを特徴とするものである。
【0021】
求項1または2に係る液状化対策を施した壁体において、排水部材鋼矢板本体に取り付けられた通水孔を有する溝形状鋼材からなる。
【0022】
剛性の高い溝形状鋼材が排水部材として鋼矢板本体と一体化しているので、打設が容易であるとともに鋼矢板本体の開口による強度低下を補える効果を持つ。
【0023】
請求項は、請求項1または2に係る液状化対策を施した壁体において、前記開口部の一部を、前記排水部材の壁体本体への設置範囲内に設けることにより、前記排水部材からの前記開口部を通じての排水も可能としてあることを特徴とするものである。
【0024】
排水部材と壁体本体の開口部を連通させることで、地震時の過剰間隙水圧を壁体の開口部からも逸散させ、排水部材を取り付けた側の地盤と反対側の地盤も液状化を抑止することができ、液状化抑止を効率化ならしめることができる。
【0025】
排水部材が孔開き溝形状鋼材であって、壁体本体と溝形状鋼材で液状化抑止の排水路を形成し、壁体本体開口部が溝形鋼取り付け幅範囲に設ける場合には、開口部にもフィルターを取り付けるなどの処置をして液状化時土砂浸入防止のため措置を講じておくのがよい。これにより、常時の透水性の維持を図り、地震時には壁体両側の液状化を抑止することができ効率的である。
【0026】
請求項、請求項1、2または3に係る液状化対策を施した壁体において、前記開口部の面積の総和が、壁体投影面積の0.1〜2%となるようにしたことを特徴とするものである。
【0027】
壁体投影面積に対する開口部の面積の総和の比率(開口率)は、鋼矢板等からなる壁体本体の強度が低下させないためには、必要最小限であることが好ましく、かつ必要な透水流量を確保する必要がある。
【0028】
開口率は、大きくすれば壁体設置前後の流量比が大きく支障が少ないが壁体の断面性能が低下する。流量比が大きく取れ断面性能の低下が大きくない範囲が好適である。
【0029】
開口率は、図8に示すように0.1〜2%以内程度なら、通常の本発明の鋼矢板の適用がふさわしい地盤であれば透水流量の70〜95%程度を確保できる。
【0030】
開口率を0.1%以上とすることで、条件にもよるが、流量比を適用可能な最小限の70%程度以上確保できる。さらに開口率を2%以内とすることで、一般に、鋼矢板の断面係数は70%以上確保でき、かつ断面二次モーメントは95%以上確保できるので、必要な性能を備えつつ鋼矢板壁の型式アップによる重量増大による経済負担を極力抑えることができる。
【0031】
さらにより好ましい範囲は、通常要求される、壁体設置前後の流量比が85%以上の確保が可能で、開口による断面性能の低下の少ない(断面係数が85%以上確保できかつ断面二次モーメントが95%以上確保できる)、開口率0.3〜1%以内の範囲である。
【0032】
開口部の位置は、一般に地盤の透水性のよい層に対応する位置である。
【0033】
開口部の孔形状は、円形、矩形、長孔、これらの孔の複数連孔など特に限定されないが、対象の透水地盤が一様の透水性を持つ(すなわち均一な地盤)であれば、透水性が一様に確保されるよう、それぞれの孔面積と孔どうしの開孔ピッチがほぼ同程度となるようにするのがよい。
【0034】
請求項に係る液状化抑止機能を有する鋼矢板は、少なくとも片面に液状化抑止用の排水部材が取り付けられた鋼矢板において、前記排水部材は、鋼矢板本体に取り付けられた通水孔を有する溝形状鋼材からなり、前記鋼矢板本体に平常時における地下水の透水用の開口部を設けてあり、前記開口部の少なくとも一部は前記排水部材の鋼矢板本体への設置範囲外に、排水部材を挟んで千鳥状になるように設けるとともに、前記排水部材を鋼矢板本体に溶接で接合することで、前記開口部による鋼矢板本体の断面欠損による強度低下を補うようにしたことを特徴とするものである。
【0035】
