特許第5783646号(P5783646)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783646
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】バルブ
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20150907BHJP
【FI】
   F16F9/32 M
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-232139(P2013-232139)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-94378(P2015-94378A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2015年4月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】三輪 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】星野 雄太
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−082526(JP,A)
【文献】 特開2012−229784(JP,A)
【文献】 特開平03−199732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方室と他方室とを区画するバルブディスクと、
上記バルブディスクの上記一方室側と上記他方室側にそれぞれ積層される環板状のリーフバルブとを備え、
上記バルブディスクは、
上記一方室側と上記他方室側にそれぞれ形成されて上記リーフバルブを支える環状のボス部と、
上記一方室側と上記他方室側のそれぞれのボス部の外周側にそれぞれ形成されて上記リーフバルブが離着座するシートと、
上記各シートで囲われる窓と、
上記一方室と上記他方室側の上記窓とを連通する一方通路と、
上記他方室と上記一方室側の上記窓とを連通する他方通路とを有し
上記一方室側と上記他方室側の一方または両方の上記シートが同じ側の上記ボス部より突出するように配置され、
上記一方室側の上記シートの外周端が上記他方室側の上記シートの外周端よりも外周側に配置され、
上記バルブディスクは、上記他方室側の上記シートの外周側に形成され、上記他方室側の上記シートと同じ高さか、あるいは、上記他方室側の上記シートより突出する補助シートを有することを特徴とするバルブ。
【請求項2】
上記一方室側の上記シートは
記一方室側の上記ボス部から外周側に延びる複数の枝部と、
隣り合う上記枝部の外周端をつなぐ複数の円弧状の円弧部とを備える
ことを特徴とする請求項1に記載のバルブ。
【請求項3】
上記補助シートは、環状に形成されており、上記他方室側の上記シートの外周に、上記他方室側の上記シートと所定の間隔を開けて配置されており、
上記補助シートの外周端が上記円弧部の外周端と同じか、当該外周端よりも外周側に配置されるとともに、上記補助シートの内周端が上記円弧部の内周端と同じか、当該内周端よりも内周側に配置されている
ことを特徴とする請求項2に記載のバルブ。
【請求項4】
上記バルブディスクは、その外周に取り付けられる環状のピストンリングと一体化されたモールドピストンである
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載のバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、バルブは、液体や気体等、流体の流れる方向や流量等を制御するものである。例えば、特許文献1に開示のバルブは、緩衝器のピストンバルブとして具現化されており、筒状のシリンダに出入りするロッドに保持されて、シリンダ内に軸方向に移動可能に挿入されている。
【0003】
