特許第5783635号(P5783635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783635
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/09 20060101AFI20150907BHJP
【FI】
   A61M25/09 516
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-101305(P2012-101305)
(22)【出願日】2012年4月26日
(65)【公開番号】特開2013-226301(P2013-226301A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2014年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134326
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 聡
(72)【発明者】
【氏名】枝松 幹也
【審査官】 藤田 和英
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−147752(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00739641(EP,A1)
【文献】 特開2012−029978(JP,A)
【文献】 米国特許第06146339(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠端部及び基端部を有するコアシャフトと、
前記遠端部を覆うように配置された外側コイル体と、
前記外側コイル体の内側に配置された内側コイル体と、からなるガイドワイヤであって、
前記外側コイル体は、第一の角度で第一の方向に屈曲した第一屈曲部を有しており、
前記内側コイル体は、第二の角度で前記第一の方向に屈曲した第二屈曲部を有しており、
前記第二の角度は、前記第一の角度よりも大きく、
前記内側コイル体のうちで前記第二屈曲部よりも先端側に位置する第二先端領域の中心軸は、前記外側コイル体のうちで前記第一屈曲部よりも先端側に位置する第一先端領域の中心軸よりも前記第一の方向に偏って位置していることを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】
前記外側コイル体と前記内側コイル体とを互いに固定する固定手段を有しており、
前記内側コイル体は、前記第一の方向に付勢された状態で前記固定手段により固定されている請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
組付前に直線状である外側コイル体に前記第一の方向へ付勢された内側コイル体が接触することにより、前記第一屈曲部が形成されている請求項2に記載のガイドワイヤ。
【請求項4】
前記内側コイル体は、前記遠端部を覆うように配置されており、
前記遠端部の中心軸は、前記第二先端領域の中心軸から前記第一先端領域の中心軸の方向に偏って位置している請求項に記載のガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、経皮的冠動脈形成術等の血管内治療に使用される医療用機械器具の一つとして、バルーンやステント等のデバイスを病変部まで導くために使用されるガイドワイヤが知られている。
【0003】
このようなガイドワイヤとして、例えば、特許文献1、2及び3には、遠端部及び基端部を有するコアシャフトと、コアシャフトの遠端部の外周を被覆しているコイル体とからなるガイドワイヤであって、所定の方向に遠端部(遠位部)が屈曲可能に形成されたガイドワイヤが開示されている。
なお、ガイドワイヤにおいては、コアシャフトの遠端部側がガイドワイヤの遠位部であり、コアシャフトの基端部側がガイドワイヤの近位部となる。ガイドワイヤの遠位部は体内に挿入され、ガイドワイヤの近位部は医師等の手技者によって操作される。
【0004】
詳述すると、特許文献1に記載のガイドワイヤは、遠端部及び基端部を有するコアシャフトと、遠端部の外周を覆っている内側コイル体と、内側コイル体の外周を覆っている外側コイル体と、一端が外側コイル体の先端に結合しており、他端がコアシャフトの後端部まで延在しており手技者が引っ張り可能に形成された引張ワイヤと、から形成されている。
