特許第5783326号(P5783326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783326
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20150907BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20150907BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   G01N27/62 D
   G01N27/62 X
   G01N30/72 C
   G01N30/86 P
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-509980(P2014-509980)
(86)(22)【出願日】2012年4月12日
(86)【国際出願番号】JP2012059976
(87)【国際公開番号】WO2013153647
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2014年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝野 夏世
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−127714(JP,A)
【文献】 特開平6−89695(JP,A)
【文献】 特開2004−20323(JP,A)
【文献】 特開平11−83535(JP,A)
【文献】 特開平7−83901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62 −27/70
G01N 30/72
G01N 30/86
H01J 49/26 −49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数の試料成分の濃度の時間変化がピークを示すように試料がイオン源に導入され、該試料中の成分をイオン化して質量電荷比に応じて分離しパルスカウント型検出器により検出する質量分析装置において、
a)予備的な実験の結果に基づいて得られた、1つのクロマトグラムピークに含まれるイオン数と測定再現性の指標であるCV値との関係式を表す情報を格納しておく記憶手段と、
b)指定された1又は複数の成分由来のイオンを1回ずつ検出する測定を繰り返すときの1測定周期であるループタイム、及び、該ループタイム中で目的成分由来のイオンを検出するためのドゥエルタイム、が測定条件として与えられ、実際の又は仮想的な測定結果として目的成分のクロマトグラムピーク面積値が与えられたときに、それらループタイム、ドゥエルタイム及びクロマトグラムピーク面積値からイオン数を計算し、求まったイオン数を前記記憶手段に格納されている情報に基づく関係式に照らして基準CV値を算出する演算処理手段と、
を備えることを特徴とする質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の質量分析装置であって、
前記演算処理手段は、CV値が与えられたときに、該CV値を前記記憶手段に格納されている情報に基づく関係式に照らしてイオン数を算出する機能を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の質量分析装置であって、
前記演算処理手段は、CV値からイオン数が算出されたあとに、クロマトグラムピーク面積値、ドゥエルタイム及びループタイムのうちの2つが定められている条件の下で他の1つを求める機能を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の質量分析装置であって、
前記演算処理手段は、クロマトグラムピーク面積値及びドゥエルタイムが定められた条件の下でループタイムが算出されたあと、該ループタイムから1測定周期中に測定可能な成分の数を求める機能を有することを特徴とする質量分析装置。
【請求項5】
請求項3に記載の質量分析装置であって、
