特許第5783046号(P5783046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5783046-合成繊維およびその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783046
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】合成繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/90 20060101AFI20150907BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   D01F6/90 311F
   D01F6/62 305Z
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2011-542612(P2011-542612)
(86)(22)【出願日】2011年8月26日
(86)【国際出願番号】JP2011069255
(87)【国際公開番号】WO2012029642
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年7月11日
(31)【優先権主張番号】特願2010-194012(P2010-194012)
(32)【優先日】2010年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高木健太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤憲司
(72)【発明者】
【氏名】河野健明
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−246845(JP,A)
【文献】 特開2008−038142(JP,A)
【文献】 特開2009−028988(JP,A)
【文献】 特開2010−126580(JP,A)
【文献】 特開2003−238775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/90
D01F 6/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および相溶化剤(C)を配合してなるポリマーアロイからなり、前記相溶化剤(C)がグリシジル基を有する直鎖のスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であることを特徴とする合成繊維。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)が島成分を形成し、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)が海成分を形成した海島構造の合成繊維であることを特徴とする請求項1記載の合成繊維。
【請求項3】
糸斑(U%)が0.8%以下である請求項1または2記載の合成繊維。
【請求項4】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)が、結晶性の樹脂であり、かつその融点が150〜230℃であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の合成繊維。
【請求項5】
熱可塑性ポリアミド樹脂(B)が、結晶性の樹脂であり、かつその融点が150〜250℃であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の合成繊維。
【請求項6】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)のブレンド比率(質量比)が、5/95〜55/45であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の合成繊維。
【請求項7】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および相溶化剤(C)の合計量に対する前記相溶化剤(C)の添加量が、0.005〜5質量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の合成繊維。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリマーアロイの合成繊維を、少なくとも一部に含む繊維構造体。
【請求項9】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)およびグリシジル基を有する直鎖のスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体からなる相溶化剤(C)を、押出混練機に供給し溶融混練してポリマーアロイを製造し、該ポリマーアロイを、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点Tmb+10℃〜融点Tmb+40℃の紡糸温度で、500〜5,000m/分の紡糸速度で紡糸することを特徴とするポリマーアロイの合成繊維の製造方法。
【請求項10】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)のブレンド比率(質量比)が、5/95〜55/45であることを特徴とする請求項9記載の合成繊維の製造方法。
【請求項11】
脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および相溶化剤(C)の合計量に対する前記相溶化剤(C)の添加量が、0.005〜5質量%であることを特徴とする請求項9または10記載の合成繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂と熱可塑性ポリアミド樹脂を含有するポリマーアロイからなる合成繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、地球的規模での環境に対する意識向上に伴い、自然環境の中で分解する繊維素材の開発が切望されている。
【0003】
例えば、従来の汎用プラスチックは、石油資源を主原料としていることから、石油資源が将来枯渇すること、また石油資源の大量消費により生じる地球温暖化が大きな問題として採り上げられている。このため、近年では、脂肪族ポリエステル樹脂等の様々なプラスチックや繊維についての研究と開発が活発化している。それらの中でも、微生物により分解されるプラスチック、即ち生分解性プラスチックを用いた繊維に注目が集まっている。
【0004】
また、二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることにより、二酸化炭素の循環により地球温暖化を抑制できることが期待できると共に、資源枯渇の問題も解決できる可能性がある。そのため、植物資源を出発点とするプラスチック、すなわちバイオマス利用の生分解性プラスチックに注目が集まっている。
【0005】
これまで、バイオマス利用の生分解性プラスチックは、力学特性や耐熱性が低いと共に、製造コストが高いという課題があり、汎用プラスチックとして使われることはなかった。一方、近年では、力学特性や耐熱性が比較的高く、製造コストの低い生分解性のプラスチックとして、でんぷんの発酵で得られる乳酸を原料としたポリ乳酸が脚光を浴びている。
【0006】
ポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル樹脂は、例えば、手術用縫合糸として医療分野で古くから用いられてきたが、最近は量産技術の向上により価格面においても他の汎用プラスチックと競争できるまでになった。そのため、脂肪族ポリエステル樹脂については、繊維としての商品開発も活発化してきている。
【0007】
脂肪族ポリエステル樹脂からなる繊維の開発は、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行している。それらに続く大型の用途として、衣料用途、カーテンやカーペット等のインテリア用途、車両内装用途、および産業資材用途への応用も期待されている。しかしながら、脂肪族ポリエステル樹脂からなる繊維を衣料用途や産業資材用途に適応する場合には、脂肪族ポリエステル樹脂からなる繊維、特にポリ乳酸からなる繊維の耐摩耗性と耐加水分解性の低さが大きな問題となる。
【0008】
例えば、ポリ乳酸からなる繊維を衣料用途に用いた場合には、擦過等により容易に色移りが生じたり、酷い場合には繊維がフィブリル化して白ぼけし、実用上の耐久性に乏しいことがわかってきている。また、ポリ乳酸からなる繊維を自動車内装用、特に強い擦過を受けるカーペット等に用いた場合には、ポリ乳酸からなる繊維の毛倒れが容易に生じると共に削れが起こり、酷い場合には穴が開くこともある。また、脂肪族ポリエステル樹脂(特にポリ乳酸)は、加水分解が生じやすいこともあり、上記の様なフィブリル化や削れは、経時的に酷くなる傾向にあり、製品寿命が短いという課題があることがわかってきている。
【0009】
ポリ乳酸からなる繊維の耐摩耗性を改善する方法としては、例えば、ポリ乳酸からなる繊維に脂肪酸ビスアミド等の滑剤を添加して繊維表面の摩擦係数を低下せしめることにより、摩耗を抑制したポリ乳酸からなる繊維が提案されている(特許文献1〜4参照。)。