係る特許文献1のガイドワイヤでは、引張ワイヤを手元側に引っ張ることにより、直線状のガイドワイヤの遠位部が屈曲するとされている。
【0005】
特許文献2及び3のガイドワイヤは、予め屈曲した遠端部を有するコアシャフトと、屈曲に沿ってコアシャフトの遠端部の外周を覆っているコイル体とから形成されており、ガイドワイヤの遠位部が所定の方向に屈曲している。
【0006】
なお、特許文献4には、屈曲していない直線状の遠位部を有するガイドワイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−42225号公報
【特許文献2】国際公開第2010/078335号公報パンフレット
【特許文献3】米国特許第4917104号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0027212号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3に記載のガイドワイヤは、特許文献4に記載の直線状の遠位部を有するガイドワイヤとは異なり、引張ワイヤの引っ張りにより屈曲可能な遠位部又は予め屈曲した遠位部を有しており、遠位部の屈曲を利用して血管を選択することができる。
より具体的に説明すると、特許文献1〜3に記載のガイドワイヤでは、ガイドワイヤが進行する血管の本管から比較的緩やかな鈍角で分岐した分岐血管(以下、鈍角分岐血管ともいう)を選択する場合、遠位部の屈曲角度を小さくして鈍角分岐血管を選択すればよい。
また、ガイドワイヤが進行してくる血管の本管から90°近い角度又は比較的急な鋭角で分岐した分岐血管(以下、鋭角分岐血管ともいう)を選択する場合、遠位部の屈曲角度を大きくして鋭角分岐血管を選択すればよい。
なお、鋭角分岐血管は、特に、脳や肝臓等の血管で多く見られるものである。
【0009】
しかしながら、従来のガイドワイヤでは、血管の湾曲にあわせて屈曲角度を種々変更しなければならず、屈曲角度を大きくした場合であっても、鋭角分岐血管の選択性がそれほど高くなるとはいえないという問題がある。
そのため、鈍角分岐血管の選択性のみならず、鋭角分岐血管の選択性がより高いガイドワイヤが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガイドワイヤは、遠端部及び基端部を有するコアシャフトと、前記遠端部を覆うように配置された外側コイル体と、前記外側コイル体の内側に配置された内側コイル体と、からなるガイドワイヤであって、前記外側コイル体は、第一の角度で第一の方向に屈曲した第一屈曲部を有しており、前記内側コイル体は、第二の角度で前記第一の方向に屈曲した第二屈曲部を有しており、前記第二の角度は、前記第一の角度よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
なお、本明細書において、第一の方向とは、ガイドワイヤの長手方向に対して垂直ないずれか方向(即ち、ガイドワイヤの半径方向)のことをいう。
また、第一の角度とは、第一屈曲部(22)を挟んで先端側に位置する第一先端領域(21)に沿って引いた仮想線(A)と後端側に位置する第一後端領域(23)に沿って引いた仮想線(B)とが交差することにより形成される角度のうちで、鋭角の角度(α)のことをいう。
第二の角度とは、第二屈曲部(32)を挟んで先端側に位置する第二先端領域(31)に沿って引いた仮想線(C)と後端側に位置する第二後端領域(33)に沿って引いた仮想線(D)とが交差することにより形成される角度のうちで、鋭角の角度の(β)ことをいう。
ここで、上記カッコ内の符号は、後述する図1(b)の符号に対応している。
【0012】
本発明のガイドワイヤにおいては、前記外側コイル体と前記内側コイル体とを互いに固定する固定手段を有しており、前記内側コイル体は、前記第一の方向に付勢された状態で前記固定手段により固定されていることが望ましい。
【0013】
本発明のガイドワイヤにおいては、組付前に直線状である外側コイル体に前記第一の方向へ付勢された内側コイル体が接触することにより、前記第一屈曲部が形成されていることが望ましい。
【0014】
本発明のガイドワイヤにおいては、前記内側コイル体のうちで前記第二屈曲部よりも先端側に位置する第二先端領域の中心軸は、前記外側コイル体のうちで前記第一屈曲部よりも先端側に位置する第一先端領域の中心軸よりも前記第一の方向に偏って位置していることが望ましい。
