(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783643
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】放電加工装置
(51)【国際特許分類】
B23H 7/26 20060101AFI20150907BHJP
【FI】
B23H7/26 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-123919(P2013-123919)
(22)【出願日】2013年6月12日
(65)【公開番号】特開2014-240112(P2014-240112A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2014年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 秀二
(72)【発明者】
【氏名】保坂 昭夫
【審査官】
岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−218443(JP,A)
【文献】
特開2000−167717(JP,A)
【文献】
特開2011−073108(JP,A)
【文献】
米国特許第06747238(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具電極を取り付ける工具ホルダを有するクイルと、前記クイルを移動可能にコラムの前部に保持する保持部と、前記クイルを前記保持部に対して移動させるためのリニア駆動装置と、前記クイルを前記保持部に対して移動させる方向に案内するための直線案内装置と、を含み、ワークピースと前記工具電極との間に放電を発生させながら、前記工具電極を前記ワークピースへ向けて移動させることによって、前記ワークピースを加工する放電加工装置であって、
前記クイルが、金属製または合金製の板状部材と、前記板状部材の板面となる正面と背面の両面においてそれぞれ前記板状部材の重心位置を通る前記クイルの移動方向の中心軸に平行な中心線に対して線対称であって前記クイルの移動方向に沿って平行に前記板状部材を挟んで背中合わせに位置するように敷設される長尺同形状の少なくとも4本の炭素繊維強化プラスチック製またはセラミックス製の補強部材とを含み、
前記リニア駆動装置が、前記板状部材の前記正面と前記背面の両面において前記板状部材を挟んで背中合わせに取り付けられるとともに前記クイルの移動方向に平行に取り付けられる移動子と、前記保持部に取り付けられて前記移動子に対向する固定子とを含み、
前記直線案内装置が、直線案内軸と直線案内軸受とを含んで、互いに対向する前記直線案内軸と前記直線案内軸受のうちのいずれか一方が、金属製または合金製であって、前記板面に交叉するとともに前記クイルの移動方向に平行な前記板状部材の各側面に前記板状部材を挟んで背中合わせに取り付けられるとともに前記クイルの移動方向を案内方向として取り付けられ、他方が、前記保持部に取り付けられることを特徴とする放電加工装置。
【請求項2】
前記工具ホルダが、前記中心軸の軸上に取り付けられ、
前記移動子が、前記中心軸に平行な前記板面の前記中心線上に取り付けられ、
前記直線案内軸または前記直線案内軸受のうちのいずれか一方が、前記中心軸に平行な前記各側面の中心線上に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の放電加工装置。
【請求項3】
前記クイルの荷重の釣り合いを取るために、前記板状部材の重心位置を通り、前記板状部材の移動方向に平行な中心軸の位置で前記保持部または前記コラムに保持するために、シリンダとピストンロッドおよび連結部材とを含むバランサ手段を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放電加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークピースと工具電極との間に放電を発生させながら工具電極をワークピースへ向けて移動させることによってワークピースを加工する放電加工装置に関し、特に、工具電極を取り付けて、リニアモータによってワークピースへ向けて移動するクイルを含む放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工装置(Electric Discharge Machining Apparatus)は、導電性のワークピースをモールドやダイへ精密に加工するために広く使用されている。