特許第5783178号(P5783178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5783178アルカリ蓄電池及びアルカリ蓄電池用正極材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783178
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】アルカリ蓄電池及びアルカリ蓄電池用正極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/32 20060101AFI20150907BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   H01M4/32
   H01M4/62 C
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-527766(P2012-527766)
(86)(22)【出願日】2011年8月4日
(86)【国際出願番号】JP2011067857
(87)【国際公開番号】WO2012018077
(87)【国際公開日】20120209
【審査請求日】2013年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2010-176810(P2010-176810)
(32)【優先日】2010年8月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】金本 学
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
(72)【発明者】
【氏名】掛谷 忠司
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−017064(JP,A)
【文献】 特開平10−261412(JP,A)
【文献】 特開2004−273138(JP,A)
【文献】 特開2002−029755(JP,A)
【文献】 特開平11−025962(JP,A)
【文献】 特開平08−031448(JP,A)
【文献】 特開2000−173606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/32
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケルと、菱面体構造で空間群R3m構造の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト相と、ホタル石構造で空間群Fm3m構造の結晶構造を有する二酸化セリウム相とを含み、オキシ水酸化コバルト相におけるコバルトの一部がセリウムに置換されると共に、二酸化セリウム相におけるセリウムの一部がコバルトに置換されたコバルトセリウム化合物と、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とを含む正極材料を含む正極を備えたアルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記水酸化ニッケルの形状が粒子状に形成され、
前記コバルトセリウム化合物が、粒子状の前記水酸化ニッケルの表面を被覆する状態で配置され、
ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物が、粒子状の前記水酸化ニッケル内部に分散する状態で配置されている請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記水酸化ニッケルと、前記コバルトセリウム化合物と、カルシウム化合物とを含む正極材料を含む正極が備えられ、
前記カルシウム化合物が、前記水酸化ニッケルと前記コバルトセリウム化合物と前記カルシウム化合物との合計に対する前記カルシウム元素の存在割合で0.1質量%以上となる混合割合に設定されている請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項4】
前記水酸化ニッケルと、前記コバルトセリウム化合物と、イットリウムの化合物とを含む正極材料を含む正極が備えられ、
前記イットリウム化合物が、前記水酸化ニッケルと、コバルトセリウム化合物と、イットリウムの化合物との合計に対する前記イットリウム元素の存在割合で0.5質量%以上となる混合割合に設定されている請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項5】
前記水酸化ニッケルと、前記コバルトセリウム化合物と、ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とを含む正極材料を含む正極が備えられ、
ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物が、前記水酸化ニッケルと前記コバルトセリウム化合物と前記ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物との合計に対する前記ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の存在割合で1質量%以上となる混合割合に設定されている請求項1に記載のアルカリ蓄電池。
【請求項6】
前記コバルトセリウム化合物に含まれるセリウム元素の存在割合が、セリウム元素とコバルト元素との合計に対して、5原子%以上40原子%以下である請求項1記載のアルカリ蓄電池。
【請求項7】
前記コバルトセリウム化合物に含まれるセリウム元素の存在割合が、セリウム元素とコバルト元素との合計に対して、10原子%以上30原子%以下である請求項1記載のアルカリ蓄電池。
【請求項8】
コバルトセリウム化合物中に含まれる二酸化セリウム相の含有割合が、前記オキシ水酸化コバルト相と前記二酸化セリウム相との合計に対して、13質量%以上88質量%以下である請求項記載のアルカリ蓄電池。
【請求項9】
水酸化ニッケルと、菱面体構造で空間群R3m構造の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト相と、ホタル石構造で空間群Fm3m構造の結晶構造を有する二酸化セリウム相とを含み、オキシ水酸化コバルト相におけるコバルトの一部がセリウムに置換されると共に、二酸化セリウム相におけるセリウムの一部がコバルトに置換されたコバルトセリウム化合物と、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とを含む正極材料。
【請求項10】
