【文献】
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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワクシニアウイルス欠失変異体(dVACV)を調製する方法であって、前記方法が、(a)ワクシニアウイルス(VACV)ゲノムがヒト細胞株内で複製する、VACVのゲノムを含むベクターを提供すること;
(b)・del I(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置4052〜7465);
・del II(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置23139〜25884);
・del III(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置158867〜162413);
・del IV(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置180639〜187092);
・del V(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置17438〜22159);および
・del VI(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置135481〜139264)に対応する配列を欠失させること;(c)前記dVACVを分離することを含み、
前記VACVが、漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(CVA)である、
方法。
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によって得られる欠失漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(dCVA)であって、前記dCVAが、293、143B、およびMRC−5細胞株から選択されるヒト細胞株内で複製する、欠失漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(dCVA)。
前記dCVAが、前記ヒト293細胞株、ヒト143B細胞株、またはヒトMRC−5細胞株において、5よりも大きな増幅率により複製する、請求項5に記載のdCVAまたは請求項6に記載のベクター。
前記少なくとも1つの変異が、前記ヒト細胞株内での前記mdVACVの複製に影響するか否かを決定するため、前記dVACVの増幅率を前記mdVACVの増幅率と比較することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
前記少なくとも1つの変異が、動物における前記dVACVの複製、前記dVACVの病原性、および/または前記dVACVの免疫原性に影響するか否かについて決定することをさらに含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
前記少なくとも1つの変異が、前記ヒト細胞株内での前記mdVACVの複製に影響するか否かを決定するため、前記dCVAの増幅率を前記mdVACVの増幅率と比較することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従って本発明の一態様は、
a)ワクシニアウイルス(VACV)のゲノムを提供すること;
b)・del I(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置4052〜7465);
・del II(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置23139〜25884);
・del III(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置158867〜162413);
・del IV(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置180639〜187092);
・del V(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置17438〜22159);および/または
・del VI(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置135481〜139264)から選択される配列に対応する、欠失されるべき少なくとも1の配列をVACVゲノムから欠失させることを含む方法によって得られるワクシニアウイルス欠失変異体(dVACV)のゲノムを提供し、
ここでdVACVは少なくとも1のヒト細胞株、例えばヒト細胞株MRC−5(ATCC CCL−171)において複製能力があり、かつ以下のウイルスのゲノムは否定される:vP668、vP681、vP749、vP774、vP796、vP811(25)、MVA−I721(GenBank受託番号DQ983236)(1)およびVACV株Tian Tan変異体MVTT
2−GFP(39、40)。vP759も除外される(25)。
【0012】
このようなワクシニアウイルス欠失変異体(dVACV)のゲノムは、変異ワクシニアウイルス欠失変異体(mdVACV)調製のための中間体であることが予想される。
【0013】
本発明の関連態様は、上に提示したdel I、del II、del III、del IV、del Vおよび/またはdel VI(dVACV)に対応する少なくとも1の配列を欠損するワクシニアウイルスを提供し、前記dVACVは少なくとも1のヒト細胞株、例えばヒト細胞株MRC−5(ATCC CCL−171)において複製能力があり、以下のウイルスは否定される:vP668、vP681、vP749、vP774、vP796、vP811(25)、MVA−I721(GenBank受託番号DQ983236)(1)およびVACV株Tian Tan変異体MVTT
2−GFP(39)。vP759も除外される(25)。
【0014】
GenBank受託番号AM501482に示される配列を含む漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラは、「漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ−PP」(CVA−PP)としてECACCに寄託され、受託番号は10062901である。
【0015】
本明細書で用いられる「ワクシニアウイルスゲノム」または「VACVゲノム」は、del I、del II、del III、del IV、del V、および/またはdel Vそれぞれの欠失に先立ち、かつ少なくとも1の挿入、欠失、置換、または反転によるそれぞれの変異いずれかに先立つワクシニアウイルスの配列を意味する(以下でさらに考察する)。従って「VACVゲノム」は、天然から分離されたそれぞれの株に対するいずれかの型の欠失または変異を有する野生型VACV配列であってよい。あるいは「VACVゲノム」は、1以上の天然の(すなわち天然で生じた)または人工の(すなわち人間により導入された)単数もしくは複数の欠失および/または単数もしくは複数の変異を既に含むが、本発明によるさらなる欠失および/または変異を導入するための出発物質として用いられることが意図された、特定の野生型株に対する配列であってもよい。
【0016】
本明細書で用いられる「ワクシニアウイルスゲノムの欠失変異体」または「dVACVゲノム」は、del I、del II、del III、del IV、del V、および/またはdel VIの少なくとも1に対応する配列が欠失した配列ワクシニアウイルスの配列を意味する。del I、del II、del III、del IV、del V、および/またはdel VIの配列は、GenBankデータベースに受託番号AM501482によって登録されている単離されたCVAの完全なコード領域への参照によって独自に同定され、ECACCに受託番号10062901によって物的に寄託される。ワクシニアウイルスの好ましい欠失変異体は、本明細書に記載される漿尿膜ワクシニアウイルス(CVA)欠失変異体である。
【0017】
本明細書でGenBankデータベース受託番号AM501482を参照する際、これには2007年11月21日のAM501482のバージョンAM501482.1、および2009年1月31日のバージョンAM501482.1が含まれる。両バージョンの配列は、出願者が知る限り同一である。しかしながら疑わしい場合には2007年11月21日のバージョンが好ましい。前記配列はMeisinger−Henschelらによっても開示されている(29)。
【0018】
本配列のヌクレオチド位置4052〜7465はdel Iに相当する。本配列のヌクレオチド位置23139〜25884はdel IIに相当する。本配列のヌクレオチド位置158867〜162413はdel IIIに相当する。本配列のヌクレオチド位置180639〜187092はdel IVに相当する。本配列のヌクレオチド位置17438〜22159はdel Vに相当する。本配列のヌクレオチド位置135481〜139264はdel VIに相当する。GenBank受託番号AM501482のこれらの配列領域もまたMeisinger−Henschel et al.(2007).J.Gen.Virol.88,3249−3259によって提示されており(該文献3252頁の
図2Bを参照)、MVAにおいて欠落しているCVAゲノムの6領域に相当する。
【0019】
本明細書で用いられる、「VACV」と略される用語「ワクシニアウイルス」は、好ましくは、CVAと略される漿尿膜ウイルスを含む。従って、「dVACV」と略される用語「ワクシニアウイルスの欠失変異体」にはdCVAが含まれる。同様に、「mdVACV」と略される用語「ワクシニアウイルスの変異欠失変異体」には「mdCVA」が含まれる。
【0020】
本明細書で用いられる、GenBank受託番号AM501482の特定の部分に「対応する」配列(受託番号10062901によってECACCに寄託されるウイルス「CVA−PP」のゲノムに対応する)は、問題となる配列を標準的方法によってAM501482と整列させた際、示された部分またはAM501482の部分に対して有意な相同性を示す配列の伸展を指す。VACVの異なる株は、GenBank受託番号AM501482のdel I〜del VIに類似するが、これらの配列と同一ではない配列を含んでよく、特に参照配列に対して異なるヌクレオチドを数個かまたはそれ以上含んでよい。GenBank AM501482のdel I〜del VIに類似する、問題となる配列の伸展は、確立されたソフトウェア、例えばClustal Wバージョン2を「標準」または「プリセット」のパラメータに設定して用いることによる、標準的なin silicoアラインメント技術によって容易に決定できる。Clustal Wバージョン2は、以下のアドレス:http://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw2/index.htmlからオンラインで使用および/または取得されてよい。例えば、del I〜del VIのいずれとも同一でないにもかかわらず、本発明の意味においてこれらの配列のいずれかに「対応する」配列は、del I〜del VIを指定したAM501482の部分配列の1以上に対して少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも75%の同一性、さらに好ましくは少なくとも80%の同一性、最も好ましくは少なくとも90%の同一性を有してよい。従ってdel I〜del VIに「対応する」配列には、上に示した、GenBank受託番号AM501482の所定の配列への参照による特定の配列が含まれるがこれらに限定されない。
【0021】
本明細書で用いられる、列挙される複数の要素の間の接続詞「および/または」は、個々の、および組み合わせた選択肢両方を包含することが理解される。例えば2つの要素が「および/または」によって結合された場合、第1の選択肢は、第2要素なしでの第1要素の適用性を指す。第2の選択肢は、第1要素なしでの第2要素の適用性を指す。第3の選択肢は、第1および第2要素両方の適用性を指す。これらの選択肢のいずれの1も意味の範囲内にあることが理解されることから、本明細書で用いられる用語「および/または」の要件を満たす。1を超える選択肢の同時適用性もまた意味の範囲内にあることが理解されることから、本明細書で用いられる用語「および/または」の要件を満たす。
【0022】
本明細書で用いられる「複製能力がある」は、所定の細胞内、例えば上に示した細胞株MRC−5のような所定のヒト細胞株内でのウイルスの複製能を指す。特定の細胞内で複製できるウイルスは「複製能力がある」ことを意味するが、このような細胞内で複製できないウイルスは「複製能力がない」ことを指す。従って複製能力があるウイルスはときおり、選択された試験条件下で「複製」または「再生的複製」できるものとして記載される。ウイルスの増殖行動または増幅/複製は、細胞を感染させるため最初に用いた量(「入力力価」)に対する、感染細胞により産生されたウイルス(「出力力価」)の比によって表現されてよい。出力:入力の比は「増幅比」であり、この増幅比は、複製能力があるかまたはないことについての望ましい尺度を提供する。
【0023】
