特許第5783256号(P5783256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5783256圧電デバイス、および、圧電デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783256
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】圧電デバイス、および、圧電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20150907BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20150907BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20150907BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20150907BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   H03H9/145 C
   H03H9/25 C
   H03H3/08
   H03H9/17 F
   H03H3/02 B
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-531244(P2013-531244)
(86)(22)【出願日】2012年8月23日
(86)【国際出願番号】JP2012071257
(87)【国際公開番号】WO2013031617
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2014年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-184625(P2011-184625)
(32)【優先日】2011年8月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 敬
【審査官】 ▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−196896(JP,A)
【文献】 特開2003−347612(JP,A)
【文献】 特開2003−017967(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/004665(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/065317(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007−H03H3/10
H03H9/00−H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と支持基板との少なくとも一方の接合面側に吸湿層を形成する吸湿層形成工程と、
前記吸湿層に水分を吸湿させる吸湿工程と、
前記圧電基板または前記支持基板の接合面側に、100度以下の温度であっても加水分解反応が進展するシリカ前駆体を含む材料からなるバインダ層を形成するバインダ層形成工程と、
前記圧電基板と前記支持基板とを、それぞれの接合面間に前記バインダ層と前記吸湿層とを介して貼り合わせる貼合工程と、
前記吸湿層に吸湿されている水分によって前記シリカ前駆体を加水分解させてシリカに転化させるバインダ層固化工程と、
を有する、圧電デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記圧電基板は、圧電体単結晶からなる、請求項1に記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項3】
前記圧電基板は、LT基板、LN基板、または水晶基板である、請求項2に記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記吸湿層は、多孔質膜、窒化アルミニウム膜、または、低真空度でのスパッタリング法もしくは低温CVD法で形成された酸化珪素層のいずれかである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記貼合工程および前記バインダ層固化工程は、減圧雰囲気下で実施される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項6】
圧電基板にイオン化した元素を注入して、前記圧電基板の中に前記元素が集中して存在する領域を形成するイオン注入工程と、
加熱により、前記圧電基板における接合面側の領域を圧電薄膜として分離する分離工程と、
を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項7】
圧電基板にイオン化した元素を注入して、前記圧電基板の中に前記元素が集中して存在する領域を形成するイオン注入工程と、
前記圧電基板のイオン注入面側に、前記圧電基板と同種の材料からなる、あるいは、前記圧電基板との界面に作用する熱応力が前記支持基板と前記圧電基板との界面に作用する熱応力よりも小さい、仮支持基板を形成する仮支持工程と、
