(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外周面の結晶組織において、平均結晶粒径が10μm以上150μm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の円筒型スパッタリングターゲット用素材。
外周面の結晶組織において、平均結晶粒径に対して2倍以上の結晶粒の占める面積割合が全結晶面積の20%未満とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の円筒型スパッタリングターゲット用素材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、スパッタリングターゲットを用いて成膜を行う場合、スパッタリングターゲット内の異物に起因して異常放電(アーキング)が発生することがあり、そのため均一な配線膜を形成できないことがある。ここで異常放電とは、正常なスパッタリング時と比較して極端に高い電流が突然急激に流れて、異常に大きな放電が急激に発生してしまう現象であり、このような異常放電が発生すれば、パーティクルの発生原因となったり、配線膜の膜厚が不均一となったりしてしまうおそれがある。したがって、成膜時の異常放電はできるだけ回避することが望まれる。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、銅又は銅合金からなり、異常放電の発生を抑制して安定して成膜を行うことができる円筒型スパッタリングターゲット用素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係る円筒型スパッタリングターゲット用素材は、銅又は銅合金からなる円筒型スパッタリングターゲット用素材であって、EBSD法により、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定し、これを単位面積1mm
2当たりに換算した単位全粒界長さL
Nと、さらに測定範囲における特殊粒界の全特殊粒界長さLσを測定し、これを単位面積1mm
2当たりに換算した単位全特殊粒界長さLσ
Nと、によって特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nを定義した場合に、軸線方向の両端部の外周面と中央部の外周面で測定した前記特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nの平均値が0.5以上とされるとともに、軸線方向の両端部の外周面と中央部の外周面で測定された前記特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nのそれぞれの値が前記平均値に対して±20%の範囲内とされており、さらに、不純物元素であるSiとCの総計が10質量ppm以下、Oが50質量ppm以下、とされていることを特徴としている。
【0009】
このような構成とされた本発明の円筒型スパッタリングターゲット用素材によれば、外周面の結晶組織において、上述の特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nの平均値が0.5以上とされるとともに、軸線方向の両端部の外周面と中央部の外周面で測定された前記特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nのそれぞれの値が前記平均値に対して±20%の範囲内とされているので、スパッタ面となる外周面において、結晶粒界の整合性が向上し、スパッタ面全体で均一にスパッタされることになり、高出力下でのスパッタにおいても異常放電の発生を抑制することができる。
さらに、本発明の円筒型スパッタリングターゲット用素材によれば、不純物元素であるSiとCの総計が10質量ppm以下、Oが50質量ppm以下、とされていることから、これらの不純物に起因する異常放電を抑制することができる。
【0010】
また、本発明の円筒型スパッタリングターゲット用素材においては、外周面の結晶組織において、平均結晶粒径が10μm以上150μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、外周面における平均結晶粒径が10μm以上150μm以下と比較的微細とされていることから、スパッタ面の結晶粒径が微細となってスパッタを安定して実施することが可能となり、異常放電の発生を抑制することができる。
【0011】
さらに、本発明の円筒型スパッタリングターゲット用素材においては、外周面の結晶組織において、平均結晶粒径に対して2倍以上の結晶粒の占める面積割合が全結晶面積の20%未満とされていることが好ましい。