増幅比は、複製能力の定量的尺度としても用いることができる。本明細書で用いられる「複製制限」または「複製減毒化」ウイルスは、問題となるウイルスが、所定の条件下で、同条件下での基準ウイルスの対応する能力に比較して、部分的または全体的に能力を損なうことを指す。in vitroの設定(例えば細胞株)において、問題となるウイルスは「複製制限」と称される。in vivo の設定(例えば動物体内)において、問題となるウイルスは「複製減毒化」と称される。本明細書においてこれらの用語はこのように用いられる。複製能力の制限または減毒(in vitroまたはin vivoそれぞれの設定に応じて)は増幅比を低下させる可能性があり、増幅比はなお1.0以上であるか、または1.0未満の値に低下する。前者の場合、ウイルスは同じ条件下で、その基準ウイルスよりも低いものの、なお複製能力を維持する。後者の場合、問題となるウイルスは「複製能力がない」。このように、「複製制限」または「複製減毒化」ウイルスは必ずしも「複製能力がない」わけではない。
【0024】
増幅比1.0は、感染細胞から産生されたウイルスの量が、細胞の感染に用いた最初の量に同じである複製状態と定義され、これにより複製が起こったことが示され;増幅比1.0は、感染細胞内でそれぞれのウイルスに「複製能力がある」ことを意味する。増幅比>1に対する同適用;増幅比>1を生じるウイルスは、特定の細胞内でのそのウイルスの複製能力を示す。一方で増幅比<1は、出力力価の入力力価未満の低下、細胞における再生複製の欠如、従って複製能力がないことを示す。特定の細胞内の特別のウイルスの増幅能力があるかまたはないことのそれぞれの程度は、測定された増幅比が1.0よりもどれだけ高いかまたは低いかに依存し得る。しかしながら、増幅比が選択された細胞内で1.0よりも大きいかまたは等しい限り、本発明の意味において「複製能力がある」ウイルスについて定量的に述べ得るが、本発明の意味において「複製能力がない」ウイルスは、1.0未満の増幅比に定性的に関連する。
【0025】
所定の細胞内での所定のウイルス(本発明のコンストラクトを含む)の増幅比は、一般に当業者に公知である以下の方法によって測定されてよい。
【0026】
一般に、所定のウイルスに複製能力があるかないかを決定するためには、選択した個別の単数または複数の細胞型に、「入力」力価で表される既知量の被検ウイルスを感染させる。入力力価は、TCID
50法による入力ウイルスの用量設定に許容的な細胞を用いて、複製性質の評価に先立って決定される(14、27)。望ましい入力力価を得るため、接種ウイルスは適切に希釈される。選択された細胞型への感染は全4日間置かれ、その後感染細胞の溶解によってウイルスサンプルが調製される。以下に述べるように、これらのウイルス試料を次にCEF指標細胞について用量設定する。これが「出力」力価である。入力力価に対する出力力価の比が1未満であるとき、被検ウイルスは試験条件下では複製能力がないことが示されるが、入力力価に対する出力力価の比が1以上であるとき、被検ウイルスは試験条件下で複製能力があることが示される(上記参照)。
【0027】
被検ウイルスの複製性質を決定するため、選択した細胞を6ウェルプレートに5×10
5細胞/ウェルの濃度でまき、2%FCSを加えたDMEM(Gibco、カタログ番号61965−026)中で37℃、5%CO
2にて一晩インキュベートする。細胞培養液を除去し、細胞を接種ウイルスと共に37℃、5%CO
2雰囲気下で1時間インキュベートする。異なる細胞型それぞれへの感染に用いるウイルスの量は5×10
4TCID
50である。これが上に述べたウイルスの「入力」力価である。37℃にて1時間経過後、接種材料を吸引除去し、次に細胞をDMEMで3回洗浄し、最後に1ml DMEM、2%FCSを添加してプレートを37℃、5%CO
2にて96時間(4日間)インキュベートする。プレートを−80℃で凍結することにより感染を停止させ、用量設定に備える。得られた、感染細胞の残りとインキュベーション培地を含む細胞ライセートは、出力力価を決定するために用量設定するウイルス試料である。従って、サンプルは細胞内および細胞外のウイルスを含む。
【0028】
複製分析からのウイルス試料の用量設定分析(ワクシニアウイルス特異的抗体による免疫染色):ウイルス出力力価の用量設定のため、CEF細胞を96ウェルプレートのRPMI(Gibco、カタログ番号61870−010)、7%FCS、1%抗生物質/抗真菌剤(Gibco、カタログ番号15240−062)中に1×10
4細胞/ウェルの濃度でまき、37℃、5%CO
2にて一晩インキュベートする。感染実験を含む6ウェルプレートを3回凍結/融解し、RPMI増殖培地を用いて10
−1〜10
−12の希釈物を調製する。ウイルス希釈物を試験細胞上に8通りに分配し、37℃、5%CO
2にて5日間インキュベートしてウイルスを複製させる。試験細胞を10分間固定し(アセトン/メタノール1:1)、風乾させ、洗浄緩衝液(PBS/0.05%Tween20)で1回洗浄した後、インキュベーション緩衝液(PBS/3%FCS)中で1:1000に希釈したポリクローナルワクシニアウイルス特異的抗体(例えばQuartett Berlin、カタログ番号9503−2057)と共に1時間RTでインキュベートする。洗浄緩衝液で2回洗浄した後、インキュベーション緩衝液中で1:1000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗ウサギIgG二次抗体(Promega Mannheim、カタログ番号W4011)をRTで1時間添加する。細胞を再び洗浄緩衝液で2回洗浄し、染色液(PBSで1:2希釈した3,3`、5,5`テトラメチル−ベンジジン発色基質(1.2mM;Seramun Diagnostic GmbH、カタログ番号S−002−5−TMB/))と共に15分間RTにてインキュベートする。プレートを洗浄緩衝液で1回洗浄する。顕微鏡を用い、プレート中の紫色を呈する感染細胞を記録する(付録3のスコア化シートを参照)。
【0029】
紫の染色を示す全てのウェルをウイルス複製陽性として標識し、Spearman−Kaerber法(TCID
50アッセイ)(14、27)を用いて力価を算出する。これが「出力」力価である。
【0030】
入力および出力力価の両方について得られた値により、出力:入力の増幅比が、所定の細胞型における所定のウイルスの複製の程度の表示として算出されてよい。上記の手順を用い、選択した細胞株、例えばヒトMRC−5細胞において、特別のウイルスにどの程度複製能力があるかを容易に決定できる。
【0031】
dVACVは、上に定義したdel I、del II、del III、del IV、del Vおよび/またはdel VIに対応する1以上の配列を欠失させることにより得られる。del I〜del VIに対応する配列の欠失全ての可能な組み合わせは本発明に特異的に包含され、これらは例えばdel III単独、del IIおよびdel IV、del Iならびにdel Vおよびdel VIなどに対応する配列である。このように、dVACVは上に定義したdel I、del II、del III、del IV、del V、および/またはdel VIに対応する配列の1、2、3、4、5、または6の欠失を有し得る。好ましくは、dVACVはGenBank受託番号AM501482への参照によるdel I、del II、del III、del IV、del V、およびdel VIの6個全てに対応する配列を欠失させた結果である。
【0032】
dVACV、例えばdCVAは、例えば293、143B、およびMRC−5細胞株から選択されるヒト細胞株において複製能力がある。上述の意味で、dVACVはヒト細胞株MRC−5において複製能力があることが好ましい。dVACV、例えばdCVAは、細胞株、好ましくは本明細書に記載されるヒト細胞株、例えばヒト細胞株MRC−5において、上述のように測定された増幅率が5、10、20、50、100、250、500、または1000よりも大きな複製能力があることが好ましい。
【0033】
上述のように、del I〜del VIに対応する配列は、MVAに至る途中の親CVAウイルスの多くの継代においてCVAゲノムから失われた。MVAは、ワクチン接種される疾病に関連する抗原の源として作用するが、投与されるヒトホストの細胞に細胞壊死効果を導かないことから、ウイルスベースのワクチン療法への使用に非常に適している。驚くべきことに、CVAとMVAの間の遺伝的関連性の研究において、本願発明者は、CVAそれ自体のdel I〜del VIに対応する配列の欠失が、ウイルスベースのワクチン療法におけるベクターとしてのMVAの使用によって有利な特性を与えるために十分ではないことを見出した。MVAの有利な減毒化は、(a)del I〜VIの配列の欠失、および(b)これらの配列の欠失を超えたその他の変異の発生の組み合わせによるものと考えられる。del I〜del VIに対応する少なくとも1の配列が欠失したワクシニアウイルス欠失変異体(dVACV)の提供において、本発明は、上述の欠失を超えたさらなる変異に効果を及ぼす出発点として使用できる重要な手段を有利に提供する。それ故dVACVゲノムおよびベクター、特にウイルス、本発明のコンストラクトは、ウイルスベースのワクチンの成功に重要なウイルス複製の減毒化の基礎を決定し、最終的にはウイルスベースのワクチン療法において有用である代替のウイルスベクターの開発を助けるための重要な手段を提供する。
【0034】
本発明の様々な態様の特に好ましい実施形態によれば、dVACVはdCVAである。GenBank受託番号AM501482の下に提示されるゲノム配列を有するCVA由来のdCVAが特に好ましい。対応する物的なウイルスは、株「CVA−PP」として、受託番号10062901によりECACCに寄託されている。
【0035】
好ましいdCVAゲノムの一例は、del Vに対応する配列を欠除した、さらに好ましくはdel IおよびIVに対応する配列を欠除した、さらに好ましくはdel I、II、およびIVに対応する配列を欠除した、さらになお好ましくはdel I、II、III、およびIVに対応する配列を欠除した、さらになお好ましくはdel I、II、III、IV、およびVに対応する配列を欠除した、ならびに最も好ましくはdel I、II、III、IV、V、およびVIに対応する配列を欠除したゲノムを含む。
【0036】
従って好ましい実施形態によれば、ワクシニアウイルス変異体を得ることのできる方法は、少なくとも1の変異をdVACVゲノムに導入して変異ワクシニアウイルス欠失変異体(mdVACV)を産生することをさらに含み、ここでmdVACVは少なくとも1のヒト細胞株内で複製能力があり、かつヒト細胞株内でのmdVACVの複製能力はヒト細胞株内でのdVACVの複製能力に比較して制限される。ヒト細胞株は例えばMRC−5(ATCC CCL−171)であってよい。
【0037】
関連する好ましい実施形態は、少なくとも1の変異をさらに含むdVACV(mdVACV)を提供し、ここでmdVACVは少なくとも1のヒト細胞株内で複製能力があり、かつヒト細胞株内でのmdVACVの複製能力はヒト細胞株内でのdVACVの複製能力に比較して制限される。ヒト細胞株は例えばMRC−5(ATCC CCL−171)であってよい。
【0038】
上に説明したように、その複製能力において、その祖先dVACVに比較して制限または減毒化された変異欠失変異体のゲノムは、特定の条件下での複製能力の望ましい制限に関与するゲノム変異の型に対する有用な情報を提供できる。野生型ワクシニアウイルスのような既知のウイルスはウイルスベースのワクチンとしての使用には困難を呈するが;これらは関心のある抗原に応答して望ましい免疫原性を誘発し、また投与の際にしばしば有意な病原性および病的状態をもたらすために十分な病原性を有し、かつそのために患者への投与は安全でない可能性がある。対照的に、本実施形態の変異ワクシニアウイルス欠失変異形(mdVACV)は、それらの親dVACVに比較して複製が制限されていることから病原性が減少しているが、ワクチン療法において関心のある抗原の配列をコードする送達薬剤として作用する能力は保持している。
【0039】
本発明のこの実施形態によれば、mdVACVゲノムは複製能力を保持しているが、対応する親dVACVに比較したこの複製能力の制限は、複製能力の減少および最終的な喪失に関与する変異の型ならびに位置についての貴重な情報を提供できる。この情報は、ウイルスベースのワクチン療法における使用のための複製減毒化ウイルスのさらなる設計に重要である。
【0040】
本明細書で用いられる「変異」は、配列の持続領域における少なくとも1のヌクレオチドの挿入、欠失、置換(転移および転換を含む)として理解されなければならない。mdVACVを導く変異が欠失であるかまたは欠失を含む場合、「欠失」は、上に定義したdel I〜del VIに対応する領域以外の領域に由来する少なくとも1のヌクレオチドを除去することが好ましい。このように、dVACVからmdVACV を導く変異が欠失である場合、この欠失は、VACVのdVACVへの変換後に残るdel I〜del VIのいずれかに対応する配列以外の配列(少なくとも1のヌクレオチド)の欠失であることが好ましい。「持続領域」は、VACVでは最終コンストラクトで欠失し得ない領域を指し、dVACVではdel I〜del VIの1以上の欠失後に残るゲノム領域を指す。従って持続領域は、VACVゲノム内で影響を及ぼす全ての欠失が影響した後にmdVACVに残り得る領域であり、このような欠失がdel I〜del VIの1以上であるか、またはdel I〜del VIに対応しない別の領域であるかに関わらない。少なくとも1の変異が、公知の方法、例えば標的変異誘発、エラープローンPCRなどによってこの領域に導入されてよい。
【0041】