【0010】
また、ポリアミド樹脂と脂肪族ポリエステル樹脂とのブレンドにより、樹脂組成物の力学特性を向上させる発明が提案されている(特許文献5参照。)。この提案によれば、ポリアミド樹脂の補強効果により、脂肪族ポリエステル樹脂の強度等の力学特性、耐熱性および耐摩耗性が向上するとされている。
【0011】
さらに、一分子中に2個以上の活性水素反応性基を含有する相溶化剤を添加することにより、ポリアミド樹脂と脂肪族ポリエステル樹脂の界面の接着性を強化し外力による界面の剥離を抑制する、ポリマーアロイからなる繊維が提案されている(特許文献6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−91968号公報(第4〜5頁)
【特許文献2】特開2004−204406号公報(第4〜5頁)
【特許文献3】特開2004−204407号公報(第4〜5頁)
【特許文献4】特開2004−277931号公報(第5〜6頁)
【特許文献5】特開2003−238775号公報(第3頁)
【特許文献6】特開2006−233375号公報(第1、4および5頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記提案の従来技術には、いずれも課題がある。例えば、特許文献1〜4の提案のように、ポリ乳酸からなる繊維単独では、高温多湿下で加水分解が進行し、それにより著しい強度低下が生じるため、その用途は限定されるものであった。また、特許文献5の提案の方法では、脂肪族ポリエステル樹脂とポリアミド樹脂が非相溶であるため、これら両者の相の界面の接着性が劣るため、外力により容易に界面で剥離し、フィブリル化して白ぼけし、摩耗速度も速いという問題があることが判明した。さらに、特許文献6の提案の場合でも、ポリアミド樹脂と脂肪族ポリエステル樹脂の界面の剥離が完全に抑制されるわけではなく、ポリアミド樹脂単一成分の場合と比較し、耐摩擦性が大幅に悪化しており、やはり用途が限定されるものであった。
【0014】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、耐摩耗性に優れ、高品位の繊維構造体を与え得る、脂肪族ポリエステル樹脂と熱可塑性ポリアミド樹脂を含有するポリマーアロイからなる合成繊維、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成せんとするものであって、本発明のポリマーアロイの合成繊維は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および相溶化剤(C)を配合してなるポリマーアロイからなり、前記相溶化剤(C)がグリシジル基を有する直鎖のスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体であることを特徴とする合成繊維である。
【0016】
本発明の合成繊維の好ましい態様によれば、前記の脂肪族ポリエステル樹脂(A)が島成分を形成し、前記の熱可塑性ポリアミド樹脂(B)が海成分を形成した海島構造の合成繊維である。
【0017】
本発明の合成繊維の好ましい態様によれば、前記の合成繊維の糸斑(U%)は0.8%以下である。
【0018】
本発明の合成繊維の好ましい態様によれば、前記の脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、結晶性の樹脂であり、かつその融点は150〜230℃である。
【0019】
本発明の合成繊維の好ましい態様によれば、前記の熱可塑性ポリアミド樹脂(B)は、結晶性の樹脂であり、かつその融点は150〜250℃である。
【0020】
本発明の合成繊維の好ましい態様によれば、前記の脂肪族ポリエステル樹脂(A)と前記の熱可塑性ポリアミド樹脂(B)のブレンド比率(質量比)は、5/95〜55/45である。
【0021】
本発明の合成繊維の好ましい態様によれば、前記の脂肪族ポリエステル樹脂(A)、前記の熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および前記の相溶化剤(C)の合計量に対する前記の相溶化剤(C)の添加量は、0.005〜5質量%である。
【0022】
本発明の繊維構造体は、前記のポリマーアロイの合成繊維を少なくとも一部に含むものである。
【0023】
また、本発明のポリマーアロイの合成繊維の製造方法は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)およびグリシジル基を有する直鎖のスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体からなる相溶化剤(C)を、押出混練機に供給し溶融混練してポリマーアロイを製造し、該ポリマーアロイを、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点Tmb+10℃〜同融点Tmb+40℃の紡糸温度で、かつ500〜5,000m/分の紡糸速度で、紡糸することを特徴とするものである。
【0024】
本発明の合成繊維の製造方法の好ましい態様によれば、前記の脂肪族ポリエステル樹脂(A)と前記の熱可塑性ポリアミド樹脂(B)のブレンド比率(質量比)は、5/95〜55/45である。
【0025】
本発明の合成繊維の製造方法の好ましい態様によれば、前記の脂肪族ポリエステル樹脂(A)、前記の熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および前記の相溶化剤(C)の合計量に対する前記相溶化剤(C)の添加量は、0.005〜5質量%である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、耐摩耗性が格段に向上し、高品位の繊維構造体を与え得る、脂肪族ポリエステル樹脂と熱可塑性ポリアミド樹脂を含有するポリマーアロイからなる合成繊維が得られる。
【0027】
また、本発明によれば、耐摩耗性が格段優れた、上記ポリマーアロイの合成繊維からなる高品位の繊維構造体が得られる。
【0028】
本発明のポリマーアロイの合成繊維は、後述するように、一般衣料用途や産業資材用途等に最適であり、その用途は多岐にわたる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明のポリマーアロイからなる合成繊維を製造するために好ましく用いられる紡糸装置の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のポリマーアロイの合成繊維は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)および相溶化剤(C)を配合してなるポリマーアロイからなる合成繊維である。
【0031】
本発明でいう脂肪族ポリエステル樹脂(A)(以下、「成分A」と記す場合もある。)とは、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結されたポリマーのことをいう。本発明で用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)は、結晶性であることが好ましく、また、その融点は150〜230℃であることが好ましい態様である。
【0032】
また、本発明で用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)の種類としては、例えば、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸およびポリカプロラクトン等が挙げられる。これらのうちでも、溶融成形が容易であるという観点から、ポリ乳酸が最も好ましく用いられる。
【0033】
上記のポリ乳酸は、−(O−CHCH−CO)−を繰り返し単位として有するポリマーであり、乳酸やラクチド等の乳酸のオリゴマーを重合したものである。乳酸には、D体とL体の2つの光学異性体が存在するが、L体またはD体のいずれにしても、光学純度は高い方が融点は高く、すなわち耐熱性が向上する。具体的には、ポリ乳酸は、光学純度が90%以上であることが好ましい。また、ポリ乳酸の融点は、繊維の耐熱性を維持するために、150℃〜230℃であることが好ましく、さらに好ましくは170℃〜230℃である。
【0034】
上記の融点とは、示差走査型熱量計DSCを用い、測定して得た融解吸熱曲線の極値を与える温度である。
【0035】
ただし、上記のように2種類の光学異性体のポリマーが単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体のポリマーをブレンドして繊維に成形した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を220〜230℃まで高めることができる。この場合、「成分A」は、ポリ(L乳酸)とポリ(D乳酸)の混合物を指し、両者のブレンド比率(質量比)は、好ましくは40/60〜60/40である。両者のブレンド比率(質量比)がこの範囲にあると、ステレオコンプレックス結晶の比率をより高めることができる。
【0036】
また、ポリ乳酸中には、低分子量残留物として残存ラクチドが存在する。これらの低分子量残留物は、延伸や仮撚加工工程での加熱ヒーター汚れや染色加工工程での染め斑等の染色異常を誘発する原因となる。また、残存ラクチドは、繊維や繊維成型品の加水分解を促進し、耐久性を低下させる。そのため、ポリ乳酸中の残存ラクチド量は、好ましくは0.3質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下であり、さらに好ましくは0.03質量%以下である。