加熱により、前記圧電基板における前記仮支持基板との接合面側の領域を圧電薄膜として分離する分離工程と、
前記圧電基板から分離した前記圧電薄膜に前記支持基板を形成する支持工程と、
を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧電デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記圧電薄膜に機能電極を形成する機能電極形成工程を有する、請求項6または7に記載の圧電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧電体の薄膜を支持基板に接合した構成の圧電デバイス、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、圧電体の薄膜を利用する圧電デバイスが多く開発されている(例えば、特許文献1参照)。一般に、圧電体の薄膜を利用した圧電デバイスは、圧電体の薄膜を支持基板に接合して構成されている。圧電体の薄膜と支持基板との接合法としては、従来からさまざまな方法が提案、採用されている。
【0003】
例えば、親水化接合と呼ばれる接合法(特許文献1参照。)では、まず、鏡面加工された圧電薄膜側の接合面と支持基板側の接合面とのそれぞれに、無機酸化物層が形成される。次に、無機酸化物層の表面に水酸基が形成される。次に、圧電薄膜側の無機酸化物層の表面と支持基板側の無機酸化物層の表面とを重ね合わせ、水酸基同士の水素結合により圧電薄膜側の無機酸化物層と支持基板側の無機酸化物層とを接合させる。次に、200℃以上での熱処理により、水素結合している水酸基からHOを脱離させ、これにより、圧電薄膜側の無機酸化物層と支持基板側の無機酸化物層との接合強度を大幅に向上させる。
【0004】
また、活性化接合と呼ばれる接合法では、まず、鏡面加工された圧電薄膜側の接合面と支持基板側の接合面とのそれぞれを、不活性ガス雰囲気または真空中でスパッタエッチングすることにより、表面からのコンタミの除去と表面の活性化とがなされる。その状態で、圧電薄膜側の接合面と支持基板側の接合面とを重ね合わせることにより、圧電薄膜側の接合面と支持基板側の接合面とがアモルファス層を介して強固に接合される。
【0005】
また、樹脂系の接着層を用いた接合法では、圧電薄膜側または支持基板側の接合面に接着層を形成し、次に、圧電薄膜側と支持基板側との接合面同士を重ね合わせ硬化させることで圧電薄膜側と支持基板側との接合面同士が強固に接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−326553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、親水化結合のように、200℃以上での比較的高温の熱処理を要する接合法では、圧電薄膜と支持基板との線膨張係数差が大きいと、熱処理時に発生する熱応力によって支持基板から圧電薄膜が剥がれる等の不具合が起こるため、強固な接合を安定して実現できない。
【0008】
これに対して、活性化接合では、親水化接合のような高温での熱処理を行わなくても、強固な接合を実現することが可能であり、圧電体と支持基板との線膨張係数差が大きな制約とはならない。
【0009】
一方、活性化接合は、表面のコンタミに対する許容度が低く、接合を行う際の接合環境の管理が厳しいため、強固な接合を安定して実現することが困難である。また、例えばLN基板と表層に窒化シリコン膜が形成された基板のように、材質の組み合わせによっては、十分な接合強度を実現することができない。
【0010】
また、樹脂系の接着剤を利用した接合法では、熱が印加されると接着剤が軟化してしまうため、支持基板と圧電薄膜に線膨張率差がある材料では、加熱後に、支持基板と圧電薄膜にズレが生じて、うねってしまうことがある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、非加熱環境下で強固な接合を安定して実現しながら、特性劣化が引き起こされることがない圧電デバイス、および、圧電デバイスの製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る圧電デバイスは、圧電薄膜と、支持基板と、酸化珪素層と、吸湿層と、を備えている。圧電薄膜は、圧電体からなる。支持基板は、一方の主面側に圧電薄膜が積層されている。酸化珪素層は、酸化珪素からなり、圧電薄膜と支持基板との間に設けられている。吸湿層は、圧電薄膜および支持基板よりも吸湿性が高く、酸化珪素層の略全面に接して圧電薄膜と支持基板との間に設けられている。
【0013】
この発明に係る圧電デバイスの製造方法は、吸湿層形成工程と、吸湿工程と、バインダ層形成工程と、貼合工程と、バインダ層固化工程と、を有する。吸湿層形成工程は、圧電基板と支持基板との少なくとも一方の接合面側に吸湿層を形成する工程である。吸湿工程は、前記吸湿層に水分を吸湿させる工程である。バインダ層形成工程は、圧電基板または支持基板の接合面側に、シリカ前駆体を含む材料からなるバインダ層を形成する工程である。貼合工程は、前記圧電基板と前記支持基板とを、それぞれの接合面の間に前記バインダ層と前記吸湿層とを介して貼り合わせる工程である。バインダ層固化工程は、前記吸湿層に吸湿されている水分によって前記シリカ前駆体を加水分解させてシリカに転化させる工程である。ここで利用するシリカ前駆体は、100度以下であっても加水分解反応が進展するものである。