この場合、スパッタ面となる外周面の結晶粒径が均一化されていることから、スパッタがスパッタ面全体で均一に実施されることになり、異常放電の発生を確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銅又は銅合金からなり、異常放電の発生を抑制して安定して成膜を行うことができる円筒型スパッタリングターゲット用素材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット用素材について、添付した図を参照して説明する。
本実施形態に係る円筒型スパッタリングターゲット用素材10は、ガラス基板等に銅又は銅合金からなる薄膜(配線膜)をスパッタによって成膜する際に用いられる円筒型スパッタリングターゲットの素材となるものである。
【0015】
この円筒型スパッタリングターゲット用素材10は、
図1に示すように、円筒形状をなしており、例えば外径Dが140mm≦D≦180mmの範囲内、内径dが110mm≦d≦135mmの範囲内、軸線方向長さLが1000mm≦L≦4000mmの範囲内とされている。
ここで、円筒型スパッタリングターゲット用素材10の外周面11が、円筒型スパッタリングターゲットにおいてスパッタ面とされる。
【0016】
この円筒型スパッタリングターゲット用素材10は、成膜される銅又は銅合金からなる薄膜に応じた組成の銅又は銅合金で構成されている。
また、本実施形態である円筒型スパッタリングターゲット用素材10は、不純物元素であるSiとCの総計が10質量ppm以下、Oが50質量ppm以下、とされている。
ここで、本実施形態である円筒型スパッタリングターゲット用素材10においては、無酸素銅等の純銅、あるいは、Mg、Al、Ag、Ti、Zr、Mn、Ca、Cr、Sn、Ni、Zn、Co、Pの中から選択される1種又は2種以上を含有した銅合金で構成されたものとされている。なお、Mg、Al、Ag、Ti、Zr、Mn、Ca、Cr、Sn、Ni、Zn、Co、Pの中から選択される1種又は2種以上を含有させる場合には、その含有量は合計で0.001質量%以上10質量%以下の範囲が望ましい。
【0017】
上述の薄膜(配線膜)としては、抵抗率、耐熱性、耐腐食性等の各種特性が要求されており、様々な銅又は銅合金が適用されている。そこで、本実施形態では、円筒型スパッタリングターゲット用素材10を構成する銅合金としては、例えば、Cu−0.002〜2mass%Mg合金、Cu−0.001〜10mass%Al合金、Cu−0.001〜10mass%Mn合金、Cu−0.05〜4mass%Ca合金、Cu−0.01〜10mass%Ag合金等が挙げられる。
【0018】
そして、本実施形態である円筒型スパッタリングターゲット用素材10においては、スパッタ面となる外周面の結晶組織において、EBSD法により、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定し、これを単位面積1mm
2当たりに換算した単位全粒界長さL
Nと、さらに測定範囲における特殊粒界の全特殊粒界長さLσを測定し、これを単位面積1mm
2当たりに換算した単位全特殊粒界長さLσ
Nと、によって定義される特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nを、軸線O方向両端部の外周面と中央部の外周面で測定し、測定した前記特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nの平均値が0.5以上とされている。
【0019】
ここで、EBSD法とは、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡による電子線反射回折法(Electron Backscatter Diffraction Patterns:EBSD)法を意味し、またOIMは、EBSDによる測定データを用いて結晶方位を解析するためのデータ解析ソフト(Orientation Imaging Microscopy:OIM)である。さらにCI値とは、信頼性指数(Confidence Index)であって、EBSD装置の解析ソフトOIM Analysis(Ver.5.3)を用いて解析したときに、結晶方位決定の信頼性を表す数値として表示される数値である(例えば、「EBSD読本:OIMを使用するにあたって(改定第3版)」鈴木清一著、2009年9月、株式会社TSLソリューションズ発行)。
【0020】