水酸化ニッケルと、菱面体構造で空間群R3m構造の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト相と、ホタル石構造で空間群Fm3m構造の結晶構造を有する二酸化セリウム相とを含み、オキシ水酸化コバルト相におけるコバルトの一部がセリウムに置換されると共に、二酸化セリウム相におけるセリウムの一部がコバルトに置換されたコバルトセリウム化合物と、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とを混合することによって正極材料を作製するアルカリ蓄電池用正極材料の製造方法。
【請求項11】
前記コバルトセリウム化合物にて被覆された水酸化ニッケル粒子を、
水溶液中で水酸化ニッケル粒子の表面にコバルトとセリウムとを含む化合物を析出させることにより形成し、
前記水溶液中の温度を30℃以上60℃以下に制御している請求項10に記載のアルカリ蓄電池用正極材料の製造方法。
【請求項12】
前記コバルトセリウム化合物にて被覆された水酸化ニッケル粒子を、
水溶液中で水酸化ニッケル粒子の表面にコバルトとセリウムとを含む化合物を析出させることにより形成し、
前記水溶液が、コバルトイオンとセリウムイオンを含み、
前記水溶液に含まれる前記セリウムイオンの割合が、前記コバルトイオンと前記セリウムイオンとの合計に対して5原子%以上40原子%以下の範囲に設定している請求項10に記載のアルカリ蓄電池用正極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池、特にそれの正極材料及び正極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
斯かるアルカリ蓄電池は、携帯型電子機器用の電源として広く普及しており、更には、HEV(いわゆる、ハイブリッドカー)用電源としても実用化されている。
このような普及に伴って、近年、アルカリ蓄電池には更なる高性能化が求められており、具体的には、自己放電の抑制による残存容量の維持性能の向上や充電効率の向上(特に高温時の充電効率の向上)等が求められている。
【0003】
自己放電の抑制や充電効率の向上のためには、アルカリ蓄電池の充電時における副反応である酸素発生反応を抑制するべく、酸素発生電位(「酸素過電圧」とも称される)を上昇させることが必要となる。
この酸素発生電位を貴側にシフト(上昇)させる技術としては、例えば下記特許文献1に記載のように、アルカリ蓄電池の正極材料として、表面がコバルト化合物に被覆された水酸化ニッケルを主体とする活物質にホルミウム(Ho)等の希土類元素を添加したものを用いる技術が知られている。
上記のように希土類元素を添加した正極材料を使用することによって、自己放電の抑制効果や充電効率の向上が確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3358702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術によって、アルカリ蓄電池の自己放電の抑制効果や充電効率の向上等の高性能化が実現されるものの、アルカリ蓄電池の需用者等からは更なる電池性能の向上を強く要請されており、現状は必ずしもその要請に十分に応え得るものとはなっていない面もある。又、活物質をできるだけ多く含有するために、添加物総量の抑制という要請もある。
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、アルカリ蓄電池の性能を更に向上させる点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の第1の発明は、水酸化ニッケルと、菱面体構造で空間群R3m構造の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト相と、ホタル石構造で空間群Fm3m構造の結晶構造を有する二酸化セリウム相とを含み、オキシ水酸化コバルト相におけるコバルトの一部がセリウムに置換されると共に、二酸化セリウム相におけるセリウムの一部がコバルトに置換されたコバルトセリウム化合物と、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とを含む正極材料を含む正極を備えてアルカリ蓄電池が構成されていることを特徴構成とする。
【0007】
すなわち、アルカリ蓄電池のニッケル電極にホルミウム(Ho)等の化合物を添加して上記酸素発生電位を上昇させる効果は、添加量の増大に応じて酸素発生電位が上昇して行き、ある量よりも添加量を更に増加させても酸素発生電位の上昇度合いが小さくなる現象として知られている。
更に、上記の酸素発生電位の上昇度合いが小さくなる領域では、上記の添加元素として複数種類のものを添加しても、酸素発生電位の上昇効果は、夫々の添加元素についての酸素発生電位の上昇効果の足し合わせとはならず、それらの添加物の総量に相当する量を単独材料で添加した場合の酸素発生電位の上昇効果より向上することはないことが経験的に知られている。
換言すると、複数種類の元素を添加しても、結局のところ添加物の総量が増えるだけで、単独材料の添加の場合の添加量の増加に対する上記の酸素発生電位の上昇の程度の関係を超えて酸素発生電位が上昇することはないと考えられていた。
【0008】
これに対して本出願の発明者は、アルカリ蓄電池の正極材料を構成する材料の組み合わせによっては、更に酸素発生電位を上昇させ得ることを見出した。
すなわち、カルシウム(Ca),イットリウム(Y),ユウロピウム(Eu),ホルミウム(Ho),エルビウム(Er),ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)のうちの少なくとも一つの元素の化合物に加えて、コバルトセリウム化合物を正極材料として使用する。
【0009】
上記コバルトセリウム化合物は、上記特許文献1におけるコバルト化合物と同様に導電助剤としての機能を有するものであるが、セリウムの含有割合を増加させるとコバルト化合物に比べて高い耐還元性を有して過放電発生時にも導電助剤としての機能を維持し得るものである。
このコバルトセリウム化合物と、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とを組み合わせて正極材料として使用することで、酸素発生電位の上昇の程度が小さくなって、それを超える酸素発生電位の向上は望めないと考えられていた領域においても、更に酸素発生電位を上昇させることができたのである。
【0010】
このように酸素発生電位を上昇させることができるのは、化合物によっては上記の効果が生じる原因を特定しきれていない面もあるが、コバルトセリウム化合物と、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とが相互に補完しあって、酸素発生電位の上昇に寄与していることによるものと推定される。