求項に係る液状化抑止機能を有する鋼矢板は、請求項に係る鋼矢板において、前記鋼矢板が左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板またはSM−Jパイルであることを特徴とするものである。
【0036】
請求項に係る液状化抑止機能を有する鋼矢板は、請求項5または6に係る鋼矢板において、前記開口部の一部を前記排水部材の鋼矢板本体への設置範囲内に設けてあることを特徴とするものである。
【0037】
これは、開口部の少なくとも一部を排水部材の鋼矢板本体への設置位置に重ねて設けることにより、鋼矢板本体の開口部を通じて、排水部材取り付け側と反対側の地盤の間隙水を排出し液状化を抑止することを可能としたものである。
【0038】
請求項に係る液状化抑止機能を有する鋼矢板は、請求項5、6または7に係る鋼矢板において、前記開口部の面積の総和が、前記開口部に位置する鋼矢板の投影面積の0.1〜2%となるようにしたことを特徴とするものである。
【0039】
求項5〜8に係る鋼矢板では、常時の透水性を備えつつ壁体両側の地盤の液状化を効率的に抑止することができることに加え、剛性の高い溝形状鋼材が排水部材として鋼矢板本体と一体化しているので、打設が容易であるとともに鋼矢板本体の開口による強度低下を補える効果を持つ。
【発明の効果】
【0040】
常時には、壁体本体に通水用の開口部が形成されていることで、地下水の円滑な流れが阻害されることなく、従来、課題であった壁体背後における井戸枯れや水位低下の問題がない。
【0041】
一方、地震時には、従来の液状化対策工と同様、壁体表面あるいは近傍の排水部材を通じて、過剰間隙水圧が逸散され、地盤の液状化が抑止される。そのため、単に地下水の流れが遮断され、水辺の自然環境が損なわれるのを防止するために矢板壁に開口部を設けた場合のように、開口部から土砂が流れ出て液状化対策の効果を低下させるといった恐れもない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の液状化対策を施した壁体の概要と機能を説明するための鉛直断面図である。
図2施例1における鋼矢板の斜視図である。
図3施例2における鋼矢板の斜視図である。
図4施例3における鋼矢板を示したもので、(a)、(b)は互いに反対側から見た斜視図である。
図5施例3における鋼矢板の変形例を示したもので、(a)は開口部を排水部材を挟んで千鳥状配置にした場合の斜視図、(b)はさらに開口部を3連孔にした実施例の斜視図である。
図6矢板と排水部材の例を示したもので、(a)は水平断面図、(b)は立面図である。
図7矢板と排水部材の例を示したもので、(a)は水平断面図、(b)は立面図、(c)は鋼矢板の斜視図、(d)、(e)は排水部材の断面図を示したものである。
図8】比較例としての従来の液状化対策を施した壁体の概要と機能を説明するための鉛直断面図である。
図9】ある一般的な地盤での壁体の開口率と壁設置前後の流量比の関係を求めたものであり、(a)は解析モデルの図、(b)は開口率と壁設置前後の流量比の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明と比較例の具体的な実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
図2、実施例1における鋼矢板11の斜視図であり、実施例1では左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板、あるいはSM−Jパイル(商品名)からなる鋼矢板11本体のウェブ11aとフランジ11bに囲まれた内側に、排水部材を構成する面状樹脂材13aを取り付けるとともに、鋼矢板11本体のウェブ11aに多数の透水孔12を穿設してある。
【0045】
このような鋼矢板11を左右両側の継手11c、11dを嵌合させながら地盤中に打設することにより、地盤中に液状化対策を施した鋼矢板壁が構築されることになる。