【0037】
また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、乳酸以外の成分を共重合していてもよい。共重合する成分としては、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレンエーテルグリコール、ポリブチレンサクシネートやポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル、ポリエチレンイソフタレートなどの芳香族ポリエステル、およびヒドロキシカルボン酸、ラクトン、ジカルボン酸およびジオールなどのエステル結合形成性の単量体が挙げられる。これらの中でも、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)(以下、「成分B」と記す場合もある。)との相溶性がよいポリアルキレンエーテルグリコールが好ましく用いられる。このような共重合成分の共重合割合は、融点降下による耐熱性低下を損なわない範囲であればよく、ポリ乳酸を構成する乳酸単位に対して0.1〜10モル%であることが好ましい。
【0038】
また、ポリ乳酸の分子量は、耐摩耗性を高めるためには高い方が好ましいが、分子量が高すぎると、溶融紡糸での成形性や延伸性が低下する傾向にある。ポリ乳酸の重量平均分子量は、耐摩耗性を保持するために8万以上であることが好ましく、より好ましくは10万以上であり、さらに好ましくは12万以上である。また、重量平均分子量が35万を超えると、前記したように延伸性が低下するため、結果として分子配向性が悪くなり繊維強度が低下する。そのため、重量平均分子量は35万以下が好ましく、より好ましくは30万以下であり、さらに好ましくは25万以下である。
【0039】
上記の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で求めた値である。
【0040】
本発明において、「成分A」として好ましく用いられるポリ乳酸の製造方法は、特に限定されない。
【0041】
ポリ乳酸の製造方法としては、例えば、具体的には、日本特開平6−65360号公報に記載されている方法が挙げられる。すなわち、乳酸を有機溶媒および触媒の存在下に、そのまま脱水縮合する直接脱水縮合法である。また別に、日本特開平7−173266号公報に記載されている方法が挙げられる。すなわち、少なくとも2種類のホモポリマーを重合触媒の存在下に、共重合並びにエステル交換反応させる方法である。さらには、米国特許第2,703,316号明細書に記載されている方法が挙げられる。すなわち、乳酸を一旦脱水し、環状二量体とした後に、開環重合する間接重合法である。
【0042】
本発明で用いられる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)とは、アミド結合を有するポリマーのことをいう。本発明で用いられる熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の種類としては、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、およびポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)等を挙げることができる。これらの中でも、成分Aとの相溶性を高くするために、ポリアミドのメチレン鎖長は長い方がよく、その点で、ナイロン11、ナイロン12およびナイロン610が好ましく用いられる。また、ポリアミドは、ホモポリマーであっても共重合ポリマーであってもよい。
【0043】
また、一般に、脂肪族ポリエステル樹脂は、融点を有する場合、その融点は通常200℃以下であるなど、耐熱性が高いとはいえず、溶融貯留時250℃を超えると急激に物性が悪化する傾向にある。そのため、脂肪族ポリエステル樹脂にブレンドする熱可塑性ポリアミド樹脂(B)は、その融点が150〜250℃であることが好ましく、より好ましくは230℃以下である。
【0044】
一方、繊維の耐熱性を考慮すると、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の融点は150℃以上であることが好ましい。熱可塑性ポリアミド樹脂(B)は前記したように、共重合ポリマーであってもよいが、結晶性が低下すると耐摩耗性も低下する傾向にあるため、結晶性であることが好ましい。
【0045】
本発明において用いられる脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)のそれぞれについての、結晶性の有無は、示差走査熱量計(DSC)測定において融解ピークを観測できれば、そのポリマーが結晶性であると判断することができる。
【0046】
本発明において、成分Aと成分Bとのブレンド比率(混合比率)は、後述するように成分Aを島成分、成分Bを海成分にすることが好ましいため、これを達成し得る比率とすることが好ましい。具体的に、成分Aを島成分、成分Bを海成分とする海島構造とするポリマーアロイにするためには、成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を、5/95〜55/45の範囲とすることが好ましい。
【0047】
また、成分Aの比率を高める場合には成分Aの溶融粘度ηaを高くすればよく、成分Bの比率を高くする場合には成分Bの溶融粘度ηbを高くすればよい。また、成分Aと成分Bのブレンド比率(質量比)は、成分Bの比率を高めるほど容易になることから、より好ましくは7/93〜45/55であり、さらに好ましくは10/90〜40/60であり、最も好ましくは15/85〜30/70である。
【0048】
また、成分Aと成分Bの溶融粘度の比(ηb/ηa)は、大きくなると、島成分を構成する成分Aの口金孔内での変形が大きくなり、紡出部で発生するバラスと呼ばれる糸条の膨らみが大きくなり曳糸性が悪化する。そのため、溶融粘度の比(ηb/ηa)は、0.1〜2.0の範囲にすることが好ましく、より好ましくは0.15〜1.5であり、さらに好ましくは0.2〜1.0である。
【0049】
溶融粘度ηの測定方法は、測定温度240℃、剪断速度1216sec−1で測定したときの溶融粘度である。溶融粘度ηの測定方法の詳細については後述する。
【0050】
本発明のポリマーアロイの合成繊維の横断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)(4万倍)により観察すると、いわゆる海島構造を採っていることがわかる。本発明において、成分Aと成分Bのブレンド状態は耐摩耗性に影響は与えないが、島成分を構成する成分Aのドメインサイズが直径換算(ドメインを円と仮定し、ドメインの面積から換算される直径)で小さい方が原糸強度が高くなる。成分Aのドメインサイズは、直径換算で、特に0.6μm以下であることが好ましい。
【0051】
本発明の合成繊維は、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)を含むポリマーアロイで構成される合成繊維である。本発明の合成繊維は、脂肪族ポリエステル樹脂が島成分を、熱可塑性ポリアミド樹脂が海成分を形成した海島構造を形成していることが好ましい。ここで、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)は、通常ほとんど反応しない(エステル−アミド交換がほとんど起こらない)ため、前記2者のポリマー、すなわち脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の界面接着性は、そのままではそれほど高くはない。そこで、本発明の合成繊維においては、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)に加えて、さらに特定の相溶化剤(C)(以下、「成分C」と記す場合もある。)を添加して、界面接着性を飛躍的に向上させることにより、耐摩耗性を向上させるものである。
【0052】
本発明で用いられる成分Cは、グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体である。前記“/”は共重合を意味しており、以下の記載についても同様である。成分Cとして、グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を用いることにより、脂肪族ポリエステル樹脂(A)と熱可塑性ポリアミド樹脂(B)の界面接着性を飛躍的に向上させることができる。
【0053】
グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は、通常、スチレン、(メタ)アクリル酸エステルおよびグリシジル基を有する共重合可能なビニル系単量体(好ましくは(メタ)アクリル酸グリシジルエステル等)等の共単量体を共重合することにより得られる。
【0054】
ここで、(メタ)アクリル酸エステルは、メタアクリル酸エステルおよび/または、アクリル酸エステルを意味している。
【0055】