上記ピストンバルブは、シリンダ内に形成されて作動油が充填される伸側室と圧側室とを区画するバルブディスクであるピストンと、当該ピストンの軸方向の両側に積層される環板状のリーフバルブとを備えている。さらに、ピストンは、軸方向の両側に形成されてリーフバルブを支える環状のボス部と、これらボス部の外周側にそれぞれ形成されてリーフバルブが離着座するシートと、これら各シートで囲われる窓と、伸側室と圧側室側の窓とを連通する伸側通路と、圧側室と伸側室側の窓とを連通する圧側通路とを備えている。
【0004】
そして、緩衝器の伸長時に、伸側室が加圧されて当該伸側室の圧力が圧側室側のリーフバルブの開弁圧に達すると、当該リーフバルブの外周部が圧側室側のシートから離れて伸側通路の連通が許容されるので、緩衝器は、作動油が伸側通路を通過して伸側室から圧側室に移動する際の抵抗に起因する伸側減衰力を発生する。反対に、緩衝器の圧縮時に、圧側室が加圧されて当該圧側室の圧力が伸側室側のリーフバルブの開弁圧に達すると、当該リーフバルブの外周部が伸側室側のシートから離れて圧側通路の連通が許容されるので、緩衝器は、作動油が圧側通路を通過して圧側室から伸側室に移動する際の抵抗に起因する圧側減衰力を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−082526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示のピストンは、その外周に取り付けられる合成樹脂製のピストンリングと一体化されたモールドピストンであり、ピストンリングを介してシリンダの内周面に摺接することで、シリンダ内を円滑に移動できる。このようなモールドピストンを形成する場合、後にピストンリングとなる環板状の母材を外周に装着したピストンを縦に重ね、ピストンを加熱した金型内に順次押し込むことで、ピストンリングを形成するとともに、ピストンリングとピストンとを一体化する。このとき、ピストンに大きな力をかけて金型に押し込むことになる。
【0007】
ここで、例えば、図6に示すピストン7では、ピストン7の伸側室側に形成されるシート72が、花弁状に形成されており、同じ側のボス部70から外周側に延びる複数の枝部72aと、これら枝部72aの外周端をつなぐ複数の円弧状の円弧部72bとを備えている。他方、ピストン7の圧側室側に形成されるシート73は、環状に形成されており、同じ側のボス部71の外周に当該ボス部71と所定の間隔を開けて配置されている。さらに、伸側室側の円弧部72bの外周端t6及び内周端t7が圧側室側のシート73の外周端t8よりも外周側に配置されるとともに、圧側室側のシート73が同じ側のボス部71よりも高い位置(反ピストン側)に配置されている。
【0008】
上記構成によれば、圧側室側のシート73に離着座する図示しないリーフバルブに初期撓みを与えて、当該リーフバルブの開弁圧を高くすることができる。また、上記リーフバルブを小径に形成するとともに、受圧面を小さくし、圧側減衰力と比較して伸側減衰力を大きくできる。したがって、当該構成を有するピストンバルブを備えた緩衝器が車両の車体と車輪との間に介装される場合には、低い圧側減衰力で路面からの突き上げ入力をいなした後、緩衝器が伸長工程に転じたときに、高い伸側減衰力を発揮できる。
【0009】
しかしながら、上記構成を有するピストン7を同軸上に縦に重ねて金型に押し込む場合、重なり合うピストン7のボス部70,71同士が接触せず、伸側室側のシート72の枝部72aと圧側室側のシート73が交わる部分でのみピストン7が接触し、ピストン7の接触面積が極めて小さくなる。図7は、複数のピストン7を同軸上に縦に重ねた時に、重なり合う一方のピストン7のボス部70とシート72に、他方のピストン7のシート73が重なり合う状態を示す説明図であり、接触する部分aに斜線を示している。
【0010】
このように、ピストン7同士の接触面積が極めて小さくなる状態で、重なり合うピストン7を金型内に押し込むと、荷重が集中してピストン7の接触部分(図7中斜線を示した部分a)が変形する虞がある。そして、ピストン7のシート72,73が変形すると、当該シート72,73に離着座するリーフバルブとの間に隙間ができ、当該隙間から作動油が漏れたり、上記したようにバルブディスク(ピストン)が緩衝器に利用される場合には、所望の減衰力にならなくなったりする虞がある。
【0011】