ワークピースは加工槽内に配置された定盤に固定され、銅やグラファイトの工具電極は垂直に移動可能なクイルあるいはラムに工具ホルダを用いて取り付けられる。加工槽は放電加工液で満たされ、工具電極はワークピースに非常に接近して位置決めされる。工具電極とワークピースとの隙間はギャップと呼ばれ、その大きさは、数μmから数百μm程度である。オンタイムの間パワーパルスが工具電極とワークピース間に印加されると、ギャップ中の放電加工液の絶縁特性が破壊され放電が発生する。この放電による熱のため、微量のワークピース材料が蒸発するあるいは溶融して放電加工液に流される。オンタイムが終了すると、ギャップ中の放電加工液の絶縁特性を回復するため電圧の印加がオフタイムの間停止される。放電によってクレータ状の微細な穴がワークピースの表面に残る。放電加工装置は、通常、オンタイムとオフタイムを1μsec〜1000μsecの間で制御して電圧を繰り返しギャップに印加する。放電加工装置は、工具電極をワークピースへ向かってZ軸に沿って降下させギャップを一定の大きさに維持する。工具電極は、ワークピースに接触することなくワークピースから微量の材料を除去できるので、良好な粗さの面をもつ、形状において工具電極に相補的な窪みが精度よくワークピース中に形作られる。このような放電加工装置は、走行するワイヤ電極を使用するワイヤEDM(Wire EDM)と区別して、シンカーEDM(Sinker EDM)と呼ばれる。
【0003】
ワークピースから除去された破片をギャップから洗い流すためギャップを経由する放電加工液の流れを作り出す“フラッシング”動作が、放電加工には重要である。フラッシング動作は、ワークピースから除去された破片と工具電極との間に発生する望ましくない2次放電を防止しオフタイム中の確実な絶縁の回復に貢献する。熟練の作業者は、加工前に、新鮮な放電加工液、すなわち清浄な放電加工液をギャップへ送り込んだり汚れた放電加工液をギャップから吸引するための穴を工具電極やワークピース中の適当な位置に形成する。工具電極のサイズや形状に因りそのような穴の形成が制限される場合、作業者は放電加工液をギャップへ向けて噴射する噴射装置を適当な位置に配置する。フラッシングは、より速くより精度良く放電加工を行うための鍵であるけれども、ギャップのすべてにわたって均一な流れを作り出すためには熟練が必要となる。
【0004】
工具電極を周期的にZ軸に沿って急速に上昇させ急速に下降させてギャップ中の汚れた放電加工液のほとんどをワークピース中の窪みから追い出す、“ジャンプ”と呼ばれる動作が知られている。工具電極の往復距離が大きければ、より多くの新鮮な液がギャップへ流れ込みより多くの汚れた液がギャップから排出される。少なくともワークピース中に加工されている穴の深さ以上に工具電極を上昇させることが望ましい。また、ジャンプ動作中は加工が中断されてしまうので、ジャンプ動作を高速化させ、高応答化させ、そして、高精度化させることが望ましい。
【0005】
さて、そうした放電加工装置には、特許文献1(特許第3619859号公報)に開示されている放電加工装置や特許文献2(特許第4152507号公報)に開示されている放電加工装置がある。
【0006】
特許文献1で開示されている放電加工装置では、ワークピースと工具電極との間に放電を発生させながら工具電極をワークピースへ向けて垂直方向に移動させることによってワークピースを加工する放電加工装置であって、軸中心に垂直方向に延びる穴を有し、垂直方向に移動可能にコラムの前部に保持されたクイルと、クイルと同軸にクイルの下端に取り付けられた、工具電極が取り付けられる電極取付装置と、クイルの軸心に関して対称に、クイルの背向する両側面に取り付けられた少なくとも1組のリニアモータ移動子と、1組の移動子のそれぞれに向かい合うように、クイル保持の固定部に取り付けられた、1組のリニアモータの固定子と、クイルの荷重のつりあいをとるようにクイルを中心軸位置で固定部に保持するシリンダとピストンロッド及び連結板を有するエアバランサと、リニアモータの移動子を取り付けたクイルの両側面に交叉する両側面とその両側面に向い合うクイル保持の固定部とに取り付けられる垂直方向の直線案内装置であって、1組のリニアモータによる各発生推力の合成力の作用面が交叉する両側面と交わる位置に垂直方向に設けられている。