【0046】
面状樹脂材13aは、内部に通水用の空隙を有するものであり、必要に応じ外面にシート状のフィルターを取り付け、さらに必要に応じその外面に孔穿きプレート、溶接金網あるいはエキスパンドメタル、あるいは網状の樹脂材等からなる保護部材を取り付ける。
【0047】
図1は、本発明の液状化対策を施した壁体の概要と機能を説明するための鉛直断面図であり、鋼矢板11本体のウェブ11aに透水孔12を設けてあることで、平常時には、地下水の円滑な流れが阻害されることなく、従来、課題であった壁体背後における井戸枯れや水位低下の問題がない。
【0048】
一方、地震時には、排水部材3を通じて、過剰間隙水圧が逸散され、地盤の液状化が抑止される。
【0049】
図1に示される本発明の機能や原理は、後述する実施例2以下でも同様であるので、実施例2以下において繰返しの説明は省略する。
【0050】
なお、実施例1では、透水孔12を面状樹脂材13aの取付け位置にも設けてあるため、地震時の過剰間隙水圧をこの透水孔12を通じても逸散させることができる。
【実施例2】
【0051】
図3、実施例2における鋼矢板の斜視図であり、実施例2においてもハット形鋼矢板からなる鋼矢板11本体のウェブ11aとフランジ11bに囲まれた内側に、排水部材を構成する面状樹脂材13aを取り付けるとともに、鋼矢板本体11のウェブ11aに多数の透水孔12を穿設してある。
【0052】
必要に応じ外面にシート状のフィルターを取り付けたり、その外面に保護部材を取り付ける点は実施例2の場合と同様である。
【0053】
実施例2では、透水孔12を面状樹脂材13aの取付け位置には設けず、代わりに鋼矢板11本体のフランジ11b部分にも透水孔12を穿設している。
【実施例3】
【0054】
図4、実施例3における鋼矢板を示したもので、(a)、(b)は互いに反対側から見た斜視図である。
【0055】
実施例3における排水部材は、フィルター付き通水孔14を有する溝形状鋼材13bからなり、地震時には通水孔14から過剰間隙水が鋼矢板11本体と溝形状鋼材13bで囲まれた内部の中空空間に入り込み、過剰間隙水圧が逸散され、液状化が抑止される。
【0056】
また、常時は、鋼矢板11本体のウェブ11a部分の幅方向両側に形成された透水孔12により地下水の流れが確保される。
【0057】
図5(a)は、実施例3の鋼矢板の変形例であるが、排水部材を挟んで千鳥状になるように開口を設けたものである。このように、排水部材を挟んで千鳥状に開口すると鋼矢板本体の断面欠損が同じ高さに集中しないので好適である。また、開口した断面欠損部は、溝形状鋼材を鋼矢板本体に溶接等で接合してあると鋼矢板が補強されたことになり、この断面欠損による強度低下を補うことができる。
【0058】
したがって、排水部材を鋼矢板本体に溶接などで一体化するとともに、開口部を排水部材取り付け区間内に設ければ、強度低下も最小限で液状化抑止もでき必要な透水性を確保できる合理的な、本発明の鋼矢板および壁体を提供できる。
【0059】
図5(b)は、他の変形例として、排水部材取付け区間の開口部を複数連ねた、例えば3連孔とした場合である。鋼矢板の種類、型式によっては、ウェブが狭く1孔で必要な面積を確保しようとすれば、長孔や矩形孔では孔長さが長くなり開口手間もコストもかかるので課題があるが、例えば開口が機械的に容易な円形孔を複数(この例では3つ)連ねて開口している。この方法により、1箇所の孔を実質大きくでき開口手間も軽減することができる。
【0060】
図4図5において、鋼矢板本体はU形鋼矢板、ハット形鋼矢板などいずれの種類のものでもよい。
【0061】
図6、鋼矢板と排水部材の例を示したもので、(a)は水平断面図、(b)は立面図である。
【0062】