上記の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシルおよび(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニルおよび(メタ)アクリル酸トリシクロデシニル等の(メタ)アクリル酸脂環式アルキル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸クロロエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチルおよび(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のヘテロ原子含有(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。これら単量体は、1種類または2種類以上用いることが可能である。
【0056】
また、上記のグリシジル基を有する共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸エポキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸エポキシシクロヘキサンメチル、アリルグリシジルエーテルおよびビニルグリシジルエーテル等が例示される。中でも、入手が容易であって接着強度が向上しやすいメタクリル酸グリシジルが好ましく用いられる。
【0057】
その中でも成分Cとして、ポリスチレン・(メタ)アクリル酸ブチル・メタクリル酸グリシジルもしくはポリスチレン・(メタ)アクリル酸ブチル・(メタ)アクリル酸メチル・メタクリル酸グリシジルの共重合体が好ましい。そのような製品(市販品)としては、東亞合成社製“ARUFON”(登録商標)が市販されている。
【0058】
成分Cのグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を、成分Aおよび/または成分Bに添加して溶融ブレンドして紡糸を行うことにより、この成分Cの化合物が、成分Aと成分Bのいずれの成分とも反応し架橋構造をとるか、または、成分Aか成分Bのどちらか一方とのみ反応するかして、成分Cが成分Aと成分Bの両者の界面に存在することにより、界面剥離を抑制できると考えられる。
【0059】
グリシジル基は、ポリ乳酸樹脂や熱可塑性ポリアミド樹脂の末端に存在するCOOH末端基、OH末端基およびNH末端基との反応性を有する。本発明の合成繊維の製法である溶融紡糸では、250℃以下と比較的低温で成形を行うため、低温反応性に優れた点で、上記のようなグリシジル基を有する化合物が用いられる。
【0060】
グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体のグリシジル基量は、20mgKOH/g以上である場合に相溶化剤としての好ましい役割を満たすことができる。一方、一分子中に200mgKOH/gを超えて反応性基を有すると、紡糸時に過度に増粘して曳糸性が低下する傾向にある。そのため、一分子中のグリシジル基の量は、20mgKOH/g以上、200mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは100mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは40mgKOH/g個以下である。ここでいうグリシジル基量は、使用した重合原料ベースに基づく理論値である。
【0061】
また、上記したグリシジル基を20mgKOH/g以上、200mgKOH/g以下である化合物は、重量平均分子量で250〜30,000の分子量を持つものであると、溶融成形時の耐熱性と分散性に優れるため好ましく用いられる。グリシジル基を20mgKOH/g以上有する化合物の重量平均分子量は、より好ましくは250〜20,000である。
【0062】
また、グリシジル基は、OH末端基よりNH末端基との反応性に富むことが知られており、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)との反応性に優れている。さらに、これらの反応性基(グリシジル基)を有する重合体のスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の主鎖であるアクリル系ポリマーは、脂肪族ポリエステル樹脂(A)、特にポリ乳酸との相溶性が良好であり、熱可塑性ポリアミド樹脂(B)およびポリ乳酸の両者との相溶化剤としての反応性と分散性に優れている。
【0063】
また、本発明で成分Cとして用いられるグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が有効である理由は定かではないが、この成分Cの共重合体は、重合体の主鎖にグリシジル基含有共単量体を共重合した共重合体であり、主鎖に長い分岐がなく立体障害が無いため、反応性に富むと考えられる。また、この共重合体の重合時には、重合時に連鎖移動剤などの副原料をほとんど用いないことから、高温での耐熱性に優れていると考えられる。このため、高温紡糸するポリアミドを用いるポリマーアロイの相溶化剤として好ましく用いられる。
【0064】
また、グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体は、一般に分子量および組成分布が小さいため、溶融時の均一反応性に富むと考えられる。
【0065】
成分Cの添加量は、使用する化合物の反応性基の単位質量当たりの当量、溶融時の分散性や反応性、および成分Aと成分Bのブレンド比率(質量比)により適宜決めることができる。成分Cの添加量は、界面剥離抑制の点では、成分A、成分Bおよび成分Cの合計量(100質量%)に対し、0.005質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。成分Cの添加量が少なすぎると、成分Aと成分Bの2成分間の界面への拡散と反応量が少なく、界面接着性の向上効果が限定的となる。一方、成分Cが繊維の基材となる成分Aおよび成分Bの特性や、製糸性を阻害することなく性能を発揮させるためには、成分Cの添加量は、5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0066】
さらに、紡糸において、上記相溶化剤(C)の反応を促進する目的で、カルボン酸の金属塩、特に金属をアルカリ金属やアルカリ土類金属とした触媒を添加すると、反応効率を高めることができる。それらの中でも、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウムおよび乳酸マグネシウムなどの乳酸をベースとした触媒を用いることが好ましい。その他、触媒添加による樹脂の耐熱性低下を防止する目的で、ステアリン酸金属塩などの比較的分子量の大きな触媒を単独で用いてもよく、または2種以上を併用することもできる。触媒の添加量としては、分散性と反応性を制御する上で、合成繊維に対して5〜2000ppm添加することが好ましい。触媒の添加量は、より好ましくは10〜1000ppmであり、さらに好ましくは20〜500ppmである。
【0067】
本発明の合成繊維の総繊度は、用途により適宜設定可能であるが、10〜230dtexであることが好ましい。
【0068】
本発明の合成繊維の単繊維繊度は、用途により適宜設定可能であるが、好ましくは0.8〜30dtexである。
【0069】
また、合成繊維の工程通過性や製品の力学的強度を高く保つために、本発明の合成繊維の強度は、1.0cN/dtex〜5.0cN/dtexであることが好ましく、より好ましくは2.0cN/dtex〜5.0cN/dtexである。このような強度を有する合成繊維は、後述する溶融紡糸法および延伸法により製造することが可能である。
【0070】
また、本発明の合成繊維の伸度は、繊維製品にする際の工程通過性が良好であるという観点から、15〜70%であることが好ましい。このような伸度を有する合成繊維は、後述する溶融紡糸法および延伸法により製造することが可能である。
【0071】
また、本発明の合成繊維の沸騰水収縮率は、繊維および繊維製品の寸法安定性が良好であるという観点から、0〜20%であることが好ましい。
【0072】
また、従来の脂肪族ポリエステル樹脂と熱可塑性ポリアミド樹脂からなるポリマーアロイの合成繊維は、溶融紡糸での細化変形過程で太細が出やすく、糸斑等の品質に問題があった。しかしながら、本発明の合成繊維は、成分Aと成分Bの2成分が均一に分散され、繊維形成性に優れているために糸斑も小さい。本発明の合成繊維は、工程通過性や染色後の染め斑を抑制するために、糸斑(ウスター)(U%(Half))は、2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0.8%以下である。
【0073】
本発明の合成繊維の単繊維の断面形状は、丸断面、中空断面、多孔中空断面、三葉断面等の多葉断面、扁平断面、W断面、X断面、およびその他の異形断面についても自由に選択することが可能である。また、合成繊維の形態は、長繊維や短繊維等特に制限は無く、長繊維の場合はマルチフィラメントであってもモノフィラメントでもよい。
【0074】
また、本発明の合成繊維を繊維構造体として用いる場合には、織物、編物、不織布、パイル、および綿等の繊維構造体に適用することができる。また、これらの繊維構造体は、本発明の合成繊維の他に、他の繊維を含んでいてもよい。例えば、本発明の合成繊維と、天然繊維、再生繊維、半合成繊維および合成繊維との引き揃え糸、撚糸、および混繊糸であってもよい。他の繊維としては、木綿、麻、羊毛および絹などの天然繊維、レーヨンやキュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアクリロニトルおよびポリ塩化ビニルなどの合成繊維などを適用することができる。
