(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<微細繊維の製造工程>
本発明の微細繊維を得る製造方法は、少なくとも
(a)繊維原料に静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を導入して、置換基導入繊維を得る工程と
(b)置換基導入繊維を機械処理する工程と
(c)工程(b)で得られた置換基導入微細繊維より、導入置換基の一部或いは全部を脱離させて、置換基脱離微細繊維を得る工程
を有する。
以下、上記3工程について詳細説明する。
【0010】
[工程(a)]
繊維原料に静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を導入する工程(a)としては特に限定されないが、乾燥状態あるいは湿潤状態の繊維原料に、該繊維原料と反応するような化合物を混合することにより、繊維原料に上記置換基を導入することが可能である。導入時の反応を促進するため、加熱する方法が特に有効である。置換基の導入における加熱処理温度は特に限定されないが、該繊維原料の熱分解や加水分解等が起こりにくい温度帯であることが好ましく、例えば、繊維原料としてセルロースを含む繊維原料を選択した場合は熱分解温度の観点から、250℃以下であることが好ましく、セルロースの加水分解を抑える観点から、100〜170℃で加熱処理することが好ましい。
【0011】
本発明で用いる繊維原料としては特に限定されないが、例えば、無機繊維、有機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維が挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、岩石繊維、金属繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。有機繊維としては、例えば、セルロース、炭素繊維、パルプ、キチン、キトサン等の天然物由来の繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。合成繊維としては、例えば、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等が挙げられるがこれらに限定されない。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ポリノジックレーヨン、リヨセル、テンセル等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0012】
また、本発明で用いる繊維原料は特に限定されないが、後述する置換基導入が容易になることからヒドロキシル基またはアミノ基を含むことが望ましい。
【0013】
繊維原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプから選ばれる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、などが挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロース、キチン、キトサンなどが挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本発明のパルプは上記1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも、化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細セルロース繊維の収率が高く、また、パルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細セルロース繊維が得られる点で特に好ましいが、特に限定されない。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択されるが、特に限定されない。この軸比の大きい長繊維の微細セルロース繊維を含有するシートは高強度が得られる。
【0014】
繊維原料と反応する化合物としては特に限定されないが、例えば、リン酸由来の基を有する化合物、カルボン酸由来の基を有する化合物、硫酸由来の基を有する化合物、スルホン酸由来の基を有する化合物、炭素数10以上のアルキル基を有する化合物、アミン由来の基を有する化合物などが挙げられる。取扱いの容易さ、微細繊維との反応性からリン酸由来の基および/またはカルボン酸由来の基を有する化合物が好ましく、これらの化合物が微細繊維とエステルまたは/およびアミドを形成するのがより好ましいが、特に限定されない。
【0015】
本発明で使用するリン酸由来の基を有する化合物は特に限定されないが、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらの塩またはエステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、また、繊維原料にリン酸基を導入して微細化(解繊)効率をより向上できることから、リン酸基を有する化合物が好ましいが、特に限定されない。
【0016】
リン酸基を有する化合物としては特に限定されないが、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウム、更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウム、更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。
【0017】