【0011】
以上、酸素発生電位の上昇効果のみに着目して説明してきたが、コバルトセリウム化合物については、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とは異なる特質を有している。
すなわち、上記カルシウム等の化合物は一般に抵抗率の高い材料となる場合が多く、添加量が多くなり過ぎると導電率の低下等を招いてしまうが、導電助剤であるコバルトセリウム化合物であれば、そのような問題は生じることはなく、高機能な導電助剤として的確に機能しながら、酸素発生電位の向上にも寄与できる。
【0012】
又、本出願の第2の発明は、上記第1の発明の構成に加えて、前記水酸化ニッケルの形状が粒子状に形成され、前記コバルトセリウム化合物が、粒子状の前記水酸化ニッケルの表面を被覆する状態で配置され、ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物が、粒子状の前記水酸化ニッケルの内部に分布する状態で配置されていることを特徴構成とする。
すなわち、上記第1の発明の構成において列挙した、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物のうち、ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物については、これらの化合物が正極材料中で特徴的な配置形態をとっていることを解析によって確認できた。
【0013】
これを、ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちのイッテルビウムを例にとって説明する。
活物質である水酸化ニッケルと、イッテルビウムの化合物(より具体的には、Ybを例示)と、共沈法により同時析出したコバルトとセリウムとを含むコバルトセリウム化合物とを組み合わせて正極材料としたものでアルカリ蓄電池の正極を構成し、そのアルカリ蓄電池を充放電した後の上記正極材料について、材料分析機能を有する走査型電子顕微鏡にて観察した結果を図3に示す。ここで、水酸化ニッケルは粒子状に形成したものを使用している。
図3(a)は通常の電子顕微鏡写真であり、図3(a)中において特に識別し易い状態で水酸化ニッケル粒子の断面が現れている位置を「(P)」及び「(Q)」として示している。
図3(b),図3(c)及び図3(d)は、夫々、コバルト元素,セリウム元素及びイッテルビウム元素の分布を示すものであり、図3(a)とはわずかに撮影倍率が異なるものの同一箇所の画像を示し、各図において図3(a)における水酸化ニッケル粒子の位置「(P)」及び「(Q)」を比較のために表示している。
【0014】
図3(d)から、イッテルビウム化合物は充放電によって水酸化ニッケル粒子の内部へと分散して分布していることがわかる。水酸化ニッケル粒子には多数の細孔が存在し、イッテルビウム化合物がその細孔に進入することで、水酸化ニッケル粒子の内部で酸素が発生するのを抑制しているものと考えられている。
一方、セリウム元素の方は、図3(c)から、水酸化ニッケル粒子の内部へはほとんど進入せず、水酸化ニッケル粒子の表面上に分散している。このように水酸化ニッケル粒子の表面上に分散しているセリウムが水酸化ニッケル粒子の表面上での酸素の発生を抑制しているものと推測できる。
つまり、イッテルビウム化合物とセリウムとは、水酸化ニッケル粒子に対して分布する位置が互いに異なり、双方が酸素発生電位の上昇に寄与するのである。
この関係は、ツリウム化合物やルテチウム化合物にも共通する。
【0015】
尚、比較のために、共沈法によって水酸化ニッケル粒子の表面上にコバルトセリウム化合物を析出させるのではなく、セリウム化合物(具体的には、CeOを例示)を粉体混合によって正極材料に混在させた場合の解析結果についても説明する。
水酸化ニッケル粒子の表面をコバルト化合物にて被覆すると共に、セリウム化合物を粉体混合した正極材料によってアルカリ蓄電池の正極を構成し、そのアルカリ蓄電池を上記と同様に充放電した後の解析結果を図4に示す。
図4(a)は通常の電子顕微鏡写真であり、図4(b)及び図4(c)は、夫々、コバルト元素及びセリウム元素の分布を示すものであり、各図において水酸化ニッケル粒子の位置を「(R)」で表示している。
図4(b)からコバルト元素は水酸化ニッケル粒子の表面上を主体に分布しているが、セリウム元素の方は、図4(c)からわかるように、水酸化ニッケル粒子の表面に分散せずに凝集している。すなわち、粉体混合で正極材料中に混在させたセリウム元素(セリウム化合物)については酸素発生電位の上昇には関与していない、ということになる。
【0016】
ちなみに、上記第1の発明の構成において列挙した、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物のうちの、ツリウムの化合物,イッテルビウムの化合物及びルテチウムの化合物以外の化合物については、上述のような現象が発生しないか、あるいは、上述のような現象の発生が確認されていないが、未確認の現象によって酸素発生電位を向上させている。
更に、ツリウムの化合物,イッテルビウムの化合物及びルテチウムの化合物については、高温でも酸素発生電位を向上させる効果が大きいという特質を有している。
【0017】
又、本出願の第3の発明は、上記第1の発明の構成に加えて、前記水酸化ニッケルと、前記コバルトセリウム化合物と、カルシウムの化合物とを含む正極材料を含む正極が備えられ、前記カルシウムの化合物が、前記水酸化ニッケルと前記コバルトセリウム化合物と前記カルシウム化合物との合計に対する前記カルシウム元素の存在割合で0.1質量%以上となる混合割合に設定されていることを特徴構成とする。
すなわち、カルシウムの化合物が、正極材料全体に対するカルシウム元素の存在割合で0.1質量%以上となる混合割合の領域では、添加する化合物の増加に対する酸素発生電位の上昇度合いが小さくなる。
従って、このような領域において、上記コバルトセリウム化合物と、カルシウムの化合物とを組み合わせることで、酸素発生電位を上昇させる点で特に有効に作用するものと言える。
【0018】
又、本出願の第4の発明は、上記第1の発明の構成に加えて、前記水酸化ニッケルと、前記コバルトセリウム化合物と、イットリウムの化合物とを含む正極材料を含む正極が備えられ、前記イットリウムの化合物が、前記水酸化ニッケルと、コバルトセリウム化合物と、イットリウムの化合物との合計に対する前記イットリウム元素の存在割合で0.5質量%以上となる混合割合に設定されていることを特徴構成とする。
すなわち、イットリウムの化合物が、正極材料全体に対するイットリウム元素の存在割合で0.5質量%以上となる混合割合の領域では、添加する化合物の増加に対する酸素発生電位の上昇度合いが小さくなる。