【0075】
また、本発明の合成繊維を用いた繊維構造体の用途としては、耐摩耗性が要求される衣料、例えば、アウトドアウェア、ゴルフウェア、アスレチックウェア、スキーウェア、スノーボードウェアおよびそれらのパンツ等のスポーツウェア、ブルゾン等のカジュアルウェア、コート、防寒服およびレインウェア等の婦人・紳士用アウターがある。
【0076】
また、長時間使用による耐久性や湿老化特性に優れたものが要求される用途として、ユニフォーム、掛布団、敷布団、肌掛け布団、こたつ布団、座布団、ベビー布団および毛布等の布団類、枕やクッション等の側地、カバー、マットレス、ベッドパッド、病院用、医療用、ホテル用およびベビー用のシーツ等、さらには寝袋、揺りかごおよびベビーカー等のカバー等の寝装資材用途があり、これらにも好ましく用いることができる。
【0077】
また、本発明の合成繊維を含む繊維構造体は、インナーウエアに用いることもできる。ここでインナーウエアとは、Tシャツ、スリップ、ネグリジェ、ショーツ、キャミソール、シュミーズ、ペチコートおよびパンティ等のランジェリーや、ブラジャー、ガードルおよびコルセット等のファンデーション等を総称して言うものである。
【0078】
また、同様に本発明の繊維構造体としての布帛は、肌に近い場所として、例えば、ストッキングに用いることができる。ここで、ストッキングとは、パンティストッキング、ロングストッキングおよびショートストッキングで代表されるストッキング製品・タイツなどのレッグ関連製品などのことである。ストッキングでの使用部位としては、レッグ部とパンティ部が特に好ましく用いられ、本発明にかかるダブルカバリング糸のみから構成されたいわゆるゾッキ編、あるいは加工糸や生糸を交編糸として用いた交編のいずれによるものに用いてもよい。
【0079】
次に、本発明の合成繊維の製造方法について説明するが、本発明の製造方法は特にこれらに限定されるものではない。
【0080】
すなわち、ポリL乳酸などの脂肪族ポリエステル樹脂(成分A)とナイロン6などの熱可塑性ポリアミド樹脂(成分B)およびグリシジル基を有するグリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体である相溶化剤(成分C)を、別々に計量しながら、230〜240℃の温度で押出混練機を用いて混練し、ポリマーアロイを製造する。押出混練機は、相溶化剤の反応時間の観点から、2軸押出混練機が好ましく用いられる。
【0081】
本発明で用いられるポリマーアロイには、さらに改質剤として、粒子、結晶核剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、抗酸化剤や紫外線吸収剤等の添加物や、特許文献3に記載の滑剤等を含有せしめてもよい。
【0082】
本発明において、それらの成分Aと成分Bと成分Cの配合方法は、成分Aと成分Bと成分Cの3成分を予備混合する方法、あるいは成分A、または成分Bあるいは成分Aと成分Bそれぞれに、成分Cを予め配合しておいてもよいが、成分Aと成分Bと成分Cの3成分を、上記のように押出混練機に供給して溶融混練する方法が好ましい。
【0083】
さらに、脂肪族ポリエステル樹脂と熱可塑性ポリアミド樹脂とのポリマーブレンド物は非相溶系ポリマー同士のブレンド物であり、その溶融体は弾性項の強い挙動を示す。そのため、アロイポリマーの紡糸では良く見られる口金から吐出された際に、遅延的に(口金面から離れて)バラス(ポリマー流が膨れる現象)が発生することがある。これにより、このバラス自体が変動すること、ならびに、このバラスを起点とした細化によって細化挙動が不安定になり易く、極端な場合には製糸自体が困難となる場合もある。
【0084】
これを抑制する方法としては、紡糸温度を高くして伸長粘度を下げたり、紡糸口金の吐出孔径を大きくして吐出線速度(吐出孔の最終絞り部のポリマー流速)を低下せしめたり、吐出孔長と孔径の比であるL/Dを長くする方法、および吐出糸条を急冷する方法等が有効である。
【0085】
紡糸温度は、成分Bの熱可塑性ポリアミド樹脂の融点により決めることができる。最適な温度範囲は、成分Bの融点Tmb+10℃〜融点Tmb+40℃である。例えば、成分Bの融点Tmbが200℃の場合は、210〜240℃である。
【0086】
また、前記の吐出糸条のバラスによる膨らみを抑制し、細化・変形を安定させるための吐出線速度は、好ましくは1〜50m/分であり、より好ましくは6〜40m/分であり、さらに好ましくは10〜30m/分である。
【0087】
また、L/Dは、好ましくは0.6〜10であり、より好ましくは0.8〜7であり、さらに好ましくは1〜5である。
【0088】
また、冷却開始位置は、口金面からの距離が0.01〜0.2mであることが好ましく、より好ましくは0.015〜0.15mであり、さらに好ましくは0.02〜0.1mである。
【0089】
また、紡糸速度の最適値は、成分Aと成分Bとの溶融粘度の比、および両成分のブレンド比により異なるが、大凡500〜5,000m/分とすることが好ましい。
【0090】
また、本発明の合成繊維は、未延伸繊維の状態で放置すると配向緩和が生じやすく、未延伸パッケージ間で延伸するまでの時間差があると、容易に繊維の強伸度特性や熱収縮特性がばらつく傾向にある。そのため、本発明では、1工程で紡糸と延伸を行う直接紡糸延伸法を採用することが好ましい。その際、延伸倍率は、延伸による毛羽発生を考慮すると1.0〜4.0倍が好ましい。また、延伸温度や熱セット温度は、成分Aおよび成分Bのガラス転移点や融点により決めることができる。延伸温度は好ましくは20〜80℃で、また熱セット温度は好ましくはTmb−20℃〜Tmb−150℃で、延伸を実施することができる。
【実施例】
【0091】
次に、本発明のポリマーアロイの合成繊維について、実施例を用いて詳細に説明する。実施例中の測定方法は、次の方法を用いた。
【0092】
A.熱可塑性ポリアミド樹脂の相対粘度
ナイロン6の相対粘度は、次の測定法により実施した。
(a)試料を秤量し、98質量%濃硫酸に試料濃度が1g/100mlとなるように溶解する。
(b)上記(a)項の溶液をオストワルド粘度計にて25℃での落下秒数(T1)を測定する。
(c)試料を溶解していない98質量%濃硫酸の25℃での落下秒数(T2)を(b)項と同様に測定する。
(d)試料の98%硫酸相対粘度(ηr)を下式により算出する。測定温度は25℃とする。
(ηr)=(T1/T2)。
【0093】
B.ポリマーの融点
(a)ポリ乳酸の融点測定方法
パーキンエルマー社製の示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料ポリマー20mgを用い、1stRUNとして、昇温速度20℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃の温度で5分間保持した後、降温速度−20℃/分で200℃から20℃まで降温し、20℃の温度で1分間保持した後、さらに2ndRUNとして、昇温速度20℃/分で20℃から200℃まで昇温したときに観測される吸熱ピークの温度を融点とした。
【0094】
(b)ポリアミドの融点測定方法
パーキンエルマー社製の示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料ポリマー20mgを用い、1stRUNとして、昇温速度20℃/分で20℃から270℃まで昇温し、270℃の温度で5分間保持した後、降温速度−20℃/分で270℃から20℃まで降温し、20℃の温度で1分間保持した後、さらに2ndRUNとして、昇温速度20℃/分で20℃で270℃まで昇温したときに観測される吸熱ピークの温度を融点とした。
【0095】
C.ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)
ポリ乳酸のクロロホルム溶液に、テトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これを、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0096】
D.溶融粘度η
東洋精機(株)社製キャピログラフ1Bを用い、チッソ雰囲気下において温度240℃、剪断速度1216sec−1で脂肪族ポリエステル樹脂および熱可塑性ポリアミド樹脂のそれぞれの溶融粘度の測定を行った。測定は3回行い、平均値を溶融粘度とした。
【0097】
E.ポリ乳酸の残存ラクチド量
試料(ポリ乳酸ポリマー)1gをジクロロメタン20mに溶解し、この溶液にアセトン5mlを添加した。さらに、シクロヘキサンで定容して析出させ、島津社製GC17Aを用いて液体クロマトグラフにより分析し、絶対検量線によってラクチド量を求めた。
【0098】
F.合成繊維中の島ドメインのサイズ
ポリマーアロイの合成繊維の繊維軸と垂直の方向に超薄切片を切り出した。その超薄切片のポリアミド成分をリンタングステン酸で金属染色し、4万倍の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてブレンド状態を観察し撮影した。この撮影画像を、三谷商事(株)の画像解析ソフト「WinROOF」を用い、島ドメイン(非染色部)のサイズとしてドメインを円と仮定し、ドメインの面積から換算される直径(直径換算)(2r)をドメインサイズとした。測定するドメイン数は1試料あたり100個とし、その分布を島成分のドメインサイズ(島ドメインサイズ)とした。