前記演算処理手段は、ドゥエルタイム及びループタイムが定められた条件の下でクロマトグラムピーク面積値が算出されたあと、クロマトグラムピーク面積値と成分濃度との関係を利用して成分濃度を求める機能を有することを特徴とする質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン検出器としてパルスカウント型検出器を用いた質量分析装置に関し、さらに詳しくは、例えば液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)のように、繰り返し実行される質量分析によりクロマトグラムを作成することが可能な質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分析装置の性能を評価する1つの重要な要素としてデータの再現性がある。再現性を定量的に表す指標としては、標準偏差STDEVを平均値Averageで除して100を乗じたCV(Coefficient of Variation)値(変動係数、相対標準偏差などと呼ばれることもある)がよく用いられている。例えば液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)を用いた定量分析の場合、既知濃度の試料を測定した結果に基づき予め検量線が作成されるが、検量点を決める際にもCV値が非常に重要である。例えば米国食品医薬局(FDA)の基準では、定量下限(LOQ=Limit of Quantitation)である検量点におけるCV値は20%以下、それ以外の検量点におけるCV値は15%以下、と定められている。
【0003】
一般にLC/MS等のクロマトグラフ装置のCV値は、複数のクロマトグラムピークの面積値から算出される(特許文献1等参照)。しかしながら、通常、或る測定により得られたクロマトグラムに基づいて計算されたCV値には、統計的な値のばらつき要素のほかに、測定条件等に依存する不安定要素が含まれる。こうした測定条件等による不安定要素を取り除き、安定した再現性の良いデータをいかに求めることができるかが、定量分析の精度のみならず、装置を評価する上でも重要である。
【0004】
クロマトグラムピークの面積値からCV値を算出することは、一般に入手可能な解析ソフトウエアにより容易に行える。しかしながら、そうした手法でCV値を求めても、測定条件等による不安定要素を分離したり識別したりすることはできないため、得られたその実測CV値の結果に基づいて、その装置の性能が充分に発揮できているのか、或いは、測定条件が適切であるのか、などを分析者が判断するのは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−83901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主な目的は、データの統計的なばらつき要因のみを含むCV値を基準値として提示可能とすることにより、実測CV値との比較による実測データの評価等を行うことができる質量分析装置を提供することにある。また、本発明の他の目的は、目標とするCV値から逆に、該CV値を実現するのに適切な測定条件を導き出せるようにした質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
質量分析装置のためのイオン検出器としては、大別して、イオン電流の平均値や積分値を測定する直流型検出器と、到達したイオンの個数をパルス信号として計数するパルスカウント型検出器と、が用いられている。一般的には前者の直流型検出器が利用されることが多いが、信号強度が低く且つ化学的ノイズが比較的小さい場合には、微小イオン量の測定に有利な、後者のパルスカウント型検出器がよく利用される。例えば、液体クロマトグラフで成分分離された試料液中の成分のMS/MS分析(タンデム分析ともいう)を行うLC/MS/MSでは、パルスカウント型検出器が利用されることが比較的多い。
【0008】
パルスカウント型検出器を用いた質量分析装置では、信号強度はイオン数で表されるため、或る1つの成分に対応したクロマトグラムピークに含まれるイオン数を、そのクロマトグラムピーク面積値、その成分由来のイオンを検出するためのイオン取り込み時間であるドゥエルタイム(Dwell Time)、及び、1乃至複数の測定対象成分由来のイオンをそれぞれ1回ずつ測定するに要する測定周期であるループタイム(サイクルタイムと呼ばれることもある)、から計算することができる。一方、本願発明者は、或る1つの成分に対応したクロマトグラムピークに含まれるイオン数とCV値との関係が所定の式で近似でき、しかもその関係が装置や試料成分等の測定条件に依存しないことを見出した。そこで、本願発明者は、基準となるCV値を算出するために、パルスカウント型検出器を利用した質量分析装置特有の上記のような関係を利用することに想到した。