【0014】
この製造方法では、50℃から100℃程度の低温でも活性を持つシリカ前駆体に、吸湿層に吸湿されている水分が供給されることにより、シリカ前駆体が加水分解してシリカに転化する。これによりバインダ層が固化する。したがって、この加水分解反応を非加熱環境下または低温加熱環境下で進展させることにより、圧電基板の割れや支持基板の割れなどを伴うこと無く、圧電基板と支持基板とを安定して強固に接合させることができる。そのため、圧電基板や支持基板の線膨張率差による制約を抑え、デバイス特性や信頼性を最適化するように材質を選ぶことが可能になる。この接合により形成される酸化珪素層は、硬度が高く、導電率が低いので、酸化珪素層の存在によってデバイス特性が劣化することが殆ど無い。また、吸湿層を接合面の全面に設けることで、接合面の全面に水分を供給でき、接合強度がばらついて局所的に低下することを防ぐことができる。
【0015】
なお、このようなシリカ前駆体を用いたシリカの生成法は、一般的には、ゾル−ゲル法と呼ばれている。ゾル−ゲル法で用いられるシリカ前駆体は、溶媒に対して可溶であり、加水分解反応や重合反応によりシリカに転化する組成物である。このようなシリカ前駆体は、例えばSOG(Spin on Grass)材として一般には流通している。ただし、SOG材として最も普及しているシラノール系(例えば「−Si(OH)−」の重合体)のものは、シリカの生成時に400℃程度の高温での加熱を要するので、圧電デバイスの製造に用いるには不適である。圧電デバイスの製造に好適なシリカ前駆体は、例えば、100度以下であっても加水分解反応が進展する、珪酸エステルやポリシラザンなどである。珪酸エステルは、例えば、組成がSi(OCH10のものである。また、ポリシラザンは、例えば、組成が「−(SiHNH)−」の重合体である。
【0016】
上述の圧電デバイスの製造方法において、前記圧電基板は圧電体単結晶からなると好適である。圧電基板は、例えばLT基板、LN基板、水晶基板などである。
このような圧電基板は、吸湿性が極めて低く、吸湿層を設けることによる効用が大きい。
【0017】
上述の圧電デバイスの製造方法において、前記吸湿層は、多孔質膜、窒化アルミニウム膜、低真空度でのスパッタリングもしくは低温CVDで形成された酸化珪素層のいずれかであると好適である。
これらの吸湿層は、圧電基板や支持基板に比べて十分に吸湿性が高く、また、圧電基板に積層されても、特性面や信頼性面での悪影響を及ぼすことがない。
【0018】
上述の圧電デバイスの製造方法において、前記貼合工程および前記バインダ層固化工程は、減圧雰囲気下で実施されると好適である。
これにより、バインダ層に含まれる溶剤成分の揮散を促進し、接合面にボイドが生じることを防ぐ、または抑制することができる。
【0019】
上述の圧電デバイスの製造方法において、イオン注入工程と、分離工程とを有すると好適である。イオン注入工程は、圧電基板の接合面側からイオンを注入する工程である。分離工程は、加熱により前記イオンによる圧電基板の欠陥層から接合面側の領域を圧電薄膜として分離する工程である。
または、上述の圧電デバイスの製造方法において、イオン注入工程と、仮支持工程と、分離工程と、支持工程と、を有すると好適である。仮支持工程は、圧電基板のイオン注入面側に、前記圧電基板と同種の材料からなる、あるいは、前記圧電基板との界面に作用する熱応力が前記支持基板と前記圧電基板との界面に作用する熱応力よりも小さい、仮支持基板を形成する工程である。支持工程は、記圧電基板から分離した前記圧電薄膜に前記支持基板を形成する工程である。
これらの製造方法では、圧電薄膜を安定した膜厚と所望の結晶方位として形成できるとともに、圧電体の材料利用効率を高めることができる。また、この製造方法では、圧電薄膜の厚み方向でイオン分布密度に偏りが生じることになる。この結果、圧電薄膜がやや反った状態となり、支持基板との接合に困難性が生じやすくなる。しかしながら、本製造方法を用いる場合、低温環境下で熱応力の影響を抑制しながら圧電基板と支持基板とを接合させることが可能であるため、効用が非常に大きなものとなる。
【0020】
上述の圧電デバイスの製造方法において、圧電薄膜に機能電極を形成する機能電極形成工程を有すると好適である。
これらの製造方法では、シリカ前駆体の加水分解反応によるシリカへの転化を利用して、圧電薄膜と支持基板とを強固に接合させ、機能電極からの信号漏れを防いだ圧電デバイスを得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、圧電基板と支持基板との接合に、低温で転化するシリカ前駆体を含有するバインダ層を用いるので、シリカ前駆体のシリカ化により、バインダ層が低温から固化し、圧電基板と支持基板とを強固に安定して接合することができる。そして、圧電基板と支持基板との接合面には、硬度が高く、導電率が低いバインダ層が設けられるので、圧電デバイスの特性劣化や信頼性低下を防ぐことができる。さらに、シリカ前駆体への水分の供給のために吸湿層を設けることにより、バインダ層による接合の強度を均一化、安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態に係る弾性波デバイスの構成を説明する図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る弾性波デバイスの製造方法の製造フローを説明する図である。