本発明のこの実施形態によれば、上に提示したmdVACVゲノムは、mdVACVにおける場合、ヒト細胞株、例えばヒト細胞株MRC−5内でのその複製が対応する親dVACVに比較して制限されている、および/または動物におけるその病原性が対応する親dVACVに比較して減毒化している。ウイルスの複製能力の制限を判定するために適した方法は、上に提示した。動物におけるウイルスの複製能力の減毒化、ならびに動物における病原性および/または免疫原性を判定するために適した方法は、以下に提示する。
【0042】
少なくとも1の欠失および少なくとも1の変異が導入される順序は決定的なものではない。すなわち、dVACVを産生するために、最初にVACVゲノムからdel I〜del VI(上に定義した)に対応する少なくとも1の配列を欠失させ、次に最終的なmdVACVを産生するために、持続領域に少なくとも1の変異を導入してmdVACVを産生することが可能である。あるいは、持続領域であることが意図される領域内に少なくとも1の変異を最初に導入し、次にdel I〜del VIに対応する少なくとも1の配列を欠失させて、もう一度最終的なmdVACVを産生することが可能である。しかしながら以下で明らかになり得るように、最初に配列を欠失させてdVACVを産生し、次に1以上のさらなる変異を導入して最終的なmdVACVを産生することが有利であり得るが、これはmdVACV産物(ゲノムまたはウイルス)の最終的に望まれる減毒化のため、制御された段階的な方法でdVACVにおけるさらなる突然変異の関連性を確立することが可能なためである。上で説明したように、これはin vitroでの有利な制限、およびよりよく理解され、確立され、次にウイルスベースのワクチン療法における使用に適した新規なウイルスコンストラクト産生において最終的に活用されるべきウイルス複製能力の、in vivoでの最終的な減毒化の遺伝的な基礎を可能にすることから、本発明の利点の一部である。
【0043】
dVACV、好ましくは、dCVAは、del I〜del VIの少なくとも1の欠失を超えてさらなる突然変異を含むことができ、持続領域内のこのような単数または複数のさらなる突然変異によってmdVACVと名付けられる。好ましい事例ではdVACVはdCVAであり、対応するmdVACVはmdCVAである。当業者は、dVACV、好ましくはdCVAのヌクレオチド配列を変化させるための分子生物学的または遺伝的技術を用いて作製できる、多数の変異が存在することを理解する。当業者はさらに、ヒト細胞株におけるdVACVの複製能を阻害することなく、多数の変異、例えば保存されたサイレント変異、および非コード領域内の変異を作製できることを認識する。しかしながら、少なくとも1の変異はコード領域内に導入されることが望ましい。
【0044】
本発明の一実施形態では、さらなる突然変異を含むmdVACVの、dVACVに比較した複製能力をヒト細胞株内でアッセイし、dVACVの欠失を超えるさらなる突然変異が、アッセイに使用したヒト細胞株内でmdVACVゲノムの複製能力を制限するか否かを調べた。これは上述のように行うことができ、mdVACVの、上に定義した増幅率が同じヒト細胞株においてdVACVよりも低い事例において、mdVACVの複製能力は親dVACVに比較して制限されていると結論できるであろう。この複製制限mdVACVは次に、さらなる変異を導入し、dVACVまたはmdVACVのいずれかに関して複製能力を再評価することによる最適化のさらなるラウンドのための手段として用いることができる。従ってウイルスベースのワクチン療法における使用により適した複製制限ウイルスの産生は、さらに取り込まれた変異が所定のヒト細胞株内で複製能力のさらなる制限をもたらす、反復的な効果を表すことができる。すなわち、最適化の第1ラウンドの最後にあるmdVACVは、さらなる最適化のラウンドの開始においてdVACVとなり、第1のものよりもさらに制限されたmdVACVをなお産生する。適した細胞株には、143B(ATCC CRL−8303、293(ATCC CRL−1573)、HaCaT(6)、Hela(ATCC CCL−2)、MRC−5(ATCC CCL−171)、BS−C−1(ATCC CCL−26)、CV−1(ATCC CCL−70)、BALB/3T12−3(ATCC CCL−164)、MDCK(ATCC CCL−34)、RK−13(ATCC CCL−37、SIRC(ATCC CCL−60)、およびIEC−6(ATCC CRL−1592)が含まれる。ヒト細胞株MRC−5(ATCC CCL−171)が特に好ましい。好ましい実施形態によれば、dVACV、好ましくはdCVAの変異が、ヒト細胞株、好ましくはMRC−5(ATCC CCL−171)内で、得られたmdVACV、好ましくはmdCVAの複製に影響を及ぼすか否かについて決定される。
【0045】
1以上の型のmdVACVを作製するため、任意に反復的な方法でdVACVに変異を取り込ませることにより、ヒト細胞株内でのmdVACVの複製能力を、このヒト細胞株内での複製能力が完全に失われるまで制限することが可能である。このことは選択したヒト細胞株へのmdVACVの感染後に測定した増幅率が、感染後に細胞を感染させるために最初に用いたよりも少ないウイルスを意味する1.0未満、好ましくは十分に1未満である事例に相当する。この場合、複製能力のないmdVACVによるウイルス感染は、mdVACVの全体的な喪失と共に進行する。このようなmdVACVゲノムおよびベクター、特にウイルスベクターは、いずれの複製または病原性もなく望ましい免疫原性応答を誘発する可能性があることから、ウイルスベースのワクチン療法に特に有利である。
【0046】
従って本発明のさらなる態様は、
a)ワクシニアウイルス(VACV)のゲノムを提供すること;
b)上に提示するdel I、del II、del III、del IV、del Vおよび/またはdel VIに対応する少なくとも1の配列を欠失させること;および
c)VACVゲノムに少なくとも1の変異を導入することを含む方法によって得られる変異ワクシニアウイルス欠失変異体(mdVACV)のゲノムを提供し、
ここでmdVACVは少なくとも1のヒト細胞株、例えばヒト細胞株MRC−5(ATCC CCL−171)において複製能力がなく、かつ以下のウイルスのゲノムは否定される:MVA−572(ECACC V94012707)、MVA−BN(登録商標)(GenBank受託番号DQ983238)、MVA II/85(5)、MVA(ATCC VR−1508)、およびNYVAC(34)。その配列がGenBankに受託番号AY603355により寄託されるAcambis3000改変ウイルスアンカラ、およびMVA−I721(1)もまた除外される。
【0047】
本発明の関連態様は変異ワクシニアウイルス欠失変異体(mdVACV)を提供し、ここで前記mdVACVは、上に提示するdel I、del II、del III、del IV、del Vおよび/またはdel VIに対応する少なくとも1の配列を欠如しており、ここで前記mdVACVは少なくとも1の変異を含み、ここでmdVACVは、少なくとも1のヒト細胞株、例えばヒト細胞株MRC−5(ATCC CCL−171)において複製能力がなく、かつ以下のウイルスは否定される:MVA−572(ECACC V94012707)、MVA−BN(登録商標)(GenBank受託番号DQ983238)、MVA II/85(5)、MVA(ATCC VR−1508)、およびNYVAC(34)。その配列がGenBankに受託番号AY603355により寄託されるAcambis3000改変ウイルスアンカラ、およびMVA−I721(1)もまた除外される。
【0048】
好ましくは、本明細書に記載される方法によって得られるmdVACVまたはmdCVAは、MVA−BN(V00083008としてECACCに寄託されている)と同じ性質/特色を有する。これらの性質は:ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)内で再生複製できること、ヒトケラチノサイト株HaCat、ヒト骨肉腫細胞株143B、およびヒト子宮頚部腺癌細胞株HeLa内では再生複製できないことである。
【0049】
MVA−BNのこれらの特色、MVA株がMVA−BNであるか否かを評価可能な生物学的アッセイ、およびMVA−BN(またはその誘導体)を得ることができる方法についての記載は、国際公開第02/42480号および国際公開第03048184号に詳細に開示されている。この出願の内容は、参照により本出願に含まれる。前記参考文献は、MVAおよびその他のワクシニアウイルスがどのように繁殖するかについても開示している。
【0050】
上に述べたように、本発明はmdVACV、好ましくはMVA−BNと同じ性質を有するmdCVAを企図することから、以下のウイルス/ゲノムは包含されない:MVA−572(ECACC V94012707)、MVA−BN、MVA II/85、MVA ATCC VR−1508、およびNYVAC。その配列が受託番号AY603355によりGenBankに寄託されるAcambis 3000改変ウイルスアンカラ、およびMVA−I721もまた包含されない。
【0051】
本発明のdVACV、好ましくはdCVA、またはmdVACV、好ましくはmdCVAは、医薬品または診断用組成物に含まれることが予想される。これはまたワクチン組成物にも含まれてよい。
【0052】
del I〜del VIに対応する少なくとも1の配列を欠損し、残りの持続領域に少なくとも1の変異を含むmdVACVの供給において、本発明者らはウイルスベクターおよびウイルスワクチン療法としての使用に潜在的に高く適したワクシニアウイルス変異体を改変するための方針を有利に提供した。
【0053】
上で述べたように、del I〜del VIに対応する配列の全てがdVACVまたはmdVACVコンストラクトに不在でなくてもよい。しかしながら、dVACVおよび/またはmdVACVがこれらに対応する配列を含まないように、del I〜del VIの全てを除去することが好ましいであろう。
【0054】
mdVACVにおける少なくとも1の変異に関して、変異はVACVゲノムの少なくとも1のコード領域内へ導入されることが好ましい。例えば設定されるコード領域は、F5L、B8R、B19R、A31R、A36R、A37R、およびA4Lから選択されてよい。1以上のこれらのコード領域における変異が好ましい。これらのコード領域は、VACVコペンハーゲン株の公開された配列(GenBank受託番号M35027)に対して定義される。
【0055】
好ましくはVACVゲノムは、そのゲノム配列がGeneBank受託番号AM501482により示される漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(CVA)である。GenBank受託番号AM501482に示される配列を含むCVAは、「CVA−PP」として受託番号10062901によりECACCに寄託されている。
【0056】
本発明によるmdVACV変異形は、その他のVACVを超えた決定的な利点をもつ。野生型ワクシニアウイルス、例えばCVAのような既知のウイルスは、ウイルスベースのワクチンとしての使用に困難を呈し得るが;これらは関心のある抗原に応答して望ましい免疫原性を誘発し、投与の際に有意な病原性および病的状態をもたらすために十分な病原性を有する可能性があり、かつそのために患者への投与は安全でない可能性がある。対照的に本発明のmdVACV変異形は、それらのin vitroおよび/またはin vivoでの複製能力および/またはそれらの生体内での病原性および/またはそれらのin vivoでの免疫原性において減毒化されているが、ワクチン療法の一部として関心のある抗原の配列をコードする送達薬剤として作用する能力は保持している。そのため、これらは存在する多くのウイルスよりもかなり安全である。従って本発明は、新規ウイルスゲノム、および、哺乳類、例えばヒト被験体における高い免疫原性および良好な安全特性の利点を組み合わせたMVAのような新規ウイルスへのアクセスを有利に拡大する。
【0057】
本発明のさらなる態様は、ベクター、好ましくは上に提示したdVACV(特にdVACVのゲノム)またはmdVACVゲノムを含むDNAベクターに関する。本発明の別の態様は、以下に詳述するdVACVの調製法によって得られるdCVAのゲノムを含むDNAベクターである。好ましくは、前記dCVAまたは前記dCVAのゲノムを含む前記DNAベクターは、ヒト293細胞株、ヒト143B細胞株、またはヒトMRC−5細胞株において5よりも大きな増幅率により再生的に複製する。ベクターは、例えば有利に細菌人工染色体(BAC)、プラスミド、またはウイルスであってよい。ベクターがウイルスである場合、ウイルスはワクシニアウイルスであることが特に好ましい。このように本発明は、上に提示するゲノムを含むワクシニアウイルスもまた提供する。
【0058】
ベクター、好ましくはVACVゲノム(dVACVゲノム)の欠失変異体、好ましくはCVAゲノムの欠失変異体(dCVAゲノム)を含むDNAベクターは、dVACVゲノム、好ましくはdCVAゲノムの大きさのDNA分子に対する用量を有するいずれのベクターであってもよい。好ましい実施形態によれば、DNAベクターは細菌人工染色体(BAC)、P−1由来人工染色体(PAC)、酵母人工染色体(YAC、哺乳類人工染色体(MAC)、またはヒト人工染色体 (HAC)(Harrington et al.1997.Nature Genetics 15:345;Takahashi et al.2010.Methods Mol.Biol.597:93;Giraldo et al.2001.Transgenetic Res.10:83;Amemiya et al.1991.Methods Cell Biol.60:235;Bunnell et al.2005.Expert Opin.Biol.Ther.5:195)である。最も好ましくは、DNAベクターは細菌人工染色体(BAC)である。DNAベクターを用いる場合、伝染性ウイルスは、当該技術分野における日常的技術、例えば以下の実施例に記載する技術を用いてDNAベクターから産生できる。一実施形態によれば、dCVAウイルス(dVACVの実例として)は、ヘルパーウイルスとしてショープ線維腫ウイルス(SFV)を用いてdCVAのゲノムを含むベクターから産生できる(47)。別の実施形態によれば、ヘルパー細胞株は、伝染性娘ウイルス内にパッケージされているトランスフェクトされたベクターから真正ウイルスゲノムを産生するための、ポックスウイルスによりコードされる転写系を供給するために用いることができる。