なお、上記したシートの変形に伴う不具合は、バルブディスクが緩衝器に利用される場合や、シート形状、ピストンリングの装着の有無や、その装着方法に関わらず、バルブディスクを縦に積み重ねて取り扱う際に、ボス部同士を接触させることができない場合であって、両側のシートの外径(バルブディスクから各シートの外周端までの距離)が異なる場合において生じ得る。
【0012】
そこで、本発明の目的は、バルブディスクを縦に重ねて取り扱う際に、ボス部同士が接触せず、両側のシートの外径が異なる場合においても、シートの変形を抑制することが可能なバルブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための手段におけるバルブは、一方室と他方室とを区画するバルブディスクと、上記バルブディスクの上記一方室側と上記他方室側にそれぞれ積層される環板状のリーフバルブとを備え、上記バルブディスクは、上記一方室側と上記他方室側にそれぞれ形成されて上記リーフバルブを支える環状のボス部と、上記一方室側と上記他方室側のそれぞれのボス部の外周側にそれぞれ形成されて上記リーフバルブが離着座するシートと、上記各シートで囲われる窓と、上記一方室と上記他方室側の上記窓とを連通する一方通路と、上記他方室と上記一方室側の上記窓とを連通する他方通路とを有し、上記一方室側と上記他方室側の一方または両方の上記シートが同じ側の上記ボス部より突出するように配置され、上記一方室側の上記シートの外周端が上記他方室側の上記シートの外周端よりも外周側に配置され、上記バルブディスクは、上記他方室側の上記シートの外周側に形成され、上記他方室側の上記シートと同じ高さか、あるいは、上記他方室側の上記シートより突出する補助シートを有する
【発明の効果】
【0014】
本発明のバルブによれば、バルブディスクを縦に重ねて取り扱う際に、ボス部同士が接触せず、両側のシートの外径が異なる場合においても、シートの変形を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係るピストンバルブ(バルブ)を備える緩衝器の主要部を示した縦断面図である。
図2】(a)は、(c)のX1−X1線断面図である。(b)は、本発明の一実施の形態に係るピストンバルブ(バルブ)におけるピストン(バルブディスク)を拡大し、右半分を示した平面図である。(c)は、(b)の底面図である。
図3図2(a)の一部を拡大して示した図である。
図4】本発明の一実施の形態に係るピストンバルブ(バルブ)におけるピストン(バルブディスク)を同軸上に重ねたときの、重なり合う一方のピストンのボス部とシートに、他方のピストンのシートと補助シートが重なり合う状態を示した説明図である。
図5】本発明の一実施の形態に係るピストンバルブ(バルブ)におけるピストン(バルブディスク)に、ピストンリングを取り付ける工程を示した説明図である。
図6】(a)は、(c)のX2−X2線断面図である。(b)は、従来のピストンバルブ(バルブ)におけるピストン(バルブディスク)を拡大し、右半分を示した平面図である。(c)は、(b)の底面図である。
図7】従来のピストンバルブ(バルブ)におけるピストン(バルブディスク)を同軸上に重ねたときの、重なり合う一方のピストンのボス部とシートに、他方のピストンのシートが重なり合う状態を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の一実施の形態に係るバルブについて、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態に係るバルブは、緩衝器DのピストンバルブVとして具現化されており、伸側室(一方室)Aと圧側室(他方室)Bとを区画するピストン(バルブディスク)1と、このピストン1の上記伸側室A側と上記圧側室B側にそれぞれ積層される環板状のリーフバルブ2,3とを備えている。
【0018】
そして、上記ピストン1は、上記伸側室A側と上記圧側室B側にそれぞれ形成されて上記リーフバルブ2,3を支える環状のボス部10,11と、これらボス部10,11の外周側にそれぞれ形成されて上記リーフバルブ2,3が離着座するシート12,13と、これら各シート12,13で囲われる窓14,15と、上記伸側室Aと上記圧側室B側の上記窓15とを連通する伸側通路(一方通路)4と、上記圧側室Bと上記伸側室A側の上記窓14とを連通する圧側通路(他方通路)5とを備えている。