・TEM装置:日立社製H−7100FA型
・条件 :加速電圧 100kV
G.合成繊維の強度および伸度
試料(ポリマーアロイの合成繊維)を、オリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100でJIS L1013(化学繊維フィラメント糸試験方法、1998年)に示される定速伸長条件で測定した。破断伸度は、S−S曲線における最大強力を示した点の伸びから求めた。測定は10回行い、平均値を強度および伸度とした。
【0099】
H.合成繊維の沸騰水収縮率(沸収)
試料(ポリマーアロイの合成繊維)を沸騰水に15分間浸積し、浸積前後の寸法変化から、沸騰水収縮率を次式により求めた。測定は3回行い、平均値を沸騰水収縮率とした。
沸騰水収縮率(%)=[(L0−L1)/L0]×100
L0:試料をかせ取りし、初荷重0.088cN/dtex下で測定したかせ長。
L1:L0を測定したかせを荷重フリーの状態で沸騰水処理し、風乾後、初荷重0.088cN/dtex下で測定されるかせ長。
【0100】
I.合成繊維の糸斑U%
合成繊維(ポリマーアロイの合成繊維)を試料とし、Zellwegeruster社製UT4−CX/Mを用い、糸速度:200m/分、測定時間:5分間でU%(Half)を測定した。これを5回繰り返し、これらの数平均値をそのサンプルのU%とした。
【0101】
J.耐摩耗性評価(フロスティング評価、フィブリル化の有無)
試験片をJISL1076(2006年)に記載されたアピアランス・リテンション型試験機の上下にセットし、押圧7.36N(750g)で10分間摩耗させた後、変退色の程度を1〜5級(9段階)によって評価し、併せて拡大鏡を用いてフィブリル化の有無を評価した。
【0102】
「変化なし」が「◎」、「若干のフィブリル化有り」が「○」、「明確なフィブリル化有り」が「△」、「繊維が部分的に崩壊」が「×」とし、◎および○を合格とした。
【0103】
K.曳糸性
曳糸性の評価として、100kgの紡糸した際、「糸切れなく良好」を「◎」、「糸切れ1〜2回発生」が「○」、「糸切れ3〜5回発生」が「△」、「糸切れ多発」が「×」とし、◎、○、△を合格とした。
【0104】
(実施例1)
成分Aとして重量平均分子量22万の光学純度98%のL乳酸からなるポリ乳酸(融点:177℃)を用い、成分Bとして硫酸相対粘度2.15のナイロン6(融点:225℃)を用い、さらに成分Cとして、グリシジル基を有するスチレン/(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(東亞合成社製:“ARUFON”(登録商標)UG−4070、グリシジル基量:39mgKOH/g、重量平均分子量:9700)を用いた。それぞれの成分を、別々に乾燥して水分率を50ppmに調整し、ブレンド比率(質量比)を成分A/成分B=30/70とし、成分Cを1.5質量%としてチップブレンドした。成分Cの添加量は、成分A、成分Bおよび成分Cの合計量(100質量%)に対する濃度である。
【0105】
このようにして得られたブレンドチップを、図1に示す2軸押出混練機を備えた紡糸装置の紡糸ホッパー1に仕込み、2軸押出混練機2に導き溶融混練してポリマーアロイ(溶融ポリマー)とした。この溶融ポリマーを紡糸ブロック3で計量・排出し、内蔵された紡糸パック4に溶融ポリマーを導き、紡糸口金5から溶融ポリマーを紡出した。このとき、紡糸口金下10cmの位置にモノマー吸引装置6を設置し、昇華するモノマーおよびオリゴマーを取り除きつつ、ユニフロー冷却装置7で糸条8を冷却固化し、給油装置9により給油した。さらに、第1引取ロール10で引き取った後、第2引取ロール11を介して巻取機12で巻き取り、総繊度88デシテックス、24フィラメントのマルチフィラメント巻取糸(チーズパッケージ)13である延伸糸を得た。紡糸は、約100kgサンプリングしたが、糸切れや単糸流れ等は発生せず、極めて安定していた。溶融紡糸条件は、下記のとおりである。下記条件における口金孔内の吐出線速度は28.4m/分であり、丸孔換算でのL/Dは2.7であり、冷却開始位置は口金面下0.1mである。
・混練機温度:225℃
・紡糸温度 :245℃
・濾層 :100#モランダムサンド充填
・フィルター:15μm不織布フィルター
・口金 :直径0.25mm、孔深度0.675mmの丸孔
・吐出量 :68.2g/分(1パック2糸条、24フィラメント)
・冷却 :ユニフロー使用。冷却風温度18℃、風速0.4m/秒
・油剤 :脂肪酸エステル10%濃度エマルジョン油剤を糸に対して10質量%付着
・紡糸速度 :4000m/分。
【0106】
得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.2〜0.3μmであった。また、合成繊維の横断面のある切片を、アルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去して観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、得られた合成繊維の強度は2.2cN/dtex、伸度は65%、糸斑U%は0.5%と、いずれも良好な繊維物性を示した。さらに、得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は、4−5級であり、試験時のフィブリル化もなく良好な耐摩耗性を示した。
【0107】
(実施例2)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を7/93とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を1.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例2の紡糸は、実施例1と同様、糸切れおよび単糸流れ等は発生せず、極めて安定していた。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.01〜0.15μmと、実施例1よりも島成分の分散径が小さかった。
【0108】
また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.6%と良好であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐磨耗性能は4−5級であり、試験時のフィブリル化もなく、良好な耐摩耗性を示した。
【0109】
(実施例3)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を50/50とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を1.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例3の紡糸では、サンプリングする間、2回の糸切れが発生した。そこで、紡出部の様子を観察すると、バラスと呼ばれる糸条の膨らみが実施例1に比して、約2倍の直径を有していた。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.3〜1.5μmとやや不均一で、部分的に島が結合した共連続構造が観察された。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.7%と実施例1と比較して劣るものであったが、使用上問題のないレベルであった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐磨耗性能は4級であり、実施例1よりも劣り、若干のフィブリル化が見られたものの、良好な耐摩耗性を示した。
【0110】
(実施例4)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を0.1質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例4の紡糸では、サンプリングする間、2回の糸切れが発生した。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.01〜0.3μmと、実施例1よりも島成分の分散径が小さかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.7%と実施例1と比較して劣るものであったが、使用上問題のないレベルであった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は3−4級であり、実施例1よりも劣り、若干のフィブリル化が見られるが、問題なく使用できるレベルであった。
【0111】
(実施例5)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を3.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例5の紡糸は、実施例1と同様、糸切れと単糸流れ等は発生せず、極めて安定していた。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.3〜0.5μmと実施例1よりも島成分の分散径が大きかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.5%と良好であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は5級であり、試験時のフィブリル化もなく、良好な耐摩耗性を示した。