【0059】
BHK−21細胞へのベクタートランスフェクションおよびSFV感染後、伝染性dVACV、好ましくは伝染性dCVAを救出できる。ヘルパーウイルスを除去するため、CEF細胞、またはSFVに許容的でないその他の細胞型について3回継代を行うことができる。CEF細胞の3回継代後、救出したウイルスのストック内にSFV DNAが存在せず、従って伝染性SFVは存在しないことを確認するためにPCRを用いることができる。
【0060】
本発明のさらなる態様は、上もしくは下に述べるdVACVまたはmdVACVいずれかのゲノム、上に提示するいずれかのベクター、または上に提示するdVACVもしくはmdVACVを含む単離細胞を提供する。単離細胞は好ましくは酵母細胞、細菌細胞、または哺乳類細胞である。細胞が哺乳類細胞である場合、哺乳類細胞はマウス細胞、サル細胞、またはウサギ細胞であることが好ましい。特に好ましい実施形態では、細胞はCEF、BHK−21、143B、293、HaCat、Hela、MRC−5、BS−C−1、CV−1、Vero BALB/3T12−3、MDCK、RK−13、SIRC、またはIEC−6細胞から選択される。MRC−5細胞が最も好ましい。
【0061】
前述のことから明らかであるように、mdVACV変異形の産生は、ホストまたはホスト細胞に細胞壊死性の影響を引き起こすことなく、ホストまたはホスト細胞に所望の抗原を送達するために使用され得る代替のウイルスベクターを得るための有利な方法を表すものであり、これによって代替のウイルスベースのワクチン投与戦略への道を開く。従って本発明のさらなる態様は:
(a)・del I(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置4052〜7465);
・del II(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置23139〜25884);
・del III(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置158867〜162413);
・del IV(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置180639〜187092);
・del V(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置17438〜22159);および/または
・del VI(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置135481〜139264)から選択される配列に対応する少なくとも1の配列を欠失するVACVのゲノムであって、該VACVゲノムがヒト細胞株内で複製する、欠失したVACVゲノムを含むベクターを提供すること;
(b)該dVACVゲノムに少なくとも1の変異を導入すること;および
(c)該変異が、変異ワクシニアウイルス欠失変異体(mdVACV)の複製に影響を及ぼすか否かを決定することを含む、ワクシニアウイルス(VACV)における変異の効果を決定するための方法を提供する。
【0062】
好ましい態様によれば、VACVにおける変異の効果を決定するための方法は、
ヒト細胞株における前記dVACVの増幅率を測定する工程;および/または
ヒト細胞株における前記mdVACVの増幅率を測定する工程をさらに含む。
【0063】
別の好ましい態様によれば、前記方法は、少なくとも1の変異が前記ヒト細胞株内での前記mdVACVの複製に影響するか否かを決定するため、前記dVACVの増幅率を前記mdVACVの増幅率と比較することをさらに含む。
【0064】
上記方法において、同じヒト細胞株におけるdVACVおよびmdVACVの増幅率(それぞれ第1および第2の複製と名付ける)は、上に提示する方法により測定できる。本明細書で用いられる「増幅率」は、増幅率を決定することもまた含む。dVACVおよびmdVACVそれぞれに対する第1および第2の複製の単純な数値的比較は次に、dVACVに加えた所定の変異が、dVACVに比較してmdVACVの複製に影響するか否かについての望ましい指標として役立つ。特に、dVACVに対して測定された「第1の複製」がmdVACVに対して測定された「第2の複製」よりも大きな場合、このことはmdVACVを得るためにdVACVに導入された変異が、測定に用いた細胞内でのmdVACVのdVACVに比較した複製能力を制限したことを示す。
【0065】
本発明のこの態様による方法は、上記のdel I〜del VIに対応する少なくとも1の配列における特定の欠失に加えて作られたどのような種類の変異が、改良されたかまたは許容される安全特性を有し、ウイルスベースのワクチン療法に用いることが可能なウイルスベクターをもたらし得るかについての決定を有利に可能にする。制御された段階的な方法でdVACVのゲノム内に変異を誘導するこのアプローチにより、その複製および/またはその病原性の減毒化が十分に制限され、患者への投与が安全なウイルスをもたらす変異の型の系統的な決定が可能となる。例えば第1の複製の規模が第2の複製の規模よりも大きな場合、この比較により、複製せず、それ故にその親ウイルスであるdVACVよりも安全であるmdVACVが変異によって産生されたと結論し得る。第1の複製の規模が第2の複製の規模と同等であるかまたは小さな場合、mdVACVにおけるさらなる突然変異は安全性に対して効果を持たないか、またはこれによりmdVACVはウイルスワクチンとしての使用にその親ウイルスよりもさらに不適切であると結論し得る。本発明のこの態様による方法を反復的に行うことにより、ウイルスベースのワクチン療法における使用に適したウイルスの表現型に近付くか、またはそれをもたらすdVACV変異形における遺伝的変異の同定および最適化が可能になる。
【0066】
上述のように、本発明のこの態様による方法は、反復的方法において有利に用いられ得る。すなわち、特定の変異または変異の集合の確立により、mdVACVは、複製が少なく、それ故にその祖先であるdVACVよりも安全となり、得られたmdVACVは、その持続配列内にさらなる変異を導入することによってさらに改良できる。従って、変異による改変の第1ラウンドのmdVACVは、それに続くラウンドそれぞれのdVACVとなり得る。ウイルスベースのワクチン計画における潜在的な使用のためのワクシニアウイルス変異体の望ましい安全特性における継続的な改良の利点に加え、本発明のこの態様による方法のこのような系統的応用により、望ましい減毒化をもたらすことによるウイルスベースのワクチン療法における安全な有用性のために、VACVゲノムのどの領域が変異に最適であるかについて、およびどのような単数または複数の変異であるべきかについての有用な系統的規則の有利な開発が可能となる。
【0067】
好ましくは、本発明のこの態様による方法で用いられるヒト細胞株は、ヒト細胞株293(ATCC CRL−1573)、ヒト細胞株143B(ATCC CRL−8303)、およびヒト細胞株MRC−5(ATCC CCL−171)から選択される。
【0068】
好ましくは、dVACVはヒト細胞株内で10以上の増幅率によって再生的に複製する。このことは十分に高い開始値を提供し、続いて導入される変異による複製能力の制限は明確に観察され得、かつこのような変異に起因し得る。
【0069】
さらなる実施形態によれば、上に提示した方法は、変異が動物におけるdVACVの複製、病原性、および/または免疫原性に影響するか否かについて決定することをさらに含み得る。
【0070】
これらのパラメータを決定するため、BALB/cマウスは適切な動物モデルとして役立ち得る。これらのマウスは、例えば鼻腔内に被検ウイルスを感染させることができる。
【0071】
in vivoでの複製に関して、鼻腔内に感染させたマウスの肺およびその他の臓器は、例えばTCID
50法を用いて前述のように臓器ホモジネート内のウイルス力価を測定することにより、ウイルス量を分析できる(14、27)。
【0072】
病原性に関しては、感染後の生存を決定するため、十分に高い接種を用いることによって測定できる。さらに、低および高用量の感染後の病原性は、規定されたスコアリングシステムに従った体重減少および疾病の徴候の計量によって決定できる。BALB/cマウスにおけるdVACVまたはmdVACVの病原性決定のための実験の詳細は、以下の実施例に示す。
【0073】
動物におけるmdVACVの複製に関しては、適切なマウスモデルにおいて決定できる。例えばそれぞれのマウスは成熟BおよびT細胞を産生できない。このようなマウスの一例は、トランスジェニックマウスモデルRAG(Charles River Laboratoriesから入手可能)であり、または成熟BおよびT細胞を産生できず、重篤な免疫不全で、複製ウイルスに対して高度に感受性であるという要件を満たすその他のいずれかのマウス系統が使用できる。
【0074】
特に本発明のウイルスは、腹腔内注射によって投与した10
7TCID
50、さらに好ましくは10
8TCID
50のウイルスによるマウスの感染後、少なくとも45日以内、さらに好ましくは少なくとも60日以内、および最も好ましくは90日以内の期間に、RAGマウスを死滅させ得ない。「in vivoでの複製の失敗」を示すウイルスは、腹腔内注射を通して投与した10
7または10
8TCID
50のウイルスによるマウスの感染後、最も早い45日目のRAGマウスの臓器または組織から回収できるウイルスが存在しないことによってさらに特徴付けられる。測定は、典型的には感染後60または90日目に行われる。免疫抑制性マウスを用いた感染アッセイ、およびウイルスが感染マウスの臓器および組織から回収できるか否かを決定するために用いるアッセイについての詳細な情報は、米国特許第7,384,644号に提示される。特に、mdVACVの伝染性用量である10
7TCID
50、さらに好ましくは10
8TCID
50の伝染性用量により、腹腔内経路を通してマウスを感染させる。接種材料はPBSによって希釈し、マウスあたり最大量500μl、好ましくはマウスあたり200μlの量が適用される。マウスは、毛の逆立ち、丸まった姿勢、行動および移動性の減少、歩行異常、呼吸促迫症、および皮膚病変部のような疾病の徴候について視覚的に検査ならびに点検される。
【0075】
マウスの屠殺後、肺、脾臓、肝臓、卵巣または精巣、腎臓、脳、および腸を含む臓器を無菌的な技術を用いて除去し、臓器除去手順の間に氷上に保管する。次に臓器をさらなる使用までに−20℃にて凍結する。回収した臓器におけるウイルス力価の用量設定のため、臓器をペトリ皿内の5ml DMEM中で金網上に押し付けて融解し、組織が均一化するまでシリンジプランジャーを用いて金網から押し出す。組織サンプルを均一化するために許容されるその他のいずれの方法も代替的に用いられてよい。5mlの組織ホモジネートを回収し、凍結融解するか、またはBranson Cuphorn sonifier内で4℃にて少なくとも2分間、最大出力の50%で超音波処理して細胞を溶解し、ウイルス粒子を放出させる。超音波処理後、組織ホモジネートは−20℃もしくは−80℃にて再び凍結させてよいか、または上記(「複製分析からのウイルス試料の用量設定分析」の表題下)および以下の実施例(「ウイルス複製分析」の項)のTCID
50法によってウイルス力価を決定するために直ちに用いてもよく、結果は先行技術の方法に従って算出される(14、27)。ホモジネートを再凍結するか、または凍結融解の反復によって調製する場合、サンプルは、用量設定または複製アッセイに使用する前に、4℃にて少なくとも1分間、最大出力の50%で超音波処理されなければならない。
【0076】
TCID
50法(14、27)による用量設定は、上述のようにサンプルあたり8の複製を用いて行う。力価は、それぞれの組織ホモジネートの量を考慮して、臓器あたりの総ウイルス力価として算出する。
【0077】
別々の動物を既知量のdVACVおよび所定量のmdVACVによって感染させた後、所定の時間後に、dVACVおよびmdVACVの相対的な量を比較できる。dVACVがmdVACVよりも多く観察された場合、dVACVの変異がdVACVの増幅能力を有利に減少させたと結論できる。このようなmdVACVは、おそらくウイルスベースのワクチン投与戦略のさらなる変異によるさらなる最適化の後に基礎を形成し得る。一方で、所定の時間後、動物においてmdVACVがdVACVよりも多く見出された場合、dVACVの変異はdVACVの増幅能力を減少させなかったと結論でき、取り込まれた変異は、ウイルスベースのワクチン投与戦略における使用に適したmdVACVへのさらなる最適化へと進めるべきではないことが示される。
【0078】
問題となるmdVACVの生体内での病原性の評価に関しては、感染前および感染後連続的に、疾病の尺度として体重ならびに体温および疾病症状を適宜定義されたスコアに従って測定することにより評価できる。これについては、以下の実施例でさらに詳述する。