【0015】
前記内側コイル体は、前記遠位部を覆うように配置されており、
前記遠位部の中心軸は、前記第二先端領域の中心軸から前記第一先端領域の中心軸の方向に偏って位置していることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(a)は、本発明の一実施形態に係るガイドワイヤをその長手方向に沿って縦に切断した状態を模式的に示す縦断面図であり、図1(b)は、図1(a)に係るガイドワイヤの遠位部を拡大して示す拡大図であり、図1(c)は、図1(b)に示すガイドワイヤのY−Y線断面図である。
図2図2(a)〜図2(c)は、図1に示すガイドワイヤが鋭角分岐血管を選択する様子を模式的に示す説明図である。
図3図3(a)〜図3(c)は、図1に示すガイドワイヤを製造する工程を模式的に示す工程図である。
図4図4は、本発明の別の実施形態に係るガイドワイヤの遠位部を拡大して示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態に係るガイドワイヤの構成及び効果について、以下に図面を用いて詳しく説明する。
なお、以下の説明では、ガイドワイヤの遠位部とコアシャフトの遠端部とをともに同じ符号で示し、ガイドワイヤの近位部とコアシャフトの基端部とをともに同じ符号で示すこととする。また、ガイドワイヤの一部又は全部の図示を省略することがある。
【0018】
図1(a)〜図1(c)に示す本発明のガイドワイヤ1は、遠端部11及び基端部12を有するコアシャフト10と、遠端部11を覆うように配置された外側コイル体20と、外側コイル体20の内側に配置された内側コイル体30とを含んで形成されている。
【0019】
遠端部11及び基端部12を有するコアシャフト10は、基端部12から遠端部11に向って先細りに形成された円柱体であり、遠端部11に向ってより柔軟である。
コアシャフト10の遠端部11の最先端部は、プレス加工等を行うことにより、平板状に形成されていてもよい。上記最先端部が平板状であると、最先端部が円柱状である場合に比べて、最先端部の柔軟性がより高くなる。
【0020】
コアシャフト10の材質としては、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti合金等の超弾性合金、ピアノ線、タングステン線等の材料が挙げられる。
上記ステンレスとしては、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、オーステナイト、フェライト二相ステンレス及び析出硬化ステンレス等のステンレスが挙げられる。
これらのなかでは、オーステナイト系ステンレスであることが望ましく、特にSUS304、SUS316又はSUS316Lであることがより望ましい。
【0021】
外側コイル体20は、ガイドワイヤ1の遠位部11の外縁を形成しており、単一の素線を螺旋状に巻回してなるか又は複数の素線を撚り合わせてなる円筒体であって、可撓性及び弾性を有している。
具体的には、外側コイル体20は、直線状の第一先端領域21と、第一の角度αで第一の方向Xに屈曲しており第一先端領域21に連結した第一屈曲部22と、第一屈曲部22に連結した直線状の第一後端領域23とから形成されている。
そのため、外側コイル体20は、第一先端領域21側から第一後端領域23側に荷重を掛けることにより、第一屈曲部22が第一の方向Xに屈曲しやすい。
【0022】
外側コイル体20がガイドワイヤ1の遠位部11の外縁を形成しているので、第一の角度αとは、即ち、ガイドワイヤ1の屈曲部の屈曲角度である。
第一の角度αは、5〜90°であることが望ましい。
第一の角度αが5〜90°であると、分岐血管を選択しやすくなるからである。
なお、第一の角度αが45〜90°であると、鋭角分岐血管をより選択しやすくなるので望ましい。この場合、第一の角度αは、50〜80°であることがより望ましい。
【0023】
上述した外側コイル体20を形成する素線の材質としては、例えば、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、オーステナイト、フェライト二相ステンレス又は析出硬化ステンレス等のステンレス、Ni−Ti合金等の超弾性合金、タングステン線、放射線不透過性金属である白金、金、タングステン等の材料が挙げられる。
【0024】