図3図2に示す製造フローの各工程における模式図である。
図4図2に示す製造フローの各工程における模式図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る弾性波デバイスの製造方法の製造フローを説明する図である。
図6図5に示す製造フローの各工程における模式図である。
図7図5に示す製造フローの各工程における模式図である。
図8】本発明の第3の実施形態に係る弾性波デバイスの製造方法の製造フローを説明する図である。
図9図8に示す製造フローの各工程における模式図である。
図10図8に示す製造フローの各工程における模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
《第1の実施形態》
まず、本発明の第1の実施形態に係る圧電デバイスについて、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイスを具体例として説明する。
図1は、本実施形態のSAWデバイス10の構成を示す図である。
【0024】
SAWデバイス10は、積層基板部80と、IDT(Interdigital Transducer)電極50と、配線60と、保護絶縁膜70と、を備えている。積層基板部80は、全体としての厚みが約250μmであり、圧電体単結晶薄膜11と、支持基板12と、吸湿層31と、酸化珪素層33と、誘電体層21と、を備えている。
【0025】
支持基板12は、積層基板部80の最底面に設けられている。ここでは、支持基板12は、アルミナ基板またはマグネシア基板からなる。アルミナ基板やマグネシア基板は、熱伝導が良好で、線膨張率が圧電単結晶材料より小さい材質である。このような支持基板12を用いることにより、SAWデバイス10は周波数温度特性や放熱性・耐電力性が改善されたものになる。
【0026】
酸化珪素層33は、支持基板12の上面に積層して形成されている。この酸化珪素層33は、詳細を後述するが、支持基板12と圧電体単結晶薄膜11との接合のために設けられている。酸化珪素層33は、酸化珪素からなる。
【0027】
吸湿層31は、酸化珪素層33の上面に積層して形成されている。ここでは、吸湿層31は、膜厚が1400nmの窒化アルミニウム(AlN)膜である。この吸湿層31は、詳細を後述するが、バインダ層32(不図示)に水分を供給するために設けられたものである。なお、吸湿層31は、圧電単結晶基板1や支持基板12に比べて吸湿性の高い材質であれば、その他の材質で構成されていてもよい。例えば、溶射法で形成したアルミナ、イットリアやシリカ系の層、200℃以下の低温あるいは0.1から10Paの低真空度でのスパッタリング法やCVD法で形成した酸化珪素層、樹脂や揮発成分を混合した層などのポーラスな微細構造を備える層であってもよい。
【0028】
なお、吸湿層31は、ヤング率が低すぎると、圧電単結晶基板1(不図示)や圧電体単結晶薄膜11からの膜応力に耐えられなくなり割れなどが問題になる。逆にヤング率が高すぎると、圧電単結晶基板1(不図示)や圧電体単結晶薄膜11と支持基板12との線膨張率差の影響で破断しやすくなる。また、誘電率が高すぎると、デバイス特性に悪影響を与え、特に高周波デバイスの場合、配線間の容量が大きくなるためデバイス特性劣化が顕著になる。また、圧電体材料との線膨張率差が大きすぎると、信頼性が劣化する。これらのことから、吸湿層31は、ヤング率、誘電率、線膨張率などの観点も踏まえて材料を選定するとよい。
【0029】
誘電体層21は、吸湿層31の上面に積層して形成されている。ここでは、誘電体層21は、膜厚が700nmの酸化珪素層である。この誘電体層21は、SAWデバイス10における表面弾性波を表層にとじ込め、良好な特性を得る機能を果たす目的で設けられている。なお、誘電体層21は必須の構成では無く設けなくても良い。
【0030】
圧電体単結晶薄膜11は、誘電体層21の上面に積層して形成されている。ここでは、圧電体単結晶薄膜11は、LT(タンタル酸リチウム)単結晶の薄膜である。なお、圧電体単結晶薄膜11の材料は、LT、LN(LiNbO)、LBO(Li)、ランガサイト(LaGaSiO14)、KN(KNbO)などの圧電体から適宜選択するとよい。
【0031】
IDT電極50や配線60は、圧電体単結晶薄膜11の上面にパターン形成されている。IDT電極50は、圧電体単結晶薄膜11に対して電気機械結合し、圧電体単結晶薄膜11とともに表面弾性波共振子を構成する。配線60は、IDT電極50と外部回路との間で高周波信号を伝達する。ここでは、IDT電極50や配線60は、アルミニウムとチタンの積層膜である。
【0032】
図2は、本実施形態のSAWデバイスの製造フローを説明する図である。
図3,4は、製造フローの各工程における模式図である。