また、反応の均一性およびリン酸由来の基の導入効率が高いことから化合物は水溶液として用いることが好ましいが、特に限定されない。化合物の水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高いことから7以下であることが好ましい。繊維の加水分解を抑える観点からpH3〜7が特に好ましいが、特に限定されない。
【0018】
本発明で使用するカルボン酸由来の基を有する化合物は特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0019】
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸などトリカルボン酸化合物が挙げられる。
【0020】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
【0021】
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0022】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されないが、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0023】
上記カルボン酸由来の基を有する化合物のうち、工業的に適用しやすく、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましいが、特に限定されない。
【0024】
前記工程(a)で繊維原料に置換基を導入することにより溶液中における繊維の分散性が向上し、解繊効率を高めることができる。
【0025】
前記工程(a)で得られた置換基導入繊維における置換基の導入量は特に限定されないが、繊維1g(質量)あたり0.005α〜0.11αが好ましく、0.01α〜0.08αがより好ましい。置換基の導入量が0.005α未満では、繊維原料の微細化(解繊)が困難である。置換基の導入量が0.11αを超えると、繊維が溶解するおそれがある。ただし、αは繊維材料と反応する化合物が反応しうる官能基、例えばヒドロキシル基やアミノ基が繊維材料1gあたりに含まれる量(単位:mmol/g)である。
【0026】
[工程(b)]
工程(b)は工程(a)で得られた置換基導入繊維を、解繊処理装置を用いて微細化(解繊)処理して、置換基導入微細繊維を得る工程である。
【0027】
解繊処理装置としては特に限定されないが、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、クレアミックス、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができる。
【0028】
解繊処理の際には、工程(a)で得られた置換基導入繊維を、水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。希釈後の置換基導入繊維の固形分濃度は特に限定されないが、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。希釈後の置換基導入繊維の固形分濃度が前記下限値以上であれば、解繊処理の効率が向上し、前記上限値以下であれば、解繊処理装置内での閉塞を防止できる。分散媒としては特に限定されないが、水の他に、極性有機溶剤を使用することができ、好ましい極性有機溶剤としては特に限定されないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。これらは1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、微細繊維含有スラリーの分散安定性を妨げない範囲であれば、上記の水および極性有機溶剤に加えて非極性有機溶媒を使用しても構わない。
【0029】
微細化(解繊)処理後の微細繊維含有スラリーにおける微細繊維の含有量は特に限定されないが、0.02〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。微細繊維の含有量が前記下限値以上であれば、後述のシートを製造する際の製造効率に優れ、前記上限値以下であれば、スラリーの分散安定性に優れる。
【0030】
本発明においては、微細化(解繊)により得られる置換基導入微細繊維の繊維幅は特に限定されないが、1〜1000nmであることが好ましく、より好ましくは2〜500nm、さらに好ましくは3〜100nmである。微細繊維の繊維幅が1nm未満であると、分子が水に溶解しているため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しなくなる。一方、1000nmを超えると微細繊維とは言えず、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が得られない。
【0031】
微細繊維に透明性が求められる用途においては、繊維幅が30nmを超えると、可視光の波長の1/10に近づき、マトリックス材料と複合した場合には界面で可視光の屈折及び散乱が生じ易く、透明性が低下する傾向にあるため、繊維幅は特に限定されないが、2nm〜30nmが好ましく、より好ましくは2〜20nmである。前記のような微細繊維から得られる複合体は、一般的に緻密な構造体となるために強度が高く、可視光の散乱が少ないため高い透明性も得られる。
【0032】
微細繊維の繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維含有スラリーを調製し、該スラリーを親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅広の繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍、20000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。本発明における繊維幅はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0033】