【0009】
即ち、上記課題を解決するためになされた本発明は、1又は複数の試料成分の濃度の時間変化がピークを示すように試料がイオン源に導入され、該試料中の成分をイオン化して質量電荷比に応じて分離しパルスカウント型検出器により検出する質量分析装置において、
a)予備的な実験の結果に基づいて得られた、1つのクロマトグラムピークに含まれるイオン数と測定再現性の指標であるCV値との関係式を表す情報を格納しておく記憶手段と、
b)指定された1又は複数の成分由来のイオンを1回ずつ検出する測定を繰り返すときの1測定周期であるループタイム、及び、該ループタイム中で目的成分由来のイオンを検出するためのドゥエルタイム、が測定条件として与えられ、実際の又は仮想的な測定結果として目的成分のクロマトグラムピーク面積値が与えられたときに、それらループタイム、ドゥエルタイム及びクロマトグラムピーク面積値からイオン数を計算し、求まったイオン数を前記記憶手段に格納されている情報に基づく関係式に照らして基準CV値を算出する演算処理手段と、
を備えることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る質量分析装置では、典型的には、フローインジェクション(FIA)法により移動相中に注入された試料に含まれる各種成分がイオン源に導入されるか、或いは、カラムを通して成分分離された試料に含まれる各種成分がイオン源に導入される。これにより、イオン源に導入される試料成分の濃度は山形状のピークを示すように時間的に変化するから、時間経過に伴う全イオン量をプロットしたトータルイオンクロマトグラム又は時間経過に伴う特定の質量電荷比におけるイオン量をプロットしたマスクロマトグラムには略山形状のピークが出現する。
【0011】
本発明に係る質量分析装置において、記憶手段に格納されるイオン数とCV値との関係式を表す情報は、例えば、当該装置の製造メーカーが予備的な実験を実施した結果に基づいて定めて記憶しておくようにすることができる。
【0012】
本発明に係る質量分析装置において、ループタイム、ドゥエルタイム等の測定条件の下で目的試料に対して質量分析が実行されると、その分析結果に基づきクロマトグラム(トータルイオンクロマトグラム又はマスクロマトグラム)が作成される。上述のように、こうして作成されたクロマトグラムには目的成分に対応した山形状のピークが現れる。そこで、演算処理手段は、例えば指定されたクロマトグラムピークについてそのピーク面積値を求め、該ピーク面積値Aと測定条件であるループタイムTp及びドゥエルタイムTdの値とを次の(1)式に適用して、検出されたイオン数Xを算出する。
X=A・(Td/Tp) …(1)
【0013】
また、LC/MSやGC/MSにおける定量分析では、予め成分濃度の相違する複数の標準試料を分析した結果に基づいて、成分濃度とクロマトグラムピーク面積値との関係を表す検量線が作成される。そこで、或る成分濃度が指定されたときに、演算処理手段が、検量線に照らしてクロマトグラムピーク面積値を求め、このピーク面積値AとループタイムTp及びドゥエルタイムTdから上記(1)式によりイオン数Xを算出するようにしてもよい。
【0014】
いずれにしてもイオン数Xが求まると、演算処理手段は、得られたイオン数Xを記憶手段に格納されている情報に基づく関係式に適用することによりCV値を算出する。このCV値は測定条件に依存せずにイオン数に対し一意に決まるものであるから、例えば複数回の測定によるクロマトグラムピーク面積の平均値や標準偏差から計算された実測CV値を表示出力する際に、上述したように得られたCV値を基準値又は参照値として併せて表示すれば、実測CV値の評価が容易になる。また、上述したようにクロマトグラムピーク面積値はその成分濃度に依存するから、成分濃度が相違すると基準CV値は異なる。そこで、本発明に係る質量分析装置の一態様として、複数の成分濃度毎に(又は異なる検量点毎に)、上述のようにして求められた基準CV値と実測CV値とを比較可能であるように表示するとよい。
【0015】
また本発明に係る質量分析装置において、前記演算処理手段は、CV値が与えられたときに、該CV値を前記記憶手段に格納されている情報に基づく関係式に照らしてイオン数を算出する構成とするとよい。即ち、イオン数からCV値を求めるのとは逆に、CV値からイオン数を逆算する機能を持たせるようにしてもよい。