【0033】
まず、圧電単結晶基板1が用意され、後に圧電体単結晶薄膜11(符号不図示)を分離するために、圧電単結晶基板1の主面1A(接合面1A)側からイオンが打ち込まれる(S101)。この工程が、本実施形態におけるイオン注入工程に相当する。これにより、図3(S101)に示すように、圧電単結晶基板1の接合面1Aから所定深さの位置に欠陥層2が形成される。欠陥層2は、圧電単結晶基板1に注入されたイオンの原子が集中して存在する領域である。
【0034】
より具体的には、ここで用いるイオンは水素イオンである。そして、水素イオンは80KeVの加速電圧で、1.0×1017atom/cm2のドーズ量となるように、圧電単結晶基板1に打ち込まれる。これにより、欠陥層2は、接合面1Aから深さ約550nmの位置に形成される。欠陥層2の形成位置は、イオン注入時の加速電圧により決定され、例えば、約半分の深さに欠陥層2を形成する場合は、加速電圧を約半分にすればよい。なお、注入するイオンは、水素イオンの他、ヘリウムイオンやアルゴンイオンなどから適宜選択するとよい。
【0035】
次に、図3(S102)に示すように、圧電単結晶基板1の接合面1Aに、誘電体層21が形成される(S102)。
【0036】
次に、図3(S103)に示すように、誘電体層21の表面に吸湿層31が形成される(S103)。この工程が、本実施形態における吸湿層形成工程に相当する。
【0037】
次に、図3(S104)に示すように、吸湿層31の表面に酸化珪素層41が形成され、その表面がCMP(Chemical Mechanical Polishing)法などにより平坦化される(S104)。この酸化珪素層41は、表面の平坦化のために設けていて、酸化珪素層41の膜厚を約1μm以下と薄く形成しておくことにより、吸湿層31からバインダ層32(不図示)への水分供給が阻害されることを防ぐことができる。
【0038】
次に、吸湿層31が形成された圧電単結晶基板1を、水蒸気が充満した高湿槽の内部に、一定時間以上放置する(S105)。これにより、図3(S105)に示すように、吸湿層31が水分を吸収する。この工程が、本実施形態における吸湿工程に相当する。なお、この工程は、吸湿層31が形成された圧電単結晶基板1を、湿度が0%ではない大気雰囲気中で放置することや、積層基板を水に浸漬させることや、水滴を噴霧することで実現してもよい。
【0039】
また、図3(S111)に示すように、支持基板12が用意され、支持基板12の表面にバインダ層32が形成される(S111)。この工程が、本実施形態におけるバインダ層形成工程に相当する。
【0040】
ここで、バインダ層32とは、シリカ前駆体を溶剤成分に溶解、または混合させたSOG材からなる層のことである。そのため、バインダ層32が形成された支持基板12は、バインダ層形成の後に減圧雰囲気、または百数十度の加熱雰囲気下に置かれ、バインダ層32に含まれる溶剤成分の揮散が促進されると好適である。
【0041】
また、ここで用いるシリカ前駆体は、組成がSi(OCH10である珪酸エステル、または、組成が「−(SiHNH)−」の重合体であるポリシラザンである。これらのシリカ前駆体は、50℃から100℃程度の低温でも活性があるものであり、水分が供給されることで加水分解反応が進展してシリカ化が進むものである。以下に、これらのシリカ前駆体の加水分解による反応式を示す。
【0042】
珪酸エステル:
Si(OCH10+10HO → Si(OH)10+10CHOH
Si(OH)10 → 4SiO+5H
ポリシラザン:
−(SiHNH)− + HO → SiO+NH+2H
なお、シリカ前駆体としては、50℃から100℃程度の低温で、加水分解反応や重合反応によりシリカに転化するものであれば、上記以外の組成のものを用いてもよい。
【0043】
次に、図4(S121)に示すように、支持基板12側のバインダ層32と、圧電単結晶基板1側の酸化珪素層41(符号不図示)とを重ね合わせて、両者が貼り合わせられる(S121)。この工程が、本実施形態における貼合工程に相当する。この工程も、減圧雰囲気、または百数十度の加熱雰囲気下で実施し、バインダ層32に含まれる溶剤成分の揮散を促進すると、接合面でのボイドの発生を抑制でき好適である。
【0044】
次に、圧電単結晶基板1と支持基板12との接合体を、80℃の加熱環境下に置いて一定時間放置する(S122)。このような加熱環境下に置くことにより、バインダ層32のシリカ化が促進され、シリカ前駆体が低温からシリカ(酸化珪素)に転化していく。したがって、この工程が、本実施形態におけるバインダ層固化工程に相当する。これにより、図4(S122)に示すように、バインダ層32(不図示)から酸化珪素層33が形成され、支持基板12と圧電単結晶基板1とが強固に接合される。バインダ層32には、吸湿層31から水分が供給され、低温かつ短時間で、バインダ層32に含まれるシリカ前駆体のシリカ化が進むことになる。
【0045】
なお、圧電単結晶材料がLTやLNである場合は特に、圧電単結晶材料の焦電性が問題になる。すなわち、圧電単結晶基板1と支持基板12とを接合する際に、長時間、高温での熱負荷が作用すると、圧電単結晶基板1で発生する焦電荷によって、デバイスの機能電極が破壊されたり、圧電単結晶の分極反転が生じて圧電性が劣化したりする場合がある。しかしながら、本実施形態のように、圧電単結晶基板1と支持基板12との強固な接合が低温での加熱で実現できる場合には、焦電荷の発生が抑制されるので、良好なデバイス特性を実現することが可能である。