微細繊維の繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上が好ましい。繊維長が0.1μm未満では、微細繊維を樹脂に複合した際の強度向上効果を得難くなる。繊維長は、TEMやSEM、AFMの画像解析より求めることができる。上記繊維長は、微細繊維の30質量%以上を占める繊維長である。
【0034】
微細繊維の軸比(繊維長/繊維幅)は特に限定されないが、20〜10000の範囲であることが好ましい。軸比が20未満であると微細繊維含有シートを形成し難くなるおそれがある。軸比が10000を超えるとスラリー粘度が高くなり、好ましくない。
【0035】
[工程(c)]
工程(c)は、工程(b)で得られた置換基導入微細繊維の置換基の一部或いは全部を脱離させて、置換基脱離微細繊維を得る工程である。置換基の脱離方法としては特に限定されないが、加熱加水分解処理や酵素処理等の生物学的処理が挙げられ、より処理が簡便となる加熱加水分解処理が好ましい。加熱温度は特に限定されないが、50℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。ただし、置換基の脱離における加熱温度は繊維原料の分解が抑えられる温度を選択することが好ましく、特に限定されないが、例えば繊維原料としてセルロースを用いた場合は250℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。また、加熱の際には適宜、酸または塩基などの添加剤を加えてもよい。
【0036】
置換基脱離後の微細繊維における置換基の含有量は特に限定されないが、導入時の70%以下、好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下である。置換基含有量が少ない方が微細繊維含有シートを得る際の濾水時間が短く、当該シートを加熱した際の黄変等を抑制できる。
【0037】
[脱塩工程]
本発明においては、特に限定されないが、工程(c)の後に、その他の処理工程として、脱塩工程を有すると微細繊維の純度が高まる点で好ましい。脱塩工程としては特に限定されず、濾過方式による洗浄、透析、イオン交換などが挙げられるが、処理が簡便であるイオン交換処理が好ましく、強酸性イオン交換樹脂と強塩基性イオン交換樹脂を交互にまたは併用するのがより好ましい。
【0038】
上記工程(a)、(b)、(c)および脱塩工程以外に、必要に応じて、各工程の間、或いは工程(a)の前に、脱塩工程の後に、洗浄工程や他の処理工程を適宜有してもよいが、特に限定されない。例えば、工程(b)より前段に異物除去工程、工程(b)より後段に遠心分離等による精製工程を採用しても良いが、特に限定されない。
【0039】
(再分散工程)
前記方法により、置換基を離脱した微細繊維の溶液中における分散性は、置換基を導入する前の微細繊維と比較すると向上しているが、凝集が起こる場合は、置換基離脱後に微細繊維を再分散させるための再分散工程を追加しても良いが、特に限定されない。微細繊維を再分散させるための方法としては、例えば、微細繊維を含む分散媒(水溶液や有機溶媒)に界面活性剤、有機溶剤等の成分を添加する等の方法が挙げられるが、微細繊維の分散性を向上させるための方法であれば特に限定なく用いることができる。再分散工程では、微細繊維を含む分散媒を攪拌することもでき、攪拌条件は、微細繊維の分散性を良好にする方法であれば特に限定されない。
【0040】
<シートの作製>
前記のようにして得られた置換基脱離後の微細繊維を用いて、シートを作製することができる。シートの作製方法としては、特に限定するものではないが、抄紙法、塗工法等が好ましく使用できる。得られたシートに樹脂を含浸して微細繊維含有複合体とすることができる。
【0041】
本発明のシートは、特に限定されないが、前記微細繊維と前記微細繊維以外の繊維(以下、「追加繊維」という)を少なくとも1種以上混合して用いることもできる。追加繊維としては、例えば、無機繊維、有機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維が挙げられるが、特に限定されない。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、岩石繊維、金属繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。有機繊維としては、例えば、セルロース、炭素繊維、パルプ、キチン、キトサン等の天然物由来の繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。合成繊維としては、例えば、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等が挙げられるがこれらに限定されない。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ポリノジックレーヨン、リヨセル、テンセル等が挙げられるがこれらに限定されない。前記追加繊維は、必要に応じて化学的処理、解繊処理等の処理を施すことができる。追加繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施す場合、微細繊維と混合してから化学的処理、解繊処理等の処理を施すこともできるし、追加繊維に化学的処理、解繊処理等の処理を施してから微細繊維と混合することもできる。追加繊維を混合する場合、微細繊維と追加繊維の合計量における追加繊維の添加量は特に限定されないが、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下である。特に好ましくは20質量%以下である。