【0007】
さらに、特許文献2で開示されている放電加工装置では、軽量で熱影響の少ない可動子クイルとするために、中空柱状体のクイルを焼結成形したセラミック製、または炭素繊維強化プラスチック製とすることが開示されている。例えば、炭素繊維と通常熱硬化性プラスチックとから成る炭素繊維強化プラスチックを使用する場合、炭素繊維のトウに未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させて後硬化処理する製作態様のものの外、炭素繊維を短繊維状とした樹脂との混合物を射出成形する製作物も使用可能であり、セラミックス製のものより可動子構造体を一段と軽量に構成することができる。
【0008】
そうした従来の放電加工装置において、例えば、特許文献1の
図7および特許文献2の
図7に示されているクイルの移動を案内するための直線案内装置は、そのクイルにリニア・モーション・ボール(又はローラ)・ベアリングのレールをそのクイルの移動方向に平行に取り付けて、これに対してクイル保持の固定部にベアリングブロックを取り付けて、両者を嵌合組み付けて構成されている。それで、ベアリングブロックは、レール上を摺動することでそのレールに案内される。そうした直線案内装置は、耐久性に優れ、比較的容易に寸法精度の高い精密な加工ができる金属製または合金製のものが多く使用されている。
【0009】
また、従来の放電加工装置において、クイルを移動するためのリニアモータは、そのクイルにリニアモータの移動子を取り付けて、クイル保持の固定部にリニアモータの固定子を取り付けて、両者を対向するように配置して構成されている。特に、クイルをセラミックスなどで構成する際には、リニアモータの移動子として貼り付けられた永久磁石の相互間などにおいて良好な磁気回路を形成するために、クイルの両側面に鉄板や電磁軟鉄などの軟磁性材料の磁石板を貼り付けた上に永久磁石片を貼り付け固定するようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3619859号公報
【特許文献2】特許第4152507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の放電加工装置では、金属製や合金製の直線案内装置と、鉄のような軟磁性材から成る板の上に複数の永久磁石片を並べて貼り付けてあるリニアモータの移動子とを、セラミックス製や炭素繊維強化プラスチック製でかつ中空柱状体に形成されたクイルの外側の側面に貼り付けられている。
【0012】
例えば、クイルの外側の側面上に、そのクイルの軸方向に沿って直線案内装置のガイドレールが敷設されている場合に、温度変化にともなって軸方向に熱膨張する量あるいは熱収縮する量が、クイルに比べてガイドレールの方が大きい。そのため、クイルやガイドレールが温度変化にともない軸方向に対して垂直な方向に向かって湾曲するのを防止するために、中空柱状体のクイルの肉厚を大きくすることや、クイルの外側に貼り付けたガイドレールと同じ形状でかつ同じ熱膨張係数のダミー部材をクイルの外側のガイドレールと背中合わせになるように中空内に貼り付けることなどが考えられる。しかしながら、それらの方法では、リニアモータで移動させるクイルを含む物体全体の重量を増加させることになるで、放電加工装置の性能を向上するために、クイルを軽量にすることに対して相反することになる。
【0013】
そこで、本発明は、クイルの軽量化と高剛性化を両立させて、そのクイルを高速度で移動させることを可能にし、また、そのクイルを高い応答性能で移動させることを可能にして、そして、そのクイルの移動方向を精度良く案内することを可能にし、最終的に、安定した高精度で高精密な放電加工を可能にする放電加工装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の放電加工装置では、工具電極を取り付ける工具ホルダを有するクイルと、前記クイルを移動可能にコラムの前部に保持する保持部と、前記クイルを前記保持部に対して移動させるためのリニア駆動装置と、前記クイルを前記保持部に対して移動させる方向に案内するための直線案内装置と、を含み、ワークピースと前記工具電極との間に放電を発生させながら、