また、特殊粒界とは、結晶学的にCSL理論(Kronberg et al:Trans.Met.Soc.AIME,185,501(1949))に基づき定義されるΣ値で3≦Σ≦29に属する対応粒界であって、かつ、当該対応粒界における固有対応部位格子方位欠陥Dqが、Dq≦15°/Σ
1/2(D.G.Brandon:Acta.Metallurgica.Vol.14,p.1479,(1966))を満たす結晶粒界であるとして定義される。
さらに、結晶粒界は、二次元断面観察の結果、隣り合う2つの結晶間の配向方位差が15°以上となっている場合の当該結晶間の境界として定義される。
【0021】
また、本実施形態である円筒型スパッタリングターゲット用素材10においては、軸線O方向両端部の外周面と中央部の外周面で測定された特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nのそれぞれの値が、測定した特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nの平均値に対して±20%の範囲内とされている。
本実施形態では、
図1に示すように、円筒型スパッタリングターゲット用素材10の軸線O方向一方側の端面(
図1の上端面)からA=20mmの位置で周方向に90°間隔の4点(a1,a2,a3,a4)と、軸線O方向中央部の位置で周方向に90°間隔の4点(b1,b2,b3,b4)と、軸線O方向他方側の端面(
図1の下端面)からC=20mmの位置で周方向に90°間隔の4点(c1,c2,c3,c4)の12点で、それぞれ特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nを測定している。
【0022】
さらに、本実施形態である円筒型スパッタリングターゲット用素材10においては、外周面の結晶組織において、平均結晶粒径が10μm以上150μm以下の範囲内とされている。
ここで、平均結晶粒径は、上述のEBSD法によって特定した結晶粒界から、観察エリア内の結晶粒子数を算出し、観察エリア内の結晶粒界の全長を結晶粒子数で割って結晶粒子面積を算出し、これを円換算することにより、平均結晶粒径とした。
【0023】
また、本実施形態である円筒型スパッタリングターゲット用素材10においては、外周面の結晶組織において、平均結晶粒径に対して2倍以上の結晶粒の占める面積割合が全結晶面積の20%未満とされている。
ここで、平均結晶粒径に対して2倍以上の結晶粒が占める面積割合については、平均結晶粒径を算出した後、この平均結晶粒径の2倍以上の結晶粒を特定し、その結晶粒径と個数をカウントして平均結晶粒径に対して2倍以上の結晶粒が占める面積を算出し、さらに観察されたすべての結晶粒の結晶粒径と個数をカウントして全面積を算出することによって求めたものである。
【0024】
次に、上述した構成の円筒型スパッタリングターゲット用素材10を製造する円筒型スパッタリングターゲット用素材の製造方法の一実施形態について、
図2のフロー図を参照して説明する。
本実施形態においては、鋳塊を鋳造する鋳造工程S01と、この鋳塊に対して熱間加工を行って円筒状熱間加工材を製造する熱間加工工程S02と、得られた円筒状熱間加工材に対して冷間加工を行う冷間加工工程S03と、冷間加工工程S03を実施した円筒状加工材に対して熱処理を実施する熱処理工程S04と、を備えている。本実施形態では、これら冷間加工工程S03と熱処理工程S04とを繰り返し実施する構成とされており、冷間加工工程S03では、円筒状熱間加工材及びこの円筒状熱間加工材を冷間加工及び熱処理した円筒状加工材に対して冷間加工を行うことになる。
【0025】
鋳造工程S01においては、縦型連続鋳造機や横型連続鋳造機、半連続鋳造機等の各種鋳造機を用いて、円柱状鋳塊を連続的に製出し、所定の長さに切断する。
ここで、鋳造工程S01においては、不純物元素であるSiとCの総計が10質量ppm以下となるように、Si含有量が<10質量ppm、かつ、C含有量が<5質量ppmとなる電気銅を用いて、Siが炉材等から溶出しない温度である1200℃以下で溶解鋳造を行う。高温になる箇所の部材についてはアルミナ系の耐火材を使用することによりSiの混入を防ぎ、かつ、Cが上昇しないようArガスなどの非酸化雰囲気にて樋内をシールする。また、Oが50質量ppm以下となるように、銅溶湯の脱酸処理を行う。具体的には、電気銅等の溶解原料の予熱、溶解、保持の際の炉内雰囲気をCO:0.5〜5.0vol%となるように制御し、かつ、溶銅が通過する樋内は非酸化雰囲気でシールすることにより、電気銅の溶解時に極限まで酸素を低減した状態としてその後の工程で酸素が上昇することなく、O≦50massppmの鋳塊を製造することが可能となる。なお、合金元素添加は、上述の制御された雰囲気内で実施される。
【0026】