【0079】
問題となるmdVACVの免疫原性の評価に関しては、以下の実施例に提示する技術を用い、免疫応答を誘導するウイルス株の能力について試験できる。しかしながら一般に、dVACVおよびmdVACVの免疫原性は、それぞれのdVACVまたはmdVACVに対する液性および細胞性免疫応答の分析によって評価できる。
【0080】
液性免疫応答の分析のため、マウスを、選択した経路(筋肉内、皮下、腹腔内、または静脈内)で、所望により1、2、または3回、10
7TCID
50のdVACVおよびmdVACVによって免疫し、各免疫後2週間目に血液を採取する。感染したマウスのdVACVまたはmdVACVに特異的な抗体の血清中の濃度は、ELISAにより以下のように判定できる:96ウェルTRANSP MAXISプレート(Nunc、ウィースバーデン、独国)を、コーティング緩衝液(200mM Na
2CO
3、pH9.6)中の、100μl(7.5μg/ml)の対応するウイルス抗原(すなわちdVACVもしくはmdVACV、または場合によってはそれらに感染した細胞の未精製抽出物)によって一晩4℃にてコーティングする。あるいは、MVAは通常その他のワクシニア株に高度に等しい抗原性を有し得るため、ウイルス抗原はMVA抗原、例えばMVAに感染したCEF細胞の未精製抽出物であってもよい。プレートを200μlのPBS−FCS 5%(PAA Laboratories、リンツ、オーストリア)により、30分室温にてブロックする。プレートを洗浄し、マウス試験血清の2倍連続希釈によって室温(RT)で1時間インキュベートする。必要に応じ(すなわち力価が1:2000を超える場合)、マウス血清のプレ希釈物を調製する。検出のため、プレートをヒツジ抗マウスIgG−HRP検出抗体(Serotec)によって1時間RTにてインキュベートした。3,3´,5,5´−テトラメチルベンジジン(Sigma−Aldrich)を基質として使用し、1M H
2SO
4(Merck)の添加によって反応を停止した。Tecan F039300 Sunrise Absorbance Reader(Maennedorf、スイス)を用い、ODを450nmで測定した。
【0081】
CD8T細胞の応答は、dVACVまたはmdVACV感染C57BL/6マウス由来のCD8T細胞により、CD8T細胞抗原性エピトープを提示するそれぞれのdVACVまたはmdVACVを感染させた細胞との接触に応答して産生されるインターフェロンγに対する、CD8T細胞の細胞内サイトカイン染色(ICCS)によって測定する。動物を、選択した経路(筋肉内、皮下、腹腔内、または静脈内)で、4週間の間隔で1回、2回、3回、または4回、10
7TCID
50または10
8TCID
50のdVACVおよびmdVACVにより免疫する。加えて、CD8T細胞のメモリー応答を判定するため、マウスは最終免疫後少なくとも12週間再び免疫できる。動物は、各免疫後6日目に尾静脈から採血し、マウスあたり100〜120μlの血液を、4%ウシ胎児血清(FCS)、2mM EDTA、および2.5U/mlヘパリンを含むPBS(pH 7.4)に再懸濁させる。赤血球溶解緩衝液(Sigma−Aldrich、シュタインハイム、独国)を製造者の指示に従って用いて赤血球を溶解することにより、末梢血単核細胞(PBMC)を調製する。PBMCを1:2の比で2つの一定分量に分割し、PBMCのより小さな一定分量を、0.05mM β−メルカプトエタノールを含むRPMI/10%FCS中で、感染効率10にて、それぞれのdVACVまたはmdVACVにより感染させて刺激細胞を得る。細胞を37℃にてウイルスと共に1時間インキュベートした後、0.05mM β−メルカプトエタノールを含むRPMI/10%FCS中で洗浄し、最終的に0.05mM β−メルカプトエタノールを含むRPMI/10%FCS中に再懸濁する。残りの3分の2のPBMCを、0.05mM β−メルカプトエタノールおよび1μl/ml(最終濃度)のGolgiPlug(商標)(BD Biosciences、開口分泌経路を通してサイトカイン分泌を遮断するため)を含むRPMI/10%FCS中の洗浄した刺激細胞に加え、さらに5時間37℃、5%CO
2にてインキュベートする。刺激したPBMCを遠心分離によって回収し、氷冷したPBS/10%FCS/2mM EDTA pH7.4に再懸濁して、4℃にて一晩保管する。翌日、PBMCを抗−CD8α−Pac−Blueおよび抗−CD19−PerCP−Cy5.5抗体によって染色する(全ての抗体はBD Biosciences、ハイデルベルク、独国より市販されている)。PBMCを適切に希釈した指示される抗体と共に30分間4℃、暗所にてインキュベートする。洗浄後、Cytofix/Cytoperm(商標)Plus kit(BD Biosciences)を製造者の指示に従って用いることにより、細胞を固定および透過処理した。洗浄後、PBMCを、FITC結合抗IFNγ抗体(BD Biosciences)を用いて細胞内インターフェロンγ(IFN−γ)に対して染色した。perm/wash緩衝液(BD Biosciences)によって抗体を希釈し、PBMCを20分間、4℃、暗所にて染色した。洗浄後、染色した細胞を、BD Biosciences LSR IIシステム上でフローサイトメトリーにより分析する。前方および側方散乱の特性によって生存PBMCを同定する。サンプルあたりおおよそ20,000のPBMCが取得される。
【0082】
本実験における本発明のウイルスは、PBMC中の全てのCD8T細胞のうちのIFNγ産生CD8T細胞の割合による評価として、mdVACVプライム/mdVACVブースト投与によって誘導される上述のエピトープに対するCTL免疫応答が、dVACV/dVACVブースト投与によって誘導されるものに実質的に等しい、好ましくは少なくとも等しいことにより特徴付けられる。免疫原性の尺度として、dVACVおよびmdVACVに特異的なIgG抗体ならびに細胞傷害性CD8T細胞(CTL)の量が決定できる。dVACV/mdVACVに特異的な抗体は、感染CEF細胞ライセートまたは精製dVACV/mdVACVを抗原として、および抗IgG特異的酵素結合抗体を二次試薬として用いる標準的なELISA技術によって決定できる。mVACV/mdVACVに特異的なCTLは、末梢血単核細胞(PBMC)または脾細胞を、全ウイルスとしてのdVACV/mdVACV、またはC57BL/6マウスを免疫した際にはタンパク質B8、A3、K3、A8、B2、およびA23由来の、もしくはBALB/cマウスを免疫した際にはタンパク質A52、F2、C6、およびE3由来の免疫優性エピトープに対応する特異的なペプチドのいずれかによって再刺激することにより決定できる。
【0083】
好ましい実施形態によれば、上記のアッセイにおいて投与される10
7TCID
50mdVACVを用いる代わりに、本発明の1×10
8TCID
50ワクシニアウイルスが、皮下、筋肉内、腹腔内、または静脈内注射によって、プライムおよびブースト免疫の両方のために投与される。本実験における本発明のウイルスは、PBMC中の全てのCD8T細胞のうちのIFNγ産生CD8T細胞の割合による評価として、mdVACVプライム/mdVACVブースト投与によって誘導される上述のエピトープに対するCTL免疫応答が、dVACVプライム/dVACVブースト投与によって誘導されるものに実質的に等しい、好ましくは少なくとも等しいことにより特徴付けられる。あるいは、IFNγ産生細胞の割合は、IFNγに対する細胞内サイトカイン染色によって、または受容体特異的なMHCクラスIテトラマー/ペンタマー/デキストラマー試薬による染色によって評価できる。
【0084】
本発明のさらなる態様は、ワクシニアウイルス欠失変異体(dVACV)の調製法を提供し、前記方法は:
a)ワクシニアウイルス(VACV)のゲノムを含むベクターを提供すること、またはワクシニアウイルス(VACV)のゲノムを提供すること;
b)上に提示するdel I、del II、del III、del IV、del V、および/またはdel VIに対応する少なくとも1の配列を欠失させること;
c)dVACVを分離することを含む。
【0085】
好ましくは、VACVゲノムはヒト細胞株内で複製する。
【0086】
好ましい実施形態によれば、dVACVを調製するための前記方法は、ヒト細胞株内での前記dVACVの増幅率を測定する工程を含む(いわゆる第1の複製)。好ましくは、上記方法によって調製されるdVACVゲノムは、ヒト細胞株内で複製する。前記ヒト細胞株は、MRC−5、293、および143Bからなる群より好ましく選択される。
【0087】
dVACVを調製する前記方法の好ましい幾つかの実施形態によれば、VACVは漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(CVA)、好ましくは受託番号AM501482によりGenBankに寄託されており、かつ受託番号10062901によりECACCに寄託されているCVA−PPである。
【0088】
上記方法の産物は、上に提示するdVACVである。好ましくは、該産物は上記方法によって得られる欠失CVA(dCVA)であり、前記dCVAは、293、143B、およびMRC−5細胞株から選択されるヒト細胞株内で好ましく複製する。
【0089】
上記方法によって得られるdCVAの好ましい幾つかの実施形態によれば、以下のウイルスのゲノムが除外される:vP668、vP681、vP749、vP774、vP796、vP811、MVA−I721(GenBank受託番号DQ983236)(1)、およびVACV株Tian Tan変異体MVTT
2−GFP(39、40)。vP759(25)もまた除外される。vP668、vP681、vP749、vP759、vP774、vP796、およびvP811は、Perkus et al.(25)に開示される。MVA−I721は、米国特許第5,185,146号(1)に開示される。
【0090】
上に提示するmdVACVを調製するため、本発明のこの態様のさらなる実施形態は、上に提示するように、少なくとも1の変異をdVACVゲノム内に導入するさらなる工程、および得られたmdVACVを分離する工程を含む方法を提供する。
【0091】
特に、本発明は:
(a)dVACV、好ましくは本明細書に記載されるdCVAを提供すること;
(b)前記dVACV、好ましくはdCVAのゲノム内に少なくとも1の変異を導入すること;および
(c)mdVACV、好ましくはmdCVAを分離することを含む、複製制限変異ワクシニアウイルス欠失変異体(mdVACV)を調製するための方法を提供する。
【0092】
好ましい実施形態によれば、複製制限変異ワクシニアウイルス欠失変異体(mdVACV)を調製するための前記方法は、
前記dVACV、好ましくは前記dCVAのヒト細胞株内での増幅率を測定する工程;および/または
前記mdVACV、好ましくは前記mdCVAの前記ヒト細胞株内での増幅率を測定する工程をさらに含む。
【0093】
別の好ましい実施形態によれば、複製制限変異ワクシニアウイルス欠失変異体(mdVACV)を調製するための前記方法は、
少なくとも1の変異が前記ヒト細胞株内での前記mdVACVの複製に影響するか否かを決定するため、前記dCVAの増幅率を前記mdVACVの増幅率と比較する工程をさらに含む。
【0094】
好ましい実施形態によれば、前記mdVACV、好ましくは前記mdCVAは複製制限されており、好ましくはヒト細胞株内で、前記ヒト細胞株内でのdVACVの複製に比較して複製能力がない。
【0095】
好ましくは、前記ヒト細胞株は、MRC−5、293、および143Bからなる群より選択される。
【0096】
mdVACVを調製するための方法の産物は、好ましくは前記方法によって得られる漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ欠失変異体(mdCVA)である。好ましくは、前記mdCVAは、293、143B、およびMRC−5から選択されるヒト細胞株内での複製が制限される。
【0097】
mdCVAの好ましい実施形態によれば、以下のウイルスは否定される:MVA−572(ECACC V94012707)、MVA−BN(登録商標)(GenBank受託番号DQ983238)、MVA II/85、MVA(ATCC VR−1508)、およびNYVAC。その配列が受託番号AY603355によりGenBankに寄託されているAcambis3000改変ウイルスアンカラ、およびMVA−I721もまた除外される(1)。
なお、本願は特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る:
1.ワクシニアウイルス欠失変異体(dVACV)を調製する方法であって、前記方法が、(a)ワクシニアウイルス(VACV)ゲノムがヒト細胞株内で複製する、VACVのゲノムを含むベクターを提供すること;
(b)・del I(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置4052〜7465);
・del II(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置23139〜25884);
・del III(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置158867〜162413);
・del IV(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置180639〜187092);