従って、このような領域において、上記コバルトセリウム化合物と、イットリウムの化合物とを組み合わせることで、酸素発生電位を上昇させる点で特に有効に作用するものと言える。
【0019】
又、本出願の第5の発明は、上記第1の発明の構成に加えて、前記水酸化ニッケルと、前記コバルトセリウム化合物と、ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物を含む正極材料を含む正極が備えられ、ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物が、前記水酸化ニッケルと前記コバルトセリウム化合物と前記ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物との合計に対する前記元素の存在割合で1質量%以上となる混合割合に設定されていることを特徴構成とする。
すなわち、ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物が、正極材料全体に対する前記元素の存在割合で1質量%以上となる混合割合の領域では、添加する化合物の増加に対する酸素発生電位の上昇度合いが小さくなる。
従って、このような領域において、上記コバルトセリウム化合物と、ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とを組み合わせることで、酸素発生電位を上昇させる点で特に有効に作用するものと言える。
【0020】
又、本出願の第6の発明は、アルカリ蓄電池用正極材料の製造方法として、水酸化ニッケルと、菱面体構造で空間群R3m構造の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト相と、ホタル石構造で空間群Fm3m構造の結晶構造を有する二酸化セリウム相とを含み、オキシ水酸化コバルト相におけるコバルトの一部がセリウムに置換されると共に、二酸化セリウム相におけるセリウムの一部がコバルトに置換されたコバルトセリウム化合物と、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とを混合することによって正極材料を作製することを特徴構成とする。
この発明によれば、上記の化合物の組み合わせにより、酸素発生電位を上昇させることができる。さらに、電極材料の導電性を高く維持しつつ、コバルトの耐還元性も高めることができる。
【0021】
また、コバルトセリウム化合物にて被覆された水酸化ニッケル粒子を作製した後、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物を粉体混合することによって正極材料を作製することが好ましい。
この発明によれば、セリウムは凝集することなくニッケル粒子表面に分散させることができる。さらに、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物をコバルトセリウム化合物にて被覆された水酸化ニッケル粒子に容易に混合することができる。
また、水溶液中の水酸化ニッケル粒子の表面に共沈法による同時析出でコバルトとセリウムとを含む化合物を析出させる工程を含むことが好ましい。
【0022】
コバルトセリウム化合物は二酸化セリウム相を含むことが好ましい。コバルト化合物が二酸化セリウム相を含むことによって、過放電の状態になった場合に、オキシ水酸化コバルトが還元されることを抑制する効果がある。
オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相との合計に対する二酸化セリウム相の存在割合が、6.5質量%以上であると耐還元性が顕著に現れる。
【0023】
オキシ水酸化コバルト相と二酸化セリウム相との合計に対する二酸化セリウム相の存在割合が、13質量%以上であればさらに好ましい。比抵抗値は、二酸化セリウムの存在割合が49質量%のときはセリウムを全く添加していない状態とほとんど変わらない低い値を維持している。88質量%では比抵抗値が上昇しているが、実用的には十分に小さい値である。
【0024】
すなわち、水酸化ニッケル粒子が存在する水溶液に対して共沈法を適用して、コバルトとセリウムとを含む化合物を析出させると、その析出物は水酸化ニッケル粒子の表面を被覆するように析出する。
共沈法によりコバルトセリウム化合物を作製するには、水酸化ニッケル粒子が液中に存在しない状態で、コバルトセリウム化合物を生成するための材料のみによって作製することもでき、このようにして作製したコバルトセリウム化合物を正極材料に使用することでも酸素発生電位の上昇に対して効果を有するが、上記のように水酸化ニッケル粒子の表面をコバルトセリウム化合物で被覆することで、少ない材料で有効に導電助剤として機能させられると共に、効率良く酸素発生電位を上昇させることができる。
【発明の効果】
【0025】
上記第1の発明によれば、コバルトセリウム化合物と、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物とを組み合わせて正極材料として使用することで、更に酸素発生電位を上昇させることができる。
更に、カルシウム等の化合物を置き換える形でコバルトセリウム化合物を正極材料に含めることで、酸素発生電位に関して同等以上の性能を確保しながら抵抗率を低く維持して、正極活物質を有効に機能させることができる。
これによってアルカリ蓄電池の自己放電が一層抑制されるので、アルカリ蓄電池の放置中の残存容量の維持性能が更に向上できると共に、アルカリ蓄電池の充電効率を更に向上させることができ、もって、アルカリ蓄電池の性能を更に向上させるに至った。
【0026】
又、上記第2の発明によれば、各化合物の存在位置が最適化されて、更に酸素発生電位を上昇させることができる。
又、上記第3の発明によれば、前記正極材料にカルシウムの化合物を含む場合において、従来では酸素発生電位の上昇がそれほど期待出来なかった領域において酸素発生電位を更に上昇させることができるものとなった。
又、上記第4の発明によれば、前記正極材料にイットリウムの化合物を含む場合において、従来では酸素発生電位の上昇がそれほど期待出来なかった領域において酸素発生電位を更に上昇させることができるものとなった。
又、上記第5の発明によれば、前記正極材料にユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物を含む場合において、従来では酸素発生電位の上昇がそれほど期待出来なかった領域において酸素発生電位を更に上昇させることができるものとなった。
又、上記第6の発明によれば、水酸化ニッケル粒子とコバルトセリウム化合物とを組み合わせることで、効率良く酸素発生電位を上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本発明の実施の形態にかかる測定結果を示すグラフである。