【0016】
さらに、上記演算処理手段は、CV値からイオン数が算出されたあとに、クロマトグラムピーク面積値、ドゥエルタイム及びループタイムのうちの2つが定められている条件の下で他の1つを求める構成とするとよい。これにより、或る目標CV値がある場合に、該CV値を達成するために必要なドゥエルタイムやループタイムなどの測定条件を求めることが可能となる。なお、ドゥエルタイムが定められた条件の下でループタイムが算出された場合には、そのループタイムから1測定周期中に測定可能な成分の数(最大値)が求まることになる。
【0017】
また、検量線を用いれば、クロマトグラムピーク面積値から成分濃度を求めることができる。そこで、上記演算処理手段は、ドゥエルタイム及びループタイムが定められた条件の下に目標CV値に対するクロマトグラムピーク面積値を算出したあとに、さらに該クロマトグラムピーク面積値に対応する成分濃度を算出するようにしてもよい。これにより、或る目標CV値がある場合に、該CV値を達成するために必要な成分濃度も求めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る質量分析装置によれば、統計的な値のばらつき要因のみを含む基準となるCV値を分析者に提示することができるので、複数回の測定によるクロマトグラムピーク面積の平均値や標準偏差から計算された実測CV値と基準CV値とを比較することで、実測データの適否等を分析者が容易に判断できるようになる。また、実際に測定を実行する前に、成分濃度、ループタイム及びドゥエルタイムを仮定して、基準CV値を求めることもできる。さらにまた、本発明に係る質量分析装置によれば、目標となるCV値が得られるような測定条件、つまりループタイム、ドゥエルタイム、1測定周期中に測定可能である成分数、成分濃度、等の導出も容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例であるLC/MS/MSの概略構成図。
図2】本実施例のLC/MS/MSにおける1測定周期中のデータ取得タイミングの一例を示す図。
図3】本実施例のLC/MS/MSにおいて計算可能な各種パラメータの相互関係を示す模式図。
図4】イオン数とCV値との実測結果の一例とその結果から求まる関係式を示す図。
図5】複数の検量点における基準CV値と実測CV値とを比較可能に表示した一例を示す図。
図6】複数の検量点における基準CV値と実測CV値とを比較可能に表示した他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施例であるLC/MS/MSについて、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例のLC/MS/MSの概略構成図である。
【0021】
FIA試料導入部10は、移動相が貯留された移動相容器11と、移動相を吸引して一定流量で送給するポンプ12と、移動相中に予め用意された所定量の試料を注入するインジェクタ13と、後述する質量分析部(MS部)20に試料を導入する導入配管14と、を含む。ポンプ12は移動相容器11から移動相を吸引して一定流量で導入配管14に送給する。インジェクタ13から一定量の試料液が移動相中に導入されると、移動相の流れに乗って試料は導入配管14を通過しMS部20に導入される。
【0022】
MS部20は、略大気圧であるイオン化室21と図示しない高性能の真空ポンプにより真空排気される高真空の分析室24との間に、段階的に真空度が高められた第1、第2中間真空室22、23を備えた多段差動排気系の構成である。イオン化室21には、試料溶液に電荷を付与しながら噴霧するESI用イオン化プローブ25が設置され、イオン化室21と次段の第1中間真空室22との間は細径の加熱キャピラリ26を通して連通している。第1中間真空室22と第2中間真空室23との間は頂部に小孔を有するスキマー28で隔てられ、第1中間真空室22と第2中間真空室23にはそれぞれ、イオンを収束させつつ後段へ輸送するためのイオンガイド27、29が設置されている。分析室24には、多重極イオンガイド32が内部に設置されたコリジョンセル31を挟んで、質量電荷比に応じてイオンを分離する前段四重極マスフィルタ30と同じく質量電荷比に応じてイオンを分離する後段四重極マスフィルタ33、さらにはイオン検出器34が設置されている。
【0023】