この例では、排水部材として、立体網状構造体の周囲にフィルターを被せるなどして、外周面にフィルター機能を有する樹脂製の立体網状構造体23aを、U形鋼矢板21本体のウェブ21aとフランジ21bに囲まれた内側に取り付けるとともに、U形鋼矢板21本体のウェブ21aに立体網状構造体23aの内部と連通する多数の透水孔22を穿設してある。
【0063】
また、立体網状構造体23aは表面に、保護用金網23bを被せてある。また、この保護用金網は、多数の孔を有する保護プレートや筒状体等であってもよい。
【0064】
図7、鋼矢板と排水部材の他の例を示したもので、(a)は水平断面図、(b)は立面図、(c)は排水部材取り付け側からみた鋼矢板の斜視図、(d)は立体網状構造体25の断面図(網状構造体の網密度が外側で密;すなわち土砂浸入抑止機能を持てるよう密度を調整、内側で疎;すなわち内側は侵入水を抵抗少なく上方に逃がすため疎)、(e)は立体網状構造体の断面図(網状構造体の外側で土砂に排水部材内への侵入を抑止するフィルター機能を有し、内側に中空部を有する。)である。
【0065】
この例では、排水部材として、表面側の網状構造を、周面にわたって、内側の網状構造より密にして周面にフィルター機能を持たせた樹脂製の立体網状構造体25を、ハット形鋼矢板24本体のウェブ24aとフランジ24bに囲まれた内側に取り付けるとともに、ハット形鋼矢板24本体のウェブ24aに立体網状構造体25の内部と連通する多数の透水孔(開口部)22を穿設してある。
【0066】
こうした構造では、フィルター機能をもつ排水部材外周囲の網状構造が鋼矢板製作加工時、運搬時、地盤への打設時に実用面から損傷をほとんどなくし得るので、取扱いに優れ、環境にも優しい液状化抑止機能を有する鋼矢板を提供できる。
【0067】
このように、外周面側にフィルター機能を組み込んだ立体網状構造体25は、周囲が摩擦に強く地盤に打設しても液状化抑止機能を保持し実質損傷しないものであれば、表面に保護材料を被せる必要はない。
【0068】
ただし、この例の鋼矢板24を、固く尖った砕石混じり地盤などに打設する場合においては、この特別な網状構造の周囲、あるいは地盤面側などの一部を金網、孔開き板や孔開き筒状体で保護してもよいし、当該網状構造体25の周囲に網状構造体とは違う樹脂あるいは不織布などのフィルターを設け、その外側に上記のような保護材を設置してもよい。
【0069】
この例の排水部材25は、表面側の網状構造を、周面にわたって、内側の網状構造より密にして、排水部外周囲側フィルター機能を持たせたものであるが、地盤の土砂が排水部材内側に侵入することを抑止し、地盤の過剰間隙水圧を逸散させられるフィルター機能をもつ、内側に比べ密な網状層が外側にあればよく、このフィルター機能を持つ層の内側は外側の層より疎とし地中の間隙水の上部への移動抵抗を少なくしてあればよい。
【0070】
この密疎の順は、内側に行くにつれ、順次、疎になってもよく、中間部に密な層がありその内側が疎(例えば、最も外側は疎など)であってもよく、いずれの構造でもよい。要は、排水部材としての立体網状構造体において、その外側からの土砂浸入を抑止するため排水部材外側はより密にしてフィルター機能を持たせ、部材内部により疎な空間、すなわち水の移動抵抗の小さい空間を確保できればよい。
【0071】
極端な場合は、図7(e)に示すように、当該排水部材25bの内部側が中空であってもよい。内部側が中空であれば、排水抵抗が小さくなるので、液状化抑止機能に優れる。この場合、耐圧性はやや落ちるが実用的にはほとんど差し支えない。
【0072】
なお、液状化抑止機能を持つ排水部材がいずれの構造であっても、その排水部材の内部に中空部を有することは、液状化時、地盤上方への排水抵抗が少なく液状化抑止機能を上げることができるとともに、常時においても、被圧水層のある背面地盤あるいは前面地盤の場合など、水圧を速やかに逸散させ、常時においても鋼矢板壁への悪影響を常時緩和することができる。
【0073】
この例においては、排水部材25の鋼矢板本体への設置範囲に鋼矢板本体の開口部が設けられているので、排水部材25設置側地盤と反対方向の液状化も抑止できるのは図6の例と同じである。