【0112】
(実施例6)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を5.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例6の紡糸では、サンプリングする間、2回の糸切れが発生した。また、溶融粘度上昇によるパック圧の上昇が確認された。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが大きく、直径換算で2μmを越えるものであった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。糸斑U%は、0.5%と良好であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐磨耗性能は5級であり、試験時のフィブリル化もなく、非常に良好な耐摩耗性を示した。
【0113】
(実施例7)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4040、グリシジル基量:118mgKOH/g、重量平均分子量:9200)の割合を3.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例7の紡糸では、サンプリングする間、2回の糸切れが発生した。また、溶融粘度上昇によるパック圧の上昇が確認された。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.4〜0.6μmと実施例1よりも島成分の分散径が大きかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。糸斑U%は、0.6%と良好であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐磨耗性能は4−5級であり、試験時のフィブリル化もなく、非常に良好な耐摩耗性を示した。
【0114】
実施例1〜7の結果を、まとめて表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
(実施例8)
成分Bとして硫酸相対粘度2.63のナイロン6(融点225℃)とし、成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を1.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例8の紡糸では、サンプリングする間、1回の糸切れが発生した。紡出部の様子を観察すると、バラスと呼ばれる糸条の膨らみが実施例1対比、約1.3倍の直径を有していた。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.05〜0.6μmと実施例1よりも島成分の分散径が大きくバラツキも大きかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.7%と良好であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は4級であり、試験時のフィブリル化もなく、良好な耐摩耗性を示した。
【0117】
(実施例9)
成分Bとして硫酸相対粘度2.05のナイロン6(融点222℃)とし、成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を1.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例9の紡糸は、実施例1と同様、糸切れと単糸流れ等は発生せず、極めて安定していた。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.3〜0.5μmと実施例1よりも島成分の分散径が大きかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.5%と良好であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は4−5級であり、試験時のフィブリル化もなく、良好な耐摩耗性を示した。
【0118】
(実施例10)
成分Aを重量平均分子量15万のポリ乳酸(融点:170℃)とし、成分Bを硫酸相対粘度2.15のナイロン6(融点225℃)とし、成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を0.1質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例10の紡糸では、サンプリングする間、2回の糸切れが発生した。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.01〜0.2μmと実施例1よりも島成分の分散径が小さかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.7%と実施例1より劣るものの良好な値であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は3級であり、実施例1よりも劣り、フィブリル化が見られるが、問題なく使用できるレベルであった。
【0119】
(実施例11)
成分Aを重量平均分子量15万のポリ乳酸(融点:170℃)とし、成分Bを硫酸相対粘度2.15のナイロン6(融点225℃)とし、成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を1.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例11の紡糸は、実施例1と同様、糸切れと単糸流れ等は発生せず、極めて安定していた。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.01〜0.2μmと実施例1よりも島成分の分散径が小さかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.7%と実施例1より劣るものの良好な値であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は3−4級であり、実施例1よりも劣り、若干のフィブリル化が見られるが、問題なく使用できるレベルであった。
【0120】
(実施例12)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を3.0質量%としたこと以外は、実施例10と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例12の紡糸は、実施例1と同様、糸切れと単糸流れ等は発生せず、極めて安定していた。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.01〜0.2μmと実施例1よりも島成分の分散径が小さかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.5%と良好であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は3〜4級であり、試験時のフィブリル化は確認されず、問題なく使用できるレベルであった。
【0121】
(実施例13)
成分Bとして硫酸相対粘度2.90のナイロン6(融点225℃)とし、成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を1.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例13の紡糸では、サンプリングする間、5回の糸切れが発生した。
【0122】
紡出部の様子を観察すると、バラスと呼ばれる糸条の膨らみが実施例1対比、約2倍の直径を有していた。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.4〜0.6μmと実施例1よりも島成分の分散径が大きかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.7%と良好であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は4級であり、実施例1よりも劣り、若干のフィブリル化が見られるが、問題なく使用できるレベルであった。
【0123】
(実施例14)
成分Bとして硫酸相対粘度2.20のナイロン610(融点225℃)とし、成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を1.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例14の紡糸では、実施例1と同様、糸切れ、と単糸流れ等は発生せず、極めて安定していた。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.01〜0.2μmと実施例1よりも島成分の分散径が小さかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.5%と良好であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は4−5級であり、試験時のフィブリル化もなく、良好な耐摩耗性を示した。