・del V(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置17438〜22159);および/または
・del VI(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置135481〜139264)に対応する少なくとも1つの配列を欠失させること;(c)前記dVACVを分離することを含む、方法。
2.ヒト細胞株内での前記dVACVの増幅率を測定する工程をさらに含む、上記1に記載の方法。
3.前記ヒト細胞株が、MRC−5(ATCC CCL−171)、293、および143Bからなる群より選択される、上記1または2に記載の方法。
4.前記VACVが、漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(CVA)、好ましくは受託番号AM501482によりGenBankに寄託されており、かつ受託番号10062901によりECACCに寄託されているCVA−PPである、上記1〜3のいずれか1項に記載の方法。
5.上記1〜4のいずれか1項に記載の方法によって得られる欠失漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(dCVA)であって、前記dCVAが、293、143B、およびMRC−5細胞株から選択されるヒト細胞株内で複製する、欠失漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(dCVA)。
6.上記5に記載のdCVAのゲノムを含むベクター。
7.前記dCVAが、前記ヒト293細胞株、ヒト143B細胞株、またはヒトMRC−5細胞株において、5よりも大きな増幅率により複製する、上記5に記載のdCVAまたは上記6に記載のベクター。
8.前記ベクターが細菌人工染色体(BAC)である、上記6または7に記載のベクター。
9.上記5に記載のdCVAのゲノムを含む細胞。
10.ワクシニアウイルス(VACV)における変異の効果を決定するための方法であって、前記方法が、
(a)・del I(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置4052〜7465);
・del II(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置23139〜25884);
・del III(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置158867〜162413);
・del IV(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置180639〜187092);
・del V(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置17438〜22159);および/または
・del VI(GenBank AM501482;ECACC 10062901の位置135481〜139264)から選択される配列に対応する少なくとも1つの配列を欠失するVACVのゲノムであって、該欠失VACV(dVACV)ゲノムがヒト細胞株内で複製する、欠失したVACVゲノムを含むベクターを提供すること;
(b)変異VACV欠失変異体(mdVACV)を得るために、該dVACVゲノムに少なくとも1つの変異を導入すること;
(c)該変異が、前記mdVACVの複製に影響を及ぼすか否かを決定することを含む、方法。
11.ヒト細胞株における前記dVACVの増幅率を測定する工程;および/または
前記ヒト細胞株における前記mdVACVの増幅率を測定する工程をさらに含む、上記10に記載の方法。
12.前記少なくとも1つの変異が、前記ヒト細胞株内での前記mdVACVの複製に影響するか否かを決定するため、前記dVACVの増幅率を前記mdVACVの増幅率と比較することをさらに含む、上記11に記載の方法。
13.前記少なくとも1つの変異が、動物における前記dVACVの複製、前記dVACVの病原性、および/または前記dVACVの免疫原性に影響するか否かについて決定することをさらに含む、上記10〜12のいずれか1項に記載の方法。
14.前記ヒト細胞株がMRC−5(ATCC CCL−171)、293、および143Bからなる群より選択される、上記10〜13のいずれか1項に記載の方法。
15.複製制限変異ワクシニアウイルス欠失変異体(mdVACV)を調製するための方法であって、前記方法が、
(a)上記5に記載のdCVAを提供すること;
(b)前記dCVAのゲノム内に少なくとも1つの変異を導入すること;および
(c)前記mdVACVを分離すること;
を含む、方法。
16.前記dCVAのヒト細胞株内での増幅率を測定する工程;および/または
mdVCVAの前記ヒト細胞株内での増幅率を測定する工程をさらに含む、上記15に記載の方法。
17.前記少なくとも1つの変異が、前記ヒト細胞株内での前記mdVACVの複製に影響するか否かを決定するため、前記dCVAの増幅率を前記mdVACVの増幅率と比較することをさらに含む、上記16に記載の方法。
18.前記mdVACVが複製制限されており、好ましくはヒト細胞株内で、前記ヒト細胞株内での前記dCVAの複製に比較して複製能力がない、上記15〜17のいずれか1項に記載の方法。
19.前記ヒト細胞株が、MRC−5(ATCC CCL−171)、293、および143Bからなる群より選択される、上記15〜18のいずれか1項に記載の方法。
【実施例】
【0101】
改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)の6個の主なゲノム欠失の、親漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(CVA)への導入は、細胞培養およびマウスにおけるMVA様表現型の再生に十分ではない。
【0102】
概要
改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)は、細胞培養において高度に制限された宿主域を有し、in vivoでは非病原性である。MVAは、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)における570回を超える継代によって、親漿尿膜ワクシニアウイルスアンカラ(CVA)から派生した。CEF細胞の継代の間、24668ヌクレオチドを含む6個の主な欠失がCVAゲノムに発生した。本願発明者は、MVAおよび親CVAゲノムの両方を細菌人工染色体(BAC)内にクローン化し、次にクローン化したCVAゲノム内に6個の主なMVA欠失を連続的に導入した。2〜6個の主なMVA欠失を含む、再構成した突然変異体CVウイルスは、ウサギ細胞株のRK13およびSIRCを除き、試験した12の哺乳動物細胞株において複製制限を検出しなかった。マウスにおいて、3個までの欠失を有するCVA変異体はわずかに増大した病原性を示したことから、VACVにおける遺伝子欠失はin vivoでの適応の取得をもたらし得ることが示唆される。5個または6個全ての欠失を含むCVA変異体の減毒化は中程度で、なお病原性を有する。欠失Vは、主にこれらの変異体の減毒化表現型に関与する。結論として、6個の主な欠失における31の翻訳領域全ての喪失または切断の組み合わせは、強い減毒および高度に制限された宿主域を有する特定のMVA表現型の再生には十分でない。
【0103】
材料および方法
細胞株およびウイルス
細胞株は全てATCCまたはEuropean Collection of Cell Culturesから得たが、HaCaT細胞(6)のみGerman Cancer Research Center(DKFZ)、ハイデルベルクから得た。細胞株は全て、10%ウシ胎児血清(FCS、Pan Biotech、独国)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Gibco)中で増殖させた。11日齢の発育鶏卵から初代CEF細胞を調製し、VP−SFM(Gibco)または10%FCSを加えたダルベッコ変法イーグル培地中で培養した。CVAはAnton Mayr(獣医学部、ルートヴイヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン、ミュンヘン、独国)から得て、BHK−21細胞内でプラーク精製を3回行った後に、CEF細胞内で2ラウンド増幅してCVA−PPを得た(19)。ウイルス株CVA−PPはECACCに寄託されており、受託番号は10062901である。CVA−PPのコード領域のヌクレオチド配列は決定されてGenBankに寄託されており、受託番号はAM501482である。CVA−PP由来の変異体は全てCV−1細胞内で繁殖させ、力価を決定した。MVA−BN(登録商標)はBavarian Nordicによって開発され、European Collection of Cell Culturesに寄託されている(ECACC;V00083008)。MVA−BN(登録商標)はCEF細胞内で繁殖させ、力価を決定した。ショープ線維腫ウイルス(SFV)はATCC(VR−364)から得て、SIRC細胞内で繁殖させ、力価を決定した。配列決定および動物実験に用いたウイルスは全て、スクロースクッションにより2回精製した。
【0104】
プラスミド
miniF BACプラスミドpMBO131(22)は、M.B.O’Connorから供与された。組み換えプラスミドpBN194(
図1A)は標準法によってクローン化し、これはpMBO131の全配列、および強力な合成初期/後期pSプロモーターによって駆動されるNPTII−IRES−eGFPレポーター/選択カセットを含んだ(8)。これはさらに、pSプロモーターにより駆動され、FRT部位に隣接するRFPレポーター遺伝子も含んだ。これらの配列は、MVA−BN(登録商標)およびCVAのI3L(ORF MVA 064L、ssDNA結合リン酸化タンパク質)とI4L(ORF MVA 065L、リボヌクレオチド還元酵素大サブユニット)の間の遺伝子間領域(IGR)内挿入部位の、左側および右側に由来する相同組み換え配列の2つの伸展に隣接する。Flpリコンビナーゼを発現するプラスミドpOG44はInvitrogenから購入した。組み換え機能であるredα(exo)、redβ(bet)、およびエキソヌクレアーゼ阻害物質であるredγ(gam)をコードするプラスミドpKD46(10)は、ルートヴイヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン、ミュンヘン、独国のU.Koszinowskiから供与された。Koszinowski。
【0105】
preCVA−BACおよびpreMVA−BACの構築
BACベクターpMBO131の全配列に加え、CVAおよびMVAのIGR 3L−I4Lに選択マーカーを含む組み換えCVA−PPおよびMVA−BN(登録商標)を表すウイルスであるpreCVA−BACおよびpreMVA−BACを産生するために、プラスミドpBN194を用いた。ここでの実験は以下に述べるようにBACベクターを用いて行ったが、その他の組み換えベクターも適していることに留意されたい。当業者は、BACベクターに関する本明細書の教示が、本明細書で構築され用いられる特定のBACベクターに加えて、その他の組み換えベクターにも日常的に応用され得ることを知る。あるいは一過性のドミナント選択を用いることにより、BAC内のクローン化されたVACVゲノムを用いることなくVACV内に変異を導入できる(13)。
【0106】
CVAおよびMVAのゲノムそれぞれを含むBACを構築するため、BN194プラスミドをSac Iにより直線化して、ほとんどコンフルエントであるCVAを感染させたCEF細胞の単層およびMVAを感染させたCEF細胞の単層に、Fugene HD (Roche Diagnostics、マンハイム、独国)を用いてトランスフェクトした。感染後48時間目に細胞および培地を回収し、凍結−融解後にカップ超音波処理装置内で均一化した。G418(Geneticin(登録商標)、Invitrogen、カールスルーエ、独国)を300μg/mlの濃度で用い、6ウェルプレート内のCEF細胞に対して組み換えウイルスの選択を行った。10倍連続希釈を用いて96ウェルプレート内のCEF細胞に対して単一ウイルスクローンのプラーク精製を行い、eGFP発現によって可視化された単一のウイルスプラークを含むウェルをスクリーニングした。正確な変異誘発を確認するため、幾つかのクローンに由来するウイルスDNAをPCRおよび配列決定によって分析した。
【0107】
CVA−BACおよびMVA−BACの産生
BACとしてのMVAおよびCVAゲノムのクローニングは、基本的にはこれまでの記載をわずかに改変して行った(11)。Fugene HD(Roche Diagnostics)を用いて、6ウェルプレート内のCEF細胞に2μgのFlp発現プラスミドpOG44をトランスフェクトした。37℃で60分経過後、細胞にpreCVA−BACまたはpreMVA−BACを感染効率(m.o.i.)5によって感染させ、イサチン−β−チオセミカルバゾン(IβT)を最終濃度45μMで添加した。感染後24時間目に細胞を回収し、記載されるようにDNAをフェノール抽出して沈殿させ(11)、20μlのddH