前記工具電極を
前記ワークピースへ向けて移動させることによって、
前記ワークピースを加工する放電加工装置であって、前記クイルが、金属製または合金製の板状部材と、前記板状部材の
板面となる正面
と背面の
両面においてそれぞれ前記板状部材の重心位置を通る前記クイルの移動方向の中心軸に平行な中心線に対して線対称であって前記クイルの移動方向に沿って平行に前記板状部材を挟んで背中合わせに
位置するように敷設される
長尺同形状の少なくとも4本の炭素繊維強化プラスチック製またはセラミックス製の補強部材とを含み、前記リニア駆動装置が、前記板状部材の前記正面と
前記背面の
両面において前記板状部材を挟んで背中合わせに取り付けられるとともに前記クイルの移動方向に平行に取り付けられる移動子と、前記保持部に取り付けられて前記移動子に対向する固定子とを含み、前記直線案内装置が、直線案内軸と直線案内軸受とを含んで、互いに対向する前記直線案内軸と前記直線案内軸受のうちのいずれか一方が、金属製または合金製であって、前記板面に交叉するとともに前記クイルの移動方向に平行な前記板状部材の各側面に
前記板状部材を挟んで背中合わせに取り付けられるとともに前記クイルの移動方向を案内方向として取り付けられ
、他方が、前記保持部に取り付けられることを特徴とする。
【0015】
本発明の放電加工装置によれば、直線案内装置やリニア駆動装置をクイルのうちの金属製または合金製の板状部材に取り付けることで、直線案内装置やリニア駆動装置の熱膨張係数とクイルの板状部材の熱膨張係数の差異を小さくすることができるので、クイル、直線案内装置、そして、リニア駆動装置の変形を防止して、クイルが真直に移動する精度を高めることができる。また、本発明の放電加工装置によれば、例えば、金属製または合金製の板状部材に永久磁石片を直接貼り付けても良く、リニア駆動装置の移動子として良好な磁気回路を形成できる板状部材の必要最低限の重量、板厚、または、形状などに形成されても、そうした板状部材に比重が小さく剛性の高い炭素繊維強化プラスチック製またはセラミックス製の補強部材を取り付けることで高い剛性を確保できるので、軽量でありながら高い剛性のクイルを実現して、そのクイルを高速に移動させることを可能にして、そのクイルを高い応答で動作させることを可能にして、そして、最終的には、高精密な放電加工を可能にする。また、本発明の放電加工装置によれば、補強部材を板状部材の板面の正面側とその背面側に、その板状部材を挟んで背中合わせにそれぞれ敷設されるので、補強部材と板状部材の熱膨張係数の差が大きいことによって発生する板状部材を湾曲させる力が、板状部材の板面の正面側とその背面側に互いに逆向きに発生して相殺されて、板状部材の湾曲を防止することが可能になる。
【0016】
また、好ましくは、本発明の放電加工装置が
、前記工具ホルダが、前記中心軸の軸上に取り付けられ、前記移動子が、前記中心軸に平行な前記板面の
前記中心線上に取り付けられ
、前記直線案内軸または前記直線案内軸受のうちのいずれか一方が、前記中心軸に平行な前記各側面の中心線上に取り付けられると良い。
【0017】
本発明によれば、金属製または合金製の板状部材と、炭素繊維強化プラスチック製またはセラミックス製の補強部材とを組み合わせて、クイルの移動方向に垂直な断面形状がH字型またはH字型に近い断面形状を成すクイルが形成されて、軽量でありながら、剛性の高いクイルを実現できる。しかも、本発明によれば、クイルを駆動する力が、クイルの板状部材の正面側の移動子と固定子との間に発生する推力と、クイルの板状部材の背面側の移動子と固定子との間に発生する推力と、の合成力が、クイルの重心位置を通りかつクイルが移動する方向に平行な中心軸に重なるとともに、直線案内装置の案内力が、クイルの中心軸に重なるように配置されていることで、クイルが移動する方向以外の力が、クイルを案内する直線案内装置に作用しない。また、そのクイルが、常に重心移動することができる。
【0018】
また、好ましくは、本発明の放電加工装置が、前記クイルの荷重の釣り合いを取るために、前記板状部材の重心位置を通り、