図2図2は、本発明の実施の形態にかかる測定結果を示すグラフである。
図3図3は、本発明を説明するための解析画像である。
図4図4は、本発明と対比するための解析画像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明のアルカリ蓄電池の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本実施の形態では、アルカリ蓄電池としてニッケル水素電池を例示して説明する。
本実施の形態のアルカリ蓄電池は、構造自体は通常のニッケル水素電池のものと同様であるため詳細な説明は省略し、アルカリ蓄電池の製造工程について説明する。
【0029】
〔正極材料の作製〕
先ず、アルカリ蓄電池の正極材料の製造工程を説明する。
本実施の形態のアルカリ蓄電池では、正極活物質として水酸化ニッケルを用い、導電助剤としてコバルトセリウム化合物を用いる。
このコバルトセリウム化合物は、共沈法により同時析出したコバルトとセリウムとを含む化合物であり、その結晶構造は、菱面体構造で空間群R3m構造の結晶構造を有するオキシ水酸化コバルト相と、ホタル石構造で空間群Fm3m構造の結晶構造を有する二酸化セリウム相とを含み、オキシ水酸化コバルト相におけるコバルトの一部がセリウムに置換されると共に、二酸化セリウム相におけるセリウムの一部がコバルトに置換された構造を有していることがX線解析の結果から確認されている。すなわち、いわゆる固溶体を形成している。
【0030】
コバルトセリウム化合物は上記のように共沈法により作製するのであるが、この作製手法としては、コバルトセリウム化合物を単独で作製する手法と、コバルトセリウム化合物の生成過程で水酸化ニッケルと一体化する手法とがあるが、本実施の形態では、コバルトセリウム化合物の生成過程で水酸化ニッケルと一体化する手法で作製する場合を説明する。
【0031】
〔水酸化ニッケル粒子の作製〕
先ず、水酸化ニッケルの作製について説明する。
水酸化ニッケル粒子の具体的な作製例としては、硫酸ニッケルが溶解した水溶液を、激しく撹拌しながら且つpH12,温度を45℃に制御した1mol/リットルの濃度の硫酸アンモニウム水溶液中に滴下する。pH調整は18wt%のNaOH水溶液を用いて行うことができる。次いで、ろ過、水洗、乾燥して、球状の水酸化ニッケル粒子が得られる。尚、水酸化ニッケル中のニッケル(Ni)の一部は、亜鉛(Zn)やコバルト(Co)などにより置換されていても良い。
【0032】
〔コバルトセリウム化合物の作製〕
次に、コバルトセリウム化合物の作製について説明する。
上述のように、本実施の形態では、コバルトセリウム化合物の生成過程で上記のようにして作製した水酸化ニッケル粒子を一体化する。より具体的には、水酸化ニッケル粒子の表面にセリウムとコバルトとの化合物を析出させる工程を経て、水酸化ニッケル粒子の表面をコバルトセリウム化合物で被覆する状態で、水酸化ニッケル粒子とコバルトセリウム化合物とを一体化する。
水酸化ニッケル粒子の表面をコバルトセリウム化合物で被覆するための処理は、先ず、上記の水酸化ニッケル粒子を混合したpH調整済みの水溶液にコバルトイオンとセリウムイオンを含む水溶液を滴下する。これによって、水酸化ニッケル粒子の表面に、コバルトとセリウムとを含む水酸化物が析出する。
【0033】
より具体的な処理例としては、0.1mol/リットルの硫酸アンモニウム水溶液に上述のようにして作製した水酸化ニッケル粒子を入れ,pH9,温度45℃に制御し,激しく攪拌する。温度は30℃から60℃の範囲で制御するのが好ましい。30℃より低ければセリウムの分散性が低下する虞がある。60℃より高い温度であればCoなどの導電性の低いものが生成する虞がある。さらに、温度範囲は40℃から50℃の範囲が好ましい。このような範囲であれば水酸化ニッケル粒子を均質に被覆することができ、導電率を高くすることができる。
pH調整は18wt%NaOH水溶液を用いて行う。この溶液中に,硫酸コバルトと硝酸セリウムを所定の比率で溶解させた水溶液を滴下させる。次いで、ろ過、水洗、乾燥して、セリウムとコバルトとを含む水酸化物がコートされた水酸化ニッケルの粒子が得られる。
【0034】
このコバルトとセリウムとを含む水酸化物が表面に析出した状態の水酸化ニッケル粒子が、つづく酸化処理を経ることによって、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子を得ることができる。このときの酸化処理は、水酸化ナトリウム水溶液と混合した状態で加熱することが好ましい。使用する水酸化ナトリウム水溶液の混合量は,(Na/(Co+Ce+Ni))が原子比で0.5以上となるように混合することが好ましい。
【0035】
より具体的な酸化処理の例としては、コバルトとセリウムとを含む水酸化物が表面に析出した状態の水酸化ニッケル粒子50gに対して,40gの48wt%NaOH水溶液を添加して,120℃で1時間,大気中で加熱する。次いで、ろ過、水洗、乾燥して,目的の活物質粒子を作製する。この工程によって、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子が得られる。
この手法で析出させることにより、電極の内部にコバルトセリウム化合物のネットワークが形成されるので内部抵抗の低いアルカリ蓄電池用正極を得ることができ、その使用量も大幅に削減することができる。
【0036】
コバルトセリウム化合物のコート量は正極材料全体に比べて質量比で0.5〜10%であれば良く、好ましくは3〜7%である。また、コバルトセリウム化合物中のセリウムの割合(Ce/(Co+Ce))は、原子比で5%〜40%であれば良く、好ましくは10%〜30%であり、さらに好ましくは15%〜30%である。5%以上であれば高い還元性を有し、10%以上であればさらなる還元性の向上が認められる。40%を超えると比抵抗値は増加傾向を示している。
【0037】
〔他材料との混合〕
上記のようにして作製した水酸化ニッケル粒子(表面をコバルトセリウム化合物にて被覆したもの)を、更に他の材料と粉体混合する。
混合の対象となる上記他材料は、カルシウム(Ca),イットリウム(Y),ユウロピウム(Eu),ホルミウム(Ho),エルビウム(Er),ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)のうちの少なくとも一つの元素の化合物であり、この化合物は、より具体的には、上記各元素の酸化物である。尚、この化合物は、酸化物に限定されるものではなく、アルカリ溶液中に溶解する形態であれば良いので、例えば水酸化物でも良い。
以上のようにして作製した正極材料でアルカリ蓄電池の正極を作製する。
【0038】
〔試験用セルでの特性評価〕