【0046】
次に、酸化珪素層33を介して強固に接合した支持基板12と圧電単結晶基板1との接合体は、約250℃の加熱環境下に置かれる(S123)。すると、図4(S123)に示すように、圧電単結晶基板1(符号不図示)が欠陥層2(符号不図示)で分離されて圧電体単結晶薄膜11が形成される。この工程が、本実施形態における分離工程に相当する。
【0047】
このように、イオン注入と熱処理とを用いて圧電体単結晶薄膜11を分離することで、良好な膜厚分布を保持して極めて薄い膜厚の圧電体単結晶薄膜11を容易に製造することができる。また、圧電単結晶基板1は結晶方位を任意に設定することが可能であるため、その圧電単結晶基板1へのイオン注入を用いて圧電体単結晶薄膜11を形成することにより、圧電体単結晶薄膜11の結晶方位も任意に設定することが可能になる。これにより、SAWデバイスとして望ましい結晶方位の圧電体単結晶薄膜11を得て、SAWデバイスの圧電特性を向上させることができる。
【0048】
次に、図4(S124)に示すように、圧電体単結晶薄膜11の表面がCMP法などにより平坦化される(S124)。
【0049】
次に、図4(S125)に示すように、圧電体単結晶薄膜11の表面に、SAWデバイスの動作に必要なIDT電極50、配線60、および、保護絶縁膜70が形成される(S125)。この工程が、本実施形態における機能電極形成工程に相当する。その後、個片化によりSAWデバイスが製造される。
【0050】
以上のSAWデバイスの製造方法では、低温からバインダ層のシリカ化が進んで、圧電単結晶基板1と支持基板12との接合強度が発現するために、圧電単結晶基板1と支持基板12との線膨張率差が大きくても、接合時に各種不具合が発生し難い。
【0051】
特に、本実施形態では、イオン注入により圧電体単結晶薄膜11を形成するために、圧電体単結晶薄膜11の結晶中にイオンの原子が介在し、その分布密度が圧電体単結晶薄膜11の厚み方向に偏るため、圧電体単結晶薄膜11が膜応力を持つことになる。そのため、仮に接合強度の発現に高温熱処理が必要であれば、膜応力と熱応力の足し合わせで圧電体単結晶薄膜11(圧電単結晶基板1)が支持基板12から剥がれ易くなり、安定的に強固な接合を実現することが困難である。したがって、バインダ層に十分な水分を供給して低温からシリカ化が進展して接合強度が発現する本実施形態の方法は、特に、高精度な周波数管理が必要とされる弾性波共振子デバイスにおいて、接合時の熱応力の影響を抑制して、強固な接合を安定的に実現させるために極めて有効であるといえる。
【0052】
その上、バインダ層32はシリカ化により酸化珪素層33となるので、硬度が極めて高く、導電率が極めて低く、良好なSAWデバイスの特性が得られることになる。
【0053】
なお、本実施形態では、支持基板12側にバインダ層32を設け、圧電体単結晶薄膜11側に吸湿層31を設け、両者を接合する例を示したが、バインダ層32を圧電体単結晶薄膜11側に、吸湿層31を支持基板12側に設け、両者を接合するようにしてもよい。また、支持基板12側、または、圧電体単結晶薄膜11側のいずれか一方に、吸湿層31とバインダ層32とを積層して設けておき、バインダ層32と支持基板12、または、バインダ層32と圧電体単結晶薄膜11とを接合するようにしてもよい。
【0054】
《第2の実施形態》
次に、本発明の第2の実施形態に係る圧電デバイスの製造方法について、SAWデバイスの製造方法を具体例として説明する。
【0055】
本実施形態では、イオン注入により一定程度低下する圧電体単結晶薄膜の圧電性や結晶性を回復するために、500℃程度での高温熱処理を圧電体単結晶薄膜に施し、その際の支持基板と圧電体単結晶薄膜との線膨張率差による熱変形を回避する製造方法について説明する。
【0056】
図5は、本実施形態のSAWデバイスの製造フローを説明する図である。
図6,7は、製造フローの各工程における模式図である。
【0057】
まず、圧電単結晶基板201が用意され、圧電単結晶基板201の主面201A(接合面201A)側からイオンが打ち込まれる(S201)。これにより、図6(S201)に示すように、圧電単結晶基板201の接合面201Aから所定深さの位置に欠陥層202が形成される。
【0058】
次に、図6(S202)に示すように、圧電単結晶基板201の接合面201Aに、被エッチング層291が形成される(S202)。被エッチング層291の表面は、CMP法などにより平坦化されると好適である。この被エッチング層291は、後にエッチングにより除去されるものである。ここで用いる被エッチング層291は、膜厚3μmのCu膜である。
【0059】