【0124】
(実施例15)
成分Bとして硫酸相対粘度2.58のナイロン610(融点225℃)とし、成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(東亞合成社製:ARUFON UG−4070)の割合を1.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。実施例15の紡糸では、サンプリングする間、1回の糸切れが発生した。紡出部の様子を観察すると、バラスと呼ばれる糸条の膨らみが実施例1対比、約1.3倍の直径を有していた。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズが直径換算で0.05〜0.6μmと実施例1よりも島成分の分散径が大きくバラツキも大きかった。また、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、島成分が欠落しており、ポリ乳酸が島成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%は、0.7%と良好であった。得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は4級であり、試験時のフィブリル化もなく、良好な耐摩耗性を示した。
【0125】
実施例8〜15の結果を、まとめて表2に示す。
【0126】
【表2】
【0127】
(比較例1)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を65/35とし、成分Cを添加しないこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。比較例1は、サンプリングする間、糸切れが3回発生した。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、比較的均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.1〜0.5μmであったが、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、ほとんどの海成分が欠落しており、ポリ乳酸が海成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%が2.0%と大きく、また、得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は2級であり、フィブリル化による繊維の部分的に崩壊が確認された。実施例1と比較して操業性、糸斑U%および耐摩耗性が劣位であり、用途がかなり限定されるレベルであった。
【0128】
(比較例2)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(モノアリルジグリシジルイソシアヌル酸(以下、MADGICと称す。):四国化成(株))を1.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。比較例2の紡糸では、パック圧の変動が確認され、糸切れが頻発した。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズは、直径換算で0.03〜0.4μmであった。また、糸斑U%が0.9%とやや大きく、得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は2級であり、明確なフィブリル化が確認された。実施例1と比較して操業性、糸斑U%および耐摩耗性が劣位であり、用途がかなり限定されるレベルであった。
【0129】
(比較例3)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(RESEDA:メタアクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート共重合体(グラフト重合体)、グリシジル基量:34mgKOH/g)を0.1質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。比較例3の紡糸では、サンプリングする間、2回の糸切れが発生した。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズは、直径換算で0.03〜0.4μmであった。また、糸斑U%が0.8%とやや大きく、得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は2−3級であり、明確なフィブリル化が確認された。実施例1と比較して操業性、糸斑U%および耐摩耗性が劣位であり、用途がかなり限定されるレベルであった。
【0130】
(比較例4)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(RESEDA:メタアクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート共重合体(グラフト重合体)、グリシジル基量:34mgKOH/g)の割合を1.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。比較例4の紡糸では、サンプリングする間、パック圧の変動が確認され、糸切れが頻発した。糸横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズは、直径換算で0.1〜0.4μmであった。また、糸斑U%が1.3%と大きく、得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は2−3級であり、明確なフィブリル化が確認された。実施例1と比較して操業性、糸斑U%および耐摩耗性が劣位であり、用途がかなり限定されるレベルであった。
【0131】
(比較例5)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(日清紡:ポリカルボジイミド“LA−1”)の割合を1.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。比較例5の紡糸では、パック圧の変動が確認され、糸切れが頻発した。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズは、直径換算で0.1〜0.4μmであった。また、糸斑U%が1.3%と大きく、得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐摩耗性能は2級であり、明確なフィブリル化が確認された。実施例1と比較して操業性、糸斑U%および耐摩耗性が劣位であり、用途がかなり限定されるレベルであった。
【0132】
(比較例6)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分C(日本触媒:スチレン・2−イソプロペニル−2−オキサゾリン共重合体“エポクロスRPS−1005”)の割合を1.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。比較例6の紡糸では、パック圧の変動が確認され、糸切れが頻発した。得られた合成繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、島ドメインサイズは0.03〜0.4μmであった。また、糸斑U%が1.8%と大きく、得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐磨耗性能は2級であり、明確なフィブリル化が確認された。実施例1と比較して操業性、糸斑U%および耐摩耗性が劣位であり、用途がかなり限定されるレベルであった。
【0133】
(比較例7)
成分A/成分Bのブレンド比率(質量比)を30/70とし、成分Cを添加しないこと以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。比較例7の紡糸では、サンプリングする間、糸切れが2回発生した。得られた繊維の横断面のTEM観察を行ったところ、均一に分散した海島構造をとっており、島ドメインサイズは直径換算で0.03〜0.2μmであったが、合成繊維の横断面のある切片をアルカリエッチングしてポリ乳酸を溶解除去し観察したところ、ほとんどの海成分が欠落しており、ポリ乳酸が海成分を形成していることが確認された。また、糸斑U%が2.3%と大きく、また、得られたマルチフィラメントのフロスティング試験による耐磨耗性能は2級であり、明確なフィブリル化が確認された。実施例1と比較して、操業性、糸斑U%および耐摩耗性が劣位であり、用途がかなり限定されるレベルであった。
【0134】
比較例1〜7の結果を、まとめて表3に示す。
【0135】
【表3】
【符号の説明】
【0136】
1:紡糸ホッパー
2:2軸押出混練機
3:紡糸ブロック
4:紡糸パック
5:紡糸口金
6:モノマー吸引装置
7:ユニフロー冷却装置
8:糸条
9:給油装置
10:第1引取ロール
11:第2引取ロール
12:巻取機
13:巻取糸(チーズパッケージ)
図1