内側コイル体30は、外側コイル体20(ガイドワイヤ1の遠位部)の内側に配置されており、単一の素線を螺旋状に巻回してなるか又は複数の素線を撚り合わせてなる円筒体であって、可撓性及び弾性を有している。
具体的には、内側コイル体30は、直線状の第二先端領域31と、第一の角度αよりも大きい第二の角度βで第一の方向Xに屈曲しており第二先端領域31に連結した第二屈曲部32と、第二屈曲部32に連結した直線状の第二後端領域33とから形成されている。
そのため、内側コイル体30は、第二先端領域31側から第二後端領域33側に荷重を掛けることにより、第一の方向Xに第二屈曲部32が屈曲しやすい。
また、第二の角度βは第一の角度αよりも大きく設定されているので、第二屈曲部32は外側コイル体20の第一屈曲部22よりも、第一の方向Xにより屈曲しやすい。
【0025】
第二の角度βは、6〜91°であることが望ましい。
第二の角度βが6〜91°であると、内側コイル体30の第一の方向Xへの屈曲しやすさがより好適に発揮され、分岐血管を選択しやすくなるからである。
なお、第二の角度βが46〜91°であると、鋭角分岐血管をより選択しやすくなるので望ましい。この場合、第二の角度βは、51〜81°であることがより望ましい。
【0026】
第一の角度αと第二の角度βとの差は、1〜5°であることが望ましい。
図2(a)〜図2(c)を示して後述するように、ガイドワイヤの屈曲先端部が鋭角分岐血管の内壁に押し当てられること等により曲げ力が加えられた際には、屈曲部近傍を支点として屈曲先端部が鋭角分岐血管の湾曲に追従してより曲がりやすいからである。
【0027】
内側コイル体30を形成する素線の材質は、上述した外側コイル体20を形成する素線の材質と同じであってもよい。
【0028】
内側コイル体30の内部には、コアシャフト10の遠端部11が挿通しており、内側コイル体30は、遠端部11を覆うように配置されている。
【0029】
図1(c)に示すように、内側コイル体30のうちで第二屈曲部32よりも先端側(ガイドワイヤ1の最先端側)に位置する第二先端領域31の中心軸Lは、外側コイル体20のうちで第一屈曲部22よりも先端側に位置する第一先端領域21の中心軸Lよりも第一の方向Xに偏って位置している。
【0030】
コアシャフト10の遠端部11の中心軸Lは、第二先端領域31の中心軸Lから第一先端領域21の中心軸Lの方向に偏って位置している。
【0031】
内側コイル体30と外側コイル体20との組み合わせとしては、内側コイル体30が複数の素線を撚り合わせてなる直線状の円筒体であり、外側コイル体20が単一の素線を巻回してなる直線状の円筒体であることが望ましい。その理由は、作用効果の欄で後述する。
【0032】
外側コイル体20と内側コイル体30とは、固定手段40により互いに固定されている。
より具体的には、外側コイル体20の第一先端領域21の最先端と、内側コイル体30の第二先端領域31の最先端と、コアシャフト10の遠端部11の最先端とは、半球状の先端ロウ付け部41により互いに固定されている。
【0033】
後の製造方法の説明で述べるように、本実施形態のガイドワイヤ1は、組付前に直線状である外側コイル体20を第一の方向Xへ予め大きく屈曲した内側コイル体30に被せる工程を経て製造される。
そのため、外側コイル体20の第一屈曲部22は、第一の方向Xへ予め大きく屈曲した内側コイル体30が外側コイル体20の内側面に接触して、組付前に直線状の外側コイル体20が屈曲することにより形成されている。
即ち、外側コイル体20の第一屈曲部22は、組付前に直線状である外側コイル体20に第一の方向Xへ付勢された内側コイル体30が接触することにより形成されている。
【0034】
外側コイル体20の第一後端部23の最後端と、コアシャフト10の遠端部11の最後端とは、第一後端ロウ付け部42により固定されている。
内側コイル体30の第二後端部33の最後端と、コアシャフト10の遠端部の中間部とは、第一後端ロウ付け部42よりもガイドワイヤ1の先端側よりの位置で、第二後端ロウ付け部43により固定されている。
【0035】
先端ロウ付け部41、第一後端ロウ付け部42及び第二後端ロウ付け部43の材質としては、例えば、アルミニウム合金、銀、金、亜鉛、Sn−Pb合金、Sn−Au合金、Pb−Ag合金、Sn−Ag合金等の材料が挙げられる。
これらの中では、金、Sn−Au合金、Sn−Ag合金が特に好ましい。上述したロウ付け部の強度がより高くなるからである。
【0036】
本実施形態のガイドワイヤ1の作用効果(1)〜(6)を以下に列挙する。