また、図6(S203)に示すように、仮支持基板212が用意され、仮支持基板212の表面にも被エッチング層292が形成される(S203)。被エッチング層292の表面は、CMP法などにより平坦化されると好適である。ここで用いる仮支持基板212は、圧電単結晶基板201と同じ材質である。このため、後の工程である圧電体単結晶薄膜211(符号不図示)の高温熱処理が、同種の材質からなる仮支持基板212に接合された状態で実施されることにより、高温熱処理に伴う圧電単結晶基板201の割れなどを防ぐことができる。なお、仮支持基板212の材質は、圧電体単結晶薄膜211(符号不図示)との線膨張係数差が小さい、他の材質であってもよい。また、ここで用いる被エッチング層292は、膜厚3μmのCu膜である。
【0060】
次に、図6(S204)に示すように、被エッチング層292(符号不図示)と被エッチング層291(符号不図示)とが接合され、被エッチング接合層293が形成される(S204)。ここでの接合法はある程度の接合強度が得られる接合法であれば良い。仮支持基板212と圧電単結晶基板201とは線膨張率が等しいので、加熱を要する接合法を用いても良い。
【0061】
次に、被エッチング接合層293を介して接合した仮支持基板212と圧電単結晶基板201との接合体は、約250℃の加熱環境下に置かれる(S205)。すると、図6(S205)に示すように、圧電単結晶基板201(符号不図示)が欠陥層202(符号不図示)で分離されて圧電体単結晶薄膜211が形成される。続いて、被エッチング接合層293を介して接合した仮支持基板212と圧電体単結晶薄膜211との接合体は、約500℃の高温環境下に置かれる。すると、イオン注入によって崩れた圧電体単結晶薄膜211の結晶性が回復していく。なお、仮支持基板212と圧電単結晶基板201(符号不図示)とが同じ材質で線膨張率が同じであるために、これらの熱処理による変形は殆ど生じず、圧電単結晶基板201の破壊は防がれる。
【0062】
次に、図6(S206)に示すように、圧電体単結晶薄膜211の表面がCMP法などにより平坦化される(S206)。
【0063】
ここまでの工程を経て、被エッチング接合層293を介して圧電体単結晶薄膜211を仮支持基板212に接合した薄膜仮支持構造200が構成される。
【0064】
次に、図7(S207)に示すように、薄膜仮支持構造200における圧電体単結晶薄膜211の表面に、誘電体層221が形成される(S207)。
【0065】
次に、図7(S208)に示すように、薄膜仮支持構造200における誘電体層221の表面に吸湿層231が形成される(S208)。
【0066】
次に、図7(S209)に示すように、薄膜仮支持構造200における吸湿層231の表面に酸化珪素層241が形成され、その表面がCMP法などにより平坦化される(S209)。
【0067】
次に、吸湿層231が形成された薄膜仮支持構造200を、水蒸気が充満した高湿槽の内部に、一定時間以上放置する(S210)
また、図7(S211)に示すように、支持基板213が用意され、支持基板213の表面にバインダ層233が形成される(S211)。
【0068】
次に、図7(S221)に示すように、支持基板213側のバインダ層233と、薄膜仮支持構造200側の酸化珪素層241とを重ね合わせて、両者が貼りあわされる(S221)。
【0069】
次に、薄膜仮支持構造200と支持基板213との接合体を、80℃の加熱環境下に置いて一定時間放置する(S222)。このような加熱環境下に置くことにより、バインダ層233のシリカ化が促進され、シリカ前駆体が低温からシリカ(酸化珪素)に転化していく。これにより、図7(S222)に示すように、バインダ層233(不図示)から酸化珪素層234が形成され、支持基板213と薄膜仮支持構造200とが強固に接合される。
【0070】
次に、圧電体単結晶薄膜211や、仮支持基板212、支持基板213を接合した接合体は、硝酸などのエッチング液に浸漬され、被エッチング接合層293がエッチングされて、被エッチング接合層293および仮支持基板212が除去される(S223)。これにより、図7(S223)に示すような、圧電体単結晶薄膜211と支持基板213とが、酸化珪素層234を介して接合された構造体が構成される。
【0071】
この後、第1の実施形態と同様に(図4参照。)、IDT電極や保護絶縁膜が形成され、個片化されることにより、SAWデバイスが製造される(S224)。
【0072】
この第2の実施形態においては、仮支持基板を圧電基板のイオン注入面側に形成した状態で、圧電薄膜を分離する。仮支持基板は、圧電基板との界面に作用する熱応力がほとんど存在しない、あるいは、支持基板と圧電基板との界面に作用する熱応力よりも小さい材料からなる。そのため、圧電薄膜の分離時に熱応力によって圧電薄膜に不具合が発生する危険性を従来よりも抑制できる。一方、圧電薄膜の分離のための加熱の後で支持基板は圧電薄膜に形成するので、支持基板の構成材料は、支持基板と圧電薄膜との界面に作用する熱応力を考慮することなく、任意の線膨張係数のものを選定できる。
【0073】
そのため、圧電薄膜の構成材料と支持基板の構成材料との組み合わせの選択性を高められる。例えば、フィルタ用途のデバイスでは、支持基板の構成材料の線膨張係数を圧電薄膜の線膨張係数よりも大幅に小さくすることで、フィルタの温度−周波数特性を向上させることが可能になる。また、支持基板に熱伝導率性が高い構成材料を選定して放熱性および耐電力性を向上させることが可能になり、安価な構成材料を選定してデバイスの製造コストを低廉にすることが可能になる。