MS部20において、ESI用イオン化プローブ25に液体試料が到達すると、該プローブ25先端から電荷が付与された液体試料が噴霧される。噴霧された帯電液滴は静電気力により分裂しながら微細化され、その過程で試料成分由来のイオンが飛び出す。生成されたイオンは加熱キャピラリ26を通して第1中間真空室22に送られ、イオンガイド27で収束されてスキマー28頂部の小孔を経て第2中間真空室23に送られる。そして、試料成分由来のイオンはイオンガイド29で収束されて分析室24に送られ、前段四重極マスフィルタ30の長軸方向の空間に導入される。なお、ESIに限らず、APCIやAPPIによりイオン化を行ってもよいことは当然である。
【0024】
MS/MS分析時には、前段四重極マスフィルタ30及び後段四重極マスフィルタ33の各ロッド電極にそれぞれ所定の電圧(高周波電圧と直流電圧とが重畳された電圧)が印加され、コリジョンセル31内には所定ガス圧となるようにCIDガスが供給される。前段四重極マスフィルタ30に送り込まれた各種イオンの中で、前段四重極マスフィルタ30の各ロッド電極に印加されている電圧に応じた特定の質量電荷比を有するイオンのみが該フィルタ30を通過し、プリカーサイオンとしてコリジョンセル31に導入される。コリジョンセル31内でプリカーサイオンはCIDガスに衝突して解離し、各種のプロダクトイオンが生成される。生成された各種プロダクトイオンが後段四重極マスフィルタ33に導入されると、後段四重極マスフィルタ33の各ロッド電極に印加されている電圧に応じた特定の質量電荷比を有するプロダクトイオンのみが該フィルタ33を通過し、イオン検出器34に到達し検出される。
【0025】
イオン検出器34はパルスカウント型検出器であり、入射したイオン数に応じた個数のパルス信号を出力する。計数処理部35はこのパルス信号を計数することにより、イオン検出器34に入射したイオン数を示すデジタルデータに変換する。データ処理部40は、クロマトグラム作成部41、実測CV値算出部42のほか、本実施例に特徴的な構成要素であるCV値関連情報算出部43、基準CV値算出データ記憶部44などを機能ブロックとして含む。分析制御部50はFIA試料導入部10やMS部20などの各部の動作をそれぞれ制御する。また中央制御部51には入力部52や表示部53が付設され、入出力のインタフェイスや分析制御部50のさらに上位の制御を担う。なお、中央制御部51、分析制御部50、データ処理部40などの機能の少なくとも一部は、汎用のパーソナルコンピュータをハードウエア資源とし該コンピュータに予めインストールされた専用のアプリケーションソフトウエアをコンピュータ上で実行することにより実現することができる。
【0026】
上記LC/MS/MSにより定量分析を行う際には、前段四重極マスフィルタ30及び後段四重極マスフィルタ33でそれぞれ所定の質量電荷比を有するイオンのみを通過させるMRM(=Multiple Reaction Monitoring、多重反応モニタリング)測定モードが多用される。そこで、以下の説明では、MRM測定モードにより目的成分由来の特定のプロダクトイオンを検出する場合を考える。一般的にMRM測定では、1回の測定で、プリカーサイオンの質量電荷比とプロダクトイオンの質量電荷比とを1組とするチャンネルを複数設定することができる。複数チャンネルが設定された場合には、1測定周期(サイクル)中に各チャンネルの測定がそれぞれ1回ずつ実行される。
【0027】
図2は3チャンネルが設定された(つまり異なる3種のプロダクトイオンを検出する)場合の1測定周期中のデータ取得タイミングの一例を示す図である。1測定周期の時間がループタイムTpであり、各成分由来のプロダクトイオンはそれぞれドゥエルタイムTdの期間中に検出される。なお、或る成分に対するドゥエルタイムTdと別の成分に対するドゥエルタイムTdとの間の時間Tsは、四重極マスフィルタ30、33において通過させるイオンの質量電荷比を変化させるべく印加電圧を変化させたときに電圧が静定するに要するマージンを見込んだセトリング時間である。
【0028】
いま或る成分aに着目すると、1測定周期の時間の中で成分a由来のプロダクトイオンを検出している時間の割合はTd/Tpである。一方、このLC/MS/MSで成分a由来のイオンの検出結果に基づいて作成されるクロマトグラム上のピーク面積はピーク始点から終点までの時間範囲内に亘るイオンの総和である。したがって、1つのクロマトグラムピークに含まれる、統計的なばらつき要因のみを含む計算上のイオン数Xと、クロマトグラムピーク面積値A、ドゥエルタイムTd、及びループタイムTpとの関係は、上述した(1)式の関係となる。