【0019】
また、上記圧側室B側の上記シート13が同じ側の上記ボス部11よりも高い位置に配置されるとともに、図3に示すように、上記伸側室A側の上記シート12の外周端(本実施の形態においては、円弧部12bの外周端t1)が上記圧側室B側の上記シート13の外周端t3よりも外周側に配置されている。
【0020】
さらに、上記ピストン1は、上記圧側室B側の上記シート13の外周側に形成され、当該シート13と略同じ高さに配置される補助シート16を備えている。
【0021】
上記緩衝器Dは、本実施の形態において、図1に示すように、筒状のシリンダCと、このシリンダCに出入りするロッドRと、このロッドRの先端部に保持されてシリンダC内を軸方向に移動可能なピストンバルブVと、シリンダC内におけるピストンバルブVのロッドR側に形成される伸側室Aと、同じくシリンダC内におけるピストンバルブVの反ロッド側に形成される圧側室Bとを備えている。これら伸側室Aと圧側室Bには、作動油が充填されているが、減衰力を発生可能であれば、他の流体が充填されるとしてもよい。さらに、具体的に図示しないが、緩衝器Dは、気体が封入されて膨縮可能な気室をシリンダC内に区画するフリーピストンやブラダ等の隔壁体を備えており、上記気室でシリンダCに出入りするロッドR体積分のシリンダ内容積変化を補償できるようになっている。
【0022】
なお、緩衝器Dの構成は、適宜変更することが可能である。例えば、緩衝器Dが、シリンダCの外周に起立する外筒を備えて複筒型に設定され、外筒とシリンダCとの間に形成されて作動油が貯留されるリザーバでシリンダ内容積変化を補償するとしてもよい。このような場合において、緩衝器Dは、シリンダCに出入りするロッド体積分の作動油をリザーバからシリンダCに供給したり、シリンダCからリザーバに排出したりするベースバルブを備えるので、当該ベースバルブとして本発明が具現化されるとしてもよい。また、本実施の形態において、緩衝器Dは、ピストンバルブVの片側にのみロッドRが起立する片ロッド型緩衝器であるが、ピストンバルブVの両側にロッドRが起立する両ロッド型緩衝器であるとしてもよい。
【0023】
以下、本発明が具現化されるピストンバルブVの各構成について、詳細に説明する。ピストンバルブVは、伸側室Aと圧側室Bとを区画するバルブディスクである環状のピストン1と、このピストン1の伸側室A側に積層される複数枚の環板状のリーフバルブ2と、ピストン1の圧側室B側に積層される複数枚のリーフバルブ3とを備えている。そして、ロッドRにおける先端部に形成され、他の部分よりも小径に形成された取付部r1を、ピストン1と各リーフバルブ2,3の中心孔1a,2a,3aにそれぞれ挿通し、取付部r1の先端にナットNを螺合することにより、ピストンバルブVがロッドRの先端部に保持される。なお、伸側室A側と圧側室B側に積層されるリーフバルブ2,3の数は、図示する限りではなく、適宜変更することが可能である。
【0024】
ピストン1は、シリンダCよりも小径に形成されており、ピストン1の外周には、複数の凹凸1b,1cが形成されている。そして、ピストン1の外周には、これらの凹凸1b,1cを利用して合成樹脂製のピストンリング6が一体的に取り付けられている。つまり、本実施の形態におけるピストン1は、モールドピストンであり、ピストンリング6を介してシリンダCの内周面に摺接し、シリンダ1内を軸方向に円滑に移動することができる。
【0025】
さらに、図2に示すように、ピストン1は、図2(a)中上側となる伸側室A側に形成されて同じ側のリーフバルブ2の内周部を支える環状のボス部10と、このボス部10の外周側に形成されて上記リーフバルブ2の外周部が離着座するシート12と、このシート12で囲われる窓14と、図2(a)中下側となる圧側室B側に形成されて同じ側のリーフバルブ3の内周部を支える環状のボス部11と、このボス部11の外周側に形成されて上記リーフバルブ3の外周部が離着座するシート13と、このシート13で囲われる窓15と、伸側室Aと圧側室B側の窓15とを連通する複数の伸側通路4と、圧側室Bと伸側室A側の窓14とを連通する複数の圧側通路5と、圧側室B側のシート13の外周側に形成される補助シート16とを備えている。上記ボス部10,11とは、リーフバルブ2,3が当接する支持面のことであり、上記シート12,13とは、リーフバルブ2,3が離着座するシート面のことである。