【0037】
(1)本実施形態に係るガイドワイヤ1は、外側コイル体20と内側コイル体30とがともに同じ第一の方向Xに屈曲した第一屈曲部22及び第二屈曲部32を有しており、いわゆるプレシェイプ型のガイドワイヤとして血管選択性に優れる。
【0038】
そのなかでも、本実施形態に係るガイドワイヤ1は、鋭角分岐血管の選択性に特に優れる。
このことについて、図2(a)〜図2(c)を用いて以下に説明する。
【0039】
図2(a)に示す分岐血管に挿入される前のガイドワイヤ1が血管の本管Mを進行していくと、図2(b)に示すように、ガイドワイヤ1の遠位部11のうちで第一屈曲部及び第二屈曲部よりも先端側の部分2(以下、屈曲先端部ともいう)が鋭角分岐血管mの内壁に押し当てられる。
ここで、内側コイル体における第二屈曲部の屈曲角度である第二の角度は、外側コイル体における第一屈曲部の屈曲角度である第一の角度よりも大きく設定されており、内側コイル体の屈曲が外側コイル体の屈曲よりも第一の方向(屈曲の内側方向)にきつくなっている。そのため、内側コイル体は、第一の方向(屈曲の内側方向)により曲がりやすい。
よって、屈曲先端部2が鋭角分岐血管mの内壁に押し当てられること等により曲げ力が加えられた際には、屈曲部近傍を支点として屈曲先端部2が鋭角分岐血管mの湾曲に追従して曲がりやすい。従って、本実施形態のガイドワイヤ1は、鋭角分岐血管mであっても、それほど大きな屈曲角度をつけずとも容易に選択することができる。
その結果、図2(c)に示すように、引き続いて手技者が押込み操作を行うことにより、鋭角分岐血管mの伸長方向にガイドワイヤ1をスムーズに押し進めることができる。
なお、鋭角分岐血管mを選択しやすい本実施形態のガイドワイヤ1は、当然ながら、図示しない鈍角分岐血管も同様に容易に選択することができる。
【0040】
(2)本実施形態のガイドワイヤ1は、外側コイル体20と内側コイル体30とを互いに固定する固定手段40を有しており、第一の方向Xに付勢された状態で内側コイル体30が固定手段40により固定されている。
そのため、屈曲先端部2が分岐血管の内壁に押し当てられること等により曲げ力が加えられた際には、付勢した内側コイル体30の第一の方向Xへの付勢力により内側コイル体30が第一の方向Xにより曲がりやすい。
その結果、内側コイル体30と固定された外側コイル体20も、第一の方向Xにより曲がりやすい。
従って、屈曲部近傍を支点として屈曲先端部が分岐血管の湾曲に追従してさらに曲がりやすく、分岐血管をさらに選択しやすい。
【0041】
(3)本実施形態のガイドワイヤ1では、組付前に直線状である外側コイル体20に第一の方向Xへ付勢された内側コイル体30が接触することにより、第一屈曲部22が形成されている。
このように、外側コイル体20を第一の方向Xにシェイピングせずとも内側コイル体30の付勢力を利用して第一屈曲部22が形成されているので、簡便に低コストで製造可能なガイドワイヤ1とすることができる。
【0042】
(4)本実施形態のガイドワイヤ1では、内側コイル体30のうちで第二屈曲部32よりも先端側に位置する第二先端領域31の中心軸Lは、外側コイル体20のうちで第一屈曲部22よりも先端側に位置する第一先端領域21の中心軸Lよりも第一の方向Xに偏って位置している。
このように、内側コイル体30の第二先端領域31が外側コイル体20の第一先端領域21よりも第一の方向Xに偏って位置しているので、内側コイル体30が第一の方向Xにさらに屈曲しやすく、その結果、血管選択性にさらに優れる。
【0043】
(5)本実施形態のガイドワイヤ1では、内側コイル体30は、遠端部11を覆うように配置されており、遠端部11の中心軸Lは、第二先端領域31の中心軸Lから第一先端領域21の中心軸Lの方向に偏って位置している。
コアシャフト10の遠端部11は、内側コイル体30の第二先端領域31の中心軸Lから外側コイル体20の第一先端領域21の中心軸L(即ち、ガイドワイヤ1の中心軸)の方向に偏って位置しており、ガイドワイヤ1の回転軸として機能するコアシャフト10の遠端部11がガイドワイヤ1の中心軸により近い位置を通過している。
従って、コアシャフト10の基端部12(ガイドワイヤ1の近位部12)を回転させた場合には、コアシャフト10の遠端部11(ガイドワイヤ1の遠位部11)が追従して回転しやすく、トルク伝達性により優れる。