【0042】
[抄紙法]
置換基脱離後の微細繊維含有スラリーを通常の抄紙で用いられる長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機のほか、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機、さらに手抄き等公知の抄紙方法で抄紙され、一般の紙と同様の方法でシート化することが可能である。つまり、微細繊維含有スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得ることが可能である。スラリーの濃度は特に限定されないが、0.05〜5質量%が好ましく、濃度が低すぎると濾過に膨大な時間がかかり、逆に濃度が高すぎると均一なシートが得られないため好ましくない。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1〜20μm、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1〜20μm、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
【0043】
微細繊維を含むスラリーからシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の微細セルロース繊維を含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出された前記スラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、前記ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備え、前記搾水セクションから前記乾燥セクションにかけて前記無端ベルトが配設され、前記搾水セクションで生成された前記ウェブが前記無端ベルトに載置されたまま前記乾燥セクションに搬送される製造装置を用いる方法等が挙げられる。
【0044】
本発明において使用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
【0045】
微細繊維含有シートはその製造方法により、様々な空隙率を保持せしめることができる。空隙率の大きなシートを得る方法としては特に限定されないが、濾過による製膜工程において、シート中の水を最後にアルコール等の有機溶媒に置換する方法を挙げることができる。これは、濾過により水を除去し、微細繊維の含有量が5〜99質量%になったところでアルコール等の有機溶媒を加えるものである。あるいは、微細繊維含有スラリーを濾過装置に投入した後、アルコール等の有機溶媒をスラリーの上部に投入することによっても置換することができる。微細繊維含有シートに高分子を含浸させて複合体を得る場合には、空隙率が小さいと高分子が含浸されにくくなるため、特に限定されないが、例えば10体積%以上、好ましくは20体積%以上の空隙率があることが好ましい。ここで用いるアルコール等の有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、ジプロビレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテルなどのグライム類、1,2−ブタンジオール 、1,6−ヘキサンジオールなどの2価アルコール類、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。これらの有機溶媒は2種以上を併用してもかまわない。前記有機溶媒として非水溶性有機溶媒を用いる場合は、水溶性有機溶媒との混合溶媒にするか水溶性有機溶媒で置換した後、非水溶性有機溶媒で置換することが好ましい。
【0046】
[塗工法]
塗工法は、置換基脱離後の微細繊維含有スラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成された微細繊維含有層を基材から剥離することにより、シートを得る方法である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。基材の質は、特に限定されないが、微細繊維含有スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。その中で、適当なものを単独、または積層して使用するのが好適である。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができるが、特に限定されない。微細繊維含有スラリーを基材上に塗工するには、上記基材に所定のスラリー量を塗工することが可能な各種コーターを使用すれば良い。特に限定されないが、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター等が使用できるが、中でもダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、エアドクターコーター等の塗工方式によるものが均一な塗工には有効である。また、乾燥には、特に限定されないが、熱風乾燥や赤外線乾燥、真空乾燥等が有効である。基材に長尺の巻き取り状のものを使用してコーター塗工、乾燥してシートを形成することにより、連続的にシート製造が可能となる。基材上で形成したシートは基材と共に巻き取り、使用の際に基材から剥離して使用しても良いし、基材の巻取り前にシートを剥離し、基材とシートそれぞれを巻き取りとしても良い。
【0047】