2Oに溶解した。8μlのウイルスDNAを、DH10B E. coli(Invitrogen)へのエレクトロポレーションに用いた。BACプラスミドとしてのウイルスDNAを含むE. coliの選択は、25μg/ml濃度のクロラムフェニコールを含むLBプレート上で行った。LB培養液から、複数のクローンに由来するDNAをアルカリ溶解によって分離し、適切な制限酵素(NEB、フランクフルト、独国、およびRoche Diagnostics)を用いた消化によってスクリーニングした。Macherey−Nagel NucleoBond BAC 100キット(Macherey−Nagelデューレン、独国)を用いて、完全なウイルスDNAを含む候補クローンのBAC−DNAを調製し、幾つかの制限酵素による消化と一晩の電気泳動によって大規模にスクリーニングした。CVA−BACおよびMVA−BACそれぞれにつき1クローンのBAC−DNAを配列決定して、配列の完全性を確認した。
【0108】
伝染性ウイルスの再活性化
Fugene HDを用いて6ウェルプレート内のBHK−21細胞に3μgのBAC DNAをトランスフェクトし、ヘルパー機能を提供するため、60分後にSFVを感染させた。eGFPの発現および細胞壊死効果(CPE)の発生について細胞をモニターし、3日後に回収した。凍結融解およびカップ超音波処理装置内での均一化後、段階的な量のライセートを用いてCEF細胞の単層を感染させたウイルス増殖の出現について細胞をモニターした。ヘルパーSFVを除去するためにCEF細胞を3回継代した後、最後に継代した感染細胞から全DNAを抽出し、SFVの不在についてPCRによりスクリーニングした。救出したBAC由来のウイルスをそれぞれCVA
BおよびMVA
Bと命名し、CV−1(CVA
B)およびCEF細胞(MVA
B)内で繁殖させた。
【0109】
BACの組み換え
相同組み換えのためのλ Redシステムを用いたDH10B E.coli内での対立遺伝子交換により、CVA−BACを改変した。(a)pKD46のE.coli.への導入。CVA−BACを含むエレクトロコンピテントE.coli DH10B細胞にpKD46プラスミドをエレクトロポレーションして、25μg/mlのクロラムフェニコールおよび50μg/mlのアンピシリンを含むLBプレートにまき、30℃にて一晩インキュベートした。(b)λ Redシステムの誘導。関心のあるBACならびにRedリコンビナーゼを構成する3つのタンパク質γ、β、およびexoをコードするpKD46を含むDH10B細胞(10)を、30℃にて0.3のOD
600まで繁殖させた。エレクトロポレーションに先立ち、L−アラビノース(Merck、ダルムシュタット、独国)を最終濃度0.4%で添加後、37℃60分間インキュベートすることによってλ Red遺伝子を誘導した。(c)選択/対抗選択カセットの導入。正の選択のためのネオマイシン耐性遺伝子および対抗選択のためのrpsL遺伝子(26、35、38)を含むカセットの導入によって欠失を得た。簡単に述べると、PCRによって選択−対抗選択カセットの5’および3’末端にホモロジーアームを付加するため、CVAに相同な領域(50bp)およびrpsL−neoカセットの末端に相補的な配列(24bp)を含む74bp長のオリゴヌクレオチド(Metabion、マーティンスリート、独国)を用いた。次にPCR産物を、CVA−BACおよびpKD46を有する、L−アラビノースにより誘導されたE.coliへエレクトロポレーションした。25μg/mlのクロラムフェニコール、25μg/mlのカナマイシン、および50μg/mlのアンピシリンを含むLBプレートにおいて、30℃にて一晩選択を行った。(d)選択不可能なDNAによるrpsL−neoの置換。上記のように、rpsL−neo−BACおよびpKD46を含むDH10Bへの選択不可能なDNAのエレクトロポレーションによってカセットを置換し、相同組み換えを誘導した。選択不可能なDNAは、選択不可能なDNAの両端に50bpのホモロジーアームを付加する、長いオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRによって産生した。DNAのいずれのさらなる挿入もなしにrpsL−neoカセットを跡形なく除去するため、rpsL−neoカセット両端の挿入部位にある30bpのホモロジーアームからなる単鎖オリゴヌクレオチドを用いた。対抗選択にストレプトマイシン(75μg/ml)を用いて、rpsL−neo−陰性のBACクローンを得た。導入した改変を含む領域の、幾つかの制限酵素による消化および配列決定によって改変BACを分析した。選択カセットの除去を、ネステッドPCRによってさらに確認した。挿入配列(IS)エレメントの不在を、E.coli ISエレメント1、2、3、4、5、10、30、150、および186に対するPCRによって確認した。
【0110】
配列決定
DH10B E.coli内でBAC DNAを増幅させ、Macherey−Nagel NucleoBond BAC 100キットを用いて分離した。mCVAbc39およびmCVAbc50の配列決定のため、市販のキット(NucleoSpin(商標)Blood Quick Pure、Macherey−Nagelデューレン、独国)を用いて2×10
7〜1×10
8 TCID
50の精製ウイルスストック懸濁液からMVAおよびCVAのゲノムDNAを分離した。精製ウイルスゲノムDNAまたはBAC DNAを鋳型として用い、左の末端逆位配列(ITR)の反復配列と翻訳領域(ORF)MVA001LおよびCVA001それぞれとの間に始まる完全なコード配列を網羅し、それぞれが〜500bp重複しながらORF MVA193RおよびCVA229それぞれを通して伸長する〜5kBのDNA断片を増幅した。簡単に述べると、TripleMaster(商標)PCRシステム(QIAGEN、ヒルデン、独国)を用いてPCR断片を増幅し、QIAquick PCR精製キット(QIAGEN、ヒルデン、独国)を用いて精製した。PCR断片および精製BAC−DNAは、PCR断片あたり10〜14のカスタム設計プライマーを用い、Applied Biosystems 3730 DNA AnalyzerおよびSequencing Analysis software v5.0を使用して、Sequiserve GmbH (ファターシュテッテン、独国)によって配列決定された。コンティグを集め、Vector NTI Advance(登録商標)9.1を用いて分析した。
【0111】
ウイルス複製分析
ウイルス複製および拡散の分析のため、6ウェル培養プレート内のコンフルエントな単層を、FCSを含まない500μlのDMEM中で、5×10
4のTCID
50を用いて細胞あたり0.05のTCID
50により感染させた。37℃で60分経過後、細胞をDMEMで1回洗浄し、2%FCSを含む2mlのDMEMによりさらにインキュベートした。表示する時点で細胞および上清を回収し、凍結溶解、超音波処理を行い、記載されるTCID50法に従ってCEF細胞において用量設定した(28)。簡単に述べると、ウイルス懸濁液の連続希釈を96ウェルプレートで増殖したCEF細胞の単層上に8通りにまいた。接種後5日目に細胞をメタノール:アセトン50/50(v/v)によって固定し、感染細胞の増殖巣を免疫染色によって可視化した。固定および透過処理した単層を、PBS/3%FCSで1:1000に希釈したウサギポリクローナルワクシニアウイルス抗体(Quartett Immunodiagnostika、ベルリン、独国)と共に30分間インキュベートし、次にPBS/3%FCSで1:1000に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ポリクローナルヤギ抗ウサギIgG抗体(Promega、マンハイム、独国)と共に30分間インキュベートした。洗浄後、細胞をTMB:PBS基質溶液(Seramun Diagnostica、Heidesee、独国)と共に15分間インキュベートした。感染ウェルを細胞の紫色の染色によって同定し、SpearmanとKarberによるTCID
50法(14、27)を用いて感染力価を算出した。
【0112】
マウス感染実験
6〜8週齢の雌BALB/cマウスをハーラン・ヴィンケルマン社(Harlan Winkelmann)(ドイツ)から購入した。マウスをケタミン/キシラジン注射により麻酔した後、1匹当たり50μlの最終体積にPBSで希釈した3×10
5または5×10
7TCID
50のMVA、CVAおよびCVA変異体で鼻腔内感染させた。動物を毎日体重測定および視診し、疾病の兆候を0〜4の任意スケールでスコア化した。スコア0=健康;スコア1=若干病気、中程度の背中の歪曲および被毛の乱れ、通常の移動および活動レベル;スコア2=病気、明白な背中の歪曲および被毛の乱れ、移動および活動レベルの減少、中等度の呼吸窮迫;スコア3=重病、強い姿勢の歪曲および被毛の乱れ、移動および活動の強い減少、協調問題を伴うハリネズミのような歩調、深刻な呼吸窮迫;スコア4=瀕死。全ての動物実験はオーバーバイエルン行政府(Regierung von Oberbayern)により承認され、バイエルン・ノルディック社(Bavarian Nordic GmbH)の動物実験のための指針に従って行った。
【0113】
結果
BACとしてのCVAおよびMVAのクローニング並びに伝染性ウイルスの再活性化。
VAC−BAC(11)のためにDomiおよびMossにより開発された手順と同様に、CVAおよびMVA−BN(登録商標)のゲノムを含むBACを作成した。大腸菌内での維持のためのminiFプラスミド配列、ポックスウイルスの合成プロモーター(pS)により駆動されるNPT II−IRES−eGFPマーカーカセット、およびpSにより駆動され、FRT組換え部位に隣接する赤色蛍光タンパク質(RFP)を含むBACカセットを設計した(
図1A)。このBACカセットを、相同組換えによりCVAおよびMVAのORF I3LおよびI4L間の遺伝子間領域(IGR)に挿入し、ウイルスpreCVA−BACおよびpreMVA−BACを作成した(
図1A)。NPT II−IRES−eGFPカセットにより、BACカセットを含む組換えCVAおよびMVAウイルスのセレクションが可能となる。CEF細胞にFlp発現プラスミドを形質移入し、組換えウイルスに感染させ、同時にイサチン−β−チオセミカルバゾン(IβT)で処理することにより、前述(11)のように、ウイルスヘアピン分解を阻害し、且つゲノムの鎖状体化を促進させた。Flpリコンビナーゼが感染細胞で発現し、単位長さのゲノムの環状化が増強された(11)。FRT部位に隣接するRFP遺伝子は、Flpリコンビナーゼ活性をモニタリングするためのマーカーとして働く。形質移入および感染細胞からDNAを抽出し、大腸菌の形質転換に使用した。正しい制限酵素パターンが得られたいくつかのクローンを増幅し、種々の制限酵素でDNAマッピングすることによりさらに特徴付けした。興味深いことに、preCVA−BACウイルスにおいて、1個のFRT部位が残存しているにもかかわらず、Flpのいかなる発現誘導よりも前に、RFP遺伝子が欠失していることが分かった。恐らく、ワクシニアウイルスの組換え潜在能が、FRT部位を介した相同組換えによるRFP遺伝子の欠失を可能としたのだろう。一方で、いくつかのBACクローンはなおFRT部位に隣接したRFP遺伝子を含んでおり、このことは、Flpリコンビナーゼ活性とは無関係に単位長のゲノムの環状化が発生することを示しており、以前の観察(11)を確証させる。初期MVA−BN−BAC4のBACバックボーンを、loxP部位に隣接させることによりさらに改変し(
図1A)、Creリコンビナーゼの過剰発現によるBAC配列の切除を可能とした。CVAおよびMVAの両方について、正しい制限パターンを有する1つのBACクローンを選択し、コード領域の配列をBAC DNAの直接シーケンスにより決定した。CVAおよびMVA BACクローンの両方のコード領域配列は、公開されたCVA(GenBank AM501482)およびMVA−BN(登録商標)の配列に正確に一致した。
【0114】
各BACクローンから得られた伝染性CVA
BおよびMVA
Bの再活性化(「レスキュー」)はSFVをヘルパーウイルスとして使用することにより達成され(37)、伝染性娘ウイルスにパッケージングされた形質移入BACから真正ウイルスゲノムを産み出すのに必要なポックスウイルスの転写系が得られた。BHK−21細胞のBAC形質移入およびSFV感染後、伝染性CVA
BおよびMVA
Bがレスキューできた。ヘルパーウイルスを除去するため、SFVに非許容的なCEF細胞で3回継代した。高感度PCRアッセイにより、3回のCEF細胞継代後、レスキューされたウイルスのストックにはSFV DNAが存在せず、従って伝染性SFVも存在しないことが確認された(データ未記載)。
【0115】
BAC由来MVA
BおよびCVA
Bの解析
許容および非許容細胞系の両方で、BAC由来MVA
Bの複製特性を、親MVA−BN(登録商標)の複製特性と比較した。許容原発性CEFおよび許容ハムスター細胞株BHK−21におけるMVA
Bの複製能はMVA−BN(登録商標)の複製能と同等であった(
図2A)。同様に、MVA
BはMVA−BN(登録商標)のように、非許容的なヒト細胞株293、MRC−5およびHeLaにおいて複製できなかった。
【0116】
BAC由来CVA
Bの複製特性もまた、様々な細胞株においてその親ウイルスCVA−PPと比較された。原発性CEF細胞から、並びにヒトの細胞株(293、HeLa、MRC−5)およびハムスター由来(BHK−21)の細胞株からのCVA
Bのウイルス収量は、親CVA−PPで得られたウイルス収量と同等であった(
図2B)。まとめると、許容および非許容細胞培養におけるCVA
BおよびMVA
Bの複製特性は、それぞれの親ウイルスCVA−PPおよびMVA−BN(登録商標)の複製特性と区別不能であった。
【0117】
BAC由来CVA
Bの病原性が、親CVA−PPの病原性と比較して、6〜8週齢BALB/cマウスにおいて、鼻腔内感染後の体重減少および生存の評価により、さらに特徴付けされた。CVAは、鼻腔内感染時に、マウス適合型VACV−WRよりもマウスに対して病原性が弱いため、マウス当たり10