前記板状部材の移動方向に平行な中心軸の位置で前記保持部または前記コラムに保持するために、シリンダとピストンロッドおよび連結部材とを含むバランサ手段を含むと良い。
【0019】
本発明によれば、バランサ手段によって、クイルの荷重を減量あるいはゼロにした状態で、そのクイルをリニア駆動装置で移動させることができるので、クイルを高速および高応答に移動させることが可能になり、リニア駆動装置や直線案内装置を含めクイルの送り装置を小さくすることも可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の放電加工装置によれば、クイルを軽量にし、クイルの移動方向を案内する精度を高い精度で維持することで、クイルを高速度および高応答に移動可能にする放電加工装置を提案することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の放電加工装置の特徴となるクイルおよびその送り装置を搭載した型彫放電加工装置を示す全体構成を、本発明の要部の一部を透視図として示す斜視図である。
【
図2】本発明の放電加工装置の特徴となるクイルおよびその送り装置の要部を示し、一部を分解して示す斜視図である。
【
図3】本発明の放電加工装置の特徴となるクイルの要部を示す斜視図である。
【
図4】本発明の放電加工装置の特徴となるクイルおよびその送り装置の要部を示し、
図1のA―A矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の放電加工装置を適用した実施の形態について、
図1ないし
図4を参照しながら以下に説明する。
【0023】
本発明の放電加工装置1は、例えば、
図1に示す型彫放電加工装置に適用されても良い。
図1の型彫放電加工機は、コラム2がベッド3の背後に配置され、サドル4がY軸の方向に摺動可能にベッド3に設けられている。テーブル5は、Y軸に直交するX軸の方向に摺動可能にサドル4に設けられている。放電加工液で満たされる加工槽6は、テーブル5に設けられている。図示省略されるワークピースは、加工槽6中に配置されている図示省略される定盤に固定されている。そのワークピースの近くに位置決めされる工具電極8は、工具ホルダ9に取り付けられている。工具ホルダ9は、Z軸方向に移動可能なクイル10の下端に取り付けられている。そして、クイル10は、コラム2に固定されている保持部7にZ軸方向に移動可能に取り付けられている。材料除去速度を低下させることなく大きい移動量のジャンプ動作を行うため、放電加工装置は、重力加速度(1G)を超える加速と減速、10m/min以上の速度で工具電極6を精度良く移動することを可能にする。なお、ベッド3に対して上下の方向がZ軸方向で、ベッド3の正面を前としその背後を後ろとする前後の方向がY軸方向で、そして、そのZ軸とY軸の両方に垂直な方向である左右の方向がX軸方向として説明する。
【0024】
本発明の放電加工装置1に搭載されるクイル10は、板状部材11と、その板状部材11の正面側の板面11aと、その背面側の板面11bに、その板状部材11を挟んで背中合わせにかつクイル10が移動するZ軸方向に平行に敷設した補強部材12(12a、12b、12c、12d)と、で少なくとも構成される。
【0025】
クイル10の板状部材11は、金属または合金からなり、寸法精度の高い加工が容易であって、補強部材12や、後述されるリニア駆動装置20や直線案内装置30などを固定することも容易である。
【0026】
クイル10の補強部材12は、小比重で高剛性の炭素繊維強化プラスチックまたはセラミックスからなり、クイル10の重量を小さく抑えながらクイル10の剛性を高めることができる。補強部材12は、板状部材11の正面11aと背面11bの両方の板面に、その板状部材11を挟んで背中合わせに固定されている。それで、板状部材11と補強部材12の熱膨張係数の違いにより温度変化にともなって生じるクイル10の湾曲は、板状部材11の正面側で生じる湾曲とその背面側で生じる湾曲とで相殺されて防止できる。
【0027】