熱間加工工程S02においては、円柱状の鋳塊を再結晶温度以上に加熱して圧延加工又は押出加工を施し、円筒状熱間加工材を製造する。なお、本実施形態では、熱間押出によって円筒状熱間加工材を製造している。ここで、熱間加工工程S02においては、得られる円筒状熱間加工材の平均結晶粒径が20mm以下となるように、熱間加工条件を設定することが好ましい。なお、上述の円筒状熱間加工材の平均結晶粒径としては、円筒型スパッタリングターゲットにおいてスパッタ面となる外周面の結晶組織を対象とすることが好ましい。
【0027】
冷間加工工程S03においては、円筒状鋳塊(及びこの円筒状鋳塊に対して冷間加工及び熱処理を施した円筒状加工材)に対して冷間加工を実施する。
ここで、本実施形態では、冷間加工工程S02として、抽伸加工により、冷間加工前の円筒状鋳塊又は円筒状加工材の外径を拡げる拡管工程を少なくとも2回以上実施するように構成している。
【0028】
熱処理工程S04においては、冷間加工を行った円筒状加工材に対して熱処理を実施する。熱処理手段としては、特に限定はなく、バッチ式の熱処理炉や連続焼鈍炉等を適用することができる。ここで、本実施形態では、熱処理工程S04をバッチ式の熱処理炉を用いて、熱処理条件を、熱処理温度が400℃以上900℃以下、前記熱処理温度範囲内での保持時間が15分以上120分以下の範囲内とした。
【0029】
ここで、本実施形態では、冷間加工工程S03と熱処理工程S04を繰り返し実施することにより、肉厚の加工度のトータルリダクションが15〜25%、外径の拡がりが30%以下、内径の拡がりが20%以下となるように、冷間加工工程S03の条件を設定している。
【0030】
上述のようにして成形された円筒型スパッタリングターゲット用素材10は、さらに加工が施され、円筒型スパッタリングターゲットとして使用される。ここで、円筒型スパッタリングターゲットは、スパッタ装置内で軸線を中心に回転して使用され、その外周面がスパッタ面として利用される。
【0031】
以上のような構成とされた本実施形態である円筒型スパッタリングターゲット用素材10によれば、不純物元素であるSiとCの総計が10質量ppm以下、Oが50質量ppm以下、とされていることから、これらの不純物に起因する異常放電を抑制することができる。
【0032】
さらに、本実施形態である円筒型スパッタリングターゲット用素材10によれば、外周面の結晶組織において、軸線O方向一方側(a1,a2,a3,a4)、軸線O方向中央部(b1,b2,b3,b4)、軸線O方向他方側(c1,c2,c3,c4)で測定された特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nの平均値が0.5以上とされるとともに、それぞれの測定値が、前記特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nの平均値に対して±20%の範囲内とされているので、スパッタ面となる外周面において、結晶粒界の整合性が向上し、スパッタ面全体で均一にスパッタされることになり、高出力下でのスパッタにおいても異常放電の発生を抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態である円筒型スパッタリングターゲット用素材10によれば、外周面における平均結晶粒径が10μm以上150μm以下の範囲内とされるとともに、平均結晶粒径に対して2倍以上の結晶粒が占める面積割合が全結晶面積の20%未満とされているので、外周面の結晶組織が均一微細化されており、スパッタ面全体において均一にスパッタを実施することができ、異常放電の発生を確実に抑制することができる。
【0034】
さらに、本実施形態である円筒型スパッタリングターゲット用素材10によれば、Mg、Al、Ag、Ti、Zr、Mn、Ca、Cr、Sn、Ni、Zn、Co、Pの中から選択される1種又は2種以上を含有する銅合金を用いているので、抵抗率、耐熱性、耐腐食性等の各種特性に優れた薄膜を成膜可能な円筒型スパッタリングターゲット用素材10とすることができる。なお、上述の銅合金においては、Mg、Al、Ag、Ti、Zr、Mn、Ca、Cr、Sn、Ni、Zn、Co、Pの中から選択される1種又は2種以上の含有量は、合計で0.001質量%以上10質量%以下の範囲内とすることが望ましい。
【0035】
また、本実施形態においては、円筒状熱間加工材の外周面における平均結晶粒径を20μm以下に設定しているので、この円筒状熱間加工材に対して繰り返し冷間加工と熱処理とを実施することで、外周面の結晶組織が均一微細化された円筒型スパッタリングターゲット用素材10を得ることが可能となる。
【0036】