【0026】
伸側室A側のボス部10は、中心孔1aの図2(a)中上側の開口縁に沿って形成されている。そして、このボス部10の外周側に形成されるシート12は、花弁状に形成されており、ボス部10から放射状に外周側に延びる複数の枝部12aと、隣り合う枝部12aの外周端をつなぎボス部10の外周に当該ボス部10と所定の間隔を開けて配置される複数の円弧状の円弧部12bとを備えている。また、一の枝部12aは、その両側に配置される枝部12aのうち、一方の枝部12aとのみ円弧部12bでつながれている。
【0027】
そして、伸側室A側のボス部10と、同じ側のシート12における円弧部12bと、当該円弧部12bでつながれる一対の枝部12aとの間に、それぞれ、窓14が独立して形成されている。また、伸側室A側のリーフバルブ2は、組付状態において、内周部をボス部10に着座させた状態にロッドRに固定され、外周部をシート12に離着座可能とされている。このため、上記窓14は、リーフバルブ2の外周部がシート12に着座している状態では、当該リーフバルブ2で伸側室Aとの連通が遮断されるが、リーフバルブ2の外周部が反ピストン側に撓み、シート12から離れると、伸側室Aとの連通が許容される。上記伸側室A側の各窓14には、それぞれ、圧側通路5が連なっているので、上記リーフバルブ2で圧側通路5と伸側室Aとの連通を許容したり、遮断したりできる。
【0028】
なお、本実施の形態において、リーフバルブ2の内周部がボス部10から離れないようになっているが、リーフバルブ2の組付構造は、適宜変更することが可能であり、例えば、リーフバルブ2の内周部がボス部10に離着座するとしてもよい。
【0029】
また、伸側室A側のボス部10の外周側であって、同じ側のシート12における円弧部12bでつながれていない一対の枝部12aの間には、それぞれ、開口窓17が形成されており、各開口窓17に伸側通路4が連なっている。各開口窓17は、リーフバルブ2がシート12に着座した状態であっても、当該リーフバルブ2で伸側室Aとの連通が遮断されることがないので、伸側通路4は、開口窓17を介して常に伸側室Aと連通している。
【0030】
他方、圧側室B側のボス部11は、中心孔1aの図2(a)中下側の開口縁に沿って形成されている。そして、このボス部11の外周側に形成されるシート13は、環状に形成されており、ボス部11の外周に、当該ボス部11と所定の間隔を開けて配置されている。
【0031】
そして、圧側室B側のボス部11と、同じ側のシート13との間に、環状の窓15が形成されている。また、圧側室B側のリーフバルブ3は、組付状態において、内周部をボス部11に着座させた状態にロッドRに固定され、外周部をシート13に離着座可能とされている。このため、上記窓15は、リーフバルブ3の外周部がシート13に着座している状態では、当該リーフバルブ3で圧側室Bとの連通が遮断されるが、リーフバルブ3の外周部が反ピストン側に撓み、シート13から離れると、圧側室Bとの連通が許容される。上記圧側室B側の窓15には、複数の伸側通路4が連なっているので、上記リーフバルブ3で伸側通路4と圧側室Bとの連通を同時に許容したり、遮断したりできる。
【0032】
なお、本実施の形態において、リーフバルブ3の内周部がボス部11から離れないようになっているが、リーフバルブ3の組付構造は、適宜変更することが可能であり、例えば、リーフバルブ3の内周部がボス部11に離着座するとしてもよい。
【0033】
また、ピストン1の外周におけるピストンリング6よりも圧側室B側には、周方向に沿って環状の溝1dが形成されており、当該溝1dに圧側通路5が連なっている。溝1dは、リーフバルブ3がシート13に着座した状態であっても、当該リーフバルブ3で圧側室Bとの連通が遮断されることがなく、ピストンリング6でも塞がれないようになっているので、圧側通路5は、溝1dとシリンダCとの間を介して、常に圧側室Bと連通している。
【0034】