【0074】
《第3の実施形態》
次に、本発明の第3の実施形態に係る圧電デバイスについて、圧電体単結晶薄膜をメンブレン構造で支持するBAW(Bulk Acoustic Wave)デバイスの製造方法を具体例として説明する。
【0075】
図8は、本実施形態のBAWデバイスの製造フローを説明する図である。
図9,10は、製造フローの各工程における模式図である。
【0076】
本実施形態では、まず、第2の実施形態と同様の方法で、図9(S301)に示すような、圧電体単結晶薄膜311が被エッチング接合層393を介して仮支持基板312に接合された薄膜仮支持構造300が形成される(S301)。
【0077】
次に、図9(S302)に示すように、薄膜仮支持構造300における圧電体単結晶薄膜311の表面に、BAWデバイスを駆動させるための下部電極パターン321が形成される(S302)。
【0078】
次に、図9(S303)に示すように、薄膜仮支持構造300における圧電体単結晶薄膜311の表面に、下部電極パターン321を覆うように、メンブレン構造の空洞部を形成するための犠牲層パターン331が形成される(S303)。
【0079】
次に、図9(S304)に示すように、薄膜仮支持構造300における圧電体単結晶薄膜311の表面に、犠牲層パターン331を覆うようにメンブレン支持層341が形成される(S304)。メンブレン支持層341は、スパッタ成膜後にCMPにより表面が平坦化される。ここで用いるメンブレン支持層341は、酸化珪素層である。
【0080】
また、図9(S305)に示すように、薄膜仮支持構造300におけるメンブレン支持層341の表面に、吸湿層351および平坦化用の酸化珪素層361が成膜される(S305)。その後、酸化珪素層361の表面がCMP法などにより平坦化され、薄膜仮支持構造300は、水蒸気が充満した高湿槽の内部に、一定時間以上放置される。
【0081】
次に、図9(S306)に示すように、支持基板313が用意され、支持基板313の表面にバインダ層343が形成される(S306)。
【0082】
次に、図10(S307)に示すように、支持基板313側のバインダ層343と、薄膜仮支持構造300側の酸化珪素層361とを重ね合わせて、両者が貼りあわされる(S307)。
【0083】
次に、薄膜仮支持構造300と支持基板313との接合体を、80℃の加熱環境下に置いて一定時間放置する(S308)。このような加熱環境下に置くことにより、バインダ層343のシリカ化が促進され、シリカ前駆体が低温からシリカ(酸化珪素)に転化していく。これにより、図10(S308)に示すように、バインダ層343(不図示)から酸化珪素層344が形成され、支持基板313と薄膜仮支持構造300とが強固に接合される。
【0084】
次に、圧電体単結晶薄膜311や、仮支持基板312、支持基板313を接合した接合体は、硝酸などのエッチング液に浸漬され、被エッチング接合層393がエッチングされて、被エッチング接合層393および仮支持基板312が除去される(S309)。これにより、図10(S309)に示すような、圧電体単結晶薄膜311と支持基板313とが酸化珪素層344を介して接合された構造体、が構成される。
【0085】
次に、図10(S310)に示すように、圧電体単結晶薄膜311が窓開け加工されるとともに、BAWデバイスを駆動させるための上部電極パターン322が形成される(S310)。
【0086】
次に、図10(S311)に示すように、圧電体単結晶薄膜311の窓から犠牲層パターン331(符号不図示)にエッチャントが導入され、犠牲層パターン331(符号不図示)を除去してメンブレン空間331Aが形成される(S311)。
【0087】
この後、個片化されることによりBAWデバイスが製造される。
【0088】
なお、以上の各実施形態で示した製造方法により本発明の圧電デバイスは製造できるが、圧電デバイスはその他の方法で製造してもよい。例えば、圧電単結晶薄膜の形成は、圧電単結晶基板へのイオン注入と剥離とにより実現する他、圧電単結晶基板の研削、圧電単結晶基板のエッチングなどにより実現してもよい。
【0089】
また、圧電デバイスとして、本実施形態ではSAWデバイスとBAWデバイスについて示したが、これに限られるものではなく、IDT電極を覆うように絶縁層が設けられた弾性境界波デバイスや、板波デバイス、ラム波デバイスなどにも適用できる。
【符号の説明】
【0090】
1,201…圧電単結晶基板
1A,201A…接合面
2,202…欠陥層
10…SAWデバイス
11,211,311…圧電体単結晶薄膜
12,213,313…支持基板
21,221…誘電体層
31,231,351…吸湿層
32,233,343…バインダ層
33,41,234,241,344,361…酸化珪素層
50…IDT電極
60…配線
70…保護絶縁膜
80…積層基板部
200,300…薄膜仮支持構造
212,312…仮支持基板
291,292…被エッチング層
293,393…被エッチング接合層
321…下部電極パターン
322…上部電極パターン
331…犠牲層パターン
331A…メンブレン空間
341…メンブレン支持層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10