【0074】
また、常時においては、鋼矢板本体の開口部から排水部材を通して反対側地盤への地盤透水性を保持することができる。
【0075】
図7(d)あるいは(e)に示す排水部材(立体網状構造体)の断面形状については、加工・運搬の点から、また地盤への打設性から外側が矩形状で高さがあまり高くないものがよい。図7(c)に示すように、排水部材の損傷防止、地盤への貫入性から、先端の加工を工夫するとともに、排水部材防護材を取り付けるなどの対策を施してもよい。
【0076】
なお、当該排水部材25を有する矢板は、その他にU形鋼矢板、Z形鋼矢板、直線形鋼矢板、軽量鋼矢板、コンクリート矢板など、特に限定されない。また、矢板本体に設ける開口部は、図7のように全数あるいは一部を排水部材取り付け範囲内に所定の面積比率で設けてもよく、逆に排水部材取り付け範囲外に所定の面積比率で設けてもよい。
【0077】
地盤の液状化のない条件においても、背後地盤からの常時の水抜きが必要な鋼矢板擁壁において、この例のように、土砂の内側への侵入を防止するフィルター機能をもつ、矩形状の立体網状構造体を鋼矢板本体に接して背後地盤側に取り付け、その取り付け範囲内に鋼矢板本体の開口部を設けた場合には、当該開口部はフィルターを取り付けなくても開口部からの水抜きは図れ、開口部からの土砂の抜け出しを止めることができるとともに、投影面積の広い排水部材が背後地盤の集水を効率的に行うので、好適な鋼矢板擁壁を提供できる。
【0078】
次に、開口部の面積について説明する。図8は、ある一般的な地盤において、壁体設置前後に流量比に対する壁体の開口率の影響を示したものである。
【0079】
流量比には開口率だけでなく壁体(鋼矢板)の板厚も影響する。しかし、鋼矢板の板厚は通常50mm以内であり、常時の透水性に、通常、大きな支障が出ない範囲である、壁体を設けない場合の流量の7割以上の流量を確保するには、開口率が壁体の面積(投影面積)の0.1%以上あるのが好ましい。
【0080】
より好ましくは、流量比が0.85以上確保できるよう開口率は0.3%以上とするのがよい。開口率が2%で流量比は0.95以上となり、それ以上の開口率としても流量比の増加割合が少なく一定値に収束していく傾向があるので、2%以下とするのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の液状化対策を施した壁体および液状化抑止機能を有する鋼矢板は、地震時に液状化が発生する恐れのある地盤において、盛土、堰堤、擁壁等の液状化対策工(耐震補強工)、あるいはアンダーパス、掘割道路、地中トンネル、沈砂池含む上下水道施設、水路、揚排水機場施設、洞道、地中埋設管などの地中構造物、および護岸、岸壁等に適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1…壁体、2…鋼矢板、3…排水部材、4…液状化の恐れのある地盤、5…盛土、
11…鋼矢板、11a…ウェブ、11b…フランジ、11c、11d…継手、
12…透水孔(開口部)、13a…面状樹脂材、13b…溝形状鋼材、14…フィルター付き通水孔、
21…U形鋼矢板、21a…ウェブ、21b…フランジ、21c、21d…継手、
22…透水孔(開口部)、23a…立体網状構造体、23b…保護用金網、
24…ハット形鋼矢板、24a…ウェブ、24b…フランジ、25…本発明の
立体網状構造体、25a…本発明の立体網状構造体(立体網状構造の外側密(フィルター機能あり)、かつ内側密)、25b…本発明の立体網状構造体(立体網状構造の外側がフィルター機能持ち、かつ内側に中空部あり)、
31…壁体、32…鋼矢板、33…排水部材、34…透水性の高い地盤、35…盛土
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9