次ぎに、上記のようにして作製した正極材料の特性の評価について説明する。
上記正極材料の特性評価は試験用セルにて行った。
試験用セルの具体的な製造工程を簡単に説明する。
上記のようにして作製した正極材料にカルボキシルメチルセルロース(CMC)の濃度が1質量%の水溶液及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を0.3質量%混合しペースト状とする。正極材料に含める物質及びその組成は後述のように変化させる。
この正極ペーストを、厚さ1.4mm,面密度450g/mの発泡ニッケル基板に充填し、乾燥後ロール掛けして原板とする。この原板を4cm×6cmに切断した。尚、この寸法の板で、電極容量が500mAhになるようにコバルトセリウム化合物コート水酸化ニッケルを充填している。
この板を正極板として、セパレータを介在させて、1500mAhの容量の水素吸蔵合金負極で上記正極板を挟み込み、0.098Nmのトルクがかかるようにボルトで固定して開放形セルを構成した。
電解液は、6.8mol/l(「l」はリットル)水酸化カリウム水溶液を用いた。又、参照極にHg/HgO電極を用いた。
【0039】
この試験用セルの評価としては、正極材料に含める物質によってアルカリ蓄電池の酸素発生電位がどのように変化するかを測定した。
具体的な評価法は、上記の試験用セルについて、20℃の温度環境下、充電電流0.1ItAで15時間充電し、1時間休止した後、放電電流0.2ItAで終止電圧を0.0V(参照極に対する電圧)として放電する工程を繰り返し、3サイクル目の充電曲線からη値を求めた。η値は、正極(ニッケル電極)の酸素発生電位と酸化電位(充電反応での電位)との差であり、この「η」の値が大きいほど酸素発生電位が上昇して、自己放電が小さくなり、又、充電効率が大きくなることを意味している。
実際のη値の算出は、充電量120%時と充電量75%時との電位差をとっている。
【0040】
正極材料に含めた物質及びその組成比(質量%)を変化させたときの「η」値の測定結果を表1に示す。
尚、表1では、コバルトセリウム化合物で水酸化ニッケル粒子の表面を被覆したものと、上記Ca等のうちの少なくとも一つの元素の化合物(酸化物)とを粉体混合した正極材料の特性と比較するために、セリウム化合物を含まずコバルト化合物のみで水酸化ニッケル粒子の表面を被覆したものに上記Ca等の化合物(酸化物)を粉体混合して正極材料としたものの特性を併せて示しており、両者で上記「η」がどのように変化するかを示している。
【0041】
表1中においては、「活物質」の欄で「Ni(OH)(Ce−Coコート)」と表示しているものが、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子を活物質として用いているものであり、「活物質」の欄で「Ni(OH)(Coコート)」と表示しているものが、セリウム化合物を含まずコバルト化合物のみで表面を被覆した水酸化ニッケル粒子を活物質として用いているものであり、「Ce元素組成」の欄で、全体(正極材料全体)に対するCe元素(Ce金属)の組成比を質量%(mass%)で示している。
上記の水酸化ニッケル活物質に粉体混合で添加する物質は「混合物」の欄で示しており、添加する混合物の割合は「混合物添加量」の欄で、正極材料全体に対して質量%で示しており、混合物中の金属元素の全体(正極材料全体)に対する添加元素の組成比を「添加元素組成」の欄において質量%で示している。
「合計」の欄は「Ce元素組成」の値と「添加元素組成」の値とを加算したものであり、「η値」の欄で、夫々の作製条件での上記「η」の測定結果を表示している。
【0042】
更に、表2では、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子とCa等の化合物とを混合して構成した正極材料との対比のために、Ca等の化合物を混合せず、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子のみで正極材料を構成する場合において、そのコバルトセリウム化合物中のCe元素の組成を変化させたときの「η」の測定値の変化を示している。表2中では、Ce元素の組成を0質量%とした場合、すなわち、コバルトセリウム化合物ではなくコバルト化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子を活物質として用いる場合のデータも併記している。
ちなみに、表2において、「Ce元素組成」が0.8質量%のものは、コバルトセリウム化合物中のCeの存在割合としては10mol%に相当し、1.5質量%のものは20mol%に相当し、2質量%のものは30mol%に相当する。
【0043】
更に又、表3では、セリウムを、表1におけるイッテルビウムの化合物等と同様に、セリウム化合物(具体的には、CeO)を粉体混合によって正極材料中に混在させて、アルカリ蓄電池の正極を構成した場合のデータを比較例として示す。アルカリ蓄電池の正極として構成する工程は、表1における各データと共通である。
表3には、水酸化ニッケル粒子の表面をコバルトセリウム化合物にて被覆したものとセリウム化合物とを粉体混合した正極材料についてのデータを最上段に、水酸化ニッケル粒子の表面をコバルト化合物にて被覆したものとセリウム化合物とを粉体混合した正極材料についてのデータを中段に、水酸化ニッケル粒子の表面をコバルト化合物にて被覆したものとセリウム化合物とイッテルビウム化合物とを粉体混合した正極材料についてのデータを最下段に示している。
各データを説明する「Ce元素組成」等の欄の意味は、上記表1と共通である。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
上記表1及び表2の測定結果に関して、先ずイッテルビウム(Yb)の化合物(Yb)を混合した場合について説明する。
図1に、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子とイッテルビウムの化合物(Yb)とを粉体混合して作製した正極材料を用いた場合の「η」の値を白抜きの四角で示すと共に、比較のために、コバルトセリウム化合物ではなくコバルト化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子とイッテルビウムの化合物(Yb)とを粉体混合して作製した正極材料を用いた場合の「η」の値を白抜きの丸で示し、更に、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子のみで正極材料を構成する場合において、そのコバルトセリウム化合物中のCe元素の組成を変化させたときの「η」を白抜きの三角で示している。
尚、図1の横軸は、正極材料中にYbを混合しているものについては、イッテルビウムの組成(質量%)をとり、Ybを混合していないものについては、セリウム(Ce)の組成(質量%)をとっている。