また、本実施の形態において、圧側室B側のシート13は、ボス部11よりも高い位置に配置されて突出しており、これらに着座するリーフバルブ3に初期撓みを与えられるようになっている。ピストン1における「高い位置」とは、軸方向に突出していることをいい、比較対照となる構成よりも反ピストン側に位置することをいう。
【0035】
上記構成によれば、ロッドRがシリンダCから退出する緩衝器Dの伸長時において、伸側室Aが加圧され、伸側室A側のリーフバルブ2が同じ側のシート12に押し付けられて圧側通路5を遮断する一方、伸側室Aの圧力が圧側室B側のリーフバルブ3の開弁圧に達すると、このリーフバルブ3の外周部が反ピストン側に撓み、伸側通路4の連通を許容する。このため、緩衝器Dは、伸長時において、作動油が伸側通路4を通過して、伸側室Aから圧側室Bに移動する際のリーフバルブ3の抵抗に起因する伸側減衰力を発生する。また、上記したように、リーフバルブ3には、初期撓みが与えられているので、リーフバルブ3の開弁圧を高くすることができる。
【0036】
反対に、ロッドRがシリンダCに進入する緩衝器Dの圧縮時において、圧側室Bが加圧され、圧側室B側のリーフバルブ3が同じ側のシート13に押し付けられて伸側通路4を遮断する一方、圧側室Bの圧力が伸側室A側のリーフバルブ2の開弁圧に達すると、このリーフバルブ2の外周部が反ピストン側に撓み、圧側通路5の連通を許容する。このため、緩衝器Dは、圧縮時において、作動油が圧側通路5を通過して、圧側室Bから伸側室Aに移動する際のリーフバルブ2の抵抗に起因する圧側減衰力を発生する。
【0037】
もどって、図3に示すように、本実施の形態において、伸側室A側のシート12の外周端となる円弧部12bの外周端t1と、円弧部12bの内周端t2が、共に、圧側室B側のシート13の外周端t3よりも外周側に配置されている。上記円弧部12bの外周端t1とは、円弧部12bにおいて最も外周側に位置する円弧状の縁のことであり、円弧部12bの内周端t2とは、円弧部12bにおいて最も内周側に位置する円弧状の縁のことである。また、シート13の外周端t3とは、シート13において最も外周側に位置する円環状の縁のことである。
【0038】
さらに、圧側室B側のシート13の外周側に形成される補助シート16は、環状に形成されており、上記シート13の外周に、当該シート13と所定の隙間を開けて配置されている。そして、この補助シート16は、上記シート16と略同じ高さに配置され、補助シート16の外周端t4が伸側室A側のシート12(円弧部12b)の外周端t1と略同じ位置に配置され、補助シート16の内周端t5が上記円弧部12bの内周端t2と略同じ位置に配置されるようになっている。ピストン1における「同じ高さ」とは、軸方向位置が同じであることをいう。また、上記補助シート16の外周端t4とは、補助シート16において最も外周側に位置する円環状の縁のことであり、補助シート16の内周端t5とは、補助シート16において最も内周側に位置する円環状の縁のことである。
【0039】
上記したように、本実施の形態においては、圧側室B側のボス部11とシート13に段差があり、複数のピストン1を同軸上に縦に重ねたとき、一方のピストン1のボス部10と他方のピストンのボス部11が接触しない。しかし、上記構成によれば、複数のピストン1を同軸上に縦に重ねたとき、重なり合う一方のピストン1の枝部12aが、他方のピストン1のシート13に交わる部分で当接するとともに、上記一方のピストン1の円弧部12b全体が、他方のピストン1の補助シート16に当接するので、重なり合うピストン1の接触面積を大きくできる。図4は、複数のピストン1を同軸上に縦に重ねたときの、重なり合う一方のピストン1のボス部10とシート12に、他方のピストン1のシート13と補助シート16が重なり合う状態を示す説明図であり、接触する部分a,bに斜線を記載している。
【0040】
なお、補助シート16における外周端t4を伸側室A側の円弧部12bの外周端t1と同じ位置か、当該外周端t1よりも外周側に配置するとともに、補助シート16における内周端t5を上記円弧部12bの内周端t2と同じ位置か、当該内周端t2よりも内周側に配置すれば、ピストン1を縦に重ねたとき、一方のピストン1の円弧部12b全体を他方のピストン1の補助シート16に当接させることができる。また、一方のピストン1の円弧部12bと他方のピストン1の補助シート16を当接させることができれば、当該補助シート16を円弧状に形成するとしてもよい。