7および5〜7×10
7TCID
50の接種量が使用された。死亡率は、両方のウイルスについて、10
7の投与量で80〜90%であり、5〜7×10
7の投与量で100%まで増加した(
図2C、D)。両方の投与量で、体重減少および病徴はCVA−PPおよびCVA
Bの両方で非常に類似していた(
図2E,F)。重度の体重減少および疾患が、両方の野生型ウイルスで、感染3日後に始まり(
図2E、F)、最後の動物が死亡したのは感染9日後であり、CVA
BおよびCVA−PPについて、死亡までの平均時間はそれぞれ8.4日および8.6日であった。結論として、CVA
BおよびMVA
Bは、親プラーク精製CVA−PPおよびMVA−BN(登録商標)ウイルスと比較して、複製および病原性において検出可能な違いが見られなかった
【0118】
BAC組換え操作によるCVA遺伝子の欠失およびゲノム安定性
特異的MVA表現型の遺伝学的基礎を明らかにするために、6個全ての主なMVA欠失(上記で定義されたdel I〜VI)に対応する配列を、BAC変異誘発によりCVA
Bから順次除去した。欠失部位でのMVA配列を正確に模倣するために、対応する切断または融合されたMVA ORFを、CVAに新しくつくられた欠失部位に導入した。CVAの末端領域では、ORFの大部分は断片化および切断され、恐らくは非機能的なORFであるため、del I〜VI導入により最終的に得られた結果は、12個の完全長遺伝子(表1)のみを欠如している変異体CVA
Bである。正しい制限パターンを有するBACクローンを、伝染性ウイルスの再活性化のために選択した。さらに注目すべきことは、変異誘発後に異常な制限パターンを有するいくつかのBACクローンが、大腸菌DH10B宿主由来の組み込まれた細菌挿入配列を有していたことである(4,15)。そのような大腸菌の可動遺伝因子により改変されたBACを除外するために、レスキュー前のPCRにより、細菌挿入配列をなくすために全てのBACを常にスクリーニングした。5つ全ての変異型CVA−BACはBAC−DNAのSFV感染BHK細胞への形質移入によりレスキューされ、得られた変異体CVAはCEF細胞で継代され、ヘルパーウイルスを除去された。レスキューされたCVA欠失変異体は、mCVAbc36、mCVAbc39、mCVAbc45、mCVAbc48およびmCVAbc50と命名された(
図1B)。再活性化された変異体mCVAbc39およびmCVAbc50のゲノムのORF CVA001からORF CVA229までの完全なコード配列が決定された。故意に導入された変異以外では、それぞれおよそ179,750および167,700のヌクレオチドから成る2つのゲノム配列中に、余分な変化は観察されなかった。この結果により、VACVゲノムに多重突然変異を導入するためのBAC系の適合性が確認された。
【0119】
CVA欠失変異体の複製様式および細胞変性効果
細胞培養における種々のCVA変異体の宿主域は、細胞単層中の変異体の拡散を目視検査することによりまず特徴づけられた。このために、原発性CEF細胞および異なる7種から得られた14の永久細胞株のパネルが使用された。結果は、変異体ウイルスによるeGFP発現により緑色蛍光を発する細胞の数を表わす任意スケールでのスコアとして示される。ウイルス拡散における肉眼的変化は、原発性CEF細胞においても、またいずれの変異体に関する14中12の細胞株においても、観察されなかった(表2)。唯一の例外として記されるのは、ウサギ由来の2つの細胞株、RK13およびSIRCであった。欠失II(変異体mCVAbc39〜50)を含む変異体は全て、これらの細胞に拡散できなかった。欠失IIの導入はK1L遺伝子の機能的不活化につながる(表1)。RK13細胞において、それぞれのワクシニアウイルスの複製効率が強力に損なわれることは、以前から示されている(24,33)。2つの主な欠失IおよびIVより多くを含む全ての変異体のCEFにおける細胞変性効果(CPE)は、CVA
Bとは異なり、これらの原発性細胞においてMVA
Bにより引き起こされるCPEにより類似していた(
図3A)。変異体mCVAbc39〜50に感染したCEF単層はより低い程度の細胞円形化を示した。mCVAbc36のみがなお、野生型CVA
Bと同様のCPEを示した(
図3A)。MVAに許容的でもあるBHK−21細胞において、すべてのCVA欠失変異体が野生型様CPEを示した(データ未記載)。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
MVA様欠失を含むCVA変異体の複製特性を、多段階複製分析により選択された細胞株で、さらに詳細に調べた。原発性CEF細胞、加えて、ヒト細胞株のHeLaおよびMRC−5並びにマウス細胞株のBALB/3T12−3における全ての変異体ウイルスの複製動態は、CVA
Bと比較して基本的に不変であったが(
図3B)、これによりウイルス拡散の目視検査(表2参照)に基づく上記の結論が確認された。明瞭化のために、変異体mCVAbc45およびmCVAbc50のデータのみを
図3Bに示す。CEF細胞における変異体mCVAbc39〜50のCPEはMVA様であるにもかかわらず、これらの変異体はMVAの複製効率に届かなかった(
図3B)。対照的に、MVA
Bは以前の分析(31)から予測されるように、ヒト細胞株における複製を示さなかった(
図3B)。MVAに対し半許容であるVero細胞において(20)、すべてのCVA変異体はCVA
Bと比較して、複製能力における明白な変化無しに、非常に類似した複製様式を示した(
図3B)。
【0123】
ラットIEC−6細胞において、MVA−BN(登録商標)並びにMVA
Bは、感染細胞の小増殖巣を形成し、これにより、Vero細胞と同様にこの細胞株において限定的に複製および拡散が可能であるように思われた(データ未記載および
図3B)。従って、IEC−6細胞は、以前の報告(7)で決定された分類により、MVAに対し半許容である。しかしながら、以前の観察(23)とは対照的に、IEC−6細胞はMVA
Bに対し、明らかに、完全には許容的ではなかった。全てのCVA変異体は、このラット細胞株において、CVA
Bと同様の効率で複製した(
図3B)。
【0124】
まとめると、CVAへの6個全ての主なMVA欠失の組み合わされた導入および31個のORFの欠失は、K1L遺伝子が不活性であるためウサギ細胞は唯一例外であるが、ヒト、マウス、サル、ハムスター、イヌおよびラットを含む様々な種の哺乳動物細胞株における得られた変異体ウイルスの複製能力を、肉眼的には改変させなかった。
【0125】
BALB/cマウスにおけるMVA様欠失を含むCVA変異体の病原性
6個までのMVA様の大きな欠失を含むCVA変異体の病原性を判定するために、BALB/cマウスに、1匹当たり致死量未満量の3×10
5TCID
50で、異なる変異体並びにCVA
BおよびMVA
Bを鼻腔内感染させた。この接種量では、CVA
Bに感染したマウスは、感染6日後にピークとなる、およそ15〜20%の最大体重減少および臨床疾病を示した(
図4A、C)。変異体CVAbc36〜45により誘発された体重減少および臨床疾病は、CVA
B感染後よりもさらにより顕著であり、このことはこれらの変異体の病原性が、親CVA
Bと比較してわずかに増強されていることを示している(
図4A,C)。注目すべきは、これらのCVA変異体が、BALB/cマウスにおいて3x10
5TCID
50の投与量で一律に致死性であるマウス適合性VACV株Western Reserveよりも、なお病原性が低いことである(データ未記載)。対照的に、変異体mCVAbc48およびmCVAbc50に感染したマウスは、CVA
Bと比較して、体重減少の低減(
図4B)および病徴の緩和(
図4D)を示した。
【0126】
致死量のウイルスに感染させた後のCVA変異体の病原性を比較するために、BALB/cマウスに、一匹当たり5x10
7TCID
50の各ウイルス変異体を鼻腔内感染させた。CVA
BまたはいずれのCVA変異体の感染によっても、全てのマウスで体重の激減が起こったのに対し、MVA
Bは完全に非病原性であった(
図4E、F)。CVA
Bおよび変異体mCVAbc36に感染したマウスは全て死亡した(
図4G)。対照的に、mCVAbc48に感染した全てのマウスおよびmCVAbc50に感染したマウスの80%超が生存した(
図4Hおよびデータ未記載)。mCVAbc50に感染した動物の1匹のみが、2つの独立した実験のうちの1つで、感染のために死亡した。mCVAbc48およびbc50に感染したマウスのほとんどは生存したが、それらマウスは、CVA
Bに感染した動物と比較してわずかに低減しただけの、著しい体重減少を示した(
図4F)。意外なことに、高投与量の変異体mCVAbc39に感染したほとんどのマウスもまた感染から生存した(
図4E,G)。低接種量と高接種量でmCVAbc39の病原性の表現型が異なる理由は、現在のところ不明である。1x10
7TCID
50の接種量は5x10
7TCID
50の接種量と比較して類似した効果をもたらした(データ未記載)。従って、欠失I〜VおよびI〜VIを含むCVA変異体は中程度に弱毒化され、その効果は使用された接種量に非依存的であった。対照的に、4つまでの欠失を含む変異体は、弱毒化もせず、さらに、低い接種量で野生型CVAよりも若干より病原性でさえあった。変異体mCVAbc39は、高接種量でわずかに弱毒化するが、低接種量では病原性の増強を示すという、予期しない表現型を示した(
図4)。MVA
Bとは明らかに異なり、mCVAbc50でさえなお、BALB/cマウスにおいてかなりの病原性を示した(
図4)。従って、12個の完全長遺伝子および6個の主なMVA欠失に含まれる31個のORF全ての欠失または切断(表1)は、BALB/cマウス鼻腔内攻撃モデルにおけるCVAの病原性を中程度に減少させるのみである。
【0127】
弱毒化の非連続的パターンの発見は、疾患の重症度が通常ピークに達した時の、3x10
5TCID
50の投与量の接種から6日後のマウスの肺におけるウイルス力価の分析により裏付けられた。力価は、CVA
Bと比較して、変異体CVAbc36およびmCVAbc39感染後にわずかに、だが有意ではない程度に高く(スチューデントのt検定により、p=0.06)(
図4I)、それらの増強された病原性を反映している。対照的に、CVA
Bと比較して、mCVAbc48およびmCVAbc50の感染から6日後に、力価は90%超減少し(
図4I、p<0.001)、このことはこれら変異体の病原性が減少した表現型の発見を支持している。
【0128】
mCVAbc48弱毒化の決定因子
高接種量でだけでなく低接種量でのmCVAbc48およびmCVAbc50の弱毒化は、欠失Vの導入が観察されたこれら変異体(表1参照)の弱毒化全体の主な要因になっていることを示唆した。欠失VはORFのC5L〜C1Lを包含し、N1L ORFにおいてフレームシフトをもたらし、N1のC末端の23残基のアミノ酸配列改変およびN1 ORFの4アミノ酸短縮を引き起こす。del VがmCVAbc48の弱毒化された表現型を産むのに十分であるかどうかを決定するために、欠失Vに相当する配列を野生型CVA
Bから別々に欠失させた。得られた変異体mCVAbc61は、HeLa、CEFおよびBALB/3T12−3細胞においてCVA様複製特性を有し、変異体mCVAbc39〜mCVAbc50で観察された改変されたCPE表現型を示さなかった(データ未記載)。後者の結果は、主に欠失IIの存在によりCPEの改変が引き起こされるという結論を裏付けた。3x10
5TCID
50のウイルスでの鼻腔内感染時に、mCVAbc61は、変異体mCVAbc48で観察された弱毒化とやや異なる、弱毒化された表現型を示した(
図5A、B)。mCVAbc61感染マウスの肺におけるウイルス価は、野生型CVA
Bと比較して有意に減少した(
図5C)。従って、欠失VはmCVAbc48の弱毒化された表現型に最も寄与していた。
【0129】
31個までのORFの欠失によるCVA変異体の弱毒化は高々中程度であるが、変異体の病原性の分析により、ポックスウイルス病原性の遺伝的基礎を解明するいくつかの興味深い側面が明らかにされた。2つの弱毒化パターンは接種量に応じて現れた。低い接種量では、病原性はdel IおよびIVに対応する配列の欠失により増加し(mCVAbc36)、その後徐々に減少した(
図6)。del I〜VおよびI〜VIに対応する配列が欠失している変異体のみ、野生型CVAよりも病原性が低かった。5個または6個全ての欠失に対応する配列が除去されている場合、高接種量で病原性は最も明白に減少した。例外は変異体mCVAbc39であり、mCVAbc48と同様に弱毒化した(
図6)。従って、累積的な欠失の正味の効果は、単純に6個の欠失の逐次誘導により発生した小さな適合性欠損効果の合計ではない。むしろ、del IおよびIVに対応する配列の欠失は、少なくとも低接種量では疾患を増強させるものであった。隣接する配列の欠失は欠失IおよびIVの疾患増強効果を補償したが、元のCVA
Bと比較して検出可能な弱毒化を達成したのは、del Vに対応する配列後のみである(
図6)。疾患増強効果は免疫反応を弱らせる、免疫調節物質の損失により引き起こされたかもしれず、従ってより強力な局所または全身性免疫反応による免疫病理を表わし得る。さらに、病原性パターンは投与量依存的であった。変異体mCVAbc39は高接種量でわずかな弱毒化を示し、これは低接種量では検出されなかった(
図6)。従って、高接種量を用いた場合、弱毒化の非線形パターンが、遺伝子欠失の蓄積により現れた。
【0130】
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