それゆえ、優れたトルク伝達性を利用してガイドワイヤ1の遠位部11で所望の分岐血管を選択することが容易であり、その後、第一の方向Xへの屈曲しやすさを利用して分岐血管の湾曲に沿わせて遠位部11を押し込むことが容易であるので、血管選択性に極めて優れる。
【0044】
(6)本実施形態のガイドワイヤ1において、内側コイル体30が複数の素線を撚り合わせてなる直線状の円筒体であり、外側コイル体20が単一の素線を巻回してなる直線状の円筒体である場合には、複数の素線からなり剛性の高い内側コイル体30が単一の素線からなる柔軟な外側コイル体20と組み合わされていることになる。
そのため、第一の方向Xによりきつく屈曲した内側コイル体30の形状に沿って外側コイル体20が屈曲しやすく、ガイドワイヤ1の屈曲先端部2が分岐血管の湾曲に追従して曲がりやすい。
【0045】
(第一実施形態のガイドワイヤの製造方法)
本実施形態のガイドワイヤは、例えば、下記の工程を経て製造してもよい。
【0046】
(第一組付工程)
図3(a)に示すように、コアシャフトとして、基端部から遠端部に向って先細りに形成された円柱体からなる直線状のコアシャフトを準備する。
また、内側コイル体として、後の工程を経て製造されるガイドワイヤにおける内側コイル体の第二の角度βよりも大きな角度で第一の方向に屈曲した屈曲部を有する内側コイル体を準備する。
【0047】
次に、図3(b)に示すように、コアシャフトの遠端部を内側コイル体の内腔に挿入する。
そうすると、組付前に直線状であったコアシャフトの遠端部が接触することにより、内側コイル体の屈曲部の屈曲がやや直線状に戻される。
この状態で第一回目のロウ付けを行うことにより、コアシャフトの遠端部の最先端と内側コイル体の第二先端領域の最先端とを小径の先端ロウ付け部で互いに固定し、コアシャフトの遠端部の中間部と内側コイル体の第二後端部の最後端とを第二後端ロウ付け部により固定する。
これにより、第一組立体を作製する。
なお、第一組立体における第二屈曲部に相当する屈曲部の角度は、製造されたガイドワイヤにおける内側コイル体の第二屈曲部の第二の角度βよりも大きい。
【0048】
(第二組付工程)
外側コイル体として、単一の素線を螺旋状に巻回してなるか又は複数の素線を撚り合わせてなる直線状の円筒体からなる外側コイル体を準備する。
そして、図3(b)に示すように、第一組立体の遠端部を外側コイル体の内腔に挿入する。
そうすると、組付前に直線状であった外側コイル体の先端部に屈曲した第一組立体の内側コイル体が接触することにより、内側コイル体の屈曲がやや直線状に戻されて第二の角度βを有する第二屈曲部が形成される。一方、直線状の外側コイル体は、第一の方向に屈曲することにより第一角度αを有する第一屈曲部が形成される。
この状態で第二回目のロウ付けを行うことにより、コアシャフトの遠端部の最先端と内側コイル体の第二先端領域の最先端と外側コイル体の第一先端領域の最先端とを、半球状の大径の先端ロウ付け部で互いに固定する。また、コアシャフトの遠端部の最後端と外側コイル体の第一後端部の最後端とを第一後端ロウ付け部により固定する。
以上の工程を経ることにより本実施形態のガイドワイヤを製造する。
【0049】
(第二実施形態)
以下、本発明のガイドワイヤの一実施形態である第二実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態のガイドワイヤは、外側コイル体と内側コイル体とが固定手段により互いに固定されていないこと以外は、上述した第一実施形態のガイドワイヤと同様の構成を有している。
よって、第一実施形態のガイドワイヤと重複する事項については説明を省略する。
【0050】
図4は、本発明の別の実施形態に係るガイドワイヤの遠位部を拡大して示す遠端部拡大図である。
なお、図4における各符号が付された構成要素は、図1における各符号が付された構成要素に対応している。
【0051】
図4に示すように、本実施形態のガイドワイヤ1では、外側コイル体20と内側コイル体30とは固定手段により互いに固定されていない。
【0052】
具体的には、外側コイル体20の第一先端領域21の最先端と、コアシャフト10の遠端部11の最先端とは、半球状の先端ロウ付け部41により互いに固定されている。
また、内側コイル体30の第二先端領域31の最先端は、先端ロウ付け部41まで達しておらず、先端ロウ付け部41から後端側に離間している。そして、内側コイル体30の第二先端領域31の最先端と、コアシャフト10の遠端部11の最先端から後端側に離間した位置とは、別の先端ロウ付け部44により互いに固定されている。