図に示されるクイル10の実施の態様では、Z軸方向が長手方向となる板状部材11の正面の板面11aとその背面の板面11bに、その板状部材11を挟んで背中合わせに補強部材12aと12b、および、同様に背中合わせに補強部材12cと12dが固定されている。板状部材11は、上下方向のZ軸方向に対して垂直な断面形状が、左右方向のX軸方向に対称かつ前後のY軸方向に対称な形状であると良い。補強部材12は、例えば、断面が四角形の形状の棒状部材などであって、板状部材11の長手方向に沿って、その板状部材11の正面と背面の両方の板面11a、11bに、その板状部材11を挟んで背中合わせに固定されている。また、補強部材12は、板状部材11の各板面上11a、11bの長手方向に沿った中心線(図示省略)、すなわち、板状部材11の重心位置を通りかつZ軸方向に沿った中心軸QCに平行な各板面11a、11b上の中心線に対して、正面の板面11a上の補強部材12a対12c、および、背面の板面11b上の補強部材12b対12d、がそれぞれ左右対称に固定されている。また、各補強部材12は、同じ形状であると良い。図に示されるクイル10は、長手方向に対して垂直方向の断面形状が、H字型の断面形状に近い形状である廾字型の断面形状に形成されて、H字型の断面形状のように高い剛性を持たせることができるので、金属製または合金製の部分を必要最低限の重量に抑えることで軽量にできる。また、クイル10の下端に取り付ける工具ホルダ9は、クイル10の中心軸QCに同軸上に取り付けると良い。また、クイル10下端と工具ホルダ9の間に仕切り板16を設けても良いし、その仕切り板16をクイル10下端に固定する固定板15などを適宜に設けても良い。また、板状部材11は、例えば、軽量化のためや、工具ホルダ9に工具電極8用の回転駆動部を搭載した場合にその駆動部を据え付ける空間を確保するため等の各種目的に応じて、開口部11eが形成されても良い。
【0028】
クイル10の板状部材11には、リニア駆動装置20の移動子21(21a、21b)、例えば、図示省略される列状の永久磁石片などがZ軸方向に平行に敷設されている。また、クイル10の板状部材11には、Z軸方向の直線案内装置30を構成する直線案内軸31(31a、31b)または直線案内軸受32(32a、32b)のうちのどちらか一方がZ軸方向に平行に敷設されて、あるいは、Z軸方向に平行に直接形成されている。そして、コラム2に固定されている保持部7には、クイル10の移動子21に対面する位置にリニア駆動装置20の固定子22(22a、22b)、例えば、励磁コイルとヨークからなる固定子などが固定されている。また、保持部7には、クイル10に固定される直線案内軸31(31a、31b)または直線案内軸受32(32a、32b)のうちのいずれか一方に組み合わされる他方が固定されている。それで、クイル10は、Z軸方向に直線に精度良く案内されながら移動する。クイル10の板状部材11は、金属製または合金製であり、一般的とされている金属製または合金製の移動子21や直線案内軸31や直線案内軸受32の熱膨張係数と同等あるいは近似する熱膨張係数であることから、当接する部材の熱膨張係数の差異が大きい場合において、温度変化にともなって生じる変形が防止できる。それは、移動子21や直線案内軸31や直線案内軸受32の変形も防止することになるので、クイル10をZ軸方向に精度良く移動することができる。また、クイル10の板状部材11は、移動子21や直線案内軸31や直線案内軸受32の材料が金属または合金の中でも主に鉄系の材料で形成されることが多いことから、移動子21や直線案内軸31や直線案内軸受32の熱膨張係数と同等あるいは近似する熱膨張係数の鉄系の材料で形成されても良い。板状部材11が鉄系の材料で形成される場合には、板状部材11の表面に永久磁石片を直接貼り付けることで、永久磁石片と永久磁石片の間に良好な磁気回路を形成することも可能である。鉄系の材料からなる板状部材11は、移動子21の永久磁石片と永久磁石片の間に良好な磁気回路を形成できる必要最低限の重量、板厚、または、形状に形成されても、小比重かつ高剛性の補強部材12で補強されるので、軽量化と高剛性を両立することができる。また、クイル10と一緒に移動する各移動子21a、21bは、それぞれが良好な磁気回路を形成するために、永久磁石片を貼り付けるための鉄のような軟磁性材から成る板を、クイル10の板状部材11で代用し、また、各移動子21a、21bで共用することが可能であるから、各移動体21a、21bの重量が小さくなる。
【0029】