又、正極材料中にYbもCeも含んでいないもの、すなわち、コバルト化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子だけで正極材料を構成する場合のデータについては、白抜きの丸及び白抜きの三角の両方で示している。
【0048】
図1から明らかなように、正極材料中のイッテルビウムの化合物の混合割合を大きくして行くと「η」の値が上昇していき、イッテルビウムの組成が1質量%以上になると「η」の上昇度合いが小さくなって行くことがわかる。
一方、水酸化ニッケル粒子の表面を被覆するコバルトセリウム化合物中におけるセリウムの組成の増大に伴っても「η」が上昇している。
具体的なデータの記載は省略するが、イッテルビウムの化合物の代わりにカルシウム化合物(より具体的には、CaO)を用いた場合には、上記の「η」の値の変化は立ち上がりがより急峻で、カルシウム元素の組成が0.1質量%以上なると「η」の上昇度合いが小さくなって行く。
【0049】
又、イッテルビウムの化合物の代わりにイットリウムの化合物(より具体的には、Y)を用いた場合には、イットリウム元素の組成が0.5質量%以上なると「η」の上昇度合いが小さくなって行く。
更に、イッテルビウムの化合物の代わりに、あるいは、イッテルビウムの化合物と共に、ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物(より具体的には、各元素の酸化物)を用いた場合は、イッテルビウム化合物の場合と同様の特性であり、これらの元素の組成が1質量%以上になると「η」の上昇度合いが小さくなって行く。
【0050】
コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子とYbとを粉体混合して構成した正極材料を用いた場合のデータ(図1において、白抜きの四角にて示すデータA及びデータB)について着目すると、コバルト化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子とYbとを粉体混合して構成した正極材料を用いた場合のデータ(図1において、白抜きの丸にて示すデータ)と、同量のイッテルビウム組成のデータ同士で比較して、明らかに「η」の値が向上している。
【0051】
図1では、更に、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子とYbとを粉体混合して構成した正極材料を用いた場合のデータを、イッテルビウムの組成ではなく、表1における「合計」、すなわち、セリウム元素の組成とイッテルビウム元素の組成とを足し合わせた値を横軸にとってプロットしたものを、黒塗りの四角(データA’及びデータB’)で示している。データA’がデータAに、データB’がデータBに夫々対応している。
図1における黒塗りの四角のデータと白抜きの丸のデータとの対比から、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子とYbとを粉体混合して構成した正極材料を用いた場合、その正極材料中のセリウムの組成とイッテルビウムの組成とを足し合わせた組成のイッテルビウムを含むYbを、コバルト化合物で表面を被覆した水酸化ニッケルと混合した場合(図1における白抜きの丸のデータ)よりも「η」の値が良好であることが読み取れる。
【0052】
更に、Ybを用いた場合、Ybは抵抗率の高い物質であり、その混合割合を大きくすると正極材料の抵抗率が大となってしまうのに対して、コバルトセリウム化合物はそもそも導電助剤として用いられているもので、しかも、セリウムの存在によって、抵抗率の増大を招くことなく過放電時においても耐還元性能の高さによって特性劣化を抑制できる導電助剤として機能し、その混合割合を高くすることは全く問題がない。
従って、Ybをコバルトセリウム化合物に置き換えることは、正極材料の抵抗率の上昇を抑制できる点と、上記「η」を上昇させることができる点との両面で効果を有するものとなっている。又、高価なコバルトをセリウムに置き換える点で材料コストの低減にも寄与する。
【0053】
イッテルビウム(Yb)元素の化合物(具体的には、酸化物)が、正極材料全体に対するイッテルビウム金属元素の存在割合で1質量%以上となる混合割合(酸素発生電位の上昇度合いが小さくなる領域の混合割合)に設定することで、上述のような効果が、コバルトセリウム化合物を使用しない従来技術と比較して顕著となるので、特に好ましいものである。
【0054】
上述のイッテルビウムの化合物を正極材料に含めた場合との対比のために、表3に示すセリウム化合物(CeO)を粉体混合によって正極材料に含めた場合のデータについても図1に示している。
水酸化ニッケル粒子の表面をコバルトセリウム化合物にて被覆したものとセリウム化合物とを粉体混合した正極材料を用いた場合のデータは図1において黒塗りの三角で示しており、横軸の値は、水酸化ニッケル粒子を被覆しているコバルトセリウム化合物中のセリウム元素の正極材料全体に対する組成比(すなわち、「Ce元素組成」の値)でプロットしている。
【0055】
「Ce元素組成」の値が同じ「1.5質量%」のコバルトセリウム化合物のみのデータ(白抜きの三角)と比較すると、水酸化ニッケル粒子の表面をコバルトセリウム化合物で被覆したものにセリウム化合物(CeO)を粉体混合により添加しても、「η」の値が上昇することはなく、むしろ低下していることがわかる。
図1中において「A」及び「B」で示すデータは、「Ce元素組成」の値が同じ「1.5質量%」のコバルトセリウム化合物で被覆した水酸化ニッケル粒子とイッテルビウムの化合物とを粉体混合したもののデータであるが、セリウム化合物を粉体混合したもののデータと比較して「η」の値の向上度合いの差が歴然としている。
【0056】
水酸化ニッケル粒子の表面をコバルト化合物にて被覆したものとセリウム化合物とを粉体混合した正極材料を用いた場合のデータも、上記と同様の傾向を示している。
このデータは、図1において下向きの白抜き三角で示しており、横軸の値は「Ce元素組成」の値(すなわち、0質量%)でプロットしている。
「Ce元素組成」の値が同じ「0質量%」となるコバルト化合物で被覆した水酸化ニッケル粒子のみのデータ(上向きの白抜き三角)と比較すると、水酸化ニッケル粒子の表面をコバルト化合物で被覆したものにセリウム化合物(CeO)を粉体混合により添加しても、「η」の値が上昇することはなく、むしろ低下している。
更に、この傾向は、水酸化ニッケル粒子の表面をコバルト化合物にて被覆したものとセリウム化合物とイッテルビウム化合物とを粉体混合した正極材料でアルカリ蓄電池の正極を構成した場合も同様である。
【0057】