X=A・(Td/Tp) …(1)
【0029】
例えば質量分析の測定条件が異なる場合には、検出されるイオン数は異なる筈であるが、イオン数が同じであればCV値は統計的要因を除き同じとなる筈である。図4はイオン数XとCV値Yとの関係を実測した結果の一例を示すグラフである。図中に■で示したプロットが実測によるイオン数XとCV値Yとの関係である。こうした多数のプロット点に対し近似曲線を描くと、次の(2)式を満たす曲線が得られる。
Y=1.4798・X-0.435 …(2)
つまり、(2)式はイオン数XとCV値Yとの関係を表す実験式である。この実験式は装置の構成には依存するが測定条件には依存しないので、装置構成が決まれば一義的に定めることができる。そこで、本実施例のLC/MS/MSでは、装置メーカーが予め実験を行って上記(2)式のような関係式を求め、この関係式を表すデータを基準CV値算出データ記憶部44に格納しておくものとする。ただし、装置がユーザに納入された後にユーザ側で上記実験式を求めるための機能を予めデータ処理部40に組み込むようにし、所定の手順で実験式が得られるようにしてもよい。
【0030】
次に、本実施例のLC/MS/MSにおいてCV値に関連した特徴的な処理動作について説明する。
ここでは説明を簡単にするために、既知である1つの成分を10、100、1000[ppt]の3種の濃度で以て含む試料を測定した結果に基づいて検量線を作成する場合における再現性の評価について考える。測定実行に先立って、分析者はループタイムやドゥエルタイム、四重極マスフィルタ30、33で選択する質量電荷比など、を含む測定条件を入力部52より設定する。ここでは、1測定周期中に1つの成分由来のプロダクトイオンのみを測定することから、一例としてループタイムTpを0.025[sec]、ドゥエルタイムTdを0.02[sec]に設定する。
【0031】
分析者が測定開始を指示すると、分析制御部50の制御の下に、FIA試料導入部10においてインジェクタ13から移動相中に所定の試料が注入される。注入された試料は試料導入管14を通る間に時間的に拡散し、ESI用イオン化プローブ25に到達する。MS部20は分析制御部50により、上記のように設定された質量電荷比のMRM測定を繰り返し実行するように制御される。データ処理部40においてクロマトグラム作成部41は、時間経過に伴って検出されるイオンの数の変化に基づいて略山形状のピークが出現するクロマトグラムを作成する。さらにクロマトグラム作成部41はクロマトグラム上に現れるピークの始点及び終点を検出し、そのクロマトグラムピークの面積値を計算する。
【0032】
ここでは、それぞれ所定の成分濃度である試料に対し3回ずつ同様に測定を実行し、それぞれクロマトグラムピーク面積値を算出する。即ち、10、100、1000[ppt]の3種の成分濃度の試料について、それぞれ3回ずつ測定が実行されクロマトグラムピーク面積値が算出される。実測CV値算出部42は、濃度毎に、3回の測定により得られたクロマトグラムピーク面積値の平均値と面積値の分散(ばらつき)とに基づいてCV値を計算する。これは、例えば移動相の流速などの測定条件の変動やばらつきなどを反映した、実測のクロマトグラムピーク面積値のばらつきに基づいて算出されたものである。
【0033】
一方、CV値関連情報算出部43は、濃度毎に、3回の測定により得られたクロマトグラムピーク面積値の平均値と、測定条件として設定されたループタイムTp及びドゥエルタイムTdとに基づいて、上記(1)式からクロマトグラムピーク中に含まれるイオン数を計算する。さらにCV値関連情報算出部43は、基準CV値算出データ記憶部44に格納されているデータに基づいて得られる(2)式を利用して、上記計算されたイオン数に対応したCV値を算出する(図3参照)。これにより得られたCV値はクロマトグラムピーク面積値のばらつきに依存しないCV値であり、実測CV値算出部42により算出された実測CV値を評価する上で基準となるCV値である。そこで、データ処理部40は、濃度毎に実測CV値と基準CV値とが得られたならば、中央制御部51を介して両者を比較可能な状態で表示部53の画面上に表示する。
【0034】
図5図6は各濃度、つまり各検量点における基準CV値と実測CV値とを比較するための表示例であり、図5は表形式、図6はグラフ形式の例である。このように基準CV値を実測CV値と併せて表示することにより、例えば実測CV値が基準CV値に比べて異常に大きければ測定条件が不適切である等、実測データ取得に問題があることを分析者が認識することができる。