【0041】
また、補助シート16が圧側室B側のシート13よりも高い位置に配置されるとしてもよい。この場合には、ピストン1を縦に重ねたとき、一方のピストン1の枝部12aと他方のピストン1のシート13が接触しなくなるものの、一方のピストン1の円弧部12bを補助シート16に当接させることができるので、接触面積を大きくできる。
【0042】
また、本実施の形態において、補助シート16には、リーフバルブ3が着座しないようになっているので、補助シート16が伸側減衰力に影響を及ぼさないようになっている。
【0043】
以下、ピストン1へのピストンリング6の取付工程について説明する。
【0044】
図5に示すように、ピストン1の外周に形成されて金型M側に配置される一の凹部1bに、後にピストンリング6となる合成樹脂製の環板状の母材6Aを装着し、当該ピストン1を縦に重ね、加熱した金型M内に順次押し込んでいく。これにより、ピストン1の外周に沿うように加熱軟化された母材6Aが折り曲げられ、次いで、ピストン1の外周形状と、金型Mの内周形状に合わせて母材6Aが変形し、ピストンリング6が形成されるとともに、ピストン1と一体化される。
【0045】
上記したように、ピストン1を縦に重ねたとき、重なり合うピストン1の対向部で、ボス部10,11同士が当接しないものの、上記したように、重なり合う一方のピストン1の円弧部12b全体が、他方のピストン1のシート13に当接し、ピストン1同士の接触面積を大きくできる。したがって、縦に重ねたピストン1を金型M内に押し込む際に、ピストン1に大きな力Fをかけたとしても、荷重を分散し、シート12,13が変形することを抑制できる。
【0046】
以下、本実施の形態に係るピストンバルブ(バルブ)Vの作用効果について説明する。
【0047】
本実施の形態において、ピストン(バルブディスク)1は、その外周に取り付けられる環状のピストンリング6と一体化されたモールドピストンである。
【0048】
上記した場合、ピストン1を同軸上に縦に並べて金型Mに押し込み、ピストン1とピストンリング6を一体化することが効率的である。しかし、この場合、ピストン1に大きな力Fをかけて金型Mに押し込むことになるので、従来ように、ボス部70,71が接触せず、シート72,73の接触面積が小さい場合、シート72,73を変形させる危険性が高い。このため、ピストン(バルブディスク)1がモールドピストンである場合には、特に、シート13の外周に補助シート16を設けて、ピストン1同士の接触面積を大きくし、荷重を分散させることが有効である。
【0049】
さらに、上記構成によれば、ピストンリング6をシリンダCの内周面に摺接させることで、ピストン(バルブディスク)1がシリンダC内を円滑に移動することができる。
【0050】
なお、ピストンリング6の取り付け方法は上記の限りではなく、適宜変更することが可能である。また、本発明に係るバルブディスクは、ピストン以外であってもよく、ピストンリング6を廃するとしてもよい。
【0051】
また、本実施の形態において、補助シート16は、環状に形成されており、圧側室(他方室)B側のシート13の外周に、当該シート13と所定の間隔を開けて配置されている。そして、補助シート16の外周端t4が円弧部12bの外周端t1と略同じ位置に配置されるとともに、補助シート16の内周端t5が円弧部12bの内周端t2と略同じ位置に配置されている。
【0052】
上記構成によれば、ピストン1を同軸上に縦に積み重ねたとき、ピストン1の周方向の位置合わせをすることなく、伸側室A側のシート12における円弧部12b全体を補助シート16で支えることができる。
【0053】
なお、補助シート16の外周端t4が円弧部12bの外周端t1と同じか、当該外周端t1よりも外周側に配置されるとともに、補助シート16の内周端t5が円弧部12bの内周端t2と同じか、当該内周端t2よりも内周側に配置されていれば、上記効果を奏することができる。また、補助シート16の形状は、上記の限りではなく、ピストン1を積み重ねたときに、円弧部12bと当接させることができれば、円弧状や他の形状に形成されるとしてもよい。