微細繊維含有シートの厚みには特に限定されないが、好ましくは1μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。又、通常1000μm以下、好ましくは5〜250μmである。
【0048】
本発明では、前記工程で製造した置換基が導入された微細繊維をシート化した後に、このシートに含有される微細繊維に導入された置換基を離脱させることもでき、置換基離脱させる方法は特に限定されない。
【0049】
<作用効果>
微細繊維に静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を導入することにより、微細繊維同士が静電反発し、微細繊維を微細化(解繊)しやすいが、置換基を有するため、繊維の経時黄変、加熱黄変の問題がある。また、微細繊維の保水性が良好なため、微細繊維含有スラリーを脱水、乾燥して、微細繊維を含有する集合体、例えば微細繊維含有シートを得るためには、脱水や乾燥効率が劣る。
静電的および/または立体的な官能性を持つ置換基を一旦導入し、微細化(解繊)した後に、置換基の一部或いは全部離脱することによって得られた微細繊維は、経時黄変と加熱黄変が著しく改善される。また、微細繊維含有スラリーの脱水性がよく、微細繊維含有シートを容易に得ることが可能である。
【実施例】
【0050】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、例中の部、及び%は特に断らない限り、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0051】
(実施例1)
<繊維原料への置換基導入>
リン酸二水素ナトリウム二水和物66.43g、リン酸水素二ナトリウム49.47gを135.50gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬A」という。)を得た。このリン酸化試薬AのpHは25℃で6.0であった。
広葉樹晒クラフトパルプ(王子製紙社製、水分80%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)560ml)を絶乾質量で120g分取し、前記リン酸化試薬A251.40g(乾燥パルプ100質量部に対してリン元素量として20質量部)を加え、105℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社 DKM400)で15分に一度混練し、質量が恒量となるまで乾燥させた。ついで150℃の送風乾燥機で1時間加熱処理して、置換基(リン酸基)導入セルロース繊維を得た。
【0052】
次いで、リン酸基導入セルロース繊維3gを分取し、300mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを300mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液5mlを少しずつ添加し、pHが12〜13のセルロース繊維含有スラリーを得た。その後、このスラリーを脱水し、300mlのイオン交換水を加えて再度脱水洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
【0053】
<繊維原料の微細化>
脱水洗浄後に得られたセルロース繊維にイオン交換水を添加し、0.5質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理した後、イオン交換水を添加してスラリー固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H−2000B)を用いて、12000G×10分の条件で遠心分離し、得られた上澄み液を回収し、微細セルロース繊維含有スラリーを得た。
【0054】
<微細繊維原料からの置換基の脱離>
得られた微細セルロース繊維含有スラリーをSUS304製耐圧容器に300mL分取し、オートクレーブで120℃、2時間加熱加水分解処理を行った後、下記記載([イオン交換樹脂を用いた微細セルロース繊維含有スラリーの処理])の方法によって脱塩を行い、置換基脱離微細セルロース繊維を得た。得られた置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーの置換基量を下記記載([セルロース表面の置換基量測定])の方法に準じて測定した。なお、置換基脱離微細セルロース繊維の平均幅は2〜1000nmであった。
【0055】
(実施例2)
オートクレーブでの加熱時間を4時間とした以外は実施例1と同様にして置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーを得た。得られた置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーの置換基量を下記記載([セルロース表面の置換基量測定])の方法に準じて測定した。なお、置換基脱離微細セルロース繊維の平均幅は2〜1000nmであった。
【0056】
(実施例3)
<繊維原料への置換基導入>
針葉樹クラフトパルプ(王子製紙社製、水分80%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)708ml)を絶乾質量で120g分取し、前記リン酸化試薬A251.40g(乾燥パルプ100質量部に対してリン元素量として20質量部)を加え、蒸気加温ジャケット容器を備えた二軸混練ニーダーの容器に入れ、混合しながら、ジャケットに蒸気を導入し、固形分99%となるまで乾燥させた。得られた乾燥物を150℃の送風乾燥機で1時間加熱処理して、置換基(リン酸基)導入セルロース繊維を得た。
