【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、塩酸耐食性に優れたNiろう材の開発を行うための合金組成の検討にあたっては、下記の目標値を設定し、これを全て満足することを条件とした。
(目標値)
(1) 液相線温度〔融点〕が1130℃以下であること
(2) 抗折力〔材料強度〕が500N/mm
2以上であること
(3) ろう接性〔SUS304に対する濡れ拡がり試験〕において、ろう付後の濡れ拡がった面積が110mm
2以上であること
(4) 塩酸耐食性〔10%塩酸に対する腐食減量〕が3.0mg/m
2・s以下であること
【0009】
上記の目標値(1)〜(4)を全て満足する本発明のろう接用塩酸耐食合金は、その組成が質量%で、Moを6.0〜18.0%、Crを10.0〜25.0% 、Siを0.5〜5.0%、Pを4.5〜8.0%含み、残部が40.0〜73.0%のNiおよび不可避不純物からなり、SiとPの合計が6.5〜10.5%であることを特徴とする。
ここで、不可避不純物とは、意図的に添加していないのに、各原料の製造工程等で不可避的に混入する不純物のことであり、このような不純物としては、Mg, S, O, N, V, Zr, Snなどが挙げられ、これらの総量は通常0.3質量%以下であり、本発明の作用に影響を及ぼす程ではない。
【0010】
また、本発明は、上記の特徴を有するろう接用塩酸耐食合金において、Cuを12.0質量%以下含有することを特徴とするものでもある。
【0011】
さらに、本発明は、上記の特徴を有するろう接用塩酸耐食合金において
、さらにCoを20.0質量%以下、Feを15.0質量%以下、Wを8.0質量%以下、Mnを5.0質量%以下、C、B、Al、Ti、Nb
を合計
で0.5質量%以下
含有し、これらの合計が20.0質量%以下であることを特徴とするものでもあ
り、これらの添加元素は、上記の目標値(1)〜(4)の特性に影響を及ぼさない。
【0012】
次に、本発明に係わる塩酸耐食合金の各成分範囲を限定した理由を述べる。
【0013】
Moは、基質(マトリックス)となるNi固溶体に固溶して、塩酸耐食性を向上させる効果があるが、含有量が6.0質量%(以下、%と記す)未満では十分な効果が得られない。また、18.0%を超えるとPと金属間化合物を多量に形成して強度が低下し、目標とする抗折力(500N/mm
2以上)が得られない。このため、Moの含有量は6.0〜18.0%の範囲に定めた。
【0014】
Crは、Ni固溶体に固溶し、耐熱・耐酸化性や強度を向上させ、さらに融点の調整に寄与するが、10.0%未満では、目標とする材料強度が得られないほか、固相線温度が低くなり、固相線と液相線の温度幅が広がって、ろう接の時に溶け分かれが生じる。また、25.0%を超えると塩酸に対する耐食性が著しく低下するため、Crの含有量は10.0〜25.0%の範囲に定めた。
【0015】
Siは、Niとの共晶反応により、合金の融点を低下させる効果があるが、含有量が0.5%未満では、十分な効果が得られず、目標の液相線温度(1130℃以下)を超える。また、5.0%を超えると過共晶となり、大幅に材料強度が低下して、目標とする抗折力が得られない。このため、Siの含有量は0.5〜5.0%の範囲に定めた。
【0016】
PはSiと同様に、Niと共晶反応により、合金の融点を低下させ、さらに、ろう接性を向上させるが、4.5%未満では、融点やろう接性の面で十分な効果が得られない。また、8.0%を超えると過共晶となり、大幅に強度が低下して、目標とする抗折力が得られない。このため、Pの含有量は4.5〜8.0%の範囲に定めた。
【0017】
さらにSi、Pに関しては、Si+Pの量を限定することで特に融点と材料強度を制御することができる。すなわち、Si+Pが6.5%未満では融点が高くなり、目標とする液相線温度を超える。また、Si+Pが10.5%を超えると、過共晶となり、大幅に強度低下して、目標とする抗折力が得られない。このため、Si+Pは6.5〜10.5%の範囲に定めた。
【0018】
Cuは、Ni固溶体に固溶して耐食性を向上させるが、12.0%を超えると材料強度が低下して、目標とする抗折力が得られないため、Cuは12.0%以下とした。
【0019】
本発明のろう接用塩酸耐食合金において、物性に悪影響を及ぼさない添加元素として、Coを20.0%以下、Feを15.0%以下、Wを8.0%以下、Mnを5.0%以下、C、B、Al、Ti、Nbを合計で0.5%以下含むことができるが、塩酸耐食性、融点、材料強度、ろう接性を損なわないようにするため、Co、Fe、W、Mn、C、B、Al、Ti、Nbの合計量の上限値を20.0%に定めた。
【発明の効果】
【0020】
本発明のNiろう材は、以下の特徴を有しているので、塩酸耐食性を有したNiろう材として広範囲な用途への適応が可能となる。
(1) 液相線温度が1130℃以下であるので、汎用の産業用雰囲気炉を用いたろう接施工が可能である。
(2) 抗折力は500N/mm
2以上を有しており、Niろう材として適度な強度を備えている。
(3) SUS304に対するろう付後の濡れ拡がり面積が110mm
2以上で、ろう接時のろう材が基材表面で良く濡れ、流れ、拡がるため、ろう接における作業性が優れている。
(4) 10%塩酸(60℃)腐食試験において、腐食減量が3.0mg/m
2・s以下であり、塩酸に対する耐食性が優れている。