図に示されるクイル10の実施の態様では、金属製または合金製の板状部材11を挟んで、正面と背面の板面11a、11bのZ軸方向の中心線上に、その板状部材11を挟んで背中合わせに移動子21a、21bがそれぞれ敷設されている。また、その実施の態様では、板状部材11において、Z軸方向に平行な左右側の側面11c、11dに、それら側面上のZ軸方向の中心線上(図示省略)に、板状部材11を挟んで背中合わせに直線案内装置30の直線案内軸となるガイドレール31aがそれぞれ敷設されている。なお、移動子21a、21bやガイドレール31a、31bは、各面11a、11b、11c、11dのZ軸方向の中心線上以外にも、Z軸方向の中心線に対して、その中心線を挟んだ対称な位置に、Z軸方向に平行に敷設されても良い。直線案内軸31または直線案内軸受32のうちのいずれか一方、移動子21、そして、補強部材12を板状部材11にそれぞれを固定する方法は、ボルト止めや接着など、それぞれが適宜に各種方法で固定されれば良い。補強部材12は、例えば、ねじ溝を刻設したブッシュを埋め込むなどして、板状部材11とボルト止めされても良い。
【0030】
各移動子21a、21bに対面するリニア駆動装置20の固定子22a、22bは、および、各ガイドレール31a、31bに組み合わされる直線案内装置30の直線案内軸受32となるガイドブロック32a、32bは、保持部7の内面の所定の位置に固定されている。板状部材11の正面側の移動子21aとそれに対面する固定子22aとの間の隙間寸法、および、板状部材11の背面側の移動子21bとそれに対面する固定子22bとの間の隙間寸法は、同じ寸法に設計されると良い。また、図に示される実施の態様では、板状部材11の一面に敷設される移動子21と対面する1個の固定子22、および、板状部材11の一面に敷設されるガイドレール31に組み合わされる2個のガイドブロック32となる構成となっているが、それに限定されずに、それぞれの個数は適宜に設計変更可能である。なお、例えば、ガイドレール31とガイドブロック32は、リニアモーションボールベアリングレールとそれに組み合わされるベアリングブロックでも良いし、その他の各種の直線案内軸と直線案内軸受が採用されても良い。
【0031】
そうしたクイル10を駆動する力は、クイル10の板状部材11の正面側の移動子21aとそれに対向する固定子22aとの間に発生する推力と、クイル10の板状部材11の背面側の移動子21bとそれに対向する固定子22bとの間に発生する推力と、の合成力が、クイル10の重心位置を通りかつクイルが移動する方向であるZ軸方向に平行な中心軸QCに重なる。そして、直線案内装置30のリニアガイド31a、31bとガイドブロック32a、32bによる案内力が、クイル10の中心軸QCに重なるように配置されている。したがって、クイル10が移動する上下方向となるZ軸方向以外の力は、クイル10を案内する直線案内装置30に作用しない。そして、クイル10は、常に重心移動することができる。その際、クイル10に固定される工具ホルダ9やその工具ホルダに固定される工具電極8は、クイル10の中心軸QCの軸上に固定されるとなお良い。
【0032】
クイル10のZ軸方向の直線移動位置は、例えば、クイル10の前面に取り付けられているスケール13aと、そのスケール13aに対向する保持部7の前方内面に取り付けられているセンサ13bと、を含む高検出速度のリニアスケール13によって検出されると良い。図のように、スケール13aは、ブラケット13cを介して板状部材11の正面側の板面11aに固定されても良い。検出される検出位置信号は、移動位置指令信号が与えられるリニア駆動装置20にフィードバックして、リニア駆動装置20の制御に用いられる。また、保持部7またはコラム2には、クイル8の移動を規制するためのブレーキ手段、例えば、クイル10の一部を挟むことで摩擦によって移動動作を規制させるブレーキ手段14を保持部7に設けても良い。
【0033】