【0054】
また、本実施の形態において、伸側室(一方室)A側のシート12は、花弁状に形成されており、伸側室A側のボス部10から外周側に延びる複数の枝部12aと、隣り合う上記枝部12aの外周端をつなぐ複数の円弧状の円弧部12bとを備えている。
【0055】
上記したような、一方側に花弁状のシートを有するピストン(バルブディスク)の場合、従来のように、花弁状のシート72の外周端t6及び内周端t7よりも、他方側のシート73の外周端t8が内周側に配置されると、ピストン7を縦に重ねたとき、重なり合うピストン7が一方側のシート72の枝部72aと他方側のシート73が交わる部分でのみ接触し(図7中、斜線部a)、接触面積が極めて小さく、荷重が集中して変形し易くなる。したがって、一方側に花弁状のシート12を有するピストン1においては、他方側のシート13の外周に補助シート16を設け、ピストン1を重ねたときの接触面積を大きくすることが極めて有効である。
【0056】
なお、ピストン(バルブディスク)1のシート12,13の形状は、適宜変更することが可能であり、例えば、両方のシート12,13が、共に、環状や花弁状に形成されるとしてもよい。
【0057】
また、本実施の形態において、ピストン(バルブディスク)1は、圧側室B側のシート13の外周側に形成され、当該シート13と略同じ高さに配置される補助シート16を備えている。
【0058】
上記構成によれば、ピストン(バルブディスク)1を同軸上に縦に積み重ねたとき、一方のピストン1のシート12を他方のピストン1の補助シート16に接触させるように設定しておけば、ピストン(バルブディスク)1同士の接触面積を大きくして荷重を分散させることができる。したがって、ピストン(バルブディスク)1を縦に積み重ねて取り扱う際に、ピストン1のボス部10,11同士を当接させることができず、両側のシート12,13の外径(ピストン1の中心から各シート12,13の外周端t1,t3までの距離)が異なる場合であっても、シート12,13の変形を抑制することができる。
【0059】
さらに、本実施の形態においては、圧側室(他方室)B側のシート13の外径が、伸側室(一方室)A側のシート12に離着座するリーフバルブ2の外径よりも小さく、圧側室(他方室)B側のシート13に離着座するリーフバルブ3の外径が、伸側室(一方室)A側のシート12に離着座するリーフバルブ2の外径よりも小さいので、伸側減衰力を圧側減衰力と比較して大きくできる。
【0060】
なお、本実施の形態において、補助シート16は、圧側室(他方室)B側のシート16と略同じ位置に配置されているが、上記シート16と同じか、当該シート16よりも高い位置に配置されていればよい。
【0061】
また、本実施の形態において、圧側室(他方室)B側のシート13が圧側室B側(同じ側)のボス部11よりも高い位置に配置されているが、伸側室(一方室)A側のシート12が伸側室A側(同じ側)のボス部10よりも高い位置に配置されるとしてもよく、両側のシート12,13が、共に、同じ側のボス部10,11よりも高い位置に配置されるとしてもよい。
【0062】
また、本実施の形態において、伸側室Aが一方室、圧側室Bが他方室であるが、逆であってもよい。この場合には、伸側減衰力と比較して圧側減衰力を高くできる。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【符号の説明】
【0064】
A 伸側室(一方室)
B 圧側室(他方室)
t1 円弧部(伸側室(一方室)側のシート)の外周端
t2 円弧部の内周端
t3 圧側室(他方室)側のシートの外周端
t4 補助シートの外周端
t5 補助シートの内周端
V ピストンバルブ(バルブ)
1 ピストン(バルブディスク)
2,3 リーフバルブ
4 伸側通路(一方通路)
5 圧側通路(他方通路)
6 ピストンリング
10,11 ボス部
12,13 シート
12a 枝部
12b 円弧部
14,15 窓
16 補助シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7