次いで、リン酸基導入セルロース繊維3gを分取し、300mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄後、脱水した。脱水後のセルロース繊維を300mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液5mlを少しずつ添加し、pHが12〜13のセルロース繊維含有スラリーを得た。その後、このスラリーを脱水し、300mlのイオン交換水を加えて再度脱水洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
【0057】
<繊維原料の微細化>
洗浄脱水後に得られたセルロース繊維にイオン交換水を添加後、攪拌し、0.5質量%のスラリーにした。このパルプスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理した後、イオン交換水を添加してスラリー固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H−2000B)を用いて、1000G×10分の条件で遠心分離し、得られた上澄み液を回収し、微細セルロース繊維含有スラリーを得た。
【0058】
<微細繊維原料からの置換基の脱離>
得られた微細セルロース繊維含有スラリーをSUS304製耐圧容器に1000ml分取し、マグネチックスターラー付属のオイルバスにて160℃、2時間加熱加水分解処理し、凝集させた後、目開き250μmのメッシュ上に受け、上からイオン交換水を注ぎ、洗浄したのち、ホモディスパーにて8000rpm×3分間で再分散させ、置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーを得た。
得られた置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーの置換基量を下記記載([セルロース表面の置換基量測定])の方法に準じて測定した。なお、置換基脱離微細セルロース繊維の平均幅は2〜1000nmであった。
【0059】
(実施例4)
<繊維原料への置換基導入>
広葉樹クラフトパルプ(LBKP)を105℃で3時間乾燥させて水分3質量%以下の乾燥パルプを得た。次いで、2gの無水マレイン酸をアセトン4gに溶解させて得られた無水マレイン酸/アセトン溶液を前記乾燥パルプ4gに滴下してからかき混ぜ、乾燥パルプに無水マレイン酸/アセトン溶液を染込ませた。これを40℃で30分乾燥させてアセトンを揮発させてからオートクレーブに充填し、150℃のオーブンにオートクレーブごと入れて2時間処理した。
次いで、0.8質量%の水酸化ナトリウム水溶液250mLに乾燥パルプを分散し、スラリーを攪拌しながらパルプをアルカリ処理した。パルプスラリーのpHは12.5程度であった。その後、pHが8以下になるまで、アルカリ処理後のパルプを水で洗浄し、置換基(マレイン酸基)導入セルロース繊維を得た。
【0060】
<繊維原料の微細化>
得られたマレイン酸基導入セルロース繊維にイオン交換水を添加し、固形分濃度0.5質量%のスラリーを調製した。そのスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理して、最後に冷却/高速遠心機(コクサン社製、H−2000B)を用いて12000G×10分間の条件で遠心分離してから上澄みを回収し、微細セルロース繊維含有スラリーを得た。
【0061】
<微細繊維原料からの置換基の脱離>
得られた微細セルロース繊維含有スラリーをSUS304製耐圧容器に300ml分取し、オートクレーブで120℃、4時間加熱加水分解処理を行った後、下記記載([イオン交換樹脂を用いた微細セルロース繊維含有スラリーの処理])の方法によって脱塩を行い、置換基脱離微細セルロース繊維を得た。
得られた置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーの置換基量を下記記載([セルロース表面の置換基量測定])の方法に準じて測定した。なお、置換基脱離微細セルロース繊維の平均幅は2〜1000nmであった。
【0062】
(比較例1)
オートクレーブでの加熱工程を省いた以外は、実施例1と同様にして微細セルロース繊維含有スラリーを得た。
得られた微細セルロース繊維含有スラリーの置換基量を下記記載([セルロース表面の置換基量測定])の方法に準じて測定した。
【0063】
(比較例2)
オートクレーブでの加熱工程を省いた以外は、実施例4と同様にして微細セルロース繊維含有スラリーを得た。
得られた微細セルロース繊維含有スラリーの置換基量を下記記載([セルロース表面の置換基量測定])の方法に準じて測定した。
【0064】
<評価>
上記実施例1〜4および比較例1〜2の微細セルロース繊維含有スラリーについて、置換基量を以下に記載の方法([セルロース表面の置換基量測定])により測定した。測定結果を表1に示す
【0065】
[セルロース表面の置換基量測定]
絶乾質量で0.04g程度の固形分を含む微細セルロース繊維含有スラリーを分取し、イオン交換水を用いて50g程度に希釈した。この溶液のマグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えていったときの電気伝導度の値の変化を測定し、その値が極小となる時の0.01N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を滴定終点における滴下量とした。
この時、セルロース表面の置換基量XはX(mmol/g)=0.01(mol/l)×V(ml)/W(g)で表される。ここで、V:0.01N水酸化ナトリウム水溶液の滴下量(ml)、W:微細セルロース繊維含有スラリーが含む固形分(g)である。
【0066】
[イオン交換樹脂を用いた微細セルロース繊維含有スラリーの処理]