さらに本発明の放電加工装置1は、下方先端に工具ホルダ9を有するクイル10の荷重を重力に抗して持ち上げておくためのカウンタバランス手段40(以下、バランサ手段40と称する。)を備えている。バランサ手段40は、1G以上の加速度で移動可能なクイル10の荷重の釣り合いを取るために、クイル10をコラム2または保持部7に保持させる手段として、例えば、シリンダ41、ピストン42、ロッド43、及び図示省略するバルブ、配管などから成るエアバランサを設けられるものである。バランサ手段40は、シリンダ41またはロッド43のいずれか一方をコラム2(あるいは保持部7)またはクイル10のいずれか一方に連結または固定し、かつそれぞれ他方同士を連結または固定することによりクイル10をコラム2(あるいは保持部7)に保持させることができるものである。しかるところ、図の実施の態様の場合には、バランサ手段40(40a、40b)としてエアバランサをクイル10の両側に一基ずつ設けて、クイル10の上部に固定してある連結部材44の左右の両端部に、各ロッド43a、43bの一方の各端部を接続し、各ロッド43a、43bの他方の各端部をピストン42a、42bに接続している。なお、クイル10と連結部材44がクイル10の中心軸QCの軸上で固定され、2基のエアバランサ40aと40bがクイル10の中心軸QCを挟んでその中心軸QCに対して左右対称に配置されるとなお良い。
【0034】
そして、エアバランサ40では、例えば、コンプレッサ等の空気圧源(図示省略)から、所定の圧力の圧縮空気が、エアドライア(図示省略)、エアレギュレータ(図示省略)および精密エアレギュレータ(図示省略)を介して、シリンダ41の下室41RDに加圧空気が導入され、上室41RUは実質上開放された状態とすると、エアバランサ40は、リニア駆動装置20が作動してクイル10を送り制御及び位置決めした位置にピストン42と一体に持ち上げ保持した状態を保ち、ここでクイル10が加工送りされると増圧するが、所定値を越えると、精密レギュレータで一定圧に制御されている下室41RDのエアは排出されて一定圧に戻り、逆にクイル10が上昇すると減圧する下室41RDにエアが急速に送り込まれて一定圧となるようにハイ・レリーフバルブ付等の精密エアレギュレータが作動し、低イナーシャ(低慣性モーメント)でクイル10の重量バランスを取り、高速で高応答を可能としている。また、エアバランサ40により、リニア駆動装置20に供給される電力は、クイル10の静止中には節約される。
【0035】
なお、粉塵の侵入を防ぐためいくつかの図示省略される蛇腹がクイル10(あるいは、仕切り板16など)と筐体との隙間に設けられていると良い。蛇腹は、クイル10(あるいは、仕切り板16など)と保持部7との隙間に設けられても良い。
【0036】
以上のような本発明の放電加工装置は、図に示す型彫放電加工装置1に限定されずに、例えば、クイル10を上下方向となるZ軸方向に移動する機構を搭載する放電加工装置であれば、例えば、クイル10を搭載するコラム2をY軸またはX軸、あるいは、Y軸かつX軸に移動させる機構の型彫放電加工装置など各種放電加工装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 放電加工装置
2 コラム
3 ベッド
4 サドル
5 テーブル
6 加工槽
7 保持部
8 工具電極
9 工具ホルダ
10 クイル
11 板状部材
11a 板状部材の正面側の板面
11b 板状部材の背面側の板面
11c 板状部材の左側の側面
11d 板状部材の右側の側面
11e 板状部材の開口部
12 補強部材
12a、12c 正面側の補強部材
12b、12d 背面側の補強部材
13 リニアスケール
13a リニアスケールのスケール
13b リニアスケールのセンサ
13c スケールを板状部材に固定するためのブラケット
14 ブレーキ手段
15 固定板
16 仕切り板
20 リニア駆動装置
21 リニア駆動装置の移動子
21a 正面側のリニア駆動装置の移動子
21b 背面側のリニア駆動装置の移動子
22 リニア駆動装置の固定子
22a 正面側のリニア駆動装置の固定子
22b 背面側のリニア駆動装置の固定子
30 直線案内装置
31 ガイドレール(直線案内軸)
31a 左側面側のガイドレール(直線案内軸)
31b 右側面側のガイドレール(直線案内軸)
32 ガイドブロック(直線案内軸受)
32a 左側面側のガイドブロック(直線案内軸受)
32b 右側面側のガイドブロック(直線案内軸受)
40 バランサ手段(エアバランサ)
41 バランサ手段のシリンダ
42 バランサ手段のピストン
43 バランサ手段のロッド
44 バランサ手段の連結部材