【0035】
また、本実施例のLC/MS/MSにおけるCV値関連情報算出部43は、上述した手順とは逆に、分析者が所望のCV値を指定したときにこれを実現するのに必要な測定条件を算出して分析者に提示する機能を有する。即ち、図3で明らかなように、CV値Yを決めさえすれば、(2)式から、イオン数Xが一意的に決まる。さらに、イオン数Xが分かれば、(1)式より、クロマトグラムピーク面積値A、ドゥエルタイムTd、ループタイムTpのうちの2つが固定されている条件の下で、残りの1つを算出することが可能である。例えば、ドゥエルタイムTd及びループタイムTpが決まっていれば、(1)式より、イオン数Xはクロマトグラムピーク面積値Aに比例するから、所望のCV値を得るために最低限必要なクロマトグラムピーク面積値Aが算出されることになる。さらに、クロマトグラムピーク面積値Aは測定対象試料の成分濃度に依存し、その両者の関係は検量線そのものであるから、所望のCV値が決まれば、それに必要な成分濃度が求まることになる。
【0036】
また、クロマトグラムピーク面積値A、ドゥエルタイムTd、及びループタイムTpのうち、クロマトグラムピーク面積値Aつまりは成分濃度とループタイムTpとが固定されている場合には、所望のCV値が決まればそれに最低限必要なドゥエルタイムTdが求まることになる。さらにまた、クロマトグラムピーク面積値Aつまり成分濃度とドゥエルタイムTdとが固定されている場合には、所望のCV値が決まればそれに最低限必要なループタイムTpが求まる。ドゥエルタイムTdが固定されている場合、ループタイムTpは1測定周期中に測定すべき成分の数に依存するから、1測定周期中の成分数が決まることになる。例えば、上述したように、ドゥエルタイムが0.02[sec]に設定されている場合に必要なループタイムTpが0.025[sec]と計算されれば、1測定周期中に測定可能な成分数は1に限定されることになる。
【0037】
以上のようにして、本実施例のLC/MS/MSでは、実際に測定を実行した結果得られる実測CV値を評価する基準となる基準CV値を算出し表示することが可能であるとともに、逆に、任意のCV値を得るために必要な測定条件、つまり、成分濃度、ドゥエルタイム、ループタイム、1測定周期中に測定する成分数などを導出して分析者に提示することができる。また、上述したように、検量線は成分濃度とクロマトグラムピーク面積値との関係を示すから、例えば、或る成分濃度の試料を、或るドゥエルタイム及びループタイムの下で測定しようとするときに、検量線を用いてクロマトグラムピーク面積値を算出し、さらに図3に示したような(1)式、(2)式の関係を利用してCV値を計算上、つまり実測を行うことなく求めることができる。これにより、実測を行う前に、実測で得られるであろう最良のCV値を知ることもできる。
【0038】
なお、上記実施例は本発明の一例であるから、本発明の趣旨の範囲で適宜に変形、追加、修正を行っても本願請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば、上記実施例はLC/MS/MSであるが、イオン検出器がパルスカウント型でありさえすれば、LC/MSでもよいし、或いはGC/MSでもよい。即ち、イオン検出器がパルスカウント型であってクロマトグラムの作成が可能であるような構成であれば、様々な構成の質量分析装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
10…FIA試料導入部
11…移動相容器
12…ポンプ
13…インジェクタ
14…導入配管
20…MS部
21…イオン化室
22…第1中間真空室
23…第2中間真空室
24…分析室
25…ESI用イオン化プローブ
26…加熱キャピラリ
27、29…イオンガイド
28…スキマー
30…前段四重極マスフィルタ
31…コリジョンセル
32…多重極イオンガイド
33…後段四重極マスフィルタ
34…イオン検出器
35…計数処理部
40…データ処理部
41…クロマトグラム作成部
42…実測CV値算出部
43…CV値関連情報算出部
44…基準CV値算出データ記憶部
50…分析制御部
51…中央制御部
52…入力部
53…表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6