さらに、本実施形態においては、冷間加工工程S03と熱処理工程S04を繰り返し実施することにより、肉厚の加工度のトータルリダクションが15〜25%、外径の拡がりが30%以下、内径の拡がりが20%以下となるように、冷間加工工程S03の条件を設定しているので、全周にわたって均一な加工を与えることができ、特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nのそれぞれの値が、測定した全ての前記特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nの平均値に対して±20%の範囲内とすることができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、熱処理工程S03の条件を、熱処理温度:400℃以上900℃以下、前記熱処理温度範囲内での保持時間:15分以上120分以下とするものとして説明したが、これに限定されることはなく、成形する円筒型スパッタリングターゲット用素材の組成及びサイズや熱処理を行う装置等に応じて適宜熱処理条件を設定してもよい。
【0038】
また、本実施形態では、円筒型スパッタリングターゲット用素材10を構成する銅又は銅合金として、無酸素銅等の純銅やMg、Al、Ag、Ti、Zr、Mn、Ca、Cr、Sn、Ni、Zn、Co、Pの中から選択される1種又は2種以上を含有し、残部が銅及び不可避不純物とされた組成からなる銅合金を例に挙げて説明したが、これ以外の銅又は銅合金を対象としてもよい。
【0039】
さらに、本実施形態では、熱加工工程S02によって円筒状熱間加工材を製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば
図3のフロー図に示すように、連続鋳造機又は半連続鋳造機を用いた連続鋳造工程S11によって、円筒状鋳塊を製造し、この円筒状鋳塊に対して、冷間加工を行う冷間加工工程S13と、冷間加工工程S13を実施した円筒状加工材に対して熱処理を実施する熱処理工程S14と、を繰り返し実施する構成としてもよい。この場合、連続鋳造工程S11においては、得られる円筒状鋳塊の平均結晶粒径が20mm以下となるように、鋳造条件を設定することが好ましい。なお、円筒状鋳塊の平均結晶粒径としては、円筒型スパッタリングターゲットにおいてスパッタ面となる外周面の結晶組織を対象とすることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
まず、縦型連続鋳造機により、表1に示す組成の銅又は銅合金からなる円柱状の鋳塊を製出した。このとき、銅溶湯中の不純物であるC、Si、O量を調整した。なお、原料として、Si含有量が10質量ppm未満、C含有量が5質量ppm未満となる電気銅を用いた。また、溶解鋳造時におけるSiの混入を抑制するために、溶解鋳造時の温度を、Siが炉材等から溶出しない温度である1200℃以下とするとともに、高温になる箇所の部材をアルミナ系の耐火材とした。また、Cの上昇を抑制するために、電気銅等の溶解原料の予熱、溶解、保持時の炉内雰囲気をCO:0.5〜5.0vol%となるように制御するとともに、樋内を非酸化雰囲気又は還元雰囲気とした。
【0041】
この鋳塊を800℃に加熱して熱間押出加工を実施し、円筒状熱間加工材(外径150mm、内径80mm)を製出した。
得られた円筒状熱間加工材に対して、抽伸加工(1〜10パス)→熱処理(400〜800℃×15分〜120分)を繰り返し実施するとともに矯正加工を行い、外径174mm、内径118mmの円筒型スパッタリングターゲット用素材を得た。
そして、この円筒型スパッタリングターゲット用素材を用いて円筒型スパッタリングターゲットを製造した。
上述の円筒型スパッタリングターゲット用素材、及び、円筒型スパッタリングターゲットについて、以下のような評価を実施した。
【0042】
<不純物元素の分析>
円筒型スパッタリングターゲット用素材中のSiの含有量は、TFS社製ARL−4460を用いて固体発光分光法によって測定した。
円筒型スパッタリングターゲット用素材中のCの含有量は、LECO社製CSLS600を用いて燃焼−赤外線吸収法によって測定した。
円筒型スパッタリングターゲット用素材中のOの含有量は、LECO社製RO−600を用いて不活性ガス融解−赤外線吸収法(JIS H 1067)によって測定した。
【0043】
<円筒型スパッタリングターゲット用素材の特殊粒界長さ比率>