ここで、内側コイル体30の第二先端領域31の最先端は、内側コイル体30が第一の方向Xに付勢された状態で、コアシャフト10の遠端部11の最先端から後端側に離間した位置と別の先端ロウ付け部44により互いに固定されている。
第一の方向Xへ付勢された内側コイル体30の第二先端領域31が組付前に直線状である外側コイル体20の内側面に接触することにより、外側コイル体20の第一屈曲部22が形成されている。
【0053】
本実施形態のガイドワイヤにおいても、上述した第一実施形態での作用効果(1)、(3)、(4)、(5)及び(6)を発揮することができる。
また、下記作用効果(7)及び(8)を発揮することができる。
【0054】
(7)本実施形態のガイドワイヤにおいて、内側コイル体の第二先端領域の最先端は、内側コイル体が第一の方向に付勢された状態で、コアシャフトの遠端部の最先端から後端側に離間した位置と別の先端ロウ付け部により互いに固定されている。
そのため、屈曲先端部が分岐血管の内壁に押し当てられること等により曲げ力が加えられた際には、付勢した内側コイル体の第一の方向への付勢力により内側コイル体が第一の方向により曲がりやすい。
その結果、屈曲部近傍を支点として屈曲先端部が分岐血管の湾曲に追従してさらに曲がりやすく、分岐血管をさらに選択しやすい。
【0055】
(8)本実施形態のガイドワイヤにおいて、内側コイル体の第二先端領域の最先端は、先端ロウ付け部から後端側に離間しており、別の先端ロウ付け部により、コアシャフトの遠端部の最先端から後端側に離間した位置と互いに固定されている。これにより、先端ロウ付け部と内側コイル体の第二先端領域の最先端との間には、外側コイル体の第一先端領域とコアシャフトの遠端部とからなるスペーサー領域が形成されている。
スペーサー領域には、内側コイル体が含まれていないので、柔軟性が高い。
よって、ガイドワイヤの遠位部から近位部にかけてみてみると、硬く柔軟性の低い先端ロウ付け部、柔軟性の高いスペーサー領域、そして、硬く柔軟性の低い別の先端ロウ付け部の順に配置されている。
従って、血管の内壁に衝突すること等によりガイドワイヤの遠位部に曲げ力等の外力が加えられた際には、スペーサー領域を基点として遠位部が湾曲しやすく、硬い先端ロウ付け部を有しているにも関わらず、血管の内壁を傷つけにくい。
【0056】
(第二実施形態のガイドワイヤの製造方法)
本実施形態のガイドワイヤは、内側コイル体の第二先端領域の最先端とコアシャフトの遠端部の最先端から後端側に離間した位置とを別の先端ロウ付け部により互いに固定すること以外は、第一実施形態のガイドワイヤの製造方法に準じて製造することができる。
【0057】
(その他の実施形態)
本発明のガイドワイヤにおいて、外側コイル体の第一屈曲部は、組付前に直線状である外側コイル体に第一の方向へ付勢された内側コイル体が接触することにより形成されていてもよい。
また、外側コイル体の第一屈曲部は、組付前に第一の方向へ所定の角度で屈曲した外側コイル体に第一の方向へ付勢された内側コイル体が接触することにより形成されていてもよい。
また、外側コイル体の第一屈曲部は、組付前に第一の方向へ第一の角度で屈曲した外側コイル体に、組付前に第一の方向へ第二の角度で屈曲した内側コイル体を挿入することにより形成されていてもよい。
【0058】
本発明のガイドワイヤにおいて、内側コイル体のうちで第二屈曲部よりも先端側に位置する第二先端領域の中心軸は、外側コイル体のうちで第一屈曲部よりも先端側に位置する第一先端領域の中心軸よりも第一の方向に偏って位置していることが望ましいが、第一先端領域の中心軸よりも第一の方向と反対側の方向に偏って位置していてもよい。また、第二先端領域の中心軸は、第一先端領域の中心軸と重なっていてもよい。
【0059】
本発明のガイドワイヤにおいて、内側コイル体は、外側コイル体の内側に配置されていればよく、外側コイル体の内側で内側コイル体が遠端部を覆うように配置されていてもよいし、外側コイル体の内側で内側コイル体が遠端部に隣接して配置されていてもよい。
また、これらの場合において、遠端部の中心軸は、第二先端領域の中心軸から第一先端領域の中心軸の方向に偏って位置していることが望ましい。
【符号の説明】
【0060】
1 ガイドワイヤ
10 コアシャフト
11 遠端部
12 基端部
20 外側コイル体
22 第一屈曲部
X 第一の方向
α 第一の角度
30 内側コイル体
32 第二屈曲部
β 第二の角度
図1
図2
図3
図4