表3の最下段のデータ、すなわち、水酸化ニッケル粒子の表面をコバルト化合物にて被覆したものとセリウム化合物とイッテルビウム化合物とを粉体混合した正極材料についてのデータを、図1において「×」印で示している。横軸は、イッテルビウム元素の組成である「1.8質量%」でプロットしている。
コバルト化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子に、イッテルビウム化合物(Yb)をイッテルビウム元素「1.8質量%」の割合で粉体混合した正極材料のデータと比較して、その正極材料に更にセリウム化合物(CeO)を粉体混合で添加しても、「η」の値が上昇することはなく、むしろ低下している。
このように、粉体混合によりセリウム化合物を正極材料に含める場合は、どのような組み合わせでも「η」の上昇に寄与することはなく、図4(c)によって説明したように、粉体混合によって添加したセリウム元素が水酸化ニッケル粒子の内部にも表面上にもほとんど存在していない状況と対応している。
【0058】
次に、イッテルビウム以外の添加元素について説明する。
表1におけるカルシウム(Ca),イットリウム(Y),エルビウム(Er),ルテチウム(Lu)の化合物(何れも酸化物)を、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子と混合した場合の「η」の測定結果を、図2において黒塗りの丸で示す。図2は上記図1と同一スケールとしている。
図2では、対比のために、カルシウム(Ca),イットリウム(Y),エルビウム(Er),ルテチウム(Lu)の化合物(何れも酸化物)を、コバルト化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子と混合した場合の上記「η」の測定結果を、図2において白抜きの丸で併せて示すと共に、参考として、Ca等を混合せずにコバルトセリウム化合物中のセリウム元素の組成を変化させた正極材料についての上記「η」の値を白抜きの三角で示している。
又、図2では、対応する元素同士のデータは、破線で囲んで元素記号を付している。
【0059】
図2から、カルシウム(Ca),イットリウム(Y),エルビウム(Er),ルテチウム(Lu)の化合物(何れも酸化物)を、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子と混合して正極材料とした場合、何れの元素についても、上述のイッテルビウムと同様に「η」の値が向上していることを確認できる。
この他、ユウロピウム(Eu),ホルミウム(Ho),ツリウム(Tm)についても同様の性質を有し、これらの化合物(より具体的には、酸化物)を、コバルトセリウム化合物で表面を被覆した水酸化ニッケル粒子と混合して正極材料とした場合、「η」の値を向上させることができる。
【0060】
ユウロピウム(Eu),ホルミウム(Ho),エルビウム(Er),ツリウム(Tm)及びルテチウム(Lu)のうちの少なくとも一つの元素の化合物を、コバルトセリウム化合物を表面に被覆した水酸化ニッケル粒子と混合して正極材料を構成する場合においても、上述のイッテルビウムの場合と同様に、ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物が、正極材料全体に対する前記元素の存在割合で1質量%以上となる混合割合に設定することが好ましい。
【0061】
これに対して、カルシウム(Ca)の化合物を、コバルトセリウム化合物を表面に被覆した水酸化ニッケル粒子と混合して正極材料を構成する場合においては、上述の「η」の変化特性から、カルシウムの化合物が、正極材料全体に対するカルシウム元素の存在割合で0.1質量%以上となる混合割合に設定することが好ましい。
【0062】
更にイットリウム(Y)についても、イットリウムの化合物を、コバルトセリウム化合物を表面に被覆した水酸化ニッケル粒子と混合して正極材料を構成する場合においては、上述の「η」の変化特性から、イットリウムの化合物が、正極材料全体に対するイットリウム元素の存在割合で0.5質量%以上となる混合割合に設定することが好ましい。
【0063】
〔アルカリ蓄電池用正極の製造〕
次に、上述のようにして作製した正極材料によって、アルカリ蓄電池(より具体的にはニッケル水素電池)の正極を作製する過程を概略的に説明する。
先ず、上記正極材料にカルボキシルメチルセルロース(CMC)水溶液等を添加してペースト状とする。正極材料に含める物質及びその組成は、上述の試験用セルによる評価結果に基づいて設定する。
このペーストを多孔質のニッケル基材(ニッケル発泡基材)などの電子伝導性のある基材に充填して、その後乾燥処理し、所定の厚みにプレスしてアルカリ蓄電池用正極とする。
【0064】
〔アルカリ蓄電池の製造〕
次ぎに、上記アルカリ蓄電池用正極を使用してアルカリ蓄電池を製造する工程を概略的に説明する。尚、各部の溶接等の詳細な説明については記載を省略する。
鉄にニッケルメッキを施したパンチング鋼板からなる負極基板に水素吸蔵合金粉末を主成分とするペーストを塗布し、乾燥した後に所定の厚みにプレスして負極を作製する。
この負極とポリプロピレンの不織布製セパレータと上述の正極とを積層し、その積層体をロール状に捲回する。
これに正極集電板及び負極集電板を取り付けた後、有底筒状の缶体に挿入し、電解液を注液する。
この後、周囲にリング状のガスケットが取り付けられると共にキャップ状の端子等を備えた円板状の蓋体を、正極集電板と電気的に接触する状態で取り付け、前記缶体の開放端をかしめることで固定する。
【0065】
〔別実施形態〕
以下に、本発明の別実施形態を記載する。
上記実施の形態では、コバルトセリウム化合物の製法として、コバルトセリウム化合物の生成過程で水酸化ニッケルと一体化する手法を用いて説明しているが、コバルトセリウム化合物を単独で作製する手法を用いても良い。
具体的には、先ず、コバルト化合物とセリウム化合物とを溶かしてコバルトイオンとセリウムイオンを含む水溶液を作製し、その水溶液のpHを調整して、コバルトとセリウムを含む水酸化物を水溶液中に析出させる。それをろ過、水洗、乾燥して、コバルトセリウム水酸化物を得る。
更に、そのコバルトとセリウムとを含む水酸化物を酸素の存在下で加熱処理することで酸化処理し、コバルトセリウム化合物とする。酸化処理する方法としては、コバルトとセリウムとを含む水酸化物を大気中で加熱する方法を用いることができる。
このように作製したコバルトセリウム化合物は、活物質である水酸化ニッケルの粉末に混合される形で導電助剤として使用することができる。
これに、更に、カルシウム,イットリウム,ユウロピウム,ホルミウム,エルビウム,ツリウム,イッテルビウム及びルテチウムのうちの少なくとも一つの元素の化合物を粉体混合して正極材料とする。
【符号の説明】
【0066】
A データ
A’ データ
B データ
B’ データ
図1
図2
図3
図4