得られた円筒型スパッタリングターゲット用素材の軸線O方向一方側の端面からA=20mmの位置で周方向に90°間隔の4点と、軸線O方向中央部の位置で周方向に90°間隔の4点と、軸線O方向他方側の端面からC=20mmの位置で周方向に90°間隔の4点の12点から試料を採取し、円筒型スパッタリングターゲット用素材の外周面を測定面とし、各試料の測定面について、耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、コロイダルシリカ溶液を用いて仕上げ研磨を行った。
そして、EBSD測定装置(HITACHI社製 S4300−SEM、EDAX/TSL社製 OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製 OIM Data Analysis ver.5.2)によって、結晶粒界、特殊粒界を特定し、その長さを算出することにより、特殊粒界長さ比率の解析を行った。
【0044】
まず、走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、電子線を試料表面に2次元で走査させ、後方散乱電子線回折による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点間を結晶粒界と認定した。
また、測定範囲における結晶粒界の全粒界長さLを測定し、これを単位面積1mm
2当たりに換算した単位全粒界長さL
Nを求めるとともに、隣接する結晶粒の界面が特殊粒界を構成する結晶粒界の位置を決定して特殊粒界の全特殊粒界長さLσを測定し、これを単位面積1mm
2当たりに換算した単位全特殊粒界長さLσ
Nを求め、単位全粒界長さL
Nと単位全特殊粒界長さLσ
Nとの比である特殊粒界長さ比率(Lσ
N/L
N)を算出した。
そして、測定した全ての特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nから平均値を算出するとともに、測定された特殊粒界長さ比率Lσ
N/L
Nの値の前記平均値に対する最大のばらつきを評価した。
【0045】
<円筒型スパッタリングターゲット用素材の平均結晶粒径>
得られた円筒型スパッタリングターゲット用素材の外周面における結晶組織観察を行い、平均結晶粒径を算出した。
特殊粒界長さ比率で用いた測定試料を用いて、電解放出型走査電子顕微鏡を用いたEBSD測定装置(HITACHI社製 S4300−SE,EDAX/TSL社製 OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製 OIM Data Analysis ver.5.2)によって、結晶粒界を特定した。測定条件は測定範囲:680×1020μm / 測定ステップ:2.0μm / 取込時間:20msec./pointとした。
【0046】
具体的には、上述の走査型電子顕微鏡を用いて、試料表面の測定範囲内の個々の測定点(ピクセル)に電子線を照射し、後方散乱電子線解析法による方位解析により、隣接する測定点間の方位差が15°以上となる測定点を結晶粒界とした。得られた結晶粒界から、観察エリア内の結晶粒子数を算出し、観察エリア内の結晶粒界の全長を結晶粒子数で割って結晶粒子面積を算出し、それを円換算することにより、平均結晶粒径とした。
【0047】
<平均結晶粒径に対して2倍以上の結晶粒が占める面積割合>
また、円筒型スパッタリングターゲット用素材の外周面における結晶組織観察を行い、平均結晶粒径に対して2倍以上の結晶粒が占める面積割合を算出した。
上述の手順により平均結晶粒径を算出した後、この平均結晶粒径の2倍以上の結晶粒径を有する結晶粒を特定し、その結晶粒径と個数をカウントして平均結晶粒径に対して2倍以上の結晶粒が占める面積を算出し、さらに観察されたすべての結晶粒の結晶粒径と個数をカウントして全面積を算出することによって求めた。
【0048】
<スパッタ試験>
得られた円筒型スパッタリングターゲットを用いて、以下の条件でスパッタ試験を実施し、スパッタ装置に付属されたアーキングカウンターを用いて、異常放電回数をカウントした。なお、雰囲気ガスとして、配線膜を形成する際に使用される「Arガス」、及び、酸素含有膜を形成する際に使用される「混合ガス」の2条件でスパッタ試験を実施した。評価結果を表1に示す。
電源:直流方式
スパッタ出力:600W
スパッタ圧:0.2Pa
スパッタ時間:8時間
到達真空度:4×10
−5Pa
雰囲気ガス組成:Arガス/混合ガス(90vol%Ar+10vol%O)
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、比較例1−5では、スパッタ試験においてArガス及び混合ガスのいずれの条件でも異常放電回数が多かった。
これに対して、本発明例1−6では、スパッタ試験においてArガス及び混合ガスのいずれの条件でも異常放電回数が少なくなっており、安定してスパッタを実施できることが確認された。