イオン交換樹脂を用いた微細セルロース繊維含有スラリーの処理においては、微細セルロース繊維含有スラリーに体積で1/10のイオン交換樹脂を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離する処理を計3回行った。1回目はコンディショニング済みの強酸性イオン交換樹脂(例えば、アンバージェット1024;オルガノ株式会社)を用いて行った。2回目はコンディショニング済みの強塩基性イオン交換樹脂(例えば、アンバージェット4400;オルガノ株式会社)を用いて行った。3回目は1回目と同様に処理を行った。
【0067】
【表1】
【0068】
加熱加水分解処理を行った実施例1〜4では置換基が多く離脱した。
【0069】
(実施例5)
実施例1で得られた置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーにイオン交換水を加え、0.1%に希釈したスラリー168gの減圧濾過を行った。濾過器としてはアドバンテック社製KG−90を用い、ガラスフィルターの上にアドバンテック社製の1.0μm孔径のPTFE製メンブランフィルターを載せた。有効濾過面積は48cm2であった。減圧度−0.09MPa(絶対真空度10kPa)にて減圧濾過したところ、PTFE製メンブランフィルターの上にセルロース繊維の堆積物が得られた。このセルロース堆積物を120℃に加熱したシリンダードライヤーで0.15MPaの圧力で10分間プレス乾燥してシートを得た。
【0070】
(実施例6)
実施例2で得られた置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーを用いた以外は実施例5と同様にしてシートを得た。
【0071】
(実施例7)
実施例4で得られた置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーを用いた以外は実施例5と同様にしてシートを得た。
【0072】
(比較例3)
比較例1で得られた微細セルロース繊維含有スラリーを用いた以外は実施例5と同様にしてシートを得た。
【0073】
(比較例4)
比較例2で得られた微細セルロース繊維含有スラリーを用いた以外は実施例5と同様にしてシートを得た。
【0074】
<評価>
上記実施例5〜7および比較例3〜4の微細セルロース繊維含有スラリーについて、セルロース堆積物を得るまでの濾過時間を測定し、またシートの黄色度を以下に記載の方法により測定した。測定結果を表2に纏めた。また、シートの全光線透過率も測定し、結果を表2に示した。
【0075】
[全光線透過率]
JIS規格K7136に準拠し、村上色彩技術研究所製ヘーズメーター(HM−150)を用いて全光線透過率を測定した。
【0076】
[黄色度]
得られたシートを200℃、真空下で4時間加熱した後、ASTM規格に準拠し、E313黄色インデックスをGretagMacbeth社製ハンディ分光光度計(Spectro Eye)を用いて測定した。数値が小さい方が、黄変の程度が小さい。
【0077】
【表2】
【0078】
置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーを用いた実施例5〜7は置換基を脱離させていない微細セルロース繊維含有スラリーを用いた比較例3〜4より、セルロース堆積物形成までの濾過時間が短く、得られたシートの加熱後の黄色度の値が低下した。
【0079】
(実施例8)
実施例3で得られた脱塩上澄みにイオン交換水を加え、0.1%に希釈した後、168gを分取し、減圧濾過を行った。濾過器としてはアドバンテック社製KG−90を用い、ガラスフィルターの上にアドバンテック社製の1.0μm孔径のPTFE製メンブランフィルターを載せた。有効濾過面積は48cm2であった。減圧度−0.09MPa(絶対真空度10kPa)にて減圧濾過したところ、PTFE製メンブランフィルターの上にセルロース繊維の堆積物が得られた。このセルロース堆積物に3.76mlのエチレングリコールモノt−ブチルエーテルを注ぎ、再び減圧濾過して堆積物を得た。この堆積物を120℃に加熱したシリンダードライヤーにて0.15MPaの圧力で5分間プレス乾燥した後、さらに130℃の送風乾燥機で2分間乾燥させ、多孔性のシートを得た。
【0080】
(比較例5)
実施例3のオイルバスにおける加熱加水分解処理工程以降の工程を行わないスラリーを用い、実施例8と同様に多孔性のシートを得た。
【0081】
<評価>
上記実施例8と比較例5の多孔性シートについて、セルロース堆積物を得るまでの濾過時間を測定し、また多孔性シートの黄色度を以下に記載の方法により測定した。測定結果を表3に纏めた。また、パラフィン含浸を行った多孔性シートの全光線透過率も測定し、その結果も表3に示した。
【0082】
[全光線透過率(パラフィン含浸)]
減圧下で流動パラフィンを多孔性シートに浸透させた後、JIS規格K7136に準拠し、村上色彩技術研究所製ヘーズメーター(HM−150)を用いて全光線透過率を測定した。
【0083】
[黄色度]
得られたシートを200℃、真空下で4時間加熱した後、ASTM規格に準拠し、E313黄色インデックスをGretagMacbeth社製ハンディ分光光度計(Spectro Eye)を用いて測定した。数値が小さい方が、黄変の程度が小さい。
【0084】
【表3】
【0085】
置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーを用いた実施例8は置換基を脱離させていない微細セルロース繊維含有スラリーを用いた比較例5より、セルロース堆積物形成までの濾過時間が短く、得られたシートの加熱後の黄色度の値が低下した。
【0086】
本願の優先権主張の基礎となる特願2012−115474に記載の内容は全て本願明細書中に引用により取り込まれるものとする。